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札幌地方裁判所 平成22年(ワ)2320号 判決 2011年7月25日

当事者及び訴訟代理人等

別紙1当事者等目録記載のとおり

主文

1  被告は、原告X1に対し、117万2816円及びこれに対する平成22年5月1日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告X1に対し、80万5656円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

3  被告は、原告X3に対し、8万4678円及びこれに対する平成22年5月1日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。

4  被告は、原告X3に対し、6万2896円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

5  被告は、原告X2に対し、79万9902円及びこれに対する平成22年5月1日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。

6  被告は、原告X2に対し、53万8678円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

7  被告は、原告X4に対し、94万6637円及びこれに対する平成22年5月1日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。

8  被告は、原告X4に対し、82万7330円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

9  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

10  訴訟費用は、これを100分し、その15を原告X1の、その5を原告X3の、その9を原告X2の、その11を原告X4の、その余を被告の負担とする。

11  この判決は、第1項、第3項、第5項、第7項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  被告は、原告X1に対し、164万4565円及びこれに対する平成22年5月1日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告X1に対し、164万4565円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

3  被告は、原告X3に対し、28万6827円及びこれに対する平成22年5月1日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。

4  被告は、原告X3に対し、28万6827円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

5  被告は、原告X2に対し、105万1857円及びこれに対する平成22年5月1日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。

6  被告は、原告X2に対し、105万1857円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

7  被告は、原告X4に対し、136万4313円及びこれに対する平成22年5月1日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。

8  被告は、原告X4に対し、136万4313円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え

9  訴訟費用は被告の負担とする。

10  第1項、第3項、第5項、第7項に対する仮執行宣言

第2事案の概要等

1  事案の概要

本件は、被告との間で嘱託乗務員雇用契約を締結し、タクシー乗務員として雇用されている原告ら(原告X3は、平成22年5月20日をもって雇用期間満了により雇止めとなった。)が、被告に対し、被告の就業規則、賃金規定に定められた歩合給及び歩合給に対する時間外及び深夜割増賃金の算定方法は労働基準法37条に違反する部分がありその限度において無効であると主張して、平成22年3月分までの時間外・深夜割増賃金として、①原告X1は164万4565円、②原告X3は28万6827円、③原告X2は105万1857円、④原告X4は136万4313円、及びこれらに対する平成22年3月分の給与支払日の後の日である平成22年5月1日から支払済みまで商事法定利率である年6%の割合による遅延損害金の支払と、労働基準法114条に基づき、上記①ないし④の時間外・深夜割増賃金と同額の付加金及びこれらに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

2  前提となる事実(争いのない事実に加え、各項末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)

(1)  当事者等

ア 被告

被告は、札幌市内に本社を置くタクシーによる一般乗用旅客自動車運送業等を営む株式会社である(証拠<省略>)。

イ 原告ら

(ア) 原告X1(以下「原告X1」という。)は、平成19年12月23日に被告に採用され、4回の契約更新を経て、嘱託社員(定年前)のタクシー乗務員として業務に従事している者である。

(イ) 原告X3(以下「原告X3」という。)は、平成17年7月18日に被告に採用され、6回の契約更新を経て、嘱託社員(定年前)のタクシー乗務員として業務に従事してきたが、平成22年5月20日をもって被告から雇い止めされた者である(証拠<省略>)。

(ウ) 原告X2(以下「原告X2」という。)は、平成19年に被告に採用され、約4回の契約更新を経て、嘱託社員(定年前)のタクシー乗務員として業務に従事している者である。

(エ) 原告X4(以下「原告X4」という。)は、平成19年11月23日に被告に採用され、4回の契約更新を経て、嘱託社員(定年前)のタクシー乗務員として業務に従事している者である。

(2)  原告らの賃金及び割増賃金と算定方法

ア 被告においては、その従業員のうち嘱託として採用した者を、嘱託社員と定時制社員に分け(証拠<省略>・乗務員嘱託規定3条)、この嘱託社員を嘱託社員(定年前)と嘱託社員(定年後)に区分してそれぞれその処遇を定めている(証拠<省略>・乗務員嘱託規定8条、賃金・賞与規定(以下単に「賃金規定」という。))。

イ 原告ら嘱託乗務員の業務は、日勤勤務と夜勤勤務とに分かれている(就業規則34条1項、証拠<省略>)。原告らの勤務スケジュールは、1サイクル16日とし12日稼働で4日休日とされている(就業規則34条2項、証拠<省略>)。所定労働時間は、1日2時間23分の休憩時間を除いた7時間37分と定められている(就業規則35条1項、証拠<省略>)。

ウ 被告の従業員の賃金は、賃金規定(証拠<省略>)に基づき、次のとおり定められている。

賃金の締切日は、毎月20日締めの30日払いとされている(賃金規定3条)。

賃金の構成は、①基本給、②歩合給、③時間外手当、深夜手当、④歩合割増給、⑤休日出勤となっている(賃金規定7条)。

エ 被告従業員のうち、原告ら嘱託社員(定年前)の賃金の内訳及び計算方法は、賃金規定に基づき、別紙2記載のとおり定められている。

なお、歩合給の算定式の「54%」及び足切額・歩合率の各算定式の分母の「0.54」は、当初、それぞれ「55%」「0.55」であった(証拠<省略>)が、被告と、原告X3を除く原告X1、原告X2及び原告X4との間で、これらをそれぞれ「54%」「0.54」に引き下げる旨合意された(証拠<省略>。ただし、原告X3についても、引き下げ後の「54%」「0.54」の限度で請求する旨その趣旨が減縮された。)。

(3)  未払残業代の請求及び被告の支払拒否

原告らは、平成21年12月15日の団体交渉において、被告に対し、就業規則の賃金規定の違法・無効を前提とする未払割増賃金の支払を求めたが、被告は支払を拒否した。

また、原告らの加入する組合は、平成22年2月12日の労使協議において、原告X2の給与算定の誤りを主張し、計算方法の是正を求めたが、被告はこれに応じなかった。

さらに、原告らは、平成22年3月23日付け内容証明郵便により、被告に対し、未払賃金の支払を請求した。

3  争点及びこれに対する当事者の主張

(1)  争点①(被告の賃金規定に基づく賃金の支給により法所定の時間外・深夜割増賃金が支払われたといえるか、いえない場合に原告らが被告に対して有する時間外・深夜割増賃金の額)

(原告の主張)

ア 被告の賃金規定における歩合給の算定方法

被告の賃金規定は、歩合給を、時間外及び深夜労働時間の長時間化に比例して減額し、短時間化に比例して増額するものであり、歩合給の算定において、時間外・深夜労働時間を考慮要素としている。

イ 被告の歩合給の算定方法は労働基準法37条の趣旨を没却する

(ア) 労働基準法(以下「法」という。)37条が、例外的に許容された時間外及び深夜労働に対して割増賃金の支払を義務付けている趣旨は、時間外及び深夜労働は、通常の労働形態に比して労働の肉体的及び精神的負荷が高いことから、通常の労働報酬より高い報酬の支払を義務付けることで、その抑制を意図し、労働時間制の原則の維持を図るとともに、過重な労働に対する労働者への補償を行おうとするものである。すなわち、法37条は、時間外及び深夜労働を行った場合には、時間外及び深夜労働を行わなかった場合に比べて割増賃金分の賃金が増額されることを要請し、使用者に経済的負担を負わせることで、法政策上時間外・深夜労働を抑制することを目的としているのである。

そして、法37条に反して割増賃金を支払わなかった場合、使用者には6か月以下の懲役又は10万円以下の罰金という刑事罰が課せられることからすれば(法119条1項)、法37条の規定は、強行法規であって、同条に違反する就業規則及び賃金規定の規定は無効であるとされている。したがって、時間外及び深夜労働を行ったにもかかわらず、割増賃金分の賃金が増額されないような賃金の算定方法は、同条の本質的要請に反して無効というべきである。

(イ) 被告の賃金規定上は、確かに、歩合給に対する計算上の時間外及び深夜割増賃金が支払われている。

しかし、被告の賃金規定によれば、歩合給自体を、時間外及び深夜労働時間の長時間化に比例して減額できるとしており、結果的に、時間外及び深夜労働を命じた場合と命じなかった場合のそれぞれの被告の経済的負担は、売上額が同じである以上、常に、同額となるように設定されている。

すなわち、被告の賃金規定は、時間外及び深夜労働の長時間化に比例して、歩合給自体を減額することにより、①歩合給と②歩合給に対する割増賃金と③固定給に対する割増賃金の3種の賃金の総和が常に一定額となるように設定されている。

これにより、被告は、時間外及び深夜労働を命じつつ、固定給及び歩合給それぞれに対する割増賃金分の経済的負担を免れているのである。

よって、被告の賃金規定によれば、被告は、時間外及び深夜割増賃金分の経済的負担を負うことなく、労働者に時間外及び深夜労働を命じることができる。

このことは、明らかに、使用者に割増賃金分の経済的負担を課すことによって時間外等労働を抑制するとの法37条の趣旨に反する。

(ウ) 歩合給の算定に時間外及び深夜労働時間を要素とすることに何ら合理性がない。

労働者は、自主的に時間外及び深夜労働を行っているのではなく、あくまで使用者の業務命令により時間外及び深夜労働を強制されたものであるにもかかわらず、時間外及び深夜労働時間の長時間化に応じて歩合給を減額することは何ら合理性がない。

(エ) 以上より、被告の賃金規定は、法37条の趣旨を没却し、実質的に法規制を潜脱するものであるから、違法、無効である。

ウ 適正な賃金の算定方法

(ア) 被告の賃金規定は、別紙2記載のとおりであり、歩合給の算定において、歩合給額が時間外及び深夜労働時間の長時間化に反比例して減額するとされているから、当該部分が違法、無効である。

(イ) 足切額

足切額の算定計算式のうち、分子に時間外手当及び深夜手当を置くことは、歩合給を時間外及び深夜労働時間の長時間化に比例して減額させるものであって、法37条の趣旨に反し、無効であるから、足切額の算定方法は、無効部分を排除した「(基準内賃金-休業控除)/0.54」となる。

(ウ) 歩合率

歩合率の算定計算式のうち、分母に深夜時間及び時間外時間を置くことは、(イ)と同様に法37条の趣旨に反し、無効である。

よって、歩合率の算定方法は、無効部分を排除した「0.54×総労働時間/総労働時間」すなわち「0.54」となる。

(エ) 被告の賃金規定のうち無効部分を排除した適正な計算式に基づき、別紙5の1ないし別紙5の4<省略>「実総労働時間」欄記載の総労働時間を前提とし、原告X3の平成21年8月分以降の歩合給の分率を54%としてその限度で請求することとして、原告らの未払賃金を算定すると別紙3の1ないし別紙3の4<省略>記載のとおりとなる。

(被告の主張)

ア 賃金については、最低賃金を下回らないこと、一定の条件のもとで認められる時間外及び深夜労働に対して割増賃金を支払うこと以外、法的規制はなく、歩合給を取り入れるか否か、歩合給を取り入れた場合の歩合給の仕組みをどのように定めるかは、基本的には使用者が自由に定めることができる事項である。そして、歩合給を取り入れた場合に、歩合給が売上げ等との関係でどのように変動するかは、歩合給の定め方の問題であり、常に一定率の歩合給でなければならないなどという規制は存在しない。

イ 被告の賃金規定では、時間外及び深夜労働を全くしなくても定められた計算式による歩合給が支払われることになる反面、原告らの主張するとおり、時間外及び深夜労働をした場合、歩合給が減少することになるが、これは被告が定めた歩合給の算定方法の結果であって、このこと自体が法37条に違反することなどあり得ない。

そして、被告の賃金規定では、時間外及び深夜労働をした場合には、歩合給に対する割増賃金も支払われている。したがって、この点においても被告の賃金規定は、法37条に違反しない。

ウ 被告の賃金体系はオール歩合給であり(嘱託乗務員規定第8条、証拠<省略>)、被告の賃金規定による歩合給は、原告らの営業成績(営収)の多寡と連動して増減することとなっている。なお、賃金総額が最低賃金を下回った場合には、最低賃金による計算との差額を被告において補填している。

原告ら乗務員は、被告における勤務時間中は、原告らの全労働能力を傾注して営業成績の向上を目指すことになるところ、時間外及び深夜労働をすることなく所定労働時間内で高い営業成績を得た場合、原告ら乗務員は、極めて効率的な労働を提供したことになる。

一方、同じ営業成績を得たとしても、それが時間外及び深夜労働をした結果だとしたら、原告ら乗務員の提供した労働は、相対的には効率的なものでなかったことになる。

歩合給が、営業成績と連動している以上、前者の場合の方が後者の場合より歩合給が高くなることは、経済的には極めて自然のことである。

エ さらに、被告の賃金規定では、基本給及び歩合給の計算根拠、割増賃金の計算根拠も明確に示され、それに基づく計算もされており、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできる。

そして、被告の賃金規定については、長年にわたって被告のみならず、タクシー業界においても広く取り入れられている規定である上、原告らにおいても知悉している賃金規定であって、これにより原告らの歩合給に対する期待が裏切られている事実もない。

オ 原告らの主張のように、被告の賃金規定の一部のみを無効にすることは、原告らに対する賃金の支給割合が売上げの70%以上となることであり、被告の賃金体系のオール歩合制と相容れないことは明白であり、賃金規定の一部分のみを無効にすることは、賃金規定が一体的に構成されていることからしてもあり得ない。

そして、原告らの主張する被告の賃金規定の一部無効は、原告らと被告との間で賃金は売上の55%、54%であるとの明確な合意がなされたことや長年運用されてきた被告の賃金規定と反することは明白である。

(2)  争点②(付加金の支払を命じることの可否)

(原告の主張)

被告の原告らに対する、明らかに違法な割増賃金の未払や、原告らの請求に対する被告の不誠実な対応に照らせば、法114条に基づく付加金の支払が認められなければならない。

(被告の主張)

争う。

第3当裁判所の判断

1  争点①(被告の賃金規定に基づく賃金の支給により法所定の時間外・深夜割増賃金が支払われたといえるか、いえない場合に原告らが被告に対して有する時間外・深夜割増賃金の額)について

被告は、時間外及び深夜労働をした場合には、歩合給に対する割増賃金を支払っており、割増賃金の計算根拠も明確に示されていることから法37条に違反するものではないと主張する。

確かに、被告の賃金規定(証拠<省略>)によると、基準内賃金に対応した時間外手当及び深夜手当、歩合給に対応した時間外割増給及び深夜割増給が賃金に含まれると記載されていることが認められる。

しかし、被告の賃金規定記載の賃金内訳を合計すると、別紙4記載のとおり、平成21年6月分までは営収の55%、平成21年7月分以降については営収の54%(証拠<省略>。ただし、原告X3については、54%の限度で請求しているので、これを乗じたものとみなして算定する。)から、休業控除を行ったものと常に同額となることは明らかである。

そもそも、労働基準法37条が、時間外、休日及び深夜の割増賃金の支払を使用者に義務付けた趣旨は、同法の定めた労働時間制を超過する特別な労働に対する労働者への補償を行うとともに、労働時間制の例外をなす時間外・休日労働について割増賃金の経済的負担を使用者に課すことによって、これらの労働を抑制し、もって、労働時間制の原則の維持を図ろうとする趣旨に出たものであるところ、同条は強行法規と解され、これに反する合意を使用者と労働者との間でしても無効とされる上、その不払いは6月以下の懲役又は30万円以下の罰金という刑事罰の対象とされている。

ところが、前記認定のとおり、被告の賃金規定の定めは、被告において自認するようにその実質においていわゆる完全歩合制であって、その規定上、時間外・深夜手当や歩合割増給を支給するものとはされているものの、結局その増額分は被告の定めた算定方法の過程においてその効果を相殺される結果、被告の支給する賃金は、原告らが時間外及び深夜の労働を行った場合において、そのことによって増額されるものではなく、場合によっては歩合給が減額することすらありうる。そうすると、その実質において法37条の趣旨を潜脱するものとして、その全体を通じて同条に違反するといわざるを得ず、被告の賃金の支給によって、原告らに対して法37条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることは困難なものというべきである。そして、被告の賃金規定の実質はいわゆる完全歩合制を趣旨とするものであり、証拠上窺われる経緯から原告らと被告もそのように理解していたと解されること等にも照らすと、本件においては、営収に54%ないし55%を乗じた支給金額を、法37条1項所定の「通常の労働時間又は労働日の賃金」に当たるものと解するのが相当である。

この点被告は、完全歩合制について、最低賃金を保障している以上問題はないと主張するが、完全歩合制の場合、時間外及び深夜勤務を通常勤務と区別せずに取り扱うことになり、被告の賃金規定では、上記のとおり、歩合給が時間外及び深夜割増賃金にかかる増額分を上回るようには規定されていないから、被告の主張は採用できない。

以上によれば、被告において、原告らに対し、営収に54%ないし55%を乗じた金額を総労働時間で除した時間当たりの単価に各請求に係る時間外・深夜労働時間及びそれぞれこれらに対応する法令所定の割合を乗じた金員を時間外・深夜割増賃金として支払う義務を負うというべきであり、具体的には別紙5の1ないし別紙5の4「時間外時間」欄及び「深夜時間」欄記載の原告らの時間外及び深夜の労働について、法37条及び労働基準法施行規則19条1項6号の規定に従って計算した額の割増賃金を支払う義務があることになる。

なお、割増賃金の算定方法について、原告らは、その一部が無効であるから、算定計算式の無効部分を排除して算定すべきと主張するが、前記のとおり、被告と原告らとの間の雇用契約締結・更新の経緯から窺われる当事者の合理的意思に照らすと、被告の賃金は結局のところ完全歩合給制と解するべきものであるから、これを前提として時間外・割増賃金を算定することが相当であり、原告らの主張は採用できない。

以上によると、原告らの割増賃金は、別紙5の1ないし別紙5の4の割増賃金の合計欄記載のとおりとなる。

2  争点②(付加金の支払を命じることの可否)について

本件証拠上認められる諸般の事情及び法114条の趣旨に鑑みると、本訴が提起された日の2年前である平成20年7月以降に発生した割増賃金の合計額と同一額の付加金の支払を命じるのが相当である。具体的には、原告X1について80万5656円、原告X3について6万2896円、原告X2について53万8678円、原告X4について82万7330円の付加金の支払を命じることとする。

第4結論

以上より、原告らの請求は、主文の限度で理由があるから、これを認容し、その余の請求は、理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 千葉和則 裁判官 岸田航 裁判官 瀬戸麻未)

(別紙1)

当事者等目録

原告 X1

同 X3

同 X2

同 X4

上記4名訴訟代理人弁護士 亀田成春

同 齋藤耕

同 山田佳以

同 葉山裕士

被告 Y株式会社

同代表者代表取締役 A

同訴訟代理人弁護士 太田三夫

(別紙2)

賃金内訳

基本給 10万円

時間外手当 法定通りとする

深夜手当 法定通りとする

歩合給 (各人営収-足切額)×54%(総割増込み)

最低賃金補償

①時間外手当

基準内賃金×1.25×時間外時間/1か月の平均所定労働時間

②深夜手当

基準内賃金×0.25×深夜時間/1か月の平均所定労働時間

③歩合給(営収-足切額)×歩合率

足切額算出

(基準内賃金+時間外手当+深夜手当-休業控除)/0.54

歩合率算出

(0.54×総労働時間)/総労働時間+(0.25×深夜時間)+(1.25×時間外時間)

④時間外割増給

歩合給×1.25×時間外時間/総労働時間

⑤深夜割増給

歩合給×0.25×深夜時間/総労働時間

(別紙4)

賃金総額=(基準内賃金+時間外手当+深夜手当)

+歩合制+時間外割増給+深夜割増給

=(基準内賃金+時間外手当+深夜手当)+歩合給+

歩合給×1.25×時間外時間/総労働時間+

歩合給×0.25×深夜時間/総労働時間

=(基準内賃金+時間外手当+深夜手当)+歩合給

×総労働時間+(1.25×時間外時間)+(0.25×深夜時間)/総労働時間

=(基準内賃金+時間外手当+深夜手当)+(営収-足切額)×歩合給

×総労働時間+(1.25×時間外時間)+(0.25×深夜時間)/総労働時間

=(基準内賃金+時間外手当+深夜手当)

+{営収-(基準内賃金+時間外手当+深夜手当-休業控除)/0.54}

×0.54×総労働時間/総労働時間+(0.25×深夜時間)+(1.25×時間外時間)

×総労働時間+(1.25×時間外時間)+(0.25×深夜時間)/総労働時間

=(基準内賃金+時間外手当+深夜手当)+営収×0.54

-(基準内賃金+時間外手当+深夜手当-休業控除)

=営収×0.54+休業控除

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