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札幌地方裁判所 平成21年(ワ)3610号 判決 2011年1月26日

北海道<以下省略>

原告

同訴訟代理人弁護士

荻野一郎

函館市<以下省略>

被告

株式会社エストルフーズ

同代表者代表取締役

Y1

函館市<以下省略>

被告

Y1

函館市<以下省略>

被告

Y2

上記3名訴訟代理人弁護士

藤田徹

主文

1  被告らは,原告に対し,連帯して,1100万円及びこれに対する平成21年11月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  主位的請求

主文同旨

2  被告Y2に対する予備的請求

被告Y2は,原告に対し,1000万円及びうち400万円に対する平成18年6月2日から,うち200万円に対する平成18年11月20日から,うち300万円に対する平成19年2月23日から,うち100万円に対する平成19年10月29日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,原告が被告らに対し,原告が被告株式会社エストルフーズ(以下「被告会社」という。)の株式を購入するに際し,被告会社代表者代表取締役兼被告Y2(以下「被告Y2」という。)及び被告会社代表者代表取締役兼被告Y1(以下「被告Y1」という。)が虚偽の説明を行ったことにより損害を被ったなどと主張して,不法行為責任による損害賠償責任(被告会社については,会社法350条による損害賠償責任)に基づいて,1100万円及び本件訴状送達の日の翌日である平成21年11月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,予備的に,被告Y2に対し,上記虚偽の説明により,原告が錯誤に陥ったと主張して,不当利得返還請求権に基づいて,1000万円及びうち400万円に対する平成18年6月2日から,うち200万円に対する平成18年11月20日から,うち300万円に対する平成19年2月23日から,うち100万円に対する平成19年10月29日からそれぞれ支払済みまで民法704条前段所定の年5分の割合による利息の支払を求める事案である。

第3争いのない事実等(証拠を付さない事実は,当事者間に争いがない。)

1  当事者等

(1)  被告会社は,昭和48年4月6日に設立された水産物の輸入及び販売等を目的とする会社である。

(2)  被告Y2及び被告Y1は,被告会社の代表取締役である。

2  平成18年5月の原告によるイージーインベストメント株式会社(以下「イージー社」という。)からの被告会社株式の購入

原告は,平成18年5月ころ,イージー社から被告会社に関する資料の送付や電話での勧誘を受け,同月25日,イージー社から被告会社株式1000株を60万円で購入した。

3  平成18年6月の原告による被告会社株式の購入(以下「本件購入1」という。)

原告は,被告会社財務室へ電話したところ,被告Y2が応対した。その後,原告は,被告会社株式8万株を申し込み,平成18年6月2日に400万円を被告会社名義の口座へ送金したところ,被告Y2が所有する被告会社株式8万株に係る株券で原告名義に書き換えられたものを受領した。

4  平成18年11月の原告による被告会社株式の購入(以下「本件購入2」という。)

(1)  被告会社は,被告会社の株主に対して,平成18年11月10日付け「株主希望者 第三者割当株式について」と題する書面(以下「本件案内文2」という。)を送付した。本件案内文2には,「高級美白剤であるホワイトクレー入りの石鹸の試作品を,女優のAさんに使用して戴きましたところ大変好評でしたので,ホワイトクレー入りの石鹸の製造を開始致しました。その設備増設の為一般募集による株主公募を致しましたが,18万株の失権株が出ました。11月10日の取締役会において,株主のうち希望者に額面で割当る(ママ)ことになりましたので,下記の通り希望者による株式の募集を致します。」として,普通株式18万株を発行価額1株50円で同年11月24日を締切期日として,募集する旨の記載がある。なお,払込口座は,被告会社名義の銀行口座が指定され,さらに「※なお,一般公募価格は,1株100円となっております。」「本件についてのお問合せは当社財務室迄お願いいたします。」との記載がある。(甲5)

(2)  原告は,同月11日,被告会社財務室へ電話したところ,被告Y2が応対した。被告Y2は,原告に対して,「一般募集したが,申し込みが殺到した。一般公募の価格は100円,失権株を株主に額面50円で割り当てることにした。」と話した。

(3)  原告は,被告会社株式4万株を申し込み,同月20日に100万円,同月28日に100万円をそれぞれ被告会社名義の口座へ送金した。

(4)  その後,原告は,被告Y2が所有する被告会社株式4万株に係る株券で原告名義に書き換えられたものを受領した。

5  平成19年1月の原告による被告会社株式の購入(以下「本件購入3」という。)

(1)  被告会社は,被告会社の株主に対して,平成19年1月31日付け「株主希望者 第三者割当株式について」と題する書面(以下「本件案内文3」という。)を送付した。本件案内文3には,「(前略)ホワイトクレイの年間製造量12tでは,化粧品製造・原料売などを含めると50t近く必要となりパラオ現地にて製造拡大を決定致し,それに伴い設備増設の為一般公募致すこととなりました。1月29日の取締役会において一般公募の前に,株主のうち希望者に額面で割当る(ママ)ことになりましたので,下記のとおり希望者による株式の募集を致します。」として,普通株式50万株を発行価額1株50円で同年2月15日を締切期日として,募集する旨の記載がある。なお,払込口座は,被告会社名義の銀行口座が指定され,さらに「本件についてのお問合せは当社財務室迄お願いいたします。」との記載がある。(甲9)

(2)  原告は,そのころ,被告会社財務室へ電話したところ,被告Y2が応対したが,被告会社株式6万株を申し込み,同年2月23日に300万円を被告会社名義の口座へ送金した。

(3)  その後,原告は,被告Y2が所有する被告会社株式6万株に係る株券で原告名義に書き換えられたものを受領した。

6  平成19年10月の原告による被告会社株式の購入(以下「本件購入4」といい,本件購入1,本件購入2及び本件購入3と併せて,以下,単に「本件購入」という。)

(1)  被告会社は,被告会社の株主に対して,平成19年10月15日付け「ホワイトクレイスープ販売開始について」と題する書面(以下「本件案内文4」という。)を送付した。本件案内文4には,「皆様が待望している上場についてはまだ2年かかる予定です。ご承知とは存じますが,三大証券の日興証券が昨年粉飾決算をした為審査が厳しくなり,金融庁が直接審査をすることになりました。上場予定より大分遅れまして申し訳なく存じております。上場基準による取締役会設置会社,監査役会設置会社,会計監査人設置会社とし登記も完了,後は会社の利益を出すだけでございます。それにつきまして,上場前に限り株主優待として希望者に対し,第三者割当で額面(1株50円)の優待は今回で終了させて頂きます。上場の時期より1年以内に割当した株は,上場後1年間は売ることが出来ませんので,上場が近くなりましたので額面割当は終了致します。なお,上場の時期が確定しない為,増資申込みを見合わせている方も多々あると聞いております。今回が最後の希望者に対する増資を下記の要領により実施致します。なお,上場の時の売出し価格は1株200円に設定しております。」として,60万株を発行価額1株50円で募集する旨の記載がある。(甲12)

(2)  原告は,そのころ,被告会社財務室へ電話したところ,応対した被告Y2に対し,被告会社株式2万株を申し込み,同月29日,100万円を被告会社名義の口座へ送金した。

(3)  その後,原告は,被告会社株式2万株に係る株券を受領した。同株券の記載事項によれば,株式発行日は平成15年10月1日であり,平成19年10月29日付けで原告を株主として株券が発行されている。(甲13の1,2)

第4争点

1  本件購入に際し,被告らによる説明義務違反又は断定的判断の提供があったか。

2  被告らの説明義務違反又は断定的判断の提供による原告の損害の有無及び額

3  原告と被告Y2間の本件購入に関する売買契約は錯誤無効となるか。

第5争点に対する当事者の主張

1  争点1(説明義務違反・断定的判断の提供)について

(原告の主張)

(1) 本件購入の対象に関する説明義務違反

本件購入の対象となった被告会社株式は,いずれも被告Y2が所有していたものであり,被告会社が原告に直接株式を発行したものではなかった。なお,本件購入4に係る被告会社株式についても,被告会社において募集株式を発行するとの取締役会決議や公告も存在しておらず,資本にも組み入れられていないことからすると,本件購入4に係る被告会社株式も被告Y2所有であった。

よって,被告会社は,原告が被告Y2所有の被告会社株式の売却に協力するのであれば,原告に対し,その旨説明すべき義務があったにもかかわらず,むしろ原告に対し,被告会社が設備増設のための資金調達として新規に株式を発行するとの被告Y1名義の文書(甲5,9,12)を送付し,被告Y2は直接電話でその旨伝えるなど虚偽の事実を説明した。

(2) 断定的判断の提供

本件購入に際し,被告Y2は,原告に対し,「今期上場する。売出値は500円になる。」等の本件購入にかかる被告会社株式が必ず上場され,株価が上昇するという説明や文書(甲12)の送付を行っており,これは断定的判断の提供に該当する違法な勧誘である。

(3) 被告らの責任

被告Y1及び被告Y2は,上記(1)及び(2)の説明義務違反又は断定的判断の提供により,不法行為による損害賠償責任を負う。そして,被告会社代表者である被告Y1及び被告Y2は,その業務を行うについて原告に後記2で主張する損害を加えたことは明らかであるから,被告会社も会社法350条による損害賠償責任を負うというべきである。

(被告らの主張)

(1) 本件購入の対象に関する説明義務違反

争う。本件購入1における申込書(甲20)にある「金沢」の手書きの記載及び本件購入4を除く本件購入の対象となった被告会社株式に係る株券は,いずれも被告Y2が所有する被告会社株式に係る株券を名義書換して,原告に送付したものであるが,原告から何らの異議等はなかったことからすると,原告が被告会社の株式上場に対する期待感を持ち,そのような株式が1株50円で取得できるということから被告Y2から被告会社株式を譲り受けたに過ぎず,その際,原告が代金として送金した金員が被告会社への直接の出資金であるとの認識などはなかったといえる。

また,原告が主張する被告会社名義の文書(甲5,12,14から16まで)については,このような内容の書面を株主に送付したことは認めるが,原告が受領したものではないと思われる。

なお,本件購入4の対象となった被告会社株式は,被告Y2所有のものではなく,被告会社が縁故募集等で原告に直接発行したものである。

(2) 断定的判断の提供

争う。被告Y2は,原告に対し,少なくとも「今期上場する」「確実に創業者利益が得られる」「2年経てば500円になる」などの断定的に確定した数字などを示したことはないし,被告会社株式を追加購入するよう勧誘したこともない。

2  争点2(損害の有無及び額)について

(原告の主張)

被告Y1及び被告Y2による前記1で主張した説明義務違反又は断定的判断の提供によって,原告は,被告会社がさらに設備投資すれば,業績が伸び,株主への高配当が期待でき,さらに将来は上場されて株の値上がり利益も見込めると判断して,本件購入に至った。

被告会社株式は,未公開株式であること,配当がされたこともないこと及び被告Y2は,被告会社には資金がなく,被告会社株式に価値がないことを自認していたことからすると,無価値であるというべきであるから,本件購入に係る被告会社株式も無価値である。

したがって,被告Y1及び被告Y2による上記1の説明義務違反又は断定的判断の提供により,原告は,無価値である被告会社株式を購入することとなったのであるから,原告が被告会社に払い込んだ合計1000万円相当の損害を被ったというべきである。また,被告Y1及び被告Y2による上記1の説明義務違反又は断定的判断の提供と相当因果関係がある弁護士費用相当額は,100万円である。

(被告らの主張)

争う。原告は,イージー社から被告会社株式を購入して失敗した経験があり,被告会社の経営状況や上場の見通し等について自ら情報を収集した上で慎重に吟味検討して,被告会社株式が上場するとの期待感から原告の意思と判断で被告会社株式を購入するに至ったに過ぎない。すなわち,原告において購入する被告会社株式の代金がことさらに被告会社の資本になると思ったとは考えにくいし,少なくともそのような認識を動機として被告会社株式を購入する意思を決定したとは考えられない。

また,本件購入の対象となった被告会社株式は,その価値を客観的に評価することは困難であるものの,被告会社の平成18年10月決算期の1株あたりの純資産額は50円27銭であることからすれば,1株50円の価格は妥当であるから,原告には何ら損害も発生していない。

3  争点3(錯誤無効)について

(原告の主張)

原告は,被告会社が設備増設のための資金調達として新規に株式を発行するとの被告Y1名義の書面や被告Y2の電話での説明を受けて,本件購入に至ったのであり,被告Y2からその所有する被告会社株式を購入する意思はなかった。

よって,原告と被告Y2との間には株式売買契約は成立していないか,仮に成立していたとしても,上記契約について要素の錯誤があるため,無効である。そして,被告Y2は,上記のような原告の意思を認識していたのであるから,原告の被告Y2に対する合計1000万円の送金について,悪意の受益者である。

(被告らの主張)

争う。これまで主張したところによれば,原告と被告Y2の間に被告会社株式についての売買契約があったことは明らかであるし,原告と被告Y2との被告会社株式の譲渡契約における要素の錯誤にはなりえない。

第6当裁判所の判断

1  認定事実

(1)  原告が本件購入に至った経緯等

ア 上記争いのない事実,証拠(甲5,9,12,14から17まで,20,23,乙13,原告本人,被告Y2)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,原告が平成18年5月25日にイージー社から被告会社株式を購入した直後,被告会社から,設備増設等を目的として,株主のうち希望する者に対し,1株当たり50円で募集株式を発行する旨が記載された案内文(以下「本件案内文1」といい,本件案内文2から本件案内文4までを併せて,以下「本件案内文」という。)を受領していたこと及び原告は,本件購入に際して,いずれも本件案内文を受領した後に被告会社財務室に電話をしていたことがそれぞれ認められる。

イ これに対し,被告らは,原告が被告Y2からその所有に係る被告会社株式を譲り受けたに過ぎず,その際,原告が代金として送金した金員が被告会社への直接の出資金であるとの認識などなかったと主張し,被告Y2の陳述書(乙13)にはそれに沿う記載がある。

そこで,まず本件購入2から本件購入4までについて検討するに,上記争いのない事実のとおり,本件案内文2から本件案内文4までの作成日付に近接する日時に,原告が本件購入2から本件購入4までに至っていること及び被告らも,被告会社の株主たる原告に対し,本件案内文2から本件案内文4までを送付した可能性があることを認めていることからすると,被告会社が本件案内文2から本件案内文4までを原告に送付し,原告がこれらを受領した上で本件購入2から本件購入4までに至ったことと認めることができる。かかる事実に,本件案内文2から本件案内文4までがいずれも被告会社が被告会社の株主の希望者に対し新規に募集株式を発行することをその内容とするものであって,被告Y2が所有する被告会社株式を譲渡することは何ら記載されていないことを併せ考えれば,原告は,本件購入2から本件購入4(なお,本件購入4の対象株式は,被告Y2が所有するものであったことは後記のとおりである。)までに際し,被告会社が発行する募集株式を引き受ける意思で被告会社に送金したのであって,被告Y2が所有する被告会社株式を購入する意思で上記送金を行ったものであると到底認めることはできない。

続いて,本件購入1について検討するに,確かに,本件案内文1は現存していないものの,証拠(甲14,15,16)によれば,被告会社は,本件案内文2から本件案内文4までを含む被告会社の株主に対し新規に募集株式を発行するとの案内文を頻繁に送付していると認められること,上記のとおり,本件購入1に引き続く本件購入2から本件購入4までについても,原告が被告Y2の所有する被告会社株式を購入する意思で被告会社に送金したとは認められないこと及び原告は,本件案内文1を受領したと明確に供述していることに照らせば,原告が本件購入1に至る前に被告会社から本件案内文1を受領した上で,被告会社財務室に電話をしたものと認められる。なお,本件購入1における申込書(甲20)にある「宛先金沢様へ」及び「金沢」の手書きの記載は,原告が本件購入1に際し,被告会社財務室に電話をしたところ,これに対応したのが被告Y2であったことから,原告が申込書を送付するに際して,担当者であるY2の名前を付記したに過ぎないというべきであって(原告本人),上記認定を左右するものではない。

以上によれば,被告Y2の上記陳述書の記載は信用することができず,被告の上記主張も採用することができない。

(2)  本件購入に係る被告会社株式の発行方法等

上記争いのない事実,証拠(乙2,9,12から13まで〔枝番含む〕,被告Y2)及び弁論の全趣旨によれば,被告会社において,第三者から資金調達を行う場合には,被告会社は,会社法所定の募集株式の発行手続である取締役会の決議及びその公告等を実施することなく,当該第三者から被告会社の銀行口座宛の送金を受けとり,これを当面の間,仮受金として取り扱った後,これら第三者から送金を受けた金銭が一定の金額に達した時点で資本金に振り替える手続を行っていたこと,本件購入4に係る被告会社株式は,被告Y2が所有するものであったこと及び原告が本件購入に際して被告会社に送金した金銭は,いずれも被告会社の短期の運転資金に充当されていたことがそれぞれ認められる。

なお,被告らは,本件購入4に係る被告会社株式は,被告会社が新規に募集株式を発行したものであると主張し,被告Y2の陳述書(乙13)にもそれに沿う記載があるが,被告会社の履歴事項全部証明書(甲1)及び有価証券報告書(乙9)には本件購入4が行われた時期には被告会社が募集株式を発行したとの記載はないこと及び裁判所の釈明にもかかわらず,被告らは上記募集株式の発行に係る取締役会議事録等を本件訴訟に証拠として提出しないことからすると,上記被告らの主張及び被告Y2の陳述書の上記記載は採用することができない。

2  争点1(説明義務違反・断定的判断の提供)について

上記争いのない事実及び認定事実によれば,被告会社は,原告を含む被告会社の株主(以下「本件対象者」という。)に対し,設備増設等を目的として被告会社が発行する募集株式(以下「本件募集株式」という。)を引き受ける者を募集し,本件対象者がこれに応じて被告会社に対し出資を履行すれば,被告会社の本件募集株式の株主となる旨が記載された本件案内文を送付したことが認められる。

そうすると,被告会社は,本件案内文を受領した本件対象者からこれに応じる旨の申込みがあり,上記出資に相当する金銭を受領したときは,本件対象者に対し本件募集株式を発行することが当然に予定されているというべきである。そして,被告会社の代表取締役である被告Y2及び被告Y1は,仮に本件募集株式を発行しないのであれば,本件対象者に対し,少なくとも上記金銭の使途及びその法的性格等について説明すべき信義則上の義務があるというべきである。

しかしながら,上記認定事実のとおり,実際には,被告会社は,短期の運転資金を調達するために,本件対象者に対し,本件案内文を送付した上で,さらには被告会社に送金した原告に対し,被告Y2が所有する被告会社株式を譲渡しているが,被告Y2及び被告Y1は,原告に対し,このような金銭の使途及び法的性格等を何ら説明していない。

よって,被告Y2及び被告Y1は,原告に対し,上記信義則上の説明義務を尽くした上で被告会社の資金調達を行う必要があったのにこれを怠ったというべきであるから,かかる説明義務違反による不法行為責任を負うことは明らかである。そして,被告Y2及び被告Y1は,その業務を行うについて原告に後記3の損害を加えたのであるから,被告会社も会社法350条による損害賠償責任を負うというべきである(なお,被告らの損害賠償責任は,いわゆる不真正連帯の関係に立つ。)。

3  争点2(損害の有無及び額)について

(1)  上記2のとおり,被告会社は,本件対象者に対し,少なくとも上記金銭の使途及びその法的性格等について説明すべき信義則上の義務を負うところ,被告会社がかかる説明を尽くしたならば,被告会社株式の上場を期待していた原告が,被告会社に対し短期の運転資金を提供するために,被告Y2が所有する被告会社株式を購入することは通常考えられないから,原告が本件購入に至ることはなかったと認められる。そうすると,被告らの説明義務違反によって生じた弁護士費用相当額を除く損害の額は,原告が本件購入に際して被告会社に送金した合計1000万円であるというべきである。

この点,被告は,本件購入に係る被告会社の株式は,平成18年10月決算期の1株当たり純資産額からすると1株50円と評価することが相当であり,原告には何ら損害は発生していないと主張するが,証拠(甲17,23,乙2,9,13,原告本人,被告Y2)及び弁論の全趣旨によれば,被告会社株式は,未公開株式であり,市場における流動性に乏しく,第三者に売却することは極めて困難であること,被告会社株式については配当も長期間にわたってなされていないこと及び被告Y2も,被告会社には資金がなく,当面,上場することは難しく,少なくとも現時点において1株50円の価値がないことを認めていることからすれば,原告が本件購入に係る被告会社の株式を所有していることをもって,上記原告の損害について損益相殺等をなすべきものと認めることはできないから,上記被告の主張は採用することができない。

(2)  そして,本件事案の内容や本件請求に対する認容額等諸般の事情を考慮すると,被告らの不法行為責任と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は,100万円と認めるのが相当である。

第7結語

以上のとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく,被告らに対し,連帯して,1100万円及び本件購入の日よりも後であることが明らかな平成21年11月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の主位的請求は,理由があるからこれを認容し,訴訟費用の負担について民訴法61条を,仮執行の宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(裁判官 長田雅之)

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