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札幌地方裁判所 平成14年(レ)55号 判決 2002年6月25日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

控訴人は,「原判決を取り消す。被控訴人の控訴人に対する請求を棄却する。訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。」との判決を求め,被控訴人は,主文同旨の判決を求めた。

第2当事者の主張

1  請求原因

(1)  被控訴人は,札幌市a区bc条d丁目e-f所在のAという名称の一棟の建物(以下「本件建物」という。)の区分所有者全員で構成する団体である。

(2)  控訴人は,本件建物のうちのg号室を所有する本件建物の区分所有者の一人である。

(3)  被控訴人は,平成13年3月17日,設立総会を開催し,建物の区分所有等に関する法律(以下「建物区分所有法」という。)31条1項に則り,区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議によって,「A管理組合規約」(以下「本件規約」という。)を設定した。

(4)  本件規約は,区分所有者は被控訴人に対し,管理費,修繕積立金,駐車場使用料,専用庭使用料及び町内会費(以下「管理費等」という。)を納入しなければならないと定めているところ,控訴人が被控訴人に対して支払うべき管理費等の金額は,本件規約などによって次のとおりとされている。

ア 管理費  月額  8900円

イ 修繕積立金  月額  4750円

ウ 駐車場使用料  月額  1万5000円

エ 専用庭使用料  月額  1400円

オ 町内会費  月額  300円

カ 合計  月額  3万0350円

(5)  控訴人は,被控訴人に対し,本件規約などによって算出される平成12年12月分から平成13年12月分までの管理費等合計38万9842円のうち,32万1250円のみを支払ったが,差額の6万8592円を支払わない。

(6)  よって,被控訴人は,控訴人に対し,本件規約に基づき,管理費等6万8592円を支払うことを求める。

2  請求原因に対する認否

(1)  請求原因(1)のうち,被控訴人が本件建物の区分所有者で構成する団体であることは認め,控訴人が被控訴人の構成員(組合員)であることは否認する。なぜならば,控訴人は,被控訴人に対し,「A管理に係る承認書」(乙第3号証,以下「管理に係る承認書」という。)を提出していないからである。

(2)  同(2)の事実は認める。

(3)  同(3)ないし(5)の事実は否認する。

3  控訴人の主張

(1)  本件規約の原本が不存在であることによる本件規約の無効

ア 本件建物の販売業者である株式会社Bは,控訴人に対してg号室を販売するに際し,本件規約の原本に本件建物の区分所有者全員の記名押印のある「管理に係る承認書」を添付することによって本件規約の原本とするので,控訴人に対し,「管理に係る承認書」に記名押印して提出することを求めた。

これは,本件規約の設定につき,書面決議によること(建物区分所有法45条1項参照)とされたものである。

イ しかし,控訴人は,株式会社Bに対し,記名押印をした「管理に係る承認書」を提出せず,いまだ,控訴人の手元に所持している。

ウ したがって,本件規約の原本は不存在であり,本件規約は無効というほかない。

(2)  控訴人が支払うべきものとされる管理費の金額の不当性

ア 本件規約は,控訴人の所有するg号室の管理費につき,専有部分面積を基準として,8900円と定めている。この管理費には,エレベーター保守費及びエレベーターに関わる電気代並びに灯油給油施設に関わる保守料等が含まれている。

イ しかし,控訴人の所有するg号室は,1階にあるから,控訴人は,エレベーターを利用していない。また,同g号室は,控訴人の選択によって,オール電化住宅仕様になっているものであり,控訴人は,灯油供給施設を利用していない。

ウ したがって,本件規約が,控訴人の所有するg号室の以上のような特質を考慮せず,単に専有部分面積のみを基準として,その管理費を8900円と定めたことは不当である。

(3)  本件規約の設定についての手続的な瑕疵

ア 建物区分所有法31条1項は,「規約の設定,変更又は廃止は,区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において,規約の設定,変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは,その承諾を得なければならない。」と定めている。そして,本件規約の設定は,控訴人の権利に特別の影響を及ぼすべきものであるから,控訴人の承諾を得なければならない。

また,同法35条5項,1項は,「集会の招集の通知をする場合において,会議の目的たる事項が,規約の設定に関する決議事項であるときは,その議案の要領をも通知しなければならない。」旨を定めている。

イ しかるに,本件規約の設定について,控訴人の承諾を得ていないし,また,被控訴人の設立総会の通知には,会議の目的たる事項として本件規約の設定が明記されず,かつ,議案の要領も通知されていない。

ウ したがって,本件規約の設定については,手続的な瑕疵があり,無効である。

理由

1  請求原因(1)について

(1)  請求原因(1)のうち,被控訴人が本件建物の区分所有者で構成する団体であることは争いがない。

そして,区分所有者は,全員で,建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成するものであるから(建物区分所有法3条),被控訴人は本件建物の区分所有者全員で構成する団体であることが明らかである。

以上によれば,請求原因(1)の事実はこれを認めることができる。

(2)  なお,控訴人は,控訴人が被控訴人の構成員であることを否認し,その理由として,控訴人は,被控訴人に対し,「管理に係る承認書」を提出していないことをあげる。

しかし,控訴人がg号室の所有者であることは当事者間に争いがないから,控訴人は,建物区分所有法3条の適用によって,当然に被控訴人の構成員になるものであり,控訴人の上記主張は採用することができない。

2  請求原因(2)について

請求原因(2)の事実は当事者間に争いがない。

3  請求原因(3)について

請求原因(3)の事実は,乙第13号証及び弁論の全趣旨によって,これを認めることができる。

4  請求原因(4)について

請求原因(4)の事実は,甲第6号証,第8号証の2,3,乙第4号証によって認められる本件規約24条1項,28条,65条3号及び管理費等・使用料一覧表並びに弁論の全趣旨によって,これを認めることができる。

5  請求原因(5)について

請求原因(5)の事実は,前記請求原因(4)の事実に加えて,甲第2号証及び弁論の全趣旨によって,これを認めることができる。

6  控訴人の主張(1)について

控訴人は,本件規約の原本が不存在であることを理由として,本件規約が無効である旨主張する。

しかし,本件規約が平成13年3月17日に開催された被控訴人の設立総会の決議によって設定されたこと(請求原因(3)の事実)は,前認定のとおりであって,本件規約の原本が仮に原告の主張するとおりに不存在であるとしても,これによって本件規約が無効になるものではなく,控訴人の上記主張は採用することができない。

なお,控訴人は,本件建物の販売業者は,控訴人に対してg号室を販売するに際し,本件規約の原本に本件建物の区分所有者全員の記名押印のある「管理に係る承認書」を添付することによって本件規約の原本とするので,控訴人に対し,「管理に係る承認書」に記名押印して提出することを求めたこと(以下「本件提出要求」という。)をもって,本件規約の設定につき,書面決議によること(建物区分所有法45条1項参照)とされたものである旨主張するが,本件建物の販売業者の本件提出要求があったからといって,本件規約の設定につき,書面決議によることとされたことになるものではない。

7  控訴人の主張(2)について

控訴人は,本件規約が,控訴人の所有するg号室の特質(1階にありエレベーターを利用する必要がないこと,オール電化住宅仕様となっていて灯油供給施設を利用する必要がないこと)を考慮せず,単に専有部分面積のみを基準として,その管理費を8900円と定めたことは不当である旨主張する。

しかし,本件建物に附属しているエレベーター及び灯油供給施設が本件建物の共用部分となっていることは,甲第4号証及び弁論の全趣旨によって,これを認めることができるところであり,区分所有建物が1階にあるからといってエレベーターの保守管理等に要する費用を負担しないでよいことになるものではないし,また,乙第8号証,第10,第11号証及び弁論の全趣旨によれば,控訴人は,本件建物に灯油供給施設が附属し,これが本件建物の共用部分となっていることを知りながら,本件建物の販売業者に対し,g号室をオール電化住宅仕様とすることを特注したことが認められるから,控訴人がそのような特注をしたからといって灯油供給施設の保守管理に要する費用を負担しないでよいことになるものではない。

したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。

8  控訴人の主張(3)について

(1)  控訴人は,まず,本件規約の設定は,控訴人の権利に特別の影響を及ぼすべきものであるから,控訴人の承諾を得なければならないところ,控訴人の承諾を得ていないという手続的な瑕疵がある旨主張する。

しかし,本件規約の内容が,控訴人の権利に特別の影響を及ぼすべきものであることの具体的な主張・立証はない。

ちなみに,本件規約に,控訴人がエレベーターを利用することを禁止し,また,控訴人がその所有するg号室につき灯油供給施設を利用することができるように将来改造することを禁止する旨の規定があれば,それは,控訴人の権利に特別の影響を及ぼすべきものであると考えられないではないが,本件規約にそのような規定があるとは窺われない。

そうすると,控訴人の上記主張は採用することができない。

(2)  控訴人は,次に,被控訴人の設立総会の通知には,会議の目的たる事項として本件規約の設定が明記されず,かつ,議案の要領も通知されていないという手続的な瑕疵がある旨主張する。

そこで検討するに,甲第4号証,乙第3号証,第12,第13号証及び弁論の全趣旨によれば,①控訴人は,平成12年1月ころ,本件建物の販売業者から,本件建物のg号室を購入する際に,本件規約と同内容の記載のある文書を受領し,将来本件建物の区分所有者全員で構成する管理組合が設立され,管理組合の集会においてその文書の内容をもって規約とする旨の決議がされた場合に,それが建物区分所有法の定める規約となる旨の説明を受けたこと,②控訴人を含む本件建物の区分所有者は,平成13年3月6日ころ,書面をもって,被控訴人の設立総会を同月17日に開催する旨の通知を受けたこと,③その通知書には,議案の一つとして「管理組合運営および委託管理業務に関する件」が掲げられていたことが認められる。

以上の事実によれば,被控訴人の設立総会の通知には,会議の目的たる事項として,「管理組合運営および委託管理業務に関する件」が掲げられているところ,これには本件規約の設定も含まれるものとみることができるし,また,本件建物の販売業者は,その販売に当たって,本件建物の区分所有者各自に対して本件規約と同内容の記載のある文書を交付し,かつ,将来本件建物の区分所有者全員で構成する管理組合が設立され,管理組合の集会においてその文書の内容をもって規約とする旨の決議がされた場合に,それが建物区分所有法の定める規約となる旨の説明をしているのであるから,本件規約に関する議案の要領も通知されていたものと認めるのが相当である。

そうすると,控訴人の上記主張は採用することができない。

9  以上によれば,被控訴人の請求は理由があり,原判決は相当であって,本件控訴は理由がない。

よって,本件控訴を棄却することとし,控訴費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 橋本昇二 裁判官 岩松浩之 裁判官 石川真紀子)

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