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札幌地方裁判所 平成12年(ワ)2304号 判決 2002年1月21日

札幌市<以下省略>

原告(反訴被告)

日進貿易株式会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

岩城弘侑

北海道<以下省略>

被告(反訴原告)

同訴訟代理人弁護士

荻野一郎

主文

1  原告(反訴被告)と被告(反訴原告)との間の平成11年4月20日から平成12年5月12日までの商品先物取引に関する原告(反訴被告)の被告(反訴原告)に対する不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償債務が3071万1275円及び内金2791万1275円に対する平成12年5月13日から支払済みまで年6分の割合による金員の範囲を超えては存在しないことを確認する。

2  原告(反訴被告)は,被告(反訴原告)に対し,3071万1275円及び内金2791万1275円に対する平成12年5月13日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3  原告(反訴被告)のその余の本訴請求及び被告(反訴原告)のその余の反訴請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は,本訴反訴を通じ,これを2分し,その1を原告(反訴被告)の負担とし,その余を被告(反訴原告)の負担とする。

5  この判決は,2項及び4項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

以下においては,原告(反訴被告)を単に「原告」といい,被告(反訴原告)を単に「被告」という。

第1請求

1  本訴請求

原被告間の平成11年4月20日から平成12年5月12日までの商品先物取引に関する原告の被告に対する不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償債務が存在しないことを確認する。

2  反訴請求

原告は,被告に対し,6132万2550円及びこれに対する平成12年5月13日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,顧客である被告が商品取引員である原告に委託して行われた商品先物取引に関し,本訴請求として,原告が,被告に対し,被告の原告に対する不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償債務が不存在であることの確認を請求するとともに,反訴請求として,被告が,原告に対し,商品先物取引受託契約に基づく誠実公正義務又は信義則上の付随義務(誠実義務,真実義務)の違反による債務不履行に基づき,当該商品先物取引による損失額5582万2550円及び弁護士費用550万円並びにこれらに対する遅延損害金の損害賠償を請求する事案である。

第3争いのない事実

1  原告は,商品先物取引の受託業務を目的とする会社である。

2  被告は,a農業協同組合の組合長であり,公社債投資信託を購入した経験はあったが,商品先物取引については未経験であった。

3  被告は,原告の勧誘により,平成11年4月20日,原告との間で商品先物取引受託契約(以下「本件契約」という。)を締結し,同日から平成12年5月12日の間に,別表〔甲17〕記載のとおりの商品先物取引(以下「本件取引」という。)を行った。

4  被告は,本件取引により差引差損金5588万2550円の損失を被り,平成12年5月17日,原告から,原告に預託していた委託証拠金から同差引差損金を控除した1143万0050円の返還を受けた。

第4争点

1  本件取引に関し,以下の各事実が認められるか否か。

(1)  商品先物取引の危険性,自己責任についての説明義務違反

(2)  断定的判断の提供

(3)  無敷による建玉

(4)  顧客の知識,取引経験を顧慮しない受託行為

(5)  実質的な一任売買

(6)  手数料稼ぎ目的の頻繁売買

(7)  無意味な両建の勧誘

2  1で認められる事実について,原告に商品先物取引受託契約違反の債務不履行が成立するか否か。

3  2で債務不履行が成立する場合に,損害額

第5争点に対する判断

1  争点1について

(1)  争点1(1)(商品先物取引の危険性,自己責任についての説明義務違反)について

ア 被告は,原告の外務員であるB(以下「B」という。)及びC(以下「C」という。)は,商品先物取引の危険性を十分に説明することなく,利益の出ることのみを強調し,自己責任の認識を十分にもたせることなく,本件取引を開始させた旨の主張をする。

イ しかし,被告は,本件取引の開始に際し,「この取引はハイリスク・ハイリターンな取引であり,自己の責任が求められるものである旨の説明を受け」た旨の記載のある書面に署名押印して,これを原告に対し提出していることなどからすると〔甲1〕,被告は,商品先物取引の危険性について説明を受け,商品先物取引が自己責任に基づくものであることについても理解をしていたと認めることができる〔被告本人24ページ〕。

ウ なお,被告は,本件取引の開始前に原告の外務員と実際に対面して勧誘を受けたのは1回のみで,他は電話での勧誘のみであるところ,電話での説明では十分な理解は得られない上に,本件取引が開始された平成11年4月20日の際も原告の外務員と話をしたのは45分間程度であったことから,商品先物取引の危険性や自己責任についての説明は十分にされなかったと見るべきである旨の主張をする。

しかし,商品先物取引が危険性を伴うものであり,自己責任に基づくものであるという事理自体は,商品先物取引の仕組みの詳細とは異なり,さほど複雑な事理ではなく,短時間でも説明は可能であり,電話による説明でも理解が可能であると考えられることや,Bが本件取引の開始までに被告に対し何度も電話をかけていることからすると〔甲27の2項(一)ないし(五)〕,被告の当該主張は,採用できない。

(2)  争点1(2)(断定的判断の提供)について

ア 被告は,Bから,平成11年3月ころ以降,「今がチャンス」〔被告本人調書7ページ〕,「値段が上がっても下がってももうけを取ることはできる」〔同19ページ〕,「とにかく利益を出してやる」〔同24ページ〕などの旨の発言を受けたものであり,もって断定的判断の提供を伴う勧誘を受けた旨の主張をする。

イ しかし,たとえ「今がチャンス」という旨の発言があったとしても,この発言をもって断定的判断の提供に当たるということはできない。

ウ また,「値段が上がっても下がってももうけを取ることはできる」旨の発言については,それは買建の場合には値段が上がると利益を得ることができ,売建の場合には値段が下がると利益を得ることができ,したがって,値段が上がる場合でも下がる場合でも利益を得る機会があるという事理を説明したものと理解することができるから,たとえこのような発言があったとしても,そのことをもって断定的判断の提供に当たるということはできない。

エ さらに,「とにかく利益を出してやる」旨の発言については,利益を出すように努力するという趣旨であり,確定的に利益を約束する趣旨ではないと理解する余地もあるから,たとえこのような発言があったとしても,そのことをもって直ちに断定的判断の提供に当たるということはできない。

オ したがって,被告の供述によっては断定的判断の提供がされた事実を確定的に認定することはできず,他に断定的判断の提供がされた事実を認めるに足りる的確な証拠はない。

(3)  争点1(3)(無敷による建玉)について

ア 平成11年4月20日の前場1節(午前9時30分)において被告がアラビカコーヒー(以下「アラビカ」という。)20枚の売建玉を建てる旨の処理がされているところ〔甲21の1〕,本件契約に係る約諾書〔甲2〕や当該取引のための委託証拠金160万円〔甲16〕の授受が同日の午後12時40分ころ以降であったことについては,当事者間に争いがない。

イ すると,当該売建玉は,無敷によるものであったということができる。

(4)  争点1(4)(顧客の知識,取引経験を全く顧慮しない受託行為)について

ア 被告は,本件取引より前は,商品先物取引については未経験であった者であり〔争いのない事実2〕,商品先物取引について十分な知識を有していたとは認め難い〔被告本人16ページ以下〕。

イ そして,原告の内部規定である習熟委託者取引制限規則〔乙19〕により,商品先物取引について経験を有しない者は,Cランクとして,取引開始から3か月の習熟期間内は100枚を超えて建玉をすることは禁じられていたところ〔乙19習熟委託者取引制限規則3条,別表1,別表2〕,被告は,Cランクに該当するにもかかわらず,本件取引が開始された平成11年4月20日から3か月を経過しない同年7月15日の時点で,アラビカについて計340枚の建玉が行われている〔乙1の建玉番号16-2及び3,17,20ないし23〕(なお,Bは,被告がCランクに該当することはおろか,このような規則の内容について十分な理解を有していなかったし〔B証人28ページ〕,Cは,口座設定申込書〔甲4〕によると被告がCランクに該当することが容易に判明するにもかかわらず,被告がCランクに該当しないことを前提として本件取引を行わせていた〔C証人33ページ以下〕。)。

ウ また,平成11年9月20日には,アラビカ計800枚及びゴム計200枚の合計1000枚もの建玉が行われている〔乙1の建玉番号16-3,17,25,33,35,38-1及び2,40-2,41の1ないし4,42の1ないし3,44-1ないし3,45-1及び2,乙2の建玉番号1,2〕。

エ さらに,被告は,平成11年9月13日の時点でアラビカについて売建玉300枚,買建玉300枚の両建の状態であったところ〔乙1の建玉番号16-3,17,25,33,35,38-1及び2,39,40-2,41-1ないし4,42-1ないし3〕,同日,さらに300枚の買建玉を行われている〔乙1の建玉番号43,44-1ないし3,45-1及び2〕。

オ そして,被告の年収は,実際は500万ないし600万円程度であり,商品先物取引口座設定申込書〔甲4〕によっても税込みで800万円と記載されているのに対し,被告は,エで述べた買建玉の委託証拠金として2400万円を借金により調達して〔乙26,被告本人12ページ〕本件取引に投入するなどし,本件取引が開始された平成11年4月20日から約5か月の間に,延べ合計7856万1150円の資金を本件取引に投入し〔甲16〕,争いのない事実4のとおり,5588万2550円の損失を被った。

カ 以上によると,本件取引は,被告の知識,取引経験に照らし,数量及び金額において過当なものであったと評価することができる。

(5)  争点1(5)(実質一任売買)について

ア 被告は,本件取引は,専ら原告の外務員の相場観に基づく判断により行っていたものであり,自己は原告の外務員の勧誘に追随していた旨の供述をするところ〔被告本人8ページ,10ページ,27ページ,34ページ以下〕,争いのない事実2のとおり,被告は,本件取引より前は商品先物取引については未経験であった者であり,商品先物取引について独自の判断ができるだけの知識や情報を有していたとは認め難く,本件取引について自己の相場観に基づく判断により原告の外務員に対する指示を行っていたとは認め難いことに照らすと,当該供述は,信用することができる。

イ また,原告の外務員の証言の中にも,原告の外務員の相場観に基づく判断により被告を勧誘して売買注文を受けていたことを示唆するものが多数認められる〔甲27の2項(七),B証人2ページ以下,5ページ以下,9ページ以下,11ページ以下,19ページ以下,32ページ,甲27の2項(二),C証人9ページ以下,20ページ以下,27ページ,D証人18ページ,20ページ以下〕。

ウ したがって,本件取引は,専ら原告の外務員の相場観に基づく判断によって行われていたものであるということができる。

エ なお,原告は,注文を受けた都度に売買報告書を送付するとともに,月1回の割合で残高照会通知書を送付又は持参していたものであり〔甲23の1ないし12〕,被告は注文や売買の内容について確認をしていた旨の主張する。

しかし,たとえ被告が注文の内容について確認をしていたとしても,このことと本件取引の注文の内容が専ら原告の外務員の相場観に基づく判断によって行われていたこととは,矛盾抵触するものではない。

オ また,原告は,被告は日本経済新聞に掲載されている値動きを見ながら注文をしていた旨の主張をする。

しかし,たとえ被告が値動きについて新聞等で確認することがあったとしても〔被告本人20ページ以下,32ページ〕,被告としては多額の資金を投入している以上,値動きの確認をするのは当然の行動であると考えられ,このことと本件取引の注文の内容が専ら原告の外務員の相場観に基づく判断によって行われていたこととは,矛盾抵触するものではない。

カ さらに,原告は,被告は農業協同組合の組合長の立場にある以上,降霜とアラビカの値段の変動との関係について十分な理解を有しており,降霜によって価格が上昇すると判断して本件取引を開始した旨の主張をする。

しかし,被告は,原告の外務員から降霜があるとアラビカの値段が上昇する旨の説明を受け,価格が上昇することが見込まれるから買建玉を建てれば利益が見込まれる旨の勧誘を受けて,これに応じたというのが実情であると認められるから〔B証人2ページ以下,被告本人19ページ以下〕,本件取引が被告の相場観に基づく判断によって行われていたものであるとはいうことができない。

(6)  争点1(6)(手数料稼ぎ目的の頻繁売買)

ア (4)アで述べたとおり,被告は,商品先物取引について十分な知識を有していたとは認め難く,また,(5)で述べたとおり,本件取引は,専ら原告の外務員の相場観に基づく判断によって行われていたものであると認められるところ,本件取引の中には,直し(既存建玉を仕切るとともに,同一日内に新規に同一の建玉をすること)〔乙1の建玉番号7と10-1,9と10-2,10-1及び2と12,12と14,13と15,16-3と56,20と29,21と30,23と28,29と40-1,30と32,32と35,40-1と41-1ないし4,53と54,乙2の建玉番号1と4,2と5,3と9,5と7,8と10,乙3の建玉番号1と2-1〕,両建(既存建玉と反対の建玉をすること)〔乙1の建玉番号7と8,15と16-1ないし3,16及び17と18,16-1ないし3及び17と20ないし23,25と26及び27-1及び2,16-3と39,33と35,25と41-1ないし4及び42-1ないし3,44-3と47,47と50,51と53ないし55,52-1ないし4と56,52-1ないし4と62,58-2及び59-1ないし5と61,64と65ないし67,乙2の建玉番号6と8,6と9,7と13-1及び2,11-2と14,13-1と15-1,13-1と16-1,13-2と15-2,13-2と16-2,16-1と18,16-2と21〕等の,確固たる相場観を有しているのでなければ手数料を負担するだけの結果となるおそれの強いと認められる取引〔D証人25ページ〕(なお,Cランクの者は,取引開始から3か月の習熟期間内は両建をすることは一切禁じられていた〔乙19習熟委託者取引制限規則3条,別表1,別表2〕。)が多数行われている上に,当該取引の必要性・合理性を基礎づける事情については,原告は相場の状況から必要性・合理性があったと主張するものの,当該具体的状況について十分な説明があるとはいい難いことからすると(Bは,乙1の建玉番号16-1ないし3の両建について,両建にした理由についての説明をするが〔B証人13ページ〕,損切りにした場合との得失の比較については合理的な説明がない〔同26ページ以下〕。),当該取引の勧誘は,手数料獲得の目的であったとの認定を受けても仕方のないものであるというべきである。

イ 以上のとおり,本件取引については,手数料獲得の目的で,頻繁な取引の勧誘がされていたことが強く疑われるということができる。

(7)  争点1(7)(無意味な両建の勧誘)について

ア (6)アで述べたとおり,本件取引の中には多数の両建が行われた事実が認められるところ,(5)で述べたとおり,被告は,専ら原告の外務員の相場観に基づく判断により本件取引を行っていたものであることからすると,被告が両建の注文をしたのは,原告の外務員からの勧誘によるものであったと認めることができる。

イ そして,(6)アで述べたとおり,両建の必要性・合理性を基礎づける事情については,当該必要性・合理性があったことを基礎づけるに足りる具体的事情について十分な説明があるとはいい難いことからすると,当該勧誘は,手数料獲得の目的であったとの認定を受けても仕方のないものであるというべきである。

ウ したがって,本件取引については,無意味な両建の勧誘が行われていたことが強く疑われるということができる。

2  争点2(債務不履行の成否)について

ア  1(5)で述べたとおり,本件取引は,専ら原告の外務員の相場観に基づく判断によって行われていたものであるところ,1(4)で述べたとおり,本件取引は,被告の知識,取引経験に照らし,過当なものであったと評価することができること,1(6)及び(7)で述べたとおり,本件取引については,手数料獲得の目的で頻繁な取引や両建の勧誘が行われていたことが強く疑われること,1(4)オ及び争いのない事実4のとおり,被告が多額の金銭を本件取引に投入し,5588万2550円もの莫大な損失を被るに至っていることからすると,被告が本件取引を勧誘し,受託した行為は,商品先物取引受託契約に基づく誠実公正義務(商品取引所法136条の17)の違反による債務不履行を構成するというべきである。

イ  なお,原告は,習熟委託者取引制限規則の違反は,不法行為を構成するものではない旨の主張をする。

しかし,当該違反が直ちに商品先物取引受託契約に基づく誠実公正義務違反の債務不履行を構成するものではないとしても,当該違反の程度が重大な場合には,同義務違反の債務不履行を構成するというべきである。

そして,1(4)イで述べたとおり,被告はCランクに該当し,本件取引が開始された平成11年4月20日から3か月間は100枚を超えて建玉をすることは禁じられていたところ,当該期間を経過しない同年7月15日の時点で,アラビカについて制限の3倍を超える計340枚もの建玉がされていることからすると,当該違反の程度は決して軽微なものではなかったということができるから,被告が本件取引を勧誘し,受託した行為が同義務違反の債務不履行を構成するということを妨げないというべきである。

ウ  また,原告は,直し,両建等の取引自体は,不法行為を構成するものではない旨の主張をする。

しかし,直し,両建等の取引自体は直ちに商品先物取引受託契約に基づく誠実公正義務に違反するものではないとしても,その頻度や金額が大きい場合には,同義務違反の債務不履行を構成するというべきである。

そして,1(6)アで述べたとおり,本件取引については,直し,両建等の取引の頻度が低いものではなく,かつ,争いのない事実3のとおり,その金額も決して少ないものではなかったということができるから,被告が本件取引を勧誘し,受託した行為が同義務違反の債務不履行を構成するということを妨げないというべきである。

エ  ところで,1(3)で述べたとおり,平成11年4月20日の前場1節にアラビカ20枚の売建玉を建てる処理がされたのは,無敷によるものということができるが,約諾書及び委託証拠金が同日のうちに授受されていることからすると,その実質的違法性は強度のものとはいうことができず,このことをもって被告の原告に対する損害賠償請求権が基礎づけられると断じることについては躊躇せざるを得ない。

3  争点3(損害額)について

(1)  商品先物取引において注文をするか否かの最終的判断権は顧客の側にあり,商品取引員は顧客の指示に従うべき義務を負うところ,本件取引においてもこれと異なる特段の事情があったとは認め難いことや,争いのない事実2のとおり,被告は,a農業協同組合の組合長の立場にある者であり,相応の社会的経験も積んでいたものであるから,原告の外務員の勧誘に迎合することなく,自らの判断を行うことによって,自己の資力に見合わない投資を回避したり,直し,両建等の取引のように確固たる相場観を有しているのでなければ手数料を負担するだけの結果となるおそれの強いと認められる取引の注文を行わないことにより,損失の発生を抑制したりすることが可能であったということができ,かつ,そのような行動を期待しても過剰な期待には当たらないということができる。

(2)  すると,本件取引による損失の発生については,原告の商品先物取引受託契約に基づく誠実公正義務違反のみならず被告の過失もが競合しているということができるから,民法418条により過失相殺を行うことが相当である(過失相殺は,債権者の主張がなくても,裁判所が職権ですることができることについて,最高裁判所昭和43年12月24日判決・民集22巻13号3454ページ)。

そして,その過失割合については,本件取引の態様や被告の社会的立場に照らし,5割と評価することが相当である(判例タイムズ1070号95ページ下段イ参照)。

(3)  したがって,被告の反訴請求は,本件取引による損失5582万2550円の5割に相当する2791万1275円及びこれに対する損害発生の日すなわち本件取引の終了の日の翌日である平成12年5月13日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金(商品先物取引受託契約に基づく誠実公正義務違反による損害賠償請求権は,商行為たる契約の債務不履行による損害賠償請求権に当たるので,最高裁判所昭和47年5月25日判決・判例時報671号83ページにより,商法514条の適用がある。)並びにこれらの請求権を実現するための弁護士費用280万円の限度においてのみ理由がある。

また,原告の本訴請求は,反訴請求の認容額を超える限度においてのみ理由がある。

(裁判官 岩松浩之)

<以下省略>

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