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札幌地方裁判所 平成15年(ワ)751号 判決 2005年11月25日

主文

1  被告は,原告らに対し,それぞれ1733万9449円及びこれに対する平成13年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告らのその余の各請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は,これを3分し,その1を原告らの,その余を被告の負担とする。

4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。ただし,被告が,原告らに対し,それぞれ各金1000万円の担保を供するときは,その仮執行を免れることができる。

事実及び理由

第1請求

1  被告は,原告Aに対し,2371万8976円及びこれに対する平成13年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告は,原告Bに対し,2371万8976円及びこれに対する平成13年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,原告A及び原告Bの子である亡Cが,被告が設置するD高等学校(以下「D高校」という。)のボート部に所属していたところ,平成13年9月21日(以下,平成13年については月日のみを,平成13年9月については日のみを,平成13年9月21日については,時刻のみを記載することがある。)から同月23日の日程で開催された平成13年度全道高等学校ボート新人大会兼第13回全日本高等学校選抜ボート大会北海道予選会(以下「新人戦」という。なお,ともに開催予定であった平成13年度北海道ボート選手権大会と新人戦を併せて「本件大会」という。)に参加し,同月21日,ボート転覆によって溺死した事故(以下「本件事故」という。)につき,原告らが,ボート部の引率教師や被告が設置する高等学校の教諭である新人戦の競漕委員長に安全配慮義務違反があったとして,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,亡Cの死亡により生じた損害及び原告ら固有の各損害の賠償金並びにこれらに対する本件事故発生の日である平成13年9月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ請求した事案である。

1  前提となる事実(争いのない事実は証拠を掲記しない。)

(1)  当事者等

ア 亡C(昭和61年2月12日生まれの女性)は,平成13年4月,D高校に入学し,課外クラブ活動であるボート部に入部した。亡Cは,同年9月21日に発生した後記本件事故の当時15歳で,ボート歴は半年に満たなかった。亡Cは,水泳の経験があり,泳ぐことができた。(証人E)

イ E及びF(以下EとFを併せて,「Eら」という。)は,同年9月当時,D高校のボート部顧問教諭であった。

また,新人戦の競漕委員長であったGは,H高等学校(以下「H高校」という。)のボート部顧問教諭であった。(乙6,証人G)

ウ 被告は,D高校及びH高校の設置者である。(弁論の全趣旨)

エ 原告らは,亡Cの両親である。

(2)  本件大会及び本件事故の発生

ア 本件大会

本件大会は,平成13年9月21日から同月23日の会期で,札幌市北区東茨戸113番地茨戸川茨戸漕艇場(以下「本件漕艇場」という。)の1000mコースを会場として開催された。同コース及び付近の状況の概略は,別紙図面(掲載省略)のとおりである。なお,本件漕艇場は,石狩市生振と札幌市北区との境に存する。

D高校のボート部は,9月21日から開催された新人戦に亡Cを含む同部所属生徒の参加申込みをし,Eらが部員を引率した。(甲2,3の2,甲34,乙3)

イ 本件事故

(ア) 本件大会初日の9月21日は,午後から新人戦の予選が行われた。

亡Cは,午後3時20分発艇予定の第6レース女子ダブルスカル予選1組に出場することになっていたため,バウの同級生選手とともに,待機・練習水域とされていた通称津軽海峡(コースのスタート地点から約150ないし300m付近を含む水域)の中央付近で練習をしていた。なお,「ダブルスカル」とは,漕手が両手に1本ずつオールを持つ形式の2人乗りの艇を意味し,「バウ」とは,船首の漕手を意味する。(甲2)

(イ) 亡Cらが練習をしていたところ,第3レース男子ダブルスカル予選1組の競技が進行していた午後3時ころ,亡Cらの艇は,別紙図面×印地点付近において突風と横波を受けて転覆し,亡Cらは水中に投げ出された。転覆した艇は,波風に煽られて,オールを付けたまま水面を回転しながら東茨戸側岸方向に飛ばされた。亡Cらは,艇に掴まることができず,亡Cは水没し,バウの同級生は浅瀬にたどり着いて救助された。亡Cは,行方不明となり,22日午後0時5分ころ,ダイバーにより津軽海峡の中島寄り水深2.5mの川底において遺体が発見され,検視の結果,死因は溺死とされた。なお,亡Cらの艇の転覆の瞬間の目撃者はいなかった。(甲2)

2  争点及び主張

(1)  争点1・被告の責任

(原告らの主張)

ア Eらの安全配慮義務違反

(ア) 引率教師の安全配慮義務

そして,Eらは,以下のとおり,安全配慮義務を怠ったから,国家賠償法1条1項に基づき,高校の課外クラブ活動は,教育活動の一環として位置づけられ,これを実施する学校,学校管理者たる校長及び指導担当教諭等は,正課授業と同じく,これに参加する生徒の生命身体の安全を期するための万全の措置をとるべき義務を負う。ことにボート競技は,自然水面上で行われるので,本来的に一定の危険が内在し,生徒をその競技会に参加させるに当たり,指導担当教諭等には,生じるおそれのある危険から生徒を保護するために常に安全面に十分な配慮をし,事故の発生を未然に防止すべき注意義務(安全配慮義務)が課せられている。

D高校の設置者である被告は損害賠償責任を負う。

この点に関し,被告は,参加者を募って運動競技大会を主催する者は,その運動競技が一定の危険を伴う場合,参加者が安全に競技を行うことができるように配慮する義務を負い,主催者が同義務を負っている限りでは,引率教諭の安全配慮義務は全く免除されるか,少なくとも相当程度に軽減されるなどと主張するが,大会参加者が成人である場合や大学のボート部である場合であればともかく,本件のように高校生が課外クラブ活動であるボート部として参加し,しかもその大会自体が未だ経験が浅く技能の未熟な生徒が参加する新人戦である場合には,そのような理屈は全く妥当しない。

(イ) 本件における具体的な安全配慮義務及びその違反

a 予見可能性

本件事故が発生した新人戦当日の気象に関する予報の内容,寒冷前線の特徴,札幌管区気象台による強風注意報等の発表,当日の気象状況の悪化の推移,その影響によるコース状況,特に津軽海峡の悪化の推移,さらにそれによって現に発生した水上艇への影響及び他校引率教諭による的確な避難誘導行為の存在からすれば,D高校の引率教諭においても,突風が発生して津軽海峡で艇の転覆を来すことにつき予見可能性があったものであり,Eらは,具体的に以下のような安全配慮義務を負っており,かつ,これを怠った。

b 危険性周知義務とその懈怠

Eらは,亡Cらに対し,本件事故当日における本件漕艇場の具体的危険性を周知させる義務があったところ,これを怠った。すなわち,①本件事故当日,石狩地方において北西の風が強くなることが新聞紙上で予報されていた,②北西の風は,津軽海峡において直角方向からの風となり,同所が危険な状況に陥る,③同所における艇は,風の影響を直接に受けてしまう構造となっている,④本件事故当日に開催された新人戦は,亡Cを含め,未だ経験が浅く技能の未熟な生徒が参加するものであった。このような事実からすれば,Eらは,自校の参加生徒に対し,事前にこれらの危険性に関する情報を正確に伝達して理解させるとともに,レース前の待機・練習において津軽海峡への進入には十分注意するよう周知徹底させるべき義務があったところ,これを怠った。

c 監視掌握義務とその懈怠

Eらは,上記①ないし④の事実があったから,水上にある自校生徒の艇の位置及びその動向を常時監視して掌握すべき義務があったが,これを怠った。その結果,亡Cらに対し適切な避難指示等を出して転覆を防止できなかったばかりでなく,亡Cらの艇の転覆にも気付かず,本件事故の発生地点,したがって亡Cの水没地点を不分明にさせて適切な救助活動を困難にさせた。

Eらがランディングにおける自校参加生徒の指導監督の必要から,亡Cらの艇の監視掌握ができなかったとしても,それは2名の引率教諭による管理能力を超える数の新人クルーを参加させたことに起因するものであって,そのこと自体が安全配慮義務の懈怠である。

d 避難等指示義務とその懈怠

Eらは,上記①ないし④の事実があったから,亡Cらに対し,気象状況の変化に応じて適切な避難指示等をすべき義務があったが,これを怠った。

すなわち,(a)当時は時間の経過に伴って徐々に気象状況が悪化し,第2レースの際には風が強い状況であり,(b)しかも,風が強いのに水面の見かけの様子は白波が立たず,これから風が連続的に吹く前兆であった,(c)他校の複数の引率教諭は,第2レースの通過後に自校生徒の艇を津軽海峡から避難させるために指示を出して第3レースの通過直後に避難させた,(d)第3レースのスタート後から,風雨と波による異変が最高潮に達していた。このような経過において,上記(c)のとおり,津軽海峡では他校の引率教諭が現に認識できた程度の相当の異変が生じて,これに対応した適切な避難指示がされたのだから,Eらにおいても,同じく,亡Cらの位置を直ちに確認した上,津軽海峡から遠ざける指示又は進入させない指示をすることが可能であり,そうすべき義務があったが,これを怠った。

e 適切な救命具を装着させる義務とその懈怠

Eらは,亡Cにライフジャケット(ライフベスト)を着用させておらず,亡Cらの艇には,沈艇時に膨らませて使う浮き輪式救命具が装備されていただけであった。新人戦に参加する生徒は,経験が浅く技能も未熟であり,茨戸漕艇場の待機・練習水域には津軽海峡が存在するのであるから,Eらは,少なくとも亡Cら新人戦参加生徒にはライフジャケットを着用させるべきであったが,漫然と新人戦参加生徒を経験や技能ある者と同等の扱いにして,これを怠った。

f 以上のEらの義務違反の結果,亡Cは本件事故に遭った。

イ Gの安全配慮義務違反

(ア) 新人戦競漕委員長の安全配慮義務

Gは,新人戦の競漕委員長として新人戦運営の責任者の立場にあったから,競漕委員長としての責任ないし権限に属する事項につき,新人戦の運営を通じて,参加生徒全員に対する安全配慮義務,すなわち,新人戦開催中に生じるおそれのある危険から参加生徒全員を保護するために,常に安全面に十分な配慮をし,事故の発生を未然に防止すべき義務を負う。そして,ボート競技の特殊性にかんがみれば,Gは,新人戦の進行及び中止・中断に関し責任と権限ある立場において,その開始前に天気予報及び注意報等の気象情報を十分収集する等して,新人戦の中止・中断の必要性を的確かつ迅速に判断し,必要な措置をとるべき注意義務があった。

(イ) Gの安全配慮義務違反

新人戦当日に通過中であった寒冷前線の特徴,当日の気象状況の悪化の推移,その影響によるコース状況,特に津軽海峡の悪化の推移,それによって現に発生した水上艇への影響,引率教諭よる的確な避難誘導行為等の事実,そして,前記のとおり突風と波による艇の転覆の予見可能性があったことからすれば,Gは,新人戦競漕委員長として,新人戦予選第3レースのスタート以前に,少なくとも天候の推移を確認するため競技の進行を一時中断して,水上にある艇をいったん戻す措置をとるべき義務があった。殊に,津軽海峡付近の待機・練習水域にある艇に対しては,警告を発して,直ちに同所から離れるように,また,同所に立ち入らないように措置すべき義務があった。

しかるに,Gは,これらの措置をとるべき義務を怠った。

その結果,本件事故が発生した。

(ウ) Gの競漕委員長としての職務に対する国家賠償法の適用

新人戦の実質的な大会運営者は,北海道高等学校体育連盟(以下「道高体連」という。)のボート専門部であり,その内実は新人戦参加校の引率教諭らであった。そして,Gは,新人戦参加校全てが北海道立の高等学校で,その参加校の教諭らによって実際の運営が担われていた新人戦に公務として参加し,その運営責任者である競漕委員長の職責を担っていたものである。

よって,Gは,公立学校の教諭として職務上負う安全配慮義務を怠ったというべきであり,学校設置者たる被告は,原告らに対し,国家賠償法1条1項に基づき損害賠償義務を負う。

(被告の主張)

ア Eらの安全配慮義務について

(ア) 引率教諭等の安全配慮義務

一般に,参加者を募って運動競技大会を主催する者は,その運動競技が一定の危険を伴う場合,参加者が安全に競技を行うことができるように配慮する義務を負う。したがって,高等学校教諭が,自校生徒を引率して,別に主催者の存する運動競技大会に自校生徒を参加させた場合,大会主催者及び引率教諭の両者が,当該生徒らに対して安全配慮義務を負うべき者として考えられる。

しかし,大会の開始,進行や中断,中止を決定する権能は全て大会主催者に帰属し,大会主催者は,大会の進行を全面的に支配しているのであって,引率教諭は,これらの権能を有しないから,大会実施中は,大会主催者が参加中の選手(生徒)をより実効的に支配し得る立場にあり,その反面として,選手に対して,第1次的,包括的な安全配慮義務を負う。したがって,このような大会に自校生徒を参加させた場合,当該大会の参加中は,原則として,生徒に対する安全配慮義務は主催者によって尽くされ,主催者が同義務を負っている限りでは,引率教諭の安全配慮義務は全く免除されるか,少なくとも相当程度に軽減され,引率教諭が負うべき安全配慮義務は,第2次的ないし補充的な義務にとどまり,引率教諭は,何らかの事情により主催者が生徒に対する安全配慮義務を懈怠していることが一見して明瞭である等の特段の事情のない限り,直接生徒に対して安全配慮義務を負わないと解すべきである。

また,新人戦は運動競技大会としての性格を強く帯びるものであり,亡Cも,新人戦には,あくまで一人の競技者として参加しているものと考えるべきものであって,新人戦は,学校単位で行われる通常の部活動とは著しく趣を異にし,亡Cについても,Eらは,日常の部活動におけるのと同様の安全配慮義務は負わない。

(イ) 本件における具体的な安全配慮義務及びその違反について

a 予見可能性等について

原告らは,当日の天候の兆候などにEらが相応の注意を払いさえすれば,午後3時少し前に発生した天候の急変(強風の発生)の予見が可能であったと主張するが,このような兆候が,天候の急変を予見させるものであるかどうか明らかではなく,仮に予見させるものであるとしても,新人戦当時の高等学校教諭における一般的な知見ではなく,Eらは天候の急変を予見できなかった。

また,Eらが天候の急変を予見できたとしても,本件事故の原因となったほどの強風が吹くことは予見できなかった。

本件事故は,通常の予見の範囲をはるかに超えた著しい天候の急変(強風の発生)を原因とする不可抗力によるものである。

b 危険性周知義務について

原告らの危険性周知義務の主張は,どの局面についていうものか明らかではないが,亡Cが第6レースに参加すべくランディングでボートに乗って離岸する際のこととすれば,Eらにそのような義務はなかった。本件事故当日,午後2時30分に第1レース予選第1組がスタートし,その後午後2時54分に第3レース予選3組がスタートしたが,その前後に津軽海峡で練習又は待機していたのは亡Cらを含め10組のクルーであった。これらのクルーは,離岸するまでに各引率教諭から津軽海峡に進入することを禁止されておらず,原告らが適切な避難誘導行為を行ったと主張するI高等学校のJ教諭らでさえ,自校の生徒に対して津軽海峡への進入を禁止せず,当時の気象条件との関係で津軽海峡の危険性を自校の生徒に告知せず,津軽海峡付近での練習も禁止していなかった。すなわち,そのような注意をすべき特段の事情は,Eらを含め,本件漕艇場に臨場していたどの教諭にも具体的に認識されていなかった。

c 監視掌握義務・避難等指示義務について

引率教諭は,生徒がランディングからボートに乗って離岸した後は自校の生徒の間近で指導を行うことは不可能であり,生徒の生命・身体に対する安全の確保にかかる適切な処置はすべて主催者らによりされるとの認識をしていた。

また,原告らの主張する監視掌握義務・避難等指示義務の前提として,本件事故前の気象条件からして津軽海峡付近での本件事故発生の予見可能性が必要であるところ,新人戦は,本件事故発生の直前まで,若干の時間的遅れはあったものの中断されることなく進行しており,大会役員及び引率教諭の誰からも中断又は中止の指示・要請はなかったことから,誰も本件事故発生の可能性は予見し得なかった。ましてEらは,本件ボート場の全体的状況を気象条件との関係で監視する立場にあったわけではなく,ランディングで離岸・着岸する生徒の安全を確保する作業に従事していたから,そもそも本件事故発生についての予見を期待することができなかった。

さらに,原告らは,Eらが,その管理能力を超える数の新人クルーを参加させたと主張し,そのことも安全配慮義務の懈怠であるとするが,本件事故当日のD高校の参加クルー数は4クルーにすぎないのであって,原告らの主張は,事実誤認に基づくものである。

d 救命具を装着させる義務について

新人戦において,生徒にライフジャケットを装着させていたのは参加校13校中1校であり,他の参加校及びボート競技関係者一般の認識として,競技中参加者にこれを装着させなければならないとの認識はなかった。

また,新人戦の出漕方法を定めた競漕規則は,当時も現在も競技参加者にライフジャケットの装着を義務付けていない。

これらのことからすれば,新人戦当時,Eらに亡Cに対してライフジャケットを装着させるべき義務があったとはいえない。

イ Gの安全配慮義務違反について

(ア) Gの競漕委員長としての職務に対する国家賠償法の適用について

新人戦は,北海道ボート協会(以下「道ボート協会」という。)及び道高体連という任意団体が主催する大会であり,その大会役員として活動することは,高等学校教諭の一般職務権限には含まれず,職務関連性の要件を欠く。

また,原告らの主張は,新人戦の実質的な主催者が道高体連であることを前提としている。しかし,新人戦は,道ボート協会と道高体連の主催とされているが,予算,設備,スケジュール及び人員といった主要部分が全て道ボート協会により意思決定されており,実質的に主導権を持ち,運営に責任を持つ立場にあったのは道ボート協会であり,新人戦は,道ボート協会の主導の下で全道選手権大会の一部分として計画,実施された大会であった。

(イ) Gの安全配慮義務違反について

そもそも,前記のとおり,本件事故は通常の予見の範囲をはるかに超えた著しい天候の急変を原因とするもので,不可抗力によるものであった。

また,新人戦は,実質的に道ボート協会の主導で開催実施されたのであるから,新人戦の中止,中断の必要性を的確,迅速に判断して措置すべき義務は,新人戦を常時監視していた道ボート協会のK理事長が相当程度負うべきであった。そして,競漕委員長としてのGには,新人戦の中止,中断を決定する最終権限がなかったから,Gが本件事故の原因となった強風を予見できたとしても,Kが同様に予見できなかった限り,即座に本件事故を回避できた可能性は極めて低いものであったといわざるを得ない。

(2)  争点2・損害

(原告らの主張)

本件事故により,亡C及び原告らは,次のとおり損害を被った。

ア 病院関係費 5250円

イ 遺体搬送料 25万8300円

ウ 葬祭料 150万円

エ 逸失利益

亡Cは,死亡時15歳であったところ,逸失利益算定の基礎収入は,平成12年・全労働者平均賃金が用いられるべきであり,生活費控除率を40パーセントとして,ライプニッツ係数を用いて中間利息を控除すると,逸失利益は,4687万4403円となる。

オ 慰謝料

亡Cは,原告らの子(3人)の末っ子であり,その兄がボート競技者でD高校在学中にボート部に所属していた影響から,同高校入学と同時にボート部に入り,その約半年後に本件事故によって15歳で亡くなった。これらの事情及びその他本件の全事情に鑑み,亡Cの慰謝料及び原告らの固有の慰謝料として,3000万円が相当である。

カ 上記アないしオの合計 7863万7953円

キ 損害の填補

原告らは,日本体育・学校健康センターの災害共済給付金(死亡見舞金)として2500万円を,北海道高等学校PTA安全互助会から死亡見舞金として1050万円を受け取ったので,3550万円が損害に填補された。

上記合計から填補額を差し引くと,残額は,4313万7953円である。

ク 弁護士費用

弁護士費用は,上記キにおける残額の約1割の430万円が相当である。

ケ 上記キの残額とクの合計4743万7953円の損害につき,原告らは,それぞれ2分の1ずつ亡Cの損害の賠償請求権を相続により取得し,また,原告らの損害を分担した。

したがって,原告ら各人の損害賠償請求額は,2371万8976円である。

(被告の主張)

亡Cが,原告らの子(3人)の末っ子であったこと及び亡Cが15歳で亡くなったことは認め,亡Cがボート部に入部した経緯は知らない。その余は争う。

第3争点に対する判断

1  前提となる事実並びに証拠(甲2,4,7の1ないし3,甲8,9,11の2,甲22,24,30,31の1ないし38,甲32の1ないし3,甲34,37,42,43,46,47,49,乙1ないし4,6,18,22,26,証人E,証人F,証人J,証人G,証人R,証人K,原告A(これらのうち,後記認定に反する部分を除く。))及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。

(1)  亡Cについて

ア 亡Cは,D高校ボート部で週6回,学校がある日は放課後約2時間半から3時間,休日は午前と午後に練習をしていたが,入部2か月後ころ(練習内容がシングルスカル艇への乗艇に変わるころ)から腰痛を訴えることがあったため,乗艇の回数を減らし,別のプログラムに従って陸上で練習をしていた。そのため,亡Cの水上での練習量は,他の生徒に比べて少なかった。(乙4,証人E,証人F)

イ 亡Cは,本件事故に遭うまで,平成13年6月8日から10日に開催された大会及び同月下旬のインターハイ選抜大会のため,本件漕艇場に2回来たことがあったが,これらの大会に選手として参加することはなく,新人戦が初めての公式戦への参加であった。(乙4,証人E,弁論の全趣旨)

(2)  D高校ボート部の概況

ア D高校ボート部の顧問には,E,F,L教諭の3名がおり,Eは,技術面,体力面及び精神面の指導を,Fは,事務的な仕事,安全指導,L教諭は,モーターボートに乗船したり,精神面のバックアップをするという大まかな役割分担があった。(証人E)

イ Eは,平成9年,前任の高等学校からD高校に転任した。

Eは,ボート競技の関係では,財団法人日本体育協会公認B級コーチ,日本SAQ協会インストラクター(レベル1)の資格を取得しており,大学在学中に選手活動を4年間,大学卒業後に大学のコーチを2年間,クラブチームでの選手活動を3年間,選手指導を2年間行い,D高校に赴任後,同校ボート部の顧問として部員の指導をしていた。

Eは,本件事故までに,本件漕艇場に自ら選手として四,五回来たことがあり,指導者として生徒を引率したことが七,八回あった。(乙4,証人E)

ウ Fは,平成8年にD高校に赴任して以来,ボート部の顧問をしていた。

Fは,スポーツ指導者の資格は持っていなかった。(証人F)

(3)  新人戦

ア D高校ボート部は,新人戦の男子クォドルプルに5名(1クルー),男子シングルスカルに2名,女子クォドルプルに5名(1クルー),女子ダブルスカルに4名(2クルー),女子シングルスカルに2名の計18名(8クルー)が参加申込みをした。D高校の引率者は,Eらであった。

ただし,女子シングルスカルの2名は,見学の目的で参加申込みをしたもので,当初からレースは棄権する予定であり,21日のレースに参加するD高校ボート部のクルーは4クルーであった。(甲11の2,甲34,証人E)

イ 新人戦の開催場所等

新人戦が行われたのは,日本ボート協会C級公認コースである本件漕艇場(別紙図面参照)の1000mコースで,茨戸川漕艇研修センターなど艇庫群の前面の平水4レーンを,東茨戸側を第1レーン,生振側を第4レーンとして使用した。

本件大会本部は,コースのスタート位置から650m付近の岸にある茨戸川漕艇研修センター2階に置かれ,ランディング(艇の発着場所)は,同センター前にあった。なお,本件漕艇場では,昭和初期からボート競技等が行われており,道内の主要大会の会場とされていた。

別紙図面×印の位置を含む150mから300m付近は津軽海峡と通称され,水路が分かれ,川幅が200m余りに広がっているので,コースに直角の風が吹くと波が高くなる。また,津軽海峡には,風を遮る樹木や構造物はない。このように,津軽海峡は風の影響を受けやすい水域であった。

津軽海峡のレーン外南東側水域は,待機・練習場所とされていた。(甲2,4,31の1ないし38,甲42,43,46,証人G)

ところで,北海道では,秋から冬にかけて北西の季節風が吹くが,本件漕艇場は,コースが南西から北東側に向けて延びているため,北西の風は,コースに対する,直角方向からの風(別紙図面における「生振」側から「東茨戸」側に吹く風)となる。(甲46)

なお,E,F及びGは,津軽海峡付近が風の影響を受けやすい場所であることを認識していた。(証人E,証人F,証人G)

ウ 道ボート協会及び道高体連は新人戦の主催者であり,Gが大会運営の責任者である競漕委員長であった。

道ボート協会は,北海道におけるボート会を統括し,道内のボート活動の健全な発達等を目的とし,北海道ボート選手権大会,北海道を代表する選手決定のためのボート競技及びこれに準ずる大会の開催等の事業を行う団体であり,北海道における高等学校,大学,実業団の各ボート部等が会員とされている。

道高体連は,高等学校における体育の健全な発達を図ることを目的とし,北海道内の高等学校等で組織され,高等学校生徒の諸体育大会の開催等の事業を行う団体である。

また,新人戦の大会役員は,競漕委員長のG以下全員が新人戦に参加する自校生徒を引率する教諭等で占められており,新人戦開催に関わる目的だけのために道ボート協会や道高体連から新人戦の運営に関わった者は数名にすぎなかった。(甲34,乙1,3,6,18,証人E,証人G,証人K)

エ 新人戦の参加資格については,日本ボート協会加盟団体に平成13年度登録手続を完了した者であること,同年9月1日現在,高等学校1,2年生に在籍していること等の制限が付されていた。(乙3)

(4)  20日ないし21日にかけての天気予報及び注意報等

ア 20日の注意報

札幌管区気象台は,20日午後8時,次の注意報を発表した。

石狩北部-雷,強風,波浪注意報

石狩中部-雷,強風注意報

「石狩,空知,後志地方では,21日午前0時頃から雷の恐れがあります。又,北西の風が強くなり,最大風速は陸上13メートル,海上17メートル,波の高さ3メートル。落雷や突風,ひょう,高波に注意して下さい。」

なお,石狩北部とは,石狩市,石狩郡,厚田郡及び浜益郡(当時)をいい,石狩中部とは,札幌市及び江別市をいう。(甲22,24)

イ 21日の注意報

(ア) 札幌管区気象台は,21日午前5時,次の注意報を発表した。

石狩北部-強風,波浪注意報

「石狩北部,後志地方の海上海岸では,北西の風が22日明け方まで強く,最大風速は海上17メートル,陸上12メートル。海の波の高さ3メートルの見込みです。突風や高波に注意して下さい。」(甲22)

(イ) 札幌管区気象台は,21日午後1時10分,次の注意報を発表した。

石狩北部-雷,強風,波浪注意報

石狩中部-雷,強風注意報

「石狩,空知,後志地方では,これから今夜にかけて雷の発生する恐れがあります。突風や落雷に注意して下さい。」(甲22)

ウ 21日についての天気予報

21日についての天気予報は,次のとおり報道されていた。

(ア) 北海道新聞9月20日夕刊には,「あすからの天気(気象協会提供) 寒冷前線が日中にかけて北海道付近を通過する。21日は全道的に風が強く,雨が北部や日本海側から降り出し,昼ごろにはオホーツク海側で,夜には太平洋側東部でも雨になる。 石狩 曇り一時・時々雨,北西の風,波最大3㍍」との記載がある。(甲7の1,甲32の1)

(イ) 北海道新聞9月21日朝刊には,「きょうの天気 寒冷前線が北海道付近を通過。21日は雨の降るところが多く,北部や日本海側を中心に雷を伴った強い雨の降る恐れがある。上空にはこの秋一番の十一月上旬ごろに相当する寒気が入り,山沿いや峠では雪に変わる所がある。気温も急速に下がり二十二日朝は冷え込みが強く,霜の降りる恐れがある。石狩 曇り一時・時々雨 降水確率60/50/50」「【石狩】南の風明け方から北西の風強く,曇り時々雨。波は2のち3㍍」との記載がある。(甲7の2,3,甲32の2,3)

エ 21日の天候

(ア) 札幌市中央区北2条西18丁目2の札幌管区気象台において,21日午後1時から午後3時まで,平均風速3.1ないし7.6m/sの北西,北北西又は西北西の風が観測された。

また,北海道石狩市生振6線北1の石狩地域気象観測所において,同日午後3時には,平均9m/sの西北西の風が観測された。(甲22)

(イ) 本件漕艇場においては,朝から,北西の風が吹き,雨が降ったり止んだりしていた。(甲2,乙22参照,証人E)

オ 北海道では,秋から冬にかけて北西の季節風が,春から夏にかけては南東の季節風が吹くが,北西の季節風の方が南東の季節風より強く,特に秋の寒冷前線通過時には,突風が吹く。(甲46)

カ E及びFは,21日の朝のテレビで,Gも同日の新聞や早朝のテレビで当日の気象の情報を確認していた。(証人E,証人F,証人G)

(5)  21日の進行経過等

ア 午前中

Eらは,亡Cを含む18名のD高校ボート部員を引率して21日午前中に本件漕艇場に到着し,オール等の用具の整理を終えた後,ミーティングを行い,当日の時間ごとのスケジュール,生徒の体調,本件漕艇場における風や波の状況について確認し,部員に入念なウォーミングアップを指示した。(乙4,証人E)

イ 午後1時から午後1時28分

午後1時,新人戦の開会式が行われ,引き続き監督主将会議が行われた。

道ボート協会理事長で,本件大会のうち平成13年度北海道ボート選手権大会の競漕委員長であったKは,開会式の挨拶で,寒冷前線の通過に伴い気象が不安定であるから注意するようにと述べた。

本件大会の審判長で札幌ボート協会理事長のMは,開会式において,レースにおける一般的な注意のほか,気温が低いのでジャージをユニフォームの下に着てもよいことなどを述べた。(甲8,9,34,証人E,証人R,証人K)

ウ 午後2時15分

競技役員及び補助の生徒ら要員の配置は,午後2時15分に準備が完了した。

救助艇は,大会本部前,600m付近のモーター溜まりに配備された。(甲2)

エ 午後2時30分

第1レース男子シングルスカル予選1組,午後2時30分にスタートした。(甲2)

オ 午後2時45分

第2レース男子シングルスカル予選2組が,午後2時45分にスタートした。

同レースは,午後2時40分のスタート予定であったが,雨のせいでハンドマイクが不調になり,号令が選手に聞こえにくかったため,スタートが遅れた。(甲2,34)

カ 午後2時54分ころ

第3レース男子シングルスカル予選3組が,午後2時54分にスタートした。

同レースは,午後2時50分のスタート予定であったため,時間が押していたことと,選手が風で船首を揃え難かったことから,クイックスタート(発艇準備の確認を「各艇用意いいか」で一括して時間を短縮する発艇号令)とされた。

このころ北西の風がにわかに強まった。

そのため,津軽海峡に最初に差し掛かった第2レーンの艇は,大きな水しぶきを上げ,1艇身ないし2艇身遅れていた後続の3艇が津軽海峡に差し掛かると,生振側からの強い横風によって,風下第1レーンのN高等学校の艇は,レーン外に押し出されそうになり,そのまま進めば浸水のおそれがあった。

そこで,審判長のMは,追尾していた審判艇から,「各クルー,4レーン側に寄れ。レーンを外れて良いから風上の方へ,岸の方へ。」とハンドマイクや白旗を用いて指示した。各艇は,指示に従って移動し,前記N高等学校の艇も波の小さい方に移動した。(甲2,乙2)

キ 本件事故発生までの状況等

(ア) 待機及び練習等の状況

a ボート競技において,選手は,スタート時間の約30分から40分前にランディングから水上に出て,待機,練習をしてスタートを待つ。そして,新人戦においては,参加者は,スタート5分前には,スタート地点周辺に到達して発艇員(スターター)に到着を申告し,2分前には所定の発艇位置に着かなければならないとされていた。

亡Cらの艇も,本件事故前に待機・練習水域に到着していた。(甲47,乙2,3,証人E,証人F,証人K)

b 第3レースのスタート前後,0mから300m水域においては,亡Cらの艇を含む10艇が待機ないし練習中であった。(甲2)

c 第2レースが津軽海峡付近を通過した後,Jは,津軽海峡内の別紙図面×地点にO高等学校のPの艇があり,その付近にI高等学校のQの艇があったが,その水域に白波が立ってきたため,1年生であったPには転覆の危険性があるなどと考え,これらの艇をその水域から離脱させるため,これらの艇に対し,第3レースがスタートしたらすぐに戻ってくるように大声で連呼した。また,新人戦競漕副委員長でO高等学校のR実習担任教諭が,P艇にメガホンで指示をして,艇のトップを生振側に向けさせ,第3レースの通過を待たせた。そして,Q艇は,ステイクボート(発艇員を乗せた固定されたボート。ステッキボートとも称される。)の方に向かい,P艇は,生振側の岸に戻った。(甲2,37,乙22,26,証人R,証人J)

(イ) 競技役員等の配置

本件事故当時の競技役員及び補助の生徒等の配置は,以下のとおりであった(それらの位置関係は,別紙図面のとおりである。)。

a 審判艇

審判長であるM及び新人戦競漕委員であるSが乗船し,進行中の第3レースにおいて,同レース出漕艇を追尾し,同レースを監視していた。なお,審判艇は,レースにおいてクルーの約10m後ろを追尾し,レースを監視する役割を担っている。(甲2,34,乙2,6,証人R)

b スタート地点

道ボート協会の審判部に所属していた発艇員のTが,本件事故当時もスタート地点におり,補助の生徒が一人ついていた。

また,H高校教諭であり,同校の新人戦参加生徒を引率してきていたUは,新人戦の大会委員でもあったが,スタート地点において線審(スタートラインの真横にいて,スタートの判定をするための審判)を務めていた。(甲2,34,乙6,証人E)

c ステイクボート

4人の補助の生徒が配置された。(甲2)

d ゴール地点

Vがゴール審判を務め,補助の生徒が2人配置されていた。(甲2,乙6,証人E)

e 救助艇

O高等学校実習助手であり,同校の新人戦参加生徒を引率していたWは,新人戦の大会委員であったが,本件事故当時,救助艇の運転要員として,600m付近の生振側の陸上(救助艇の前)にいた。(甲2,34,乙4,6,証人E)

f 大会本部

G及びKは,大会本部にいて,第3レースを監視していた。

なお,G及びKは,審判の決定に不服がある場合等に,審判以外の立場としてレースが正常に行われていたかを監視するため,各レースが始まってから終わるまで各レースを監視し,また,レースの記録をプログラムに記入する等していた。(乙6,証人G,証人K)

(ウ) 引率教諭等の位置

本件事故当時の各校の引率教諭や生徒らの位置は,以下のとおりであった。

a Eらは,競技が行われている間,漕艇研修センター前のランディングで,各艇の離岸・着岸の援助をしていた。(乙4,証人E,証人F)

b X高等学校教諭であり,同校の新人戦参加生徒を引率していたYは,400m付近の生振側の川岸にいた。(甲2,34)

c O高等学校実習担任教諭であり,同校の新人戦参加生徒を引率していたRは,150m付近の生振側の川岸において,戻ってきたPの艇の水出しをしていた。(甲2,乙22,証人R)

d I高等学校教諭であり,同校の新人戦参加生徒を引率していたJは,100m付近の生振側の川岸にいて,同校生徒のQにレースのアドバイスをするためにスタート地点に行こうとしていた。(甲2,乙26,証人J)

e Zは,イ高等学校1年生であり,新人戦女子シングルスカル予選2組に出艇するため,待機・練習水域である150m付近の中島付近にいた。

(甲2,34)

f ロは,X高等学校2年生であり,本件事故当時,女子シングルスカル予選1組に出艇するため,スタート地点にいた。また,Qも同じくスタート地点にいた。(甲2,34)

(エ) 本件事故の発生

Rは,生振側の岸で戻ってきたP艇の水出しをしていたところ,Pの「あっ,沈した」(転覆したとの意味)との声で,津軽海峡でダブルスカル艇が転覆していることが分かった。Rは,レスキューを要請するために救助艇の運転要員であるWの携帯電話に電話をかけたが,Wは出なかった。また,Rは,亡Cらの艇が風に煽られて,水面を回転しながら東茨戸側の岸に向かって飛ばされていくのを目撃した。

Jは,スタート地点で「沈」の声を聴き,自転車で救助艇の方に向かったが,その際,沖で沈艇が回転していくのを目撃した。

しかし,亡Cの艇の転覆の瞬間の目撃者はいなかった。(甲2,4,乙22,26,証人R,証人J)

ク 救助活動の経過等

津軽海峡の奥の浅瀬で亡Cの艇のバウの選手は,到着した審判艇に引き上げられた。

その後,何分か亡Cの捜索が続けられたが亡Cは発見されず,午後3時12分,大会本部から警察に通報がされ,午後3時13分から15分ころ,レースの中止が連絡された。

消防隊員及び警察官等は,午後3時28分ころから,潜水捜索等を行ったが,亡Cは発見されなかった。

亡Cの遺体は,22日午後0時5分ころ,津軽海峡中島寄り水深2.5mの川底で発見された。(甲2,甲3の2)

(6)  ダブルスカル艇の標準的な大きさは,長さ9.7mないし9.9m,幅0.35mないし0.4mであるから,長さに対する幅の比率は,3.6パーセントないし4パーセントとなり,一般的な船に比べて縦長の構造となっている。また,ダブルスカル艇は,重さ約26㎏ないし27㎏であり,船底にエンジン等の重量物はなく,横波に脆弱な艇である。(甲46,49,乙2)

(7)ア  新人戦の要領(乙3)によれば,出漕方法は,日本ボート協会競漕規則(以下「競漕規則」という。)の最新版によるとされ,同規則によれば,「競漕委員の許可なく,大会の期間中,コースに沿いクルーに伴走してはならない。」(同規則59条1項),「競漕中,無線装置や拡声器で,岸からクルーに助言や指示をしてはならない。」(同条3項)とされていた。(乙2,3)

イ  競漕規則では,本件事故当時も現在もライフジャケットの装着に関する規定はないが,競漕艇には,漕手,舵手の最も近いところに,予備を含め個人用の救命具を常備しなければならないとされていた(同規則9条2項)。そして,新人戦において,亡Cのボートには,その救命具としては,沈艇時に膨らませて使う浮き輪式の救命具が備えられていた。新人戦において,生徒にライフジャケットを装着させていたのは,参加校13校中1校のみであり,亡CらD高校ボート部の部員も装着していなかった。(乙2ないし4,証人E,証人F,証人R,証人J)

2  上記認定事実及び前提となる事実に基づき検討する。

(1)  争点1(被告の責任)について

ア Eらの安全配慮義務

(ア) 顧問教諭の部員に対する安全配慮義務

学校の課外クラブ活動は,教育活動の一環として行われるものであるから,課外クラブ活動の指導者である顧問の教諭が,課外クラブ活動により生じるおそれのある危険から部員(生徒)を保護すべき義務を負うのは当然であり,事故の発生を未然に防止すべき一般的注意義務を負う。

そして,ボート競技は,自然水面上で行われるスポーツであり,地上におけるスポーツに比して,気象等の自然条件の影響により事故が発生する可能性が高く,また,何らかの事故が発生した場合の救助活動にも制約があり,直ちに生命や身体の危険につながるおそれがあるということができる。したがって,ボート競技の部活動の指導者である顧問の教諭は,その危険性を十分に認識し,部員をその活動に参加させる際には,部員の技能,経験を考慮した上で,競技場の気象状況等に注意し,部員の身体,生命に不測の事態が生じないよう安全に配慮し,部員を保護監督すべき安全配慮義務を負うというべきである。

(イ) 被告の主張に対する判断

a 被告は,亡Cが一人の競技者の立場として新人戦に参加したものであるなどとして,新人戦参加がボート部の通常の活動とは異なり,Eらは通常の部活動の際と同様の安全配慮義務は負わないなどと主張する。

しかしながら,前記認定のとおりの,高等学校のボート部に所属する生徒を対象とする新人戦の性格や新人戦参加に伴うEらのボート部員の引率や指導状況,そして,新人戦の大会要領(乙3)では,「参加者は引率責任者(当該専任教員)によって引率され,引率責任者は選手の行動のすべてに責任を負うこと」とされ,当時のD高校校長ハにおいても,本件事故が学校管理下で起きたものであることを認めていること(甲11の1)などに照らせば,亡Cの新人戦参加は学校教育の一環であるボート部の活動としてされたことが認められるのであって,上記のようなボート競技に内在する危険性をも考慮すれば,ボート部の顧問教諭であり新人戦へ亡Cらボート部員を引率していたEらにおいて,亡Cら部員の生命や身体へ危険が及ばないようその安全を確保する義務を負っていたものというべきであるから,上記主張は採用できない。

b 被告は,本件のように,別の主催者がいる大会に参加中は,原則として,生徒に対する安全配慮義務は主催者によって尽くされ,主催者が同義務を負っている限りでは,引率教諭の安全配慮義務は全く免除されるか,少なくとも相当程度に軽減され,引率教諭らが負うべき注意義務は,第2次的ないし補充的な義務にとどまり,引率教諭は,主催者が生徒に対する安全配慮義務を懈怠していることが一見して明瞭である等の特段の事情のない限り,直接生徒に対して安全配慮義務を負わないと主張する。

確かに,本件において,新人戦の主催者である道ボート協会及び道高体連が参加者に対する安全配慮義務を負っていることは認められるが,前記のように学校教育の一環である課外クラブの活動としての大会参加において引率教諭が負う安全配慮義務が,他に部員らに対して,安全配慮義務を負う者がいることを理由に,直ちに免除あるいは軽減されるとすることはできず,被告の主張は採用できない。

もっとも,参加者らに対して安全配慮義務を負っている大会主催者らがとっている安全対策の内容や大会の具体的状況等については,引率教諭らの具体的な注意義務の内容・程度を確定する際に考慮すべき一事情となり得る。

イ Eらの安全配慮義務違反(過失)の有無

Eらの具体的な過失の有無につき検討する。

(ア) 前記前提となる事実及び認定事実によれば,次のことが認められる。

a ボート競技の危険性

ボート競技は,自然水面上で行われるスポーツであり,事故が発生する可能性が高く,また,救助活動にも制約があることは前記のとおりである。

そして,ボート競技に用いられる艇の中で,本件事故当時に亡Cらが乗艇していたダブルスカル艇は,一般的な船に比べて,縦長の構造となっていて,船底にエンジン等の重量物がないため,特に横波に脆弱であるとの危険性を有する。

さらに,新人戦において,亡Cらは,ライフジャケットを装着しておらず,艇には沈艇時に膨らませて使う浮き輪式の救命具しか備えられていなかったことに照らすと,転覆時に何らかの事情で艇につかまれなかった場合には,大きな事故につながる危険性があったというべきである。

b 新人戦における危険性及び亡Cのボート競技の経験

新人戦の参加者には,1年生が含まれ,初めて競技会に参加する者もおり,ボート競技における経験が乏しく,ボートについての技量が未熟な者もいることからすれば,ある程度経験を積んだ者を対象とする大会に比して,事故の発生の可能性は高く,また,事故が起こったときには,冷静な判断ができず,大きな事故に発展する確率が高いということができる。

新人戦においては,以上のような危険性が存在することが認められる。

そして,亡Cにおいても,ボート歴は半年に満たず,新人戦が初めての公式戦への参加であったものであり,まさに上記のような危険にさらされていたというべきである。

c 主催者(運営主体)の態勢の脆弱性

新人戦の主催者は,道高体連と道ボート協会であるが,新人戦開催目的だけのために道ボート協会や道高体連から運営に関わった者は数名にすぎない。

そして,本件事故当時,主催者らによって,競技役員らが配置されていたと認められるのは,スタート地点,ゴール地点,審判艇,大会本部及び救助艇のみであり,Eらにおいて,主催者らから指示されたわけでもないのに,自主的にランディングに入り,艇の離岸・着岸の援助をしていたことからも,新人戦運営に関して,上記の点以外は,明確な役割分担がされていなかったことがうかがわれる。

そして,ボート競技においてはスタート前約30分ないし40分前から待機・練習水域にいてスタートを待つこととされ,本件事故当時も待機・練習水域には10組ものクルーがいたが,スタート前の待機・練習中の艇を指導・監督する要員は,主催者らによって準備されていなかったことが認められ,実際,本件事故を目撃した者はいない。

以上のとおりであって,新人戦の運営,ことにスタート前の水上で待機・練習中の艇の危険防止のための指導・監督態勢は,極めて脆弱なものであったといわざるを得ない。

d 本件事故当日の気象予報及び本件事故現場の状況

本件事故当日の天気について,寒冷前線が北海道付近を通過する旨の報道が前日からされており,札幌管区気象台は21日午前5時,石狩北部に強風波浪注意報を発していた。

そして,スタート前の待機・練習水域に含まれる本件事故現場は,風の影響を受けやすい水域にあるところ,上記のような気象予報に鑑みれば,本件事故当日には,強い風にさらされる危険性が高まっていたものと認めることができる。

e Eらの認識

さらに,Eらは,D高校のボート部顧問であり,亡Cの練習等を把握していたこと,Eは,特に自らのボート選手歴もあったことからすると,Eらは,上記a,bのような事情や危険性を認識していたものと認められる。

また,cの新人戦の大会運営主体の態勢の脆弱性の点についても,実際に自主的にランディングで各艇の援助を行っていたEらにとって,十分に認識可能な事情であったというべきである。

さらに,dの事情や危険性についても,Eらは,津軽海峡という通称は認識していなかったものの,本件事故現場付近の水域が風の影響を受けやすいことは認識していたものであり,本件事故当日に寒冷前線が通過することや,強風注意報が発せられていた事実についても,テレビや新聞等の天気予報を確認することにより,簡単に知り得たというべきである。

(イ) 以上のようなボート競技の危険性,亡Cのボート競技歴,主催者らによって待機・練習中の参加者に対する監督者が準備されていなかったこと,事故当日の気象予報及び風の本件事故現場付近水域の特性等の事情に加え,これらに対するEらの認識や認識可能性に照らせば,Eらにおいて,本件漕艇場で強風が吹く可能性があり,第6レースに出場するため,水上に出た亡Cらが本件事故現場付近の水域で練習し,強風が吹けば,それが記録的な強風でなくても,風の影響を受けやすい本件事故現場付近においては,技量の未熟な亡Cらの艇が転覆し,強風の影響や,そのような緊急状況において冷静な判断,対処ができないために,亡Cがボートにつかまることもできずに溺れてしまうという事態が十分に予見可能であったと解される。

そうすると,Eらには,亡Cらが離岸するまでの間に,亡Cらに対し,本件漕艇場の特徴,特に津軽海峡付近には危険性があること,その危険性を回避するため,本件事故当日のように強風が吹く可能性がある場合には津軽海峡付近への進入を避けるべきこと,あるいは十分進入に注意すべきであること等を周知徹底させるべき注意義務(以下「本件危険性周知義務」という。)があったことが認められる。

しかし,Eらは,当日の本件漕艇場における風や波の状況について確認を行ったのみであり,上記のような事情につき亡Cらに対して,周知徹底した事実は認められないのであって,Eらは,この注意義務を怠ったといえる。

また,Eらには,亡Cらが離岸し,水上に出た後についても,亡Cらの動向を監視し,亡Cらにつき安全確保のために適切な指示を与える注意義務(以下「本件監視・指示義務」という。)が認められるというべきである。

しかし,Eらは,亡Cらが離岸し水上に出た後,ランディングにいて,亡Cらの動向を監視することはなかったのであるから,Eらは,この注意義務を怠ったといえる。

(ウ) 被告の主張に対する判断

a 被告は,Eらにおいて,天候の急変(強風)を予見することはできなかったと主張するが,前記のとおり,本件事故当日の気象についての予報状況によれば,本件事故当日に,本件漕艇場で強風が吹くおそれがあることはEらにとって予見可能であったと認められる。

b また,被告は,Eらにおいて,天候の急変は予見できたとしても,本件事故の原因となったほどの強風の発生が予見できなかったと主張するところ,本件事故の原因となった風がどの程度の強さであったかについては,証拠上認定できない。

しかしながら,Eらが前記各注意義務を負うため必要とされる事故発生の予見可能性は,当該具体的な事故の発生についての現実の予見ではなく,亡Cらの乗るボートが強風により転覆し亡Cが溺れる危険性があるとの概括的な予見の可能性で足りるというべきである。したがって,前記のとおり,亡Cらのボートが強風によって転覆し,亡Cが溺れる危険があるという概括的な予見が可能であったものと認められる以上,事故原因となった風の強さについての具体的な予見可能性まではなくても,Eらが前記各注意義務を負担することを否定する事由とはならないというべきである。

c また,被告は,Eらが,ランディングにおいて,自校生徒を含む新人戦参加者の離岸・着岸の安全の確保に専念していたことを理由に,本件監督・指示義務のような注意義務を負担していないと主張する。

しかし,Eらがランディングにおいて,そのような活動をしていたのは大会主催者からの指示ではなく,あくまで自主的に行っていたにすぎないところ,亡Cらの安全確保に優先してまで,E及びFの2名共がそのような活動をする必要性があったとは認められず,被告の主張は採用できない。

d 被告は,Eらは,亡Cらが,ランディングからボートに乗って離岸して以降は,参加者の生命・身体に対する安全の確保にかかる適切な処置はすべて主催者らによってされるとの認識を有していたとして,前記のような本件監督・指示義務のような注意義務は負っていなかったと主張する。

しかしながら,前記のとおり,亡Cらのレースのスタート時刻は,午後3時20分であり,ランディングからボートに乗って離岸した後レースのスタートまでかなりの時間があったが,その間,水上にいる亡Cらの行動を掌握する監督者を大会主催者側で用意していたとは認められず,このことはEらにおいても十分に認識可能であったというべきである。そうであれば,審判艇の監視下にあると認められるレース中やレースの開始直前であればともかく,大会主催者らによって責任をもって選手らの行動を掌握する監督者が用意されていないレースまでの待機時間において,Eらが前記のような注意義務を負わないと解することはできず,被告の主張を容れることはできない。

e 被告は,引率教諭は,生徒がランディングからボートに乗って離岸した後は,自校の生徒の間近で指導を行うことは不可能であると主張するが,かかる事実を認めるに足りる証拠はない。前記認定の競漕規則における伴走,助言及び指示を禁ずる旨の規定も,待機・練習中の生徒に対し,その安全のための監視あるいは助言・指示を禁止するものでないことは,その規定の文言からも明らかである。かえって,J及びRにおいて,本件事故現場付近にいたPに声を掛けて指示を出し,同人においてその指示に従って生振側の岸に戻った事実が認められるのであって,被告の主張は理由がない。

(エ) 原告らの主張に対する判断

a 原告らは,Eらが亡Cらに対してライフジャケットを装着させる義務があったとも主張する。

しかし,競漕規則では,競技参加者にライフジャケットの装着を義務付けていないこと,新人戦において生徒にライフジャケットを装着させていたのは参加校13校中1校のみであったこと,本件事故当時,ライフジャケットは,競技において漕艇の妨げとなり,忌避される傾向があったこと(乙4,26,証人E)等の事情からすれば,Eらにおいて,亡Cにライフジャケット等の救命具を装着させる注意義務があったとは認められない。

したがって,原告らのこの点の主張は認めることはできない。

b また,原告らは,Eらには,2名という引率教諭の管理能力を超える数の新人クルーを新人戦に参加させたという安全配慮義務違反があると主張する。

しかしながら,本件事故当日,実際にレースに参加する予定だったD高校のクルーは4クルーであって,Eら2名の管理能力を超える数のクルーであったとは認められない。

よって,この点についての原告らの主張も採用できない。

ウ 因果関係

Eらが,本件危険性周知義務を尽くしていれば,亡Cらにおいて津軽海峡に進入することはなく,本件事故が発生することはなかった高度の蓋然性が認められる。

また,Eらが,本件監視・指示義務を尽くしていれば,亡Cらにおいて津軽海峡に進入することはなかったし,仮に進入したとしても,速やかにその水域を離脱し,又は,強風に対し,適切な対処をすることができ,本件事故の発生を防げた高度の蓋然性が認められる。

したがって,本件において,Eらの上記各注意義務違反と亡Cの死亡との間には因果関係が認められる。

エ Gの安全配慮義務違反について

(ア) 国又は公共団体が国家賠償法1条1項によって賠償責任を負うのは,当該公務員がその職務を行うについて他人に損害を加えたときである。

この点,原告らが主張するGの安全配慮義務は,新人戦の大会役員である競漕委員長としての職務についてのものであるが,新人戦は,道ボート協会,道高体連という団体が主催する大会であり,その大会の役員として活動することは,Gが新人戦への役員出席を用務とする旅行命令を受けていること(乙15)等の事情を考慮しても,教諭としての職務に含まれていないものと認められる(学校教育法51条,28条6項,乙13参照)。

したがって,Gの行為によって,被告が賠償責任を負うとすることはできない。

(イ) 原告らは,新人戦の主催の実態について,実質的な大会運営者は,道高体連のボート専門部であり,その内実は新人戦の参加校の引率教諭らであったと主張する。

確かに,新人戦の大会役員は全員新人戦の参加校の引率教諭であったものであるが,道ボート協会は新人戦の予算を計上し(乙10),大会日程,レース組み合わせ決定・大会設備の調達・審判艇の配備等を行うなど新人戦の運営に関与していたこと(乙6,証人G,証人K),新人戦への参加申込みは道高体連ボート専門部に対してされていたこと(証人K)や,Gは道高体連ボート専門部の委員長としての立場から新人戦の競漕委員長に就任していたこと(乙6,証人G)などの事実に照らせば,新人戦の主催者が団体である道ボート協会及び道高体連であるとの認定が左右されるものではない。

したがって,原告らの主張を認めることはできない。

(2)  争点2(損害)について

ア 亡Cの損害

(ア) 逸失利益

亡Cは,死亡時15歳の高校生であったところ,18歳から67歳まで就労可能と認められるので,本件事故時の平成13年度賃金センサス第1巻第1表産業計・企業規模計・全労働者年平均賃金502万9500円を基礎とし,生活費控除率を45パーセントとして,ライプニッツ係数を用いて中間利息を控除すると,逸失利益は,以下の計算式により4341万5348円となる。

(計算式)

502万9500円×(18.4180《52年のライプニッツ係数》

-2.7232《3年のライプニッツ係数》)×(1-0.45)

=4341万5348円

(イ) 慰謝料

亡Cは,D高校に入学して半年しか経たないうちに,その若い命を落とすことになったこと,その他本件における前記認定の事情を総合すれば,亡Cの慰謝料としては,1800万円が相当である。

(ウ) 合計 6141万5348円

イ 原告らの固有の損害等

(ア) 病院関係費 5250円

甲12により認める。

(イ) 遺体搬送料 25万8300円

甲13の1,2により認める。

(ウ) 葬祭料

150万円が相当であると認める(弁論の全趣旨)。

(エ) 慰謝料

亡Cは,原告らの子(3人)の末っ子であり,その命が15歳という若さで失われたこと,その他本件の事情からすれば,原告らの慰謝料としては,それぞれ200万円が妥当である。(甲46,原告A)

(オ) 相続

原告らは,亡Cの両親であり,上記ア(ウ)の合計額6141万5348円の損害賠償請求権の2分の1である3070万7674円をそれぞれ相続した。

(カ) 上記(ア)ないし(オ)の合計(ただし,(ア)ないし(ウ)は,原告らそれぞれが2分の1ずつ負担したものと認める。)

原告A,原告B 各3358万9449円

ウ 損害の填補

原告らは,日本体育・学校健康センターの災害共済給付金(死亡見舞金)として2500万円を,北海道高等学校PTA安全互助会から死亡見舞金として1050万円を受け取ったので,これらの合計3550万円の2分の1である1775万円ずつが原告らの各損害に填補された。(弁論の全趣旨)上記合計から填補額を差し引くと,残額は,各1583万9449円である。

エ 弁護士費用

本件事案の難易,性質等を総合すると,原告らが支払うべき弁護士費用のうち総額各150万円の範囲で本件事故と相当因果関係を認めるのが相当である。

オ したがって,原告ら各人の損害賠償請求権額は,上記ウの残額とエの合計1733万9449円である。

3  以上によれば,原告らの請求は,それぞれ1733万9449円及びこれに対する本件事故日である平成13年9月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれらを認容し,原告らのその余の請求は,いずれも理由がないからこれらを棄却することとし,本件事案にかんがみ,仮執行宣言については,被告において原告らに対し,それぞれ1000万円の担保を供することを条件として当該仮執行の免脱宣言をするのが相当である。よって,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,64条本文を,仮執行の宣言及び免脱宣言について同法259条をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 笠井勝彦 裁判官 栗原保 裁判官 矢澤雅規)

※ 別紙図面の添付は省略しています。

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