札幌地方裁判所 平成23年(ワ)909号 判決 2013年2月15日
原告
X1
亡X3訴訟承継人原告
X2
同法定代理人親権者父
X1
原告ら訴訟代理人弁護士
内田信也
同
秀嶋ゆかり
同
上岡由紀子
被告
北海道
同代表者知事
A
同訴訟代理人弁護士
佐々木泉顕
同指定代理人
田中宣行<他3名>
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求の趣旨
被告は、原告X1に対して六一五五万三九一〇円、原告X2に対して一九五一万七九七〇円及びこれらに対する平成二三年四月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告X1及び亡X3が、インターネット上に同級生に関する書込みをした両名の子に対して同人の通学先の高校の教師らが「お前の罪は重い、死ね」などと不適切な発言を伴う長時間の事情聴取をし、さらに裁量を逸脱して停学処分に付したため、子が自殺するに至ったなどと主張して、同校の設置者である被告に対し、国家賠償法一条一項に基づく損害賠償を求めた事案である(附帯請求は訴状送達の日の翌日を起算日とする遅延損害金の支払請求)。
亡X3が訴訟提起後に死亡したことから、その権利を原告X1及び両名の子である原告X2が取得した。
一 前提となる事実(文末の括弧内に証拠等を掲記した事実を除いて当事者間に争いがない)
(1) 当事者等
ア 亡B(以下「B」という。)は、原告X1(以下「原告X1」という。)及び亡X3(以下「X3」という。)夫婦の長男として平成四年○月○日に出生した者であり、平成一九年四月、被告が設置するa高等学校(以下「本件学校」という。)に入学し、平成二〇年七月当時、本件学校の二年○組に在籍していた。
イ 同月当時における本件学校の校長はC(以下「C校長」という。)であり、教頭はD(以下「D教頭」という。)であった。本件学校の生徒指導部には、E教諭(以下「E教諭」という。)、F教諭(以下「F教諭」という。)、G教諭(以下「G教諭」という。)及びH実習助手(以下「H助手」という。)が所属しており、E教諭が生徒指導部長であった(乙一三)。また、Bが在籍していた二年○組の担任は、I教諭(以下「I教諭」という。)であった(乙一三)。
(2) Bによるインターネット上の書込み
ア 平成二〇年七月一九日、本件学校の学校祭が開催され、各クラスごとに行燈を引いてb市内を練り歩く行燈行列が実施された。Bは、本件学校の生徒会役員であり、行燈行列運行の責任者であった。行燈は、生徒が交代しながら引くことになっていたが、Bのクラスメイトのうち六名が、これに協力的でなかった。
イ 前記のクラスメイト六名の行動に不満を抱いたBは、同日午後一〇時頃、株式会社ディー・エヌ・エー(以下「ディー・エヌ・エー」という。)が運営する△△の日記に、以下のような書込み(以下「本件書込み」という。)をした。
タイトル欄 「反省会。(a校生は見るな。)」
本文欄 「死ね。KとLとMとNとOとPは死ね。投してやる。ペナでも追放でもしろ。粕ども。塵ども。リア充どもめ。a校潰れろ。」
ウ △△は、携帯電話向けのポータルサイト兼ソーシャルネットワーキング・サービスであり、登録をすると、ゲーム、日記、伝言板、ミニメール等を利用することができる。△△の日記は、サイト又はメールから投稿することが可能で、△△に登録している者であれば閲覧することができ、ある者に対する「友達登録」をしていれば、友達登録をした相手方が日記を更新した場合、当該更新状況を容易に確認できる仕組みになっている。△△の日記には、コメント欄があり、閲覧した者がコメントを書き込むことができる。なお、日記投稿者は、ブラックリスト登録によって、特定の者の閲覧、書込みを阻止することができる。
エ 同月二〇日午前五時四三分、ディー・エヌ・エーによって本件書込みは削除された。
(3) 本件学校の教師らによる事情聴取等
I教諭は、平成二〇年七月二〇日の朝、二年○組の生徒の会話から、本件書込みの存在を知った。
本件学校の教師らは、同日午後二時一〇分頃から午後五時頃までの間、本件学校の教育相談室において、Bに対し、本件書込みに関する事情聴取又は面接を行った(以下「本件事情聴取」という。)。
(4) Bに対する無期停学処分
ア 本件学校の学則二一条は、「学校は、教育上必要があると認めるときは、生徒を賞罰することがある。」(一項)、「賞罰の種類及びその適用については、校長が定める。ただし、体罰は加えない。」(二項)と定め、これを受けて、本件学校の懲戒規程(以下「懲戒規程」という。)二条は、「学校の秩序をみだす行為をした場合」(三号)、「脅迫及びこれに類する行為」(一一号)等に校長訓戒又は停学とする旨を定め、また、三条は、「懲戒の申し渡し及び解除は、本人、保護者同席の上、校長が行う。」と定めている。
イ 平成二〇年七月二〇日午後五時一〇分頃から午後五時三〇分頃までの間、本件学校において生徒指導職員会議(以下「本件職員会議」という。)が開かれた。
C校長は、本件書込みに関して、Bを無期停学(期間の目処としては一〇日間)とする生徒指導部の案を承認し、翌二一日、Bらに対して申渡しを行うこととした(乙二四。以下、Bらに申し渡されるはずであった処分を「本件停学処分」という。)。
ウ I教諭は、平成二〇年七月二〇日午後六時頃、原告ら宅に電話をかけ、Bが無期停学処分となった旨を伝えた(以下「本件告知」という。)。
これを受けて、原告X1及びX3は、Bに対し、無期停学処分となったことを伝えた。
(5) Bの自殺
ア Bは、平成二〇年七月二〇日午後九時五五分頃、自宅二階の自室の納戸において、首吊り自殺を図り(以下「本件自殺行為」という。)、病院に搬送されたが、同年八月四日死亡した。
イ Bは、本件自殺行為の際、自室の机の上に、別紙のとおりの記載内容の自筆のメモ(甲一。ただし、同メモで同級生の実名が挙げられている部分は、別紙において、「□□」と表記する。以下「本件遺書」という。)を遺していた。
(6) 本件学校による本件事情聴取に関する調査
Bが自殺を図ったことを受けて、C校長及びD教頭は、本件事情聴取に関わった教師らから、本件事情聴取の内容について聴き取り、D教頭が、その内容を書面(乙一一。以下「本件事情聴取記録」という。)にまとめた(乙一一)。
また、D教頭は、本件事情聴取の内容をまとめた「事情聴取に係る保護者への説明」と題する書面(乙一二。以下「本件保護者説明書」という。)を作成した(乙一二)。
(7) 北海道教育委員会等による調査
ア 北海道教育庁c教育局(以下「c教育局」という。)は、本件事情聴取について、平成二〇年八月八日から同月二〇日にかけて調査を行い、調査内容をまとめた「a高等学校における『生徒指導の事情聴取』に係る調査について」と題する書面(乙一三)及び「a高等学校における『生徒指導の事情聴取』に係る調査について(再調査)」と題する書面(乙一四。以下、これらの書面を併せて「本件教育局報告書」という。)を作成した(乙一三、一四)。
イ 北海道教育委員会(以下「道教委」という。)は、c教育局の調査等に基づき、平成二〇年九月二日付けで「a高等学校における生徒自殺事故にかかわる報告」と題する書面(甲二。以下「本件道教委報告書」という。)を作成した(甲二)。
二 争点及び当事者の主張
(1) 本件事情聴取、本件停学処分の違法性とBの死亡との因果関係等
(原告らの主張)
ア 本件事情聴取の違法性
(ア) 事情聴取、生徒指導に従事する教師らは、教師らの負う安全配慮義務の一環として、事情聴取を受ける当該生徒に対し、過度に肉体的・精神的負担を及ぼさないように配慮し、また、教師らの行為によって、当該生徒に及ぼした肉体的・精神的負担や衝撃を和らげるために、事後的に適切な処置を執るべき義務を負っている。そして、かかる義務を負う教師らは、事情聴取を行うに当たって、教育目的の範囲内で必要かつ相当な指導を行う一方で、対象となる不正行為の軽重、生徒の年齢・性格・普段の行状、事情聴取をすることによって当該生徒が受ける影響等の視点から教育上の配慮を十分にすることにより、当該生徒の生命・身体・精神等への影響を回避あるいは回復する努力をすることが必要である。
(イ) ところで、Bが書き込んだ△△の日記は、比較的閉ざされた状態で自らの心境を吐露するための場所であり、本件書込みが、特定の人物に対する中傷を広めようとしたものでないことは明白である。本件書込みは、「死ね」という言葉が用いられているが、「死ね」という言葉は、子どもたちのメールやブログにおいては余りにも日常的に使われており、大人が顔をしかめるような重たい意味は全くなく、受け取った側が恐怖を覚えるなどということもない。しかも、本件書込みは、短時間で削除されただけでなく、B自身も、本件書込みをした後しばらくして我に返り、友人の協力を得つつこれを削除しようと努力しているのである。
(ウ) しかるに、Bは、本件事情聴取において、ネットに関する知識が不足する教師らから、「お前の罪は重い、死ね。」、「お前は馬鹿か。」などという不適切な発言がされ、Bの生徒会役員としての責任感や正義感に由来する本件書込みの動機が何ら重視されず、E教諭からは「うそをつくな。」と怒鳴られ、G教諭からは「あほ」と言われ、H助手からは「何が嘘か本当かわからない。反省しているようには見えないよ。」と言われ、あるいは「人と話すときは人の目を見て話しなさい。」と言われた後に、別の教師から、「おまえ、何、にらみ付けているんだ。」「目つき悪い。」などと言われるなど、糾弾を目的とし、教師に対する不信感を増長させ、精神的に追い詰め、段取りがなく、思い込みに基づく聴取を受けた。Bは、被告の主張を前提としても二時間五〇分もの長時間において、休憩を挟むことなく、トイレにも行かせないまま、入れ替わり立ち替わり、六名もの教師らによって継続され、その間、罵声を浴びせられた。Bは、生徒会役員として尽力してきた学校祭の当日に長時間の事情聴取を受けることによって、自ら司会を務めることになっていた閉祭式に参加もできなかった。
以上のような本件事情聴取は、教育目的の範囲内での必要性・相当性を欠き、Bの生命・身体・精神等への影響を回避又は回復する必要な努力を何らしていないものであり、前記(ア)の義務に違反するものであった。
(エ) なお、H助手は、実習助手であって教員ではないところ、教員でない者は教育に当たることができない(教育公務員特例法二条)から、H助手による事情聴取は、明らかな違法行為である。
イ 本件停学処分の違法性
高校は、「生徒への懲戒に関する基準を含め、生徒指導上の対応に関する基準やきまり、指導方針等について、あらかじめ明確化し、これを生徒や保護者等に周知し、生徒の自己指導能力の育成を期するとともに、家庭等の理解と協力を得るように努めること。」が求められており(文部科学省初等中等教育局児童生徒課長の平成二〇年三月一〇日付け「高等学校における生徒への懲戒の適切な運用について(通知)」)、また、「指導の透明性・公平性を確保し、学校全体としての一貫した指導を進める観点から、生徒への懲戒に関する内容及び運用基準について、あらかじめ明確化し、これを生徒や保護者等に周知すること。」が求められている(同課長の平成二二年二月一日付け「高等学校における生徒への懲戒の適切な運用について(通知)」)。
しかるに、本件学校においては、事情聴取手続及び処分基準についての準則はなく、一般的な事故と「インターネットいじめ」との懲戒規定を分けてもおらず、上記要請を満たしていない。また、本件学校の停学処分に有期停学処分がなく、無期停学処分のみとしていることは、懲戒の在り方として、社会通念上著しく妥当性を欠く。
本件停学処分は、「死ね」「投してやる」という書込み表現があったことをもって誹謗中傷の書込みであるという短絡かつ思い込みによって即断されており、書込みの媒体が日記であろうと掲示板であろうと、また、イニシャルを書かれた六名とBとの関係、書込みの動機、Bが事後に消去を試みていたこと等の事後の状況などについて一切考慮しないまま、無期停学処分という決定がなされている。本件書込みは、過去の処分事例とは異なるのに、そのことが議論された形跡もない。このような決定プロセス自体が極めて乱暴と言わざるを得ず、これでは、手続的にみても、Bの弁明の機会の保障がない。
また、本件書込みは、個人を中傷するものではなく、しかも短時間で削除されたものである。B自身は過去に同様の行為をしたことはない。前記のとおり、「死ね」という言葉は、子どもたちが日常生活の中で、深い思慮もなく軽く使っているコミュニケーション・ツールであり、一過性の「怒り」の放言に過ぎないし、受け取った側が恐怖を覚えるなどということもない。Bの行為は、過去の処分例のように、社会問題化しているいわゆる「ネットいじめ」などではなく、法的にみても違法行為・犯罪などではない。本件書込みの動機は、行燈行列における、同級生たちの怠慢行為に対する怒りであり、注意をすれば足りる問題である。
したがって、本件書込み行為は、懲戒規程二条一一号所定の「脅迫及びこれに類する行為」には該当しないし、本件停学処分は、社会通念上、著しくバランスを欠いており、裁量を逸脱した違法な懲戒処分である。
ウ 本件告知の違法性
I教諭が行った本件告知は、本件学校の懲戒規程三条(「懲戒の申し渡し及び解除は、本人、保護者同席の上、校長が行う。」)に違反する。
また、I教諭は、本件告知の際、X3に対し、無期停学という処分結果だけを通知したのであって、「目処一〇日」であるということは知らされておらず、X3は、言葉どおりに「無期限の停学」と受け取った。本件告知は、Bや両親に希望を失わせ絶望の淵に追いやる行為であり、安全配慮義務に違反する違法行為である。
エ 本件事情聴取等とBの自殺との間の因果関係及び予見可能性
Bは、本件事情聴取、本件停学処分及び本件告知の連続、連動によって肉体的、精神的に追い詰められた。Bが、三時間にわたる本件事情聴取の結果の本件停学処分に耐えられず、無念の思いを抱きながら自殺に及んだことは、本件遺書の記載から明らかである。本件告知がなければ、平成二〇年七月二〇日午後一〇時頃にBが自殺することはなかった。
教師による指導の直後に生徒が自傷行為に走る例は、全国で多数報告されており、同月一四日にも、学校側から事情を聴かれた道立高校の生徒が教室の窓から飛び降りた事件が起き、本件学校の教師らはこれを認識していたのであるから、Bの自殺行為についての予見可能性が認められる。
オ 調査報告義務違反
公立学校は、公法上の在学契約関係の付随義務として、信義則上、学校やこれに密接に関連する生活関係における生徒の行状やそれに対する指導内容などについて、親権者の求めに応じ、あるいは学校側から、教育的配慮の下、必要に応じて、親権者に報告すべき義務を負っている。特に、生命、身体、精神等に重大な影響を及ぼすおそれがある場合や現にそうした事態が発生した場合には、事態の状況やその原因、経緯、学校がどのような対応をとったか、あるいはとろうとしているかなどについて、親権者に対し報告すべき義務がある。
しかしながら、Bが自殺を図った後、原告X1らが、何度も事実経過を確認したにもかかわらず、本件学校は、断片的な事実経過の報告はしたものの、約三時間に及ぶ指導の内容や態様の全体像を詳しく明らかにすることはなく、Bのインターネットの書込み内容のデータそのものも、当初原告X1らが、本件学校に求めた際、本件学校は、「教育委員会に確認しないと。」と述べて直ちに開示せず、本件事情聴取記録、本件保護者説明書及び本件教育局報告書について、原告X1らには、書面の存在自体知さられず、本件道教委報告書を機密資料だとして見せることをせず、原告X1らを保護者説明会に参加させず、D教頭は、資料の開示を求める原告X1らに対し、開示請求をした場合には、今後、説明はできなくなると脅しのような言葉を発して、牽制までした。特に、六名の生徒との関係については、背景事情も含めた調査が必要不可欠であるにもかかわらず、六名の生徒への聴き取りすら行われていない。
結局、本件停学処分の経過については、保護者への説明責任が果たされないままでいるのである。
(被告の主張)
ア 本件事情聴取の違法性
本件書込みの内容は、六人のクラスメイトに対し、「死ね」「投してやる」「粕」「塵」などの書込みで誹謗中傷したものである。日記とはいえ、本人の携帯電話にとどまらず、友達登録している複数の生徒に発信され、さらに不特定多数の生徒たちに閲覧されている状況にあり、また、書込みから二時間程度という短時間で、書込みを批判するコメントが寄せられていることから、Bの行為は決して軽いものではなく、イニシャルでかかれた六人の生徒を含め、他の多くの生徒に影響のあるものであった。また、当時、全国で相次いで発生するインターネット上の犯行予告事件等に対し、国や警察、教育委員会や学校等の関係機関が一体となって対応策を講じていた状況において、生徒指導上看過できない内容であった。
本件事情聴取は、生徒指導部による事情聴取及び担任らによる面談を通算しても二時間五〇分であり、長時間にわたって行われたものではない。本件事情聴取に関わった教諭は六名となったものの、Bに対して同時に事情聴取及び面談をしたのは一名又は二名であり、大勢の教諭をもって威圧するように本件事情聴取が行われたというものでもない。事情聴取の内容は、本件書込みの事実と本件書込みに至った動機を中心に、Bから聴き取りを行ったものであり、教師において、Bに対して特に厳しく非難したり、あるいはBの人格を否定したり、罵倒するような発言はされていない。Bは、特に表情を変えたりすることもなく、淡々と受け答えをしていた。本件学校の教師らが、Bに対し、「お前の罪は重い、死ね。」とか、「お前は馬鹿か。」などの不適切な発言をしたことはない。
本件書込みの内容の重大性、Bの反応等を考慮すると、きちんと指導する必要があり、また、六名の教師らにはそれぞれ役割が有り、その役割に応じて適切に対応したことは明らかであるから、原告ら主張の義務に違反するものではない。
なお、学校には処理すべき種々の校務があり、組織体として全員で校務を処理するという観点から、実習助手も教員の校務を補助するものであり、H助手(同人は高等学校教諭一種免許状(商業)の免許状を有している。)が本件事情聴取に参加したからといって、直ちに違法となるものではない。
イ 本件停学処分の違法性
本件書込みは、懲戒規程二条三号「学校の秩序をみだす行為をした場合」及び同条一一号「脅迫及びこれに類する行為」に該当する。
前記のとおり、本件書込みは、決して軽い行為ではなく、本件学校が最悪の事態を想定することは当然であり、停学処分の上、本人の反省を促し、通常の学校生活に戻れるよう特別指導することは何ら合理性を欠くものではない。また、停学の期間は生徒の反省状況によって変わるものであり、最初から期間を定めるものではない。Bに対しても、当初から期限を定めるのではなく、反省状況等を見ながら指導を行うために「停学(無期停学)目処一〇日間」としたものである。
したがって、本件停学処分は適法である。
ウ 本件告知の違法性
I教諭は、平成二〇年七月二〇日午後五時頃にBの母親が来校し、Bと三名で話をした際、母親に対して今回の件について説明し、反省日誌等の書き方について説明を行い、会話の中で処分の見込みについて話が出た際、少し前にも同じような書込みの件があったことから、今回も同じような処分になるであろうという見通しを話し、停学処分が予想されること、停学の期間については、本件学校については無期停学のみで有期というものはなく、反省状況が良好であれば、早く停学が開けるということを説明した。
また、I教諭は、同日午後六時頃、教頭の指示により、原告X1宅に電話をした際、X3に本件職員会議の結果を伝えたが、その内容は、停学と言う流れであり、正式には翌日の校長申し渡しによって決定されること、停学といっても、反省日誌等の課題を仕上げていけば早く停学も明けるので、早めに作業に取り掛かってほしい旨伝えた。
処分内容は、通常、校長から申し渡されるものであるが、担任と生徒及び保護者との信頼関係の中で、事前に心構えとして伝えるメリットもある。実際、ある程度、処分の内容について知らなければ、不安になり、今後どのようにすればいいのかと尋ねてくる場合もあり、担任もBが早く学校に復帰できるよう、復帰のために必要な具体的な作業を伝えたものであり、自分の担任する生徒を思って教育的な配慮から伝えたものであるから、直ちに違法となるものではない。
エ 本件事情聴取等とBの自殺との間の因果関係及び予見可能性
本件遺書において中心となっているのは、クラスメイトに対する強い怒りの感情であり、その他にも反省や後悔、学校復帰への不安や自分への評価に対する不満、ある種の孤独感が記されている。Bの自殺は、本件事情聴取が唯一決定的な要因となったものではなく、Bの、自身の行為に対する複数の感情が相乗的に作用して、精神的昂揚を招いたことにより、自殺行為の主因が形成されたと考えられる。本件事情聴取や懲戒処分は、Bの自殺行為における条件関係の一部を構成するにすぎず、Bの自殺行為との間に相当因果関係は存しない。
また、Bの本件書込み以前の状況、本件事情聴取時の状況、過程におけるBの様子などを踏まえると、教師らが通常有するべき知識や経験をもって相当な注意義務を尽くしたとしても、Bが自殺行為を決意するような心理的反応を示す特別な心的状況にあったことを予見することは到底困難である。Bの自殺行為を招来するという特別な事情につき、本件学校の教師らにおいて予見していた、あるいは少なくとも予見し得る状況にあったとはいえない。
オ 調査報告義務違反
本件学校は、Bが自殺を図った日の翌日の平成二〇年七月二一日に、本件学校を訪れた原告X1から本件事情聴取の際に不適切な言動があったのではないかとの指摘があったことから、C校長の指示により速やかに本件事情聴取に関わった教師らを集め、事実関係の調査を行い、そのことは、原告X1及びX3に、本件事情聴取記録及び本件保護者説明書をもとに説明し、また原告X1らの求めに応じ、その都度、本件事情聴取に関わった教師らも同席させ、原告X1らの質問に回答してきた。
道教委においても、本件について、学校から報告を受けた内容からさらに詳細な調査が必要であると判断した上、同年八月八日から同月一三日と、同月一九日及び二〇日に再調査を行っており、この再調査結果をまとめて本件道教委報告書として公表したものであるから、本件学校及び道教委は必要な報告を尽くしており、調査報告義務に違反していない。
なお、本件書込みのデータについては、公文書開示制度等の規則に照らし、回答を保留したものである。本件停学処分の理由や決定に至る経緯は、C校長及びD教頭が自宅を訪問した折りに説明しており、その余は、説明を求められていない。六名の生徒から事実確認を行っていないが、どのような調査を行うかは、具体的な状況に応じて教育目的を損なうことのないよう、その効果や弊害を考慮して校長や学校の現場の裁量に委ねられているところである。本件書込みで名指しされた六名とBの間に殊更トラブルがあったわけではないし、書込み先のイニシャルの生徒の親からの要望もあったため、教育的配慮から事情聴取を行わなかったものである。
(2) 損害
(原告らの主張)
ア Bの損害
(ア) 逸失利益 五六二三万五六九二円
Bは、死亡当時、高校二年在学中の健康な男子であり、その逸失利益は、以下のとおり算出される。
平成一七年賃金センサス学歴計全労働者平均年収額(四八七万四八〇〇円)×(一-生活費控除率〇・三)×{(六七歳-一六歳=五一歳ライプニッツ一八・三三九)-(一八歳-一六歳=二歳ライプニッツ一・八五九四)}=五六二三万五六九二円
(イ) 死亡慰謝料 二二〇〇万円
Bは、本件事情聴取により、罵倒され、自尊心を粉々にされた。Bの被った精神的苦痛は、本件遺書に記載されているとおり、極めて深刻かつ甚大であった。したがって、Bの精神的苦痛を慰謝するには上記金額が相当である。
(ウ) 原告X1及びX3は、Bの上記損害賠償請求権合計七八二三万五六九二円を各二分の一ずつ相続により取得した。
イ 原告X1及びX3の固有の慰謝料 各三〇〇万円
校長及び教員らにより、我が子を自殺に追い込まれた両親の精神的苦痛は筆舌に尽くし難いものがあり、かかる苦痛に対する慰謝料は、それぞれ上記額が相当である。
ウ 原告X1の弁護士費用 三〇〇万円
エ なお、X3は、平成二三年一〇月一日に死亡し、その損害賠償請求権を夫である原告X1及び原告X1とX3夫婦の二男でBの弟である原告X2が各二分の一ずつ相続により取得した。
(被告の主張)
損害に関する原告らの主張は争う。
第三当裁判所の判断
一 事実関係
前記前提となる事実、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件の経過として、以下の事実が認められる。
(1) 本件書込み及び本件事情聴取の経緯
ア Bは、平成二〇年七月一九日午後一〇時頃、学校祭の行燈行列において、行燈を引くことに協力しないクラスメイト六名に不満を抱き、本件書込みをし、その後、友人と相談しつつ、これを削除しようとしたものの、同月二〇日の早朝にディー・エヌ・エーによって削除されるまで、自ら本件書込みを削除することはできなかった(甲一四、二九の一・二、原告X1本人)。
イ I教諭は、同日の朝、担任を務めるクラスの生徒らが、「やばいよねー。」、「死ねってあったし。」といった会話をしているのを聞き、当該生徒らから事情を聴くとともに、当該生徒らの携帯電話機の画面に映し出された本件書込みの画像を自らの携帯電話機で撮影した。この時点で、本件書込みの閲覧者は、少なくとも六五人に上っていた。(以上につき、乙一、三〇、証人I)
ウ I教諭が、本件書込みの件について、生徒指導部による指導を要すると考え、D教頭及びE教諭に報告したところ、D教頭は、E教諭に対し、Bから事情を聴くよう指示し、その際、通常どおり二名態勢で行うこと、数日前に他の道立高校の生徒が事情聴取後に飛び降りた事故があったことから、Bを一人にせず、目を離さないようにすること、言動には注意することなどを伝えた(乙二八ないし三〇、証人I、同E、同D)。
エ E教諭及びF教諭は、同日午後二時一〇分から午後三時頃までの間、E教諭がBに事情を聴き、F教諭が記録するという方法で、Bに対し、本件書込みの事実の有無、書込み内容、書き込んだ理由の確認等を行った。
その冒頭、Bが、携帯電話に書込みをしていないかと指摘されて、「友達に対して書込みをした。」旨述べた後に「書いてある内容は自分宛に書いた。」などと述べたところ、E教諭は、「嘘を付くな。」などと大きな声で一喝した。
Bは、本件書込みのうち「投してやる」の意味について、「殺」を使うと警察に捕まるため、それに近い「投」という字を使ったなどと説明した。
E教諭が、過去にBが自分の靴を隠されるという嫌がらせを受けたことについて聞くと、Bは、「とても不快だった。」、「犯人が見つかってなくて非常に不快だ。」などと述べた。
最後に、E教諭は、Bに対し、「初めから正直に話せば大きな声を出すことはなかった、熱くなってすまない。」などと謝った。(以上につき、甲二、乙一一ないし一四、二四、二九、証人I、同E)
オ E教諭の事情聴取において、Bが、クラスメイトに対し、コンビニ弁当のふたの上のラップの上にペンキでいたずら書きをしたことを認めたことから、F教諭が、同日午後三時から午後三時三〇分頃までの間、Bに対し、事実の確認等を行った(甲二、乙一一ないし一四)。
カ E教諭は、事情聴取の際、Bが、靴の嫌がらせ被害に関し「犯人が見つかってなくて非常に不快だ。」などと発言したことについて、Bが、現在でも犯人が見つかっていないことを腹立たしく思っているという意味であると理解し、他の職員に確認したところ、既に犯人が判明していたため、Bに再確認するため、この事実確認を、G教諭及びH助手に指示し、自らは、指導部会及び職員会議のための資料作成に取りかかった(甲二、乙一一ないし一四、二九、証人E)。
キ G教諭及びH助手は、午後三時三〇分から午後四時頃までの間、靴の嫌がらせ被害の件についての確認等を行った。
その際、H助手が「本当に犯人が見つからなかったか、謝罪など受けていなかったか。」と確認すると、Bは「犯人も見つかり謝罪も受けてます。」などと答えたため、H助手は「なぜ、そんなに違う話になるんだ。どうしてそうなるんだ。嘘になるんだ。」と大きな声を出し、Bが「分かりません。」と答えると、H助手は「何が嘘か本当か分からないよ、反省しているようには見えないよ。」などと述べた。また、G教諭は、本件書込みについて「新聞とかニュースとかでもやっているし、アホじゃないんだから良くないってことは分かるよな。」と述べた。
なお、H助手は、Bに対し、「人と話をするときは人の目を見て話しなさい。」と指導した。(以上につき、甲二、乙一一ないし一四)
ク 生徒指導部の教師から、Bへの事情聴取が終了したことを伝えられたI教諭は、同日午後四時頃、担任としてBの様子を確認したいと思い、午後四時二〇分頃までの間、Bと面談した。
その際、Bは、書込みについて、「次の日の朝、まずいと思って、消そうと思ったけれども、ペナルティが課されていて消せなかった。」などと述べた。
また、Bは、行燈行列でクラスのローテーションが守られていなかったことについて不満を述べたが、I教諭は、今回の表現は行き過ぎであるなどと注意した。
I教諭は、Bに対し、自らがBと六名の生徒及びBから嫌がらせを受けた生徒との間に入り、良い人間関係が築けるように協力する旨の話をした。(以上につき、甲二、乙一一ないし一四、三〇、証人I)
ケ 同日午後四時二〇分頃、D教頭から、I教諭に対し、保護者に来校してもらうように指示があり、H助手が、午後四時二〇分から午後四時三〇分頃までの間、J教諭(以下「J教諭」という。)が、午後四時三〇分頃から午後五時頃までの間、Bと話をした。J教諭は、Bに対し、悩みがあれば相談するように伝えた。(以上につき、甲二、乙一一ないし一四)。
コ 同日午後五時頃、X3が来校したため、I教諭が生徒指導室に案内し、X3に対し、事情聴取を行った経緯、反省日誌等の書き方、Bが停学処分になるであろうこと及び反省状況が良ければ学校に来られるようになることなどを説明し、作文用紙及び日誌を渡した。
その際、I教諭は、Bに対し、「なあ、B、先生、お前にチャンスやるからな。あと一年半、クラスの皆と仲良くやれよ。反省すれば学校に来れるから。」などと述べた。
Bは、X3が運転する車内において、「最初、来た先生に人と話をするときは目を見て話を聞くもんだって言われた。次に来た先生に何にらんでるんだって言われたんだ。」などと不満を述べた。(以上につき、甲一四、一五、乙三、三〇、証人I、原告X1本人)
サ 同日午後六時頃、I教諭は、X3に対し電話をかけ、Bが無期停学処分となった旨を伝えた(本件告知)。
(2) 本件事情聴取の調査及び報告
ア 平成二〇年七月二一日午前九時四〇分頃、原告X1が来校し、D教頭らに対し、Bが自殺を図ったことを知らせるとともに、本件遺書が残されており、事情聴取において不適切な言動があったのではないかという話をしたことから、D教頭は、これをC校長に報告し、C校長から事実確認をするよう指示を受けた(甲一四、乙一六、二八、証人D)。
イ D教頭は、同月二九日までに、本件事情聴取に関わったE教諭、F教諭、G教諭、H助手、I教諭及びJ教諭から本件事情聴取の内容や不適切な言動の有無などを複数回にわたり確認し、その結果を、本件事情聴取記録にまとめた。また、D教頭は、原告X1らへの説明用として、本件事情聴取記録に基づき、本件保護者説明書を作成した。(以上につき、甲一四、乙一一、一二、一六、二八、証人D)
ウ 同月三〇日午後六時五〇分頃、原告X1が来校し、校長室でC校長が本件事情聴取の内容を、本件事情聴取記録及び本件保護者説明書を読み上げるなどして説明した。原告X1は、X3に読ませるため、これらの文書を借りることを希望したが、C校長は、内部文書で、これを渡すと正式文書となるので渡せない、道教委に報告する公文書なので、渡せるかどうか相談するなどと言って、これを拒んだ。(以上につき、乙一六、二八、証人D)
エ 原告X1から、X3にも説明したいのでもう一度説明してほしい旨の要望があったため、同年八月一日午後一時頃、C校長、D教頭及びI教諭は、Bが入院している病院へ行き、Bの病室で、原告X1らに対し、本件事情聴取の内容を本件事情聴取記録及び本件保護者説明書に基づき説明した。原告X1からは、直接指導した先生からも話を聞きたいとの要望があった。(以上につき乙一六)
オ 同月二日午後七時頃、C校長、D教頭、E教諭及びF教諭が病院へ行き、E教諭が本件事情聴取の内容を説明した。原告X1は、その際、指導の内容や態様及び本件職員会議の内容について質問しており、E教諭が質問に答えた。(以上につき、甲一四、乙一六)
カ 同月三日午後三時頃、C校長、D教頭及びI教諭が病院へ行き、原告X1から学校祭前までのBの様子を聞かれ、I教諭が答えた。その際、同月四日午後七時から、本件事情聴取に関わった残りの三名(G教諭、J教諭、H助手)と面談することになったが、同日、Bが亡くなったため面談は中止となった(乙一六)。
キ 同年九月一七日午後七時頃、原告X1の自宅において、G教諭、J教諭及びH助手が、本件事情聴取の内容を説明した(甲一四)。
ク 同月二四日、原告X1の自宅において、D教頭、E教諭及びF教諭が、原告X1らの質問に答えた(甲一四)。
ケ c教育局は、平成二〇年八月八日から同月二〇日までの間、本件事情聴取の内容及び状況並びに本件遺書に記載されている「死ね」「ばか」及びこれに類似した発言の有無等について、本件事情聴取に関与した六名の教師から事実確認を行うなどして調査を行い、本件教育局報告書を作成した。道教委は、c教育局の調査等に基づき、同月二日付で本件道教委報告書を作成し、その後、これを公表し、原告X1らはこれを入手した。(以上につき、甲二、乙一三、一四)
二 本件事情聴取の違法性について
(1) 原告らは、本件遺書の記載に基づき、本件事情聴取の際、教師らから「お前の罪は重い、死ね。」、「お前は馬鹿か。」などの不適切な発言があった旨主張する。
しかるに、前記前提となる事実(5)イのとおり、原告らが指摘する本件遺書(別紙)の記載は、「日本で一番重い罪はなんだと思うと聞かれた時、自分は無期ちょうえきと答えました。学校では無期ていがくが一番重いから。あなたは死刑と答えました。お前の罪は重いと。死ねと。他の先生からは、お前はばかか?と言われました。アホか?とも言われました。」というものであるところ、このうち、「お前の罪は重いと。死ねと。」との記載は、その旨の教師らの発言を受けたBが記憶のとおりに記載したものである可能性があるものの、他方において、その直前の記載と照らし合わせると、教師らが「死刑」などと発言したのを、自らに対して「お前の罪は重い、死ね。」と暗に述べるようなものであると捉えたBなりの解釈を記載したものである可能性も否定し難い。また、「死ね」という言葉自体は、本件書込みの中にもあるから、教師らが単に本件書込みの一部を口にしたのを、Bが自分に向けられた発言と誤解した可能性もないではない。
ところで、「お前は馬鹿か。」との発言は、本件遺言に明記されており、そのような発言があったことはほぼ間違いないものと思われる。また、前記一(1)キに認定したとおり、G教諭はBに対し、「アホじゃないんだから」と述べているところ、これをBがG教諭から「アホ」と言われたと解した可能性はある。
しかしながら、かかる発言や、本件事情聴取の際に「お前の罪は重い、死ね。」との発言が仮にあったとして、本件遺言を含む本件全証拠によっても、これらの発言がなされる前後の文脈や言い方は不明といわざるを得ない。そして、これらの発言は、前後の文脈や言い方のいかんを問わずに、その発言がなされたことから直ちに原告ら主張の安全配慮義務に違反するなどして国家賠償法一条一項の適用上違法と評価することができるような内容のものであるとまではいえない。
結局のところ、本件事情聴取に当たった教師らがBに対して違法というべき不適切な発言をしたことを認めるのに足りる証拠は存在しないものといわなければならない。
(2) 原告らは、本件事情聴取に際して、Bの生徒会役員としての責任感や正義感に由来する本件書込みの動機が何ら重視されなかったと主張するが、そのようなことがあったとしても、それだけでは、本件事情聴取が違法であるということはできない。
(3) 原告らは、本件事情聴取が、糾弾を目的とし、教師に対する不信感を増長させ、精神的に追い詰め、段取りがなく、思い込みに基づくものであったと主張する。
しかるに、前記一(1)エに認定したとおり、E教諭は、「書いてある内容は自分宛に書いた。」などと述べたBに対し、「嘘を付くな。」と大きな声で一喝しているが、本件書込みがなされたのは、△△の「日記」であるから(前記前提となる事実(2)イ)、Bの「自分宛に書いた。」という発言は、必ずしも虚偽の事実を述べたものとは言い難い。また、前記一(1)カ、キの認定事実によれば、H助手は、Bがかつての靴の嫌がらせ被害について「犯人も見つかり謝罪を受けてます。」と述べたのに対し、「なぜ、そんなに違う話になるんだ。どうしてそうなるんだ。嘘になるんだ。」と大きな声を出しているが、これは、BがE教諭に対して、犯人が見つかる前の過去の心境につき、「犯人が見つかってなくて非常に不快でした。」と述べたのを、E教諭において、現在犯人が見つかっていないとの認識ないしその認識に基づく心境が述べられたものと誤解し、その誤解をそのままH助手に伝えたことによるものであり、Bは、この点に関し、何ら虚偽の事実を述べてはいなかったと考えられる。さらに、前記一(1)キ、コの認定事実によれば、Bは、本件事情聴取に際し、ある教師から、人と話をするときは目を見て会話をするようにと指導され、そのようにしたところ、他の教師から、「何にらんでるんだ。」と叱責されたことが認められる。
このように、本件事情聴取に当たった教師らの発言には、Bが虚偽の事実を述べたとの誤解に基づいて「嘘を付くな。」と叱責し、また、教師によって異なることを述べるなど、いささか妥当性を欠いた面もあるものと窺われる。そして、本件事情聴取が約二時間五〇分もの長時間にわたって行われたこと(前記一(1)エないしコ)などに照らすと、本件事情聴取は、Bに教師に対する不信感を増長させ、Bを精神的に追い詰めるものであり、また、段取りというべきものがなく、思い込みに基づく発言も見られるものであって、これらを指摘する原告らの主張には、首肯すべき点がある。
しかしながら、後記三のとおり、本件書込みは、本件学校の教師らがこれを問題視するのも当然というべき、本件学校の懲戒規程上の停学事由に該当する行為であると認められるところ、そのような本件書込みの重大性に照らすと、本件学校の教師らが、慎重を期して、代わる代わる事情聴取を行った結果、本件事情聴取が長時間にわたり、かつ、時機を逸することのないよう、段取りというべきものを立てる間もなく本件事情聴取を開始し、そのために思い込みに基づく発言もし、これらにより、Bに教師に対する不信感を増長させ、Bを精神的に追い詰めたとしても、やむを得ないというべき面がある。まして、本件事情聴取が、原告ら主張のような糾弾の目的でなされたことを認めるべき証拠は存在しない。
そうすると、本件事情聴取の経過の中には種々問題があるものの、これが国家賠償法一条一項の適用上違法であるとまでは認められない。
(4) 原告らは、教育公務員特例法二条を引用して、教員でない者は教育に当たることができないから、H助手による事情聴取は明らかな違法行為であると主張するが、同法は教育公務員の任免等を規定するにすぎず(同法一条)、また同法の規定のいくつかは教員でない公立高校の実習助手にも準用されるのであって(同法三〇条、同法施行令一〇条二項)、同法を引用する原告らの主張は、失当といわなければならない。原告らの上記主張が、H助手が教員免許状を有しないことを前提として、H助手による事情聴取が教員免許状を有しない者による教育であり、教育職員免許法に違反するとする趣旨であるとしても、被告の主張に照らすと、H助手は教員免許状を有するものと窺われる上に、仮に、教員免許状を有しない者が本件事情聴取のような行為に関与したからといって、そのことをもって直ちに国家賠償法一条一項の適用上違法ということはできない。
(5) 以上によれば、本件事情聴取が違法であるとする原告らの主張は、これを採用することができない。
三 本件停学処分の違法性について
(1) まず、本件停学処分の手続について検討するに、前記前提となる事実(4)イ及び前記一(1)エないしケに認定したとおり、本件学校の教師らは、Bから本件書込みの事実の有無、内容及び動機等について事情を聴き、その内容が、本件職員会議において伝えられた上、生徒指導部による本件停学処分の案がC校長に承認がされたのであり、その過程において違法な点は認められない。
原告らは、本件学校で事情聴取手続及び処分基準について準則のないことなどが、文部科学省初等中等教育局児童生徒課長による平成二〇年三月一〇日付け「高等学校における生徒への懲戒の適切な運用について(通知)」及び平成二二年二月一日付け「高等学校における生徒への懲戒の適切な運用について(通知)」)に反するかのように主張するところ、甲一〇、一一、乙七の一・二によれば、本件学校においては、学則及び懲戒規程を定めているのみであり、上記の課長通知に記載された懲戒に関する内容及び運用基準の明確化並びにその周知の要請に悖る点のあることが認められないではないが、それだけでは、本件停学処分に至る手続が国家賠償法一条一項の適用上違法であるということはできない。
また、原告らは、本件学校の停学処分に有期停学処分のないことが社会通念上著しく妥当性を欠くと主張するが、被告が主張するように、停学の期間は生徒の反省状況によって変わるものであるとして、最初から期間を定めるべきものではないとの見解もあり得るところであって、本件学校の停学処分に有期停学処分のないことから直ちに、本件停学処分に至る手続が違法であるということはできない。
(2) 次に、本件停学処分の内容について検討するに、本件書込みは、「死ね。KとLとMとNとOとPは死ね。投してやる。ペナでも追放でもしろ。粕ども。塵ども。リア充どもめ。a校潰れろ。」という内容のものであるところ(前記前提となる事実(2)イ)、前記一(1)エに認定したBの説明に照らすと、このうち、「投してやる」というのは、イニシャルで特定した六名の同級生を「殺してやる」という趣旨の記載であることが認められる。そして、本件書込みが△△の日記になされたとはいえ、△△に登録している者であれば閲覧可能であり(前記前提となる事実(2)ウ)、現に相当数の者が本件書込みを閲覧しており、同級生の話題になっていたこと(前記一(1)イ)などからして、Bは、どの程度意識したのかはともかく、本件学校の同級生らが閲覧するかも知れないと認識しながら、上記の趣旨の記載を含む本件書込みをしたものと推認することができるのであり、Bが本件書込みをしたことを知ったI教諭ら本件学校の教師らがこれを問題視したのは、当然のことといわなければならない。
また、乙四の一・三、五、六の一・二によれば、本件書込み以前の平成二〇年七月一五日、本件学校の生徒が、△△及び当該生徒が運営するブログに、同級生のことを「キモイ」、「ウザイ」、「消えればいいのに」、「死ね」と書き込んだことについて、当該生徒に対し、一〇日間を目処とする停学処分がなされ、同日、△△において、同級生二人に対し、「死ね」等を書き込んだ生徒四人に対し、七日間ないし一〇日間を目処とする停学処分がなされており、同月一六日、本件学校で開催された全校集会において、E教諭が生徒に対し、北海道警察本部及び道教委作成のチラシに基づき、インターネット掲示板への犯行予告の書込みが犯罪であり、本件学校でも誹謗中傷の書込みについて指導を受けた生徒がいること、誹謗中傷の書込みがされた場合は、内容によっては停学になることなどを説明したことが認められる。そうすると、本件書込みは、上記の全校集会における指導のわずか三日後になされたことになるのであり、これらの事情に照らすと、仮に、本件書込みの主たる動機が、原告ら主張のように、行燈行列の際にルールを守らなかった生徒に対する不満にあったとしても、あるいは、Bが本件書込みを削除しようと試みていたこと(前記一(1)イ)を考慮しても、本件書込みは、停学事由を定める本件学校の懲戒規程二条三号の「学校の秩序をみだす行為をした場合」及び同条一一号の「脅迫及びこれに類する行為」(前記前提となる事実(4)ア)に該当するというべきであり、そして、そのことを理由としてBを本件停学処分に付することが、全くの事実の基礎を欠くとか、あるいは社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を逸脱又は裁量権を濫用した違法な処分であると認めることはできない。
(3) 以上によれば、本件停学処分が違法であるとする原告らの主張は、これを採用することができない。
四 本件告知の違法性について
原告らは、I教諭が行った本件告知が、懲戒の申渡しは校長が行うとする本件学校の懲戒規程三条に違反すると主張するが、前記前提となる事実(4)イに認定したとおり、本件停学処分の申渡しは、本件事情聴取の翌日に、C校長がBらに対してする予定であったのであり、本件告知は、単に、正式な申渡しの前に本件職員会議(前記前提となる事実(4)イ)の結果を報告したものにすぎないと解されるから、何ら違法な点はないといわなければならない。
また、原告らは、本件告知の際に「目処一〇日」であるということは知らされなかったと主張するが、前記一(1)コに認定したとおり、I教諭は、本件告知以前に、X3に対し、Bが停学処分になるであろうこと及び反省状況が良ければ学校に来られるようになることなどを説明し、Bに対しても、反省すれば学校に来られるようになるなどと伝えており、本件遺言の中にも、「仮に自分が更生して学校に行ったとしよう。」として、BがI教諭の説明を理解したことを前提とする記載が見られるところであるから、本件告知の際、無期停学となったことのみが伝えられ、目処となる期間が一〇日であることを伝えられなかったとしても、それだけでは、本件告知がBに対し過度の精神的負担を与えるものとして国家賠償法一条一項の適用上違法であるなどということはできない。
五 調査報告義務違反について
原告らは、公立学校には、学校やこれに密接に関連する生活関係における生徒の行状やそれに対する指導内容について、親権者の求め等に応じて、親権者に報告する信義則上の義務があると主張するが、かかる主張には必ずしも首肯し難い上に、前記(2)に認定したところによれば、D教頭は、本件自殺行為を受けて、本件事情聴取に関与した六名の教師から事実確認を行い、その結果をまとめた本件事情聴取記録及び本件保護者説明書を作成し、C校長らが、原告X1及びX3に対し、これらを読み上げるなどして本件事情聴取の状況及び内容について説明し、また、本件事情聴取らに関与した六名の教師自身も、原告X1らに対し、本件事情聴取の内容、本件職員会議の内容及び学校祭前のBの様子などについて説明したり、原告X1らの質問に対し回答するなど、相応の調査と報告をしたものと認められるのであり、さらに、c教育局も、本件遺書の記載内容を念頭に置いた上で、本件事情聴取に関与した六名の教師から事実確認を行い、本件教育局報告書を作成し、道教委が、これに基づいて、本件道教委報告書を作成・公表し、これを原告X1らが入手するに至っているのであるから、本件学校ないし本件学校の設置者である被告の調査や報告は、仮にその内容において至らない点があったとしても、そのことをもって国家賠償法一条一項の適用上違法であるとは認められない。
六 結論
よって、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石橋俊一 裁判官 本田晃 舘洋一郎)
別紙
償いについて自分は死ぬべきだと思う。
自分は殺す。死ね。と軽々しく書いたので相手側に恐怖を与えたのであれば自分は自身のケジメをつけるために死のうと思う。
そして
自分は他人をいじめた。自分自身には本当に自覚がなかった事だ。
確かにやったことは事実である。本人にはいってきたが冗談だと思った。
今度遊ぶ予定もしていたし、これから仲よくできるかなと思っていたが、相手方が不快に思っていたなんて。言ってくれればよかったのに。
仮に自分が更生して学校に行ったとしよう。どうだろうか?
男子にはあの六人を中心として逆にいじめられることとなるだろう。
女子からはキチガイと思われてこのままずっとこんな感じだろう。
悪口かいたのは自分の責任。キチガイ扱いされるのも自分の責任。
自分は生徒会もやっている。まじめに学校にもいっていたつもりだ。
先生たちに今日あれだけいわれたんだ。おれって先生たちにも信用なかったんだね。がんばった。がんばったんだけど認めてもらえなかったんだね。
なんでだれも変に思わなかったんだろうか?なあ?なんでだれも不思議に思わないんだ?不普殺すとか書くやつか?動機はきかれたがそんな重要じゃないんだ?だれも自分の事信用してないもんね。もとから。
相手方と話すって何を?僕の処分を?おかしくないだろうか?
相手方にも原因があるんだぜ。話しても誰も聞いてくれないし、味方もいないんだ。この世界には。ぼくが他人をいじめたと言ったが罪の意識があってやったことじゃないがこの場で謝りたい。
「ごめんなさい。」「もうしません。」「許して下さい。」「死にますから。」
ある先生に書きこんで相手が死んだらどうすると聞かれて自分は死にます。と答えた。僕は死ぬ、a校の生徒と先生たちに。
みんな。責任とってね。とらないと恐むからね。
死は世話になった
人への最大の裏切り
全て自分の責任。自分が悪いんだ。全ておれがまいた種だ
先生たちにおまえは反省していないだろうとか言われたが、自分自身どれだけ不思議だったことか。自分は泣いていたよ。心から。
涙が出ないとダメですか?土下座しないとダメですか?
死なないとダメですか?日本で一番重い罪は何だと思うと聞かれた時、自分は無期ちょうえきと答えました。学校では無期ていがくが一番重いから。あなたは死刑と答えました。おまえの罪は重いと。
死ねと。他の先生からは、お前はバカか?と言われました。
アホか?とも言われました。自分は相手の心がわからない程頭はイカレていないはずだよ。もういいけどね。
もともとリアルに学校では仲間はいなかったんだしさ。
先生も味方にはなってくれないしさ。むしろ敵だらけだったんだ。
もう死ぬしかないんだ。反省してるのにしてない。目つきわるい態度がわるいっていうならばもうどうしようもないじゃないか。
学校では最近は誰とも話していない。誰も話を聞いてくれていないし。どうしろというんだ。全て自分が悪いんだ。全て自分がいけないんだ。iPodもってきても、かくれて酒のんでいても、タバコ吸っていても、かみをそめていても、ほかに書きこんでるやつがいても先生は気に入っている生徒には知らんふりか。いいよね。
実際いじめたというなら他にもやってたやついたしね。
□□とか□□とか。成績良いから汚点あると悪いから言わなかったけどね。どうせあの六人が自分の事気に入らなかったんだろう。だから適当に悪いことをいえば先生に気に入られている自分たちは許されると思ったんだろう。
人間は貧弱だが、決して無力ではないってね。
単純に人数が多く自分たちの気に入った人たちの意見をのみこんで自分にあたるんだ。先生たちは。不公平だよね。
僕に停学は重すぎる。
たった一度なのに。あいつらは他人の悪口を書いているかも知れないのに。くそ。くそ。くそ。
やっと夢みつけたのに。もっとやりたいことあったのに。
もう死ぬ。終わり。他の人間余生を楽しめばいいぜ。
自分には誰からの信用もないけどいちおう自分の事実を書いとく。
自分には人を殺せるわけないだろう。罪が重すぎて自分には耐えられない