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札幌地方裁判所 平成12年(行ウ)31号 判決 2002年1月29日

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

(1)  被告は,E町,F町学校給食組合に対し,9万0865円を支払え。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第2当事者の主張

1  請求原因

(1)  当事者の地位

ア 原告らは,いずれも普通地方公共団体であるE町の住民である。

イ E町,F町学校給食組合(以下「本件組合」という。)は,E町及びF町によって組織される一部事務組合である。

ウ 被告は,平成10年12月8日,本件組合の組合長に就任した。

エ 本件組合の組合長は,本件組合の執行機関であり,本件組合の財産の管理を行う権限を有するものである。

(2)  違法に財産の管理を怠る事実

ア 本件組合は,E町,F町学校給食組合センター(以下「本件学校給食センター」という。)を設置・管理するものである。

イ 平成11年12月中旬ころ,同給食センター内にあるボイラー(以下「本件ボイラー」という。)とサービスタンク(以下「本件サービスタンク」という。)との間の地下埋設管(以下「本件地下埋設管」といい,以上のボイラー,サービスタンク及び地下埋設管その他のボイラー関係施設を「本件ボイラー関係施設」という。)に破損が生じ,重油が漏洩し始めた(以下「本件事故」という。)。

ウ 被告は,本件組合長として本件ボイラー関係施設を管理する者であり,平成12年3月2日ころまでには,本件事故を知り,又は知りうべきであったのであるから,直ちにその原因を調査・特定して応急措置をすべき義務があるのにこれを怠り,同月29日まで,漫然これを放置した。

エ 被告は,平成12年3月29日,本件地下埋設管の破損部を修繕した。

オ したがって,被告が,平成12年3月2日から同月29日までの間,重油が漏洩するがままに放置した行為は,違法に財産の管理を怠る行為というべきである。

(3)  損害

ア 本件組合は,本件事故によって漏洩した重油を補充するための重油購入代金として,35万円を支出した。

イ 上記35万円は,平成11年12月16日から平成12年3月29日までの104日間の代金であるから,平成12年3月2日から同月29日までの27日間に対応する代金は,9万0865円である。

(4)  被告の賠償責任

被告は,組合長の職にあるものとして,上記のとおり違法に財産の管理を怠る行為をし,これにより,本件組合に対し,上記の損害を与えたものであるから,その損害を賠償すべき責任がある。

(5)  監査請求の経由等

原告らは,平成12年11月15日,本件組合の監査委員に対し,地方自治法292条,242条1項に基づき,被告の前記財産の管理を怠る事実についての監査を請求したが,同監査委員は,同年12月4日,原告らの監査請求を却下した。

(6)  結論

よって,原告らは,上記監査結果に不服があるので,同法292条,242条の2第1項4号に基づき,被告に対し,上記損害金9万0865円を本件組合に支払うことを求める。

2  請求原因に対する認否

(1)  請求原因(1)の事実はいずれも認める。

(2)  同(2)ア,イの事実は認め,同ウの事実は否認し,同エの事実は認め,同オの主張は争う。

(3)  同(3)アの事実は認め,同イの事実は否認する。

(4)  同(4)の主張は争う。

(5)  同(5)の事実は認める。

理由

1  請求原因(1)の事実(当事者の地位),同(2)ア,イ,エの各事実(本件組合が本件学校給食センターを設置・管理していること,平成11年12月中旬ころ本件事故が発生したこと,被告が平成12年3月29日に本件地下埋設管の破損部の修繕をしたこと)は当事者間に争いがない。

2  そこで,請求原因(2)ウの事実(被告のした財産の管理を怠る事実)について検討する。

(1)  上記1の事実に加え,甲第3号証,乙第1ないし第3号証,第5号証,第7ないし第10号証,証人Gの証言及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア  本件組合は,E町及びF町内にある小中学校の児童生徒約800名に学校給食を提供するため,その実施に必要な施設の設置及び管理に関する事務を共同して処理することを目的として設立されたものである。

本件組合は,上記目的の実施のための施設として本件学校給食センターを設置してこれを管理している。

イ  本件組合には,議決機関として,議会が置かれ,執行機関として,組合長及び教育委員会が置かれている。

その組合長には,F町長でもある被告が平成10年12月8日から就任し,その教育委員会の教育長には,E町教育委員会の教育長でもあるGが就任していた。

そして,本件組合の設置・管理に係る本件学校給食センターには,所長が置かれ,その所長の下に,調理員,栄養士,事務係員が配置されている(以下,上記所長,調理員,栄養士,事務係員を合わせて「本件学校給食センターの職員」という。)。

以上のようなことから,本件学校給食センター内の本件ボイラー関係施設は,法的には,本件組合の執行機関である組合長(被告)及び教育委員会(同教育長G)に管理権限があったものであるが,事実上は,本件学校給食センターの所長をはじめとするその職員が管理を担当していた。

ウ(ア)  本件組合は,平成11年8月13日,本件学校給食センター内のボイラーの取替工事をした。

(イ)  本件学校給食センターは,平成11年12月13日,学校給食の提供先であるH小学校から,学校給食のフルーツゼリーの包装ビニールに灯油のような臭いがあるとして,返品を受け,これを同センターの職員が検査したが,異常があるとは確認できなかった。

(ウ)  本件学校給食センターの職員は,同月16日,冷蔵庫室内に灯油臭のあることに気付いたが,冷蔵庫室内の排気ファンモーターが焼けて停止していたことから,上記灯油臭は,上記排気ファンモーターが焼けた臭いであると判断した。

(エ)  本件学校給食センターの職員は,平成12年1月21日,上記排気ファンモーターの交換修理を実施したが,灯油臭が消えなかった。そこで,同職員は,さらに調査したところ,冷蔵庫室内の排水口から臭いが上がってくるのに気付いたため,冷蔵庫の機械油が漏れて,これが上記排水口に流れ出たものと判断し,上記排水口に中和剤を投入したところ,一時的に臭いがおさまった。

(オ)  本件学校給食センターの職員は,同年2月末ころ,冷蔵庫室内の排水口から再び灯油臭が上がってくることを確認した。

(カ)  本件学校給食センターの職員は,同年3月6日,本件ボイラーの流量計の重油消費量よりも実際の重油消費量が明らかに多いことに気付き,重油が地下で流出している可能性があると判断し,E町総務課職員Iに連絡するとともに,異臭原因,重油漏れの有無の調査のため,地下タンク(以下「本件地下タンク」という。)及び配管を調べたが,その調査目的を達することができなかった。

(キ)  そこで,本件学校給食センターの職員は,同月7日,J汎用機械株式会社に専門的な調査を依頼した。同社は,本件サービスタンクから本件ボイラーまでの油配管について加圧検査を実施した。その結果,検査対象である上記配管における漏油は検出できなかった(乙第8号証)。

(ク)  さらに,本件学校給食センターの職員は,同月8日,有限会社K油設処理公社に専門的な調査を依頼した。同社は,本件地下タンク及び同タンク周辺配管の漏洩検査を実施したが,異常は発見されなかった(乙第9号証)。

(ケ)  本件学校給食センターの職員は,同月24日,学校給食業務が終了したことから,本件ボイラーを完全に停止した後,本件サービスタンク内の重油の油位を計測した。

(コ)  本件学校給食センターの職員は,同月27日,本件サービスタンク内の油位を計測したところ,油位が約16立方センチメートル減少していたことなどから,本件ボイラーと本件サービスタンクとの間の本件地下埋設管からの漏洩があると判断した。

(サ)  本件学校給食センターの職員は,同月29日,L管工に,本件地下埋設管の修繕工事を依頼し,同社がその修繕工事をした。これにより,本件学校給食センター内での重油の漏洩は,なくなった。

以上の経緯から,本件ボイラーに使用していた重油は,本件ボイラーと本件サービスタンクとの間の本件地下埋設管から漏洩していたものであると判明した。

(2)  以上の事実に基づいて検討する。

被告は,本件組合の執行機関である組合長として,本件学校給食センター内の本件ボイラー関係施設についての管理権限があったのであるから,E町の町長を兼任し,同町長の職責を果たすために,本件学校給食センター内の本件ボイラー関係施設についての管理を事実上同センターの職員にゆだねざるをえなかったとしても,その管理責任を免れることはできないものである。

しかし,上記認定のとおり,本件学校給食センター内の本件ボイラー関係施設についての管理を事実上担当していた同センターの職員は,学校給食提供先である小学校から学校給食の包装に灯油のような臭いがあることを理由として学校給食の返品があり,また,冷蔵庫室内において灯油臭があったことに気付いた後,その原因の調査を怠っていたものではなく,まず,自ら調査して対策を講ずるとともに,これによってもなお発生し続けた灯油臭については複数の専門業者に調査を依頼していたものであり,さらに,灯油臭の原因がボイラー室内の本件ボイラーと本件サービスタンクとの間の本件地下埋設管からの重油の漏洩にあると判断した2日後にはその修繕工事をしたものであるから,同センターの職員が同センター内の本件ボイラー関係施設についての管理を怠っていたということはできず,ひいては,被告においても本件ボイラー関係施設についての管理を怠っていたということはできない。

(3)  なお,原告らは,被告が平成12年3月2日ころまでには本件事故(ボイラー室内の本件ボイラーと本件サービスタンクとの間の本件地下埋設管からの重油の漏洩)のあったことを知り,又は知りうべきであったと主張する。

確かに,乙第2,第3号証,証人G及び同Mの各証言並びに弁論の全趣旨によれば,①本件学校給食センター内の重油の消費量が,平成11年12月ころからそれ以前に比べて多くなっていたこと,②被告は,本件組合の組合長として,本件組合の議会に対し,平成12年3月2日,一般会計補正予算についての議案を提出しているところ(乙第3号証),その議案書には,本件学校給食センターの燃料費として,35万円の増額をする旨の記載のあることが認められる。

しかし,本件学校給食センター内における重油の消費量がそれ以前に比べて多くなっていたとしても,その原因は多様でありうるうえ,本件事故は,ボイラー室内の本件ボイラーと本件サービスタンクとの間の本件地下埋設管からの重油の漏洩というものであって,専門的な業者にとっても外形的に容易に知りうるものではなかったものであるから,被告が本件組合の組合長として平成12年3月2日に本件組合の議会に対して上記のとおりの議案の提出をしたからといって,被告が,そのころまでには本件事故のあったことを知っていたものと推認することはできないし,また,本件事故のあったことを知りうべきであったとも認めることはできず,他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。

3  以上によれば,原告らの本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないのでこれをいずれも棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 橋本昇二 裁判官 高瀬順久 裁判官 石川真紀子)

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