大判例

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札幌地方裁判所 平成12年(ワ)37号 判決 2001年2月20日

札幌市<以下省略>

原告

株式会社東京フラワー

右代表者代表取締役

札幌市<以下省略>

原告

株式会社北花

右代表者代表取締役

札幌市<以下省略>

原告

株式会社松本フラワー

右代表者代表取締役

札幌市<以下省略>

原告

株式会社フラワリーライフ

右代表者代表取締役

札幌市<以下省略>

原告

株式会社丸貴生花店

右代表者代表取締役

札幌市<以下省略>

原告

有限会社シゼンド・フローレ

右代表者代表取締役

札幌市<以下省略>

原告

有限会社フラワーショップ花嶋

右代表者代表取締役

札幌市<以下省略>

原告

有限会社フローラル花づくし

右代表者代表取締役

右8名訴訟代理人弁護士

佐藤太勝

大川秀史

札幌市<以下省略>

被告

株式会社博善社

右代表者代表取締役

札幌市<以下省略>

被告

北海葬祭株式会社

右代表者代表取締役

札幌市<以下省略>

被告

株式会社公益社

右代表者代表取締役

札幌市<以下省略>

被告

株式会社セレモニーはるか

右代表者代表取締役

札幌市<以下省略>

被告

株式会社札幌御苑

右代表者代表取締役

札幌市<以下省略>

被告

株式会社晃聖札幌善光社

右代表者代表取締役

右6名訴訟代理人弁護士

島津宏興

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  原告ら各自が、被告らの経営する別紙式場一覧表記載の葬儀式場に葬儀用供花を搬入する際、被告ら各自に対し、供花持込料の支払義務がないことを確認する。

2  被告ら各自は、原告ら各自が、供花持込料を支払わないことを理由に、右葬儀式場に供花を搬入・設置することを妨害してはならない。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  被告ら

主文と同旨

第二事案の概要

一  本件は、生花販売業者である原告らが、葬儀式場を営む被告らに対し、被告らの葬儀式場に供花を搬入するについて、被告らが定めた供花持込料を支払う義務のないことの確認を求めるとともに、原告らが右供花持込料を支払わないことを理由として、被告らにおいて、原告らが葬儀式場に供花を搬入・設置することを妨害することの禁止を求めた事案である。

二  争いのない事実

1  原告らは、いずれも生花販売を主たる目的とした会社であり、札幌市内に本店を置いている。そして、原告らは、組合員数140名を擁する札幌生花商業協同組合(以下「本件組合」という。)の組合員である。

被告らは、いずれも冠婚葬祭会場の提供を主たる目的とした株式会社であり、葬儀式場を営む13の会社で組織される式場管理協議会(以下「本件協議会」という。)の構成員である。

2  被告らは、本件組合の組合員らが葬儀に際し顧客等から依頼を受けて葬儀用供花(以下「供花」という。)を被告らが経営する葬儀式場に搬入するに当たり、組合員らから、別紙の基準のとおりの供花持込料を徴収し、もし組合員らがこれを支払わないときには葬儀式場への供花の搬入・設置を拒否する取扱いをしている。

3  原告らは、被告らが供花持込料を徴収する法的根拠はなく、被告らは供花持込料を徴収することなく原告らによる供花の搬入・設置を認めるべきである旨主張している。

三  当事者の主張

1  供花持込料の徴収について

(一) 原告ら

<略>

(4) 被告らは、もともと、本件協議会の構成員として一致して同一額の供花持込料を徴収していたところ、平成11年10月18日、公正取引委員会から、右行為は構成員の事業活動を不当に制限するものであるとして、独占禁止法8条1項4号に基づき中止の警告を受けた結果、実質的に警告を回避するため、被告らが個別に決定して供花持込料を徴収することになったものにすぎず、脱法行為というべきものである。

(二) 被告ら

<略>

2  供花搬入妨害の禁止について

<略>

第三当裁判所の判断

一  証拠<略>及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。

1  被告らは、札幌葬祭業組合に属する者であるが、いずれも自らが葬儀式場を所有していることから、平成10年10月末、本件協議会を設置し、葬儀式場の貸し借りの可否や供花持込料の徴収について話し合うことになった。

ところで、一般に被告らが喪主ないし葬儀主催者と葬儀式場契約を締結する目的は、祭壇ないし葬儀式場を貸与し、葬儀を運営することにあり、被告らは、それによる対価を受領する。葬儀式場に搬入される供花については、その数量や程度をあらかじめ予測することはできないことなどから、葬儀式場契約において何らかの合意がなされることはなく、対価が授受されることもない。

2  被告らの葬儀式場には、原告ら生花販売業者によって供花が搬入される。通夜にそなえて供花が搬入されるのが一般的であり、通夜はほとんど午後6時に開始されるのであるが、原告ら生花業者による供花の搬入は、正午すぎから午後6時前後までバラバラに行われる結果、被告らは、多数の供花を保管しながら、通夜開始前にはこれらの供花を整理して配列する作業もしなければならない。いったん配列した後に新たな供花が搬入されると、更に供花を並べ替える必要が生じる場合もある。

また、通夜及び葬儀が終了すると、供花を搬出しなければならないが、原告ら生花販売業者によって引き取りに来る時間はまちまちであり、それまで被告らがこれを保管しなければならない。

そして、供花の搬入から搬出されるまでの間、花弁や水滴の落下等により葬儀式場が汚れるため、被告らにおいて清掃をしている。

供花の搬入に伴う管理や清掃の費用は、被告らと喪主ないし葬儀主催者との間の葬儀式場契約によって被告らに支払われることはない。

3  被告らは、かねてより、本件組合に対し、所属の組合員らが葬儀式場に供花を搬入するについて、できる限り被告らの管理及び清掃の負担がかからないよう搬入方法の改善方を要請し、本件組合においても、「葬儀式場・使用心得」を作成するなどして、組合員に対し、供花の搬入時等には生花販売業者において清掃することを指導するなどしていたが、ほとんど改善されることはなかった。

4  本件協議会は、平成10年11月24日、平成11年1月1日から供花持込料として1個につき1000円を徴収する旨を決定し、本件組合に通知したが、本件組合に反対されたため、平成10年12月19日、供花持込料徴収の決定を撤回し、その代わりに、本件組合に対し、喪主の配列指示に従えるような時刻に供花を搬入すること、配達自動車を葬儀式場用地内へ乗り入れないこと等を厳守することを要求した。

本件組合の中には、右条件を厳守することは困難であり、供花持込料を負担して搬入した方が得策であるとの意見も強かったことなどから、本件組合は、平成11年1月1日以降、1個につき500円という条件で供花持込料を徴収することを認めることとし、平成10年12月28日までに本件協議会と合意し、各組合員に対し、その旨の通知をし、あわせて「今回の持込料(清掃並びに管理費)については、我々花店の清掃の不徹底、マナーの悪さに端を発していますので、駐車場の使用方法等含め斎場に迷惑のかからない方法で、搬入・搬出をお願いいたします。」旨忠告した。

5  本件協議会は、被告ら構成員らをして、平成11年1月1日以降、供花1個につき500円の持込料を徴収するようにさせていたところ、同月中旬ころに至って、本件組合から右合意の撤回の申出があり、その際、右合意は年末年始の繁忙期を控えていたために暫定的になしたものである旨の説明がなされたが、本件協議会は、即座に右撤回の申出を拒否し、その後も供花持込料の徴収を続けた。

本件組合は、同月12日、公正取引委員会に対し、本件協議会による供花持込料の徴収は独占禁止法8条に違反するとして、調査及び措置を求める依頼をした。公正取引委員会は、同年10月18日、本件協議会が、構成員所有の葬儀式場に生花販売業者が搬入する供花の持込料を1個当たり500円と定め、同年1月1日以降、構成員に供花持込料を徴収させているとしたうえ、右行為は、葬儀の実施に伴う供花の設置、清掃等に係る構成員の事業活動を不当に制限するものであり、独占禁止法8条1項4号に違反するおそれがあるとして、本件協議会に対し、右行為の取り止めと今後同様の行為をしないことを求める警告をした。

6  これを受けて、本件協議会は、同年10月29日、本件組合に対し、本件協議会による供花持込料徴収の決定を破棄するとともに、今後、供花持込料の徴収等の事業活動については構成員の自主的な判断に任せる旨の通知をした。その後まもなく、被告ら構成員は、個別の判断により、別紙の基準により、原告ら生花業者から供花持込料を徴収することを決め、これを実施している。

本件組合員のうち、およそ3分の1の組合員は、搬入時刻の制限等を受けたり自ら清掃をしたりすることよりも、供花持込料を支払ってでも制約なしに供花を搬入することを希望している。

全国的にみても、葬儀式場において、生花販売業者らから供花持込料を徴収する例は少なくない。

二  以上の認定事実を前提として、まず、被告らが原告ら生花販売業者から供花持込料を徴収することができるか否かについて検討するのに、被告らは、葬儀式場を所有し又は管理をしているものであるから、その所有権ないし管理権に基づき、葬儀式場に供花を搬入しようとする原告ら生花販売業者から供花持込料を徴収することができるものである。生花販売業者は、これを承諾して供花持込料を支払って供花を搬入することになり(その際に供花搬入に関する契約関係が発生するといえる。)、これに従えない者は、供花の搬入をあきらめるほかない。

これを経済的実質的にみても、被告らは、原告ら生花販売業者が搬入した供花について、これを管理し、搬出までの間に生じた汚れを清掃するなどしなければならず、それによる費用を負担しているのであるから、その原因を与えている原告ら生花販売業者に供花持込料を支払ってもらうというのは、社会的妥当性をそなえているものといえる。被告らが負担する費用の詳細まで具体化されているものではないけれども、そうであるからといって被告らが供花持込料を徴収することが社会的妥当性を欠くものとはいえない。

原告らは、供花は葬儀に必須のものであり、被告らと喪主ないし葬儀主催者との間の葬儀式場契約により、被告らは無条件に供花の搬入を受け入れる義務を負っている旨主張し、たしかに供花は葬儀に欠くことのできないものであるけれども、供花の搬入に伴う被告らの負担が右のとおりであることや葬儀式場契約締結時においては搬入される供花の数量程度は予測できないことなどに照らすと、葬儀式場契約により被告らが無条件に供花の搬入を受け入れる義務を負っているとまで認めることはできないから、原告らの右主張は採用することができない。

また、原告らは、被告らと喪主ないし葬儀主催者との間の葬儀式場契約によって得る対価の中に供花搬入による清掃料等も含まれているのであるから、原告らから供花持込料を徴収することは清掃料等の二重取りとなる旨主張するけれども、右葬儀式場契約によって被告らが得る対価の中に、原告ら生花販売業者による供花の搬入に伴う管理費及び清掃費が含まれていると認めるに足りる証拠はないから、原告らの右主張も採用することができない。

なお、原告らは、供花提供者又は喪主の使者として供花を搬入している旨主張するけれども、そうであるとすれば、使者であるにすぎない原告らは、自らが主体となって権利主張をすることはできない道理であるから、原告らの右主張は採用の限りでない。

原告らは、被告らが個別に原告ら生花販売業者から供花持込料を徴収するようにしたことは、公正取引委員会の警告の趣旨を免れるための脱法行為である旨主張するけれども、公正取引委員会は、本件協議会がその構成員らである被告らをして一律に供花持込料を徴収させたことについて、独占禁止法8条1項4号(構成員の機能又は活動を不当に制限)に該当するとして警告をしたものであり、被告らが個別の判断により供花持込料を徴収することを決定し実施することについては何ら言及するものではなく、被告らの右行為が公正取引委員会の警告の趣旨を免れるための脱法行為ということはできないから、原告らの右主張は採用することができない。

以上のとおりであるから、被告らは、葬儀式場の所有権ないし管理権に基づき、それぞれが決めた別紙の基準により、原告ら生花販売業者から供花持込料を徴収することができる。したがって、原告らの供花持込料支払義務不存在確認請求は理由がない。

三  次に、右のとおり、被告らが葬儀式場の所有権ないし管理権に基づき、原告ら生花販売業者から供花持込料を徴収することが許されるものである以上、被告らは、葬儀式場の所有権ないし管理権に基づき、妨害排除請求ないし妨害予防請求として、供花持込料を支払わずに供花を搬入しようとする者に対し、搬入を認めず、これを排除することができることは明らかである。

原告らは、被告らと喪主ないし葬儀主催者との葬儀式場契約の締結により、葬儀が終了するまでの間、供花の搬入等に対し、妨害排除請求権を放棄しているものであるから、供花の搬入を排除することはできない旨主張するけれども、葬儀式場契約の締結によって被告らが供花の搬入等に対し妨害排除請求権を放棄しているとまで認めることはできないから、原告らの右主張は採用することができない。

また、原告らは、被告らが供花持込料を支払わずに供花を搬入しようとする者に対し、搬入を認めず、これを排除することが信義則違反又は権利の濫用に当たる旨主張するけれども、葬儀式場の所有権ないし管理権の権利行使として当然のことであり、これをもって信義則違反又は権利の濫用ということはできないから、原告らの右主張も採用することができない。

以上のとおりであるから、供花の搬入に対する妨害禁止を求める原告らの請求も理由がない。

四  よって、原告らの請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 坂井満)

別紙 <略>

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