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札幌地方裁判所 平成21年(ワ)2190号 判決 2009年12月09日

住所<省略>

原告

上記訴訟代理人弁護士

青野渉

住所<省略>

被告

琉球電力株式会社

上記代表者代表取締役

Y1

住所<省略>

被告

Y1

住所<省略>

被告

Y2

住所<省略>

被告

Y3

住所<省略>

被告

Y4

主文

1  被告らは,原告に対し,連帯して,金1320万円及びこれに対する平成21年5月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  この判決は第1項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第1  原告は,主位的に主文第1及び第2項と同旨の判決及び仮執行宣言を,予備的に「1 被告琉球電力株式会社は,原告に対し,1200万円及びこれに対する平成21年5月8日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。2 訴訟費用は被告琉球電力株式会社の負担とする。」との判決及び仮執行宣言を求め,請求原因として次のとおり述べた。

(主位的請求原因)

1  被告琉球電力株式会社(以下「被告会社」という。)は,平成17年4月26日,沖縄県那覇市内に設立され,平成18年9月11日,同県浦添市に本店を移転した後,平成19年1月13日,本店を現在の所在地にある丹生ビル4階に移転し,平成21年3月4日,本店を現在の所在地に移転した。商業登記簿及び被告会社作成の資料によれば,被告会社は,家庭用・業務用の蓄電池の製造・販売を業としている。

被告Y1(以下「被告Y1」という。)は,平成18年4月10日から現在に至るまで被告会社の代表取締役を務めている。

被告Y2(以下「被告Y2」という。)は,平成18年4月10日から現在に至るまで被告会社の取締役を務めている。

被告Y3(以下「被告Y3」という。)及び同Y4(以下「被告Y4」という。)は,いずれも,平成21年3月2日から現在に至るまで被告会社の取締役を務めている。

2  被告会社の株式公開準備室の担当者の訴外A(以下「A」という。)は,平成21年4月13日,電話で問い合わせをした原告に対し,「被告会社の株式は,平成21年9月に大阪証券取引所のヘラクレス市場に上場する。株式公開をする場合の主幹事証券会社はみずほ証券になる。」等と述べて,被告会社の未公開株式購入の勧誘を行い,原告は,上記の勧誘の内容を信用して,被告会社が指定した郵便局の貯金口座(記号<省略>番号<省略>,口座名義「琉球電力株式会社」,以下「本件貯金口座」という。)に下記のとおり合計1200万円を振込送金した。

平成21年4月16日 50株分 150万円

同月21日 100株分 300万円

同月22日 100株分 300万円

同月23日 70株分 210万円

同年5月8日 80株分 240万円

3  しかしながら,平成21年6月16日に,原告訴訟代理人が,被告会社の担当者と電話で話した際,担当者は,ヘラクレス市場に上場する予定はない旨述べ,また,実際に,被告会社は,現時点において,ヘラクレス市場に対して上場予備申請をしておらず,さらに,被告会社の未公開株式の販売については,全国の消費者センターに多数の苦情が寄せられている状態である。また,同年6月に被告会社から原告に送付されてきた資料によれば,平成20年3月期における被告会社の純資産額は9134万円,発行済み株式総数は90000株で,1株当たりの純資産額が1014円となっている。

4  未公開株式は,上場株式と異なって市場流動性が低く,したがって,財産価値も全く異なるものであるから,Aが,「被告会社の株式は,平成21年9月に大阪証券取引所のヘラクレス市場に上場する。株式公開をする場合の主幹事証券会社はみずほ証券になる。」と断定的に述べて株式の購入を勧誘した行為は,原告の財産を詐取する故意による不法行為であるか,仮にそのような故意がないとしても,虚偽の事実を断定的に告げて投資を勧誘したものとして,過失による不法行為が成立する。そして,原告は,Aの上記の不法行為がなければ,1株当たり3万円で被告会社の未公開株式を購入することはなかったのであるから,Aの不法行為と原告の1200万円の損害との間には相当因果関係があり,Aの上記行為は,被告会社の事業の執行についてなされたものであるから,被告会社は,民法715条1項本文の規定により,Aが行った不法行為により原告が被った後記7の損害の賠償をする責任がある。

5  被告Y1は,被告会社の代表者として,被告会社の全事業の運営を統括し,従業員を指揮監督することを職務としているところ,株式の公開,自社株式の販売及び新株の発行は,会社の運営において重要な事柄であり,Aは,被告会社の株式公開準備室に所属し,被告会社の業務として,被告会社の株式購入の勧誘行為をしていたものであるから,Aによる違法な株式購入の勧誘行為を知っていたものと推認され,仮に知らなかったとすれば,代表取締役として職務を行うことについて重過失があったと認められる。さらに,被告会社の未公開株式の販売については,平成19年4月から平成21年4月までの間に,全国の消費者センターに多数の苦情が寄せられていたのであるから,当然に,被告会社に対しても,本件と同内容のクレームが相当数寄せられていたはずであるから,被告Y1が,Aによる違法な株式購入の勧誘行為を知らなかったとすれば,代表取締役として職務を行うことについて重過失があったことは明らかである。したがって,被告Y1は,会社法429条1項の規定により,Aの違法な株式購入の勧誘行為により原告が被った後記7の損害を賠償する責任がある。

6  被告Y2,被告Y3及び被告Y4は,被告会社の取締役として,代表取締役とともに,従業員を指揮監督し,法令を遵守して会社の業務執行をすることを職務としており,また,被告会社は取締役会設置会社であるから,取締役会構成員として代表取締役の業務執行を監視し,その業務執行が適正になされるようにする義務を負うところ,株式の公開,自社株式の販売及び新株の発行などの意思決定が,取締役の知らないところで実施されることは通常考えられないので,被告Y2,被告Y3及び被告Y4は,Aによる違法な株式購入の勧誘行為を知っていたものと推認され,仮に知らなかったとすれば,取締役として職務を行うことについて重過失があったと認められる。したがって,被告Y2,被告Y3及び被告Y4は,会社法429条1項の規定により,Aの違法な株式購入の勧誘行為により原告が被った後記7の損害を賠償する責任がある。

7  原告は,Aの不法行為により,株式代金名下に被告会社に送金した1200万円と弁護士費用120万円の合計1320万円の損害を被った。

(予備的請求原因)

8 被告会社は,原告に対し,下記のとおり被告会社の未公開株式を売却した(以下「本件株式売買契約」という。)。

平成21年4月16日 50株分 150万円

同月21日 100株分 300万円

同月22日 100株分 300万円

同月23日 70株分 210万円

同年5月8日 80株分 240万円

9 原告は消費者であり,被告会社は事業者であるところ,被告会社の従業員のAは,被告会社の未公開株式の販売を勧誘するに当たって,請求原因2のとおり,重要事項に関する不実の告知をし(消費者契約法4条1項1号),仮にそうではないとしても将来の株式の公開について断定的判断の提供をし(同条1項2号),これによって,原告は,被告会社の株式が,みずほ証券を主幹事証券会社として,平成21年9月に大阪証券取引所のヘラクレス市場に上場すると誤信し,その結果,本件株式売買契約を締結した。したがって,本件株式売買契約は,Aの欺罔行為によりなされたものとして取り消すことができるものであるから,原告は,被告会社に対し,平成21年5月30日到達の内容証明郵便により,本件株式売買契約を取り消す旨の意思表示をした。

10 また,本件株式売買契約は,要素の錯誤により無効である。

11 以上のとおり,本件株式売買契約は取り消され,または,無効であるから,被告会社には,原告から受領した1200万円を保持している法律上の原因はなく,また,被告会社は,そのことについて悪意である。

12 よって,原告は,被告会社に対し,主位的に,使用者責任に基づき,1320万円の損害賠償金及びこれに対する最終の不法行為の日である平成21年5月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,予備的に,悪意の不当利得に基づき,利得金1200万円及びこれに対する最終の利得の日である平成21年5月8日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払を求め,被告Y1,被告Y2,被告Y3及び被告Y4に対し,会社法429条1項の規定に基づき,1320万円の損害賠償金及びこれに対する最終の不法行為の日である平成21年5月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。

第2  被告らは,適式の呼出しを受けながら,いずれも本件口頭弁論期日に出頭しないが,陳述したものとみなされる答弁書には,請求の趣旨に対する答弁として,「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」と記載され,また,請求の原因に対する答弁として,請求原因をいずれも否認ないし争う旨の記載がなされている。

第3  当裁判所の判断

1  甲1号証の1及び2,2号証の1ないし11,3号証,4号証,5号証の1ないし3,6ないし10号証,11号証の1及び2,12号証,13号証の1及び2,14号証の1ないし3,15号証の1及び2,16号証,20号証及び弁論の全趣旨によれば,請求原因1ないし3の各事実が認められる。

2  上記事実を前提に検討すると,平成20年3月期における被告会社の1株当たりの純資産額は,被告会社の資料によっても1014円であり,原告がAから購入の勧誘を受けた時点で,被告会社の株式は未だ市場流動性のない未公開株式であったのであるから,原告は,Aから,「被告会社の株式は,平成21年9月に大阪証券取引所のヘラクレス市場に上場する。株式公開をする場合の主幹事証券会社はみずほ証券になる。」という勧誘行為を受けなければ,1株当たり3万円で被告会社の株式を購入することはなかったと推認することができるところ,Aは,被告会社が,実際にはヘラクレス市場に上場を予定しておらず,株式公開をする場合の主幹事証券会社がみずほ証券に決まっていることもなかったにもかかわらず,上記のように断定的に虚偽の事実を告げて原告に被告会社の株式の購入を勧誘したのであるから,Aの上記の行為は,少なくとも,投資を勧誘するに当たって断定的・欺瞞的な勧誘や,不実の事実を告げての勧誘をしてはならないという一般的な注意義務に違反するものであって,原告に対する不法行為を構成するというべきである。

そして,Aは,被告会社の株式公開準備室に所属し,被告会社の名義で株式の購入を勧誘しているのであるから,被告会社の事業の執行についてなされたものと認められるから,被告会社は,民法715条1項本文の規定により,Aが行った不法行為により原告が被った損害の賠償をする責任がある。

3  株式の公開,自社株式の販売及び新株の発行は,会社の運営において重要な事柄であるから,被告の代表取締役として,被告会社の全事業の運営を統括し,従業員を指揮監督することを職務としていた被告Y1は,被告会社の株式公開準備室に所属し,被告会社の業務として,被告会社の株式購入の勧誘行為を行っていたAの勧誘行為について,充分に把握していたというべきところ,被告会社の未公開株式の販売については,平成19年4月から平成21年4月までの間に,全国の消費者センターに多数の苦情が寄せられていたのであるから,被告会社に対しても,本件と同内容のクレームが相当数寄せられていたと推定されるので,被告Y1は,Aによる前記の違法な株式購入の勧誘行為を知っていたものと認めるのが相当である。

したがって,被告Y1は,会社法429条1項の規定により,Aの違法な株式購入の勧誘行為により原告が被った請求原因7の損害を賠償する責任がある。

4  また,株式会社の取締役には,法令を遵守して会社の業務執行をする義務があり,また,被告会社は取締役会設置会社であるから,被告会社の取締役には,取締役会構成員として代表取締役の業務執行を監視し,その業務執行が適正になされるようにする義務があるところ,株式の公開,自社株式の販売及び新株の発行などの意思決定が,取締役の知らないところで実施されることは考えにくく,さらに,被告会社の未公開株式の販売については,平成19年4月から平成21年4月までの間に,被告会社に本件と同内容のクレームが相当数寄せられていたと推定されるのであるから,被告会社の取締役である被告Y2,被告Y3及び被告Y4は,Aによる前記の違法な株式購入の勧誘行為を知っていたものと認めるのが相当である。

したがって,被告Y2,被告Y3及び被告Y4は,会社法429条1項の規定により,Aの違法な株式購入の勧誘行為により原告が被った請求原因7の損害を賠償する責任がある。

5  そして,Aの不法行為により,原告は株式代金名下に被告会社に送金した1200万円の損害を受けており,また,本件訴訟の難易度,認容額などを考慮すれば,Aの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の損害は120万円と認めるのが相当である。

第4  結論

以上によれば,原告が,被告会社に対しては使用者責任に基づき,被告Y1,被告Y2,被告Y3及び被告Y4に対しては会社法429条1項の規定に基づき,1320万円の損害賠償金及びこれに対する最終の不法行為の日である平成21年5月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める主位的請求は理由がある。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判官 中山幾次郎)

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