札幌地方裁判所 平成14年(行ウ)17号 判決 2003年2月25日
主文
1 被告が,A実行委員会(実行委員長B)に対し,C町許可第7号に基づく使用料168万円の支払請求をすることを怠る事実が違法であることを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第1当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
主文同旨
2 本案前の答弁
(1) 本件訴えを却下する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
3 本案の答弁
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2当事者の主張
1 請求原因
(1) 当事者
原告は,D郡C町の住民である。
(2) 違法に財産の管理を怠る事実
ア 被告は,平成13年4月24日,A実行委員会(実行委員長B)が,C町E公園Fパーク(以下「本件公園」という。)において,「A」という名称の催し物を開催するにあたって,本件公園の使用に関し,C町許可第7号として,次の内容の行為許可をした(以下「本件行為許可」といい,その書面を「本件行為許可書」という。)。
(ア) 行為の目的
A開催のため
(イ) 行為の場所又は公園施設
Fパーク及び同駐車場
(ウ) 行為の内容
ライブ演奏及び屋台村
(エ) 行為の期間
平成13年7月16日から平成13年7月23日まで
イ C町都市公園条例(以下「本件条例」という。)11条は,公園における行為許可を受けた者は,同条例の定める額の使用料(以下「公園使用料」という。)を納付しなければならない旨を,同条例別表1(3)は,その額につき,1平方メートル1日につき10円とする旨を規定している。
ウ 本件公園のうち,被告が本件行為許可をした部分の面積は2万1000平方メートルである。
エ 上記ア,イ及びウの事実によれば,本件行為許可に係る本件公園の使用料は,168万円である(面積2万1000平方メートル×8日間×10円,以下「本件使用料」という。)。
(3) 原告は,C町監査委員に対し,平成14年7月16日,被告が違法に本件使用料の支払請求を怠る事実について,地方自治法(以下「法」という。)242条1項の規定に基づく住民監査請求をしたところ,同年9月12日,同監査委員から同監査請求を棄却する旨の監査結果の通知を受けた。
(4) よって,原告は,法242条の2第1項3号に基づき,被告が,A実行委員会に対し,本件行為許可に基づく使用料168万円の支払請求をすることを怠る事実が違法であることを確認するとの判決を求める。
2 被告の本案前の主張
(1) 住民訴訟の訴え提起が適法であるためには,監査請求が前置されていなければならず(法242条の2第1項),その監査請求期間は,当該行為のあった日又は終わった日から1年とされている(法242条2項)。
そして,普通地方公共団体において違法に財産の管理を怠る事実があるとして法242条1項の規定による住民監査請求があった場合に,同監査請求が,当該普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為を違法であるとし,当該行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているものであるときは,当該監査請求については同怠る事実に係る請求権の発生原因である当該行為のあった日又は終わった日を基準として同条2項を適用するべきである。
(2) 被告は,A実行委員会に対し,平成13年4月24日,本件使用料を免除したものであるが,原告のした監査請求は,同免除が違法,無効であることに基づいて発生する本件使用料請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実と主張するものである。
よって,原告のした監査請求は,上記免除のあった平成13年4月24日から1年以上を経過した平成14年7月16日付けでされた不適法なものである。
(3) このように,前置された監査請求が不適法である以上,本件訴えは不適法であり,却下されるべきである。
3 請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の事実は認める。
4 抗弁(本件使用料の免除)
(1) 被告は,A実行委員会に対し,平成13年4月24日,本件使用料を免除した。
その具体的な経緯は以下のとおりである。
ア A実行委員会の役員Gは,平成13年4月23日,本件行為許可に係る公園使用許可申請書を提出する際に,口頭で本件使用料の免除を申し出た。
イ C町において,平成13年4月24日付回議書により,本件使用料を免除する旨を付記して使用許可の決裁がされた。
ウ C町の都市計画係長は,平成13年4月24日,上記Gに本件行為許可書を交付する際,使用料を免除する旨を口頭で伝えた。
(2) 本件条例施行規則6条3項は,公園使用料の免除について,書面によることを要求しているが,本件行為許可書の使用料欄にはハイフンが引かれており,これによって本件使用料を免除することが明確に示されているから,被告は書面により本件使用料を免除したといえる。
(3) また,書面による免除があったとは認められないとしても,公園使用料の免除の申請及び許可について書面を要するものとするか否かは,細目事項というべきであるから,被告が本件使用料を免除するにあたって書面によらなかったという瑕疵は,細目事項についての軽微な瑕疵というべきであり,これによって,免除が不存在となるものではない。
5 抗弁に対する認否
抗弁(2)及び(3)の主張は争う。
理由
1 被告の本案前の主張について
(1) 法242条2項が普通地方公共団体の違法,不当な財務会計上の行為につき,これがあった日又は終わった日から1年を経過したときは監査請求をすることができないと規定して監査請求期間を制限しているのに対し,怠る事実についてはこのような期間制限の規定が存在しないのは,住民は怠る事実が現に存する限りいつでも監査請求をすることができるとしたものと解される。
ただし,普通地方公共団体において違法に財産の管理を怠る事実があるとして同条1項の規定による住民監査請求があった場合に,同監査請求が,当該普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為を違法であるとし,当該行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているものであるときは,当該監査請求については,同怠る事実に係る請求権の発生原因たる当該行為のあった日又は終わった日を基準として同条2項の規定を適用すべきものと解するのが相当である。
これは,同条2項が,財務会計上の行為について,たとえそれが違法,不当なものであるとしても,いつまでも監査請求ないし住民訴訟の対象となり得るとしておくことは法的安定性を損ない好ましくないとの観点から,上記のとおり監査請求期間を制限しているにもかかわらず,監査請求の対象を当該行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使という怠る事実として構成することにより同項の定める監査請求期間の制限を受けずに当該行為の違法是正等の措置を請求しうるものとすると,法が財務会計上の行為について監査請求に期間制限を設け,法的安定を図った趣旨を没却することとなるからである。
そして,普通地方公共団体の長その他の財務会計職員が既発生の実体法上の請求権を免除したことが主張され,同免除の違法,無効が問題となる場合には,同請求権は同免除自体が違法,無効であることに基づいて発生するものとはいえないが,同免除が違法,無効である場合には同請求権が存続することになるから,同請求権の行使を怠る事実の存否は,前提となっている免除という財務会計行為の違法,無効によって左右されるものである。
そうすると,免除が違法,無効であることによって存続することになる実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実とする場合には,その監査請求については,当該免除時を基準として法242条2項の期間制限の規定を適用すべきものと解される。
しかし,普通地方公共団体の長その他の財務会計職員が既発生の実体法上の請求権を免除したことが主張されたとしても,免除があるとはいえない場合には,その監査請求については,法242条2項の期間制限の規定を適用する余地がないことはいうまでもない。
(2) そこで,本件が,免除の不存在の場合であるか,免除はあるもののこれについて違法,無効が問題となる場合であるか否かについて検討するに,甲第1号証の2の3,第2号証,乙第1号証の1及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア A実行委員会の役員Gは,平成13年4月23日,C町役場内の同町経済建設部住宅都市課都市計画係の窓口において,本件行為許可に係る公園使用許可申請書を提出する際,口頭で本件使用料の免除の申出をした。
イ C町の経済建設部長Hは,平成13年4月24日,同日付回議書により,本件行為許可及び本件使用料の免除について,これを是認する旨の決裁をした(なお,本件条例14条によれば,公園使用料の免除は町長の権限とされているところ,C町の内部関係において同免除の決裁権限がC町の経済建設部長に委任されているか否かは証拠上必ずしも明らかではない。)。
ウ C町の都市計画係長は,平成13年4月24日,上記Gに本件行為許可書を交付する際,使用料を免除する旨を口頭で伝えた。
エ 本件行為許可書の使用料欄にはハイフンが引かれている。
(3) ところで,本件条例及び同施行規則によれば,町長は,公益上その他特別の理由があると認めるときは,使用料の全部又は一部を減免することができるとされている(同条例14条)ところ,その手続については,使用料の減免を受けようとする者は,公園使用料減免申請書(同条例施行規則別記様式第8号)を町長に提出するものとされ(同規則6条2項),町長は,使用料の全部又は一部の減免を許可したときは,使用料減免許可書(同規則別記様式第8号の2)を交付するものとされている(同規則6条3項)。
これらの規定の趣旨は,公園使用料の免除の有無は,公園の使用許可を得た者の使用料支払義務を左右するものであって,公園の使用許可を得た者にとっては勿論,C町の財政にとっても重大な影響を及ぼすものであるから,その有無に疑義がなく,後日紛争が発生することがないようにするため,免除についてのみならず,免除の申請についても書面ですることを要するものとしたものと解される。
そうすると,前記(2)ウで認定したとおり,単にC町の都市計画係長がA実行委員会に対して口頭で免除する旨を伝えたに過ぎない場合には,被告による免除があったということはできない。
被告は,本件行為許可書の使用料欄にハイフンが引かれていることをもって書面による免除があった旨を主張するが,同ハイフンから本件使用料を免除する意思が書面上一義的に明らかとなるものでもなく,使用料欄にハイフンが引かれた行為許可書をもって,公園使用料を免除する趣旨の書面と解することはできないから,使用料欄にハイフンが引かれた行為許可書の交付をもって書面による免除があったと認めることはできない。
(5) このように,本件においては,被告による本件使用料の免除があったということはできず,同免除の違法,無効が問題となるということはできないから,本件の監査請求については法242条2項の期間制限の規定を適用すべき場合にはあたらない。
よって,この点に関する被告の主張には理由がない。
2 請求原因について
請求原因(1)ないし(3)の事実については当事者間に争いがない。
3 抗弁について
抗弁事実が認められないことは,上記1で説示したとおりである。
4 結論
以上によれば,原告の本訴請求は,理由があるからこれを認容し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
(なお,被告は,平成15年1月31日,本件につき口頭弁論の再開の申立てをし,その理由として,「本件口頭弁論終結日である平成14年12月17日の8日後の日である同月25日,本件条例及び同施行規則の定める様式の書面により本件使用料を免除した。」旨を主張し,これに沿う証拠を提出したい旨述べる。
しかし,①上記主張に係る被告の措置は,本件口頭弁論終結前において十分に可能であったにもかかわらず,本件口頭弁論終結後になってしたものであること,②原告はC町に居住し,本訴追行のために札幌地方裁判所所在地である札幌市内に出頭することは,それ相応の負担があると推察されること,③原告の本訴提起の趣旨は,被告がC町の財務会計行為に関して条例規則を遵守することを求めるところにあると解されることなどの事実を勘案して,本件につき口頭弁論の再開をしないこととした。)
(裁判長裁判官 橋本昇二 裁判官 岩松浩之 裁判官 徳井真)