札幌地方裁判所 平成18年(わ)1196号 判決 2007年3月01日
主文
被告人を懲役2年8月に処する。
未決勾留日数中110日をその刑に算入する。
理由
(犯罪事実)
第1ないし第5に係る詐欺,偽造有印公文書行使,有印私文書偽造,同行使,詐欺未遂被告事件については省略。
第6 被告人は,A所有に係る札幌市a区b条c丁目d番e号所在のf-g号室の賃借権を不正に取得しようと企て,Bと共謀の上,平成18年7月12日ころ,同市h区i条j丁目k番l号所在のmビル2階有限会社C「D店」において,真実は,被告人の稼働実態は,その約1年前から合計20日から30日程度,Eという個人のリフォーム業者の手伝いをし,合計20万円から30万円程度の収入を得たという程度であったのに,被告人が入居申込書用紙に記した勤務先欄を「(有)E」,勤続年数欄を「6(年)」,年収欄を「430(万円)」とする虚偽の事項を,上記Bにおいて,被告人を契約者とする別の用紙に転記して上記虚偽の事項を含む入居申込書を作成し,同入居申込書を,上記Aから上記f-g号室の管理業務を委託されていた同市n区o条p丁目q番r号所在のsビル1階株式会社Fあてにファクシミリ送信するなどして,同社従業員Gらにこれを了知させ,同月14日ころ,同人らを介して,同区t条u丁目v番地w所在のH株式会社にいた上記Aに対し,上記f-g号室の賃貸借契約を申し込み,同人をして,被告人は有限会社Eに勤務しており,安定した就労と収入があると誤信させて,賃貸借契約の締結を決意させ,同月20日ころ,上記Fにおいて,上記Aをして,上記Gらを介して,上記f-g号室を家賃月額12万5000円で被告人に賃貸する旨の賃貸借契約を締結させた上,同月22日ころ,同室の引渡しを受けて賃借権を不正に取得し,もって人を欺いて財産上不法の利益を得たものである。
(証拠の標目)
省略
(判示第6の詐欺罪の成否について)
1 争点
検察官は,①被告人が判示第6の居室(以下「本件居室」という。)を賃借するに当たり,真実は,被告人が暴力団構成員であるのにその情を秘し,Bにおいて,被告人の勤務先,勤続年数及び年収につき虚偽の内容を記載した入居申込書をファクシミリ送信して賃貸借契約を申し込んだ点が欺罔行為に当たる,②その結果,同所有者において,被告人は暴力団構成員ではなく,上記記載の勤務先に正社員として勤務している旨誤信した点が錯誤に当たり,同所有者が本件居室の賃貸借契約を締結し,これを被告人に引き渡したことをもって,処分行為及び財産上の損害に当たる,と主張している。弁護人は,欺罔行為,財産的損害,故意及び可罰的違法性の存在を争い,無罪を主張している。
2 勤務先等に関する欺罔行為による詐欺罪の成立について
(1) 関係証拠によれば,次の事実が認められる。
すなわち,被告人は,賃貸斡旋業を営む「D」に勤務するBに対し,妻と居住するためのアパートの仲介を依頼した。Bは分譲マンションの一室である本件居室を紹介し,被告人は入居を希望した。被告人は,Bから渡された入居申込書用紙に,氏名,生年月日,同居人名(妻I)などを記載したほか,勤務先欄の名称欄に「(有)E」,勤続年数欄に「6(年)」,年収欄に「430(万円)」と記載し,その所在地欄,電話番号欄,業種欄(リフォーム業)を記載して,Bに交付した。Bは,株式会社F(以下「F」という。)で使用している入居申込書用紙(申込者記入欄の体裁は,被告人が記載したものとほぼ同じ)にこれ。らを書き写し,Fにファックスで送信した。
これを見たGほかFの従業員は,その記載に従い,所有者Aに対し,入居を希望している人は会社に勤めている人であるなどと告げた。Aは,平成10年から本件居室に居住し,その後転居したことから本件居室を賃貸に出すことにしたもので,もともと法人契約を希望していたが,Fの説明から,ちゃんと会社勤めをしていて家賃をきちんと入れてくれる人であるのならよいと考えて,被告人に賃貸することを承諾し,契約締結,被告人の入居に至った。ところが,実際には,被告人は,本件契約のころまで約1年間,知人のJがEの屋号で経営しているリフォーム業の仕事を日当1万円で20回から30回手伝ったことがあるだけで,それによる収入は合計20万円から30万円であった。
なお,被告人は,公判において,Eからの上記収入のほかに,自営で行っている水産物の仲介による収入を合わせると,その当時,ほぼ自分の収入だけでも月収40万円,年収480万円くらいあったと供述している。警察官調書(乙1)でも類似の供述をしているが,そこでは,一定の職業はなく,たまに知り合いのリフォーム屋の手伝いをしたり,人から頼まれて海産物卸や販売をしている,ホテルのベッドメイクの仕事をしている妻の収入を合わせて月収40万円であると述べ,必ずしも公判供述と整合していない。そして,被告人が供述する水産物仲介の仕事の内容は曖昧で,何らの資料も提出されていない。被告人が本件の約1年3か月前まで2年間以上にわたり勾留され,服役していたことも合わせ考えると,上記被告人の公判供述はにわかに信用することができない。被告人が水産物仲介の仕事をしていたことは否定できないとしても,それによる収入は若干の金額にとどまり,安定したものでもなかったと認められる。
(2) 上記認定事実に基づいて検討する。
ア 被告人及びBが,上記ファックス送信に係る本件入居申込書を通じて所有者側に告知した内容は,被告人が有限会社Eに6年間継続して勤務し,同社から430万円の年収を得ているということである。被告人は,公判において,年収欄は他の収入も合わせた金額を書くべきものと理解したと供述するが(他の収入を合わせても,上記年収があったという供述が信用できないことは前記のとおり。),本件入居申込書の体裁と記載を全体としてみれば,年収欄の430万円という記載が上記会社からの年収と理解されることは明らかである。また,本件入居申込書には勤務先での雇用形態を記載する欄は設けられていないが,上記の勤続年数と年収額とを合わせて考えれば,これを見た所有者側が,被告人の身分は単なるアルバイトではなく,正規雇用又はそれに準ずる安定した雇用を受けていると理解するであろうことも明らかである。ところが,被告人のEにおける勤務実態は上記告知内容とはかけ離れていて,約1年間だけ二,三〇回程度手伝い,二,三〇万円の報酬を得たに過ぎず,そのほかにも被告人には水産物仲介による若干の収入があった程度である。
したがって,被告人らは,Aに対して,被告人の就労実態や収入について虚偽の事実を告知し,安定した就労と相当額の収入があるように装ったものと認められる。
イ 一方,所有者Aは会社員で,転居したことから本件居室を賃貸に出すことにしたところ,もともと法人契約を希望していたが,入居希望者がちゃんと会社勤めをしていて,確実に賃料を払う人物であるということから個人契約に応じて,被告人に賃貸したというのである。本件居室が面積約98m2,賃料月額12万5000円という比較的高価な物件であることも考慮すれば,Aとしては,就労や収入が不安定な人物は上記賃料の支払能力や誠実な支払意思に不安があるので,そのような相手には本件居室を賃貸しない意図であったと認められる。なお,Fの従業員Gは,有限会社Eの電話番号として記載された前記Jの電話番号に何度も電話をかけ,最終的に被告人本人と話をして,その通話先に勤務していることを確認しており,Fにおいても,勤務先については重視していたと認められる。
これに対し,被告人のE及び水産物仲介における就労や収入は先に述べたとおりであって,Aが求める条件には合致しておらず,被告人らがそうした就労実態を正しく伝えていれば,Aは当然,賃貸を承諾しなかったものと認められる。弁護人は,勤務先等の記載内容如何で賃貸借契約を締結するかどうかの判断が左右されたとは考えがたいと主張するが,採用できない。
ウ こうして所有者Aは被告人と賃貸借契約を締結し,被告人は本件居室の賃借権を取得してその引渡しを受け,Aは被告人にこれを引き渡すとともに,賃貸人としての義務を負ったものである。弁護人は,被告人が本件居室を居住用として使用し,賃料を滞りなく支払っているから財産上の損害はないと主張するが,Aは,賃料の支払能力と意思に関わる就労や収入の面で自己の条件に適合せず,本来であれば賃貸するはずのなかった人物に対して賃貸する結果になっており,そのこと自体が財産上の損害であるから,弁護人の主張は失当である。
エ 被告人は,公判において,虚偽の事実を告知する意図や認識はなかったかのようにも供述している。しかし,被告人としても,所有者側が本件入居申込書の記載を上記アのように理解するであろうことは当然理解していたと認められる。また,被告人は,本件以前に前記Jに対し,「これからは勤務先をこの会社にするので頼みます。」と言い,前記Gからの電話でも,その場に勤めている旨答えており,被告人は本件賃貸借契約の申し込みに当たって,意識的に有限会社Eにおける勤務を装ったといえる。なお,Bについても,被告人が平成14年から17年にかけて勾留され服役していたことを知っており,被告人が暴力団構成員であるかもしれないと思いながら協力しているのであって,勤続年数6年等の勤務先に関する記載が虚偽であることの認識があったものと認められる。
オ 以上によれば,被告人らによる勤務先等に関する虚偽の事実の告知及びそれに基づく所有者Aの錯誤は,賃借権に係る詐欺利得罪における欺罔行為であり錯誤であるといえる。その結果,Aは賃貸借契約を締結して本件居室を引き渡して財産上の損害を負い,被告人は財産上の利得を得ており,被告人らの意図ないし認識にも欠けるところはないから,判示のとおり詐欺利得罪の成立が認められる。その犯行の態様,結果に照らし,可罰的違法性があることも明らかである。
3 暴力団構成員であることを告知しなかった点について
(1) 関係証拠によれば,被告人は,本件当時,暴力団構成員として活動しており,Bも被告人が暴力団構成員であるかもしれないと思っていたこと,しかし,両名ともそのことを所有者側に告知しておらず,所有者側もそれを知らなかったことは明らかである。前記2イ認定のような所有者Aが考えていた本件居室の入居者の条件に照らせば,仮に被告人が暴力団構成員であることを事前に知っていれば,たとえ被告人に賃料の支払能力があっても,Aは被告人に賃貸しなかった可能性が高い。被告人及びBにおいても,その可能性を認識していたことは認めるところである。
(2) 検察官は,被告人が暴力団構成員であることを被告人らにおいて告知しなかったことは不作為の欺罔行為であると主張し,その告知義務の根拠として,本件賃貸借契約書18条に,賃借人が暴力団等の構成員であることが判明したときは無催告解除ができるという条項があること,同条項の目的は,賃借人が暴力団等の構成員である場合には,そうした組織の性質上,近隣住民とトラブルになり,あるいは近隣住民の生命や身体を危険にさらす可能性が高いので,こうしたトラブル等を未然に防ぐことにあり,賃貸人にとって賃借人が暴力団等の構成員であるか否かは契約締結の段階においても極めて重要な要素であることを挙げる。他方,弁護人は,前記財産的損害がないとの主張のほか,被告人に上記告知義務はないこと,暴力団構成員であっても平穏に居住する権利があり可罰的違法性がないこと,刑法の謙抑性に反することなどを主張している。
(3) そこで検討するに,上記条項は,賃借人及び同居人が「暴力団・極左・右翼・暴走族等の構成員及び関係者等であることが判明したとき」を無催告解除ができる場合の一つとして定めている(18条1号)。しかし,入居後になって,賃借人及び同居人に暴力団加入等の事実が生じた場合について,賃借人に対して申告を求めた規定があるわけではない(なお,居住目的以外の使用,模様替その他の工作,連帯保証人の死亡,駐車場使用車両の変更などについては,賃貸人の事前の承諾や賃貸人への通知を求めた規定がある。)。賃借人等の暴力団加入等の有無が賃貸人にとって重要な関心事であることは,上記条項からも明らかであるが,そうであるならば,賃貸人としては,そのことを勤務先や同居人に関する項目と同様に,入居申込書の記載項目としたり,申込受付時に口頭で確認したりすればよいのであり,それ自体は容易なことである(暴力団構成員ではないと答えれば,それが欺罔行為となりうる。)。この点,FのGは,警察官調書(乙2)において,「現在は社会一般常識として,暴力団,暴走族,右翼等に所属している者は入居申し込みはできないことになっていますし,このことは,契約書の裏面にもはっきり記載していますので,稼働事実や保証人関係の調査のみを行っているのです。」と述べている。しかし,上記条項にあるような組織に関係している者は少なからず社会に存在していると考えられるところ,賃貸借斡旋の実情として,入居申込み時に,あえて質問をしなくても,本人又は同居人が組織関係者であることを自主的に申告してくる場合がどの程度あるのかなどについて,同警察官調書には触れるところがなく,暴力団加入等について調査をしない事情についての上記G供述は説得力のあるものではない。また,上記条項は,同居人も含めて相当に広範な場合を無催告解除事由としており,その民事上の効力もさることながら,同条項を告知義務の根拠とした場合,その範囲がいたずらに広範で不明確になるおそれがある。
したがって,上記条項をもって,入居申込者に暴力団構成員であることの告知義務があると認めることには疑問がある。こうした条項の存在が周知されてきていることはG供述からも窺われるが,本件証拠上,賃貸借契約締結の際に,暴力団構成員であることの自主的な申告が一般的に期待されているという実情があるとは認められないから,慣習上あるいは信義則上,上記の告知義務があということもできない。
なお,本件でFと連絡をとったのは共犯者Bであり,賃貸斡旋の会社に勤務する同人については,上記告知義務を認める余地があるようにも思われる。しかし,Gの警察官調書にあるように,これらの業者において,暴力団加入等の調はしていないのが実情のようであり,F側において,Bがこの点の調査をした上で被告人を紹介しているだろうと考えたとは認められず,Bの紹介であるからといって,入居希望者が暴力団構成員ではないという信頼,すなわち錯誤をもたらすような具体的危険のある行為であったとはいえない。したがって,Bを介したことをもって作為又は不作為の欺罔行為に当たるということはできない。
以上により,被告人が暴力団構成員であることを秘した点については,欺罔行為として認定しないこととした。
(4) なお,本件入居申込書を通じた被告人の入居申込みは,暴力団構成員ではない旨の告知を当然に含んでいるものではなく,これをもって挙動による欺罔行為とみることはできない(暴力団事務所として使用する目的を秘して居住用物件を賃借した場合には,入居申込み自体に居住に使用するという意思表示が包含されているとみることができるし,あるいは,居住目的であることが明示されている契約書に署名することで,居住に使用する旨の作為による欺罔行為があったとみることも可能である。)。上記条項が印刷されている賃貸借契約書に署名することが,暴力団構成員ではないという欺罔行為であるとみることも考えられるが,上記条項の広範さに伴う問題は残るし,賃貸人側から契約書の上記条項を具体的に説明されて,分かりましたと答えた場合であればともかく,単に署名しただけでそうした挙動があったと認めるには躊躇を感じる(本件では,Bを通じて交付された契約書類に被告人の妻が署名しており,所有者側との間で上記のような具体的なやりとりはなかったようである。)。いずれにせよ,本件訴因はそうした構成ではないので,問題点を指摘するに止める。
(累犯前科)
省略
(法令の適用)
罰条
第1の1ないし3,第2の1ないし3,第3の1及び2,第4の1及び2,5の1ないし3の各行為のうち
各偽造有印公文書行使の点
いずれも刑法60条,158条1項,155条1項
各有印私文書偽造の点
いずれも刑法60条,159条1項
その各行使の点
いずれも刑法60条,161条1項,159条1項
各詐欺の点
いずれも刑法60条,246条1項
第3の3の行為のうち
偽造有印公文書行使の点
刑法60条,158条1項,155条1項
詐欺未遂の点
刑法60条,250条,246条1項
第5の4の行為のうち
偽造有印公文書行使の点
刑法60条,158条1項,155条1項
有印私文書偽造の点
刑法60条,159条1項
その行使の点
刑法60条,161条1項,159条1項
詐欺未遂の点
刑法60条,250条,246条1項
第6の行為
刑法60条,246条2項
科刑上一罪の処理
第1の2,第2の1ないし3,第3の1,第5の1ないし3の各罪
それぞれにつき,偽造有印公文書と偽造私文書の各一括行使は1個の行為が2個の罪名に触れる場合であり,各有印私文書偽造とその各行使と各詐欺との間には順次手段結果の関係があり,各偽造有印公文書行使と各詐欺との間にも手段結果の関係があるので,いずれについても,刑法54条1項前段,後段,10条により結局以上を1罪として最も重い偽造有印公文書行使罪の刑で処断。
第1の1及び3,第3の2,第4の1及び2の各罪
それぞれにつき,各偽造有印公文書行使と各詐欺との間には手段結果の関係があり,各有印私文書偽造とその各行使と各詐欺との間には順次手段結果の関係があるので,いずれについても,刑法54条1項後段,10条により結局以上を1罪として最も重い偽造有印公文書行使罪の刑で処断。
第3の3の罪
偽造有印公文書行使と詐欺未遂との間には手段結果の関係があるので,刑法54条後段,10条により1罪として重い偽造有印公文書行使罪の刑で処断。
第5の4の罪
偽造有印公文書行使と詐欺未遂との間には手段結果の関係があり,有印私文書偽造とその行使と詐欺未遂との間には順次手段結果の関係があるので,刑法54条1項後段,10条により結局以上を1罪として最も重い偽造有印公文書行使罪の刑で処断。
累犯加重
刑法56条1項,57条(それぞれ再犯の加重)
併合罪の処理
刑法45条前段,47条本文,10条
(刑及び犯情の最も重い判示第2の3の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入
刑法21条
(量刑の理由)
本件は,被告人が,共犯者と共謀して,偽造の国民健康保険被保険者証を行使し,銀行又は郵便局に対する口座開設の申込書を偽造・行使して,預貯金通帳を詐取した事案13件,同様に通帳を詐取しようとして,偽造の保険証を行使したが,偽造を看破されて詐欺は未遂に終わった事案1件,偽造の保険証を行使し,上記同様の申込書を偽造・行使したが,保険証の偽造を看破されて詐欺は未遂に終わった事案1件のほか,共犯者と共謀して,被告人を借主とする賃貸借契約の申込みに当たって,勤務先等につき虚偽の事項を告げ,賃借権を詐取したという事案である。
本件の一連の通帳詐欺は,わずか2日間に5人の実行役によって未遂2件を含む合計15件が行われたものであり,組織的で規模の大きいものである。被告人は,暴力団構成員であるところ,舎弟にあたるKに通帳詐欺の犯行を持ちかけられ,身分証を偽造する者として自己の舎弟にあたるLを紹介し,身分証を偽造するためパソコンを両名と共に買いに行き,その後,KからLに支払われた偽造保険証の代金から,その半分である約25万円を取得している。各犯行の結果は,身分証明機能をも有する国民健康保険被保険者証を含む各文書に対する社会的信用を著しく損なうとともに,銀行等の業務にも悪影響をもたらすものであった。賃借権詐欺の点も,勤務状況という重要な事項について虚偽事実を告知し,比較的賃料の高いマンションを賃借したものである。以上のような本件の犯情に加えて,被告人は暴力団構成員として活動していること,累犯前科1犯を有していることなども考慮すると,その刑事責任は重いといえる。
他方,被告人は判示第1ないし第5については反省していること,上記マンションの賃料の滞納はなく,結果的に2週間程度で退去したことなどは被告人に有利にしん酌して,主文の刑を定めたものである。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑 懲役3年)
(裁判長裁判官 半田靖史 裁判官 多田裕一 裁判官 網田圭亮)