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札幌地方裁判所 平成17年(ワ)2044号 判決 2006年5月19日

北海道江別市●●●

原告

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同訴訟代理人弁護士

橋場弘之

札幌市中央区北3条西3丁目1番地

被告

株式会社ローンズスター

同代表者代表取締役

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主文

1  被告は,原告に対し,46万2168円及びこれに対する平成18年4月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は,被告の負担とする。

3  この判決は,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

主文同旨

第2事案の概要

本件は,昭和60年5月24日から平成17年1月26日まで,別紙「利息制限法に基づく法定残高計算書」(以下「別紙計算書」という。)のとおり,借入れ及び返済を繰り返していた原告が,被告に対し,利息制限法所定の年1割8分の利率で元利充当計算すると,最終取引日である平成17年1月26日において46万2168円の過払金が生じているとして,過払金及びこれに対する原告第2準備書面送達日の翌日である平成18年4月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

1  本件において,取引経過が別紙計算書のとおりであることは当事者間に争いがない。

本件の争点は,①昭和60年5月24日から平成4年1月23日までの取引(以下「第1取引」という。)と,それから約7年8か月経過した平成11年9月28日から平成17年1月26日までの取引(以下「第2取引」という。)とが別個の取引であるとして,第1取引による過払金につき消滅時効の抗弁が認められるか,②支払期日における経過利息の支払を遅滞した場合,支払期日までの利息と支払期日の翌日から支払日までの遅延損害金が生じるかである。

2  原告は,争点①につき,別個独立の第1取引にかかる過払金債権であっても,相殺適状にある限り,その後の第2取引の借入債務と即時対当額で相殺充当されて,その時点で消滅しており,被告の消滅時効の抗弁には理由がないと主張し,争点②につき,契約証書に利息の支払が1回でも遅れると当然に期限の利益を喪失する旨の記載がなされていても,利息の支払の遅滞があった後において,被告は遅延損害金の請求をしたことがなかったし,残元金の一括返済を求めたこともなかったから,本件の場合,形式的な期限の利益の喪失にあたる事由があっても,これを宥恕していたにほかならず,遅延損害金は発生しないと主張している。

被告は,争点①につき,過払金返還請求権の消滅時効は10年であるところ,原告が本訴を提起する10年以上前に発生した過払金返還請求権については,消滅時効を援用するとして,平成18年1月25日の本件弁論準備手続期日において第1取引による過払金返還請求権につき消滅時効を援用する旨の意思表示をし,被告の返還すべき過払金は,平成17年1月26日において12万8133円である(別紙「元利金計算書1」,同「元利金計算書2」)と主張しており,争点②については,利息の支払期日経過から支払日までは利息制限法に定められた範囲内の率の遅延損害金が発生していることを前提に上記の過払金を算定している。

第3当裁判所の判断

1  争点①について

第1取引は,昭和60年5月24日,原告は,元本15万円を昭和62年5月23日を最終返済期限とする自由返済として借り入れ,平成4年1月23日の返済をもって取引が終了したものであり,第2取引は,借入限度額を50万円とするリボルビング借入限度額基本契約に基づく取引であって,第1取引と第2取引とは,一連の取引とは認められず,別個の取引である(乙1ないし4,枝番含む。)。

しかしながら,第1取引と第2取引は,同一当事者間の取引であるところ,借主において,ある貸金債権についての弁済が過払いとなっていることが判明するのは事後的であることが多く,本件原告も,被告に対し,過払金返還請求がなしうるのに,これに気が付かずに新たな別口の貸付を受けているものであるから,本件においては,相殺適状にある限り,第1取引で生じた過払金と,第2取引による借入金とを対当額で相殺することを認めるのが相当である。

これを本件についてみるに,第1取引による過払金は,最終取引日である平成4年1月23日から返還請求をなしうるところ,第2取引は,平成11年9月28日に借入限度額を50万円とする包括リボルビング契約に基づいて取引が開始され,返済期は平成13年9月27日を最終返済期限とする自由返済であって,同リボルビング契約に基づく借入れは,借入日において直ちに返済することができるから,第1取引に基づく過払金返還請求権との関係では,借入日において直ちに相殺適状にあるものと考えられる。すると,第1取引による過払金は,第2取引における借入れと即時対当額で相殺され,それゆえ,被告の消滅時効の援用の意思表示は,すでに消滅した債権に対するものであるから理由がない。

2  争点②について

原告がしばしば約定の支払期限に遅れて弁済を行ったことは別紙計算書の日付から明らかであるが,被告は,本訴提起前に原告に対して一括弁済を求めることなく,再度の期限の猶予を与えていることからすると,原告の過払金を算出するにあたっては,原告の弁済が期日に遅れた部分も利息制限法上の通常の利率をもって算出するのが相当である。

3  以上によれば,原告の過払金は,別紙計算書のとおり,平成17年1月26日の取引日において46万2168円となるから,原告の本訴請求は全て理由がある。

(裁判官 今井和桂子)

<以下省略>

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