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札幌地方裁判所 平成12年(ワ)1312号 判決 2001年9月17日

原告

渡島信用金庫労働組合

代表者執行委員長

中原秀一

訴訟代理人弁護士

長野順一

佐藤博文

被告

渡島信用金庫

代表者理事長

伊藤新吉

訴訟代理人弁護士

丸尾正美

ほか3名

主文

1  被告は,原告に対し,200万円及びこれに対する平成10年2月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は10分し,その8を原告の,その余を被告の各負担とする。

4  この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成10年2月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二事案の概要

一  本件は,被告の職員によって組織されている原告が,被告に対し,被告から一連の不当労働行為を受け,組合員の減少及び被告の不当労働行為に対抗する労苦を強いられるなどし,精神的損害を被るとともに弁護士費用の支出を余儀なくされたとして,不法行為責任に基づき,その賠償を求めた事案である。

二  前提事実(争いのない事実及び証拠によって容易に認定できる事実)

1  当事者等

(一) 被告は,明治44年5月,有限会社森村信用組合として設立され,昭和26年6月15日,信用金庫法に基づいて名称変更された信用金庫であり,肩書地に本店を置くほか,函館支店,五稜郭支店(函館市),亀田支店(函館市),久遠支店(大成町),砂原支店,鹿部支店,南茅部支店,大野支店,八雲支店,北檜山支店,今金支店及び瀬棚支店の12の支店を有し,出資金は5億3495万円(平成9年3月現在),平成12年3月時の職員数は約150名であった。

(二) 原告は,昭和48年9月23日,被告の職員160名により結成された労働組合であり,全国信用金庫信用組合労働組合連合会及び全労連函館地方労働組合会議に加盟している。平成9年2月末当時の原告の組合員数は23名であったが,平成12年2月末には5名に減少した。

平成9年2月当時,原告の執行委員長は中原秀一(以下「中原」という。),副執行委員長は加藤隆(以下「加藤」という。),書記長は佐藤政幸(以下「佐藤」という。)であった。

2  平成9年2月前の労使関係

(一) 原告は,昭和61年,平成元年(2回),平成6年に,被告による団体交渉の拒否,支配介入等を理由として,不当労働行為救済命令申立てをし,平成元年,平成7年に北海道地方労働委員会から救済命令が発せられるなど,原告と被告とは対立が続いていた。

(二) 被告の現理事長である伊藤新吉は,平成6年当時検査室長であり(以下「伊藤検査室長」,理事長就任後は「伊藤理事長」という。),本部検査を担当していた。

伊藤検査室長は,平成6年11月9日付け「渡島信用金庫労働組合員の実態報告について」と題する文書で,理事長宛てに,店舗別の組合員の氏名を明らかにするとともに,組合員21名中13名の人物評価を報告した。その文書には,各組合員の組合活動に対する姿勢や,管理職就任希望の有無等が記載されていた。中原,加藤及び佐藤の評価も記載されており,中原については,「超過激的な組合活動家。久遠支店の主として,支店長の指示通り業務遂行されていない。/久遠支店勤務10年以上と長いことを不満としている。/仕事は,集金業務主体とし,何ら金庫経営方針・本部方針を無視。同年代職員と比較にならない。/組合活動そのものが,自分の人生の如く錯覚している。(過激な組合員)/他団体などからの洗脳を受けていると判断される。/問題によっては,他組合員から孤立している場合もあるという。」と記載され,加藤については,「組合活動家の一人であり,そのことによって,自分の私生活や仕事に対する責任を逃れている。/管理職になりたいとの意欲もなく,又,転勤希望な(ママ)い。/表面では,物静にしているが,若い組合員のコントローラー的存在である。/現在は,八雲町でスナックをしていた女性と結婚し,今金町で生活を営んでいる。/要払集金専門職員として業務を実施しているが,本部指示・支店長指示に基づく,業務遂行とされていない。」と記載され,佐藤については,「過激的な洗脳された組合活動家の一角をなしている。/相手により攻撃的だったり,また,温和だったり,事の使い分けが上手な職員である。/管理職になりたい願望を持っているが,人事上で評価されないことを不満としている。」と記載されている。

(三) 平成8年5月2日,前理事長である佐野正名が理事長を解任され,伊藤理事長が就任した。

3  林和代に対する事情聴取について

(一) 林和代(以下「林」という。)ほか原(ママ)告の女性職員5名が,平成9年2月21日,原告に加入した。

(二) 被告の相馬正明常務理事(以下「相馬常務」という。)は,同年3月13日,電話で,瀬棚支店長を通じ,同支店の林に対し,被告本部(以下「本部」という。)に来るように命じ,同日午前11時45分ころから,本部理事長室において,同人に対する事情聴取を行った。

4  被告の佐藤に対する言動及び佐藤が被告を退職した経緯について

(一) 平成9年3月15日,被告と原告との間の団体交渉の場で,被告は,佐藤に対して,同人が勤務時間中に組合活動を行ったなどとして,同人を非難する発言をした。

(二) 同月27日,被告は,佐藤に対し,同人が同月18日融資実行時に借入者の印鑑証明書を徴求しなかったこと,融資実行には支店長カードを用いることが必要であるのに,次長カードを用いたことについて,始末書を持って本部に来るように命じた。そして,同日,本部理事長室において,伊藤理事長,相馬常務ほか総務部長,審査部長,業務部長及び検査室長らが臨席して,佐藤との間で話がされた。佐藤は,その場で,同月31日付けの退職願を書いて,被告に提出した。

5  被告の中原及び加藤に対する言動について

(一) 伊藤理事長は,平成9年4月22日午前9時30分ころ,中原に対し,電話で,被告の平成9年度経営方針通達が外部に漏れていることについて,被告の重要機密を外部に漏らすことは懲戒処分にも該当する旨告げた。

(二) 伊藤理事長は,同日午前10時ころ,電話で,加藤に対して,本部に来るように指示した。加藤は,本部に呼ばれたことを電話で中原に伝言し,これを聞いた中原は,伊藤理事長に対し,加藤を組合に関することで呼び出したのかどうか質すなど,抗議の電話をした。加藤は,同日午後0時30分ころから,本部理事長室で,伊藤理事長ほか7名の役職者が並ぶ中で事情聴取を受けた。加藤は,伊藤理事長から,就業時間中に中原に電話をしたことは,就業時間中の業務専念義務及び業務外活動に関する制限に違反するということを指摘され,始末書を提出した。また,同人は前記経営方針通達を外部に漏らしていないか質された。

6  就業規則の変更について

(一) 被告と原告は,平成9年3月15日,同年4月1日の労働基準法の改正に伴う就業規則の変更について団体交渉を実施した。その席上で,原告は,被告が林を本部に呼び出したことに抗議したため,団体交渉は就業規則変更の議論をしないまま終わった。

(二) その後,団体交渉が行われないまま,同年3月29日に説明会が開催され,同年4月1日,変更された就業規則が施行された。

7  被告が加藤を降格させ賃金を減額したことについて

(一) 加藤は,昭和49年に本店融資課長代理に就いた際,資格規定上の職位が「課長代理」,資格が「管理職D級」となったが,昭和53年7月に職位が「一般事務職」に戻った後も,資格は「管理職D級」のままであった。

(二) 伊藤理事長ほか7名の役職者は,平成9年4月22日,本部理事長室で,加藤に対し,資格と職位が合っていないので改める必要があることを話した。その際,伊藤理事長らが加藤に対して,現行の「資格規定」の別表(資格基準)を示し,どの区分に該当するか自己査定するように告げたところ,加藤はA級に該当すると答えた。

(三) 加藤は,平成9年5月1日,資格が管理事務職D級から事務職A級となり,賃金(本給)は41万9900円から37万2300円に減額された。

8  加藤に対する懲戒解雇について

(一) 加藤は,平成9年11月,今金支店から瀬棚支店に転勤となり,瀬棚町役場派出所の窓口の担当をしていたところ,平成10年1月30日(金曜日)午後,手元の封筒を開くと,現金2万6900円が入っていたが,当日の締めの段階までに預け主等が判明せず,過剰金(以下「本件過剰金」という。)となった。

(二) 瀬棚町から本件過剰金の保管を断られ,役場内では本件過剰金を置いた者が見つからなかったことから,加藤は,同日,松林支店長に本件過剰金が生じたことを報告しないまま,これを出納室内の自分の机の引出しに施錠して保管した。

(三) 同年2月5日午前8時25分,加藤は,松林支店長に対し,経過を報告して本件過剰金を引き渡した。

(四) 被告は,同月27日,加藤を「瀬棚支店派出所現金不正事件の責任,就業規則第73条9号(業務命令・通達に違反し,職務に関して不正行為,職場秩序を乱したとき)」という理由で懲戒解雇した(以下「本件懲戒解雇」という。)。

9  本件救済命令申立てについて

(一) 原告は,平成9年3月18日付けで,北海道地方労働委員会に対し,前記3の林に対する事情聴取及び前記4(一)の被告の言動が支配介入に該当するとして,文書による謝罪等を求める不当労働行為救済命令の申立てをした。

(二) 原告は,同年6月20日付けで,同労働委員会に対し,前記4(二)の被告の佐藤に対する言動,前記5の被告の中原及び加藤に対する言動が支配介入に該当するとして,追加的に文書による謝罪等を求める不当労働行為救済命令申立てをした。

(三) 原告は,平成10年2月24日付けで,同労働委員会に対し,前記6の就業規則の一方的変更等及び前記7の加藤の処遇切下げが不利益取扱い,団体交渉の拒否又は支配介入に該当するとして,追加的に文書による謝罪等を求める不当労働行為救済命令申立てをした。

(四) 原告は,同年3月24日付けで,同労働委員会に対し,加藤に対する本件懲戒解雇が不利益取扱い及び支配介入に該当するとして,追加的に同懲戒解雇処分の取消し,原職復帰,バックペイ等を求める不当労働行為救済命令申立てをした。

(五) 同労働委員会は,平成11年8月26日付けで,下記主文の救済命令(以下「本件救済命令」という。)を発し,同命令は,同年9月7日,被告に交付された。

(1) 被告は,加藤副執行委員長に対する平成9年5月1日付けの資格の変更及び平成10年2月27日付けの懲戒解雇処分を取り消し,原職たる管理事務職D級に復帰させなければならない。さらに,被告は,同人に対し,平成9年5月1日以降,原職たる管理事務職D級に復帰するまでの間,上記資格の変更及び懲戒解雇処分がなければ得られたであろう賃金相当額を支払わなければならない。

(2) 被告は,林組合員を呼び出して組合加入の経緯を聴いたり,中原執行委員長,加藤副執行委員長及び佐藤書記長に対して組合活動を妨害する発言をしたり,同書記長に対して退職を強要したり,同副執行委員長を降格させ,賃金を減額したり,平成9年4月1日からの労働基準法の改正に伴う就業規則の改定において,誠実に団体交渉を行わず,また,これを一方的に変更したり,さらには同副執行委員長に対して懲戒解雇処分を行ったりなどして,原告の運営に支配介入してはならない。

(3) 被告は,次の陳謝文を縦1メートル,横1.5メートルの白紙に楷書で明瞭に記載し,被告の本店及び支店の正面玄関の見やすい場所に,命令交付の日から7日以内に掲示し,10日間掲示を継続しなければならない。

陳謝文

当金庫の次の行為は,北海道地方労働委員会において,労働組合法第7条第1号,第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると認定されました。

ここに深く陳謝し,今後このような行為を繰り返さないようにします。

a 貴組合の林組合員を呼び出し,組合加入の経緯を聴いたこと。

b 貴組合の中原執行委員長,加藤副執行委員長及び佐藤書記長に対して組合活動を妨害する発言をしたこと。

c 貴組合の佐藤書記長に対して退職を強要したこと。

d 貴組合の加藤副執行委員長を降格させ,賃金を減額したこと。

e 平成9年4月1日からの労働基準法の改正に伴う就業規則の改定において,誠実に団体交歩を行わず,また,一方的に変更したこと。

f 貴組合の加藤副執行委員長に対して懲戒解雇処分を行ったこと。

平成 年 月 日(掲示する初日を記載すること)

渡島信用金庫労働組合

執行委員長 中原秀一様

渡島信用金庫

理事長 伊藤新吉

10  被告は,本件救済命令には,事実を誤認し,法律上の判断を誤った違法があるとし,その取消しを求める行政訴訟を提起した。しかし,札幌地方裁判所は,平成13年2月22日,本件救済命令は適法であるとして被告の請求を棄却する旨の判決を言い渡した。これに対し,被告は,控訴を申し立てた。

11  加藤は,平成10年3月18日,本件懲戒解雇が無効であるとして地位保全及び賃金の仮払いを求める仮処分申立てをし,函館地方裁判所は,同年12月8日,これを認容する決定をした。また,加藤は,同年5月20日,本案訴訟を提起し,地位確認及び賃金の支払いを求めるとともに,本件懲戒解雇が不法行為であるとして慰謝料の支払いを求めた。同裁判所は,平成13年2月15日,加藤の地位確認及び賃金の請求を認容したが,慰謝料請求は棄却した。これに対し,加藤及び被告の双方が控訴を申し立てた。原告は,加藤の仮処分申立てを含めた上記訴訟(以下「本件解雇等訴訟」という。)を全面的に支援している。

三  争点についての当事者の主張

1  被告が林に対して事情聴取をしたことにより不当労働行為(労働組合法7条3号)が成立するか。

(一) 原告

被告は,林が原告に加入したことを契機として,同人の組合加入による影響力拡大を嫌悪し,同人に圧力を加えて脱退させることを企図し,同人から事情聴取したものであり,明らかな組合に対する支配介入であって,不当労働行為が成立する。

(二) 被告

被告が林を本部に呼んだのは,一般職員において被告あるいは所属の瀬棚支店の管理者に対する不満があれば改善する必要があると考えたからであり,林に対し,組合加入の是非を問題にしたことはないし,組合脱退を強要した事実もなく,不当労働行為は成立しない。

2  被告が佐藤に対し,組合活動を妨害する発言をし,また,退職を強要したか。したとすれば,そのことにより不当労働行為(労働組合法7条3号)が成立するか。

(一) 原告

被告は,林から聴取しただけで,事実関係の正確な調査もせず,佐藤が勤務時間中に組合活動をしていると決めつけ,避(ママ)難を繰り返した。そもそも業務に支障を来たさない限り,組合用務で電話をするなど,ある程度の組合活動は容認されてきた。被告の上記のような対応は,林ら女性職員が原告に集団加入したことに対する不快感と苛立ちの現れである。そして,被告は,さらにエスカレートさせ,佐藤の些細な仕事上のミスを取り上げて同人を本部に呼び出し,始末書を提出させたのみならず,2時間にわたって被告役員ら6名が囲む中,ミスを反省している同人に対し執拗なまでに責任を追及し,遂には退職を強要したものである。

以上のような被告の行為は,原告に対する支配介入であり,不当労働行為が成立する。

(二) 被告

被告が,佐藤に対し,職場内で勤務時間中に許可なく労働組合活動を行うことは就業規則違反となると指摘したのは,当然のことを指摘したものであり,組合活動の妨害には当たらない。

また,佐藤の退職は,自らの意思で自己都合退職したのであり,被告が強要した事実はなく,そのことは,佐藤自身が原職復帰を求める救済命令の申立てをしていないことからも明らかである。

したがって,不当労働行為は成立しない。

3  被告が中原及び加藤に対し,組合活動を妨害する言動をしたか。したとすれば,そのことにより不当労働行為(労働組合法7条3号)が成立するか。

(一) 原告

(1) 中原に対する被告の言動について

平成9年度経営方針通達は,極秘文書扱いされておらず,内容をみても,極秘にかかわるようなものではないことからすると,被告は,実質的に秘密でない文書を機密文書であるとして,原告に言いがかりをつけているにすぎないことは明らかであり,不当労働行為が成立する。

(2) 加藤に対する被告の言動について

従前から,勤務時間中であっても,業務に支障のない範囲で組合用務の電話使用は容認されており,問題となったことはなかったのに,被告は,突然,執拗なまでに問題視するようになり,加藤が中原に相談したことについて,職務専念義務違反であるとし,「懲戒解雇だってできるんだぞ」などと恫喝したものであり,不当労働行為が成立する。

(二) 被告

(1) 中原に対する被告の言動について

平成9年度経営方針通達は,被告の営業戦略,営業戦術そのものであり,最重要の内部機密文書である。被告は,中原に対して,この内部機密文書を他金融機関職員に渡した行為を戒めたにすぎず,当然のことであって,不当労働行為は成立しない。

(2) 加藤に対する被告の言動について

被告は,加藤に対し,伊藤理事長が業務上の用件で加藤を呼んだにもかかわらず,そのことについて加藤が勤務時間中に中原に電話をしたことは,就業時間中の業務専念義務及び業務外活動に関する制限に違反するという当然のことを指摘したにすぎない。また,経営方針通達については,被告は,加藤に対して持出しの有無を尋ねただけである。したがって,不当労働行為は成立しない。

4  原(ママ)告は,就業規則の改定において,誠実に団体交渉を行わず,一方的に変更したか。したとすれば,そのことにより不当労働行為(労働組合法7条2号,3号)が成立するか。

(一) 原告

被告は,原告に対して,就業規則変更の具体的内容を提示することなく団体交渉を行い,原告が林を本部に呼び出し事情聴取したことを取り上げると一方的に協議を打ち切って席を立ったのであり,その後も再度団体交渉を申し入れることもなかった。

また,被告は,改定直前になって,原告組合員の出席を意図的に排除した説明会を開催し,従業員の同意が得られたとして就業規則を一方的に変更し実施したものである。

したがって,団体交渉拒否であるとともに原告に対する支配介入でもあり,不当労働行為が成立する。

(二) 被告

就業規則変更について団体交渉が行われなかったのは,団体交渉の日に,原告側が林を本部に呼び出したことを取り上げたため実質協議ができなかったことによるものであり,責任は原告側にある。

被告は,就業規則変更に当たり,原告が職員の過半数を組織していないため,職員の過半数以上に説明して労働基準法90条に定める労働者の意見を聴取したのであり,違法はないし,労働組合の存在を無視していない。

したがって,不当労働行為は成立しない。

5  原(ママ)告が加藤を降格させ,賃金を減額したことにより不当労働行為(労働組合法7条1号及び3号)が成立するか。

(一) 原告

それまで何一つ問題とされていなかったのに,突然,資格と職位の不一致という形式的な理由を根拠に資格を下げ,賃金を大幅にカットしたのは,原告の中心的活動家の一人である加藤を嫌悪し,加えて原告の弱体化を意図して行った不利益取扱い及び組合運営に対する支配介入であり,不当労働行為が成立する。

(二) 被告

資格と職位が対応すべきことは資格規程に定められており,加藤は,職位が一般職であるにもかかわらず,資格は管理事務職に対応した管理職D級のままであったため,改める必要があり,加藤に業務向上意欲及び職務遂行能力を確認したうえで,加藤の申し出に従って資格事務職A級を発令したにすぎない。

また,賃金の減額については,基本給及び加給の等級と号数が,給与規定で資格により定められているため,資格の変更に伴い当然に給与の等級を変更したにすぎない。

したがって,不当労働行為は成立しない。

6  原(ママ)告が加藤に対して本件懲戒解雇を行ったことにより不当労働行為(労働組合法7条1号及び3号)が成立するか。

(一) 原告

被告に対し本件過剰金の発生の事実を遅れて報告したこと,本件過剰金を自分の机の引出し中に保管したこと及び被告の調査の中で保管状況について事実と異なる報告をしたことに加藤本人の落ち度があったとしても,加藤には犯罪意思はもとより積極的な加害意思などなかったことは明らかであり,重大な不注意があったということもできない。加藤の行為をもって就業規則73条9号の不正行為及び職場の秩序を乱したときに該当すると評価することはできず,他に懲戒解雇に該当する事由は見当たらない。

また,被告の過去の事例と比較すると,明らかに均衡を失しており,他の金融機関の事例をみても,本件懲戒解雇は明らかに過重なものである。

本件懲戒解雇は,原告及び加藤を嫌悪し,女性組合員や佐藤を脱退させることに成功し,原告の組合機能を大幅に減退させた中で,さらに三役のうち残された2名のうち1名である加藤を排除して,原告を決定的に弱体化させることを企図して行われたものであり,同人に対する不利益取扱いであるとともに,原告に対する重大な支配介入であるから,不当労働行為に該当する。

なお,加藤が後記のとおり平成10年1月29日にS(以下「S」という。)から国民年金保険料2万5600円を受領していたとしても,それが本件過剰金となった可能性が極めて高く,加藤が上記金員を着服した事実はない。

(二) 被告

信用金庫は,金融機関として金銭の出納を業務として行うため,特に信用が重んじられ,その職員も金融機関の信用を維持するための義務が強く要請される。特に,現金の取扱いは最も重要であり,現金事故はその金額の多少にかかわらず信用金庫の信用を著しく失墜させ,また,顧客とのトラブルの要因となる。そのため,「現金その場限り」と呼ばれる基本的かつ重要な原則(職員が顧客の面前でその提供された現金及び納付書等の書類をその場で確認することを意味する)を職員に通達しているし,事務処理上過剰現金が発生した場合には,内規により,即時の報告と入金処理が義務付けられている。

加藤は,信用が重んじられる金融機関の職員として,最も重要であるべき顧客から差し出された現金の取扱いについて,内規,通達に違反し,職務に関する不正行為をし又は職場秩序を乱したものというべきである。

したがって,加藤の行為は,金融機関たる信用金庫の従業員として重大な職務違背行為といわざるを得ず,就業規則73条9号の懲戒解雇事由(業務命令・通達に違反し,職務に関して不正行為,職場の秩序を乱したとき)に該当するから,本件懲戒解雇は正当であり,不当労働行為は成立しない。

なお,本件懲戒解雇後の平成10年8月,加藤が同年1月29日に瀬棚町役場派出所においてSから手渡された国民年金保険料2万5600円を着服した事実が判明した。この事実は,本件懲戒解雇の効力を補強するものである。

7  原告が被った損害の有無・程度

(一) 原告

(1) 前記のような被告による一連の不当労働行為は,原告に対する不法行為を構成するが,原告は,そのことにより,23名いた組合員は5名にまで激減し,原告の組合機能を大幅に減退させられたばかりではなく,被告の不当労働行為に対抗するために以下のような労苦を強いられ,多大の精神的損害を被った。その慰謝料としては500万円が相当である。

(2) 原告は,被告の不当労働行為に対抗しこれを止めさせるため,弁護士である原告代理人らに委任して,前記のとおり本件救済命令の申立てをした。北海道地方労働委員会は,平成11年8月26日,全面的な救済命令を出したが,被告がその取消しを求める行政訴訟を提起したため,原告は,これにも補助参加人として応訴せざるを得なかった。

また,原告は,加藤に対する本件懲戒解雇が無効であることを確認し,加藤が職場に復帰するための本件解雇等訴訟を全面的に支援するため,原告代理人ら13名の弁護士を選任して訴訟等の追行を委任した。

以上のような弁護士費用は,被告による一連の不当労働行為によって原告が被った損害であり,現時点においても500万円は下らない。

(二) 被告

(1) 仮に被告の不当労働行為があったとしても,それによる精神的損害はせいぜい原告の代表者個人又は個々の組合員に発生するにすぎず,原告自身について観念されることはない。

(2) そもそも慰謝料請求が認められない以上,弁護士費用が認められる余地はない。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  前提事実3に証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。

(一) 平成9年2月ころ,瀬棚支店長が交替した。この交替は,瀬棚支店の業績が伸びず,事故が多いなど,店舗経営上に問題があったことに起因して行われた人事であり,経営陣には,前支店長と職員との間に信頼関係が希薄であるという認識があった。また,同支店の次長は,当時,原告の書記長である佐藤であった。

(二) 同月21日,林ほか瀬棚支店の女性職員5名,北檜山支店の女性職員1名が,原告に加入した。瀬棚支店の女性職員は全員原告に加入した。

原告は,組合機関誌「あかつき」97年3月5日第168号の中で,職員6名が原告に加入したことを報じ,同月10日すぎに「あかつき」を本部の役職員に送った。

(三) 相馬常務は,同月13日,瀬棚支店長から,瀬棚支店に勤務する女性職員が原告に加入したということを聞き,女性職員のリーダー的存在であった林を本部に呼ぶことにした。

相馬常務は,同日朝,電話で瀬棚支店長を通じて林に対し本部に来るように命じた。瀬棚支店から本部までは自動車で2時間近く要する距離があった。

(四) 伊藤理事長と相馬常務は,同日午前11時45分ころから,本部の理事長室で,林に対し,「人事異動で支店長が交替したが,職場の状況はどうか。何か困っていることはないのか。」,「瀬棚支店で女子職員全員が組合に加入したと聞いているが,何か職場に問題があったのか。誤解のないように事前に言っておくが,金庫は組合を認めており,加入がダメということで言っているのではない。」,「私が不思議に思ったのは,組合がやっていることに批判的なことを言っていた林さんが何故,今,組合に入る気持ちになったのか,職場に何か問題があるのか,金庫が,何か,まずいことをしているのかを人事管理上の必要から率直に聞きたいので来てもらった。」などと述べた。

林が,原告に加入した経緯について,「次長が組合に入っており,次長に組合に入って皆でがんばらないかと言われたので,仕事上のこともあり人間関係を大事にしたいので,加入しました。」と述べると,伊藤理事長らは,「何時,何処で言われたのか。」,「業務中に組合の仕事をするのはいいことだと思うか。」,「組合に入る,入らないは職員の自由であるが,勤務時間中に組合の仕事をするのは認められるはずがない。業務上で困ったことがあればいつでも言って下さい。提案もして下さい。」などと述べた。

(五) 同日午後4時ころ,林が本部に呼ばれたことを知った中原が,瀬棚支店に戻った林に対して電話で事情聴取のことを尋ねると,林は「最初の15分か20分くらいは労働組合のことを聞かれたが,どういう内容について聞かれたかは余り話したくない。」などと述べた。

(六) 翌14日,中原は,瀬棚支店に勤務する佐藤から,林が原告を脱退する意思を示していることを知らされた。同月24日,原告は,林から脱退届を受け取った。同年4月中旬,原告は,他の女性組合員4名からも脱退届を受け取った。

(七) 林は,被告を退職したが,同年12月10日付けで,北海道地方労働委員会に対し,「平成9年3月13日に本部理事長室において理事長,常務に面会した際に,労働組合をやめなさいと言われたり,脱退を強制されたことは一切ありません。文書をもって証明致します。」と記載した書面を提出した。

2  以上の認定のとおり,被告の役員は,職員6名が原告に加入したことを報じた組合機関誌を受け取り,瀬棚支店長から同支店の女性職員が原告に加入したことを聞くや,直ちに同支店の林を本部に呼び出したうえ,林らが原告に加入したことを話題にし,加入の理由や原告の勧誘の態様を質問するなどしたのであるから,被告が林を呼び出して事情聴取をした目的が,林らが原告に加入したことを林に確認し,林に原告への加入の理由やその経過を述べさせることにあったことは明白である。

そして,伊藤理事長らは,林に対して,直截的に原告から脱退するように述べたり,原告に加入することが望ましくないと述べたりしてはいないものの,「組合加入がダメということではない」と述べつつ,「不思議に思ったのは…何故,今,組合に入る気持ちになったのか」などと述べ,また,瀬棚支店次長で原告の書記長である佐藤が業務時間中に原告への加入を勧誘したとして,そのことに批判的な発言をするなどしたものであり,その発言の仕方や内容から,林らの原告への加入に不快感を抱き,そのことを林に伝えようとしていることが明らかに窺える。被告の最高幹部が支店の一職員に連絡し,片道2時間近くかかる本部に直ちに来るように呼び出したうえ,理事長室に1人で入室させ,理事長と常務が直接質問をするという事態は,職員から支店管理者に対する不満を聴取するための対応としては考え難い。

このような理事長らの発言内容や対応は,林にとって,原告に加入したことを非難し,圧力をかけるものとして受け止められたことは容易に想像することができる。この事情聴取の後まもなく,林が原告を脱退し,次いで他の女性職員が原告を脱退したことは,この事情聴取と関係がなかったとは考えられない。

これに対して,被告は,林を事情聴取したのは,支店の管理運営上,管理者に対する不満があれば改善する必要があると考えたからである旨主張し,伊藤理事長や相馬常務はそのように述べ,また,伊藤理事長は,事情聴取をするまで,林が原告に加入したことを知らなかったと述べる(<証拠略>)。しかし,前記のとおりの事情聴取がされた経緯,時期,伊藤理事長らの発言内容等に照らすと,これらの供述は採用することはできない。また,林は,被告から脱退を強制されたことはない旨を記載した書面を作成しているが,これは,被告が本件救済命令申立事件において証拠として提出するために被告が林に作成させたものであることが窺われ,前記認定を左右するものではない。

以上によれば,被告の林に対する事情聴取は,林及び他の女性職員が原告に加入したことを牽制し,脱退を促す結果をもたらすものであったというべきであるから,原告の組合運営に対する支配介入であり,不当労働行為に当たると認められる。

二  争点2について

1  前提事実4に証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。

(一) 平成9年3月15日,被告と原告との間で,就業規則改定の件等について団体交渉が開かれた。これには,被告側は伊藤理事長,相馬常務,藤野常勤理事,鶴喰総務部長が,原告側は中原,加藤,佐藤らが出席した。

この席上で,原告は,被告が林を本部に呼び出したことについて,団結権の侵害であるとして抗議した。

これに対し,伊藤理事長,相馬常務らは,林を呼び出したのは人事管理上の必要による調査であると述べたうえ,続けて,「林さんは,仕事がしづらくなるので,次長に組合に入るように言われたので入ったと言っている,圧力をかけたのだろう。仕事の中で組合の話をしているというではないか,佐藤次長あなたが女子職員を自分の机に集めて,組合に加入するよう強制したというではないか,どういうことなのか,仕事中に。」,「施設内で組合活動をして,業務に関係のない行為をして。」,「(組合側が職場で業務に支障のないように給与のこと等は日常的に話をすると発言したことに対して)組合活動はやってはならないことになっている。佐藤君それでいいんだな。次長をまかせておけない,支店を管理する次長が仕事中に組合活動をするのなら,任せておけない。」,「(組合が,本件を外部で問題にすると発言したことに対して)やるということなんだな。これでは話にならない。団交にならない。金庫は次長として雇っている。書記長を雇っているのではない。」などと述べた。

(二) 被告の就業規則29条は従業員の服務の原則が規定され,1号では「所定就業時間を完全に勤務し」と定められ,6号では「業務外活動の規制/金庫の施設内で,承認なく政治活動,労働組合活動,集会,若しくは文書,図画の配布,放送,掲示,その他業務に関係のない行為を行ってはならない。」と定められている。

(三) 佐藤は,同月18日,融資実行時に必要な借入者の印鑑証明書を徴求せず,また,オンライン業務上,融資実行には支店長が管理するオペレーターカード(支店長カード)を用いることとされているのに,支店長が不在であり,かつ,自らは午後から早退する予定であったため,自己が管理するオペレーターカード(次長カード)により融資を実行した。

その融資は,申込者の了解を得て,一旦取り消し,印鑑証明書が追完されるのを待って翌日に実行された。なお,この融資先は以前から被告とは取引があり継続して融資を受けていた。

(四) 佐藤は,上記の融資手続の過誤について,始末書を作成するように命じられ,同月26日付けの理事長宛て始末書を作成した。これには,「私は,管理職として引き続きやっていく自信がありませんし,この責任を取り次長職を解いて頂きたくお願いいたします。今後同じ間違いを繰り返さないよう業務知識を深め推進してまいります。」と記載した。

他方,瀬棚支店長の松林は,伊藤理事長に宛てて,佐藤次長は管理者としての配慮が足りず,部下職員に対する指導に欠け,検印者として業務遂行上力量に欠けるので,内部事務,融資業務に精通した次長職をお願いする旨記載した文書を同月24日付けで作成し,同月26日本部に渡した。

(五) 被告は,佐藤に対し,同月27日,融資手続のミスについて始末書が提出されていないことを指摘し,直ちに始末書を本部に持参するように命じた。同日午後3時ころ,佐藤は,本部に上記始末書を持参し,本部理事長室において伊藤理事長,相馬常務,総務部長,審査部長,業務部長,検査部長と面接をした。その際,伊藤理事長らは,「・・・新支店長からも,君を使いたくないと文書がきている。全体的に見て次長としてやるべき仕事をしてきたのか。」,「業務が解らなければ外勤できない,割引手形,印鑑証明書なくて実行できるのか。就業時間内に職場で業務外活動ができるのか。」,「(佐藤が,就業時間中に雑談程度の会話なら許されるのではないかと発言したことに対して)この業績で雑談する余裕あったのか。そういう細かい事を言っているのではない。一生懸命やったのか。」,「雑談する余裕があるなら職員を早く帰すのが責務だろう。真剣にやっているのか。」,「(佐藤が自分の能力について被告から見て物足りなかったかも知れないと発言したことに対して)誰も物足りないと言っていない。100%完全主義者は求めていない,印鑑証明書なくて融資実行したことは,0%以下である。」,「単純なミスでない。印鑑証明書がない状態で融資実行するのはウッカリの話ではない。故意又は重大な過失の問題である。」,「(佐藤が反省していますと発言したことに対して)次長職解けばよいのか。一般職ならやってもいいのか。反省がないとまた同じことをやる。」,「経営者を裏切ってそれで良いのか。」,「金庫で喰っていけないのでないか。どういう覚悟を決めてきた。」,「人を裏切って!・・・自分のことは自分で判断できるだろう。」などと述べ,佐藤は「自分の過失です。決断します。勤務していく訳にはいかない,多大な迷惑をかけたので,辞めさせて頂きます。」と述べて退職願を提出した。この面接が終了したのは同日午後5時であった。

(六) 佐藤は,退職手続時に伊藤理事長にあいさつをするなどして円満に退職し,現在は再就職している。中原は,佐藤に対し,退職願を撤回して組合で闘おうと説得したが,佐藤には,自己都合退職と認められたことから,闘争意思はなかった。

2(一)  以上認定した事実を前提として,まず,平成9年3月15日の団体交渉における伊藤理事長,相馬常務らの佐藤に対する発言が原告に対する支配介入に当たるかどうかを検討する。

伊藤理事長らは,佐藤が勤務時間中に施設内で,林らに対し,原告への加入を勧誘するなど,業務に関係のないことをしたとして,これを非難する発言をしたものである。勤務時間中に原告の施設内で業務に関係のないことをすることが就業規則に反することは明らかである。

しかし,伊藤理事長らによる林からの事情聴取によって,佐藤が瀬棚支店内において,女子職員全員に対して原告への勧誘をした事実が確認されたものの,勧誘行為が勤務時間中であったかどうかは必ずしも明らかではない。同日の団体交渉において,佐藤は,勧誘をしたのは午後5時半すぎであったと述べている(<証拠略>)。伊藤理事長らは,確たる根拠がないのに,十分な調査をすることなく,佐藤が勤務時間中に原告への勧誘行為をしたと決めつけて,その非難をする発言をしたというほかない。

そして,伊藤理事長らは佐藤を次長から降格させるかのように告げるなど,その発言には不穏当で威嚇的な表現があること,これらの発言は,林に対する事情聴取(これが,原告に対する支配介入に該当することは前記のとおりである。)に対する原告からの抗議に対しその対抗手段として行われたものであること,伊藤理事長は,以前から原告を嫌悪し,佐藤に対して悪い印象を持っていたこと(前提事実2(二)から認められる。)をあわせると,伊藤理事長,相馬常務らの団体交渉における佐藤に対する発言は,団体交渉における被告と原告との間のやりとりでの発言であることを考慮しても,確たる根拠を欠くまま佐藤の行為が就業規則に反するなどと非難するにとどまらず,原告を嫌悪し,佐藤の勧誘行為を非難するものであって,原告の組合活動を妨害するものであり,原告の組合運営に対する支配介入に該当すると認められる。

(二)  次に,佐藤が退職願を提出したこと及びこれに至る被告の行為について検討する。

佐藤は,前記認定のとおり,印鑑証明書を徴求しないまま融資を実行し,かつ,定められた手続によらずに次長カードを用いて融資をしたというのであり,融資の基本的な手続を怠ったものであるから,佐藤が支店の次長であることも考慮すると,その不注意,知識不足による過誤は責められるべきであり,被告の幹部,上司から叱責され,始末書の提出を求められても当然というべきである。

しかし,前記認定のとおり,伊藤理事長を含む被告の最高幹部6名は,本部理事長室内において,佐藤に対して,2時間にわたり,勤務時間中の組合活動(勤務時間中であったとの確証がないことは,前記のとおりである。)や融資手続の過誤を非難し,佐藤の職務適格を責め続け,その結果佐藤は辞職願を提出したものであって,このような対応は,佐藤の前記過誤や勤務時間中に組合活動をしたことに対する注意,指導として相当なものとは認め難い。このような対応が,被告における通常の職務上の注意や指導のあり方とも考えられない。伊藤理事長らの発言,すなわち「次長職解けばよいのか。」「金庫で喰っていけないのでないか。どういう覚悟を決めてきた。」「自分のことは自分で判断できるだろう。」等の発言は,不適切,不穏当なものであり,佐藤に対して辞職を強要するものであったと評価するほかない。

そして,前記のとおり伊藤理事長らが原告を嫌悪していたこと,佐藤の業務上の過誤は被告に損害を与えるものではなかったこともあわせると,被告は,佐藤に対して業務上の過誤について注意や指導をするというのではなく,佐藤が原告の書記長であり,また,職員に対して勧誘行為をしたことのゆえに,辞職を強要するような言動をしたと断定せざるを得ない。

そうすると,被告のこのような言動は,原告の組合運営に対する支配介入に当たることが明らかであり,不当労働行為が成立する。

佐藤が,その後辞職願を撤回せず,円満に退職した事実があったからといって,上記判断が左右されるものではない。

三  争点3について

1  前提事実5に証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。

(一) 被告は,平成9年4月1日付けで通達1号として「平成9年度の経営方針について」という文書(以下「平成9年度経営方針通達」という。)を被告職員に配布した。これには「店舗管理者である筈の次長たるものが,業務時間中であるにも関わらず,業務以外の仕事を当然の如く権利とし主張したり,職員の指導・監督についても放棄,さらに,支店長の決裁が必要なのに,内部承認のない取引を越権とし実施し,深く反省する言動や態度すらないのである。」との記載があるほか,被告を強固な体質とすべきこと,自己責任原則の導入,生産性原理の導入等により,強固な経営基盤を確立していく所存であること等が記載されていた。

この平成9年度経営方針通達は,本件救済命令申立事件において,原告から証拠として提出された。

(二) 伊藤理事長は,同月22日午前9時30分ころ,中原に対し電話で団体交渉の延期を求めた際,激しい口調で,平成9年度経営方針通達が外部に漏れていることを指摘し,被告の重要機密を漏洩することは懲戒処分事由に当たるなどと述べた。中原は,労働委員会に提出した書証のことを言っているのではないかと思い,本件救済命令申立事件の補佐人になっている函館信用金庫の職員も平成9年度経営方針通達を持っていることを伝えると,伊藤理事長は,被告の重要な経営方針が競争相手の他の信用金庫に漏れることは,懲戒解雇処分にも該当する行為であると述べた。

(三) 伊藤理事長は,同日午前10時ころ,電話で,加藤に対し,同人の管理職という資格に問題があること,平成9年度経営方針通達を外部に漏らしたのは加藤ではないのかなどと指摘した後,すぐに本部に来るように指示した。

(四) 加藤は,本部に呼ばれたことについて,林や佐藤のように,組合に関することを聴かれたり,個人攻撃をされたりすることを懸念し,同日午前10時30分ころ,久遠支店の中原に電話をした。ところが,中原が外勤中であったため,電話を受けた女性職員に対し,理事長に呼ばれてこれから本部に行くということを中原に伝えるよう頼んだ。

(五) 中原は,この伝言を聴き,自分が伊藤理事長から電話を受けた直後でもあったことから,電話で理事長に対し,組合に関することで加藤を呼び出したのかどうか質した。伊藤理事長は,金庫が業務で呼び出したのに,そのことを中原に電話すること自体が業務外の行為であり,中原が伊藤理事長に電話をすることも業務を阻害する行為であって,懲戒解雇にもできるなどと怒鳴り,電話を切った。

(六) 伊藤理事長ほか7名の役職者は,同日午後0時半ころから加藤に対する事情聴取を行った。伊藤理事長らは,加藤に対し,中原に電話したことが業務外の行為であるとして,業務でないのに金庫の電話を使ったことを強く非難し,始末書を書くよう促した。

加藤は,始末書に,「本日午前10時30分頃,理事長に呼ばれて本部に行くということを久遠支店の中原君に電話をした。/約20秒位だったと思います。/このことが業務外となりましたので始末書をもって反省致し,今後一切致しません。/以上」と記載した。

また,伊藤理事長らは,被告の平成9年度経営方針通達を他の信用金庫に漏らしたのは加藤ではないか問い質したが,加藤には何を言われているのか分からなかった。

2  以上認定した事実によれば,伊藤理事長が内部機密文書が外部に漏れたというのは,原告が北海道地方労働委員会に対して証拠として平成9年度経営方針通達を提出したことを意味すると認められるが,この書面は,被告の経営に関する具体的な機密事項が記載されたものではなく,他の金融機関の職員が目にしたとしても,被告の経営に重大な支障を来すようなものではない。また,加藤が中原に対し,被告に呼び出されたことを電話で報告しようとしたことについては,就業規則上,勤務時間内に組合員として行動することが許されていないことは明らかであり,加藤の中原に対する電話が許されるわけではないが,電話をしたのはごく短時間にすぎないし,当時,原告は林が本部で事情聴取を受けたことについて本件救済命令を申し立てており,佐藤が本部に呼び出された日に退職していることをあわせれば,加藤が中原に相談しようと考えたことも無理からぬ面がある。

そして,伊藤理事長が,検査室長時代から,中原と加藤の組合活動について悪い印象を持ち,否定的であったことは,前提事実2(二)の事実から認められる。

以上によれば,中原及び加藤に対する被告の前記言動は,中原及び加藤が,被告の経営に支障を来たす行為をし,就業規則に違反する行為をしたことに対して非難,注意をしたというのではなく,中原及び加藤の組合活動を嫌悪するゆえに同人らを非難したものといえ,懲戒解雇にできる等の不穏当で威嚇的な表現が含まれていることをあわせると,原告の活動を妨害するものであって,その組合運営に対する支配介入であると認められ,不当労働行為が成立する。

四  争点4について

1  前提事実6に証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。

(一) 被告は,平成9年1月21日の団体交渉の席上で,原告に対し,同年4月1日の労働基準法の改正に伴う就業規則の改定に関して,2月末から3月初め頃,土曜日の朝から夕方にかけて長時間の団体交渉を持ちたいと提案した。

就業規則の改正の主要点は,所定労働時間が1か月に4時間延長されるというものであり,原告にとっても重大な利害関係があった。

(二) 同年3月15日,被告と原告は,就業規則改定について団体交渉を実施した。被告は,その席上で,原告に対し,現行の就業規則のコピーを渡しただけで意見を聴取しようとし,就業規則改正案を示すことはなく,従業員という文言を職員に変更するということ以外の具体的な改正案を示すことはなかった。

原告が具体案を示すように要求しても,被告は,同月17日の理事会にかける以前に示すことはできないとの態度であった。

この団体交渉は,被告が林に対して事情聴取を行ったことで議論となり,就業規則改定の件について議論のないまま終わった。

(三) 被告は,同月29日午前10時から,本店で,就業規則改正説明会を行った。その説明会には職員97名が出席し,被告の提案した改正条項について,職員の過半数が同意した。説明会の開催に当たって,被告の鶴喰重勝総務部長(以下「鶴喰総務部長」という。)は,相馬常務から,近くの支店から職員の過半数以上が集まるのであれば遠くの支店からは呼ばなくてもよいとの指示を受け,瀬棚,久遠,北桧(ママ)山,今金の4支店に出席の要請の電話をしなかった。また,連絡をした各支店には管理職だけに出席を要請した。部店別の説明会出席者数及び各部店の組合員在籍数は以下のとおりである。

本部 26名出席(うち職制13名,一般職13名) 組合員在籍なし

本店 16名出席(うち職制7名,一般職9名) 組合員在籍なし

砂原 11名出席(うち職制4名,一般職7名) 組合員在籍なし

鹿部 2名出席(職制2名) 組合員1名在籍

大野 2名出席(職制2名) 組合員1名在籍

南茅部 10名出席(うち職制3名,一般職7名) 組合員在籍なし

八雲 10名出席(うち職制4名,一般職6名) 組合員在籍なし

函館 12名出席(うち職制4名,一般職8名) 組合員在籍なし

五稜郭 4名出席(うち職制2名,一般職2名) 組合員1名在籍

亀田 4名出席(うち職制3名,一般職1名) 組合員在籍なし

瀬棚 0名出席 組合員6名在籍

久遠 0名出席 組合員5名在籍

北桧(ママ)山 0名出席 組合員5名在籍

今金 0名出席 組合員3名在籍

(四) 被告は,原告に対し,同月31日付けの文書により,就業規則の改定について,職員の半数の同意が得られたことを通知するとともに,変更後の就業規則を送付した。

なお,同日,被告は,函館労働基準監督署に就業規則の変更を届けたが,同監督署から,職員からの意見の聴取方法について指導を受けた。

同年4月1日,新就業規則が施行された。

(五) 原告は,被告に対して,同月21日付け,同年6月26日付け及び同年7月22日付け文書により,新就業規則ほかについて団体交渉を申し入れた。それに対して,被告は,「改正済みであり,4月1日から新規則で進んでおり,検討の余地はない。」として,具体的な協議には応じなかった。

2  以上認定した事実によれば,被告は,原告と実質的な団体交渉を行わないまま,職員の勤務条件にかかわる就業規則の変更を実施しているものである。被告は,その理由として原告の非協力的な態度を挙げるが,労働基準法改正にあわせた就業規則の改定を実行するには,被告が提示した団体交渉の開催日はあまりにも切迫しすぎており,しかも,変更されるべき就業規則の具体案すら示していないなど,被告側の団体交渉に対する態度は誠実さに欠けるものといわざるを得ない。また,就業規則改正の説明会開催にあたり全職員に出席の要請をしなかった理由について,被告は,支店の所在地が本店から遠いことを理由とするが,開催通知は全職員が知り得る状態のものでなければならず,出席困難であることが通知を不要とする理由とはなり得ない。出席の要請をしなかった支店には相当数の組合員がおり,出席の要請をした支店についても管理職だけに出席を要請しているなど,原告を無視ないし軽視したものと認められる。

したがって,被告は,就業規則の改定にあたり,原告との団体交渉に誠実に対応せず,原告を無視ないし軽視し,原告が意見を述べる機会を設けなかったものであるから,団体交渉をすることを正当な理由がなく拒むとともに,原告の組合運営に対して支配介入をしたと認められ,不当労働行為が成立する。

五  争点5について

1  前提事実7に証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。

(一) 昭和49年5月14日,被告は,44名に及ぶ人事異動を発令した。加藤は,同日付けの人事異動によって,資格が管理職D級,職位が課長代理となった。

原告は,この大規模な人事異動は組合弱体化をはかるための不当な人事であると対抗した。異動対象者のうち,加藤を含む19名は,辞令を被告に返還し,以降4年間にわたり,配転命令を拒否していた。

昭和53年7月10日,原告は,被告の異動に応じて紛争を終わらせることとし,加藤も異動に応じた。その後,被告は,同月17日付けで,加藤に対し,今金支店の勤務と一般職の職位への降格を命じたが,資格は管理職D級のままであった。

その後,加藤の資格が見直されることはなかった。

(二) 加藤は,平成9年4月22日午前10時ころ,外勤中に,支店長代理から理事長に電話をするように言われ,支店に戻って電話をした。伊藤理事長は,加藤に対し,「一般職なのに,資格が管理職になっているのはおかしい。資格規定を見て,自分がどこに当てはまるか後で知らせて欲しい。」と述べ,平成9年度経営方針通達の漏洩の話を持ち出した後,すぐに本部に来るように命じた。

(三) 同日の加藤に対する事情聴取は,午後0時30分ころから3時間にわたって,伊藤理事長のほか相馬常務ら7名の役職者が立ち会って行われた。まず,加藤が中原に電話をしたことが業務外の行為であることについての話しが続き,加藤に始末書を書かせた。

その後,加藤の資格問題についての話になり,伊藤理事長らは,加藤の資格が管理職D級のままであるのは総務部の見落としであり,改める必要があるとして,加藤に対し,自分の職務遂行能力を自己査定させたところ,加藤はA級ぐらいであると答えた。伊藤理事長らが,5月1日付けで事務職A級とする旨告げたところ,加藤はそれでよいと答え,管理職希望の有無を尋ねられても,自分には無理であると答えた。

その後,伊藤理事長らは,被告の機密文書が外部に漏れていることについて触れた後,事情聴取を終わらせた。

(四) 加藤は,同年5月1日,資格が管理職D級から事務職A級となり,本給は41万9900円から37万2300円となった。

(五) 被告の資格規程3条によると,資格とは,職務遂行能力に応じた区分とされ,管理事務職は,参与(I級),副参与(H級),参事(G級),参事補(F級),主事(E級)及び副主事(D級)に分かれ,事務職は,主事補(C級),書記(B級),書記補(A級),事務職(1級),事務職(2級),事務職(試用・3級)に分かれている。

同7条には,資格に対応する職位が定められ,管理職D級である副主事に対応する職位は,課長,支店長,店次長,課長代理,係長,主任,店長代理及び室長代理である。また,同条には,「但し,資格に対応する職位に任命することを原則とするが,必要により,下位の職位に配置することがある。」と規定されている。

3  以上認定した事実によれば,被告は,19年近く続いていた加藤の資格と職位の不一致を急に見直すこととし,加藤に電話をして,直ちに本部に呼び出し,理事長ら役職員立会いのもと,3時間にわたり事情聴取をしたうえで,加藤本人が「A級ぐらいである」と返答するや,その返答に藉口して降格させたことが認められる。資格と職位の不一致が是正されるべきことは資格規程上も明らかであるが,加藤についての不一致は19年近く放置されていたことに加え,資格規程上も不一致の例外を認めていることからすれば,資格の変更にあたっては,加藤について職位のみが一般職に降格し資格は変更されなかった経緯等が調査され,人事担当者の客観的な査定等を経たうえで,実施がされるべきであるにもかかわらず,その調査等はされず,前記のとおり,異例な経過によって,降格がされたものである。

このように,被告の加藤に対する降格処分は十分な調査や査定がされたうえのものでなく,本件救済命令申立ての直後にされたものであること,前記認定のとおり伊藤理事長が加藤の組合活動を嫌悪していることもあわせて考えると,この降格処分は,加藤が原告の副委員長であったことから,同人に対して経済的に不利益な取扱いをするとともに,これにより原告の組合運営に対する支配介入をしたものと認められ,不当労働行為が成立する。

六  争点6について

1  前提事実8に証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。

(一) 被告は,窓口業務等において現金過不足が生じた際の処置として,「任意に処理することなく,また金額の多寡を問わず,直ちに店長に報告して指示を仰ぐこと」,「外部との照会等は,対外信用にも関するので,最も慎重なる取扱を要する」などと定めている。

(二) 加藤は,平成9年11月1日付けで瀬棚支店に配転となったが,それ以前に20年ほど勤務していた今金支店では外務を勤め,窓口勤務の経験は乏しかった。

瀬棚支店では,従来,瀬棚町役場派出所に,入庫間もない女性職員を勤務させていた。

松林支店長は,同月に加藤が瀬棚支店に転勤してきた際,加藤を外務担当にすることを考えたが,前任地での実績を考え,前任支店長や常務と相談のうえ,瀬棚町役場派出所の窓口勤務を命じることにした。

加藤は,同年12月まで前任者とともに窓口業務を行い,平成10年1月から単独勤務となった。

(三) 加藤は,同月30日(金曜日)午後1時すぎ,預け主不明の封筒があることに気付き,その中身をあらためると,預け主等を特定する書面はなく,現金2万6900円が入っていた。

(四) 同日午後5時ころ,加藤は,天羽洋一瀬棚町収入役(以下「天羽収入役」という。)に対し,役場の女性職員が置いていったと思われる過剰金が生じたことを告げ,出納室の金庫で預かって欲しいと申し出たが,天羽収入役は,納付書もない金は収入役としては預かるわけにはいかないとして,申出を断った。そして,天羽収入役は,同日,役場に残っていた職員の中に,本件過剰金を置いていった者がいないかどうかを調査したが見つからなかった。

(五) 同日午後5時ころ,役場派出所の日計表と残高が3270円整合しないことについて,被告の瀬棚支店の職員が派出所に来て調査しており,その後松林哲也支店長(以下「松林支店長」という。)ほか2名の職員がこれに加わった。その不符合は,処理ミスであることが判明した。

加藤は,松林支店長に本件過剰金が生じたことを報告しないまま,これを出納室内の自分の机の引出しに施錠して保管した。

(六) 同年2月2日(月曜日),3日(火曜日)も,封筒を置いていった者をさがしたが,見つからなかった。そこで,加藤は,同月5日の午前8時25分,松林支店長に対して,過剰金が生じたこと及びその経過を報告して,本件過剰金を引き渡した。

(七) 同月6日の朝,相馬常務,伊東健治検査室長及び藤田濶業務部長の3名が瀬棚支店を訪れ,本件過剰金についての調査を行った。

加藤は,この調査を受けた際,同日付け「役場派出現金事故に於ける経過」と題する書面に「収入役さんに訳を話し出納室の金庫に保管してもらうようお願いし保管していただきました。」と記した。

また,加藤は,同日,始末書に,来客中に本人の前で現金の確認を怠ったこと,長時間未処理で現金を放置していたこと,現金と納付書の未確認受付,調査資料となる封筒を勝手に処分して2万6900円の過剰金が発生しているのに直ちに支店長に報告しなかったこと,過剰金を当日持ち帰らず役場出納室の金庫に保管したこと,当日その場に支店長がいたのに現金事故を隠したこと,隠して勝手に処理しようとしたことなどを詫びる旨記載して提出した。

(八) 同日午後4時ころ,相馬常務は,松林支店長に対し,加藤に通常業務を行わせないように指示した。加藤は,同月9日から27日に懲戒解雇の通告を受けるまで,瀬棚支店の2階の一室に始業時から終業時までいることを余儀なくされ,その間,仕事を与えられず,朝礼への参加も認められなかった。同月10日には,その一室から電話を外された。

(九) 同月16日の午後,本部から3名が瀬棚支店を訪れ,再調査を行った。被告は,加藤が本件過剰金の保管状況について出納室の金庫に保管したとして虚偽の報告をしていることを発見し,始末書の提出を求めた。

加藤は,同日,本件過剰金を自己の机の中に鍵をかけて保管していたにもかかわらず,収入役に保管してもらったと報告していたことについて,始末書に,「保安上のことで『うまくない』と注意を受けると思い金庫に保管したと報告しました。」と詫びる旨記載して提出した。

(一〇) 加藤と松林支店長は,同月18日午前11時ころ,事情聴取のため本部に呼ばれ,加藤は始末書を提出した。加藤は,この始末書に「26900円は金庫に帰ぞくする金で即日支店長に報告し仮受入金処理すべきものを知っていた。/自分がその金を保管していた。1月30日から2月5日まで/自分が持っていたことを収入役に預けたと偽をいっていた」事実に相違ない旨記載した。

(一一) 被告は,同月27日,加藤に対し,懲戒解雇の辞令を交付した。

(一二) 加藤は,同年4月ころ,「渡島信用金庫は加藤隆副委員長への不当な解雇を撤回せよ」との見出しのついたビラを作成し,過剰金の保管について,「加藤さんは,その未処理金を収入役と相談しこれを預かりました。」と記載した。天羽収入役は,このビラについて,加藤に対し,過剰金を収入役が預かっていることとなっているので訂正するよう告げ,加藤に訂正させた。

(一三) 松林支店長は,天羽収入役ら瀬棚町役場職員から,同年3月19日付けの北海道新聞で本件過剰金のことが瀬棚町役場内の事件と明記して報道されたことについて,瀬棚町のイメージダウンになる旨の苦情を受けた。

(一四) 函館地方裁判所は,平成10年12月8日,加藤が本件懲戒解雇について申し立てていた地位保全等仮処分申立事件(平成10年(ヨ)第15号)において,被告との間の労働契約上の地位を仮に定めるとともに,本件懲戒解雇から本案判決確定に至るまでの賃金及び賞与の支払いを命ずる決定をした。

(一五) 被告において,職員が虚偽の報告をした事例として,<1>平成9年9月2日,本部の業務部長が,融資申込みについて,理事長の決裁案件であるにもかかわらず勝手に承認を与え,6日後に理事長に書類を回付し,その後も理事長及び担当役員にうそを重ね続けた事例及び<2>同月16日,顧客が亀田支店に融資の申込みに来たが,来週でも間に合うと放置され,顧客からの苦情によって同月24日,支店長が顧客の事務所に申込書を持参して申込みをしてもらったが,本部が事実関係を把握してもなお,支店長が24日以前には申込みを一切受けていないと虚偽の報告をした事例の2例があるが,被告は,2例とも懲戒処分を行っていない。

2  そこで,本件懲戒解雇により不当労働行為が成立するかどうかについて検討する。

加藤が,本件過剰金の発生を直ちに被告に報告せず,自分の机の引き出しに6日間保管し,自ら調査して解決しようとした行為は,被告で定められている取扱要領にそって誠実に対処する姿勢に欠け,信用を第一とする金融機関にとっては許されないことである。また,本件過剰金の保管状況の報告についても,収入役に依頼して役場の金庫に保管した場合と自分の机の引き出しに保管した場合とでは全く事情を異にし,自分の机に保管したとすれば強く非難されることは想像に難くなく,上記(一二)のビラにもあえてあいまいな言葉を選んでいることをあわせれば,加藤が保身のため,意図的に役場の金庫に保管した旨の虚偽の報告をしたことが認められる。

しかしながら,加藤は,本件過剰金の発生を収入役に相談し,収入役とともに預け主をさがし,預け主が分からないことを認識した後は,支店長に報告して本件過剰金を引き渡しており,不正に領得する意図は全くなかったことは明白であり,このことは被告の伊藤理事長ら役職員も認識していたと推認される。

また,加藤が当初役場の金庫に保管したと報告したのは,虚偽であるが,このことのみによって懲戒解雇に付することは重きにすぎ,通常では考えられないし,前記(一五)の被告の対処と均衡を欠く。この点も伊藤理事長ら役職員が認識していなかったとは考えられない。

そして,被告が加藤の組合活動を嫌悪していたことは前記のとおりであること,前記のとおり本件懲戒解雇に至るまでも,被告は加藤に対して組合員であるが故に不当な発言や降格処分を行ったことをあわせると,本件懲戒解雇は加藤の非違行為に対して行われたというより,加藤が原告の副委員長であるが故に行われたと断定せざるを得ない。したがって,本件懲戒解雇は,同人に対する不利益取扱いであるとともに,原告の組合運営に対する支配介入であると認められ,不当労働行為が成立する。

3  なお,被告は,本件懲戒解雇に関して,加藤がSから手渡された国民年金保険料2万5600円を着服した事実がその後に明らかになったのであり,この事実からも本件懲戒解雇が不当労働行為でないことが肯定される旨主張する。

しかし,本件懲戒解雇が,加藤に対する不利益取扱いかどうか,原告に対する支配介入かどうかは,前記のとおり,本件懲戒解雇がされた際,被告がどのような事実を認識し,それに対してどのような処分を行ったか,原告が本件懲戒解雇をした真の動機,理由は何か,本件懲戒解雇によりどのような影響があったか等によって判断されるべきものである。本件懲戒解雇がされた際には明らかでなかった事実,すなわち,被告が本件懲戒解雇をする際に認識していなかった事実によって,本件懲戒解雇が不当労働行為かどうかが決定されることはないというべきである。のみならず,前記証拠及び(証拠略)によれば,加藤が平成10年1月29日にSから国民年金保険料2万5600円を受領したことが認められるけれども,それが翌30日の本件剰余金になった可能性を否定できず,加藤に不法領得する動機も全く窺えないこと等からして,加藤が2万5600円を着服した事実を認めることはできない。

したがって,被告の上記主張は採用することができない。

七  争点7について

1  以上のような被告による一連の不当労働行為は,前記認定の各行為の態様,方法,結果等に照らし,その不当性が顕著であり,憲法28条,労働組合法7条等に基づく労使間の公の秩序によって保護される原告の利益を侵害するものとして,私法上も違法であり,労働組合である原告に対する不法行為が成立するものというべきである。したがって,被告は,これによって原告が被った損害を賠償する責任を負う。

2  前記の前提事実及び認定事実に原告代表者を総合すると,原告は,被告による一連の不当労働行為を受けた結果,林ら女性職員5名をはじめとして多くの職員が原告から脱退し,平成9年末時点において組合員数が23名から6名にまで激減し,これによる組合の弱体化を余儀なくされるとともに,本件救済命令の申立て,組合員に対する支援等の不当労働行為への対応に追われるなどしたものであり,財産的評価に親しまない精神的損害類似の無形損害を被ったものと認められる。そして,本件に顕れた諸事情を考慮すれば,上記損害額は200万円と評価するのが相当である。

3  原告は,本件救済命令の申立て,本件救済命令の取消しを求めた行政訴訟に対する補助参加の申立て及び加藤による本件解雇等訴訟に要した各弁護士費用の賠償を求めるけれども,いずれの手続も弁護士強制主義は採用されていないから,上記各弁護士費用は,被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認めることはできない。

八  結論

以上によれば,原告の請求は,損害金200万円及びこれに対する最後の不法行為時である平成10年2月27日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂井満 裁判官 山田真紀 裁判官 小田桐泉)

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