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札幌地方裁判所 平成12年(ワ)2007号 判決 2004年3月16日

主文

1  被告は,原告に対し,6億円及びこれに対する平成12年8月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は,被告の負担とする。

3  この判決は,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

主文同旨

第2事案の概要

本件は,共同信用組合(以下「共同信組」という。)から被告に対する後記損害賠償債権を譲り受けたと主張する原告が,共同信組の理事長又は専務理事であった被告に対し,株式会社オリエントビル開発(以下「オリエントビル」という。),株式会社リザーブ(以下「リザーブ」という。),A及びBに対して共同信組が融資をするに際し,被告に理事長又は専務理事としての善管注意義務違反,忠実義務違反等の法令違反行為があったために同融資に係る債権が回収不能になったとして,中小企業等協同組合法38条の2に基づき,回収不能になった債権額のうち6億円の損害賠償を請求した事案である。

1  前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。認定に用いた証拠は各項に記載した。)

(1)  当事者(弁論の全趣旨)

ア 原告は,平成11年4月1日,株式会社住宅金融債権管理機構と株式会社整理回収銀行とが前者を存続会社として合併し,併せて現商号に改めることにより発足した株式会社であるところ,その主たる目的は,破綻金融機関から買い取った資産の管理及び処分を行うこと等である。

イ 共同信組は,昭和28年7月8日,中小企業等協同組合法(以下「協組法」という。)及び協同組合による金融事業に関する法律(以下「協金法」という。)に基づいて設立され,組合員に対する資金の貸付け等を事業目的とする信用協同組合である。

ウ 被告は,昭和54年12月17日から平成3年5月13日までの間,共同信組の専務理事の地位にあり,同月14日から平成11年8月27日までの間は共同信組の理事長の地位にあった。

(2)  共同信組における融資手続について(甲1ないし3)

ア 共同信組における貸出権限規程によれば,

(ア) 1取引先に対する純授信額(住宅金融公庫を除いた代理貸しを含めて貸出金から拘束性預金を差し引いた金額)が2000万円以内の貸出しについては本部担当部長の,

(イ) 純授信額が3000万円以内の貸出しについては担当常務理事の,

(ウ) 純授信額が4000万円(平成9年7月1日改正以降については5000万円)以内の貸出しについては専務理事の,

(エ) 純授信額が4000万円(平成9年7月1日改正以降については5000万円)を超過する貸出しについては理事長の

各権限によるものとされている。

イ ただし,理事会規程の定めにより,1取引先に対する貸出し(代理貸付け及び債務保証を含み,担保預金を除く。)が次の金額を越える場合には,理事会における決議を要する。

(ア) 平成元年5月16日から平成3年2月17日までは4億円

(イ) 平成3年2月18日以降は6億円

ウ なお,上記理事会の決議を要する貸出しについて,時間的に理事会の決議を待つことができない場合には,あらかじめ理事会の決議により非常勤理事の中から指名しておいた貸付委員3名と常勤理事全員との審議によって貸出しを決定し,その後に開かれる理事会において事後承認を受けることとされている。

(3)  職務権限規程に定められた常勤理事の職務権限

ア 理事長は,組合を代表し,専務理事及び常務理事を指揮して業務全般を総理し,組合の発展に努めることを基本職務とし,理事会で決議された基本方針に基づき業務全般に関して自ら方針を立て,経営管理の最高責任者としてその成果について全責任を負い,かつその職務遂行に必要な権限を有する。

イ 専務理事は,理事長を補佐し助言するほか,理事長の方針に従い常務理事又は常勤理事を指揮して執行活動を遂行し,理事長不在の場合にはその職務を代行する。

また,専務理事は,理事長の命を受けて業務全般に関する執行活動を総括する責任を持つとともに,理事長から委任を受けた業務処理について責任を負い,かつその職務遂行に必要な権限を有する。

(4)  融資手続の決裁

上記各権限規程に基づき,1取引先に対する純授信額が4000万円(平成9年7月1日改正以降については5000万円)を越える貸出しについては,各支店及び営業部からの融資の申請を受けて本店における融資部(平成3年5月以降は審査部)が審査した上,融資部(審査部)を分掌する常務理事の決裁及び専務理事の決裁を経て,理事長が承認する。

また,1取引先に対する純授信額が,(2)イ(ア)(イ)の各金額を超える場合には,上記手続に加えて理事会が承認決議をする。

(5)  信用供与限度枠(大口融資規制)について(甲36ないし39)

協金法6条1項,銀行法13条に基づき,同一貸出先に対する信用供与限度枠(大口融資規制)が設けられている(信用組合基本通達第13「資金運用」における「資金運用指導要領」)ところ,その内容は,「同一人に対する資金の貸付け及び手形の割引の合計額(以下「貸出金」という。)の限度は,当該信用組合の出資の額,協金法施行令2条1号に規定する組合員勘定に属する準備金の額及び同条2号に規定する引当金の額の合計額の100分の20に相当する金額と8億円とのいずれか低い額とする。」というものである。

ただし,上記の基準額「8億円」は,平成2年度までは「4億円」であって,平成3年度以降に「8億円」に改められた。また,上記信用供与限度枠における「貸出金」については,平成4年度までは手形の割引分を控除することができたが,平成5年4月1日以降は手形の割引分を「貸出金」から控除することが認められなくなった。

(6)  協同組合の理事の義務

信用協同組合の理事は,組合との間の委任契約の受任者として,善良なる管理者の注意をもってその職務を行い,法令,定款及び規約の定め等を遵守して職務を行うべき義務を負っているところ,これに違反して任務を懈怠し,組合に損害を与えた場合には,その理事は組合に対して損害賠償の責任を負う(協組法38条の2第1項,同法42条,商法254条3項,民法644条,商法254条ノ3)。

被告は,共同信組の理事長又は専務理事として,それぞれ融資の審査,決裁又は承認をするに際しては,共同信組に対して上記の受任者としての義務を負っていた。

(7)  オリエントビルに対する融資(甲25)

ア 共同信組は,オリエントビルに対して次のとおり融資をした。

貸出日 平成2年7月4日

融資額 4億円

弁済期 平成3年7月3日(一括)

利率 年9パーセントの割合

融資目的 カブトデコム株式会社(以下「カブトデコム」という。)株式1万株の購入

返済原資 取得したカブトデコム株式の売却代金

担保 取得したカブトデコム株式

イ 被告は,平成2年7月4日,本件融資につき専務理事として決裁・承認した。

(8)  リザーブへの融資(甲26)

ア 共同信組は,リザーブに対して次のとおり融資をした。

貸出日 平成3年8月29日

融資額 5億5000万円

弁済期 平成4年8月31日(一括)

利率 年9.375パーセントの割合

融資目的 カブトデコム株式2万6000株の購入

返済原資 取得したカブトデコム株式の売却代金

担保 カブトデコム株式4万株(シグマ・マネジメント株式会社(以下「シグマ・マネジメント」という。)の提供)

イ 被告は,平成3年8月29日,本件融資につき理事長として決裁・承認した。

(9)  Aに対する融資(甲28ないし30)

ア 共同信組は,Aに対して次のとおり融資をした。

(ア) 貸出日 平成2年8月31日

融資額 1億3000万円

弁済期 平成3年8月30日(一括)

利率 年9パーセントの割合

融資目的 カブトデコム株式3000株の購入

返済原資 取得したカブトデコム株式の売却代金

担保 取得したカブトデコム株式

(以下「Aに対する融資1」という。)

(イ) 貸出日 平成3年8月30日

融資額 2億3500万円

弁済期 平成4年9月4日(一括)

利率 年9.125パーセントの割合

融資目的 カブトデコム株式1万株の購入

返済原資 取得したカブトデコム株式の売却代金

担保 取得したカブトデコム株式

(以下「Aに対する融資2」という。)

イ(ア) Aに対する融資1について

被告は,平成2年8月29日,Aに対する融資1につき専務理事として決裁・承認した。

(イ) Aに対する融資2について

被告は,平成3年8月23日,Aに対する融資2につき理事長として決裁し,その後,Aに対する融資2は,同月26日に貸付委員との審議で承認され,同年9月17日の理事会において事後承認された。

(10)  Bに対する融資(甲32)

ア 共同信組は,Bに対して,次のとおり融資をした。

貸出日 平成3年5月15日

融資額 1億3500万円

弁済期 平成4年5月31日(一括)

利率 年9.375パーセントの割合

融資目的 カブトデコム株式6000株の購入

返済原資 取得したカブトデコム株式の売却代金

担保 なし

イ 被告は,平成3年5月13日,本件融資につき専務理事として決裁・承認した。

(11)  債権譲渡(弁論の全趣旨)

ア 共同信組は,平成11年12月13日,原告に対し,(7)ないし(10)記載の各融資(以下,併せて「本件各融資」という。)に係る被告に対する損害賠償債権を譲渡した。

イ 共同信組は,平成12年6月28日,被告に対し,確定日付けのある内容証明郵便により,上記アのとおり債権譲渡をした旨を通知し,同通知は,同月30日に被告に到達した。

2  争点

(1)  被告は,オリエントビルに対する融資について,共同信組に対して損害賠償責任を負うか。

(2)  被告は,リザーブに対する融資について,共同信組に対して損害賠償責任を負うか。

(3)  被告は,Aに対する融資1及びAに対する融資2について,共同信組に対して損害賠償責任を負うか。

(4)  被告は,Bに対する融資について,共同信組に対して損害賠償責任を負うか。

3  争点(1)(オリエントビルに対する融資)についての当事者双方の主張

(1)  原告

ア(ア) 共同信組の融資業務は中小企業の事業を支援するために行われなければならないところ,株式の取得は中小企業の事業ということはできないから,共同信組によるカブトデコム株式取得目的の融資は協組法の目的(同法1条)に違反する融資である。

(イ) 株式価格が下落した場合に返済を受けることが困難になるという危険性をはらんだ株式取得目的の融資は,多数の組合員から預金等として資金を集め,同資金を安全かつ確実に運用すべき信用組合としての責務に違反する。

イ 共同信組によるカブトデコムグループ(カブトデコム及びその関連企業3社を中心として密接な関係を有する法人,個人のグループ,以下同じ。)関連融資は,共同信組の融資総額の40から50パーセント程度を占めており,かつ共同信組によるカブトデコム株式取得目的の融資は,融資総額の10パーセントから20パーセントにも及んでいることに鑑みると,このような融資は実質的に大口融資規制に違反しているというべきであり,善管注意義務違反となる。

ウ 融資によって取得した株式の売却代金以外に返済原資がないにもかかわらず,融資先の返済能力を問題とせず,当該株式の株価上昇のみをあてにして多額の株式購入資金を融資することは,過度に投機的な取引を助長する融資というべく,違法である。

エ 共同信組の貸出権限規程では,店頭登録株式であるカブトデコム株式のような非上場株式を担保にすることは予定されていないから,共同信組がカブトデコム株式を担保にした融資は,いずれも同権限規程に違反していること,株式自体が時価変動の激しい担保であるため債権保全としての機能が著しく低いこと,担保株式が特定の一銘柄に限定されている場合には,経済変動のみならず当該会社の経営状態が株価に直結するため株価下落のリスクも増加し,担保の安定性を欠くこと,融資対象者がカブトデコムグループ関係者であることから借主の返済能力の悪化と担保価値の下落が同時に発生すること,担保として取得されたカブトデコム株式は店頭登録後間がなく,その株価は一時として一定していなかったこと,共同信組はカブトデコム株式取得目的の融資により大量のカブトデコム株式を担保として取得しているが,当該株式は店頭登録株であるため相対取引しかできず,多量の担保株式を売却処分することは困難である上,たとえ売却できたとしても,多量の株式を一時に放出することで大幅な株価の下落を生ぜしめるものであることから,カブトデコム株式を担保とする融資は,通常の株式担保融資の場合よりも危険度の高い融資であった。

オ オリエントビルは,昭和60年11月15日に設立された不動産の売買等を営業の目的とする資本金1000万円の株式会社であるが,売上げがほとんどなく,営業実態のない会社であって,その営業利益の中から借入金の返済をすることはできない状態であった。

カ オリエントビルに対する融資のうち3億9939万9506円は回収不能である。

キ よって,原告は,被告に対し,オリエントビルに対する融資による損害金3億9939万9506円のうち1億5000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成12年8月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(2)  被告

ア カブトデコムは,株式会社北海道拓殖銀行(以下「拓銀」という。)の強力な支援のもと,資金・収支の計画とその事業の見通しが明確であったから,カブトデコム株式は担保として十分であった。

イ 本件各融資の後,カブトデコムの業績が悪化し,その株価が下落したのは,バブル経済が崩壊したためであり,被告がバブル経済の崩壊を予測することは不可能であった。

4  争点(2)(リザーブに対する融資)についての当事者双方の主張

(1)  原告

ア 前記3(1)アないしエと同じ

イ リザーブは,平成3年7月29日に設立されたホテル予約代行業等を主たる営業の目的とする資本金2000万円の株式会社であるが,その営業の実態はなく,営業利益の中から借入金の返済をすることはできない状況であった。

ウ 共同信組のリザーブに対する融資は,実質上シグマ・マネジメントに対する融資であって,平成3年8月29日の時点で共同信組のシグマ・マネジメントに対する融資は9億5000万円に達するから,リザーブに対する融資は実質的に大口融資規制に違反する。

エ リザーブに対する融資のうち5億4887万9113円は回収不能である。

オ よって,原告は,被告に対し,リザーブに対する融資による損害金5億4887万9113円のうち2億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成12年8月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(2)  被告

前記3(2)と同じ

5  争点(3)(Aに対する融資)についての当事者双方の主張

(1)  原告

ア 前記3(1)アないしエと同じ

イ Aは,料亭を経営していた有限会社澤田商事の代表取締役であって,平成元年における年収は役員報酬1750万円であったところ,Aの返済能力をはるかに上回る7億0700万円もの融資をした。

ウ Aに対する融資1については1億2300万円,Aに対する融資2については2億2974万1464円がそれぞれ回収不能である。

エ よって,原告は,被告に対し,Aに対する融資1による損害金1億2300万円のうち5000万円及びAに対する融資2による損害金2億2974万円1464円のうち1億円並びにこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成12年8月30日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(2)  被告

前記3(2)と同じ

6  争点(4)(Bに対する融資)についての当事者双方の主張

(1)  原告

ア 前記3(1)アないしウと同じ

イ Bは,丸三昭和通商株式会社の取締役であり株式会社アルタイルの代表取締役であって,平成2年における年収は1000万円であったところ,何ら担保を徴求しないままその返済能力を上回る1億3500万円の融資を実行した。

ウ Bに対する融資のうち1億1484万8631円は回収不能である。

エ よって,原告は,被告に対し,Bに対する融資による損害金1億1484万8631円のうち1億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成12年8月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(2)  被告

前記3(2)イと同じ。

第3判断

1  争点(1)(オリエントビルに対する融資)について

(1)  融資に至る経緯

ア 融資手続

前記認定の前提事実,被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば,共同信組における融資は,共同信組の各支店又は営業部で融資の申請がされ,共同信組本店の融資部(平成3年5月以降は審査部)での審査を経て,融資部(審査部)を分掌する常務理事及び専務理事の決裁を経た後,理事長の承認を得るという手続により実行されていたこと,本件融資の担当役員は常務理事Cであったが,被告は,オリエントビルに対する融資を決裁するに際して,同社の営業状態を確認したり,その他の資料の追加や返済原資等に関する説明を求めてはいなかったこと,カブトデコムの事業内容についてはその代表者であったDの説明ををそのまま鵜呑みにしてこれを決裁したことが認められる。

イ 融資決裁の内容

(ア) 甲25,57,59,60によれば,融資の相手方であったオリエントビルは,不動産の売買や家電販売等を営業目的とする資本金1000万円の株式会社で,従業員は3名であったが,平成元年11月1日から融資前の平成2年6月30日までの売上げはなく,76万0904円の損失を出す営業状況であって,営業実態がなかったのに対し,共同信組のオリエントビルに対する純授信額は,本件融資の結果,4億円となったことが認められる。その意味で,オリエントビルは,その事業活動による収益をもって弁済期までの1年間で同債務を返済することは到底不可能な融資先であったということができる。

(イ) 甲25によれば,オリエントビルに対する融資には,オリエントビルの当時の代表取締役であるE及び税理士のFが保証人となっていたことが認められるものの,両名にどの程度の支払能力があるか等について十分な検討が加えられた形跡は関係書類等から窺うことはできない。

(ウ) オリエントビルに対する融資の内容は第2の1(7)に記載のとおりであるところ,甲25,被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば,担保として取得したカブトデコム株式1万株を弁済期である平成3年7月3日に一括売却して債権回収を図ることが予定されていたが,融資当時,貸出権限規程の担保物件評価基準表に基づいて(ただし,店頭登録株が同表にいう「上場株」に当たるかはさておく。)担保掛率を直近の終値の75パーセントとして評価し(以下同じ。),担保価値を合計2億7000万円と把握していたものの(平成2年7月2日の終値である1株3万6000円1万株の75パーセント),一括売却が可能であるか否か,それが可能として一括売却した場合にどの程度の債権回収が見込まれるかについては具体的に検討されていなかったことが認められる。

ウ カブトデコム株式に対する評価等

甲21,40ないし53,乙ホ4の6・7及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(ア) カブトデコムの概要

カブトデコムの前身である兜建設株式会社は,Dによって,昭和46年4月に土木工事を主業務とする資本金100万円の会社として設立されたが,その後,Dの強力な牽引力で急成長を遂げ,その年間売上高は,昭和60年3月期には70億6100万円,昭和61年3月期には75億7700万円,昭和62年3月期には90億0200万円と逐次増加して,この間の昭和61年には官庁の土木工事を専門に受注していた山王建設株式会社の株式を取得して同会社を100パーセント子会社としたほか,大友建設株式会社を吸収合併して商号を兜大友建設株式会社に変更し,さらに,同年にDが100パーセント出資して設立した兜ビル開発株式会社(後の株式会社リッチフィールド)の株式を昭和62年3月に兜大友建設株式会社に全て譲渡して100パーセント子会社に組み入れ,昭和63年9月には現在のカブトデコム株式会社に商号を変更し,ディベロッパーとして多数の建設関連会社等を傘下に治めるとともに,関連会社の支配,提携を深めた。

カブトデコムは,当初は共同信組からの融資を中心にその事業を展開していたところ,その事業形態は,自らあるいは関連企業が土地を取得した上で同土地上にビルを建築し,これを賃貸あるいは売却して収益を上げるなど関連企業を挙げて先行投資により仕事の需要を自ら創出することによって事業の拡大を繰り返していくというものであったため,業績の拡大に伴いその資金需要も飛躍的に増大したことから,中小企業を対象とする共同信組の融資では対応できなくなり,都市銀行である拓銀からの融資を中心に事業を展開するようになり,拓銀もカブトデコムを育成する観点から積極的に支援する態勢をとった。さらに,カブトデコムは,業績の更なる拡大に伴い,金融機関からの融資よりも負担の少ない事業資金を獲得するため,株式を公開して資本金を調達することとし,平成元年3月には社団法人日本証券業協会に株式を店頭登録するに至った。店頭公開時の株価は1株2050円であったが,この時に35万株を発行して7億2000万円弱の資金を調達し,平成2年2月には,1株1万5500円で350万株,総額542億5000万円の第三者割当増資を,さらに平成3年6月には,1株1万8800円で200万株,総額376億円の第三者割当増資をそれぞれ行って資金調達に努めた。

カブトデコムの平成元年3月期の決算は,当初の予想を上回り,売上高は約154億8000万円(前期比22パーセント増),経常利益は約14億3300万円(前期比47.1パーセント増)となった。そして,その後も営業を拡大し,平成3年3月期の決算では,売上高は前期比141.2パーセント増の約1009億6000万円に達し,経常利益も81.5パーセント増の約130億3500万円と大幅な増収増益となっていた。

しかしながら他方,平成2年3月27日には,「土地関連融資の抑制について」と題する大蔵省銀行局長通達が発出され,いわゆる総量規制が実施される中,カブトデコム株式の株価は平成2年8月ころを境に概ね下落に転じ,カブトデコムの売上高も前記平成3年3月期をピークとして経常利益は減少し,業況も次第に厳しくなって,平成4年には同会社最大のプロジェクトであった洞爺湖周辺のリゾート開発(エイペックスリゾート洞爺)が実質的に行き詰まり,それとともに,カブトデコムの経営状態も急激に悪化した。また,平成5年にはDの手形偽造事件による刑事告訴,及びメインバンクであった拓銀との決別等の事情が重なって,カブトデコムは,平成6年度以降,債務超過に陥り,3期連続債務超過状態となって,平成8年7月にはカブトデコム株式は店頭管理銘柄に移行した。

カブトデコムの平成10年3月期の経営状態は,資産合計額が681億3766万6000円,負債合計額が3031億4693万5000円,当期未処理損失が3454億3984万2000円であり,このように債務超過により同会社は破綻するに至った。

(イ) 共同信組におけるカブトデコム株式

甲101ないし105,112,114,116,118,120,121,123及び弁論の全趣旨によれば,共同信組は,カブトデコム株式取得目的による融資をしており,その融資残高は,オリエントビルに対する融資(平成2年7月4日)の前には79億4350万円,Aに対する融資1(同年8月31日)の前には88億3150万円,Bに対する融資(平成3年5月15日)の前には127億0150万円,リザーブに対する融資(同年8月29日)の前には146億3970万円,Aに対する融資2(同月30日)の前には151億8970万円にのぼっていたことが認められる。甲9及び10によれば,共同信組の組合勘定及び引当金の合計額は平成2年度で約44億円,平成3年度で約47億円であったことが認められ,カブトデコム株式取得目的の融資は組合勘定及び引当金の合計額の約2倍から4倍近くにまでふくらんでいたことになる。

(2)  責任

以上の認定事実に基づき,オリエントビルに対する融資に係る被告の責任について検討する。

ア 前記のとおり,オリエントビルに収益力はなかったから,オリエントビルに対する融資の返済は,カブトデコム株式を弁済期に一括して売却して得る代金によって返済されることが予定され,実際にも2名の保証人が存在していたことを除けば担保として徴した株式しか債権回収の手段がなかったものであるところ(その後の債権回収業務遂行の過程でも,保証人から有意な回収が得られたことは窺われない。),共同信組は,前記のとおりオリエントビルに対する融資の時点で,既にカブトデコム株式という一銘柄の株式を取得する目的で総額79億4350万円に及ぶ融資を実行していたのであるから,担保として取得していたカブトデコム株式の株価が下落した場合には,これらの融資に係る多額の債権が一気に不良債権化し,共同信組の財務内容を大きく悪化させるおそれがあったというべきである。また,これらの担保株式を債権回収目的で売却するとしても,店頭登録株の性質上相対取引しか成立しないことから,一時に大量の株式を売却することは容易ではないと解され,弁済期に担保株式の評価額に見合う債権回収を図ることはもともと困難であったということができる。

さらに,これら大量のカブトデコム株式が仮に売却できた(相対取引が成立した)としても,需給バランスに鑑み,大量の同株式の売却により,さらに大幅な株価の下落を招くおそれがあったということができる。

被告は,昭和54年末から共同信組の専務理事の地位にあったのであるから,上記のような状況を知り又は少なくとも知ることができたというべきである。信用協同組合の理事は,組合に対し善良な管理者の注意をもって組合のためにその職務を遂行する義務を負っているところ(協組法42条,商法254条,民法644条,商法254条ノ3),被告は,共同信組の専務理事として,オリエントビルに対する融資を決裁するに当たり,融資先であるオリエントビルの事業収益から同社に対する債権を回収することが見込めず,一方で,担保に徴するカブトデコム株式につき,その価格の下落が共同信組の財務内容を圧迫するおそれがあって,しかも担保を実行する際にはその評価に見合う額の回収が到底見込めないおそれがある状況であったから,このことを考慮して,他に債権回収が見込める担保を求めた上で融資するか,少なくともカブトデコム株式の価格の下落が共同信組の財務内容に与える影響とその程度,担保の実行としてカブトデコム株式を売却する場合の価格の下落を抑える具体的,実際的な方法の有無等について,十分な情報を収集してこれを分析し,その危険性の内容と程度を把握した上で,融資の必要性,収益性との比較考量をして,融資の可否を判断すべき義務があったというべきである。

にもかかわらず,被告は,前記のとおり,十分な情報の収集と分析をしないまま,オリエントビルに対する融資には回収の確実性,収益性があるものと軽信し,カブトデコム株式以外の担保の提供を求めるなどの他の適切な債権回収方策を講じることなく,当該融資を決裁したのであるから,これにより共同信組の理事たる地位に基づく受任者としての義務に違反したことは明らかというべきである。

イ 被告は,融資当時のカブトデコムの業況をみれば,拓銀の支援のもと資金・収支の計画とその事業の見通しが明確であったから,カブトデコム株式は担保として十分であったと主張する。しかし,前記の事実によれば,オリエントビルに対する融資の当時,拓銀がカブトデコムを支援する態勢をとっていたものの,カブトデコムの事業形態から考えると,資金調達が困難になれば,直ちに事業の展開が見込めなくなり,既に投資した分のリスクが一度に顕在化して,その業績を大きく圧迫する状況にあったこと,にもかかわらず総量規制が始まり,金融機関から巨額の融資を継続的かつ安定的に受けることが難しい状況になりつつあったこと(そのため,カブトデコムは,拓銀からの直接の融資ではなく,株式の発行による資金調達を実施し,その引受人に対し拓銀等の金融機関が株式取得の費用を融資するという方法を続けたものと推認され,本件の各融資もそのような資金調達の一環であったと認められる。)から考えると,本件のオリエントビルに対する融資の時点において,カブトデコムが将来においても継続的かつ安定的に拓銀から資金を調達できることが確実視できる客観的状況にはなかったということができる。そして,被告は,昭和54年末から共同信組の理事の地位にあったのであるから,このような事情を少なくとも知り得べきであったということができる。

このようなことから考えると,本件のオリエントビルに対する融資の当時,拓銀がカブトデコムを支援する態勢をとり,これを被告が信頼したとしても,これにより,前記の受任者としての義務違反について被告に過失がなかったということはできない。

ウ また,被告は,本件オリエントビルに対する融資の後,カブトデコムの業績が悪化し,その株価が下落したのは,バブル経済が崩壊したためであり,被告がバブル経済の崩壊を予測することは不可能であった旨主張するけれども,前記のとおり,被告が受任者としての義務を尽くしていれば,他に適切な担保を徴するなどの方策,あるいは不良債権化を防ぐための具体的な措置を講じたか,さもなければオリエントビルに対する融資を決裁しなかったであろうと認められ,このような場合,少なくともその後のバブル経済の崩壊によるカブトデコム株式の価格の下落による影響を受ける余地はなかったといえるから,被告の主張を採用することはできない。

(3)  損害

信用協同組合の理事は,その任務を怠って組合に損害を与えたときは,組合に対してその損害を賠償すべき責任を負っているところ(協組法38条の2),被告は,当時,共同信組の専務理事として理事長を補佐して業務を執行する立場にあり,本件のオリエントビルに対する融資の決裁権者であったにもかかわらず,受任者としての前記義務に違反してオリエントビルに対する融資を決裁したのであるから,共同信組に対し,これにより生じた損害を賠償する義務がある。

甲21,33,125によれば,カブトデコムの株価はオリエントビルに対する融資の後,いったんは上昇したものの,平成2年8月ころから概ね下落に転じ,遅くとも平成10年3月ころの時点ではカブトデコム株式の売却が実際上困難となり,オリエントビルに対する融資額4億円のうち3億9939万9506円の債権が回収不能のまま残ったことを認めることができる。前記1(2)で説示したところによれば,この結果は,オリエントビルに対する融資そのものに内在していた債権回収上のリスクが現実化したものというべきであり,オリエントビルに対する融資によって生じたものといえるから,被告の義務違反と相当因果関係がある損害というべきである。

したがって,被告は,この損害を賠償する責任がある。

2  争点(2)(リザーブに対する融資)について

(1)  融資決裁の内容

ア 甲26,69及び71によれば,融資の相手方であったリザーブは,平成3年7月29日にホテル,旅館その他宿泊施設及びゴルフ場の予約代行・斡旋業等を営業目的として設立されたばかりの資本金2000万円,従業員4名の株式会社であるところ,初年度となる平成4年3月期(平成3年7月29日から平成4年3月31日まで)の純売上高見込みは840万円程度にすぎず,この期間内の実際の純売上高はこれを下回る585万6463円であって,経常損益は6174万3664円の赤字となっていたことが認められるのであって,本件融資によって共同信組のリザーブに対する純授信額が合計5億3000万円に達していたことを併せ考慮すると,リザーブの事業活動による収益から弁済期までの1年間に共同信組に対する債務の返済をすることは到底不可能であったと言わざるを得ない。

イ また,甲26によれば,リザーブに対する融資には,リザーブの代表取締役であるG及び知人のHが保証人となっていたことが認められるものの,両名がどの程度の資産,収入を有し,どの程度の支払能力があったか否か等について十分な検討が加えられた形跡を関係書類等から窺うことはできず,他の担保としては,2000万円のリザーブの定期預金があったにすぎないことが認められる。

ウ リザーブに対する融資の内容は第2の1(8)に記載のとおりであるところ,甲26,被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば,同融資により取得したカブトデコム株式2万6000株を弁済期である平成4年8月31日に一括売却することが予定されていたが,融資当時,株価は1万9000円(平成3年8月28日の安値)であって,これにカブトデコム株式1万4000株を加えた合計4万株を担保として把握し,担保価値を5億7000万円とみていた(掛け目75パーセント)ものの,一括売却した場合にどの程度の債権回収が見込まれるかについては検討されていなかったことが認められる。

(2)  責任

以上の認定事実に基づき,リザーブに対する融資に係る被告の責任について検討する。

前記のとおり,リザーブに対する融資は,オリエントビルに対する融資と同様,その事業活動による収益から弁済を受けることができないものであり,担保であるカブトデコム株式についても,リザーブに対する融資の時点で,カブトデコム株式を取得する目的による当該株式を担保とする共同信組の融資総額は既に146億3970万円に及んでいたのであるから,被告は,理事長として,前記1(2)アで説示したのと同様の義務を負っていたと認めるのが相当である。それにもかかわらず,被告は,十分な情報の収集と分析をしないまま,リザーブに対する融資には回収の確実性,収益性があるものと軽信し,カブトデコム株式以外の担保の提供を求めるなどの他の適切な債権回収方策を講じることなく,当該融資を決裁したのであるから,これにより共同信組の理事たる地位に基づく受任者としての義務に違反したと認められる。

ところで,被告は,カブトデコムの株式は担保として十分であった旨,また,本件リザーブに対する融資の後,カブトデコムの業績が悪化し,その株価が下落したのは,バブル経済が崩壊したためであり,被告がバブル経済の崩壊を予測することは不可能であった旨主張するけれども,前記1(2)イウで説示したと同様の理由により,その主張を採用することはできない。

(3)  損害

被告は,当時,共同信組の理事長として業務全般を総理し執行する立場にあり,本件のリザーブに対する融資の決裁権者であったにもかかわらず,前記の受任者としての義務に違反してリザーブに対する融資を決裁したのであるから,共同信組に対し,これにより生じた損害を賠償する義務がある。

甲21,33,50,79,125及び弁論の全趣旨によれば,カブトデコムの株式は,遅くとも平成10年3月ころの時点では売却が実際上困難となり,リザーブに対する融資額5億5000万円のうち,5億4887万9113円の債権が回収不能のまま残ったことが認められる。この結果は,本件リザーブに対する融資そのものに内在していた債権回収上のリスクが現実化したものというべく,リザーブに対する融資によって生じたものといえるから,被告の前記義務違反と相当因果関係がある損害といえる。

したがって,被告は,この損害を賠償する責任がある。

3  争点(3)(Aに対する融資)について

(1)  融資決裁の内容

ア 甲27ないし29,80ないし88によれば,融資の相手方であったAは,平成元年12月31日時点で現金・預金が2000万円,有価証券が1000万円,不動産(土地83坪,建物35坪)が5000万円,経営する有限会社からの役員報酬が年間1750万円という資産状況であったところ,平成2年8月28日時点で,既に6500万円の貸出残高があったことから,Aに対する融資1によって純授信額は1億9500万円に達したこと,平成3年8月22日の時点では貸出残高は4億7200万円に増加しており,Aに対する融資2の結果純授信額は7億0700万円に達するに至ったことが認められるから,その資産をすべて処分し,同人の役員報酬を弁済にあてたとしても,弁済期までの1年間に共同信組に対する負債を返済することは困難であったと推認できるところである。

イ Aに対する融資の内容は第2の1(9)に記載のとおりであるところ,甲28ないし30,被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば,Aに対する融資1では当時有していたカブトデコム株式2000株に加えて同融資で取得するに至るカブトデコム株式3000株の合計5000株を弁済期である平成3年8月30日に,Aに対する融資2では当時有していたカブトデコム株式3万0800株に加えて,同融資で取得するに至るカブトデコム株式1万株の合計4万0800株を弁済期である平成4年9月4日にいずれも一括売却することが予定されていたが,Aに対する融資1の当時,担保価値は合計1億2750万円(株価は平成2年8月28日の安値で3万4000円,株数5000株,掛け目75パーセント)と把握し,Aに対する融資2の当時,担保価値は合計4億3659万円(株価は平成3年8月21日の安値で1万8900円,株数3万0800株,掛け目75パーセント)と把握していたものの,一括売却した場合にどの程度の債権回収が見込まれるかについては検討されていなかったことが認められる。

(2)  責任

以上の認定事実に基づき,Aに対する融資1及び2に係る被告の責任について検討する。

前記のとおり,Aに対する融資1及び2は,同人の資産や収入で弁済を受けることが困難であり,担保であるカブトデコム株式についても,Aに対する融資1の時点で,既にカブトデコム株式を取得する目的による総額88億3150万円に及ぶ当該株式担保の融資を実行しており,また,Aに対する融資2の時点でも,同様に総額151億8970円に及ぶ同趣旨の融資を実行していたというのであるから,被告は,専務理事又は理事長として,前記1(2)アと同様の義務を負っていたと認めるのが相当である。それにもかかわらず,被告は,十分な情報の収集と分析をしないまま,Aに対する各融資には回収の確実性,収益性があるものと軽信し,カブトデコム株式以外の担保の提供を求めるなどの他の適切な債権回収の方策を講じることなく,当該各融資を決裁したのであるから,これにより理事たる地位に基づく受任者としての義務に違反したと認められる。

ところで,被告は,カブトデコムの株式は担保として十分であった旨,カブトデコムの業績が悪化し,その株価が下落したのは,バブル経済が崩壊したためであり,被告がバブル経済の崩壊を予測することは不可能であった旨主張するけれども,前記1(2)イウで説示したのと同様の理由により,その主張を採用することはできない。

(3)  損害

被告は,Aに対する融資1については共同信組の専務理事として理事長を補佐して業務を執行する立場にあり,Aに対する融資2については理事長として業務全般を総理する立場にあって,いずれの融資についても決裁権者であったにもかかわらず,前記の受任者としての義務に違反してAに対する融資1及び2を決裁したのであるから,共同信組に対し,これにより生じた損害を賠償する義務がある。

甲21,33,50,80ないし88,125及び弁論の全趣旨によれば,カブトデコム株式の売却が実際上困難となり,債権回収がほとんどできないまま,Aに対する融資1の融資額のうち1億2300万円の債権が,融資2の融資額のうち2億2974万1364円の債権がそれぞれ回収不能のまま残ったことが認められる。この結果は,いずれもAに対する融資1及び2そのものに内在していた債権回収上のリスクが現実化したものというべく,Aに対する融資1及び2によって生じたものといえるから,被告の前記義務違反と相当因果関係がある損害といえる。したがって,被告は,この損害を賠償する責任がある。

4  争点(4)(Bに対する融資)について

(1)  融資決裁の内容

甲31,32,89,90及び弁論の全趣旨によれば,融資の相手方であったBは,丸三昭和通商株式会社の取締役総務部長であり,株式会社アルタイルの代表取締役であって,当時の年収は,995万2500円であったところ,Bに対する融資によって同人に対する純授信額及び無担保授信額は1億3500万円となったこと,Bに対する融資の内容は第2の1(10)に記載のとおりであるが,保証人としてIをつけたものの,同人からの具体的な回収可能性について十分な検討をした形跡は窺えない上,そのほかに何ら担保を徴してはいなかったことが認められる。

(2)  責任

以上の認定事実に基づき,Bに対する融資に係る被告の責任について検討する。

前記のとおり,Bに対する融資は,その年収をはるかに超える金融上の授信を与えようとするものであることに加え,融資の目的となる株式の相場の変動により回収不能となる危険性の少なくない使途にかかるものであることが明らかであったというべきであるから,融資を承認することは十分な保全措置がない限り,理事の受任者としての義務に抵触する行為であるというべきところ,その保全の状況を見ると,融資によって取得されるはずのカブトデコム株式すらも担保に取ることなく,保証人1名のほかに何ら担保を徴することはなかったし,保証人からの弁済による回収可能性についても具体的に検討した形跡は窺えない。

そうすると,Bに対する融資は,融資の時点で回収不能となることが相当程度予見され,又は予見され得べき状態であるにもかかわらず十分な担保を取らずに実行された融資であったというべく,これを決裁することは,信用組合の理事として著しく不合理な判断によるものということができるから,理事の受任者としての義務に反するというべきである。

ところで,被告は,カブトデコムの業績が悪化し,その株価が下落したのは,バブル経済が崩壊したためであり,被告がバブル経済の崩壊を予測することは不可能であった旨主張するけれども,前記1(2)と同様の理由によりその主張を採用することはできない。

(3)  損害

被告は,当時,共同信組の理事長として業務を全般に総理し執行する立場にあり,本件のBに対する融資の決裁権者であったにもかかわらず,前記の受任者としての義務に違反してBに対する融資を決裁したのであるから,共同信組に対し,これにより生じた損害を賠償する義務がある。

甲21,33,50,91,125及び弁論の全趣旨によれば,回収原資であったカブトデコム株式の売却が実際上困難となり,債権回収がほとんどできず,Bに対する融資の融資額のうち1億1484万8631円の債権が回収不能のまま残ったことが認められる。この結果は,Bに対する融資そのものに内在していた債権回収上のリスクが現実化したものであり,Bに対する融資によって生じたものといえるから,被告の義務違反と相当因果関係がある損害といえる。

したがって,被告は,この損害を賠償する責任がある。

5  結論

以上に認定,説示したところによれば,その余の原告の主張について判断するまでもなく,原告の本件請求は,いずれも理由があるからこれらを認容することとし(なお,訴状送達の日の翌日が平成12年8月30日であることは,本件記録上明らかである。),主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥田正昭 裁判官 氏本厚司 裁判官 石川真紀子)

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