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札幌地方裁判所 平成15年(行ウ)11号 判決 2005年2月25日

主文

1  被告が平成14年11月6日付けで原告に対してした別紙物件目録記載の建物に係る不動産取得税の賦課決定のうち,課税標準額1億2487万円,税額499万4800円を超える部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

主文同旨

第2事案の概要

本件は,別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を新築により取得した原告が,被告のした原告に対する本件建物の取得に係る不動産取得税の賦課決定は,本件建物の床材に使用されている花崗岩について,その資材評価を誤ったもので,違法であるとして,被告に対し,上記賦課決定の一部の取消しを求めた事案である(なお,以下においては,「平方メートル」を「㎡」,「ミリメートル」を「mm」と表記することがある。)。

1  前提となる事実(争いのない事実には証拠を掲記しない。)

(1)  当事者

ア 原告は,百貨店及びチェーンストアの経営等を目的とし,全国に店舗を展開する株式会社である(弁論の全趣旨)。

イ 被告は,地方税法(以下「法」という。)3条の2により北海道知事から不動産取得税の賦課決定の権限の委任を受けた行政庁である。

(2)  不動産取得税の賦課決定

ア 原告は,平成14年6月24日,本件建物を新築により取得した。本件建物の工事代金は,1億1381万7685円であった(乙1)。

イ 被告は,平成14年8月28日,原告から本件建物の取得に係る不動産取得申告書を受理した(乙1)。

ウ 被告は,平成14年9月19日,本件建物の不動産取得税家屋評価についての調査を実施し,別紙再建築費評点数一覧表記載のとおり,法388条1項の固定資産評価基準(昭和38年自治省告示第158号)に基づき,本件建物の延べ床面積1平方メートル当たりの再建築費評点数を11万9766点と決定した。

被告は,同評点数に本件建物の延べ床面積(1168.15㎡)を乗じて本件建物全体の再建築費評点数(1億3990万4652点)を求め,これに「不動産取得税における不動産の評価の取扱いについて」(昭和39年自治府第31号自治事務次官依命通達)2の(2)により評点1点当たり1円10銭を乗じ,本件建物の評価額(1億5389万5117円)を算出した(以上につき,乙2,3の1ないし4,乙4)。

エ 被告は,平成14年10月29日,法73条の21第2項の規定に基づき,本件建物の不動産取得税の課税標準額を1億5389万5000円(ただし,法20条の4の2第1項の規定により本件建物の評価額から1000円未満の端数を切り捨てた額),税額を615万5800円と決定した(乙3の1)。

オ 被告は,平成14年11月6日,原告に対し,本件建物の取得について,課税標準額及び税額をそれぞれ前記額とする不動産取得税の賦課決定(以下「本件課税処分」という。)をした。

カ 本件課税処分に当たり,被告は,本件建物の床仕上げに使用されている花崗岩(以下「本件花崗岩」という。)につき,花崗岩(国産)磨き並(3万3040点/㎡)ないし花崗岩(国産)小叩並加工(3万1940点/㎡)と評価して,本件建物の床仕上げの評点数(3万5122点/㎡)を算出した(乙2,3の2及び3)。これは,平成12基準年度の固定資産評価基準(以下「本件評価基準」という。)における価額調査(調査時点平成10年1月)に基づくもので,本件花崗岩について,資材費の評点数を2万2000点/㎡(花崗岩(国産)磨き並)ないし2万0900点/㎡(花崗岩(国産)小叩並加工),労務費の評点数を各1万0427点/㎡,下地その他の評点数を各616点/㎡とした評価(なお,これらの合計評点数から10点未満を切り捨てた数値を標準評点としている。)を前提としている(乙6,18)。

(3)  審査請求

ア 原告は,平成14年11月27日,北海道知事に対し,本件課税処分を不服として,その取消しを求める旨の審査請求をした。

イ 北海道知事は,平成15年2月10日,前記審査請求を棄却する旨の裁決をした。

2  争点

本件課税処分の適法性(本件課税処分は,本件花崗岩について固定資産評価基準による評点数の付設を誤ったものであるか否か)

(原告の主張)

(1) 本件課税処分には,以下のとおり,課税標準額を算出する過程において,本件花崗岩の評点数の付設を誤り,適正な時価よりも割高に評価した違法がある。

ア 本件花崗岩は,中国産御影石(福建省産,G635タイプ,600mm×600mm×20mm)を原告が自社輸入したものである。中国産御影石は,資材加工の精度が劣ること,産出量が豊富であること,現地の人件費が安価であること等の事情から,国内産御影石と比べて大きな価格差があり,国内市場において1平方メートル当たり2000円から5000円程度の安値で購入することが可能である。本件花崗岩の資材費についての被告の評価が割高であることは,建築施工単価(財団法人経済調査会発行の雑誌)の記載,不動産鑑定士の評価,他府県における原告店舗(本件建物と同一規格である。)の不動産取得税に係る家屋評価,同種事案における他の裁判例等からも明らかである。

イ また,原告が原告店舗をビデオ撮影し,これによる作業員の人数,作業方法,作業時間等に基づき本件建物の床仕上げに要する労務費単価を算出したところ,1平方メートル当たり3000円程度にすぎない。

ウ さらに,本件課税処分の基準となった本件評価基準は,原告が本件建物を取得した日(平成14年6月24日)から4年以上も前の数値であり,長引く不況の影響等により建築費も下落していることを考えれば,これが適正な時価を上回ることは明らかである。

エ したがって,本件花崗岩についての被告の評価は,誤りである。

(2) そして,固定資産評価基準の中に適切な評点数が存在しない場合には,他の類似の評点数を流用したり,新たな評点数を付設するなどして不動産の再建築費を評価すべきところ,中国産御影石の取引価格の実態が上記のとおりであることからすれば,本件花崗岩は,高くとも人造テラゾーブロックタイルの評点数(1万1690点/㎡)を超えるものではないといえるから,これにより本件建物の床仕上げの評点数を算出するのが相当である。

そうすると,本件建物の床仕上げの評点数は,以下の計算式のとおり,1万2534点/㎡となる。

(計算式)1万1690点/㎡×1242㎡(使用量)+12万2880点(床仕上げに係るその余の評点数。当事者間に争いがない。)

1464万1860点(床仕上げの合計評点数)1464万1860点÷1168.15㎡(本件建物の延べ床面積)=1万2534点/㎡(小数点以下切捨て)

(3) これを基に本件建物の不動産取得税の課税標準額及び税額を算出すると,以下の計算式のとおり,課税標準額が1億2487万円,税額が499万4800円となる。

(計算式)1万2534点/㎡+8万4644点/㎡(床仕上げ以外の本件建物の評点数。当事者間に争いがない。)

=9万7178点/㎡(本件建物の評点数)

9万7178点/㎡×1168.15㎡(本件建物の延べ床面積)×1.1円(評点1点当たりの価格)

=1億2487万0328円(本件建物の評価額)

=1億2487万円(ただし,法20条の4の2第1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた額)

1億2487万円×0.04(税率)

=499万4800円

(4) よって,原告は,本件課税処分のうち,課税標準額1億2487万円,税額499万4800円を超える部分の取消しを求める。

(被告の主張)

本件課税処分は,以下のとおり,法及び固定資産評価基準に基づいてされており,本件花崗岩の評点数の付設も適正であるから,適法である。

(1) 本件課税処分の根拠について

被告は,本件建物が新築の鉄骨造の家屋であり,取得時において固定資産課税台帳に価格が登録されていないことから,法73条の21第2項及び固定資産評価基準により,本件建物を非木造家屋と評価し,前記前提となる事実のとおり,本件建物の評価額,不動産取得税の課税標準額,税額をそれぞれ決定し,これに基づき本件課税処分をした。

固定資産評価基準は,再建築価格方式を採用し,評価対象家屋を部分別に区分して,各部分ごとに使用資材,施工態様等に基づいて評価するものであり,家屋の評価方法として,それ自体極めて合理的なものである。

(2) 本件花崗岩の評点数の付設について

ア 本件花崗岩は,中国産のものであり輸入石であるから,本来であれば輸入石の標準評点数により評価されるところ,被告は,積算資料(工事費,労賃等が掲載された財団法人経済調査会発行の雑誌)において中国産の花崗岩(G361,306,603)が藤岡等の国産の花崗岩と並んで並級品に位置付けられていることを参酌し,国産石並級品に係る標準評点数を付設した。

このように,被告は,本件花崗岩の実態に即して評点数を付設しているのであって,これが適正な評価であることは明らかである。

イ 原告は,他府県における原告店舗の評価を引合いにしながら,自社輸入により安価な経費で花崗岩を入手することができたなどとして,本件花崗岩の再建築費評点数を人造テラゾーブロックタイル相当として評価すべきであると主張するが,以下のとおり,同主張は理由がない。

(ア) テラゾーブロックとは,人造石の一種で,白色セメントに大理石粒を混ぜてブロック状に形成した後,研出し仕上げをしたもので,自然石である花崗岩とは全く別の資材であり,固定資産評価基準においても,花崗岩と人造石ブロックとはそれぞれ別の単位当たりの標準評点数が定められている。したがって,本件花崗岩を人造テラゾーブロックタイル相当として評価すべき理由は全くない。

(イ) インターネット上の情報等には,激安商品として安価な中国産御影石が紹介されている事例も散見されるが,これらの商品は,ほとんどが規格材といわれるもので,あらかじめ一定の寸法に切断され,大量生産のため安価である反面,一般的に石厚が10mmないし13mmと薄く,重歩行には不向きで,定尺のため石の割付にも制限があるとされている。これに対し,本件花崗岩は,20mm厚のオーダーメイドのもので,重厚感が違うから,規格材と比較して本件花崗岩の資材費が割高であるとするのは相当でない。

また,原告が一般的な花崗岩の単価を示す書証として提出する各種見積書は,そもそも見積価格は成約価格ではないこと,いかなる条件の下で作成されたものか不明であること,港から現場までの運送費が計上されていないこと,本件評価基準(平成12基準年度,平成10年1月調査)の時点よりも約5年後の価格であること,本件花崗岩と規格が違うこと等から,これらの見積書の価格をもって本件花崗岩の資材費が割高であるということはできない。

仮に,原告が独自の手段により通常よりも廉価で本件花崗岩を取得したとしても,前記のとおり,家屋の評価については,自社輸入のような個別的な事情による偏差は排除すべきものとされているから,その取得価格がそのまま評価の基礎となるものではない。

(ウ) 他府県における原告店舗の評価や不動産鑑定士の評価書は,被告がした本件建物の評価に影響を及ぼすものではない。

(エ) 原告は,本件建物の床仕上げの労務費について,石工のみの労務費を積算したものと考えられるが,実際に床工事を行うためには,このほかに人力による資材等の積込み,運搬,片づけ等の作業も必要となるのであって,原告の人工の積算には,普通作業員の作業に相当する部分が捨象されている。また,原告は,原告店舗の床仕上げの作業内容をビデオで撮影しているが,本件建物とは別個の店舗に係るものであり,このとおりに本件建物の床仕上げが施工されたとはいうことができない上,同撮影内容は,ごく一部の作業を撮影したものにすぎず,作業員の人数,作業内容,作業日数等の点において,果たして原告が主張するとおりの作業が現実に行われたかは疑問である。これらのことからすれば,原告が主張する石工事の労務費単価が,実際の作業量及び労務費を反映しているものであるということはできない。

第3争点に対する判断

1  本件建物は,平成14年6月24日に新築された建物であり(前提となる事実),本件課税処分時(同年11月6日)には,固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていなかったところ,このような不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格については,法388条1項の固定資産評価基準によって決定されることとなる(法73条の21第2項)。

ところで,法は,不動産取得税の課税標準となるべき不動産の価格とは,不動産を取得した時における適正な時価(法73条5号,73条の13第1項)をいう旨規定し,固定資産税の課税標準である土地又は家屋の価格の意義について定める法341条5号,349条1項と同様の規定を置いている。そうすると,法73条の21第2項により決定されるべき上記の不動産の価格とは,固定資産税の課税標準である土地又は家屋の価格と同様に,正常な条件の下に成立する当該不動産の取得時におけるその取引価格,すなわち,客観的な交換価値をいうと解される。そして,法は,固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を総務大臣の告示である固定資産評価基準に委ね(法388条1項),市町村長は,同基準によって固定資産の価格を決定しなければならないと定めており(法403条1項),固定資産評価基準が適正な時価を算定するための1つの合理的方法であるとするものであるから,同基準に従って決定された不動産の価格が上記の客観的な交換価値を上回るものであれば,当該価格の決定は違法となると解される(最高裁判所平成16年10月29日第2小法廷判決・裁判所時報1375号1頁,同平成15年6月26日第1小法廷判決・民集57巻6号723頁)。

2  前記前提となる事実のとおり,被告は,原告から提出された本件建物の不動産取得申告書により原告が本件建物を新築により取得したことを認識し,不動産取得税家屋評価のための調査を実施した。そして,被告は,別紙再建築費評点数一覧表記載のとおり,本件評価基準(乙2)に基づき本件建物の部分別評点数を付設し,再建築費評点数を決定した上で本件建物の評価額を算出し,これにより課税標準額及び税額を決定した。その際,被告は,本件花崗岩の標準評点数の付設について,積算資料(財団法人経済調査会発行の雑誌)を基に,中国産の花崗岩(G361,306,603)が国産の花崗岩の並級品と同等に位置付けられていること(乙12)を参酌して,国産石並級品に係る標準評点数を適用した。

本件評価基準に基づく本件建物の評価の方法は,再建築価格方式によるものであるが,再建築価格は,家屋の価格の構成要素として基本的なものであり,個別的な事情による偏差が少なく,その評価の方式化も比較的容易であるから(乙5),同方式は,家屋の評価方法として合理的な方法であるということができる。そして,固定資産評価基準に示されている評点項目及び標準評点数は,建物の工事原価を構成する資材費及び労務費を基礎として積算されており,資材費については積算資料及び建設物価(財団法人建設物価調査会発行の雑誌)に掲載されている価格を,労務費については積算資料に掲載されている建設労働者職種別賃金を基に積算されているところ(乙16,17),積算資料及び建設物価は,全国の主要地区における各種資材価格及び建設工事費等の実態を定期的に調査研究し,取引の実例が最も多かった価格(最頻値)が掲載されたものであって(乙19,20),一応の信頼性を有する資料ということができる。

これらのことからすれば,被告が決定した本件建物の不動産取得税の課税標準となるべき価格は,一応の合理性を有する価格であるということができるから,固定資産評価基準によっては本件建物の再建築費を適切に算定することができないといった特別の事情がない限り,同価格は適正な時価を反映していると解される。

3  ところで,原告は,被告が本件花崗岩を評価するに当たり,国産花崗岩並級として評点数を付設したことは,適正な時価を上回る評価であって,違法であり,これについては,人造テラゾーブロックタイルの標準評点数を用いるべきと主張する。そこで,被告がした本件花崗岩の標準評点数の付設が固定資産評価基準の適用を誤ったもので,これによっては本件建物の再建築費を適切に算定することができないといった上記特別の事情があるか否かを以下検討する。

(1)  後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア 本件花崗岩は,G635タイプの中国産御影石であり,その規格は600mm角,20mm厚である(甲37)。

イ 原告は,全国に複数の店舗を有しているところ,これらは,種類,構造,床面積,資材,仕様等において本件建物と同様の規格であり,床仕上げにはG635の中国産御影石を使用している(甲8の1ないし3,甲9の1ないし3,甲11の1ないし20,乙3の1ないし4,乙13の1ないし5,乙22,35の1及び2,乙37)。

ウ 他府県における原告店舗の評価(平成12年ないし平成14年)をみると,床仕上げに使用する中国産御影石が人造テラゾーブロックタイル相当として評価されている例は,別紙評価例一覧表記載のとおり,10数件存在する(甲11の1ないし20)。

また,中国産御影石について,国産の花崗岩よりもかなり低廉な価格で入手できるとする不動産鑑定士による不動産鑑定評価書も存在する(甲8の1ないし3,乙22,35の1及び2)。

エ 原告ほか複数の業者が,複数の取引先に対し,床仕上げに使用する中国産御影石(G635,600mm角,20mm厚)の見積もりを依頼したところ,各社の見積価格は,別紙見積価格一覧表記載のとおり,資材費が1900円/㎡から4950円/㎡,労務費が1500円/㎡から4500円/㎡(なお,本件建物については2800円/㎡。甲37)の各範囲内の額であった(甲6の2ないし6,甲22,24,26の2,甲31の1ないし5,甲33の1ないし9)。

オ 前記前提となる事実のとおり,本件評価基準は,平成12基準年度のものであり,平成10年1月実施の価額調査に基づいて作成された。

床仕上げに使用する花崗岩国産並級の本件評価基準による標準評点数は,磨き仕上げが3万3040点/㎡(資材費2万2000点/㎡,労務費1万0427点/㎡,下地その他616点/㎡),小叩仕上げが3万1940点/㎡(資材費2万0900点/㎡,労務費1万0427点/㎡,下地616点/㎡)である。なお,上記資材費評点数の基礎となった平成10年2月号の積算資料には,床仕上げに使用する花崗岩本磨20mm厚並級品の東京における価格が2万3000円/㎡と掲載されている(乙12)。

また,床仕上げに使用する人造テラゾーブロックタイルの本件評価基準による標準評点数は,1万1690点/㎡(資材費4050点/㎡,労務費7179点/㎡,下地その他462点/㎡)である(乙2,6,18)。

カ 平成15年度固定資産評価基準(平成13年1月調査)によると,床仕上げに使用する花崗岩の評点項目につき輸入石と国産石の区別がなくなり,花崗岩並級の標準評点数は,磨き仕上げが2万9350点/㎡(資材費1万9000点/㎡,労務費9847点/㎡,下地その他506点/㎡),小叩仕上げが3万0250点/㎡(資材費1万9900点/㎡,労務費9847点/㎡,下地その他506点/㎡)と記載されている(乙28の1及び2)。なお,上記資材費評点数の基礎となった平成13年2月号の積算資料には,床仕上げに使用する花崗岩本磨20mm厚並級品の東京における価格が2万0400円/㎡と掲載されている(乙41)。

キ 平成18年度固定資産評価基準(平成16年1月調査)の資材費評点数の基礎となる平成16年2月号の積算資料には,床仕上げに使用する花崗岩本磨20mm厚並級品の東京における価格が1万1600円/㎡と掲載されている(乙42)。

(2)  上記認定事実のとおり,本件花崗岩と同種,同規格である中国産御影石(G635,600mm角,20mm厚)を業者から取り寄せ,これを施工した場合の見積価格は,資材費が1900円/㎡から4950円/㎡,労務費が1500円/㎡から4500円/㎡の各範囲内の額になるところ,これらの見積価格は,資材費については17件,労務費については12件の見積資料に基づいて算定された価格であり,また,見積依頼者の中には原告ほか複数の者が存在し,その依頼先の業者も区々である。このようなサンプル数の多さ,見積依頼者及び見積業者の多様性等からすれば,上記見積価格は,個別的な事情が捨象された取引一般に通用する価格であるとの推定を及ぼすことができる。

一方,原告が本件建物を取得した時期が平成14年6月24日であるのに対し,被告が本件花崗岩の標準評点数を付設するに際して適用した本件評価基準は平成12基準年度のものである上,その調査はこれよりさらに前の平成10年1月に実施されている。もとより,法が,固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産については,法388条1項の固定資産評価基準によって当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとしている(法73条の21第2項)以上,不動産取得税の賦課期日よりも前の時点における価額調査に基づいて作成された固定資産評価基準が,不動産取得税の課税標準額を決定するに当たっての基準となることは避けられない。しかし,法は,同時に,不動産取得税の課税標準は不動産を取得した時における不動産の価格とする旨規定し(法73条の13第1項),取得時における不動産の適正な時価をもって課税標準額とすべきことを要求していることからすれば,過去の時点における価額調査に基づいて作成された固定資産評価基準によって決定された不動産取得税の課税標準額が,当該不動産の取得時における価格を上回ることまで許容するものではないと解される。

本件評価基準は,前記のとおり,原告が本件建物を取得した時点よりも4年以上前に調査された価格に基づいて作成されたものであり,そのこと自体,本件建物の取得時における価格を算定するための基準としての適合性に疑義を挟む余地のあるものである。

このような前提を踏まえ,床仕上げに使用する花崗岩国産並級の標準評点数についての固定資産評価基準における変遷をみると,本件評価基準である平成12基準年度(平成10年1月調査)では,標準評点数が約3万3000点/㎡(うち資材費相当分が約2万2000点/㎡)であったが,平成15基準年度(平成13年1月調査)になると,輸入石が国産石と同等に評価されるようになり,標準評点数も約3万点/㎡(うち資材費相当分が約1万9000点/㎡)に下がった。また,同様に資材費評点数の基礎となる積算資料の掲載価格の変遷をみると,平成10年2月号が2万3000円/㎡,平成13年2月号が2万0400円/㎡,平成16年2月号が1万1600円/㎡と価格が下がってきている。このように,花崗岩国産並級の価格は,本件評価基準の価額調査の時点である平成10年1月以降下落傾向にあり,特に,平成13年から平成16年にかけての下落は顕著であるから,その間の平成14年6月24日に取得された本件建物について,本件評価基準に基づいて本件花崗岩の評点数を付設したことは,取得時における価格を上回る評価であるとの推定が強く働くといわざるを得ない。

このほか,他府県の原告店舗の中には,床仕上げに使用する中国産御影石が人造テラゾーブロックタイル相当として評価されたものが10数件存在し,また,中国産御影石について,国産の花崗岩に比してかなり低廉に評価する不動産鑑定士による不動産鑑定評価書も存在する。これらの事情は,本件建物とは別の原告店舗に係る事情であり,本件建物の評価に直接的に影響を及ぼすものではないが,少なくとも本件建物と同様の規格に基づき同時期に取得された他の原告店舗が上記のような評価を受けたことがあるという意味において,本件建物の評価をするに当たっての1つの参考事情になるということができる。

以上を総合的に考察すると,前記見積価格は,個別的な事情が捨象された一般的な取引価格であると推定される上,これに沿う内容の他府県における原告店舗の評価や不動産鑑定士による不動産鑑定評価書が存在するのに対し,本件評価基準による床仕上げに使用する花崗岩国産並級の標準評点数は,本件建物の取得時との時期的較差やその間の価格変動等から考えて,取得時における価格を上回る評価基準であるとの判断を免れない。そうすると,前記見積価格は,本件花崗岩と同種,同規格の中国産御影石の市場における取引価格を表しているということができ,本件花崗岩の客観的な交換価値に相当するというべきである。その反面,被告が本件評価基準に基づき付設した本件花崗岩の標準評点数は,前記見積価格と比較して,資材費(花崗岩国産並級相当として約2万2000点/㎡)については4倍ないし10倍,労務費(同相当として1万0427点/㎡)については2倍ないし7倍も高いのであって,本件花崗岩の客観的な交換価値と乖離しているといわざるを得ない。

そして,固定資産評価基準に評点項目が示されていない場合や特殊な施工がされる場合には,新たに評点項目を設けたり,類似の評点項目を転用,補正するなどして評点数を求めるものとされ,柔軟な運用がされていること(乙17),本件評価基準による人造テラゾーブロックタイルの標準評点数1万1690点/㎡(資材費4050点/㎡,労務費7179点/㎡,下地その他462点/㎡)は,本件花崗岩の客観的な交換価値を反映した価格である前記見積価格に相応する評点数であること,他府県の原告店舗において,床仕上げに使用する中国産御影石が人造テラゾーブロックタイル相当として評価された例が10数件あること等からすれば,本件花崗岩の評点数については,人造テラゾーブロックタイル相当として1万1690点/㎡を付設するのが相当である。

(3)  被告は,原告が書証として提出する前記見積資料について,規格材の場合には見積価格が安価になる,見積価格は成約価格ではない,港から現場までの運送費が計上されていない,本件評価基準時よりも後の時点に見積もられた価格であるなどとして,その見積価格をもって本件花崗岩の適正な時価とすることはできないと主張する。

しかし,前記見積資料の中には,いわゆる規格材(G635,400mm角,12mm厚)の価格が2100円/㎡であるのに対し,本件花崗岩と同一の資材(G635,600mm角,20mm厚)の価格が2200円/㎡と見積もられているものもあり(甲24),規格材と注文材との間に明らかな価格の格差は認められない。また,見積価格は,通常,契約締結の前提として提示される価格であるから,成約価格もこれに近い額になるというべきである。運送費の点については,別紙見積価格一覧表記載のとおり,1平方メートル当たりの運送費は100円から500円程度の額であるから(なお,同記載中番号11の運送費をみると,他の見積資料に比して著しく高額であるが,600mm角,20mm厚の中国産御影石1400㎡を運送するのに20トントレーラーを21台要するとしている点において,車両台数を誤記したものと思われる。),これによる価格の増減は,前記見積価格の大勢には影響がないというべきである。見積時期の点については,確かに原告が提出する見積資料の中には,本件建物の取得時後に作成されたものも散見されるが,その一方で,これより前に作成された見積資料も存在し(甲31の3ないし5),これらのすべてが取得時後に作成されたわけではない上,本件においては,取得時後に物価が急落し,これに伴い工事費が格安になったとの事実は認められないから,取得時後の見積価格が取得時の価格から著しくかけ離れているとまでいうことはできない。

また,被告は,原告が主張する石工事の労務費単価は,必要な作業が欠落している,ビデオに撮影されていない作業があるなどとして,これが実際の作業量及び労務費単価を反映しているものではないと主張する。なるほど,原告が原告店舗の床仕上げの作業内容を撮影したとするビデオ映像(甲36の1ないし7)やその報告書(甲30)は,本件建物の施工に係るものではない上,その内容をみても,作業の現場や工程の一部分を映したものにすぎず,作業員の人数,作業量,作業日数,作業時間等を余すところなく捉えたたものとは認め難いから,これに基づく原告の労務費単価の試算を全面的に容れることはできない。しかし,そうであるとしても,前記見積資料による労務費単価(1500円/㎡ないし4500円/㎡)が市場価格を反映した価格であることは,前記認定のとおりであって,いずれにせよ,これを上回る被告の評価が適正な時価と乖離していることは免れない。

したがって,被告の上記主張は,いずれも採用することができない。

(4)  以上より,被告がした本件花崗岩の標準評点数の付設は,固定資産評価基準の適用を誤ったもので,これによっては本件建物の再建築費を適切に算定することができない特別の事情が存在するというべきである。

4  以上を前提に,本件建物の床仕上げの再建築費評点数を算出すると,前記第2の2(原告の主張)(2)記載のとおり,1万2534点/㎡となる。

そして,これに基づき本件建物の不動産取得税の課税標準額及び税額を算出すると,同(3)記載のとおり,課税標準額が1億2487万円,税額が499万4800円となる。

そうすると,本件課税処分のうち,同額を超える部分は違法であって,取消しを免れない。

5  以上によれば,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 笠井勝彦 裁判官 馬場純夫 裁判官 本多健司)

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