札幌地方裁判所 平成23年(ワ)3433号 判決 2013年3月13日
原告
X1<他1名>
被告
Y保険株式会社
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、原告X1に対し、一七〇万一七二五円及びこれに対する平成二三年一二月一七日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告有限会社X2に対し、二六万五〇〇〇円及びこれに対する平成二三年一二月一七日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告X1(以下「原告X1」という。)が、被告に対し、車両保険を含む総合保険契約に基づき、被保険車両に対する人為的損傷(ひっかき傷)を保険事故とする保険金一七〇万一七二五円及びこれに対する平成二三年一二月一七日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、原告有限会社X2(以下「原告会社」という。)が、被告に対し、自動車管理者賠償責任保険契約に基づき、原告会社が第三者から預かり保管中であった車両の損傷を保険事故とする保険金二六万五〇〇〇円及びこれに対する前記同様の遅延損害金の支払を求める事案である。
一 争いのない事実
(1) 当事者
原告会社は、車両の販売・修理等を業とする株式会社(特例有限会社)であり、原告X1は、原告会社の代表者である。
被告は、損害保険を業とする株式会社である。
(2) 総合保険契約
ア 原告X1は、被告との間で、平成二〇年一二月二七日、被保険者を原告X1、被保険車両を原告X1が当時所有していた車両、保険期間を同日から平成二一年一二月二七日まで、保険事故を偶然な事故による車両損害の発生、保険限度額を一三〇万円とする車両保険を含む総合保険契約(以下「本件保険契約一」という。)を締結した。
イ 原告X1は、被告との間で、平成二一年九月二八日、本件保険契約一について、被保険車両を別紙自動車目録記載一の車両(以下「本件車両一」という。)、保険限度額を一八〇万円にそれぞれ変更した。
ウ 本件保険契約一に適用される保険約款には、次の内容の規定が存在する。
(ア) 被告は、衝突、接触、墜落、転覆、物の飛来、物の落下、火災、爆発その他偶然な事故によって被保険車両に生じた損害に対して保険金を支払う。
(イ) 被告は、保険契約者、被保険者の故意によって生じた損害に対しては保険金を支払わない。
(3) 自動車管理者賠償責任保険契約
ア 原告会社は、被告との間で、平成二一年三月八日、被保険者を原告会社、保険期間を同年四月七日午後四時から平成二二年四月七日午後四時まで、車両保管施設を札幌市<以下省略>a社内、保険事故を原告会社が前記車両保管施設内等において管理する第三者の車両の損壊等による原告会社の第三者に対する損害賠償責任の負担、保険限度額を三〇〇万円、免責金額を五万円とする自動車管理者賠償責任保険契約(以下「本件保険契約二」という。)を締結した。
イ 本件保険契約二に適用される保険約款には、次の内容の規定が存在する。
(ア) 被告は、当該車両が前記車両保管施設内で管理されている間又は被保険者の当該車両に対して行う業務の遂行の通常の過程として一時的に前記車両保管施設外で管理されている間に、当該車両の損壊、紛失等が発生したことにより、被保険者が当該車両について正当な権利を有する者に対して法律上の損害賠償責任を負担する場合に、これにより被保険者に生じた損害に対して保険金を支払う。
(イ) 被告は、保険契約者、被保険者の故意によって生じた損害に対しては保険金を支払わない。
(ウ) 被告は、当該車両が委託者に引き渡された後に発見された当該車両の損壊、紛失等に起因する賠償責任を負担することによって被保険者が被る損害に対しては保険金を支払わない。
二 争点
(1) 本件保険契約一に基づく保険金請求権の有無
ア 保険事故の発生の有無
イ 故意免責の抗弁の成否
(2) 本件保険契約二に基づく保険金請求権の有無
ア 保険事故の発生の有無
イ 故意免責の抗弁の成否
ウ 引渡後免責の抗弁の成否
(3) 各保険金額
三 争点に関する当事者の主張
(1) 本件保険契約一に基づく保険金請求権の有無
ア 保険事故発生の有無
【原告X1の主張】
(ア) 平成二一年一一月一〇日夕方ころから同月一一日午前七時ないし八時ころまでの間、原告X1の自宅前の駐車スペースにおいて、同所に駐車していた本件車両一に対し、何者かによって前後左右及びルーフを含むパネル全周にわたり鋭利な硬い物体によると思われるひっかき傷(以下「本件損傷一」という。)を付けられるという事故(以下「本件保険事故一」という。)が発生した。
すなわち、原告X1は、同月一〇日夕方ころ帰宅し、その際、自宅前の駐車スペースに本件車両一を駐車していたところ、風邪をひいて体調が悪く、その後は食事のときを除いてずっと眠っており、翌一一日午前七時ないし八時ころ、知人の経営する「a社」なる業者からの依頼業務で、苫小牧在住の顧客のもとに車庫証明に必要な書類を受け取りに行くため、自宅外に出たところ、本件損傷一を発見し、すぐに被告の保険代理店に電話をして事故報告を行ったものである。
(イ) 本件保険契約一に基づく車両損壊を保険事故とする保険金請求に際し、保険金請求者は、被保険車両に対して人為的に損傷が付けられた事実を主張立証すれば足り、同損傷が被保険者以外の第三者によって付けられた事実については主張立証責任を負わないと考えるべきである。本件損傷一が、その部位、形状等に照らして人為的に付けられたものであることは明らかであるから、原告X1は、本件保険契約一における保険事故の発生について立証を尽くしている。
(ウ) 仮に、原告X1において、保険事故の発生につき、本件損傷一が人為的に付けられた事実に加えて、本件損傷一が被保険者以外の第三者によって付けられた事実の主張立証責任を負うとしても、以下のとおり、本件損傷一が被保険者である原告X1以外の第三者によって行われた旨の原告X1の主張に不自然な点はなく、上記事実についても原告X1の立証は尽くされている。すなわち、本件保険事故一の発生時刻は夜間の可能性が高く、発生場所である原告X1の自宅前も周囲からの見通しが良い場所とはいえないところ、本件保険事故一の発生以前から、原告X1の自宅周辺においては同様のいたずらが度々発生しており、その際、騒音や怪しい人物に気付いた近隣住民はおらず、犯人も発見されていない。本件損傷一を付けるのにそれほどの長時間は要しないし(複数犯であればより短時間で済む。)、生じる音量についてもそれほど大きなものとはいえず、冬期(一一月)のため原告X1の自宅を含め近隣住宅の二重窓がいずれも閉まっていたことや、近隣において以前から若者が夜中に騒ぐなどしていたことにも照らせば、原告X1やその同居家族、近隣住民らが犯行時の騒音に気付かなくても不自然ではない。
(エ) 原告X1は、本件損傷一の発見後、当初予定していた苫小牧には結局行かず、同所在住の顧客の車庫証明に関する業務については「a社」が処理したと聞いているところ、本件保険事故一の発生後、被告側の調査担当者に対しては、本件損傷一の発見経緯及び発見後の行動につき、前記(ア)記載の事実に加えて前述の内容を一貫して説明していた。また、原告X1は、本件損傷一の発見後、警察に被害届を提出していないが、これは、過去に自らの兄弟や父親が窃盗被害に遭った際に警察が何もしてくれなかったという経験があったことや、本件損傷一の発見後に事故報告を行った被告の保険代理店から、被害届の提出については必要ないと言われたこと、また、平成二二年一月四日ころの被告担当者との面談日の後日に改めて警察に相談に行き、被害届の提出希望を伝えたところ、警察から提出時期が遅いことを諭されたことによるものである。さらに、原告X1は、本件車両一の取得経緯について、当初、被告側の調査担当者に対し、自らの実弟と口裏合わせの上、真実はオートオークションで購入したにもかかわらず、実弟の経営する会社から購入した旨虚偽の説明をしていたが、これは、当初、本件車両一の所有者及び使用者について複雑な名義変更の経緯があり、説明が面倒で、結論が同じであれば途中経過の説明を省いても構わないと思っていたことによるものであり、その後、原告X1は、被告側の調査担当者に対し、前述の取得経緯や名義変更経緯について正しい説明をするに至っている。加えて、原告X1は、本件保険事故一の発生後、被告から本件保険事故一に関連する書類等の提出を求められていたが、平成二二年一月七日ころ、被告担当者との電話の際に、被告担当者からいったん書類等の提出が不必要であると言われていたことや、本件損傷一の発見後、苫小牧には行っていないと説明していたのに、苫小牧における車庫証明申請の事実を裏付ける書類等の提出を求められるなどして、自らが被告から偽装事故について疑われているとの警戒心もあったことから、弁護士への相談が必要と思い、被告からの書類等の提出要請に応じなかった。よって、本件損傷一が原告X1以外の第三者によって行われた旨の原告X1の主張について、被告の指摘する不自然、不合理な点は存在しない。
【被告の主張】
(ア) 本件保険事故一の発生については否認する。
(イ) 本件保険契約一に基づく車両損壊を保険事故とする保険金請求に際し、保険金請求者は、「被保険者以外の者がいたずらをして被保険車両を損傷したこと」という外形的事実を主張立証すべきであり、同外形的事実は、損傷が人為的にされたものである事実と、損傷が被保険者以外の第三者によって行われた事実から構成される。被告は、本件損傷一が人為的にされたものである事実については争わないが、本件損傷一が被保険者である原告X1以外の第三者によって付けられた事実については、後記(ウ)及び(エ)の事情に照らして疑わしく、高度の蓋然性を超える立証がないというべきである。
(ウ) 本件保険事故一の発生場所である原告X1の自宅前は、公道及び昼夜人通りのある自転車・歩行者専用道路(以下「サイクリングロード」という。)に面し、近隣には民家、マンション等が建ち並び、サイクリングロードを挟んだ北側にある大型マンションの住戸の相当数のバルコニーが原告X1の自宅方向に向いているなど、人目に付きやすい場所である。他方、本件損傷一は、マイナスドライバー等の先端が鋭利で硬い工具類によって、本件車両一の前後左右及びルーフを含むパネル全周にわたって付けられた線状傷であり、その一部は鋼板にまで達する深い損傷であることから、本件損傷一を付けた者は、様々な姿勢を取りつつ、本件車両一の周囲を移動し、その間、相当な時間をかけて、塗膜及び鋼板が削れる際のかなりの騒音を立てながら、相当な力を込めて損傷を付けたものというべきである。これらの事情に照らすと、原告X1の主張する日時・場所において本件損傷一が付けられた蓋然性は極めて低い。
(エ) 原告X1は、被告による本件保険事故一の調査過程において、被告側の調査担当者に対し、本件損傷一の発見経緯に関する説明において「本件損傷一の発見後、苫小牧へ車庫証明申請をしに行った後で保険代理店に連絡した。」、「苫小牧には行っていない。苫小牧には別の日に行った。」、「苫小牧に車庫証明を申請しに行く仕事は誰かに頼んだかもしれないし、下手なことを言うと揚げ足をとられるので調べて回答する。」などと説明内容を不合理に変遷させた挙げ句、本件訴訟に至って【原告X1の主張】(エ)に記載の内容の説明をするに至っている。また、原告X1は、本件損傷一の発見後、警察に被害届を出していないし、本件車両一の取得経緯について、当初、被告側の調査担当者に対し、自らの実弟と口裏合わせの上、真実はオートオークションで購入したにもかかわらず、実弟の経営する会社から購入した旨虚偽の説明をしていた。さらに、原告X1は、被告から、本件保険事故一について、苫小牧での車庫証明申請という仕事の有無を裏付ける資料等、被告が疑問と思う点についての客観的資料等の提出を再三促されたにもかかわらず、これに応じなかった。これらの事情もまた、本件損傷一が原告X1以外の第三者によって行われた旨の原告X1の主張に疑念を抱かせるものである。
イ 故意免責の抗弁の成否
【被告の主張】
仮に、本件損傷一が原告X1以外の第三者によって行われた事実が認められるとしても、前記ア【被告の主張】(ウ)及び(エ)の事実に加え、以下の事実に照らすと、本件保険事故一は被保険者である原告X1の故意によって生じたもの(原告X1と意思を通じた第三者による偽装事故)と認められるから、被告は、原告X1に対し、本件保険契約一に基づく保険金の支払義務を負わない。
(ア) 原告X1は、被告に対する別件の保険金詐欺未遂事件に関与している。すなわち、被告と自動車保険契約を締結したA(以下「A」という。)が、平成二二年三月一〇日、札幌市内の路上で被保険車両を運転中、運転操作を誤ってB(以下「B」という。)所有の路上駐車車両に衝突した旨の架空事故に基づき、Bに対して車両修理費相当額の損害賠償義務を負ったとして、被告に対し保険金請求を行った件につき、Bから「a社」名義で車両の修理依頼を受け、これを岩見沢市の自動車修理業者であるC(以下「C」という。)に依頼した原告X1は、Cに対し、実際には板金修理がなされたにもかかわらず、部品交換を行ったかのような実際よりも五〇万円以上高額な約六一万円の修理見積書の作成等を指示し、被告に同額の保険金を振り込ませようとした。
(イ) 原告X1は、本件車両一をオートオークションにて三〇万円で落札しているところ、仮に本件保険事故一によって原告X1が被告から車両保険金の支払を受けるとすれば、本件車両一の修理費に相当する一七〇万円程度の支払を受けることになり、本件保険事故一によって原告X1が得る経済的利益は大きい。
【原告X1の主張】
前記ア【被告の主張】(ウ)及び(エ)の主張及びこれらが本件保険事故一について原告X1の故意により生じたものであることを裏付ける旨の主張については争う。被告主張のその他の事実についても否認ないし争う。
(ア) 原告X1が被告主張の別件の保険金詐欺未遂事件に関与していたとの事実はない。すなわち、原告X1が、Cに対し、実際には板金修理であったのに部品交換を行ったかのような見積書を作成させ、架空の修理費を請求するよう指示するなどした事実は一切ない。その他、原告X1において、過去に疑問を持たれるような保険事故の経歴は存在しない。
(イ) 本件車両一については、入手に際し、購入代金及び諸経費を合わせて合計六〇万円程度を要しており、原告X1が本件保険事故一によって得られる経済的利益は一一〇万円程度ということになるが、この程度の金額のために保険金詐欺という犯罪行為に及ぶことは通常考えられない。
(2) 本件保険契約二に基づく保険金請求権の有無
ア 保険事故の発生の有無
【原告会社の主張】
(ア) 原告会社は、平成二一年一二月一〇日、D(以下「D」という。)から、同人使用の別紙自動車目録記載二の車両(以下「本件車両二」という。)のエアサスペンション修理の依頼を受け、原告X1(原告会社の代表者)において、同日午後七時ころ、札幌市厚別区青葉町所在のD宅(当時、D本人は不在。)において本件車両二を預かり、これを運転して約九キロメートルの距離を走行させ、同日午後七時三〇分ころ、同市<以下省略>所在の「b社」なる修理工場まで搬送したが(以下「本件搬送」という。)、本件搬送の過程で、本件車両二の左右フロントフェンダー及びフロントバンパー下部の損傷(以下「本件損傷二」という。)を発生させた(以下「本件保険事故二」という。)。
なお、原告X1は、本件搬送の過程で、本件車両二のタイヤが何かに接触する感触が数回あったが、その感触の原因を確認することなく、前記修理工場まで本件車両二の走行を続け、同工場に到着して本件車両二を預けた際にも、本件損傷二の有無については確認していない。
(イ) 原告X1は、Dから本件車両二を預かった時点で、本件損傷二の存在には気付いていなかったし、Dもまた、本件搬送の前には本件損傷二が存在しなかった旨述べていることから、本件搬送の開始時点で、本件損傷二が存在しなかったことは明らかである。また、本件損傷二のうち、左右フロントフェンダーの損傷については、本件搬送の過程で十分生じ得るものであり、フロントバンパーの損傷についても、エンジン音の存在等を考慮すれば、原告X1が損傷発生時に生じる一瞬の破損音に気付かなくても不自然とはいえず、損傷発生時に必ずしも大きな衝撃を感じるものともいえない。さらに、原告X1による本件損傷二の発見経緯については、原告X1が、平成二二年一月六日、前記修理工場から本件車両二を受け取った際にフロントフェンダーの損傷を確認し、本件車両二を運転してD宅(当時、D本人は不在。)に搬送した後、Dに電話をして前記損傷が本件搬送前には存在していなかったことを確認したというのが事実であり、これに反するDの説明は不正確である。よって、本件損傷二が原告X1による本件搬送の過程で生じた旨の原告会社の主張について、被告の指摘する不自然、不合理な点は存在しない。
【被告の主張】
(ア) 原告会社がDから本件車両二のエアサスペンション修理の依頼を受けた事実は認め、依頼を受けた時期については不知、本件保険事故二の発生については否認する。
(イ) 本件車両二のエアサスペンション機能は、平成二一年夏ころにも故障し、部品交換修理を行ったが、その後も本件車両二の車高異常を示す車内計器盤の警告灯表示が消えていなかったところ、Dは、前記修理後、原告会社への修理依頼を行うまでの三、四か月間、前記警告灯を点灯させたまま本件車両二を走行させていた事実がある一方、原告会社は、Dから本件車両二を預かった時点で、本件車両二の損傷の有無や状態について十分確認していないことから、本件損傷二は、原告会社が本件車両二を預かった平成二一年一二月一〇日より前に発生していた蓋然性がある。また、本件損傷二の具体的内容は、①左フロントフェンダー外側の擦過痕、②左フロントフェンダーアーチ最上部中央付近の波打つような凹凸の損傷、③左右フロントフェンダーアーチの約四分の一ないし三分の一の範囲にわたる塗膜剥離とさびの発生、④フロントバンパー下部における複数の割れ、擦過痕、塗膜剥離、⑤フロントバンパー取付部(左右ヘッドランプ脇)の破損であるところ、前記①の損傷は、壁や電柱等に車体を擦って生じたものであり、前記②の損傷は、構築物との衝突、板金作業、歪んだフロントフェンダーを直そうとして引っ張るなどの外側から働いた力によるものであり、前記③の損傷は、左右フロントタイヤと左右フロントフェンダーが恒常的な干渉を繰り返したことによるものであって、いずれも本件搬送中に生じたフロントフェンダーの損傷としては整合性がないし、前記④及び⑤の各損傷は、本件車両二が車体を縁石に乗り上げさせたことにより生じたと考えられるところ、発生時にはかなりの衝撃及び破損音が生じたと考えられるのであり、原告X1において本件搬送の過程でこれに気付かず、本件搬送直後に確認もしなかった旨の原告会社の主張と整合しない。さらに、本件損傷二の発見経緯について、Dは、被告側の調査担当者に対し、平成二二年一月六日(納車日)には原告X1から本件損傷二について何も知らされておらず、翌七日の午前中、Dにおいて本件車両二のフロントフェンダー付近の変形に気付き、原告X1に連絡を入れ、同日夕刻頃に原告X1がD宅に来て損傷の確認を行った旨説明しており、同説明は、本件損傷二の発見経緯に関する原告会社の主張と矛盾している。これらの事情は、本件損傷二が原告X1による本件搬送の過程で生じた旨の原告会社の主張に疑念を抱かせるものである。
イ 故意免責の抗弁の成否
【被告の主張】
仮に、本件損傷二が原告X1による本件搬送の過程で生じたとの事実が認められるとしても、前記ア【原告会社の主張】(ア)における原告会社の主張内容や、前記ア【被告の主張】(イ)における本件損傷二の具体的内容に照らせば、原告X1は、本件車両二の車体が沈み込んで左右フロントタイヤと左右フロントフェンダーが接触していることを認識しつつ、あえて本件車両二の運転を継続したと考えるのが自然かつ合理的である。よって、本件保険事故二は、原告会社(代表者である原告X1)の故意によって生じたものというべきであるから、被告は、原告会社に対し、本件保険契約二に基づく保険金の支払義務を負わない。
【原告会社の主張】
否認ないし争う。原告X1は、本件車両二をD宅に引き取りに行った際、発車前にハンドルを左右に大きく切って、フロントタイヤがフロントフェンダーに接触しないことを確認し、比較的舗装の良い道路を選んで修理工場まで走行させており、本件損傷二の発生について故意はない。
ウ 引渡後免責の抗弁の成否
【被告の主張】
被告側の調査担当者に対するDの説明によれば、本件損傷二の発見日は、本件車両二の納車があった平成二二年一月六日の翌日である同月七日であるから、本件損傷二は、本件車両二が委託者であるDに引き渡された後に発見された損傷であり、被告は、これにより原告会社が賠償責任を負担することによって被る損害に対しては保険金の支払義務を負わない。
【原告会社の主張】
否認ないし争う。原告X1は、平成二二年一月六日に修理工場から本件車両二の引渡しを受ける際には、既に本件損傷二に気付いていたのであり、本件損傷二の発見は本件車両二の引渡前である。
(3) 各保険金額
【原告X1の主張】
本件損傷一に対する修理代金は一七〇万一七二五円であり、本件保険契約一に基づく保険金額は前記同額である。
【原告会社の主張】
本件損傷二に対する修理代金は三一万五〇〇〇円であり、本件保険契約二に基づく保険金額は、同金額から本件保険契約二における免責金額五万円を控除した残額である二六万五〇〇〇円である。
【被告の主張】
いずれも否認する。
第三当裁判所の判断
一 本件保険事故一の発生の有無について
(1) 本件保険契約一に基づく車両損壊を保険事故とする保険金請求に際し、保険金請求者は、「被保険者以外の者がいたずらをして被保険車両を損傷したこと」という外形的事実につき主張立証責任を負い、同外形的事実は、損傷が人為的にされたものである事実と、損傷が被保険者以外の第三者によって行われた事実から構成されるものと解するのが相当であるところ、本件損傷一が人為的にされたものである事実については、当事者間に争いがない。
原告X1は、本件損傷一が被保険者である原告X1以外の第三者によって行われた旨主張し、その旨供述するが(甲二六、原告X1)、以下の事実関係及び検討結果に照らせば、前記主張・供述に係る事実については十分な立証がないというべきである。
(2) 原告X1の主張・供述する本件保険事故一の発生現場は、街灯の設置された公道及びサイクリングロードに面した原告X1の自宅前(玄関脇)敷地内であり、発生時刻は、平成二一年一一月一〇日夕刻から同月一一日朝までの間の夜間である可能性が高いとされる。前記発生現場である原告X1の自宅敷地と公道との間に、塀や柵等の障壁は設けられていない。また、原告X1の自宅近隣には住宅等が建ち並んでいるほか、サイクリングロードを挟んだ向かい側には大型マンションが存在し、同マンションの住戸の相当数のバルコニーが原告X1の自宅前敷地の方向を向いている。なお、前記サイクリングロードは、原告X1の自宅付近の位置において、先のトンネルに向かう形で原告X1の自宅敷地よりも低い位置に設置されており、両側には街路樹が存在している。そして、原告X1が説明する本件保険事故一発生時の前記現場における車両駐車状況は、本件車両一(長さ四八〇センチメートル、幅一八〇センチメートル、高さ一四一センチメートル)が、その右側面を原告X1の自宅外壁(数か所の窓が存在し、同外壁前には灯油タンクが存在する。)と平行に、その左側面を前記現場の面する公道と平行にする形で駐車されており、本件車両一の後部に、トヨタ・ハイエース(ナンバー<省略>、以下「ハイエース」という。)が、その前部を公道側に向けて駐車されていた、というものである(甲一七、乙一二、原告X1、弁論の全趣旨)。
(3) 本件車両一に対する損傷(本件損傷一)は、マイナスドライバー等の先端が鋭利で硬い工具類によって、ボンネット、両サイド、トランク、フロントバンパー、リヤバンパー、右ドアミラー、ルーフ(サンルーフガラス部分を含む。)を含むパネル全周にわたって付けられた線状傷であり、その一部は鋼板にまで達する深い損傷であるところ、本件損傷一が付けられた部位の地上高は、最低部分で約三〇センチメートル(左フロントドア部分)、最高部分で約一三四センチメートル(ルーフ部分)となっている。なお、本件損傷一の発覚時、ハイエースについても、フロントパネル部分に本件損傷一と類似の線状傷が数本付けられていたが、ハイエースについては自動車保険が付されていない(甲七の一ないし三、乙一ないし三、一二、二三、二四)。
この点につき、原告X1は、その法廷供述において、ハイエースに対する損傷は、フロントパネル部分のみならず側面部にも薄く付けられていた旨供述するが、同供述に対しては裏付け証拠が存在せず、これを前提とすることはできない。
(4) 前記(2)の現場状況及び同(3)における本件損傷一の具体的内容に加え、本件保険事故一に関して被告から調査依頼を受けたc株式会社(以下「c社」という。)による調査結果(乙一四、一五、二四、証人E)をも考慮すれば、前記(2)の現場が、夜間において、人通りの存在や近隣からの見通しなどの点において、原告X1以外の第三者による駐車車両へのいたずらによる損傷を不可能とするまでの環境であったとはいえないが、本件損傷一の具体的内容は、前述のとおりパネル全周にわたる極めて執拗かつ徹底的なものであり、相応の時間、労力を要するとともに、塗膜及び鋼板が削れる際の騒音の発生もあることから、原告X1以外の第三者である単独犯ないし複数犯が、公道に面した原告X1の自宅前敷地内にあえて侵入して行ったとするには、人目を避けつつ、早期に現場を離れることを重視する犯人心理に照らしてかなりの不自然さを禁じ得ない。
この点、原告X1は、原告X1の自宅近隣において本件保険事故一と同様の犯行が多発している旨供述し(甲二六、原告X1)、近隣住民二名の作成に係る車両に対するいたずらによる損傷発生の事実が記載された書面(甲二二の二、三)を提出しているが、原告X1の前記供述内容や前記書面の記載内容の正確性、これらの書面に記載された車両に対する損傷内容と本件損傷一との内容、性質の異動については裏付け証拠が存在せず、原告X1の前記供述内容を前提として判断することはできない。
(5) 加えて、原告X1は、本件保険事故一に関して被告から調査依頼を受けた株式会社d(以下「d社」という。)の調査担当者であるF(以下「F」という。)に対し、平成二一年一二月三日の面談調査時において、「本件損傷一を発見した同年一一月一一日朝は、苫小牧に車庫証明を出しに行く日であり、午前七時ころから午前九時までの間の高速道路料金のETC利用による通勤割引を利用して本件車両一で苫小牧に向かうため、自宅を出たところ、本件車両一に対する本件損傷一を発見した。本件損傷一の発見後は、予定通り車庫証明の申請に行った。」旨説明していたが、同年一二月七日の面談調査時において、Fから、本件保険事故一の発生場所が原告X1の主張する自宅敷地内であったことの裏付けとして、本件損傷一の発見後に苫小牧に行った証拠である高速道路利用時のETC記録を提出するよう求められると、「苫小牧には行っていない。本件損傷一を発見したことにより、当日は行くのをやめた。苫小牧には別の日に行った。」旨の説明を行い、さらに、c社の調査担当者であるE(以下「E」という。)及びG(以下「G」という。)に対し、平成二二年一月四日の面談調査時において、苫小牧に車庫証明を出しに行く仕事が後日どのように処理されたかについて質問されて、「誰かに頼んだかもしれないし、ここで下手なことを言うと揚げ足を取られるので、調べて回答する。」旨返答した。また、原告X1は、同日の前記面談調査時、E及びGから、苫小牧で車庫証明申請をする予定があったことを裏付ける資料の提出を要請され、これを了承したが、前記資料を提出せず、被告の代理人弁護士ら(うち一部の弁護士らは本件訴訟における被告訴訟代理人らと同一である。)の同年二月一二日付け原告X1あての「ご通知書」と題する書面において、再度、車庫証明申請の予定の存在について裏付け資料を提出した上で具体的に説明するよう求められたのに対し、「何度も説明しておりますが当日、苫小牧には行っておりません。事実のわかる書類は無と回答しております。」との回答を行い、その後、被告の前記代理人弁護士らの同年五月二八日付け原告X1あての「ご連絡」と題する書面により、前記同様の裏付け資料の提出を促されたのに対して、従前と同様、資料の提出に応じず、前記車庫証明申請に関する業務内容等についての説明もしなかった(甲一二ないし一四、一八、乙一二、一三、二四、証人E)。
なお、原告X1は、本件訴訟に至り、本件損傷一を発見した平成二一年一一月一一日は、知人の経営する「a社」なる業者からの依頼業務で、苫小牧在住の顧客のもとに車庫証明に必要な書類を受け取りに行く予定があったことから、午前七時ないし八時ころ自宅を出たところ、本件損傷一を発見したが、その後は、当初予定していた苫小牧には結局行かず、同所在住の顧客の車庫証明に関する業務については、その後「a社」が処理したと聞いているが詳細は不明である旨主張し、同旨の供述をしている(甲二六、原告X1)。他方、原告X1は、本件訴訟においても、「a社」から依頼を受けたという業務の存在及び内容等を裏付ける証拠を一切提出しておらず、前記業務の具体的内容についても明らかにしていないところ、その理由について、これらは「a社」が所管する情報であり、「a社」に迷惑をかけたくないので照会していない旨説明している(甲二六、原告X1)。
(6) 前記(5)の事情に照らせば、原告X1が、本件訴訟前の被告による調査段階から本件訴訟に至るまで、本件損傷一の発見当日に原告X1が苫小牧において行う予定であった業務の内容や、本件損傷一の発見後における当該業務の処理経緯(原告X1において本件損傷一の発見当日に苫小牧に行ったのか、別の日に行ったのか、結局行かなかったのか、行かなかったとすれば当該業務がどのように処理されたのかといった内容。)について、被告側の調査担当者からの客観的な裏付け資料の提出要請等を契機として、種々変遷する全体として曖昧な供述に終始した上、これらの事実の裏付け資料について、諸々の理由を挙げつつ一切提出していないことが明らかである。本件損傷一の発見当日に原告X1が苫小牧において行う予定であった業務の内容や、本件損傷一の発見後における当該業務の処理経緯に関する事実は、原告X1の主張・供述する本件損傷一の発見経緯の裏付けとなるべき事実であり、原告X1の主張・供述する本件損傷一の発生現場、発生時刻、発生時における原告X1のアリバイ等とも関連して、本件損傷一が原告X1以外の第三者によって付けられた旨の原告X1の主張・供述に関する重要な裏付け事実であることが明らかであるところ、これらの事実に関する前述の原告X1の説明の変遷や裏付け資料の不提出という態度については、かなりの不自然さを禁じ得ず、原告X1において、この点についての合理的説明がなされているとはいえない。
この点、原告X1は、本件訴訟前の被告による調査段階から本件訴訟に至るまで、一貫して、本件損傷一の発見後、苫小牧には行っていない旨説明していたと主張し、その旨供述するが(甲二六、原告X1)、d社のF及びc社のEが作成した各調査報告書(乙一二、一三)の具体的記載内容に明らかに反する主張・供述であって採用できない。確かに、これらの調査報告書の記載内容の正確性については慎重に検討する必要があるし、前述のF作成の調査報告書(乙一二)において、原告X1(その法廷供述によれば、原告X1の家族構成は妻、長女及び二女であり、平成二一年当時、長女及び二女はいずれも車両の運転免許を保有していない。)に長男がおり、同人が車両の運転免許を有している旨の不正確な記載が存在することは事実であるが、前述の原告X1による説明の変遷経緯については、事柄の性質上、調査担当者であるF及びEにおいて、本件保険事故一の発生認定に係る重要事実に関するものであるとの認識の下、相当の注意をもって聴取、記録化がなされたことは想像に難くないし、原告X1が、本件車両一の取得経緯について、当初、被告側の調査担当者に対し、自らの実弟と口裏合わせの上、真実はオートオークションで購入したにもかかわらず、実弟の経営する会社から購入した旨虚偽の説明をしていた事実があることは弁論の全趣旨から明らかである上、原告X1自身、平成二四年八月一七日付け第五準備書面(同月二四日の第五回弁論準備手続期日において陳述)においては、本件損傷一の発見経緯に関する事実関係につき、「確かに、本件保険事故一発生直後においては、原告X1は被告に対して虚偽であると判断されても仕方が無い報告をしていた。しかし、原告X1は、すぐに被告による調査に対して正しい報告をするに至っている。」、「原告X1の供述が変遷した理由は、本件保険事故一発生後の自分の行動については、本件とは全く関係のないことなので、必ずしも全てを正確に報告する必要は無いと思っていただけに過ぎず、変遷には合理的な理由があるというべきである。」旨、自らの説明内容の変遷を認める主張をしていた。これらの事情に照らせば、原告X1による前述の説明の変遷に関する前記各調査報告書(乙一二、一三)の記載内容については、その正確性を認めることができるというべきである。
(7) さらに、原告X1は、本件損傷一の発見直後において、被告の保険代理店に事故申告を行う一方で、本件損傷一の発生につき警察への被害申告を行っておらず、結論として被害届の提出も行っていない。前記(2)の本件保険事故一の発生現場状況及び同(3)における本件損傷一の具体的内容に照らせば、本件損傷一が原告X1以外の第三者によって付けられたとした場合、何者かが単なるいたずらの程度を超えた強固な動機に基づいて、あえて原告X1の自宅前敷地内に侵入した上で行った執拗かつ計画的な犯行ともとらえ得る余地があるところ、通常、このような被害に遭遇した者としては、本件損傷一の発生について、財産的被害にとどまらず、自らの自宅における家族も含めた生活の平穏が著しく侵害されたものとして、即座に警察への被害申告や被害届の提出に思い至るのが自然であろうと思われる。この点、原告X1は、本件損傷一の発見直後における警察への被害申告や警察への被害届の提出をしなかった理由について、諸々理由を挙げて説明しているが、前述の検討に照らして十分合理的な説明がなされているとはいえず、原告X1の前記対応にはやはり不自然さを禁じ得ない。
(8) 以上の検討によれば、本件損傷一が、原告X1の主張する日時・場所において、原告X1以外の第三者によって行われた旨の事実を認定するには合理的な疑いが残ることから、同事実を認定することはできない。
二 本件保険事故二の発生の有無について
(1) 証拠(甲二五、二六、乙七ないし一〇、原告X1)及び弁論の全趣旨によれば、原告会社が、平成二一年一二月一〇日、Dから本件車両二のエアサスペンション修理の依頼を受け、原告会社の代表者である原告X1において、同日、札幌市厚別区青葉町所在のD宅(当時、D本人は不在。)において本件車両二を預かり、これを運転して約九キロメートルの距離を走行させ、同所から同市<以下省略>所在の「b社」なる修理工場まで搬送した事実(本件搬送の事実)が認められる。
原告会社は、本件損傷二が本件搬送の過程で生じた旨主張し、原告X1においてその旨供述するが(甲二六、原告X1)、以下の事実関係及び検討結果に照らせば、前記主張・供述に係る事実については十分な立証がないというべきである。
(2) 本件損傷二(本件車両二の左右フロントフェンダー及びフロントバンパー下部の損傷)の具体的内容は、①左フロントフェンダー外側の擦過痕、②左フロントフェンダーアーチ最上部中央付近の凹み、③左右フロントフェンダーアーチの約四分の一ないし三分の一の範囲にわたる塗膜剥離及びさびの発生、④フロントバンパー下部における複数の割れ、擦過痕及び塗膜剥離、⑤フロントバンパー取付部(左右ヘッドランプ脇)の破損である(乙六、一〇、一一、二一)。本件損傷二の前記具体的内容に加え、c社による調査結果(乙一〇、一、二一、二二、二四、証人E)をも考慮すれば、前記①及び②の各損傷は、いずれも左フロントフェンダー部分の外部構築物等に対する接触ないし衝突による損傷であり、前記③の損傷は、左右フロントタイヤと左右フロントフェンダーとの恒常的な干渉による損傷であるが、本件車両二のエアサスペンション故障に伴う車高低下に起因して典型的に生ずべき走行中にハンドルを左右に切った場合のフロントタイヤとフロントフェンダーの接触痕である左右フロントフェンダーアーチ中央部の塑性変形を伴わないものであり、前記④及び⑤の各損傷は、本件車両二の車体が縁石等の段差に乗り上げた際の接触ないし衝突による損傷であるところ、これらの損傷の発生時においては、前述の損傷の具体的内容に照らして少なくとも運転者に対する相応の感触ないし衝撃を伴うものであると認めるのが相当であり、これと別異に解すべき証拠は存在しない。
(3) これに対し、原告X1は、平成二二年一月二二日の面談調査時におけるd社の調査担当者であるHに対する説明(乙七)、原告X1作成の同年二月一二日付け被告あての説明書(甲二五、乙九)及び本件訴訟における原告会社の当初の主張において、本件搬送の途中で一、二度、タイヤが左右のフロントフェンダーないし何かに接触する感触があったが、そのまま本件車両二を前記修理工場に搬送し、同所に預ける時点で本件損傷二の存否については確認しなかった旨述べていたところ、その後の本件訴訟における原告会社の主張及び原告X1の供述(甲二六、原告X1)において、本件搬送の途中経路の四か所において、回転するタイヤの路面と接する部分が何かに擦れる感触があった旨を述べるに至っている。しかし、原告X1によるこれらの説明においては、本件損傷二の前記具体的内容に対応すべき相応の感触や衝撃が運転者である原告X1において感じられておらず、前記修理工場に到着した後も、本件車両二のフロントフェンダーやフロントバンパーに対する損傷発生の有無について確認しようとすらしなかったという点において、本件損傷二の前述の具体的内容と明らかに矛盾している。
(4) また、本件車両二については、原告会社が平成二一年一二月一〇日にDから修理依頼を受けてこれを預かるに至る数か月前の同年夏ないし秋ころにも、すでに車高低下を来たして一度修理が行われたが、上記修理後も本件車両二の車高異常を示す車内計器盤の警告灯表示が消えていなかったことから、Dは、同年一二月一〇日に至るまでの数か月間にわたり、車高が低下した状態のまま本件車両二を走行させていたものと認められる(甲二五、乙八、九、原告X1)。他方において、原告会社の主張及び原告X1の法廷供述によれば、原告会社が、同年一二月一〇日にDから本件車両二を預かった際、D宅(当時、D本人は不在。)に赴いた原告X1において、本件車両二のフロントフェンダー及びフロントバンパー下部における損傷の不存在を確認したという事実がないことは明らかである。この点に関し、原告会社は、原告X1において、平成二二年一月六日、前記修理工場から本件車両二を受け取り、これを運転してD宅(当時、D本人は不在。)に搬送した後、Dに電話をして本件損傷二が本件搬送前には存在していなかったことを確認した旨主張し、原告X1において同旨の供述をしているが(甲二六、原告X1)、仮に前記主張・供述に係る事実があったとしても、Dの認識の正確性については裏付けが存在せず、これを前提に判断することはできない。
(5) 以上の検討によれば、本件損傷二が、本件搬送の過程で生じたものではなく、本件搬送前に生じていたとの可能性を否定することができず、本件損傷二が本件搬送の過程で生じた旨の事実を認定するには合理的な疑いが残ることから、同事実を認定することはできない。
第四結論
以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 戸畑賢太)
別紙
自動車目録
1 自動車登録番号 <省略>
自動車の種別 普通
用途 乗用
自家用・事業用の別 自家用
車名 メルセデス・ベンツ
型式 E―210055
車台番号 <省略>
原動機の型式 1049
所有者の名称 株式会社e
所有者の住所 北海道江別市<以下省略>
2 自動車登録番号 <省略>
自動車の種別 普通
用途 乗用
自家用・事業用の別 自家用
車名 メルセデスベンツ
型式 GF―220065
車台番号 <省略>
原動機の型式 112
所有者の名称 株式会社f
所有者の住所 愛知県名古屋市<以下省略>
使用者の氏名 D
使用者の住所 北海道札幌市<以下省略>