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札幌地方裁判所 平成23年(行ウ)12号 判決 2013年4月15日

主文

1  別紙物件目録記載の土地は建築基準法第42条第1項第3号に基づく現存道路に該当しないことを確認する。

2  訴訟費用中,補助参加についての異議によって生じた分は原告の負担とし,補助参加によって生じた分は被告補助参加人の負担とし,その余の訴訟費用,参加費用は,被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  別紙物件目録記載の土地は建築基準法第42条第1項第3号に基づく現存道 路に該当しないことを確認する。

2  訴訟費用は,被告の負担とする。

第2事案の概要等

1  事案の概要

本件は,別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)につき2分の1の持分を有する原告が,被告の代表者である札幌市長において,被告補助参加人の申請により,本件土地につき建築基準法42条1項3号に基づく現存道路の指定をしたことに対し,本件土地が建築基準法第3章の規定が適用されるに至った昭和25年11月23日の時点において同法所定の道路の現況にはなかったもので,建築基準法42条1項3号の要件を充たす現存道路には当たらないとして,被告を相手取り,同法42条1項3号の道路(以下「現存道路」という。)に該当しないことの確認を求める事案である。

被告は,被告補助参加人は,被告に対し,本件土地について現存道路の指定を求める申請を行った者であり,仮に本件訴訟で本件土地が現存道路に該当しないことが確認されればその所有する宅地上の建築物は同法43条に定めるいわゆる接道要件を満たさないこととなる可能性があるから,本件訴訟の結果について利害関係を有しているとして,被告補助参加人に対し訴訟告知(行政事件訴訟法7条,民事訴訟法53条)をした。被告補助参加人は,上記訴訟告知を受けて,本件訴訟につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法42条の規定に基づき,被告のための補助参加の申出をし,原告は異議を述べた。当裁判所は,当該補助参加の申出は理由があるものと認め,決定でこれを許可した。

2  前提となる事実(争いのない事実に加え,各項末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)

(1)  当事者等

原告は,一般乗用旅客自動車運送事業等(タクシー業)を目的とする株式会社であり,本件土地の共有持分権者(持分2分の1)である。

(2)  現存道路の要件及び取扱手続

ア 現存道路とは,建築基準法第3章の規定が適用されるに至った際現に存在する道であり,かつ,幅員4m以上のものをいい,(同法42条1項3号),同法第3章の規定が適用されるに至った際とは,同法の施行日である昭和25年11月23日である。

イ(ア) 被告における現存道路の申請の方法及びその手順等は,札幌市道路位置指定申請指導要綱(平成18年4月1日制定。以下「本件指導要綱」という。甲3)等により,次のとおり定められている。

土地所有者等は,本件指導要綱に基づき,対象となる土地について現存道路の指定を求める旨の申請をする。被告は,申請を受け,当該土地を調査するなどして,現存道路の要件該当性を判断する。被告は,調査の結果,当該土地が現存道路の要件に該当すると判断できれば,当該土地を現存道路として取り扱い,その旨の道路台帳を調製する。

上記申請は,調査依頼書(様式-1),申請書(様式-3)及び承諾書(様式-4,5)等の書類を添付して行う。本件指導要綱は,承諾を要する者として,①現存道路の敷地となる土地又はその土地にある建築物若しくは工作物の全部事項証明書「甲区」「乙区」欄に記載されている全権利者,②①の権利者が死亡している場合は法定相続人全員,③①の権利者である会社が倒産・閉鎖している場合は,代表清算人等を挙げている。

(イ) また,札幌市道路位置指定申請審査基準(甲4)は,現存道路の判定基準として,幅員4m以上で法施行時あるいは都市計画区域決定のいずれか遅い年度の前より,現に道路として使用されていることを当該年度の航空写真等で確認できることを挙げている。

(3)  道路指定台帳の調製の経緯

ア 被告補助参加人は,平成22年1月25日,被告に対し,本件土地について現存道路の指定を求める旨の申請(以下「本件申請」という。)を行った。

被告補助参加人は,本件申請の際に,被告に対し,本件土地の近隣に居住していた2名の住民の署名がされ,「昭和24年ころより不特定多数の人が,通行の用に供していたことを証明します。」と記載された書面及び本件土地の近隣に居住していた2名の住民の署名が記載され,近道として利用されていたこと等が記載された書面を提出した(乙5の1ないし4)。

イ 被告は,同年2月1日,本件申請に係る申請書の備考欄に「法第42条第1項3号による道路取扱い年月日平成22年2月1日」と印字し,その旨の道路指定台帳を調製した。

3  争点及びこれに対する当事者の主張

(1)  本案前の争点(本件確認の訴えの適否)

(原告の主張)

ア 法律上の争訟性について

(ア) 行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)4条は,「公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟」を実質的当事者訴訟として定めている。

平成22年2月1日に本件土地を現存道路として取り扱うこととした被告の行為(以下「本件取扱い」という。)は行政処分に当たらない。

しかしながら,本件土地は,原告の所有する土地上にあり,建築基準法上の道路として取り扱われることは,原告に対し,道路として供用する義務を負わせるものである。つまり,建築基準法上の道路は,私有地であっても道路としての役割を果たすために公法的な規制を受けるものであり,道路内の建築制限(建築基準法44条),私道の変更又は廃止の制限(同法45条),道路における禁止行為(道路交通法76条),道路の使用に際しての許可の必要(同法77条)等,道路として取り扱われることにより,原告は当該道路部分を私有地として自由に排他的に使用できなくなる。このように,現存道路であるとして取り扱うことは,建築基準法や道路交通法といった公法上の義務を負わせるものであるから,本件土地が現存道路であるか否かは公法上の法律関係であるといえる。

よって,本件確認の訴えは,実質的当事者訴訟として,法律上の争訟に当たる。

(イ) 仮に,本件確認の訴えが実質的当事者訴訟でないとしても,本件土地が現存道路でないことを確認する本件確認の訴えは,法律上の争訟に当たる。

本件取扱い以後,原告は,被告に対し,本件土地は私有地上の道路に過ぎないので,建築基準法上の道路に当たらず,自由な使用を認めてほしいと被告に求めてきたが,被告がこれを容れなかったことから,別件の現存道路指定処分取消訴訟及び本件訴訟を提起したものである。したがって,本件訴訟に至る以前に,原告と被告との間には,本件土地に関する義務の存否について具体的な争いがあった。

そして,本件土地が建築基準法上の道路に当たらないことが確認されれば,原告は本件土地を自由に使用することができるのであるから,これにより,原告と被告との間の紛争は終局的に解決する。

よって,本件確認の訴えは,法律上の争訟に当たる。

イ 確認の利益について

(ア) 本件確認の訴えは過去の事実確認の訴えには当たらないこと

本件確認の訴えは,現時点において本件土地が建築基準法上の現存道路ではないとの確認を求めるものである。建築基準法上の現存道路(同法42条1項3号)が,「この章の規定が適用されるに至った際に現に存在する道」と規定している結果,同法第3章の規定が適用された時点という基準時が問題となるに過ぎないのであって,原告は過去の事実の確認を求めているわけではない。同法第3章の規定が適用された時点で,本件土地が「道」であったか否かという事実は,本件土地が現存道路か否かを認定するための間接事実に過ぎず,本件確認の訴えの目的ではない。

(イ) 過去の事実の確認だとしても許される場合に当たること

ある基本的な法律関係から生じた法律関係につき現在法律上の紛争が存在し,現在の権利又は法律関係の個別的な確定が必ずしも紛争の抜本的解決をもたらさず,かえって,これらの権利または法律関係の基本となる法律関係を確定することが,紛争の直接かつ抜本的な解決のため最も適切かつ必要と認められる場合においては,過去の事実の確認を求めることが許される(最高裁昭和47年11月9日第一小法廷判決・民集26巻9号1513頁参照)。

原告が求めているのは,本件土地が現存道路に当たらないことの確認であるが,現在は本件取扱いにより,本件土地は一応道路として利用されるに至っているため,現在の権利関係の確認では紛争の解決がなされず,本件土地が建築基準法42条1項3号の「この章の規定が適用される際」に「道」であったか否かを事実認定すれば,紛争の抜本的解決がなされることとなる。

したがって,これらの事実認定が過去の事実の確認だとしても,上記判例がいう「過去の事実の確認が許される場合」に当たるのであって,本件確認の訴えは適法である。

(ウ) 即時確定の利益があること

上記ア(ア)記載の制約は罰則付きのものであるから(建築基準法101条1項3号,道路交通法118条1項6号,同法119条12号の4,同法120条1項9号,同法123条),強制的に利用を制限している。

そして,建築基準法上の制限・義務は,同法の規定から直接生じるものであって,本件土地が現存道路であるか否かと直接関係するものである。道路交通法上の制限・義務は,直接的には同法上の道路(同法2条1項)に当たるか否かの問題であるが,本件土地が現存道路として建築基準法上変更・廃止ができず,一般交通の用に供されてきた状態を変更できないことにより,道路交通法上の制限・義務を負うこととなるため,本件土地が現存道路であるか否かは,道路交通法上の義務とも重要な関連性を持つ。

したがって,本件土地が道路に当たらないことを確認することにより,原告はこれらの制限・義務の負担を免れることができる。

(被告の主張)

ア 本件確認の訴えは法律上の争訟に当たらないこと

現存道路とは,建築基準法第3章の施行当時,本件土地が既に同法の定める道路の要件を満たしていたという事実から当然に生ずる結果であるから,原告が求める「本件道路が現存道路に該当しないことの確認」は,単に事実の不存在の確認を求めるものであり,裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」,すなわち「当事者間の具体的権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって,かつ,法令の適用により終局的に解決することができるもの」に当たらないことは明らかである。

原告は,本件土地が現存道路としての取扱いを受けることを争っており,現に本件土地の権利関係をめぐって具体的な紛争となっていると主張するが,法律上の争訟であることについての具体的な主張とはいえないばかりか,このような理由での訴訟の提起は,本件土地が建築基準法上の道路であることを前提として日常生活を営んでいる近隣住民の生活基盤をいたずらに脅かすものであり,極めて不適当であるといわざるを得ない。

イ 確認の利益がないこと

(ア) 確認の対象が不適切であること

現存道路は,建築基準法第3章の規定が適用されるに至った際,現に存在した道については,行政庁の何らの処分を要さず,当然に法における道路とされるものである。

原告は,本件訴訟は,本件土地が現存道路に該当するか否かという本件土地に関する現在の権利関係の確認を直截的に求めるものであると主張するが,本件土地が現存道路に該当するか否かとは,実質的には,本件土地が,昭和25年11月23日の時点において幅員4m以上の道路として存在したか否かという過去の事実の確認を求めるものにほかならない。

(イ) 即時確定の利益がないこと

確認の訴えが許されるのは,即時確定の利益がある場合に限られるものであり,「現に,原告の有する権利または法律的地位に危険または不安が存在し,これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り,許されるものである」とされている(最高裁昭和30年12月26日第三小法廷判決・民集9巻14号2082頁参照)

これを本件についてみると,道路交通法上の道路に当たることによる各種の規制については,同法の適用上の問題であり,本件土地が現存道路と認められるかどうかとは直接の関係がなく,防犯上・交通安全対策上の負担についても,本件土地が,不特定の者が自由に通行できる状態になっていることによる事実上の負担にすぎないから,本件土地が現存道路であることとは無関係である。

問題となり得るのは,本件土地が現存道路として取り扱われることにより,原告が本件土地を使用する上で本件土地内での建築が制限されることや,本件土地の入口部分を閉鎖して,駐車場として使用することについて制約が生じるという点であるが,これらも,将来の可能性をいうものにすぎず,現在における原告の法律上の不安・危険に関するものではないから,そのような問題が具体化した時点で,その内容に応じた訴訟形式を選択して裁判所の判断を求めれば足りるものであって,現時点で将来の法律関係について確認する利益は認められない。

ウ 重複訴訟禁止の趣旨に抵触すること

本件確認の訴えの訴訟物は,本件土地が建築基準法42条1項3号に該当しないことである。

他方,先行事件である現存道路位置指定処分取消訴訟(原審・札幌地方裁判所平成○年(行ウ)第○号,控訴審・札幌高等裁判所平成○年(行コ)第○号)における訴訟物は,被告が本件土地を現存道路として取り扱うことの違法性一般であり,当該違法性の中には,本件土地が建築基準法42条1項3号の要件を満たしているかどうかの判断が包含されていることから,本件確認の訴えと先行事件の訴訟物は実質的に同一であるということができ,本件確認の訴えの裁判と先行事件の裁判とが矛盾抵触するおそれがある。

仮に,本件確認の訴えと先行事件の訴訟物が同一ではないとしても,先行事件においても,現存道路位置指定処分の違法性を基礎付ける事実として,本件土地が建築基準法42条1項3号に該当しないことについての主張立証が行われていることから,本件確認の訴えと先行事件の請求の原因は同一であり,裁判の矛盾抵触のおそれがあるだけでなく,二重の審理を余儀なくされ訴訟経済に反するとともに,被告が二重に応訴する負担が生じている。

したがって,本件確認の訴えは,重複訴訟の禁止(民事訴訟法142条)に該当し,却下されるべきである。

エ 以上のとおり,本件確認の訴えは不適法である。

(被告補助参加人の主張)

本件確認の訴えは,本件土地が「現存道路」でないことの確認を求めるものであるところ,本件では現存道路であることを前提とした具体的行政処分はなされていない上,法的事実の不存在の確認を求めるものに過ぎず,その確認をすることにより何ら具体的紛争解決がなされるものではないから,訴えの利益がない。

(2)  本案の争点(本件土地が現存道路に該当するか)

(被告の主張)

ア 航空写真等及び図面について

本件土地が現存道路と認められるためには,建築基準法の施行時(昭和25年11月23日)において,道路であったことが必要であるところ,昭和23年4月22日撮影の航空写真(乙8の1,2)によると,本件土地にあたる部分は約1㎝にわたり南北方向に色が薄く写っており,当該航空写真の縮尺が1万5880分の1であること及び印画の倍率が2倍であることから,当該部分の延長は約79mであることが明らかであり,他方, 幅員は,当該航空写真上,1㎜以上あることから,実際には8mの幅員があったことが明らかである。

この状況は,昭和36年5月2日撮影の航空写真(乙9の1,2)によっても変わりはないから,建築基準法第3章の施行時である昭和25年11月23日においても,同様の状況であったということができる。

さらに,北海道庁が昭和7年8月に調査の上作成した土地整理原図(乙3の1ないし6)において,本件土地の部分は,幅員は9.09mの道路状の土地として表示されており,通常このような形状の土地が道以外のものとは考えられない上,上記航空写真により認められる状況と合致するものといえる。

イ 近隣住民の説明について

被告補助参加人が平成22年1月25日に本件土地について現存道路の取扱いに係る申請を行った際に被告に提出した書面により,本件土地の近隣に居住していた4名の住民が,本件土地は,建築基準法施行時において道路であり,当時よりαの中心から北広島,β,札幌(当時)に出る近道やγ川に沿って国道○号線に出る道として,日常の生活路として利用されていた等と述べている。

そして,上記書面の作成経過については,何ら問題とすべき点はなく,その信用性を疑うべき理由はない。

これに対して,証人Aは,被告補助参加人とともに,品川弁護士に依頼し,本件土地について現存道路の取扱いに係る道路位置指定申請をしようとした経緯があり,その証言は,明らかに実際の行動と矛盾していること,被告補助参加人に対して悪感情を抱いているため,被告補助参加人にとって殊更に不利益な証言をした可能性があること,B協同組合(以下「C」という。原告はCに所属している。)に土地を賃貸し,毎月高額の賃料を得ており,原告にとって殊更に有利な証言をした可能性があることから,証人Aの証言は信用することができない。

ウ 以上より,本件土地は建築基準法施行時において,幅員4m以上の道路であったことが認められ,現存道路の要件を満たすものであることは明らかである。

なお,本件土地は,地方税法348条2項5号に規定する「公共の用に供する道路」として取り扱われているため,少なくとも原告が本件土地の所有者となった平成21年度以降,固定資産税が非課税となっており,原告は本件土地が道路であることを前提として,課税上の恩恵を受けていることを付言する。

(被告補助参加人の主張)

ア 航空写真(乙8の1,2,乙9の1,2)及び本件土地の道路用地としての払下証明願等(丙1ないし11)からすれば,本件土地が昭和25年以前から道路だったことは明らかである。

イ 本件土地は,昭和25年以前から原野であったものが道路として使用されていたところ,昭和48年頃,国から公共性の高い団体であるCに対し,公的目的である道路用地として払い下げられたものであり,その公共性から通常より安価での払下げがなされたものと思われる。

そして,道路だったことから隣接地所有者の払下同意書が必要であったものである。

ところが,Cは,払下げを受けた後,本件土地を自己の所有地として登記をせずに,Cの当時の理事長だったD外1名の個人名義にて虚偽登記をなした上,道路用地として払下げを受けたにもかかわらず,その地目を宅地として登記をした。これは,本件土地を私物化するものであり,明らかに国からの払下条件に違反するものである。

本来であれば,払下条件に従い,本件土地は,現存道路であるか否かに関わらず,速やかにCへ所有名義を変更し,かつ,登記上の地目も道路と変更されるべきものであり,併せて私的利益として設定された抵当権は抹 消されるべきものである。

さらに,Cは,払下げに必要な同意書をEから受領する際,同人に対し,「3年以内に本件土地を札幌市に寄付する」旨告げており,Cはこの約束に従い,本件土地を札幌市に寄付すべきものである。

以上の払下げの経緯からも,本件土地が現存道路であることは明らかである。

(原告の主張)

ア 本件土地は,以下のとおり,昭和25年11月23日当時は畑であり,「現に存在する道」ではなかったのであるから,現存道路に該当しない。

イ 昭和47年にCが本件土地近辺一帯の開発行為を被告に申請した際の図面等,A証言及び航空写真(乙8の1,乙9の1)によれば,昭和36年当時,本件土地上に一般公衆が使用していた幅員4mの道路は存在せず,本件土地より3ないし4m高い地盤(F家の畑)の西側部分に存した斜面(法面)の下部が西側隣地(この土地は,現在の本件土地の地盤とほぼ同じくらいの高さだった。)との境界になっており,そこを人が通ることがあっただけであることが分かる。そして,乙9の1の赤矢印の先端に見える色の変わった線状の部分はこの法面である。

現在,本件土地は道路状となっているが,これは昭和48年にタクシーがδ街道から出入りできるようにするために行った開発行為により,それまで畑だった部分の土地を削り取り,その西側の一部を道路状にしたことによる。

また,F家の畑のへりをF家の人が農作業のために歩いていた部分があったものの,これは畑の北側の崖で行き止まりであって,他人は通っておらず,他方崖の下を通って歩いて○号線まで出る人がいたため,そこには踏み分け道のようなものがあったと考えられるが,それは西側隣地(G,H家の土地)の中にあることになる。

そして,被告が本件土地を現存道路と認定した根拠のうち,被告補助参加人が関与した書類は,すべて被告補助参加人の良いように書かれたものであり,被告補助参加人が他人の署名があることを奇貨として,あるいは自ら他人の署名・印影を冒用したものである。

被告は,土地整理原図上の本件土地の部分は,幅員9.09mの道路状の土地として表示されていると主張しているが,何故道路状といえるのか判然としない。細長い形状の土地であっても,畑や原野であることもあり,実際,乙3号証の2の××-4の土地は,細長い形状をしているが,原野である。

以上のとおり,本件土地は,昭和25年11月23日時点ではもちろんのこと,昭和48年12月まで,道路であったことは一度もない。

第3当裁判所の判断

1  本案前の争点(本件確認の訴えの適否)について

原告の本件確認の訴えの趣旨は,自己所有の土地が現存道路として一般交通の用に供する義務がないことの確認を求めるという点にあると解され,過去の事実の確認を求めるものではなく,少なくとも現在の法律関係の確認を求めるものといえ,法律上の争訟に当たるといえる。

そして,原告は,本件土地が現存道路に該当するとされることにより,本件土地を一般交通の用に供する義務を負担し,建築制限(建築基準法44条1項)や私道の変更又は廃止の制限(同法45条1項)を受けるなど所有権に基づく土地利用を現に制約されるなど,まさにその財産権に制約を受けるに至っているのであるから,現時点において,本件土地がそのような制約を受ける現存道路に当たらないことの確認を求めるだけの利益があるというべきである。被告は,本件土地が現存道路として取り扱われたとしても,その利用を制約され,妨げられるという将来の可能性を生ずるに過ぎず,そのような問題が具体化した時点で,その内容に応じた訴訟形式を選択して裁判所の判断を求めれば足りるなどと主張するが,上記のような本件土地利用の法的制約自体,現時点における原告の財産権の制約というべきであって,このことは原告が本件土地について具体的に前記のような制約に抵触する内容の利用を行う具体的意図ないし予定を有しているかといった主観的な事情に左右されるものではない上,現存道路該当性の判断においては,専ら昭和25年11月23日当時の本件土地の状況が争点となるところ,仮に,原告が建築確認申請等を行う時まで本訴提起ができないとすれば,更に反証が困難となると予想されることをも踏まえると,原告に確認の利益がないなどということはできず,被告の上記主張は採用できない。

ここで,被告は,本件確認の訴えは,重複訴訟の禁止(民事訴訟法142条)に該当する旨主張するが,先行事件である現存道路位置指定処分取消訴訟は,現存道路としての取扱いに処分性があることを前提として,当該処分の違法性一般を訴訟物とするところ,本件確認の訴えは,本件土地が現存道路でないことをその訴訟物とするものであるから,訴訟物は同一ではない。また,先行事件では処分性の有無についての判断はなされたものの,処分性が否定され,本件土地が現存道路に該当するかという実体判断はなされなかったのであるから,裁判の矛盾抵触のおそれはないといえ,重複訴訟の禁止には該当しない。

よって,本件確認の訴えは適法なものと認められる。

2  本案の争点(本件土地が現存道路に該当するか)について

(1)  建築基準法42条は,道路の定義を規定しているが,建築物の敷地,構造,設備及び用途に関する最低の基準を定めて,国民の生命,健康及び財産の保護を図ることによって,公共の福祉の増進に資するために制定された同法の目的(同法1条)からすれば,同法上の道路の解釈に当たっては,建築物とその敷地について,建築物の利用者の避難,防災,安全,交通,衛生等に支障がないように,一定の都市空間を建築制限(同法44条1項)等により開放し,都市環境の整備を図るための制度であるとの観点から解釈する必要がある。

現存道路は,同法42条1項1号の道路と同様,現実の道路としての実体に着目して,行政庁の指定処分などの手続を要することなしに,同法の規定によって直接道路と指定され,同法上の道路とされるものである。その趣旨は,基準時において,実体的に同法上の道路としての要件を具備している幅員4m以上の道について,同法上の道路と指定することによって,将来の変更・廃止に制限を加え,維持保存することを図るものと解される。

(2)  そして,上記の同法の目的からすると,現存道路に該当するというためには,単に幅員が4m以上あればよいというのではなく,建築物とその敷地の利用者の安全,避難,防火,衛生,交通等の面で支障がないような状態を維持し保障するという,道路が本来有するべき機能を果たすための必要最低限度の要素を具備していることが必要である。

また,一般交通の用に供せられていたことも必要であるが,同法上の道路が果たすべき役割が上記のとおり沿接敷地に存する建築物の利用者について防災,避難等の支障がないようにすることにあることからすると,不特定多数人が現実に利用しているということまでは必要でなく,一般交通の可能性さえ存在すればそれで足りると解すべきである。

さらに,ここにいう幅員とは,観念上の幅員ではなく,現実の幅員を意味するものであり,側溝のある道路の場合は,側溝の幅員を含むが,道路敷の一部となっている場合でも法敷を含まない。

(3)  以下,基準時である昭和25年11月23日当時の本件土地の状況について検討する。

ア 航空写真について

(ア) 昭和23年4月22日撮影の航空写真(乙8の1,2は,撮影原縮尺が1万5880分の1,2倍引伸印画のもの。甲20の1,2はその7倍部分引伸印画のもの)では,本件土地部分は,その東西で利用状況が異なり,その境界線状の部分がかろうじて認められるものの,撮影された周囲の土地利用状況を見ると,道路と思われる部分はそれなりの幅員について周囲より色が薄く写っていると窺われることとの対比からも,本件土地の幅員が4m以上あったとか,交通等に支障がないような状況であったなどとまで窺うことができず,道路が本来有するべき機能を果たすための必要最低限度の要素を具備していたと認めるに足りない。

(イ) 昭和36年5月2日撮影の航空写真(乙9の1,2は,撮影原縮尺が1万分の1,2倍引伸印画のもの。甲21の1,2はその5.5倍部分引伸印画のもので,甲22の1,2は,その10倍部分引伸印画のもの)でも,本件土地部分は,その東西で利用状況が異なり,その境界線状の部分がかろうじて認められ,ある程度の幅員を有しているようにも見受けられないでもないが,不鮮明であって明確に幅員があるとまで認めることはできず,他の部分の撮影状況と対比しても,その部分の幅員が4m以上であるとか,通行に支障がない状態で道路が本来有するべき機能を果たすための必要最低限度の要素を具備していたとまで認めるに足りない。

イ 土地整理原図について

土地整理原図とは,北海道が,未開地処分等による錯綜,紛糾した土地の境界を明確にする目的で実施した土地連絡調査の結果,調製されたものである(乙4)。

本件土地は,昭和7年7月,8月調査,縮尺1000分の1の土地整理原図上で幅9㎜の細長い形状の土地として記載されていることが認められるものの,このように区分されるに至った経緯は証拠上明らかでない上,そもそも土地整理原図は土地の境界を明らかにするものに過ぎず,利用状況や高低差は不明であるし,当該部分には字α×との記載があるのみでその地目や利用状況も明らかでないほか,細長い形状の土地であっても,××-4の土地のように原(原野)の部分もあることからすれば(乙3の1ないし6),土地整理原図上の記載をもって,本件土地の現実の幅員が4m以上だったことや道路が本来有するべき機能を果たすための必要最低限度の要素を具備していたことを認めることはできない。

ウ 開発行為の経緯等について

(ア) Cは,昭和47年3月7日付けで,札幌市ε×××-60ないし68,×××-88ないし91,××-40,××-290,×-5を対象とする開発行為許可の通知を受けた(甲12,13)。

D,Iは,国有地であった本件土地の払下げを受けた上,昭和48年7月18日付けで,持分2分の1ずつとして,本件土地について所有権保存登記をした(甲1,14,15)。

Cは,昭和48年11月,札幌市ε××-40,××-290,×-5,×-7(本件土地)を対象とし,変更許可の内容を「開発面積の変更(進入路の変更)」とする開発行為変更許可の通知を受けた。Cが,開発行為変更許可の申請の際に提出した書面によれば,①開発行為における予定建築物の用途は事務所(共同住宅を含む。),車庫及び洗車場であること,②変更の概要は,本件土地を切上の上,来入道路を新設すること,③変更の理由は,国道○号線に出入り口を設けて乗入口にしたところ,国道○号線に面して出庫する場合,右折方向への進行が容易でないことから,国有地だった本件土地の払下げの許可を受け,隣接地の住民の同意を得て,道路の形状とすることとしたためであること,④設計の方針は,Cの福祉施設及び厚生施設を設置するため,高低差のある農地を住宅用地に転用するものとしたことが認められる。(甲15)

そして,Cが上記開発行為変更許可の際に提出した書面添付の昭和46年12月20日作成の実測地形図によれば,本件土地は,幅員9.09mであったところ,そのうち西側の幅2.59m部分は,3.153ないし3.87m程度の高低差のある法面であったこと,本件土地の標高は最高で25.6m,最低で20.919mと高低差が約4.7mもあり,法面以外の部分でも最低で24.588mと高低差が約1mあったことが認められる(甲16,17)。

以上からすれば,昭和46年12月20日当時,本件土地の現実の幅員が4m以上であったことは認められるものの,道路が本来有するべき機能を果たすための必要最低限度の要素を具備していたとはいえず,かえって,上記開発行為以前は,本件土地周辺は高低差のある農地であって,本件土地の西側約3分の1部分は法面であり,その余の部分は農地の一部であったことが窺われる。なお,昭和46年12月20日当時に本件土地の現実の幅員が4m以上であったことから,直ちに約19年前である昭和25年11月23日当時も本件土地の現実の幅員が4m以上であったことを認めることはできない。

(イ) 加えて,近隣住民であるAは,昭和35年頃から,夫の父であるJ所有の畑で仕事を手伝っていたところ,本件土地は当該畑の一部であり,F家以外の者が立ち入ることはなかったこと,本件土地は当該畑の端の方にあり,現在の国道○号線の方へは通り抜けられない状態だったこと(甲6),現在の通路は昭和48年頃にCが畑を掘って地面を低くして作ったものであり,当該畑の西隣は,K家の土地で3ないし4m低くなっていて,間の部分が崖となっていたことを陳述し(甲10),さらに本件土地の近辺は,大体の部分が畑であって,幅員2ないし3mの道路さえなかったこと,昭和35年当時は,現在の本件土地の地盤よりも高く,現在低くなっているのは,地盤を削ったためであることを証言する(証人A)ほか,Aの子であるLも,昭和44年頃は,当該畑の西側に崖のような急な坂があり,崖は当時の自身の身長の2ないし3倍はあったと思う旨これに沿う陳述をする(甲11)。このようなA及びLの各供述は,前記実測地形図などから窺われる当時の本件土地利用状況や,これから遡って窺われる昭和35年頃の本件土地利用状況とも整合する内容となっており,十分に信用できるというべきである。

被告は,Aが被告補助参加人とともに,平成21年7月ないし8月ころ,品川弁護士に依頼して,本件土地について現存道路の取扱いに係る道路位置指定申請をしようとした経緯がある上,被告補助参加人に対して悪感情を抱いているため,被告補助参加人にとって殊更に不利益な証言をした可能性があることや,Cに土地を賃貸し,毎月高額の賃料を得ており,原告にとって殊更に有利な証言をした可能性があるなどとその信用性を争う。しかしながら,Aは,たしかに被告補助参加人と本件土地につき現存道路の取扱いに係る道路位置指定申請を共同で行おうと,被告補助参加人訴訟代理人弁護士品川吉正に依頼していたことを自認する(甲8,乙13,証人A)が,このような行為に及んだ理由につき,被告補助参加人がその姉や弟を代表する体で共に本件土地につき現存道路の取扱いに係る道路位置指定申請を行うように頼まれて事実を偽って申請しようとした旨説明している(証人A)ところ,昭和48年から既に道路と扱われている本件土地につき,いわば近所付き合いから事実を偽った申請に及ぼうとしたとすることに特に不自然な点はないし,AがLとともに本件土地の近隣地を原告に賃貸していることは認められるものの,そのように原告に不利益な申請行為をしようとしながら,本件訴訟に至ってわざわざ事実と異なる説明に及ぶほどに,Aが原告の意向を気に掛ける立場にあるとは証拠上窺われず,また,あえて被告補助参加人に不都合な供述に及ぶほどこれに悪感情を抱いたなどという事情も認められないのであるから,その信用性に疑問は生じない。

(ウ) 他方で,被告補助参加人は,本件土地が道路用地として払い下げられたことをもって,昭和25年11月23日当時から,本件土地が道路だったことは明らかである旨主張し,払下げの際に本件土地の隣地所有者であったEらの同意書(丙2ないし4)があるのは,既に本件土地が道路だったために払下げには隣地所有者の同意が必要だったためである旨陳述するが(丙11),どのような場合に隣地所有者の同意を要する取扱いであったのかは必ずしも明らかでない上,払下げ当時の本件土地の現況は原野とされており(丙1),昭和48年になされた払下げによって,Cが本件土地を道路の形状へと変更した上記(ア)記載の経緯からすれば,かえって,昭和48年に至っても道路として機能していなかったことが窺われるものであるから,被告補助参加人の主張は採用できない。

なお,被告補助参加人は,払下げの経緯に関連して,昭和56年3月31日付けで本件土地の当時の所有者であるD及びIが,札幌市長に対し,本件土地に面し住宅を建築使用することを承諾する旨の承諾書(丙6)を提出するが,本件土地が現存道路に該当するか否かに関わる記載はない。

エ 近隣住民の陳述内容等について

(ア) ここで,被告補助参加人が本件申請の際に,被告に提出した書面について検討すると,「札幌市ε×番地7の土地(本件土地)は昭和24年ころより不特定多数の人が,通行の用に供していたことを証明します。」と記載された「証明書」と題する書面に,昭和56年4月8日付けでMが署名したもの及び同月2日付けでNが署名したものがあり(乙5の1,2),被告の主張によれば,これは被告補助参加人が,昭和56年頃,本件土地について現存道路の取扱いに係る申請をする目的で用意したもの(ただし,当時の本件土地所有者の同意が得られず,申請自体は断念したという。)であり,被告補助参加人は,これらの書面は,叔父であるMから,昭和56年から昭和58年の間に受領したものであって,それぞれの書類に加筆,修正はしていない旨陳述する(乙10の1)。

しかしながら,上記各書面については,「札幌市 区 番地 の土地は 年 月 日ころより不特定多数の人が,通行の用に供していたことを証明します。」「昭和 年 月 日」とのみ印字された書面に,M及びNがそれぞれ署名したもの(甲23の1,2)がある上,被告補助参加人が,「叔父Mは自分の敷地内に,マンション建設を計画していて,敷地内の一部を指定道路にする必要から,B協同組合が札幌財務局から払い下げを受けた土地と一体で指定道路の指定を受けるための努力をしていました。,指定道路にすることが,私たちの土地の有効利用にも役立つと,自分の土地のように心配されていた事を私は承知しています。」(乙10の1)などとその作成に関与したMが本件土地を現存道路と取り扱わせることにつき多大な関心を抱いていたとも受け取る余地のある記載をする一方,署名の経緯について何ら言及するところがないことを踏まえると,M及びNが本件土地に関する証明書であることを認識した上でこれらに署名したかにつき疑問を差し挟む余地も多分にあり(なお,被告補助参加人自身,近隣土地を相続した親族との遺産紛争を抱え,その上下水道設備を現存道路に移設するように要求しているなど,本件土地が現存道路と扱われることにつき相応の利害ないし関心を有していることが窺われる。丙14の1,丙15の1),通行に関しては人がすれ違う程度の通行ができる土地が本件土地又はその隣接地にあったことはAも証言していることを考えると,上記各書面の存在をもってしても,本件土地が昭和24年当時,一般交通の用に供せられていたことや道路が本来有するべき機能を果たすための必要最低限度の要素を具備していたことを認めることはできない。

(イ) 次に,①昭和18年以前からζにおいて農作物を作っていたというOが,本件土地はα中心より北広島,β,札幌(当時)に出る近道として不特定の人の利用があり,当時は道路も現在ほど整備されていなかったが生活路の一部として地元の人に利用されていたことを証明する旨記載され,同人が署名した平成22年9月26日付けの「現存道路証明書依頼経緯について」と題する書面(乙5の3),②昭和22年から昭和45年頃まで,Mからζ×-1の土地を借り受けていたというPが,本件土地は昭和22年当時から現η線の延長として,道路用地であることを承知しており,この道路は現在ほど整備されておらず,畦道状でα中心部に出るため,近道として利用していたことを証明する旨記載され,同人が署名した平成22年9月26日付けの「現存道路証明書依頼経緯について」と題する書面(乙5の4)があるが,現に昭和35年頃から本件土地に隣接した耕地で農作業を手伝うなどしていたAやその娘Lの信用できる前記各説明に相反する内容といわざるを得ないのであるから,「現存道路証明書依頼経緯について」と題する各書面の記載内容によって昭和25年11月23日当時の本件土地の状況を認定することはできない。

(4)  その他,被告及び被告補助参加人が主張するところを踏まえても,本件土地が,昭和25年11月23日当時,現実の幅員が4m以上であったこと,道路が本来有するべき機能を果たすための必要最低限度の要素を具備していたこと,一般交通の用に供されていたこと,すなわち,建築基準法42条1項3号の現存道路に該当すると認めるに足りる的確な証拠はない。

したがって,本件土地は,建築基準法42条1項3号の現存道路に該当しない。

第4結論

よって,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 千葉和則 裁判官 瀬戸麻未)

裁判官岸田航は転勤のため署名押印できない。

裁判長裁判官 千葉和則

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