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札幌地方裁判所 平成16年(ワ)634号 判決 2005年11月30日

原告

X1

原告

X2

原告

X3

原告ら訴訟代理人弁護士

秋山泰雄

被告

北海道旅客鉄道株式会社

同代表者代表取締役

D

同訴訟代理人弁護士

林裕司

桶谷治

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は,原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告が,原告X1に対しては平成16年1月22日に,原告X2に対しては同月23日に,原告X3に対しては同月24日にそれぞれ行った「釧路支社勤務を命ずる。釧路運輸車両所車掌を命ずる。」との同年2月1日付けの命令がいずれも無効であることを確認する。

第2事案の概要

本件は,札幌車掌所車掌として勤務していた原告らが,平成16年2月1日付けで釧路運輸車両所車掌として勤務地の変更を伴う配転(転勤)命令(以下「本件転勤命令」という。)を被告から受けたのに対し,本件転勤命令には業務上の必要性がない上,原告らがJR北海道労働組合(以下「北労組」という。)に所属することを嫌悪した違法・不当な目的によるものであり,また,原告らに対して著しい不利益を与えるものであるから,業務命令権の濫用又は労働組合法7条1号,3号所定の不当労働行為に該当し,いずれも無効であると主張して,被告に対し,本件転勤命令の無効確認を求めた事案である。

1  前提事実(争いのない事実及び括弧内に掲記した各証拠によって容易に認められる事実)

(1)  当事者等

ア 被告

被告は,日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)の民営化に伴い,昭和62年4月1日に発足した旅客鉄道事業,貨物鉄道事業及び旅客自動車運送事業等の事業を営むことを目的とした会社である。

イ 原告ら

原告らは,いずれも国鉄に採用され,現在は被告の従業員たる地位を有するが,それぞれの経歴の概略は,以下のとおりである。

(ア) 原告X1(昭和○年○月○日生。)は,昭和52年4月1日に国鉄に採用された後,昭和62年6月1日に被告に採用され,苫小牧駅車掌,室蘭車掌所車掌を経て,平成6年3月1日から札幌車掌所車掌として勤務していた(<証拠略>)。

(イ) 原告X2(昭和○年○月○日生。)は,昭和53年4月1日に国鉄に採用された後,昭和62年4月1日に被告に採用され,苗穂工場車両係,同工場車両技術係を経て,平成7年1月1日から札幌車掌所車掌として勤務していた(<証拠略>)。

(ウ) 原告X3(昭和○年○月○日生。)は,昭和55年3月1日に国鉄に採用された後,昭和62年4月1日に被告に採用され,昭和62年6月1日から札幌車掌区車掌として(平成2年3月12日からは札幌車掌所車掌として)勤務していた(<証拠略>)。

(2)  労働組合の組織状況等

ア 北労組は,平成15年10月26日に,被告及びジェイ・アール北海道バス株式会社の従業員のうち北海道鉄道産業労働組合(昭和62年4月結成,以下「鉄産労」という。)所属の全組合員1276名及び国鉄労働組合(以下「国労」という。)所属の組合員256名をもって新たに結成された労働組合で,平成15年12月1日時点における組合員数は1480名(札幌車掌所123名,釧路運輸車両所9名)であるところ,原告らは,いずれも北労組の組合員である(<証拠略>)。

イ 被告の従業員で組織する労働組合としては,北労組の他,北海道旅客鉄道労働組合(以下「JR北海道労組」という。なお,原告らは,同組合を「北鉄労」と呼んでいる。)があるが,平成15年12月1日時点における同組合の組合員数は6408名(札幌車掌所118名,釧路運輸車両所208名)であり,被告の従業員の約70パーセントを占めている(<証拠略>)。

ウ 北労組は,平成4年5月に結成されたJR各社及び関連企業の従業員をもって組織する労働組合の連合体である日本鉄道労働組合連合会に加盟しており,他方,JR北海道労組は,全日本鉄道労働組合総連合会に加盟している。

(3)  被告における道内車掌所の概要と特色

ア 被告には,札幌車掌所,釧路運輸車両所,旭川車掌所,函館運輸所及び室蘭運輸所の5か所の車掌基地があるところ,平成15年4月1日時点の車掌数は合計454名(札幌車掌所230名,釧路運輸車両所37名,旭川車掌所99名,函館運輸所64名,室蘭運輸所24名)である(<証拠略>)。

釧路運輸車両所は,釧路地区で運輸関係業務を担当する組織であり,釧路地区における業務運営を効果的に行うため,列車の運転,日常検査,修繕を担う運転所,車掌業務を担う車掌所,さらには車両の解体検査,修繕を担う車両所の機能を統合した総合的な組織である。このうちの車掌業務については,道東唯一の車掌基地として,釧路・札幌間の特急「スーパーおおそら」,特急「まりも」,帯広・札幌間の特急「とかち」等の道内主要都市を結び毎日運行する定期列車としての都市間特急や帯広・釧路地区の普通列車の乗務並びに被告の主力商品である釧路地区のSL冬の湿原号や流氷ノロッコ号等(以下「ノロッコ号等」という。)の臨時列車の乗務を主体に担当している(<証拠略>)。

イ 車掌の職制は,2等級から始まって9等級まで昇職,昇格していくシステムになっており,2等級から5等級までは車掌,6等級は主任車掌,7等級は主任車掌,助役,リーダー,8等級及び9等級は所長,助役,チーフリーダーとされている。このうち,車掌の等級については,2,3等級が係職に,4,5等級が指導職にそれぞれ位置付けられており,指導職たる4等級に昇職するためには昇職試験に合格する必要がある。車掌の業務内容は,列車内における営業及び秩序の維持に関する業務,列車の運転取扱い及び入換えに関する業務等である(<証拠略>)。

なお,平成16年2月1日当時,原告X2は5等級であり,原告X1及び原告X3はいずれも4等級であったが,同年3月1日には2人とも5等級へ昇格することが予定されていた(<証拠略>)。

(4)  本件転勤命令に至る経緯

ア 釧路運輸車両所の車掌行路持ち替え施策

被告は,平成15年4月11日,各組合に対し,平成15年度効率化施策等スケジュールを示し,その中で,釧路運輸車両所が所管する札幌・帯広間の特急「とかち」の乗務行路を同年9月に全て札幌車掌所に移管することを内容とする車掌行路持ち替え施策(以下「本件行路持ち替え施策」という。)を説明したが,同年10月に同施策の実施を取り止めた(<証拠略>)。

イ 釧路運輸車両所への助勤命令

助勤とは,通常の人事異動とは異なり,一時的に本来の勤務箇所を離れて他の箇所へ配置する人事措置をいい,被告の就業規則(<証拠略>),以下,単に「就業規則」という。)81条の「会社は,業務上の必要がある場合は,社員に勤務箇所を離れて勤務することを命ずる。」との規定に基づくものである。

札幌車掌所長は,釧路運輸車両所の冬期波動に伴う欠員補充のため,平成15年12月12日付けで,同月22日から平成16年1月31日までの間,札幌車掌所の車掌5名(いずれも北労組組合員)に対して釧路運輸車両所への助勤を命じ,そのとおり助勤が実施された(<証拠略>)。

これに先立って,被告総務部主席のE(以下「E」という。)は,平成15年11月26日,北労組に対し,同年12月22日から当面の間,札幌車掌所の車掌5名を釧路運輸車両所の「定期行路及び定期の増結行路」に従事させるという内容の助勤を実施することを書面(甲19)で示し,同月27日付けの札幌車掌所長名のお知らせ文書(甲20)で,その旨を告知した。なお,甲19の書面の実施月日欄には,括弧書きで「併せて,助勤の経過を見ながら転勤についても検討を行っていく」と記載されている。

(5)  本件転勤命令

ア 就業規則28条1項には,「会社は,業務上の必要がある場合は,社員に転勤,転職,昇職,降職,昇格,降格,出向,待命休職等を命ずる。」との,同条2項には「社員は,前項の場合,正当な理由がなければこれを拒むことはできない。」との各規定が存する(<証拠略>)。

イ 被告は,平成16年1月22日に原告X1に対して,同月23日に原告X2に対して,同月24日に原告X3に対して,それぞれ「事前通知書」を交付した上,同年2月1日付けで被告の釧路支社勤務及び釧路運輸車両所車掌を命じた(本件転勤命令)。なお,被告は,札幌車掌所車掌であるF(以下「F」という。)及びG(以下「G」という。)に対しても,同日付けで釧路支社勤務及び釧路運輸車両所車掌を命じた(弁論の全趣旨)。

札幌車掌所長は,本件転勤命令を告知するに際し,原告らに対し,欠員の補充と年齢断層の解消(技術の継承)が本件転勤命令の理由である旨説明した。

ウ 北労組と被告との間で平成15年12月1日に締結された「労使間の取扱いに関する協約」(<証拠略>,以下「本件協約」という。)45条1項には,「組合員が,本人の転勤,転職,降職,出向及び待命休職についての事前通知内容について苦情を有する場合は,その解決を簡易苦情処理会議に請求することができる。」との規定があるところ,原告らは,同条項に基づき,原告X1は平成16年1月22日に,原告X2及びFは同月23日に,原告X3は同月24日に,それぞれ本件転勤命令について簡易苦情処理会議に苦情の解決を請求したが,いずれも同月27日付けで却下された(<証拠略>)。

エ 被告は,平成16年2月1日,原告ら,F及びGに対する釧路運輸車両所への転勤を実施した。なお,Fは,同年7月末に被告を退職している。

2  争点(本件転勤命令の有効性)

(1)  本件転勤命令が権利濫用に該当するか。

(2)  本件転勤命令が不当労働行為に該当するか。

3  争点に対する当事者双方の主張

(1)  争点(1)(本件転勤命令が権利濫用に該当するか。)

(原告らの主張)

勤務地の変更を伴う配転(転勤)命令は,労働協約や就業規則に使用者の転勤命令権が規定されている場合であっても,当該命令に業務上の必要性がない場合や業務上の必要性があっても,不当な動機があり,また,労働者に通常甘受すべき程度を著しく超えて不利益を負わせるものである場合には,権利濫用として当該配転命令は無効であると解すべきである(最高裁昭和61年7月14日第二小法廷判決・裁判集民事148号281頁)。

本件転勤命令には業務上の必要性がなく,仮に,何らかの必要性があるとしても,その必要性は極めて薄弱で,しかも,原告らに多大な不利益を与え,また,札幌車掌所における最大組合となった北労組を少数派にするため,原告らを同組合から脱退させてJR北海道労組に加入させるための集団的・威圧的な嫌がらせ行動の機会を同組合に与えようとする違法・不当な動機・目的に基づくものであるから,本件転勤命令は転勤命令権を濫用したものとして無効である。

ア 業務上の必要性がないこと

釧路運輸車両所の要員数は,以下のとおり34名(定期列車に対する要員26名,臨時列車に対する要員8名)で足りるところ,同運輸車両所の配置要員は,冬期波動期とされる平成16年1月から3月にかけて35名(3月のみ34名)であるから,同運輸車両所に要員不足は生じていない。

即ち,要員数は,定期列車の要員数と臨時列車の要員数の合計であるところ,定期列車の要員数は,釧路運輸車両所車掌が実際に乗務する行路総数5698行路(被告主張の6205行路から,年間の休日等車掌の乗務しない507行路(169日×3行路)を差し引いたもの)を車掌の年間勤務日数233日(被告主張と同じ)で除した24.45名となるから,26名で足りるし,臨時列車の要員数は,被告主張の繁忙期である1月から3月までの間に臨時列車に乗務することを指定された車掌数648名(勤務指定兼確定表に記載された平成16年1月228名,同年2月238名,同年3月182名の合計)を歴日数91日で除した7名強となるから,8名で足り,合計34名いれば十分である。

なお,被告は,臨時列車に乗務する車掌にも休日を付与しなければならない旨主張するが,勤務指定兼確定表において指定された車掌には既に休日を付与済みであるから,重ねて付与すべき休日を考慮する必要はない。

他方,釧路運輸車両所の配置要員数は,平成15年4月1日の時点では被告主張のとおり37名であったが,同年5月1日の時点では,新規採用の2名が新たに配属されて39名となり(なお,翌16年3月15日に2名転出),定年退職者5名を除いても34名となって,要員不足は生じない。なお,被告主張の長期病気の者1名も勤務指定兼確定表には車掌として記載されており,近い将来車掌業務に復帰することが予定されているはずである。

仮に,要員不足があったとしても,本件転勤命令の発令を決めた時点では,平成16年4月の人事異動で配置要員数が充足されることが想定され,同年2月以降に生ずる要員不足数は一時的なものであって,これに対しては助勤を継続することで十分対応可能であるから,本件転勤命令を発令する必要性はなかった。また,長期的な要員不足があるというのであれば,被告が検討していた本件行路持ち替え施策,新規採用,定期異動等によって十分対応することができたから,本件転勤命令は必要ではない。被告は,本件行路持ち替え施策を中止した理由として,帯広車掌所廃止の際の議論,スーパーおおぞらの増発計画を前提とした釧路運輸車両所の機能維持,自然災害への備えとしての同運輸車両所の重要性の再認識をいうが,いずれも中止の理由としては合理的なものとは言えない。

また,被告は,本件転勤命令の必要性に関し,年齢断層の問題を持ち出すが,この問題は,被告が新規採用を抑制してきた結果として職場に広汎に存在するものであり,釧路運輸車両所にのみ限られた問題ではないし,これまで被告が年齢断層解消に向けた具体的な施策を検討したことはなかったから,年齢断層の解消が本件転勤命令の真の理由ではあり得ない。さらに,被告は,技術の継承の必要性も主張するが,車掌業務は,新人でも約2か月間の見習,養成を経た後は単独で行うことのできる業務であって,技術継承の必要性は極めて低く,他の車掌と共同で乗務する機会はほとんどないことから,経験に富んだ車掌を配置したからといって技術継承がなされることにはならず,被告が技術継承のために本件転勤命令を行ったとは考えられない。

イ 本件転勤命令対象者の選定基準,過程,手続が合理的でなく,不当であること

そもそも,被告主張の選定基準自体,文書化されたものは存在しないというのであるから,選定基準の存在自体が疑わしいというべきところ,本件転勤命令の対象者を札幌車掌所車掌に限定する必要はない上,札幌車掌所から釧路運輸車両所への5名の転勤は,札幌車掌所の要員事情を逼迫させる一方で,同車掌所の要員事情に比して明らかに余裕のある釧路運輸車両所の要員事情を一層緩和させるもので,不自然かつ不合理である。

さらに,本件転勤命令の本来の目的は要員不足の補充であるのに,被告主張の選定基準は,年齢構成の偏りの是正及びリーダーとなり得る者の補充を目的とするもので,本来の目的と整合していないし,副次的にそのような目的があるとしても,30から40歳代の者及び5,6等級の者に限定する必要性はない。しかも,転勤によって生活設計に影響する個人的事情は多種多様なものがあるのに,被告主張の選定基準は,そのような個人的事情を十分考慮したものとはいえない。

被告が,転勤対象者を選定するに当たって考慮した資料は,「自己PRカード」だけであり,極めて限られた情報のみによっている上,原告らは期待されるような指導力を発揮する者ではないから,人選過程が合理的であるとは言えない。

また,被告は,転勤対象者の意向を具体的に聴取していないばかりか,労働組合との協議もしていないから,人選手続が合理的であるとも言えない。

簡易苦情処理手続は,被告側委員が苦情処理の対象として適当であると認めない限り申告は却下せざるを得ないものであるところ(本件協約51条),被告側委員が既に決定されている転勤命令について苦情処理として適当と認めることは通常考えられず,同手続が適切に機能することは期待できない。また,審議においては,労使双方の苦情処理委員の一致があった場合には,当事者,参考人から事情聴取することができるとされているにもかかわらず(同協約50条2項),Fを除いて,原告らからの事情聴取すら行われず,苦情の内容が把握できなかったのは当然である。

ウ 原告らの被る不利益が重大であること

(ア) 原告らは,いずれも本件転勤命令に至るまで,札幌市内及び近郊に居住して札幌車掌所の車掌として勤務していたところ(原告X1については平成6年3月から,原告X2については同年10月から,原告X3については昭和62年3月から札幌市内及びその近郊に居住している。),札幌から特急列車を利用しても片道約4時間を要する釧路への転勤は,これまで長年形成してきた原告らの生活環境を一変させるとともに,家庭事情など私生活に重大な悪影響を及ぼすものである。

具体的には,原告X1は,野幌に高齢の両親が2人だけで生活しており,ときおり訪問して安心させ,いずれ同居して面倒をみることになっていたが,釧路へ転勤すると,両親を訪問すること自体が著しく困難となる。

また,原告X2は,近い将来に結婚を予定している女性が札幌市内に勤務しているため,釧路へ転勤すると,同女との面会が著しく困難になり,結婚自体の障害になる危険性があった。なお,同原告は,本件転勤命令後に婚姻を届け出たが,釧路へは単身赴任である。

さらに,原告X3は,母が単身で余市町に居住しているため,随時様子を見に行かなければならないが,釧路へ転勤すると,母の様子を見に行くことが著しく困難となる。

(イ) 給与の減額

札幌から釧路への転勤により,都市手当が支給されなくなり,また,超過勤務手当も大幅に減少し,原告らの年収は48万円から49万円の減額となることが見込まれる。

(ウ) JR北海道労組による嫌がらせ行動

JR北海道労組は,国労・鉄産労解体を運動方針に掲げ,平和共存を打破するために国労・鉄産労の組合員の結婚式への参列等を取り止めているところ,釧路運輸車両所の車掌は全てJR北海道労組の組合員であり,同組合は同運輸車両所管理者及びその従業員に対して強い影響力を有している。実際にも,札幌車掌所からの助勤者に対して釧路運輸車両所の管理者がいったん付与していた正月三が日の休日を取り消したり,同運輸車両所構内において助勤者に対して集団的・威迫的な嫌がらせ行動が展開されても被告はこれを制止しないなどの状況にあるから,JR北海道労組の組合員が助勤者に対して行ったのと同様の嫌がらせ行動を原告らに対して展開し続けることは必至であるところ,被告にはこれを制止する意思も体制もなく,原告らが重大な肉体的・精神的苦痛を被るおそれが大きい。

エ 違法・不当な動機,目的によるものであること

北労組の結成により,札幌車掌所では北労組123名,JR北海道労組118名となり,北労組が最大組織となったため,JR北海道労組は,この状況を覆し改めて同組合を札幌車掌所における最大組織にするとともに,北労組に所属する車掌のいない釧路運輸車両所に北労組の組合員を転勤させ,孤立させて集団的・威圧的な嫌がらせ行動を行うことにより転勤者を北労組から脱退させるべく,被告に対し,札幌車掌所から北労組の組合員を転勤させることを要求し,被告がこれに応じたものと考えられる。本件転勤命令の結果,平成16年2月10日の時点で北労組117名,JR北海道労組119名となったことに照らすと,本件転勤命令は札幌車掌所における最大組合をJR北海道労組とするためになされたものであることは明らかである。

被告は,使用者として労働組合の団結権を尊重すべきものであり,労働組合間の対立において一方を支持したり,一方に協力することは許されないところ,被告は,JR北海道労組を札幌車掌所における最大組合にすることや本件転勤命令によってJR北海道労組に北労組組合員に対する脱退工作の機会,便宜を与えたというべきであるから,本件転勤命令は違法・不当な動機・目的のもとになされたものといえる。

(被告の主張)

被告は,業務上の必要がある場合には,社員に転勤を命ずることができ,社員は正当な理由がなければこれを拒むことはできないところ(就業規則28条),転勤に当たって社員本人の同意の有無は問題にならず,これまでも社員に事前の同意を確認したことはない。

本件転勤命令は,以下のとおり,業務上の必要性及び適正な手続に基づいて実施された有効なものであって,被告に違法・不当な目的はなく,原告らの被る不利益もないから,転勤命令権の濫用には当たらない。

ア 本件転勤命令に至る経緯について

(ア) 釧路運輸車両所の要員に対する課題

釧路運輸車両所では,時期的波動により同運輸車両所の要員数は変化するところ,特にノロッコ号等の臨時列車が運転される1月から3月までの繁忙期には,現行社員数では勤務が回らず,最低でも車掌業務可能な人員が36名必要な状況にある。

他方,釧路運輸車両所の車掌の配置社員数は,平成15年4月1日の時点では37名で,内1名は病気により長期間車掌業務に従事していなかったところ,同年4月から翌年3月までの間に60歳定年で5名の退職が予定されていたことから,平成16年3月末の社員数は32名(上記病気社員1名を除くと31名となる。)となる予定であった。

このように,5名の欠員が予定されていた上,平成16年度には4月から10月までの間に60歳定年で3名の退職が予定されており,平成15年度以降平成19年度までには22名の定年退職者が見込まれ,欠員について深刻な問題が顕在化しており,対策が必要な状況にあった。

(イ) 本件行路持ち替え施策の検討

被告は,釧路運輸車両所の欠員対策として,平成15年度当初は,同運輸車両所の要員数の縮小によって対応することを検討し,各組合に対し,平成15年度効率化施策等スケジュールの説明を行う中で,あくまで一つの検討課題として,本件行路持ち替え施策の実施を検討している旨を説明した。

(ウ) 本件行路持ち替え施策の再検討

しかし,その後,被告において本件行路持ち替え施策を再検討したところ,次の事項が検討課題となった。

a 平成5年3月に帯広車掌所を廃止して釧路運輸車両所を存置することを決定した際,「札幌・釧路間の特急列車を運行する上で,釧路運輸車両所は将来的にも必要な車掌所である。」「札幌・釧路間の特急列車を受け持つ車掌所として組織の機能を維持していくには,最低でもワンマン列車化以前の業務規模を確保する必要がある。」「都市間輸送に必要な人員を札幌に一極集中することは得策ではない。」などの議論があり,滝川・釧路間の普通列車のワンマン列車化による釧路運輸車両所の業務減を補完するため,帯広車掌所が受け持っていた特急「とかち」と札幌車掌所が受け持っていた特急「おおぞら」「とかち」の乗務を釧路運輸車両所に持ち替えて同運輸車両所の業務規模を維持した経緯があったところ,本件行路持ち替え施策は,同運輸車両所の業務規模を縮小する施策になることが判明した。

b 札幌・釧路間の輸送体系の検討

被告は,従前,平成9年3月及び13年7月に実施した新製車両導入による特急「おおぞら」の「スーパーおおぞら」化により旅客輸送量が増加した実績もあり,千歳・丘珠と釧路間の航空機増便に対する対抗策として,顧客ニーズに合った「スーパーおおぞら」の増発を計画していたところ,本件行路持ち替え施策を実施した場合,長距離乗務を受け持つ道東地区の車掌基地たる釧路運輸車両所の機能低下を招く恐れがある。

c 年齢断層問題

釧路運輸車両所における平成15年4月1日現在の車掌37名の年齢構成は,50歳代が24名,40歳代が1名,30歳代が0名,10歳代及び20歳代が合計12名と,中間層の車掌が極端に少ないという歪な年齢構成となっていた上,今後5年間の定年退職に伴い,同運輸車両所では現有の37名からその60パーセントに相当する22名が退職となるため,他の車掌所と比べても,同運輸車両所の年齢構成の歪みは特に問題があった。

こうした歪な年齢構成を放置した場合,指導力ある中堅車掌が不在となるため,釧路運輸車両所の機能低下や職場活性化への取組み意欲等の低下が生じる可能性がある。

そこで,欠員対策として本件行路持ち替え施策を実施するとしても,平成15年度冬期の欠員対策にはなるものの,平成16年度以降の退職による欠員対策にはならない。この欠員に対しては新規採用者の充当も考えられるが,新規採用では10歳代及び20歳代の若手が増えるばかりで,職場内の指導者となり得る社員が依然不在であるため,社員意識や車掌としての技能を向上させるための会社施策である「小集団活動」「接客競技会」「事故防止」といった,一定の社員数を必要とする職場活性化策の取組みを萎縮させかねず,車掌としての技能が保持できなくなるばかりか,良質な車掌サービスの維持が不可能となることが予想されることから,本件行路持ち替え施策の実施いかんにかかわらず,後輩社員の指導育成ができる社員が必要である。

(エ) 車掌行路持ち替え計画の中止

そこで被告は,(ウ)の問題点を検討し,加えて,平成15年7月の集中豪雨や同年9月の十勝沖地震などの被災を受けて,災害や事故などに迅速に対応する上で,釧路地区における車掌基地の重要性を改めて再認識したこともあって,道東方面における競争力強化を実現するためには,必要な技術・人員を拠点である札幌及び釧路地区双方に確保し,道東地区の要として,釧路運輸車両所の車掌業務は現在の業務規模を維持すべきとの結論に至ったため,本件行路持ち替え施策の取り止めを決定し,平成15年10月15日に各労働組合に対してその旨を説明した。

(オ) 助勤の実施

欠員対策の方法には,恒久的な対策となり得る「転勤」と一時的な対症療法的措置である「助勤」という二つの選択肢があるが,「助勤」は恒久的な欠員対策となり得るものではないから,釧路運輸車両所における歪な年令構成等から派生する課題を克服するための「転勤」と,平成16年度以降も継続する欠員対策としての「新規採用者の配属」という二つの恒久的な対策を併用して行うことが被告として最善であると判断した。

そして,被告は,社員数が多く,要員需給上比較的余裕があり,年齢構成も平準化している札幌車掌所から5名を選定し(この人数は,釧路運輸車両所において冬期に必要な36名から,このままで推移した場合の実働人員31名を引いた人数である。),転勤者の人選については,同運輸車両所の歪な年齢構成を是正するため,30歳代及び40歳代の社員を中心として具体的に検討していくこととした。

さらに,冬期の臨時列車運転に伴う平成16年2月からの欠員状況を睨みつつ,札幌車掌所の車掌が乗務していない列車(特急「まりも」や帯広・釧路地区の普通列車等)に乗務するため,駅構内の形状やホームの長さ等を覚えてもらうための約1か月間程度の見習教育期間も含めて総合的に勘案し,転勤の実施時期を平成15年12月1日とすることを検討したが,同年10月26日に北労組が新たに発足したばかりであることに加え,助勤を行った後,その経過を踏まえて転勤を行った方が釧路運輸車両所における人員の必要性に対する理解が得られやすいと判断したことから,まずは,助勤を実施することとした。

被告は,同月26日,原告らが所属する北労組等に対して,今後「転勤についても検討する」との前提で,当面,「助勤」により対応する旨を説明した。

被告は,釧路運輸車両所の車掌行路の約9割が,釧路・札幌間の都市間特急列車であることを踏まえて,短期間の見習いで即戦力として1人乗務ができる技能レベルが高い「A行路」の主任車掌から5名を選定した上,平成15年12月22日から札幌車掌所所属の5名の車掌について,釧路運輸車両所への助勤を実施した。

イ 業務上の必要性があること

助勤によっても釧路運輸車両所における欠員や年齢断層に関わる根本的問題は全く解決しないことから,被告は,以下の事情を考慮し,平成16年1月に,同年2月1日付けで札幌車掌所所属の車掌5名を釧路運輸車両所に転勤させることを決定した。

(ア) 臨時列車の増加に伴う欠員対策

釧路運輸車両所では,冬期期間の2月からノロッコ号等の臨時列車が運行されることから,欠員が増大する。

(イ) 定年退職に伴う欠員対策

平成16年には,2月,4月,8月,10月に各1名の定年退職者の発生が見込まれていたが,それぞれ退職前に“年休消化”に入るのが通例となっていることから,2月と4月に退職する2名の車掌が同年2月には年休消化に入ることが想定されており,欠員が生じる。

(ウ) 助勤の繰り返しによる見習教育の負担

平成16年2月以降も助勤を実施した場合は,助勤者が交代する度に,釧路運輸車両所における見習教育が必要となり,助勤の繰り返しによる見習教育の負担を解消する必要がある。

ウ 人選過程の適正

(ア) 対象年齢層

釧路運輸車両所における歪な年齢構成等に起因する課題を是正するため,30歳代及び40歳代を対象とし,さらに,5年後の年齢が50歳以上となる社員を除いた。

(イ) 対象となる人材

今後の釧路運輸車両所において後輩車掌の指導育成に力量を発揮できる6等級社員及び指導職として位置づけている5等級の社員(平成16年3月1日に昇格が予定されている社員を含む)を対象とした。

(ウ) 社員の個人的事情

以上の基準により,「転勤者の人選リスト」(<証拠略>)記載の34名が侯補者として残ったことから,次のaないしcの社員の生活設計等を考慮した結果,原告X1,原告X2,原告X3,F及びGの5名が選定された。

a 子弟の就学状況

子どもの転校等により家庭生活に支障が生じないように,就学中の子どもがいる社員を除くと,対象者は8名となった。

b 自宅保有の有無

転勤により家庭生活に支障が生じることのないように,自宅保有者を除くと,対象者は7名となった。

c 独身者

上記7名のうち,今回の転勤が,年齢断層の補充という中長期的なものであることから,転居しやすい独身者を選定した。

エ 本件転勤命令の手続

被告は,平成16年2月1日,正式に本件転勤命令を通知するに当たり,原告ら3名を含む5名に対し,同年1月22日から24日にかけて事前に通知を行っており,適正な手続を経て本件転勤命令が発令された。

事前通知を受けた5名のうち,原告ら3名及びFから,本件協約(45条)に基づいて,転勤を取り止めて欲しい旨の簡易苦情処理の申出が同月24日までにあったことから,被告は,原告らの申出を正式に受理し,同月26日午後1時から午後3時10分までの間,被告側2名,組合側2名の合計4名の簡易苦情処理委員において審議し,さらに,Fについては,同日午後6時から同人出席の上,2回目の簡易苦情処理会議を開催した。

しかし,原告ら及びFの苦情処理の申出は,いずれも正当な理由があるとは認め難く,簡易苦情処理の対象としても適当でないと判断されたため,本件協約51条に基づきいずれも却下された。

オ 原告らの被る不利益は著しくないこと

以下の(ア)ないし(ウ)のとおり,本件転勤命令が原告らに特段不利益を与えることはない。

(ア) 家庭の事情による障害

原告らは,特急列車を用いても札幌から片道4時間を要する釧路に転勤することにより,私生活に重大な不利益が生じると主張するが,次のとおり理由がない。

原告X1は,いずれ同居して面倒をみることになっており,これまでもときおり訪問して安心させてきた野幌在住の両親への訪問が著しく困難になる旨主張しているが,簡易苦情処理申出の時点までにそのような申告がなされたことはなく,その真偽あるいは切迫性に疑問がある上,札幌と釧路間のように距離的に離れた所に両親が居住している社員は他にも多く存在しているから,別居している両親と離れた場所に住むことを拒否しようとすること自体,理由にならない。

原告X2は,結婚を予定している女性と面会することが著しく困難になる旨主張しているが,簡易苦情処理申出時ですらそのような申告がなされたことはなく,その真偽あるいは切迫性に疑問がある。

原告X3は,余市町に単身で住む母の様子を見に行かなければならないと主張しているが,そのような申告がなされたことはなく,その真偽あるいは切迫性に疑問がある。

(イ) 原告らは,JR北海道労組が助勤者に対して行った嫌がらせ行動を転勤者にも展開し続けることが必至で,転勤者に重大な肉体的・精神的苦痛を及ぼすおそれがあると主張するが,原告らの主張する嫌がらせ行動は組合相互の軋轢に過ぎない可能性もあって,これに被告がどれほど介入できるかは微妙である。被告は,全ての組合員を平等に扱う必要があるところ,被告が,人事あるいは勤務に関し,組合からの不当な介入を受けることはない。

仮に,被告の施設内で,社員間において,勤務に影響を与えるほどの精神的・肉体的苦痛を与えるような行為があれば,被告としてはそうした行為を断じて許すことはできないし,過去,現在とも,被告として現場における管理体制の強化及び各社員に対する適切な管理・監督を行っており,実際,平成16年2月1日の転勤実施後にトラブルは一切生じていない。

逆に,北労組所属組合員を釧路運輸車両所に転勤させられないとすると,他の組合の組合員を転勤させなければならず,他の組合に対する不当差別になりかねない。

(ウ) 給与の相違

被告の賃金規程は,就業規則に明示している労働条件のもと,全社員に適用されるものであり,本件転勤命令による給与の変動は,勤務時間及び居住地域の相違によって生じる通常程度のものであって,原告らに特段不利益を与えることはない。

すなわち,本件転勤命令によっても,給与の基礎を構成する基本給は変わらず,都市部での諸物価を考慮して支給されている「都市手当」や乗務時間に応じて支給される「超過勤務手当」が変動するに過ぎないところ,「都市手当」は,地域による物価格差を受けて,道内勤務地では札幌市のみで支給され,他地区では支給されない(賃金規程34条)という制度的相違に起因するものであり,「超過勤務手当」は,札幌車掌所と釧路運輸車両所における車掌業務の労働時間差に起因するものである(<証拠略>)。

逆に暖房経費を地区により定めた「寒冷地手当」は,釧路地区への転勤に伴い増額となるが,これも制度的相違である(賃金規程138条)。

カ 不当な動機がないこと

原告らは,被告が,札幌車掌所における北労組の過半数割れを目的として原告らを転勤させた旨主張するが,被告は,平成15年6月26日に,転勤の前提となる本件行路持ち替え施策の延期を決定してその旨鉄産労に通知し,北労組結成前の同年10月15日には同施策の中止が決定しているから,この状況で,被告が北労組の札幌車掌所における過半数割れを目的とした転勤を実施する必要性は全くない。

また,被告は,平成16年1月7日,総務部長を通じて,JR北海道労組に対し,念のため脱退勧奨のような行為がないように申し入れ,現場長に対しても職場規律を維持するよう通達しているのであって,原告らの上記主張は理由がない。

(2)  争点(2)(本件転勤命令が不当労働行為に該当するか。)

(原告らの主張)

ア 本件転勤命令は,原告らが北労組の組合員であることを理由に原告らに対して不利益な取扱を(ママ)するものとして労働組合法7条1号所定の不当労働行為に該当するとともに,原告らを札幌車掌所から転勤させることにより北労組が札幌車掌所における最大の労働組合でなくなるようにし,被告が北労組の組合員に対して不利益な取扱いをする意思を示すことにより,北労組からの脱退や北労組への加入を警告することを目的としたもので,北労組の活動に支配介入したものとして同条3号所定の不当労働行為にも該当するから,無効である。

イ 被告は,かねてから最大の労働組合であるJR北海道労組と極めて緊密な協調関係にある。他方で,被告は,「民主化闘争」を運動方針とした鉄産労(北労組の前身)を嫌悪して,鉄産労大会への被告代表者ら役員の来賓出席及び挨拶を取り止め,鉄産労役員と被告役員間の新年顔合わせ及び鉄産労主催の「新年交礼会」への被告役員の出席も取り止め,被告主催の「功績章授章式」への鉄産労役員の出席招待及び「小集団意見発表会」への北労組の出席招待を取り止めるなど,鉄産労及び北労組との公式の交流を絶った。そして,被告は,嫌悪していた国労の組合員が北労組に参加したことに警戒感を示し,北労組の結成時には,鉄産労との間に締結していた「労働条件に関する労働協約」及び「労使間の取扱いに関する協約」(旧協約)と同一内容の労働協約を北労組との間で締結することを拒否し,その後,平成15年12月1日に「労使間の取扱いに関する協約」(本件協約)が締結されたものの,旧協約の経営協議会条項を除外した内容のものであった。また,「労働条件に関する労働協約」については,旧協約の締結期間内の有効性を確認し,平成16年4月1日までに締結することの確認をするにとどまるものであった。被告は,本件転勤命令に対する北労組の対応に強く反発して労働協約の締結を拒否し続けている。

JR北海道労組は,被告の上記態度をとらえて,被告は北労組を経営のパートナーとは認めず,唯一のパートナーはJR北海道労組のみであり,北労組は被告と対立する組合であるなどと宣伝し,北労組組合員の不安感をあおった。その結果,平成16年1月には,北労組を脱退する組合員も出た。

さらに,JR北海道労組は,被告が提示した本件行路持ち替え施策について,釧路運輸車両所の機能低下,規模縮小につながるなどとして反対したため,被告は,同施策の実施を中止した。また,被告が釧路運輸車両所の冬期波動に伴う欠員補充として助勤を実施することとしたのに対し,JR北海道労組が助勤では抜本的対策にならないとして転勤の実施を要求して助勤に応じない態度を示したことから,北労組は被告の要請を受けて助勤者5名全員を北労組組合員とすることに応じたのである。にもかかわらず,JR北海道労組は,助勤者に対する勤務指定に介入し,助勤者に対して正月三が日の全部を勤務する内容の勤務指定をさせた。

しかも,被告は,釧路運輸車両所構内におけるJR北海道労組の集団的・威圧的な嫌がらせ行動を制止するための措置を講じなかったばかりか,北労組が助勤者からの聞き取り結果を文書で示して被告の対応を求めたのに対しても,「そのようなことはないと信じているが,仮に本当のこととすれば厳正に対処する。」「そのような誤解を受けることがないように指導する。」などと回答するにとどまり,JR北海道労組の組合員による助勤者に対する集団的・威圧的な嫌がらせ行動を黙認した。これにより,被告が,釧路運輸車両所に転勤してきた原告らに対しても,JR北海道労組の組合員が助勤者に対して行ったのと同様の行動を容認することにより,同組合が違法・不当な手段によって北労組を脱退させることに協力する意図を有することは明らかである。

(被告の主張)

被告には,北労組を弱体化させようとする動機はなく,他の違法・不当な目的もない。本件転勤命令は,前述のとおり業務上の必要性及び適正な手続に基づいて行われたものであり,不当労働行為には該当しない。

また,被告の労働組合間の激しい対立,各組合間の組織拡大運動・組合員勧誘運動の激しさの中で組合間に感情の軋轢が生じており,原告らの主張する被告の不当労働行為なるものは,かかる組合間の対立から派生した事柄を被告の不当労働行為と構成したもので,理由がない。

第3争点に対する当裁判所の判断

1  事実経過

前記前提事実に,証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められ,同認定を左右するのに足りる証拠はない。

(1)  釧路運輸車両所の欠員状況

ア 釧路運輸車両所の平成15年4月1日時点における車掌の配置人数は,37名(病気により長期間車掌業務に従事していない車掌1名を含む。)であったところ,同月26日に平成15年度採用の大卒者2名が新たに配置されていったんは39名となったが,同年10月までに3名が定年で退職し,さらに平成16年3月までに2名が定年で退職し,同月15日には平成14年度採用の大卒者2名が他の部署に異動することが予定されていたことから,平成15年度(同年4月1日から平成16年3月31日まで)末の実働車掌数は31名(ただし,上記病気の1名を除く。)となることが想定されていた。さらに,同運輸車両所では,平成19年度までに17名の定年退職者が見込まれていた(<証拠略>,弁論の全趣旨)。

イ 必要人員の算定

釧路運輸車両所では,時期的波動により要員数も変化するが,特に,ノロッコ号等の臨時列車が運転される1月から3月までの間の繁忙期には,平均して36名の車掌が必要な状況にあった(<証拠略>)。

すなわち,まず,釧路運輸車両所における定期列車の要員数については、年間の総勤務人員を総勤務日数で除することにより算出されるところ,1日当たりの必要人員は17名である(<証拠略>)ことから,同運輸車両所の年間総勤務人員は6205名(17名×365日)となり,年間の公休日は52日,特別休日は60日,年次有給休暇は20日(勤続年数5年以上)であって(<証拠略>,就業規則),これらを除いた年間の勤務日数は233日となるから,この年間総勤務人員6205名を年間総勤務日数233日で除した27名(計算結果26.6を切上げ)が,定期列車の要員数となる。なお,内3名は予備要員である(<証拠略>)。

次に,釧路運輸車両所では,ノロッコ号等の臨時列車が運転される1月から3月までの間は繁忙期に該当するから(<証拠略>),この期間中の臨時列車の要員数を算出する必要がある。

上記のとおり,年間の勤務日数は233日であるから,1か月当たりの平均勤務日数は19.42日となるところ,平成16年1月から3月までの臨時列車充当の勤務日数は,1か月平均216日であり,これを1か月当たりの勤務日数で除すると,約11.1名となる(<証拠略>)。

他方で,土日祝日,春休み・夏休み・冬休みなどの学校休日に伴い,定期列車が計画的に運休となることなどにより,定期列車の要員が臨時列車に乗務可能な日数は,1月から3月までの間に132日(1か月平均44日)あり,これを月平均の勤務日数19.42日で除すると約2.2名となる。

したがって,休日等の消化を考慮した臨時列車の要員数11.1名から2.2名を差し引いた8.9名が臨時列車に対する要員数となり,定期列車に対する要員数26.7名と合算した35.6の端数を切り上げて36名となる(<証拠・人証略>)。

これに対し,原告らは,実際に乗務することになる列車数に応じて定期列車,臨時列車の要員数を算定すべきであり,また,臨時列車の要員数の算定に当たり,休日等の付与を考慮する必要がない旨主張する。しかしながら,年間を通した要員数の算定という観点からは,被告主張のように,まずは定期列車の要員数を計算した上で,臨時に増員が必要な繁忙期について,定期列車の要員数の減少を踏まえて算定するのが合理的であるといえ,また,繁忙期には定期列車の要員数のみでは対応することができないとして,年間を通して増員する必要があるという前提に立てば,臨時列車の要員数についても定期列車の要員数を算定する場合と同様に休日等の付与を考慮する必要があるから,原告らの上記主張は採用することができない。

ウ そうすると,釧路運輸車両所の要員数36名に対し,平成15年度末の実働車掌数は31名となる見込みであるから,車掌5名の不足が予想されていたということができる。

(2)  本件行路持ち替え施策

釧路運輸車両所における上記の欠員状況は,平成15年度初の段階で既に予想できていたところ,被告運輸部管理課では,当初,同運輸車両所の「車掌行路の持ち替え」(本件行路持ち替え施策)の実施により,同運輸車両所の業務量を減少させるとともに,同運輸車両所の車掌が帯広・札幌間の特急「とかち」の乗務に伴う釧路・帯広間の移動時間をなくすことによって十分対応することが可能であると考えて同施策の実施を検討し,平成15年4月11日,各組合に対し,平成15年度効率化施策等スケジュール(<証拠略>)の各案件について情報提供を行い,この中で,同年9月に本件行路持ち替え施策の実施を検討している旨を説明した。

しかし,被告運輸部輸送課では,千歳・丘珠と釧路間の航空機増便に対する対抗策として,釧路・札幌間の特急「スーパーおおぞら」の増発を検討しており,また,同区間の特急列車の輸送体系を考える上でも,現行の釧路運輸車両所の車掌の要員数を決定した平成5年3月の「ワンマン化に伴う帯広車掌所廃止の経緯」を検討することが必要となったため,被告運輸部内で,本件行路持ち替え施策について再検討が行われた。

そして,被告は,後記アないしウの帯広車掌所廃止の経緯,釧路運輸車両所の機能維持,年齢断層の解消等の諸問題を検討した結果,平成15年6月に本件行路持ち替え施策を延期することとし,そのころ,鉄産労のI業務部長にその旨説明した。

さらに被告は,平成15年7月に道東地方で集中豪雨が発生し,同年9月には十勝沖地震が発生したことで,災害時や事故時などに迅速に対応する必要上,釧路地区における車掌基地の重要性を再認識したこともあり(<証拠略>),道東方面における競争力を強化するには,必要な技術・人員を拠点である札幌及び釧路地区双方に確保することが必要であり,そのためには,釧路運輸車両所を道東地区の要として位置づけ,同運輸車両所の車掌業務の業務規模を現行どおり維持すべきとの結論に達し,同年10月に,本件車掌行路持ち替え施策の中止を決定した。そこで,被告は,同月15日,各組合に対し,「平成15年度下期効率化施策等スケジュール」(<証拠略>)において,「仕業検査基地業務体制見直し」や「駅業務の委託」の実施時期や内容等の変更と併せて,本件車掌行路持ち替え施策の中止を説明した。

ア 帯広車掌所廃止の経緯

被告は,平成5年3月に帯広車掌所を廃止して釧路運輸車両所の存置を決定したが,その際,札幌・釧路間の特急列車を受け持つ車掌所としての同運輸車両所の機能を維持するには,最低でもワンマン列車化以前の業務規模を確保する必要があり,また,都市間輸送に必要な人員を札幌に一極集中することは得策ではないなどとして,帯広車掌所が受け持っていた特急「とかち」と札幌車掌所が受け持っていた特急「おおぞら」「とかち」の乗務を釧路運輸車両所に持ち替えて同運輸車両所の現行の業務規模を維持した経緯があり,今回の本件行路持ち替え施策は,当時議論した上で決定した同運輸車両所の業務規模を縮小する結果となることが問題とされた(<証拠略>)。

イ 釧路運輸車両所の機能維持

平成9年3月及び平成13年7月に実施した新製車両導入による特急「おおぞら」の「スーパーおおぞら」化により旅客輸送量が増加した実績もあり,被告は千歳・丘珠と釧路間の航空機増便に対する対抗策として,顧客の需要に合った「スーパーおおぞら」の増発を計画していたところ,本件行路持ち替え施策を実施した場合には,長距離乗務を受け持つ,道東地区の車掌基地たる釧路運輸車両所の機能低下を招く恐れがあった(<証拠略>)。

ウ 年齢断層の問題

釧路運輸車両所における平成15年4月1日時点の車掌37名(病気社員1名を含む)の年齢構成は,50歳代24名,40歳代1名,30歳代0名,10歳代及び20歳代合計12名と中間層の車掌が極端に少なく,歪な年齢構成となっていた(<証拠略>)。

こうした歪な年齢構成は,他の車掌所においても相応に見られるところであるが,釧路運輸車両所では,前記のとおり,今後5年間に現有37名の約60パーセントに相当する22名の定年退職が予定されており,このまま放置すれば,平成20年4月には,車掌の年齢構成は,20歳代11名,30歳1(ママ)名で,その上は50歳代の3名しかいない事態となることから(<証拠略>),特に深刻な問題として受け止められていた。

(3)  本件行路持ち替え施策中止後の助勤・転勤の検討

被告は,本件行路持ち替え施策の中止を決めた後,中堅層の年齢断層の緩和を加味した欠員補充方法の検討を進めていたところ,欠員補充の方法として新規採用や他の職種からの登用も考えられたが,これらの欠員補充では,年齢断層を埋めて経験豊富な中堅層を補充するという目的を達しないため,「転勤」又は「助勤」による対応という二つの選択肢が考えられた。この点,助勤はあくまで一時的な欠員に対する措置であり,恒久的な欠員対策となり得るものではないことから,被告は,釧路運輸車両所における歪な年令(ママ)構成等から派生する課題を克服するために転勤を実施し,平成16年度以降も継続する欠員に対しては新規採用者の配属を行うという二つの恒久的な対策を併用して行うことが最善であると判断した。

そこで,被告は,車掌数が多く(平成15年4月1日現在で230人,<証拠略>),要員需給上比較的余裕があり,年齢構成もある程度平準化している札幌車掌所から転勤させることが最も影響が少ないと判断し,同車掌所から5名の転勤者を選定することを検討した(<証拠・人証略>)。

また,被告は,釧路運輸車両所の歪な年齢構成を是正するため,30歳代及び40歳代の社員を中心に転勤者の人選を検討していくこととし,冬期の臨時列車運転に伴う平成16年2月からの欠員状況を考慮し,また,札幌車掌所の車掌が乗務することのない列車(特急「まりも」や帯広・釧路地区の普通列車等)に乗務することから,駅構内の形状やホームの長さ等を覚えてもらうための約1か月間程度の見習教育期間が必要になることも含めて総合的に勘案した結果,転勤の実施時期を平成15年12月1日とすることを検討した。

(4)  助勤の実施

ア 被告は,冬期対策として,平成9年12月1日から平成10年3月15日までの間,旭川支社から札幌・桑園駅への助勤を実施した経験があったこと(<証拠略>)を踏まえ,まず助勤を行い,その後にその経過を踏まえて転勤を実施した方が釧路運輸車両所における人員の必要性に対する理解が得られやすいと判断したことなどから,まず助勤を実施することとした。

イ 助勤の実施に際しての説明

被告総務部のEは,平成15年11月26日午前10時ころ,原告らが所属する北労組の副委員長であるH(以下「H」という。)及び同業務部長であるI(以下「I」という。)に対して,被告運輸部作成の「釧路運輸車両所への助勤について」と題する説明資料(<証拠略>)を交付してその内容を説明した。同資料には,実施月日の欄に「平成15年12月22日(月)~当面の間(併せて,助勤の経過を見ながら転勤についても検討を行っていく)」と記載されており,Eは,同資料に基づいて,今後「転勤についても検討する」との前提で,当面の措置として助勤を実施する旨を説明した。

その際,Eは,上記説明資料の記載内容の意味について説明を求められ,実施月日の「当面の間」とは,今回の助勤者については平成16年1月末までであり,その後の措置については決定していないが,助勤はあくまで当面の措置であること,検討している転勤については,現時点において実施時期は分からないが,助勤が終了する2月以降転勤による措置も十分あり得ることを説明した。さらに,括弧書きの意味内容については,「助勤の経過」とは助勤の解消に向けてを意味すること,「転勤についても検討」とは,釧路運輸車両所の現行での使命,役割を踏まえて,所内の年齢構成,業務熟練度,業務規模(行路問題),新規採用の配置,異動による配置,総合的な要員需給を総合的に検討することである旨説明した。

Eは,被告本社に戻った後,Hから,説明した内容を書面にしてファクシミリ送信してほしい旨の依頼を電話で受けたことから,「釧路運輸車両所への助勤説明に関するメモ」(<証拠略>)を自ら作成してファクシミリ送信した。同メモには,上記説明資料の括弧書きの意味内容について,上記口頭説明と同旨の内容が記載されている(<証拠略>,証人E)。

ウ この点,原告らは,被告がJR北海道労組には転勤を検討中である旨説明しながら,北労組に対しては3月末まで助勤で対応する旨の説明しかせず転勤の可能性についての説明をしなかった旨主張し,証人J,同H及び同Kの各供述中にはこれに副う供述部分がある。

しかしながら,Kの陳述書(<証拠略>),Hの陳述書(<証拠略>),証人J(33~34頁),同H(25頁)及び同K(21~23頁)によれば,同人らとしても,少なくとも平成16年3月の定期異動の際に転勤の可能性があること自体は認識していたというのである上,証人H及び同I(21~23頁)によれば,同人らは,甲19の「転勤についても検討」という文言から会社が転勤を考えていることは理解していたが,それに非常に不満があり,削除を要求したが受け入れられず,この趣旨についての説明文書(<証拠略>)においても転勤についての検討が詳細に記載されていることから,Iはこの記載についても不満であったというのであって,転勤について具体的に言及した上記甲19,49の記載内容に照らし,同人らの上記供述部分を採用することはできない。

なお,被告は,平成15年11月25日,JR北海道労組に対しても,助勤について北労組と同一内容を説明した(北労組への説明は当初25日に行う予定であったが,北労組側の都合で翌26日の説明となった。)(証人H31頁)。

エ 助勤の実施

札幌車掌所長のL(以下「L所長」という。)は,平成15年12月12日付けで,業務管理規程(<証拠略>)32条別表第7の4(6),(7)に基づき,その裁量によって,同月22日から平成16年1月末日までの釧路運輸車両所への助勤者5名(M,K,N,O,P)を選定して掲示した(<証拠略>)。助勤者の選定に当たっては,釧路運輸車両所で持つ車掌行路の約9割が釧路・札幌間の都市間特急列車であることを踏まえ,短期間の見習いで即戦力として1人乗務ができ,水準の高いサービス,経験,知識・技能を有している「A行路」の主任車掌(6,7等級。平成15年4月当時,札幌車掌所227名中A行路を担当する車掌は34名)から5名が選定され(<証拠略>),被選定者は全員異議なく助勤に応じた。なお,助勤者5名は,いずれも北労組に所属しており,K(以下「K」という。)は,北労組札幌車掌所分会委員長であった。

(ア) JR北海道労組の対応

札幌車掌所のJR北海道労組の掲示板に,同月15日,同日付けの「札幌車掌所分会情報」が掲示されたが,同書面には,「釧路への助勤及び転勤に毅然と対応することを確認」「検討されている転勤について,労使共同宣言,労働協約をしっかり結んでいるJR北海道労組としては,助勤及び転勤は当然組合員が納得したものでなければならない。」などと記載されていたところ(<証拠略>),同掲示物は,翌16日に撤去されたが,同月18日には,同月15日付けの「札幌車掌所分会情報」(<証拠略>)が再度掲示され,同書面では,「助勤及び転勤に毅然と対応することを確認」との部分が「今後,組合員の立場に立って分会として対応していくことを確認」と変更されていた(<証拠略>)。そのころ,同労働組合の組合員らの中には,「今回の助勤は転勤ありきなので,うちの組合からは誰も行かない。次の助勤もそちら(北労組)にまかせます。」(<証拠略>)とか,「JR北海道労組としては,助勤から転勤になる様子なので受けられない。」(<証拠略>)などと発言する者がいた。

このように,JR北海道労組は,札幌車掌所から釧路運輸車両所への転勤があり得ることを前提として,組合員の利益を第一に考えて対応する姿勢を鮮明にしていた。

(イ) 釧路運輸車両所における助勤者の受入れ状況

札幌車掌所のL所長及びQ副所長は,平成15年12月7日ないし22日,助勤者に対し,急な助勤であったことから,助勤者の家庭の事情を考慮して,年末年始の勤務配慮を含め被告において全面的に配慮する旨を説明した。ところが,同月22日に助勤者5名全員(以下「助勤者ら」という。)が釧路運輸車両所に赴任したところ,同運輸車両所の車掌科長R(以下「R科長」という。)から,年内の助勤は必要なかった旨の話があった上,見習養成期間についてJR北海道労組の分会から全行路に乗れるようにすべきだと言われているが,14日間程度の見習が必要と考えている旨の意向打診があった。これに対し,助勤者らが,助勤前にL所長から見習養成期間は短期になるとの説明を受けていた旨伝えると,同科長は,同月25日から30日までの短期間に限り,夜行列車行路,ワンマン補助係員行路について養成を行うと告げた。

R科長は,同月23日,助勤者らに対し,Q副所長から勤務指定について配慮して欲しい旨の連絡を受けているのでできる限り希望に沿うようにしたい旨を伝え,同月24日夕刻には,助勤者らのうちP,Mについては正月三が日全部を休日とし,残りの3名については1月1,2日を休日とし,同月3日を勤務日とする平成16年1月分の「列車乗務員勤務指定作成表」(<証拠略>,以下,同表を「勤務指定表」という。)を提示した上で,改めて正月三が日の勤務への協力を要請し,助勤者のNが同月2日についてこれに応じたところ,これに基づいて一部内容を変更した勤務指定表(<証拠略>)を作成した。ところが,同月25日になると,R科長から助勤者Kに対し,「助勤者は全員正月三が日の勤務に就いてもらうことになる。」「JR北海道労組の分会や分科会などを理解させることができず,外圧が強くてどうしようもない。」などと電話で説明があり,同月27日に,助勤者らのうち3名が正月三が日とも勤務し,他の2名は2日間勤務する内容の「勤務指定兼確定表」(<証拠略>)が作成,公表された。なお,釧路運輸車両所の車掌35名の1月の勤務状況は,正月三が日3連休の者が6名(元旦・二日の2連休も入れると11名)いるが,助勤者のMは12月30,31日と1月3,4日が,同Oは12月30,31日と1月5日が,同Pは12月31日と1月1日,5日が,同Nは12月29日ないし31日と1月5,6日が,同Kは12月30,31日と1月5,6日がそれぞれ休日となっており,同運輸車両所の車掌と比べて年末年始の休暇取得の点で格段の差があるとまでいうことはできない(<証拠略>)。

北労組は,助勤者らが正月三が日にも勤務することになるとの連絡を受けたことから,平成15年12月25日,被告に対して抗議を行うとともに是正を求め,翌26日には「申入書(釧路運輸車両所への助勤に関する申し入れ)」(<証拠略>)を提出して,事実経過を明らかにした上で早急に是正を図るとともに,被告側の見解を示すことを求めた。これに対して被告は,年末年始の勤務を配慮するとした点について助勤者らと被告との間に認識の相違があるとした上で,事実経過について調査するが,労働組合が勤務指定に介入するということがあってはならないと考えているとの意向を示した(<証拠略>)。

(ウ) 助勤者に対する嫌がらせ行動

平成15年12月26日ころ,釧路運輸車両所のJR北海道労組の掲示板に「札車(札幌車掌所)から助勤で来る人は全員北労組!」,「札車で北労組組合員に北労組役員が,その後転勤もありえるって事を隠しているって本当?」,「これが北労組の本質!」,「こんな組合員のことを考えない不幸にする組合なんていらない!」などと記載した「青年部情報」が掲示された(<証拠略>)。

同日,釧路運輸車両所の乗務員控室において,JR北海道労組の組合員5名が,約30分間にわたって,助勤者のNに対し,話合いと称して議論を始め,その際,同組合員から「北労組の情報で,JR総連を革マルと書いてるが,自分たちは革マルに見えるか。組合を変わらないか。」などの発言があった。

その後も,同月27日にはKに対して「北労組結成のアピールについて聞きたい。」「私は助勤に来なくてもいいと思っている。」などと,同月28日にはPに対して「北労組結成大会のアピール内容を見て,本当に組合員を守れると思っているのか。」などと,同月29日にはOに対して「北労組を脱退する気はないのか。」などという発言がJR北海道労組の組合員からあり,さらに,平成16年1月8日には,JR北海道労組の組合員が助勤者のNに対して「北労か,キタロウ。」と声を掛け,同日,助勤者のPに対しても「おまえ助勤者か。北労か。キタロウ。助勤じゃないぞ,転勤だぞ。」などと述べることがあった(<証拠略>)。

(エ) 助勤者受入れ状況に対する抗議と被告の対応

北労組は,平成15年12月27日,被告に対し,同月26日の助勤者Nに対するJR北海道労組の組合員による前記発言について,事態の早急な是正・指導を求め,また,助勤者のKは,同日,釧路運輸車両所のS所長に対して,同月28日には札幌車掌所のL所長に対して,それぞれNに対する上記言動及び現在においても同組合員が集団的な話し合いと称して事務所外においてKを待ちかまえている状況について説明し抗議した。

平成16年1月6日,北労組は,被告との団体交渉において,JR北海道労組の掲示物の記事内容,同組合員らの言動からすると,被告(運輸部)と同組合との間に,札幌車掌所から釧路運輸車両所への転勤に関する密約があるのではないかとの疑念があるとして,被告に回答を求めた(<証拠略>)。これに対して被告は,助勤者の勤務変更は被告が現場を指導したものであること,被告はJR北海道労組と転勤の約束はしていない旨回答した(<証拠略>)。

また,北労組は,前年度の年休取得数の実績が,札幌車掌所は約15日であるのに対し,釧路運輸車両所は約16日と1日多いことなどを指摘して助勤の必要性は認められないと指摘したところ,被告からの回答はなかった。

さらに,北労組は,平成16年1月9日,被告に対して,助勤者らから聞き取り調査した結果をとりまとめた書面(<証拠略>)を提示したところ,被告は,調査するとの意向を示し,同日付けで,被告運輸部管理課長は,現場長に対し,「職場管理の厳正について」との表題のもと,「昨年末には新組合が結成されたこと等に鑑み,会社施設内における組合活動にあっても,言うまでもなく施設管理の厳正の観点から会社の許可された範囲において行わなければならないことから,間違っても会社施設内において問題が発生していると誤解を受けることのないように施設管理の厳正を期されたい。」とする事務連絡文書を送付した(<証拠略>)。

北労組は,同月15日,被告に対し,<1>釧路運輸車両所での助勤者に対する差別,威圧,嫌がらせを早急に是正するとともに,この間の事象について被告の見解を明らかにすること,<2>被告とJR北海道労組との間で北労組の組合員のみを転勤の対象とする旨の約束があるかのように言われていることから,現在の助勤者の不安を解消するためにも,2月1日からの助勤の具体的な内容,日程,期間を早急に明らかにすること,<3>釧路運輸車両所の車掌要員の今後の推移を明らかにするとともに,繁忙,波動の要員需給に対処するため,同運輸車両所の定期行路の一部を期間限定の波動行路として札幌車掌所で乗務するなどの効率的な運用を図ることなどを申し入れた(<証拠略>)。これに対し,被告は,翌16日,北労組に対し,書面をもって,<1>については,そのようなことはないと信じているが,仮に本当のことであれば厳正に対処したいと考えており,そのような誤解を受けることのないように指導を徹底していること,<2>については,従前から転勤及びその実施時期について検討を行ってきており,いつ転勤があっても不自然ではないが,あくまで被告の責任で行うものであるから,間違っても組合との相談や約束をして行うものではないこと,<3>については,今後の特急のあり方,異常時の対応等総合的に考えて被告として判断していきたい旨回答した(<証拠略>)。

(オ) これに対し,北労組は,助勤者らが正月三が日に出勤させられた一方で,釧路運輸車両所車掌35名の1月の勤務状況は,正月三が日3連休が10名(元旦・二日の2連休も入れると15名),年休取得日数が81日,出勤予備日数が55日となっているのに助勤者を出した側の札幌車掌所においては出勤予備はまったくないことを指摘して,同運輸車両所が助勤を必要としていること自体が疑問であること,被告とJR北海道労組が一緒になって,必要のない助勤を出させた上で,助勤者に対して集団的・威圧的な嫌がらせをしている疑いが強いこと,会社は助勤者らに対する嫌がらせ行動の是正に向けた具体的指導の内容を明らかにしていないこと及び被告とJR北海道労組との間だけで札幌車掌所から釧路運輸車両所に北労組組合員を転勤させることを密約している疑いがあることなどを口頭で指摘した(<証拠略>)。

(カ) 助勤者らに対するJR北海道労組の組合員による上記のような行動は,平成16年1月8日を最後に行われていない(<証拠略>)。

(5)  転勤の実施

ア 本件転勤命令

被告は,助勤によっても釧路運輸車両所における欠員や年齢断層に関する根本的な問題は全く解決せず,加えて,同運輸車両所では,冬期期間の1月下旬からノロッコ号等の臨時列車が運行され,欠員が増大すること(<証拠略>),平成16年2月,4月,8月,10月に各1名の定年退職者が見込まれていたが,それぞれ退職前に“年休消化”を行うのが通例となっており,2月と4月に退職する2名の車掌が同年2月に年休消化に入ることが想定されていたこと,同年2月以降も助勤を実施した場合は,助勤者が交替する度に,同運輸車両所における見習教育が必要となることから,できるだけ早期に転勤による恒久対策を実施したいと考えた。

そこで,被告は,平成15年12月22日から実施していた助勤が,平成16年1月末に区切りとなることから,同年2月1日を期して,札幌車掌所所属の車掌5名を釧路運輸車両所に転勤させることを決定した(<証拠・人証略>)。

イ 転勤者の人選

被告が定めた転勤者の選定基準は,次の<1>ないし<3>のとおりであって,すべての基準を満たす者の中から選定することとした。

<1> 30歳代及び40歳代であること(ただし,5年後に年齢が50歳以上となる社員は除く。)

<2> 5,6等級であること(ただし,今年度の5等級への昇格予定者を含む。)

<3> 就学中の子供がいないこと,持ち家がないこと,独身者であることの条件にすべて該当すること

上記の基準を定めた理由は,<1>については,年齢断層改善の観点から,釧路運輸車両所では30歳から40歳代に断層があり,これを補充する必要があるが,5年後には50歳以上が3名いることから,5年後に50歳以上となっている者を除くこととした。<2>については,4等級の昇職試験により指導的人材として登用され,その中でも経験豊富な者であることによる。<3>については,子どもの転校等により家庭生活に支障が生じないように,また,転居に伴い家庭生活に支障が生じないように,さらに,転居しやすいように,個人的事情や生活設計等を考慮したことによるものである(<証拠略>)。

そして,上記の選定基準にしたがって選定すると,<1>の基準を満たす者が51名,<2>の基準を満たす者が128名いるが,両方の基準を満たす者は34名であり,その中から,上記<3>の条件をすべて満たす者は,原告ら3名とF及びGの5名のみであった(<証拠略>。なお,原告X1及び原告X3は本件転勤命令時において45歳に達しているが,<1>の括弧内については,平成15年度初めの年齢を基準にしているものと推認される。)。

就業規則28条1項,2項には,被告は,業務上の必要がある場合は,社員に転勤を命ずることができ,社員は,正当な理由がなければこれを拒むことはできない旨の規定があり,規定上は転勤命令を発令するに当たって社員本人の同意を得ることは必要とされていない。そして,これまでも,車掌所の統廃合等業務の必要性がある場合には,当該社員の同意のないまま札幌車掌所へ転勤する例はこれまでにも多数存在していた(<証拠略>,証人K)。

被告は,平成16年2月1日付けで本件転勤命令を発令するに当たり,就業規則29条に基づき,原告ら3名を含む転勤対象者5名に対し,同年1月22日から24日にかけて事前通知を行った(弁論の全趣旨)。

ウ 簡易苦情処理

上記事前通知に対し,原告ら及びFは,同年1月24日までに,本件協約45条に基づいて,転勤を取り止めて欲しい旨の簡易苦情処理の申出を行った。

苦情処理の理由として,原告ら及びFは,釧路運輸車両所における助勤者らに対するJR北海道労組組合員の嫌がらせがあったことから,トラブルの発生が予想される職場へ転勤するのが不安であることを挙げているほか,個別の事情として,原告X1は,高齢の両親が野幌で暮らしており,長男である同原告が同居して面倒を見ようと考えていたことを,原告X2は,離婚した妻との間の子が不安定で自分が面倒を見ていることを,原告X3は,母親が余市町で一人暮らしをしていることから生活の本拠を札幌と考えていたことを,Fは,弟がアルコール中毒で治療を受けていることから,認知症で入院している母親の面倒を見るのは自分しかいないことを簡易苦情申告票に記載していた(<証拠略>)。

会社側委員2名と組合側委員2名で構成される簡易苦情処理会議は,原告らの申出を受理し,平成16年1月26日,午後1時から午後3時10分までにかけて審議し,さらにFについては,本人から直接事情を聴取する必要があると判断して,同日午後6時からFの出席を求めた上で,2回目の会議を開催し,審議を続行した。この中でFは,母親の見舞いについて,月1回程度自分の休みに合わせて行く程度で,弟のアルコール依存症についてはよく分からず,弟は病院退院後一人で生活保護を受けて生活している旨説明した(<証拠略>)。

なお,被告のT副部長は,北労組の中央執行委員長であるJに対して,Fの家庭状況が大変であればその旨を積極的に述べて欲しい,場合により人選のやり直しもありうる旨説明したが,北労組の役員は,Fに対して上記の意向を伝えなかった(<証拠略>,証人J21~24頁,証人H33~35頁)。原告3名についても,第1回簡易苦情処理会議において労使双方2名ずつの委員が出席していたが,組合側委員からは何ら積極的な発言はなかった。

簡易苦情処理手続においては,申告を受けた苦情の内容が簡易苦情処理の対象として適当であると認められる場合を除き,これを却下するものとされている(本件協約51条)ところ,同会議は,平成16年1月27日,審議の結果,原告ら及びFから申告のあった苦情の内容が,簡易苦情処理の対象として適当であるとは認められないと判断してこれを却下した(<証拠略>)。

エ なお,本件転勤命令の結果,札幌車掌所における組合員数は,北労組117名,JR北海道労組119名となって,JR北海道労組が再び同車掌所における最大組織となった。また,原告らを含む5名は,平成16年2月1日から釧路運輸車両所での勤務を始めたが,他の社員から嫌がらせを受けるなどのトラブルは生じていない(原告X1,原告X3)。

(6)  労働組合の状況

ア 鉄産労は,被告が発足するに際し,被告との間で,労使協調して会社の発展と従業員の利益の実現を目指すとの意向を共同して表明する趣旨で,「労使共同宣言」(<証拠略>)を締結し,さらに,「労使間の取扱いに関する協約」(<証拠略>)を締結していた。これに対し,国労は,被告の発足時から,いわゆるJR不採用事件を抱えており,被告との間で労働協約は締結されなかった。

イ JR北海道労組は,平成10年ころから,「国労解体・鉄産労一掃」を,平成13年ころからは「平和共存否定」などの運動方針を掲げるようになった(<証拠略>)。そこで,鉄産労は,平成13年11月に開催した全機関代表者会議に「職場の民主化促進」を提起し(<証拠略>),平成14年9月の第18回定期大会において運動方針として掲げた。

ウ 被告は,鉄産労結成以来,鉄産労の組合大会への被告代表者・役員の出席と来賓挨拶を行ってきたが,第18回大会以降は欠席(辞退)するようになり,鉄産労の組合事務所で行われていた,鉄産労役員と被告代表者・役員との新年顔合わせも,平成15年からはなくなった。また,被告は,鉄産労が毎年組合員を集め,被告代表者・役員等を来賓として招いて行っていた「新年交礼会」にも,平成15年から欠席(辞退)するようになった(<証拠・人証略>)。

なお,平成16年に開催されたJR北海道労組の第19回定期大会においては,被告代表者が出席して祝辞を述べている(<証拠略>)。

エ 北労組は,JR北海道労組に対抗する多数派の組合を目指して平成15年10月26日に結成された。北労組は,結成後直ちに,被告に対して,労働協約の早期締結を求めた(<証拠略>,証人J)。

その後,同年12月1日の団体交渉において,両者間で「H15.12.1労働協約締結に伴う議事録確認」(<証拠略>)がなされ,これに基づき,経営協議会に関する事項を含まない点を除いて,鉄産労と被告との間に締結されていたものと同一内容の「労使間の取扱いに関する協約」(本件協約,甲13)が同日付けで締結されたが,「労働条件に関する協約」及び「労使共同宣言」はいまだに締結されていない(<証拠略>)。

オ JR北海道労組は,北労組と被告との関係について,札幌運転所分会執行委員長名で「労働協約も労使共同宣言も結べず,正常な労使関係そのものが成立していない状況です。到底組合員を守ることなど出来ない組織が「新労組」の姿です。」などと記載した教宣紙(<証拠略>)を作成し,その機関誌「ひびき」の年頭挨拶において,中央執行委員長名で「賢明な会社は(北労組を)「経営のパートナー」とは認めませんでした。労働協約の最も重要な「労働条件に関する協約」も締結されておりません。「経営に関する労使協議の場」も拒否されております。もちろん,労使協力関係を確認し合う「労使共同宣言」も失効,破棄されております。労使の唯一のパートナーは私たちJR北海道労組のみとなりました。」などと述べている(<証拠略>)。

カ これに対し,北労組は,機関誌「JR北労組」において,「組織拡大に全力を挙げることを確認!」「北鉄労の妨害をはねのけ労働協約締結!」とし(<証拠略>),「JR北海道労働組合結成アピール」と題するビラで,「北鉄労が多数のまま推移するなかで,彼らの独善的・排他的体質によって,昇職・昇格など組合所属の違いによる「差別」「利益誘導」が続くとともに,他の組合・組合員の存在を認めない「平和共存否定」という指導方針によって,職場は殺伐とし,社員同士の絆が薄れ安全問題すら危惧されている。」などと記載し(<証拠略>),北労組広報部作成の「JR北労組FAXニュース」に「苗穂工場で2月7日,北鉄労から1名の仲間がJR北労組に加入しました。」(<証拠略>)などと記載するなど,被告の組合間の対立は激しく,双方の組織拡大運動,組合員勧誘活動も激しくなっていた。

2  本件転勤命令が権利濫用に該当するか(争点(1))について

(1)  使用者は,業務上の必要に応じ,その裁量によって労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが,転勤,特に転居を伴う転勤は,一般に,労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えるものであるから,使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく,これを濫用することの許されないことはいうまでもないところ,当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても,当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等,特段の事情の存する場合でない限りは,当該転勤命令は権利の濫用になるものではなく,また,その業務上の必要性については,労働力の適正配置,業務の能率増進,業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは,業務上の必要性の存在を肯定すべきであると解するのが相当である(前記最高裁昭和61年7月14日第二小法廷判決)。

(2)  業務上の必要性

ア 上記1で認定した事実,特に,釧路運輸車両所の要員数は36名であるところ,同運輸車両所では平成15年度に5名の定年退職が(さらに平成16年度ないし平成19年度には17名の定年退職が)予定されており,病気により長期間勤務困難な車掌を除くと5名の不足が見込まれ,欠員補充の具体的な必要性があったこと,また,同運輸車両所では経験豊かで能力もある中堅層の車掌が極端に少ないという深刻な年齢断層問題が存在し,その解消の必要性もあったこと,欠員補充の対策としていったんは本件行路持ち替え施策が検討されたものの,同運輸車両所の機能維持等の観点から問題がある上,新規採用や転職,助勤によっては年齢断層の解消につながらず,これらの要請を満たした抜本的な対策として転勤という結論に至ったことが認められ,以上の経緯に照らすと,同運輸車両所への転勤が必要であるとした被告の人事政策上の判断には合理性があるということができる。

これに対し,原告らは,釧路運輸車両所には要員不足は生じておらず,仮に,欠員対策が必要であるとしても,被告主張の年齢断層の解消は同運輸車両所に限った問題ではないから真の理由たり得ず,本件行路持ち替え施策の実施や助勤その他の対策によることが可能である旨主張するが,上記1で認定したとおり,同運輸車両所には要員不足が認められるから,原告らの主張にはその前提に誤りがあり,これを採用することはできない。また,経験豊かで能力もある中堅層の存在は,組織の機能維持のみならず,後進の育成,能力向上の観点からも必要があるというべきであるから(この点は,鉄産労が平成15年2月に被告に対して技術継承を考慮した要員の配置求(ママ)めていたこと(<証拠略>)からも裏付けられる。),年齢断層の解消の必要性を踏まえて転勤が必要であるとした被告の判断も合理的なものということができ,その意味でも原告らの上記主張を採用することはできない。

イ 次に,転勤者の人選過程等についてみるに,上記1で認定したとおり,札幌車掌所は,最大の車掌所として被告の過半数の車掌が配置されている上,年齢断層の問題があるにしても,ある程度年齢構成が平準化していて,中堅層の車掌もそれなりの人数が確保されており,要員需給上比較的余裕がある札幌車掌所から5名の転勤者を選定した被告の判断にも合理性があるといえる。

また,かかる釧路運輸車両所における年齢断層の解消を踏まえた欠員補充の必要性に照らすと,被告が転勤者の選定基準として,30歳代及び40歳代で,かつ,主任車掌である6等級社員及び指導職である4等級・5等級の社員を一応の対象としたことも首肯できる上,個人的事情,生活設計等を考慮する要素として就学児童の有無,持ち家の有無,配偶者の有無を検討している点も,一般的な考慮要素として相応の合理性があると評価することができる。そして,転勤対象者の選定過程において,上記選定基準と無関係に恣意的に選定したことを窺わせるような事情も見当たらないことなどからすると,本件転勤命令は,業務上の必要に基づき,合理的に選定されたものと認められる。

なお,原告らは,対象者からの個別の意向聴取や労働組合との協議が必要であるなどとも主張するが,そのような手続が行われなかったからといって,本件転勤命令が無効となるものでないことは明らかというべきである。

ウ よって,本件転勤命令には業務上の必要性があると認められる。

(3)  不当な動機・目的の有無

原告らは,被告が,札幌車掌所において車掌の過半数を占めていた北労組の組合員数の過半数割れを目的として,北労組に所属する原告らを転勤させた旨主張するところ,KやH作成の陳述書(<証拠略>)中にはこれに副う供述記載があり,本件転勤命令の結果,札幌車掌所の最大の労働組合がわずかの差で北労組からJR北海道労組に代わったこと自体は事実であるものの,被告は,平成15年6月26日に,本件転勤命令の前提となる本件行路持ち替え施策を再検討し,鉄産労に対して延期の連絡をしているのであって,同年10月26日に北労組が結成される前の同月15日には既に本件行路持ち替え施策の中止が決定され,各組合にその旨説明されており,その時点で,札幌車掌所における北労組構成員の人数氏名等は固まっておらず,同組合が札幌車掌所の過半数を占めるかどうかなどということは不明な状況であったことからすると(証人J19頁,同I18頁,同K20頁),被告が札幌車掌所における北労組の過半数割れを目的として転勤を画策するなどということはおよそ考えられないというべきである。

また,原告らは,本件転勤命令が,転勤先の釧路運輸車両所においてJR北海道労組により原告らに対する脱退勧奨の機会を与える意図に基づくものである旨主張するが,被告において各組合の組織拡大運動・組合員勧誘活動の激しさが増し,各組合間の対立が生じていたという当時の労働組合を取り巻く状況を踏まえても,被告は,平成16年1月7日に総務部長を通じてJR北海道労組委員長に対し,そのような行為がないようにするよう申し入れ(<証拠略>),現場長に対しても職場規律を維持するように通達している(<証拠略>)こと,北労組の申入れに対して,助勤者に対する嫌がらせ等が事実であれば厳正に対処し,指導を徹底することを被告が明言していること,実際に,同月8日を最後に助勤者らに対する嫌がらせ行動は起こっていないこと,同年2月1日の本件転勤命令実施後においてもトラブルは一切生じていないことからすると,転勤者を脱退勧奨させる機会を与える意図が被告にあったとは認め難いというべきである。

なお,助勤者5名全員が北労組の組合員であったという点は,札幌車掌所における車掌の組合員数の比率に照らすと,いささか不自然な感がないではなく,助勤・転勤に対するJR北海道労組の抵抗の強さを窺わせる一事情と見る余地もないではないが,だからといって,本件転勤命令が同労働組合と被告との間の密約によるものであると結論づけるのは余りに唐突で論理の飛躍があるというべきであり,助勤の必要性についての労働組合に対する被告の説明ぶりに差がない上,本件転勤命令の対象者の選定基準,選定過程に恣意的事情の介在を窺うことができないことなどをも併せ考慮すると,本件転勤命令が何らかの不当な動機・目的によってされたものであると認めるに足りないというほかはない。

(4)  本件転勤命令によって原告らが被る不利益の有無について

ア 原告X1

原告X1は,これまでときおり訪問して安心させてきた野幌在住の両親宅への訪問が著しく困難になるなどと主張しているが,簡易苦情処理を申し出るまで,被告に対してそのような申告がなされたことはなく,簡易苦情申告票にもときおり両親宅を訪問していた旨は記載されておらず(<証拠略>),その本人尋問においても,両親には病気がなく,いずれ片親になったら同居したいと供述しているに過ぎず,具体的にいつから同居するというような話もないことに照らすと,それほど切迫したものであるということはできない。

イ 原告X2

原告X2は,結婚を予定している札幌市内の女性と面会することが著しく困難になる旨主張しているが,簡易苦情申告票にすら,そのような事実は記載されておらず(<証拠略>),組合側委員にその旨述べたこともないというのであるから(原告X26頁),転勤を妨げるべき切迫した事情があるとはいえない。なお,同原告は,本件転勤命令による釧路への転勤後の平成16年2月21日に上記女性との婚姻を届け出ている(原告X2)。

ウ 原告X3

原告X3は,余市町に単身で住む母の様子を見に行かなければならないと主張しているが,被告に対してそのような申告がなされたことはなく,簡易苦情申告票にもそのような記載は一切なく,余市町に一人で暮らしている母のことを考え,生活の拠点を札幌でと考えていたと申し立てているだけで(<証拠略>),その本人尋問においても,母親が高血圧のため通院していると述べるに過ぎず,切迫した事情があるということはできない。

エ また,原告らは,JR北海道労組の組合員が,助勤者らに対して行った嫌がらせ行動を転勤者に対しても展開し続けることは必至であるから,原告らに重大な肉体的・精神的な苦痛を及ぼすおそれがあると主張しているが,被告は,前述のとおり,従前の経緯においても,北労組の申し入れに対して,助勤者に対する嫌がらせ等が事実であれば厳正に対処し,被告は指導を徹底することを明言していること,北労組による抗議及び被告の指導により,平成16年1月8日を最終にJR北海道労組の組合員による嫌がらせ行動は起きておらず,同年2月1日の本件転勤命令実施後も紛争等は一切生じていないことからすると,他の従業員による嫌がらせ行動等によって,原告らに重大な肉体的・精神的な苦痛を及ぼすおそれがあると認めるに足りない。

オ さらに,給与の減額を指摘する点については,原告らの主張する給与の減額が生じるのは,都市手当,超過勤務手当のほか,住宅補給金,通勤手当の額の変動によるものであるところ(<証拠略>),これらはいずれも賃金規程(<証拠略>)に基づき支給要件を備えた者に対して支給されるものであって,既に支給されているこれらの手当額が既得権として原告らに保障されるものでないことは明らかであるから,支給要件がなくなれば支給されなくなるのは言わば当然であり,また,釧路への転勤につき業務上の必要性が認められることは前記説示のとおりであるから,これにより都市手当の支給がなくなることはやむを得ないところであって,いずれにしても原告らに格別不利益を与えるものということはできない。なお,原告らについて転勤前と転勤後の給与支給実績を比較した表である乙57によれば,本件転勤命令発令前(平成15年3月から平成16年1月まで)と発令後(平成16年3月から平成17年1月まで)の各11か月間の給与支給実績を比較すると,原告X1については18万8332円,原告X2については6万1402円の増額となっていること,他方,原告X3については5等級に昇格したにもかかわらず21万9846円の減額となっているが,その内訳を見ると,住宅補給金及び通勤手当分合計25万3797円の減額が大きいところ,住宅手当については同原告が被告の寮に入寮することになったため支給されなくなったもので(<人証略>),これらの手当はいずれも実費を補填する機能を有するものであり,その出費の減少を考慮すれば実質的な減収はないものというべきであるし,その他の手当(都市手当等)についても,上記のとおり一定の支給要件を備えた者にのみ支給されるものであって,特に,原告X3に対して,ことさらに不利益を与えるような事情があることを窺うことはできない。

カ 以上のアないしオで検討したところによれば,本件転勤命令により,原告らに対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせることになるものということはできない。

(5)  以上によれば,本件転勤命令には,業務上の必要性が認められるところ,同命令を発令するに際して被告に不当な動機・目的が存することを窺うことはできず,また,原告らに対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものということもできないなど,特段の事情があることを認めるに足りないというべきであるから,本件転勤命令が権利の濫用になるものではないというべきである。よって,争点(1)についての原告らの主張は理由がない。

3  本件転勤命令が不当労働行為に該当するか(争点(2))について

前記1で認定したとおり,北労組の結成に伴い,被告の労働組合間における組織拡大運動,組合員勧誘活動が激化していった状況下にあり,また,本件転勤命令によって北労組が札幌車掌所の最大組合でなくなる一方で,釧路運輸車両所には北労組に所属する車掌の組合員がいなかったという点を踏まえても,本件転勤命令には業務上の必要性が認められる上,転勤者の人選の基準には合理性があり,人選の過程において恣意が介在したような事情を窺うことはできず,同運輸車両所に転勤した原告らに対し北労組の脱退を求めるような動きがないことからすると,原告らが北労組の組合員であることを理由に被告が原告らに対して不利益な取扱いをしたものということはできない。

また,上記2(3)で認定したとおり,被告は,総務部長を通じてのJR北海道労組委員長に対する申入れや,現場長に対する職場規律維持の通達を発していること,北労組の申入れに対し,助勤者に対する嫌がらせ等があった場合の厳正な対処,指導の徹底を明言していること,実際に,同月8日を最後に助勤者らに対する嫌がらせ行動が起こっていないことに照らすと,原告らの主張する助勤者らに対する嫌がらせ行為を被告が黙認していたような事情は窺われず,しかも,本件転勤実施後に釧路運輸車両所において原告らに対し北労組からの脱退を求めるような動きが見られないことなどからすると,被告が北労組からの脱退,北労組への加入を警告することを目的として北労組の活動に支配介入したような事情があると認めるに足りない。

よって,本件転勤命令は労働組合法7条1号又は3号所定の不当労働行為に該当しないから,この点に関する原告らの争点(2)の主張も理由がない。

第4結論

以上に認定,説示したところによれば,原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥田正昭 裁判官 橋本修 裁判官 立野みすず)

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