札幌地方裁判所 平成12年(行ウ)9号 判決 2001年12月21日
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 被告が,平成11年2月16日付けでした資源第912号公文書一部開示決定処分のうち,非開示とした部分(原告の異議申立てに基づき,被告が平成12年5月24日付けでした決定(資源第240号)により取り消されて開示された部分を除く。)を取り消す。
2 被告が,平成12年5月24日付けでした決定(資源第240号)に係る異議申立てを棄却した部分に係る決定を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,北海道情報公開条例に基づき,公文書の開示を求めたところ,被告がその一部を非開示としたため,その非開示部分の開示を求めて異議申立てをしたが,その一部のみが認められて開示され,残部については異議申立てが棄却されたことから,非開示とされた部分に関する原処分及び異議申立てを棄却した決定の各取消しを求めている事案である。
1 前提となる事実
(1) 原告は,北海道内に住所を有する者である。
被告は,北海道情報公開条例(平成10年北海道条例第28号,以下「条例」という。)において,実施機関と定められている者である。
(2) 原告は,平成11年2月2日,被告に対し,条例9条の規定に基づき,「a町への深地層試験場立地問題をめぐる,知事,副知事,経済部担当者と科学技術庁,核燃機構および関連する諸団体の協議にかかわる文書のすべて」の開示を請求した。これに対し,被告は,平成11年2月16日付け公文書一部開示決定通知書(資源第912号)をもって,開示請求の対象となった28件の公文書のうち,別紙1記載のとおり,11件について,部分的に非開示とする一部開示決定処分(以下「原処分」という。)をし,原告に通知した。
(3) そこで,原告は,平成11年2月25日,被告に対し,行政不服審査法6条の規定に基づき,原処分に対して異議申立てをした。被告は,北海道情報公開審査会の審議,答申を経て,平成12年5月24日,別紙2のとおり,原処分のうち一部を取り消したものの,その余の部分に係る異議申立てを棄却する決定(資源第240号。以下「原決定」という。)をした。原告は,同月25日,原決定の謄本の送達を受けた。
(4) 条例には,次のような定めがある。
ア 前文
「 道が保有する情報は,道民の共有の財産であり,これを広く公開することは,民主主義の原理及び地方自治の本旨に由来する開かれた道政を推進していくために不可欠である。
道は,これまで,公文書の開示制度を導入し,情報の公開に努めてきた。しかし,近年,地方分権の推進など道政を取り巻く環境が大きく変化し,道民による行政参加と監視の視点から,情報の公開の重要性がますます高まっており,公文書の開示制度に加えて情報提供の積極的な推進など情報公開制度全般にわたる一層の整備,充実が求められている。
新しい情報公開制度は,だれもが知りたいときに自由に知り得るよう知る権利を明らかにするとともに,道政の諸活動について説明する責任を全うすることにより,その公開性を高め,及び道民参加を促進するものでなければならない。
このような考え方に立って,道政に対する理解と信頼を深め公正で民主的な道政を確立するため,この条例を制定する。」
イ 1条(目的)
「 この条例は,公文書の開示を請求する権利を明らかにするとともに,公文書の開示及び情報提供の推進に関し必要な事項を定めることにより,開かれた道政を一層推進し,もって地方自治の本旨に即した道政の発展に寄与することを目的とする。」
ウ 9条(公文書の開示を請求する権利)
「 何人も,実施機関に対して,公文書の開示を請求することができる。」
エ 10条(実施機関の開示義務)
「1 実施機関は,公文書の開示の請求(以下「開示請求」という。)があったときは,開示請求に係る公文書に,次の各号に掲げる情報(以下「非開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き,当該公文書に係る公文書の開示をしなければならない。(中略)
(4) 道又は国若しくは地方公共団体その他の公共団体(以下「国等」という。)の事務又は事業に係る意思形成過程において,道の機関内部若しくは道の機関相互間又は道の機関と国等の機関との間における審議,協議,調査研究等に関し,実施機関が作成し,又は取得した情報であって,開示することにより,当該事務又は事業に係る意思形成に著しい支障が生ずると明らかに認められるもの
(5) 道と国等との間における協議により,又は国等からの依頼により,実施機関が作成し,又は取得した情報であって,開示することが当該協議又は依頼の条件又は趣旨に反し,国等との協力関係が著しく損なわれることにより,当該協議又は依頼に係る事務又は事業の適正な執行に支障が生ずると認められるもの
(6) 試験の問題及び採点基準,検査,取締り等の計画及び実施要領,争訟の方針,入札予定価格,用地買収計画その他の道又は国等の事務又は事業に関する情報であって,開示することにより,当該事務若しくは事業の目的を失わせ,又は当該事務若しくは事業若しくは将来の同種の事務若しくは事業の公正若しくは円滑な実施を著しく困難にすると認められるもの(中略)
2 実施機関は,開示請求に係る公文書に,非開示情報とそれ以外の情報が記録されている場合において,非開示情報とそれ以外の情報とを容易に,かつ,開示請求の趣旨が損なわれない程度に分離することができるときは,前項の規定にかかわらず,当該非開示情報が記録されている部分を除いて,当該公文書に係る公文書の開示をしなければならない。」
オ 11条(公益上の必要による開示)
「 実施機関は,開示請求に係る公文書に非開示情報が記録されている場合であっても,当該情報を開示することが人の生命,身体,健康又は生活の保護のため公益上必要があると認めるときは,当該公文書に係る公文書の開示をするものとする。」
2 争点及び当事者の主張
(1) 原処分の適法性について
(被告の主張)
原告が開示を求めた公文書のうち,原処分が非開示とした公文書について,原決定により開示とされた部分以外の部分(以下「本件公文書」という。)は,別紙3の被告の主張部分に記載のとおり,いずれも,条例10条1項5号に該当する非開示情報が記載されているから,これらを非開示とした原処分は適法である。この点について,原告が条例前文違反,10条1項5号該当性及び11条違反について主張するところは,以下のとおり理由がない。
ア 条例前文違反について
条例前文は,具体的な法規を定めたものではなく,その意味で,前文の内容から直接に法的効果が生ずるものではなく,条例各条項の解釈の基準を示す意義・効力を有するにすぎない。したがって,条例の適用に当たっては,前文の趣旨や法文解釈の一般原則を踏まえ,条例の文言に沿って,合理的に解釈し,運用しなければならないのは当然のことであるが,「知る権利」という抽象的な権利を根拠に,条例に規定する非開示情報に該当するものを開示すべきであるということにはならず,原処分が行政の説明責任を果たしていないとする原告の主張は明らかに失当である。
イ 条例10条1項5号違反について
条例にいう「道と国等との間における協議により,又は国等からの依頼により,実施機関が作成し,又は取得した情報」とは,道と国等との間において,法令等に基づき,若しくは任意に行われる協議により,又は国等からの依頼,照会等により実施機関が自ら作成し,又は他から入手した情報をいい,「開示することが当該協議又は依頼の条件又は趣旨に反し」とは,道と国等との間における協議又は国等からの依頼に際して開示しないこととする情報が特定されている場合はもとより,当該協議又はその依頼の趣旨,目的,情報の内容等からその情報を開示するべきでないと認められる場合においてこれらの情報を開示することをいい,「国等との協力関係が著しく損なわれることにより,当該協議又は依頼に係る事務又は事業の適正な執行に支障が生ずると認められるもの」とは,開示することにより道と国等との間における協力関係が著しく損なわれることによって,当面又は将来にわたって当該協議又は依頼に係る事務又は事業の適正な執行に支障が生ずると認められる情報をいう。
本件公文書には,道と国及び核燃料サイクル開発機構(旧名称「動力炉・核燃料開発事業団」,以下「核燃機構」といい,特に旧名称で表記するときは「旧動燃」という。)がa町における深地層研究所計画について打合せを行った用務に係る旅行の復命書及び報告書並びに道が国からa町における深地層研究所計画についての処理経過等に係る情報を聴取した電話受理処理簿であり,道と国等との間において任意に行われた協議により,実施機関(道)が自ら作成した情報であり,このうち科学技術庁(当時の名称,以下同じ。)等から提供を受けた情報は,北海道の担当者が科学技術庁等の協議出席者に確認を行うことなく,一方的にかつその要旨のみを記録したものであって,当該協議で実際に発言した内容と本件公文書に記録されている内容とが正確に一致しているとはいえないものである。
そして,a町における深地層研究所計画に係る国等と道との協議では,打合せ時点での国の原子力政策に係る個人的見解や,団体・個人の深地層研究に関する私案などが示されており,これを開示することになれば国の原子力政策に関し様々な誤解を生じさせる恐れがあることから,公開しないことを前提に忌憚のない意見交換が行われたものであり,仮にこれらの非公開を前提として提供され,かつ,道が一方的に取りまとめた秘匿すべき情報(国や道の担当者が,非公式に個人的見解や第三者への評価を述べているもの及び国や道の担当者が第三者の公になっていない意見や見解を述べているもの)を開示した場合には,原子力政策を一元的に進めている国等との信頼協力関係が著しく損なわれると考えられ,今後の国等とのそれらの協議において,国等からの道への迅速で正確な情報提供が行われなかったり,国の原子力政策における深地層研究所計画の評価や位置付けなど同計画を巡る的確な情報の収集に困難を来すこととなり,同計画に関する円滑な意見交換ができなくなるなど国等との協議を進めていく上で著しい支障が生じる可能性は極めて高いものである。国等は,現時点においても,本件公文書の公開について否定的な見解を示しており,このような国等の意向に反して本件公文書を公開することになれば,それにより道と国等との信頼協力関係が著しく損なわれ,今後,国等との協議を進めていく上で著しい支障が生じる可能性は極めて高いと考えられる。したがって,北海道が本件公文書を一方的に開示することは,科学技術庁等との間の信頼関係を損ない,今後も継続して行われる科学技術庁等との協議において北海道への情報提供が行われなくなったり,円滑な意見交換ができなくなるなど深地層研究所計画に関する事務を適正に執行していく上で著しい支障が生じる可能性は高いものと認められることから,本件公文書が条例10条1項5号に規定する非開示情報に該当することは明らかである。
ウ 条例11条違反について
原告が公益上の必要性として列挙する事由は,原告の独自の認識ないし解釈に基づくものである。深地層研究所計画に関して,放射性廃棄物を持ち込ませないことを前提に科学技術庁等に照会したところ,科学技術庁からは平成10年12月18日付けで,「北海道知事をはじめとする地元が中間貯蔵施設及び処分場を受け入れない意思を表明されているもとでは,北海道内が高レベル放射性廃棄物の中間貯蔵施設及び処分場の立地場所になることはないものであります。」とする回答が,また,核燃機構からは,同日付けで,「研究実施区域に,研究期間中はもとより終了後においても,放射性廃棄物を持ち込まないし,使用することはありません。また,当該区域を将来とも放射性廃棄物の処分場にすることはありません。」とする回答がそれぞれ示されている。さらに,道,a町及び核燃機構は,科学技術庁の立会いの下に,平成12年11月,核燃機構が研究実施区域に研究期間中はもとより研究終了後においても放射性廃棄物を持ち込むことや使用することはないことや,a町に放射性廃棄物の中間貯蔵施設を将来とも設置しないことなどを確認する協定を締結している。したがって,それぞれの回答以前にされた北海道と科学技術庁等との協議内容を記録した本件公文書に,条例11条に規定するような公益上必要があると認められるような情報が含まれていないことは明白である。
(原告の主張)
本件公文書は,別紙3の原告の主張部分に記載のとおり,いずれも,条例10条1項5号に規定する非開示情報には当たらないから,これらを非開示とした原処分は違法である。その理由について,条例前文違反,条例10条1項5号該当性及び条例11条違反の点を敷衍すると,以下のとおりである。
ア 条例前文違反
昭和61年に制定された「北海道公文書の開示等に関する条例」(以下「旧条例」という。)は,非開示事項が広範かつ曖昧であることや,不服審査手続の不備,情報公開に対する理念・目的が明確でないこと等の問題点が指摘され,国においても情報公開や地方分権の推進に関する法整備が進みつつあり,司法においても情報公開を積極的に解釈しようとする判決が相次いでいた状況の中で,道庁不正事件をきっかけに,開かれた道政を進めるために情報公開を求める機運が高まった。被告は,平成9年1月,情報公開制度検討会を設置して,旧条例の改正に向けた作業などを進めた結果,同検討会は,「情報公開が民主主義の原理及び地方自治の本旨に由来する開かれた道政の推進に寄与すべく,道政に対する住民参加の促進及び住民監視の強化,住民生活の質的向上に資するという機能を有することに鑑みれば,情報公開のための制度は,道が保有する情報を住民の誰もが知りたいときに,自由に知り得るよう,知る権利を保障するとともに行政の説明責任を課し,また,住民主体の政治を実現するよう住民参加を促進し,住民監視を強化するところに,その理念がある」との提言をまとめている。こうして条例は,平成10年に全面改正され,情報公開を積極的に進める時代が到来したことを踏まえ,前文で道民の「知る権利」を明記するとともに,行政の「説明する責任を全うすること」によって,「道民参加を促進する」ものでなければならないと基本的な理念を示している。この理念を実現するためには,具体的な情報開示を通じて「知る権利」を保障することが必要である。原処分は,道と科学技術庁及び核燃機構との協議内容に関して,行政の説明責任を果たしていない。これは,道民の「知る権利」を侵害しており,条例前文に違反する。
なお,被告は,知る権利を抽象的権利であると主張するが,知る権利は,判例上も憲法21条から導かれる権利であるとされており,他の地方自治体における条例上も権利として明記されているなど,法令上も判例上も権利として定着しつつあるものである。
イ 条例10条1項5号違反
条例10条1項5号は,国等との協力関係が損なわれることによって,当該協議等に関わる事務事業の適正な執行に支障が生ずると認められるものに限って公文書を非開示とすることができるとしており,同条項の適用に当たっては,実施機関の主観的,恣意的な解釈が入ってはならない。被告は,科学技術庁等から深地層研究所(仮称)の立地申入れを受けている立場であり,「国等との協力関係」にあるものではない。また,深地層研究所は,旧動燃が発表した貯蔵工学センター計画の中で深地層試験場の名称で計画されていたものであるが,道は,貯蔵工学センター計画の白紙撤回を求めてきたのであるから,道は,白紙撤回を求める相手方である科学技術庁などと協力関係にあるとは到底いえない。したがって,本件公文書は,「協力関係情報」とはいえず,これを根拠に原処分を行うことは,条例10条1項5号に違反する。
被告は,本件公文書を開示すると科学技術庁等との信頼関係を損ない今後の協議で北海道への情報提供が行われなくなったり円滑な意見交換ができなくなる旨主張するが,それは被告の主観的,恣意的解釈を述べるにとどまっており,深地層研究所計画に関する調整に困難を来す根拠が全く示されていない。本件公文書に記録された情報は,すでに新聞報道等で公になっている事実であったり,道と科学技術庁等との間で決着が付いた事柄がほとんどである。また,要旨のみを記録した公文書は,実際の発言内容と正確に一致しないというが,それは当然のことであって,それを理由に開示を拒否する理由にはならない。
ウ 条例11条違反
条例11条は,「公益上必要がある」ときには,非開示情報が記録されている場合であっても,実施機関は公文書の開示をするものと明記している。同条項は,人の生命,身体,健康又は生活の保護のために定められた。a町への放射性廃棄物関連施設の立地計画は,約20年間にわたって北海道を揺るがしてきた社会的・政治的問題である。それは,同町やその周辺地域が放射性廃棄物の貯蔵・処分場にされることで,将来にわたって,道民の生命,身体,健康,生活等を侵害するおそれがあるためである。長年,北海道や周辺市町村,道民が立地計画に反対してきたのは,このような理由によっている。科学技術庁等が被告らに立地を申し入れている深地層研究所は,もともと,旧動燃が昭和59年に発表した「貯蔵工学センター(高・低レベル放射性廃棄物貯蔵施設および深地層試験場)計画」の中核施設として位置づけられていた。また,原子力委員会の中間報告(同年8月)では,同計画の深地層試験場を「処分予定地の選定に資する」ものと明記していた。現在,同研究所の目的は,核燃機構が「地層処分研究開発第二次とりまとめ」で示した技術的信頼性を,実際の深地層での試験を通じて検証することとされている。しかし,同研究所で処分技術の実証試験を行うなどしてデータを蓄積し,高レベル放射性廃棄物を地下に埋め捨てる「地層処分」については,安全に処分する技術が確立されておらず,世界のどの国においても実現していない。このため,地層処分の是非について,国民の意見が分かれているのが実態である。また,処分研究についても,「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」によって処分場と処分研究施設の区別が明文化されていないことなどから,研究施設の立地が呼び水となって,将来,a町やその周辺地域が放射性廃棄物の貯蔵,処分場にされるおそれがあるとの指摘がされている。科学技術庁原子力局長は,平成10年2月,被告に対し,貯蔵工学センター計画を取りやめて新たな提案としてaにおける深地層試験を早急に推進したいとの申入れを行い,これを受けて被告は,「国に対してa計画を白紙に戻すことを求める」との公約との整合性を検証していたのであるが,本件公文書は,この申入れと前後して作成されたものなのである。よって,本件公文書は,道民の生命や健康,財産などの今後を考察する上で重要な情報であり,きわめて公益性が高く,積極的に開示すべきものである。したがって,原処分は,条例11条に違反する。
(2) 原決定の適法性について
(被告の主張)
原決定は,適正な手続のもとに適法に行われている。
なお,原告の主張のうち,原処分の違法をいう部分は,原決定の固有の瑕疵をいうものではないから,行政事件訴訟法10条2項に反し,不適法である。
次に,条例21条2項違反をいう点については,被告は,審査会の答申を受けた後,当該答申を尊重して速やかに原決定を行ったのであり,同決定までの期間が条例21条2項に規定する3か月を超えるものであっても,当該規定は訓示規定と解するのが相当であるから,このことをもって直ちに同決定の効力に影響を及ぼすものではない。なお,審査会の答申が出されるまでに日数を要したのは,21回にわたって審査会が開催され,慎重な審査が行われたからであり,被告が欠席したのは1回だけであるから,被告がいたずらに審査を長引かせたり,審査会がこれを追認したということにはならない。被告は,審査会において,原処分と異なる非開示理由である条例10条4号,6号に係る主張をしたことは事実であるが,これは,審査会の審査の過程において,本件公文書が当該非開示情報にも該当すると考えられることを述べたものであり,いたずらに審査を長引かせるために行ったものではない。
(原告の主張)
原決定には,1で述べた原処分の違法と同様の違法があるほか,条例21条2項に違反する違法がある。
すなわち,条例21条2項は,不服申立てがあったときは,実施機関は,その翌日から起算して3か月以内に,当該申立てに対する決定または裁決を行うよう努める旨を定めている。これは,「公正・迅速な救済手続」の観点から,できるだけ早期に決定または裁決が行われることが必要なためである。特に,旧条例において,不服審査事務手続が整備されていなかったことの反省を踏まえて被告の諮問機関である情報公開制度検討会が「公正・迅速な救済手続の観点からは,不服申立てに対する決定又は裁決は,できるだけ早期に行われることが望ましいことから,90日以内に行うよう努める旨の規定を条例に定めるべきである」との提言をしたのを受けて,この条項が定められたのである。しかるに,被告は,平成11年6月8日の審査会第二部会において,原処分に挙げていなかった条項を持ち出し,「条例10条4号,6号にも該当する」と違法な主張を展開した。また,被告は,同部会への出席を約束しながら,直前になって欠席を通知するなど,審査会に対して非協力的な対応をしたこともあった。このように,被告はいたずらに審査を長引かせ,審査会もこれを追認した。その結果,申立てから1年2か月も経過してようやく審査会答申が出され,原告の開示請求権が著しく侵害された。したがって,被告のした原決定は,条例21条2項に違反する。
第3争点に対する判断
1 争点(1)について
(1) 被告は,本件公文書を非開示とした理由として,本件公文書が条例10条1項5号に該当する非開示文書であると主張するところ,原告は,これを争うとともに,これを非開示とした原処分が条例前文に違反すると主張するので,まず,この点について検討する。
前記のとおり,条例前文は,道が保有する情報を公開することが民主主義の原理及び地方自治の本旨に由来する開かれた道政を推進していくために不可欠であるとの認識の下に,人々の知る権利と道の側の説明責任を明らかにした上で,道政の公開性を高め道民参加を促進することにより,道政に対する理解と信頼を深め公正で民主的な道政を確立するために制定されたという条例の制定趣旨を明らかにし,もって,条例の本文の各条項を解釈するに当たっての指針を示していると解することができる。したがって,本件においても,条例10条1項5号の解釈に当たり,それが前文に謳う知る権利の保障の趣旨を没却することのないように解釈しなければならないという趣旨においては,解釈上重要な規定であるといわなければならない。しかし,前文の体裁とその文言に照らすと,前文の法的趣旨はそのような宣言的,指針的な効力を有するに止まるものであって,すすんで,前文の規定自体が,条例の具体的条項と離れて,実施機関が行うべき処分についての具体的な要件を定めたものと解することはできない。
したがって,条例前文自体が効力規定であることを前提として,原処分が条例前文に違反して違法であるとの原告の主張は,理由がない。
(2) 次に,本件公文書が,条例10条1項5号に定める非開示文書に該当するかどうかについて検討する。
ア まず,条例10条1項5号にいう「道と国等との間における協議により,実施機関が作成し,又は取得した情報」とは,道と国等との間において行われる協議により,実施機関が自ら作成し,又は他から入手した情報を,「開示することが当該協議の条件又は趣旨に反し」とは,道と国等との間における協議に際して,その情報を開示しないこととする旨明示的に定められた場合のほか,当該協議の趣旨,目的及び情報の内容等から判断して,その情報を開示しないこととする旨黙示的に定められたと認められる場合に,これらの情報を開示することを,「国等との協力関係が著しく損なわれることにより,当該協議に係る事務又は事業の適正な執行に支障が生ずると認められるもの」とは,開示することにより道と国等との間における協力関係が著しく損なわれることによって,当面又は将来にわたって当該協議に係る事務又は事業の適正な執行に支障が生ずると認められる情報をいうものと解される。
イ 証拠(甲4,5,28,乙4,5)によれば,本件公文書は,別紙3掲記の「公文書の名称」及び「部分」のとおりであり,原告の公文書開示請求の結果開示された文書の名称,文書に記載された関係者の役職,非開示文書の内容として示された内容(別紙3の「発言内容及び被告が主張する開示した場合の著しい支障の内容」)及び一部開示された部分のあるものについてはその部分の内容(甲4,5)から判断すると,道と国(科学技術庁)及び核燃機構がa町において計画している深地層研究所の事業及びこれに関する事務について協議を行った用務に係る旅行の復命書及び報告書並びに道が国からa町における深地層研究所計画に係る情報を聴取した電話受理簿で,道と国等との関係者間において行われた協議に基づき,道の関係者が,そのやりとりの要旨あるいはやりとりの文言を再現する形式で記載したものであって,道が自ら作成した情報ということができる。
ウ 次に,証拠(乙9及び10の各1,2)によれば,本件公文書に係る協議について,道からの照会に対し,科学技術庁原子力局廃棄物政策課長は,本件公文書の内容は,文章化し公開されることを念頭に置いたものではなく,開示された場合には,これまでの科学技術庁と道との間の相互の協力関係が著しく損なわれ,今後道との間の率直な意見交換等の場が損なわれるおそれがあるとの回答を,また,核燃機構の総務・立地部長は,本件公文書の内容には,機関として正式に決定する前の私案などが示されており,公開しないことが前提であったと認識しているとの回答を寄せていることが認められる。
ところで,証拠(甲9,13ないし15,27,乙7)によれば,科学技術庁及び核燃機構の前身である旧動燃は,a町に高レベル放射性廃棄物研究・貯蔵施設(貯蔵工学センター)を設置し,深地層試験場を建設する事業計画を建てたが,地元住民,周辺地方自治体及び被告からの根強い反対にあって,これを断念したが,その後,新たに,a町に深地層研究所を建設する事業計画を立てていたこと,その事業計画についても,従前の貯蔵工学センターと同様に,施設に核廃棄物を持ち込むこととなるとしてこれに反対する住民の意見もあったこと,本件公文書に係る協議は,そのような事業計画の立案過程の中で行われた道と科学技術庁及び核燃機構の関係者の意見交換の場であったことが認められるから,科学技術庁及び核燃機構の側では,深地層研究所の事業計画に関しては,慎重な検討と準備を行っていたものと推認されるのであり,機関として正式に決定しあるいは公表する以前の私案や試案,その他関係諸団体からの非公式な情報等を収集し,これを踏まえて,地元の地方自治体である道の側との意見交換に臨んでいたもので,前記の各回答に照らしても,その協議は,その内容から,少なくとも黙示的に非公開を前提として行うことが関係者間において了解されていたものと推認するに難くないものというべきである。
そして,このような協議の内容に照らすと,本件公文書の中には,道民の間で様々な対立的な意見のある国等の事業計画に関し,公開しないことを前提に,国等の関係者の非公式な意見が披瀝されたものを記載した部分,すなわち,国等の担当者が,道の側からの問い掛けや求めに応じて,非公式に個人的見解や第三者への評価を述べたり,国等ないし第三者の公になっていない意見や見解を述べた部分があり,道が,非公開とする前提に反して,それらの部分を開示した場合には,国民の間でも先鋭な意見の対立が見られる分野の1つである原子力に関する政策を担当している科学技術庁を始めとする国等の側から,情報提供を受けた者としての信義に反するとの非難を受けることを免れず,その結果,国等との間の協力信頼関係が著しく損なわれ,その事業遂行に当たっての事後の迅速,的確,適正かつ円滑な情報交換に重大な支障を来すなど,今後の協力関係が著しく損なわれるおそれがあることは,前記の回答に照らしても,否定し難いところといわなければならない(なお,道が当時深地層研究所設置事業について必ずしもこれに賛成する立場に立っていなかったとはいえ,国が道内の地域にその設置を検討しており,道の側でもそれに関する情報を得るべく科学技術庁等との協議を重ねている以上,道は,これについて,国等との協力関係にあったということができる。)。もとより,国民や道民の間で意見の対立のある事業であればなおさらその情報を開示すべきであり,それが,条例前文の知る権利の保障と行政の説明責任を全うする途であるとの趣旨の原告の主張は,政策的判断としては聞くべきところが多いけれども,他面において,条例上,非開示事由として上記のような定めが設けられ,情報の非開示が限定的とはいえ容認されていることに鑑みれば,事務又は事業の適正な執行のための国等との協力信頼関係の維持という政策的価値の要請の下においては,知る権利の保障と行政の説明責任の要請がその限度で一部後退することも,条例自体がやむを得ないものとして是認していると解されるのであって,このように解することは,何ら条例前文の趣旨を没却するものということはできない。
また,科学技術庁や核燃機構との打合せ等に関与した道職員の発言自体は,それがその個人的ないし非公式の発言であるにせよ,そのような発言を含む協議が行われたこと自体が開示すべきでない情報であるというような特殊な場合を除けば,道職員の発言自体が開示されたからといって,それが国等からの非公式見解を復唱するなどそれ自体が国等の側の発言内容を開示するのと同様であることが明らかであるとか,道職員の発言から国等の側の発言内容そのものが明らかになると認められるものではない限り,当然には国等との間の協力関係を著しく損なうものではないと解することもできないわけではないが,本件公文書の内容及びその形式に照らすと,本件公文書は,いずれも国等の職員と道職員の協議若しくはやりとり又はその要旨を記載したものであって,それぞれの文書全体が一体としての1つの情報というべきであるから,これを細分化して,国等の職員の発言部分のみを非開示とすることは相当ではないというべきである。なお,条例が,11条2項において,非開示情報の一部について,請求の趣旨が損なわれない程度に容易に分離することができるときは,当該非開示情報が記録されている部分を除いて開示しなければならないとしていることは,上記判断を左右しない。
エ そこで,このような見地に立脚して,本件公文書について,証拠(乙4,5)に基づき,以下検討する。
① 平成9年12月26日付け復命書に記載された平成9年12月25日の意見交換は,科学技術庁のA審議官,B課長及びC補佐ほか,旧動燃のD理事及びE次長並びに道のF副知事,G部長及びH課長が出席して行われ,その要旨のうち,別紙3の部分が非開示とされたのであるが,それらは,いずれも,A審議官,G部長,B課長,F副知事及びD理事が,他県や個人の原子力政策,今後のスケジュール及び申入書について,非公式見解を述べた部分とされている。
したがって,上記文書には,科学技術庁及び核燃機構の関係者の発言部分について非開示情報が含まれており,また,文書全体が一体としての1つの情報と捉えられる以上,これを開示することは,協議の趣旨に反し,国等との協力関係が著しく損なわれることにより,当該協議に係る事務又は事業の適正な執行に支障が生ずると認められる。
② 平成10年1月23日付け復命書に記載された1998年1月22日の意見交換は,科学技術庁のA審議官,B廃棄物政策課長及びC課長補佐ほか,旧動燃のD理事及びI参事並びに道のG経済部長及びH資源エネルギー課長が出席して行われ,その要旨のうち,別紙3の部分が非開示とされたのであるが,それらはいずれもG経済部長,A審議官,B廃棄物政策課長及びH資源エネルギー課長が,a問題及び申入書について,自らの又は第三者の非公式見解を述べた部分とされている。
したがって,上記文書には,科学技術庁及び旧動燃の関係者の発言部分について非開示情報が含まれており,また,文書全体が一体としての1つの情報と捉えられる以上,これを開示することは,協議の趣旨に反し,国等との協力関係が著しく損なわれることにより,当該協議に係る事務又は事業の適正な執行に支障が生ずると認められる。
③ 平成10年2月12日付け復命書に記載された1998年2月10日14時から14時40分の意見交換は,科学技術庁のA審議官,B廃棄物政策課長及びC課長補佐,旧動燃のD理事並びに道のG部長及びH課長が出席して行われ,また,同日15時から16時の意見交換は,科学技術庁のB廃棄物政策課長及びC課長補佐,旧動燃からD理事並びに道からG経済部長及びH課長が出席して行われ,その要旨のうち,別紙3の部分が非開示とされたのであるが,それらは,前者が,A審議官,G経済部長,D理事及びB廃棄物政策課長,後者がB廃棄物政策課長,G経済部長及びH課長が,申入書の内容等,貯蔵工学センター計画の白紙撤回の措置内容等,旧動燃及び他県の原子力政策について,それぞれ自ら又は第三者の非公式見解を述べた部分とされている。
したがって,上記文書には,科学技術庁及び旧動燃の関係者の発言部分について非開示情報が含まれており,また,文書全体が一体としての1つの情報と捉えられる以上,これを開示することは,協議の趣旨に反し,国等との協力関係が著しく損なわれることにより,当該協議に係る事務又は事業の適正な執行に支障が生ずると認められる。
④ 平成10年3月5日付け報告書に記載された平成10年2月13日の意見交換は,科学技術庁のC課長補佐及びJ事務官並びに道のH課長,K課長補佐及びL係長が出席して行われ,その要旨のうち,別紙3の部分が非開示とされたのであるが,それらはC補佐とH課長が,補助金及び貯蔵工学センター計画の白紙撤回の具体的措置等について,自らの側の非公式見解を述べた部分とされている。
したがって,上記文書には,科学技術庁及び旧動燃の関係者の発言部分について非開示情報が含まれており,また,文書全体が一体としての1つの情報と捉えられる以上,これを開示することは,協議の趣旨に反し,国等との協力関係が著しく損なわれることにより,当該協議に係る事務又は事業の適正な執行に支障が生ずると認められる。
⑤ 平成10年5月15日付け復命書に記載された平成10年5月11日の打合せは,科学技術庁のM補佐及びJ事務官並びに道のH資源エネルギー課長及びN主幹が出席して行われ,その要旨のうち,別紙3の部分が非開示とされたのであるが,それらはいずれも出席者が,貯蔵工学センター計画の白紙撤回の具体的な措置について,自らの側の非公式見解を説明し述べた部分とされている。
したがって,上記文書には,科学技術庁及び旧動燃の関係者の発言部分について非開示情報が含まれており,また,文書全体が一体としての1つの情報と捉えられる以上,これを開示することは,協議の趣旨に反し,国等との協力関係が著しく損なわれることにより,当該協議に係る事務又は事業の適正な執行に支障が生ずると認められる。
⑥ 平成10年5月22日付け電話(口答)受理処理簿は,科学技術庁廃棄物政策課のJが発信し道の主査Oが受信した電話受理処理簿であり,その要旨のうち,別紙3のとおり,J発言の一部が非開示とされたのであるが,それは科学技術庁のJが,a町に対する補助金の扱いについて,非公式な見解を述べた部分であるから,これを開示することは,協議の趣旨に反し,国等との協力関係が著しく損なわれることにより,当該協議に係る事務又は事業の適正な執行に支障が生ずると認められる。
⑦ 平成10年5月25日付け復命書中,平成10年5月21日の打合せは,科学技術庁のM課長補佐,J事務官,道のN主幹,O主査が出席して行われ,その要旨のうち,別紙3の部分が非開示とされたのであるが,それは国の担当者が,a町に対する補助金の扱いについて,自らの側の非公式見解を説明し述べた部分とされている。
したがって,これを開示することは,協議の趣旨に反し,国等との協力関係が著しく損なわれることにより,当該協議に係る事務又は事業の適正な執行に支障が生ずると認められる。
⑧ 平成10年5月28日付け電話(口答)受理処理簿は,科学技術庁廃棄物政策課のJが発信し道の主査Oが受信した電話受理処理簿であり,その要旨のうち,別紙3のとおり,J発言の一部が非開示とされたのであるが,それは科学技術庁のJが,貯蔵工学センター計画の白紙撤回の具体的な措置について,非公式な見解を述べた部分であるから,これを開示することは,協議の趣旨に反し,国等との協力関係が著しく損なわれることにより,当該協議に係る事務又は事業の適正な執行に支障が生ずると認められる。
⑨ 平成10年6月1日付け電話(口答)受理処理簿は,科学技術庁廃棄物政策課のJが発信し道の主査Oが受信した電話受理処理簿であり,その要旨のうち,別紙3のとおり,その一部が非開示とされたのであるが,それらはJ及びOが貯蔵工学センター計画の白紙撤回の具体的な措置についての考え方や町の補助金に対する非公式な考え方を述べた部分とされている。
したがって,上記文書には,科学技術庁及び旧動燃の関係者の発言部分について非開示情報が含まれており,また,文書全体が一体としての1つの情報と捉えられる以上,これを開示することは,協議の趣旨に反し,国等との協力関係が著しく損なわれることにより,当該協議に係る事務又は事業の適正な執行に支障が生ずると認められる。
⑩ 平成10年7月3日付け復命書に記載された7月2日10時30分から11時の打合せは,科学技術庁のP廃棄物政策課長と道のG部長が出席して行われ,また,同日11時から12時の打合せは,科学技術庁のM補佐及びJ事務官並びに道のN主幹が出席して行われたが,それらの要旨のうち,別紙3の部分が非開示とされたのであるが,それらのうち前者はG部長とP課長が,貯蔵工学センター計画の白紙撤回の具体的な措置について,自ら又は第三者の非公式見解を,また,後者は,出席者が,貯蔵工学センター計画の白紙撤回の具体的な措置や町の地元の状況,団体からの回答作業について,非公式見解を述べた部分とされている。
したがって,上記文書には,科学技術庁及び旧動燃の関係者の発言部分について非開示情報が含まれており,また,文書全体が一体としての1つの情報と捉えられる以上,これを開示することは,協議の趣旨に反し,国等との協力関係が著しく損なわれることにより,当該協議に係る事務又は事業の適正な執行に支障が生ずると認められる。
⑪ 平成10年11月12日付け復命書に記載された平成10年11月11日10時からの打合せは,科学技術庁のA審議官,P廃棄物政策課長及びM課長補佐並びに道のF副知事及びQ経済部次長が出席して行われ,その要旨のうち,別紙3の部分が非開示とされたのであるが,それらは,A審議官,F副知事及びQ次長が,政党や団体のa問題の今後の対応について,自らの又は第三者の非公式見解を述べた部分及び国から取扱注意として示された日程(案)とされている。
したがって,上記文書には,科学技術庁及び旧動燃の関係者の発言部分について非開示情報が含まれており,また,文書全体が一体としての1つの情報と捉えられる以上,これを開示することは,協議の趣旨に反し,国等との協力関係が著しく損なわれることにより,当該協議に係る事務又は事業の適正な執行に支障が生ずると認められる。
また,同復命書に記載された同日10時40分からの打合せは,科学技術庁のP廃棄物政策課長及びM課長補佐並びに道のQ経済部次長が出席して行われ,その要旨のうち,別紙3の部分が非開示とされたのであるが,それらはいずれもQ次長,P課長及びJ事務官が,政党や団体のa問題の今後の対応について,自らの又は第三者の非公式見解を述べた部分とされている。
したがって,上記文書には,科学技術庁及び旧動燃の関係者の発言部分について非開示情報が含まれており,また,文書全体が一体としての1つの情報と捉えられる以上,これを開示することは,協議の趣旨に反し,国等との協力関係が著しく損なわれることにより,当該協議に係る事務又は事業の適正な執行に支障が生ずると認められる。
オ なお,原告は,本件公文書に係る情報は,いずれも新聞報道等によって,明らかになっており,非公式な情報ではないと主張するところ,確かに証拠(甲29ないし37)によれば,本件公文書に係る協議の概要が道からの情報として報道されているようにもうかがわれないわけではないけれども,前記のように,本件公文書に係る科学技術庁及び旧動燃側の情報は,協議の相手方である科学技術庁及び旧動燃の関係者の発言の概要ないし発言そのものあるいは取扱注意とされた日程を記載するという形態をとっているもので,その内容も道民の間で様々な対立的な意見のある国等の事業計画に関し,公開しないことを前提に忌憚なく行われた非公式な意見等の交換に係る情報と考えられることからすると,その記載自体が開示されることは,その表現の巧拙とあいまち,微妙な事業政策に関する非公式な発言がそのまま公になることになるのであって,その協議における概要ないしその片鱗が新聞報道によって明らかにされているからといって,その発言という情報そのものの非公式性はなお失われてはいないと考えられる。したがって,原告の前記主張は採用することができない。
カ 以上の認定判断によれば,本件公文書に係る情報は,いずれも全体として各文書毎に,条例10条1項5号にいう非開示情報に当たると解するのが相当である。
(3) 次に,原告は,本件公文書に係る情報が条例11条に該当するから,なお,本件公文書を開示しなかった原処分は違法であると主張するので判断する。
前記のとおり,本件公文書に係る情報は,道と科学技術庁及び旧動燃との関係者との間で行われた深地層研究所の設置に関する事業計画に関するものであるが,それが条例11条にいう「当該情報を開示することが人の生命,身体,健康又は生活の保護のため公益上必要があると認められるとき」に当たるものと認めるに足りる証拠はない。原告の主張は,道民の生命や健康,財産などの今後を考察する上で重要な情報であるというのであるが,条例11条が条例10条で定める非開示情報であってもなお開示すべき特則を定めた規定であることからすると,そこで規定する公益上の必要性は,具体的かつ明白なものであることが必要であり,単に将来の一般的,抽象的な可能性にとどまるような場合を含むものではないというべきであるから,原告の上記主張は採用することができない。
(4) したがって,本件公文書を非開示とした原処分には違法の廉はないというべきである。
2 争点(2)について
被告のした原決定の手続及び内容に違法な点があると認めうる証拠はない。
原告は,原処分の違法をいうが,行政事件訴訟法10条2項によれば,原処分の違法を主張することはできないから,その点は理由がない。
また,原告は,条例21条2項に定める期限の不遵守を挙げるが,その規定の文言からみると,これを訓示規定と解することが素直な解釈であると思われるし,その規定の趣旨に照らしても,それを効力規定と解して,その不遵守を理由に原決定を取り消してみても,迅速な解決に至るものとも解し難い。したがって,原告の主張は採用することができない。その他原告の主張する手続に関する点は,いずれも原決定の違法を基礎づけるものではない。
したがって,原決定には固有の違法の廉はないというべきである。
3 結論
以上によれば,原告の本件請求は,いずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佐藤陽一 裁判官 村田龍平 裁判官 坂田大吾)