札幌地方裁判所 平成13年(行ウ)18号 判決 2004年3月31日
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告らは,北海道に対し,連帯して1340万円及びこれに対する被告株式会社旭鉄工所,被告豊平製鋼株式会社,被告A及び被告Bについては平成13年9月22日から,被告株式会社田原製作所及び被告Cについては同月23日から,その余の被告らについては同月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,被告川崎重工業株式会社(以下,原則として「株式会社」を省略して表記する。)及び被告丸島アクアシステムの特定建設工事共同企業体(以下「川重・丸島JV」という。)が,北海道帯広土木現業所(以下「帯広土木現業所」という。)の発注に係る工事番号0527の売買川改修工事を指名競争入札の方法により受注したことについて,北海道の住民である原告が,上記指名競争入札は,指名業者らと北海道の担当職員らとの間で行われたいわゆる官製談合によるもので,これにより,北海道は,公正な競争によって形成されたであろう価格と現実の落札価格との差額相当額の損害を被ったのであるから,上記指名業者及び担当職員らに対して不法行為に基づく損害賠償請求権を有するとして,地方自治法242条の2第1項4号(ただし,平成14年法律第4号による改正前のもの。以下同じ。)に基づき,上記損害賠償請求権の行使を怠っている北海道に代位して,怠る事実の相手方ないし違法な行為をした当該職員であるとする被告らに対し,損害賠償を請求した住民訴訟である。
なお,本件訴訟において当初被告とされた酒井鉄工所及び楢崎製作所に対する訴えは取り下げられた。
1 前提となる事実(争いのない事実は証拠を掲記しない。)
(1) 原告は,北海道の住民である(弁論の全趣旨)。
(2) 帯広土木現業所は,平成12年5月18日,以下の内容の工事(以下「0501工事」という。)の指名競争入札を行ったが,指名業者の入札価格がいずれも最低制限価格(なお,予定価格及び最低制限価格は,それぞれこれに対応する予定価格調書中の入札書比較価格をいう。以下同じ。)を下回ったため,入札を打ち切った(甲5,8)。
工事番号 0501
工事名 売買川改修工事(放水路地区)売買川ゲート工場製作(2次補正)
工事内容 取水堰及びこれに付随する電気設備等の工事(以下「01工事」という。)
取水樋門及びこれに付随する電気設備等の工事(以下「02工事」という。)
予定価格 1億4077万円
最低制限価格 1億1965万円
指名業者及び ①川重・丸島JV 億0800万円
その入札価格 ②被告石川島播磨重工業 1億0900万円
③ 被告西田鉄工及び被告豊国工業の特定建設工事
共同企業体(以下「西田・豊国JV」という。)1億0950万円
④ 被告旭鉄工所 1億1000万円
⑤ 酒井鉄工所及び被告田原製作所の特定建設工事
共同企業体(以下「酒井・田原JV」という。)1億1000万円
⑥ 被告栗本鐵工所 1億1030万円
⑦ 被告JFEエンジニアリング 1億1050万円
⑧ 楢崎製作所 1億1080万円
⑨ 被告豊平製鋼 1億1100万円
⑩ 被告函館どつく 1億1100万円
(3) 帯広土木現業所は,平成12年6月22日,以下の内容の工事(以下「0527工事」といい,これと0501工事を併せて「本件各工事」という。)の指名競争入札を行い,川重・丸島JVが,1億0800万円で同工事を落札した(甲5,8)。川重・丸島JVは,同月27日,上記指名競争入札の結果に基づき,帯広土木現業所長から1億1340万円(うち消費税額540万円)で0527工事を受注した(甲8)。
工事番号 0527
工事名 売買川改修工事(放水路地区)売買川ゲート工場製作(2次補正)
工事内容 0501工事のうち,01工事に当たるもの(ただし,電気設備の一部を除く。)
予定価格 1億0991万円
最低制限価格 9342万円
指名業者及び ①川重・丸島JV 1億0800万円
その入札価格 ②被告石川島播磨重工業 1億0900万円
③ 酒井・田原JV 1億0900万円
④ 被告栗本鐵工所 1億0950万円
⑤ 被告旭鉄工所 1億1100万円
⑥ 被告JFEエンジニアリング 1億1200万円
⑦ 西田・豊国JV 1億1400万円
⑧ 被告函館どつく 1億1400万円
⑨ 楢崎製作所 1億1600万円
⑩ 被告豊平製鋼 1億1800万円
(4) 帯広土木現業所は,平成12年7月27日,以下の内容の工事(以下「0546工事」という。)の指名競争入札を行い,被告西田鉄工が,2600万円で同工事を落札した(甲8)。被告西田鉄工は,同年8月1日,上記指名競争入札の結果に基づき,帯広土木現業所長から2730万円(うち消費税額130万円)で0546工事を受注した(甲8)。
工事番号 0546
工事名 売買川改修工事(放水路地区)取水ゲート工場製作(2次補正)
工事内容 0501工事のうち,02工事に当たるもの
予定価格 2620万円
最低制限価格 2227万円
指名業者及び ①被告西田鉄工 2600万円
その入札価格 ②被告旭鉄工所 2620万円
③ 表鉄工所 2620万円
④ 釧路製作所 2650万円
⑤ 被告豊平製鋼 2660万円
⑥ 楢崎製作所 2670万円
⑦ 日進製作所 2670万円
(5) 本件各工事の指名競争入札が行われた当時,被告Aは北海道知事,被告Bは北海道建設部長,被告Cは帯広土木現業所長の各地位にあった(なお,被告らのうち,上記3者を併せて「被告職員」と,これに他の北海道の職員を加えて「被告職員等」と,その余の被告を併せて「被告企業」と,これに酒井鉄工所及び楢崎製作所を加えて「被告企業等」という。)。
(6) 原告は,平成13年6月19日,北海道監査委員に対し,本件訴訟に係る住民監査請求を申し立てたが,北海道監査委員は,同年8月9日付けで,同監査請求を棄却する旨決定した(甲2,3)。
原告は,同年9月7日,本件訴訟を提起した。
2 争点
(1) 被告Bに対する訴えの適法性
(被告Bの主張)
原告の被告Bに対する訴えは,被告Bが地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」に当たることを前提とするものであると解されるが,本件各工事について,その財務会計上の行為を行う権限は,北海道財務規則上,北海道知事から帯広土木現業所長に直接委任されており,建設部長であった被告Bは,上記財務会計上の行為につき権限を有しておらず,また,権限の委任も受けていないから,前記当該職員には当たらない。
したがって,原告の被告Bに対する訴えは,不適法であるので,却下されるべきである。
(原告の主張)
北海道には公共工事を巡る官製談合が蔓延しており,被告Bは建設部の官製談合問題を以前から認識していたにもかかわらず,その防止策を一切講じようとせずに放置したため,本件における談合を誘発し,被告企業等及び被告Cとともに北海道に損害を与えたものであるから,他の被告らと連帯してその損害を賠償する責任がある。
(2) 談合行為の有無
(原告の主張)
ア 0501工事の入札において,指名業者の入札価格がいずれも最低制限価格を下回る結果となったこと,本件各工事の入札における指名業者は同一であるところ,0527工事は0501工事から取水樋門等の工事を除いたものであり,その予定価格が約3000万円下がっているにもかかわらず,0527工事の入札における入札価格は,いずれの指名業者とも,0501工事のそれとほぼ同額ないしこれを上回る価格であり,予定価格に極めて近い水準となっていること,本件各工事とも最低価格で入札したのは川重・丸島JVであり,その入札価格も同額であることなど,本件各工事の入札については,多くの不自然な点が存在する。また,北海道農政部が組織的に官製談合を行っていたことからすれば,同建設部でも組織的に官製談合が行われていた可能性が極めて高い。
したがって,直接的な証拠はないものの,0527工事の入札に当たっては,被告らの間で,被告Cあるいは同人の指示を受けた北海道の職員某が,平成12年6月20日ころ,被告企業等の1社あるいは数社に対し,0527工事の落札予定業者が川重・丸島JVであること及び同工事の入札予定価格が1億0991万円であることを教え,このことを教えられた被告企業等が,同日ころ,一堂に会しあるいは順次連絡を取り合いながら,同工事の入札において,川重・丸島JVが1億0800万円で入札し,その余の被告企業等は同額よりも高い価格で入札することを申し合わせたという,官製談合が行われていたとしか考えらない。
イ 被告企業等は,本件各工事の指名競争入札における前記の不自然な点について,それぞれ理由がある旨主張するが,以下のとおり,いずれも不合理である。
(ア) 被告川崎重工業及び被告丸島アクアシステムは,本件各工事の入札価格が同額になった理由について,0501工事と0527工事では,積算の基礎となる労務費及び機械の単価が違うこと,0527工事においては,0501工事の場合と異なりほとんど値引きをしていないことを主張する。
しかし,他の被告企業等の関係者は,平成11年度と平成12年度を比較して,労務費等の単価についてほとんど差異がないとしていること,再度の最低制限価格割れを危惧したとしても,0501工事で15パーセントもの値引きをしておきながら,0527工事では2パーセント程度の値引きしかしないことはあり得ないことなどからすれば,上記主張は合理性を欠く。
(イ) 被告石川島播磨重工業及び被告函館どつくは,本件各工事の入札価格がほぼ同額になった理由について,0501工事の積算の際に取水樋門等の工事(02工事)を見落したためであると主張する。
しかし,0501工事の設計図書を見て,同工事から02工事を見落とすことは考えられないこと,平成12年3月23日に行われた第2売買川ゲート工場製作工事(工事番号9261)においては,0501工事とほぼ同じ工事内容,設計図書内容であったにもかかわらず,被告石川島播磨重工業を含め,これに応札した指名業者の中には最低制限価格を下回った者が存在しないこと,0527工事においては,0501工事から02工事が除かれただけではなく,01工事の電気設備の一部(464万2000円相当の工事)も除かれたのであるから,02工事の見落しのみを理由として,本件各工事の積算金額がほぼ同額になるということはあり得ないことなどからすれば,上記主張は合理性を欠く。
(ウ) 被告西田鉄工及び被告豊国工業は,0501工事において最低制限価格を下回る価格で入札した理由について,約3000万円相当の電気設備等の工事を見落してしまったためであると主張するが,このような主張は,上記両被告以外の被告企業等からは一切されていないことなどからすれば,合理性を欠く。
(エ) 被告旭鉄工所,被告田原製作所,被告栗本鐵工所及び被告JFEエンジニアリングは,0501工事において最低制限価格を下回る価格で入札した理由について,0501工事では,受注意欲が高かったために大幅な値引きに踏み切ったが,0527工事では,再度の最低制限価格割れを回避するために,値引率を最小限に押さえたことなどを主張する。
しかし,上記各被告らは,受注意欲があるとしながら0527工事において0501工事の最低入札価格より高い価格で入札していること,再度の最低制限価格割れは絶対に避けなければならない事態ではないこと,北海道の場合,最低制限価格は予定価格の85パーセントから3分の2までと規定されているのであるから,上記各被告らの行った程度の値引きでは0527工事の最低制限価格を下回らないことが明らかであることなどからすれば,上記主張は合理性を欠く。
また,被告JFEエンジニアリングは,0527工事の積算に当たって,0501工事から除かれた02工事の予定価格を1000万円程度と概算したとしているが,これは実際の02工事(0546工事)の予定価格である2620万円を大幅に下回る価格であって,このような積算をすること自体あり得ない。
(オ) 被告豊平製鋼は,0501工事において最低制限価格を下回る価格で入札した理由について,製作工数の違算や電気設備の過少積算があったためであると主張するが,0527工事において,0501工事の最低入札価格よりも高い価格で入札していることなどからすれば,上記主張は合理性を欠く。
(被告らの主張)
ア 本件請求は,不法行為に基づく損害賠償請求であるが,原告は,その要件事実となる談合行為の主体,時期,場所,合意内容等について何ら具体的に特定していないから,主張自体失当であって棄却されるべきである。
イ 本件各工事の入札に当たって,被告らの間で談合が行われていた事実はない。
原告は,0501工事の入札において,指名業者の入札価格がいずれも最低制限価格を下回ったことや,0527工事の入札における入札価格は,いずれの指名業者とも0501工事のそれとほぼ同額であることなどの間接事実を基に,本件において談合があった旨主張する。しかし,北海道建設部発注に係る指名競争入札において,すべての指名業者の入札価格が最低制限価格を下回った事例は,本件以外にも少なからず存在すること,本件について,指名業者及び北海道職員の関係者全員が談合行為の存在を明確に否定していること,後述の各被告らの主張のとおり,被告らは,本件各工事の積算方法等について,それぞれ具体的かつ合理的な説明をしていることなどからすれば,原告が指摘する上記間接事実をもって,被告らが談合を行っていたとすることはできない。
(被告川崎重工業,被告丸島アクアシステム,被告石川島播磨重工業,被告田原製作所,被告旭鉄工所,被告函館どつく及び被告豊平製鋼の主張)
本件各工事の入札に参加した企業は,それぞれ独自の積算方法を用いて積算を行い,その積算価格を基に各社各様の考え方に基づいて入札価格を決定した。本件において,0501工事の入札では,すべての指名業者の入札価格が最低制限価格を下回ったのに対し,0527工事の指名競争入札では,すべての指名業者の入札価格が予定価格に近い金額となったことについては,0501工事の入札において指名業者全員が最低制限価格を下回った直後に0527工事の入札が行われたという事実経過による入札に対する姿勢の変化,0501工事と0527工事の工事内容の違い,公示用設計図書の特殊な記載方法等に起因した積算ミスの有無,各入札時点における工場稼働率の高低による落札への意欲の多寡,入札時期の違いによる労務費単価の変更又は資材調達のメリットの有無による積算内容の変化等の客観的条件によって生じた結果であり,談合による結果ではない。
(被告栗本鐵工所の主張)
被告栗本鐵工所は,本件各工事の指名競争入札に際し,必要な工事情報を自ら収集し,これに基づき具体的な見積りを行った上で,独自に最終的な入札価格を決定した。
すなわち,0501工事については,担当者が帯広土木現業所に赴き,公示されていた設計図書を書き写し,これを基に積算を行った。そして,見積金額を1億4700万円とした上で,工場稼働率や受注実績等を考慮し,強い受注意欲の下に25パーセントの大幅な値引きを行い,入札価格を1億1030万円と決定した。これに対し,0527工事については,同様の方法で積算を行い,見積金額を1億2150万円とした上で,再度最低制限価格を下回ることがないように値引率を10パーセントにとどめ,入札価格を1億0950万円と決定した。
したがって,被告栗本鐵工所の本件各工事における入札価格は何ら不合理なものではなく,これをもって同被告の談合行為の存在を推認することはできない。
(被告JFEエンジニアリングの主張)
被告JFEエンジニアリングが,0501工事において最低制限価格を下回る価格で入札した理由は,これまで北海道発注に係る水門工事の受注実績がなかったことなどから,強い受注意識をもって臨んだためであり,他方で,0527工事において0501工事よりも高い価格で入札した理由は,その後の指名される機会の喪失の危険に鑑み,再度最低制限価格を下回る事態を避けるなどの事情から,値引率を抑えて慎重に価格を決定したためである。したがって,本件各工事の入札における被告JFEエンジニアリングの積算方法は,十分な合理性を有するものである。
なお,被告JFEエンジニアリングは,0501工事において,02工事につき約1000万円相当の工事であると積算しているが,これは,01工事との一括受注による経費削減等の相応のコストダウンを図ることができたためであって,02工事(0546工事)の実際の予定価格が2620万円であった事実に何ら矛盾するものではない。
(被告西田鉄工及び被告豊国工業の主張)
西田・豊国JVは,本件各工事の入札に当たり,被告西田鉄工の主導のもと,設計図書の閲覧,謄写,入札価格の算定等をした。被告西田鉄工は,設計図書中の数量調書に基づいて0501工事の積算を行ったが,同調書には開度検出器以外の電気設備が記載されていなかった(なお,工種内訳書には電気設備のすべてが記載されていたが,被告西田鉄工の担当者は,これを謄写していなかった。)ため,開度検出器を除く電気設備の見積りを落としてしまい,その結果,最低制限価格を下回る価格で入札することとなった。これに対し,0527工事については,すべての設計図書を閲覧,謄写し,見落しのないように慎重に積算を行った上で,独自に入札価格を決定した。
(被告職員の主張)
本件各工事の入札に参加した指名業者は,いずれも独自に積算を行って入札価格を決定したのであり,被告職員等が被告企業等に落札予定業者や予定価格を教えた事実はない。
本件における特定建設工事共同企業体(以下「特定共同企業体」という。)の申請手続や指名業者の選定方法には何ら問題となる点はなく,本件各工事の入札手続に係る事実経過をもって,被告職員等が事前に落札予定業者を決定していたことが認められることにはならない。また,0501工事に係る予定価格調書は1つであって,01工事及び02工事のぞれぞれに対応した予定価格が決められたり,予定価格調書が作成されたりするものではないこと,0501工事に係る予定価格調書は,その入札日の前日に作成されたこと,0501工事の入札前に,0527工事の予定価格なるものは存在していなかったこと,0527工事に係る予定価格調書は,その入札日の2日前に作成されたことなどからすれば,被告職員等が事前に本件各工事の予定価格を漏らすことはあり得ない。
(3) 損害
(原告の主張)
ア 公共事業において談合が行われた場合に地方公共団体が被る損害の額は,適正な競争入札が行われたならば落札価格となったであろう価格(想定落札価格)と実際の落札価格との差額とするのが相当である。
したがって,本件においては,0527工事の最低制限価格が予定価格の85パーセントであることから,想定落札価格は予定価格の86ないし87パーセント程度になると予想され,川重・丸島JVによる実際の落札率が98.26パーセントであることからすれば,想定落札価格と実際の落札価格との差額は,入札価格の10パーセントを下ることはないというべきである。
イ 仮に,0527工事の想定落札価格が,予定価格の86ないし87パーセント程度になることを認定できないとしても,本件のような公共事業における談合によって地方公共団体が被る損害の額を立証することは,その性質上極めて困難であるから,裁判所は,民事訴訟法248条により相当な損害額を認定すべきであり,前記アのとおり,入札価格の10パーセントをもって相当な損害額とすべきである。
そして,0501工事と0527工事の入札において被告らの間で談合が行われたのであれば,0501工事から分離された02工事を内容とする0546工事の入札においても談合が行われたとみるべきであるから,損害額は,0527工事の落札額1億0800万円と0546工事の落札額2600万円の合計額1億3400万円の10パーセントの額である1340万円を下ることはない。
ウ 仮に,0546工事については談合が認められないとしても,その場合の損害額は,0527工事の落札額1億0800万円の10パーセントの額である1080万円を下らないというべきである。
(被告川崎重工業,被告丸島アクアシステム,被告石川島播磨重工業,被告田原製作所,被告旭鉄工所,被告函館どつく,被告豊平製鋼及び被告栗本鐵工所の主張)
原告の主張する損害は,その発生及び額について何ら立証されておらず,民事訴訟法248条によっても,これを認めることは許されない。
また,原告が本件において問題としている不法行為は,本件各工事の入札に係る談合行為であるから,本件各工事とは別個の工事である0546工事の落札価格についても損害額の対象とする原告の主張は,失当である。
第3争点に対する判断
1 争点(1)(被告Bに対する訴えの適法性)について
被告Bは,同被告は本件各工事の指名競争入札に係る財務会計上の行為を行う権限を有しておらず,地方自治法242条の2第1項4号にいう当該職員に当たらないから,原告の被告Bに対する訴えは不適法であり,却下されるべきである旨主張する。
しかし,被告Bが上記当該職員に当たるか否かは措くとして,同号に定める訴訟のうち,当該行為又は怠る事実の相手方を被告とするものについては,上記のような財務会計上の行為を行う権限の所在は問題とならず,被告適格等の訴訟要件を満たす限り,このような訴えも適法である。そして,原告の本件訴えは,被告らが本件各工事の指名競争入札において官製談合を行ったことを不法行為の内容とするものであり,そうすると,被告Bは,自らが不法行為者として,北海道から損害賠償を請求され得る立場にあるから,同号にいう怠る事実の相手方に当たるということができる。
したがって,被告Bは,本件訴えについて,怠る事実の相手方として被告適格を有していると解され,ほかに訴訟要件を欠くなどの事情も見当たらないから,原告の同被告に対する訴えが不適法であるとはいうことができない。被告Bの上記主張は理由がない。
2 争点(2)(談合行為の有無)について
(1) 被告らは,原告が不法行為であると主張する本件各工事の指名競争入札に係る談合行為は,その主体,時期,場所,合意内容等が何ら具体的に特定されていないから,原告の主張は,それ自体失当であると主張する。
しかし,談合行為は,秘密裏に行われることが多く,これが行われた場合に,損害を被る側が損害の発生を直ちに認識することが困難であるという性質を有するものであり,このような性質に鑑みれば,その特定の程度について,通常の不法行為における場合と同様の詳細な特定を要求することは,原告に過度の負担を強いることになり相当でない。その一方,指名業者等の間で談合の基本が合意され,これに基づいてその後の個別入札が行われたといった談合行為の基本的な事実関係について識別可能な程度に特定がされていれば,当該訴訟における審判の対象を把握することが可能であり,被告の防御権の保障にも欠けるところはないと解される。したがって,談合行為の内容について上記程度に特定がされていれば,主張として必要最低限の要件を満たしているというべきである。
本件においては,確かに,原告の主張する談合行為の内容は,談合行為を行った当事者,その日時及び場所,談合行為の態様,これによって形成された合意の内容等について,十分に特定されているとはいい難い部分がある。しかし,被告職員等が,被告企業等に対し,0527工事の入札に係る入札予定価格は1億0991万円で,その落札予定業者は川重・丸島JVであることを事前に漏らしたこと,被告企業等が,0527工事の入札において,川重・丸島JVが1億0800万円で入札し,その余の入札参加者はこれよりも高い価格で入札することを合意したこと,上記合意に基づいて,0527工事の入札が現実に行われたことといった談合行為の基本的な事実関係については,原告の主張によって識別することが可能なのであるから,本件において問題とされるべき談合行為の内容は,前記必要な程度に特定がされているというべきである。
したがって,被告らの上記主張は,採用することができない。
(2) 証拠(甲1ないし3,5ないし14,乙ア2ないし12,13の1ないし11,乙ア14,15,16の1ないし6,乙ア17の1ないし8,乙ア18,19,20の1ないし6,乙ア21の1ないし8,乙ア22の1ないし8,乙イ1,乙ウ1,乙エ1の1及び2,乙エ2の1ないし3,乙エ3の1ないし3,乙エ4,乙オ1,乙カ2の1及び2,乙カ3ないし5,6の1ないし5,証人D,証人E,証人F,証人G,証人H,証人I,証人J,証人K,証人L,証人M,証人N)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 売買川放水路計画
帯広土木現業所は,平成2年ころ,帯広市内を流れる売買川の河川氾濫を防止するため,売買川及び第2売買川に分流堰を設置し,両河川から札内川へ通じる放水路を建設する計画(以下「売買川放水路計画」という。)を策定した。
売買川放水路計画は,平成15年度の完成が予定されていたところ,第2売買川については平成11年度内に,売買川については平成12年度に入ってから,それぞれゲートの製作等に着手された。なお,売買川と第2売買川の間の水路については,暫定通水を行うため,平成12年度中の完成が予定され,さらにその完成後には,同放水路地区の上流において国による農地の排水工事が予定されていた。
このように売買川放水路計画は平成2年ころから計画されていたことに加え,その概要等は,平成11年当時の新聞や業界紙等において掲載されていたことから,被告企業等の中には,これらの情報等を基に,売買川ゲート工場製作等の工事に係る指名競争入札が実施されるであろうことを認識し,そのころから指名に向けて営業活動等を行う企業もあった。
イ 第2売買川ゲート工場製作等の工事に係る指名競争入札の状況
帯広土木現業所は,平成12年3月23日,第2売買川ゲート工場製作等の工事(以下「9261工事」という。)の指名競争入札を行った。
9261工事は,主に取水堰工事及び取水樋門工事から成り,その工事内容や設計図書の体裁等において,0501工事とほぼ同様のものであった。9261工事の入札には,被告企業等のうち,被告丸島アクアシステム,被告石川島播磨,被告旭鉄工所,被告西田鉄工,酒井鉄工所も参加し,被告旭鉄工所がこれを落札した。なお,9261工事の入札において,最低制限価格を下回る価格で入札した指名業者はなかった。
ウ 本件各工事等に係る指名競争入札の経緯
(ア) 0501工事
帯広土木現業所は,0501工事について,平成12年3月21日に工事情報を公表する予定であったが,手続的なミスにより公表が同年4月10日に遅れ,同月12日に業界紙に掲載されることとなった。
0501工事の入札参加希望の受付期間は,上記公表日から同年4月24日までとされていたが,同工事の発注時期が同年5月18日に迫っていたことから,帯広土木現業所は,同年4月13日,指名選考委員会(所長,副所長,管理部長,事業部長,企画調整室長及び工事契約課長の6名によって構成される。以下の指名選考委員会においても同じ。)を開催し,0501工事の指名業者を選定した。
また,特定共同企業体の資格審査手続について,帯広土木現業所は,同月12日ころまでに特定共同企業体の結成の意向を示していた企業に対し,口頭でその申請の有無を確認し,上記指名選考委員会においてその選定を行った。そして,後日,選定された特定共同企業体から資格審査申請書が提出されたが,その申請年月日は帯広土木現業所の職員によって後から書き加えられた。なお,北海道における特定共同企業体の取扱いは,共同企業体運用基準等によって,特定共同企業体を活用する場合の対象工事は,概ね3億円以上の規模の工事等とする旨定められているが,帯広土木現業所では,平成12年度において,特定共同企業体が指名競争入札に参加した41件の工事のうち,3億円以上の工事は3件であった。
帯広土木現業所は,同月21日,上記指名選考委員会によって選定された指名業者に対し,0501工事の指名通知をし,同通知を受けた被告企業等は,それぞれ帯広土木現業所に赴き,0501工事に係る公示用設計図書等を閲覧,謄写するなどし,これらの資料に基づき,0501工事の入札価格を独自に積算した。
帯広土木現業所長は,同年5月17日,0501工事の予定価格調書に,同工事の予定価格及び最低制限価格を記入した。北海道においては,「低入札価格調査制度及び最低制限価格制度の事務手続について」(平成6年3月2日管理第1889号),「低入札価格調査制度及び最低制限価格制度の事務の取扱いについて」(同第1890号)によって,入札手続について最低制限価格制度が採られ,同価格は予定価格の3分の2から10分の8.5の範囲内とされていた(以下「本件基準」という。)が,0501工事の最低制限価格1億1965万円は,その予定価格1億4077万円と比較して本件基準の範囲内の価格であった。
0501工事の入札は,帯広土木現業所副所長が執行して同月18日に行われたが,指名業者の入札価格がいずれも最低制限価格を下回ったため,不調となり,その場で打ち切られた。その際,最低入札価格は川重・丸島JVの1億0800万円であることが入札参加者に知らされたが,そのほかの指名業者の入札価格や同工事の予定価格及び最低制限価格は公表されなかった。
帯広土木現業所は,0501工事の入札価格がいずれも最低制限価格を下回ったことについて事後に原因調査を行った結果,0501工事の公示用設計図書の体裁からは,同工事が01工事と02工事の合冊工事であることが分かりにくく,入札参加者の見積りに一部錯誤を与えたことなどが原因であると判断した。
帯広土木現業所において,平成12年度に指名競争入札に付された工事は全659件あるが,0501工事の指名競争入札以外に,すべての指名業者の入札価格が最低制限価格を下回り,入札不調となった事例はない。なお,平成10年度ないし平成12年度における北海道内の各土木現業所が発注した工事に係る指名競争入札について,すべての指名業者の入札価格が最低制限価格を下回った事例として,平成10年度函館土木現業所発注に係る八雲厚沢部線防雪工事(地特)(チェーン着脱場),平成12年度同発注に係る七重浜停車場線交安工事(自歩道)(照明工),平成10年度釧路土木現業所発注に係る補正知床公園羅臼線災害防除工事(海岸町地区),平成12年度同発注に係る釧路環状線外単独交安(自歩道)工事,同年度同発注に係る尾岱沼漁港改修工事その2,平成12年度札幌土木現業所発注に係る砂川歌志内線改築(擁壁工)工事の6件がある。
(イ) 0527工事
0501工事の工期は,平成12年12月10日までと予定されていたところ,帯広土木現業所は,0501工事の入札が前記のとおり不調となり,このままの形で再び入札を行えばその工期が約1か月延びて同年度内に同工事を完成することができなくなると判断し,工期の短縮を図るため,同年5月25日の指名選考委員会において,0501工事を0527工事,0546工事及び01工事のうち汎用性のある電気設備工事(464万2000円相当分)に据付工事を加えた工事(以下「0666工事」という。)として発注することを決定した。帯広土木現業所は,同日の指名選考委員会において,0527工事の指名業者の選定を行ったが,0501工事の公示用設計図書に一部錯誤を与える部分があったことや,0527工事は0501工事中の01工事とほぼ同内容の工事であったことなどから,0527工事の工事情報を改めて公開したり指名替えの手続等を行ったりすることなく,0501工事と同一の指名業者を選定した。
帯広土木現業所は,同月31日,上記指名選考委員会によって選定された指名業者に対し,0527工事の指名通知をし,同通知を受けた被告企業等は,それぞれ帯広土木現業所に赴き,0527工事に係る公示用設計図書等を閲覧,謄写するなどし,これらの資料に基づき,0527工事の入札価格を独自に積算した。
帯広土木現業所長は,同年6月20日,0527工事の予定価格調書に,同工事の予定価格1億0991万円及び最低制限価格9342万円を記入した。同最低制限価格は,同予定価格と比較して本件基準の範囲内の価格であった。
0527工事の入札は,帯広土木現業所副所長が執行して同月22日に行われ,川重・丸島JVが同工事を落札し,請負代金額1億1340万円(うち消費税額540万円)で受注した。0527工事の工期は,同年11月30日までと定められたが,川重・丸島JVは,同月27日に同工事を完成させ,同月30日に工事完成検査を受け,これを帯広土木現業所長に引き渡した。
(ウ) 0546工事
帯広土木現業所は,平成12年6月29日の指名選考委員会において,0546工事の指名業者を選定し,同年7月11日,その指名業者に対し,同工事の指名通知をした。
帯広土木現業所長は,同月25日,0546工事の予定価格調書に,同工事の予定価格2620万円及び最低制限価格2227万円を記入した。同最低制限価格は,同予定価格と比較して本件基準の範囲内の価格であった。
0546工事の入札は,帯広土木現業所副所長が執行して同月27日に行われ,被告西田鉄工が2600万円で同工事を落札し,請負代金額2730万円(うち消費税額130万円)で受注した。0546工事の工期は,同年11月30日までと定められたが,被告西田鉄工は,同日に同工事を完成させ,同年12月8日に工事完成検査を受け,これを帯広土木現業所長に引き渡した。
(エ) 0666工事
帯広土木現業所は,平成12年10月26日の指名選考委員会において,0666工事の指名業者(被告企業等のうち,被告川崎重工業,被告丸島アクアシステム,被告JFEエンジニアリング,酒井鉄工所,楢崎製作所も指名された。)を選定し,同月30日,その指名業者に対し,同工事の指名通知をした。
0666工事の入札は,帯広土木現業所副所長が執行して同年11月22日に行われ,被告川崎重工業が5500万円で同工事を落札し,受注した(なお,同工事の最低制限価格4636万円は,その予定価格5665万円と比較して本件基準の範囲内の価格であった。)。
被告川崎重工業は,平成13年3月23日に0666工事を完成させ,同月29日に工事完成検査を受けた。
(3) 上記認定事実及び前提となる事実を基に検討するに,すべての指名業者の入札価格が最低制限価格を下回ることは異例のことであるのに,0501工事の指名競争入札では,入札に参加した10社の被告企業等のすべてが最低制限価格を下回る入札をしたばかりか,その約1か月後には,同じ指名業者で0527工事の指名競争入札が行われ,同工事は0501工事から一部の工事を除いたものであるのに,入札に参加した被告企業等は0501工事とほぼ同額で入札し,0501工事でも最低価格の入札をした川重・丸島JVが,これを落札したというのであるから,①0501工事の指名競争入札で被告企業等のすべての入札価格が最低制限価格を下回ったのは,被告企業等が共通の誤った情報を有していたからではないか,②0501工事の指名競争入札でも0527工事の指名競争入札でも,川重・丸島JVが最低価格の入札をしたのは,当初から同JVが受注することが予定されていたからではないか,③また,指名業者が変更されることなく0527工事の指名競争入札が行われたのは,発注者側も被告企業等の目論見に関与していたからではないかなどの疑いが生じ,ひいては,指名業者のみならず北海道の担当職員らも関与した談合があったのではないかという疑いさえ生じなくはない。
しかしながら,被告企業等の入札担当者らは,その証人尋問等(証人D,証人E,証人F,証人G,証人H,証人I,証人J,証人K,証人L,証人Mの各証言及びこれらの者を含む被告企業等の入札担当者らの乙ア2ないし10,乙イ1,乙ウ1,乙エ4,乙オ1の各陳述書における陳述記載)において,0501工事の入札価格が最低制限価格を下回った理由について,受注意欲の強さから大幅な値引きに踏み切った,同工事中の02工事ないし電気設備工事の一部を見落した,設定単価や積算方法等を誤ったなどと供述し,0527工事の入札価格が0501工事のそれとほぼ同額になった理由については,再度最低制限価格を下回ることを回避するために値引率を極力抑えた,工事の見落しや違算,設定単価の誤り等を是正して慎重に積算を行ったなどと供述し,いずれの工事についても,各企業ごとに独自の見積りをして入札価格を決定したのであって,他企業や発注者との談合はしていないと供述する。
これらの供述には,確かに,その裏付けとなる客観的な証拠がなく,また,上記入札担当者らの供述には,積算金額や値引率の程度,見落とした工事の箇所,見直しを行った積算方法や設定単価の内容等について,具体性を欠く部分があること,被告企業等は,0501工事の開札時にすべての指名業者の入札価格が最低制限価格を下回り,その最低入札価格が川重・丸島JVの1億0800万円であったことを認識したにもかかわらず,0527工事の指名競争入札においては,その価格を特段意識することなく,これよりも高い額(川重・丸島JVについてはこれと同額)を入札していること,0501工事とほぼ同内容の工事であった9261工事においては,公示用設計図書の編綴状況等に起因する一部工事の見落し等の事態は起こらず,最低制限価格を下回る価格で入札した指名業者はなかったことを考えると,これらの供述を直ちに採用することには躊躇を覚えるものである。しかしながら,本件においては,これらの供述を虚偽のものとして排斥し得るだけの証拠がない。裏付けとなる客観的な証拠がなく,積算方法や設定単価の内容等について具体性を欠く点も,競争入札のための積算の基準や内容を公けにすることは,企業としてはできないことであることを考えると,やむを得ないものといわざるを得ない。また,0527工事が0501工事から一部の工事を除いたものであるのに,0501工事における川重・丸島JVの入札価格より高額で入札したことも,入札指名業者として,2回も続けて最低制限価格を下回る価格で入札をできない立場にあったことや,0501工事の予定価格や最低制限価格等が知らされていない中で,被告企業等において川重・丸島JVの前記入札価格を意識して0527工事の入札価格を決めることが必ずしも合理性があるともいえないことなどを考えると,格別に不自然であるともいえない。入札価格が最低制限価格を下回ったことについての各被告企業等の説明は,それ自体としては,格別に不自然,不合理なものとはいえず,ただ,同じ競争入札において10社もの専門企業の入札価格がいずれも最低制限価格を下回ったことが不自然なのであるが,このようなことが,全くあり得ないことであるとはいえない(北海道全体で見れば,平成10年度から平成12年度までの期間に各土木現業所が発注した工事に係る指名競争入札について,すべての指名業者の入札価格が最低制限価格を下回った事例が6件存在している。)。また,0501工事でも0527工事でも,川重・丸島JVが最低価格の入札をしたのも,そのこと自体格別に不自然なこととはいえないし,指名業者が変更されることなく0527工事の指名競争入札が行われたことも,帯広土木現業所としては,売買川放水路計画の下,売買川ゲート工場製作等の工事を平成12年度内に完成させる必要があったことや,同土木現業所において0501工事の公示用設計図書に一部錯誤を与えると判断した部分があったこと,0527工事は0501工事中の01工事とほぼ同内容の工事であったことを考えると,不自然,不合理な措置であるとまではいえない。
そして,本件訴訟の一件記録中には,本件各工事の指名競争入札に関し,被告らの間で官製談合が行われていたことを直接的に認める証拠は存在しないのであり,それでもなお談合が存在したといい得るためには,その存在をうかがわせるに足りる各種の間接事実による多角的な観点からの推認を要するというべきである。しかるに,本件においては,本件各工事の指名競争入札における被告企業等の入札状況が不自然であるというにとどまり,そのほかに,例えば,帯広土木現業所の職員らと被告企業等の入札担当者らとの間に頻繁な接触があったのか,落札できなかった被告企業等の談合によるメリットは何か,談合が行われたのであれば,なぜ0501工事の指名競争入札においてすべての指名業者の入札価格が最低制限価格を下回ったのかなどの事情は,何ら明らかにされていないのであるから,このような証拠状況の下においては,談合行為の存在を認め得るまでには至っていないといわざるを得ない。なお,北海道農政部が組織的に官製談合を行っていたこととか,0501工事の指名競争入札における指名業者の選定方法や特定共同企業体の資格審査手続に問題があったことといった事情は,仮にこのような事実が認められるとしても,これらによって,談合行為の存在が直ちに認められることにはならないというべきである。
そうすると,本件において,原告主張の談合があったと認めることはできないといわざるを得ない。
(4) よって,原告の本件請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないというべきである。
3 結論
以上によれば,原告の本件請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 笠井勝彦 裁判官 村田龍平 裁判官 本多健司)