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札幌地方裁判所 平成14年(ワ)369号 判決 2002年5月13日

主文

1  被告は,原告に対し,267万円及びこれに対する平成13年10月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は,被告の負担とする

3  この判決は,仮に執行することができる。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

主文と同旨

2  請求の趣旨に対する答弁

(1)  原告の請求を棄却する。

(2)  訴訟費用は,原告の負担とする。

第2当事者の主張

1  請求原因

(1)  株式会社A(以下「A社」という。)は,平成13年10月1日,当庁に破産の申立てをし,同月2日,当庁において,同社を破産者とし,原告を破産管財人に選任する旨の決定がされた(当庁同年(フ)第3721号事件。以下この事件を「本件破産事件」という。)。

(2)  被告は,平成13年9月及び10月当時,A社の代表取締役であった。

(3)  被告は,以下のとおり,A社名義の銀行口座から合計372万円の預金の払戻しを受けた。

ア B銀行澄川支店(口座番号0682780)

(ア) 平成13年9月26日  50万円

(イ) 平成13年9月26日  50万円

(ウ) 平成13年9月26日  40万円

(エ) 平成13年9月26日  33万円

(オ) 平成13年9月26日  23万円

イ C銀行平岸支店(口座番号545921)

(ア) 平成13年9月17日  30万円

(イ) 平成13年9月18日  40万円

(ウ) 平成13年9月18日  30万円

(エ) 平成13年9月27日  40万円

(オ) 平成13年9月28日  11万円

ウ D銀行札幌支店(口座番号3425819)

平成13年9月25日  25万円

(4)  被告は,(3)アの金員のうち計91万円並びに同イの計151万円及び同ウの25万円の合計267万円を領得した。

(5)  よって,原告は,被告に対し,不法行為に基づき,領得金267万円及びこれに対する不法行為以後の日である平成13年10月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する認否

(1)  (1)ないし(3)の各事実はいずれも認める。

(2)  (4)の事実は否認する。

理由

1  請求原因(1)ないし(3)の各事実は当事者間に争いがない。

2  請求原因(4)について

(1)  請求原因(3)の各払戻しは,いずれも被告が本件破産事件の申立てに先立つこと半月以内という極めて近接する時期にしたものであることからすると,払い戻された各金員は,使途が不明である限りは(被告は,破産法153条により,破産管財人である原告に対し,当該各金員の使途について説明義務を負うと解される。),被告によって隠匿されたとの推認を免れないというべきである。

(2)  請求原因(3)アの各金員について

ア  成立に争いのない甲第4,第9,第12号証によれば,以下の各事実が認められる。

(ア) 被告は,本件破産事件において,平成13年10月10日,当庁に対し,請求原因(3)ア(ア)及び(イ)の各金員のうち75万円は元の従業員であるEに対する現場経費及び報酬の支払に充てた旨,その余の25万円と同(ウ)ないし(オ)の各金員の合計96万円との総計121万円のうち31万5000円は株式会社F(以下「F社」という。)に対する車のリース代金の支払に充て,30万円は従業員であるGに対する現場経費の清算金の支払に充て,その余の59万5000円は一部は小口支払及び引越費用として支出されたと思われるが,具体的な使途については不明である旨の各記載のされた報告書を提出した。

(イ) 被告は,本件破産事件において,平成13年10月15日,当庁からの照会に対し,(ア)におけるF社に対する31万5000円の支払方法は現金を持参した旨の記載のされた報告書を提出した。

イ  しかし,成立に争いのない甲第10号証よれば,9月3日にA社からF社に対し31万5000円が支払われていることが認められ,この事実に照らすと,F社に対し31万5000円を支払うため,平成13年9月26日に請求原因(3)ア(ウ)ないし(オ)の各金員の払戻しを受けたとする被告の説明は,信用することができない。

ウ  したがって,請求原因(3)アの各金員のうち,被告がF社に支払ったと説明する31万5000円は使途が不明といわざるを得ず,これと,被告が具体的使途は不明と説明する59万5000円の合計91万円については,被告によって隠匿されたとの推認を免れない。

(3)  請求原因(3)イの各金員について

ア  成立に争いのない甲第5,第8,第13号証によれば,以下の各事実が認められる。

(ア) 被告は,本件破産事件において,平成13年10月4日,当庁に対し,請求原因(3)イ(ア)の金員はH及びIに対する現場経費の支払に充てた旨,同(イ)の金員は自己に対する出張旅費の支払に充てた旨,同(ウ)の金員は現場経費の支払に充てた旨の各記載のされた報告書を提出した。

(イ) 被告は,本件破産事件において,平成13年10月5日,当庁における審尋の際に,請求原因(3)イ(エ)の金員は支払に充てたと思うがよく分からない旨の供述をした。

イ  しかし,ア(ア)の説明については,領収書や送金記録等の客観的な裏付けを欠いていることや,請求原因(3)イ(イ)の金員は出張旅費としては高額であり,出張の行先等も明らかにされていないことに照らし,にわかに信用することはできない。

そして,同(オ)の金員の使途については,本件破産事件及び本件訴訟を通じて,被告が何らかの説明をした事実を認めるに足りる証拠はない。

ウ  したがって,請求原因(3)イの各金員は,使途が不明といわざるを得ず,被告によって隠匿されたとの推認を免れない。

(4)  請求原因(3)ウの金員について

請求原因(3)ウの金員の使途については,本件破産事件及び本件訴訟を通じて,被告が何らかの説明をした事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって,同金員は,使途が不明といわざるを得ず,被告によって隠匿されたとの推認を免れない。

(5)  よって,請求原因(4)には,理由がある。

3  以上によれば,原告の請求は理由があるからこれを認容し,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を,仮執行宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(裁判官 岩松浩之)

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