札幌地方裁判所 平成17年(わ)197号 判決 2005年4月14日
主文
被告人を懲役1年6か月に処する。
理由
(犯罪事実)
被告人は、
第1 平成15年11月25日午前2時30分ころ、普通乗用自動車を運転し、札幌市北区北40条西5丁目5番25号先道路を石狩市方面から創成川方面に向かって進行してきて、同所先の信号機により交通整理の行われている交差点手前で、対面信号機の赤色表示に従って連続停止していた車両の後方に停止した後、同交差点を札幌駅方面に向かって右折進行するに当たり、同信号機が未だ赤色信号を表示していたのにこれを殊更に無視して発進し、対向車線に進出して、上記停止車両の右側方を通過し、重大な交通の危険を生じさせる速度である時速約20キロメートルの速度で自車を運転して同交差点に進入しようとしたことにより、折から右方道路から青色信号に従い同交差点を左折して対向進行してきたA(当時27歳)運転の普通貨物自動車を前方約14.8メートルの地点に認め、急制動の措置を講じたが間に合わず、同車右前部に自車右前部を衝突させ、よって、同人に加療約8日間を要する顔面部挫傷の傷害を、同人運転車両に同乗していたB(当時29歳)に加療約8日間を要する頚椎捻挫等の傷害をそれぞれ負わせた。
第2 前記日時・場所において、前記車両を運転中に、自車を前記A運転車両に衝突させ、同車の前部バンパー等を損壊(損害額約26万5440円相当)する交通事故を起こしたのに、その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を、直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった。
第3 同日午前2時35分ころ、前記第1記載の場所付近路上において、前記Aに対し、その胸倉を掴むなどの暴行を加え、よって、同人に加療約8日間を要する前頚部、頚部挫傷の傷害を負わせた。
(証拠)省略
(補足説明)
被告人は、判示第1の事実について、「事実自体はそのとおり間違いないが、時速20キロというのは重大な交通の危険を生じさせる速度ではないから、自分の行為は危険運転致傷罪に当たらないと思う。」旨述べ、弁護人もこれとほぼ同じ観点から、本件は危険運転致傷罪に該当しないと主張する。しかし、関係証拠によれば、被告人は、判示のとおり、赤色信号を殊更に無視して自車を発進させ、対向車線に進出して、時速20キロメートル程度にまで加速しつつ同車線内を進行して判示交差点に進入しようとするという危険極まりない行為に及び、その結果、青色信号表示に従って同交差点を左折進行してきた被害車両と衝突するという交通事故を引き起こしているのであって、本件犯行が危険運転致傷罪に該当することは明らかである。
また、被告人は、同第3の事実について、「自分が被害者に(判示のとおりの)暴行を加えたことは間違いないが、被害者はそれで負傷したのではなく、最初の事故で負傷していたのだと思う。」旨述べ、弁護人は、これを前提として、本件犯行は傷害罪に該当しないと主張する。しかし、関係証拠によれば、被告人が被害者に対して判示のとおりの暴行を加え、これにより被害者が判示のとおりの傷害を負ったことは優に認定できる。
よって、弁護人の主張はいずれも採用できない。
(累犯前科と確定裁判)
認定証拠 前科調書(乙9)、判決書謄本(乙11ないし13)
1 累犯前科
<1> 平成11年2月3日札幌簡易裁判所で建造物侵入、窃盗罪により懲役1年2月(3年間執行猶予、付保護観察。同12年11月7日執行猶予取消し)に処せられ、同15年1月10日その刑の執行終了
<2> 平成12年10月11日札幌簡易裁判所で建造物侵入、窃盗、同未遂罪により懲役1年2月に処せられ、同13年11月10日その刑の執行終了
2 確定裁判
平成16年3月24日札幌地方裁判所で恐喝、傷害罪により懲役1年8月に処せられ、同年4月8日その裁判確定
(法令の適用)
罰条
第1の各行為 平成16年法律第156号による改正前の刑法(以下「旧刑法」という。)208条の2第2項後段(致傷の場合)、1項前段【刑法6条、10条、208条の2第2項後段(致傷の場合)、1項前段】
第2の行為 道路交通法119条1項10号、72条1項後段
第3の行為 旧刑法204条【刑法6条、10条、204条】
科刑上一罪の処理(第1の罪)
刑法54条1項前段、10条(犯情の重いAに対する危険運転致傷罪の刑で処断)
刑種選択(第2、第3の各罪)
懲役刑
累犯加重(判示各罪) 刑法56条1項、57条(再犯の加重)
併合罪の処理 刑法45条後段、50条、45条前段、47条本文、10条、旧刑法14条【刑法6条、10条】(刑及び犯情の最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重)
訴訟費用 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
本件は、判示のとおりの危険運転致傷(判示第1)、事故不申告(同第2)、傷害(同第3)の事案である。
判示第1の犯行は、信号表示に従って走行するという、自動車運転者として最も基本的な交通ルールを完全に無視した無法悪質な犯行で、強い非難に値する。被害者らは、何の落ち度もないのに、それぞれ判示のとおりの傷害を負わされ、また被害者Aはその運転車両を損壊される被害も受けているが、被告人は、被害者らに謝罪するどころか、被害者Aに文句を言われたことに激高して、同人の胸倉を掴むなどの暴行を加えて傷害を負わせ(判示第3)、更には、事故の申告もせずにその場から逃走するという誠に無責任な犯行(判示第2)に及んだ上、現在に至るまで被害者らに対しては何らの被害弁償もしていないのであって、被害者らが被告人に対して強い処罰感情を抱いているのも当然である。更に、被告人は、これまで窃盗罪等により3回にわたって懲役刑に処せられているのに、これに反省自戒することなく本件各犯行に及ぶなど、規範意識が著しく鈍麻しており、また本件後も前記確定裁判欄記載の罪を犯して実刑に処せられるなど、事後の生活状況等も甚だ悪い。これらの事情からすると、被告人の刑事責任は重いといわなければならない。
そうすると、他方において、被告人が、前記のような弁解をしつつではあるが、本件各犯行の基本的な事実関係自体は認めており、またそれなりに反省の気持ちを表していること、被害者らの受けた傷害の程度は幸いそれほど重くはなかったこと、本件各犯行は前記確定裁判の余罪であることなど、被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても、被告人に対しては、主文のとおりの刑を科するのが相当である。
(出席した検察官笹川修一、弁護人越前屋民雄)
(求刑 懲役1年10月)