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札幌地方裁判所 平成13年(ワ)1419号 判決 2002年2月26日

主文

1  被告は,原告に対し,10万0584円及びこれに対する平成13年7月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は,これを13分し,その12を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。

4  この判決は,第1項及び第3項について,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1原告の請求

被告は,原告に対し,130万2047円及びこれに対する平成13年7月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要等

1  前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨から容易に認められる事実)

(1)  被告は,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)3条の登録を受けて貸金業を営んでいるものである。

(2)  平成6年2月25日,被告は,原告との間で金銭消費貸借契約等継続取引に関する基本取引約定を締結し,これに基づき,原告に対し,次のとおり金員を貸し付けた(別紙計算書の番号1記載の貸付。乙2,3)。

貸付日 平成6年4月8日

貸付金額 100万円(ただし,利息等5万8500円を天引)

返済期日 平成6年6月5日

返済方法 一括返済

利息 元金返済期日までの利息を一括先払い(天引)

利率 日歩8銭

(3)  上記(2)の貸付に際し,被告は,原告に対し,貸金業法17条所定の事項を記載した書面(以下「17条書面」という。)として,乙2の承諾書及び乙3の借用証書(正確には,これらと同内容の複写式書面の一部)を交付した。

(4)  原告は,被告に対し,上記(2)の借入金に対する利息として,平成6年6月7日から平成13年2月6日までの間,別紙計算書の番号2から82までの各取引年月日欄記載の日に,各支払金額欄記載の金員を返済した(甲2。以下,同計算書の番号欄2記載の返済を,単に「番号2の返済」などという。)。

なお,これら各利息の支払は,同計算書の各利息終期欄記載の年月日を終期とする各日数欄記載の日数期間に対応するものである。

(5)  被告は,原告が上記(2)の貸金の元利金の支払に用いるためのものとして,乙4ないし7(ただし,各枝番を含む。)の電信振込用紙を各支払期日の10日ほど前にそれぞれ原告にあてて送付した。

(6)  別紙計算書の番号17,18及び75の各返済は,原告が被告の店頭において直接利息を返済したものであり,この際,被告は,原告に対し,領収証(乙8,9)あるいは計算書(取引明細書)(乙10)を交付した。

2  原告の主張

(1)  別紙計算書の番号1ないし82の各返済(天引利息を含む。)について利息制限法1条1項の定める制限利率(年15パーセント)を超える額を貸付元本に充当計算していくと,既に元本が完済されているばかりか,130万2047円の過払金が生じている。

よって,原告は,被告に対し,第1記載のとおり,不当利得金の返還及びこれに対する訴状送達の日の翌日以降の遅延損害金の支払を求める。

(2)  なお,被告は,別紙計算書の各取引について,貸金業法43条1項に規定するみなし弁済の抗弁を主張するが,以下のとおり,いずれも理由がない。

すなわち,同計算書の番号1の利息天引については,法解釈上,みなし弁済の規定の適用があり得ない。被告が,貸金業法18条1項所定の事項を記載した書面(以下「18条書面」という。)として原告に交付した旨主張する電信振込用紙(乙4ないし7)を見ても,これらは,単に利息の案内及び取引明細として送付されたものに過ぎないし,同じく,前項(6)記載の各書面(乙8ないし10)についても,契約年月日や貸付金額の記載がないことから,これら書面は,いずれも18条書面としての要件を満たさない。さらに,原告は,利息制限法の制限利率を超過する利息の支払が無効であることを知らずに支払ったものであるし,また,被告が利息の先取りをしている観点から言っても,原告による任意の利息支払と見る余地はないのであって,貸金業法43条1項によって有効な弁済とみなされることはない。

3  被告の主張

被告は,原告に対し,貸付に当たって,1項(3)記載のとおり,17条書面を交付した。また,被告は,原告から別紙計算書の各返済(番号1の天引利息を含む。)を受けるに当たって,1項(5)及び(6)記載のとおり,18条書面を交付している。したがって,上記各返済は,貸金業法43条1項に規定するみなし弁済にそれぞれ該当するものであり,原告の請求は失当である。

(1)  利息天引とみなし弁済について

ア 貸金業法43条1項が利息制限法1条1項の特則であって,同法2条の特則ではないことを理由に,天引利息にみなし弁済を適用しないとする考え方はとり得ない。

貸金業法43条1項において,同項が利息制限法2条の特則であること等を示す明確な文言がないのは確かである。しかし,同法は,金銭消費貸借における利息及び損害金等,金銭消費貸借の対価の制限を規定した法律であって,その中核は具体的な利率の制限を定める1条1項と4条1項であり,それ以外の規定は,超過利息や超過賠償額の取扱いについての規定であったり(1条2項,4条2項),天引の場合の制限利息の計算方法であったり(2条),みなし利息の取扱いであったり(3条)するのであるから,貸金業法43条1項が条文の文言上,明確に利息制限法2条の適用を排除していないからといって,これと天引利息にみなし弁済が適用されることとは,何ら矛盾するものではない。

また,利息制限法2条の規定が定められた背景には,利息天引による貸付が,実質的には天引後の交付金額を元本とした金銭消費貸借と同一視できるという考え方があるのであって,天引による貸付の場合もそうでない場合も,結果的にはともに同法1条1項所定の制限利率による利息計算がされるのであるから,そもそも,2条と1条1項とを比べて,どちらが厳しいであるとか緩やかであるなどといった発想自体が成り立つものではないのであるし,また,2条の存在により,却って利息天引に対する制限が緩和されるかのような現象が生ずる事例すらあるのである(事例の詳細については,被告の平成13年12月18日付け準備書面の8頁以下に記載があるが,ここでは省略する。)。したがって,同法2条が1条1項よりも厳しい制限を加えた規定であるとの解釈を前提として,天引利息にみなし弁済の適用を認めない考え方は,誤ったものと言うほかない。

イ 天引による利息の支払について,現実の金銭の移動がないことを理由に,貸金業法43条1項の定める「支払った」に該当しないという考え方もとり得ない。

ウ 天引による利息の支払について,定型的に任意性がないとする考え方もとり得ない。

実質的に分析する限り,天引の場合と(天引後の交付金額を元本とする)後利の場合とでは特段差異はなく,現実の取引に照らしても,借主においてやむを得ず天引に応じたなどという意識は通常ないはずである。もっとも,借主が,天引利息支払後,次の利息先払の場面で,利息制限法所定の制限利率に従った利息支払の意思を明らかにしていたり,あるいは,弁済期の元金一括支払の場面で,天引時の利息支払の任意性を否定するような意思を明らかにしていたような場合等は,天引時の利息支払の任意性を否定する余地があると思われる。しかしながら,本件のように,すべての利息の支払について,約定利率に従って計算された額を弁済している原告について見る限り,やむを得ず天引に応じたなどと言えないことは明らかである。

(2)  18条書面の交付について

ア 被告が原告に交付していた書面は,形式上7種類に分けられる。平成6年6月分から平成9年4月分までのもの(乙4。別紙計算書の番号2から36までの返済の期間に対応するものであり,以下「A型書面」という。),同年5月分から平成10年11月分までのもの(乙5。別紙計算書の番号37から55までの返済の期間に対応するものであり,以下「B型書面」という。),同年12月分から平成12年4月分までのもの(乙6。別紙計算書の番号56から72までの返済の期間に対応するものであり,以下「C型書面」という。),同年5月分以降のもの(乙7。別紙計算書の番号73以降の返済の期間に対応するものであり,以下「D型書面」という。)のほか,店頭で直接交付したもの(乙8ないし10。別紙計算書の番号17,18及び75の各返済に対応する。以下,乙8及び9を「E型書面」と,乙10を「F型書面」という。),別紙計算書の番号1の天引利息に関するもの(乙3。以下「G型書面」という。)とがある。

(なお,被告が18条書面であると主張する上記の各型別の書面について,別紙計算書の各返済との対応関係を明確にするため,同計算書の備考欄にアルファベット記号で表記した。空欄は,証拠がないものである。)

イ AないしD型書面は,被告が原告に対し,貸金の元利金の支払の関係で,各支払期日より10日ほど前に送付した電信振込用紙であり,これによって,利息,元金,損害金等への充当内訳を予め知らせてきたものである。

これら各書面は,貸金業法18条1項各号等に定める記載要件,すなわち,貸金業者の商号,名称又は氏名及び住所,契約年月日,貸付金額,受領金額及びその利息,賠償額の予定に基づく賠償金又は元本への充当額,受領年月日,弁済を受けた旨を示す文字,貸金業者の登録番号,債務者の商号,名称又は氏名,当該弁済後の残存債務の額などを全て網羅しており,18条書面としての要件を満たすものである。

もっとも,B及びC型書面は,A及びD型書面とは異なり,原告による返済の後にその充当関係を明らかにするという側面を有しておらず,もっぱら返済に先立って事前にその充当関係を明らかにした書面であることから,貸金業法18条1項において「弁済を受けたときは」と規定していることとの関係が問題となり得る。しかしながら,同項が返済の都度充当関係を明らかにした受取書面の交付を要求している趣旨は,債務者が債権者へ返済した金員が元金,利息,損害金についていかなる内訳で充当されたのかを知らせるという点にあるのであるから,本件のように,受取書面の充当内訳に代替するような書面がそれ以前に交付され,弁済者が払込金の元利金内訳を知って約定期日又はその直前,直後に口座へ振り込んだような場合には,上記の法の趣旨からして,支払後の受取書面の交付は不要であると解するべきである。したがって,B及びC型書面が18条書面としての要件を欠くものではない(この理は,A及びD型書面についても同様に当てはまる。)。

貸金業法18条1項は,民法486条の弁済受領者の受取証書の請求権の趣旨を一歩進めて,当該弁済金の充当関係を明らかにする書類の交付を貸金業者に義務付けた。これは,貸金業法制定当時,領収証すら交付しない貸金業者がいたことに鑑み,罰則付きの受取証書の交付を義務付けて,債務者が貸金業者から当該金額についてのみならず利息や損害金についても不当な二重払いの請求がされないようにしたのであり,その趣旨は,債務者に当該弁済金の元利充当関係を示すことによって,当該弁済について後日の紛争を防止するという点にある。この点,本件では,事前に交付したAないしD型書面及び振込依頼書等の控えにより,十二分に上記の法の趣旨を達することができるのであるから,これらAないしD型書面は,18条書面としての要件を充足するものと言うべきである。

ウ E及びF型書面は,原告が被告の店頭で入金した際に交付した書面であるところ,これら書面は,イに記載した貸金業法18条1項各号等に定める記載事項を全て網羅しており,18条書面としての要件を満たす。

G型書面についても,同様に,貸金業法18条1項各号等に定める記載事項を全て網羅しており,18条書面としての要件を満たす。

(3)  先払利息の任意性について

利息の支払をしなければ弁済期の猶予や再度の貸付を受けられないのは,後利の場合でも同様であり,先取利息に特有の問題ではないから,先取利息を理由に任意性の要件を欠くとする原告の主張は理由がない。

第3当裁判所の判断

1  利息天引とみなし弁済の成否について

(1)  貸金業法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭を目的とする消費貸借上の利息の契約に基づき,債務者が利息として任意に支払った金銭の額が利息制限法1条1項に定める利息の制限額を超える場合においても,17条書面及び18条書面の交付等の一定の条件を満たす限り,超過部分の支払について,これを利息制限法1条1項の規定にかかわらず有効な利息の債務の弁済とみなす旨規定しており,貸金業法43条3項も,消費貸借上の債務の不履行による賠償額について,同様の条件のもとに,利息制限法4条1項に定める賠償額の予定の制限額を超える支払を有効な弁済とみなす旨規定している。このように,貸金業法43条の規定は,利息制限法1条1項又は4条1項の制限利率に関する定めによって本来であれば無効とされるべき制限利率超過部分の支払について,特に一定の条件のもとにこれを有効と定めたものであって,利息制限法1条1項又は4条1項の特則として位置付けられるものである。

ところで,本件で問題となっている利息制限法2条の規定について見ると,同条は,利息を天引した場合において,天引額が債務者の受領額を元本として同法1条1項に規定する利率により計算した結果を超えるときは,超過部分を元本に充当したものとみなす旨規定している。これは,利息の天引というのが,消費貸借契約締結の際に予め計算した利息分を控除して差引残額のみを借主に交付する形態のものであることから,たとえ当該利息分が同項の制限内であるとしても,現実の受領額からすると実質的に同項の制限を超える場合があることに着目し,上記のとおり,現実の受領額をもとに利息の制限額を算出するとしたものであって,こうしたことからも明らかなとおり,同法2条の規定というのは,特に利息の天引の場合について,同法1条1項の制限よりも更に厳しい制限を加えた規定と位置付けることができるのである。

以上のような利息制限法2条の位置付けを前提に考えると,一定の厳格な条件の履践のもとにみなし弁済について規定した貸金業法43条において,この利息制限法2条につき何ら触れるところがない以上,これを同条の特則と言うことはできないのであって,利息の天引について貸金業法43条のみなし弁済が適用される余地はないと言うべきである。

(2)  この点につき被告は,前記のとおり,利息制限法のうち具体的な法定の利率を規定しているのは1条1項及び4条1項のみであるから,貸金業法43条が利息制限法2条に触れていないという一事をもって,利息天引の場合にみなし弁済の適用がないとする解釈はとり得ないと主張するのであるが,被告が言うところの同法の分析,殊に同法2条の位置付けについて,当裁判所がこれと見解を異にするものであることは,(1)に記載したとおりである。

被告はまた,前記のとおり,利息天引による貸付が,実質的には天引後の交付金額を元本とした金銭消費貸借と同一視できるという考え方が同法2条の背景にあるなどという見方を前提にした上で,同一である以上,その後の比較に意味はなく,当裁判所が採用する上記見解は誤りであるなどと主張する。しかしながら,被告が前提に据えたその見方自体が,裏を返せば,当裁判所の上記見解において,同法2条がより厳しい制約を課したことの結果そのものを示すことにほかならないのであるから,結局のところ,これに関する被告の主張というのは,見解の相違以上のことを言う趣旨ではないものと解される。改めて言うまでもなく,利息の天引の場合であっても,名目元本額について消費貸借が成立することは明らかであり(これについては,被告も認めている。しかも,現に被告自身,別紙計算書の番号2以降の返済の関係では,名目元本100万円に被告が言うところの実質年利38.4パーセント等を用いて利息計算をしていることが窺われる。),にもかかわらず,同法2条において,わざわざ天引後の現実の受領額をもとに利息の制限額を算出することとした意図に思いを致せば,同法2条の位置付けが決して被告の主張するようなものでないことは,自ずから明らかと言えよう。

ちなみに,被告が,同法2条の存在により,却って利息天引に対する制限が緩和されるかのような現象が生ずる事例として挙げるものを見ても,そもそも,同法1条1項の制限利率が元本の額によって3段階に区分されていることから,同法2条の適用の結果,計算の根拠とすべき元本額がこうした区分をまたいで制限利率に変動が生ずるような事例(本件のように,名目元本が100万円である場合など。)において,たまたま計算結果が被告の言うような形になるケースが見られるというだけの話であって(名目元本を100万円とした場合に,こうした計算結果が生ずるのは,約定の年利が16パーセントの場合のみである。17パーセント以上の場合には,逆の結果となり,約定年利が高ければ高くなるほど,同法2条によって制限されるべき額も拡大していく。),むしろ,大部分の場合には,被告が挙げるのとは逆の結果が生ずることが明らかであるから,この点に関する被告の上記指摘によっても,同法2条の位置付けに関する当裁判所の前記認定が何ら揺らぐものではない。まして,本件のように,実質年利38パーセントを超える約定を主張する被告において,前記のような計算例を提示したところで,却って事例の違いを浮き彫りにするだけであるように思われる。

(3)  以上のとおり,貸金業法43条の規定は,利息制限法1条1項又は4条1項の規定の特則であって,同法2条の規定の特則とは言えないのであるから,利息の天引について貸金業法43条のみなし弁済が適用される余地はないと言うべきである。この点に関する被告の主張は理由がない。

2  18条書面の有効性等について

(1)  証拠(乙4ないし7。ただし,各枝番を含む。)によれば,AないしD型の各書面は,その記載形式として,いずれも,貸金業法18条1項各号等に定める記載事項を全て網羅しているものと認められる(ただし,乙4ないし7のうち,個別に具体的記載を欠く書面があることは,後述のとおりである。)。

(2)  本件においては,少なくとも前記B及びC型書面の交付に対応する各返済について見る限り,被告において,原告からの返済後,改めて18条書面を作成して交付した事実はない。この点,被告は,前記のとおり,AないしD型書面のいずれについても,本件具体的事実関係のもとでは,みなし弁済に関する18条書面交付の要件を満たす旨主張しているので,これについて判断する。

貸金業法上,同法43条1項に基づくみなし弁済が認められるためには,貸金業者において,弁済を受けた後,直ちに同法18条1項所定の事項を記載した書面を交付しなければならないものとされている。こうした法の要件を満たすためには,本件のように銀行振込によって返済を受ける形式の取引の場合,通常,金員が収納された後に,貸金業者において当該金員収納の事実を確認した上,同法18条1項所定の事項を記載した書面を改めて発行し,これを債務者に交付又は送付する必要があるということになる。

しかしながら,本件におけるAないしD型書面のように,18条書面としての記載事項を全て満たした書面を事前に債務者に交付し,しかも同書面が銀行の電信振込用紙と一体となって作成されているような場合には,債務者において,現実に同書面(振込用紙等)を用いてそこに記載された弁済額を銀行振込等の方式により払い込む以上,当然のことながら,その際,すなわち振込手続による支払等と同時あるいは直後の時期において,弁済額の具体的な充当内訳等を含む同法18条1項所定の各記載事項を漏れなく認識していると見ることができるのであるし,形式上も,振込手続を完了して振込金受取書の交付を受けた時点において初めて,18条書面としての要件を充足することになると見得るのである(その時点以前は,被告の受領文言は意味をなさない。)。このように,被告において,弁済後,改めて18条書面を作成していないのは事実であるが,実質的な効果としては,弁済直後の時期に18条書面を交付したのと全く同様であると評価し得るのであるから,AないしD型書面における客観的な計算関係等が実際に振り込む時点等において正確であり,なおかつ同書面に記載された弁済額と現実の支払額とが合致する以上は,これらの書面について,上記の法の要件を満たすものと考えて差し支えないものと言える。

もとより,銀行振込等を利用した取引の場合であっても,事前に債務者あてに請求金額等のみを記載した請求書を発出した上,実際の入金後に18条書面を作成して直ちに交付するのであれば,法の要件を満たすことは明らかであるが,現実の取引の実態としては,債務者の支払がすべて返済期日どおりに行われるものではないし(本件でも返済期日の相当日数経過後に現実の支払がある取引が多々見られる。),そうした場合を勘案して,予め振込用紙と一体となった18条書面としての記載事項を網羅した書面を作成して債務者に送付し,当該振込用紙を用いた現実の振込時点において店頭での支払とほぼ同様の効果を生じさせる本件のような取引形態は,銀行振込等が多用される現在の商取引の実態に照らしても,それなりに合理的な取引方法であると認められる。

(3)  以上のとおり,本件においては,被告がAないしD型書面を事前に債務者に送付し,これに基づき現実の支払がされている点をもって,法の定めるみなし弁済の要件に欠けるところはないと認めることができる。

ただし,AないしD型書面に記載された弁済額と現実の支払額との間に齟齬があったり,現実の支払額等に照らしても各書面に記載された具体的な充当内訳等が不明確な場合には,これら書面を法の趣旨に合致した受取証書と認めることはできない。具体的には,別紙計算書の利息欄に15パーセントと記載した各返済については,みなし弁済を認めなかったわけであるが,このうち,同計算書の番号19,20,29,30,46ないし49,54,57,63,67,68,70,72,73,77ないし79の各返済については,書面の記載と現実支払額との間に齟齬があり,あるいは,具体的な充当内訳等が不明確であるため,みなし弁済を認めず,また,同計算書の番号23,28,56,58ないし62の各返済については,証拠がないため,みなし弁済を認めなかったものである。

なお,E及びF型書面については,それぞれ対応する別紙計算書の番号17,18及び75の各返済について,同時にA型あるいはD型書面が交付されており,これによってみなし弁済の適用があると認めることができるので,特にE及びF型書面の18条書面としての有効性について進んで判断する必要はないものと考える。

(4)  ところで,原告は,前記のとおり,利息制限法の制限利率を超過する利息の支払が無効であることを知らずに支払ったものであるから,任意性の要件を欠くなどと主張しているが,関係証拠上,原告は,既に述べたとおり18条書面としての要件をすべて網羅したAないしD型書面の交付を受け,その内容を十分に認識した上で利息の支払をしていたという基本的な事実関係を認めることができるのであるから,原告が言うような事情があったとしても,貸金業法43条1項のみなし弁済を適用する上で,特に問題は生じないと言うべきである。

また,原告は,被告が利息の先取りをしている観点から言って,原告による任意の利息支払と見る余地はないなどとも主張しているが,これについては,被告の反論内容が正当であると考える。

以上,いずれにしても,これら原告の主張は,理由がない。

3  結論

以上を前提に判断すると,利息の天引(別紙計算書の番号1)及び同計算書の番号19,20,23,28ないし30,46ないし49,54,56ないし63,67,68,70,72,73,77ないし79の各返済については,みなし弁済を認めることができないので,利息制限法の制限に従って利息を計算し,他方,他の各返済については,みなし弁済を認めることができるので,残存元本に約定の実質年利38.4パーセントを乗じた限度で利息を計算し,発生利息を超過する支払部分について順次元本に充当計算していくと,同計算書のとおり,番号79の返済の時点で元本がなくなる。したがって,その後の各返済(番号80ないし82の各返済)については,その全額が被告の不当利得となる。

こうした計算を行った結果,最終の取引である番号82の返済の時点において,10万0584円の過払金が生じたことになる。

第4結論

以上のとおり,原告の請求は,主文第1項の限度で理由があるので,主文のとおり判決する。

(裁判官 佐伯恒治)

(別紙計算書省略)

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