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札幌地方裁判所 平成16年(行ウ)7号 判決 2004年12月22日

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

原告が平成16年2月9日にした北海道情報公開条例9条に基づく別紙文書目録記載の公文書の開示請求につき,被告が平成16年2月23日にした公文書の存否を明らかにしない決定処分を取り消す。

第2事案の概要

本件は,原告が,被告に対し,北海道情報公開条例に基づき,北海道警察の元警部A(以下「A」という。)が同人の捜査協力者であるB(以下「B」という。)及びC(以下「C」という。)に支払った謝礼に関する一切の書類の開示請求をしたところ,被告が同文書の存否を明らかにしない決定処分をしたため,原告が同処分の取消しを求めたものである。

1  前提事実(証拠により認定した事実は括弧内に掲記した。)

(1)  当事者

原告は,札幌弁護士会所属の弁護士である。

被告は,北海道警察本部長であり,北海道情報公開条例(以下「本件条例」という。)2条1項の実施機関である(乙1)。

(2)  本件条例のうち,本件に関係する規定は,次のとおりである(乙1)。

ア 目的

この条例は,公文書の開示を請求する権利を明らかにするとともに,公文書の開示及び情報提供の推進に関し必要な事項を定めることにより,開かれた道政を一層推進し,もって地方自治の本旨に即した道政の発展に寄与することを目的とする(1条)。

イ 解釈及び運用

実施機関は,この条例の解釈及び運用に当たっては,公文書の開示を請求する権利を十分尊重するものとする。この場合において,実施機関は,個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない(3条1項)。

ウ 公文書の開示を請求する権利

何人も,実施機関に対して,公文書の開示を請求することができる(9条)。

エ 実施機関の開示義務

実施機関(公安委員会及び警察本部長に限る。)は,開示請求があったときは,開示請求に係る公文書に,次に掲げる情報のいずれかが記録されている場合を除き,当該公文書に係る公文書の開示をしなければならない。

(ア) 個人の思想,宗教,身体的特徴,健康状態,家族構成,学歴,職歴,住所,所属団体,財産,所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,特定の個人が識別され得るもののうち,通常他人に知られたくないと認められるもの(10条2項1号,同条1項1号)

(イ) 次に掲げる情報等であって,開示することにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障が生ずるおそれがあると公安委員会又は警察本部長が認めることにつき相当の理由がある情報(10条2項2号)。

a 現在捜査中の事件に関する情報

b 捜査の具体的な手法,技術又は体制に関する情報

c 犯罪の予防又は鎮圧の手法,技術又は体制に関する情報

d 被疑者又は被告人の留置又は勾留に関する施設の保安に関する情報

e 犯罪の被害者若しくは参考人又は犯罪に関する情報を提供した者が特定される情報

(ウ) 上記(イ)に掲げるもののほか,開示することにより,人の生命,身体,財産又は社会的な地位の保護に支障が生ずるおそれのある情報(10条2項3号)。

オ 存否応答拒否条項

実施機関は,開示請求に係る公文書が存在しているかどうかを答えるだけで,特定の個人の生命,身体若しくは名誉が侵害されると認められる場合又は犯罪の予防,捜査等に支障が生ずると認められる場合に限り,当該公文書の存否を明らかにしないことができる(12条)。

(3)  本件訴訟に至る経緯

ア 原告は,平成16年2月9日,被告に対し,本件条例9条に基づき,Aが同人の捜査協力者であるB及びCに支払った謝礼に関する一切の書類(以下「本件文書」という。)の開示を請求をした。

イ 被告は,平成16年2月23日,本件文書が存在しているかどうかを答えるだけで,特定の個人の名誉が侵害されると認められる場合及び犯罪の捜査等に支障が生ずると認められる場合に該当するとして,本件条例12条に基づき,本件文書の存否を明らかにしない決定処分(以下「本件処分」という。)をした。

ウ 原告は,平成16年3月12日,被告を相手方として,本件処分の取消しを求めて本件訴訟を提起した。

(4)  捜査費及び本件文書

ア 捜査費の性格及び使途

捜査費とは,犯罪の捜査等に従事する職員の活動のための諸経費及び捜査等に関する情報提供者,協力者等に対する諸経費をその使途とするものであり,経費の性質上,特に緊急を要し,正規の支出手続を経ては事務に支障を来し,又は秘密を要するため,通常の支出手続を経ることができないものを対象として,現金経理により執行している。捜査費の具体的な使途は,捜査本部等を設置したことにより必要となる施設,寝具及び什器類の臨時借上費などの経費並びに捜査員の活動に伴い必要となる捜査協力者,情報提供者に対する謝礼及び聞き込み,張り込み,追尾等の際に必要となる諸経費などの経費とされている(甲9)。

イ 本件文書

本件口頭弁論終結の時点で,取消請求の対象となっている本件文書は,捜査費支出伺,支払精算書及び支払報告書の3種類の文書であり,捜査費の証拠書類等の一部として証明責任者によって保管されるという特別の取扱いが認められているものである(甲9)。

(ア) 捜査費支出伺

取扱者(捜査費を執行する本部の担当課長及び隊長並びに署長)等が捜査員等に捜査費を交付する際に作成する書類であって,書式は別紙1のとおりである。

(イ) 支払精算書

捜査員が取扱者等に自らが執行した捜査費の精算をするために提出す る書類であって,書式は別紙2のとおりである。

(ウ) 支払報告書

捜査諸雑費以外で領収書を徴取することができなかった場合に支払精 算書に添付する書類であって,書式は別紙3のとおりである。

2  争点

本件文書の存否を応答することが,本件条例12条に規定する「存在しているかどうかを答えるだけで,特定の個人の生命,身体若しくは名誉が侵害されると認められる場合(以下「本件条例12条前段」という。)又は犯罪の予防,捜査等に支障が生ずると認められる場合(以下「本件条例12条後段」という。)」に該当するか否か。

(被告の主張)

(1) 本件文書の本件条例12条前段該当性について

ア 特定の個人が,特定の事件の捜査に関して,特定の捜査員に協力したか否か又は特定の捜査員から捜査協力の謝礼を受け取ったか否かといった情報は,個人のプライバシー及び名誉に関する情報であるため,本件文書の存否を答えるだけで,特定の個人が,特定の事件の捜査に関して,特定の捜査員の協力者であったか否か,さらには,捜査協力の謝礼を受け取ったか否かを答えることと同様の結果となり,特定の個人のプライバシー及び名誉が侵害される。

イ 本件条例12条前段は,その文言上,「特定の個人の生命,身体若しくは名誉が侵害されると認められる」情報について,特定個人の犯歴情報に限定して解釈すべきものではない。

ウ また,捜査員の刑事公判廷における供述又は検察審査会の議決において,特定の個人が当該捜査員の捜査協力者である事実及び特定の捜査員から捜査協力の謝礼を受け取った事実が明らかにされていたとしても,それによって特定の個人のプライバシー及び名誉に関するすべての事実が,広く一般人に公表されたという証拠は存しない以上,本件文書の存否を答えただけで,特定の個人のプライバシー及び名誉が侵害されるという結論に影響はない。

エ なお,捜査協力者が国外に逃亡して所在不明であり,又は既に死亡している場合であっても,そのプライバシー及び名誉は尊重されるべきであるから,本件条例12条の解釈上,別異に扱うことはできない。

オ したがって,本件文書の存否を答えるだけで,特定の個人の生命,身体若しくは名誉を侵害すると認められる。

(2) 本件文書の本件条例12条後段該当性について

ア 特定の捜査員が,特定の事件の捜査に関して,特定の個人から協力を得たか否か又は特定の個人に捜査協力の謝礼を支払ったか否かといった情報は,警察の具体的な捜査手法に関する情報であるため,本件文書の存否を答えるだけで,警察の具体的な捜査手法を明らかにすることと同様の結果となり,犯罪の捜査等に支障が生ずる。

イ 本件条例12条後段に規定する「犯罪の予防,捜査等に支障が生ずると認められる」情報か否かは,裁量判断を要するものであって,原告が主張するような一義的,限定的な解釈をしなければならないものではない。

ウ また,被疑者側に捜査協力の事実が発覚した場合,犯罪集団からの報復等捜査協力者の生命,身体等に危害が及ぶおそれがあり,そのため,大多数の捜査協力者は,自己の生命,身体等に危害が及ぶことを危惧して,自らが捜査協力者であることを秘匿することを求めている。したがって,本件文書の存在を認めるとすれば,捜査協力者の氏名,住所等が明らかとなり,捜査協力者との信頼関係は崩壊し,以後の捜査協力を得られなくなり,犯罪の捜査等にも重大な支障が生ずる結果となる。

エ したがって,本件文書の存否を答えるだけで,犯罪の捜査等に支障が生ずると認められる。

(原告の主張)

(1) 本件文書の本件条例12条前段該当性について

ア 本件条例12条前段に規定する「特定の個人の生命,身体若しくは名誉が侵害されると認められる」情報とは,特定の個人の犯歴情報に限定して解釈されるべきである。

イ 特定の個人が,特定の事件の捜査に関して,特定の捜査員に協力したか否か又は特定の捜査員から捜査協力の謝礼を受け取ったか否かといった情報は,人の人格価値を左右する情報ではないから,本件文書の存否を答えたとしても,特定の個人の人格に対する社会的評価が低下することはなく,特定の個人の名誉が侵害されることにはならない。

ウ また,本件では,捜査協力者であるBが国外に逃亡して所在不明であり,Cは既に死亡していること並びに捜査員の刑事公判廷における供述又は検察審査会の議決において,B及びCが当該捜査員の捜査協力者であり,捜査協力の謝礼を受け取った事実が明らかにされていることからすれば,当該捜査協力者のプライバシー及び名誉は保護に値しないと解すべきである。

エ したがって,本件文書の存否を答えるだけで,BやCの生命,身体若しくは名誉を侵害するとは認められないのであるから,このような個別の事情を前提に本件請求を判断すべきである。

(2) 本件文書の本件条例12条後段該当性について

ア 本件条例12条後段に規定する「犯罪の予防,捜査等に支障が生ずると認められる」情報とは,内偵捜査の情報又はこれに準ずる情報,すなわち文書の存否を応答するだけで特定の犯罪を助長し又は特定の捜査活動を妨害する具体的な結果が発生する情報に限定して解釈されるべきである。

イ 本件文書は,捜査費に関する証拠書類であり,警察の具体的な捜査方法に関する情報は記載されていないから,本件文書の存否を答えたとしても,警察の具体的な捜査手法を明らかにすることにはならない。

ウ また,本件では,Bが国外に逃亡して所在不明であり,Cは既に死亡していること並びに捜査員の刑事公判廷における供述又は検察審査会の議決において,B及びCが当該捜査員の捜査協力者であり,捜査協力の謝礼を受け取った事実が明らかにされていること等からすれば,本件文書の存否を答えたとしても,当該捜査協力者との信頼関係が崩壊して,以後の捜査協力が得られなくなるといった事情もない。

エ したがって,本件文書の存否を答えるだけで,犯罪の予防,捜査等に支障が生ずるとは認められない。

第3当裁判所の判断

1  本件文書の記載事項

証拠(甲9)によれば,本件文書のうち捜査費支出伺は,取扱者等が捜査員等に捜査費を交付する際に作成する書類であり,作成年月日,金額,捜査員の官職及び氏名,支出事由並びに交付年月日等が記載されていること,支払精算書は,捜査員が取扱者等に自ら執行した捜査費の精算をするために提出する書類であり,作成年月日,既受領額,支払額,差引過不足額,支払年月日,支払事由及び金額等が記載されていること,支払報告書は,捜査諸雑費以外で領収書を徴取することができなかった場合に支払精算書に添付する書類であり,作成年月日,捜査員の官職及び氏名,支払を受けた者の住所及び氏名,支払額,現金を支払った日時及び場所等,現金を支払った理由及び状況,領収書を徴取することができなかった理由及び状況並びに添付書類の有無等が記載されていることが,それぞれ認められる。

2  本件条例12条の趣旨

本件条例12条の趣旨は,開示請求に対して諾否の決定を行うには,開示請求に係る公文書の存否を明らかにした上で決定するのが原則であるところ,非開示情報の記載された公文書の中には当該公文書の存否を明らかにするだけで,非開示情報を開示した場合と同様に,非開示情報の規定により保護される利益が害される結果となるものが存在することから,当該公文書の存否を明らかにしないで,開示請求を拒否できるとしたものと解される。したがって,本件条例12条の該当性については,当該公文書の存否を明らかにするだけで,非開示情報の規定により保護される利益が非開示情報を開示した場合と同様に害されるか否かという観点から検討すべきものと解するのが相当である。

3  本件文書の本件条例12条前段該当性について

(1)  本件条例12条前段を解釈するに,同条に規定する「開示請求に係る公文書が存在しているかどうかを答えるだけで,特定の個人の生命,身体若しくは名誉が侵害されると認められる場合」とは,特定の個人に係る特定の疾病に関する公文書の開示請求のように,当該公文書の存在を認めて非開示決定をすることによって,当該個人が特定の疾病にり患していることが明らかになる場合など,公文書の存在を認めただけで,特定の個人が識別されうる情報のうち通常他人に知られたくない情報が明らかとなり,個人のプライバシーが侵害されるような場合をいうものと解するのが相当である。

この点,原告は,本件条例12条前段に規定する「特定の個人の生命,身体若しくは名誉が侵害されると認められる」情報について,特定個人の犯歴情報に限定して解釈すべきであると主張するが,本件条例に定める文言につき独自の見解に基づき限定を加えるものであって,採用できない。

(2)  前記1に照らせば,本件文書は,捜査費に関するものであるところ,B及びCが,特定の事件の捜査に関して,特定の捜査員に協力し,謝礼を受け取った事実及び当該捜査協力者であるBやCの氏名,住所等の個人識別情報が記載されていると推認されるから,本件文書の存在を認めることによって,BやCの氏名,住所等の情報が明らかになると考えられる。ところで,被疑者側に捜査協力の事実が発覚した場合,捜査協力者の生命,身体等に危害が及ぶおそれがあるため,大多数の捜査協力者が,自己の生命,身体等に危害が及ぶことを危惧して,自らが捜査協力者である事実を秘匿することを求めていることは,一般に想定されるところである。そうすると,特定の個人が,特定の事件の捜査に関して,特定の捜査員に協力したか否か又は特定の捜査員から捜査協力の謝礼を受け取ったか否かといった情報は,通常他人に知られたくない情報と認められるから,本件文書の存在を認めることによって当該情報を同人の承諾を得ずに明らかにすることは,個人のプライバシーを侵害するものと解すべきである。

この点,原告は,特定の個人が,特定の事件の捜査に関して,特定の捜査員に協力したか否か又は特定の捜査員から捜査協力の謝礼を受け取ったか否かといった情報は,人の人格価値を左右する情報ではないから,本件文書の存否を答えたとしても,特定個人の人格に対する社会的評価が低下することはなく,特定個人の名誉を侵害することにはならないと主張する。しかし,前記のとおり,「特定の個人の生命,身体若しくは名誉が侵害されると認められる」情報には,個人の人格価値を左右する情報に限らず,個人のプライバシーに関する情報も含まれると解すべきであるから,原告の主張は採用できない。

(3)  また,原告は,捜査員の刑事公判廷における供述又は検察審査会の議決において,B及びCが特定の捜査員の捜査協力者であり,特定の捜査員から捜査協力の謝礼を受け取ったとする情報が明らかにされていることを理由に,本件文書の存在を認めたとしても,個人のプライバシーを侵害することにはならないと主張する。しかし,捜査員の当該供述又は検察審査会の議決によって,当該情報が流布される範囲は限定的であることや,本件文書の存否は前記情報の真実性を判断するための重要な状況証拠となるという関係にあることに鑑みれば,本件文書の存在を認めることによって,更にプライバシーを侵害する結果を生じさせることになることは否定できない。したがって,この点に関する原告の上記主張を採用することはできない。

なお,捜査協力者が国外に逃亡して所在不明の場合又は既に死亡している場合であっても,そのプライバシー又は名誉は尊重されるべきであるから,このような場合であっても,本件条例12条前段の解釈上,別異に扱うことはできない。

(4)  したがって,本件文書は,その存否を答えるだけで,本件条例12条前段に規定する「特定の個人の生命,身体若しくは名誉が侵害される」場合に該当すると認められる。

4  本件文書の本件条例12条後段該当性について

(1)  本件条例12条後段を解釈するに,同条に規定する「犯罪の予防,捜査等に支障が生ずると認められる場合」とは,個人又は団体を特定した内偵捜査に関する公文書の開示請求のように,当該公文書の存在を認めて非開示決定をしても,又は,不存在であると通知しても,当該個人又は団体を内偵捜査しているか否かが明らかになる場合など,公文書の存在を認めただけで,捜査の具体的な手法,技術又は体制に関する情報が明らかになるような場合をいうものと解するのが相当である。

原告は,本件条例12条後段に規定する「犯罪の予防,捜査等に支障が生ずると認められる」情報について,開示請求に係る公文書の存否を答えるだけで特定の犯罪を助長し又は特定の捜査活動を妨害する具体的な結果が発生するような情報に限定して解釈すべきであると主張するが,本件条例に定める文言につき独自の見解に基づき限定を加えるものであって,採用できない。

(2)  前記1に照らせば,本件文書は,その記載自体から,特定の捜査員が,特定の事件捜査に関して,特定の個人から協力を得たか否か並びに特定の個人に捜査協力の謝礼を支払ったか否か及び支払った場合は支払った事由,日時,金額といった情報が明らかになる文書であると認められるから,本件文書の存在を認めることによって,警察が,どのような個人又は団体を捜査協力者として選定し,どのような態様,方法で運用しているか等の具体的な捜査の態様,方法の一部が明らかになるというべきである。

この点,原告は,本件文書は,捜査費に関する証拠書類であり,警察の捜査方法が明らかになる情報は含まれていないと主張する。しかし,各種犯罪捜査の成否は,捜査協力者から得た情報によるところが大きく,特に,銃器,薬物事犯等の組織犯罪の捜査においては,犯罪組織の中枢部等から情報を入手することが有効な捜査手法であると考えられるから,警察が,どのような個人又は団体を捜査協力者として選定し,どのような態様,方法で運用しているかという情報は,その一部であっても警察の捜査方法に関する重要な情報であると認められる。そうであれば,本件文書の存在を認めることによって,上記情報が明らかになるとすれば,警察の犯罪捜査等に支障が生ずる結果となることは否定できないから,この点に関する原告の上記主張を採用することはできない。

(3)  また,前記のとおり,本件文書には,捜査員や捜査協力者の氏名等が記載されていると推認されるところ,一般に,捜査協力者は,情報源の秘匿を依頼し,あるいは期待して捜査員に対し捜査情報を提供していると考えられる。そうであれば,本件文書の存否を答えることによって,当該捜査協力者の氏名等が明らかになるとすれば,警察に対する信頼と協力関係に大きな影響を及ぼし,捜査に支障が生ずる結果になるというべきである。

この点,原告は,Bが国外に逃亡して所在不明であり,Cは既に死亡していること,並びに,捜査員の刑事公判廷における供述又は検察審査会の議決において,B及びCが当該捜査員の捜査協力者であり,捜査協力の謝礼を受け取った事実が明らかにされていることを理由に,本件文書の存在を認めたとしても,捜査に支障が生ずることにはならないと主張する。しかし,本件文書の存否を明らかにすることにより,仮に当該事件の捜査との関係において捜査に支障が生ずることがなくなったか,又は乏しくなったとしても,他の事件の捜査との関係においては,将来の捜査協力が得られなくなり,捜査に支障が生ずることは否定できないというべきであるから,原告の上記主張を採用することはできない。

(4)  したがって,本件文書は,その存否を答えるだけで,本件条例12条後段に規定する「犯罪の予防,捜査等に支障が生ずる」場合に該当すると認められる。

5  以上のとおり,被告が,本件文書の存否を答えるだけで,特定の個人の生命,身体もしくは名誉が侵害されると認められる場合及び犯罪の予防,捜査等に支障が生ずると認められる場合に該当するとしてした本件処分は,適法というべきである。

第4結論

よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 生野考司 裁判官 小川雅敏 裁判官 蔵本匡成)

【注】 別紙1ないし3は省略

別紙文書目録

北海道警察の元警部Aが同人の捜査協力者であるB及びCに支払った謝礼に関する一切の書類

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