大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌地方裁判所 平成20年(行ウ)9号 判決 2009年12月22日

主文

1  被告が原告に対して平成19年11月14日付けでした原告の馬主登録を拒否する旨の処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

主文と同旨

第2事案の概要

本件は,被告が,原告の馬主登録の申請を拒否する旨の処分をしたため,原告が,被告がした拒否処分の取消しを求めた事案である。

1  関係法令等の定め

(1)  被告は,競馬法により競馬を行うことができ,また,農林水産省令の定めるところにより,被告が行う馬主登録を受けた者でなければ,中央競馬の競走に馬を出走させることはできず,被告は,競馬の公正な実施を確保するため必要があると認めるときは,農林水産省令で定めるところにより,上記馬主登録を抹消することができる(競馬法1条1項,13条)。

そして,上記省令である競馬法施行規則(以下「規則」という。)は,馬主登録の申請の方式,馬主登録の実施方法,馬主登録の拒否事由(規則13条ないし15条)について規定を設けている。規則では,馬主登録の拒否事由として,馬主登録の申請者が,集団的に,又は常習的に暴力的不法行為その他の罪に当たる違法な行為で暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行規則第1条各号に掲げるものを行うおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者(規則15条5号)など規則15条1号ないし9号に定めるもののほか,競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者(規則15条10号)に該当すること等が定められており,被告は,馬主登録の申請があったときは,規則15条により登録を拒否する場合を除くほか,所定の事項を馬主登録簿に登録しなければならない(規則14条)。

(2)  日本中央競馬会法は,被告の組織及び運営について定めた法律であるところ(同法1条),被告は馬主の登録に関する規定について規約で定めなければならないと規定しており(同法8条1項2号),それを受けて,日本中央競馬会の競馬の施行等に関する規約(平成19年日本中央競馬会規約第2号,以下「規約」という。乙3の1)は,馬主登録拒否事由として,規約7条1項1号ないし3号に定めるもののほか,競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由のある者に該当するときは,規則15条10号の規定に基づき,その登録を拒否する旨規定し(規約7条1項4号),さらに,同規約を実施するために必要な事項の定めとして(規約2条1項),日本中央競馬会競馬施行規程(平成19年日本中央競馬会理事長達第28号,以下「規程」という,乙3の2)も,馬主登録の申請者が,競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者(規程7条13号)に該当するときにはその登録を拒否する旨規定している。

(3)  被告は,馬主登録審査にあたり馬主登録審査基準(以下「審査基準」という。乙4)を独自に作成し,同基準第1「個人馬主登録」の1「競馬の公正確保上,馬主として適格でないと認める基準」には,(1)「暴力団関係」として,①暴力団員(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行規則(平成3年国家公安委員会規則第4号)第1条各号に掲げる違法な行為を集団的・常習的に行うと認められる団体に属している者をいう。),②上記①の暴力団員と親交があると認められる者,又は過去に親交があったと認められ競馬の公正を害するおそれがあると認められる者と記載されている。

2  前提事実

(1)  原告は,被告理事長に宛てて,平成19年5月18日付け個人馬主登録申請書を提出し(以下「本件登録申請」という。),同申請書は,同月30日に受理された(甲2)。

(2)  被告は,平成19年11月14日,原告に対し,馬主登録を拒否する旨の処分(以下「本件拒否処分」という。)をし,同日付の通知書をもって原告に通知した。なお,本件拒否処分は,規程7条13号の「競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由のある者」に該当するとの理由によるものであった。(甲1,2)

(3)  原告は,平成19年12月28日付けで本件拒否処分に対する異議申立てをし,被告は,平成20年2月19日付けで,原告の異議申立てを棄却する旨の決定をした(甲2)。

3  争点

本件拒否処分の適法性

4  争点に関する当事者の主張

(原告の主張)

(1) 登録拒否事由該当性の判断基準について

刑法上禁止されている賭博に該当する競馬は,競馬法により例外的に許容されたものであり,同法は競馬の公正確保を強く求めているところ,他方で,競馬の公正に対する信頼そのものを保護すべきことまでは求めておらず,競馬の公正に対する信頼は,競馬の公正を確保することによって結果的に得られるものに過ぎない。

このような競馬法の趣旨及び規程7条13号が単に「競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる者」とせずに「競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由のある者」と定めていることからは,規程7条13号にいう「競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由のある者」とは,「馬主として競馬に関与させることによって競馬の公正を害する蓋然性を相当程度有する者」と解すべきである。

そして,被告は,規程5条に基づく馬主登録の申請があったときは,規程7条により登録を拒否する場合を除いて馬主登録をしなければならないのであるから,馬主登録の拒否について被告に裁量は認められておらず,登録拒否事由の該当性の判断は客観的であるべきであって単なる抽象的な疑惑があるにすぎない場合はこれに該当せず,被告の恣意的な判断が許される余地はない。

また,馬主登録拒否処分の適法性について争いがある場合,被告において登録拒否事由に該当することを主張立証しなければならない。

(2) 登録拒否事由該当性について

ア 被告は,原告が,指定暴力団A組B(同人の名前については,書証及び主張に「○○」「○○」「○○」などと表記されているが,書証の記載を引用している場合を除き,同人の名前は「○○」で統一し,以下「B」という。)及び暴力団関係者とみられるCと関係があることから,札幌市内に拠点を置く指定暴力団関係者をはじめ複数の暴力団関係者との交際が認められるとして,規程7条13号の「競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由のある者」に該当する旨主張するが,以下に述べるとおり原告はいかなる暴力団関係者とも交際しておらず,本件拒否処分は,明らかな事実誤認に基づくものであって,馬主登録拒否事由は存在せず,本件拒否処分が違法であることは明らかである。

イ Bとの関係について

被告は,原告が指定暴力団A組○○一家総長であるBと共に韓国渡航したなどと主張するが,原告は,Bと韓国渡航をした事実はないし,そもそも,原告はBとまったく親交がない。そして,調査嘱託の結果及び原告のパスポートの渡航記録からも明らかなとおり,Bと原告のそれぞれの出入国記録は全く符合していない。

ウ Cとの関係について

原告は,平成19年3月ころ,原告が代表取締役を務める会社が人手不足だったことからアルバイトとしてCを雇用したことはあるが,ダンプカーの運転手として二,三日雇用しただけであり,それ以降,Cを雇用したことはないし,そもそもCを雇用した際,原告は,Cが暴力団員であると認識していなかった。

また,同年4月ころ,α町の飲食店において,Cと偶然顔を合わせ,同人と会話したことはあるが,アルバイトとして雇用したことがある者と顔を合わせれば会話することは当然であって,現在に至るまで原告とCとの間には極めて希薄な関係しかない。

エ 原告は,平成16年7月22日にD協会(以下「D」という。)に馬主登録申請を行い,その際,D協会の審査を受け(同審査においても,「競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者」は登録拒否要件である。),当該審査の結果,馬主として登録を受け,今日に至るまで地方競馬において,馬主として純粋に競馬を楽しんでおり,競馬の公正を害するような行為を行ったことはなく,この点からも,原告に,競馬の公正を害するおそれがないことは明らかである。

また,原告は,砂利採取販売等を主な事業内容とする株式会社E(以下「E」という。)及び砂利及び産業廃棄物の運搬を主な事業内容とする有限会社F(以下「F」という。)の代表取締役を兼任しているところ,各社の業務執行に際し,運転手の雇用や取引先との交渉など,それとは認識せずに暴力団関係者と接触していた可能性は全く皆無ではないが,仮にそのような事実があったとしても,職務遂行上なすべきことを行っているにすぎず,何ら反社会性を帯びた行為を行っているわけではなく,競馬の公正が害されるおそれはまったくない。

(3)ア 馬主登録申請の審査において,馬主登録審査委員会(以下「審査委員会」という。)を構成する委員らは,財団法人H協会(以下「H協会」という。)から被告に対して提出された報告書等を直接確認するわけではなく,同報告書等をまとめたレジュメが配布されて同レジュメを参考に審査を行うものである。また,審理の方式は,担当の被告職員が,申請者の情報を説明し,登録拒否事由の有無について被告の意見を明らかにした上で委員らに承認を求めるという形式であって,1件の審理には短時間しか費やさず,同審査は極めて形式的,ずさんなものである。なお,被告は,同委員会の審査結果の公正さを担保するために公正審査会議の審査も求めているが,同会議の審査も形式的なものに過ぎない。

イ H協会による再調査の結果作成された報告書には,韓国渡航の事実について,当初提出された報告書の内容以上のものは記載されておらず,さらにその真偽の確認は困難であると記載されているにもかかわらず,被告は,このようなあいまいな調査結果をもって,原告にBとの交際が認められるとして拒否事由該当性があると判断したのであって,被告の判断は,極めてずさんな審査に基づくものである。

さらに,上記再調査により作成された報告書には,原告とCとの関係についても,両者の間には深い交際は認められない旨の記載がされているにもかかわらず,被告はことさらに暴力団関係者との交際があると断じており,到底合理的な判断であるとはいえない。

被告はH協会の調査員による調査結果は信頼できるものであると主張するが,同報告書に記載されている情報提供者と申請者との関係,得られた情報の裏付け等について調査結果には全く触れられていない。

ウ 以上のとおり,原告には暴力団関係者との交際は一切なく,Cとの関係も極めて希薄であるから,「競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由」はなく,本件拒否処分が違法なものであることは明らかであって,拒否事由があると判断した本件拒否処分は違法である。

また,仮に,被告が主張するように,馬主登録拒否事由の該当性判断について被告に裁量があるとしても,被告は原告とBとの交際を基礎づける客観的証拠がないにもかかわらず同事実が存在するという前提で原告を「競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由のある者」と判断し,さらに,Cと原告の関係についても,両者の関係が極めて希薄であるとの報告を受けているにもかかわらず,競馬の公正を害する蓋然性について具体的な検討を行わないまま「競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由のある者」との判断を行っているのであるから,本件拒否処分における被告の該当性判断は極めて不当であり,法令の許容する裁量を逸脱ないし濫用するものであることは明らかである。

(被告の主張)

(1) 登録拒否事由該当性の判断基準について

ア 賭博は原則として禁止されているところ,被告は,競馬法1条により,例外的に競馬を行うことができるものであって,畜産振興への寄与を目的として競馬を行うために設立された団体である(日本中央競馬会法1条)。

そして,競馬を通じての畜産振興は,勝馬投票券の発売金額の一部が国庫納付され,これが畜産振興事業に充てられることによって実現するものであり,また,国庫納付金の一部は,民間の社会福祉事業の振興にも充てられ,国による公益事業への重要な投資財源となっている。

したがって,勝馬投票券の購入は競馬制度の根幹であるところ,競馬制度を維持するため,競馬の公正確保は大前提であり,そのためには,競馬の公正の実質が確保されることはもちろん,公正らしさについても確保することが必要である。

イ ところで,被告が開催する中央競馬においては,馬主として登録を受けた者だけが,競走馬を出走させることができる(競馬法13条)ところ,馬主は,自己の所有する競走馬を競馬に出走させて賞金を得るという競馬の仕組みにおいて根幹的な部分にかかわる立場にあり,その所有する競走馬を調教師や騎手等の厩舎関係者に委ねることから,厩舎関係者と直接接触して影響力を行使しうる立場にある。このような立場にある馬主については,規範意識や遵法精神が厳しく求められ,競馬の公正に関し,一般の競馬ファンから少しでも疑いをもたれるような言行や交友関係があってはならない。

そして,競馬法13条に基づいて,農林水産省は,馬主登録拒否事由を個別具体的に規定し(規則15条1号ないし9号),同条10号は「競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者」として包括的に馬主登録拒否事由を定め,さらに被告も,規程7条各号で馬主登録拒否事由を定め,同条13号で「競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者」として包括的に馬主登録拒否事由を定めている。

規程には個人馬主に関する登録拒否事由が列挙されている(規程7条1号ないし13号)ところ,1号ないし12号には,個別具体的な登録拒否事由が列挙され,13号は,バスケット条項(包括条項,以下「包括条項」という。)となっている。これは,あらゆる拒否事由を網羅的に列挙することが困難であることから同号を定め,競馬の公正確保の見地から,被告が「競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由のある者」と判断した場合には,馬主登録を拒否しなければならないことを定めたものである。

さらに,被告は,最終的に馬主登録拒否事由の該当性を判断する際の目安となる馬主登録審査基準を定めており,同基準においても,個別具体的事由の外に「競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由」を包括条項として規定している。

ウ 上記のとおり,競馬の公正確保の為に規定を設けている競馬法等の趣旨及び構成からすれば,どのようにすれば競馬の公正確保を実現できるのかは,競馬の施行者である被告が,専門的見地から諸々の要素を考慮して政策判断をすべき最重要課題であることから,馬主登録拒否事由の該当性の判断は,被告の裁量判断に委ねられる領域の問題であることは明らかである。

したがって,本件拒否処分は裁量処分であるから,被告が裁量権の範囲を超え又はその濫用があった場合に限り本件拒否処分を取り消すことができるものであり,また,本件拒否処分について裁量逸脱ないし裁量権の濫用を基礎づける事実については,原告に主張立証責任がある。

(2) 登録拒否事由該当性について

ア 被告は,馬主登録申請を審査するにあたり,競馬の公正を確保するためH協会に対し,馬主登録申請者の厳格な身辺調査を依頼し,同協会調査員による慎重かつ厳重な身辺捜査を行っている。

原告については,H協会による複数回にわたる詳細な調査の結果,①指定暴力団A組○○一家総長であるB(札幌市内居住)と韓国渡航をしていた事実,②α町において,暴力団関係者と認められる人物であるCと飲食をしていた事実が判明し,札幌市内に拠点を置く指定暴力団関係者をはじめ複数の暴力団関係者との交際が認められた。

そして,上記各事実が判明したことから,被告は,審査基準第1の1(1)に該当する事実があると認め,規則15条10号,規程7条13号が定める「競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者」に該当するとして,本件拒否処分をしたのであって,何ら違法性はなく適法な処分である。

イ Bとの関係

被告がH協会に原告の調査を依頼し,その結果提出された報告書には,情報提供者による証言として,「G(原告)は,暴力団○代目A組の○○一家の親分とよく韓国の済州島に遊びに行っているらしい。(中略)Bが業者と韓国に行き,丁度,Gも韓国のカジノに遊びに行ってカジノで知り合ったらしい。Gは,周りの奴に馬主の申請をするので,Bとの付き合いを避け,少し静かにしなければならないと漏らしていた。」との記載がされていた。被告は,念のためH協会に対して再調査を依頼したところ,再度提出された報告書には,情報提供者による証言として「(原告が)韓国旅行にはよく行っているようです。(中略)札幌の人達と行っていると聞いています。」との記載がされていた。

確かに,調査嘱託の結果及び原告のパスポートの渡航記録によれば,Bの出入国記録と原告の渡航記録とは一致していない。

しかし,H協会は,不当要求情報管理機関として登録されている団体であり,暴力団捜査等の経験が3年以上ある暴力団捜査に熟知した警察官経験者等によって,公正中立な立場から調査を実施していることから,暴力団関係者等の反社会的勢力と全く接触のない者について,何らかの接触があるという報告をすることはあり得ないし,これまでH協会から寄せられた「暴力団関係者で反社会的勢力との関係がある」との情報に誤りはなかったのであるから,上記調査嘱託の結果を前提としても,原告がBと韓国に渡航したことがあり,両者の間に交際があると認められるとの被告の判断に変わりはない。

ウ Cとの関係

Cは,○代目A組○代目I会J会周辺者であり,平成▲年▲月に銃砲刀剣類所持等取締法違反などの疑いで北海道警察に逮捕され,同年▲月,同罪により札幌地方裁判所において○の実刑判決を受けている者であるが,平成19年7月1日,○代目A組○代目I会J会組員と共にK競馬場にいるところを確認されており,依然として暴力団関係者であることは明らかである。

原告は,複数回にわたるCの求めに応じ,原告が経営するFのアルバイトとしてCを雇用していること,現在に至るまでガソリンスタンドや喫茶店においてたびたびCと顔を合わせており今後とも頻繁に接触することは明らかであること,平成19年4月ころ,原告とCは,α町にある飲食店で1時間も飲食し,原告がCの飲食代金を支払うほど懇意にしていたこと,原告とCは生活圏を共にしているといえること等の事情によれば,暴力団関係者であるCとの交際ないし接触が認められるし,人口2万人程度のα町にあって,両者の関係が希薄であるということはできない。

さらに,原告は,自身が代表取締役を務める会社の業務において,取引の相手方が暴力団関係者である可能性について否定せず,暴力団関係者との関係を絶対に持たないという強い意識は見受けられない。

このような原告が馬主となった場合,Cを窓口として,暴力団関係者をはじめとする反社会的勢力に属する者が,素性,真意を秘して原告に近づき,厩舎関係者等に対して不正行為を行う可能性は否定できず,被告としては,そのような事態に陥ってからでは手遅れであり,競馬の公正を確保するため,原告の馬主登録申請がされた時点において,申請を拒否する必要がある。

エ また,原告は,Cが現在も暴力団関係者であるとは認識していなかったなどと主張するが,Cの人相風体や,過去の逮捕歴が報道されていることからは原告も当然承知していたか少なくとも疑いを持っていたはずである。

もっとも,馬主登録申請者の主観がどうあれ,客観的事実として暴力団関係者等の反社会的勢力との交際ないし接触があるだけで,競馬の公正らしさが毀損され,競馬の公正確保が図れなくなることは明らかである。

したがって,被告としては,公正確保の観点から,反社会的勢力であることを認識しているか否かにかかわらず,反社会的勢力との間で客観的に交際なり接触なりが認められるのであれば,「競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由のある者」として馬主登録拒否事由を満たす者と判断するのであり,同判断が,裁量を逸脱し又は濫用にあたらないことは明白である。

本件では,原告が,Cを暴力団関係者と認識していなかったとしても,原告が「競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由のある者」に該当することに変わりはなく,被告の判断には何ら違法性は認められない。

オ 原告は,D協会により馬主登録を受け,これまで馬主として活動を続けている旨主張するが,D協会における審査と被告による審査は別個のものであるし,D協会による調査では,原告とB及びCとの関係が明らかにならなかったにすぎない。

したがって,原告が地方競馬の馬主として馬主登録を受け,また,現在も馬主であるからといって,それが競馬の公正を害するおそれがないことを示す事情となるものではない。

さらに,原告は,被告の審査体制が極めて形式的,ずさんなものであるなどと主張する。しかし,審査委員会は,専門的知見を有する学識経験者の委員によって構成され,また,問題があると判断した申請者については,審査の際,特に個別的実質的な判断をしているのであるから,同審査体制において形式的かつ形骸化した運用がされているわけではない。

カ 本件では,調査により得られた情報を馬主登録審査委員会に提供した上で,原告の登録拒否事由該当性の有無について諮問したところ,規程7条の「競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由のある者」に該当するため拒否処分をすることが妥当であるとの結論が出され,次いで公正審査会議においても,同一の結論となった。

前記のとおり,被告は慎重な審査を経た上で原告の馬主登録申請を拒否したものであり,B及びCとの交際はそれぞれ単独で馬主登録拒否事由に該当するものである。

したがって,被告がなした本件拒否処分について,重要な事実に誤認があることなどによって判断の基礎を欠いたり,事実の評価が明白に合理性を欠くなどといった事情はなく,被告の判断に裁量逸脱ないし濫用は認められない。

第3争点に対する判断

1  認定事実

証拠(甲1,2,3の1ないし6,4の1ないし3,5の1ないし4,6ないし9,乙3の1,3の2,4ないし8,11ないし15,17,原告本人,証人L,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1)ア  原告は,平成17年1月から現在に至るまで,砂利採取販売等を主な

事業内容とするE並びに砂利及び産業廃棄物の運搬を主な事業内容とする

Fの代表取締役である(甲9,乙6,7,原告本人)。

イ  また,原告は,平成16年ころ,牧場を経営する友人の勧めにより競走馬を1頭購入し,現在は4頭の競走馬を所有しており,地方競馬の馬主として登録された平成16年7月22日から現在に至るまで地方競馬の馬主として活動している(甲6,9,原告本人)。

なお,地方競馬においても「競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者」は,馬主登録拒否事由とされている(甲7)。

(2)  本件登録申請,審査手続

ア 被告は,規程8条により,馬主登録の審査について,被告理事長の諮問に応じる調査審議機関として審査委員会を設置し,審査委員会は,被告役職員のほか,馬主及び弁護士等学識経験者ら15名以内の委員から構成されている。

そして,馬主登録申請者が,被告理事長宛に馬主登録の申請をした場合,被告理事長は,審査委員会に対し,当該申請者について馬主登録拒否事由があるか否か諮問し,審査委員会は,審査の結果を被告理事長に答申することになる。

被告は,審査委員会に対し,登録申請の許否について諮問する際,後記のH協会が作成した調査結果報告書そのものを示すことはせず,同報告書の内容を申請者1名につき1枚にまとめた資料を作成して提出し,審査の際,被告職員が審査委員会委員に対し,口頭で説明する方法により審査され,同審査は,厳正を保つため,馬主登録申請者はすべて匿名で扱われている。

なお,被告に対する馬主登録申請は年間約100件程度あり,審査委員会は年に3回開催され,審査に要する時間は1時間から2時間程度である。(乙3の2,15,証人L)

イ 被告は,日本中央競馬会法20条,日本中央競馬会法施行規則2条の8,規約80条及び規程190条に基づいて,公正審査会議を設置し,同審査会議は,7名以内の学識経験者から構成されている。

そして,馬主登録申請の許否について審査委員会から答申を受けた被告理事長は,審査委員会における審査が公正かつ適切になされたかどうかについて,公正審査会議に諮問しなければならず,公正審査会議は審査の上,結果を被告理事長に答申することとなる。

被告理事長は,審査委員会及び公正審査会議の答申を受けて最終的に馬主登録の許否を決し,その結果を馬主登録申請者本人に通知する。(乙2,3の1及び2,15,証人L)

ウ 被告は,馬主登録申請を受理した場合,馬主登録申請をしたすべての者を対象として,H協会に対し,当該申請者について職業や家族関係,交友関係等の身辺調査を依頼し,この調査によって得られた情報を審査委員会に提供し,審査委員会は,当該情報を元にして馬主登録拒否事由の有無の判断している。

なお,H協会は,競馬の公正確保のために必要な調査,情報及び資料の収集等を行い,もって競馬に関する害悪の排除を図り,競馬の公正な運営とその健全な発展に資することを目的として設立された農林水産省が所管する財団法人であり,同協会は,国家公安委員会から不当要求情報管理機関として適格性があるものとして登録を許され,同協会には,暴力団捜査等に携わったことがあり,専門的知識及び技能を有している警察官出身者が職員として勤務している。(乙5,15,証人L)

エ 原告に対する調査

被告は,原告の本件登録申請を受けたため,平成19年6月15日,H協会に対し,原告の人物調査を依頼した(乙15)。

被告からの上記調査依頼により,H協会調査員が原告の人物調査を実施し,H協会は,被告に対し,同年8月30日付け調査報告書(以下「第1報告書」という。)を同年9月12日に提出した(乙6,15)。

第1報告書には,氏名,職業,住所歴,経歴,職歴,生計状況,生活状態,性格・素行・社会的地位,競馬の公正確保上の問題点の有無等が調査事項として挙げられており,性格・素行・社会的地位の項目において,調査員が暴力団関係者である情報提供者から聴取した内容として,「Gは,暴力団○代目A組の○○一家の親分とよく韓国の済州島に遊びに行っているらしい。」「Bが業者と韓国に行き,丁度,Gも韓国のカジノに遊びに行ってカジノで知り合ったらしい。Gは,周りの奴に馬主の申請をするので,Bとの付き合いを避け,少し静かにしなければならないと漏らしていた。」「γのちんぴらでCという男がいるのですが,Gさんがこの男と・・・(空白部分はマスキングされている。)一緒に飲んでいるのを見たことがあります。Gさんのやっているダンプカーの会社の関係で,Cと知り合ったと思います」と記載されており,末尾には「暴力団関係者との交際が懸念される。」と記載されていた(乙6,15,証人L)。

被告は,第1報告書を受けて,H協会に対し,再度原告の暴力団関係者等の反社会的勢力との交際に焦点を当てた調査を依頼した(乙7,15,証人L)。

H協会は,被告の依頼を受けて再度調査を実施し,被告に対し,同年10月18日付け調査報告書(以下「第2報告書」という。)を同年11月2日に提出した(乙7,15,証人L)。

第2報告書には,追及調査の結果として,情報提供者の人定,韓国旅行の裏付け,チンピラとの交際情報の詳細等の項目が挙げられ,Bとの韓国旅行の裏付けの項目には「被調査者が○○親分と共に,韓国旅行に行っているか否かについては,確認の方法はないが,」「被調査者は,韓国旅行に行っていることが明らかとなった」と記載されていた。なお,第2報告書に記載されているBとの交際に関する聴取内容は,第1報告書における情報提供者とは別の人物から聴取した結果である。(乙7,証人L)

また,Cとの交際について,第2報告書には,「チンピラとの交際情報の詳細」という項目が設けられ,また,Cについて,「チンピラのCについては,平成19年第1回K競馬第5日(6月30日)・・・(空白部分はマスキングされている。)来場しているのを当協会調査員が現認している。」「職業不詳 C(52歳)」と記載されていた(乙7)。

(なお,証人Lは,第2報告書に記載されているCとの交際に関する聴取内容は,第1報告書における情報提供者と同一人物から再度聴取した結果である旨供述するが,同報告書の「チンピラとの交際情報の詳細」の項目の記載内容については,明らかにされていない(乙7,証人L)。)

また,第2報告書「競馬の公正確保上の問題点の有無」の項目には,「本件情報の真偽を明らかにするには,海外渡航時の同行者・・・(空白部分はマスキングされている。)や○○(▲月▲日詐欺容疑で逮捕拘留中)からの聞き取り等の限られた方法があるが,これを実施しても真偽の確認は困難と思われる。」「また,被調査者とCとの深い交際は見られないものの,同人は・・・(空白部分はマスキングされている。)であると共に,本件6月30日に暴力団構成員・・・(空白部分はマスキングされている。)とK競馬場に入場を確認されている人物である。」と記載され,同報告書末尾には,「以上のとおり,被調査者が韓国内で暴力団組長と何らかの接触があったと考えることが相当と認められる。」と記載されていた(乙7)。

オ H協会作成の平成19年9月19日付け調査報告書(追及調査)には,同年7月1日に,Cが,K競馬場において,○代目A組○代目I会J会の組員と談笑し,行動を共にしていた旨の記載がされていた(乙8,17)。

カ 被告は,上記各報告書の内容を審査委員会に報告し,馬主登録の許否について審査を諮問したところ,審査委員会は,原告の馬主登録申請について全会一致で登録拒否の結論を出した。その後,公正審査会議においても,審査委員会の結論について全会一致で登録拒否の結論が妥当であるとされたことから,被告理事長は,上記各結論を踏まえ,平成19年11月14日付けで原告に対し,馬主登録申請について拒否する旨の通知をした。(甲1,乙15,証人L)

(3)ア  原告は,平成15年から現在に至るまで,家族又は友人ら(M,N)と共に,カジノを楽しむために多数回にわたり韓国へ渡航している(甲3の1ないし6,4の1ないし3,5の1ないし4,8,9,原告本人)。

イ  Bは,平成16年12月1日から平成19年11月30日までの間,平成16年12月1日にO空港に海外から帰国,平成17年2月21日にP空港から出国,同年2月26日にP空港に海外から帰国しているが,原告が,平成16年12月1日ころ及び平成17年2月21日から同月26日の間に海外旅行をしていた事実はない(甲8,調査嘱託の結果)。

(4)ア  Cは,γ町内において,自動装填式拳銃1丁及びこれに適合する実包8発を保管していたとして,平成▲年▲月▲日,銃砲刀剣類所持等取締法違反の疑いで逮捕されたことがあり,この事実は,複数の報道機関により報道された。その後,Cは,札幌地方裁判所に上記罪により起訴され,同年▲月▲日,○の有罪判決を受け,同判決は確定している(乙8,11ないし14,17)。

また,Cは,平成19年7月1日,K競馬場において,○代目A組○代目I会J会の組員と談笑している姿が目撃されており,H協会作成の平成19年9月19日付け調査報告書(追及調査)には,Cの人相風体について,「左手小指中節から欠損の暴力団風」と記載されていた(乙8,17)。

イ  原告は,平成11年ころ,Cの兄がEの取引先の重機オペレーターであったことから,砂利搬入の業者として現場を訪れた際にCの兄と知り合い,その際,同人から「もしアルバイトが必要になったらトラックも運転できるので弟を使ってやって欲しい」と頼まれたことがあった(甲9,原告本人)。

原告は,平成16年ころ,ガソリンスタンドにおいて,Cの兄と似た人物を見かけたことから,ガソリンスタンドの店員に質問し,「Cは,今はカタギだと思うが昔は暴力団だったらしい。」旨の説明をされた。

原告は,平成16年以降,時折訪れていた牧場や昼食をとるためよく訪れていたγ町にある喫茶店などで,当時馬運車の運転手をしていたCと顔を合わせることがあったが,Cが暴力団風な人相風体であったことから,特に言葉を交わすことはなかった。

原告は,平成18年ころ,原告の行きつけの喫茶店においてCと顔を合わせた際,Cから「もしアルバイトがあったらぜひ使ってください」と話しかけられたが,Fにおいて雇う運転手のアルバイトは,基本的に毎年同じ人を雇っており,新規のアルバイトを雇うことを考えていなかったため断った。

原告は,平成19年3月ころ,Fの運転手が足らず,これまでアルバイトとして雇用してきた人も都合がつかなかったことから,Cと喫茶店で顔を合わせた際,アルバイトとして働いて欲しい旨依頼し,Cは二,三日の間,Fの運転手として働いた。アルバイトとしてCを雇用した際,原告は,以前ガソリンスタンドの店員から今はカタギであると教えてもらい,また,これまでCが馬運車の運転手として稼働している姿を見ていたことから,昔暴力団員であったとしても,現在は暴力団とは関係のない人物であると考えていた。

なお,CがFのアルバイトとして働いたのは,上記1回のみであり,これ以降,原告がCを雇ったことはない。(甲9,原告本人)

ウ  原告は,平成19年3月以降も,Cと飲食店等で顔を合わせることがあり,その際,短い会話を交わすことはあった。

原告は,同年4月ころ,原告が焼き鳥を買って帰るため居酒屋に立ち寄った際,通されたカウンター席のとなりにCが座ってたことから,焼き鳥ができあがるまで約1時間程度の間,飲食しながら同人と会話した。

なお,原告が持ち帰るために注文した焼き鳥ができあがったことから,原告は帰宅するため先に席を立ち,その際,Cの分の飲食代金についても支払った。

平成19年4月以降,原告は,Cと共に飲食したことはなく,Cと個人的な付き合いもないが,現在でも,β町内のガソリンスタンドや喫茶店で度々Cと顔を合わせることがある。(甲9,原告本人)

2  以上の認定事実から,本件拒否処分の適法性について判断する。

(1)  判断基準について

競馬は,競馬法により,主催者が勝馬投票券を販売して,勝馬投票の的中者に対し,勝馬投票券の売上金の中から一定の払戻金を交付するものであり,賭博及び富くじに関する罪(刑法185条ないし187条)の例外として法律が定めたかけ事であって,その制度の維持及び発展のためには,競馬の公正とこれに対する社会一般の信頼を確保することが必要不可欠である。被告は,前記関係法令等の定めに記載したとおり,競馬法により例外的に競馬の実施を許された団体であり,被告が行う馬主登録を受けた者でなければ,中央競馬の競走に馬を出走させることはできず,また,被告が,競馬の公正な実施を確保するため必要があると認めるときは,馬主登録を抹消することができることなどは,このような趣旨に基づくものである。

そして,前記関係法令等において馬主登録拒否事由として,個別条項だけでなく,「競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由のある者」との包括条項が定められたのは,このような法の趣旨を実現するためには,競馬の施行者である被告が,馬主登録の申請者の経歴,素行,交友関係等当該申請者にかかわるあらゆる事情を総合判断する必要性があり,その判断を被告の裁量に委ねる趣旨であると解するのが相当である。

そこで,裁判所が上記処分の適否を審査するに当たっては,当該判断が,被告の裁量権の行使としてされたものであることを前提として,その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により,その判断が全く事実の基礎を欠くかどうか,又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により,その判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどうかについて審理し,それが認められる場合に限り,当該判断が裁量権の範囲を超え,又はその濫用があったものとして違法であると判断すべきであると解するのが相当である。そして,主張立証責任についても,行政事件訴訟法30条の文言に即して,裁量権の範囲を超えていること又はその濫用があったことを主張する者が,同主張を基礎づける具体的事実について主張立証責任を負うべきであると解するのが相当である。

したがって,馬主登録拒否事由該当性判断において,被告に裁量権がなく登録拒否事由該当性の主張立証を被告がすべきであるとする原告の主張は採用することができない。

以上を前提として,B及びCとの関係を理由としてされた本件拒否処分について,具体的に検討する。

(2)  Bとの関係について

ア 被告は第1報告書及び第2報告書の内容をもって,原告がBと韓国に渡航した事実が認められるとし,同事実を前提として,原告が,規程7条13号の「競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由のある者」に該当することを本件拒否処分の理由としている。

しかしながら,原告は,Bとの面識を一切否定している。また,原告は,平成10年12月4日発行の原告のパスポート(甲8)によれば,平成15年5月ころから韓国旅行をするようになり,以後,頻繁に韓国渡航を繰り返しているものの,調査嘱託の結果によれば,平成16年12月1日から平成19年11月30日までの期間,Bの渡航記録は,①平成16年12月1日にO空港への帰国,②平成17年2月21日にP空港から出国,③同年2月26日にP空港への入国のみであって,いずれも原告の出入国期日とは合致せず,また,原告のパスポートを確認しても,原告が韓国に滞在していたと思われる期間とは重なっていない。

さらに,前記第3の1(2)エで認定したとおり,被告に対してはH協会から,原告とBとの交友関係の真偽を確認すべく,第1報告書に追加して第2報告書が提出されているが,同報告書には,「(原告とBが韓国旅行に行ったという情報について)真偽の確認は困難と思われる。」と記載されており,原告が韓国旅行に行っていることの裏付けしか取れておらず,原告がBと韓国旅行に行ったことについて何ら新しい情報は得られていない。

以上からすれば,原告はBと一緒に韓国旅行したことはないと推認でき,同推認を覆すに足りる証拠はない。

イ これに対し,被告は,上記調査嘱託の結果を受けても,調査を依頼したH協会の調査員は,暴力団捜査を熟知した警察官出身者であって,これまで同協会から提供された「暴力団関係者で反社会的勢力との関係がある」との情報には誤りがなく,第1報告書及び第2報告書の情報は信頼性が高いと主張する。

しかしながら,H協会が提供した過去の情報に誤りがなかったと認めるに足りる証拠はない上,そのことから直ちに上記第1報告書及び第2報告書の記載内容が真実であると認めることはできない。

また,第1報告書の内容は伝聞であって,暴力団関係者から得られた情報であるという以外に,情報提供者の素性について何ら明らかとなっておらず,被告自身も実名等を知らされていない。さらに,原告の調査を実施するにあたり,H協会調査員が,原告の知人等に対し,原告について,暴力団関係者ではないのかとの質問や,韓国へ暴力団関係者と旅行に行っていることを前提とした質問をするなど(原告本人)やや公正に欠けると思われる調査が行われていたと認められること,同報告書記載の「よく韓国の済州島に遊びに行っているらしい。」との内容と調査嘱託の結果とが明らかに異なること,旅行に行っていると思われる時期についてもなんら記載がないこと等の事情からは,第1報告書に記載されたBに関する報告について,直ちに聴取内容が真実であるとまでは認めることはできない。

そして,第2報告書では,原告とBとの韓国旅行の事実について真偽の確認が困難であると報告しているにもかかわらず,報告書末尾において,「被調査者が韓国内で暴力団組長と接触があったと考えることが相当と認められる」と記載されているが,そのような結論に至る根拠について何ら示されていない。この点,被告は,第2報告書の記載の一部について,情報提供者等の安全確保のためマスキングしていると主張するが,前記認定した同報告書中の内容のみでは,マスキングされた部分にも,調査員が,被調査者(原告)が韓国内で暴力団組長と接触があったと考えることが相当と認められると判断した合理的な理由は記載されていなかったと推認でき,この推認を覆すに足りる証拠はない。

ウ 以上からすれば,本件拒否処分のうち,原告がBと韓国に渡航したことを理由としてされた部分については,その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があり,その判断は,全く事実の基礎を欠いたものといえ,社会通念に照らし著しく妥当性を欠くというべきである。

(3)  Cとの関係について

ア 被告は,第1報告書及び第2報告書をもって,原告がCと何らかの交際又は接触が認められるとし,同事実を前提として本件拒否処分をしたことが認められる。

Cは,前記認定事実によれば,過去に暴力団員と共に逮捕されており,また,平成19年7月ころにも暴力団員と行動を共にしているところが確認されているのであるから,少なくとも暴力団員と接触を有する暴力団関係者である。

そして,原告は,代表取締役を務めるFのアルバイトとしてCを雇い,その後,居酒屋でCと顔を合わせた際に飲食し,Cの飲食代金を支払ったこと,また,ガソリンスタンドや喫茶店でたびたび顔を合わせ,その際多少の会話を交わすことなどの事情からは,Cと接触を有する者であるといえる。

イ ところで,原告がCをアルバイトとして雇ったのは平成19年3月の1回限りであることや,原告及びCが居住しているα町は,人口約2万人程度(平成17年10月1日現在,乙20)の町であり喫茶店や立ち寄るガソリンスタンド等が共通するなどの生活圏が重なっている場合,当人が望むと望まないとに関わらず,顔を合わせることがあることはやむを得ないものであること,上記第2報告書においても,「(原告とCとの間には)深い交際は見られない」と報告されていること等からは,原告とCとの間は,顔見知り程度の交際があるだけであると認められる。

なお,上記報告を基礎づける聴取内容についても明らかにされていない。しかし,情報提供者が原告とCのいずれをも知る人物であることから,アルバイトとして雇った回数,原告とCとが顔見知り程度の関係であるといったことが記載されているものと推認できる。

ウ これに対し,証人Lは,第2報告書には,原告とCを含む数人が連れ立ってα町内の居酒屋に来店し,共に飲食し談笑していた旨報告されていたと証言するが,被告は,第2報告書の当該記載部分は開示しておらず,その内容を直接確認することができない。また,証人Lは,当該情報は原告及びCの両方について見間違いをする可能性が極めて低い者から得られたと証言するが,証言によれば,当該情報提供者は,原告及びCとは会話の内容が聞こえない距離にいたことが窺われるところ,情報提供者が原告及びCの顔を識別できる者であるとしても,原告らが誰とどのような様子で店に入ってきたのか,どのような配置で席に座っていたのかといった原告とCの交際の程度を窺うことができる重要な状況については何ら明らかにされておらず(この点,証人Lは,原告とCが同じテーブルについていたのか,という原告代理人の質問に対し,当然そういうふうに解釈しています,と証言するに止まるなど,第2報告書には,原告とCが同じテーブルに座っていたのか等の状況についても明確に記載されていないものと思われる。),前記認定を覆すには足りない。

エ ところで,以上の事実を前提としても,被告は,馬主登録申請者について,暴力団関係者等の反社会的勢力であると認識しているとしていないとに関わらず,客観的に反社会的勢力との交際ないし接触があると認められるのであれば,公正らしさが毀損され,競馬の公正確保が図れなくなるのであるから,「競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由のある者」として馬主登録拒否事由を満たすと主張する。

確かに,前記のとおり,競馬は法により特別に許されたかけ事であり,その制度の維持及び発展のためには,競馬の公正とこれに対する社会一般の信頼を確保することが必要不可欠である。しかしながら,一方で,馬主として中央競馬への参加を希望する者は,被告から馬主登録の許可を得た上で登録を受けなければならず,被告からの許可がなければ馬主として中央競馬に参加する道が閉ざされてしまうのであり,馬主登録許否事由に該当するか否かについては,処分権者の側にも相応の慎重さが求められるといわなければならない。

したがって,馬主登録申請者において,客観的に反社会的勢力との交際ないし接触があると認められる場合であっても,問題とされる人物との関係性,交際ないし接触の程度,申請者の実績等を総合考慮し,競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由があるか否かを判断すべきであって,単に問題とされる人物と少しでも何らかの接触があれば,一律に「競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由のある者」に該当すると判断することは,社会通念に照らし著しく妥当性を欠くというべきである。

原告とCは,人口約2万人のα町に居住し,その生活圏がある程度重複することからは,日常生活を送る上で望むと望まざるとにかかわらず,顔を合わせることはやむを得ないものであって,その際,会話を交わすことはごく自然であるし,また,Cを運転手のアルバイトとして雇ったのは人手が足りなかったからにすぎず,アルバイトも二,三日間の1回限りであったにすぎない。更に,原告とCの経済的立場を考慮すると居酒屋で顔を合わせた場合,Cの飲食代金を原告が支払うこともそれのみで両者の間に特別な利害関係が生じていると考えることはできないし,両者の関係からは,原告が望まない限り今後もCに取り込まれるおそれは低いと考えられること,原告は,地方競馬の馬主として登録された平成16年7月22日から現在に至るまで馬主として活動しており,その間,競馬の公正を害するおそれがあるなどとして調査を受けたこともないこと等の事情からは,本件拒否処分のうちCと何らかの交際又は接触が認められることを理由としてされた部分についても,考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠いており,その判断が,社会通念に照らし著しく妥当性を欠くというべきである。

(4)  従って,本件拒否処分は,裁量権の範囲を超え,又はその濫用があったものとして違法なものである。

第4結論

以上のとおり,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉浦徳宏 裁判官 平田晃史 裁判官 池田幸子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例