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札幌地方裁判所 平成20年(わ)720号 判決 2009年3月13日

主文

被告人を懲役1年2月に処する。

未決勾留日数中120日をその刑に算入する。

この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,平成15年7月18日から平成17年8月1日までの間,A省B局C部長であったものであるが,

第1C部が平成17年9月7日に施行したD川改修工事の内E川新水路F川切替工事の指名競争入札に関し,いずれも同局の元職員であるG株式会社取締役会長のH,I株式会社執行役員技術管理部長のJ,G株式会社専務取締役札幌支店長のK及び株式会社L常務取締役のM並びに同入札に参加した建設会社の営業担当者らと共謀の上,公正な価格を害する目的で,同月上旬ころ,札幌市a区b条c丁目d番d号所在の株式会社L本社事務所等において,同社に落札させるため,他の建設会社が株式会社Lの入札価格より高い金額で入札する旨協定し,

第2C部が同年10月26日に施行したD川改修工事の内N工事の指名競争入札に関し,前記H,J,K及びM並びに同入札に参加した建設会社の営業担当者らと共謀の上,公正な価格を害する目的で,同月下旬ころ,同市e区f条g丁目h番地所在のI株式会社本社事務所等において,O共同企業体に落札させるため,他の建設会社が前記O共同企業体の入札価格より高い金額で入札する旨協定し,

もって,それぞれ公の入札の公正な価格を害する目的で談合した。

(証拠の標目)

省略

(事実認定の補足説明)

1  争点

弁護人らは,被告人は,本件各談合について共犯となり得るとしても,幇助犯にとどまり,共謀による共同正犯の罪責を負うものではない旨主張する。

2  認定事実

(1)  この点,関係証拠によれば,以下の①から⑦までの各事実が認められる。

① A省B局は,北海道における河川,道路,港湾等の整備等の事務を分掌する同省の地方支分部局であり,C部は,B局の所掌事業の実施に関する事務を分掌する出先機関であるP部の1つであって,D川水系の河川(Q部の管轄区域に係る部分を除く。)の管理に関する区域を管轄区域として,河川整備事業や多目的ダム建設事業等の河川事業に特化した事業を行っている。なお,B局は,平成13年の中央省庁再編以前は,B庁の下部機関であった(以下,同再編の前後を通じて,「B局」という。)。

(以上につき,甲1,関係法令)

② 被告人は,昭和51年4月,当時のB庁に採用され,それ以降,B局の河川部門の部署を中心に勤務して回り,平成7年11月にQ部次長(建設担当),平成9年4月にC部次長(計画・ダム担当),平成10年6月にB局R部S課長,平成12年1月に同部T課長,平成13年1月にA省U局V課長にそれぞれ任ぜられ,平成15年7月18日から平成17年8月1日までの間,C部長の職にあり,同月2日,B局R部長に異動となった。

H,J,K及びM(以下,この4名を総称して「Hら4名」という。)は,いずれもB局の河川部門の部署を中心に勤務し,平成9年から平成12年までの間に退職して,その後民間の建設会社に再就職したB局河川系の元職員である。このうち,Hは,被告人の数代前のC部長であり,また,被告人がQ部次長であった当時のQ部長,被告人がC部次長であった当時のC部長として,それぞれ被告人の直属の上司に当たる職に就いていた時期があった。また,Hら4名及び被告人は,同じB局河川系の職員・元職員として,被告人がC部長に就任する以前から,それぞれ互いに面識があった。

(以上につき,Hの公判供述,甲47,65,66,85,97,98,乙1。なお,不同意部分がある書証については,当該不同意部分を除く。以下同じ。)

③ C部を初めとするB局の河川部門では,遅くとも昭和53年ころから,各P部の建設ないし工事担当の次長ら幹部職員が,それぞれのP部において競争入札に付す予定の河川系の土木工事等につき,受注させる建設業者(以下「受注予定業者」という。)をあらかじめ割り付け,各受注予定業者に対し,割り付けられた工事名等を自ら又はB局河川系の他の幹部職員や元職員らを通じて伝達し,その伝達を受けた受注予定業者において,割り付けられた工事の入札に参加している他の建設業者に連絡して,他の建設業者や共同企業体は受注予定業者の入札価格より高い金額で入札する旨の協定を結ぶという方法により,同部門主導による談合が行われてきた。

(以上につき,Hの公判供述,甲2~4,7,48,66,86,98,107)

④ 平成11年7月にC部長に就任したWは,C部工事担当次長が行った受注予定業者の割付けの結果を,同次長自ら受注予定業者に伝達していたそれまでの方法から,B局河川系の元職員を介して伝達する方法に変更した上,談合の主導を続けていた。ところが,平成14年11月ころ,B局の港湾部門が所管する工事の発注について,B局職員が受注業者を決めて談合を主導しているなどといった指摘がなされ,当時のB局長が再発防止を約束する会見を行ったことなどを契機として,Wは,受注予定業者の割付け作業をC部側で行うことも,もはや続けることができないと考えるようになった。そこで,Wは,この作業を民間の建設会社に再就職しているB局河川系の元職員に委ねることにし,同年12月ころ,H及びJに対してその旨依頼した。すると,Hらは,これを承諾したものの,Hは,受注予定業者の割付けは発注者側の意向を反映したものにしたいと考えて,Wに対し,Hらが作成する割付け案を確認してもらいたいという条件を付け,Wは,やむを得ないことと判断して,これに応じた。その後間もなく,Hは,Wの了解を得た上で,K及びMに対し,上記受注予定業者の割付け作業等に関与するよう依頼し,同人らもこれを承諾した。

そして,Hらは,Wの意を受けた当時のC部次長のXから,C部が過去に発注した工事に関する建設業者別の受注実績の一覧表や,平成15年にC部が発注する予定の工事の一覧表を受け取り,Wから,割り付ける受注予定額を前年の受注額より増やすべき業者と減らすべき業者についての目安を示してもらった上で,Jにおいて,平成15年における受注予定業者の割付けの案を作成し,それをHら4名で検討した後,Wによる確認を経た。

その後,Hら4名は,この受注予定業者の割付け結果に従い,自らあるいは他のB局河川系の元職員を通じるなどして,各受注予定業者に割り付けられた工事名等を伝達し,建設業者間で談合を行わせた。

(以上につき,W,H,Jの各公判供述,甲5~11,49,50,68,87,88,96,99)

⑤ Wは,平成15年7月18日,C部長を最後にB局を退職し,同月22日,同部長室において,後任者である被告人に業務の引継ぎをした。その際,Wは,被告人に対し,引継ぎの要点をまとめたメモに沿って,業務上重要な事項や懸案事項等を説明した後,口頭で,C部が発注する予定の工事について,従前は工事担当の次長が行っていた受注予定業者の割付け作業を,元職員のHらに依頼し,応じてもらったが,Hからは,応じるにあたり,その割付けの案を自分に確認してもらいたいと求められているという趣旨の説明をし,併せて,Xから預かっていたC部が発注した工事に関する建設業者別の受注実績の一覧表など受注予定業者の割付け作業に関連する資料が入った封筒を被告人に手渡した。この引継ぎの際,被告人が,Wに対し,意味が分からないなどと言って聞き返したり,自分は談合には関わらないなどと言うようなことはなかった。

(以上につき,Wの公判供述,甲8)

⑥ 平成16年及び平成17年においてC部が発注した一定の工事に関しては,いずれも,概要以下のとおりの経緯で談合が行われた。

すなわち,被告人は,各年の1月ころ,Hに対し,それぞれその年にC部が発注する予定の各工事について,工事名,発注時期,工事区分及び概算金額等が記載された一覧表(以下「発注予定工事一覧表」という。)を手渡した。

そして,Jが,Hから渡された発注予定工事一覧表に記載されている工事のうち,概算金額が原則として1億円以上で,工事区分が「一般土木」,「グラウト」及び「建築」であるもの(世界貿易機関の政府調達協定の対象となる大型工事を除く。)について,各工事の内容や概算金額等と,各建設業者の施工能力や過去の受注実績等を照らし合わせながら,受注予定業者の割付け案(工事名,発注時期,概算金額,受注予定業者等が記載されたA4判数枚程度のもの。以下「割付け案」という。)を作成した。

その後,被告人,H及びJは,平成16年においては1月ころと3月下旬ないし4月初めころの2回,平成17年においては少なくとも2月3日の1回,札幌市内のホテル(平成16年はいずれもYホテル,平成17年は当時のZホテル)の部屋で会合を持ち,割付け案の確認を行った。その際,被告人は,割付け案を上から順にざっと見て,Jらに対し,記載されている受注予定業者の施工能力は十分なのか,共同企業体の構成比率は実績に照らして相当なのかといった質問をするほか,その業者は,どこの町にあるのか,どのようなB局河川系の元職員がいるのか,といったことを尋ね,この業者には新しく誰々が再就職するといった話をしたり,受注予定業者の入替えや共同企業体の組合せの入替えを指示するなどした。

前記各会合の後,Jが,それぞれ被告人の指示を反映させた割付け結果の表を作成し,Hら4名が,その割付け結果に従い,前記④と同様の方法で,受注予定業者に対し,割り付けられた工事名等を伝達した。

そして,その伝達を受けた受注予定業者の営業担当者らと,当該業者が割り付けられた工事の入札に参加する他の業者の営業担当者らとの間で,受注予定業者が落札できるよう協定を結んで,談合を行った。

判示第1及び第2記載の各工事についても,上記の経緯でなされた平成17年分の割付けに基づいて,判示のとおりの談合が行われた。

(以上につき,H,Jの各公判供述,甲23~44,51,53,54,57,69~71,74,76,79,83,84,92,100,102,105)

⑦ ところで,B局では,従前,指名競争入札に付す工事に関し,当該入札で指名された業者名を入札前に公表していたが,平成14年ころ,入札制度改革の一環として,指名業者名を入札後まで公表しないこととする事後公表の試行を一定の工事で開始し,その後,同試行の対象工事を拡大していった。そのような中,Hは,受注予定業者が,談合の相手方となる当該工事の他の指名業者,すなわち入札参加業者の情報を独自に調べることになると,談合が発覚するリスクが生じることから,Hらにおいて入札参加業者の情報を得て,これを割付け結果とともに受注予定業者に伝達する方が良いと考えた。そこで,Hは,遅くとも平成16年2月ころまでに,被告人に対し,そのような状況や必要性等を説明した上で,同試行の対象工事について入札参加業者名を教えてほしい旨依頼したところ,被告人はこれに応じ,C部長を離任するまでの間,各対象工事の入札日の1週間前ころに同部長室を訪れるHに対して,入札参加業者名を教えていた。そして,Hら4名は,割付けをした各工事の受注予定業者に対し,当該工事の他の入札参加業者名をも伝えていた。

(以上につき,Hの公判供述,甲20,51,52,69,104)

(2)  なお,被告人は,前記(1)で認定した被告人自身の行為のうち,⑤中のWからの引継ぎ内容に関しては,Wから引継ぎを受けた際,Hの名前が出たような記憶はあるとしつつ,Hらが受注予定業者の割付け作業をしているという具体的な説明はなかったし,その割付け案をC部長が確認するなどという認識も持たなかった旨供述している。

しかし,Wは,公判廷において,前記⑤のとおり,Hらに受注予定業者の割付け作業を依頼したことや,Hからその割付け案の確認を求められたことを含め,被告人に引継ぎをした旨の供述をしているところ,Wのこの供述は,自分自身が談合という犯罪行為の継続に加担したことを認めるものである上,長年勤務したB局という組織の信用を大きく失墜させるとともに,同じB局河川系職員の後輩で,逮捕された当時はA省U局長という要職にあった(乙1)被告人に対し重い懲戒処分や刑罰を課すことにつながるものである。Wには,そのように自身の非違行為を明らかにし,いわゆる古巣の職場や後輩に対し重大な不利益を生じさせてまで,被告人への引継ぎ内容について虚偽を述べるような動機は全く見当たらない。

また,その供述内容をみても,前記③のとおりそれまで長年にわたってB局の河川部門が主導していた談合について,前記④のような環境の変化を受け,基本的に民間に委ねるという大きな変更を加えたことや,それでもなおC部長として一定の関与をせざるを得ない状況にあるということは,Wの立場からすると,自分一代限りの問題ではなく,その善悪は別として,引き続き何らかの対応を要する事柄であることが明らかであるから,そのことについて,後任者に引き継ぐというのは,ごく自然で合理的なことである。さらに,関係証拠(Hの公判供述,甲51)によれば,被告人がC部長に就任して間もなく,Hが同部長室に挨拶に訪れたところ,被告人が,「Jさんと二人でやってるんですね。」などと言い,Hが,「KさんとMさんもいますよ。」などと答えるというやり取りがあったことが認められるところ,この被告人の言動は,被告人が,それ以前に,HやJの役割に関する一定の知識を持っていたことを推認させ,このことは,Wの前記供述を裏付けるものであるといえる。

以上によれば,Wの前記供述は十分に信用できるから,前記⑤のとおりの事実を認定することができる。

(3)  次に,前記⑥のうち,Jが作成した割付け案を被告人,H及びJの3名で確認したことに関しては,被告人は,H及びJとホテルの部屋に集まったこと自体記憶がはっきりしないし,Hらから割付け案なるものを見せられたり,それについてディスカッションしたりした記憶もない旨供述している。

この点,H及びJは,公判廷において,大筋で一致して,前記⑥のとおり確認作業をした旨を供述しているところ,この両名は,一連の談合に関与していた当時,建設会社に役員として勤務していて,各自の勤務先会社の利益も考えながら割付け作業に当たっていたものであるから,仮にB局側の実質的な関与なしに受注予定業者の割付けを決めていたということであると,他の建設業者から強い非難を受けるおそれがあるため,発注者側のP部長である被告人の確認を受けていたと述べることに一定の利益がある。それゆえ,その供述が虚偽である可能性に留意する必要があるが,他方で,B局河川系職員の後輩で(特に,Hは,前記②のとおり,2度にわたって,P部の部長と次長という立場で被告人と一緒に仕事をした関係にある。),A省の要職にあった被告人にとって重大な不利益となる嘘を述べるということは,それ自体,大きな心理的負担となる事柄である上,H及びJが,いずれも,既に建設業者における仕事を辞め,また,本件各談合を含む一連の談合について有罪(執行猶予付きの懲役刑)の確定判決を受けていることも考慮すると,上記の利益は,両名が,偽証罪に問われる危険を冒してまで被告人の関与について虚偽の証言をする動機として強いものとはいえない。

また,各供述内容をみても,十分に具体的である上,前記④のとおり,平成15年分の受注予定業者の割付けについては,前任のC部長であるWの確認を経ており,また,前記⑤のとおり,Wから被告人に対して,談合への関与について引継ぎがなされていたという経緯があることや,被告人が,当時,発注者であるC部の長たる地位にあったことからすると,平成16年及び平成17年の割付け作業の過程の中で,前記⑥の内容の確認作業がH及びJと被告人との間でなされたということは,ごく自然で合理的なものである。

さらに,H及びJの両名とも,その供述態度において真摯性を疑うべき事情は見あたらない。

加えて,本件各談合の対象となった2件の工事を含む平成17年分の工事についての割付け案が検討された同年2月3日の会合に関しては,その直後に一連の談合の作業に加わっていたK及びMも交えて懇親会を開いたことについて,K(甲90)及びM(甲101)の各供述により裏付けられている。

以上によれば,H及びJの前記供述は十分に信用できるから,前記⑥のとおりの事実を認定することができる。

3  検討

(1)  以上の認定事実によれば,本件各談合の対象となった2件の工事を含む平成17年分のC部発注工事について行われた一連の談合に関し,被告人が行ったことは,(ア)同年1月ころに,Jが割付け案を作成する際に用いた同年の発注予定工事一覧表をHに渡したこと,(イ)Jが作成した割付け案を,H及びJとともに確認し,Jらに対してその一部の修正等を指示したこと及び(ウ)C部長の職を離任する同年8月1日までの間,入札参加業者名が事前に公表されない工事の入札参加業者名を,入札前にHに教えたことである。

そして,このような被告人の談合への加担行為は,平成17年に初めてなされたというものではなく,その前年にも同様の加担行為がなされていたのであるから,Hら4名,特に,被告人との接触を担当していたHや割付け案の作成等を担当していたJは,平成17年の一連の談合に向けて作業を始めた当初から,被告人からこのような協力が得られることを前提に作業を進めていたものといえる。

(2)  ここで,本件各談合を含むC部における一連の談合の態様を見ると,前記③,④及び⑥のとおり,まず,C部の現職幹部職員又はX局河川系の元職員において,C部が発注する予定の各工事について受注予定業者を割り付けた上,当該業者にその旨伝達し,当該業者が割り付けられた工事の他の入札参加業者に連絡して協定を結ぶというものである。

このような談合の態様からすれば,受注予定業者の割付けは,談合を遂行するために不可欠な作業であるといえる。そして,前記⑥のとおり,どの工事にどの建設業者を割り付けるかは,各工事の内容や概算金額等と,各建設業者の施工能力や過去の受注実績等を照らし合わせて行われるものであり,発注される予定の各工事の内容や概算金額等の情報を得ていなければ,そのような受注予定業者の割付けを行うことができないことからすると,被告人が,上記(ア)のとおり,年初の段階で,割付け案作成の際の原資料となる発注予定工事一覧表をHに提供したことは,談合を遂行する上で重要な意味を持つものである。

なお,関係証拠(H,Jの各公判供述)によれば,被告人がHに手渡した発注予定工事一覧表に記載されている情報中の多くは,その約半月後には,概要が業界紙等で公表されるものであることが認められるが,そうであっても,被告人がHに提供した時点では未だC部の内部情報にとどまることに変わりはない。しかも,工事の代金額については,被告人が手渡した発注予定工事一覧表には一千万円単位で概算金額が記載されているのに対し,業界紙等では予定金額に応じて数段階に分類されたランクが公表されるにすぎない(H,Jの各公判供述,甲100)という重要な違いもあったのであるから,記載された情報中の多くが約半月後に公表されるものであるからといって,被告人が発注予定工事一覧表を提供したことの談合遂行の上での重要性が減じられるものではない。

(3)  また,被告人が,上記(イ)のとおり割付け案を確認し,その一部の修正等を指示したことは,それが発注者たるC部の長たる立場にある者による言動であって,HやJにとっては,その確認を経ることで,一連の談合の基礎となる割付けが,民間業者に身を置く自分たちだけで勝手に行ったものではなく,発注者側からいわば「お墨付き」を得たものになるという大きな意味があり(H,Jの各公判供述),実際にも,前記⑥のとおり,その指示が割付け結果に反映され,それに基づいて談合が行われたことを考慮すると,やはり,談合を遂行する上で重要な意味を持つものである。

弁護人らは,その立証において,被告人が割付け案を確認したとしても,その時間は数十分程度にとどまったことを強調している(甲115,弁1,2,5~7)が,上記の重要性は,被告人が確認に費やした時間が短時間であったからといって,変わるものではない。

(4)  以上のとおり,被告人は,本件各談合について,上記(ア)及び(イ)の各点で,談合遂行の上で客観的に重要な意味を持つ加担行為をなしたものといえる。

(5)  さらに,前記のとおり,一連の談合が,特定の工事を割り付けられた受注予定業者において,事前に,当該工事の他の入札参加業者との間で協定を結ぶことにより行われるものであることからすれば,前記⑦のような入札制度改革が進められる中で,受注予定業者が,割り付けられた工事の他の入札参加業者名を事前に知ることは,談合の遂行を相当容易にするものといえるから,被告人が,上記(ウ)のとおり未だ公表されていない入札参加業者名をHに教えていたことも,談合を遂行する上で重要な意味を持つものと認められる。

もっとも,判示第1及び第2の本件各談合に係る各工事は,いずれも被告人がC部長を離任してから相当期間後に入札が行われたものであるため,Hら4名は,それらの入札参加業者名を被告人から聞いておらず,C部から審査業務を請け負っている財団法人に在職中のB局河川系の元職員から聞き出して,協定締結に利用している(甲13,105)。そのため,被告人が,本件各談合において,入札参加業者名教示の点で具体的な役割を果たしたとはいえないが,C部長に就任した後,C部発注の工事に係る一連の談合に継続的に関与する中で上記(ウ)のような重要な協力をしていたことは,本件各談合を含む一連の談合への被告人の関与意思の強さを示す一事情といえる。

(6)  次に,前記③のとおり,B局の河川部門において,従前,各P部の建設担当の次長ら幹部職員が,自ら受注予定業者の割付けを行い,その結果を受注予定業者側に伝達するなどして建設業者間の談合を主導していたところ,被告人が前記②のとおりQ部次長(建設担当)の職にあった当時の直属の上司であったHの供述(甲48,公判供述)その他の関係証拠(甲4等)によれば,被告人自身も,その当時,このような割付け及び伝達等の作業に関与していたと認められる。

そして,被告人が,そのような経験を有した上で,前記⑤のとおり,C部長に就任後,前任者から,C部発注予定の工事に関する受注予定業者の割付け作業をHらに依頼し,これに応じてもらったが,Hから,応じるにあたり,その割付けの案を確認してもらいたいという求めがあったという趣旨の引継ぎを受けた上で,本件各談合を含む一連の談合について前記(ア)及び(イ)の加担行為をし,さらに,他の部署に異動するまでは前記(ウ)の行為にも及んでいたことからすれば,被告人は,それらの行為が,談合を遂行する上で重要な意味を持つということを十分に認識していたものと認められる。また,このことは,本件各工事を含む割付け対象の各工事についての談合遂行に向けた被告人の意思が強いものであったことを示すものでもある。

(7)  なお,被告人は,公判廷において,そもそもB局における談合のシステム自体よく把握しておらず,前任者からの引継ぎを受けても,自分が何かをしなければならないという認識は持たなかったなどとして,上記引継ぎの意味内容を理解していなかったかのような供述をしている。しかし,被告人が,上記のとおり,長年にわたって組織的に談合を主導してきたB局河川部門を中心に経歴を重ねて,B局本局やP部の要職を歴任し,その間に自らも談合の主導に関与した経験も有していたことに加え,前記⑤のとおり,C部長就任時に前任者から談合に関する引継ぎを受けた際,前任者に対してその説明の意味を聞き返すなどしていないことや,前記2(2)のとおり,同部長に就任して間もなく,HやJの役割について一定の知識を持っていたことを推認させる言動をしていることを併せ考慮すれば,被告人は,前任者からの上記引継ぎの意味内容を十分に理解していたものと認められる。これに反する被告人の上記供述は信用できない。

(8)  また,関係証拠(H,J,Wの各公判供述,甲2,7,10,49等)によれば,B局の河川部門が発注する工事について,自由競争に委ねると,本州等の管外の建設業者に安い入札価格で落札されるおそれがあるところ,C部管内を主とする北海道内の建設業者にそれまでの受注実績を踏まえた一定の工事を割り付け,これに従って談合が行われることにより,それらの建設業者が,一定の工事を自由競争による場合より高い入札価格で落札できる結果,その経営の安定が図られるという意義があり,そのこと自体,北海道において河川を含む各種社会基盤の整備等を実施するB局の幹部職員らにとって大きな関心事であることが認められる。さらに,C部管内を主とする北海道内の建設業者には,組織内人事の流動性を保つためになされる早期退職勧奨に応じたB局河川系の元職員が多数再就職していたことから,建設業者の経営の安定が図られる結果,そこに再就職している元職員らの生活保障につながるというB局の組織的利益に間接的に結びつく意義があることも認められる。

そして,被告人が,前記②のとおりB局河川部門を中心として要職を歴任し,その間,T課長の職にあった当時は,B局の河川系職員について,早期退職者の選定や退職者の再就職先の斡旋等の仕事にも携わった(甲86,乙4)上で,C部長というB局河川部門の主要幹部職員たる地位にあったことや,前記⑥のとおり,Jが作成した割付け案を確認する中で,Jらに対し,割付け案に記載されている受注予定業者の所在地や,B局河川系の元職員の在籍状況等を質問していることなどからすれば,被告人は,前記の各加担行為に及んだ際,上記のような談合の持つ意義を十分に意識していたものと認められる。

なお,検察官は,被告人が本件各談合に関与した目的及びそれにより受け得る利益として,「早期退職勧奨制度によって退職する将来の自分を含めたB局河川部門職員らの天下り先確保にあった」と主張するところ,このうち,早期退職勧奨によって退職するB局河川部門職員の再就職先確保という点については,被告人がこれを意識していたことは,前2段落に記載の事情から優に推認することができるが,被告人に自らの再就職先確保という目的や利益があったという点については,これを認めるに足りる証拠はない。

(9)  以上の検討を踏まえて判断するに,まず,前記⑥の事実によれば,被告人は,Hら4名及び本件各入札に参加した建設業者の営業担当者らとの間で,直接又は間接に,本件各談合を行うことについて意思を連絡していたと認められる。

そして,被告人が,本件各談合について,それと認識しながら重要な役割を果たしており,その際,自分自身が幹部職員として在籍するB局にとってのそれら談合の意義を十分に意識していたことや,その関与が,単発的なものではなく,C部長に就任した後,C部発注の工事に係る一連の談合に積極的に加担する中で,その一環として行われたものであることからすると,被告人は,自己の犯罪として本件各談合に加担したものと評することができる。換言すれば,上記の意思連絡は,被告人が前記営業担当者らの実行行為を利用して自らも本件各談合を実現するという犯罪の共同遂行の合意を内実とするものであり,前記営業担当者らはその合意に基づいて本件各談合を実行したものといえる。

弁護人らは,被告人にはHらとの共謀がなく,正犯意思もなかったとして,種々の主張をしているが,それらの主張は,個別の関与行為ごとにその意味を検討して(しかも,その意味を過小に評価するものが多い。)共謀等の成否を論ずるのみで,これらを総合して検討することを欠いたものにすぎないから,何ら上記判断を左右するものではない。

したがって,被告人は,本件各談合について共謀による共同正犯の罪責を負うものである。

(法令の適用)

省略

(量刑の理由)

1  本件は,B局の出先機関であるC部の部長であった被告人が,C部により競争入札に付された2件の河川工事に関し,いずれも建設会社に再就職していたB局河川系の元職員ら及び入札に参加した他の建設会社の営業担当者らと共謀して,特定の建設会社等に落札させるため,それぞれ談合したという事案である。

2  C部を初めとするB局河川部門の幹部職員らは,前記のとおり,B庁時代から,長年にわたって,北海道内各地域のP部が競争入札に付す予定の各種河川工事について建設業者間の談合を主導してきた。これにより,建設業者側としては,一定の工事をほぼ確実に受注できるとともに,高い入札価格で落札できるという利点があり,B局側としても,地場の建設業者の経営が安定すること自体がB局にとって望ましいことであるとの認識があったほか,定年前に早期退職した元職員を雇用している建設業者に優先的に工事を割り付けることにより,その業者に再就職している元職員の生活が保障されるなどの利点もあった。平成14年に,B局港湾部門が所管する工事の発注について,B局職員が談合を主導しているなどといった指摘がなされるなどしたことで,従来の方法による談合を行うことが困難となった際も,C部では,当時の部長が中心となって,建設会社に再就職していた元職員らが,同部長側から提供を受けた資料を利用して受注予定業者の割付け案を作成し,同部長の確認を経て,元職員らがその割付けの結果を受注予定業者に伝達するという手法を考案して,同部長と元職員らとが連携して談合への関与を続け,平成15年7月に同部長に就任した被告人も,その手法を引き継いで,談合への関与を続けていた。

本件各犯行は,このように,利害の一致したB局河川部門と建設業者とが長年にわたり癒着して行ってきた官主導による談合の延長として,同部門の現職幹部職員である被告人と元職員らとが連携して談合に関与し続ける中で行われたものである。

3  被告人らは,C部長という発注者側の長である被告人において,その地位のために得られやすい内部情報,すなわち,C部が競争入札に付す予定の工事の情報や,入札制度改革により入札参加業者名が事前に公表されなくなった工事における入札参加業者の情報等を共犯者の元職員らに提供し,元職員らにおいて,被告人からの情報をもとに,割付け案を作成し,被告人の確認を経た上で,受注予定業者に対して割付け結果及び他の入札参加業者名を伝達していた。本件各談合に係る各工事に関しては,被告人がC部長の職を離任した後に入札参加業者が決まったものであるため,被告人からの同情報の提供はなされていないものの,本件各談合は,B局河川部門の現職幹部職員と元職員らとが,密接に連携し合い,入札制度改革を骨抜きにしてまで談合に関与する中で敢行されたものであって,その経緯に酌むべき点はなく,態様も悪質である。

4  本件各入札においては,いずれも入札予定価格の約95パーセントから96パーセントという高い落札率で落札されているところ,本件各談合が行われなければ,自由競争の原理が働き,落札率が相当程度下がったであろうことが推認できるのであり,その差額分については,本来必要であった以上に国費を支出させたものといえる。また,本件が広く報道され,入札制度の公正さに対する社会一般の信頼が大きく害されたことも軽視できない。本件の結果は重大である。

5  被告人は,前任者から談合に関する引継ぎを受け,前記のとおり,割付け案の作成等に必要な内部情報を共犯者の元職員に提供していたほか,元職員が作成した割付け案を確認し,その一部の修正を指示するなど,本件各談合を含む一連の談合において重要な役割を果たしたものである。

また,被告人は,本件に関与したとすれば,それは地場産業の保護・育成のためだと思う旨供述しているが,そのようなことが必要であれば,正規の施策によって行うべきであり,談合という犯罪を手段とすることが正当化されるものではないし,前記のとおり,談合を行うことは,建設業者に再就職しているB局元職員の生活保障等に資するという側面もあり,被告人自身,それを十分に意識していたと認められるのであって,いずれにせよ,組織の論理に基づく身勝手な動機であるといえる。

このように,被告人が,発注者側の長たる立場にありながら,身勝手な動機から談合に関与し,重要な役割を果たしたことは,厳しい非難に値する。

6  以上によれば,被告人の刑事責任は相当に重い。

7  他方,被告人は,自ら談合のシステムを考案したものではなく,B局の河川部門が長年にわたり主導してきた談合の延長として,前任者が変更を加えた上で維持してきた談合のシステムを引き継ぐ形で関与するに至ったものであるから,被告人のみを殊更に厳しく処罰することは相当でない。また,検察官は,被告人が一連の談合に関与したことにつき,自らの再就職先確保という目的や利益があったことを前提として,その刑責が重い旨の主張をしているところ,被告人にそのような個人的な目的や利益があったとはいえない。さらに,被告人には,前科その他の犯罪歴はなく,長年にわたりB局の河川部門等において職務に精励し,北海道の河川整備などに一定の貢献をしてきたものである。そのほか,本件により約半年間身柄を拘束され,今後更に失職等の社会的制裁を受ける見込みが高いこと,妻が,公判廷で,今後は家族で力を合わせて被告人の行動に気をつけていきたい旨述べていることなど,被告人に有利に酌むべき事情もある。

なお,被告人は,公判廷において,今回の件で多くの人に迷惑をかけ,また,入札制度に対する国民の信頼を害したことに対し,重大な責任を感じており,大変申し訳ないと思っている旨述べているが,他方で,一連の談合への自らの関与につき,当然に記憶していて然るべきことまで,明確な記憶がないなどと曖昧な供述に終始していることからすれば,その反省と謝罪の言葉が,自らの行為を真摯に顧みた上で発せられたものと見ることはできない。

8  本件では,被告人に対し,検察官は懲役1年6月を求刑し,弁護人らは罰金刑が相当である旨の弁論をしているところ,前記3から5までの事情,特に,本件各談合の態様の悪質性や,被告人が,発注者側の長として重責を担う立場にありながら,本件各談合において重要な役割を果たしたことなどを考慮すると,前記7の被告人に有利に酌むべき事情や,本件により懲役刑が科された場合,当然に失職し,退職手当も支給されないことなどを十分に勘案しても,本件が罰金刑を選択すべき事案であるなどとは到底いえず,懲役刑を選択することが相当であるが,その刑期等については,上記の諸情状を総合考慮すると,主文の刑を科した上で,その執行を猶予することが相当であると判断した。

(裁判長裁判官 辻川靖夫 裁判官 石井伸興 裁判官 吉岡透)

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