札幌地方裁判所 平成20年(ワ)1211号 判決 2010年6月03日
両事件原告 X
同訴訟代理人弁護士 亀田成春
同 齋藤耕
第1211号事件被告 Y1株式会社
同代表者代表取締役 G
両事件被告 株式会社Y2
同代表者代表取締役 H
被告ら訴訟代理人弁護士 開本英幸
主文
1 原告が被告株式会社Y2に対し,別紙3記載内容の雇用契約上の地位を有することを確認する。
2 被告株式会社Y2は,原告に対し,別紙4未払賃金債権目録合計額欄記載の金員及び平成20年8月7日から本判決確定の日まで,毎月7日限り月額28万2666円の金員並びにこれらに対するそれぞれの支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,被告らの負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 主位的請求(平成20年(ワ)第2024号事件)
ア 原告が被告株式会社Y2(以下「被告Y2社」という。)に対し,別紙3記載内容の雇用契約上の地位にあることを確認する。
イ 被告Y2社は,原告に対し,別紙4未払賃金債権目録合計額欄記載の金員及び平成20年8月7日から本判決確定の日まで,毎月7日限り月額金28万2666円の金員並びにこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
ウ 訴訟費用は被告Y2社の負担とする。
(2) 予備的請求(平成20年(ワ)第1211号事件)
ア 原告が被告Y1株式会社(以下「被告Y1社」という。)に対し,別紙1記載内容の雇用契約上の地位にあることを確認する。
イ 原告が,被告Y2社に対し,出向労働者としての地位にあることを確認する。
ウ 被告Y1社は,原告に対し,別紙2未払賃金債権目録合計額欄記載の金員及び平成20年6月7日から本判決確定の日まで,毎月7日限り月額金28万2666円の金員並びにこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
エ 訴訟費用は被告らの負担とする。
2 請求の趣旨に対する被告らの答弁
(両事件について)
(1) 原告の請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2事案の概要等
1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1) 被告Y1社は,生コンクリートの製造販売事業,コンクリート製品の製造販売事業等を主な目的とする会社であり,Gの一族による同族会社であって,いわゆる○○グループの中核的な企業である。a運輸有限会社(以下「a運輸」という。)は,貨物自動車運送事業等を主な目的とする会社であり,○○グループのグループ企業となった後は,同グループの運送部門として運営されてきた。被告Y2社は,レディーミクストコンクリート(生コンクリート)及びコンクリート製品の製造,販売とその輸送業務等を主な目的とする会社であり,○○グループのグループ企業である。
(2) 原告は,平成12年5月ないし6月ころ,コンクリートミキサー車のミキシングオペレーター(以下「MO」という。)として稼働することを予定して,a運輸に季節労働者として雇用され(なお,その実質的な雇用主については,後記のとおり,争いがある。),平成17年4月13日からは常用労働者として雇用されていた。原告の採用に当たっては,当時,被告Y1社の社員であり,新しく設立される被告Y2社のセンター長でもあったA(以下「A」という。)が面接をし,原告は,雇用当初から,被告Y2社において,その従業員の指示によりMOとしての業務に従事していた。なお,a運輸に雇用されている従業員のうち,原告を含む33名のMOは,全員が被告Y2社に出向する形で労務を提供していた。
(3) 原告は,平成19年ころ,労働条件の不利益変更に関して,札幌地区労連ローカルユニオン結(以下「組合」という。)に相談をするようになり,同年2月7日に組合に加入した。
a運輸は,平成19年4月28日,同日付で原告を懲戒解雇にする旨の意思表示をした(以下「第1次解雇」という。)。
組合は,原告に対する第1次解雇の撤回を求めて,団体交渉を求めるとともに,同年5月18日,北海道労働委員会に原告の解雇撤回を求めて,あっせん申請を行ったが,あっせんは不調に終わった。
(4) 原告は,平成19年7月26日,a運輸を債務者として,札幌地方裁判所に地位保全の仮処分を申し立てた(平成19年(ヨ)第161号。以下「本件仮処分事件」という。)。また,a運輸は,原告を相手方として,札幌地方裁判所に労働審判を申し立て(平成19年(労)第28号),その第1回労働審判期日において,原告を普通解雇にする旨の意思表示をした(以下「第2次解雇」という。)。
本件仮処分事件において,札幌地方裁判所は,同年11月28日,第1次解雇及び第2次解雇をいずれも無効であるとして,a運輸が原告に対して同年12月から平成20年11月まで毎月7日限り月額20万円の仮払いをするように命ずる仮処分決定(以下「本件決定」という。)をした。
なお,原告の賃金は,毎月1日から末日までの分を翌月7日に1か月の賃金として支払われることになっている。同年2月から4月までの3か月間に原告に支給された給与の平均額は,1か月当たり28万2666円であった。
(5) 原告は,平成20年2月1日,a運輸及び被告Y2社を被告として,当裁判所に雇用契約上の地位確認,出向労働者としての地位確認等を求める訴えを提起した(平成20年(ワ)第249号事件。以下「丙事件」という。なお,丙事件は後に取り下げられた。)。
a運輸は,同年1月18日,原告に対して,a運輸の解散を理由として解雇することを予告した上,同年3月31日に業績悪化を理由として解散し,同日付けで原告を解雇する旨の意思表示をした(以下「第3次解雇」という。)。
被告Y2社においてMO業務を行っていた従業員については,原告を除いた大部分の従業員が,Aが設立したb運輸合同会社(以下「b運輸」という。)に雇用され,被告Y2社におけるMO業務に従事するようになった。
2 事案の概要
本件は,原告が,原告に対する第1次解雇ないし第3次解雇はいずれも無効であるとして,主位的に,(1) 原告との間で実質的に雇用契約があるのは,被告Y2社である旨を主張して,被告Y2社を被告として,被告Y2社との間の雇用契約上の地位確認及び被告Y2社に対する賃金支払を求め(第2024号事件。以下「乙事件」という。),予備的に,(2) a運輸の法人格は形がい化しており,あるいは法人格の濫用であり,原告との間の雇用契約があるのは,実質的には○○グループの中核企業である被告Y1社である旨を主張し,被告Y1社及び被告Y2社を被告として,被告Y1社との間の雇用契約上の地位確認,被告Y2社との間の出向労働者としての地位確認及び被告Y1社に対する賃金支払を求めた(第1211号事件。以下「甲事件」という。)事案である。
3 本件の争点及びこれに関する当事者の主張の要旨
(1) 原告と被告Y2社の実質的な雇用関係の有無について(争点1)
ア 原告の主張
(ア) 原告は,その採用に当たっては,被告Y2社のセンター長兼○○グループの市場開発本部長であったAの面接を受けており,その際,被告Y2社で働いてもらう旨の説明を受け,被告Y2社に雇用されるものと考えていた。そして,Aから,雇用条件の説明を受け,季節雇用の希望を述べたところ,これが了承されて,その場で採用が決まったものである。原告は,平成12年5月から被告Y2社での勤務を開始し,同年6月から給与の支給を受けるようになった。なお,採用に当たっては,被告Y2社との間で雇用契約書は交わされず,就業規則や賃金規程等の説明はなかった。また,採用に当たって,原告は,雇用主がa運輸である旨の説明も受けておらず,a運輸との間でも雇用契約書を交わしていないし,a運輸の就業規則や賃金規程等についても説明はなかった。
以上によれば,被告Y2社が原告を採用したことは明らかである。
(イ) また,原告が採用された後の再雇用や,季節雇用から常用雇用への変更に当たっても,原告は,被告Y2社のセンター長であるAと話をし,Aの後任のセンター長であるB(以下「B」という。)がAから引き継ぎを受けたのみで決定されており,こうした原告の雇用契約上の身分の重要な変更に関して,a運輸が関与したというような事実はなく,被告Y2社において決定されていた。
(ウ) 原告への給与は,a運輸名義で支給されていたが,原告らMOの賃金等は,被告Y2社の査定に基づいて独自に決定されていた(なお,被告Y1社からの出向者については,被告Y1社の賃金規程に基づいて支給されていた。)。
また,a運輸と被告Y2社との出向契約書によれば,出向社員の給与・社会保険料については,被告Y2社が全額を負担しており,a運輸は,原告らMOの賃金を含む経費については全く裁量を有しておらず,MOの賃金及びその変更は被告Y2社によって決定されていたものである。
そして,原告ら出向社員の労働契約内容の変更の交渉については,被告Y2社のセンター長が行っており,人事考課とこれに基づく給与の査定も被告Y2社において行われていた。
さらに,原告は,その第1次解雇に当たっては,被告Y1社の応接室において,被告Y1社の市場開発本部長兼被告Y2社開発事業部長であるC(以下「C」という。)から解雇を言い渡されており,解雇に当たっての事情聴取は,CやBらが行っており,a運輸は何ら関与していない。
(エ) そして,原告は,平成12年5月から平成19年4月に解雇されるまで,被告Y2社においてMO(コンクリートミキサー車を運転するだけではなく,被告Y2社の工場プラントにミキサー車を搬送し,社内からコンピュータを操作して,必要な原材料を計量し,プラントからミキサー車に投入し,目的地に移動しながら,コンクリートの製造を行う。)として稼働していた。原告は,Aからその業務を学び,勤務中に着用するジャンパーや防寒具なども被告Y2社から支給されていた。原告が行っていたMO業務は,ネットワークプラントというシステム(本社で各営業所の配車の需要などを一括管理し,MOに出勤場所を指示するシステム)を採用していた被告Y2社の業務そのものであり,日常業務に関して,指揮命令を発していたのは,被告Y2社のセンター長であった。原告らMOは,Hが代表取締役である被告Y2社こそが自分たちの雇用主であると当然のように考えており,a運輸の代表取締役の氏名すら知らなかった。
(オ) 原告は,平成2年から平成10年ころまで,被告Y1社の石山工場の生コンの運送業務に従事していたことから,a運輸が被告Y1社の運送部門を担う関連会社であることを知っていたし,被告Y2社も同様に被告Y1社の関連会社であることを知っていたから,給与明細書上のa運輸の記載についても,被告Y2社側の便宜上の都合からそのような処理をしているものと理解していた。実際にも,後記のとおり,被告Y1社と,その関連会社であるa運輸及び被告Y2社は,人事,業務,財務において密接な関係を有しており,両社とも被告Y1社の実質的支配下にあったものであり,a運輸は,被告Y2社との取引においては,被告Y2社の立ち上げ当時から,その採算を度外視して取引を行っており,独立した経済主体としての評価はできない。a運輸は,少なくともMOとの関係においては,給与の支払と明細書の発行,社会保険事務,雇用保険事務等を行う代行機関にすぎなかったというべきである。
(カ) 以上のとおり,被告Y2社は,採用,再雇用,季節雇用から常用雇用への変更,賃金等の労働条件の決定,労働契約の変更,人事考課,解雇などといった労働契約関係において,原告の使用者として実質的意思決定をしているものというべきであること,原告は,被告Y2社の指揮命令及び監督の下に被告Y2社に対してMOとしての労務を提供し,被告Y2社がこれを受領していたものであり,被告Y2社と原告との間には使用従属関係があったというべきであること,原告の賃金等については被告Y2社が負担し,賃金等の労働条件についても被告Y2社が決定していたこと,被告Y1社の実質的支配下で被告Y2社及びa運輸は人事,業務,財務について密接な関係を有していたこと,原告とa運輸との間で雇用契約書が交わされたことはなく,a運輸は,MOについては,給与の支払い,明細書の発行等の事務手続を代行しているだけであることなどに照らせば,原告と被告Y2社との間には,少なくとも黙示の雇用契約が締結されていたというべできある。
イ 被告らの主張
(ア) 原告は,第1次解雇後,a運輸を債務者として本件仮処分事件の申立てをして,a運輸に賃金仮払いを命ずる本件決定を受け,その後,丙事件を提起し,その訴状において,a運輸との間の労働契約の成立及び被告Y2社との間の出向労働関係の存在を主張し,また,甲事件を提起して,被告Y1社との間の労働契約の存在を主張している。これらの対応は,原告が組合や代理人弁護士との協議,判断に基づいて行っていたものであり,a運輸の解散を理由とする第3次解雇を契機として,原告が,被告Y2社との間の出向労働関係ではなく,直接の労働契約が成立している旨を主張するのは,前提事実を異にする明らかに矛盾した主張といわざるを得ない。また,原告とa運輸との間の労働契約の成立については自白が成立している。そして,a運輸と被告Y2社との労働契約は,二者択一の関係にあり,重畳的,併存的に成立するものではない。
丙事件,甲事件等で原告が主張しているように,原告は,a運輸に在籍しつつ,被告Y2社に出向していたにすぎない。原告とa運輸との間では,平成12年6月から労働契約が成立し,採用時に被告Y2社への出向命令があり,原告の個別的同意を得て,被告Y2社に出向させていたものである。
(イ) 原告は,a運輸に在職中,a運輸との間で労働契約を締結した労働者であるという認識を有していた。すなわち,原告が受領していた給与明細書には,a運輸の記名がされており,原告は,a運輸から給与の振込入金がされていることを認識していた。また,原告は,a運輸の雇用保険に加入し,季節雇用であった時期には,失業手当を受給していた。そして,原告は,a運輸の記名のある給与所得者の配偶者特別控除申告書に毎年署名押印をしてa運輸に提出し,a運輸の記名のある給与所得の源泉徴収票を毎年受領していた。被告Y2社が雇用主であり,a運輸との労働契約を認識していなかったかのような原告の主張は,その供述等に照らしても到底信用できない。
(ウ) 原告と被告Y2社との契約関係は,出向労働契約関係である。原告の被告Y2社への出向労働契約関係の根拠は,a運輸の就業規則の派遣出向に関する規定に基づくものである。○○グループに属するa運輸から被告Y2社への出向は,密接に関連する会社間における日常的な出向であり,○○グループ内の職場においては,通常の人事異動の手段として定着しているものであるし,a運輸と被告Y2社との間では,従業員出向に関する取り決めが合意されている。
そして,a運輸が原告を採用する際には,原告の所属はa運輸であり,従事する業務は,被告Y2社におけるコンクリートの製造及び運搬であることが説明されており,出向について個別的合意がされている。
ところで,被告Y2社に直接雇用労働者がおらず,○○グループ各社からの出向社員から成り立っていたのは,○○グループにおいては,原則として,その中核である被告Y1社以外は直接労働者を雇用しないという方針があったためであり,被告Y2社には,人事労務の管理部門がなく,社会保険,雇用保険等の適用事業所でもなかったため,直接労働者を雇用する土壌が存しなかったことによるものである。a運輸は,もともと○○グループに属していなかったという歴史的沿革から,なお労働者を直接雇用するという方針がとられており,直接労働者を70名前後雇用し,うち40名弱のMOをウエットミキシング工法を新たに立ち上げた被告Y2社の技術指導をする目的で出向させていたものである。また,生コン業者が自身の商品(生コン)を運搬するため,自前で運輸部門を設けることのリスクは大きく,商品の運送は外注とすることが生コン業界では通例であった。したがって,被告Y2社が,a運輸の解散前後において,自社商品の運搬のために労働者を直接雇用し,車両を保有・維持・管理するという選択肢は,経営的判断からあり得なかった。そして,一般貨物自動車運送事業を行うためには,許可が必要であるところ,a運輸はその許可を得ていることから,a運輸からMOを出向させることとなったものである。
(エ) 被告Y2社は,原告について,他のa運輸から出向したMOと同様の扱いをしていたものであり,被告Y2社においては,a運輸から出向した社員である配車係が原告を含むMOに対して運送等の業務上の指示を行っており,また,ミニミーティング等の付随的業務については,被告Y1社から出向した社員が指示をするなどしており,その指揮命令の大部分はa運輸が行っていたと評価すべきものである。
また,被告Y2社とa運輸との独立の法人格が否認されるべき事情はなく,a運輸が被告Y2社に資本上,人事上従属するという関係もなく,a運輸の売上げのうち,被告Y2社に関する売上げは全体の3割程度を占めるにすぎなかった。a運輸の損失は被告Y2社との取引のみによって生じたものではない。a運輸のMOの採用については,その採用権限を被告Y2社に委託していたが,a運輸からは賃金額25万円前後,要経験との指示があり,その裁量の範囲は狭い。また,採用後の労務管理関係については,被告Y2社から判断材料の提供はされていたが,最終的な決定はa運輸が行っていた。確かに,被告Y2社における労働条件は,a運輸の就業規則とは異なる取扱いがされていたが,これは労使慣行によるものにすぎない。a運輸には事業者としての十分な独立性が認められる。
そして,被告Y2社は,業務委託契約に基づいてa運輸に業務委託料を支払っていたところ,この委託料とは別にMOの人件費を支払っていたことはなく,平成18年度には,毎月生コン運搬代一式1830万円という固定額の業務委託料の請求がされており,業務委託料とMOの人件費とは必ずしも対応するものではなかった。
(オ) 以上のとおり,原告と被告Y2社との間にはごくわずかな使用従属関係しか認められず,賃金支払関係もない。a運輸は独立した事業者であり,被告Y2社と原告との間の黙示の労働契約の存在を事実上推認することはできない。
(2) a運輸の法人格否認について(争点2)
ア 原告の主張
(ア) 前記前提となる事実記載のとおり,被告Y1社,被告Y2社及びa運輸は,○○グループのグループ企業であり,a運輸の株主比率は,G62.5%,D12.5%,E12.5%,F12.5%となっているところ,Dを除く3名は被告Y1社の取締役であり,Dも被告Y1社の会社パンフレットの役員欄には,取締役製造担当相談役として記載されている。
平成20年2月当時,a運輸の取締役は,代表取締役でもあるEほか,G,Dの計3名であるところ,上記3名はいずれも被告Y1社の経営陣である。
(イ) a運輸は,実体としては被告Y1社の下請業務のみを行っており,被告Y1社の静内,平取,むかわ,様似,穂別,千歳,札幌の生コンプラントで生産される生コンクリートを専属で運送しており,被告Y1社及び被告Y2社との取引がほぼ100%を占めていた。その社員は,平成18年12月期においては,被告Y1社からの出向社員1名,従業員69名,被告Y2社へのMOとしての出向社員38名であった。そして,被告Y2社が使用していた車両は,被告Y1社がリースで借り受け,これをa運輸に転リースして,被告Y2社が使用していたものである。さらに被告Y2社への出向社員の給与・社会保険料については被告Y2社が全額負担していた。
(ウ) 被告Y1社とa運輸の本店所在地は,いずれも北海道日高郡<以下省略>所在であり,同一地である。さらに両者の事務所は,同一の建物内にあり,代表電話も同一である。a運輸における経営の意思決定は,被告Y1社の取締役会及びその下にある経営執行会議でなされており,a運輸における定期的な取締役会等は開催されておらず,その業務執行における独自の意思決定はほぼ形がい化していた。
(エ) 以上によれば,原告のようなMOとの雇用関係については,a運輸は,給与の支払や給与明細書発行などの経理事務,社会保険手続,雇用保険手続などの事務手続を行う機関にすぎず,その法人格は形がい化している。
(オ) 被告Y1社は,○○グループから原告を排除するために,a運輸に対して財政援助を行わないことを決定し,これによりa運輸の解散が決定した。a運輸は,平成20年3月31日付で解散し,原告を含む従業員を解雇した。そして,b運輸が,a運輸の従業員によるMO業務を引き継ぐ目的で設立され,a運輸に在籍し,被告Y2社にMOとして出向していた者のうち,原告を除く希望者全員が,b運輸に採用され,原告は,採用面接を受けたものの,直ちに不採用となっている。
(カ) 以上によれば,a運輸の解散が○○グループの運輸部門の経営上の再編成による経営の合理化を目的とするものであったとしても,被告らは,この機会に原告を排除しようと意図してa運輸の解散を理由とする第3次解雇を行ったものであり,a運輸の法人格が,原告の排除という違法,不当な目的のために利用されたものというべきであり,その濫用の程度が顕著かつ明白なものであると認められる。
(キ) そうすると,a運輸については,原告との雇用関係においては,法人格の形がい化,法人格の濫用が認められるのであるから,a運輸の法人格を否認し,被告Y1社とa運輸とは同一視されるべきであり,原告と被告Y1社との間の雇用契約上の地位が認められるべきである。
イ 被告らの主張
(ア) 被告Y1社は○○グループの中核企業であり,a運輸は同グループに所属するものであるから,一定程度の役員の重複やグループ会社間の財政的支援があることによって,事実上の影響力があることはむしろ当然であり,そのことをもって実質的支配が導かれることはない。
a運輸の株式については,被告Y1社は株主ではなく,Gがその過半数を保有しているものの,その余の株主はG一族などではなく,独自の判断によって株主として行動できるといえるのであって,資本上の実質的支配があるとまではいえない。
また,被告Y1社とa運輸の事務所の電話番号の区別はされており,a運輸が被告Y1社の一運輸部門にすぎないような密接不可分の関係にはない。MOの派遣についても,前記のとおり,a運輸が最終的決定権を有しており,出向関係にある以上,被告Y2社の指揮命令下にあることはむしろ当然である。
a運輸は,平成19年度の決算において,貸借対照表上は1億4257万7034円の資産を保有し,1億6838万1209円の負債があって,損益計算書上の売上高は5億6561万1771円というそれなりの規模の企業であって,○○グループに所属して企業活動をしているというだけで,法人格を否認されることにはならない。a運輸は,被告Y1社との関係で法人格を否定されるほど形がい化しているものではない。
(イ) a運輸が解散した理由は,端的に経営不振により債務超過に至ったことにある。すなわち,a運輸は過去5期では,すべての期で売上総損失及び営業損失を計上しており,第36期(平成18年)を除く4期で経常損失及び当期純損失を計上していた。将来的な運輸業界の先行きの見通しが明るくない中,a運輸では,本業である営業損失段階での採算割れという苦しい経営状況が続くとともに,債務超過に陥るなどしていた。このため,被告Y1社において,今後の支援継続はできないとの判断がされ,最終的にa運輸において今後の事業継続が困難と判断されたことにより解散したものである。そもそも相応の企業規模を有するa運輸が原告1名ないし企業外組合である組合対策のために解散するなどということはあり得ない。
原告は,結果的にb運輸に採用されていないが,b運輸は○○グループに属さず,b運輸の採用に対する原告の対応が遅かったことや面接態度等に基づいて,b運輸が判断したことであり,a運輸や被告Y1社の責めに帰すべきことではない。
以上のとおり,a運輸が被告Y1社との関係で法人格を濫用している事実もない。
(3) 原告に対する第1次解雇ないし第3次解雇の有効性について(争点3)
ア 被告らの主張
(ア) a運輸の就業規則24条にはa運輸の従業員が遵守すべき事項が定められており,同条2項には「所属長または上司の指示命令に違反してはならない」と,同条3項には,「勤務中喧嘩,口論または,粗暴な行為があってはならない」と規定されている。さらに同45条には,懲戒事由が定められており,かかる事由に該当する時は,譴責,減給,昇給停止,休職,降職,解雇の6種の懲戒処分をなしうることが,同条1項には「正当な理由がなく,職務上の指示,命令に従わず社内の秩序を乱した者」という懲戒事由が規定されている。
(イ) 原告は,次のとおり,経営改善のために開催される被告Y2社における経営改善ミニミーティング(以下「ミニミーティング」という。)において,原告が経営改善とは無関係の質問を執拗かつ長時間繰り返し,ミーティングの目的である経営改善への取組みを著しく阻害し,何度注意をしても状況は全く改善されず,同席した他の従業員が当該ミーティングにおいて意見を述べる機会を失わせた。
平成18年4月13日の第1回ミニミーティングにおいて,原告は,執拗に,「リフレッシュ休暇はないのか」,「有給は買い上げてくれないのか」,「ボーナスとか手当とか出ないのか」,「給料体系を教えてほしい」,「乗務手当てはなくせないのか」,「年俸を月に分けているのに,月の金額を減らすのはおかしくないのか」等とセンター長に対して質問をして,議事の進行を妨害した。
平成18年5月17日の第2回ミニミーティングにおいて,原告は「いろいろな手当の支給はないのか,給料はあがらないのか」,「せめてボーナスを出して欲しい」等と,センター長に対して議題とは無関係である労働条件に関する要求を繰り返して,議事の進行を妨害した。
平成18年6月14日の第3回ミニミーティング,平成18年7月12日の第4回ミニミーティング,平成18年9月13日の第6回ミニミーティング,平成18年10月16日の第7回ミニミーティング,平成18年12月13日の第9回ミニミーティングにおいて,原告は従前からミニミーティングにおいて執拗に要求していた事項を再度蒸し返して,議事の進行を妨害した。
(ウ) また,原告は,平成19年2月ころ,a運輸が原告との間で新規の雇用契約書の取り交わしを提案した際に,その担当者に対して「裁判でも何でもやって訴えてやる」等と,突如威圧的な言動・態度を示してこれを拒絶した。
(エ) さらに原告は,平成19年4月,次のとおり,全社員参加による総合評価方式の人事考課制度の実施について,上司から十分な説明を受けたにもかかわらず,原告は極めて不適切な人事考課表の記入をして非協力的な態度を示した。
平成19年4月1日から○○グループでは,特定の上司が一方的に部下を評価するのではなく,労働者が所属する部門の外の労働者からも評価を受ける総合評価方式という新たな人事考課システムが導入され,このシステムは上司のみならず,当該労働者の同僚からも評価を受け,その平均値を把握することによって,当該労働者の評価をより客観的かつ公正で納得できるものとなすべく構築された。
しかるに,原告は,同月5日の新たな人事考課制度の導入についてのミニミーティングにおいても,執拗な質問を繰り返し,「お前(被告Y2社の最高運営責任者)に俺たちの評価はできないだろう」等の暴言を吐いた上,評価シートにおいて自分を除く同僚に対する評価につき,全員の全考課要素・考課着眼点欄に最高評価の「5」を記入して提出した。
(オ) 以上のとおり,原告には,著しい企業秩序への侵犯行為,著しい勤務態度の不良さと協調性の欠如が認められることから,懲戒事由が存在するのであり,第1次解雇は有効である。
(カ) また,原告の上記のような行動からすれば,これによる普通解雇である第2次解雇にも合理的な理由がある。
(キ) さらに,前記のとおり,a運輸の解散は,経営上の理由に基づく真実の解散であり,a運輸は現にその事業廃止をしており,解散を理由とする解雇は,客観的に合理性があり,社会通念上相当として是認できる場合に当たる。そして,原告が解散前に解雇されており,解散に関して組合から申し入れられた団体交渉の経過からすれば,第3次解雇が著しく手続的配慮に欠けていたとか,不当労働行為意思に基づいてなされたものなどとはいえず,第3次解雇は有効である。なお,解散が真実である以上,整理解雇法理の適用はない。
イ 原告の主張
(ア) 原告は,平成12年5月に入社して以降,2,3回の少額のベースアップはあったものの,残業手当等は全く支払われていなかったため,その労働条件に不満を持っていた。しかし,a運輸には労働組合が存在せず,原告は個別に労働条件を交渉することは到底できない状況であった。
そこで,原告は,平成18年4月ころから,従業員に比較的自由に発言の機会が与えられている被告Y2社の毎月のミニミーティングで,労働条件について質問をするようになった。
その内容は,休暇,給与体系,勤務体系についての質問で,従業員にとって切実な問題であり,残業手当の不払いについては,労働基準法違反の問題であるから,原告がミニミーティングの際に議題にすることには正当の理由がある。
原告は,別の議題のところで上記のような質問をしていることもあったが,原告が発言して被告Y2社の担当者とやりとりしている時間は30分程度にすぎない。
(イ) 平成19年2月初旬ころ,Bは,被告Y2社における原告を含むMOに対し,一方的に不利益な労働条件の変更を内容とする新規の雇用契約書に署名押印するよう要求してきた。かかる雇用契約は,全員に対し常用から1年の有期雇用への変更,基本給の引き下げ(原告については月額1万6000円の減給)を内容とするものであった。原告は,かかる不利益変更に対して疑問に思い,組合に相談し,その撤回を要求した。
さらにこうした経緯の中で,平成19年4月に全社員参加による総合評価方式の人事考課制度が導入されたことに原告は反発を覚えた。そこで原告は,全員が仕事を一生懸命こなしているのであるからこれについて自分の評価が他の従業員の労働条件の切り下げに使われることがあってはならないと考え,各人に対して最高の評価をした。
(ウ) a運輸の就業規則47条は,「懲戒は審査の上,社長が決定する。但し,懲戒をうけるものに対しその弁明の機会を与える」と規定している。しかし,原告は,第1次解雇に当たって弁明の機会を与えられていない。
(エ) 以上によれば,原告には懲戒事由はないというべきであるし,その手続からみても,第1次解雇は無効である。
(オ) また,普通解雇としてされた第2次解雇も,上記と同様に,客観的に合理性を欠き,社会通念上相当とは認められないから,解雇権の濫用として無効である。
(カ) さらに,a運輸の解散を理由とする第3次解雇も,原告には,法人格否認の法理により被告Y1社との間で雇用契約上の地位が認められるか,あるいは,被告Y2社との間の直接の雇用契約上の地位が認められるのであるから,a運輸の解散を理由とする第3次解雇が無効であることは明らかである。
(キ) また,a運輸の解散は,その債務超過を理由とするものではなく,○○グループの運輸部門の経営上の再編成による経営の合理化を目的とするものであり,a運輸の従業員のうち被告Y2社で稼働していたMOについては,そのほとんどがb運輸に再配置されている。
そして,a運輸の解散による従業員の解雇については,企業経営の合理化又は整備によって生ずる余剰人員の整理としてなされる整理解雇の要件も満たしていない。
すなわち,○○グループの運送部門の経営の合理化に当たって,a運輸の経営における債務超過の原因は,MO業務にあったとはいえないし,その余の取引も専ら被告らとの間で行われており,a運輸の業績は,被告らの業績がそのまま影響される状況にあったのであるから,a運輸の解散が必須であったとはいい難いし,また,a運輸の担っていた運送部門の人員を引き続き必要としていたのであるから(実際に,MOについてはb運輸に,他の運転手については,「c有限責任事業組合」(以下「c事業組合」という。)に属する21社にそのほとんどが再配置されている。),人員削減の必要性もなかった。さらに,解雇回避努力,解雇条件の内容の公正さや適用の平等,解雇手続の相当性,合理性の点からみても,a運輸の解散を理由とする第3次解雇には,整理解雇としての合理性もなく,無効である。
第3当裁判所の判断
1 本件の事実経過について
(1) 前記前提となる事実及び当事者間に争いのない事実に加え,証拠(<証拠・人証省略>,原告本人尋問の結果。なお,後記認定に反する部分は除く。書証番号は枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 被告Y1社は,昭和38年10月16日に設立登記がされた,生コンクリートの製造販売事業,コンクリート製品の製造販売事業等を主な目的とする会社であり,Gの一族による同族会社であって,その本店所在地を北海道日高郡<以下省略>とする,いわゆる○○グループの中核的な企業である。
a運輸は,貨物自動車運送事業等を主な目的とする会社であり,○○グループのグループ企業となった後は,その本店所在地を被告Y1社と同一場所とし,同グループの運送部門として運営されてきた。a運輸の株主は,Gがその過半数の株式を有するほかは,被告Y1社の経営陣が株主となっており,a運輸の取締役は,被告Y1社の経営陣であった。なお,○○グループ各社の社員は,被告Y1社からの在籍出向という形となっている者がほとんどであったが,途中から○○グループに属するようになったa運輸には,直接雇用社員がいた。
イ 被告Y2社は,レディーミクストコンクリート(生コンクリート)及びコンクリート製品の製造,販売とその輸送業務等を主な目的とする会社であるところ,平成12年4月ころから,○○グループにおいて,札幌市周辺において,生コンの小口需要に対応するため,IT技術を利用したネットワークにより生コンの製造と配送を集中管理するネットワークプラント製造・販売を行うことが計画され,そのために新たに設立された会社であり,○○グループのグループ企業の一つである。
被告Y2社のネットワークプラントとは,多数の小型生コンクリートプラントと配送用車両の集中管理を行うものであり,受注があると,ネットワークを用いて近くのプラントや配送車に製造,輸送を指示するもので,プラントは定置式大型ミキサーを備えず,原材料を直接ミキサー車に投入し,輸送過程で製造を同時に行うウエットミキシング製法による生コンの製造と配送を行うというものである。同社では,ミキサー車の運転のみならず,輸送過程にウエットミキシング製法による生コンの製造を行う特別な技能を有する者をMO(ミキシングオペレーター)として稼働させることとなった。
○○グループにおいては,主として被告Y1社の取締役によって構成される経営執行会議において,グループ全体を統括し,生コン事業部,製品事業部,パイル事業本部,市場開発本部,経営管理本部を統括していた。被告Y2社は,○○グループの市場開発本部に関する事業を行うものとされていた。
ウ 原告は,トラック等の運転手として稼働するなどし,被告Y1社の石山工場の生コンの運送業務に従事していた経験もあり,Aとも面識があったが,仕事仲間から,Aが中心となって被告Y1社がコンクリートの製造及び運搬を主な業務とする新会社を設立する旨の噂を聞き,平成12年3月ないし4月ころ,被告Y2社において稼働することを予定して,同月から被告Y1社の市場開発本部長となり,新しく設立された被告Y2社のセンター長となる予定あるいはセンター長であったAの面接を受けた。原告は,Aからは,所属はa運輸になるけれども働く場所は札幌市の被告Y2社である旨の説明を受け,原告の希望もあって冬季間以外に稼働する季節労働者として雇用された。なお,採用に当たっては,原告と被告Y2社ないしa運輸との間で雇用契約書が作成されることはなく,また,a運輸からの個別具体的な出向命令などもなかった。
被告Y2社におけるMOの採用については,そのセンター長となることが予定されていたAが専らこれを担当しており,MOの雇用条件については,a運輸から,コンクリートミキサー車の運転経験のある者で,給与月額25万円前後という枠の中で,その採用について一切をゆだねられており,その採用面接や雇用条件の決定等については,被告Y2社のセンター長としての立場でAが行い,その具体的な決定については,a運輸は個別に関与していなかったところ,原告については,Aの判断により,原告が希望する季節雇用とされて,給与月額は約27万円と定められた。なお,MOとして採用された者の中には,同種の業務の経験のない者も含まれていたが,Aは,そうした未経験者の採用の可否についても特にa運輸の判断を仰ぐことなく,自らの判断によって採否を決定していた。
エ 原告は,平成12年5月ころから,MOとして稼働するようになったが,雇用当初から被告Y2社に出社して,被告Y2社の従業員,主としてセンター長や配車係の指示によりMOとしての業務に従事しており,MOとしての業務内容,業務に伴う操作等も主として被告Y2社のセンター長から教育を受け,衣服等の備品も被告Y2社から支給されていた。原告は,特にa運輸の従業員等とは会ったこともなく,a運輸に出社したこともなかった。
被告Y2社には,同社に直接雇用された労働者はおらず,その従業員は全員が被告Y1社及びa運輸からの出向社員であった。なお,被告Y2社のMO業務につきMOとして稼働していた者は,全員がa運輸で雇用されて,被告Y2社に出向する形で労務を提供していた。また,被告Y2社においては,特段の就業規則や賃金規程等は定められておらず,被告Y1社からの出向社員については,出向元である被告Y1社の就業規則(<証拠省略>)や給与規定(<証拠省略>)に基づき,その賃金が支払われていたが,被告Y2社で就労していたMOについては,a運輸の就業規則や給与規定(なお,その内容は,被告Y1社と共通である。)は適用されておらず,その賃金体系は,a運輸で就労する従業員とは異なった独自のものであり,賞与の支給や時間外手当の支給等もなく,MOとしての採用時に合意した賃金額を基準として,被告Y2社のセンター長がMOの業務を査定するなどして,賃金が決定されており,また,MOの各種手当等の制度に関する労働条件についても,被告Y2社において話し合われていた。
オ a運輸は,貨物自動車運送事業,生コン運送・打設事業等を行っていたが,a運輸自体の業務としては,いわゆるMO業務は一切行っておらず,一般的な運送業務のみを行っていた。a運輸の取引は,MOの出向を含めた被告Y2社との取引を始め,○○グループ内での取引がほぼ全部を占めていた。
被告Y2社において使用していたコンクリートミキサー車等の車両は,その全部が被告Y1社においてリース会社から借り受け,これをa運輸に転リースをした上で,被告Y2社において使用していたものである。
被告Y2社で稼働する原告らMOの給与明細書は,a運輸名義で発行されており,その源泉徴収等の手続もa運輸名義で行われていた。また,原告の社会保険や雇用保険に関する手続等もa運輸名義で行われていたが,原告が,これらの点について,特に疑義を述べたり,質問をしたりするようなことはなかった。
原告らMOの給与,保険料等の人件費は,a運輸と被告Y2社との間の従業員の出向に関する契約書において,被告Y2社が実質的に負担することとされており(<証拠省略>),被告Y2社からa運輸に対して支払う業務委託費に含めて,a運輸に支払われていた。被告Y2社とa運輸との間の業務委託請負に関する収支については,MOの人件費等は,実質的に被告Y2社が負担していたが,a運輸が被告Y2社に請求する業務委託費については,請け負った業務量(運搬料)に応じて定めたり,被告Y2社で使用する車両の燃料費,リース料,保険料等を考慮することなく定めていたことなどから,平成16年度から平成19年度にわたるa運輸のMO部門における収支は,合計6700万円以上の損失を計上している。
カ 原告は,季節雇用のMOとして,毎年12月から3月までの冬季間は別会社で稼働し,4月から11月までの8か月は被告Y2社で稼働していたが,別会社での仕事が減少したこともあって,平成16年4月ころからは,被告Y2社で正社員として稼働したいと考え,被告Y2社のセンター長であるAにその旨の希望を述べていた。
平成17年4月,原告は,別会社での冬季間の稼働を終えて,被告Y2社での仕事を再開したが,同年11月になっても,雇用期間満了の話が出てこなかったことから,給与明細書を確認したところ,同年4月から乗務手当金が支給されていることから,正規雇用になっているのではないかと考え,平成16年からAに代わって被告Y2社のセンター長になっていたBに確認をしたところ,平成17年4月から常用雇用となっていることが明らかになった。なお,この際も,原告は,面接を受けたり,a運輸及び被告Y2社と雇用契約書を取り交わすことはなく,また,出向についての確認や命令等を受けることはなかった。
キ 原告は,平成12年5月に入社して以降,多少の給与のベースアップはあったものの,賞与や残業手当が全く支払われていなかったため,被告Y2社での労働条件に不満を持っていたが,個別に労働条件を交渉する機会はなかった。
そこで,原告は,平成18年4月ころから,被告Y2社において毎月開催されているミニミーティングにおいて,議題とされた事項には上がっていない,休暇,給与体系,勤務体系等といった労働条件に関する質問をするようになった。なお,ミニミーティングは自由参加ではなく,被告Y2社での就業時間後に行われていたが,MOに対する残業手当等の支給はなかった。
また,平成19年2月初旬ころ,被告Y2社における原告を含むMOに対し,従前より不利益な労働条件の変更を内容とする新規の雇用契約書を取り交わすように提案されることがあった。新規雇用契約は,MO全員に対し常用から1年の有期雇用への変更と基本給の減額を内容とするものであったため,そうした不利益変更を疑問に思った原告は,その撤回を要求し,その際,「裁判でも何でもやって訴えてやる。」などと発言した。
さらに,同年4月,被告Y2社において,従業員が相互に同僚の評価をすることを含む全社員参加による総合評価方式の人事考課制度が導入されることになったが,これに反発した原告は,これで給与が決まるのか,最終的に誰が判断するのか,本社の人間にわかるのか,人を評価してその結果で給与が下がったら責任があるからできないなどと発言し,また,配布された評価シートには,自分の評価が他の従業員の労働条件の切り下げに使われることがあってはならないと考え,各人に対して全項目で最高点である5点を付けた。
なお,原告は,労働条件の不利益変更が打診されたことなどを契機として,同年2月7日に組合に加入し,その後,団体交渉が行われるなどした。
ク 平成19年4月28日,原告は,被告Y1社の市場開発本部の本部長であるCから,同日付で原告を懲戒解雇にする旨の第1次解雇を告げられた。その解雇理由は,原告が,ミニミーティングにおいて議題以外の質問を繰り返し,注意によっても改善されず,他の従業員が会社の方針を聞いて意見を述べる機会を失わせたこと,新規の雇用契約の締結に際し,担当者に威圧的な言動・態度で臨むことが,就業規則(上記のとおり,被告Y1社,a運輸を始めとする○○グループ各社の就業規則は共通のものであった。なお,被告Y2社の就業規則はない。)のうち,従業員の遵守事項を定めた24条の2項(「所属長または上司の指示命令に違反してはならない。」)及び3項(「勤務中喧嘩,口論または,粗暴な行為があってはならない。」)に違反し,懲戒事由を定めた45条1項(「正当な理由がなく,職務上の指示,命令に従わず社内の秩序を乱した者」)に該当し,さらに,人事考課においても誠意ある記入をせず,会社の方針に対し非協力的であることなどとされた。そして,同日,原告に対して,同様の趣旨が記載されたa運輸名義の解雇通知書(<証拠省略>),解雇理由証明書(<証拠省略>)が交付された。なお,同年2月ないし4月の3か月間に原告に支給されていた給与の平均額は,1か月当たり28万2666円であった。第1次解雇がされた同年4月28日には,原告に解雇予告手当として28万3000円が支払われているが,少なくとも同年6月分以降の賃金の支払はされていない。
ケ 組合は,原告に対する第1次解雇の撤回を求めて,団体交渉を求めるとともに(なお,平成19年5月11日,同月17日に行われた団体交渉においては,Cら○○グループの担当社員が対応したが,a運輸の担当者等は出席していなかった。<証拠省略>),同年5月18日,北海道労働委員会に原告の解雇撤回を求めて,a運輸を使用者として,あっせん申請を行った(<証拠省略>)が,あっせんは不調に終わった。
原告は,平成19年7月26日,a運輸を債務者として,札幌地方裁判所に本件仮処分事件を申し立て,また,a運輸は,原告を相手方として,札幌地方裁判所に労働審判を申し立て,その第1回労働審判期日において,予備的に原告を普通解雇にする第2次解雇の意思表示をした。
本件仮処分事件においては,同年11月28日,第1次解雇及び第2次解雇をいずれも無効であるとした上で,保全の必要性を考慮して,a運輸が原告に対して,同年12月から平成20年11月まで月額20万円の仮払いをするように命ずる本件決定がされた(<証拠省略>)。
原告は,平成20年2月1日,a運輸及び被告Y2社を被告として,当裁判所に雇用契約上の地位確認,出向労働者としての地位確認等を求める丙事件を提起した(なお,後に取り下げられた。)。また,a運輸は,本件決定に対して,札幌地方裁判所に異議申立てをしたが,同月14日,本件決定を認可する旨の決定がされた(<証拠省略>)。
コ a運輸は,債務超過により経営状態が悪化しているとして,本件決定後の平成20年1月18日,原告に対して,a運輸の解散を理由として解雇することを予告した上,同年3月31日に,業績悪化を理由として解散し,同日付けで原告を解雇する旨の第3次解雇を行った。原告は,当裁判所に,同年5月8日に甲事件を提起し,同年7月16日に乙事件を提起した。
a運輸は,札幌地方裁判所に第3次解雇による事情変更があったとして,保全取消しを申し立て(平成20年(モ)第79号),同年11月5日,本件決定を取り消す旨の決定がされた(<証拠省略>)。
サ a運輸が解散するに当たっては,被告Y2社においてMO業務を行っていたMOについては,被告Y2社の業務に必要であったため,被告Y1社の取締役であったAが,被告Y1社の要請により,これを受け入れる会社を設立することとなり,平成20年1月ころから,Aが被告Y2社で稼働していたMOに声をかけるなどして面接を行い,条件面で折り合いがつかず,採用を希望しなかった数名と原告を除いたMOが,同月23日に設立されたb運輸に雇用され,その後,被告Y2社におけるMO業務に従事するようになった。被告Y2社でのMO業務については,被告Y2社がc事業組合に委託し(<証拠省略>),c事業組合の構成員であるb運輸がこれを実施するという形で,b運輸からMOが派遣されている。b運輸の業務は,被告Y2社のMO業務がそのほとんどを占めており,使用するコンクリートミキサー車については,被告Y1社が連帯保証をした上でb運輸がそのリース契約上の地位を承継することとされ(<証拠省略>),また,b運輸の営業事務所は被告Y1社の工場の一角を低廉な価格で賃借している。
Aは,原告がa運輸から解雇されていたことから,当初,原告に対してはb運輸での採用面接などについて声をかけず,同年3月になってから,原告と面接をしたが,原告の採用を断った。
(2) 以上の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
原告は,平成12年4月ころにAの面接を受けた際,a運輸の名前は聞いていなかった旨を主張し,甲30(原告の陳述書),34(労働委員会での審問調書)及び原告本人尋問の結果中には,これに沿う記載部分及び供述部分がある。
しかしながら,甲33によれば,平成15年ころにMOとしての採用について,Bの面接を受けた者は,雇用主となるのはa運輸であることについて説明を受けていることが認められるところ,Aにおいても原告の面接の際に殊更この点を隠す必要があったとは認め難いこと,上記認定のとおり,原告は,被告Y2社で稼働するようになった後,a運輸名義の給与明細書を受け取るなどした後も,この点について特にA等に理由を問い合わせるなどしてしないこと,第1次解雇後の労働委員会に対するあっせん申請や本件仮処分事件の申し立てにおいては,a運輸を使用者ないし債務者としていることなどからすれば,被告Y2社で稼働するに当たって,a運輸の介在に関して何らの説明も受けていなかったとの上記記載部分及び供述部分は直ちには信用し難く,原告を面接した際,所属はa運輸になる旨を話したとする甲39(労働委員会での審問調書)及び証人Aの証言中の記載部分及び供述部分に照らせば,原告の上記記載部分及び供述部分をもって,上記認定を覆すに足りないというべきである。
2 争点1(原告と被告Y2社の実質的な雇用関係の有無)について
(1) 上記認定事実によれば,原告は,当初から被告Y2社で稼働するMOとして,被告Y2社のセンター長に就任予定あるいは既に就任し,MOの採用担当であるAの面接を受け,専らAの判断により,その労働条件が決定されて採用されているのであり,その労働契約の締結に当たっては,a運輸側の人間とは一切接触していない。また,被告Y2社で稼働するようになった後も,a運輸側の人間と関係することなく,a運輸の就業規則や給与規定の適用を受けることもなく,被告Y2社のMOとしての独自の賃金体系と被告Y2社側の人事考課に基づく査定によって決定された賃金を受領し,被告Y2社のセンター長であるAや配車係の指揮命令や監督に従ってその労務を提供しており,MOの再雇用や常用雇用への変更,賃金の変更,各種手当の有無等といった労働条件の変更に当たっても,専ら被告Y2社側の判断によって変更され,あるいは被告Y2社とMOとの話し合いによって変更の交渉がされるなどしていた。さらに,被告Y2社のMOの人件費については,a運輸名義で支給されていたが,被告Y2社が実質的に負担することとされ,被告Y2社からa運輸に対して支払う業務委託費に含めて,a運輸に支払われており,原告の解雇に当たっても,実質的には,被告Y2社ないし被告Y1社の判断で行われたものといえ,a運輸名義の解雇通知書及び解雇理由証明書が発行されたほかは,a運輸の実質的な関与をうかがわせるような事情は見当たらない。
そうすると,被告Y2社で稼働するMOである原告については,被告Y2社を雇用主とし,原告をその労働者とする事実上の使用従属関係が存在していたことは明らかというべきである。
確かに,被告Y2社のMOについては,a運輸から出向するという形式がとられていたことから,MOの指揮命令関係が専ら被告Y2社との間で生ずることや被告Y2社がその人件費を実質的に負担することは当然ということもできる。しかしながら,上記認定のとおり,a運輸も被告Y2社も○○グループに属する会社であり,経営内容や財政支援等に関する実質的な支配は,いずれも被告Y1社によって行われていたこと,MOは,被告Y2社において行われる新たな事業においてのみ必要とされ,新たに雇用されたものであり,被告Y2社のMO業務は,a運輸自体が従前行ってきた業務とは何らの関わりもなく,新規に採用することとなるMOの雇用をa運輸において行わなければならない必然性があったとはいい難いこと,実際にもMOとの間の労働契約関係の成立,その労働条件等の実質的な決定,その労務管理等に当たって,a運輸の関与は極めて希薄なものであり,これが専ら被告Y2社によって実質的に行われていたものといわざるを得ないこと,MOとしての採用時における原告に対する説明においても,a運輸の所属となる旨の簡単な説明にとどまり,出向関係やその条件に関する具体的な説明もされていないこと,a運輸の解散後も,被告Y2社で行うMO業務のために,MOの受け皿として,被告Y1社の意向によってb運輸が設立されていることなどからすれば,a運輸から被告Y2社への出向関係は,あくまで形式的なものといわざるを得ず,a運輸は,少なくとも原告らMOとの関係においては,給与の支払と明細書の発行,社会保険事務,雇用保険事務等を行う代行機関にすぎなかったものと評価し得るというべきであり,MOである原告の労働契約がa運輸との間で成立していることを前提とする出向関係が実質的にも存在していたものと認めることは困難というべきである。
以上によれば,原告との間の実質的な使用従属関係は,被告Y2社との間で存在していたということができ,上記の客観的な事実関係から推認し得る原告と被告Y2社の実質的な合理的意思解釈としては,原告と被告Y2社との間の黙示の労働契約の成立が認められるというべきであり,原告は,被告Y2社のMOとして採用され,被告Y2社との間で労働契約を締結したものと認めるのが相当というべきである。
(2) 被告らは,原告が本件仮処分事件やその本案訴訟である丙事件において,a運輸との間の労働契約の成立及び被告Y2社との間の出向労働関係の存在を主張しており,a運輸との間の労働契約の成立については,自白が成立しているところ,a運輸又は被告Y2社との労働契約は,二者択一の関係にあり,重畳的,併存的に成立するものではないから,被告Y2社との労働契約関係は存在しない旨を主張する。
確かに,上記認定のとおり,原告は,本件仮処分事件や丙事件において,a運輸を債務者あるいは被告として,その労働契約の成立を前提として,第1次解雇及び第2次解雇の無効を主張しているところである。しかしながら,これは,原告の形式的な雇用主がa運輸とされていたことに対応したものであることが明らかであるところ,原告は,本件訴訟においては,そうした形式的なa運輸との間の労働契約関係が,実質的には被告Y2社との間の労働契約関係と同視し得るものであるとして,被告Y2社との間の直接的労働契約関係の存在を主張しているとみることができるのであり,これがa運輸との間の労働契約関係と二者択一の関係にあり,両立し得ないものであるなどということはできないというべきである。この点に関する被告らの主張は,採用することができない。
また,被告らは,被告Y2社には一般貨物自動車運送事業を行うための許可がなく,現時点では,被告Y2社でのMO業務については,被告Y2社がc事業組合に委託し,c事業組合の構成員であるb運輸がこれを実施するという形で,b運輸からMOが派遣されている旨を主張する。
しかしながら,上記のとおり,被告Y2社と原告との間の実質的な労働契約関係が認められる以上,被告Y2社は,同社に労務を提供しようとする原告に対して,賃金支払義務を負うものというべきであり,被告Y2社において原告からの労務の提供を受けるための何らかの条件整備等が必要であるとしても,これは被告Y2社が対応すべき事柄というべきであって,この点をもって被告Y2社と原告との間の実質的な労働契約関係を否定することはできないというべきである。この点に関する被告らの主張は,採用することができない。
3 争点3(原告に対する第1次解雇ないし第3次解雇の有効性)について
(1) 上記認定事実によれば,第1次解雇における解雇理由とされた原告のミニミーティングにおける発言については,ミーティングの趣旨,目的をわきまえないものであったということはできるものの,こうした使用者側も参加するミーティングの機会に労働条件に関する質問をすること自体が直ちに許されないものとはいい難いし,こうしたミーティングが就業時間外に開催され,時間外手当の支給等もされていないことなどからすれば,それ自体を被告Y2社における業務であったと断ずることもできず,さらに,こうした原告の発言により,被告Y2社における業務遂行に具体的に支障が生じたような事情もうかがわれないのであり,これをもって,原告が正当な理由なく社内秩序を乱したものということはできない。また,同様に解雇理由とされた新規雇用契約の締結の際の原告の発言については,やや穏当を欠く表現が含まれていることは格別,提案された新規の雇用契約が労働者の労働条件を不利益に変更するものであることからすれば,原告がこれに抵抗すること自体を非難することはできないのであって,これをもって,原告が正当な理由なく社内秩序を乱したものということはできない。さらに,同様に解雇理由とされた同僚の人事評価に関する原告の行動については,およそ新たな人事考課制度において,従業員に同僚の評価をさせることが明確に職務上の指示,命令であるのか否かも明らかではないし,従前他人の人事評価をすることなどがなかった原告が同僚を評価することに疑問を抱いたためにとった行動であることからすれば,これをもって直ちに正当な理由なく社内秩序を乱したものということまではできない。
以上によれば,原告の第1次解雇における解雇理由は,直ちに懲戒事由に当たるとはいい難いし,これをもって原告を懲戒解雇とすることは許されないというべきであり,第1次解雇は無効というべきである。
また,同様の理由による普通解雇である第2次解雇についてみても,原告が正当な理由なく社内秩序を乱したとまではいい難いことは,上記のとおりであるし,こうしたことをもって,原告の勤務態度が著しく不良であるとか,協調性が欠如しているなどと評価することはできないというべきであって,普通解雇である第2次解雇についても,合理的な理由があるとはいい難く,原告を解雇することが社会通念上相当とはいえないから,解雇権の濫用として無効というべきである。
(2) そして,第3次解雇は,a運輸の解散を理由とするものであるところ,前記のとおり,原告と被告Y2社との間で実質的に直接的な労働契約関係が認められる以上,形式的な雇用主にすぎないa運輸の解散が,原告と被告Y2社との間の実質的な労働契約関係を解消する理由とはならないというべきである。
また,業績悪化によるa運輸の解散は,直ちに被告Y2社における経営上の人員整理の必要性と結びつくものとはいい難く,被告Y2社のMOとしての原告を解雇しなければならない具体的な経営上の必要性については,これを認めるに足りる具体的な主張立証はない。
したがって,第3次解雇は,原告と被告Y2社との間の労働契約関係に影響を及ぼすものとはいえないというべきである。
4 まとめ
以上によれば,原告と被告Y2社との間の労働契約関係は,未だ解消されるに至っていないというべきであり,原告は,被告Y2社との間では,その札幌市近郊でのMO業務を行うMOとして,期限の定めのない雇用契約上の地位を有するものというべきである。
そして,前記前提事実及び上記認定事実によれば,被告Y2社においては,原告の1か月の賃金は,毎月7日に支払われていたこと,第1次解雇前の平成19年2月から4月までの3か月間に原告に支給されていた給与の平均額は,1か月当たり28万2666円であったこと,少なくとも原告の同年6月分以降の給与の支払はされていないことが認められるところ,被告Y2社は,原告に対して,その雇用契約に基づき,同年6月以降,毎月7日までに当月分の給与として各28万2666円を支払う義務があるというべきである。
なお,被告らは,本件仮処分事件の本件決定によって,a運輸が仮払金の支払をしている旨を主張するようであるが,これは仮処分である本件決定に基づいて支払われた仮払金であり,上記のとおり,本件決定の前提となったa運輸と原告との間の労働契約関係は,被告Y2社と原告との間の労働契約関係と同視し得るのであり,本件訴訟は,本件仮処分事件の実質的な本案訴訟に当たるというべきであるから,上記仮払金は,本件訴訟の判決確定によって最終的にその帰属が確定されるものというべきであるから,これを既払金として考慮することは相当とはいえない。
5 結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の主位的請求は,理由があるというべきであるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。
(裁判官 竹田光広)