札幌地方裁判所 平成15年(行ウ)26号 判決 2005年2月18日
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
(主位的請求)
被告が平成14年7月5日付けで原告に対してした別紙物件目録1ないし4記載の建物に係る不動産取得税の賦課決定のうち,課税標準額16億3830万円,納付すべき税額6553万2000円を超える部分を取り消す。
(予備的請求)
被告が平成14年7月5日付けで原告に対してした別紙物件目録1ないし4記載の建物に係る不動産取得税の賦課決定を取り消す。
第2事案の概要
本件は,別紙物件目録1ないし4記載の建物(以下,各記載の建物を「建物1」「建物2」「建物3」及び「建物4」といい,これらを併せて「本件建物」という。)を売買により取得した原告が,被告の原告に対する本件建物の取得に係る不動産取得税の賦課決定は,本件建物の適正な時価によるものではなく,違法であるとして,被告に対し,主位的に上記賦課決定の一部の取消しを,予備的にその全部の取消しを求めた事案である。
1 前提となる事実(争いのない事実は証拠を掲記しない。)
(1) 当事者
ア 原告は,菓子の製造,販売等を目的とする株式会社である。
イ 被告は,北海道知事から不動産取得税の賦課決定の権限の委任を受けた行政庁である。
(2) 不動産取得税の賦課決定
ア 原告は,平成13年11月28日,ナカムラ興産株式会社,株式会社タウナステルメ札幌及びソフィア株式会社(以下,上記3社を併せて「ナカムラ興産等」という。)から,本件建物及びその敷地(以下,これらを併せて「本件不動産」という。)を14億1650万円(うち12億9437万1039円が本件建物の価格)で買い受けた(以下「本件売買契約」という。なお,本件売買契約においては,原告がナカムラ興産等に対して売買代金の全額を支払ったときに,本件不動産の所有権がナカムラ興産等から原告に移転する旨の特約がある。甲3)。
イ 原告は,平成14年3月29日,ナカムラ興産等に対し,上記売買代金の全額を支払い,本件不動産の所有権を取得した(甲3)。
ウ 本件建物の平成14年度固定資産課税台帳登録価格(以下「本件登録価格」という。)は,92億4865万2900円(建物1につき71億8141万3000円,建物2につき124万4500円,建物3につき19億8784万7200円,建物4につき7814万8200円)であった(甲1)。
エ 被告は,平成14年7月5日,原告に対し,別紙課税一覧表記載のとおり,同課税対象物件欄記載の本件各建物につき,地方税法(以下「法」という。)73条の21第1項本文の規定に基づき,それぞれ同課税標準額欄記載の額(ただし,法20条の4の2第1項本文の規定により本件登録価格から1000円未満の端数を切り捨てた額)を課税標準として,同税額欄記載の額の不動産取得税の賦課決定(以下「本件課税処分」という。)をした。
(3) 審査請求(甲1)
ア 原告は,平成14年8月30日,北海道知事に対し,本件課税処分を不服として,その取消しを求める旨の審査請求をした。
イ 北海道知事は,平成15年10月6日,前記審査請求を棄却する旨の裁決をした。
2 争点(本件課税処分の適法性の有無)に対する当事者の主張
(原告の主張)
(1) 本件建物は,以下のとおり,法73条の21第2項所定の固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産又は同第1項ただし書に該当する不動産である。したがって,被告は,法388条1項の固定資産評価基準によって,本件建物に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定し,これに基づいて原告に対する本件建物の不動産取得税の賦課決定をしなければならない。しかるに,本件課税処分は,これによらず,本件登録価格により本件建物の不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定してされたものであるから,違法である。
ア 本件建物の適正な時価と本件登録価格
原告が本件建物を取得した当時におけるその適正な時価は,本件不動産が競売に付された際の最低売却価額である約9億円又は原告の購入価格である14億1650万円に基づいて算定されるべきである。
上記価格が適正な時価であることは,次の事情から明らかである。すなわち,本件不動産は,当初,破産手続において,破産管財人によって2年にわたり任意売却が試みられ,価格を60億円,40億円,20億円と下げたにもかかわらず,買受人が現れなかったため,破産財団から放棄され,担保権者である株式会社整理回収機構(以下「整理回収機構」という。)の申立てにより,競売手続に付された。同手続において,本件不動産の最低売却価額は17億9280万円と決定されたが,入札や特別売却における買受申出人はなく,その後,最低売却価額が8億9644万円と減額されて再度入札に付され,原告が14億1650万円で本件不動産を落札したが,原告以外の入札者はいなかった。原告は,その後,上記のとおり,入札額と同額の本件売買契約を締結することにより,本件不動産を取得した。そして,上記最低売却価額は,評価人の評価に基づくものであるところ,同評価額は,まず本件建物の再調達原価を査定した上で,これに耐用年数等を加味して減額修正をし,一般市場価格調整さらには競売市場価格調整を経て算出されたものであって,競売手続における特殊な価格ではなく,一般市場価格に近い額というべきである。
これに対し,本件登録価格は92億4865万2900円であり,上記原告の購入価格あるいは最低売却価額の約7倍ないし10倍に相当するものであって,適正な時価といえない。
本件登録価格が適正な時価と乖離するものになったのは,札幌市北区長が,本件登録価格を決定するに当たり,上記のような本件建物の売買に至る経緯等を考慮せず,既にいわゆるバブル経済が破綻していることに加え,本件建物が札幌市の中心から離れた場所に存在し,交通の便が悪いこと,市街化調整区域内にあるため他の用途で利用することが制限され,一般性に乏しいこと等の事情からすれば,固定資産評価基準に定められている需給事情による減点補正をしなければ適正な時価を把握できないにもかかわらず,このような減点補正を行わなかったからである。
イ 本件課税処分の違法
(ア) 上記アのとおり,本件登録価格は適正な時価と乖離するものであるから,これに基づいて本件建物についての課税標準となるべき価格を決定することはできず,本件建物について法73条の21第1項ただし書所定の特別の事情がある場合で本件登録価格により難いときに該当する。
(イ) また,本件登録価格の決定は行政処分であるところ,その決定には重大かつ客観的に明白な瑕疵があるから,無効であるというべきである。したがって,本件建物は,法73条の21第2項所定の固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産に該当するというべきである。
(ウ) そうすると,被告は,法388条1項の固定資産評価基準によって,本件建物に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定し,これに基づいて原告に対する本件建物の不動産取得税の賦課決定をしなければならないところ,本件課税処分は,これによらず,本件登録価格により本件建物の不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定してされたものであるから,違法である。
(2) 本件建物について,固定資産評価基準に従って需給事情による減点補正を行った場合,その適正な時価は,本件建物の競売手続における当初の評価額と同額になると考えられる。そうすると,本件建物の不動産取得税の課税標準額は16億3830万円(建物1につき11億8312万円,建物2につき22万円,建物3及び4につき合計4億5496万円),納付すべき税額は6553万2000円(建物1につき4732万4800円,建物2につき8800円,建物3及び4につき合計1819万8400円)となる。
(3) よって,原告は,本件課税処分のうち,主位的に上記金額を超える部分の取消しを,予備的にその全部の取消しを求める。
(被告の主張)
(1) 本件建物は,本件登録価格,すなわち固定資産課税台帳に登録されている価格のある不動産であり,法73条の21第1項本文が適用される。被告は,本件登録価格より本件建物に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定し,本件課税処分を行ったものであり,同処分は適法である。原告の主張は,次のとおり,いずれも失当である。
ア 本件建物の適正な時価と本件登録価格について
本件登録価格は,札幌市北区長が固定資産評価基準に従って決定し,確定したものである。
そして,不動産取得税の課税標準となる適正な時価は,正常な条件の下において成立する取引価格,すなわち当事者間の個別的事情を捨象して得られる当該不動産自体の本来の価値を適正に反映した価格(正常価格)をいうところ,本件建物については,破産手続や競売手続によって売却が進められ,原告の購入価格も債務返済のための資金確保という特殊な条件の下で数次にわたる価格の引下げを経て成立したものであり,これが正常価格であるとはいえない。
また,競売手続における最低売却価額ないし評価額は,競売手続による売却を前提として,あくまでも競売という特殊な条件の下に成立する価格であって,正常な条件の下に成立する取引価格ではない。本件建物の評価額についても,競売市場価格調整や当初の評価額の修正等を経て決定されたものであって,これを不動産取得税の課税標準の決定に当たっての適正な時価とすることはできない。
イ 本件課税処分の違法について
(ア) 法73条の21第1項ただし書は,固定資産税の賦課期日後に所定の特別の事情が生じた場合に適用されるべきものである。しかるに,本件建物については,本件登録価格に係る平成14年度の固定資産税の賦課期日後に増築,改築,損壊,地目の変換その他特別の事情が生じた事実は認められず,「当該固定資産の価格により難いとき」には当たらないから,同ただし書を適用しないことをもって,本件課税処分が違法となるものではない。
(イ) 本件登録価格決定には,処分の外形上,客観的に誤認が一見看取し得る瑕疵を見出すことができず,重大かつ明白な瑕疵があるとはいえないから,同決定は当然に無効とならない。なお,本件登録価格決定に際して需給事情による減点補正を行うか否かは,札幌市北区長の判断と責任において決めるべき事柄であり,その判断も専門的,技術的なものであるから,本件登録価格決定に重大かつ明白な瑕疵があるか否かについて,被告が外形的,客観的に一見して看取することはできないというべきである。
(2) 原告の主張(2)は,争う。
(3) 原告は,本件建物を取得した時点において,本件登録価格を了知しており,同価格に基づき本件課税処分がされることを承知していたのであって,それにもかかわらず,本件課税処分の適法性を争うことは,信義則に反し許されないというべきである。
第3争点(本件課税処分の適法性の有無)に対する判断
1 不動産取得税の課税標準の定め
法73条の13第1項は,「不動産取得税の課税標準は,不動産を取得した時における不動産の価格とする。」と規定し,法73条5号は,「価格」は「適正な時価をいう。」と規定している。そして,法73条の21第1項は,「道府県知事は,固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については,当該価格により当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとする。但し,当該不動産について増築,改築,損かい,地目の変換その他特別の事情がある場合において当該固定資産の価格により難いときは,この限りでない。」と規定する。
このように,法は,不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するに当たり,原則として固定資産課税台帳の登録価格によるものとしているところ,その趣旨は,固定資産税の課税対象となる土地及び家屋(発電所及び変電所を除く。)と不動産取得税の課税対象となる土地及び家屋とは同一であり(法341条2号,3号,73条2号,3号),両税の課税標準である不動産の価格も等しく適正な時価をいうものとしていること(法341条5号,73条5号)に鑑み,両税間における不動産の評価の統一と徴税事務の簡素化を図ることにある。
そして,法は,固定資産課税台帳に登録される固定資産の評価が適正な時価であるようにするため,市町村長等が行う固定資産の評価及び価格の決定は総務大臣により定められた評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(固定資産評価基準)に基づいて行い(法388条以下参照),決定された価格については固定資産税の納税者に不服申立ての機会を与え(法432条以下参照),さらに,このようにして固定資産課税台帳に登録された基準年度の価格についても,第二年度,第三年度において,「地目の変換,家屋の改築又は損壊その他これらに類する特別の事情」等が生じたため基準年度ないし第二年度の価格によることが不適当,不均衡となる場合には,これによらずに当該不動産に類似する不動産の基準年度の価格に比準する価格によることとする(法349条1項ないし3項参照)などの規定を設けている。
これらのことからすれば,固定資産評価基準に基づく固定資産課税台帳の登録価格は,制度的に合理性を有するものということができる。
また,不動産の取得者は,通常その取得前に当該不動産の固定資産課税台帳登録価格を了知し得る立場にあるから,これを基に不動産取得税の課税標準を決定したとしても,それが取得者にとって予期しない負担であるということはできない。
2 法73条の21第1項ただし書該当性の有無
(1) 原告は,上記のように,本件登録価格と本件建物の競売手続における評価額等が著しく乖離していることのほか,バブル経済の破綻,本件建物が市街化調整区域にあって用途制限があり,札幌市中心部から離れていること等の事情も指摘して,本件建物については,法73条の21第1項ただし書所定の特別の事情がある場合で本件登録価格により難いときに該当すると主張する。
(2) しかし,上記1によると,法73条の21第1項ただし書にいう「当該固定資産の価格により難いとき」とは,当該不動産につき,固定資産税の賦課期日後に増築,改築,損壊,地目の変換その他特別の事情が生じ,その結果,固定資産課税台帳の登録価格が当該不動産の適正な時価を示しているものということができないため,同登録価格を不動産取得税の課税標準としての不動産の価格とすることが適当でなくなった場合をいうものと解すべきである(最高裁判所平成6年4月21日第1小法廷判決・集民172号391頁)。
原告は,上記のとおり,本件登録価格と原告の購入額との間に乖離が生じている事実とその乖離が生じた原因とする事実を主張するところ,これらの事実は,いずれも原告が本件建物を取得した平成14年度の固定資産税の賦課期日の平成14年1月1日(法359条参照)以前から存在する事実であって,そのような事情をもって法73条の21第1項ただし書に該当するとすることはできない。そして,原告は,上記賦課期日後に,本件建物に増築,改築,損壊,地目の変換その他の特別の事情が生じ,これにより本件登録価格を不動産取得税の課税標準とすることができなくなった事実については何らの主張をしていない(なお,本件において提出された証拠によっても,このような事実の存在は窺われない。)のであって,法73条の21第1項ただし書に該当するとする原告の主張は失当というほかはない。
3 本件登録価格の決定の有効性の有無
(1) 原告は,本件登録価格の決定には重大かつ明白な瑕疵があるから同決定は無効であり,したがって,本件建物は法73条の21第2項所定の固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産として,法388条1項の固定資産評価基準によって,本件建物に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定し,これに基づいて原告に対する本件建物の不動産取得税の賦課決定をしなければならないが,本件課税処分はこれによっていないから違法である旨主張する。
(2) しかし,行政処分が当然に無効であるといえるためには,当該処分に重大かつ明白な瑕疵が存することを要し,瑕疵が明白であるということは,処分成立の当初から,処分要件の存在を肯定する処分庁の認定の誤認であることが外形上,客観的に明白であることをさすものというべきである(最高裁判所昭和36年3月7日第3小法廷判決・民集15巻3号381頁)。特に,本件登録価格決定の無効をいうのであれば,固定資産税においては,固定資産課税台帳の登録価格に対する不服の申立期間や申立方法が制限されていること(法432条以下)に鑑み,無効を主張し得る瑕疵の重大性及び明白性は,相当程度のものを要するというべきである。
そして,以下のとおり,本件登録価格の決定には,これを無効とすべき重大かつ明白な瑕疵が存するものとは認められない。
ア 本件登録価格は固定資産評価基準に基づき決定された価格であるところ,同基準に基づく固定資産課税台帳の登録価格が制度的に合理性を有するものであることは,前記のとおりである。そして,固定資産評価基準は,家屋の評価に当たり再建築価格方式(再建築費を基準として評価する方法)を採用している(乙1)ところ,同方式は,個々の取引における個別的な事情を捨象することにより,当該不動産の客観的な取引価格を把握することができ,また,不動産評価の全国的な統一と均衡に資するものといえるから,これによる評価額は,原則として当該不動産の適正な時価を反映した価格というべきである。その上で,固定資産評価基準は,当該再建築費に当該家屋の時の経過によって生ずる損耗の状況による減価を考慮し,所在地域の状況や建築様式の特殊性等の事情から,特に必要とされる家屋に限って需給事情による減点補正をして当該家屋の価格を求めるものとしている(甲6,乙1)が,本件登録価格については,近年における都市基盤整備及び道路交通網の整備の進展により,札幌市内の所在地域によって価格が減少する地区が見当たらない状況となったこと,本件建物は,札幌市第3次長期総合計画等により都市型リゾートとしての活用が期待されている地域に存在し,その効用を発揮する施設であること等の理由から,需給事情による減点補正をしなかったというのであって(乙5。なお,同号証は,本件建物の平成15年度固定資産課税台帳登録価格についての札幌市固定資産評価審査委員会に対する審査申出に係る決定書であるが,本件登録価格の決定時の事情と大きく変わるものではないと解される。),このような一応の理由が存することからすれば,そのことに重大かつ明白な瑕疵を見出すことはできない。
イ 原告は,本件建物は破産手続や競売手続を経て原告の手に渡ったものである,競売手続における本件建物の評価額は9億円程度であるなどとして,本件登録価格は本件建物の客観的に適正な時価を大きく上回るもので,無効であると主張する。
確かに,証拠(甲2の1及び2,甲3,9,10の1及び2,甲13の1ないし28)によれば,原告が本件不動産を取得するまでの経緯として,本件不動産は,当初破産管財人によって任意売却が進められていたが,その価格を20億円にまで下げても最終的に買受人が現れなかったこと,その後,競売手続に移行したが,最低売却価額を17億9280万円と定めた第1回目の競売においては,入札期間中に買受申出人が現れず,特別売却の実施期間も満了したため,売却が中止されたこと,最低売却価額を8億9644万円と定めた第2回目の競売において,原告のみが買受けを申し出,14億1650万円で本件不動産を落札したこと,整理回収機構が上記競売申立てを取り下げ,原告は,ナカムラ興産等との間で本件売買契約を締結することにより本件不動産を取得したことが認められる。
しかし,固定資産評価基準に基づき決定された本件登録価格が本件建物の適正な時価を反映した価格であることは,前記のとおりであって,このことは,原告の主張するような上記事情によって直ちに左右されるものではない。
また,競売手続における評価額は,最低売却価額を定めるための基準となるものである(民事執行法60条)ところ,競売手続による売却は,通常取引の場合と異なり,法定の手続(同法64条の2。なお,同条は平成15年法律第134号による改正により新設された規定である。)を採らなければ買受人が事前に競売物件に立ち入って内部を確認することができないこと,売主である所有者の協力が得られず,また,売主の瑕疵担保責任の内容が一部制限されていること(民法568条,570条ただし書),引渡しを受けるために法定の手続を採らなければならない場合があること,当該物件の情報提供期間及び入札期間が限られていること,買受申出をするに際して保証金を提供する必要がある上,売却許可決定確定後短期間に残余金全額を納付しなければならないこと等の特殊事情があり,これらはいずれも減価要因として働くものと考えられることからすれば,同評価額をもって当該不動産の適正な時価であると解することはできない。民事執行規則173条1項,29条の2が,評価人が不動産の評価をするに際し,取引事例比較法,収益還元法,原価法その他の評価の方法を適切に用いなければならないとする一方で,競売による不動産の売却を実施するための評価であることを十分に考慮しなければならないと規定していることも,前記競売手続の特殊事情による減価を当然の前提としているものということができる。実際の本件不動産の競売手続における評価をみても,評価人は,競売不動産の市場が一般の不動産市場と異なることを前提に,査定された再調達原価から耐用年数等による減価修正を行った上,前記競売手続の特殊事情を評価額に反映させるため,一般市場価格調整(50パーセントの減額)さらには競売市場価格調整(50パーセントの減額)を行っているのであって(甲2の2),これが客観的に適正な時価といい得ないことは明らかである。
(3) したがって,本件登録価格の決定は有効であり,被告が本件登録価格により本件建物の不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定して行った本件課税処分は適法であって,これに反する原告の主張は採用することができない。
4 結論
以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 笠井勝彦 裁判官 馬場純夫 裁判官 本多健司)
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