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札幌地方裁判所 平成19年(ワ)1972号 判決 2008年4月17日

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の自動車を引き渡せ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

第2当事者の主張

1  請求原因

(1)  原告は立替払い等を業とする会社である。

(2)  原告は、平成18年4月14日、被告との間で、被告が札幌日産自動車株式会社(以下「販売会社」という。)から、別紙物件目録記載の自動車(以下「本件自動車」という。)を購入した代金300万円について、以下の内容を含む立替払契約を締結した(甲1)。

ア 立替払い

原告は、被告に代わって、上記代金300万円から下取車価格170万円を控除した残金130万円を販売会社に立替払いする。

イ 支払方法

被告は、原告に対し、上記立替金130万円に分割手数料7万8425円を加算した合計137万8425円を、平成18年5月から平成22年4月まで、毎月27日限り2万8700円(ただし初回は2万9525円)ずつ支払う。

ウ 期限の利益喪失約款

被告が支払を停止したときは、期限の利益を失う。

エ 遅延損害金 年6パーセント

オ 所有権留保

① 本件自動車の所有権は、販売会社に留保され、原告が販売会社に立替払いしたことにより、登録名義が販売会社であっても、所有権は、原告に移転する。

② 被告が分割金の支払を怠ったときは、被告は原告に対し、本件自動車を直ちに引き渡す。

カ 清算

被告が期限の利益を失ったときは、原告は、引渡しをうけた本件自動車について、財団法人日本自動車査定協会その他公正な機関の評価に基づく評価額をもって、本件立替払契約に基づく一切の債務及び自動車の回収、保管、査定、立替金など被告が原告に対して負担する債務に充当することができる。

(3)  原告は、昭和57年10月1日、販売会社との間で、以下の内容を含む立替払いの基本契約を締結した(甲3)。

ア 販売する自動車の所有権は、売買契約締結後、原告が販売会社に立替払いするまでは、販売会社に留保され、原告が立替払いすると同時に販売会社から原告に移転し、留保される。

イ 販売会社は、顧客が原告に対する一切の債務を完済した後の顧客への所有権移転登録手続を円滑に行うため、自動車の所有権が原告に移転された後においても、販売会社名義で所有権登録を行うことを承諾する。

(4)  原告は、平成18年4月14日、販売会社に対し、130万円を立替払いした(甲1、3、4)。

(5)  被告は、平成18年12月25日、代理人弁護士を通じて債務整理開始通知を発して、支払を停止した。

(6)  原告は、被告に対し、所有権に基づき、本件自動車の引渡しを求めたが、被告は、原告の別除権を認めないとして、その引渡しを拒んでいる。

(7)  よって、原告は、被告に対し、所有権に基づき、本件自動車の引渡しを求める。

2  請求原因に対する認否

(1)  請求原因(1)は認める。

(2)  請求原因(2)は認める。

(3)  請求原因(3)は不知。

(4)  請求原因(4)は不知。

(5)  請求原因(5)は認める。

(6)  請求原因(6)は認める。

3  抗弁(登録不備の権利主張)

(1)  被告は、平成19年5月23日、札幌地方裁判所において、小規模個人再生手続の開始決定を受けた。

(2)  被告は、民事再生法45条に基づき、原告が、本件自動車について、所有権移転登録を経由するまで、その所有権取得を認めない。

4  抗弁に対する認否

(1)  抗弁(1)は認める。

(2)  抗弁(2)の権利主張を被告がしていることは認める。

5  再抗弁(登録具備)

(1)  本件自動車について、販売会社が、所有権登録を経由している。

(2)  争点記載のとおり、販売会社の登録をもって、原告は所有権の主張ができると解すべきである。

6  再抗弁に対する認否

(1)  再抗弁(1)は認める。

(2)  再抗弁(2)は争う。争点記載のとおり、原告自身が登録名義を有しない以上、民事再生法45条の要件を充たさない。

第3争点

本件の争点は、本件自動車について、登録名義を有しない原告が、民事再生法45条の規定にかかわらず、その所有権を主張できるかである。

1  原告の主張

(1)  原告は、請求原因記載のとおり、販売会社が有していた別除権(所有権留保)を立替払いにより取得しており、販売会社の別除権は、同社が登録名義を有することから、この時点で、登録を有する別除権が成立しており、原告は、その地位を承継したものである。

(2)  また、実質的にも以下の理由により、販売会社名義の登録による別除権の行使を認めるべきである。

ア そもそも販売会社に登録名義を残すのは、以下の理由からである。

① 速やかな登録の実現

信販会社は、登録手続を販売会社に依頼することが多いので、手続を重複させずに、簡潔に登録を済ませることができる。

② 各種変更、抹消、解除時の登録

自動車については、販売後も、販売会社と顧客との間では、修理、整備、車検その他で密接な関係が続くので、顧客の代替、下取り、再販希望、完済時の登録などに容易に対応することができ、登録変更手続では、所有名義が販売会社にあることからスムーズに移転登録が可能となる。

さらに、販売会社は、登録を通じて信販会社経由の顧客を把握し、自社販売先顧客と合わせてサービスの提供を実施することができる。

もし、信販会社が、販売した自動車の登録をすると、センター集中管理となり、信販会社と顧客との関係、販売会社と顧客との関係が分かれ、自動車の現認と書類の取寄せが別になり、手続が煩雑になる。

また、顧客自身がなすべき手続が増える。例えば、信販会社は、顧客から本人確認書類を徴求し、変更、解除に必要な書類を顧客に郵送する。それらにより、顧客が車検証、ナンバープレート、自動車本体等を持ち込んで、登録手続を行うことになる。

③ 顧客の事務や費用の軽減

もし、信販会社が、販売会社からの移転登録、完済までの間の各種変更登録、完済後の移転登録などの手続をすべて担い、この間の登録管理をすることになれば、従前に比べて多額の費用がかかり、顧客が負うべき手数料が増加する。

また、信販会社と顧客との関係が遠いため、手続の度に厳密な本人確認が必要となり、顧客は証明書類の提出や車検証等の提出を求められ、信販会社からの書類郵送で時間をとられ、登録手続は顧客が担うか、別途、信販会社の機関に出向くことになり、顧客は、煩雑な手続と時間と費用を強いられる。

④ まとめ

以上のとおり、販売会社に登録を留保する方法は、顧客、販売会社、信販会社の3者にとって、有用かつ合理性があり、現在まで、問題なく運用されてきた実務である。販売会社が登録名義を持つ所有権留保特約を有するクレジット契約の標準約款は、通産省が「標準的な約款」と承認したものを業界として踏襲しており、各クレジット会社の所有権留保特約は、ほとんどの会社が同一の条項になっている。

イ クレジット会社と再生債権者との関係

① 民事再生法45条は、破産法49条(旧破産法55条)に対応する規定であり、破産法49条は、「不動産又は船舶に関し、破産手続開始前に生じた登記原因に基づき破産手続開始後にされた登記は、・・・・その効力を主張することができない。」と規定している。

この規定の趣旨は、破産手続開始決定後においては、不動産、船舶、自動車等の登記・登録を要する財産については、移転登記・登録を認めない、すなわち、登記・登録を請求しても認めないし、登記・登録を備えてもその効力を否定するということである。

② 一般原則によれば、例えば、破産手続開始決定前に、債務者から不動産を購入した者は、所有権移転登記を備えていなくても、売主である債務者には所有権を主張することができる。これは、当事者であり、対抗関係にないからである。

しかし、管財人に対しては、買主は所有権を主張することができない。なぜなら、管財人は、買主との関係では第三者とされ、対抗要件を備えておく必要があるからである。

それでは、買主が、破産手続開始決定後に移転登記を備えていれば管財人に対抗することができるのであろうか。

対抗関係の一般原則によれば、対抗できる、すなわち、権利主張することができるということになるが、このようなことを認めたのでは、管財人、ひいては、その背後にいる破産債権者の利益を不当に害することになる。

そこで、破産法49条は、破産手続開始決定後の登記の効力を否定して管財人、破産債権者の利益を確保しようとしたのである。

その結果、前例の買主が破産手続開始決定前に移転登記を備えていなければ、その目的物は破産財団に組み込まれて配当の原資になるのである。

民事再生法45条もこれと同趣旨の規定であり、再生手続開始決定後の登記の効力が否定されて、再生債権者の利益は確保されるのである。

③ 本件についてみると、本件自動車は、再生手続開始決定前から販売会社が登録を有しており、その間、被告は一度も登録を有していなかった。

そうすると、少なくとも、被告と販売会社との関係でみれば、すなわち、原告の関与がなかったと仮定すれば、本件自動車に民事再生法の適用はないと解される。

従って、再生債務者である被告はもとより、再生債権者においても、本件自動車について権利を主張することはできない。

言い換えれば、本件自動車は、再生債権者の弁済原資とならないと解される。

④ そして、販売会社から権利を譲り受けた原告についても、同様に解されるべきである。

なぜなら、もともと、本件自動車について再生債権者の権利が及ばなかったのであり、再生債権者の弁済原資になっていなかったのであるから、原告が販売会社から権利を譲り受けて、権利主体が代わっても、その行為によって、再生債権者の利益を害することにならないからである。

従って、原告の権利を認めても民事再生法45条の趣旨に反しない。

⑤ なお、原告に登録がない点について考察する。

まず、前述したとおり、販売会社に登録名義をとどめる方法について、顧客を含めた三者間契約があり、顧客の利益にこそなれ、不利益をもたらすことはない。

さらに、被告は、本件自動車について、登録を有しないだけでなく、実体的権利も有しないのである。

なぜなら、被告は、本件自動車について、停止条件付権利を有していたに過ぎず、しかも、それは期限の利益喪失により確定的に失っているからである。

そして、被告の背後にいる再生債権者においても、被告と同様の地位、立場にあると認められるべきである。

従って、原告と被告及び再生債権者は対抗関係に立たないから、原告の登録の有無は問題外である。

ウ 再生における再生債務者の取扱い

① 民事再生法45条の解釈について、札幌地方裁判所再生係は、所有者登録のない信販会社の債権を別除権付債権と認めず、その理由として、登録を怠った(敢えて登録をしない)ローン債権者を保護する必要がないとしている。

② しかし、再生債務者が、割賦販売で購入した自動車について、完済まで所有権を留保されること、そのため、登録名義が販売会社やローン債権者に留保されることは、社会一般に当然のこととして認められてきたものであり、このことによって、信販会社が再生債務者に害を及ぼしたり、高利を課したりしているわけではない。

さらに、所有権留保については、再生債権者も認識しており、販売会社名義の登録で、公示されている。

販売会社は、自動車の販売及び登録手続を含めたアフターサービスを担い、信販会社は、代金の立替払いをすることで、販売会社に早期に決済資金を回し、顧客には、割賦払いの方法で自動車の使用を可能とした。

つまり、販売会社と信販会社がそれぞれの役割を果たしつつ、ともに顧客の便宜を図っている。

③ 上記再生係は、信販会社と販売会社が一体であるとの前提に疑問があるので、今後は一体論を撤回し、別除権を認めない取扱いに変えたというものであるが、前提が一方的解釈に基づくものであり、当事者間の契約自由の原則を理由なく排斥するものであって、容認できない。

④ もし、再生手続において、自動車を再生債務者の所有であるとするならば、売却処分して再生債権者への弁済資金に回すべきものであるが、再生債務者が信販会社に移転登録を求めても、登録名義を有しない信販会社は移転登録に応じられず、結局、再生債務者は、当該自動車を売却できず、そのまま使用し続けるという結果になる。

⑤ 再生手続において、自動車代金を共益債権とすることは、ほとんど認められていない。

再生手続前に一度も自己名義の登録を有したことがない再生債務者が、再生手続の開始によって、所有者になったことと同様の利益を、すなわち、従前にも増して自由に当該自動車を使用できることになるとの利益を得るのは、極めて不当である。

信販会社から所有権を剥奪し、自動車使用権を再生債務者に与えることは、再生債務者を過度に優遇するものであり、このような結論は、再生手続が本来目指すところではないはずである。

エ 本件に即してみれば、被告と販売会社との間で、本件自動車について、割賦販売契約が締結され、代金完済まで、本件自動車の所有権は販売会社に留保され、被告への所有権移転は、代金完済を停止条件とするとの合意が成立した(甲3第8条、甲1契約条項第6条、第7条)。

一方、原告と販売会社との間では、本件自動車の所有権は、原告に移転し、被告が、割賦販売契約に基づく一切の債務を完済するまでは、原告に留保され、登録名義は、販売会社に留めるとの合意が成立し、被告はこれを承諾した(甲1契約条項第6条、第7条)。

その後、被告は、平成18年12月25日に支払を停止し、同日、期限の利益を失った(甲5)。

契約では、被告が支払を停止したときは、被告は、本件自動車を原告に引き渡す旨の約定がある(甲1契約条項第11条、第8条)。

原告は、被告代理人に対し、本件自動車の引渡しを求めたが、被告はこれに応じなかった。

民事再生法45条を被告主張のように解しても、被告が、再生手続開始決定前に、原告による自動車の引渡請求を拒むのは違法である。

原告が、本件自動車の引渡しを求めたのは、民事再生手続開始決定前であるから、販売会社の登録が原告の登録と同視される契約(甲1契約条項第6条)は、当然有効であり、担保物の引上げであれ、所有権に基づく引上げであれ、原告の請求は適法であった。

なお、自動車の登録名義を原告名義に変えることも、理論上はできたが、陸運局の手続には車検証の添付が不可欠であり、被告がこれに協力するはずがないので、名義書換は事実上、不可能であった。

このように、被告は、原告の請求に応じないという違法行為を続けた状態で、平成19年5月23日の再生手続開始に至り、ここで民事再生法45条により、本件自動車を原告に返還しなくても良いと主張するのである。

民事再生の正義公平をうたいつつ、被告の利益に終わる以上のような結果は、再生手続を悪用したものといえ、許されるべきではない。

本件立替払契約は、平成18年5月であり、分割返済48回のところ、9回支払っただけであり(合計25万9215円)、債務整理に入って支払を停止し、本件自動車の返還を拒んだものである。

被告の主張によれば、民事再生手続における清算価値(144万円)のほとんど(84.5パーセント)を本件自動車の評価額が占めており、再生手続を、自動車使用継続のために選択したのではないか、との疑念も生ずる。

加えて、本件自動車は、平成19年6月現在、原告の査定で、138万8000円であり、その差額26万8700円は精算して被告に返還されたはずの事案である(甲7)。

本件自動車は、本体価格300万円のニッサンセレナの新車である。平成18年車の下取り価格170万円が控除されたので、所要資金は130万円で済んだ。現在、被告は、この新車を自由に使用している。

被告は、これまでも、今後も自動車所有名義を得ることができない。

従って、被告の自動車使用権限は、民事再生手続内だけに存するものと言わざるを得ない。

(3)  以上の原告の主張の骨子は、民事再生手続開始決定前から対抗要件を具備している自動車については、民事再生法45条の適用はないということであり、これを整理すれば、以下のとおりである。

ア 民事再生法45条は、端的に言えば、債務者の財産について、対抗要件を具備していない者が、民事再生手続開始決定後に登記・登録を取得して債務者及び再生債権者に対抗し得ることを防ぐことにある。

別言すれば、再生手続開始決定後における目的財産の減損を防いで再生債権者の利益を確保しようとするものである(公正・公平の原則)。

本件自動車についていえば、民事再生手続開始決定前に販売会社において登録を有しているのであるから、少なくとも販売会社は、被告及び再生債権者に対抗できる状況にある。つまり、民事再生法45条の適用はない。

そして、原告は、この販売会社の有する権利を単に承継取得するに過ぎないのであり、その意味で、客観的状況は何も変わらないのであり、その取得によって、被告及び再生債権者の利益をことさら害するものではない。

従って、原告の権利取得は、何ら法の趣旨に反していない。

ちなみに、販売会社は、本件自動車を譲渡しており、その点で、権利を失っているようにみえる。しかしながら、二重譲渡の法理に認められるように、公示の原則上、登録を移転しない譲渡人は、完全な無権利者にはならないとされている。販売会社は、登録名義を残しており、その点で、完全な無権利者とはいえないから、本件自動車について、対抗力は、完全には失われていない。

イ 原告に対して、民事再生法45条の適用を認めるとすれば、次のとおり、不合理な結果が生ずる。

① 本来、被告の権利は、所有権が留保されているから、停止条件付的なものにすぎない。そして、被告が代金を完済できなければ条件不成就により完全に権利を失うことになる。

② そうすると、仮に原告の立替払いがなければ、売主である販売会社は、被告に対して、本来自動車の取戻しを請求できるのである。しかるに、原告が立替払いをすると、民事再生法45条によって、原告の権利は否定され、結果的に被告の権利になってしまうのである。

③ しかし、本来、条件付的な権利しか有していない被告が、完済もしていないのに、完全な権利を取得することは不合理である。別言すれば、立替払いがなければ、被告は権利を失っているのに、立替払いされたことにより完全な権利を取得するのは不合理である。

④ 結局、民事再生法45条の適用を認めることは、原告の犠牲において、被告、再生債権者の利益を認めることになり、法の理念とする公正・公平の原則に反することになる。

ウ 代位弁済との比較における不合理

① 代位弁済と立替払いは、制度的には異なるが、他人のために弁済し、求償権を取得、担保権を確保するという点では実質的に異ならない。

そして、代位弁済について、民事再生法45条の適用があるとすれば、立替払いと同様の不合理な結果を生ずるが、後述するとおり、破産手続についてではあるが、代位弁済については、手続開始決定後の担保権取得(付記登記)に効力を認めている。つまり、代位弁済については、民事再生法45条と同旨の破産法49条の適用はないとされているのである。

② 代位弁済については、民事再生法45条の適用を認めると次の不合理が生ずる。

保証人が、抵当権付債権者に対して、代位弁済をすると、代位規定(民法499条から501条)に基づき、抵当権を取得(付記登記)する。

しかし、保証人の責任が現実化するのは、ほとんどの場合、債務者が破綻、すなわち再生手続開始の申立てをした場合である。この場合に、民事再生法45条の適用があるとすると、付記登記は、手続開始決定後になるため、抵当権は認められないことになる。

しかし、これでは、保証人は救われず、代位規定は、形骸化されたのと同じである。このように、代位弁済について、民事再生法45条の適用を認めると、元々抵当権によって制限された不動産を取得するにすぎなかった債務者が、保証人の犠牲により、全く制限のない不動産を取得することになるのである。これは極めて、不合理である。

③ 破産手続において、上のような不合理を認めていない。すなわち、破産手続においては、破産手続開始決定後に抵当権を取得(付記登記)した場合にも効力を認め、別除権として扱っているのである。つまり、民事再生法45条と同旨の破産法49条の適用は認めていない。

④ このように、破産手続において破産法49条の適用を排し、代位弁済者(保証人)の別除権を認めるのであれば、民事再生手続においても、民事再生法45条の適用を排し、立替払者(信販会社)の別除権を認めるのが相当である。

エ 基礎となる契約関係

① 原告と販売会社間の立替払いに関する基本契約では、

a 被告と販売会社間の自動車売買契約成立後、原告が立替払いをするまでは、本件自動車の所有権は、販売会社に留保する。

b 原告が、販売会社に立替払いをするのと同時に、所有権は、原告に移転し、原告に留保される。

c 本件自動車の登録名義は、原告に所有権が移転した後も、販売会社に留保される。

② 販売会社と被告間の売買契約では、

a 売買契約の成立により、本件自動車の所有権は、販売会社に留保される。

b 代金(頭金等を控除した残額)の支払は、原告の立替払制度を利用する。

③ 原告と被告との間の立替払契約では、

a 原告が、被告に代わって、本件自動車の売買代金を、販売会社に立替払いし、それと同時に、本件自動車の所有権は、販売会社から、原告に移転し、被告が債務を完済するまでの間、原告に留保される。

b 本件自動車の登録名義は、販売会社に留めることを、被告は承諾する。

④ 以上の、②と③の契約は、密接に関連しているが、別個の契約である。

(4)  原告に別除権が認められる理由

ア 以上について、原告に別除権が認められる理由という観点から整理すれば以下のとおりとなる。すなわち、本件のポイントは、被告が登録を有していない状況の下で、再生手続開始決定前に販売会社が登録名義を留保していれば、販売会社から権利を譲り受けた原告は、登録名義の取得なくして別除権を行使できるかということができる。別言すれば、担保権者が別除権者として保護を受けるためには、再生手続開始決定前に登記・登録を具備する必要があるが、その登記・登録は、前権利者である販売会社が具備することで足りるということである。

問題を単純化するために、原告の立替払いがないことを前提に、被告と販売会社間の問題として考えれば、この場合、被告に登録名義がなく、販売会社が登録名義を有するから、販売会社が勝ち、この場合、民事再生法45条の適用はなく、販売会社は、当然に別除権を行使できる。

次に、上記と同様な状況下で、再生手続開始決定前に、原告が販売会社から所有権留保付権利を譲り受け、登録名義は販売会社に留保されている場合について考えると、そもそも、販売会社の時点で生じた権利関係が、原告に移っただけであり、再生手続開始決定前に生じていた被告の客観的状況は何も変わらないのであるから、原告自身の登録の有無にかかわらず、原告についても、別除権の行使が認められてしかるべきである。

このように考えても、民事再生法45条の趣旨には反しない。なぜなら、同条の趣旨は、他の債権者が、再生手続開始決定後に、登録を得て逆転勝ちをすることを防ぐことにあり、上記のように、再生手続開始決定前に、再生債務者が負ける関係にある以上、その趣旨に反することはないからである。

言い換えれば、再生債務者が登録を有していれば、その財産は、一般財産に含まれているとの外観があるから、再生債権者がこれを信頼するのは当然であり、保護に値する。例えば、再生手続開始決定前に債務者から不動産を購入した者が、再生開始時に所有権移転登記を未だ備えていなかったとか、あるいは、自動車の所有権留保付売買において、登録名義が買主である債務者に移転している場合などである。

本件においては、被告は、当初から登録を有しておらず、権利者であるとの外観はなかったのであり、登録上、所有権留保のあることは明らかなので、再生債権者の信頼の基礎はなく、原告の別除権を認めても民事再生法の趣旨には反しない。

翻ってみると、本件において、原告は、販売会社から直接所有権を取得したと解せられるのである。そうだとすると、販売会社の権利は、被告の権利のように再生債権者のための目的財産にはならないのであるから、民事再生法45条の適用を受けないと解することは十分に可能といえる。

なお、上述のとおり、破産手続では、破産手続開始決定後に抵当権を取得し、付記登記を得た場合に、その効力を認め、別除権者として取り扱っているのである。

イ 次に、被告が主張する「不実の登録」について反論する。

所有権留保は、実質的には担保権であるとしても、法律構成としては、所有権移転の方式がとられている。

販売会社が原告に権利を譲渡すると、権利は原告に移転するから、純理論的には、販売会社の権利は消滅することになる。

しかしながら、公示原則が採用されている物権変動は、意思表示のみでは、完全な効力は生じていないのであり、対抗要件を備えることにより、はじめて排他的効力が生じる。従って、販売会社が権利を譲渡し、その権利が原告に移転しても、登録を移転しない限り、販売会社は完全な無権利者にはならないのである。

このように、販売会社は、完全な無権利者ではないのであるから、その登録は不実な登録ではない。

なお、所有権留保を実質的に担保権と構成しても結果は同じである。

例えば、抵当権者に対して代位弁済をすると、弁済者は、当該抵当権について代位が認められ、代位の効果として抵当権が移転する。この場合、純理論的に考えると、弁済により被担保債権は消滅し、付従性により抵当権も消滅するはずである。

そうすると、抵当権の移転も、付記登記も認められないのかという疑問が生じるが、法は代位者に付記登記を認めている。所有権留保について、この付記登記制度が認められていれば問題はないが、そのような定めはない。そこで、結局は、法形式的には所有権移転方式をとらざるを得ないのであり、上述と同じ説明になる。

ウ また、信販会社に別除権を認めるのは、以下の点でも合理性がある。

① 登録制度が認められていない軽自動車については、信販会社の別除権が認められている。登録制度が認められる自動車についても、上記考えに基づけば、結局、軽自動車・一般自動車の区別なく信販会社の別除権が認められることになり、統一的な処理が可能となる。

② 被告主張のように、被告は自動車の引渡しに応じる必要はなく、従って、その使用継続が認められるとすると、例えば、破産手続においては、財団に属する財産を換価処分して破産債権者に配当することが必要となるが、被告は登録を有せず、権利移転に必要な譲渡書も有しておらず、換価処分をすることができず、統一的な処理ができない。

(5)  原告の別除権行使の方法等

ア 上記のとおり、販売会社の登録は、原告名義の登録の元となるものであり、原告が別除権者として保護を受けるための登録といえ、権利保護要件を充たす。

そして、原告は、別除権を行使する方法として、再生手続開始決定があった際、販売会社の登録を証明する文書、立替払いを証する書類(立替払契約書)及び所有権を証する書類(譲渡関係書類)を添付して、別除権の届出を行うこととなる。

イ 被告が主張する他のクレジット会社の所有権移転登録は、すべての自動車について、各クレジット会社が行っているとは聞いていない。

原告においても、自己名義で所有権移転登録を行うことはある。それは、主として販売会社との関係であり、販売会社が日産系列以外(いわゆる信用できない販売店)の場合は、原告名義で登録をして、あらかじめ保全をする必要がある。

ただし、このような販売会社とは取引を止めることが多いので、実例がほとんど残らない。原告は、日産系列の販売会社扱いが大半であるため、販売会社との信頼関係が深く、販売会社名義で登録を留保し、互いに協力し合っている現状にある。

被告は、債権者と登録名義が形式的に一致しなければ、別除権を認めないと主張するが、経済社会では、生産、販売、金融等の各部門を分社化する方向にある。現に、自動車登録を一元管理するため、別会社を設立している信販会社がある。会社経営効率化の一端でもあるが、この登録方法により、消費者が損害や不利益を被ることはない。被告の主張は、経済界の慣行、利益追求方法、分社化などの全ての活動を否定するものであり、民事再生法は、同法の下に経済界を再編する目的で制定されたものではないはずである。

ウ もし、原告に別除権を認めないとすると、販売会社名義の登録は、債務者名義と同視される結果になる。

販売会社名義の自動車について、実体法上は、代金完済まで所有権を得ることができない被告が、民事再生手続をとれば、所有権を取得できる結果は、正義・公正に遠いものである。

自動車業界の慣行として認められてきた販売会社に登録を留保する方法について、被告の状況により、途中で原告名義に移転登録ができるのが次善の策であるが、移転登録手続には、陸運局の手続に車検証の提出が必要であり、再交付を受けられるのも被告のみであるなど、被告の協力が不可欠である。

しかし、被告は、協力を拒むので、分割弁済途中での移転登録手続は、事実上不可能である。

今後、破綻状態を秘してオートローンを組み、自動車(特に高額の自動車)を購入し、短期間で再生手続を申し立て、当該自動車を安易に自己のものとする消費者が多くなると危惧される。現に、債務者が支払を遅滞し、原告との間で自動車を引き渡すと合意がされても、代理人が受任すると同時に引渡しを拒否され、民事再生手続に入って、自動車は債務者の手元で使用されるという事案が次々と出現している。

自動車を所有権留保で使用している債務者が、民事再生手続を利用するのは、ほぼ全て小規模個人再生手続である。この場合、債務者は、弁済原資がない場合が多い。このような債務者は、本来、清算価値保障がなく、再生手続開始決定に至らない者といえる。本件に照らしてみると、弁済原資の84パーセントが自動車換価分であり、再生債権者は原告を含めて7社、全て信販会社である。

これら債務者を民事再生手続に乗せるためには、ローン利用の自動車の換価価値を計算上清算価値に加えて推進し、信販会社が犠牲となる現状にある。

エ また、民事再生手続終結後の関係の点でも、自動車を使用している被告は、今後も自動車の登録名義を取得できず、これは、被告が登録名義人の販売会社に譲渡関係書類を求めても、応じてもらえないからである。このような場合、被告から、販売会社に対する所有権移転登録手続が認められるのであろうか。

もし、被告が所有権登録名義を得られるのであれば、再生債務者は、再生手続を経ることで、代金未払いの自動車の所有権を簡単に取得できることになり、全財産を再生債権者に差し出して、経済再生を誓うどころか、欲しいと望んでいた自動車を獲得できるということになる。

倒産法により、債権者は、種々の債権や財産を失うが、これは、債務者が生活必需品を除く換価可能な全財産を処分して再生を図るから許される措置である。ところで、信販会社名義の登録のない自動車について、換価価値相当額を清算金に加えるが、実際には自動車を換価処分することは求めないというのが今の再生手続である。つまり、債務者に自動車利用権という権利を与えるのであり、倒産法により、債務者は新たな権利を取得できるということになり、清算とは裏腹な倒錯した現象が起きてしまう。

仮に、民事再生手続では、所有権移転登録まで関与しないとするのであれば、自動車を、販売会社登録のままで、債務者等によって、乗りつぶされ、その後の抹消登録もできないので、自動車は不法に投棄される恐れがある。登録制度を有する自動車について、換価価値相当額の組入れをもって終わりとする法の適用は、社会的にも大きな問題を残すことになる。

(6)  本件契約についての考察

ア 所有権留保について

① 被告と販売会社の割賦販売契約により、販売会社は、被告が代金を完済するまで自動車の所有権を留保し、被告は、停止条件付権利を取得する(甲1契約条項第6条(1))。

② ただし、代金完済後であっても、被告が販売会社に対する部品代、修理代、立替金等の支払を遅滞しているとき、売買契約解除等その他約定の場合には、販売会社は引き続き自動車の所有権を留保することができる(甲1契約条項第6条(1)ただし書、同条(2)、同第10条)。

③ このように、原告の立替払いによって、留保所有権が原告に移転すると言っても、それは完全なものではなく、販売会社の留保所有権が完全に消滅することが条件となっている。

立替払契約においては、販売会社と原告との間で業務提携契約が結ばれ、いわゆる経済的同一体という密接な関係が認められる。

そうすると、この留保所有権は、事実上、原告と販売会社との共有になるのであり、このような状態の下で、原告に登録を移さなくても、さほど不合理な点はないと言える。

④ 以上のような定めについて、従前は、破産、再生手続等において、何の問題も生じなかったし、約定どおりに支払を終える顧客の場合は、今後も別段の問題は生じない。

⑤ 原告に所有権が留保されても、被告は直ちに自動車を入手し、これを利用することができる。ただし、代金完済までは所有権は原告に帰属しており、被告は、条件成就によって所有権を取得する期待権を有するに過ぎない。なお、販売会社に登録があることにより、完済前の自動車の買換えなども容易である。原告の所有権は、担保目的によって制約されたものと考えられるので、換価清算に当たって、剰余金があれば被告に返還される。

⑥ 販売会社は、自社割賦販売に比べ、原告から直ちに代金全額の支払を受けられ、顧客への販売後のサービスもスムースにでき、顧客管理が可能になる。登録は、元々販売会社名義にするのが原則であるので、当初の登録をそのまま留め置くことは、手続を煩雑にするものではない。

イ 同種事件判決(甲8、乙11)は、被告が分割払未了のままであるのに、「自動車につき原告に譲渡担保を設定した」「実質的にみると譲渡担保設定が契約当事者の合理的意思にかなう」と判示する。

しかし、当事者の契約において、所有権留保と明言されており、被告は自動車の登録を有しない。原告が所有権留保契約に基づき、自動車の所有権を有している。原告が、留保した所有権に基づき被告に自動車の引渡しを求めたときは、被告は譲渡担保を主張できないのである(最判昭和58年3月18日判例時報1095号104頁)。

そもそも、所有権留保における留保売主は、もともと自動車の所有権を有しているのであり、その完全な所有権を有していた設定者から、目的物の所有権を移転された譲渡担保の場合とは逆の関係にある。

譲渡担保においては、設定契約における当事者の合意によって、担保財産が特定されるが、所有権留保では、目的物は売買の対象であって、自動的に定まっており、しかも被担保債権たる売買代金と目的物の対価関係は、通常、残代金債権額と目的物との価額との著しい不均衡をもたらさず、一般の譲渡担保のように担保物の価額が被担保債権額をはるかに上回るような事情が所有権留保の場合には見られない。

こうした事情を斟酌すると、本件は、所有権留保そのものであり、留保所有権には、譲渡担保などを全面的に排除する効力が認められるのである(最判昭和49年7月18日判例解説75頁)。

上記のとおり、被告は、所有権留保の約定で自動車を割賦販売で購入したものであり、自動車の完全な処分権を伴う所有権を有していない。

仮に、当事者間に所有権留保の特約がなくとも、自動車の割賦販売は、割賦販売法の適用を受け、同法7条では、割賦販売の方法により販売された指定商品の所有権は、賦払金の全部の支払の義務が履行される時までは、割賦販売業者に留保されたものと推定するとされているし、何よりも本件では、当事者間の契約により所有権留保の特約がされている(甲1)。

従って、本件は、譲渡担保を認定する事案ではない。

ウ 自動車の登録について

本件の契約の下で、自動車について登録が必要とされるのは次の場合である。

① 被告が、代金を完済したとき(販売会社が債権を有するときはその支払を含む。)は、自動車の所有権は被告に移転する(甲1契約条項第7条)。従って、原告あるいは販売会社は、被告に対し、登録を移転する必要がある。

② また、被告が期限の利益を喪失したときは、被告は直ちに自動車を販売会社または原告に引き渡すこととされている(甲1契約条項第11条、第8条)。すなわち、少なくとも、期限の利益を失ったとき-破綻状態が現実化ないし顕在化したとき-は、原告は登録を取得して権利を保全する必要がある。

③ このように、原告は、被告が期限の利益を喪失したときに、具体的、現実的に登録名義を取得する必要がある。

しかし、原告がその前兆を知るのは、被告が支払を遅滞したとき、あるいは、代理人から受任通知を受けたときである。

ところが、本件について見ると、被告は、平成18年12月25日付けで債務整理の受任通知を発している(甲5)。

そこで、原告は、この通知を受領した平成19年1月10日に同代理人に対して自動車の引上げを要請した。自動車の引上げは、登録・査定等を実施するための必要不可欠事項である。

しかし、原告の要請は認められないまま推移し、平成19年2月8日には、被告代理人は引上げを拒否し、平成19年5月7日、個人再生手続開始の申立てがされ、平成19年5月23日、再生手続開始決定がされた(甲9)。

④ 以上の状況に鑑みると、被告が、原告との契約を不履行して自動車の引渡しを拒み、登録・査定に必要な手続を妨害しておきながら、原告は登録名義を有していないと弾劾するのは、信義則に反すると言わざるを得ない。

エ 原告名義の登録の実行について

① 顧客のうち、経済的破綻で民事再生手続をとる者について、民事再生法45条により登録の有無が問題となる。顧客は、民事再生手続の申立後、開始決定があるまでは、立替払契約に基づき、自動車及び車検証を原告に引き渡す義務がある。従前、原告に対する自動車の引渡しは、容易に行われており、原告は、受領後、直ちに売却し、中間省略で販売会社から売却先に移転登録していた。

② しかし、民事再生法が厳格な登録名義を要求するのであれば、自動車の引渡しを受けた原告は直ちに移転登録を行うことが今後の処理方法になる。

③ 破綻する顧客は、全体から見ると極めて少ない割合である。約定どおり支払を終える顧客も含めた全顧客について、破綻を前提に原告名義で登録をすることは、信販会社の機構改革、再編、販売会社の利益減少、顧客の経費負担増等を含めた大きな問題を含んでおり、いつでも登録できたはずという問題では済まないのである。

民事再生手続に際し、原告は、上記①②の方法で被告から自動車及び車検証の引渡しを受けて登録を行い、被告は、再生手続開始決定までの間は、立替払契約を遵守するのが、双方のあるべき姿であると思料する。

(7)  契約の形態別の考察

原告の扱う立替払契約には、次の3種がある。なお、分割払約定、所有権留保、販売会社名義の登録の承認、期限の利益喪失、自動車の引上げ、換価及び充当・剰余金返還等の規定は同じである。販売会社の利益に若干の差はあるので、選択は販売会社に任されるが、原告傘下の販売店では、立替払契約に集約されつつある。

ア 立替方式

原告の基本商品である。本件契約もこの方式である。

イ 債権譲渡方式

旭川等で利用されている商品である。

① 顧客は、販売会社から自動車を割賦販売で購入する。

② 顧客は、①の割賦販売契約成立と同時に割賦販売金が信販会社に譲渡されることを異議なく承諾する。

③ 販売会社に割賦債権譲渡差益(消費税非課税)が計上されるが、販売会社の会計処理が複雑なので、この方式は利用されなくなっている。

ウ 回収保証方式

現在、原告の傘下販売店中、1地区のみが利用している。

① 信販会社が被告の保証人になり、代位弁済をして債権者になる。

② 資金調達を販売会社が行うので、低レートで資金調達が可能であるが、調達リスクは販売会社が負う。回収業務は原告が行う。

③ 被告提出の裁判例(乙11)は、これに類似した方式と思われる。

(8)  同種裁判例(乙11、甲8)について

ア これらの判決は、民事再生法45条1項、2項について、権利関係を適切かつ迅速に調整し、民事再生手続の画一的・集団的な追行を実現するために、客観的に明確な基準により効力主義の当否を画一的・絶対的に決する趣旨であるとしている。

イ 原告の主張は、上述のとおりであり、販売会社の登録は、原告に効力を及ぼし、原告が販売会社の登録を証する書面と契約書及び譲渡証を添付して別除権を届け出て、その権利を行使することにすれば、画一的・集団的な追行に何ら反せず、矛盾はない。

ウ ところで、自動車に関し、民事再生法45条の問題が発生するのは、小規模個人再生手続がほぼ全てであり、再生債務者の利用する自動車は1台という事案に限定されるといっても過言ではない。

本件に即して言えば、再生債権者は合計5社(銀行カード2社、原告を含む信販会社3社)であり、自動車ローンは原告のみであり、民事再生手続の画一的・集団的追行を強く意識する再生事件でないことに鑑みても、原告の主張と民事再生法45条の趣旨とは齟齬がないというべきである。

エ また、上記裁判例は、「本件自動車は再生債権者の弁済原資に全くならないということはできない。」として「このことは、本件自動車の価値が本件債務の残高を上回った場合を想定すれば明らかである。」と判示する。

しかし、契約条項第12条(3)(甲1)によれば、自動車の評価額から本件債務の残高に充当し、余剰金があれば、購入者に返還することになっている。従って、原告に対して本件自動車の返還を認めても債権者の利益は害されないのである。

(9)  被告の主張(4)について

ア 民事再生法38条2項は、あくまで、再生手続「開始」の時であり、債務整理受任の時まで遡るという解釈は許されない。

イ 自動車の引渡しを代物弁済とする被告の主張は認められない。自動車引上げ後、査定・換価・充当し、剰余金があれば精算の上被告に返還するとの条項は、所有権留保の場合にも適用され、そのように運用がされている。

ウ 車検証については、自動車に常備携帯することが義務づけられているものであり、自動車を引き上げると車検証もあり、登録名義書換が可能となるのである。

再生裁判所の対応変更以前は、原告の登録の有無は問われなかったので移転登録を経ていなかったものである。しかし、今後の再生手続の取扱いの推移を見ながら、被告と合意した契約条項(甲1)に基づく自動車の引上げ、査定、換価、充当を行う時間があるか、あるいは、登録移転を先に行うかは、原告が状況を見て選択できるものである。

留保所有権を有する原告が、破綻状態にある被告に、自動車引上げに加えて、あえて、「移転登録を行う」と告げる必要はない。

エ 原告が、他の再生債権者を害しないと主張したのは、弁済額の多寡について述べたものではない。所有権留保と知れていれば、再生債権者は、自動車が弁済原資にならないと覚悟しているので、利益は害されないとの趣旨である。原告の犠牲において他の再生債権者が多額の弁済金を得るのが公平と言えるのかという問題である。

2  被告の主張

(1)  民事再生法45条の規定に照らせば、所有権登録を有しないローン債権者の債権は、別除権付債権とは認められず、原告の主張は失当である。

ア 民事再生法45条は、「不動産又は船舶に関し再生手続開始前に生じた登記原因に基づき再生手続開始後にされた登記・・・は、再生手続の関係においては、その効力を主張することができない。」と規定しており、「その効力を主張することができない」との部分が、「対抗できない」としなかったのは、民事再生手続中においては、登記・登録を一般的な対抗要件としてではなく、端的に権利主張要件としたものである。

実質的妥当性の点から見ても、第1に、登記・登録が具備されていない財産は、一般財産に含まれているとの外観があるから、一般債権者は、一般財産に含まれていると信頼することが相当と認められる。他方、担保権者としても、目的財産について、登記・登録を得ていなければ、他の債権者に対して権利主張ができないという危険を負っている以上、再生手続によって、再生債務者の財産から自己の満足を得ようとする債権者との関係でも、登記・登録を得ておかなければ、その権利主張ができないとすることが妥当であるといえる。

第2に、再生手続開始により、一般債権者は、再生債務者の財産に対する強制執行が一律に禁止される(民事再生法39条1項)にもかかわらず、開始決定後の担保権者による登記・登録の具備を可能とし、その結果、担保権者が優先弁済を受けることができるとすれば、いかにも不公平である。再生手続開始時点で登記・登録を具備していない担保権者は、その優先権が確立されていないものとして、一般債権者と同列に扱うのが相当である。

第3に、再生手続開始の申立てないし同開始決定の直前には、詐害的な権利の変更が行われることが多いことは、実務上顕著であり、この実情は、破産手続においては、さらに顕著であり、開始時の登記・登録名義により一律に権利の帰属を決するのが相当である。

以上の実質的な妥当性を背景として、民事再生法45条は設けられたものであり、その実質的な妥当性に照らしても、再生手続開始までの間に登記・登録を具備していなかった担保権は、再生手続においては、担保権として扱われないと言うべきである。

イ 原告は、本件自動車について、再生手続開始決定前に、販売会社が登録を有し、少なくとも販売会社は被告及び再生債権者に対抗できる状況にあるとか、原告は、この販売会社の有する権利を単に承継取得するに過ぎないのであるから、その取得によって、被告及び再生債権者の利益をことさら害するものではないと主張する。

しかし、個品割賦購入あつせんにおいては、売買契約、立替払契約が成立すると、販売会社は、その直後に原告から代金一括払いを受け、それにより、販売会社が被告に有していた所有権留保は消滅するのである。すなわち、被担保債権の消滅によって、所有権留保が消滅するのである。

再生手続開始時点において、自動車の登録上の所有者が販売会社にあるという登録は、不実の登録であり、その登録をもって、少なくとも販売会社は被告及び再生債権者に対抗できる状況にあるということは、合理性を欠く主張である。

原告は、二重譲渡の法理を持ち出して、販売会社が本件自動車を譲渡した後も、完全な無権利者とはいえないから、本件自動車についての対抗力は完全に失われていない旨の主張をしているが、主張自体失当である。販売会社が弁済を受けて、被担保債権が消滅すれば、販売会社の被告に対する所有権留保は消滅するのであり、販売会社の登録が残存しているからといって、所有権留保が消滅せず、対抗力を持ち続けるということは、担保権の付従性の原則に反するのである。

ウ また、原告は、保証人が抵当権付債権者に対して代位弁済をする例を挙げて、本来、抵当権により制限されていた所有権が、付記登記が再生開始決定後であることを理由に、別除権である抵当権が認められなくなり、完全な所有権となることは極めて不当であり、また、破産手続においては、破産手続開始決定後に、付記登記を得た抵当権取得者を別除権者と扱っていることを根拠に、実質的にこれと異ならない立替払者についても、別除権者と認めるべきである旨主張する。

しかし、本件のような個品購入あつせん取引において信販会社が販売店に一括払いする場合と、債務者が経済的に破綻して保証人が債権者に保証債務を履行する場合とは、原告が言うように同じには考えられない。

まず、個品割賦購入あつせん取引の仕組みは、

① 顧客は、販売店に対し、商品購入と立替払契約を申し込む。

② 販売店は、信販会社に対し、立替払契約の申込みがあったことを通知し、顧客の信用調査依頼をかける。

③ 信販会社は、顧客の信用を調査する。

④ 信用調査をクリアしたら、信販会社は、販売店に対し、立替払契約を承諾することを通知する。

⑤ 販売店は、顧客に対し、商品を引き渡す。

⑥ 信販会社は、販売店に対し、商品販売代金を一括して、立替払いする。

⑦ 顧客は、信販会社に対し、立替払代金に手数料を加えた金額を分割(一括)払いする。

となっている。

そして、第1に、顧客が、販売店との間で売買契約を締結し、信販会社との間で立替払契約を締結すると、直後に、信販会社は、販売店に商品代金を一括払いし、販売店は、商品代金支払請求権の満足を受ける。その結果、販売店が、顧客に対し、商品販売代金の支払いを請求することはない。実際、本件においても、販売会社が、顧客である被告に対して、自動車販売代金の請求をすることは予定されておらず、このことは、契約書の文言上も明らかである。これに対して、保証債務を履行する場合は、債権者が、主債務者に対し、金銭等を請求し、主債務者が債権者に金銭支払債務の履行をすることが、本来的な履行方法として存在するのであり、個品割賦購入あつせん取引とは大きく異なるところである。

第2に、個品割賦購入あつせん取引においては、販売店が信販会社に対して代金支払債務の履行を求めるのは、売買契約・立替払契約締結の直後であり、この点で、主債務者である顧客が破綻するなどして、代金支払債務の履行がされない状況になってから履行が求められる保証債務の履行の場合とは明らかに状況が異なる。

第3に、保証債務の履行の場合は、保証人が保証債務を履行するのが、主債務者の経済的破綻等にかかることから、弁済による担保権の移転を公示する担保権登記の付記登記等は、破綻に由来する再生手続開始決定の後にならざるを得ない状況が想定され、保証人の救済のために、民事再生法45条の適用を及ぼさないことは首肯できるが、個品割賦購入あつせん取引においては、信販会社が代金を一括払いするのは、立替払契約の締結直後であり、信販会社は、代金の支払いにより取得した商品の所有権留保について、その対抗要件を備えることが十分可能であるから、民事再生法45条の適用を及ぼしても、酷な結果とはならない。本件においても、平成18年4月14日、ニッサンオートクレジット契約が成立すると、その直後に、原告は、販売会社に下取車両価格を差し引いた自動車販売代金を一括払いしたのであり、本件自動車の所有者登録をすることができた。被告が、個人再生手続の申立てをしたのは、平成19年5月7日であり(乙9)、上記契約締結から1年以上も経過しているのである。このように、対抗要件を具備する可能性の有無の点で、個品割賦購入あつせん取引の場合と保証債務の履行の場合とでは、大きく異なるのである。

原告は、販売会社が登録を変えないという販売方法の妥当性について、縷々述べているが、端的に言えば、原告が販売会社からの移転登録をする手間と費用を惜しんで、登録を怠ったということに他ならない。現に、原告と同じように自動車ローンを行っている各クレジット会社は、自社を自動車の所有者として登録し、別除権者として優先弁済を受ける権利の確保に努めている。その意味において、所有権登録を怠った原告は、再生手続によって再生債務者の財産から自己の満足を得ようとする債権者との関係において、別除権者として優先弁済を受ける権利資格を有しないと言わざるを得ない。

(2)  原告の主張(4)に対する反論

ア 原告は、所有権留保が販売会社から原告に移ったとしても、被告の客観的状況は何も変わらないから、対抗問題として、販売会社に負ける被告は、原告に対しても当然に負ける、すなわち、別除権を行使されるなどと主張し、また、民事再生法45条の趣旨は、再生債務者が登録を取得して対抗問題で勝てる状況にある場合に、移転登録を得て逆転勝ちするのを防ぐことにあるので、本件のように当初から登録を有していなかった被告に権利者であるとの外観はなかったのであるから、原告の別除権を認めても同条の趣旨に反しないと主張する。

しかし、原告自身、民事再生法45条の登記・登録には、権利保護要件としての機能を有するとも主張している(原告の主張(5)ア以下)ことから明らかなように、同条の登記・登録を対抗問題として捉えるのは当を得ない。

本件を、権利保護要件の問題として捉えた場合、本問題は、倒産手続において、ある権利がどのような要件を備えた場合に、どのように手続上処遇するのかという場面となる。すなわち、民事再生法45条は、自動車の登録について、再生手続開始決定前に生じた登録原因に基づき、再生手続開始決定後にされた登録の効力は、再生手続との関係においては、その効力を主張できないとし、原則として、再生手続開始決定時点で登録を具備していなかった再生債権者は保護しないことを宣言したものである。本件のように再生手続開始時点で登録を具備していなかった原告に別除権を認めることはできないというのが、同条の趣旨である。

イ 原告は、販売会社の登録が不実の登録ではない根拠として、販売会社が権利を譲渡し、その権利が原告に移転しても、登録を移転しない限り、販売会社が完全な無権利者にはならないと主張する。

しかし、この原告の主張は、民法177条の対抗の理論と、民法176条の意思主義からくる無権利法理との関係について議論される不完全物権変動説を前提としていると推察されるが、なぜ、このような二重譲渡の法理の議論が出てくるのか疑問である。前述のように、本件を権利保護要件の問題として捉えているのであれば、その疑問は一層深まる。

ウ 原告は、軽自動車について、信販会社の別除権が認められる以上、統一的な処理の観点から、一般自動車についても信販会社の別除権が認められて然るべきであるなどと主張する。

しかし、軽自動車の場合、そもそも道路運送車両法4条の適用除外であり、自動車登録ファイルに登録を受ける必要がないことから民事再生法45条の適用はなく、別除権の判断は、動産の対抗要件の問題とならざるを得ない。そのため、占有改定の引渡しを受けていると解される信販会社は別除権者として扱うことができるという理論的根拠が存在するのである。このように軽自動車の場面と本件のように登録制度が認められる一般自動車の場面とは全く異なるのであり、理論的根拠を無視して、統一的な処理を図ろうとするのは妥当ではない。

エ 原告は、破産手続においては、代位弁済者が、破産手続開始決定前に抵当権の付記登記を具備していなくても、別除権の行使が認められるという議論をそのまま本件に適用できると主張する。

しかし、本件のような個品割賦購入あつせん取引において信販会社が販売店に代金を一括返済する場合と、債務者が破綻して保証人が債権者に保証債務を履行し、付記登記を備える場合とは、上記(1)ウ記載のとおり、利益状況が大きく異なるのであり、本件に代位弁済者の抵当権の付記登記の適用場面をスライドさせることは合理性を欠くものである。

(3)  原告の主張(5)に対する反論

ア 原告は、本件のように自動車の登録が販売会社に留保され、信販会社が登録を備えていない場合に、信販会社が別除権を行使することを認める条件は、再生手続開始決定時に自動車販売業者の登録があること並びに信販会社がその登録と立替払いを証する書類(立替払契約書)及び所有権を証する書類(譲渡関係書類)を添付して別除権の届出を行うことであると主張する。

しかし、本件のような自動車ローン会社が、立替払契約書(甲1)及び譲渡関係書類(甲4の1から3)を保有していることは至極当然のことであり、原告主張の条件では、通常の自動車ローンの場面では、常に条件を備え、登録を怠った自動車ローン会社は、十中八九、別除権が認められる結果となるのであり、条件として機能しない。被告としては、再生手続開始決定時点において、自動車ローン会社が登録を備えていない以上、いかなる条件においても、一律に自動車ローン会社の別除権行使は認められるべきではないと主張する立場であるが、仮に原告の主張に沿って、例外的に登録を備えていない自動車ローン会社の別除権行使が許される場面を想定しても、少なくとも自動車ローン会社が登録を怠ったことをカバーできる事情、すなわち、再生手続開始決定時点までに自動車ローン会社が登録を備えることができなかったことについて、やむを得ない事情などが条件として必要であると言うべきである。

イ 原告は、自動車販売会社名義の自動車について、消費者が民事再生手続をとれば、所有権を取得できるという結果は、正義・公正に遠いものと主張する。

しかし、原告に対する本件自動車の所有権移転は、原告の被告に対する債権の保全目的でされたにすぎず、本件自動車が再生債権者の弁済原資になる余地がないということはできない。現に、被告の場合、本件自動車の時価額は、121万6000円であるところ(乙3)、被告の清算価値は、本件自動車と他の財産である預金や生命保険解約返戻金等と合算して約144万円であり、再生計画による返済総額は、この清算価値を基準に算出されている。個人再生手続は、継続的な収入があり、真面目に弁済の努力をしようとする意欲もある個人債務者について再生を図る制度であり、この制度の下では、原告が主張する所有権留保について、対抗要件の具備を怠ったため、原告は別除権の行使ができず、一般の再生債権者として権利変更を受け、再生計画に従った弁済を受けるのである。よって、その結果が、原告から見て正義・公正に遠いものと主張しても、それは、権利変更を受ける一般再生債権者からの視点と同様であり、個人再生手続制度の趣旨の前ではやむを得ない結果といえる。すなわち、原告の主張する弊害は、そもそも原告自身が別除権者として優先弁済を受ける権利の確保を怠っていたことに起因するものであり、個人再生手続の下で、原告が一定の不利益を被り、その反面として、再生債務者である被告が事実上の利益を受けることもやむを得ないと言うべきである。

ウ 原告は、同じく弊害として、今後、破綻状態を秘して自動車ローンを組んで自動車を購入し、短期間で再生手続を申し立て、当該自動車を安易に自己のものとする消費者が多くなることを危惧すると主張する。

しかし、このように消費者が法解釈を悪用して、いわば詐欺的に自動車の所有権を取得するということは、一般の消費者が本件で問題となっている法的議論に精通しているとは考えにくい以上、そのような事態の発生は想像の域を出ない。また、本当にそのような事態を危惧するのであれば、自己名義の登録を備えれば解消するのであり、いわば、容易に解決可能な問題である。

エ 原告は、他のクレジット会社が登録を行っているとの被告の主張に対する反論の中で、原告においても、原告名義で登録をする場合があると述べている。しかし、一方で、原告は、被告が、原告名義の登録を備えることについて、被告が協力を拒むと断じている。その根拠は不明であり、実際、被告は、原告から原告名義への登録に協力するよう求められていない。また、クレジット制度は、経済的に債務者が信販会社から借入れをするものと同様の機能を有しているところ、債務者は、信販会社から、登録を備えることの要請があれば、借主としての立場上、債務者が協力しないということは一般的に考えられないはずである。本件の被告も、仮に原告からそのような協力を求められていれば、当然に応じていた。

そもそも、原告においても、原告名義で登録する場合があるというのであるから、他の多くの自動車ローン会社と同様に、自社を自動車の所有者として登録することは、可能、かつ、容易であり、また、別除権者として優先弁済を受ける権利の確保に努める必要があったと言うべきである。

(4)  原告の主張(6)に対する反論

ア 所有権留保と譲渡担保について

原告は、本件と同種事案の裁判例において、譲渡担保を設定したと判示したことについて、当事者間の契約で所有権留保の特約がされていることや、割賦販売法7条などを理由に、本件は譲渡担保を認定する事案ではないと主張する。

原告の主張の意味は必ずしも明確ではないが、仮に、所有権が留保された事案において、買主が破産した場合、所有権留保について所有権的構成をとり、留保売主に取戻権を認める立場に立つことを意味するとすれば、以下のとおり、それは判例・通説に反するものであり、また、本件で別除権の行使を求めている原告の立場とも矛盾する。

まず、買主に破産手続が開始された場合、留保売主の権利に関する基本的考え方として、①留保所有権を理由として取戻権を認める立場(取戻権説)と、②代金完済を停止条件とする所有権を買主が取得している以上、留保売主が有しているのは、代金債権担保のための担保権にすぎないとして、別除権を認める立場(別除権説)がある。

近時の支配的見解は、その担保価値を重視し、既に買主が目的物について条件付所有権という物権的支配権を取得している以上、留保所有権は、本来の意味での所有権ではありえず、代金債権を担保する目的の担保権の一種であるとする別除権説であるといわれている(札幌高決昭和61年3月26日判例タイムズ601号74頁、最判昭和41年4月28日民集20巻4号900頁)。

ところで、本件売買契約及び本件立替払契約は、1枚の契約書(ニッサンオートクレジット契約書)によって締結されており、その条項には、①被告は、販売会社との間の売買契約に基づき発生した代金を、原告が被告に代わり販売会社に立替払いすることを原告に委託し、原告はこれを受託すること(契約条項第1条(2))、②販売会社に留保されていた本件自動車所有権が、販売会社に立替払いをしたことにより、原告に移転し、被告が本件立替払契約から生じる一切の債務を完済されるまで原告に留保されること(契約条項第6条1項)、③被告が本件債務の支払を遅滞したときは、原告に対する債務の支払のため、被告は原告に対し、本件自動車を引き渡すこと(契約条項第11条、第12条(1))と規定されている。

このように、立替払契約の中には、被告が債務を完済するまで、原告に本件自動車所有権が留保される旨の特約が存するが、本件所有権留保の実質的目的は、あくまでも原告が被告に対して有する立替払債権と原告が販売会社に一括払いしたことに基づく求償債権を担保することにあり、原告の所有権は、これら立替払債権と求償債権を担保するために原告に留保されたにすぎない。

そして、本件自動車に関してされた一連の契約を実質的に見ると、販売会社と被告との間の売買契約の成立によって、販売会社から被告に本件自動車の所有権が移転された後、原告が立替払債権と求償債権を保全するため、被告から本件自動車を目的とする非典型担保権(いわゆる譲渡担保権)の設定を受けたと見ることができる。

このように考えることは、契約当事者、特に、本件自動車の買主である被告の合理的意思にかなうと考えられ、また、本件契約書(甲1)の第11条に、「私が分割支払額の支払を遅滞したとき、又は8条②号から⑪号までのいずれかに該当したときは、会社の担保権保全又は10条(1)項③号による販売会社の求償権保全のため、私は、直ちに車両を一時販売会社又は会社に引渡します。」や、第12条(1)項に、「8条各号のいずれかに該当する事由があるとき、又は一括払の支払を怠ったときは、私が催告がなくとも会社に対する債務の支払のため、直ちに車両を会社に引渡します。」と記載され、それぞれ「販売会社の求償権保全のため」「会社に対する債権の支払のため」との文言が含まれていることとも適合する。

イ 原告は、再生手続開始決定前に販売会社が対抗要件を具備していれば、本件自動車を承継取得した原告は、原告自身が対抗要件を具備していなくても、別除権の行使が認められると主張し、そのように解しても民事再生法45条の趣旨に反しない旨主張する。

まず、民事再生法45条の趣旨が、再生手続開始決定時における債務者の財産を再生債権者の目的財産として確保することにあるという原告の主張については異論がない。

しかし、そうだからといって、再生手続開始決定前に自動車の登録名義が原告ではなく、本件自動車の販売店である販売会社にある場合に、原告の別除権行使を認めることが同法45条の趣旨に反しないということにはならない。

民事再生法は、再生債務者は、再生手続が開始された後も、その業務を遂行し、又はその財産を管理し、若しくは処分する権利を有する(同法38条1項)とし、再生手続が開始された場合には、再生債務者は、債権者に対し、公平かつ誠実に、前項の権利を行使し、再生手続を追行する義務を負う(同条2項)とされており、特定の債権者を有利に扱うことが禁止されている。

そして、多数の債権者の利害が複雑に対立する場面において、再生債務者と債権者との間の権利関係を適切かつ迅速に調整し、債権者間の衡平を害さずに再生手続を画一的・集団的に追行するには、再生手続開始決定時点において、再生債務者と再生債権者との間の権利関係を固定することが必要である。

そのため、同法45条1項を準用する同条2項は、再生手続開始決定前になされた権利の設定、移転若しくは変更は、再生手続との関係では、再生手続開始決定までに登録がないと効力を主張することができないとしたものであり、再生手続開始決定時点における対抗要件の具備という客観的に明確な基準によって、その主張の当否を画一的・絶対的に決定することとし、再生手続開始時点で登録を具備していなかった再生債権者の別除権の効力主張を認めないというのが同法45条の趣旨である。

これを本件について見ると、本件所有権留保は、原告が立替払債権と求償債権を保全するため、被告から本件自動車を目的とする譲渡担保権の設定を受けたと考えるべきである。原告が、被告に対して本件自動車の引渡しを請求するためには、被告から譲渡担保の設定を受けたことを公示する登録(具体的には、原告が本件自動車の所有者であることを公示する登録)を有していることが必要であるというべきである。

そして、再生手続の画一的・集団的な追行という観点から、再生手続開始決定時点における対抗要件の具備という客観的な基準によって別除権の効力主張の当否を画一的・絶対的に決することとした民事再生法45条の趣旨からは、販売会社から本件自動車を承継取得したという原告の主張を前提としても、原告が本件自動車の所有者登録を有していない以上、原告の請求を認めることはできない。

ウ 原告は、本件自動車の登録について、被告(被告代理人)が本件自動車の引渡しを拒んだことによって、登録名義の取得に必要な手続を妨害し、その一方で、被告が、原告は登録を有していないと弾劾するのは信義則に違反すると主張する。

確かに、被告(被告代理人)が、原告に対し、平成18年12月25日付けの債務整理開始通知を発した後、原告からの本件自動車の引上要求に応じなかった事実は認める。

しかし、弁護士が受任通知を発するなどして原告を含む全ての債権者に対して支払停止となった後に、被告が、原告に対してのみ弁済する行為は、再生手続上認められておらず、仮にそのような行為があった場合には、その弁済額を清算価値として財産目録・清算価値計算書に計上しなければならない。そして、対抗要件を具備しない結果、別除権も、取戻権も認められていない原告に対して本件自動車を引き渡すことは、本件自動車を代物弁済することを意味し、同様のこととなる。

よって、被告には、原告からの本件自動車の引上要求に応じなかったことについて、正当な理由がある。

また、原告は、被告に対し、本件自動車の引上要求をしたのは、あたかも債権保全のため自社に登録名義を取得する必要があったかのような主張をするが、原告は、被告代理人に対し、自社に登録名義を取得する必要があるため本件自動車の引上げを要求すると述べたことはなく、単に、分割払いができない以上、本件自動車の引上げを要求すると述べていたにすぎず、原告は、あくまで、立替金債権の支払のために、本件自動車の引上げを要求したと評価できる。

さらに、原告は、車の引上げは登録を実施するための必要不可欠事項であると述べているが、これは事実に反する。

一般に、自動車の登録名義を取得・変更するのに、自動車自体が必要であるなどと聞いたことはなく、販売会社から譲渡書類一式を取得すれば足りるはずである。

以上のとおり、被告が自動車の引渡しを拒む一方で、原告は登録を有しないと弾劾するのは、信義則に反するとの原告の主張は不当である。

エ 原告は、顧客は再生手続申立後、開始決定までは、立替払契約に基づき、自動車及び車検証を原告に引き渡す義務があると主張するが、本件のように登録名義を有していない信販会社に対しては、そのような義務はない。

原告は、従前、原告に対する自動車の引渡しが行われ、受領後、直ちに売却ができている旨主張するが、法的には、このような従前の取扱いを持ち出す意味はなく、民事再生法の趣旨に適合するかを論ずべきであり、被告は、再生裁判所の定めた基準(乙5)に従って、粛々と対応してきただけである。

原告は、全顧客について、原告名義で登録することは、信販会社の機構改革、再編、販売会社の利益減少、顧客の経費負担増等を含めた大きな問題をはらんでおり、いつでも登録できたはずという問題では済まない旨主張するが、既に述べたとおり、現に原告と同じように自動車ローンを行っている各クレジット会社は、自社を自動車所有者として登録しており、また、原告自身、原告においても自社名義で登録する場合があることを認めており、原告においてこれを行えない理由はなく、また、このような方法をとることが、一流企業として、顧客の破綻リスクヘッジとして採るべき姿と思料する。

オ 同種事件の裁判例(乙11、甲8)について、原告は、別除権の行使を認めても、裁判例がいうところの民事再生法45条1項、2項の趣旨に矛盾しないと主張するが、その主張は、同裁判例の内容を読み違えている。

すなわち、同裁判例は、再生債務者に対し権利を主張する者が多数存在し、これら債権者と再生債務者との間の権利関係を適切に調整することが困難なことも少なくないと考えられるとした上で、再生手続においては、債権者の利害が複雑に対立する場面があること、再生債務者と債権者との間の権利関係を適切かつ迅速に調整し、再生手続の画一的・集団的な追行を可能とするには、再生手続開始決定時点で、登録の具備という客観的に明確な基準により、効力主張の当否を画一的・絶対的に決することが重要であると述べているのである。

例えば、再生債務者の利用する自動車が1台という事案であっても、原告のような自動車ローンの債権者の他に、再生債務者が本件自動車を譲渡担保に供していた場合、その譲渡担保権者と自動車ローン債権者の両者が別除権を主張し、再生債務者との間でどちらの債権者に別除権を認めるのか、あるいは、どちらにも認めないのかといった複雑に利害が対立する場面も十分に想定できるのである。

よって、本件のように、再生債務者の利用する自動車が1台という事案であっても、債権者の権利関係を適切かつ迅速に調整し、再生手続の画一的・集団的な追行を実現するためには、再生手続開始決定時点における登録の具備という基準により、別除権の効力主張の当否を画一的・絶対的に決することが、民事再生法45条の趣旨である。

カ 原告は、原告に対し本件自動車の返還を認めても債権者の利益は害されないと主張するが、この主張も事実に反する。

本件自動車を原告に返還する場合と、返還しない場合とを比較すれば、返還する場合、すなわち、原告の別除権行使を許容する場合は、本件自動車の評価額121万6000円が清算価値から引かれる結果、原告の債権全額を弁済した剰余金9万6700円が発生したとしても、清算価値は、総額で100万円を下回ることになるから、民事再生法の規定に基づき、債権者への支払原資は100万円となり、他の再生債権者はこれを再生債権額で按分した支払を受けることになる。具体的には、

債権者A 24万6828円

債権者B 20万0223円

債権者C 48万5957円

債権者D 6万7124円

となる。一方、返還をしない場合、すなわち、原告の別除権行使が認められない場合は、本件自動車の評価額121万6000円を含む清算価値総額約144万円が支払原資となるから、これを上記4名に原告を加えた再生債権者の再生債権額で按分すると、上記4名については、

債権者A 28万6207円

債権者B 23万2167円

債権者C 56万3486円

債権者D 7万7833円

となり、明らかに、再生債権者の利益は害されないという原告の主張は誤りである。

なお、被告は、平成19年5月23日、小規模個人再生手続の開始決定を受け、その後、原告を含む各債権者から何ら異議が出されることなく再生手続は進行し、平成19年8月29日、原告に対し本件自動車を返還しないことを前提に作成された再生計画が認可され、平成19年9月26日、再生計画の認可決定が確定した。被告は、再生計画に従い、平成19年12月から、原告に対しても返済を開始し、これまで原告はこれを受領し続けている。

第3当裁判所の判断

1  請求原因のうち、原告が、立替払い等を業とする会社であること(請求原因(1))、原告と被告との間で、被告が販売会社から本件自動車を購入する代金について立替払契約を締結したこと(請求原因(2))、被告が支払停止したこと(請求原因(5))及び被告が本件自動車の引渡請求を拒んでいること(請求原因(6))は、当事者間に争いがなく、原告が販売会社との間で立替払いの基本契約を締結していること(請求原因(3))及び原告が上記立替払契約に基づいて販売会社に対して立替払いをしていること(請求原因(4))は、証拠(甲1、3、4)及び弁論の全趣旨により認められ、以上によれば、請求原因事実をすべて認めることができる。

2  そして、被告が、小規模個人再生手続の開始決定を受けたこと(抗弁(1))、民事再生法45条に基づき、被告は、原告が登録を経由しない限り原告の権利を認めない旨の権利主張をしていること(抗弁(2))は当事者間に争いがなく、また、本件自動車については、販売会社名義の所有権登録があること(再抗弁(1))も、当事者間に争いがない。

3  そこで、本件の争点である、本件自動車について、登録名義を有しない原告が、民事再生法45条の規定にかかわらず、その所有権を主張できるかについて判断する。

(1)  民事再生法45条1項本文は、不動産または船舶に関し、再生手続開始決定前に生じた登記原因に基づき再生手続開始決定後にされた登記は、再生手続の関係においては、その効力を主張することができない旨定め、同条2項は、1項の規定は、権利の設定、移転もしくは変更に関する登録について準用すると規定している。

(2)  そして、本件自動車は、登録自動車であるから(乙1)、その権利の設定、移転もしくは変更に関する登録について、民事再生法45条の適用を受けるが、本件自動車については、販売会社名義の登録があるのみで、原告は、所有権移転の登録を有しない。

(3)  この点に関し、原告は、販売会社の登録を援用するほか、実質論を展開して、自己の権利行使を認めるべきである旨主張する(原告の主張(2))。販売会社の登録についての判断を後述することとし、民事再生法45条の解釈にも関係することから、まず、原告の実質論の主張(原告の主張(2))について検討する。

(4)  民事再生法45条の趣旨は、再生をめぐる権利関係を、再生手続開始決定の時点で固定し、その後の事情によって、権利者間の平等、衡平が害されるのを防止する趣旨にある。つまり、実体的な権利変動について、それが、登記・登録を要する行為である場合は、その登記・登録の有無により、再生手続開始決定時において、これを画一的に確定し、迅速で安定した再生手続の実現を図ったものである。

(5)  そのため、同条は、登記・登録の前提となる原因関係、すなわち、再生債務者との契約関係の内容を問うことなく、再生手続開始決定時点において具備されていない登記・登録を、開始決定後にしても、その効力を否定するものであり、例外は、民事再生法45条1項ただし書において、登記・登録権利者が、再生手続開始の事実を知らないでした登記・登録については、この限りではないとして、調整を図っているのみである。

(6)  以上の趣旨及び規定の仕方に照らせば、原告が、実質論を展開して自己の権利の前提となる、諸手続の便宜、顧客サービスでのメリット、顧客管理、顧客の事務費用の軽減等、販売会社に登録名義を残す意義等を主張しても、それ自体は、民事再生法45条が適用されるか否かについて、その結論を左右するものではないというほかない。

(7)  同様に、原告は、被告が締結した契約内容に基づき、被告が義務を負っていることや、被告との間の関係が対抗関係に立たないことをもって、民事再生法45条の適用がないことの根拠とし、あるいは、被告の主張が信義則に反する等の主張をするが、これらも、上記趣旨に照らせば失当というほかない。

(8)  そもそも、民事再生法は、再生債務者の有する財産関係、債権債務関係、別除権の有無等について、画一的処理をはかるために、同条を設けているのであるから、特定の債権者との契約関係、すなわち、特定の当事者間の合意をもって、民事再生法45条の適用を除外することはできない。

(9)  結局、民事再生法45条は、以上のような実質論を各債権者ごとに個別に調査判断することを排除し、画一的に処理するために規定されたものと解され、民事再生法45条が適用されるか否かを判断するには、原告が必要とする登録が、同条に定める、権利の設定、移転もしくは変更に関する登録にあたるか否かで決するほかなく、これに該当する場合は、再生手続開始決定前にこれを備えるべきものというほかない。

4  そこで、原告が主張する販売会社の登録の援用、すなわち、販売会社が有していた別除権(所有権留保)を立替払いにより原告が取得した旨の主張の当否について判断する。

(1)  上記主張は、民事再生法45条との関係に即して言えば、登録の対象となる権利は、所有権留保という別除権、設定者は買主である被告、権利者は売主である販売会社であり、販売会社は、自己を所有者として登録を済ませているから、この時点で民事再生法45条の要件を充たし、原告は、その権利を販売会社から承継取得したとの主張であると解される。

(2)  確かに、この点に関し、被告と販売会社との間で、本件自動車の販売契約及び立替払契約においては、代金完済まで、本件自動車の所有権は販売会社に留保され(甲3第8条、甲1契約条項第6条、第7条)、原告と販売会社との間では、本件自動車の所有権は、原告に移転し、被告が、割賦販売契約に基づく一切の債務を完済するまでは、原告に留保され、登録名義は、販売会社に留めるとの合意が成立し、被告はこれを承諾した(甲1契約条項第6条、第7条)こと等、これに沿う証拠が認められる。

(3)  しかし、一方で、本件自動車に関する契約は、ニッサンオートクレジット契約書(甲1)1通により行われ、同契約書によれば、クレジット契約の成立日は平成18年4月14日であり、同契約書の契約条項第2条によれば、立替払契約は、会社が所定の手続をもって承認して販売会社に通知したときに成立し、売買契約は、立替払契約の成立と同時に成立し、立替払契約が不成立のときは、売買契約は成立しないものとされていること、上記第2条によれば、売買契約の効力は、車両の登録日、注文による販売会社の修理等の着手日、車両の引渡日のいずれか早い日から発生するとされていること、上記契約書の契約条項第4条によれば、売買契約の効力発生日に代金等を販売会社に支払い、所要資金は、立替払制度を利用することとされていることが認められ、平成18年4月14日に売買契約と立替払契約が成立し、同日、立替払いが行われていることが認められる(前記請求原因(2)から(4)の認定)。

以上によれば、基本的に、売買契約と立替払契約は同時に成立し、売買契約の効力が発生する時点では、立替払制度の利用により、販売会社は代金を回収できる仕組みとなっていることが認められ、現実に、原告が立替払いを実施し、その回収のために所有権留保を必要とする状況が発生する時点では、販売会社の代金債権は消滅し、販売会社の段階で、代金債権を担保するための所有権留保を発生させる前提を欠く状況にあることが認められる。

(4)  次に、本件自動車に関する契約では、車両本体価格から値引額を控除し、これに付属品等の価格や付帯費用額を加えた金額から、下取車価格を引いた金額である130万円を所要資金とし、この所要資金額を原告が販売会社に立替払いし、被告は、原告に対し、この所要資金額に分割払手数料として7万8425円を加えた137万8425円を、平成18年5月から平成22年4月まで、毎月27日限り2万8700円(ただし、初回は2万9525円)ずつ支払うものとされていること(甲1、2)、この所要資金額に分割手数料を加えた金額全体について、その債務が完済されるまで、所有権が原告に留保されるとされていること(上記契約書の契約条項第6条)が認められる。

以上によれば、所有権留保により担保される被担保債務は、販売会社が被告に対して有する代金支払債権のみならず、被告が原告に支払うべき分割手数料をも対象としていることが認められ、担保権としての所有権留保とはいうものの、販売会社の被担保債権と原告の被担保債権とは異なることが認められる。

もとより、分割手数料は、自動車自体の販売代金に比べて、少額ではあるが、そもそも、原告は、立替払いを業とするための会社であり、代金を販売会社に対して一括払いし、販売会社と顧客に便益を与える一方で、その対価として、顧客から分割手数料を取得する行為は、その会社の事業の本体的部分を占めるものであり、これを所有権留保の対象とし、本件自動車の所有権を留保する意義は、販売会社が顧客である被告に対して所有権を留保する意義を超えた、いわば自己の事業利益の確保のための行為でもあることが認められる。

そもそも、販売店と顧客との売買契約における売買代金の支払いに関して、クレジット会社等が契約者として関与する意義は、クレジット会社が売買代金を一括払いすることにより、販売店は即時に代金を回収することができることから、長期の代金回収に煩わされることなく販売に専念することができ、顧客は、一括払いや銀行等の金融機関からの融資を得ることなく分割払いの利益を得ることができ、クレジット会社は、その利益を提供する対価として手数料・利息を徴収して利益を上げることができるということにあり、これら経済的分業の趣旨に照らしても、クレジット会社は、これら三者契約において、自己の利益のために契約当事者となり、その利益を確保するために担保を有するものというべきである。

実際、原告自身、経済社会では、生産、販売、金融等の各部門の分社化する方向にあることを認めており(原告の主張(5)イ)、分社とはいえ、原告も独立した営利企業として存在する以上、上記のような利益状況は、原告にも当てはまり、原告は、立替払いを業とするための会社として、自己の利益を追求するために、本件自動車の契約関係に関与したものと認められる。

(5)  以上のとおり、本件自動車に関しては、平成18年4月14日、売買契約と立替払契約が同時に成立し、同日、原告が販売会社に車両代金を一括払いしたことが認められ、この時間的同時性や、原告の所有権留保の被担保債権に立替手数料が含まれ、自己の利益のために契約関係に入ったこと及び三者による契約の基本的機能に照らせば、原告の有する所有権留保は、上記三者による契約がなされて代金が即日決済された時点で、自己の利益のために設定した担保権であると認めるのが相当であり、これは、民事再生法45条に規定する「権利の設定」に該当するから、その効力を民事再生手続において主張するためには、権利の設定者である原告自身の登録を要するというべきである。

(6)  この点に関し、原告は、所有権留保は、再生債権者も認識しており、販売会社名義での登録で公示されている旨主張する(原告の主張(2)ウ②等)。

しかし、公示の機能を果たしていると評価しうるためには、その所有権留保の実態があり、これに合致した登録があることが必要なところ、上記認定のとおり、売買契約と立替払契約が同時に成立し、売買契約の効力発生日に代金が一括決済され、即日、所有権は原告に移転するとされている本件契約内容に照らせば、販売会社名義の所有権登録に合致する同社の所有権留保の実態はなく、公示の機能としての実質的要件を欠くと言わざるを得ない。

なお、販売会社の所有権留保は、売買契約の解除のとき等に機能する場合が想定されている(甲1契約条項第6条、第10条等)が、このような販売会社の所有権留保は、立替払いが約定どおり履行されて、自動車代金及び立替手数料を割賦支払いにして、その返済を担保するという原告の所有権留保とは明らかに想定する状況を異にし、実際、本件では、そのような所有権留保は行使されておらず、結局、このような販売会社の所有権留保が販売会社名義の登録で公示されていることをもって、原告の所有権留保が公示されていることと同視することはできない。

また、公示されている登録内容の側から検討しても、本件登録内容によりどのように権利関係が認識されうるかといえば、販売会社の所有権登録があるといっても、それは、現実にその時点で販売会社の所有車両そのものである場合もあれば、クレジット会社が関与しない直接の売買契約があり、その代金が支払未了で販売会社に所有権留保されている場合もあれば、割賦代金が完済されても移転登録が未了の場合もあれば、現金決済されても転売等を考えて販売会社名義の登録のままとしている場合もあり、その公示内容から、代金の決済の有無、未払債務を担保するための所有権留保の有無等が当然にわかるわけではなく、一義的にクレジット会社の所有権留保があると当然に認識することはできないのであり、その意味で、これが当然に公示されており再生債権者に認識している旨の原告の主張は、採用できない。

本件においては、上記認定のとおり、現実には、原告が被告からの支払いを担保するために所有権留保をしているのであるから、端的にその旨の公示をすることが、権利関係の実態を表すものとして公示制度の趣旨に沿うものであり、このように解することが、実体として法律的権利変動を起こした者は、その旨の公示の責務を果たすべきであるという登記・登録という公示制度の基本的仕組みにかなうものである。

もとより、契約自由の原則に基づき、種々の利益状況を勘案して、現実には移転登録をせずに、販売会社名義のままとすることは、当事者の自由であり、その意味で、原告が実質論として主張する意義(原告の主張(2)等)があることは十分理解できるが、そのような契約をしたからといって、民事再生手続との関係で公示義務が免除されるものではなく、このことは、既に判断したとおり、民事再生法45条が、実体的な権利変動について、それが、登記・登録を要する行為である場合は、その登記・登録の有無により、再生手続開始決定時において、これを画一的に確定し、迅速で安定した再生手続の実現を図ったものであるという当事者間の合意の拘束力を超えた制度趣旨から出たものであることから明らかであり、これを当事者の合意により排除することは、同条が、登記・登録の前提となる原因関係、すなわち、再生債務者との契約関係の内容を問うことなく、再生手続開始決定時点において具備されていない登記・登録を、開始決定後にしても、その効力を否定するという明確な基準を設けた趣旨を没却するものである。

なお、原告は、原告の立場を、抵当権の移転を受けて付記登記が未了である場合になぞらえ、販売会社の登録が抵当権設定登記に相当し、原告がこれについて付記登記を得る立場に相当すると主張しているが、抵当権の場合、その設定登記自体から、別除権であることは明白であるのに対し、本件販売会社の登録は、所有者登録であって、外形上、当然に担保権の表示とは言えず、その表示のみからは、上述のとおり、多義的な権利関係が想定されるのであるから、これを単純に同視することはできず、そもそも、上記判断のとおり、販売会社における担保としての所有権留保は、売買契約と立替払契約が同時に成立し、売買契約の効力発生時に一括払いがされ、販売会社の代金債権が消滅するという点に照らすと、原告が承継取得すべき独立の担保権が発生しているという前提自体に問題があり、この点でも抵当権設定の場合と同視するのは相当でない。

(7)  自己の所有権留保が販売会社からの承継であるとの原告の主張は、上記契約文言を根拠とするほか、同種事件の裁判例が、立替払業者の担保を譲渡担保であるとの構成を示唆したことを批判していることに照らすと、承継取得との構成をしなければ、原告が所有権を取得する経過が法的に説明できないとの主張を前提にしている可能性があるので、念のため、この点について付言する。

確かに、もともと、原告は、その商号から明らかなように、販売会社が行っていた自動車販売契約について、売却と代金の債権回収を分離するために分社化され、割賦販売契約における代金部分を担う機能を有することになったものであるから、それを担保するための所有権留保も販売会社のものを引き継いでいるという主張は、その会社の由来に沿うものであるという点で理解はできるが、現実に、分社化されて独立の法人となった以上、その歴史的経過は、当然に法律関係に反映することはできず、法的には、他のクレジット会社と異なるものではなく、これを特に別異に解するのは、同じ立替払い等を業とする会社間に法的不平等を生じるものであって採用できない。

そして、本件の自動車販売契約は、売買契約と立替払契約が同時に成立し、売買契約の効力発生と同時に原告から販売会社への代金が一括払いされるものであるから、所有権の移転について意思主義を採用している民法の下では、法的構成としては、三者間の合意によって、販売会社から原告へ所有権を移転することは可能であり、この合意は、三者同時にであれ、順次であれ、内容を了承している以上行うことができる。そもそも、所有権移転の権利が、販売会社から原告へ移るとの文言を設ける法的意味は、所有権留保の権利が原告にあることと、顧客である被告に完全な所有権がないことにあり、原告が有する所有権留保と全く同じ権利が、一旦、販売会社の下で発生して、原告がこれを承継取得するという迂遠な構成をする必要はなく、同時に代金決済を受けてしまう販売会社の法的立場に照らせば、端的に、三者の合意により、販売会社は、一括して支払いを受け、立替払業者である原告が、被告から割賦による支払いを受け、これを担保するための所有権留保の権利を有する関係が発生すると解すれば足り、敢えて、原告が主張するような所有権留保の承継とか、あるいは、被告が主張するような譲渡担保の構成をとる法的実益はないというべきであり、本来、この実体に即した原告の担保権の公示がなされるべきであることは、前記判断のとおりである。

(8)  以上のとおり、原告は、本来、再生手続開始決定前に、公示の原則に従って、自己の担保権の効力を主張するための登録をなすべきものであったというほかないが、このような結果は、原告にとって酷なことを要求するものではない。

立替払いを利用する自動車の販売を行うことについて当事者全員の合意がある状況下では、契約の時点において、売主である販売会社、買主である被告、一括払いをして割賦による立替払金の回収をする原告との間で、本件自動車の登録をめぐって、利害の対立はなく、原告への登録は、その時期や方法について、任意の合意が可能であり、また、書類の徴求についても、何らの支障はない。

民事再生法45条のように権利の設定、移転もしくは変更について効力主張のために登記・登録を要求する規定であれ、民法177条のように不動産に関する物権の得喪及び変更について対抗要件として登記・登録を要求する場合であれ、いずれも、これらの権利の設定等を行った時点で、登記・登録が可能であり、これを怠ったことについて公示義務に反するものとして、対抗できなかったり、あるいは、効力の主張ができない法的仕組みになっているところ、本件の場合、上記認定のとおり、自己の所有権留保の担保権取得について、当初から登録が可能であるにもかかわらず、これをしなかったというのであるから、上記公示の責務を果たしたか否かで決するにふさわしい利益状況にあるというほかない。

実際、他のクレジット会社においては、自己の所有権留保のために登録を経由していることが認められる(乙10の1から3)。

この点について、原告は、原告においても、自己名義で所有権移転登録を行うことはあることは認め、それは、主として販売会社との関係であり、販売会社が日産系列以外(いわゆる信用できない販売店)の場合は、原告名義で登録をして、あらかじめ保全をする必要があるためであり、ただし、このような販売会社とは取引を止めることが多いので、実例がほとんど残らないのであって、原告は、日産系列の販売会社扱いが大半であるため、販売会社との信頼関係が深く、販売会社名義で登録を留保し、互いに協力し合っている現状にある旨主張する(原告の主張(5)イ)。

しかし、原告は、立替払い等を業とする独立した法人なのであるから、このような会社間の実質的な関係に基づく差異の主張は、法的には意味がなく、そもそも、販売会社との信頼関係があること自体は、民事再生手続における、他の再生債権者との関係では何ら意味を有せず、登録の要否に関する結論を左右するものではない。

(9)  再生債権者は、再生手続が進めば、権利変換により、法律の規定等により定められた基準額を、それぞれの再生債権の割合で按分して、分割して返済を受けるものであり、再生債務者が一定額を超える財産を有しているときは、その財産額を清算価値として、支払原資の基準とするため、基本的に、財産が増えれば、返済を受けることができる金額が増加する。反面、再生債務者の財産であっても、これが担保権の対象とされ、その効力を再生債権者に主張できるものであれば、その財産額は、別除権として、支払原資とはならないから、再生債権者の支払いを受ける金額は減少する。

従って、当該財産に関する別除権の効力を主張できるか否かは、再生債権者の利益に直結するものであり、登録を要する担保権設定行為については、民事再生法45条の規定に従い、再生手続開始決定時までに、登録を要するものである。

実際、本件について言えば、証拠(乙12、13)によれば、被告が主張するように、原告の所有権留保という別除権を認めた場合、本件自動車の評価額121万6000円が清算価値から引かれる結果、原告の債権全額を弁済した剰余金9万6700円が発生したとしても、清算価値は、総額で100万円を下回ることになるから、民事再生法の規定に基づき、債権者への支払原資は100万円となり、他の再生債権者は、これを再生債権額で按分した支払を受けることになる。具体的には、債権者Aが24万6828円、債権者Bが20万0223円、債権者Cが48万5957円、債権者Dが6万7124円となり、一方、原告の別除権行使が認められない場合は、本件自動車の評価額121万6000円を含む清算価値総額約144万円が支払原資となるから、これを上記4名に原告を加えた再生債権者の再生債権額で按分すると、上記4名については、債権者Aが28万6207円、債権者Bが23万2167円、債権者Cが56万3486円、債権者Dが7万7833円となることが認められ、明らかに、原告の別除権の存在により、再生債権者の弁済を受ける金額が減少するものであって、別除権の存在は、再生債権者にとって、大きな法的利害を有するというべきである。

以上のような再生債権者の利益を考慮すれば、別除権については、登録により、その強力な権利について公示させることにより、利害を調整するのが相当である。

(10)  原告は、もともと、被告は、所有権留保により制約された自動車を利用していたにもかかわらず、民事再生法45条の適用の結果、完全な所有権を有することと同様の扱いを受けることになり、これは正義に反し、また、悪用されるおそれがある旨主張する。

しかし、原告の主張は、およそ別除権の効力が主張できない場合にすべて妥当するものであって、その不利益は、登録によって容易に回避できるものであるから、原告の主張は当を得ない。

また、原告は、被告が本件自動車の引渡し等を拒んだこと等、被告の態度を論難するが、被告の対応は、再生裁判所の定めた基準に従って行動した結果であり、その内容も、原告の所有権留保が担保であること、原告が登録を有しないことから、民事再生法45条に照らして担保の効力を主張できないこと、従って、当該自動車は財産として清算価値に含まれるというものであり、その基礎となった再生裁判所の基準は、上記判断と合致するものであって、これに従った被告の対応を論難するのは相当でない。

5  以上によれば、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 村野裕二)

(別紙)物件目録<省略>

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