札幌地方裁判所 平成19年(わ)817号 判決 2007年10月25日
主文
被告人を懲役22年に処する。
未決勾留日数中80日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
第1 被告人は,A,B及びCと共謀の上,平成19年5月11日午後11時10分ころ,北海道帯広市a条b丁目c番d号六代目D組二代目E会F事務所前駐車場に停車中の普通乗用自動車後部座席において,G(当時36歳)に対し,その両手首に手錠をかけるなどした上,同車を発進させて札幌市方面へ向かい,引き続き,そのころから同月12日午前7時ころまでの間,同車後部座席,同市e区f条g丁目h番i号「H」I号室上記C方及び同市j区k条l丁目m番n号「J」K号室上記B方等において,上記Gを監視するなどして上記各所から脱出することを不能にし,もって不法に同人を監禁した。
第2 被告人は,同日午前3時ころ,上記C方において,上記Gに対し,その左頬を果物ナイフで切りつけ,金属製パイプでその頭部等を十数回殴打するなどの暴行を加え,よって,同人に全治約1か月間の顔面切創及び頭部打撲傷の傷害を負わせた。
第3 被告人は,上記Cと共謀の上,同月13日午後6時ころ,上記C方において,上記B(当時37歳)に対し,殺意をもって,刺身包丁でその腹部を1回突き刺すなどし,その後同所から同市o区pq番r先林道へ同人を連行し,同所において,同人に対し,同包丁でその胸部,腹部及び顔面等を多数回にわたり突き刺し,よって,即時同所において,同人を心臓及び肺の刺創による失血並びに気胸により死亡させて殺害した。
第4 被告人は,上記Cと共謀の上,同月14日午前5時ころ,上記林道から東側の山林内に穴を掘り,同穴に上記Bの死体を運び入れて埋め,もって死体を遺棄した。
(法令の適用)
罰条
判示第1の行為
刑法60条,220条
判示第2の行為
刑法204条
判示第3の行為
刑法60条,199条
判示第4の行為
刑法60条,190条
刑種の選択
判示第2の罪
懲役刑
判示第3の罪
有期懲役刑
累犯加重
刑法59条,56条1項,57条(前記の各前科があるので,判示第1ないし第4の各罪の刑についてそれぞれ3犯の加重[判示第3の罪の刑については同法14条2項の制限内])
併合罪の処理
刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い判示第3の罪の刑に同法14条2項の制限内で法定の加重)
未決勾留日数の算入
刑法21条
訴訟費用の不負担
刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
<監禁,傷害>
・ 被告人は,Gの監禁,傷害の犯行動機として,前刑服役中に舎弟としたGの再三にわたる裏切りに対する制裁を加えることとか,Gを暴力団組織から離脱させるなどして立ち直らせることにあった旨を供述しているが,要するに舎弟としたGを自己に服従させるという暴力団特有の反社会的で理不尽な考えに基づくものであり,酌量の余地は全くない。
・ 拉致,制裁に用いる自動車,手錠,ガムテープ,果物ナイフを事前に用意し,共犯者Bに対して,拉致の手段,方法について具体的で詳細な指示を出すなど,本件監禁,傷害は周到に計画された犯行といえる。
・ 監禁の犯行態様は,Gと五分の兄弟分であったBが,嘘をついて油断させて呼び出し,自動車に乗せて手錠をかけた上で片刃ノコギリを使って脅すなどして帯広市内から札幌市内まで連行した上,共犯者の部屋において,現役の暴力団員を中心とした共犯者らが見張るなどして逃げられないようにしたという狡猾かつ粗暴なものであって,監禁した時間も合計で約8時間と非常に長く,悪質である。
・ 傷害の犯行態様は,手錠とガムテープで拘束されて抵抗できない状態のGに対し,いきなりその左頬を上記果物ナイフで切りつけ,共犯者らから止められた後も金属製パイプでGの頭部を十数回殴打したという,卑劣かつ執拗で危険なものであって,悪質である。
・ 傷害の結果は,全治約1か月間の顔面切創及び頭部打撲傷という重傷で,治ゆしても左頬の傷痕は残るとされている。加えて,札幌に向かう車中で,被告人から,「お前の命もあと3時間だ。最後に何を食いたい。お前を切り刻んで,魚のえさにしてやる。」などと言われたり,札幌市内の共犯者方に着いて目隠しを外されたとたんに顔面をナイフで切りつけられたりしたGが感じたであろう恐怖や屈辱も量刑上考慮する必要がある。このような理不尽な犯行により,消えない傷を顔面につけられたGが,捜査段階においては「納得できない。」などと述べていたのも当然である。
・ 監禁については,被告人は,自己の欲求を実現するため共犯者らを巻き込み,終始積極的かつ主導的役割を果たしており,その刑責は,共犯者の中で最も重い。
<殺人,死体遺棄>
・ 被告人は,Bが自分を裏切って故意にGを逃がし,その結果,すでに堅気となっている自分がGの所属する暴力団組織から命を狙われるという窮地に追い込まれたと思い,報復としてBの殺害を決意し,共犯者方に呼び寄せたBの腹部をいきなり包丁で1回突き刺したところ,Bから,現役の暴力団員である自分に対しこれ以上のことをしたらどうなるかわかっているのかという趣旨のことを言われ,舎弟からこのようなことを言われたことがなかったので,更に激高し,B殺害の決意を固めたなどと述べるが,このような身勝手極まりない動機に酌量の余地は全くない。
・ 事前に凶器として用いる刺身包丁を購入し,巧みな嘘をついてBを共犯者方に呼び出した上で犯行に及んでおり,その計画性も高度といえる。
・ 殺人の犯行態様についてみると,被告人は,共犯者C方において,刃体の長さが約20センチメートルの刺身包丁で,Bの腹部を1回突き刺し,さらに,左太もも付近を刺してえぐって抜いた。その後,ガムテープでBの口を塞ぎ,ベルト等を使ってBの身動きを封じた上,車のトランクに押し込んで人気のない林道まで運んだ。そして,Bを車のトランクから降ろすとすぐに,まずはBの右目を狙って包丁で突き刺し,胸部,腹部等を力を込めて多数回突き刺して致命傷を与え,更には,Bが息を吹き返した場合に備えようとの考えで,左目をも2度突き刺している。詳述するのもはばかられるほど凄惨で冷酷無比な犯行であって,悪質極まりないと言うほかない。
・ 人一人の生命を奪ったという結果は,何より重大である。無防備な状態でいきなり腹部や太もも付近を包丁で刺され,ガムテープで口を塞がれるなどした上で車のトランクに押し込められて山林内に運ばれ,人気のない林道内において抵抗できない状態で命乞いをするいとまも与えられずに突然右目を刺され,続いて胸部,腹部を複数回刺された結果,非業の死を遂げたBの無念,肉体的精神的苦痛,恐怖は想像を絶する。
・ かかる非業の死を遂げた上,遺棄行為などによって更に損傷が加えられたBの遺体を見た遺族の精神的な衝撃が大きいのももっともであり,遺族が厳しい処罰感情を有しているのも当然である。にもかかわらず,遺族に対する十分な慰藉の措置はとられていない。
・ 被告人は,B殺害を思いとどまらせようとした共犯者Cに対し,その身体に包丁を突きつけて半ば強制的に協力を承諾させて犯行に引き込み,その後も終始積極的かつ主導的な役割を果たしており,その刑責ははなはだ重い。
・ Bの死亡を確認するためにその左耳をそぐなどした上,Bの着衣を燃やし,犯行に用いた手錠や包丁を川や海に捨てるなどの罪証隠滅行為をしたりという犯行後の情状も悪い。Bの遺体を遺棄した死体遺棄の犯行も,自分達の殺人の犯行を隠蔽しようとしてしたものであり,その遺棄の態様も人の遺体に対する畏敬の念などみじんも感じられないものであって,強い非難に値する。
<一般情状>
・ 前刑出所後,半年足らずで本件各犯行に及んでいる。
・ 暴力団員特有の反社会的な考えが強固で根深いことがうかがわれ,規範意識の鈍麻は明らかである。
・ 人命軽視事犯に対する一般予防の観点も量刑上考慮する必要がある。
<有利な情状>
・ Bについては,被告人による本件一連の犯行の発端となった監禁の共犯者(しかも,実行犯として中心的な役割を果たしている。)であって,見ず知らずの第三者が被害者となったような通り魔的な犯罪とは,量刑評価においては差異が生じると言わざるをえないこと。
・ 各公訴事実について詳述し,反省の弁を述べている。
・ 2万円の贖罪寄付をしていること。
・ 前刑での刑務所出所後,短い期間ではあるものの,まじめに稼働していたこと。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑 懲役25年)
(裁判長裁判官 井口実 裁判官 馬場純夫 裁判官 吉岡透)