札幌地方裁判所 平成18年(ワ)2373号 判決 2007年7月20日
主文
1 被告は、原告に対し、1178万3715円及びうち1068万4265円に対する平成17年9月27日から、うち107万1247円に対する平成18年11月24日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを10分し、その9を被告の、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は、原告に対し、1284万2468円及びうち1068万4265円に対する平成17年9月27日から、うち213万円に対する平成18年11月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は、原告が、被告に対し、① 原告は、株式会社ユニマットライフ(以下「ユニマットライフ」という。)又はその後ユニマットライフを吸収合併した被告との間で継続的な金銭消費貸借取引(以下「本件取引1」という。)を行い、② アイク株式会社(以下「アイク」という。)又はその後アイクを吸収合併した被告との間で継続的な金銭消費貸借取引(以下「本件取引2」という。)を行い、③ 被告(旧商号ディックファイナンス株式会社)との間で継続的な金銭消費貸借取引(以下「本件取引3」という。)を行ったところ、これら各取引についてその貸付け及び返済を利息制限法の定める制限利率によって引き直した結果、いずれも過払金が発生したと主張して、不当利得返還請求として、① 本件取引1に係る過払金518万2078円及び確定法定利息金1万5984円、② 本件取引2に係る過払金461万9806円及び確定法定利息金1万2219円、③ 本件取引3に係る過払金88万2381円の合計1071万2468円、並びに、うち上記①ないし③の過払金元本合計1068万4265円に対する不当利得の後の日(本件取引1ないし3の最後の取引の日の翌日)である平成17年9月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による法定利息金の支払を求め、④ 原告は、本件取引1ないし3に係る過払金の返還請求のためにやむなく弁護士に委任して本件訴訟を提起したと主張して、民法704条後段に基づく損害賠償請求として弁護士費用108万円(本件取引1につき52万円、本件取引2につき47万円、本件取引3につき9万円の合計)及びこれに対する不当利得の後の日(訴状送達の日)である平成18年11月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、⑤ ユニマットライフ、アイク及び被告は、本件取引1及び2において、利息制限法の定める制限利率を超える利率による利息の収受を継続し、上記制限利率によって引き直し計算すれば原告の上記各社に対する債務がなくなった後も不当に請求を継続して原告に返済をさせた不法行為によって、原告に精神的苦痛を被らせたと主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料計90万円(本件取引1につき50万円、本件取引2につき40万円)及び弁護士費用計15万円(本件取引1につき10万円、本件取引2につき5万円)の合計105万円及びこれに対する不法行為の後の日(訴状送達の日)である平成18年11月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提事実
括弧内に掲げた証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) ユニマットライフ、アイク及び被告は、いずれも貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)に基づく登録を受けた貸金業者である。
被告(旧商号ディックファイナンス株式会社)は、平成15年1月1日、商号を現商号に変更し、同月6日、ユニマットライフ及びアイクを吸収合併した(甲6)。
(2) 原告は、ユニマットライフ又は被告との間で、継続的な金銭消費貸借取引を行う基本契約に基づき、昭和63年11月25日から平成17年9月26日までの間、別紙計算書①借入額欄記載のとおり、金員を借り入れ、ユニマットライフ又は被告に対し、同計算書①返済額欄記載のとおり、その返済をした(本件取引1)(甲3)。
(3) 原告は、アイク又は被告との間で、継続的な金銭消費貸借取引を行う基本契約に基づき、平成元年9月25日から平成17年9月26日までの間、別紙計算書②借入額欄記載のとおり、金員を借り入れ、アイク又は被告に対し、同計算書②返還額欄記載のとおり、その返済をした(本件取引2)(甲4)。
(4) 原告は、被告との間で、継続的な金銭消費貸借取引を行う基本契約に基づき、平成8年4月30日から平成17年9月26日までの間、別紙計算書③借入額欄記載のとおり、金員を借り入れ、被告に対し、同計算書③返済額欄記載のとおり、その返済をした(本件取引3)(甲5)。
2 当事者の主張
(原告の主張)
(1) 不当利得返還請求(過払金)
被告は、本件取引1ないし3をそれぞれ利息制限法の定める制限利率により引き直した結果発生する以下の各過払金(いずれも最後の取引の日である平成17年9月26日現在)を、いずれも原告の損失により、法律上の原因なく、悪意で利得した。
ア 本件取引1につき、別紙計算書①のとおり、518万2078円(なお、確定法定利息金1万5984円)
イ 本件取引2につき、別紙計算書②のとおり、461万9806円(なお、確定法定利息金1万2219円)
ウ 本件取引3につき、別紙計算書③のとおり、88万2381円
なお、同一の貸主と同一の借主との間の同一の基本契約に基づく継続的金銭消費貸借取引においては、借主が貸主に対して支払った利息制限法の定める制限を超える利息を元本に充当した結果発生した過払金はほかの貸付けに係る債務に充当されるべきである。また、このような継続的金銭消費貸借取引により発生した過払金の消滅時効期間の起算日は、最後の取引の日か、仮にそうではないとしても最後の貸付けの日である。
(2) 悪意の受益者に対する損害賠償請求(前期(1)の請求に係る弁護士費用)
原告は、被告が前記(1)の各過払金の返還に応じないことから、本件訴訟の提起、追行を原告訴訟代理人弁護士に委任したが、このために支出した弁護士費用は上記各過払金の返還請求のために必要不可欠な費用であるから、前記(1)アないしウの各過払金返還請求につきそれぞれ52万円、47万円及び9万円の合計108万円は、被告の不当利得と相当因果関係にある弁護士費用であって、民法704条後段にいう損害に当たる。
(3) 不法行為に基づく損害賠償請求(不当請求に係る慰謝料及び弁護士費用)
ユニマットライフ、アイク及び被告は、本件取引1及び2において、原告が利息制限法の定める制限利率を超える利率による利息を支払っていることを知りながらその収受を継続し、上記制限利率によって引き直せば原告の上記各社に対する債務がなくなった後も、これを知りながら、原告に対して請求を継続し、原告に支払をさせた。
ユニマットライフ、アイク及び被告の上記行為は原告に対する不法行為に当たり、原告はこれによって精神的苦痛を被ったものであって、これに対する慰謝料は、本件取引1につき50万円、本件取引2につき40万円の合計90万円を下回ることはなく、また、原告が被告に対して上記慰謝料を請求するために支出した弁護士費用のうち、本件取引1に係る慰謝料につき10万円、本件取引2に係る慰謝料につき5万円の合計105万円は、ユニマットライフ、アイク及び被告の上記不法行為と相当因果関係にある損害である。(被告の主張-原告の主張(1)(不当利得返還請求(過払金))に対し)
(1) 過払金のその後の貸付けに係る債務への充当の否認
本件取引1ないし3において、原告がユニマットライフ、アイク又は被告に対して支払った利息制限法の定める制限を超える利息を元本に充当した結果発生した個別の過払金は、その後のユニマットライフ、アイク又は被告の原告に対する貸付けに係る債務に充当されるべきではない。
(2) 消滅時効(抗弁)
ア 前記(1)に主張したところにより本件取引1及び2において発生した個別の過払金のうち、平成8年10月28日以前に発生した部分は、その発生から10年以上が経過した。
イ 被告は、原告に対し、平成19年1月17日に開かれた本件の第1回口頭弁論期日において、消滅時効を援用するとの意思表示をした。
(3) 悪意の受益者であることの否認
ユニマットライフ、アイク及び被告は、原告がユニマットライフ、アイク及び被告に対して支払った利息制限法の定める制限を超える利息を受領した当時、これについて貸金業法43条1項の定めるみなし弁済が成立しないことを知っていたものではないから、悪意の受益者ではない。
(4) 仮に被告の前記(1)ないし(3)の主張が認められないとしても、当事者の合理的意思の公平な解釈として、原告は被告に対し、本件取引1ないし3において発生した過払金に対する法定利息として本件取引1ないし3における最後の取引の日以降の分のみを請求できるにとどまるというべきである。
第3当裁判所の判断
1 不当利得返還請求
(1)ア 前提事実(2)ないし(4)のとおり、本件取引1ないし3は、それぞれ、ユニマットライフ及びこれを吸収合併した被告、アイク及びこれを吸収合併した被告並びに被告との間の同一の基本契約に基づく継続的金銭消費貸借取引であるところ、このように同一の貸主と借主との間で同一の基本契約に基づく一連の継続的な金銭消費貸借取引が繰り返されている場合には、借主は借入総額の減少を望み、貸主においても複数の債権債務関係が併存して発生するような事態が生じることは望まないのが通常と考えられる。
したがって、本件取引1ないし3において、ユニマットライフ、アイク又は被告の原告に対する貸付けに係る債務の各弁済金のうち利息制限法の定める制限利率を超える利率による利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生し、その後、ユニマットライフ、アイク又は被告の原告に対する貸付けに係る債務が発生したときには、上記過払金は、上記貸付けに係る債務に充当されるものと解するのが、当事者の合理的意思解釈として相当である。
イ 次に、継続的な金銭消費貸借取引によって発生した過払金返還請求権については、借主が貸主に対して当該取引の継続中にその返還請求権を行使することを期待することが不可能に等しいことに照らし、当該継続的金銭消費貸借取引の終了の日をもってこれを行使することができる時と解するのが相当であるから、その消滅時効は、上記取引の終了の日から進行するというべきである。
そして、前提事実(2)ないし(4)のとおり、本件取引1ないし3における最後の取引の日は、いずれも平成17年9月26日であるから、その余の点について検討するまでもなく、被告の消滅時効の主張は理由がない。
ウ また、前提事実(1)のとおり、ユニマットライフ、アイク及び被告はいずれも貸金業法による登録を受けた貸金業者であること、被告が本件取引における利息の支払について貸金業法43条の定めるみなし弁済の要件をみたすものと認識していたと認めるに足りる証拠はないことに照らせば、ユニマットライフ、アイク及び被告は、いずれも、本件取引1ないし3において原告から利息制限法の定める制限を超える利息を法律上の原因なく受領していたことを知っていたものと認められ、ユニマットライフ、アイク及び被告は、いずれも、本件取引1ないし3に係る過払金について、民法704条にいう悪意の受益者に当たる。
エ なお、原告が被告に対して請求しうる本件取引1ないし3に係る過払金債務に対する法定利息が各取引の最後の取引の日以降のものに限定されるべきとする被告の主張は、その法的根拠が不明であり、主張自体失当といわざるを得ない。
(2) 以上に述べたところを前提として、本件取引1ないし3を利息制限法の定める制限利率により引き直した結果、別紙計算書①ないし③のとおり、原告の被告に対する平成17年9月26日(最後の取引の日)当時、本件取引1に係る過払金元本が518万2078円、確定法定利息金が1万5984円、本件取引2に係る過払金元本が461万9806円、確定法定利息金が1万2219円、本件取引3に係る過払金元本が88万2381円をいずれも下回らないことは、当裁判所に計算上明らかである。
2 悪意の受益者に対する損害賠償請求
前記1に判断のとおり、原告は被告に対し、過払金元本及び確定法定利息金の合計1071万2468円の請求権を有するところ、被告が原告のような顧客との間の継続的金銭消費貸借取引によって発生した過払金等を容易に返還しないことは当裁判所に明らかであり、弁論の全趣旨によれば、原告は被告が上記のような対応をするが故に原告訴訟代理人弁護士に本件訴訟の提起、追行を委任し本件訴訟を提起したものと認められる。
以上に述べたところに照らせば、原告が支出した弁護士費用のうち、上記過払金元本及び確定法定利息金の合計1071万2468円の10%(ただし、1円未満は四捨五入。)である107万1247円については、ユニマットライフ、アイク及び被告が前記1に認定した過払金等を原告の損失により法律上の原因なく利得したことと相当因果関係にある損害と認められる。
3 不法行為に基づく損害賠償請求
(1) 前記1(1)ウに認定のとおり、ユニマットライフ、アイク及び被告は、いずれも、本件取引1ないし3において、原告から利息制限法の定める制限を超える利息を法律上の原因なく受領していることを知っていたものであり、また、被告は、ユニマットライフ、アイク及び被告が原告に対して本件取引1及び2において利息制限法の定める制限利率によって引き直せば原告の借入金債務がなくなった後も原告に対して請求を継続して原告に支払をさせたことを争うことを明らかにしないから、これを自白したものとみなす。
(2) しかしながら、上記(1)に説示したところのみをもって、ユニマットライフ、アイク及び被告の原告に対する上記(1)の請求が不法行為に当たると解するのは、甚だしい論理の飛躍といわざるを得ず、相当ではない。
かえって、前提事実(1)のとおり、ユニマットライフ、アイク及び被告はいずれも貸金業法上の登録業者であることに照らせば、上記各社が請求した利息は飽くまで貸金業法43条1項の定めるみなし弁済の成立しうる出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)の定める利率を超えない利率による利息にとどまるものであったと推認されること、本件記録によっても、上記各社が、本件取引1及び2において、貸金業法17条及び18条の定める書面について、その要件を満たしているか否かはともかく、これに類する契約書や受領証書等の書面自体を一切交付しないなど、貸金業法に著しく違反する無法な貸付けや請求及び取立てなどを行ったとの事実までは認められないことに照らせば、前記(1)に説示したところのみによっても、ユニマットライフ、アイク及び被告の原告に対する本件取引1及び2に係る請求について、その行為が違法性を有し、不法行為を構成するとまで解するには足りないというべきである。
4 よって、原告の請求は、不当利得返還請求として過払金元本計1068万4265円(本件取引1につき518万2078円、本件取引2につき461万9806円、本件取引3につき88万2381円)及び確定法定利息金計2万8203円(本件取引1につき1万5984円、本件取引2につき1万2219円)並びに悪意の受益者に対する損害賠償請求として弁護士費用107万1247円の合計1178万3715円と、うち過払金元本1068万4265円に対する不当利得の後の日(本件取引1ないし3の最後の取引の日の翌日)である平成17年9月27日から、うち弁護士費用107万1247円に対する不当利得の後の日(訴状送達の日)である平成18年11月24日からそれぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による法定利息金又は遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その限りにおいて認容することとし、その余の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条及び64条本文を、仮執行の宣言につき259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 阿部雅彦)
(別紙)計算書①~③<省略>