札幌地方裁判所 平成2年(わ)687号 判決 1990年10月16日
本店所在地
札幌市中央区大通西八丁目二番地三九
北日本興業株式会社
右代表者代表取締役 草野馨
本籍
札幌市南区澄川四条九丁目四四二番地五
住居
同区澄川四条九丁目一九番六号
会社役員
草野馨
昭和一八年一月一八日生
右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官植村誠出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
1 被告人北日本興業株式会社を罰金一六〇〇万円に処する。
2 被告人草野馨を懲役一〇月に処する。
被告人草野馨に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人北日本興業株式会社(以下、「被告会社」という。)は、札幌市中央区大通西八丁目二番地三九に本店を置き、土木建築の設計施工等を目的とする資本金一億二三〇〇万円の会社であり、被告人草野馨は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人草野馨において、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、工事収入等の除外及び外注費の架空計上などの不正な方法により所得を秘匿した上、
第一 昭和六〇年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が九六八八万四五三九円であり、これに対する法人税額が三七二七万七〇〇円であるにも拘わらず、同六一年二月二二日、札幌市中央区大通西一〇丁目所在の所轄札幌中税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一四六七万七〇八円であり、これに対する法人税額が一七五万七二〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限である同年二月二八日を徒過させ、もつて、不正の行為により被告会社の右事業年度の正規の法人税額との差額三五五一万三五〇〇円を免れ、
第二 同六一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が七〇五三万二八八三円であり、これに対する法人税額が二五九七万四八〇〇円であるにも拘わらず、同六二年二月三日、前記札幌中税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二七九三万八九二円であり、これに対する法人税額が七五九万六〇〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限である同年二月二八日を徒過させ、もつて、不正の行為により被告会社の右事業年度の正規の法人税額との差額一八三七万八八〇〇円を免れ、
第三 同六二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が二億九二一六万五六円であり、これに対する法人税額が一億二六一七万六一〇〇円であるにも拘わらず、同六三年二月二六日、前記札幌中税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二億六二七五万二八四一円であり、これに対する法人税額が一億一三八二万六六〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限である同年二月二九日を徒過させ、もつて、不正の行為により被告会社の右事業年度の正規の法人税額との差額一二三四万九五〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書三通
一 大橋正治、荒木克己(判示第三)、早坂正夫(判示第三)の検察官に対する各供述調書
一 奥山彦幸(判示第一、第二)、中川勇(判示第三)、渡邊豊(同)、高橋敏雄(同)の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 橋場静男作成の答申書(甲35号証、判示第二)
一 菊原益雄、鈴木征夫、橋場静男(甲28号証)、山田義典、小片和男、小野寺孝夫、多田鉄雄、工藤静子、市橋義敬各作成の答申書(判示第三)
一 登記官作成の登記簿謄本
一 大蔵事務官作成の調査事績報告書
一 大蔵事務官作成の工事収入調査書(判示第一、第二)、外注加工費調査書、減価償却の償却超過額調査書(判示第二、第三)、修繕費調査書(判示第三)、消耗品費調査書(同)、租税公課調査書、支払手数料調査書(判示第三)、受取利息調査書、雑収入調査書(判示第二、第三)、支払利息割引料調査書(同)、固定資産売却益調査書(判示第三)、寄附金の損金不算入額調査書(判示第二)、損金計上役員賞与調査書(判示第一、第二)、固定資産除却損調査書(判示第二)、現金調査書、預金調査書、投資有価証券調査書
一 押収してある法人税決議書綴一冊(平成二年押第一七三号の1)
(法令の適用)
罰条 被告会社の判示第一ないし第三につき、各法人税法一六四条一項、一五九条、被告人草野の判示各所為につき、同法一五九条一項(懲役刑選択)
併合罪加重 被告会社につき、刑法四五条前段、四八条二項、被告人草野につき、同法四五条前段、四七条本文、一〇条(判示第一の罪の刑に加重)
執行猶予 被告人草野につき、刑法二五条一項
(量刑の理由)
本件は、被告会社の代表取締役である被告人草野が、被告会社の業務に関し、下請け企業の倒産や工事にクレームがついた場合、あるいは不況となつた場合などに備えて経営の安定を図るべく簿外資金を蓄えようと企て、売上除外、架空外注工事費の計上、固定資産売却益の圧縮等の不正な行為により、所得を秘匿し、虚偽過小の法人税確定申告をし、三期にわたり、被告会社の法人税合計六六二四万一八〇〇円を免れたもので、逋脱額は相当に多額であつて、逋脱率も、平均では三五・〇パーセントであるが、昭和六〇年一二月期は九五・二パーセントにのぼるなど、この種事犯としても罪責・犯情軽視し難いものといわなければならないが、被告会社については、昭和六三年一二月期以降は適正な申告をして納税をしており、本件三期分についても、既に修正申告を行い本税を全て納付ずみであつて、本件が発覚したことにより、青色申告の承認を取り消されたほか、新聞報道もされ、札幌市から指名停止の処分も受けるなど社会的制裁を受けており、なお、建設業法による特定建設業者としての許可を受けているところから、代表者たる被告人草野に対する刑事処分の如何によつては、その許可を取り消され、経営自体に重大な影響を受けることとなる事情もあること、被告人草野については、本件各犯行を認め国税当局の調査、捜査にも協力するなど反省改悛の情は顕著であり、これまで前科前歴がないことなど斟酌すべき事情もあるので、これら諸般の事情をそれぞれ総合勘案して、主文のとおり量刑した。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 龍岡資晃)