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札幌地方裁判所 平成13年(行ウ)3号 決定 2003年5月28日

原告

甲野太郎

被告

日本郵政公社北海道支社長

上田誠也

主文

被告に対し,平成13年(行ウ)第3号懲戒処分取消請求事件の訴訟手続の続行を命ずる。

理由

第1  訴訟手続の承継

1  本件は,Z郵便局の副局長であった原告が,北海道郵政局長を被告として,懲戒免職処分の取消を求める訴訟であるところ,平成15年4月1日,日本郵政公社法(平成14年法律第97号,以下「公社法」という。)が施行され,日本郵政公社(以下「公社」という。)が成立したことにより,郵政事業庁は廃止され,それに伴い,同庁の機関であった北海道郵政局長も廃止され,被告ではなくなった。

2 日本郵政公社法施行法(平成14年法律第98号,以下「施行法」という。)22条は,「公社法の施行の際現に係属している旧総務省設置法第4条第79号に掲げる事務に関する訴訟事件又は非訟事件であって公社が受け継ぐものについては,政令で定めるところにより,公社を国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律(昭和22年法律第194号)に規定する国又は行政庁とみなし,同法の規定を適用する。」と規定するところ,旧総務省設置法(施行法89条による改正前の総務省設置法,以下「旧設置法」という。)4条79号は,「郵政事業として国が一体的に経営する次に掲げる事業及び業務に関すること。イ 郵政事業 ロ 郵便貯金事業,郵便為替事業及び郵便振替事業(以下略)」と規定し,その文言から,職員に対する懲戒処分を含む内部的な組織管理や秩序維持に関する事項を読み取ることには,明らかに無理がある。また,施行法11条1項は,「施行日前に郵政事業庁長官その他の郵政事業庁の機関がした行為は,この法律及びこれに基づく政令に別段の定めがあるもののほか,総務省令で定めるところにより,公社がした行為とみなす。」と,2項は,「公社法の施行の際現に郵政事業庁長官その他の郵政事業庁の機関に対してされている行為は,この法律及びこれに基づく政令に別段の定めがあるもののほか,総務省令で定めるところにより,公社に対してされた行為とみなす。」とそれぞれ規定しているが,これらの条項は,施行法22条と併せて読めば,同条に規定する,旧設置法4条79号に掲げる事務に関する行為に適用のある規定と解され,施行法11条1項,2項を根拠として,本件訴訟が公社に承継されたと解することも,前記同様困難といわざるを得ない。したがって,本件の訴訟手続を公社が被告として承継したと解することはできない。

その他,公社の関係で,職員に対する懲戒処分に係る抗告訴訟の承継を定めた法令の規定は見当たらない。

3  国家公務員に対してされる懲戒処分は,国家公務員法82条以下に根拠を有し,同法84条において,懲戒権は任命権者に与えられている。そして,行政庁である組織が実質的同一性を保っている限り,任命権者に変更があれば,個別の承継規定を待つまでもなく,その懲戒権も次の任命権者に承継されると解されるところ,施行法4条によれば,公社法施行の際の郵政事業庁の職員は,同法施行日において,原則として公社の職員となるとされ,また,同法5条によれば,郵政事業庁の事務に関し国が有する権利義務は,原則として公社が承継するとされていること等から,公社は,郵政事業庁と組織法的にも事業法的にも,実質的同一性を保っていると解される。したがって,北海道郵政局長が有していた職員の任命権は,国家公務員法55条2項,日本郵政公社権限規程6条及び別表第5により,公社総裁から権限を委任された被告に承継されたといえる。

したがって,本件の訴訟手続は,処分をした行政庁の権限が訴え提起後に他の行政庁に承継された場合として,行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)11条1項ただし書の類推適用及び同法7条による民訴法124条1項2号の準用により,北海道郵政局長から被告に承継されたと解するのが相当である。

第2  訴訟手続の中断

行政事件訴訟手続において,当事者である行政庁が廃止されて,その権限が他の行政庁に承継された場合には,行訴法7条による民訴法124条1項2号の準用により,訴訟手続は中断する。ただし,同条2項により,訴訟代理人がある間は,中断が生じない。

本件では,北海道郵政局長には,国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律(以下「法務大臣権限法」という。)6条2項に基づき法務大臣が指定した代理人がいるので,同法5条1項の「行政庁」に被告が含まれれば,同法6条2項に基づく法務大臣の指定した代理人は,当事者に承継が生じた後も代理権を喪失せず,訴訟手続は中断しないと解する余地がある。しかし,同法は,7条1項で,「地方公共団体,独立行政法人その他政令で定める公法人」について,「行政庁」とは区別して規定し,日本郵政公社法及び日本郵政公社法施行法の施行に伴う関係法令の整備等に関する政令(平成14年政令第385号)37条により,公社は「その他政令で定める公法人」に該当することから,行訴法における「行政庁」とは異なり,法務大臣権限法5条1項の「行政庁」には,被告は含まれないと解され,本件において,法務大臣の指定した代理人は,代理権を喪失していることとなる。

したがって,本件においては,北海道郵政局長が廃止されて,その権限が被告に承継された場合として,行訴法7条,民訴法124条1項2号により,訴訟手続が中断している。

第3  結論

よって,行訴法7条,民訴法129条により,被告に対し,本件訴訟手続の続行を命ずる。

(裁判長裁判官・原啓一郎,裁判官・山田真紀,裁判官・佐々木清一)

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