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札幌地方裁判所 平成21年(ワ)4426号 判決 2014年3月27日

主文

1  被告北海道は,原告Aに対し3939万5692円,原告Bに対し3779万5692円及びそれぞれこれに対する平成20年2月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は,原告らに生じた費用の5分の2を被告北海道の負担とし,被告北海道に生じた費用の5分の1及び被告C株式会社に生じた費用を原告らの負担とし,その余を各自の負担とする。

4  この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

被告北海道(以下「被告道」という。)及び被告C株式会社(以下「被告会社」という。)は,各自原告Aに対し5121万3969円,原告Bに対し4971万3969円及びそれぞれこれに対する平成20年2月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,D(以下「亡D」という。)が,平成20年2月,北海道虻田郡豊浦町字新富(以下「新富地区」という。)の北海道道(以下「道道」という。)新富神里線(以下「新富神里線」という。)において,小型貨物自動車(以下「D車」という。)を運転中,吹雪による雪の吹きだまりに,D車ごと埋まってしまい,一酸化炭素中毒により死亡した事故(以下「本件事故」という。)について,亡Dの父母である原告らが,新富神里線を設置,管理していた被告道及び被告道から新富神里線の維持補修業務及び除排雪業務の委託を受けていた被告会社に対し,被告道については国家賠償法(1条1項又は2条1項)に基づき,被告会社については不法行為に基づき,それぞれ損害の賠償及び本件事故日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求している事案である(以下,平成20年2月中の日については,年及び月の表記を省略し,北海道の地名については,道及び郡の表記を省略する。)。

1  前提事実(当事者間に争いがない事実並びに掲記の各証拠及び弁論の全趣旨より容易に認められる事実)

(1)  原告A(昭和○年○月○日生)は,亡Dの父であり,原告B(昭和○年○月○日生)は,亡Dの母である(甲26)。

(2)  亡D(昭和○年○月○日生)は,本件事故当時,28歳で,妻及び子はおらず,原告ら及び祖母(原告Aの母)E(大正○年○月○日生)とともに,原告らの肩書住所地の自宅(以下「原告宅」という。)に居住し,平成19年5月1日から,a町b番地c所在のF株式会社(以下「F」という。)に,重機オペレ-タ-として勤務していた(甲13,14,26,27)。

(3)  新富神里線は,豊浦町字新富を起点とし,真狩村字神里を終点とする路線の延長が約27.6㎞の一般道道で,起点側(西側)で道道豊浦ニセコ線(以下「豊浦ニセコ線」という。)に接続し,路線の途中(東側)で道道美和豊浦停車場線(以下「豊浦停車場線」という。)に接続している(以下,新富神里線の豊浦ニセコ線と接続する部分から豊浦停車場線に接続する部分までを「本件道路」という。)。本件道路は,豊浦町の市街地方面と蘭越町方面とを結ぶ道路となっており,これらの位置関係は,別紙1の室蘭土木現業所洞爺出張所管内図表示のとおりである(乙11,12,13,68)。

(4)  本件道路には,本件事故当時,本件道路の北側に沿って,概ね別紙2の図面の紫色の表示のとおり防雪柵(以下「本件防雪柵」という。)が設置されており,本件防雪柵の種類は,吹き払い柵であった(乙13,68)。

(5)  被告道は,新富神里線を道道として設置,管理し,室蘭土木現業所(以下「室蘭土現」という。)洞爺出張所(以下「洞爺出張所」という。)が管理を担当していた。

(6)  洞爺出張所は,伊達市,豊浦町,洞爺湖町及び壮瞥町(以下「胆振西部」という。)を所管区域として,新富神里線を含む道路(道道),河川等の維持管理を行っており,職員数は,本件事故当時,出張所長のGをはじめとする合計33名であった(乙1,20)。

(7)  被告道は,本件事故当時,洞爺出張所管内の道道について,西胆振道路環境事業協同組合(以下「本件組合」という。)と,以下の業務委託契約を締結しており,被告会社は,本件組合の組合員で,新富神里線を含む8路線を担当していた(乙2,3,6,7)。

ア 道路の維持補修業務の委託契約(以下「本件維持補修契約」という。)

イ 道路の除排雪業務の委託契約(以下「本件除排雪契約」という。)。

(8)  23日から24日にかけて,日本海で発達した低気圧(以下「本件低気圧」という。)が,津軽海峡付近を通って三陸沖に進み,北海道内に暴風雪(以下「本件暴風雪」という。)をもたらして,交通網等に大きな影響を与えた(甲1,2,6)。

(9)  亡Dは,24日午後6時11分ころ,豊浦町字新富d番地e先の本件道路上(以下「本件事故現場」という。)において,吹雪による雪の吹きだまり(以下「本件吹きだまり」という。)に埋まったD車の運転席で発見されたが,心・肺停止状態で,一酸化炭素中毒により死亡していた(死亡推定時刻は,24日午前4時ころである。)(本件事故)(甲5)。

(10)  亡Dの労災保険年金等は,労働者災害補償保険法16条の2に基づき,亡Dの祖母Eが受給した(甲15の1~3,24の1~3)。

2  争点

(1)  被告道の国家賠償法2条1項に基づく損害賠償責任

(2)  被告道の国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任

(3)  被告会社の不法行為に基づく損害賠償責任

(4)  本件事故による損害及び額

(5)  本件事故前の亡Dの行動(過失相殺)

3  争点についての当事者の主張

(1)  争点(1)(被告道の国家賠償法2条1項に基づく損害賠償責任)について

ア 原告ら

被告道は,原告らに対し,以下のとおり,国家賠償法2条1項に基づき,損害賠償責任を負う。

(ア) 本件防雪柵の設置の瑕疵

a 設置の適用条件を満たしていない

防雪柵の設置にあたっては,防雪柵の種類による特徴を踏まえた上で, 目的と対象,気象条件,道路構造,立地条件,環境条件,設置費,維持管理費等に留意して総合的に判断することになっているが,本件事故現場は,吹き払い柵設置の適用条件を満たしておらず,本件事故現場への本件防雪柵(吹き払い柵)の設置は,瑕疵に該当する。

本件事故現場付近は,相当量の積雪があり,吹雪がひどくなる地域として有名で,吹雪くと大きな吹きだまりが発生する場所であったから,防雪柵を設置するにあたっては,吹きだまり対策を重視したものでなければならなかった。

ところが,本件防雪柵は,吹き払い柵であり,吹きだまり対策には適さないものであったし,以下のとおり,本件事故現場は,吹き払い柵の設置に適さない場所であった。

(a) 気象条件

本件事故現場を含む新富地区の最大積雪深は,少なくとも114㎝はあり,実際にはその1.5倍程度に達していた可能性さえ考えられる。

そして,最深積雪が100ないし150㎝の場合,吹き払い柵の設置は,検討が必要とされている。最深積雪量が多ければ,吹き払い機能の維持に必要とされる,防雪柵の一番下の防雪板から道路の路面までの間の空間(以下「下部間隙」という。)が,埋没する可能性が高くなるからである。

また,新富地区における冬期間の卓越風向は北西であり,本件事故現場付近に東西方向に設置された本件防雪柵に対して,斜め45度の角度となる。

そして,風向と防雪柵の角度が45度となる場合には,吹き払い柵の設置は,検討が必要とされている。吹き払い効果の及ぶ範囲は,車線全てをカバーできるようにしなければならないのに,吹き払い柵を通った風が斜めに吹くのでは,これが短くなって,吹き払い効果の及ぶ範囲が車線全体をカバーできないからである。

(b) 道路構造

本件事故現場の道路構造は,切土である。

切土の場合,吹き払い柵は適していないとされている。

なお,被告道は,本件事故現場の道路構造を低盛土である旨主張するが,強いていうなら片切盛土であり,片切盛土であっても,吹き払い柵は適していないとされている。

仮に,本件事故現場に吹き払い柵を設置するのであれば,風上側にある土手を解消し,風が吹き抜けるようにすべきであった。

(c) 立地条件

用地取得や借地が困難な場合は,吹き払い柵は適しているとされているが,本件事故現場付近については,被告道は,吹きだまり対策に適している吹きだめ柵の設置の可能性を検討すべきであった。

ところが,被告道は,本件事故現場付近について,吹きだめ柵設置のために周辺の土地を取得したり借用したりすることについて,検討すらしていないのである。

(d) 以上のとおり,本件事故現場は,吹き払い柵の設置に適さない場所であり,被告道が,本件事故現場に,本件防雪柵(吹き払い柵)を設置したことは,瑕疵に該当する。

b 予見可能性及び結果回避可能性

国家賠償法2条1項所定の営造物の設置の瑕疵とは,営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい,これに基づく賠償責任については,過失の存在を必要としないから,予見可能性や結果回避可能性は要求されない。

また,仮に予見可能性や結果回避可能性を要求する見解に立ったとしても,本件においては,以下のとおり,いずれも存在した。

すなわち,本件事故現場において,交通の安全を阻害する吹きだまりが発生することは,通常容易に予測することができたから,本件事故現場に本件防雪柵(吹き払い柵)を設置したときに,本件事故発生の予見可能性は十分にあった。そして,本件事故現場付近では,本件道路に吹きだめ柵を設置するために,民地を借用できた可能性が相当程度あったもので,本件事故現場付近の本件防雪柵を,違う種類の防雪柵(吹きだめ柵)とすることは容易だったのであって,結果回避可能性も十分にあったのである。

したがって,予見可能性及び結果回避可能性を要求する見解に立ったとしても,本件防雪柵について,国家賠償法2条1項所定の設置の瑕疵が存在したもので,被告道の責任が認められるべきである。

(イ) 本件防雪柵の管理の瑕疵

a 吹き払い柵は,柵の下部間隙から吹き抜ける強い風で,道路の路側や路面の雪を吹き払う防雪柵であるから,柵の機能を維持するためには,常に下部間隙を空けておくことが非常に重要であり,下部間隙が塞がっていると,防雪効果が失われ,かえって大きな吹きだまりの形成の原因となる。

本件事故現場付近は,最大積雪深が少なくとも114㎝以上はあると推測されたのであるから,吹き払い柵を設置した場合は,吹き払い柵の維持・管理において,下部間隙が埋没しないよう,下部間隙の除排雪をしなければならず,被告道は,委託業者に対し,本件防雪柵(吹き払い柵)の管理を徹底する義務があった。

しかし,本件防雪柵の下部間隙は,雪で塞がれていることが多かったのであり,本件防雪柵の下部間隙は1m弱であるところ,本件事故当時には,少なくとも65㎝の積雪が下部間隙に積もっていた。

また,吹き払い柵の下部間隙を確保するためには,防雪柵の裏側に回って除雪をすることが必要である。

ところが,被告道と本件組合との間の本件除排雪契約の委託業務処理要領(乙6)においても,防雪柵の下部間隙の除雪を予定した規定は存在しない。そして,下部間隙の除雪は,引き継ぎ事項や研修の内容にもなっていなかったし,被告道から委託業者である被告会社に対する指導や,被告道による下部間隙の除雪の実態調査等も一切行われていなかったのである。さらに,本件事故現場を含む新富神里線においては,本件防雪柵の下部間隙の除雪が行われた場合であっても,ショベルカーで道路側からのみ行うという,非常に杜撰で不十分な方法でしかされていなかったのである。しかも,被告らは,日常的に,除雪した雪を防雪柵の背後に吹き飛ばしていたもので,本件防雪柵(吹き払い柵)の下部間隙を流れる風を阻害し,管理上逆効果となる行為をしていたのである。

したがって,本件防雪柵の管理に瑕疵があったことは明らかである。

b 予見可能性及び結果回避可能性

国家賠償法2条1項所定の営造物の管理の瑕疵に基づく賠償責任については,前記(ア)bのとおり,予見可能性及び結果回避可能性は要求されないが,仮にこれらを要求する見解に立ったとしても,本件においては,いずれも存在したものである。

すなわち,本件事故現場付近では,大雪の発生を十分予見し得たもので,下部間隙の除排雪を十分に行い,常に下部間隙を空けておかなければ,吹きだまり発生等の災害が発生する危険があることは,通常予測することができるものであったから,本件事故発生の予見可能性は十分にあった。

そして,本件防雪柵の裏側に回って除雪するなどして,下部間隙の確保を行うことは現実的にも可能であったから,結果回避可能性も十分にあったのである。

したがって,予見可能性及び結果回避可能性を要求する見解に立ったとしても,本件防雪柵について,国家賠償法2条1項所定の管理の瑕疵が存在したもので,被告道の責任が認められるべきである。

(ウ) 本件道路の管理の瑕疵

a 本件事故の発生時,本件事故現場の積雪深は142㎝であったと推定されており,交通の障害となることが明らかである。

したがって,被告道は,本件道路について,自ら異常時パトロールを行うか,被告会社に対して異常時巡回の指示を出すか,あるいは通行止め等の交通規制をしなければならなかったのであり,これを怠ったことは,管理の瑕疵にあたる。

b 予見可能性及び結果回避可能性

国家賠償法2条1項所定の営造物の管理の瑕疵に基づく賠償責任については,前記(ア)bのとおり,予見可能性及び結果回避可能性は要求されないが,仮にこれらを要求する見解に立ったとしても,本件においては,いずれも存在したものである。

すなわち,23日の北海道は,全体的に大荒れで,翌日の24日にかけて天候が悪化する一方であった。そして,本件事故発生直前には,道央を中心に大荒れの天気で,強風や大雪,吹きだまりなどによる通行止め,事故発生の情報が出されていたのであるから,吹雪や大雪による交通災害の発生が十分予見可能な状況であった。

さらに,本件事故現場は,行政区域が胆振管内であるが,後志管内に近く,羊蹄山麓が近いところ,23日は,後志地方で暴風雪警報,羊蹄山麓や後志西部では大雪警報が出されていたのであるから,本件事故現場周辺の天候が大荒れになり,暴風雪に見舞われることは,容易に推測できた。

そして,本件における亡Dの死亡推定時刻は24日午前4時ころであるところ,被告道は,23日のうちに巡回し,交通規制を行うことができたのであるから,結果回避可能性も十分に存在した。

(エ) 因果関係

被告道が,前記(ア)ないし(ウ)のような設置又は管理の瑕疵なく,本件道路及び本件防雪柵を設置,管理していれば,本件事故は発生せず,亡Dが死亡することはなかった。

(オ) 以上のとおり,被告道は,原告らに対し,国家賠償法2条1項に基づき,本件事故による損害を賠償する義務がある。

イ 被告道

原告らの前記アの主張は,いずれも否認ないし争う。

国家賠償法2条1項所定の責任が認められるためには,営造物が通常有すべき安全性を欠いていたこと,結果発生につき予見可能性があったこと及び結果回避可能性があったことが必要であるが,本件においては,以下のとおり,いずれも認められない。そして,本件事故は,亡Dが,危険を十分に分かっていながら,猛吹雪の中を敢えてUターンして,本件事故現場に戻るという,通常予測できない行動によって生じたものであるから,被告道の責任はない。

(ア) 営造物が通常有すべき安全性を欠いていないこと

a 本件防雪柵の設置について

原告らは,防雪柵として吹き払い柵を設置することは,気象条件や地形等から不適切であり,本件防雪柵(吹き払い柵)を設置するにあたっても風上側にある土手を解消し,風が吹き抜けるようにすべきであったなどと主張する。

しかし,吹き払い柵の設置は,新編防雪工学ハンドブック(乙25)によるものとされているところ,本件道路は,以下のとおり,その基準に適合しているし,「道路吹雪対策マニュアル(案)防雪柵編」(乙14)の基準にも適合している。

(a) 新富神里線の路線全体としての積雪深については,最も近い観測所である大岸アメダスのデータを用いることになるが,本件防雪柵設置前の8年間(昭和58年から平成2年まで)の最大積雪深が114㎝であることから,本件防雪柵は,積雪深1.5m以下に適応している。

(b) 同様に,新富神里線から最も近い観測所である大岸アメダスのデータを用いると,吹き払い柵設置前の10年間(昭和56年から平成2年まで)の冬期の主風向は北となっており,東西方向の本件防雪柵に対して,風向が北であるから,適している。

なお,原告らは,本件事故現場付近においては,本件防雪柵に対して,風向が北西であると主張する。

しかし,防雪柵の設置において冬期の主風向を問題とする理由は,防雪柵と直角に風を当てることにより,飛雪を吹き払う効果のある範囲を,道路全体に及ぼすことにあるのであって,直角に風を当てなければ,吹き払う風力が弱まるわけではないのだから,仮に冬期の主風向が斜め45度であったとしても問題はない。

そして,吹き払い効果のある領域は,路面の除雪がなされている場合,柵の高さの約2.5倍と算定できるところ,本件防雪柵の柵の高さは3.3mであるから,本件防雪柵の吹き払い効果のある領域は,最低でも約8.2mである

本件道路の吹き払いが必要な領域は,本件事故現場の道幅が5.5mで,本件防雪柵から車線端までが1.3m(合計6.8m)であるから,仮に冬期の主風向が北西斜め45度であっても,道路の路面に対する吹き払い効果は十分有効であり,何ら問題はない。

(c) 新富神里線の路線全体としての吹きだまり量は20~40㎥/mであり,吹きだまり量が60㎥/m以下であるから吹き払い柵の適用が可能である。

(d) 吹き払い柵は,平坦地では適しているとされており,本件事故現場付近は,基本的に風上から風下にかけて平坦であるから,適応している。

なお,本件事故現場付近の本件防雪柵の裏側にある道路面よりも地盤が高くなっている部分は,原告らが主張するような土手ではなく,本件事故現場地点においてはわずか0.51m程度高くなっているにすぎない。また,その場所は,本件防雪柵から4.17m離れており,地形的に本件防雪柵の下部間隙から風が吹き抜けることが可能であるから,吹き払い効果を期待することができる。

(e) 以上のとおり,被告道が,本件事故現場に本件防雪柵を設置したことに瑕疵はない。

b 本件防雪柵の管理について

(a) 本件防雪柵の種類は吹き払い柵であるが,原告らは,吹き払い柵の効果は,下部間隙の確保に大きく左右され,吹き払い柵の下部間隙が雪で塞がれると,防雪効果が失われ,かえって大きな吹きだまり形成の原因となるため,下部間隙が塞がれていないかを常に点検し,除排雪等を速やかに行わなければならないなどと主張する。

しかし,吹き払い柵は,複数の防雪板が風下側へ傾けて設置されており,複数の防雪板の間隙から吹き抜ける強い風で道路の路側や路面の雪を吹き払う仕組みとなっているのであり,吹き払い柵の一番下の下部間隙が埋まっている場合であっても,上部の各防雪板の間隙からも風が吹き抜ける構造となっている。

そして,本件防雪柵は,4枚の防雪板で構成された吹き払い柵であるから,下部間隙が埋まっている場合であっても,上部の防雪板の間隙が雪で塞がれない限り,吹き払い効果はある。

したがって,下部間隙の状況を常に点検し,除排雪等を速やかに行わなければならない旨の原告らの主張は理由がない。

(b) また,原告らは,被告道は,委託業者に対し,本件防雪柵の管理を徹底する義務があるところ,本件事故現場においては,本件防雪柵の下部間隙が雪で塞がれていることが多く,適切な管理が行われていなかった旨主張する。

しかし,新富神里線においては,降雪等の自然状況から吹き払い効果に支障が生じるおそれのある場合は,平日,土日祭日を問わず,洞爺出張所の指示により,被告会社が吹き払い効果を高めるための排雪等を行っている。

そして,被告会社は,本件事故現場付近の排雪等を,本件事故発生前の19日に実施した。なお,被告会社は,23日にも下部間隙の除雪を行っていたが,除雪作業中に積雪が10㎝に達したため,新雪除雪に切り替えただけである。

新富神里線における吹きだまりによる交通障害は,片側1車線が通行できなくなる程度のものであり,本件防雪柵が設置されて以来,視程障害などの発生は少なくなり,大きな障害は生じていなかった。

また,新富神里線において,吹雪を原因とした通行止めの規制がなされたのは,本件防雪柵が設置された平成2年度から平成19年度までの間に3回だけであった。

したがって,委託業者への本件防雪柵の管理の徹底が行われず,本件防雪柵の下部間隙が雪で塞がれていることが多かったなどという事実はない。

(c) 以上のとおり,被告道の本件防雪柵の管理に瑕疵はない。

(イ) 予見可能性がなかったこと

a 23日から24日にかけての本件事故現場周辺の気象状況は,過去に経験したことがないほどの異常気象であり,本件事故は,稀にみる異常気象によって引き起こされた局地的な暴風雪によって,本件吹きだまりのような大規模な吹きだまりが形成され,交通障害が発生した事案である。

形成された吹きだまりの量からして,豊浦町新富地区において非常に特異な気象事例であったのであるから,このことを洞爺出張所が予見することは不可能であった。

b 洞爺出張所における管内道道の維持管理に関する事務は,洞爺出張所施設保全室が専掌していた。土日祝日の防災対応を含む業務については,洞爺出張の所長と次長が交代で担当し,23日(土)は,洞爺出張所長であるGの担当であった。

洞爺出張所では,気象情報だけでなく,除雪業者や関連機関などから,いつでも必要な情報を入手できる態勢をとっており,Gの対応状況は次のとおりであって,23日午後4時過ぎ,新富神里線を除雪していた被告会社から,除雪作業は順調で,視界も良好との報告を受け,本件道路の通行は十分に確保されていると認識していた。

(a) 23日,Gは,公宅にいたが,午後2時10分ころ,道道洞爺湖登別線(以下「洞爺湖登別線」という。)のオロフレ峠が吹雪であるとの連絡を受け,直ちに洞爺湖登別線の通行止めを指示し,その事務処理のため洞爺出張所に出勤した。

(b) Gは,午後4時10分,除雪委託業者3社の担当者に現場の作業状況や気象状況を確認したところ,新富神里線の除雪作業を終えた被告会社から,作業は順調であり,雪や風は多少出ているものの,視界は良好である旨の連絡を受けた。

(c) その後,Gは,洞爺出張所のパソコンで「胆振西部」に気象警報が出ていないことや管内の天気予報を確認し,夜遅くまでに大きな変化はないと判断して,公宅に戻った。

(d) Gは,防災用携帯電話を所持し,気象警報が発表された場合には自動でメールを受信するようになっていたが,24日の朝まで,上記電話には,何らメールの受信がなかった。その他の情報収集方法として,道路上の緊急事態の通報先である24時間通話可能な「道路緊急ダイヤル♯9910」からの連絡,事故現場付近の住民や通行人からの直接の連絡,役場や消防・警察などからの連絡などもあるが,Gは,それらの情報にも接することはなかった。

(e) また,Gの公宅は洞爺出張所に近いが,公宅周辺の天候は穏やかであった。

(f) Gは,23日から24日にかけて道央圏において大規模な交通障害が発生したことについては,新聞報道等によって,25日になって初めて知った。

(g) 以上のとおり,Gの対応によれば,洞爺出張所において,本件吹きだまりのような局地的で大規模な吹きだまりの発生は,予見することができなかったものである。

b 気象庁の予報でも捕捉できていないこと

本件事故が発生した新富地区の属する胆振西部においては,23日から24日にかけては,注意報が更新されていたのみで,何ら気象警報は発令されておらず,気象予報などからも暴風雪による吹きだまりの形成は予見できなかった。

また,洞爺出張所に対し,23日から24日朝にかけて,新富地区の近隣住民や通行者からの降雪等に関する連絡,新富神里線の通行に関する苦情や情報提供は,一切なかった。

c 新富神里線においては,本件防雪柵の設置によって,視程障害や吹きだまりの発生は少なくなり,吹雪を原因として通行止めの規制がかけられたのは,本件防雪柵が設置された平成2年度から平成19年度(本件事故より前)までの間に,3回であり,道内の他の各路線と比較しても,多いとはいえない上に,吹きだまりによる交通障害は,せいぜい片側1車線が通行できなくなる程度のものであった。

d 本件吹きだまりのような大規模な吹きだまりは,本件事故現場周辺の新富神里線の豊浦町字美和から豊浦町字山梨にかけてや,近隣の道道である豊浦ニセコ線,豊浦停車場線及び豊浦京極線では,発生しておらず,洞爺出張所の所管区域の中では,新富地区というごく限られた地域で発生した局地的なものであった。

e さらに,今回の吹きだまり量は,これまでの記録を越えた量であるとされている。

f したがって,被告道に,本件吹きだまりによる本件事故発生の予見可能性はなかったのである。

(ウ) 結果回避可能性がなかったこと

a 洞爺出張所は,23日から24日にかけて,局地的な吹きだまり発生についての情報を一切得られなかったのであるから,本件事故を回避する方策をとることはできなかった。

b 被告会社は,23日午後4時過ぎに,新富神里線の除雪作業を終えた。

その後,本件事故発生まで,新富地区の属する胆振西部においては,既に発令されていた注意報が更新されるのみであり,その後の気象庁の気象予報などからは,暴風雪による吹きだまり形成を予見できなかった。

c 被告会社が,24日午前5時から,豊浦町側から蘭越町方面に向けて,新富神里線の除雪を開始し,従来どおり,豊浦町側から除雪を開始したことについても,不合理なことはなかった。

また,洞爺出張所のGは,被告会社から除雪作業が難航しているとの情報を受け,片側のみの通行確保を指示するなど,適切な対応をとっているし,その後,洞爺出張所の職員を現地に派遣し,最終的には,通行止めの判断をするなど,現場の状況をより早く確認しつつ,対応している。

d 新富神里線について,23日から24日にかけて,通行者や付近住民からの道路が通行できないとの情報が洞爺出張所にきたことは,一切なかったし,原告側からの何らかの連絡に接することもなかった。

e 本件では,道央圏での大規模な交通障害とは異なり,新富神里線全体でD車1台のみが埋もれたにすぎないことから,D車が存在するものとして結果回避の方策をとることができなかった。

f また,洞爺出張所が新富神里線における大規模な吹きだまり発生の事実を知ったのは,24日午前5時以降であり,仮に,この時点で直ちに結果回避の方策をとったとしても,亡Dは,24日午前4時ころには,既に死亡していたのであるから,本件事故を回避できる可能性はなかった。

g 以上のとおり,被告道の本件道路及び本件防雪柵の管理状況の如何を問わず,本件吹きだまりによる本件事故の結果回避可能性はなかったのである。

(エ) 亡Dの特異な行動

亡Dは,本件事故当時,28歳であり,23日午後4時30分ころ,登別市来馬町の作業場を出発し,白色のトヨタ・スプリンターバン(D車)を運転し,蘭越町の原告宅へ向かった。

登別市来馬町から新富地区までは,約2時間で走行が可能であるから,亡Dは,23日午後6時30分過ぎころには,本件事故現場付近まで到達することが可能であった。

他方,H牧場の従業員であるI,J及びK(以下I,J及びKを「Iら」という。)は,23日午後7時ころ,本件事故現場から約200mほど豊浦町市街地よりのL牧場入り口付近の防雪柵の切れ間の吹きだまりで,ライトを点灯して約50㎝ほどの雪に埋もれて動けなくなり立ち往生している自動車(以下「被救出車両」という。)を発見した。被救出車両は,「白っぽい」,「普通の車」で,運転していたのは20歳以上の男性であり,年配ではなかった。また,「どこまで行くつもりか。」と問いかけると,被救出車両を運転していた男性は,「蘭越まで」と答えた。

Iらは,被救出車両を救出するため,H牧場のMに対し,トラクターでの救援を要請し,被救出車両の前方フックにワイヤーを掛けて,トラクターで吹きだまりから蘭越方向に向かって防雪柵の設置されている場所まで引っ張り出し,被救出車両を豊浦町市街地方向に自分でUターンさせた。

上記のとおり,D車と被救出車両とは同一であり,本件事故は,危険を十分に分かっていながら,猛吹雪の中を敢えてUターンして,本件道路を本件事故現場まで戻るという,通常予測できない亡Dの行動によって生じたものである。

また,亡Dが,視界確保もままならない猛烈な吹雪の中,視界不良を覚悟の上,自動車の走行を続けたという行為も通常では考え難いし,本件事故は,ディーゼル車の排気ガスによる一酸化炭素中毒死という極めて稀な事故であった。

道路自体がその安全性につき,いかに細心の注意を以て設計・製造され,管理されていても,被告道は,これを利用する通行者において,通常予期し得ない方法で通行することまで予測することはできなかったのである。

(オ) 以上のとおり,被告道には,本件事故について,国家賠償法2条1項に基づく損害賠償責任がない。

(2)  争点(2)(被告道の国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任)について

ア 原告ら

被告道は,原告らに対し,以下のとおり,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償責任を負う。

(ア) 違法性

a 判断基準

国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は,その権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは,その不行使により被害を受けた者との関係において,国家賠償法1条1項の適用上違法となる(最高裁判所平成16年4月27日判決・民集58巻4号1032頁,最高裁判所平成16年10月15日判決・民集58巻7号1802頁参照)。

b 規制権限を定めた法令の趣旨,目的

道路についての規制権限を定めた道路法の1条は,その目的として,交通の発達に寄与し,公共の福祉を増進する旨規定している。公共の福祉は,人権相互の矛盾を調整するために認められる実質的公平の原理であり,究極的には個々の国民の権利,利益に還元されるべきものである。

したがって,道路法1条にいう公共の福祉には,当然道路交通の安全確保による国民の生命・身体への危険防止も含まれる。

c 権限の性質

道路は,日夜,人が交通の便に供するものであるから,危険が生じた場合,速やかに規制することが求められ,権限の性質上,迅速な権限行使が求められる。

d 本件における具体的事情

本件においては,本件事故発生時,本件事故現場の積雪深が142㎝であったと推定されており(本件事故発生前の積雪深は65㎝,本件事故発生時の降雪及び吹きだまりによる積雪深は77㎝),当然交通障害が発生している状況である。したがって,このまま放置すれば,通行する人や自動車に危険が発生することが確実な状況であった。

しかし,被告道は,24日午前6時に,被告会社から,除雪作業が難航している旨の連絡を受けるに至った後も,24日午後2時27分になるまで通行止め開始の指示を出していないのである。

洞爺出張所長のGは,本件事故現場付近の天候状況は,大岸アメダスのデータのみでは把握出来ないことの認識がありながら,異常時巡回や通行止め等の判断基準として,もっぱら大岸アメダスのデータのみに頼っていた。しかも,周辺住民等をモニターとするモニター制度を確立するなどの具体的情報収集態勢も一切なかったのであり,被告道においては,通行止め開始の的確な指示を出すための体制が著しく欠けていたのである。

e したがって,本件においては,被告道は,自ら異常時パトロールを行ったり,被告会社に異常時巡回の指示を出したり,あるいは,通行止め等の交通規制をしなければならなかったのに,これらの行為を行っていないのであって,規制権限を行使しないことが許容される限度を逸脱し,著しく合理性を欠いたもので,違法である。

(イ) 過失(予見可能性及び結果回避可能性)

前記(1)ア(ウ)bのとおり,本件事故について,被告道には,予見可能性及び結果回避可能性があり,過失がある。

(ウ) 因果関係

被告道が,前記(ア)eの規制権限を適切に行使していれば,本件事故は発生せず,亡Dが死亡することはなかった。

(エ) 以上のとおり,被告道は,原告らに対し,国家賠償法1条1項に基づき,本件事故による損害を賠償する義務がある。

イ 被告道

原告らの前記アの主張は,いずれも否認ないし争う。

(ア) 国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任の要件としては,公務員がその職務を行うにつき,「違法に」他人に損害を加えたことが必要であり,当該職務行為に違法性がないものについては,同項の適用がない。

通行規制の権限の根拠となる道路法46条1項では,「道路の破損,欠壊その他の事由に因り交通が危険であると認められる場合」に,「道路の構造を保全し,又は交通の危険を防止するため」,「区間を定めて,道路の通行を禁止し,又は制限することができる」こととされている。

上記権限は,公共(交通)の安全のために行使すべきものであるから,被告道は,個々の国民に対して行使すべき職務上の法的義務を負っているものではない。したがって,被告道は,上記権限の不行使をもって国家賠償法1条1項の賠償責任を負うものではない。

仮に,個々の国民に対する作為義務を認める余地があるとしても,道路法46条1項の規定は,「交通が危険であると認められる場合」に「道路の通行を禁止し,又は制限することができる。」と道路管理者にその権限の行使を義務付けることなく,その裁量に委ねているものであるから,その権限の不行使が著しく不合理と認められる場合でない限り,国家賠償法の適用上,違法の評価を受けることはない。

すなわち,規制権限の行使については,危険に関する認識ないし予見可能性の存在が必要とされ,具体的危険に対する予見可能性又は結果回避可能性がない場合には,不作為の違法は認められないのである。

(イ) 予見可能性がなかったこと

原告らは,本件事故発生直前に,道央を中心に大荒れの天気で,強風や大雪,吹きだまりによる通行止めや事故発生の情報が出され,後志西部には,暴風雪警報が出ていたことなどから,本件事故現場付近が暴風雪に見舞われることは予測できた旨主張する。

被告道は,冬期の道道の管理について,防雪柵を設置し,除排雪を行うほか,通行人や住民などからの通報に臨機に対応できるよう情報収集態勢を整えて対応していたが,道路上から視程障害や吹きだまりを完全になくすことは,不可能であるから,予測可能な状況や外部から何らかの連絡があれば格別,落石や土砂崩落等とは異なり,通常,上記の道路管理者による対応のほかは,運転者の道路状況に即した安全かつ慎重な運転操作に期待することもやむを得ないところである。

特に,新富神里線は,夜間の交通量が少ない道路である。

冬期の早朝や夜間に通行する運転者は,自動車が吹きだまりに埋まるおそれがあれば引き返すこと,また,万が一,自動車が雪に埋まった場合は,近隣の民家等に救助を求めたり,公的機関に連絡したりするほか,防寒具等を準備し,自ら脱出を図るなど,通常期待される運転上の心がけによって,危険防止が図られるのが通常であり,こうした運転者に対する心がけについては,従来から,日本自動車連盟道本部など公的機関が広報に努めていた。

ところが,本件事故は,携帯電話の不感地区において発生したもので,外部との連絡がとれず,天候の急変により,道路の除雪終了後わずか半日程度の間に2mを超える予測し難い吹きだまりが局所的に形成され,亡Dが脱出を試みるうちに,一酸化炭素中毒によって意識を失って死に至るなど,およそ道路管理者として予測し得ない要因が重なって発生したものである。

新富神里線では,本件防雪柵設置後,本件事故発生までの17年間において,視程障害を原因とする通行止めを3回行っているが,いずれの通行止めにおいても,形成された吹きだまりは,車道の片側を埋める程度であり,本件事故のように,わずか半日の間に,車道幅全体に約2mの高さに達する吹きだまりが形成されたことは,これまで経験したことがない酷いものであった。

したがって,被告道には,局所的に本件吹きだまりのような巨大な吹きだまりが形成されることについて,予見可能性がなかった。

そして,洞爺出張所長のGも,本件の異常気象による亡Dの生命に対する具体的危険を予見することは,以下のとおり不可能であった。

a まず,洞爺出張所長のGとしては,新富神里線が大規模な吹きだまりに見舞われることは到底予測し得なかったものであり,本件事故の予見可能性はなかった。

b 23日午後1時48分には,石狩北部,後志北部及び後志西部に暴風雪警報が発令され,23日午後4時54分には,石狩南部に暴風雪警報が発令されていた。

しかし,新富地区の属する胆振西部は注意報が発令されていたにすぎない上に,Gは,23日午後4時過ぎに,被告会社から,除雪作業は順調であり,視界も良好との報告を受けていた。このため,Gは,地形条件が全く異なる胆振西部の新富地区の大規模な吹きだまりによる交通障害を予測することは困難であった。

c さらに,本件事故は,100台以上の自動車が雪に埋まった道央圏の交通障害とは異なり,D車1台が,豊浦町の市街地や洞爺出張所から離れた蘭越方面で発見され,他には新富神里線や近隣の道道,国道で自動車が埋まっていなっかたことからも,D車が吹きだまりに埋まっていることを予見することは困難であった。

(ウ) 結果回避可能性がなかったこと

前記(1)イ(ウ)のとおり,本件事故について,被告道には,結果回避可能性がなかった。

なお,異常時巡回及び通行止め規制について,本件維持補修契約においては,異常時巡回は,台風,豪雨,地震,高潮により,落石,岩石崩壊,地滑り,雪崩等が発生し,又は発生するおそれのある場合,道路状況を把握するために行うが,特に,異常気象時における通行規制箇所が規制基準に達した場合又は達すると予測された場合は,洞爺出張所長等の指示により巡回を実施し,通行規制等の必要な措置を講じるものとして,本件維持補修契約の委託業務処理要領に規定されていた。

冬期における吹雪による視程障害や吹きだまりによる通行規制については,定量的な基準を設けることが困難であるため,定められておらず,気象情報を参考とするほか,関係機関や通行人,付近住民等からの連絡を受けて,出張所長の判断により出動することとなっていた。

本件道路の除雪については,被告会社等の委託業者により実施され,本件除排雪契約及び本件除排雪契約の委託業務処理要領に基づき実施されていた。除雪の出動基準は,10㎝以上連続して新たに降雪があったときと定められており,具体的には,朝の除雪出動については,毎朝午前3時から4時ころ,道道近辺に居住している除雪委託業者の担当者が,天候を見たり,ガソリンスタンドなどから情報を得るなどして,10㎝以上の降雪が確認されれば,午前5時ころ出動し,その旨出張所に連絡していた。

また,被告道には,前記(イ)のとおり,局所的に本件吹きだまりのような巨大な吹きだまりが形成されることについて予見可能性がない以上,本件道路を通行止めにする等の事故発生防止措置を講ずる義務も発生していなかったというべきである。

そして,被告道が,事故現場付近に大きな吹きだまりが形成されていることを知ったときには,既に本件事故は発生していたのであるから,結果回避可能性はなかったのである。

(エ) 以上のとおり,被告道には,本件事故について,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任がない。

(3)  争点(3)(被告会社の不法行為に基づく損害賠償責任)について

ア 原告ら

被告会社は,原告らに対し,以下のとおり,不法行為に基づく損害賠償責任を負う。

(ア) 被告会社の義務

被告会社は,本件組合の組合員として,本件維持補修契約及び本件除排雪契約に基づく義務があった。

a 本件維持補修契約に基づく義務

被告道と本件組合との間の本件維持補修契約によれば,本件組合は,「道路維持補修業務は委託業務処理要領,特記仕様書に従い,業務を処理しなければならない。」とされている(委託契約書2条1項)。

そして,本件維持補修契約上,本件組合は,「災害,事故若しくは一般交通に対する危険等を防止するため必要があると認めるときは,臨機の措置を採らなければならない。」(29条1項)とされている。

b 本件除排雪契約に基づく義務

被告道と本件組合との間の本件除排雪契約によれば,本件組合は,「除雪業務は委託業務処理要領,特記仕様書に従い,業務を処理しなければならない。」とされている(委託契約書2条1項)。

(a) 除雪義務

委託業務処理要領によれば,本件組合は,「ほぼ連続した降雪があり,新たな降雪が10㎝以上に達したとき。」,「今後の降雪により,積雪が10㎝を超えることが予想される場合」,「風雪や地吹雪等による吹溜の発生が予想される場合」などに出動すべきこと(夜間を除く)が定められている(委託業務処理要領12項「施工管理」(1)「出動基準」)。

また,それとは別に,本件除排雪契約上,本件組合は,「災害,事故若しくは一般交通に対する危険等を防止するため必要があると認めるときは,臨機の措置を採らなければならない。」(24条1項)とされており,この義務は夜間も免除されておらず,夜間であっても出動しなければならない。

(b) 巡回義務

本件組合は,「必要がある場合には除雪巡回を実施し路線の状況を把握しなければならない。」(委託業務処理要領8項「作業の準備」(4))とされており,さらに,具体例として「断続的な降雪により路面の積雪状況が不明なとき」や「局地的な降雪や風雪,地吹雪等により吹きだまりの発生が予測されるとき」が挙げられている。

(イ) 被告会社の義務違反

a 本件維持補修契約に基づく義務の違反

(a) 本件においては,大雪による交通障害が発生し,放置していては一般交通に対し危険が生じる状況であったのであるから,本件維持補修契約29条1項にいう「災害,事故若しくは一般交通に対する危険等を防止するため必要があると認めるとき」にあたり,被告会社は,臨機の措置を採らなければならなかったのに,これを行わなかった。

(b) したがって,被告会社には,本件維持補修契約に基づく義務の違反がある。

b 本件除排雪契約に基づく義務の違反

(a) 本件においては,大雪による交通障害が発生し,放置していては一般通行に対し危険が生じる状況であったのであるから,本件除排雪契約24条1項にいう「災害,事故若しくは一般交通に対する危険等を防止するため必要があると認めるとき」にあたり,被告会社は,臨機の措置を採らなければならかった。加えて,本件は,「今後の降雪により,積雪が10㎝を超えることが予想される場合」及び「風雪や地吹雪等による吹溜の発生が予想される場合」(委託業務処理要領12項「施工管理」(1)「出動基準」)にあたるから,夜になる前に,もう一度除雪しなければならなかったのに,これを行わなかった。

(b) 被告会社の従業員は,新富神里線の除雪を行う際,除雪した雪を防雪柵の背後に吹き飛ばしているが,これは,本件除排雪契約に基づく適切な業務の処理ではなく,吹き払い柵の下部間隙を流れる風を阻害し,除雪効果を減少させ,道路上に吹きだまりを生じやすくさせる行為である。

上記行為は,道路の吹きだまり形成に寄与したもので,形成された吹きだまりにより,亡Dは死に至ったのであるから,被告会社は,「業務の処理につき第三者に損害を及ぼした」ものとして,損害賠償の責任を負う(23条1項。)。

(c) したがって,被告会社には,本件除排雪契約に基づく義務の違反がある。

(ウ) 過失

被告会社は,吹きだまりの形成が予見でき,これを回避することが可能であったのに,適切に業務を行うことを怠ったもので,過失がある。

(エ) 因果関係

被告会社が,以上の義務に違反することなく,適切に業務を行っていれば,本件事故は発生せず,亡Dが死亡することはなかった。

(オ) 以上のとおり,被告会社は,原告らに対し,本件事故について,不法行為に基づく損害賠償責任を負う。

イ 被告会社

原告らの前記アの主張は,いずれも否認ないし争う。

(ア) 本件現場道路の維持,管理の責任者は被告道であり,被告会社は,被告道との委託契約に基づいて,本件道路の維持,管理に関与しているものである。

したがって,本件道路の維持,管理に関し,被告会社が負う義務は,被告道との委託契約上の義務以上のものはなく,契約において課された義務を履行していれば,被告会社が本件事故に関する責任を問われる余地はない。

(イ) 委託契約に基づく義務の不履行がなかったこと

a 被告道との委託契約

本件事故当時,本件道路に関わる被告道との委託契約は,本件維持補修契約(乙2)及び本件除排雪契約(乙6)である。なお,いずれも契約当事者は,本件組合であり,被告会社は,本件組合の組合員として,本件道路に関する業務を担当していた。

b 本件維持補修契約

(a) 巡回義務

被告会社の責任との関係で問題となり得る本件維持補修契約上の義務は「巡回義務」であるが,本件維持補修契約における巡回には,「通常巡回」と「異常時巡回」の2つがある。

(b) 通常巡回

本件維持補修契約の「委託業務処理要領」では,「通常巡回の実施は特記仕様書による」とされており,「特記仕様書」で,通常巡回をしなければならない具体的な日にちが指定されていた。

なお,本件道路は,週2回の巡回実施の対象となっており,基本的には洞爺出張所が平日のうちにこれを実施するが,休日が続くなどして,洞爺出張所により週2回の巡回ができない場合に,被告会社がこれを実施しており,巡回が必要な日程については,上記のとおり,「特記仕様書」によって具体的に決められていた。

本件事故が発生した平成20年2月においては,本件維持補修契約の「特記仕様書」で,10日(日)だけが通常巡回の実施日となっており,被告会社は,これ以外の日については通常巡回の義務がない。

したがって,本件事故の発生した23日及び24日については,被告会社に通常巡回の義務はなかったのであるから,通常巡回に関する義務の違反はなかった。

(c) 異常時巡回

本件維持補修契約の「委託業務処理要領」では,「異常時巡回の実施は業務担当員が必要と認め指示した場合」に行うこととされている。しかし,23日及び24日は,業務担当員であるGからの異常時巡回の指示はなかった。

したがって,被告会社には,異常時巡回に関する義務の違反もない。

c 本件除排雪契約

(a) 除雪巡回の義務がなかったこと

本件除排雪契約の「委託業務処理要領」では,「除雪巡回」に関する規定も存在するが,かかる規定は「巡回を含めて委託する場合」に限って適用されるものであった。

本件では,巡回を含めた委託はされていないため,被告会社には除雪巡回の義務はなかった。すなわち,本件除排雪契約における対象路線のうち,洞爺湖登別線の壮瞥町弁景ゲートから登別カルルスゲートまでの15.7㎞については冬期間夜間通行止めとなるため,その期間中は,毎日ゲートの解放時である午前9時までに当該区間の除雪が必要となる(「特記仕様書」2項)。これに伴い,除雪の要否の判断のため,毎日,除雪巡回が不可欠となる。そして,本件除排雪契約において除雪巡回のために予算計上されているのは770時間であり,この時間は全て上記の壮瞥町弁景ゲートから登別カルルスゲート間に割り当てられていた。したがって,本件事故現場のある新富神里線については,「巡回を含めた委託」はない。かかる理解は,委託者である被告道も同様である。契約当事者が同様の理解である以上,異論を差し挟む余地はなく,本件除排雪契約において,新富神里線について除雪巡回の義務がないことは明らかである。

(b) 除雪義務

本件除排雪契約に基づく除雪出動について,新雪除雪のための出動基準としては,ほぼ連続した降雪があり,新たな積雪が10㎝以上に達した時などが定められていた。また,本件道路は路線区分第2種(300~1000台/日以上)に該当するため,夜間の除雪は実施しないこととされていた。

23日早朝は10㎝を超える積雪が認められたため,被告会社は,除雪のために出動した。なお,被告会社では,エリアごとに除雪班が分かれているが,新富神里線については,豊浦停車場線及び豊浦ニセコ線を含めた3路線を担当する班が除雪車2台を用いて作業にあたっており,23日午前5時から午前8時までの間にこれら3路線の除雪作業が行われた。また,その後さらに新雪の積雪が10㎝を超えたため,被告会社は,23日午後1時15分ころから午後4時30分ころまでの間にも,上記3路線の除雪を実施した。

(c) 除雪方法

原告らは,被告会社の従業員は,除雪を行う際,防雪柵側に雪を飛ばしていたため,防雪柵の裏側に雪がたまり,下部間隙の風の流れが阻害され,本件事故が発生した旨主張する。

しかし,そもそも,防雪柵側に雪を飛ばしている様子が偶然撮影されている証拠(乙22,甲11)をもって,日常的に防雪柵側に雪を飛ばしていたとはいえない。そして,被告会社の従業員は,防雪柵側に飛ばすときであっても,防雪柵のすぐ裏側に堆積させることのないよう注意していたから,過失はない。さらに,防雪柵側に雪を飛ばしたことによって,下部間隙が狭くなっていたこともなく,本件吹きだまりが形成されたこととの間に因果関係はない。

以上のとおり,被告会社は,本件除排雪契約にしたがって除雪業務を実施しており,除雪義務についての不履行もない。

(d) 臨機の措置

原告らは,本件維持補修契約29条1項及び本件除排雪契約24条1項において,いずれも「災害,事故若しくは一般交通に対する危険等を防止するため必要があると認めるときは,臨機の措置を採らなければならない」とされていたことから,被告会社は本件においてかかる「臨機の措置」として巡回等を行わなければならなかった旨主張する。

しかし,委託契約上の義務は,「委託業務処理要領」等によって,作業工種,作業水準などが具体化されていたが,これら義務の遂行にあたって,緊急な場面で行うことを求められるのが「臨機の措置」であり,個別・具体的な委託契約に基づく義務の遂行にあたって,緊急の措置を要する場面は発生しておらず,「臨機の措置」に関する原告の主張は根拠がない。なお,委託者である被告道も,「臨機の措置」について被告会社と同様の理解をしている。

したがって,契約当事者が同様の理解である以上,上記「臨機の措置」の解釈に異論を差し挟む余地はない。

(e) 本件事故について予見可能性がないこと

本件吹きだまりは,ごく局地的かつ前例のない特異なものであり,被告会社は,本件事故現場にこのような吹溜りが出現することは到底予見できなかった。

(f) したがって,被告会社及び被告会社の従業員には過失がない。

(ウ) 以上のとおり,被告会社には,本件事故について,不法行為に基づく損害賠償責任がない。

(4)  争点(4)(本件事故による損害及び額)

ア 原告ら

(ア) 亡Dの損害及び相続

a 逸失利益  6102万7939円

亡D(死亡当時28歳)のFにおける平成19年5月から12月までの収入は341万5517円であり,年収に換算すると512万3275円で,生活費控除率は30パーセントが相当であり,67歳までの39年間(ライプニッツ係数17.017),少なくとも上記年収を得ることができた。

(計算式)512万3275円×(1-0.3)×17.017

=6102万7939円

b 死亡慰謝料  3000万円

亡Dは,吹きだまりに閉じ込められるという多大な恐怖を味わい,28歳の若さで無念の死を遂げたもので,肉体的,精神的苦痛は極めて大きく,その慰謝料としては3000万円を下らない。

(イ) 原告Aの損害

葬儀費用  150万円

(ウ) 弁護士費用

原告ら  各420万円

イ 被告ら

原告らの前記アの主張は,いずれも不知ないし争う。

亡Dの将来得べかりし年間収入額が原告ら主張の512万3275円となる蓋然性はなく,平成19年及び平成18年分の実収入の平均額を年間収入とすべきであるし,原告ら主張の生活費控除率も相当でなく,50%とすべきである。

(5)  争点(5)(本件事故前の亡Dの行動(過失相殺))について

ア 被告ら

本件事故は,前記(1)イ(エ)のとおり,亡Dが,本件事故現場付近の吹雪による吹きだまりで,一度救出されたにもかかわらず,猛吹雪の中を,再び引き返してくるという,通常予測できない行為によって起きたものである。

イ 原告ら

被告らの前記アの主張は否認する。

第3当裁判所の判断

1  前記前提事実に各項目の末尾等に記載した証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の各事実が認められる。

(1)  北海道は,冬期間に多くの地域が降雪に見舞われ,毎年のように豪雪,暴風雪,雪崩の発生等が避けられない地域もある(甲6)。

被告道は,「平成20年暴風雪による道道の雪害に関する調査報告書」(甲6。以下「本件報告書」という。)で,このような地域における道路管理者として,「異常降雪等による雪害に対処するため,常に気象状況を把握しながら,速やかな除雪の実施や必要に応じて通行を制限するなどして,安全な交通の確保に努めてきているところである。」などとしている。

(2)  道路の吹雪による吹きだまり及び視程障害対策としての防雪施設に関する技術資料として,北海道開発局から独立行政法人北海道開発土木研究所(当時)に委託して作成(平成15年7月作成,平成18年4月改訂)された「道路吹雪対策マニュアル」(甲12。以下「本件マニュアル」という。)でも,「北海道のような積雪寒冷地の道路では,吹雪による視程障害や吹きだまりが道路交通の安全確保にとって大きな障害となっている。」,「安全で円滑な冬期道路交通を確保する上で,吹雪対策は積雪寒冷地の重要課題の一つといえる。」(1-2-1)などとし,「台風並に発達した冬の温帯低気圧は全道的な暴風雪をもたらす。気温の低い北海道の雪は跳びやすく,吹雪や地吹雪が発生しやすい。このような気象条件と広大な地形のため,北海道の都市間道路では吹雪が雪害の主な要因となっている。」,「吹雪による吹きだまりは通行車両の障害や除雪負荷の増大になる。」(1-2-2)などとしている。

本件マニュアル(甲12)は,吹雪について,「跳躍する吹雪粒子は雪面に衝突し,さらにほかの雪粒子を叩き出すので,風下側に吹雪量を増加させて発達する。このような地吹雪の量的な発達は,吹走距離に大きく依存して水平方向に発達する。平坦地で降雪強度が大きい場所では,吹雪量は吹走距離が200m位まで急速に量を増し,350m程度でほぼ最大の量(飽和吹雪量)に達する。周囲が開けた広い田畑や草地において地吹雪が発生しやすいのは,このようにして量的に発達する吹雪のためでもある。吹雪量は,雪面の状態や雪質,吹走距離によって異なり,風速のn乗(n=3~5)に比例すると考えられている。」,「吹きだまりは,風の流れを妨げる地物の風上側の弱風域と,風下で気流がはく離する乱流域の中にできる。このため,気象の他にも地形や地物,道路構造によって,吹きだまりの形成される位置や大きさ,形状が異なる。そのため,吹きだまり対策には吹きだまりを形成するこれらの要因の把握が重要になる。」,「吹雪災害の発生箇所には,沿道の地形や植生及び道路構造などに,吹きだまりや視程障害及びその変動を大きくさせる要素がある。田畑,草地など,風上側の吹走距離の長い場所では吹雪量を増大させ,路側の雪堤は目の高さの飛雪量を増大させ視程障害を拡大する。」(1-2-2~1-2-5)などとしている。

そして,本件マニュアル(甲12)は,吹雪対策として,「『付属施設』で行う防雪柵や防雪林は,吹雪を防止したり,緩和することによる対策で,施設の選定や配置,設計等の検討が行われる。」,「『維持管理』による吹雪対策としては,除排雪の体制や回数を強化することによって対応するものであり,吹雪危険度があまり高くない場合や,きわめて局所的な場合の対策である。また,安全性の確保の点から,吹雪時に通行止め等の交通規制を行うことも含まれる。」,「『情報管理』は道路利用者への情報提供を意味する。供用後の維持管理段階において,情報管理による吹雪対策を検討するもので,吹雪をモニタリングし情報提供するための情報施設計画,また,交通規制の基準や情報提供内容及び手段等が検討項目である。」,「道路網が拡大する中で,全線にわたって十分な吹雪対策施設を整備することは困難である。また,吹雪災害を防止するためには,人,車両,道路・交通の各側面からの対応が必要で,施設整備のみで吹雪災害を完全に無くすことは不可能であることから,ドライバーへの適切な情報提供など,情報を活用した吹雪対策の重要性は大きい。」,「供用後の追跡調査によって施設の防雪効果を検証し,あるいは吹雪の実情を実査して,その知見をフィードバックすることにより防雪対策を見直すことが重要である。」(1-2-7~1-2-8)などとし,吹雪対策の必要度評価方法について,「吹雪対策実施の有無については,既存資料を最大限に活用しながら吹雪の危険度評価を行うと共に,現地での実測データを蓄積することが重要である。吹雪危険度評価を実施するに際しては,可能な限りの現地の実測データ(吹雪量,吹雪頻度,積雪深等)を用いて評価の精度を高めると共に,吹雪危険度が高いと判定された箇所については実際に現地の状況を確認する必要がある。」(1-3-2)などとし,吹雪危険度の算定要因について整理するなどした上,防雪対策の必要性やあり方等について,詳細に記述し,多数の参考文献を挙げている。

このように,平成15年7月ないし遅くとも平成18年4月には,道路の吹雪による吹きだまりや防雪対策等について,以上のような知見が存在していたのである(本件事故が起きたのは,平成20年2月である。)。

(3)  道路の付属施設である防雪柵は,鋼板等で作られた防雪板を用いて柵の風上及び風下の風速と風の流れを制御し,飛雪を吹きだめたり吹き払ったりすることによって,道路の吹きだまり防止や,視程障害の緩和を図ることを目的とするもので,構造と機能の違いによって,次の4種類に分類される。

ア 吹きだめ柵

道路の風上側に離して設置し,柵の前後(風上側,風下側)に飛雪を堆積させることによって,風下の道路への飛雪の吹き込みを防止し,吹きだまりを防ぐ防雪柵で,視程障害緩和効果もあるが,主目的は吹きだまり防止である。

イ 吹き止め柵

吹きだめ柵のうち,柵高を高くし,柵の空隙率を低くし,下部間隙をなくして,風上側に飛雪を多く堆積させ,視程障害緩和効果を高めたものである。

ウ 吹き払い柵

柵の下部間隙から吹き抜ける強い風で,道路の路側や路面の雪を吹き払う防雪柵で,視程障害緩和効果がある。

エ 吹き上げ防止柵

山岳道路で斜面から風が吹き上げることによって生じる局所的な視程障害や吹きだまりを防ぐ防雪柵である。

(甲12,乙14,25)

(4)  吹き払い柵は,吹き払われる範囲が限られており,その機能を維持するためには,下部間隙を常に空けておくことが大切で,降積雪が多い地方は,下部間隙が塞がり路面に吹きだまりができやすくなるなどの問題を生じることがあり,下部間隙は多雪地ほど大きくするとともに,除雪をできるだけ風下に投雪し,下部間隙の確保に努めなければならない。

吹き払い柵が設置された区間では,飛雪量が少なく抑えられ,飛雪が路面をはうように移動するため,視程障害緩和効果があるが,取付道路等により吹き払い柵の切れ目となっている箇所では,飛雪量が抑えられず,飛雪が路面上に吹き込んで視程障害を引き起こす。

吹き払い柵は,視程障害対策としては適しているが,吹きだまり対策としては適していない。

また,吹き払い柵は,低盛土,高盛土には適しているが,片切盛土,両切土には適しておらず,丘陵地における片切盛土,両切土に対する吹雪対策については,防雪切土で対処することを基本とし,防雪柵は必要に応じて補完的に用いるとされている。

そして,吹き払い柵は,積雪深1.5m以下は適しているが,1.5m以上は適しておらず,風向が「直」は適しているが,「斜」は検討が必要であり,「平行」及び「不安定」は適しておらず,吹きだまり量が「0~20㎥/m」は適しているが,「20~60㎥/m」は検討が必要であり,「60㎥/m~」は適していないとされているが,気象条件の影響に特に注意を要するもので,積雪深が大きい場合や吹きだまり量が大きい場合には,柵の下部間隙が雪で埋まりやすく,下部間隙の確保が困難となり,その機能を十分に発揮できなくなる。

(甲12,乙14,25)

(5)  新富神里線は,豊浦町字新富を起点とし,真狩村字神里を終点とする供用されている区間の延長(実延長)が27646mの一般道道であるが,車道の幅員5.5m以上9.0m未満の舗装道の部分が23235mで,その余は車道の幅員5.5m未満の砂利道等で,自動車交通不能区間もある。新富神里線のうち本件道路は,車道の幅員5.5m以上9.0m未満の舗装道で,別紙1の室蘭土木現業所洞爺出張所管内図表示のとおり,東側で豊浦停車場線に接続し,西側で豊浦ニセコ線に接続しており,その中間で2箇所豊浦町道(豊浦町字新山梨を交点として南側及び北側がいずれも2路線に分かれている。以下「本件町道」という。)と接続している。

豊浦ニセコ線は,道央自動車道豊浦インターチェンジのある豊浦町字大岸方面と蘭越町方面とを結ぶ主要道道であるが,途中の本件道路と接続する地点より南側は,冬期間通行止となる。そのため,冬期間に,豊浦町の市街地方面から蘭越町方面に向かうには,ア豊浦停車場線を北上し,本件道路を西進して,豊浦ニセコ線の北半分を北上するか,イ本件町道(ルートは複数ある。)を北上して,途中から本件道路に入り,本件道路を西進して,豊浦ニセコ線の北半分を北上するのが一般的なルートである(本件道路を通行しない場合は,東側の真狩村を経由するか,西側の黒松内町を経由することになり,いずれも大回りとなる。)。

そのため,本件道路は,付近に居住している者のほか,例えば,蘭越町から豊浦町の市街地方面や伊達市方面に出かけていた者等が帰宅したり,その逆の立場の者が通行する可能性のある道路であり,夜間の通行が想定されない道路ではない。したがって,本件道路は,昼夜を問わず,一般交通が予想される道路である。そして,上記ア,イのいずれのルートをとっても,本件事故現場を通ることとなる。

また,本件道路の本件事故現場付近は,牧場が点在しているだけで,道路沿いに人家はなく,樹木が少なく一面の雪原となるため,吹雪による吹きだまりによって,自動車が立ち往生した場合,乗車していた者は,自動車から出たとすると,建物のある方向が分からなければ,自ら遭難しに行くようなものであるし,仮に建物の方向が分かっていたとしても,夜間や吹雪の中では,付近の建物に到達することは困難であって,歩いて避難したり救助を求めたりすることが極めて困難な場所である。さらに,本件事故現場付近は,本件事故当時は,携帯電話の電波が届かなかったり,届きにくかったりする地域でもあった。

(甲3,乙11,12,13,68,証人I,証人M,証人G)

(6)  本件防雪柵は,視程障害緩和を目的とする吹き払い柵であり,鋼製で,本件道路の路面からの高さは約3.3m,下部間隙(一番下の防雪板から道路の路面まで)は1m弱であった。

本件防雪柵は,防雪板が垂直方向に4枚,いずれも風下に傾けて付いており,下部間隙と各防雪板の間隙から風が吹き抜ける構造となっていた。

本件防雪柵は,平成2年度から平成3年度に設置されたが,その後も,本件道路では,片側車線を埋める吹きだまりが発生することがあり,柵と柵との間の切れている部分は吹きだまりができやすく,本件防雪柵設置後,本件事故時までに,新富神里線は,平成11年3月,平成16年1月及び2月(合計3回),吹雪により通行止めとされたことがあり,規制延長及び規制時間は,平成11年3月が1.0㎞,9時間30分,平成16年1月が14.2㎞,25時間,平成16年2月が5.9㎞,5時間であった。

(乙13,14,19,23)

(7)  被告道は,本件事故当時,「北海道公物管理パトロール実施要綱」の趣旨に基づき,一般交通の用に供している道路区域内のパトロールを円滑に実施することを目的として,「道路パトロール実施要領」(乙4。以下「本件パトロール要領」という。)を定めていた。

ア 本件パトロール要領(乙4)は,公物管理員は,出張所長等の指示により,以下のパトロール等を実施するとしている。

(ア) 通常パトロール

通常時(閉庁日を除く。)における道路の異常等に対して適切な措置を講ずるため,道路及び道路利用の状況を把握するパトロールであり,主として次の項目等について実施する。

a 道路,道路付属物,占用物件等の状況

b 道路交通の状況及び障害物等の有無

c 降雨,降積雪等の状況又はこれらの影響による落石,地すべり,雪崩等の危険箇所の状況

d 冬期間における道路の降積雪及び凍結の有無又は除雪後の路面状況

(イ) 異常時パトロール

台風,豪雨,地震,高潮等により落石,岩石崩壊,地すべり,雪崩等が発生し,又は発生するおそれのある場合の道路の異常及び交通障害等に対して交通規制など適切な措置を講じるため,道路及び道路利用の状況を把握するパトロールをいう。特に,異常気象時における通行規制箇所が規制基準に達した場合又は達すると予測された場合は,出張所長等の指示によりパトロールを実施し通行規制等の必要な措置を講じる。

イ また,本件パトロール要領(乙4)は,公物管理員は,パトロール中は異常及び危険箇所の発見に努めるとともに,道路の異常により道路交通障害が発生し,又は発生するおそれがあるとき,その他緊急又は重大な事態が発生しているとき等には,直ちに無線等により出張所長等に連絡し,その指示に従うものとしている。

ウ 洞爺出張所は,本件事故までの2月中に,新富神里線等の通常パトロールを,1日(金),4日(月),6日(水),7日(木),8日(金),12日(火),14日(木),15日(金),18日(月),19日(火),21日(木)及び22日(金)に実施したが,14日(木)には,新富神里線及び豊浦ニセコ線で,異常があり,その内容は,いずれも「吹きだまり」であった(乙5)。

エ G(本件事故当時の洞爺出張所長)は,本件道路の特性や管理上の注意点等について,前任者から引き継ぎを受けることなく,部下職員から情報の提供を受けたこともなく,平成16年1月及び2月に吹雪により新富神里線を通行止にしたときの状況についても聞いておらず,新富神里線の除雪を夜間には行っていないことを利用者に知らせているか否かについても把握しておらず,本件道路に,携帯電話の電波が届かなかったり,届きにくかったりする場所があることも把握しておらず,冬期に本件道路を訪れたこともなかった(証人G)。

オ Gが,冬期に,道道の異常時パトロールを指示したり通行止めにしたりする判断のために得ていた情報は,ほぼ99%が除排雪の委託業者から寄せられたもので,残り1%が通行者等一般からの連絡であった(証人G)。

(8)  本件事故当時,被告道と本件組合との間の,洞爺出張所管内の道道に関する業務委託契約の内容等は,次のとおりであり,Gは,本件維持補修契約及び本件除排雪契約について,被告道の業務担当員で,各契約の条項に定めるもののほか,設計図書等の定めるところにより,業務の目的を達するため,業務の処理について,本件組合の業務処理責任者に対して指示する権限を有しており,被告会社は,本件組合の組合員で,本件維持補修契約及び本件除排雪契約に基づく義務を負っていた(乙2,6)。

ア 本件維持補修契約(乙2)

(ア) 本件組合は,委託業務処理要領,特記仕様書,設計図書(以下「設計図書等」という。)に従い,業務を処理しなければならず,設計図書等に定めのない事項については,被告道と本件組合が協議して処理し,契約書に定める指示,請求,通知,報告,承諾及び解除(以下「指示等」という。)は,書面により行われなければならないが,緊急やむを得ない事情がある場合は,指示等を口頭で行うことができる。(2条)

(イ) 業務の処理につき第三者に損害を及ぼしたときは,本件組合がその損害を賠償しなければならない。(27条1項)

(ウ) 本件組合は,災害,事故若しくは一般交通に対する危険等(以下「危険等」という。)を防止するため必要があると認めるときは,臨機の措置を採らなければならず,この場合において,必要があると認めるときは,本件組合は,あらかじめ,業務担当員の意見を聴かなければならないが,緊急やむを得ない事情があるときは,この限りでない。(29条1項)

(エ) 業務担当員は,危険等を防止するため必要があると認められるときは,本件組合に対して臨機の措置を採ることを請求することができる。(29条3項)

(オ) 道路維持業務の作業工種の区分は,路面整正,舗装補修,防塵処理,路肩法面補修,作工物修理,路面清掃,排水施設清掃,法面等清掃,草刈り,植栽管理,防雪柵,雑工及び巡回である。このうち「巡回」は,路面状況,道路施設状況の把握を行うとともに,一般の交通に支障が生じている場合について,直ちに補修又は応急処置を行うものである。(委託業務処理要領9項)

(カ) 業務の実施基準は,巡回について,通常巡回の実施は特記仕様書により,異常時巡回の実施は業務担当員が必要と認め指示した場合とする。(委託業務処理要領12項)

(キ) 施工管理は,巡回について,次のとおりとすることを標準とする。(委託業務処理要領13項)

a 一般の交通に支障を及ぼす事態が発生している場合,又は道路の状態が危険な場合は,電話等により業務担当員に報告し指示を受けるとともに,適切な処置を講ずる。ただし,閉庁時においては,連絡系統図により報告し,指示を受ける。

b 通常巡回は,日中に行う。

(ク)本件事故が発生した2月は,通常巡回業務実施日として,10日(日)だけが指定されていた。(特記仕様書)

イ 本件除排雪契約(乙6)

(ア) 本件組合は,設計図書等に従い,除雪業務を処理しなければならず,設計図書等に定めのない事項については,被告道と本件組合が協議して処理し,契約書に定める指示等は,書面により行われなければならないが,緊急やむを得ない事情がある場合は,指示等を口頭で行うことができる。(2条)

(イ) 業務の処理につき第三者に損害を及ぼしたときは,本件組合がその損害を賠償しなければならない。(23条1項)

(ウ) 本件組合は,危険等を防止するため必要があると認めるときは,臨機の措置を採らなければならず,この場合において,必要があると認めるときは,本件組合は,あらかじめ,業務担当員の意見を聴かなければならないが,緊急やむを得ない事情があるときは,この限りでない。(24条1項)

(エ) 業務担当員は,危険等を防止するため必要があると認められるときは,本件組合に対して臨機の措置を採ることを請求することができる。(24条3項)

(オ) 除雪業務の作業工種の区分は,一般除雪(新雪除雪,路面整正,拡幅除雪),運搬排雪,歩道除雪,凍結防止剤散布,附帯除雪である。このうち「新雪除雪」は,路面の積雪を路側に排除する作業で,通行車両による積雪の散乱や固い圧雪が形成される前に作業を実施し,プラウによる比較的高速作業が可能な状態の除雪である。(委託業務処理要領7項)

(カ) 受託者(本件組合)は,気象に関する情報を集め,受託路線の気象状況,受託路線の路面状況等を把握しておかなければならず,常に作業を実施できるよう準備体制を整えておかなければならず,業務を効率的に実施するため,必要がある場合には除雪巡回を実施し,路線の状況を把握しなければならない。(委託業務処理要領8項)

(キ) 巡回を含めて委託された場合は,以下のとおりとする(ただし,新富神里線については,除雪巡回を含めた委託はされていなかった。)。(委託業務処理要領8項)

a 受託者(本件組合)は,概ね次の状態となった場合等は除雪巡回を実施し路線の状況を把握しなければならない。

(a) 断続的な降雪により路面の積雪状況が不明なとき。

(b) 局地的な降雪や風雪,地吹雪等により吹きだまりの発生が予測されるとき。

(c) 関係機関,住民等から情報提供があったとき。

(d) 業務担当員の指示によるとき。

(e) その他交通障害が発生したとき,又はその恐れがあるとき。

b 除雪巡回による点検事項は,降雪,積雪,路面状況,防雪施設等の状況,一般交通及び交通障害の状況等とする。

c 巡回に従事する者は,道路状況,除雪作業等に精通した者としなければならない。

(ク) 受託者(本件組合)は,新雪除雪について,以下の出動基準に達したとき除雪業務を実施する。(委託業務処理要領12項)

a ほぼ連続した降雪があり,新たな積雪が10㎝以上に達したとき

b 気象情報,路面状況,降雪強度等を総合判断して,今後の降雪により,積雪が10㎝超えることが予想される場合,風雪や地吹雪等による吹きだまりの発生が予想される場合等のとき

c 業務担当員の指示によるとき

(ケ) 受託者(本件組合)は,異常降雪,地吹雪,雪崩その他危険により,交通の確保が困難となったときは,直ちに通行止めその他必要な処置を講じ,業務担当員に報告しその指示を受ける。(委託業務処理要領24項)

ウ 本件除排雪契約では,路線の区分に応じて除雪作業による交通確保目標が定められていたが,新富神里線は,第2種(交通量300~1000台/日以上)で,2車線(5.5m)以上の幅員確保を原則とし,夜間除雪は実施しないこととされ,異常降雪時においては,極力1車線以上の確保を図ることとされていた。(乙6。委託業務処理要領11項)

エ 被告会社は,本件除排雪契約の除雪出動基準である積雪10㎝の判断について,午前3時ないし4時ころ,各路線の近辺に居住している担当者が確認するほか,ガソリンスタンドなどに情報提供してもらって判断していた(証人N)。

(9)  本件道路の北方には,標高1045.1mの昆布岳,標高804.1mの西昆布岳等がそびえ,本件事故現場付近は,北東に向かって緩やかに標高が高くなる西昆布岳の裾野で,本件事故現場付近の本件道路の北側には牧草地が広がっている。

本件事故現場は,新富神里線と豊浦ニセコ線との交点を測点0(以下,測点からの距離に応じて「SP0m地点」などという。)とすると,SP1669m地点である。SP1669m地点(本件事故現場)の本件防雪柵の裏側(北側)は,道路面よりも地盤が高くなっていて,本件防雪柵から北に4.17m離れたところの道路面からの高さが0.51mである。本件事故現場付近の本件道路の裏側(北側)は,SP1660m地点の本件防雪柵の裏側(北側)を頂点とする緩やかな馬の背状となっていて,SP1660m地点の本件防雪柵の裏側(北側)では,道路面よりも1.25m地盤が高くなっていた。本件事故現場付近の本件道路の南側は,道路面より低く,ほぼ平坦であった。

(乙8,13)

(10)  本件事故現場付近に気象観測所はなく,本件事故現場に最も近い気象観測所は,直線距離で約10㎞の大岸アメダスである。

しかし,本件事故現場と大岸アメダスの位置関係は,別紙3の図面表示のとおりであり,大岸アメダスが,海岸近くの標高8mの地点にあるのに対し,本件事故現場は,標高230m台の山間部にあり,気象条件が異なっている。

大岸アメダスのデータによれば,昭和58年から平成2年までの8年間の最深積雪は62㎝~114㎝であり,冬期間の卓越風向は北であった。

これに対し,本件事故現場付近(新富地区)の冬期間の風は,昆布川沿いの低地帯を吹き抜け,昆布岳の裾野を回り込んで吹き,卓越風向は北西であった。

本件事故現場付近の本件道路は,北側が緩斜面で,樹木がほとんどない牧場となっており,さほどの降雪がない場合にも,以前降った雪が斜面に積もっていれば,風によって風上に積もった雪が移動するため,吹雪くと道路上に吹きだまりができやすく,特に本件防雪柵の柵と柵との間の切れている部分は吹きだまりができやすくなっていた。また,本件事故現場付近は,冬期は,周辺の地域が穏やかでも,特に吹雪くことがあった。そのため,本件道路は,本件事故より前にも,スコップで吹きだまりを飛ばして突破しなければ,車高の高い自動車(シャリオ)でも通行できないことがあったし,除雪車の後をついていかなければ通行できないことや,自動車では通行できず,歩かなければならないこともあった。また,何年かに1回は,吹きだまりが本件道路を全部覆いつくすに近いような状態になることがあった。

地吹雪は,降雪がなくても強い風によって発生し,風速が8~9m/sを超えるとドライバーの視界が低下するような高い地吹雪となる。そして,新雪は,雪粒子相互の付着力や結合力が弱いので,強風の直前に降雪があると地吹雪が発生しやすくなる。

30年確率の吹きだまり量分布図(乙8(本件マニュアルから引用))によれば,本件事故現場付近は,平均的な年間の吹きだまり量が30㎥以上40㎥未満の地域である。

しかし,統計として一回当たりの吹雪量や吹きだまり量の記録はなく,吹雪の規模を何年に一回という再現確率で表現することはできない。

(乙8,17,18,証人M,証人I)

(11)  本件低気圧は,中国大陸から渤海湾及び朝鮮半島を経て,日本海で発達し,23日から24日にかけて,津軽海峡付近を通って三陸沖に進み,北海道内に暴風雪をもたらして,交通網に大きな影響を与えた。

本件低気圧は,23日午後9時には,下北半島に達して,中心気圧は980hPaまで下がり,中心気圧の低下量は,この時点での前12時間に-12hPa,前24時間に-28hPaと,希に見る急速な発達を示し,その後,北緯40度線に沿ってゆっくり東進し,24日にはやや南下しながら三陸沖に至った。

北海道内の23日午前0時から24日午後6時までの降雪量は,50㎝近くに達した地域が,道東,道北,道央の各所に及び,道央では,倶知安町倶知安が60㎝,札幌市小金湯が55㎝で,降雪量の合計分布図によれば,本件道路付近では20㎝~30㎝となる。

風の状況は,道央では,概ね北の風で,最大風速が室蘭で9.7m/s(24日午前6時),苫小牧で14.1m/s(24日午前3時)で,最大瞬間風速が,室蘭で17.3m/s,苫小牧で29.3m/s,成香で17.2mで,大岸では,10分間平均最大風速が9mであった。このように風が強くなったのは,大陸の高気圧が1040hPaを超えて強く,東に張り出していて,低気圧の深まりが狭い範囲で起こり,気圧傾度が大きくなった(等圧線が混み合った状態となった)からである。

23日から24日にかけての大岸アメダスの気象データでは,積雪が23日午前9時から午後3時までに5㎝増加し,その後,23日午後3時から午後9時までに3㎝増加し,23日午後3時には気温1.2℃,北東の風2.0m/sで,23日午後9時には気温-1.6℃,風向・風速不明(欠損)であった。

(甲1,2,6,乙8)

(12)  23日から24日にかけて,北海道内では,暴風雪警報が,23日午後2時までに,石狩北部,渡島西部,檜山北部・南部・奥尻島,後志北部・西部,宗谷北部・利尻・礼文に発せられており,その後,23日午後2時47分留萌北部・中部・南部に,23日午後4時54分石狩南部に,23日午後8時9分宗谷南部に発せられた。また,大雪警報が,23日午後4時54分,石狩中部・南部,後志西部・羊蹄山麓に発せられた。

23日から24日にかけての北海道内の警報の発表及び解除の状況は,別紙4の気象警報の発表状況記載のとおりであり,23日から25日にかけての胆振西部,羊蹄山麓及び後志西部の注意報及び警報の発表,更新及び解除の状況は,別紙5の注意報・警報の発表状況記載のとおりである。

本件事故現場を含む胆振西部では,23日午前6時39分に大雪,風雪,雷,波浪,なだれ及び着雪の各注意報が発せられ,午後6時44分にはこれらの注意報が胆振地方全域に発せられた。その後,雷注意報が午後9時30分に解除され,大雪注意報が24日午前0時25分に解除されたが,風雪及び着雪の各注意報は24日午前10時23分まで続き(この時点で強風注意報が発せられた。),その後も波浪及びなだれの各注意報が続いた。

そして,本件事故現場の北に位置する後志西部では,23日午前5時56分に大雪,風雪,波浪,なだれ及び着雪の各注意報が発せられていたが,23日午後1時48分に風雪注意報及び波浪注意報が暴風雪警報及び波浪警報に切り替えられ,さらに,23日午後4時54分には大雪注意報が大雪警報に切り替えられた(暴風雪警報,波浪警報,なだれ注意報及び着雪注意報はそのまま維持された。)。その後,24日午前0時に大雪警報が大雪注意報に切り替えられるなどしたが,暴風雪警報は24日午前6時34分まで,波浪警報は24日午後1時54分まで続いた。また,羊蹄山麓でも,23日から24日にかけて,大雪警報,大雪注意報,風雪注意報等が発せられていた。

(甲1,2,6,乙8)

(13)  本件道路付近では,23日午前10時ころから雪が降り始め,日中にまとまった降雪があって,24日午前7時ころまで断続的な降雪があった。

本件道路付近では,23日の日中は東よりの風で,夕方から北よりの風(昆布岳を吹き下ろす風向)に変わって強まり,23日午後6時ころからは風速8~10m/s前後の強風となって地吹雪が強くなり,23日午後6時30分ころには,吹雪で道路へ出られないような状態であったものの,豊浦町の市街地方面から帰宅できていたが,その後風速12m/s以上の強風となって,24日午前0時ころには,場所により,吹きだまりが約1.5mとなって,約300m離れた場所から帰れなくなるような状況が生じ,24日午前6時30分ころには吹きだまりが約2mに達したところもあった。

(14)  Pは,23日午後6時30分ころ,本件事故現場付近の本件道路を車高の高いパジェロで通行したが,場所によっては前進と後退を繰り返すなどしながら自宅にたどり着いた。

23日午後6時30分ころ,H牧場の従業員であるIら3名(Iは,H牧場に約13年間勤務)が,帰宅するため,それぞれ自動車で本件道路を豊浦町の市街地方面へ向かったが,吹きだまりで蘭越町方面に向かって立ち往生している被救出車両を発見し,携帯電話でMに救助を要請した。

これを受け,Mは,除雪機を付けた大きめのトラクターを運転してかけつけ,被救出車両の前部(フロント)にワイヤーをかけ,トラクターで引っ張って救出し,本件道路を豊浦町の市街地方面へ除雪していった。

この間に,さらに別の自動車が本件道路を蘭越町方面に向かって走行していったが,間もなく引き返してきた。

Mは,吹きだまりが少なくなり,救助した4台の自動車がトラクターの横を通過するのを確認して,23日午後7時30分過ぎころH牧場に戻った。

(乙44の2・3,53,54,58の1・2,証人M,証人I)

(15)  22日から24日にかけての新富神里線等の道道の管理状況等は,以下のとおりであった(甲6,乙5,8,9,10,62,63,丙2,3,証人G,証人N)。

ア 22日(金)

洞爺出張所の職員は,午前9時48分から午前10時35分まで,及び午前10時55分から午前11時16分まで,新富神里線の通常パトロールを行ったが,異常はなかった。

イ 23日(土)

被告会社は,午前5時ころから午前8時30分ころまで,豊浦停車場線,新富神里線(SP14.2㎞地点からSP0.0㎞地点までの間を午前5時15分から6時まで,SP0.0㎞地点からSP21.0㎞地点までの間を午前6時45分から8時15分まで)及び豊浦ニセコ線の新雪除雪を行った。

また,被告会社は,新富神里線SP0.0㎞地点からSP0.9㎞地点までの間を,ロータリ除雪車で午前8時30分から午後0時15分まで,除雪ドーザで午前8時45分から正午まで,いずれも拡幅除雪を行った。

その後,さらに,被告会社は,午後1時15分から,豊浦停車場線,新富神里線(SP14.2㎞地点からSP0.0㎞地点までの間を午後1時30分から2時まで,SP0.0㎞地点から23.2㎞地点までの間を午後3時から4時15分まで)及び豊浦ニセコ線の新雪除雪を行った。

Gは,公宅で待機していたが,午後2時10分,洞爺湖登別線のオロフレ峠が吹雪であるとの連絡を受け,通行止めを指示し,その事務処理のため, 洞爺出張所に出勤した。

Gは,午後4時過ぎ,気象庁の防災情報により,天気予報や警報等発令状況を確認した。

Gは,午後4時10分ころ,被告会社を含む本件組合の組合員に,除雪作業の状況や現地の天候を確認したところ,被告会社からは,作業は順調で,雪や風は多少出ているものの視界は良好である旨の回答があった。そのため,Gは,その後の除雪や巡回は必要ないものと判断し,除雪等の指示をしなかった。

その後,Gは,公宅で待機していたが,24日朝まで,苦情や問い合わせ等の外部からの情報は入らなかった。

ウ 24日(日)

被告会社は,午前5時ころから,豊浦停車場線,新富神里線,豊浦ニセコ線の順に行う予定で,新雪の除雪作業を開始し,豊浦停車場線の除雪作業を終了し,新富神里線の除雪作業に取りかかったが,吹きだまりのため作業が難航し,午前6時6分,その旨を洞爺出張所に連絡した。これを受け,Gは,被告会社に対し,道路の片側だけでも通行を確保するよう連絡し,被告会社は,午前7時30分ころ,ロータリー除雪車1台を増強した。

他の路線を担当していた被告会社従業員のNは,被告会社から,新富神里線の除雪作業の応援要請を受け,午前9時30分ころまでに担当路線の除雪を終えて,ロータリー除雪車で新富神里線に向かった。

Nは,豊浦停車場線及び本件町道を通って新富神里線に入り,午前11時ころ,新富神里線のSP5㎞地点付近から,ロータリー除雪車で雪を飛ばしながら進んだが,吹きだまりの量が急激に増え,Q牧場の手前約200mからロータリー除雪車の前面にあるスクリューオーガを用いても進むことが困難な高さの吹きだまりが出現したため,被告会社に,バックホーの出動を要請した。このような吹きだまりは,R牧場の西側400mあたりまで断続的に存在した。

Gは,午後0時52分,被告道の小樽土木現業所蘭越出張所(以下「蘭越出張所」という。)から,新富神里線につながる豊浦ニセコ線について,除雪に関する苦情が寄せられたことが伝えられ,これに対し,Gは,新富神里線の除雪作業が難航していることを説明した。

被告会社は,午後1時45分,洞爺出張所に対し,新富神里線の通行止めを要請し,これを受け,Gは,午後2時27分になって,ようやく新富神里線の豊浦ニセコ線交点から豊浦側3㎞について通行止の措置をとった。

Gは,午後4時6分,蘭越出張所に,豊浦ニセコ線の除雪の応援を要請し,蘭越出張所は,午後5時10分から豊浦ニセコ線の除雪を開始した。

被告会社は,午後6時11分ころ,本件事故現場で,本件吹きだまりの中にD車を発見し,D車中に亡Dを発見した。

洞爺出張所は,午後7時45分,北海道警察から,他に不明車両がないか確認できるように除雪作業を急ぐよう要請されたため,蘭越出張所に,新富神里線の除雪の応援も要請し,蘭越出張所は,午後9時25分,新富神里線の除雪を開始した。

新富神里線の除雪が完了したのは,25日午前2時50分であった。

Iは,24日,本件道路が以上のような状態で通行できなかったため,スノーモービルで途中まで迎えにきてもらい,H牧場に出勤した。

(16)  本件事故現場の本件防雪柵から北に10mの位置での本件低気圧による吹きだまりの積雪深(推定)は約77㎝で,その下の地面までの積雪深(推定)は約65㎝であった。

本件道路に,本件吹きだまりのような大きな吹きだまりが生じた原因は,次のように考えられる。

23日の日中にまとまった降雪があったため,風によって舞い上がりやすい新雪が積もり,本件低気圧の通過に伴う非常に強い風が吹いたこと,気温が氷点下であったこと等の条件が重なり非常に強い吹雪が発生した。そして,本件防雪柵(吹き払い柵)の風上(北側)に,牧草地の緩斜面が広がっており,吹雪の発達に必要な吹送距離が長かった。また,本件事故現場付近の風上側の地形が凸状であったことにより,本件防雪柵(吹き払い柵)の風上にできる吹きだまりが雪丘状とならず,吹雪のかなりの部分が本件事故現場まで到達し得たことが,吹きだまり形成の要因となった可能性がある。

さらに,本件防雪柵(吹き払い柵)の風上側における凸状地形と吹きだまりにより,雪面高度が高くなったこと,風上側の吹きだまりが防雪板の高さ付近まで達し,防雪板を通過する風速と風量を弱めたことにより,本件防雪柵(吹き払い柵)の吹き払い機能が低下し,この吹き払い機能の低下が道路上の吹きだまりの形成を早めた。

(乙8,鑑定人Sによる鑑定の結果)

(17)  本件低気圧による本件暴風雪によって,北海道内の国道や道道で,多数の自動車が立ち往生し,本件事故が起きたほか,道道岩見沢石狩線(以下「岩見沢石狩線」という。)では,立ち往生した自動車が約50台に上って,全ての救出までに約22時間を要し,道道島松千歳線(以下「島松千歳線」という。)でも,立ち往生した自動車が約50台に上り,全ての救出までに約18時間を要するなどし,JRや航空機を含む交通網も麻痺するなど,住民生活に大きな影響が生じた(以下「本件雪害」という。)。

本件雪害においては,23日午前11時過ぎ,被告道の札幌土木現業所(以下「札幌土現」という。)岩見沢出張所に,岩見沢石狩線の吹きだまりなどについて,ドライバーから通報があり,職員を増員するなど非常配備体制をとり,除雪業者にパトロール及び除雪作業を指示し,交通整理員を配置して車両の進入を制限するなどしたが,その後も,携帯電話などで自動車が吹きだまりに埋まったとの通報が相次ぎ,23日午後8時から全面的に通行止の規制を行い,24日午前1時32分には,空知支庁から自衛隊に出動要請をしたが,1台ずつ救出していくのに時間を要し,救出完了は24日午後1時40分ころとなり,苦情や救出要請等は約600件に上った。また,札幌土現千歳出張所でも,23日午後2時ころから,除雪業者にパトロール及び除雪作業を指示するなどしていたが,23日午後9時ころ,島松千歳線で約50台の自動車が立ち往生しているとの通報があり,千歳市及び恵庭市と協議して,3者で救出作業に当たったが,道道馬追原野北信濃線及び道道恵庭栗山線でも自動車の立ち往生の通報があり,全部の救出完了は24日午後4時ころとなった。

本件雪害に関して,被告道は,「平成20年暴風雪による道道の雪害に関する建設部雪害調査検討委員会」(以下「本件検討委員会」という。)を設置し,大きな雪害のあった地域の気象状況や雪害時の状況などを調べ,平成20年3月31日付けで本件報告書(平成20年暴風雪による道道の雪害に関する調査報告書。甲6)をとりまとめた。

本件調査報告書は,本件雪害の状況に関し,岩見沢石狩線や島松千歳線について,視界や路面状況が比較的良好な道路と,視界が悪くて大きな吹きだまりが発生している道路が混在するなど,道路状況が局地的に大きく異なっていたとし,「このような状況について十分な情報がないまま各車両が走行したことから,結果的に多くの車両が雪害に遭遇し,気象状況がだんだん悪化していく中,立ち往生する車両も増加し救出に長時間を要した。」,「立ち往生した車両からは,携帯電話により多くの救出要請が直接出張所に寄せられるとともに,家人による道路状況の照会や除雪業者,関係市町村などから,多くの情報を入手し,これが除雪作業や立ち往生した車両の救出への出動などの対応につながった。」などととた上,本件雪害は,「過去に経験がないような局地的な異常気象によるものであったが,除雪作業や救出活動に際し,土木現業所の出張所が自衛隊や地元自治体と連携して行うとともに,公民館や企業の社屋が避難の場所として提供されるなど,地域における連携協働があった。」としている。

そして,本件調査報告書は,本件事故について,「これまで経験したことのないような局地的な異常気象によりもたらされた雪害であったが,洞爺出張所では,23日の夜半にかけて,管内に発表された気象情報に変化がなかったこと,地域住民などからその地区の気象や降雪の情報を得られなかったことなどにより,結果として現地の状況について詳細に把握することができなかった。」としている。

また,本件調査報告書は,今後の取組として,「国,市町村など関係機関との情報共有や除雪,救出などにおける連携・協働の取組を推進する。」とし,国,被告道の道路管理者,警察,気象台,自衛隊などで構成される「北海道雪害対策連絡部(交通関係機関)情報交換会議」(以下「情報交換会議」という。)の中で,「より細分化した地域の気象情報の把握に努める。道内における携帯電話の不感地帯解消を市町村と連携して,通信事業者へ要請していく。冬期間の交通には,ともすれば危険が伴うことを道民一人ひとりが認識できるような取組をしていく。」とし,「携帯電話の不感地帯や山間部などでは,周辺の企業や住民の方などとの協力により,局地的な異常気象などの把握に努める。」などとしている。

しかし,このような本件調査報告書をとりまとめた本件検討委員会に,本件事故当時洞爺出張所の所長であったGは関わっておらず,本件訴訟になるまで,本件調査報告書を読んだり,内容を確認されたりしたこともなく,Gは,室蘭土現の副所長から事情聴取を受けただけであった。そして,Gは,上記のような情報交換会議の存在すら知らなかった。(証人G)

また,室蘭土現の委託により,財団法人日本気象協会北海道支社が作成した「平成19年度室蘭土木現業所管内雪況調査業務報告書」(乙8)では,「統計として一回当たりの吹雪量や吹きだまり量の記録はなく,今回の吹雪の規模を何年に一回という再現確率で表現することはできない。」としながら,「しかし,吹きだまり量から,道央圏と豊浦町新富地区において非常に特異な気象事例であったことは間違いない。」とし,「豊浦地区での暴風雪は,現在の気象観測網では把握することのできない気象現象であり,気象観測所の新設,パトロール体制の見直し,現地住民からの通報制度の確立等が現象把握の観点から考えられる。」,「これまで経験したことのない吹雪量をどの様に評価するかをスタートとし,安全安心を最優先して費用対効果を考慮した対策が求められる。」としている。

(18)  以上の認定事実を基に,以下,各争点について判断する。

2  争点(1)(被告道の国家賠償法2条1項に基づく損害賠償責任)について

(1)  国家賠償法2条1項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは,営造物が通常有すべき安全性を欠いている状態をいい,当該営造物の使用に関連して事故が発生し,被害が生じた場合において,当該営造物の設置又は管理に瑕疵があったとみられるかどうかは,その事故当時における当該営造物の構造,用法,場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきであり,これに基づく国及び公共団体の賠償責任については,その過失の存在を必要としないと解すべきである(最高裁判所昭和45年8月20日判決・民集24巻9号1268頁等参照)。

(2)  道路管理者は,道路を常時良好な状態に保つように維持し,修繕し,もって一般交通に支障を及ぼさないように努める義務を負う(道路法42条)。

本件道路は,1日の交通量が300台~1000台であるが,豊浦町の市街地方面と蘭越町方面とを結ぶ一般的なルートとなっており,昼夜を問わず一般通行の予想される道路である。

そうすると,被告道は,本件道路を,昼間だけでなく,夜間においても良好な状態に保ち,一般交通に支障を及ぼさないよう維持,管理すべき義務があるのであって,一般交通に危険が生じたり,危険が生じる恐れがあったりした場合には,遅滞なくこれを除去したり,予防したりすべきであり,これらの措置を講じることができない場合には,通行を禁止して,利用者の危険への接近を防止すべき義務があったというべきである。

しかも,本件道路の本件事故現場付近は,牧場が点在しているだけで,道路沿いに人家がなく,本件事故当時は,携帯電話の電波が届かなかったり,届きにくかったりする地域であったから,吹雪による吹きだまりで自動車が立ち往生すれば,乗車していた者は,救助を求めることもできず,直ちに凍死や一酸化炭素中毒死の危険にさらされるのである(なお,携帯電話の電波が届く場所であっても,自動車に乗車している者が,常に携帯電話を所持しているとは限らないし,電池切れ等で使用できない場合もあるから,そのことだけで危険のない地域であったということはできない。)。そして,吹雪による吹きだまりは,昼間に限らず,夜間でも生じることは当然であるが,夜間に生じた場合は,自動車の通行が少ないことから,救助を求めることがより困難であるし,気温も朝方にかけて低下するのであるから,立ち往生した自動車に乗車していた者は,より大きな危険にさらされることになるのである。そうすると,このような観点からも,本件道路の道路管理者であった被告道は,利用者が上記のような危険に遭遇することを防止すべき義務があり,安全な状態に管理できないのであれば,適時に通行止めの措置をとるべき義務があったというべきである。

ところが,本件道路(新富神里線)は,1日の交通量が300台~1000台であるという形式的な基準によって,夜間除雪を実施しないこととされていたのであり,このような本件道路の管理状況自体,相当性に疑問のあるものである。

新富神里線は,洞爺出張所の14日(木)の通常パトロールの際,吹きだまりによる異常があったことからも明らかなように,吹きだまりの発生が予想される道路であり,特に本件事故現場付近の本件道路は,北側に牧草地が広がっており,樹木が少なく,北よりの風が吹いた場合,風上側の吹走距離が長いため,吹雪量が増大することとなり,吹きだまりが生じやすい地域にある。

なお,本件道路には,本件防雪柵が設置されているが,本件防雪柵は吹き払い柵であり,それ自体視程障害の緩和を目的としたもので,吹きだまり対策が目的ではない(吹き払い柵は,吹きだまり対策としては適切でないとされている。)。また,本件防雪柵は,全区間連続しているわけではなく,柵と柵との間の切れている部分があり,本件防雪柵の切れ目は,私道の取り付けや,隣地への出入りのために柵が設置されていないもので,柵が設置されているところと地形的に異なるなどの理由で設置の必要性がなくなっているわけではない。そうすると,吹き払い柵にある程度の吹きだまりの防止効果があったとしても,柵のないところがある以上,その部分に吹きだまりができることは避けられず,本件道路は,本件防雪柵があるからといって,除雪や巡回等の管理をしなくてよいことになるものではない。そして,柵のないところに,柵のあるところより大きな吹きだまりが生じれば,柵のあるところは走行できても,柵のないところで立ち往生してしまうのだから,柵があることによって道路の危険性は軽減されない。むしろ,柵のあるところはある程度走行することができるのに対し,柵のないところは走行が困難となるため,柵がない部分の吹きだまりを超えて,柵のある部分を走行し,その後次の柵が切れている部分の吹きだまりによって前へ進むことができなくなった場合,引き返した時点では,一旦超えてきた吹きだまりが発達して,超えることができなくなってしまうことも考えられるのであり,このような袋の鼠の状態になってしまう可能性もあるのであって,かえって危険であるということもできる。さらに,吹き払い柵は,下部間隙が雪で塞がっていれば,視程障害緩和の効果も低減してしまうのであるから,これを維持するためにも,除雪等による管理が重要である。

(3)  23日は,日本海で発達した本件低気圧が,津軽海峡付近を通って東に進み,午後9時には,下北半島に達して,中心気圧が980hPaまで急速に低下し,北海道付近では気圧傾度が大きく,等圧線が混み合った状態となった(したがって,強風が予想される。)。

そして,23日午後4時54分までに,北海道内各地に暴風雪警報,大雪警報等が発せられ,本件事故現場が含まれる胆振西部でも,午前6時39分に大雪,風雪,なだれ等の注意報が発せられており,本件事故現場の北に位置する後志西部では,午後1時48分に暴風雪警報が発せられ,午後4時54分には大雪警報も発せられた。また,この間に,洞爺出張所は,洞爺湖登別線のオロフレ峠を吹雪により通行止めとした。

(4)  前記(2)及び(3)のような本件道路や本件低気圧等の状況をみれば,23日の夕刻の時点において,深夜にかけて,津軽海峡付近を通過する本件低気圧に向かって北よりの強い風が吹き,本件道路付近で吹雪が発生する可能性があること(必ず発生するということではない。)が,容易に予測できたものというべきである(このような予測は,気象の専門家ではない一般人においても容易であったというべきであるが,道路管理者としては,気象専門家のレベルまでは要求されないとしても,一般人と同程度の知見を有しているだけでは足りないというべきである。)。

そうすると,本件道路を現場で管理する洞爺出張所のGとしては,23日の午後4時15分までに被告会社が本件道路等の新雪除雪を行い,午後4時10分ころ,被告会社を含む本件組合の組合員に,除雪作業の状況や現地の天候を確認して,作業は順調で,雪や風は多少出ているが視界は良好である旨の回答があったとしても,胆振西部では,大雪,風雪,なだれ等の注意報が発せられた状態が続いていたのであるし,夜間に本件低気圧の影響で北よりの風が吹き,本件道路等で吹雪が発生する恐れがあったのであるから,本件低気圧により風雪等の生じる恐れがなくなるまでの間,本件パトロール要領(乙4)所定の異常時パトロールを指示したり,本件維持補修契約(乙2)所定の異常時巡回(委託業務処理要領12項)を指示したりして,本件道路を含む洞爺出張所管内の道道の状況を把握すべき義務があったというべきである(なお,胆振西部に発せられていたのは重大な災害が起こる恐れのあるときに発せられる「警報」ではなく,「注意報」であるが,「注意報」自体,災害が起こる恐れのあるときに発せられるものであり,大雪注意報であれば,特に山間部では,相当程度の深さの降雪が予想されるのであるし,風雪注意報であれば,雪による視程障害を伴う強風が予想されるのであるから,一時的に天候が安定していたとしても,上記義務が生じないことになるものではない(「注意報」レベルの風雪でも,吹雪が発生するおそれは充分にある。)。また,胆振西部といった地域が広範囲であることからすれば,隣接地域の警報,注意報も参考にした慎重な判断が求められたというべきである。)。ところが,Gは,上記の本件組合の組合員からの情報や,「警報」が発せられていないことなどから,上記のような義務を履行しなかったのであり,「注意報」が発せられている趣旨を甘く見た著しい怠慢である。

さらに,吹雪による吹きだまりの発生や発達については,局所的な要因が大きく影響するもので,地域別の天気予報や警報,注意報のみに頼ることはできず,管理する道路が実際にどのような状況にあるのかを,的確に把握する必要があるのであって,そのためには,適時に現地の状況を把握するための体制が必要であった。ところが,洞爺出張所では,管内の地方自治体や警察との協議もされておらず,現地の道路状況,天候等を入手するための連絡体制もとられていなかったのである(仮に,被告道の他の出張所等において同様の状況であったとしても,それ自体が責められるべきことであり,洞爺出張所の体制の不備を正当化できるものではない。)。そして,洞爺出張所に寄せられる異常時パトロールを指示したり通行止めにしたりする判断のための情報は,99%が除排雪の委託業者からの情報で,残り1%が一般からの情報であったもので,委託業者が夜間の除雪やパトロールを行わない道路については,そもそも夜間の情報はほとんど入手することが期待できないのであるから,情報が入らなかったことで,管理の責任を免れることはできないのである。すなわち,供用され,進入可能な状態の道路が,管理者が長時間状況を把握できない状態に置かれていたこと自体,管理体制に問題があったというべきであり,被告道は,Gに情報が入らなかったことを主張しているが,そもそも安全な道路管理のために必要な情報を入手できる体制を整えていなかったのであるから,そもそも前提を欠くもので失当といわざるを得ない。

本件道路は,23日午後6時30分ころには,吹雪による吹きだまりが生じて,車高の高い自動車(パジェロ)でも,前進と後退を繰り返すなどして走行しなければならない状況(車高が高くない自動車では,吹きだまりで立ち往生する可能性が高い状況)で,23日午後7時ころまでに,吹きだまりで立ち往生し,トラクターで救出される自動車(被救出車両)が出たり,蘭越町方面に向かった自動車が引き返していったりしているのであって,一般交通に支障のある状態になっていたものと認められる。そして,本件道路の本件事故現場付近は,牧場が点在しているだけで,道路沿いに人家がなく,携帯電話の電波が届かなかったり,届きにくかったりする地域であったから,本件道路は,通行しようとする自動車に乗車している者を凍死や一酸化炭素中毒死の危険にさらす状態になっていたのである(Iら3名,被救出車両に乗車していた者及び上記引き返した自動車に乗車していた者も,いずれもMによるトラクターでの救出や除雪がなければ,凍死,一酸化炭素中毒死の危険や凍傷等の傷害を負う危険があったものである。)。

ところが,被告道は,本件道路について,上記のような状態が生じていることを把握できるような方策を予め何ら講じておらず(上記のとおり,本件道路について,このような道路状況についての情報(特に重大な危険が生じていることの情報)が,洞爺出張所に入るような方策が講じられていなかったこと自体,管理に瑕疵があったというべきである。),本件道路は,上記危険な状況が生じた23日午後6時30分ころ以降,除雪が完了した25日午前2時50分までの間,約32時間にわたって,一般交通に支障があり,通行しようとする自動車が吹きだまりで立ち往生してしまう危険があり,吹きだまりで立ち往生した自動車があれば乗車していた者は救助されることなく,そこで死亡したり傷害を負ったりする危険のある状態が継続してしまったのである。

また,洞爺出張所の長であり,23日当日の閉庁日の当番として,直接指揮をとっていたGは,本件道路について,前任者から引き継ぎを受けることなく,部下職員から情報の提供を受けたこともなく,冬期に本件道路を訪れたこともなかったのであるから,本件事故当時,的確な判断を行い,的確な指示を出すことは,到底期待できない状況にあったといえるのであって,このような閉庁日における本件道路の管理体制自体,安全性を欠く状態であったといえる。

そうすると,本件道路は,本件事故当時,道路(営造物)が通常有すべき安全性を欠いている状態にあったもので,管理の瑕疵があったというべきである。

(5)  そして,Gが,異常時パトロール等を指示し,これが実施されていれば,本件道路が前記(4)のような危険な状態にあることは,容易に判明したのであるし,あるいは,適切な情報入手の体制が整えられていれば,Gは,同様に本件道路が危険な状態にあることを認識することができたのであって,本件道路で立ち往生している自動車があれば,乗車している者に危険が迫っていることも明らかなのであるから,Gは,業務担当員として,本件道路を通行止めにするとともに,被告会社に新雪除雪を指示(本件除排雪契約委託業務処理要領12項)すべきことになるのであり,そうすれば,遅くとも24日午前4時ころ(亡Dの死亡推定時刻)までには,D車が発見され,亡Dが救助されていた可能性が高いのであって,前記(4)の本件道路の管理の瑕疵と亡Dの死亡との間に相当因果関係が認められる。

(6)  また,本件事故時のように自動車が完全に雪に埋まってしまうような本件吹きだまりの形成が予見可能ではなかったとしても,それは最終的に形成された本件吹きだまりについていえることであって,それより前のごく早い段階で,被救助車両が本件道路上の吹きだまりによって動けない状況になっているように,ある程度の吹きだまりができれば自動車は立ち往生してしまうのであり,本件道路で,少なくとも自動車が立ち往生する程度の吹雪による吹きだまりが生じることは十分予見できたのであって,予見可能性がなかったとの理由で被告道が責任を免れることはできないのである(なお,被告道は,「これまで経験したことがない」などと主張して争っているが,具体的な統計に基づく根拠が示されているわけでもなく,仮に,これまで経験したことがなかったとしても,それによって直ちに予見可能性がなかったといえるものでもない。)。

そのほか,被告道は,本件事故は,亡Dの危険を十分に分かっていながら,猛吹雪の中を敢えてUターンするという,通常予測できない行動によって生じたものであり,猛烈な吹雪の中,視界不良を覚悟の上自動車の走行を続けたという行為も通常では考え難く,本件事故は,ディーゼル車の排気ガスによる一酸化炭素中毒死という極めて稀な事故であったなどとして,国家賠償法2条1項による責任を争っている。

しかし,本件道路は,前記(4)のとおり,23日午後7時ころまでに,被救出車両が吹きだまりで動けなくなっていたのであるから,Mによって救出されなければ,被救出車両に乗車していた者は,亡Dと同様に排気ガスによる一酸化炭素中毒によって死亡したり,凍死したりした可能性が高かったものであり,既に道路が通常有すべき安全性を欠いた状態になっていたのであって,このような状態の本件道路が何らの対策もとられずに放置されていたのであるから,管理の瑕疵があったことは明らかで,仮に被告道の主張する事実があったとしても,管理の瑕疵が否定されることにはならない。また,自動車が吹きだまりに埋もれた場合,排気ガスによる一酸化炭素中毒によって死亡することは,一般的な自動車の構造から当然あり得ることであって,相当因果関係が否定されるものではない。そして,被告道は,猛烈な吹雪の中,視界不良を覚悟の上自動車の走行を続けたという行為が通常では考え難いとするが,本件雪害によって岩見沢石狩線や島松千歳線でも,吹きだまりで立ち往生した自動車がいずれも約50台に上っているように,視界不良の猛烈な吹雪の中を走行を続けることもあり得ることは明らかなのであり,上記のような事実を自ら管理する道路で経験していながら,適当な理屈をつけて責任を免れようとする態度自体が問題なのであって,このような体質が本件事故やその後の事故を防ぐことができない一因となっているものといわざるを得ない。

(7)  したがって,その余の点について判断するまでもなく,被告道は,本件道路の管理者として,国家賠償法2条1項により,原告らに対し,亡Dの死亡による損害を賠償する義務がある。

3  争点(3)(被告会社の不法行為に基づく損害賠償責任)について

(1)  本件道路を設置,管理しているのは被告道であり,被告会社は,本件組合の組合員として,被告道と本件維持補修契約及び本件除排雪契約を締結し,本件道路を含む新富神里線等を担当しているのであるから,一般的に担当する道路の維持,管理の義務を負うのではなく,上記各契約上の義務として,これを負担しているものである。

(2)  被告会社は,本件維持補修契約に基づき,巡回業務(路面状況,道路施設状況の把握を行うとともに,一般の交通に支障が生じている場合には,直ちに補修又は応急処置を行う業務)を行う義務があった(委託業務処理要領9項)。

しかし,本件維持補修契約上,業務の実施基準として,通常巡回の実施は特記仕様書により,異常時巡回の実施は業務担当員が必要と認め指示した場合とされており(委託業務処理要領12項),本件事故が発生した2月は,通常巡回業務実施日として,10日(日)だけが指定されていたもので(特記仕様書),被告会社は,23日(土)及び24日(日)は,通常巡回の義務はなかったし,異常時巡回についても,業務担当員であるGから何らの指示もなかったのであるから,これを行うべき義務はなかったのである。

(3)  被告会社は,本件除排雪契約に基づき,除雪業務(新雪除雪等)を行う義務があった(委託業務処理要領7項)が,23日の日中,本件道路を含む新富神里線のSP0.0㎞地点から23.2㎞地点までの間について,午後3時から4時15分まで新雪除雪を実施しているのであるから,本件除排雪契約に基づく義務を履行している。

そして,本件除排雪契約によれば,被告会社は,本件道路を含む新富神里線について,夜間除雪や除雪巡回を行う義務は負っていなかったのである。

なお,原告らは,被告会社が除雪を行う際,防雪柵側に雪を飛ばしたため,本件防雪柵の裏側に雪がたまり,下部間隙の風の流れが阻害され,吹きだまりが形成された旨主張し,甲11号証及び乙22号証の写真には,ロータリー除雪車が本件防雪柵側に雪を飛ばしている様子が撮影されており,被告会社の除雪方法が不適切であった可能性がある。しかし,本件防雪柵は視程障害の緩和を目的とする吹き払い柵であり,そもそも吹きだまりの防止を目的とするものではないなど(吹きだまり対策としては,適切でないとされている。),D車が吹きだまりで立ち往生したことによる本件事故との因果関係は明らかでなく,これにより直ちに不法行為責任を負うものとは認められない。

(4)  原告らは,被告会社には臨機の措置を行うべき義務があった旨主張する。

しかし,本件維持補修契約29条1項,本件除排雪契約24条1項及び本件除排雪契約委託業務処理要領24項所定の各臨機の措置については,いずれも本件組合の組合員が業務を行っている際,危険等を防止するために,臨機の措置を行うべきことを規定したものであると認められ,本件組合の組合員に,危険等を防止するための独立した出動義務を定めたものと認めることはできず,原告らの上記主張は理由がない。

(5)  以上によれば,被告会社には,本件維持補修契約及び本件除排雪契約に基づく義務の違反はなく,他に本件事故について被告会社が不法行為責任を負うべき事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの被告会社に対する請求は,理由がない。

4  争点(4)(本件事故による損害及び額)について

(1)  前記前提事実に,証拠(甲13)及び弁論の全趣旨を総合すると,亡D(死亡当時28歳)は,本件事故で死亡しなければ,67歳まで39年間,少なくともFにおける平成19年5月から12月までの給料である341万5517円を年収に換算した年512万3275円の収入を得られたものと認められ,生活費控除率としては,50パーセントが相当である。

そうすると,亡Dの逸失利益は,4359万1385円となる。

(計算式:512万3275円×0.5×17.017)

(2)  亡Dは,本件事故により,厳冬期の夜間,一面の雪原と化した北海道の牧草地の道路で,暴風雪が吹き荒れる中,一人で自動車の中に閉じこめられ,脱出しようとしてもかなわず,孤独と死の恐怖を味わい,一酸化炭素中毒で死亡したのであって,その肉体的,精神的苦痛は多大なものであったと認められ,慰謝料としては2500万円が相当である。

(3)  原告らは,亡Dの父及び母として,前記(1)及び(2)の亡Dの逸失利益及び慰謝料(合計額6859万1385円)の2分の1である3429万5692円の損害賠償請求権をそれぞれ相続した。

(4)  原告Aに生じた亡Dの葬儀費用の損害としては150万円が相当である。

(5)  以上によれば,本件事故による損害(弁護士費用を除く。)は,原告Aにつき3579万5692円,原告Bにつき3429万5692円となる。

5  争点(5)(本件事故前の亡Dの行動(過失相殺))について

被告道は,23日午後7時ころ,本件事故現場から約200mほど豊浦町市街地よりのL牧場入り口付近で,Mらが立ち往生していた被救出車両を救出したが,被救出車両は亡Dの車両であり,本件事故は,危険を十分に分かっていながら,猛吹雪の中を敢えてUターンするという通常予測できない亡Dの行動によって生じたものである旨主張する。

しかし,亡Dは,23日午後6時37分に「伊達そんな事ないんだよ」とのメールを友人に送信しており,そのころは伊達市付近にいたものと認められ,午後7時ころまでに上記被救出車両が立ち往生していた現場に到着するとは考え難い。被告道は,被救出車両とD車とが同一である根拠として,自動車の色や運転者が若い男性であること,蘭越に向かうと言っていたことなどを主張しているが,どれも根拠としては薄弱なものであり,D車との同一性を認めることはできない。また,被救出車両の救出後,Iらが,蘭越町方面に向かう自動車を見かけなかったとしても,豊浦町の市街地方面から本件事故現場に至る経路は複数あり,わずかなタイミングのずれによっても出会わないことがあり得るのであって,被救出車両とD車との同一が認められるものでもない。そして,そもそも,被告道が主張するように,吹きだまりで立ち往生し,救出された自動車が猛吹雪の中を敢えてUターンして戻ってくるなどということは通常予測できないのであるから,よほどの根拠がない限り,同一性を認めることは困難というべきである。

したがって,被告道の上記主張は採用することができない。

なお,亡Dは,猛吹雪の本件道路へ向かってしまったのであるが,上記メールによれば,伊達ではその時点(23日午後6時37分)で降雪等が激しいものではなかったものと認められるし,本件道路を管理する洞爺出張所のGでさえ,本件道路の異常時パトロール等の指示や通行止めの必要性を認識していなかったのであるから,一般の利用者にすぎない亡Dが本件道路へ向かったことに過失があったということはできないのである。

5  以上によれば,弁護士費用は,原告Aにつき360万円,原告Bにつき350万円が相当であり,被告道は,国家賠償法2条1項に基づき,原告Aに対し合計3939万5692円,原告Bに対し合計3779万5692円の各損害賠償義務及びそれぞれこれに対する本件事故による亡Dの死亡日である平成20年2月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。

6  よって,原告らの請求は,被告道に対し,原告Aが3939万5692円,原告Bが3779万5692円及びそれぞれこれに対する平成20年2月24日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり,その余はいずれも理由がなく,本件事案に鑑み,仮執行宣言を付するのが相当であり,仮執行免脱宣言を付するのは相当でなく,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長谷川恭弘 裁判官 黒田真紀)

裁判官戸畑賢太は,転補のため,署名押印することができない。裁判長裁判官 長谷川恭弘

(別紙1~3は,添付省略)

file_6.jpg別紙4・別紙5

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