札幌地方裁判所 平成22年(ワ)1928号 判決 2012年9月05日
当事者の表示 本判決末尾添付の当事者目録記載のとおり
主文
1 原告ら各自と被告Y2株式会社との間で、原告ら各自が被告株式会社Y1との雇用契約上の地位を有することの確認を求める訴えをいずれも却下する。
2 原告らの被告Y2株式会社に対するその余の請求及び原告らの被告株式会社Y1に対する請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 原告ら各自と被告らとの間で、原告ら各自が被告株式会社Y1との雇用契約上の地位を有することを確認する。
2 被告らは、原告ら各自に対し、連帯して100万円を支払え。
第2事案の概要
本件は、被告株式会社Y1(同社は平成17年7月1日に「株式会社a」から商号変更をしているが、以下商号変更の前後を区別することなく「被告Y1社」という。)との間で期間の定めのある雇用契約を締結し、契約社員として複数回契約を更新していた原告らが、被告らに対し、被告Y1社による期間満了後の更新拒絶(雇止め)は許されないと主張し、さらに、被告Y1社との間の雇用契約を合意解約して被告Y2株式会社(以下「被告Y2社」という。)へ転籍する旨の意思表示は、錯誤によるものであるから無効である、又は、詐欺ないし強迫による意思表示であるから取り消すとして、原告ら各自が被告Y1社との間で雇用契約上の地位を有することの確認を求めるとともに、被告らに対し、被告Y1社が、被告Y2社と共謀の上、原告らを雇止めすることができないことを知りながら、雇止めする旨告げて、原告らに被告Y2社への転籍に応じさせ、原告らに精神的損害を与えたと主張し、債務不履行又は不法行為に基づき、原告ら各自に対し、連帯して慰謝料を支払うよう求める事案である。
1 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者
ア 被告Y1社は、同社の親会社であるb株式会社(以下「b社」という。)等からの受託業務、電気通信事業等を目的とする株式会社である。
イ 被告Y2社は、電気通信等各種媒体による受発信代行、一般労働者派遣事業等を目的とする株式会社である。
ウ 原告らは、被告Y1社の業務を行うものである(以下のとおり、雇用契約の相手方が被告Y1社か被告Y2社かには争いがある。)。
(2)ア(ア)a 原告X1(以下「原告X1」という。)は、平成16年9月1日、被告Y1社との間で、期間を同日から平成17年3月31日までとする雇用契約を締結した。
b 原告X1は、同月1日、被告Y1社との間で、給与を日給制から月給制に変更するに当たり、上記aの雇用契約を合意解約し、改めて、期間を同日から同月31日までとする雇用契約を締結した。
(イ) 原告X1は、平成17年4月1日、被告Y1社との間で、期間を同日から平成18年3月31日までとする雇用契約を締結した。
(ウ)a 原告X1は、平成18年4月1日、被告Y1社との間で、期間を同日から平成19年3月31日までとする雇用契約を締結した。
b 原告X1は、平成18年7月1日、被告Y1社との間で、給与体系、退職金等について変更するに当たり、上記aの雇用契約を合意解約し、改めて、期間を同日から平成19年3月31日までとする雇用契約を締結した。
(エ) 原告X1は、平成19年4月1日、被告Y1社との間で、期間を同日から平成20年3月31日までとする雇用契約を締結した。
(オ) 原告X1は、平成20年4月1日、被告Y1社との間で、期間を同日から平成21年3月31日までとする雇用契約を締結した。
(カ) 原告X1は、平成21年4月1日、被告Y1社との間で、期間を同日から平成22年3月31日までとする雇用契約を締結した。
イ(ア) 原告X2(以下「原告X2」という。)は、平成17年1月5日までに、被告Y1社との間で、期間を同日から同年3月31日までとする雇用契約を締結した。
(イ)a 原告X2は、平成17年4月1日、被告Y1社との間で、期間を同日から平成18年3月31日までとする雇用契約を締結した。
b 原告X2は、平成17年6月24日、被告Y1社との間で、給与を日給制から月給制に変更するに当たり、上記aの雇用契約を合意解約し、改めて、期間を同年7月1日から平成18年3月31日までとする雇用契約を締結した。
(ウ)a 原告X2は、平成18年4月1日、被告Y1社との間で、期間を同日から平成19年3月31日までとする雇用契約を締結した。
b 原告X2は、平成18年7月1日、給与体系、退職金等について変更するに当たり、上記aの雇用契約を合意解約し、改めて、期間を同日から平成19年3月31日までとする雇用契約を締結した。
(エ) 原告X2は、平成19年3月1日、被告Y1社との間で、期間を同日から平成20年3月31日までとする雇用契約を締結した。
(オ) 原告X2は、平成20年4月1日、被告Y1社との間で、期間を同日から平成21年3月31日までとする雇用契約を締結した。
(カ) 原告X2は、平成21年4月1日、被告Y1社との間で、期間を同日から平成22年3月31日までとする雇用契約を締結した。
ウ(ア)a 原告X3(以下「原告X3」という。)は、平成16年6月7日、被告Y1社との間で、期間を同日から平成17年3月31日までとする雇用契約を締結した。
b 原告X3は、平成16年12月1日、被告Y1社との間で、給与を日給制から月給制に変更するに当たり、上記aの雇用契約を合意解約し、改めて、期間を同日から平成17年3月31日までとする雇用契約を締結した。
(イ) 原告X3は、平成17年4月1日、被告Y1社との間で、期間を同日から平成18年3月31日までとする雇用契約を締結した。
(ウ)a 原告X3は、平成18年4月1日、被告Y1社との間で、期間を同日から平成19年3月31日までとする雇用契約を締結した。
b 原告X3は、平成18年7月1日、給与体系、退職金等について変更するに当たり、上記aの雇用契約を合意解約し、改めて、期間を同日から平成19年3月31日までとする雇用契約を締結した。
(エ) 原告X3は、平成19年3月1日、被告Y1社との間で、期間を同日から平成20年3月31日までとする雇用契約を締結した。
(オ) 原告X3は、平成20年4月1日、被告Y1社との間で、期間を同日から平成21年3月31日までとする雇用契約を締結した。
(カ) 原告X3は、平成21年4月1日、被告Y1社との間で、期間を同日から平成22年3月31日までとする雇用契約を締結した。
(3) 被告Y1社は、平成20年10月頃までに、同社の契約社員のうち、平成21年度中に集約・縮小を予定している業務従事者及び退職予定の者を除く全契約社員669名(原告らを含む)を対象として、①被告Y1社との雇用契約を終了し、被告Y2社との間で雇用契約を締結した上(以下「転籍」ということがある。)、②被告Y2社は、新たに雇用契約を締結した契約社員を被告Y1社に派遣し、従前と同一の業務に従事してもらうという、いわゆる雇用替え(以下「本件雇用替え」という。)を実施することを決定した(書証<省略>)。
(4)ア 被告Y1社は、平成21年10月1日、原告X2及び原告X3を含む、期間の定めのある雇用契約を締結する社員(以下「契約社員」という。)数名に対し、同月5日及び6日に「契約社員の雇用形態変更に関する説明会」(以下「社員説明会」という。)を開催するとして、同説明会への出席を促すメールを送った。
また、被告Y1社は、同月上旬、原告X1を含む契約社員数名に対し、同月13日及び14日に社員説明会を開催するとして、同説明会への出席を促すメールを送った。
イ 原告X2は同月5日、原告X3は同月6日、原告X1は同月13日に、社員説明会に参加した。
ウ 被告Y1社は、社員説明会において、出席した契約社員に対し、被告Y2社への転籍を促し、転籍に応じた場合、①平成21年12月31日をもって被告Y1社を解雇する扱いとし、平成22年1月1日から被告Y2社から期間を3か月とする雇用契約を締結すること、②同年4月1日以降は、被告Y2社との間で期間を1年間とする雇用契約を締結すること、③転籍後も業務内容に変更はなく、被告Y2社から被告Y1社に派遣されること、④給与等は下がらないことなどを説明した上、平成21年10月末までに被告Y2社へ履歴書を提出することで転籍の同意とみなすこと、転籍に応じない契約社員に関しては、平成22年3月31日末をもって、雇用止めとなる(契約の更新をしない)ことなどを伝えた(書証<省略>)。
(5) 原告らは、平成21年10月、被告Y1社に対し、履歴書を提出した。
そして、原告X1は、同年11月30日、原告X2及びX3は、同年12月1日、被告Y1社に対し、解雇予告通知書及び誓約書(書証<省略>)に署名及び押印して提出した。
また、原告X1については遅くとも平成21年12月10日までに、原告X2については遅くとも同月4日までに、原告X3については遅くとも同月3日までに、被告Y2社に対して雇用契約書を提出した。
さらに、原告X1は、平成22年2月17日、原告X2及び原告X3は、同月19日、被告Y2社との間の雇用契約書に署名・押印した(書証<省略>)。
(6) 原告らは、平成22年1月1日から、被告Y2社との間で雇用契約を締結し、被告Y1社への派遣を命じられた。
(7) 原告らは、平成22年3月30日付けで、被告Y1社に対し、上記(5)の各転籍合意が錯誤、詐欺又は強迫によるものであるとして、同合意を取り消す旨の通知をした。
(8) 被告Y1社は、原告らが被告Y1社との雇用契約上の地位を有することを争っている。
2 争点
原告らは、契約上の地位の確認を求める請求について、請求原因として、①原告らと被告Y1社との間で、期間の定めのある雇用契約を締結したこと、②(a)同契約は期間の定めのない契約と実質的に異ならないこと、又は(b)原告らは雇用の継続について合理的な期待を有していたことから、更新拒絶の効力を判断するに当たって解雇に関する法理が類推適用され、更新拒絶には解雇の場合と同様に、これを正当化する客観的で合理的な理由が必要であるところ、被告Y1社において、契約を更新しないことを正当化する客観的で合理的な理由はなかったことを主張し、契約の更新拒絶はできないとする。これに対し、被告らは、解雇に関する法理が類推適用される場合であることを否定し、さらに、抗弁として、(a)更新拒絶を正当化する客観的で合理的な理由があること、(b)原告らと被告Y1社との間で、原告らが被告Y2社に転籍する旨の合意があったことを主張し、同契約は終了しているとする。原告らは、再抗弁として、(a)上記合意は、錯誤により無効であるか、意思表示に瑕疵((b)詐欺ないし(c)強迫)があったために取り消されたと主張し、契約の終了という効果は発生していないとする。被告は、錯誤の再抗弁に対し、再々抗弁として、錯誤に陥って意思表示をしたことに重過失がある旨を主張している。
(1) 解雇に関する法理を類推適用すべき事情の有無(争点1)
(2) 更新しないことを正当化する客観的で合理的な理由の有無(争点2)
(3) 転籍合意の有無(争点3)
(4) 錯誤の有無(争点4)
(5) 詐欺の有無(争点5)
(6) 強迫の有無(争点6)
(7) 重過失の有無(争点7)
(8) 不法行為の成否
ア 違法行為の有無(争点8)
イ 損害(争点9)
3 争点に対する主張
(1) 争点1(解雇に関する法理を類推適用すべき事情の有無)について
(原告らの主張)
以下のアないしクからすれば、原告らと被告Y1社との間の雇用契約は、実質的に期間の定めのないものとなっており、また、原告らは、雇用契約の継続に対する合理的期待を有していたのであるから、解雇に関する法理が類推適用される。
ア 原告X3は、平成16年12月1日、原告X1は、平成17年3月1日、原告X2は、平成17年4月1日、被告Y1社との間で雇用契約を締結しており、いずれも、平成21年11月の時点で、被告Y1社との間で7回にわたって雇用契約を更新していた。
イ 被告Y1社は、契約社員が労働契約の更新を希望した場合に、拒絶したことはなかった。
なお、被告Y1社は、多数の契約社員を雇止めにしていたと主張するが、いずれも契約社員の事前の同意を前提としているものであり、契約社員が更新を希望しながら拒絶したものではない。
ウ 雇用契約の更新手続は、被告Y1社が契約社員を一室に集め、実質的な説明をしないまま、機械的に署名及び押印をさせるという形式的なものであった。
そして、平成19年までは、契約更新の際に、原告らと被告Y1社との間で個別面談が行われることはほとんどなかった。また、平成19年以降は個別面談が行われたが、これは、契約社員毎に業務成果手当の額が異なり、集団での契約締結ができないために、10分から15分程度、形式的に行われるものにすぎなかった。
エ 原告X1は、アナログ回線及びIP関連商品に関する故障等の単独電話受付業務等を、原告X2及び原告X3は、電気通信設備の屋外部分の設備に関するマスターデータベースであるシステム「○○システム」(以下「○○システム」という。)のデータ整備、工事完成図と○○システムのデータが合っているかのチェック・既設データの不備修正等の業務を担当していたが、原告らが担当していた業務は、いずれも、業務内容に対する高度の理解並びに高い技術及びノウハウが求められる継続性の強いものであった。
オ 原告らの職場には、契約社員以外に、労働契約の期間の定めがないと思われる正社員も勤務しており、契約社員の業務内容は、正社員と比しても質的に特別異なるところのない高度に専門的なものであった。
カ 原告らは、1つの担当業務に複数年配属されることが多く、担当業務の交替は年度末ではなかった。
キ 契約更新後の「契約社員雇用契約書」は、給与体系等に変更があった場合を除き、契約更新前と変更がないものであった。
ク 原告X1は、個別面談の際、担当の上司から、「知識と経験を積んで会社の将来に役立ててください。」、「△△センターはあなたたちが担っていってください。活躍を期待しています。」旨告げられた。
(被告らの主張)
以下のアないしカからすれば、原告らと被告Y1社との間の雇用契約が、実質的に期間の定めのないものとなっていたということはできず、また、原告らが雇用の継続について合理的な期待を有していたということもできないから、解雇に関する法理が類推適用されることはない。
ア 原告らの業務は専門的ではないし、業務が専門的であることは、そのことのみによって雇用継続が期待できる地位にあることを意味するものではない。
そして、原告X1の担当していた△△センタの業務において、正社員は、契約社員の担当しない顧客の苦情等に対する二次対応や、契約社員の育成、指導等の業務に従事していたほか、正社員と契約社員とでは、要求されるレベルも異なっていたものであるから、正社員と契約社員の業務内容は異なっていたというべきである。
また、原告X2及び原告X3の所属していた設備管理センタにおいても、正社員は、契約社員の担当しない、工事の割り振り、契約社員の稼働計画の作成等の業務に従事していたほか、正社員と契約社員とでは、要求されるレベルも異なっていたものであるから、正社員と契約社員の業務内容は異なっていたというべきである。
イ 被告Y1社は、原告らとの間で雇用契約を更新する際、毎回個別面談をして、雇用契約書の具体的内容について個別的に説明をし、次年度の契約更新については、業務量や勤務成績等によってその都度判断されるため、次回の契約の更新は約束できないこと、契約期間内であっても、会社の経営状況が悪化した場合、組織の統廃合や業務の効率化等によって業務が縮小した場合にはやむを得ず解雇することもあり得ることなどを説明していたのであるから、更新の手続が形式的、機械的なものではなかった。
ウ 被告Y1社は、平成17年3月に8名、平成18年3月に8名、平成19年3月に10名、平成20年3月に22名、平成21年3月には13名を雇止めしており、その中には、原告らと同じ職場の者もいた。
エ 原告らの雇用継続の期間は長いものではないし、原告らが主張する更新回数には、給与の支払い方法の変更等によって契約書が作成し直された場合を含むものであるから、更新回数そのものは、雇用継続が予定されていたとみるべき根拠にはならない。
オ 上記(原告らの主張)クの発言があったとしても、それは契約社員のモチベーションを上げるための発言であり、更新権限を有する者の発言でもないことからすると、上記発言によって、原告X1が、希望する限り雇用契約が更新されると期待したといえないことは明らかである。
カ 契約社員が従事している業務は、被告Y1社が、b社グループ内のクライアントから受託する業務のうちの補助業務、定型業務のみであり、その性質上、システムの近代化がされたり、b社グループの業務運営体制の見直しがされたりすれば、大幅に変動するものであった。
そのため、1年以上業務に継続して従事することがあるとしても、継続的に従事させることは予定していなかった。
(2) 争点2(更新しないことを正当化する客観的で合理的な理由の有無)について
(原告らの主張)
被告Y1社には、原告らとの雇用契約を更新しないことを正当化する客観的で合理的な理由はなかった。
(被告らの主張)
以下のアないしオからすると、被告Y1社が、原告らとの雇用契約を更新しないことについて、これを正当化する客観的で合理的な理由があった。
ア 被告Y1社は、原告らとの間で、雇用契約の締結及び更新をする際、受託業務の縮小等があった場合には、やむを得ず解雇することもあり得ることを説明し、実際に、受託業務量が減少した場合には雇止めをしてきた。
したがって、原告らが雇用継続を期待していたとしても、原告らが従事していた業務が他に移管したり、アウトソーシング(再委託)されたりした場合にまで継続するという類いの期待ではなかった。
イ b社は、他事業者との熾烈な競争に直面しており、年々厳しくなる経営環境の下で不断に人員政策を見直し、b社グループをあげて、グループ内の委託先の変更、委託業務の集約等の施策を実施してきた。
本件雇用替えもその一貫をなすものであり、実質は、受託している全ての業務を再委託しようとするものであるが、その業務の全てを一括して他に再委託することとなった場合に、当該業務に職種を限定して契約社員を雇止めすることはやむを得ないものであり、社会的にも正当性を否定するいわれはない。
ウ 本件雇用替えは、b社グループの施策の一環として実施したものであるが、その目的は、会社の多数の契約社員の安定的雇用をグループトータルで確保するとともに、契約社員の教育等を組織的、計画的に行い、また、将来のコア人材となり得る人材をグループ内に確保するという高度の必要性に基づくものであり、その実施は、むしろ、契約社員の地位の安定に資するものであった。
そして、この施策は、被告Y1社が一方的に策定実施したものではなく、その実施に当たり、契約社員に説明を尽くし、契約社員を組織する唯一の労働組合であるc労働組合とも鋭意協議し、同組合の要求に可能な限り応じてきたものであるから、いわば、労使の合意に基づいて実施したものである。
エ 仮に、原告らが被告Y1社との間の契約社員として残れば、被告Y1社は、被告Y2社の契約社員とは別に、原告らの人事、雇用管理をしなければならず、企業運営上不合理である。
オ 被告Y1社は、本件雇用替えに応じた契約社員に対し、労働条件を変更せず、現在の従事している業務が存する限り、その雇用を保障するなど、可能な限りの処遇を提供した。
(3) 争点3(転籍合意の有無)について
(被告らの主張)
ア(ア) 原告らは、履歴書については、平成21年10月30日までに、解雇予告通知書及び誓約書については、同年12月1日までに、いずれも署名押印して被告Y1社に提出し、これをもって、被告Y2社への転籍に明示的に合意した。
(イ) また、原告らは、被告Y2社との雇用契約書に署名押印し、平成22年1月1日以降、被告Y2社の定めに異議なく従って就労していたのであるから、これをもって、被告Y2社への転籍に黙示的に同意した。
(ウ) さらに、原告らは、同年2月中旬、被告Y2社との間で雇用契約を締結し、被告Y2社への転籍に改めて同意した。
イ 上記アの各合意の存在については自白が成立している。
(原告らの主張)
ア 本件のように、労働契約の終了という労働者に不利益な効果を招来する合意については、労働者の自由意思に基づく同意であることが要求され、合意の成立要件としては、①事実として明示又は黙示の同意が必要となるほか、②その同意が労働者の自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在しなければならない。
そして、原告らは、①事実として明示又は黙示の同意があったことは認めたが、②その同意が労働者の自由な意思に基づくものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することについては認めていないので、裁判上の自白は成立しない。
また、仮に②が合意の成立要件とはならないとしても、合意は法的概念にすぎないから、これについて自白していたとしても権利自白にすぎない。
イ 上記(1)(原告らの主張)アないしキからすると、原告らは、仮に被告Y1社が原告らを解雇しようとしても、解雇に関する法理が適用され、解雇の合理的理由及び社会的相当性が認められない限り、解雇されることがない立場にあったから、自ら労働契約を終了させるという合意は、原告らにとって、極めて不利益な合理内容である。
そして、原告らは、転籍に応じなければ雇止めされるとの話をされたこと、周りの労働者もこれによって次々と転籍していったことなどから、被告Y1社を退職したにすぎない。
そうすると、②労働者の自由な意思に基づくものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在しているとは到底いうことができないから、上記(被告らの主張)アの転籍合意はいずれも成立していない。
(4) 争点4(錯誤の有無)について
(原告らの主張)
原告らは、平成22年3月31日に雇止めをされることを避けるため、やむを得ず転籍の意思表示をした。しかし、被告Y1社は原告らを雇止めすることはできなかったのであるから、原告らの意思表示には動機の錯誤があり、この動機は被告Y1社に表示されていたから、同意思表示は錯誤により無効となる。
ア 動機に錯誤があったこと
原告らは、被告Y1社から、転籍に同意しなければ、平成22年3月31日をもって雇止めする旨告げられていた。
そこで、原告らは、同日付で雇止めされると誤信して、被告Y1社との間の転籍に同意する旨の意思表示をした。
しかし、上記(1)及び(2)(原告らの主張)からすれば、被告Y1社が、原告らを雇止めすることはできなかったというべきであるから、原告らの上記意思表示には動機の錯誤がある。
なお、被告Y1社が原告らを雇止めすることができなかったことは、被告Y1社の契約社員で被告Y2社への転籍に応じなかった者に対して雇止めはされず、雇用契約が更新されたこと、年度の途中である平成17年6月24日又は平成18年7月1日に、給与等の変更のために原告らが「契約社員雇用契約書」を徴求されていたことからも明らかである。
イ 動機が表示されていたこと
被告Y1社は、原告らに対し、被告Y2社への転籍に同意をしなければ雇止めになるということを説明していたのであるから、原告らが被告Y2社への転籍に同意をした動機について当然認識していたものであり、このような説明の後、原告らが被告Y1社に履歴書を提出したことによって、同動機が被告Y1社に表示されていたものである。
ウ 要素の錯誤であること
原告らとしては、被告Y2社へと転籍することで、被告Y1社とは直接の雇用関係に立たず、被告Y2社の従業員として被告Y1社に派遣される立場となった。その結果、原告らの地位は、被告Y1社と被告Y2社との間の派遣契約が終了すれば、雇用が継続されないという極めて不安定なものとなった。
また、原告らのボーナスは、被告Y2社への転籍によって、給与2.93か月分から給与2.1か月分へと減額された。
この点に関し、被告らは、原告らが被告Y2社のプロパー社員(いわゆる正社員)になることも可能であるなどとして、転籍が原告らに有利である旨主張するが、プロパー社員になることができるのはごく一部の者に限られることから、原告らの上記不利益を補えるようなものではない。
このように、被告Y2社への転籍は、原告らにとって著しい不利益をもたらすだけのものであり、原告らの自由意思で転籍に同意することはなかったのであるから、雇止めを避けるということが、原告らの意思表示の内容の根幹をなすものであり、同意思表示の要素に錯誤があったものである。
(被告らの主張)
ア 動機の錯誤がなかったこと
上記(1)及び(2)(被告らの主張)からすれば、被告Y1社が、原告らを雇止めすることができたことは明らかである。
したがって、原告らが上記意思表示をするに当たって動機に錯誤はない。
イ 動機が表示されていなかったこと
原告らは、雇止めになると考えて転籍に同意した旨主張する。
しかし、被告Y1社は、原告らに対し、本件転籍のメリットについて説明を尽くしており、原告らは全く異議を述べることなく本件転籍に同意したのであって、上記動機が、被告Y1社に対し、明示的であれ、黙示的であれ、表示されたことはない。
ウ 要素に錯誤がないこと
原告らは、本件転籍によって雇用が不安定になる旨主張するが、本件転籍は契約社員の雇用の安定を図るために行ったものであり、被告Y1社の受託業務が存続しなくなったとしても、被告Y2社の社員であれば新たな雇用が確保される可能性があるなど、むしろ本件転籍によって原告らの雇用機会は増加したものである。
また、原告らは、ボーナスが減額された旨主張するが、被告Y2社における処遇は、被告Y1社における処遇を下回らないものとなっているのであるから、原告らに不利益をきたすものではなかった。
以上からすると、仮に原告らに動機の錯誤があったとしても、要素の錯誤といえないことは明らかである。
(5) 争点5(詐欺の有無)について
(原告らの主張)
被告Y1社は、平成21年10月上旬の社員説明会において、原告らに対し、「雇用替えに同意が得られなかった社員については、雇用契約期間である3月末をもって雇止めになります」と記載した資料を配付し、転籍に応じない契約社員に関しては、平成22年3月31日をもって雇止めをするとの説明を行った。
しかし、上記(1)及び(2)(原告らの主張)のとおり、被告Y1社は、原告らを雇止めすることはできなかったのであるから、被告Y1社の上記行為は欺罔行為に当たる(同社に故意があったことは同欺罔行為から明らかである。)。
そして、原告らは、上記欺罔行為によって、被告Y2社への転籍に同意しなければ雇止めになる旨誤信し、これによって、被告Y1社との間で、転籍に合意した。
なお、原告らは、平成22年3月1日付けで被告Y1社とC(以下「C」という。)が雇用契約を更新して初めて、原告らと被告Y1社との間で雇用継続の可能性がある旨認識したものであるから、この時点まで錯誤が継続していたというべきである。
(被告らの主張)
上記(1)及び(2)(被告らの主張)のとおり、被告Y1社は、原告らを雇止めすることができた。
したがって、被告Y1社が欺罔行為を行ったということはできない。
(6) 争点6(強迫の有無)について
(原告らの主張)
被告Y1社は、平成21年10月上旬の社員説明会において、原告らに対し、「雇用替えに同意が得られなかった社員については、雇用契約期間である3月末をもって雇止めになります」と記載した資料を配付し、転籍に応じない契約社員に関しては、平成22年3月31日をもって雇止めをするとの説明を行った。
しかし、原告らは、被告Y1社との間で雇用継続を希望しており、被告Y1社からの給与によって生計を維持していたものであるから、雇用の終了によって大きな経済的・精神的負担を被ることになる。また、他方で、上記(1)及び(2)(原告らの主張)のとおり、被告Y1社は、原告らを雇止めすることはできなかった。
そうすると、被告Y1社の上記説明は、不法な害悪の告知として、強迫行為を構成する。
そして、原告らは、上記強迫行為によって、被告Y2社への転籍に同意しなければ雇止めになることを畏怖して、被告Y1社との間で、転籍に合意した。
なお、原告らは、平成22年3月1日付けで被告Y1社とCが雇用契約を更新して初めて、原告らと被告Y1社との間で雇用継続の可能性がある旨認識したものであるから、この時点まで畏怖状態が継続していたというべきである。
(被告らの主張)
上記(1)及び(2)(被告らの主張)のとおり、被告Y1社は、原告らを雇止めすることができた。
したがって、被告Y1社が強迫行為を行ったということはできない。
(7) 争点7(重過失の有無)について
(被告らの主張)
原告らは、本件雇用替えに至るまで、転籍に同意しなかった場合の取扱いに関して問合せをしたり、異議を述べたりすることはなかった。
また、本件雇用替えが行われる前に、d労働組合(以下「d労組」という。)が、被告Y1社に対し、転籍合意を強要しないようにする旨の要求書を提出し、情宣もしていたこと、北海道新聞が転籍合意について報じ、一部の国会議員から質問があったほか、契約社員の中でも話題となっていたことなどからすれば、仮に原告らに錯誤があったとしても、原告らには重大な過失があったというべきである。
(原告らの主張)
争う。
(8) 争点8(違法行為の有無)について
(原告らの主張)
被告Y1社は、被告Y2社と共謀して、原告らを雇止めすることができないことを知りながら、平成22年3月末日をもって雇止めする旨告げて、原告らに、雇用形態の変更への同意を強要し、原告らに、その意思に反して被告Y2社への転籍に応じさせたが、これらの行為は不法行為に当たる。
(被告らの主張)
否認ないし争う。
(9) 争点9(損害)について
(原告らの主張)
被告らの上記(8)の行為によって、原告らは、精神的苦痛を受けたが、これに対する慰謝料は原告ら各自について100万円が相当である。
(被告らの主張)
否認ないし争う。
第3当裁判所の判断
1 確認の利益について
原告らは、原告ら各自と被告Y2社との間においても、原告ら各自が被告Y1社との雇用契約上の地位を有することの確認を求めている。しかしながら、上記の請求に係る訴えは、いずれも確認の利益がなく、不適法であるから、却下を免れない。
2 争点1(解雇に関する法理を類推適用すべき事情の有無)について
(1) 原告X1について
ア 前記前提事実、掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(ア) 原告X1の業務内容
a 原告X1は、平成16年9月1日以降、被告Y1社サービス運営部△△部門△△センタのフロントサービス担当において、以下の業務を行っていた(書証<省略>)。
(a) 平成17年1月頃から同年2月まで
IP関連商品の故障等受付業務の研修
(b) 平成17年3月から平成19年9月頃まで
アナログ回線に関する故障等受付業務
(c) 平成19年9月頃から同年12月頃まで
IP関連商品の故障等受付業務の研修
(d) 平成20年12月頃以降
アナログ回線及びIP関連商品に関する故障等受付業務
b △△センタのフロントサービス担当は、顧客からの電気通信サービスに関する故障の申出や問合せがあった際、電話で申出の具体的な内容を確認し、解決の方法をアドバイスし、すぐに解決できないような場合は故障修理の手配を行うほか、インターネットに関する商品・サービス、端末機器、電話料金などの問合せに対応する部署である(書証<省略>)。
フロントサービス担当は、故障・問合せ受付(書証<省略>)、お話中試験(書証<省略>)、□□サービス故障受付等の業務を行うこととされているが、それぞれの業務の割合については、平成22年度は、故障・問合せ受付が全体の約79%、お話中試験が5%、□□サービス故障受付が約16%であった(書証<省略>)。
このうち、故障・問合せ受付は、顧客からの着信に応答し、故障の具体的状況を聴き取り、端末を用いて故障箇所を特定し、故障修理を手配し、顧客に故障修理担当者の訪問日時等を伝えるなどする業務である(書証<省略>)。
(イ) 雇用契約の継続期間及び更新回数
前記前提事実のとおり、原告X1と被告Y1社は、平成16年9月1日に雇用契約を締結しており、原告X1と被告Y1社との間の雇用契約は、平成22年3月31日の時点で、5年6か月間にわたって継続していた(なお、被告らは、転籍合意があったとされる時点までの期間を主張するが、雇止めの可否は、契約期間の満了時を基準として判断すべきものであるから、被告らの主張は採用することができない。)。
そして、前記前提事実のとおり、原告X1と被告Y1社との間の雇用契約は、5回(日給制から月給制への変更や、給与体系等の変更に伴い、年度途中で更新されたものを含めると7回)の更新がされている。
(ウ) 更新手続について
証拠(人証<省略>)によると、原告X1と被告Y1社との間の契約が更新される際、毎回、10分ないし15分程度の個別面談が行われていたことが認められる。
また、証拠<省略>によると、上記個別面談において、原告X1が、雇用更新に応じる意思があるか否かを確認されたほか、雇用期間が1年間であること、契約期間の途中であっても、会社の経営状況が悪化した場合や、組織の統廃合や業務の効率化等により業務が縮小した場合等は、解雇される場合があること、次回の更新は約束できないことについて、説明を受けていたことが認められる。
(エ) 契約社員と正社員の業務内容の異同
a 証拠<省略>によると、以下の事実が認められる。
△△センタにおいては、正社員のほか、被告Y1社を定年退職した後に契約社員となった者(以下「契約社員Ⅰ」という。)、それ以外の契約社員(契約社員Ⅰ以外の契約社員を「契約社員Ⅱ」という。)が勤務しており、原告X1は、契約社員Ⅱであった(書証<省略>。なお、契約社員Ⅱは2名を除き、本件雇用替え後は派遣社員と分類されることとなったが、転籍の前後を通じて、契約社員Ⅱということとする。以下同じ。)。
故障・問合せ受付(書証<省略>)、□□サービス故障受付等の日常的な業務については、正社員も契約社員Ⅱもほぼ業務内容に変わりはなく、正社員の中でも、契約社員Ⅱと同じ業務を行う者もいる(人証<省略>)。
もっとも、苦情として処理しなくてはならない場合などには、二次応対として、正社員が受け持つこととされている(証拠<省略>)。
正社員の中には、二次応対を専門に行う者もいる。また、正社員は、全体的に契約社員又は派遣社員をサポートするという役目がある(人証<省略>)。
なお、故障の受付において、本当に難しい故障の場合は、1次的に受付をしたのが契約社員Ⅱであるか正社員であるかを問わず、インストラクターという主査クラスの正社員が受け付ける(人証<省略>)。
△△センタに新たに配属された者は、3か月の研修においては基本的なことを教えられるにすぎず、実際の受付では他の社員からのサポートを受けて業務を行っていたところ、新入社員のサポートは、おおむね正社員が行っており、契約社員が担当することもあったが、その割合は1割に満たない程度であった(人証<省略>)。
b なお、被告らは、正社員は「マニュアルでは対処できないような複雑な故障申出に対して高度な判断ができ、かつ総合的な他部門調整ができるレベル」(SAレベル)が求められているが、原告X1が配置されているフロントサービス担当のほとんどの業務は、「一般故障受付が一人称ででき、特異故障の判断ができるレベル。故障受付を自己完結ででき、高度なお客様応対ができる」(Bレベル)又は「一般故障受付ができる」(Cレベル)であると主張し、証人Dの陳述書にもこれに沿った記載がある。
しかしながら、正社員がSAレベルを求められており、フロントサービス担当のほとんどの業務がB、Cレベルであるとしても、そのことは、フロントサービス担当の正社員と契約社員が実際に行っている業務内容が異なることを直ちに意味するものではないから、この点に係る認定は、解雇に関する法理を類推適用すべきか否かの判断に影響を与えるものとはいえない。
(オ) 業務の継続性・臨時性
証拠(書証<省略>)によると、平成4年3月当時、北海道内においては△△センタが12拠点あったものが、平成13年1月の時点では2拠点、平成21年3月には1拠点になるなど、業務が集約されていることが認められる。
なお、後記(キ)のとおり、旭川の△△センタが札幌の同センタに集約された際、旭川の△△センタに配属されていた契約社員8名が雇止めされている。
(カ) 雇用継続の期待を持たせる言動の有無
証拠<省略>によると、個別面談の際、被告Y1社の担当者が、「知識と経験を積んで、会社の将来に役立ててください。」、「△△センターはあなたたちが担っていってください。活躍を期待しています。」などと発言したほか、社員が少なくなっていっているので、ぜひ背負っていってほしい旨発言したことがあったと認められる。
(キ) 雇止めの事例の有無及びその頻度
a 被告Y1社が、平成17年から平成21年にかけて行った雇止めにおける契約の更新回数、所属、雇止めの理由等は、別紙のとおりである(書証<省略>)。
b 証拠(書証<省略>)によると、平成21年10月1日の時点で、契約社員は693名であり、平成17年から平成21年にかけて、契約社員数が大幅に変動したことはうかがわれないことから、平成17年の時点でも同程度の契約社員がいたものと認めるのが相当である。
そして、上記aのとおり、契約社員の中で雇止めになった人数は、平成17年3月に8名、平成18年3月に8名、平成19年3月に10名、平成20年3月に22名、平成21年3月に13名であり、雇止めの理由としては、業務の消滅、業務量の減少等の業務上の都合が多い。
また、証拠(書証<省略>)によると、平成21年10月の時点で、原告X1の所属していた△△センタには契約社員が19名(1名休暇中)勤務していたところ、前記認定のとおり、同センタにおいて、平成17年3月から平成21年3月にかけて、1名が、欠勤日数が50日を超え、次年度の就業が見込めないとして、雇止めをされた例があると認められる。
イ 期間の定めのある雇用契約であっても、期間満了ごとに当然更新され、あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態にある場合には、期間満了を理由とする雇止めの意思表示は実質において解雇の意思表示に当たり、その実質に鑑み、その効力の判断に当たっては、解雇に関する法理を類推適用すべきであり(最高裁昭和49年7月22日第一小法廷判決・民集28巻5号927頁参照)、また、労働者が契約の更新、継続を当然のこととして期待、信頼してきたという相互関係のもとに雇用契約が存続、維持されてきた場合には、そのような契約当事者間における信義則を媒介として、期間満了後の更新拒絶(雇止め)について、解雇に関する法理を類推適用すべきであると解される(最高裁昭和61年12月4日第一小法廷判決・集民149号209頁参照)。
そこで、前記認定事実を前提に、原告X1に対する雇止めにおいて、解雇に関する法理が適用又は類推適用されるべきであるか否かを以下に検討する。
(ア) 原告X1と被告Y1社との間の雇用契約は、5年6か月間にわたって継続しており、契約の更新も、年度途中の更新を除いても5回されている。
また、個別面談の際の、△△センタを担っていってほしい、活躍を期待しているなどの発言は、被告らの主張するとおり、労働者のモチベーションを上げるための発言と受け取ることもできるから、直ちに雇用継続の強い期待を抱かせるものではないとしても、雇用がある程度継続することを前提とした発言であることも否定できないから、これによって雇用継続の期待が生じたとしても、あながち不合理であるということはできない。
(イ) もっとも、△△センタにおいて、正社員と契約社員Ⅱ(原告X1を含む。)の業務内容には、故障の受付等の業務内容において共通点がみられるものの、二次応対の可否などの相違点もあることからすると、業務内容に共通点があることを理由として雇用継続を期待することが合理的であるとはいえない。
また、△△センタの業務内容は、電話サービスの故障等に関する相談を受け付けるというものであり、社会情勢の変化等によって、必要とされる人員が急激に変動するものではないと考えられるが、同業務は、電話で対応するという性質上、場所を選ばない業務であって、拠点の集約化が進んでおり、△△センタの統合の際に、実際に契約社員が雇止めされたこと(上記ア(オ))をも考慮すると、継続性のある業務とはいい難い。
さらに、被告Y1社は、契約社員全体の人数からすると、割合的には多いものではないが、平成17年から平成21年にかけて、毎年数名の契約社員を雇止めしており、その内容としては、業務の消滅、業務量の減少等を理由として、ある業務を担当している契約社員を複数雇止めすることが多い(上記ア(キ))ところ、このことは、契約社員に対し、雇止めの可能性があることをある程度うかがわせるものというべきである。
このほか、契約更新の際には、一応契約更新の意思の確認及び契約内容の説明は行われており、上記のとおり、業務の縮小、再委託等がある場合には雇止めがされていたこと(上記ア(ウ)、(キ))からすると、雇用更新の手続が形式的、機械的なものになっていたということもできない。
(ウ) 以上からすると、原告X1と被告Y1社との間の雇用契約が、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になっていたということはできず、また、雇用契約が更新されるものとの合理的な期待を抱いていたということもできないというべきである。
そうすると、原告X1と被告Y1社との間の雇用契約には、解雇に関する法理が類推適用されると解されない。
(2) 原告X2及び原告X3について
ア 前記前提事実、掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(ア) 原告X2及び原告X3の職務内容について
a 原告X2
原告X2は、平成17年1月5日以降、被告Y1社札幌支店サービス運営部カスタマサービス部門設備マネジメント担当設備管理センタの○○システムグループにおいて、電柱、マンホール等の所外系設備の新設、取替え、移転、撤去等の工事が終了した後に、○○システムに登録された情報と、工事を受託した通信建設会社から提出される工事完成図面とが整合しているかどうかを確認する業務を行っていた(書証<省略>)。
同業務は、3台の端末を利用して、○○システムに加えるべき変更の一覧表(書証<省略>)、工事完成図(書証<省略>)及び同変更を○○システムのデータベースに反映した後のデータ(書証<省略>)を見比べ、チェックシート(書証<省略>)に記載された項目をチェックして、誤り等がある場合には、修正を指示する書面(書証<省略>)を作成するなどするものである。(書証<省略>)
b 原告X3
原告X3は、平成16年6月7日以降、被告Y1社札幌支店サービス運営部カスタマサービス部門設備マネジメント担当設備管理センタにおいて、以下の業務を行っていた(書証<省略>)。
以下の業務のうち、OPA担当は、写真システムのデータ整備、工事後の写真のシステムへの投入、投入した写真のチェック等を行うものであった(証拠<省略>)。
道路管理システム担当は、電話工事完成図面上に、電柱やマンホール等の設置位置を加えて図面を作成するなどするものであった(書証<省略>)。
なお、○○システム担当については、上記aのとおりである。
(a) 平成16年6月7日から同年8月頃まで
図面管理、○○システム等についての研修
(b) 平成16年8月頃から平成17年2月まで
図面管理グループのOPA担当
(c) 平成17年3月から同年6月まで
○○システムグループ
(d) 平成17年7月から平成21年4月まで
図面管理グループのOPA担当
(e) 平成21年5月から同年10月まで
図面管理グループの道路管理システム担当
(f) 平成21年11月以降
○○システムグループ
(イ) 雇用契約の継続期間及び更新回数
前記前提事実のとおり、原告X2と被告Y1社は、平成17年1月5日までに、原告X3と被告Y1社は、平成16年6月7日、雇用契約を締結しており、原告X2及び原告X3と被告Y1社との間の雇用契約は、平成22年3月31日の時点で、それぞれ約5年3か月間、約5年9か月間にわたって継続していた。
そして、前記前提事実のとおり、原告X2及び原告X3と被告Y1社との間の雇用契約は、それぞれ5回(日給制から月給制への変更や、給与体系等の変更に伴い、年度途中で更新されたものを含めると、それぞれ7回)の更新がされている。
(ウ) 更新手続について
a 証拠<省略>によると、契約期間を平成19年4月1日から平成20年3月31日までとして雇用契約を更新するための手続においては、個別面談がされ、それ以降の更新手続においても、個別面談がされたことが認められる(ただし、原告X2については、契約期間を平成21年4月1日から平成22年3月31日までとして雇用契約を更新するための手続においては、原告X2が育休中であったから、電話で連絡がされたものである。)。
これに対し、それ以前の契約更新の手続において個別面談がされたか否かについては、原告X2及び原告X3は、個別面談はされなかった旨を供述する(証拠<省略>)。しかしながら、個別面談を行った旨の証人Eの証言及び供述(証拠<省略>)に照らし、直ちに原告X2及び原告X3の各供述を採用することはできないから、個別面談が行われなかったと認めることはできないし、他に個別面談が行われなかったことを認めるに足りる証拠はない。
b そして、証拠<省略>によると、原告X2及び原告X3は、契約の更新手続の際、雇用期間が1年間であること、契約期間の途中であっても、会社の経営状況が悪化した場合や、組織の統廃合や業務の効率化等により業務が縮小した場合等は、解雇する場合があること、次回の更新は約束できないことについて、説明を受けていたと認めるのが相当である。
原告X2は、当事者尋問において、契約社員であった頃、業務の都合で解約されることがあり得ると言われたことはないと思う旨供述するほか(人証<省略>)、陳述書(書証<省略>)において、「契約更新の手続は、一室に集められて実質的な説明のないまま機械的に署名・押印させられるだけの形式的なものでした」と供述する。しかしながら、原告X2において、更新手続の際には契約書が読まれたとも供述しているほか(人証<省略>)、原告X2と被告Y1社との間の雇用契約に係る契約書(書証<省略>)には、退職及び解雇に関する事項、契約の更新及びその基準等の記載があることからすると、これらの点について全く言及されなかったとは考え難いから、説明を受けていない旨の上記各供述を採用することはできない。
原告X3は、当事者尋問において、次は更新されるかどうかは分からない、今後、契約期間中でも解約するなどと説明されたことはないと供述し(人証<省略>)、陳述書(書証<省略>)において、「本件労働契約に期間の定めがあり、平成22年3月31日で終了する可能性があること等契約内容についての実質的な説明は受けませんでした。」と供述する。しかしながら、当事者尋問において、実質的な説明を受けなかったということがどういうことなのかはちょっとよく分からない、どのような説明があったかはちょっと覚えていないとも供述していること(人証<省略>)からすると、説明を受けたことはない旨の上記各供述を直ちに採用することはできない。
(エ) 契約社員と正社員の業務内容の異同
証拠<省略>によると、設備管理センタにも、正社員、契約社員Ⅰ、契約社員Ⅱがいたところ、○○システム担当の契約社員Ⅱの業務は、○○システム属性データチェックをするものであったが、正社員は、同チェックを行うこともあったものの、修正の集計、ミスの連絡等の業務も行っていたものと認められる。
(オ) 業務の継続性・臨時性
証拠(人証<省略>)によると、原告X2及び原告X3が所属していた設備管理センタは、業務が縮小され、平成17年頃は100人近くいたものが、平成24年3月7日の時点では、50人程度になっているものと認められる。
(カ) 雇止めの事例の有無及び頻度
上記(1)ア(キ)のとおり、原告X2及び原告X3が所属していた設備管理センタにおいて、平成18年度の雇用契約に係る更新の際、1名が、勤務態度・勤務成績不良のため、雇止めをされた例がある。
イ 前記認定事実を前提に、原告X2及び原告X3に対する雇止めにおいて、解雇に関する法理が適用又は類推適用されるべきであるか否かを以下に検討する。
(ア) 原告X2及び原告X3と被告Y1社との間の雇用契約は、それぞれ、約5年3か月間、約5年9か月間にわたって継続しており、契約の更新も、年度途中の更新を除いても5回されている。
(イ) もっとも、設備管理センタにおいて、正社員と契約社員Ⅱ(原告X2及び原告X3を含む。)の業務内容は異なっていたほか、原告X2及び原告X3の所属していた設備管理センタは縮小傾向にあり(上記ア(オ))、業務としても、継続性のあるものとはいい難い。
また、被告Y1社は、契約社員全体の人数からすると、割合的には多いものではないが、平成17年から平成21年にかけて、毎年数名の契約社員を雇止めしており、その内容としては、業務の消滅、業務量の減少等を理由として、ある業務を担当している契約社員を複数雇止めすることが多い(上記(1)ア(キ)、上記ア(カ))ところ、このことは、契約社員に対し、雇止めの可能性があることをある程度うかがわせるものというべきである。
さらに、契約更新の際には、一応契約更新の意思の確認及び契約内容の説明は行われており(上記ア(ウ))、上記のとおり、業務の縮小、再委託等がある場合には雇止めがされていたことからすると、雇用更新の手続が形式的、機械的なものになっていたということもできない。
(ウ) 以上からすると、原告X2及び原告X3と被告Y1社との間の雇用契約が、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になっていたということはできず、また、雇用契約が更新されるものとの合理的な期待を抱いていたということもできないというべきである。
そうすると、原告X2及び原告X3と被告Y1社との間の雇用契約には、解雇に関する法理が類推適用されると解されない。
(3) 以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、原告らの請求は理由がないことが明らかである。
3 争点2(更新しないことを正当化する客観的で合理的な理由の有無)について
もっとも、原告らの主張に鑑み、仮に解雇に関する法理が類推適用されるとした場合に、原告らとの雇用契約を更新しないことを正当化する客観的で合理的な理由の有無についても、あえて検討する。
(1) 掲記の証拠等及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
ア b社グループ(b社及び被告らを含む。)は、平成17年、人員配置基本方針を策定し、グループ外へのキャッシュの流出の削減、情報の外部流出防止等の観点から、グループ内での業務運営を基本とし、グループ内部での人員の再配置等による有効活用、人件費の削減、変動費化を図るため、正社員中心の形態から、契約社員、派遣社員等を活用した形態に変更していくこととし、その業務の別に応じて正社員と非正社員のいずれを配置するか等を区別していくこととした(書証<省略>)。
イ また、b社グループは、平成19年及び平成22年にも、上記アと同様の計画を策定し、人員配置の最適化を図るため、企画、戦略的業務等には正社員を配置し、定型的な業務、端末操作等の業務については、派遣社員等の非正規社員を配置することを基本とすることとした(書証<省略>)。
ウ 被告Y1社は、平成20年10月頃までに、同社の契約社員のうち、平成21年度中に集約・縮小を予定している業務従事者及び退職予定の者を除く全契約社員669名(原告らを含む)を対象として、本件雇用替えを実施することを決定し、本件雇用替えについて、平成21年3月頃までに被告Y2社との間で、大筋の合意に達した。その後、同年4月下旬頃からc労働組合との間で本件雇用替えについて協議を開始し、同年9月中旬、c労働組合との間で、大綱了解に達した。なお、同労働組合は、被告Y1社の最大の労働組合であり、平成21年10月末日現在、組合員となりうる者の数全体に占める同組合に所属する社員及び契約社員数の割合(以下「組織率」という。)は約90%であり、そのうち期間の定めのない雇用契約を締結している社員の組織率は99.8%、期間の定めのある雇用契約を締結している契約社員の組織率は約40%に達していた。(書証<省略>)
エ 本件雇用替えに伴い、被告Y1社の契約社員らが被告Y2社に転籍した後の労働条件等は以下のとおりである(書証<省略>。ただし、下記コで述べるとおり、以下の(ウ)の点については、平成22年1月27日に変更された。)。
(ア) 契約社員は、被告Y2社に転籍し、被告Y2社は転籍した契約社員を被告Y1社に派遣する。転籍した契約社員が被告Y1社で従事する業務は、従前と同一の業務とし、従前の業務の受託が続く限り派遣を継続する。
(イ) 転籍後の被告Y2社における契約形態は契約社員X3とし、雇用契約の契約期間は、転籍前と同じ1年間(ただし、転籍初年度は平成22年1月1日から同年3月末日までの3か月間)とし、雇用期間満了後は、転籍前と同様の条件に基づき、業務上の必要性により雇用更新する。
(ウ) 将来、派遣先業務が集約、縮小となった場合には、派遣契約の終了と同時に雇用契約も終了し、新たな派遣先業務が見つかるまでの間は雇用が中断される。その後は、新たな労働者派遣の開始をもって、再度派遣(雇用)契約を実施する。
(エ) 転籍後の給与体系は異なるが、給与の額はほとんど変わらない。労働時間、休日、休暇といった労働条件にも変更はない。
(オ) 特別手当については、被告Y2社の水準で支給する。平成21年度についていうと、被告Y1社では月給の2.93か月分であるのに対し、被告Y2社では月給の2.1か月分となり、支給水準の差が生じうるが、支給水準の差が生じる場合には、その差分をインセンティブとして支給する。
(カ) 被告Y1社と被告Y2社では、給与の計算期間及び支給日が異なっていることから、転籍実施月に給与が支給されない不利益を来さないよう、平成22年1月に一時金を支給する。また、転籍後の被告Y2社における平成22年度夏期特別手当の支給対象期間は、平成21年12月から平成22年5月の6か月分であるため、転籍前の平成21年12月分については支給対象期間とならないが、平成21年12月分についても、平成22年1月に一時金として支給する。
(キ) 年次有給休暇の発効日は、転籍前においては6か月が経過した日であるが、転籍後においては、毎年4月1日に変更となる。転籍時点で保有している年休残日数と勤続年数については、被告Y2社に転籍後もそのまま引き継がれる。転籍しなければ平成22年1月から3月までの間に年次有給休暇が発効されるはずであった契約社員については、転籍前の平成21年12月31日に年次有給休暇が発効されるようにする。
(ク) 被告Y1社では契約社員から正社員に登用されることはないものの、被告Y2社においては、正社員(プロパー社員)に登用されることが可能である。実際、被告Y2社(平成21年12月31日当時の全社員数3932名。うち3497名が契約社員)において、平成18年度26名、平成19年度23名、平成21年度30名、平成22年度32名、平成23年度34名、計147名の契約社員が正社員に登用されていた。また、被告Y1社から被告Y2社に転籍になった契約社員636名のうち、20名が平成22年4月1日付けで正社員となり、19名が平成23年10月1日付けで正社員となった。
オ c労働組合は、平成21年10月1日ないし9日、昼休みや就業時刻後に、各職場で説明会(オルグ)を行った(書証<省略>)。
カ 被告Y1社は、平成21年10月2日ないし14日にかけて、契約社員669名を対象として、本件雇用替えについて社員説明会を開催し、原告らもこれに参加した(書証<省略>、前提事実(4)イ)。
その中で、被告Y1社は、「将来の安定的事業運営に資する人材確保に向けた取り組みについて」(書証<省略>)と題する書面を配布した上、将来にわたって安定的な業務運営を実施していくためには、正社員はもとより契約社員がこれまで培ってきたスキル、能力を今後も引き続き発揮していくことが重要であること、そのためには、契約社員が更なるチャレンジ意欲を持って業務に従事できる環境を整備することが必要であるから、被告Y2社への転籍を実施するとの説明を行い、最後に、昨今の雇用情勢を踏まえれば、人材派遣という形態を不安に感じる方がいるかもしれないが、今回の転籍に伴って労働条件の変更はないこと、転籍によって契約社員の雇用の安定が図れること、将来のプロパー社員の道が展望できることを踏まえれば、十分メリットがあるものと考えるので、前向きに捉えて欲しいと説明した(書証<省略>)。
また、被告Y1社は、同社が、本件転籍後、被告Y2社の契約社員X3となった者を人材派遣として受け入れ、引き続き同じ業務に従事させること、被告Y2社の契約社員X3となった場合、被告Y2社での将来のプロパー社員化の道も展望できること、雇用形態としては、登録型派遣労働者として契約社員X3になること、派遣期間は1年間であること、雇用更新に当たっては、従来と同様に業務上の必要性によって判断すること、転籍後に派遣先業務が集約又は縮小された場合は、派遣契約を終了するとともに、当該契約社員と被告Y2社との間の雇用契約も終了し、被告Y2社において、新たな派遣業務があった場合は、その業務の開始をもって再度派遣契約を締結すること、給与については、差額分についてインセンティブとして支給すること、転籍に応じない場合には、平成22年3月31日をもって雇止めとなること等を説明した(書証<省略>)。
キ c労働組合は、上記カの社員説明会が開催された後の平成21年10月19日ないし27日、昼休みや就業時刻後に、各職場で説明会(オルグ)を行った(書証<省略>)。
ク 被告Y1社は、平成21年10月27日及び29日、△△センタの契約社員を対象として、再度の社員説明会を実施し、原告X1もこれに参加した(書証<省略>)。
ケ 被告Y2社は、平成21年11月5日から同年12月1日までの間、原告らを含む契約社員を対象として個別面談を実施した(書証<省略>)。
コ 被告らは、平成22年1月27日、「転籍後に派遣先業務が集約又は縮小された場合は、派遣契約を終了するとともに、当該契約社員と被告Y2社との間の雇用契約も終了し、被告Y2社において、新たな派遣業務があった場合は、その業務の開始をもって再度派遣契約を締結する」との方針を変更し、派遣契約が解約されたとしても、雇用契約は解約せず、雇用及び賃金を保証するとともに、速やかに新たな派遣先を確保するよう最大限努力することとし、被告Y2社の雇用契約書にこれを明記するとともに、同月28日、原告X1に対し、同年2月19日、原告X2及び原告X3に対し、この旨を説明した(証拠<省略>)。
(2)ア 被告らは、被告Y1社が、被告Y2社への本件雇用替えを立案した理由として、①多くの契約社員が従事するコールセンター業務等については、今後、業務量の大幅な変化が予想され、従前どおり契約社員の雇用を継続することが困難となることが想定されたため、これら契約社員の雇用の安定を確保するための措置を講ずる必要が生じていたこと、②契約社員のスキルアップや資質向上のための教育・研修がこれまで十分ではなかったため、これを計画的、組織的に行う必要があったこと、③スキルや能力の高い契約社員を正社員として登用し、今後の北海道における◎◎グループの安定的な業務運営に備える必要があったこと、④被告Y2社のコールセンター事業等の受託量が年々拡大していたこと、⑤被告Y2社においては、b社からの出向社員の人員減による有スキル者の確保が課題となっており、出向社員から正社員や契約社員を主体とした運営体制に段階的にシフトしていく必要があったこと、⑥契約社員を受け入れた後、仮に契約社員が従事している業務が縮小したとしても、◎◎グループから受託している他の業務に従事させることができるし、新たに契約社員を採用するのに比べれば、雇用のミスマッチの可能性は低く、職場環境や業務に適応することが可能であり、生産性の向上に資するといったメリットが期待されたことといった点を挙げる。被告ら主張の事実は、証拠(書証<省略>)により認定することができるところ、これらの事情は、原告らを雇止めする高度の必要性を基礎づけるとまではいえないものの、原告らを雇止めして被告Y2社に転籍させる理由としては一応の合理性を有するものと認めることができる。
イ そして、被告Y1社は、本件雇用替えに当たって、原告らを単に雇止めするのではなく、被告Y2社への転籍という選択肢を提示している。被告Y2社における労働条件は、派遣先業務が集約、縮小となった場合には、派遣契約の終了と同時に雇用契約も終了するという不利益があるものの、被告Y1社においても、雇用期間満了後は、業務上の必要性により雇用更新するものとされており、業務の集約や縮小がある場合には、必ずしも雇用契約の更新は保障されていなかったことからすれば、実質的な差異はそれほど大きくはないものといえる。しかも、上記(1)コで認定したとおり、この点はその後変更され、派遣契約が解約されたとしても雇用契約は解約せず、雇用及び賃金を保証するとともに、速やかに新たな派遣先を確保するよう最大限努力することとされたのであるから、実質的な差違はさらに縮小されたものといえる。そして、被告Y2社に転籍後も、被告Y1社に派遣され、従前と同じ業務を続けることが予定されていたこと、転籍後の労働条件は、転籍前と比べてほとんど変更はなく、転籍前と比べて不利益になる点もあるものの、その不利益をできる限り小さくするための手当がなされていたこと、逆に、転籍後は、転籍前と異なり、正社員に登用される可能性もあり、実際、上記(1)エ(ク)で認定したとおり、相当数の契約社員が正社員に登用されていることからすれば、被告Y2社への転籍という選択肢は非合理なものとはいえない。
ウ また、被告らは、本件雇用替えの実施に当たり、前記(1)で認定したとおり、c労働組合との協議を行って大綱了解に達しており、これを受けてc労働組合は数回にわたり本件雇用替えにつき説明会(オルグ)を開催している。そして、被告Y1社は、本件雇用替えに当たり、契約社員らを一方的に雇止めするのではなく、被告Y2社への転籍につき同意を得るため、原告らを含む契約社員に対し、社員説明会を実施したほか、被告Y2社においても個別面談を実施している。以上のとおり、本件雇用替えの実施に当たって、適正な手続が執られているものと評価することができる。
さらに、本件雇用替えは、被告Y1社の契約社員のうち、平成21年度中に集約・縮小を予定している業務従事者及び退職予定の者を除く全契約社員669名を対象としており、本件雇用替えの対象者の人選に不公平な点も認められない。
エ 以上のとおり、被告Y1社による本件雇用替えの目的には一応の合理性が認められ、原告らを雇止めして被告Y2社に転籍させる理由としても一応の合理性があるものと認められること、被告Y1社は、本件雇用替えに当たって、原告らを単に雇止めするのではなく、被告Y2社への移籍という選択肢を提示しているところ、その選択肢は非合理とはいえないこと、本件雇用替えの実施に当たって適正な手続が執られていること、本件雇用替えの対象者の人選に不公平な点はみられないことからすれば、原告らとの間の雇用契約を更新しないことを正当化する客観的で合理的な理由があったというべきである。
4 争点3(転籍合意の有無)について
以上のとおりであるから、原告らの請求原因は認められないこととなるが、原告らの主張に鑑み、以下では、原告らの雇止めにつき解雇に関する法理が類推適用され、かつ、雇止めに客観的合理的な理由がなかったと仮定して、争点3から争点6までにつき検討することとする。
(1)ア 被告らは、原告らが被告Y1社との間で、被告Y2社への転籍について、(ア)平成21年12月1日までに合意した、(イ)平成22年1月1日以降に合意した、又は(ウ)同年2月中旬に合意した旨各主張し、原告らは、この点について自白が成立したことを争う(なお、上記(ア)ないし(ウ)の転籍合意は、別個の抗弁であるが、自白が成立すれば、そのすべてについて成立することとなるから、これらを区別することなく、転籍合意ということもある。以下同じ。)。
そこで、まず自白の成否について判断する。
イ 原告らは、労働者に不利益な効果を招来する合意については、労働者が行った同意が、労働者の自由な意思に基づくものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが成立要件となるところ、原告らはこの点を認めていないことから、裁判上の自白は成立しないと主張する。しかし、前提事実(5)で認定したとおり、原告らは、被告Y1社に対して解雇予告通知書及び誓約書に署名押印して提出し、被告Y2社に対して雇用契約書を提出しているところ、これが被告Y1社との間で雇用契約を合意解約し、被告Y2社との間で雇用契約を締結する旨の意思表示であることは疑う余地がない。そして、この意思表示につき、錯誤、詐欺、強迫の成否が問題になり得ることは格別、これとは別に、労働者の自由な意思に基づくものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが意思表示の成立要件になるものと解すべき理由はない。したがって、原告らの主張を採用することはできない。
また、原告らは、合意は法的概念にすぎないから、転籍の合意について自白したとしても、権利自白にすぎないと主張するが、原告らの認否は、事実としての合意を自白したものと解すべきであるから、この主張も採用することはできない。
そうすると、原告らは、上記各転籍合意について、裁判上の自白をしたものといわざるを得ない。
(2) 原告らは、上記(1)の各転籍合意について自白が成立するとしても、これらは労働者の自由な意思に基づくものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在しているとは到底いうことができないから、転籍合意は成立していない旨主張するが、これは、自白の撤回を主張するものと解される。
そこで、上記各転籍合意が存在することが真実に反するかを検討すると、上記(1)のとおり、上記各転籍合意は、原告らに不利益を与え得るものであるというべきであるが、そのことのみから、上記各転籍合意が存在しないと認めることはできず、その他、上記各転籍合意の不存在を認めるに足りる証拠はないから、上記各転籍合意が存在することが真実に反するということはできない。
したがって、その余の点について判断するまでもなく、自白の撤回をいう原告らの主張には理由がない。
(3) 以上によると、上記各転籍合意については自白が成立しており、その撤回は認められないものというべきである。
5 争点4(錯誤の有無)について
(1) 掲記の証拠等によれば、以下の事実が認められる。
ア 原告X2及び原告X3について
原告X2は平成21年10月5日、原告X3は同月6日に社員説明会に参加したが、その際、「雇用替えに同意が得られなかった社員については、雇用契約期間である3月末をもって雇用止めとなります。」と記載された資料を受け取るとともに、転籍に応じない場合には、平成22年3月31日をもって雇止めとなるとの説明を受けた(証拠<省略>)。
イ 原告X1について
(ア) 原告X1は、平成21年10月13日の社員説明会に参加したが、その際、「雇用替えに同意が得られなかった社員については、雇用契約期間である3月末をもって雇用止めとなります。」と記載された資料を受け取るとともに、転籍に応じない場合には、平成22年3月31日をもって雇止めとなるとの説明を受けた(証拠<省略>)。
また、その社員説明会の際、同僚のⅠが、今回の解雇は整理解雇に該当し、整理解雇の4要件を充たさないと解雇できないはずである、労働契約法17条によれば、契約期間中に解雇はできないはずであるなどと質問した。これに対し、被告Y1社は、整理解雇の4要件は満たしていると考えている、労働契約法にも則っていると考えている、(法律の要件を)満たしていると思っているが、最終的には司法の判断になると考えるなどと回答した。(書証<省略>)
(イ) 原告X1は、平成21年10月13日の社員説明会の後、同年11月30日までの間、労働局に2回相談に行き、その後も時期は不明であるが、労働局に1回相談に行った。その際、「それほど大きな会社の施策であればどうにもならないんじゃないか。」、「この件は違法といえば違法だが、グレーゾーンであり直ちに指導は難しい。」、「最終的に裁判でもすれば、もしかしたら何とかなるかもしれないね。」などとアドバイスを受けた。(弁論の全趣旨、人証<省略>)
(ウ) 原告X1は、平成21年10月14日、c労働組合に加入し、労働組合の説明会(オルグ)に参加した(証拠<省略>)。
ウ 解雇予告通知書等の提出
原告X1は、同年11月30日、原告X2及びX3は、同年12月1日、被告Y1社に対し、解雇予告通知書及び誓約書(書証<省略>)に署名及び押印して提出した。
また、原告X1については遅くとも平成21年12月10日までに、原告X2については遅くとも同月4日までに、原告X3については遅くとも同月3日までに、被告Y2社に対して雇用契約書を提出した。
(以上につき、前提事実(5))
なお、本件雇用替えの対象となった669名の契約社員から、平成21年12月末から平成22年3月末までの間に退職する旨の意思を示した22名、及び出産、育児等の事由により休暇取得中であった10名を除く社員のうち、1名は転籍に応じなかったものの、残り636名は転籍に応じ、平成21年11月24日から同年12月10日までの間に被告Y2社との間で雇用契約を締結した。転籍に応じた社員のうち1名は、後に本件雇用替えに対する同意を撤回した。(書証<省略>)
エ 報道の経緯等
(ア) 平成21年11月27日、d労組の北海道支部から、被告Y1社に対し、雇用替えを希望しない契約社員は、現契約を継続すること、契約社員に不利益変更となる雇用替えを強要しないこと等を要求する要求書が提出された(書証<省略>)。同年12月10日には、北海道新聞が、被告Y1社が、契約社員を解雇し、被告Y2社からの派遣社員に切り替える方針である旨を報じるに至った(書証<省略>)。
(イ) 平成21年12月15日、国会議員及び道議会議員等9名が、被告Y1社を訪れ、雇用替えを問題視し、その延期を求めた。また、同月22日には、国会議員2名を含む計9名がb社の本社を訪れ、本件の雇止めは法律違反ではないかなどと指摘した上、その中止を申し入れるとともに被告Y1社に強く指導するよう求めた。(以上につき、証拠<省略>)
(ウ) 平成21年12月16日から平成22年3月12日までの間、d労組やe労働組合総連合(e労連)が、被告Y1社による契約社員に対する転籍の強要は違法であるなどとしてこれを問題視する内容のビラを配布するようになり、新聞◇◇においても同様の内容の記事が掲載されるようになった(書証<省略>、弁論の全趣旨)。
(エ) 平成22年1月27日の参議院予算委員会で取り上げられ、国会議員より、本件雇用替えの経緯や是非に関する質問がなされ、全国に中継された。(証拠<省略>)
(オ) 平成22年2月23日、国会議員等8名が被告Y1社を訪れ、転籍に同意しなかった者、同意を撤回した者を雇止めすることは法律上できない、雇止めしないことを明言していただきたいなどと申し入れた(証拠<省略>)。
オ 被告Y1社は、上記エの事情を考慮し、契約社員Ⅱのうち、本件雇用替えに同意しなかった2名について、雇止めをしないこととし、平成22年3月1日、雇用契約を更新した(証拠<省略>)。
(2) 以上を前提として検討する。
ア 原告X2及び原告X3は、平成21年10月5日又は同月6日に行われた社員説明会において、転籍に応じなければ、平成22年3月31日をもって雇止めとなる旨説明を受けたものであり、法的に雇止めが困難であることを認識していたことを認めるに足る事情はないことからすれば、原告X2及び原告X3は、転籍に応じなければ、平成22年3月31日をもって雇止めとなる旨認識していたものと認めるのが相当である。
被告らは、原告らが、d労組、e労連等による情宣活動やメディアの報道を通じ、転籍に同意しない場合に一方的に雇止めされた場合の法律上の問題について知識を得ていたと主張するが、情宣活動やメディアの報道がなされるようになったのは、平成21年12月16日以降のことであり、原告X2も原告X3も、それ以前に既に被告Y1社に解雇予告通知書及び誓約書に署名押印して提出し、被告Y2社に対しても雇用契約書を提出していたものであるから、本件合意当時は、情宣活動等の情報に接していたとは認めることができない。
イ 原告X1も、同様、平成21年10月13日に行われた社員説明会において、転籍に応じなければ、平成22年3月31日をもって雇止めとなる旨説明を受けたものである。この点につき、被告らは、原告X1が、社員説明会において被告Y1社に雇止めの法的問題点について問いただした同僚のⅠらとの情報交換や、北海道労働局への相談、メディアやd労組等による情宣を通じて、雇止めに関する十分な法律知識を有していたものであり、雇止めが法的に可能であるか否かについて原告X1に錯誤は存在しなかったと主張する。
しかし、原告X1が、同僚のⅠらから、雇止めの法的問題点を聞いていたことを認めるに足る証拠は存在しないこと、原告X1が、平成21年10月13日の社員説明会において、雇止めの法的問題点に関するⅠの質問を聞いていた可能性はあるが、その際、被告Y1社から、雇止めは法的に可能であると考えているとの説明を受けたこと、原告X1は、労働局に相談に行っているものの、労働局の回答は、どちらかといえば、雇止めの法的有効性を争うことは困難であるとの印象を与えるものであったこと、d労組等の情宣がなされるようになったのは、平成21年12月16日以降のことであり、原告X1は、それ以前に既に被告Y1社に解雇予告通知書及び誓約書に署名押印して提出し、被告Y2社に対しても雇用契約書を提出していたこと、原告X1は、c労働組合の説明会(オルグ)にも参加したものの、c労働組合は、本件雇用替えについて被告Y1社と協議を重ね、大綱了解に達していたものであり(上記3(1)ウ)、契約社員らに本件雇用替えに応じるよう説得していたものと推認され(書証<省略>)、現に原告X1は、「もう決まってしまったので、どうしようもないのでというような形で、ほぼ会社と同じような説明をされました。」「失望したというか、残念でした。」と供述していること、以上の事実からすれば、原告X1は、転籍に合意しなければ、被告Y1社は、平成22年3月31日をもって、原告X1を合法に雇止めをすることができると認識していた可能性は否定できないというべきである。
ウ しかしながら、上記3(2)イで述べたとおり、被告Y2社に転籍後も、被告Y1社に派遣され、従前と同じ業務を続けることが予定されていたこと、転籍後の労働条件は、転籍前と比べてほとんど変更はなく、転籍前と比べて不利益になる点もあるものの、その不利益をできる限り小さくするための手当がされていたこと、逆に、転籍後は、転籍前と異なり、正社員に登用される可能性もあったこと、本件雇用替えは、被告Y1社と同社の最大の労働組合であるc労働組合(上記3(1)ウ参照)との間で協議がなされ、大綱了解に至っていた施策であり、実際、上記(1)ウで認定したとおり、本件雇用替えの対象となった669名の契約社員から、退職する旨の意思を示していた者や、出産、育児等の事由により休暇取得中であった者を除く社員のうち、最終的に転籍に応じなかったのは2名のみであり、残りの635名は転籍に応じたものであること、転籍に応じれば被告Y1社との関係の悪化を回避することができることからすれば、通常一般人が、仮に、法的に雇止めができないことを認識していたとしても、転籍に合意することは十分にあり得たものと考えられる。そうすると、仮に、原告らに錯誤があったとしても、錯誤がなかった場合に、通常一般人が転籍に合意しなかったであろうと考えられるほどに重要な錯誤があったとはいえず、要素の錯誤であるとは認められないというべきである。
(3) したがって、錯誤に関する原告らの主張は採用することができない。
6 争点5(詐欺の有無)について
(1) 証人Fは、乙4<省略>の「雇用替えに同意が得られなかった社員については、雇用契約期間である3月末をもって雇用止めとなります。」との記載につき、当時は、転籍に同意しない社員の人数等、状況によって様々な判断があり得るものと考えていたため、必ずしも雇止めすると決めていたわけではないものの、契約社員の一部が被告Y2社への転籍に同意しなかった場合、雇用契約を更新できない可能性が高いと考えたため、念のために記載したものであると供述する。証人Fの供述するとおり、雇止めの法的有効性は、個別の状況に応じて判断する必要があるため、転籍に同意しない社員については一律に雇止めすると決めることはできないはずであるが、場合によっては、雇止めする可能性も否定できないため、そのことをあらかじめ契約社員らに告げておくという判断は合理的であると認められるのであって、証人Fの上記供述は信用できるというべきである。
(2) Fの上記供述によれば、被告Y1社が、原告らに対し、「雇用替えに同意が得られなかった社員については、雇用契約期間である3月末をもって雇用止めになります」と記載した資料(書証<省略>)を配付し、転籍に応じない契約社員に関しては、平成22年3月31日をもって雇止めとするとの説明を行ったのは、転籍に応じない場合、雇止めする可能性も否定できないから、これをあらかじめ契約社員らに告げておくとの合理的な動機に基づくものであって、原告らを欺罔して錯誤に陥れようとする故意があったと認めることはできない。
(3) 以上によれば、詐欺に関する原告らの主張は採用できない。
7 争点6(強迫の有無)について
被告Y1社が、原告らに対し、「雇用替えに同意が得られなかった社員については、雇用契約期間である3月末をもって雇止めになります」と記載した資料(書証<省略>)を配付し、転籍に応じない契約社員に関しては、平成22年3月31日をもって雇止めとするとの説明を行った行為は、そもそも、違法な強迫行為であると認めることはできないし、上記6(2)で述べたのと同様の理由により、被告Y1社には、相手方に畏怖を生じさせ、この畏怖によって意思表示をさせようとする故意があったものと認めることはできない。
したがって、強迫に関する原告らの主張は採用できない。
8 争点8(違法行為の有無)について
原告らは、被告らが、原告らに対し、その意思に反して被告Y2社への転籍に応じさせたと主張するが、上記5ないし7のとおり、錯誤、詐欺及び強迫は認められないことからすると、本件雇用替えが原告らの意思に反していたということはできない。
そうすると、不法行為に基づく損害賠償を求める原告らの請求は、その余の争点について判断するまでもなくいずれも理由がない。
9 結論
以上によれば、原告らの請求のうち、原告ら各自と被告Y2社との間において、原告ら各自が被告Y1社との雇用契約上の地位を有することの確認を求める訴えは不適法であるからいずれも却下し、原告らの被告Y2社に対するその余の請求及び被告Y1社に対する請求には理由がないからいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 本間健裕 裁判官 南宏幸 裁判官 金﨑祐太)
当事者目録
原告 X1
原告 X2
原告 X3
上記3名訴訟代理人弁護士 長野順一
同 佐藤哲之
同 佐藤博文
同 渡辺達生
同 齋藤耕
同 林千賀子
同 中島哲
同 平澤卓人
同 山田佳以
被告 株式会社Y1
同代表者代表取締役 A
被告 Y2株式会社
同代表者代表取締役 B
上記2名訴訟代理人弁護士 寺前隆
同 岡崎教行
同 茶谷幸彦
同 野田麻由
同 宮島朝子
以上
別紙<省略>