札幌地方裁判所 平成10年(ワ)374号 判決 2002年3月28日
主文
1 被告は、原告に対し、330万円及びこれに対する平成10年3月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、10分の1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は第1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1 被告は、原告に対し、7870万円及びこれに対する平成10年3月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
第2事案の概要等
1 本件は、未破裂動脈瘤に対する根治手術を受けた原告が、被告の医療上の過誤により見当識障害、記憶障害等が生じたとして、被告に対し、診療契約の債務不履行に基づく損害賠償及びこれに対する民法所定の遅延損害金(始期は訴状送達の日の翌日である。)を請求する事案である。
2 争いのない事実等
(1) 原告は、昭和8年4月9日生まれの男性である。
被告は、札幌市a区においてG病院(以下「被告病院」という。)を開設経営しており、A医師及びB医師(以下、A医師とB医師をあわせて「被告医師ら」という。)の使用者である。
(2) 原告は、平成3年12月4日、被告病院が開設する脳ドック(頭部精密健康診断)で脳の検査を受け、検査の結果、未破裂動脈瘤がある疑いがあるとされた。なお、被告病院が脳ドックを開設したのは、平成3年11月2日である。
原告は、平成3年12月12日に被告病院に入院し、さらに精密な検査(脳血管造影)を受けたところ前交通動脈に未破裂動脈瘤があることが確認され、同月20日に未破裂前交通動脈瘤手術を受けた(以下この手術を「本件手術」という。)。本件手術は、左開頭によるクリッピング術であった。クリッピング術とは、動脈瘤頸部を金属製クリップで遮断する根治手術をいう。
(3) 原告は、本件手術直後から、妻のCの顔の判別がつかなかったり、院内を徘徊したり、暴力的になって怒鳴ったりするなど、錯乱状態や見当識障害が持続した。
原告には、手術後、硬膜下水腫(硬膜下腔に髄液が貯留すること)が生じ、続発性水頭症(脳室系に異常に髄液が貯留した状態)が発症した。
(4) 原告は、平成4年4月10日に、シャント術(脳室-腹腔髄液短絡術。脳室内に管を入れて、過剰な髄液を腹部に流す手術。)を受けた。
その後、原告の症状は軽快し、それでもなお家族の介護を随時必要とする状況ではあったが、平成4年6月10日に被告病院を退院し、同年9月17日まで被告病院に通院した。
(5) 原告は、平成6年12月2日にタクシーにはねられる交通事故にあい(以下「本件交通事故」という。)、脳挫傷、顔面骨骨折、顔面裂傷等を負ったため、同日、札幌市b区所在の医療法人H病院に入院して治療を受け、平成7年1月30日に退院した。
H病院院長のD医師は、平成8年9月30日、原告について、「現在、痴呆症状が高度で尿便失禁状態、及び歩行も介助が必要である。」と診断した。
3 争点
(1) 本件手術の施行において、被告医師らに過失があるか。
(原告の主張)
ア 本件手術はクリッピング術が困難なケースであったため、被告医師らは、本件手術の際、脳の圧排を過度に強く行い、これを長時間の手術時間中継続しあるいは脳ベラの操作を誤り、その結果、脳を損傷して頭蓋内出血を生じさせ、髄液の循環障害を生じさせて頭蓋内腔に異常に大量の髄液を貯留させた。
脳損傷が生じたことは、シャント術治療後の知能から推認できる。シャント術で治療した場合の知能は、治療開始前の脳損傷の程度に大きく左右されるものであるところ、原告の知能の予後は絶望的であったのであるから、シャント術治療前には既に未破裂動脈瘤手術による脳損傷があったことが否定できないからである。
イ 本件手術部位である前交通動脈瘤は前大動脳脈に近い場所にあり、動脈瘤に穿通枝がスダレ状に取り巻いていたため、被告医師らは、クリッピングの際、前大動脳脈を閉塞し又は穿通枝に損傷(小血管の閉塞)を与えた。
前大動脳脈の閉塞又は穿通枝の損傷が生じたことは、手術直後に示している原告の精神障害、情動障害の症状が、前大脳動脈領域の閉塞や穿通枝領域の損傷を原因としておこる精神症状と符号していることから推認される。被告は、本件手術後に生じた原告の症状の原因は続発性水頭症によると主張するが、続発性水頭症の3主徴である歩行障害、痴呆、失禁は、本件手術直後には発症しておらず、手術後時間をおいて初めて発症している。本件手術直後の原告の見当識障害、意識障害の症状は、前大動脳脈領域の閉塞又は穿通枝領域の損傷を原因とするものであり、その後になって続発性水頭症が発症し、上記3主徴が生じた。
ウ 上記のとおりの手術内容から、被告医師らには、本件手術の施行において過失がある。
(被告の主張)
ア 本件手術において、被告医師らが頭蓋内出血を生じさせた事実はない。
また、被告医師らが、穿通枝を損傷した事実はない。仮に、原告が主張するように穿通枝に小さな損傷(梗塞)があるとしても、原告の呈する症状は過度の症状であって、穿通枝の損傷以外の原因を考えざるを得ない。
イ 本件手術後に生じた原告の症状の原因は、続発性水頭症によるものである。
原告に硬膜下水腫及び続発性水頭症が生じた原因は、被告医師らの行為によるものではない。
脳動脈瘤の手術において、硬膜下水腫が出現することは稀であり、出現しても通常は無症状である。仮に、硬膜下水腫による症状が出現したとしても、予想される程度の硬膜下水腫の症状については対応が可能である。しかし、本件においては、結果的に予想を超えた症状(水頭症)が発現した。
原告に続発性水頭症が発症した原因は、原告が、本件手術前から、年齢に比して脳萎縮が進行していたところ、本件手術を契機として硬膜下水腫が生じ、もともとの脳萎縮が関連因子を増大させたこと等によると考えられる。
ウ よって、本件手術の施行において、被告医師らに過失はない。
(2) 本件手術後の術後管理において、被告医師らに過失があるか。
(原告の主張)
被告医師らは、本件手術後、原告に対し、見るべき治療を行わず、平成4年4月10日に至って、ようやく水頭症の一般的治療法であるシャント術を実施した。
このように、被告医師らは、平成4年4月10日まで、原告に対する本件手術後に必要な処置を施さず、原告の記銘力障害ないし見当識障害の状態を放置した。
したがって、被告医師らには、本件手術後の原告の術後管理を怠った過失がある。
(被告の主張)
被告医師らは、平成3年12月20日以降、原告に対し、CT検査を実施し、本件手術直後から硬膜下水腫の発現を認識していたが、この水腫は、脳圧改善剤であるグリセオールを投与しても消失しなかった。そこで、被告医師らは、平成4年1月9日、外水頭症(水頭症のうち、クモ膜下腔が拡大し、髄液が貯留した状態をいう。)か硬膜下水腫かの判別を目的としてCT検査を実施したが判別に至らず、かつ同日以降、水腫が縮小の傾向を示したので、この時点でシャント術を実施しなかった。
平成4年1月20日に原告の硬膜下水腫が消失した以降も、原告には、見当識障害のほか、錯乱状態や徘徊がみられた。
その後のCT検査の結果で原告に脳室拡大が認められたが、その原因が、内水頭症(水頭症のうち、脳室系が拡大するもの)の発症か、もしくは本件手術前から認められていた原告の脳萎縮によるものかの判別が困難であったため、被告医師らは経過を観察することにした。
平成4年2月以降、被告医師らは、原告の脳室拡大の原因を明らかにするため、原告に対してCT検査を継続する一方、繰り返し腰椎穿刺による脳脊髄液の排除を実施したが、状態の改善はなかった。
平成4年4月6日のCT検査により、原告が内水頭症であることが確認されたため、被告医師らは原告にシャント術を施行した。
したがって、被告医師らは原告に対する術後管理を尽くしているから、原告の術後管理について過失はない。
(3) 被告医師らが、原告に本件手術の適応があるとした判断に過失があるか。
(原告の主張)
原告は、本件手術当時、健康状態に別段問題はなかったが、たまたま脳ドックで未破裂動脈瘤が発見されたため、動脈瘤破裂によるクモ膜下出血等の重篤な結果発生を予防することが必要であるとの医師の強い勧めにより、動脈瘤発見後間もなく、本件手術に臨んだ。
しかし、未破裂動脈瘤の破裂する可能性は、年間1、2パーセント程度であり、直径10ミリメートル以下の脳動脈瘤の破裂する可能性は非常に低く、10ミリメートル以下の動脈瘤は手術するべきでないとされている。また、予防的手術である以上、手術の結果、本件のように重篤な手術合併症を発症したり後遺障害を残すことは許されない。したがって、手術適応についての判断に当たっては、脳動脈瘤の部位による手術の困難性、大きさによる手術の必要性と困難性、術者らの経験、患者の年齢、健康状態などを勘案した厳密な考慮が必要である。
本件においては、原告の脳動脈瘤は直径4ミリメートル程度であったと推定され、本来手術するべきものではなく、相当期間の経過観察を試みた後手術を検討するべきであった。のみならず、原告の脳動脈瘤の位置は高位かつ後ろ向きであるためクリッピングが難しいこと、そのため脳に対し通常の手術より強度の圧排を要すること、原告は58歳の年齢以上に脳萎縮が強かったこと、脳動脈瘤の手術においては脳損傷による脳出血を免れず、硬膜下水腫が生ずる可能性があること、未破裂動脈瘤は手術中破裂してクモ膜下出血を発症する可能性があること等の諸事情が本件手術前に認められたのであるから、被告医師らが、原告に本件手術の適応があるとした判断には重大な誤りがある。
(被告の主張)
未破裂動脈瘤について手術を行わなかった場合には、およそ年間1パーセント程度の割合でクモ膜下出血を起こすとされており、クモ膜下出血全般では、約50パーセントが、初回の出血により死亡するか高度の後遺障害を残し、治療をしなければさらに25ないし30パーセントが再出血により死亡すると推定される。
そして、原告は58歳と若いこと、その動脈瘤は前交通動脈にあって比較的小さいこと、原告はこれまで肺結核による手術以外に大きな病気をしていないこと等の状況からみるならば、原告に対して本件手術が必要であるという判断には何らの問題がなかった。
一方、原告については、本件手術前に行われたCT検査の結果から、脳萎縮が認められていたが、その程度は手術の許容範囲内のものであった。
また、手術後の硬膜下水腫についても、必ず出現するというものではなく、出現しても通常認められる水腫は対応が可能であり、水腫として本件におけるような種々の症状が出現することは予想の範囲を超えたものである。
したがって、被告医師らが、原告に本件手術の適応があるとした判断に過失はない。
(4) 本件手術にあたり、被告医師らに説明義務違反の過失があるか。
(原告の主張)
医師は、緊急を要し時間的に余裕がない等の特別な事情がない限り、患者に対し、当該治療行為を受けるか否かを判断、決定する前提として、患者の現症状とその原因、当該治療行為を採用するに至った理由、治療行為の具体的な内容、治療行為に伴う危険性の程度、治療を行った場合の改善の見込み、程度、当該治療を受けなかった場合の予後について、当時の医療水準に基づき、できる限り具体的に説明する義務がある。
本件手術は、あくまでも未破裂動脈瘤の破裂の予防を目的とした手術である。その動脈瘤の大きさからみても、必要性、緊急性の度合いは低い一方で、脳の手術は人体に重大な影響を及ぼす可能性の高いものであるから、手術の必要性と後遺症についての説明の程度は自ずから十分なものでなければならない。被告医師らとしては、原告に対し、本件手術の必要性とこれに伴う合併症の有無、その内容、程度等について、原告自身が原告の余命期間をも考慮して、手術の必要性と危険性、手術が失敗した場合とを対比するなどして、残された人生をいかに過ごすかということを十分に判定できるだけの説明をするべきであった。
しかしながら、本件において、被告医師らは、原告の脳萎縮が年齢以上であり、水腫が心配であるという説明をした程度であり、それも、手術の前日に、原告が手術の準備のため頭髪を丸刈りにされた後に説明した。その説明は、手術後における心身の状況の変化の可能性、手術に伴う罹病率、合併症の内容、程度等、特に穿通枝障害とその後遺症状について何らふれるところがなく、患者を、診療契約の主体ではなく、医療の客体と考える伝統的医療観に基づく説明(いわゆるムンテラ)であった。手術の危険性についての具体的説明はなく、説明後手術に至るまでの時間はあまりにも短く、原告及びその家族の納得を欠くものであった。
したがって、被告医師らとしては、本件手術について、原告に対する事前の説明義務に違反した過失がある。
(被告の主張)
B医師は、平成3年12月13日、原告に対し、検査の結果を説明するとともに、動脈瘤破裂によるクモ膜下出血を起こした場合の問題点を説明して、本件手術を勧めている。
また、同医師は、同月17日、原告に対し、再度、本件手術について説明をした。
さらに、A医師は、同月19日にも、原告及びCらに対し、本件手術について説明をした。その際、同医師は、原告の脳に、年齢に比して萎縮が認められること、本件手術は予防的なものではあるが、まったくリスクが認められないわけではないこと、手術後、硬膜下水腫が出現する可能性もあることを説明した。(そのとき、硬膜下水腫が出現する可能性は数パーセント程度であること、仮に出現しても、予想される水腫に対しては対応可能であることを説明している。)
なお、脳萎縮と硬膜下水腫、水頭症との関係については、予想されないことであり、したがって、その点については被告医師らに説明義務があるものとはいえない。
以上のとおりであるから、被告医師らは、原告に対し、本件手術について、事前に十分な説明をしており、同医師らに説明義務違反の過失はない。
(5) 被告医師らの行為と原告の現在の症状との間に因果関係があるか。
(原告の主張)
ア 本件手術と原告の現在の症状の因果関係
本件手術により、原告は、記銘力障害、失見当識、人物誤認、軽度着衣失行、自発性低下等の痴呆状況になった。
その後、原告は本件交通事故に遭遇し、本件交通事故によって、高度な痴呆状況、尿便失禁状態となり、後遺障害が拡大している。
しかし、原告が交通事故に遭遇したのは、事故当時、原告が、本件手術によって痴呆状況に陥っていたことに原因がある。
したがって、本件手術と原告の現在の症状との間に因果関係がある。
イ 被告医師らの説明義務違反と原告の現在の症状の因果関係
被告医師らが、原告に対し、本件のような後遺症が発生することがあり得ることについて説明する義務を尽くしていたならば、原告は未破裂動脈瘤の破裂の危険性と後遺症発生の危険性とを比較考量の上、手術の施行を承諾しなかったことは容易に推察しうる。
そして、本件手術を受けなければ原告に後遺症が生じることもなかったから、被告医師らの説明義務違反と原告に生じたすべての損害との間に因果関係がある
(被告の主張)
原告の症状は、原告固有の脳萎縮という素因があって症状が拡大していったものであり、本件手術が問題で発症したものではない。
したがって、本件手術と原告の現在の症状との間に因果関係はない。
(6) 原告の損害額
(原告の主張)
逸失利益 3693万2000円
介護費 2418万8900円
(3712万円から、自動車事故対策センターから、介護費用として支給され、将来支給されるであろう1293万1100円を控除した額)
後遺症慰謝料 1458万0000円
(3000万円から、本件交通事故による損害賠償として自賠責保険から支払を受けた1542万円を控除した額)
弁護士費用 300万0000円
損害額合計 7870万0900円
(被告の主張)
争う。
第3当裁判所の判断
1 争点(1)(本件手術施行上の過失)について
(1) 前記争いのない事実、証拠(甲20ないし23、45、乙4の2、5、11、14、証人C、証人A、証人B、鑑定の結果)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 本件手術
本件手術の執刀医はA医師とE医師、アシスト(助手の役目を行う。)はF医師、インストラクター(手術を見ながら助言する。)はB医師であった。
本件手術は、平成3年12月20日、午前11時から午後6時30分までの8時間30分行われた。そのうち、開頭している時間は、5時間から5時間30分である。
原告の前交通動脈の未破裂動脈瘤は、大きさ約5ミリメートル前後、位置は高く、後方に突き出し、動脈瘤の周囲には数本の穿通枝(細かい血管)がスダレ状に取り巻いていた。
本件手術は、脳表に架橋静脈があったこと、前頭洞の関係で前頭部を十分開頭できなかったことに加え、未破裂動脈瘤の位置や方向、穿通枝との位置関係や終板への付着など、クリッピング術が困難な症例であった。
開頭後、執刀医は、未破裂動脈瘤に到達するため脳ベラで脳を圧排した。その際、約10分間脳を圧排すれば5分間圧排をはずすという処置を繰り返した。
執刀医は、動脈及び静脈を保存(損傷しないようにする)しながら本件手術を進めた。また、穿通枝の流れを障害しないように、未破裂動脈瘤の根本にクリップをかけた。
イ 本件手術後の原告の様子
原告は、平成3年12月20日の本件手術後、麻酔からの回復が悪く、重度の下穏状態であった。原告は、翌21日から、ベッド上で起きあがろうとしたため手足を縛られた。原告は、年齢や生年月日を答えられなかったり、つじつまの合わないことを言ったり、妻や子の顔が分からない様子であった。本件手術後一週間で、徐々に意識状態は向上したが、年齢や生年月日や場所を答えられず、見当識障害は続いた。原告は、平成4年1月26日にパジャマにスリッパ姿で病院を抜け出してタクシーで自宅に戻り、以降、病院内を徘徊するようになった。原告は、同年2月初旬から、興奮して絶えずしゃべるようになり、大声を出したり、ほかの患者に手をあげたりするようになった。同年2月から3月にかけて歩く際に右に傾くようになり、歩行に介助が必要になった。
同年4月10日にシャント術を施行した後、同年6月10日に被告病院を退院するまで、原告は、一人で歩いたり食事したりできるようになり、会話が成立するようになったが、年齢や生年月日を答えられなかったり、会話の途中で別の内容に変わったりした。
ウ 本件手術後のCT写真の結果等
本件手術直後、翌日の平成3年12月21日、同月24日に撮影されたCT写真には、いずれも、手術による脳室内、クモ膜下腔の出血、脳実質の損傷や新たな脳梗塞など明らかな異常所見はみられなかった。また、同月27日に行われた脳血管造影の結果、同月30日のCT写真によっても、明らかな血管の閉塞や脳血管萎縮などの異常所見はみられなかった。平成4年1月20日のCT写真では、脳室が拡大し硬膜下水腫が減じてきて、脳の回復が判断された。同年3月18日のCT写真では、脳室が進行性に拡大し、脳室周辺低吸収域が認められたため、続発性水頭症と診断された。その間の同年1月27日、同年2月3日にもCT写真撮影が行われた。
エ 原告の脳萎縮
原告には、本件手術時、年齢に比して脳室拡大が認められ、脳萎縮が強かった。原告の脳萎縮は平成元年から平成3年の間にも進行していた。
(2) 鑑定人は、原告の硬膜下水腫、続発性水頭症の発生機序、見当識障害及び記憶障害が生じた原因について、次のとおり、鑑定意見を述べる。
ア 本件手術後原告に硬膜下水腫が生じたのは、手術でクモ膜を開けたことにより硬膜下腔に髄液が流出したからである。これは、①既に髄液循環が悪かったり髄液の吸収障害がある場合、②脳萎縮により硬膜下スペースが拡がりやすい状況がある場合などに生じる。特に脳を圧排して一時的に脳が変形した場合にその手術アプローチ側に生じやすい。
原告に、硬膜下水腫に引き続いて続発性水頭症が生じたのは、硬膜下腔へつながっていた穴が、クモ膜と硬膜の癒着などの何らかの原因でふさがり、髄液が脳室内のみで貯留するようになったためと考えられる。この事象は頻度は少ないが、上記①及び②などの条件がそろえば起こりうる。
イ 本件手術後、原告に見当識障害及び記憶障害が生じた原因として、①前交通動脈の穿通枝の障害による前頭葉底部の虚血、②前頭葉圧迫による前頭葉機能の全般的低下、③髄液循環不全による傍脳室組織の浮腫などに伴う大脳辺縁系(記憶回路)の機能低下、④水頭症による頭蓋内圧亢進などが考えられる。
本件手術直後からしばらくの間の原告の見当識障害、記憶障害については、上記②が関係していると思われるが、やや改善傾向の後増悪した原因については水頭症によるものと考えられる。その初期は③によるものと考えられるが、平成4年4月ころの状態は④も加わったと考えられる。本件手術後のCT写真に脳梗塞巣が認められないことから、①が関与しているとは考えにくい。術中に動脈瘤が破裂したという記載は一切なく、術後のCT検査より脳室内、クモ膜下腔の出血がないことより、出血による交通性水頭症の惹起については否定的である。
(3) 以上を前提に、本件手術の施行において、被告医師らに過失があるか否かを検討する。
原告は、本件手術により脳損傷あるいは前交通動脈領域の穿通枝に損傷が生じたと主張するが、前記(1)ウのとおり、本件手術直後、翌日、4日後のCT写真、7日後の脳血管造影いずれにもその事実に沿う所見はなく、その後撮影されたCT写真等で特別の所見が認められたわけではなく、原告に脳損傷あるいは前交通動脈領域の穿通枝の損傷が生じたと認めることはできない。
原告は、CT写真では明らかにならないような穿通枝損傷が生じているのであり、前記(1)イのとおり原告の見当識障害、意識障害、記憶障害が本件手術を契機に起こっている事実から、本件手術によって前交通動脈領域の穿通枝に損傷が生じたことが確信できると主張する。しかし、穿通枝が損傷を受けた場合に記憶系に障害が起こる(このことは甲4、43及び56により認められる。)からといって、記憶系に障害が起こった原因が穿通枝の損傷によるということはできない。鑑定人は、原告の見当識障害及び記憶障害の原因は前記(2)イのとおりであるとし、CT写真に脳梗塞巣が認められないことから、穿通枝の損傷が原因である可能性を否定していて、その鑑定結果が医学的に不相当であることを示す事情はない(なお、鑑定書の当該部分(2及び3ページ)には「見当識障害については・・・」と記載されているところ、原告は、鑑定意見が「記憶障害」については回答していないと主張する。しかし、鑑定事項には「見当識障害及び記憶障害」と記載して両者についての鑑定意見を求めているのであるから、鑑定人が、あえて記憶障害を除外して回答するのであればその旨明示するはずであり、明示せずに見当識障害のみについて回答したとは考えられない。よって、上記鑑定結果が記憶障害に関するものではないとはいえない。)。仮にCT写真では明らかにならないような穿通枝損傷が起こりうるとしても、そのような損傷が起こる可能性がどの程度あるかは明らかでないし、CT写真では明らかにならないような穿通枝損傷によっても原告に生じたような見当識障害や記憶障害が起こりうるということを示す証拠はない。他方、前記(1)、(2)によれば、本件手術直後からしばらくの間原告に現れた見当識障害及び記憶障害には前頭葉圧迫が関係していると考えることができるし、その後の見当識障害及び記憶障害は、主として、脳萎縮、髄液循環の障害等に起因する水頭症によるものと考えることができる。したがって、CT写真では明らかにならないような穿通枝損傷が原告に生じた見当識障害や記憶障害の原因であると認めることはできない。
よって、本件手術により脳損傷又は前交通動脈領域の穿通枝損傷が生じたことを前提とする被告医師らの注意義務違反は認められない。
なお、原告の見当識障害や記憶障害の原因であると考えられる前頭葉圧迫や、脳萎縮、髄液循環の障害等に起因する水頭症に関しては、執刀医による脳の圧排が過度に行われた等、執刀医らに何らかの注意義務違反があるとは認められない。
その他、被告医師らが、本件手術の施行に際して、操作上の誤りなど医師に求められる注意義務を欠く処置を行ったことを窺わせる事情はなく、本件手術施行上被告医師らに過失があったとは認められない。
2 争点(2)(本件手術後の術後管理における過失)について
(1) 前記争いのない事実、証拠(甲17、42、乙4の2、7の1、証人C、証人A、鑑定の結果)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 被告医師らは、平成3年12月20日の本件手術直後から、同月21日、同月24日のCT写真により、両側に硬膜下水腫があることを確認した。しかし、開頭手術後に硬膜下水腫が出現することはままあるので、水腫が脳に症状を与えるほどの大きさになるか否か判断するために経過をみることにした。
被告医師らは、同月27日に脳血管造影、同月30日にCT写真撮影、平成4年1月8日及び9日には腰椎穿刺で造影剤を注入して髄液の循環を調べる検査を行った。
イ 被告医師らは、平成4年1月20日のCT写真より、脳室拡大が始まり、硬膜下水腫が縮小したため、脳が回復していると判断した。
原告の見当識障害は続いていたが、手術後1週間を過ぎても見当識障害が続く例はないため、被告医師らはアルツハイマーを疑って、被告病院神経内科に診察依頼したところ、アルツハイマーの可能性は少ないという結果であった。
ウ 被告医師らは、原告に水頭症が生じるおそれがあると考え、CT写真撮影(平成4年1月27日、同年2月3日)、腰椎穿刺による造影剤注入の施行(同月5日、6日)を行い経過を観察した。
エ 被告医師らは、平成4年3月18日のCT写真に、脳室がより拡大していて、脳室周囲低吸収域がみられたことから、脳室が進行性に拡大していると判断し、水頭症が生じたと考え、治療として脳室腹腔シャント術を施行したほうがよいと判断した。
オ A医師は、平成4年3月19日、Cに対し、原告の水頭症の治療として脳室腹腔シャント術を受けることを勧めたが、シャント術によっては脳萎縮の改善は期待できないことも伝えた。Cは、A医師の説明に対し、考えてくると返事をした。
Cは、同月25日に原告の外泊許可を得て、原告を札幌市立病院に受診させた。その後、原告は翌4月6日まで外泊許可を得て、自宅で生活した。
Cは、同年3月30日、札幌市立病院の医師に原告のCT写真等を見せる必要から、それらを借りるために被告病院を訪れた。そのとき、A医師から、原告にシャント術を受けさせることを勧められたが、考えてくると返事をした。
A医師は、同年4月3日、電話でCに対し、シャント術を勧めた。
Cは、同月6日、札幌市立病院の医師からもシャント術をした方がよいと勧められたこともあり、原告にシャント術を受けさせることを決意した。
原告は、同月10日にシャント術を受けた。その後、見当識障害は残ったが、年齢や生年月日を答えるようになり、歩行、食事も一人でできるようになった。
カ 原告は、平成4年6月10日、家族の希望もあって、退院して自宅で様子をみることにした。
(2) 以上の事実を前提に、本件手術後の術後管理において、被告医師らに過失があるか否かについて検討する。
被告医師らは、本件手術後直ちに原告に硬膜下水腫が生じていることを認め、その後、硬膜下水腫が消失するか、あるいは脳を圧迫して症状を呈するほど進行するかを判断するために、継続的なCT写真撮影によって症状を把握しながら経過を観察していたのであって、他に何らかの処置を行うべきであったにもかかわらずそれを怠ったとは認められず、妥当を欠く処置であったとは認められない。
その間、被告医師らは、本件手術後の原告の見当識障害を把握し、その原因について、脳血管造影を施行して血管の閉塞がないか等を調べたり、アルツハイマーの可能性を疑って専門医に診てもらうなどしていて、見当識障害の原因を探求する措置も行っていて、とるべき処置を怠ったとは認められない。
また、被告医師らが、平成4年3月18日のCT写真によって水頭症を確認した後は、Cに対して原告にシャント術を受けさせることを勧め、Cが原告にシャント術を受けさせることを決意した後には、同年4月10日に原告に対するシャント術を施行しており、他に何らかの処置を行うべきであったにもかかわらずそれを怠ったとは認められない。
以上によれば、被告医師らの原告に対する本件手術後の診療において、適切な処置を怠ったとは認められず、本件手術後の術後管理において、被告医師らに過失があるとは認められない。
3 争点(3)(原告が本件手術に適応するか否かの判断における過失)について
原告は、10ミリメートル以下の小さな未破裂動脈瘤に対する手術は不要であり、原告の未破裂動脈瘤は本来手術するべきものではなかったと主張する。確かに、医師の中にも未破裂動脈瘤に対する手術適応に対する判断は慎重にするべきであるという見解があることが認められ(甲2の769ページ、甲38、41)、原告は無症状で即刻手術が必要な状態ではなかったことも認められる(証人B)。しかし、発見時には未破裂脳動脈瘤であってもその後に破裂する可能性があり、破裂前に発見して予防的手術ができれば好ましいという見解は医学的に不相当ということはないし、決して特異な見解でもない(甲2、3、28、29、35、37、47)。動脈瘤の破裂する可能性は年に1ないし2パーセントといわれていて、前交通動脈瘤がもっとも破裂しやすいという所見もあり(甲2、鑑定の結果)、動脈瘤の破裂の危険性は大きさだけで判断することはできない(証人A)ことからすれば、原告の未破裂動脈瘤が本来手術するべきものでなかったと認めることはできない。
そして、①未破裂動脈瘤の手術適応の目安は70歳以下とされているところ(甲35、37)、原告は58歳であってその年齢を下回っていたこと、②重篤な全身障害がないこと、③本件手術が困難な症例であることを術前に予測することはできないこと(乙4の2、証人A)、④手術前の時点で、原告に脳萎縮が認められたことから髄液貯留などの合併症が発生する危険性までは予測できたものの、そのことと原告に見当識障害、記憶障害等の障害が生じることの予測とは結びつかず、被告医師らが手術後原告に見当識障害、記憶障害等の障害が生じることまでも予測できる事情はなかったこと、以上からすると、被告医師らが、原告には本件手術の適応があるとした判断が、妥当性を欠く不適切な判断であったということはできない。
よって、被告医師らが、原告には本件手術の適応があるとした判断に過失があるとは認められない。
4 争点(4)(説明義務違反)について
(1) 前記争いのない事実、証拠(甲42、乙1ないし3、証人C、証人A、証人B)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 原告は、平成3年12月12日、精密検査のため被告病院に入院していた。
B医師は、翌13日に、原告に対し、検査の結果、前交通動脈に動脈瘤が発見されたことを伝え、①クモ膜下出血を起こす可能性があること、②クモ膜下出血を起こした場合には、社会復帰できる確率は3分の1、なんらかの障害を残すがほぼ自立して生活できる確率は3分の1、死亡ないし一生寝たきりになる確率が3分の1であること、③動脈瘤に対しては、全身麻酔をした上で開頭手術により治療する方法があり、その場合の入院期間の目安は1ないし2か月であること、④全身麻酔、手術そのものには危険があること(ただし、原告に対する手術で想定される危険は、術後の出血、血管損傷、脳の細菌感染等の脳外科手術一般に想定されるものであり、特に想定される危険はなかったため、具体的な危険及び手術後どのような症状が生じるかということは説明はしなかった。)、⑤クモ膜下出血を起こさない可能性もあることを説明した。そのうえで、手術を受けるかどうかは原告の決断によることになるとしながらも、脳外科医師として、手術を受けるべきであるという結論をもっていることを伝えた。
原告は、B医師の説明を聞き、動脈瘤をこのままにしておくと破裂すると理解した。
原告は、B医師に対して考えてみると答えた。
原告は、同月14日に外泊して自宅に戻り、友人に電話をするなどして、手術を受けるべきか否かを考えた。
イ 原告は、平成3年12月15日に病院に戻り、翌16日、B医師に対し、手術を受けることを承諾すると返事をした。その際、原告は、「動脈瘤を持っていてもしようがないから手術する」という言い方をした。
同月17日、原告の手術は、体調等に問題がなければ同月20日に行われることに決まった。
ウ A医師は、本件手術の前日である平成3年12月19日、原告、Cと原告の子に手術について説明をした。その際、原告は、すでに手術準備のために髪を剃っていた。A医師は、手術について、①クリッピング術が最良であるが、できなければコーティング術(動脈瘤全体に補強剤を覆う手術)を施すこともありうること、②原告の年齢に比べて脳萎縮が強いため、術後、髄液が貯留して水腫が生じる可能性があることを伝えた。
(2) 以上の事実を前提に、被告医師らが、本件手術について、事前に十分な説明をするべき義務に違反した過失があるか否かについて検討する。
被告医師らは、医師として原告が動脈瘤手術を受けるべきであると判断していて、その判断自体が適切さを欠くとはいえないことは前記3に述べたとおりである。しかし、原告の動脈瘤は無症状で即刻手術が必要な状態ではなく、手術適応の判断は慎重にするべきであるという見解があり、手術をするべきか否かは医師によっても見解が異なり得るものであり、さらには、本件手術があくまで予防的なものであることを考えると、医師が患者に対して手術を受けるか否か決めることを求めるためには、動脈瘤が破裂する危険と手術自体の危険を比較した判断ができるような説明を十分する必要がある。そして、原告の動脈瘤が破裂する危険も手術自体の危険も双方ともに、一般的に起こりうる可能性を想定して説明するにすぎないのではあるが、患者はどのような可能性があって、それがどのような頻度で起こるか知り得ないのであるから、医師としては、患者自身が、動脈瘤が破裂する危険と手術自体の危険を比較して手術を受けるか否かを検討することができるような情報を提供することに努めるべきである。
被告医師らは、原告に対し、本件手術について上記のとおりの一般的な説明をしているが、手術の危険性について単に抽象的に述べているにすぎず、開頭手術後想定される後遺障害及びその可能性について具体的な説明をしていない。また、動脈瘤が破裂する可能性がどの程度かを考えることができるような具体的な数値をあげるなどの説明をしなかったことが認められる。その結果、原告は、動脈瘤をこのままにすると破裂すると理解し、動脈瘤が破裂した場合には死亡あるいは死亡に至らなくても重度の後遺症を残す可能性が高いという説明等によって、動脈瘤が破裂した場合の怖さがより鮮明に印象づけられて手術を受けることを承諾するに至ったことが窺われる。
そうすると、被告医師らは、原告に対し、手術を受けるか否かは原告の決断によるとしながらも、手術を早急に受けるべきであるという判断に偏った情報しか提供しておらず、原告の決断に資する十分な情報を提供するには不完全な説明しかしていないといわざるを得ない。被告医師らには、原告自身が本件手術を受けるかどうかを判断するために十分な情報を与えて説明をするべき義務に反する過失があると認められる。
5 争点(5)(因果関係)について
前記4のとおり、被告医師らに説明義務違反の過失が認められるので、被告医師らの説明義務違反と原告の現在の症状との間に因果関係があるか否かを検討する。
原告は、被告医師らが十分な説明をしていれば本件手術を受けることを承諾しなかったと主張するところ、原告には動脈瘤の自覚症状がなく、緊急に手術を要する状態ではなかったから、被告医師らが十分な説明を行った場合に、手術を直ちに受ける承諾をしなかった可能性があることは否定できない。
しかし、原告は、自ら脳ドックを受けており、脳卒中の予防に関心が高かったことが窺われる。原告が、動脈瘤が破裂する可能性について正確な説明を受けてそれを理解したとしても、原告の動脈瘤がいつ破裂するか分からないという状況は変わらないから、動脈瘤を持っていても仕方がなく手術を受けようという判断に至った可能性は高い。また、被告医師らは医師として手術を受けたほうがよいと判断していたところ、原告が、自分自身で手術を受けるか否かを決めかねる場合に、被告医師らの判断に沿う決断をした可能性もある。
そうすると、被告医師らが原告に十分な説明をしていれば、原告が本件手術を受けることを承諾しなかったということはできず、被告医師らの説明義務違反と原告の現在の症状との間に因果関係があると認めることはできない。
6 争点(6)(損害額)について
ア 逸失利益、介護費
前記5のとおり、被告医師らが原告に十分な説明をしていれば、原告が本件手術を受けることを承諾しなかったということはできないから、本件手術後に原告に生じた後遺障害に関する損害である逸失利益、介護費は認められない。
イ 慰謝料
原告が後遺症を有することから受ける精神的苦痛に対する慰謝料は、前記アと同様に認められない。
しかし、原告は、本件手術を受けるか否かの選択にあたり、被告医師らから十分な説明を受けた上で検討する機会をもつことができなかったのであり、不完全な説明に基づいて決断しなければならなかったことについて精神的苦痛があると認められる。その精神的苦痛を慰藉するには300万円が相当である。
なお、原告は、本件交通事故による損害賠償として自賠責保険から支払を受けた額を控除した金額を請求するが、ここで認める慰謝料は、本件手術を受けることを決断したことにより生じた損害であって、本件交通事故による損害賠償金で填補されるべき損害ではないから、その損害賠償金を控除しない。
ウ 弁護士費用
本件事案の難易、本件の認容額その他の事情に照らせば、弁護士費用として30万円を認める。
エ よって、被告は、原告に対し、330万円及びこれに対する説明義務違反があった日の後であることが明らかな平成10年3月7日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払義務がある。
7 結論
以上のとおり、原告の請求のうち、330万円及びこれに対する平成10年3月7日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を請求する部分は理由があるから、その限度で認容し、その余は理由がないから棄却することにして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中西茂 裁判官 川口泰司 裁判官 戸村まゆみ)