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札幌地方裁判所 平成12年(ワ)2744号 判決 2001年12月20日

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1事案の概要及び争点

本件は,原告が,被告らに対し,墓地使用権に基づき,小樽市に提出した墓地使用権者の各届出の取消を求めた事案である。原告は,故Cが祭祀主宰者として墓地の使用権を有していたところ,同人が原告を祭祀主宰者として指定した,あるいは慣習上原告が祭祀主宰者とされたとして,それに伴い墓地の使用権も取得したと主張している。

被告らは,自らが本件墓地の使用権者であると主張しているが,本件の主たる争点は,原告の主張するような指定ないし慣習の存否である。

第2当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

(1)  被告A及び同Bは,別紙届出目録記載の各承継届出(以下「本件各届出」という。)を取り消す。

(2)  訴訟費用は被告らの負担とする。

2  請求に対する答弁

主文同旨

第3当事者の主張

1  請求原因

(1)  Dは,小樽市が管理している小樽市ab丁目c番同d番所在の小樽市中央墓地い-e号(明治41年小樽市墓地証書発行時は,い-f号,以下「本件墓地」という。)の使用権(以下「本件墓地使用権」という。)を取得した。

(2)  本件墓地使用権は,Dから,E,F,Cに順次承継された。

(3)  昭和57年8月15日,Cは死亡した。

(4)  Cは,生存中,原告をG家の祭祀主宰者に指定した。

(5)  祭祀主宰者の承継についての慣習

ア 小樽地区の旧家において,最年長者,又は一族の家業を継ぎかつ一族の中心として墓地の維持管理,檀家寺との交流,過去帳の管理保持を行う者が祭祀主宰者となり,それは一族の主要関係者の協議を経て承認されるという慣習が存在する。

イ 原告は,Fの長女であり,また,平成元年12月1日,原告は有限会社NG商店の代表取締役に就任した。したがって,G家の後継者である。

ウ 原告は,先祖の法要を執行し,本件墓地を管理している。また自らそれらができないときは,HにG家の墓地の維持管理を依頼している。さらに,過去帳を原告宅において管理保持している。

エ 平成11年6月27日,G家の主要関係者であるI,J,H,K,L及び原告が協議して,原告をG家の祭祀主宰者とする決定をした。Iが最年長であったが,病気療養中であったこと,原告が本件墓地の管理をしてきたことに鑑み,原告が指定されたものである。

(6)  本件墓地使用権につき,被告Aが承継する旨の平成5年4月19日付け承継届出,被告Bが被告Aと共有する旨の平成8年10月30日付け承継届出がなされ,小樽市は,被告らの承継届出に基づき,被告らを墓地使用権者とした。

(7)  よって,原告は,Cによる指定又は慣習に基づき祭祀主宰者たる地位を承継した者であり,小樽市墓地及び火葬場条例10条2項によって本件墓地使用権を取得したものであるから,この墓地使用権に基づき,被告らの各届出を取り消すことを求める。

2  請求原因に対する認否

(1)  請求原因のうち,(1),(2),(3)及び(6)の事実については認める。請求原因(4)及び(5)の事実は否認する。

(2)  なお,被告Aは,Cの死亡によって本件墓地の使用権者となり,他方,被告Bは,昭和23年8月,Mの死亡によって本件墓地の使用権者となった。

Cが承継したのは,Fが執り行ってきた分家としての祭祀であり,本家の祭祀はMが承継したものである。

被告Aは,G家の家業である有限会社NG商店の代表取締役に就任し,又,祭祀も執り行ってきた。

理由

第1請求原因(1),(3)及び(6)の事実については,いずれも当事者間に争いがなく,甲第4号証,甲第5号証の1ないし9によりこれを認めることができる。

なお,G家の家系図は,別紙G家家系図(甲第3号証の2,省略)記載のとおりであり,原告は,D,Eの孫であり,同人らの長女Oの三女である。

被告Aは,Oの長男Cの配偶者である。被告Bは,Dの長男Mの長男である(乙第1号証ないし乙第6号証)。

第2請求原因(2)について

1  甲第5号証の4及び8,甲第11号証の1,甲第12号証,甲第13号証,証人Hの証言,原告本人尋問の結果,被告A本人尋問の結果によれば,本件墓地はDが造り,本件墓地使用権の名義は,D,E,F,Cに順次移ったこと,本件墓地には,P(Dの父),Dらが埋葬されていること,Cは,Fの配偶者であるOの存命中は,その助力を得て,O没後は原告に助力を得て,Eらの祭祀を行ってきたことが認められる。

2  以上の事実からは,請求原因(2)記載のとおり,祭祀の承継がされ,本件墓地使用権も,これに伴いCに承継されたと認められる。

被告らは,本家としての祭祀の承継は,M,被告Bと順次されてきたと主張するが,前記のとおり,原告はEの法要も営んできたものであり,他方,被告BがD,Eらの法要を主宰してきたと認めるに足りる証拠はない。

第3請求原因(4)について

1  甲第11号証の1,甲第12号証,甲第13号証,H証言,原告本人尋問の結果及び被告A本人尋問の結果によると,Cは,原告に対し,「墓を守ってくれ。」と言って,G家の法要を執り行うことを頼んでいたこと,Cの生存中から,G家の法要を最もよく把握していたのは原告であり,及びG家の先祖の法要や墓参り等の仏事については,事実上,原告が中心になって行っていたことが認められる。

Cの生前,被告Aは,直前になって法要が営まれる旨,Oないし原告から聞かされることが常だったこともあり,実質的な手伝いはしていなかった。

2  以上のとおり,Cは,生前,原告に対し,G一族の法要や墓守等の仏事を頼んでいたものである。しかし,原告自ら本人尋問において認めているように,「墓を守ってくれ。」という言葉は,法要を営んで欲しいということであり,原告を祭祀主宰者に指定した趣旨であるとまで解することは困難であって,自己の死後も引き続いてG家一族の仏事を依頼していたものと認めることはできない。また,Cは,55歳の若さで,心筋梗塞により急死しているものであり,被告Aに対するものも含めて,そもそも祭祀主宰者の指定を生前にしていたとは考えがたい(甲第4号証,被告A本人尋問の結果)。

3  以上のとおり,Cが,生前に,原告を祭祀主宰者と指定していた事実は,これを認めることができない。

第3請求原因(5)について

1  請求原因(5)のうちアについて

(1)  原告は,慣習に基づいて祭祀を承継した旨を主張する。原告が主張する慣習は,最年長者,又は一族の家業を継ぎかつ一族の中心として墓地の維持管理,檀家寺との交流,過去帳の管理保持を行う者が,一族の主要関係者の協議を経て祭祀主宰者となるという内容のものである。

(2)  ところで,かかる原告の主張が認められるためには,当該慣習が,G家も含めて,ある程度の人的・地域的広がりを持つもので,かつ現在に至るまで続行されているものでなければならない。

(3)  Hの証言及び原告の尋問結果によると,小樽市の旧家においては,親族間の協議で祭祀主宰者を決定することが結構あり,G家の親戚にも同様の方法で祭祀承継が決定されたことがあったことが一応認められる。

しかし,原告が主張するような慣習に従って,E,F,Cに順次,G家の祭祀が承継されたと認めるに足りる証拠はなく,かえって,原告本人尋問の結果によると,Eは,生前から,G家の祭祀をF,継いでCに承継させることを決めていたことが認められる。これによると,G家においてすら,原告主張のような慣習にしたがって,祭祀が順次承継されていた事実は認められず,結局,原告が主張するような慣習が,ある程度の人的・地域的広がりをもって存在するとは認められない。

(4)  以上に加えて,乙第9号証,H証言及び原告本人尋問の結果によると,以下の事実が認められる。

ア 昭和57年8月15日にCが死亡した際,Cの妻である被告AがCの墓を引き継ぐことに特に異議はなく,G家の間で墓の名義を変えるような話はしていなかった。仏壇,過去帳も,引き続き被告Aのもとに置かれていた。

また,被告Aは,有限会社NG商店の代表取締役に就任している。原告は,有限会社NG商店がつぶれないように資金援助をしたことはあったが,Cが死去した当時,その経営に参加する考えはなかった。

イ 被告Aは,会社経営のストレスから病気になり,平成元年12月1日,有限会社NG商店の代表取締役の地位を退いた。同日原告が代表取締役に就任した。

昭和61年8月9日,Q夫婦,故Rの配偶者S,H,I,J,原告及び被告Aら10名で親族会議を開き,被告Aが有限会社NG商店の代表者から退きたい旨言ったことから,お墓の問題などの今後の方針を話し合う機会があったが,祭祀主宰者が決定されることはなかった(乙第9号証,乙第10号証)。

ウ 原告は,平成2年頃,本件墓地の補修をしたことがある。

平成11年6月27日,G家の主要関係者であるI,J,H,K,L及び原告が協議したが,Cの兄弟の中最年長者であるIは病気療養の予定であったことから,原告をG家の祭祀主宰者とする旨を決定した。しかし,これに被告Aは参加していなかった。

上記事実からは,原告らG家の関係者は,Cの死亡直後,一応,被告AがG家の家業である有限会社NG商店を継ぐ者であり,Cの後の祭祀主宰者であるとしたが,結局平成11年の親族会議において,被告Aを祭祀主宰者として適さないとした上で,あらためて原告を祭祀主宰者にすると合意したものと認められる。しかし,これは原告が主張するような慣習があったとしても,これにしたがったものではなく,かつ被告Aの同意もない。

(5)  結局,原告が,被告Aと比して,祭祀主宰者として適任であるか否かはともかく,原告主張のような慣習の存在も,これにしたがって原告が祭祀主宰者となったとの事実も認めることができない。

第4以上より,原告がCより祭祀主宰者たる地位を承継したとの事実は認められず,原告はCより本件墓地使用権を承継したものとも認めることはできない。

よって,原告の請求は理由がないからいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判官 高瀬順久)

別紙届出目録

小樽市管理の小樽市ab丁目c番地,同d番地所在の小樽市中央墓地い-e号使用権者に関する下記届出

ア 届出人  A

届出日  平成5年4月19日

届出内容  CからAへの承継届出

イ 届出人  B

届出日  平成8年10月30日

届出内容  BがAと共有するとの承継届出

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