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札幌地方裁判所 平成2年(行ウ)15号 判決 1994年3月03日

北海道芦別市北一条西一丁目五番三号

原告

吉川郡康こと朴福出

右訴訟代理人弁護士

馬杉栄一

三木明

北海道滝川市大町一丁目八番一四号

被告

滝川税務署長 小川明

右指定代理人

都築政則

箕浦正博

高橋重敏

松井一晃

折笠久雄

行場孝之

平山法幸

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、原告に対し、昭和六三年七月二六日付けでした原告の

(一) 昭和五六年分所得税についての更正のうち、総所得金額が二一八万八一七八円を超える部分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定を、

(二) 昭和五七年分所得税についての更正のうち、総所得金額が三五六万二六二七円を超える部分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定を、

(三) 昭和五八年分所得税についての更正及び重加算税の賦課決定を、

(四) 昭和六〇年分所得税についての更正のうち、総所得金額が三五八万八八三八円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を、

(五) 昭和六一年分所得税についての更正のうち、総所得金額が二八七万四五八六円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を、

(六) 昭和六二年分所得税についての更正のうち、総所得金額が六三五万五五〇四円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を、

いずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、遊戯場(パチンコ店)を営む者である。

2  原告は、被告に対し、昭和五六年分ないし昭和五八年分及び昭和六〇年分ないし昭和六二年分(以下「本件係争各年分」という。)の各所得金額を別表1記載のとおり確定申告したところ、被告は、昭和六三年七月二六日付けで、原告に対し、別表2記載のとおり各更正並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定(以下「本件各処分」という。)をした。

3  原告は、昭和六三年七月二九日、札幌国税局長に対し、本件各処分について異議申立てをしたが、同局長は、平成元年三月二二日付けで、いずれも棄却する旨の決定をした。

そこで原告は、同年四月二一日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、同所長は、平成二年六月一四日、いずれもこれを棄却する旨の裁決をし、同年六月一六日、その旨の裁決書が原告に送達された。

4  しかし、本件各処分は、いずれも原告の総所得金額について過大に認定した違法がある。

5  よって、原告は、被告に対し、本件各処分のうち、総所得金額が、昭和五六年分については二一八万八一七八円を、昭和五七年分については三五六万二六二七円を、昭和六〇年分については三五八万八八三八円を、昭和六一年分については二八七万四五八六円を、昭和六二年分については六三五万五五〇四円をそれぞれ超える部分及び昭和五八年分については全部についての取消しをそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4は争う。

三  抗弁

本件各処分の経緯及び内容は、次のとおりであり、本件係争各年分の原告の総所得金額は必要かつ合理的な推計に基づく適法なものである。

1  本件各処分に至る経緯と推計の必要性

札幌国税局長は、原告の申告所得金額を確認するため、本件係争各年分の総所得金額を調査したところ、原告が売上げの一部を仮名預金口座に入金するなどして総所得金額を過少に申告していることが判明した。

その際、原告は、昭和六二年分を除く本件係争各年分の事業に関する帳簿書類について、破棄して保存していない旨述べてこれを提示しなかった。

そのため、被告は、同年分を除く本件係争各年分の事業所得の金額を実額計算により算定することができない。

2  本件各更正

本件係争各年分の総所得金額は別表9記載の被告主張額のとおり、その内訳は次のとおりであって、本件各更正の総所得金額はいずれもその範囲内であるから、本件各更正は適法である。

なお、昭和六二年分を除く各年分の純資産増加額の算定根拠は、別表3(1)記載のとおりである。

(一) 昭和五六年分

<1> 利子所得 六万五六三四円

<2> 事業所得

ア 純資産増加額 四三五五万六一七一円

イ 所得に加算すべき金額(生活費) 三五八万二三九三円

ウ 所得から減算すべき金額(受取利息、定期積金の給付補てん金及び事業専従者控除額の合計) 三九三万七二四四円

エ 事業所得金額(ア+イ-ウ) 四三二〇万一三二〇円

<3> 雑所得 二六万三二二五円

<4> 総所得金額(<1>+<2>+<3>) 四三五三万〇一七九円

(二) 昭和五七年分

<1> 利子所得 一六五万二三一七円

<2> 事業所得

ア 純資産増加額 七一三七万七三二七円

イ 所得に加算すべき金額(生活費) 三六六万一一一八円

ウ 所得から減算すべき金額(受取利息、定期積金の給付補てん金、譲渡収入及び事業専従者控除額の合計) 一三三六万六六三九円

エ 事業所得金額(ア+イ-ウ) 六一六七万一八〇六円

<3> 雑所得 一五万三八二〇円

<4> 総所得金額(<1>+<2>+<3>) 六三四七万七九四三円

(三) 昭和五八年分

<1> 利子所得 二五七万七三〇六円

<2> 事業所得

ア 純資産増加額 九三五三万七八八九円

イ 所得に加算すべき金額(生活費) 四一二万七八二〇円

ウ 所得から減算すべき金額(受取利息及び定期積金の給付補てん金の合計) 五九四万〇六六一円

エ 事業所得金額(ア+イ-ウ) 九一七二万五〇四八円

<3> 雑所得 二七万六一六〇円

<4> 総所得金額(<1>+<2>+<3>) 九四五七万八五一四円

(四) 昭和六〇年分

<1> 利子所得 三〇万三六七〇円

<2> 事業所得

ア 純資産増加額 三五三二万二八五六円

イ 所得に加算すべき金額(生活費) 二七五万四九三七円

ウ 所得から減算すべき金額(受取利息及び定期積金の給付補てん金の合計) 三三九万五、八四九円

エ 事業所得金額(ア+イ-ウ) 三四六八万一九四四円

<3> 雑所得 二万二一〇〇円

<4> 総所得金額(<1>+<2>+<3>) 三四六八万一九四四円

(五) 昭和六一年分

<1> 利子所得 二六万二一三七円

<2> 事業所得

ア 純資産増加額 四〇四二万六二一九円

イ 所得に加算すべき金額(生活費) 二九六万一七五六円

ウ 所得から減算すべき金額(受取利息及び事業専従者控除額の合計) 八六万八七九三円

エ 事業所得金額(ア+イ-ウ) 四二五一万九一八二円

<3> 総所得金額(<1>+<2>) 四二七八万一三一九円

(六) 昭和六二年分

<1> 利子所得 一万二五四〇円

<2> 事業所得

ア 申告所得金額 六三五万五五〇四円

イ 所得に加算すべき金額

ⅰ 雑収入の計上もれ 一三三万三九五六円

ⅱ 修繕費の過大計上 三六七二万〇〇〇〇円

ⅲ 機械代の過大計上 三八〇万〇〇〇〇円

ⅳ 家屋廃棄損の計上誤り 一〇八〇万〇〇〇〇円

合計 五二六五万三九五六円

ウ 所得から減算すべき金額(減価償却費の計算誤り及び計上もれの合計) 一二五万二九〇九円

エ 事業所得金額(ア+イ-ウ) 五七七五万六五五一円

<3> 給与所得 六三万〇〇〇〇円

<4> 総所得金額(<1>+<2>+<3>) 五八三九万九〇九一円

(七) 別表3(1)記載の資産及び負債の金額のうち、原告が争っている計算区分の内訳は以下のとおりである。

<1> 貸付金 別表4(1)記載のとおり

なお、原告の斉藤建設工業有限会社(以下「斉藤建設」という。)、中村貞雄及び李元守に対する各貸付金は存在しない。

<2> 土地(昭和五七年ないし昭和六一年)

原告が、昭和五七年に辰永企業株式会社から購入した土地(以下「本件土地」という。)の価格は、八八八一万円でなく、同土地の売買契約書に記載された九二九五万五一〇〇円である。

<3> 借入金 別表5(1)記載のとおり

なお、原告の南川洋子、南川清子、リチャード好子、孫在永及び原告本人からの各借入金は存在しない。

3  本件各賦課決定の根拠及び適法性

(一) 重加算税

原告は、売上金の一部について、別表6記載のとおり、架空名義の普通預金口座を設けてこれに入金し、昭和五六年ないし昭和五八年分の事業所得の金額として申告せず、また、別表7記載のとおり、架空名義の定期積金の口座を設けて、これに入金した定期積金の給付補てん金を昭和五六年分の雑所得の金額として申告せず、さらに、別表8記載のとおり、架空名義の定期預金口座を設けて、そこに入金した定期預金の利子を昭和五七年分の利子所得の金額として申告しなかったので、被告は、昭和五六年分ないし昭和五八年分について、各更正により納付すべき税額のうち、重加算税の基礎となる右隠ぺい仮装事由部分の所得金額による増差税額に国税通則法(昭和五六年ないし昭和五八年分については昭和五九年法律第五号による改正前のもの、昭和六〇年分及び昭和六一年分については昭和六二年法律第九六号による改正前のもの。以下同じ。)六八条一項所定の一〇〇分の三〇を乗じて計算した金額を賦課する旨の本件各重加算税賦課決定をした。

(二) 過少申告加算税

原告が、(一)記載の各重加算税の対象となる所得金額以外の総所得金額を申告していなかったことについて、国税通則法六五条四項(昭和五九年改正前のものは二項)に規定する正当な理由があるとは認められないので、被告は、重加算税の対象となる所得金額以外の昭和五八年を除く本件係争各年分の総所得金額を対象として、国税通則法六五条一項の規定に基づき、本件各過少申告加算税の各賦課決定をした。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実のうち、札幌国税局長が原告の申告所得金額を確認するため、本件係争各年分の総所得金額を調査したことは認め、その余は否認する。

2(一)  抗弁2の事実のうち、頭書部分は、原告の総所得金額が、別表9記載の原告主張額の限度で存在することは認め、それ以上に存在することは否認する。各算定根拠に対する認否は次項以下のとおりである。

(二)  抗弁2(一)ないし(四)(昭和五六年ないし昭和五八年分及び昭和六〇年分)の事実のうち、<1>(利子所得)、<2>(事業所得)イ所得に加算すべき金額、同ウ所得から減算すべき金額及び<3>(雑所得)の各金額、(五)(昭和六一年分)の<1>(利子所得)、<2>(事業所得)イ所得に加算すべき金額及び同ウ所得から減算すべき金額、並びに(六)(昭和六二年分)はいずれも認める。

(三)  同2(一)ないし(五)(昭和五六年ないし昭和五八年分、昭和六〇年分及び昭和六一年分)の<2>(事業所得)ア(純資産増加額)の事実のうち、

(1) 昭和五五年ないし昭和五七年の各年末の貸付金については、被告の主張する別表4(1)記載の貸付金が存在すること及びその余の年分の貸付金は認めるが、このほかに、別表4(2)記載のとおり、斉藤建設工業有限会社、中村貞雄及び李元守に対する各貸付金が存在する。

原告は、斉藤建設に対し、<1>昭和五五年三月二〇日に二〇〇〇万円、<2>同年四月二〇日に一〇〇〇万円、<3>同年七月二〇日に八〇〇万円、<4>同年九月二〇日に四〇〇〇万円の合計七八〇〇万円を貸し付け、斉藤建設は原告に対し、昭和五六年四月二〇日ころ八〇〇万円、昭和五七年四月二〇日ころ二〇〇〇万円、同年一一月末ころ四〇〇〇万円、昭和五八年八月末ころ一〇〇〇万円をそれぞれ返済した。

原告は、中村貞雄に対し、昭和五五年七月一日ころ一七〇〇万円を貸し付け、中村は原告に対し、昭和五六年七月末ころこれを返済した。

(2) 昭和五七年ないし昭和六一年の各年末の土地の金額については、各四一四万五一〇〇円の分(昭和五七年に辰永企業株式会社から購入した土地の取得金額が八八八一万円であることによる各差額)は否認するが、その余は認める。

(3) 昭和六〇年及び昭和六一年の各年末の借入金については、被告の主張する別表5(1)記載の借入金が存在すること及びその余の年分の借入金は認めるが、このほかに、別表5(2)記載のとおり、南川洋子、南川清子、リチャード好子、孫在永及び原告からの各借入金が存在する。

原告は、<1>妻美代子の妹である南川洋子から昭和六〇年に二五〇万円、昭和六一年に三五〇万円を、<2>孫在永から昭和六〇年及び昭和六一年に各五〇〇万円を借り入れ、<3>昭和六一年には、原告自身が韓国から持ち帰った現金四〇〇万円を借り入れた。

(4) その余の計算区分の金額は認める。

(四)  以上によれば、原告の主張する資産及び負債の残高並びに純資産増減額は、別表3(2)記載のとおりとなる。

3  抗弁3(一)及び(二)の事実のうち、被告が本件各賦課決定をしたことは認めるが、その余の事実は否認し、主主張は争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

二1  抗弁1の事実のうち、札幌国税局長が原告の申告所得金額を確認するため、本件係争各年分の総所得金額を調査したこと及び被告が昭和六三年七月二六日付けで本件各処分をしたことは、当事者間に争いがない。

2(一)  抗弁2の冒頭の事実のうち、原告の総所得金額が少なくとも別表9記載の被告の主張額の限度で存在することは、当事者間に争いがない。

(二)  同2(一)ないし(四)(昭和五六年ないし昭和五八年及び昭和六〇年の各年分)の事実のうち、<1>(利子所得)、<2>(事業所得)イ所得に加算すべき金額、同ウ所得から減算すべき金額及び<3>(雑所得)の各金額同(五)(昭和六一年分)の事実のうち、<1>(利子所得)、<2>(事業所得)イ所得に加算すべき金額及び同ウ所得から減算すべき金額、並びに同(六)(昭和六二年分)の事実は、すべて当事者間に争いがない。

(三)  同2(一)ないし(五)(昭和五六年ないし昭和五八年分、昭和六〇年分及び昭和六一年分)の<2>(事業所得)ア(純資産増加額)の事実のうち、少なくとも、別表3(2)の該当欄記載のとおり純資産増加額が存在すること、その内訳については、別表3(1)記載の昭和五五年ないし昭和五七年の各年末の貸付金のうち、別表4(1)記載の貸付金が存在すること、別表3(1)記載の昭和五七年ないし昭和六一年の各年末の土地の金額のうち各四一四万五一〇〇円を除いた額が存在すること、別表3(1)記載の昭和六〇年及び昭和六一年の各年末の借入金のうち、別表5(1)記載の借入金が存在すること、並びに右項目以外の計算区分の金額は、すべて当事者間に争いがない。

3  抗弁3(一)及び(二)の事実のうち、被告が本件各賦課決定をしたことは、当事者間に争いがない。

三1  以上によれば、昭和五八年分及び昭和六〇年分については、原告の総所得金額が、少なくとも右各年分の本件各更正において被告に認定した総所得金額以上に存在することは、当事者間に争いがない。したがって、右各更正の取消しを求める原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

2  また、昭和六二年分については、原告の総所得金額について当事者間に争いがなく、原告に対する課税要件について争いがないことになるから、右総所得金額の範囲内の金額を基礎としてなされた昭和六二年分についての本件更正は適法である。したがって、右更正の取消しを求める請求も理由がない。

四  推計の必要性(昭和五六年、昭和五七年及び昭和六一年分の各更正について)

前記当事者間に争いのない事実に、証人南川美代子の証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、札幌国税局長が、原告の申告した所得金額を確認するため、原告の本件係争各年分の所得について調査したところ、原告は、事業に関する帳簿書類は昭和六二年分を除き破棄したとしてこれを提示せず、調査に協力しなかったこと、そのため被告は、直接資料により、昭和五六年、昭和五七年及び昭和六一年分の原告の総所得金額を把握することができず、推計による所得金額の確定及び更正を行うに至ったことが認められ、これを左右するに足りる証拠はない。

また、本訴においても、原告が右各年分の総所得金額を認定するに足りる直接資料を提出していないことは、当裁判所に顕著な事実である。

そうすると、右各年分の原告の総所得金額の算定は、推計によって行う必要がある。

五  推計の合理性(昭和五六年、昭和五七年及び昭和六一年分の各更正について)

1  右各年分の原告の総所得金額のうち、当事者間に争いのある科目は事業所得のみである。

そして、被告の主張する事業所得の金額は、別表3(1)記載のとおり、各年の期首及び期末における純資産の増減額に生活費の額を加算した上、受取利息、事業専従者控除額等を減算して推計したものであり、右推計方法自体は、その基礎となっている資産及び負債の各項目の金額が適正なものであるならば、合理的であるということができる。

そこで、別表3(1)記載の各計算区分のうち、当事者間に争いがある昭和五五年ないし昭和五七年の各年末における貸付金の額、昭和五七年ない昭和六一年の各年末における土地の額並びに昭和六〇年及び昭和六一年の各年末における借入金の額について検討する。

2  原告は、被告が、純資産増減法による推計において、(1)昭和五五年ないし昭和五七年の各年末について別表4(2)記載の貸付金の存在を看過し、(2)昭和五七年に取得した本件土地の価額を、実際は八、八八一万円であるのに九、二九五万五、一〇〇円と過大に認定し、(3)昭和六〇年及び昭和六一年の各年末について別表5(2)記載の借入金が存在することを看過したため、原告の昭和五六年、昭和五七年及び昭和六一年の各年分の事業所得を過大に認定した旨主張する。

しかし、原告は、別表4(2)記載のとおり、昭和五五年末から昭和五七年末まで李元守に対し同一額の貸付金が存在した旨主張しているから、この存否は、昭和五六年及び昭和五七年の各年末の純資産の増減額には影響を及ぼさない。また、昭和五八年ないし昭和六一年の各年末の貸付金の額は当事者間に争いがないから、李元守に対する貸付金の存否が、昭和六一年末の純資産の増減額に影響を及ぼすこともあり得ない。したがって、右貸付金の存否については判断を要しない。

また、原告は、別表5(2)記載のとおり、昭和六〇年及び昭和六一年の各年末に南川清子及びリチャード好子からの同一額の各借入金が存在した旨主張しているから、この存否は、昭和六一年末の純資産の増減額には影響を及ぼさない。

さらに、昭和五五年ないし昭和五九年の各年末の借入金の額は当事者間に争いがないから、南川清子及びリチャード好子からの借入金の存否が、昭和五六年及び昭和五七年の各年末の純資産増減額に影響を及ぼすこともあり得ない。したがって、これらの借入金の存否についても判断を要しない。

そこで、別表4(2)記載の斉藤建設及び中村貞雄に対する各貸付金(以下「本件各貸付金」という。)の存否、昭和五七年に取得した本件土地の価額、別表5(2)記載の南川洋子、孫在永及び原告本人からの各借入金(以下「本件各借入金」という。)の存否について、以下判断することとする。

3  本件各貸付金について

(一)  原告は、(1)斉藤建設に対しては、昭和五五年、三回にわたり合計七八〇〇万円を貸し付け、斉藤建設から、これを昭和五六年に八〇〇万円、昭和五七年に二〇〇〇万円及び四〇〇〇万円、昭和五八年に一〇〇〇万円の四回に分けて返済を受け、(2)中村貞雄に対しては、昭和五五年に一七〇〇万円を貸し付け、翌昭和五六年に、中村から同額の返済を受けた旨主張し、甲第三、第四号証の各1、2、第六号証、第八、第九号証、証人斉藤勇、同中村貞雄、同南川美代子及び原告本人の各供述には、原告の右主張事実に沿う部分がある。

しかしながら、右各証拠は、これを子細に検討してみても、次のとおり本件各貸付金の存在を認めるには足りない。

(二)  まず、斉藤建設に対する貸付金については、証人斉藤、同南川美代子の各証言及び原告本人尋問の結果によれば、斉藤勇の経営していた斉藤建設が、昭和五五年三月ころ資金繰りに窮して休業することになり、当時大口の債権者に対して三、四億円余り、小口の債権者に対して約二〇〇〇万円の負債を抱えていたところ、大口債権者のほとんどはこれを放棄したためその残債務は二〇〇〇万円ほどとなり、これら合計約四〇〇〇万円の返済資金として、原告に対し融資を申し込んだ。そこで、原告は北門信用金庫の仮名のものを含む預金を解約し、パチンコ店の釣り銭用の現金と併せ、昭和五五年三月に二〇〇〇万円、同年四月に一〇〇〇万円の合計三〇〇〇万円を、同様に、同年七月に八〇〇万円、同年九月に四〇〇〇万円を、借用証の授受のみで、しかも無担保で貸し付けた。その借用証の写しが甲第三及び第四号証の各1、2であり、斉藤が返済状況を記載した覚書が甲第七号証であるというのである。

しかしながら、かかる多額で、かつ、返済を得ないまま、無担保で繰り返されている貸付けであるにもかかわらず、便せんに手書きして社判を押捺した程度の借用証の写し(甲第三及び第四号証の各1、2)が存在するのみで、その貸付け及び返済に際しての金銭の授受を証する領収証等の書面がないこと、しかも、借用証の写しも、その一部(甲第三号証の2及び第四号証の1)が、南川美代子宛てであるのに、原告自身、信用証はいろんなのがいっぱいある、はっきりしたことは分からないなどと曖昧な供述をしていること、さらに、後述するように本訴において原告から提出された借用証の写しの中に、後日訴訟等のために意図的に作成されたものと認められるもの(甲第八号証)があることも合わせ考えると、甲第三及び第四号証の各1、2の信用性については根本的な疑念を抱かざるを得ない。また、返済についての覚書(甲第六号証)も、その日付け及び証人斉藤の証言によれば、本件の各更正に対する審査請求の後に、本件各更正を争うための資料として提出することを目的として、何ら客観的な資料に基づかずに作成されたものであることが認められるから、これまた信用性が乏しいものといわざるを得ない。

のみならず、各貸付けの具体的な状況、資金繰り等についても、原告本人は、経理を担当していた妻南川美代子に任せてあったため不明であるとして、具体的な供述をせず、他方証人南川美代子も、各貸付の具体的金額、資金繰り等について極めて曖昧で一貫しない供述をするのみであるうえ、両名の供述の整合性も欠けており、全体としてこれらの供述は、斉藤建設に対する貸付金の存在を認めるに足りるものとは到底いえない。

例えば、このような貸付けの資金調達方法について、原告本人は、原告及び妻美代子名義の北門信用金庫の仮名預金を解約した金員を貸し付けたものであるが、詳細は美代子に任せていたため不明であると述べるのみであり、その美代子も、解約した口座の所在する金融期間について曖昧な供述しかせず、各銀行が作成したとする定期預金の明細を記入した書面(原告及び美代子の仮名預金等の一覧、甲第一二号証の1ないし3)及び美代子名義の普通預金出納帳簿(甲第一七号証)についても十分な説明をできない。しかも、美代子は、そもそも貸付金額について原告と異なる供述をしている上、預金を解約した金員のほかに釣り銭用の店頭保管金を併せて貸し付けたというのであるが、その具体的な割合等についての供述は曖昧であり、売上額に対し過大といわざるを得ない店頭保管金があったことを前提としている。そのような供述内容からすれば、原告の供述するとおりの仮名預金の解約、斉藤への貸付等の手続を美代子が行ったものとは認め難く、かかる内容の原告本人及び美代子の各供述はともにこれを信用することはできない。

さらに、甲第一二号証の1ないし3及び同第一七号証は、貸付資金の流れを裏付けるものとして提出されているが、右書証によれば、かえって、原告らは、原告名義及び美代子名義のものを含めこれらの各預金間で、一方の預金を解約して他方の預金口座に入金するなどの操作を繰り返していることが明らかである。そして、原告自身、右各書証で明らかにされている口座以外にも仮名預金及び普通預金が存在するとしていること、普通預金については美代子名義の一口座の昭和五五年三月一七日に解約する時点までの出納明細以外存在しないとして、同出納表のみを提出していることなどからすると、原告の主張する貸付けがなされた時期に相当するところに預金の中途解約がなされていたとしても、引き出された金員が他口座に入金されていることが強く窺われる。しかも、証拠上明らかになっている解約が五月雨的で、必ずしも貸付の実行日の直前になされていないことや、原告が他の口座の詳細については原告自身把握できないとして、自己に属する預金をきちんと特定して供述していないことなども合わせて考えると、右各甲号証が、斉藤建設に対する貸付けの貸付資金の調達を裏付けるものであると評価することはできない。

また、証人斉藤の証言も、合計三、四億円にものぼる大口の債権者のほとんどは債務免除に応じてもらったが、小口の債権の返済分として原告から合計三〇〇〇万円を借り受けたなど、それ自体不自然な内容の部分があり、先に説示したところのほか、第三者作成文書等の客観資料に基づく部分がないことなどにかんがみると、信用し難いものというほかない。

以上によれば、前記各書証や、証人斉藤、同南川美代子、原告本人の各供述はいずれも信用し難く、これらによっても、斉藤建設に対する貸付金を認めることはできず、他に右貸付金が存在すると認めるに足りる証拠はない。

(三)  中村貞雄に対する貸付金の存在を証するものとして借用証の写し(甲第八号証)があり、証人中村貞雄、同南川美代子及び原告本人尋問の結果中にも、原告の主張事実に沿う部分がある。

ところで、右借用証の日付けは昭和五五年七月一日であり、証人中村の証言によっても、貸付けは昭和五五年七月であって、右の借用証は貸付時に印紙を貼付の上、中村から原告に交付されたというのである。しかしながら、成立に争いのない乙第三〇号証によれば、甲第八号証の原本に貼付されている印紙は、昭和五五年七月よりはるか後の昭和五六年四月八日に告示されて、同年五月一日から使用が許されるようになったものであることが認められる。そうすると、証人中村が、この矛盾点について合理的な説明をしていないことも合わせ考えると、この借用証の写しは、後日中村に対する貸付金の存在の立証のために意図的に作成されたものであると推認するほかない。

そうすると、右甲第八号証の信用性は極めて低いといわざるを得ず、証人中村の証言も信用することはできない。

また、貸付けの具体的な状況、資金繰り等についても、証人南川美代子及び原告本人が供述しているが、これらの信用性が乏しいことは、斉藤建設に対する貸付金について説示したところと同様である。

したがって、これらの証拠により中村に対する貸付金の存在を認めることはできず、他に右貸付金が存在すると認めるに足りる証拠はない。

4  本件土地の価額について

原告は、本件土地の取得価額は、八八八一万円である旨主張するが、成立に争いのない乙第三二号証(売買契約書)によれば、取得価額は、被告の主張どおり九二九五万五一〇〇円であることが認められ、右認定を左右するに足りる的確な証拠はない。

5  本件各借入金について

(一)  原告は、第一の四2(三)(3)記載のとおり、(1)南川洋子、(2)孫在永、(3)原告自身からの各借入金が存在する旨主張する。

(二)  しかし、(3)の原告自身からの借入金については、民法上あり得ない上、個人の事業所得の算定上は、仮に借入金を計上するのであれば、それに対応するものとして、同額の貸付金も計上されなければならないことは明らかであり、自身からの借入金の計上は意味がない。したがって、事業所得の算定において、かかる借入金の計上をすることは許されない。

また、(1)の南川洋子及び(2)の孫在永からの各借入金については、証人南川美代子、原告本人尋問の結果中にこれに沿う部分があるだけである。しかし、右証言及び本人尋問の結果をみても、借入時期、借入金額など具体的な借入の内容、状況についてはまったくあいまいであって、その信用性は乏しい。また、他の客観的な裏付証拠も存在しない。そうすると、これらの借入金は存在しないものと認めるべきである。

6  以上のとおりであるから、結局、原告の主張する貸付金の看過、本件土地価額の誤認及び借入金の看過は、いずれも存在せず、推計の合理性を失わせる事実誤認はないということができる。

したがって、被告主張の事業所得の推計は合理的なものというべきであり、昭和五六年、昭和五七年及び昭和六一年分の純資産増減額は、別表3(1)記載のとおりであって、事業所得の金額は、抗弁2(一)(2)、同(二)(2)及び同(五)(2)のとおりと認められる。そうすると、右各年分の原告の総所得金額は、抗弁2(一)(4)、同(二)(4)及び同(五)(3)のとおり、昭和五六年分が四三五三万〇一七九円、昭和五七年分が六三四七万七九四三円及び昭和六一年分が四二七八万一三一九円となり、右各年分の更正の基礎とされた総所得金額は、いずれも右金額の範囲内にある。

よって、右更正は適法である。

六  過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定について

1  以上によれば、本件係争各年分の総所得金額について、各確定申告の際の原告の申告額は、いずれも各更正の際の認定額を下回っており、原告が各年分の更正の基礎となった総所得金額を、確定申告の際の税額計算の基礎として申告していなかったことは明らかであり、これについて原告に国税通則法六五条四項に規定する正当な理由があると認めるに足りる証拠はない。

2  以上の認定判断に、成立に争いのない(乙第七号証については、原本の存在及び成立)乙第七ないし第九号証、第二〇ないし第二二号証及び第二八号証並びに弁論の全趣旨を合わせ考えると、原告は、富良野信用金庫及び北門信用金庫に別表6ないし8記載のものを含め多数の架空名義の預金口座を有していること、別表6記載のとおり売上の一部を当該口座に入金したこと、別表7記載のとおり架空名義の定期積金の口座に入金した定期積金の給付補てん金を昭和五六年分の確定申告に際し雑所得として申告しなかったこと、別表8記載のとおり架空名義の定期預金口座に入金した定期預金の利子を昭和五七年分の確定申告に際し利子所得として申告しなかったことが認められる。原告は、右の売上金について確定申告にかかる所得金額に含まれている旨主張しているが、昭和五六年ないし昭和五八年の各売上金額についてその詳細を明らかにする主張も証拠も提供していないこと、事業所得の実額算定の基礎となる帳簿等の証拠書類を保管していないこと、多数の架空名義の預金口座を設けていることなど前記認定の事実及び弁論の全趣旨からすると、原告は事業所得の金額をことさらに過少申告し、架空名義の定期預金及び定期積金についての利子所得及び雑所得を申告しなかったものと認めるのが相当である。これは、課税標準等の計算の基礎となるべき事実の隠ぺいに該当する。

そして、頭書の各証拠によれば、原告の総所得金額のうち、隠ぺい事由部分の額が、少なくとも、本件各賦課決定において隠ぺい仮装事由部分の額とされた昭和五六年の八六一万五九六〇円、昭和五七年の二一六〇万九二〇八円及び昭和五八年の三四三五万七六四二円(総所得金額全額)と同額か、これを上回るものと認められる。そうすると、右各金額をもとに国税通則法六八条一項の規定に基づいて計算してなされた昭和五六年ないし昭和五八年分の各重加算税賦課決定は適法である。

3  過少申告の事実については前記1記載のとおりである。したがって、昭和五六年及び昭和五七年分については各更正において認定された総所得金額から重加算税の対象となる所得金額を除いた金額、昭和六〇年ないし昭和六二年分については各更正において認定された総所得金額を対象として国税通則法六五条の規定に基づいてなされた本件各過少申告加算税賦課決定は適法である。

七  以上のとおりであるから、原告の本訴請求はいずれも理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大出晃之 裁判官 菅野博之 裁判官 手嶋あさみ)

別表1

原告の確定申告額

<省略>

別紙2

更正及び加算税の賦課決定

<省略>

別表3(1)

資産及び負債の残高並びに純資産増減額(被告主張分)

<省略>

別表3(2)

資産及び負債の残高並びに純資産増減額(原告主張分)

<省略>

別表4(1)

貸付金の残高(被告主張分)

<省略>

別紙4(2)

貸付金の残高(原告主張分)

<省略>

別紙5(1)

借入金の残高(被告主張分)

<省略>

別表5(2)

借入金の残高(原告主張分)

<省略>

別表6

架空名義の普通預金口座への売上金額の入金

<省略>

別表7

架空名義の定期預金の給付補てん金に係る雑所得

<省略>

別表8

架空名義の定期預金の利子に係る利子所得

<省略>

別紙9

原告及び被告の総所得金額比較表

<省略>

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