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札幌地方裁判所 平成13年(行ウ)21号 判決 2002年7月04日

主文

1  本件訴えをいずれも却下する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告が原告らに対し河西郡α地区における土地区画整理事業を施行するための土地区画整理法第3条第2項に基づく申請について、平成13年2月2日にした認可しない旨の処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第2事案の概要

1  前提事実

(1) 原告ら及びA(以下あわせて「本件申請人」という。)は、河西郡α土地区画整理組合の設立準備委員会を結成し、平成12年10月2日、被告に対し、土地区画整理法(以下「法」という。)3条2項に規定する土地区画整理組合(以下「組合」という。)の設立認可を、法14条2項に基づき申請した(以下「本件申請」という。)。

本件申請に際し、本件申請人が提出した申請書(以下「本件申請書」という。)には、平成12年4月22日付けα土地区画整理事業基本方針(以下「平成12年4月の基本方針」という。)と、施行地区となるべき区域内の宅地について所有権を有するすべての者(以下「関係地権者」という。)計332名中233名の同意書が添付されていた(乙1の1ないし3)。

(2) 被告は、平成13年2月2日、本件申請が、法18条に基づく事業基本方針についての関係地権者の同意を得たものとは認められず、申請手続が法令に違反しているとの理由で本件申請を認可しない旨の処分(以下「本件処分」という。)を行った(甲1)。

(3) 本件申請人は、平成13年3月12日、被告に対し、本件処分について異議申立てを行ったが、被告は、同年8月31日、Aの異議申立てを却下し、その余の者の異議申立てを棄却する旨の決定を行った(甲7)。

2  本案前の争点

(1) 本件訴えは固有必要的共同訴訟か否か

(被告の主張)

法14条2項は、組合を設立しようとする者が、7人以上共同し一体となって定款及び事業基本方針を定めるとともに組合設立の認可を申請すべきことを要求している。一方、組合設立不認可処分の取消しを求める訴訟における不認可処分の違法性の有無の判断は、当該組合を設立しようとする者全員が一体となって行った1個の申請につきその成否を定めるものであり、その判断が申請者ごとに異なることは許されず、性質上合一に確定すべきことが要請されるものである。さらに、仮に請求が認容される場合、認可申請を行った者のうちの一部の者との間で不認可処分が取り消されても、残余の者との間で不認可処分が取り消されなければ、理論上適法な認可申請がなされたことにはならないから、不認可処分の取消しの訴えそれ自体も、認可申請を行った者全員が原告となって提起すべきものである。

以上のとおり、本件処分の取消訴訟は、固有必要的共同訴訟であると解すべきところ、本件申請人のうちAが原告となっていないことが明らかであるから、本件訴えは不適法であり、却下を免れない。

(原告らの主張)

本件訴えを固有必要的共同訴訟であると解さなければならない合理的理由はない。すなわち、固有必要的共同訴訟にあたるか否かの基準は実体法上の関係いかんで決まると解され、本件訴えにおいて原告らは法14条2項の「7人以上」との要件を満たしているから、原告ら7人をもって当事者適格を得られると考えるべきである。

(2) 出訴期間の徒過(原告B及び同Cに関し)

(被告の主張)

本件申請人がDを代理人として本件処分について行った異議申立てに対し、被告は平成13年8月31日に裁決を行い、Dに対し裁決書を送付したから、本件申請人の代理人であるDは平成13年9月1日には本件処分に対する異議申立てに対する裁決を知ったものと考えられるところ、原告B及び同Cは、本件訴えを平成14年3月12日に提起しており、行政事件訴訟法14条1項及び4項の規定に基づく出訴期間を徒過した後の提訴であることが明らかである。

3  本案の争点―本件処分は違法か

(原告らの主張)

(1) 法16条2項に規定する土地区画整理事業の施行の方針は、土地区画整理法施行規則(以下「規則」という。)10条の2第2号及び第3号に定めるとおり、施行後における施行地区内の宅地の地積(保留地の予定地積を除く)の合計の、施行前における施行地区内の宅地の地積の合計に対する割合や、保留地の予定地積について記載した説明書を作成して定めなければならないが、これは組合設立認可申請をする場合についての規定であって、その前段階である関係地権者の同意を得る際にも同様に解しなければならない合理的理由は存在しない。法18条の文理上も、関係地権者の同意を得るに際して、事業基本方針のうち施行の方針については説明書を関係地権者に示して同意を得ることが必要であるとは記載されていない。

また、設立準備委員会の事務局長Eは、関係地権者の同意を得るに当たって各地権者を戸別に訪問し、定款を示し、かつ減歩率が60パーセント以上であることなど事業計画又は事業基本方針について、十分な説明を行ったから、本件申請における関係地権者の同意は有効なものである。

(2) 本件申請は、法14条2項に規定される組合(以下「2項組合」という。)であり、同条1項に規定される組合(以下「1項組合」という。)が設立認可によって整理施行権という強大な公権力を得るのと異なり、設立認可を受けても事業計画を定めて認可を受けない限り整理施行権を有しない。したがって、2項組合設立の際に必要とされる事業基本方針に対する同意は、1項組合設立の際に必要とされる事業計画に対する同意と同じに解することはできない。

(3) 以上に鑑みれば、原告らは本件申請に際し、法18条の定める関係地権者の同意を得たものであるから、被告が法18条の定める同意が得られておらず申請手続に法令違反があるとして行った本件処分は違法である。

(被告の主張)

(1) 組合はいったん設立されると、当該組合が施行する土地区画整理事業にかかる施行地区内の関係地権者は、同意しなかった者も含め、すべて組合員とされ、土地区画整理事業の施行という強大な公権力の行使にさらされることになる。法18条が事業の施行区域内の宅地所有者及び借地権者の各3分の2以上の同意を要求するのは、このような公権力の行使の正当性の根拠を関係地権者の同意に求めているものと解される。この観点からすると、法18条の規定による同意とは、組合の定款及び事業基本方針を承認した上で、その方針のもとに組合が設立され、さらには組合によって区画整理事業が行われることに対する同意としての実質を有するものでなければならず、また同意を得るに際しても、実際の定款及び事業基本方針を関係地権者に示した上、これについての実質的な同意を求めることが必要である。

そして、法16条2項により、事業基本方針においては、施行地区及び土地区画整理事業の施行の方針を定めなければならず、この土地区画整理事業の施行の方針は、規則10条の2各号の事項を記載した説明書を作成して定めなければならないとされている。

したがって、事業基本方針について関係地権者の同意を得るに当たっては,説明書をもって土地区画整理事業の施行の方針を定めた上で、これについて関係地権者の同意を求めることが必要と解すべきである。

また、仮に説明書を作成せずに口頭の説明のみによって関係地権者の同意を得たとしても、一般に土地区画整理事業が複雑な内容を有することに照らせば、そのような同意は同意というに値する実質を備えたものとはいえないし、その同意の対象が設立認可申請の際の事業基本方針と同一のものであることについての担保もないから、口頭の説明のみに基づく同意は、法が要求する同意としての価値がないものというほかない。

(2) 本件申請書には、平成12年4月の基本方針と、関係地権者中233名の同意書が添付されていたが、同意書の大部分の日付が、平成12年4月の基本方針の日付よりも古いものであったことから、被告は、これら同意書が平成12年4月の基本方針を承認した上で作成されたものか判断しかねるものであった。

そこで、被告は、本件申請人に対し、同意書を取る際に関係地権者への説明に使用した資料の提出等を求めたところ、本件申請人は、関係地権者には平成11年8月18日に開催した地権者総会で説明したと述べたので、その際の説明資料の提出を求めたところ、原告F名で定款案及び事業基本方針案が提出されたが、この事業基本方針案は、平成12年4月の基本方針と異なり、規則10条の2第2号ないし第5号の事項の記載を欠いたものであった。

このため被告は、本件申請書に添付された同意書によっては、規則10条の2第2号ないし第5号の事項についての同意が得られたとは認められないと判断し、本件申請は法18条が定める同意を得ずになされたものであり、法21条1項1号に該当するとして、これを不認可としたものである。

また、原告らが関係地権者に対し、減歩率を含め事業基本方針につき口頭で具体的に説明したとは、上記の経緯に照らし到底考えられない。

(3) 以上により、被告は、本件申請書に添付された同意書によっては、法18条が定める同意を得たものとは判断できないことから、本件処分を行ったものであり、本件処分に違法事由は何ら存在しない。

第3当裁判所の判断

1  本案前の争点(1)―本件訴えは固有必要的共同訴訟か否かについて

(1) 法14条1項及び2項では、組合を設立しようとする者は、7人以上共同して定款及び事業計画又は事業基本方針を制定し、都道府県知事の認可を受けるべきものと定めている。ここにいう「7人以上共同して」という文言は、組合を設立しようとする者のうちの7人以上が共同すればよいという意味ではなく、組合を設立しようとする者全員が共同しなければならないという意味に解するのが相当である。

上記条項によれば、組合を設立すべく定款及び事業計画又は事業基本方針の制定に参画した者の中に、設立の意思を失うなどの理由により、設立認可申請に加わらない者が現れた場合には、もはや当該組合の設立認可申請はなし得ないこととなる。こうした法の趣旨に鑑みれば、組合の設立認可申請に参画しながら、当該組合の設立不認可処分の取消訴訟の提起に加わらない者が現れた場合にも、もはや設立不認可処分を取り消して再び組合設立を目指すことはできないものと解すべきである。換言すれば、組合設立不認可処分の取消訴訟の提起は、組合設立の申請者全員が共同で行うべきものと解するのが法の趣旨にかなうといえる。

(2) また、仮に本件訴えが適法であり、かつ判決により本件処分が取り消された場合には、組合の設立不認可処分が申請者ら全員による共同申請に対する一体の処分である以上、原告らとの関係だけで本件処分が取り消され、訴えを提起していないAとの関係では本件処分が適法に存続するとは解しがたい。このような場合には、本件処分が効力を失うと考えるほかないが、そうすると、Aを含めた本件申請人8名による組合設立申請が、被告の認可処分を待つ状態に戻り、再び被告が処分をする際には判決の趣旨に従った処分をする義務が生ずる(行政事件訴訟法33条2項)ことになるのであって、原告ら7名のみで本件申請がされたものと擬制されるものではない。このような形で、Aにも本訴での処分取消判決が影響を及ぼすことに鑑みると、同人が関与しないままに本件処分の適否につき判断することは、同人の意思に反する結果にもなりかねず、相当でない。

(3) 以上によれば、本件訴えは、本件申請人全員が共同して提起すべき固有必要的共同訴訟にあたると解すべきである。

2  結論

したがって、本件申請人のうちAが共同原告に加わっていない以上、本件訴えは不適法として却下を免れない。

(裁判長裁判官 中西茂 裁判官 佐伯恒治 裁判官 別所卓郎)

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