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札幌地方裁判所 平成24年(行ウ)6号 判決 2017年3月16日

主文

1  被告は,被告補助参加人札幌市議会自由民主党議員会に対し,1894万8753円を札幌市に支払うよう請求せよ。

2  被告は,被告補助参加人札幌市議会民進党市民連合議員会に対し,1238万3700円を札幌市に支払うよう請求せよ。

3  被告は,被告補助参加人日本共産党札幌市議会議員団に対し,28万円を札幌市に支払うよう請求せよ。

4  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

5  訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とし,補助参加により生じた費用はこれを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告補助参加人らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告は,被告補助参加人札幌市議会自由民主党議員会に対し,3758万8902円を札幌市に支払うよう請求せよ。

2  被告は,被告補助参加人札幌市議会民進党市民連合議員会に対し,2852万8540円を札幌市に支払うよう請求せよ。

3  被告は,被告補助参加人日本共産党札幌市議会議員団に対し,177万6401円を札幌市に支払うよう請求せよ。

4  被告は,札幌市議会改革維新の会こと「改革」に対し,93万7900円を札幌市に支払うよう請求せよ。

第2事案の概要

1  本件は,札幌市の住民を構成員とする権利能力のない社団である原告が,被告が平成22年度に札幌市議会の会派である被告補助参加人ら及び札幌市議会改革維新の会に交付した政務調査費のうち,被告補助参加人札幌市議会自由民主党議員会(補助参加申立時の名称は「札幌市議会自民党・市民会議」。以下,名称変更の前後を問わず,「参加人自民党会派」という。)については3758万8902円が,同札幌市議会民進党市民連合議員会(平成22年度当時の名称は「札幌市議会民主党・市民連合議員会」。以下,名称変更の前後を問わず,「参加人民進党会派」という。)については2852万8540円が,同日本共産党札幌市議会議員団(以下「参加人共産党会派」という。)については177万6401円が,札幌市議会改革維新の会(以下「改革維新の会」という。)との同一性が認められると主張する「改革」については93万7900円が,いずれも地方自治法その他の使途基準に違反する用途に用いられた違法な支出であり,札幌市が上記各会派に対して上記各金額の不当利得返還請求権を有するところ,札幌市の執行機関である被告が上記不当利得返還請求権の行使を違法に怠っていると主張して,被告に対し,地方自治法242条の2第1項4号本文に基づき,被告補助参加人ら及び改革に対する上記各金員の返還を請求することを求めた事案である。

なお,以下では,別紙1記載の政務調査費支出の適法性が争われている議員については,いずれも別紙1の「番号」欄記載のアルファベット及び数字により特定し,例えば「A1議員」などということがある(「A」は参加人自民党会派の,「B」は同民進党会派の,「C」は同共産党会派の,「D」は改革維新の会の各所属議員を指す。)。

2  関係法令等の定め

別紙関係法令等の定め記載のとおり(なお,同別紙で定める略称等は,以下においても用いる。)

3  前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠〔書証番号については,特に付記しない限り,全ての枝番を含む。〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1)  当事者

ア 原告は,札幌市の住民によって組織され,札幌市内に事務所を有する権利能力なき社団である。

イ 被告は,普通地方公共団体である札幌市の執行機関である。

ウ 参加人自民党会派,同民進党会派,同共産党会派及び改革は,札幌市議会において同一の行動をとるために,複数名の札幌市議会議員によって構成された団体である。

(2)  政務調査費の交付

平成22年4月1日,被告は,参加人自民党会派,同民進党会派,同共産党会派及び改革維新の会の各代表者から政務調査費交付申請書の提出を受け,上記各会派に対する平成22年度の政務調査費支出額を決定した(乙共1)。

(3)  各会派が支出した政務調査費の内訳

ア 上記(2)の各会派に所属する議員ごとの事務所費及び人件費に関する政務調査費支出額の内訳は別紙1(政務調査費支出額一覧)のとおりであり,別紙2(当事者に争いのある支出額一覧表)記載のとおり,一部の議員については,支出額について争いがある。

イ また,参加人民進党会派は,平成22年3月31日付けで,国政政党である民主党(平成22年当時)の地方組織である民主党北海道総支部連合会(以下「民主党北海道」という。)の下部組織・民主党札幌との間で政務調査活動に関わる業務委託契約(以下「本件業務委託契約」という。)を締結し,同契約に基づき,政策調査業務委託費(研究研修費)480万円,政策調査業務委託費(資料作成費)1032万円,広報紙作成業務委託費(広報費)600万円の合計2112万円を政務調査費から支出した(乙共3,丙共1)。

(4)  改革維新の会及び改革の成立及び消滅に係る経緯

ア 平成21年4月1日,当時札幌市議会議員であった,D1議員,D2議員,P1議員及びP2議員の4名は,同議会における会派として,改革維新の会を結成し,札幌市議会議長(以下「市議会議長」という。)に会派結成届を提出して,平成22年4月より,同年度の政務調査費の交付を受けた(乙D全13)。

イ 平成23年4月10日実施の札幌市議会議員選挙(以下「平成23年市議会議員選挙」という。)で当選したP1議員及びP2議員の2名は,同年5月2日に札幌市議会市政改革クラブ(以下「市政改革クラブ」という。)を結成し,市議会議長に会派結成届を提出した(乙D全2)。

ウ 市政改革クラブは,平成24年4月1日,札幌市議会議員であるP3議員の加入により,札幌市議会市政改革・みんなの会(以下「みんなの会」という。)を結成し,市議会議長に会派結成届を提出した(乙D全14)。

エ その後,平成25年11月12日にP3議員がみんなの会から離脱したことにより,同会は,会の名称を「改革」に変更し,市議会議長に会派変更届を提出した(乙D全15)。

オ なお,改革維新の会,市政改革クラブ,みんなの会及び改革の各会派は,いずれも特定の国政政党を共通する関係にはない。

(5)  本件訴訟に至る経緯等

ア 平成23年10月20日,原告は,法242条1項に基づき,札幌市監査委員に対して住民監査請求を行い,同委員は,平成24年1月13日,これを棄却する旨の監査結果を原告に通知した(甲共1,2)。

イ 原告は,上記アの監査結果を受け,平成24年2月8日,本件訴えを提起した。

4  争点

(1)  改革維新の会と改革の同一性(争点1)

(2)  参加人民進党会派における業務委託費支出の適法性(争点2)

(3)  各会派における事務所費支出の適法性(争点3)

(4)  参加人自民党会派における人件費支出の適法性(争点4)

5  争点に関する当事者の主張

(1)  改革維新の会と改革の同一性(争点1)

(原告の主張)

市議会における会派は,いわゆる権利能力なき社団に当たり,構成員の変更があったとしても,団体の性質上,当該社団は存続するのであるから,平成23年市議会議員選挙により構成する議員が変化しても,これが改革維新の会と改革の同一性を認める障害となることはない。

改革と改革維新の会は,政党事務所も,市議会における会派ごとの控室も,いずれも従前のものを継続して利用しており,広報費としてのシステム更新料の支払も継続して行っている。これらの事実からも明らかなとおり,改革維新の会と改革は実質的には同一の会派であって,そうであるがゆえに従前の権利関係を引き継いでいることがうかがわれる。

本件訴訟前の監査手続においても,結論として原告の監査請求は「棄却」されたものの「却下」はされておらず,札幌市は改革維新の会が実質的に存在することを前提としていた。

したがって,改革維新の会と改革は実質的に同一の権利能力なき社団であり,会派の名称が異なるのは単なる会派の名称変更によるものにすぎないから,改革は,改革維新の会が負う政務調査費の返還義務を承継する。

(被告の主張)

議会における会派とは,政治的信条等を同じくする議員の任意の同志的集合体であって,任期満了等により議員が議員としての地位を喪失した場合,議員を構成員とする会派は,法律上当然に自然消滅することになる。この場合でも,新しく結成された会派が消滅した会派の権利義務を承継する旨の意思を有し,又は両会派の間に実質的同一性が認められるときは,新会派への政務調査費に関する返還義務の承継が認められる余地もあるが,改革は,平成23年市議会議員選挙の結果により旧会派である改革維新の会の構成員4名のうち2名のみが加入したにすぎず,特定の国政政党との共通の関係も存在しない。さらに,構成員は各々が個人事務所を使用していたものであって,会派として改革維新の会と改革が同一の事務所を継続利用していた事実もなく,市議会における控室も,両会派では位置及び面積が異なり,同一のものは利用していない。

したがって,改革維新の会は,平成23年市議会議員選挙後に,その構成員の札幌市議会議員の任期が満了した同年5月1日をもって自然消滅したというべきであるから,その後に結成された改革は,同選挙前の改革維新の会とは別個の会派であり,同会派の政務調査費に係る返還義務を承継しない。

(2)  参加人民進党会派における業務委託費支出の適法性(争点2)

(原告の主張)

ア 「手引き」等の使途基準に違反する支出であること

政務調査費は,議員の調査研究に資するために必要な経費についてのみ支出することが許容され(市条例1条),具体的使途基準である「手引き」等記載の項目についてのみ支出が認められるものであるから,政務調査費から業務委託費を支出する場合,当該支出が市条例別表に記載された項目のうちのいずれに当たり,どれだけの金額が支出されたのかを明確にし,資料等を整備しなければならない。

(ア) 使途項目が不明確であること

しかし,参加人民進党会派は,月別報告書(丙共2)等を提出するのみで,使途項目について全く明らかにせず,その結果,業務委託費が「手引き」における使途項目のいずれに該当するのかが判然としない。さらに,参加人民進党会派が委託業務に従事したと主張する3名の職員についても,これらの職員がどのように業務に従事していたかが客観的に明らかとなっていない。

そうすると,参加人民進党会派が業務委託費に関してした政務調査費の支出は,その全額について違法である。

(イ) 研究研修費の委託は認められないこと

「手引き」には,資料作成費や広報誌の作成及び発送業務については委託が認められる旨の記載があるものの,研究研修費について,これを許容する規定は存在しない。そうすると,研究研修費については,個別の研究研修についての経費等の支出を認めているにすぎず,本件業務委託契約のような包括的な契約を根拠として政務調査費を支出することは許されないと解すべきである。

そうすると,参加人民進党会派が支出した研究研修費については,その全額(480万円)が返還されなければならない。

イ 政務調査活動として必要性を欠く支出が混在していること

参加人民進党会派は市政懇談会の配布資料や報告書の作成費用を業務委託費に算入しているが,当該作成費用が研究研修費,資料作成費,広報費のいずれに属するものとして支出されたのかが明らかでなく,また,その点を措くとしても,当該文書は他機関が作成した資料をそのまま流用していたにすぎないものであるなど,政務調査費から当該作成費を支出する必要性は認められない。

また,市民等から聴取した意見をまとめた要望書や公開質問状等の書類作成業務委託費についても,本来,議員による質問は議員本人によってなされるべきものであって,公開質問に関する資料の作成が政党支部に委託されることは予定されていないはずである。

さらに,参加人民進党会派は,市議会における同会派の議会活動に関して市民向けの報告記事を作成させることをもって業務委託費を政務調査費から支出しているが,当該記事は,インターネット上にアップされた市議会における審議過程を内容としたものにすぎず,独自に報告記事を作成していると評価できるものではない。したがって,上記広報誌作成業務は政務調査活動としての必要性が認められず,当該業務委託費として政務調査費を支出することは許されない。

ウ 業務委託費に係る支出の具体的違法性

仮に上記ア及びイの主張が認められないとしても,民主党札幌で参加人民進党会派から受託した業務に従事した3名の職員は,以下の(ア)ないし(ウ)記載の政党活動に従事していたことが明らかであって,当該活動の業務量が少なからぬものであることに照らすと,当該職員らは,実質的には業務委託費をもって政党活動の補助を行っていたと評価せざるを得ない。

したがって,その支出のうち,少なくとも2分の1については政務調査費からこれを支出することは許されない。

(ア) 選挙公約の作成

本件業務委託契約の受託者である民主党札幌が参加人民進党会派に対して提出した月別報告書には,政務調査業務に関するもののみならず,「2011年札幌市議会・民主党市民連合選挙公約」の作成(丙共2の8)も委託業務の内容として記載されている。

しかし,選挙活動は,民主党所属議員の党勢拡大を図るための業務であることが明らかであって,これはいかなる意味でも政務調査活動とは評価できず,純然たる政党活動というほかない。

(イ) 「まちかどミーティング」に関する案内文書の作成

参加人民進党会派が主催し,民主党札幌が後援する「まちかどミーティング」は,民主党札幌の党員等が参加者を募集し,北海道議会議員が開会挨拶を行い,その様子が民主党札幌の機関誌に掲載されることがある活動であり,このような活動内容からすれば,政務調査活動の要素が皆無とはいえないにせよ,政党活動の要素が相当程度含まれている。

(ウ) 民主党札幌固有の業務

民主党札幌の職員ら3名は,平成22年度中も,週に1回程度発行される民主党札幌の機関誌の編集・発送業務を業務時間内に行っていたほか,うち1名の職員は,民主党札幌の会計業務及び就業場所における民主党札幌の事務所業務を担当し,政党活動に従事していた。

(被告及び参加人民進党会派の主張)

ア 「手引き」及び本件委託業務の性質

「手引き」は,政務調査費による支出が認められる使途項目を限定列挙したものではないから,そのことだけを理由として「手引き」に記載のない研修研究費を政務調査費から支出することが許されないということにはならない。業務委託が可能な範囲は,会派又は所属議員の合理的な裁量において,自主的・自律的判断に基づいて決せられるものである。

また,参加人民進党会派が民主党札幌に委託した業務は,いずれも「手引き」記載の使途項目の複数の性質を有するものであり,特定の使途項目に該当すると決めることは困難である。「手引き」は会派又は議員の自主的・自律的裁量によって業務を第三者に委託することを許容しているから,個別の事項ごとに委託せず,複数の事項を包括的に委託することもこれが裁量の範囲にとどまる限りにおいて当然に許容される。

イ 委託先の選定及び委託費の決定が合理的なものであること

参加人民進党会派が政務調査活動の委託を行った民主党札幌は,国政政党である民主党(平成22年当時)の地方組織である民主党北海道総支部連合会の下部組織として位置付けられる機関であり,参加人民進党会派の目指す市政の方向性を熟知し,執行機関や他の会派からの干渉を防ぎ,会派の独立性を保障するために活動内容の秘匿性を保つ上で適切な組織であることから,当該団体に対して政務調査活動の一部の委託を行ったことは合理的である。

また,その委託費は,民主党札幌で当該受託業務に従事する職員を3名と定め,当該職員らの人件費の合計額を基礎として算出したことから,当該委託費の決定も不合理とはいえない。

したがって,参加人民進党会派が民主党札幌を委託先として選定し,その委託費を2112万円と定め,これを政務調査費から支出したことが同会派の裁量を逸脱・濫用したものと評価することはできない。

ウ 資料作成費の支出が適法であること

平成22年11月の月別報告書における「2011年札幌市議会・民主党市民連合選挙公約作成」という記載は,民主党札幌が政務調査とは別に行った業務を誤って記載したものであり,参加人民進党会派からの委託業務としてなされたものではない上,選挙公約が作成されたのは同月の1か月間にすぎず,個々の議員の後援会活動とも異なる。

さらに,多岐にわたる市政上の課題について,議員の調査研究能力を補い,議員が市議会において有効・適切な質問を行うべく他の機関の人的資源を用いて資料の作成を行うことも当然許されるべきことから,市議会における質問事項や意見書の作成に係る業務を委託したことも適法である。

エ 広報誌作成業務委託費の支出が適法であること

民主党札幌が作成した市民向けの報告記事は,札幌市がホームページで審議過程をアップロードするよりも相当前に作成されて議員に提供され,広報活動に用いられているものである以上,独自の価値を有する。また,市政懇談会の配布資料についても,当該資料の作成においては収集した多数の資料の選択・編集を要するのであって,当該資料の作成を委託することの必要性は否定されない。

(3)  各会派における事務所費支出の適法性(争点3)

(原告の主張)

ア 基本的な考え方

政務調査費は,会派又は所属議員の調査研究に資するための経費に充てられるべきものであって,これ以外の使途には支出することができない性質のものであることから,当該支出が政務調査活動を行うに当たり真に必要であったのか否かの立証責任は所属議員側が負うべきものである。

そして,議員活動の方面が多岐にわたり,政務調査活動とその他の活動(後援会活動や政党活動等)と区別することも困難であり,一般的にも,議員事務所においては政務調査活動のみならず,後援会活動や政党活動が行われるのが通常であることからすれば,事務所費について,所属議員が政務調査事務所の使用実態を明らかにしない限り,交付された政務調査費を事務所費名目で支出することは許されない。

また,仮に事務所経費への政務調査費の支出が認められたとしても,会派又は所属議員の事務所を政務調査活動の拠点として利用する場合,政務調査費の負担額は政務調査活動の実態に応じて,あるいは,所定の割合により按分することとされているから(市要領4条10項),政務調査費の支出は按分を原則とし,支出が認められる政務調査費は事務所経費の3分の1にとどまるというべきである。

イ 具体的な違法支出について

各会派所属の議員に対する個別の主張は,別紙3(事務所費に関する当事者の主張)の「原告の主張」欄記載のとおりであり,複数の議員に共通する主張は以下のとおりである。

(ア) 政務調査事務所の賃貸借契約書が開示されていない場合(A7,A12,B7,D1,D2の各議員関係)

本件訴訟において原告が賃貸借契約書の開示を求めたにもかかわらず,これが開示されていない議員については,賃貸借契約書が提出されていない以上,原告において,当該事務所が何の用途に用いられたのかを判断することができず,そうである以上,当該議員は同事務所に係る事務所費を政務調査費から支出することは許されない。

(イ) 賃貸借契約の当事者欄に会派名が記載されている場合,及び,政務調査事務所の賃貸借契約書上,使用目的欄等に「事務所」等とのみ記載されているか,何らの記載もされていない場合(A4,A5,A9,A10,A13,A14,A16,A18,B1ないし4,B6,B8ないし15,C1,C3,C4の各議員関係)

賃貸借契約書の当事者欄に会派名が記載されている場合,たとえその後に議員名が付記されている場合であっても,当該賃貸借契約は各会派たる政治団体の活動(政党活動)に利用されていることが強く推認されるから,このような場合においては,特段の事情のない限り,当該賃料について政務調査費から支出することは許されない。

また,事務所の賃貸借の目的について,単に「事務所」との記載がある場合,あるいは,使用目的欄が空欄になっている場合には,何らかの立証がない限り,当該事務所は政務調査活動を含む各種活動が行われている場所として,当該事務所に係る賃料に対する政務調査費の支出は,多くとも3分の1にとどめられるべきである。

(ウ) 政務調査事務所に関する賃貸借契約の当事者が議員以外の第三者となっている場合(A6,B11,C2の各議員関係)

政務調査費は,議員の調査研究のために限定して支出が認められているものであって,政務調査事務所の賃貸借契約の当事者は,議員本人であることが当然に予定されており,「手引き」にも,事務所の要件として「会派または所属議員が契約者となっていること」が明記されている。

したがって,会派又は議員を契約当事者としない賃貸借契約に基づく賃料を政務調査費から支出することは許されない。

(エ) 議員本人若しくは親族が役員に就任している法人,又は,議員が株主である法人が政務調査事務所の賃貸人である場合(A11,A15,A16,A18の各議員関係)

議員本人若しくは生計を一つにする親族が役員に就任している法人又は議員が株主となっている法人が政務調査事務所の賃貸人となっている場合,政務調査費により支出された賃料は,最終的に,役員報酬又は株主配当という形で議員に帰属する可能性がある。

「手引き」は,議員本人又は生計を一つにする親族を賃貸人とする事務所の賃料を政務調査費から支出することを禁じているところ,この趣旨は政務調査費が実質的に議員自身に支払われたのと同一の状況となることを防止する点にある。この「手引き」の趣旨からすれば,議員自身が取締役等の役員を務める会社を賃貸人とする賃貸借契約に伴う賃料の支払についても,特段の事情がない限り政務調査費からの支出が禁止されるべきである。

(オ) 政務調査事務所に党員のポスター等が貼付されている場合(A7,A11,B10の各議員関係)

各会派所属議員の中には,政務調査事務所の外壁や窓等に自身が所属する政党の他の党員や政党自体のポスター等を貼付している議員が存在する。これは,自己が所属する政党や同党に所属する議員の宣伝行為にほかならず,政務調査事務所における政党活動ともいうべき行為であるし,仮にそこまでいえないとしても,その他の政党活動が同事務所において行われていることを推認させる間接事実となり得る。

このことからすると,政務調査事務所に上記のようなポスター等が掲示されている事務所においては,政党活動が行われていることを前提とする政務調査費の按分がなされなければならない。

(被告及び被告補助参加人らの主張)

ア 本件における判断のあり方

(ア) 法242条の2第1項4号の規定に基づく請求を行う場合,「違法な行為又は怠る事実」が存在すること,すなわち,政務調査費の使途が違法であることの立証責任は原告が負う。そして,そのような原告の立証が,上記違法性の存在を一応推認させる程度に達しており,被告及び被告補助参加人らがこれに対して十分な反証を行わないような場合に初めて政務調査費の支出が違法であると証明がなされたと判断すべきである。

(イ) 市条例5条及び別表並びに「手引き」の位置づけ

地方自治における地方議会の役割の重要性及び政務調査費制度の趣旨からすれば,市条例5条及び別表並びに「手引き」によって定められる政務調査費の使途に関する基準は画一的・形式的に適用されるべきものではなく,市議会会派又は議員は,合理的な裁量の範囲内で,政務調査費の支出の有無及びその額を決することができる。

そうすると,各会派又は議員の政務調査費の支出が違法と認められるのは,当該会派又は議員に与えられた上記裁量判断が逸脱・濫用にわたると評価される場合に限られるというべきである。

イ 個別の支出に関する主張

参加人各会派に所属する各議員の支出の内訳及びその適法性に関する主張は,別紙3(事務所費に関する当事者の主張)の「被告・被告補助参加人らの主張」欄記載のとおりであるほか,各議員に共通する被告及び参加人各会派の主張は以下のとおりである。

(ア) 賃貸借契約書の利用目的欄や当事者欄の記載について

賃貸借契約書は,契約当事者間の権利関係に係る内容を確認するために作成されるものであり,使用目的については一般的・概括的な記載がされるのが通常であるし,実際にも,「手引き」には契約書の利用目的欄や当事者欄に記載すべき事項につき何らの規定も置かれていないから,当該記載をもって事務所の利用態様を推認することはできない。

(イ) 政務調査事務所の賃貸借契約の当事者が議員本人でない場合について

「手引き」には,政務調査費の支出が許容される事務所の要件について,「会派または所属議員が契約者となっていること」を定めているが,これは,政務調査費が政務調査活動のための経費として利用されていることを形式面から担保する趣旨のものにすぎず,会派又は議員本人が事務所の賃貸借契約の名義人となることまで求めているものではない。

したがって,実際に政務調査事務所として使用されている実態が存在することを前提として,当該賃貸借契約の賃料を負担している者であれば,なお「手引き」にいう「契約者」に含まれるものというべきである。

(ウ) 賃貸人が,自己若しくは親族が役員に就任している会社であるか,又は議員が株主の地位にある会社である場合について

「手引き」には,生計を一つにしない親族及び議員の経営する会社が所有する物件の事務所費については政務調査費からの支出を行うことができる旨の定めが存在する以上,このような支出は適法である。

また,議員が株主となっている会社が所有する物件を政務調査事務所とする場合においても,議員と会社が別の権利主体であって,会社の財産が直ちに議員の財産となるものではない以上,当該事実をもって政務調査費の支出が違法となる根拠はない。

(エ) 事務所にポスター等が掲示されていることについて

そもそも,平成22年度当時,議員らの政務調査事務所にポスター等が掲示されていたことについて,原告は何ら立証していないから,これらが掲示されていたことを前提とする原告の主張はその前提を欠く。

また,仮にそのようなポスター等が掲示されていたとしても,「政党活動」として政務調査費の支出が禁止されるのは,あくまで「手引き」記載の「政党事務所としての用途」と評価されるべき事情がある場合に限られるのであって,政党と関連するおよそあらゆる活動が「政党活動」と評価されるわけではないところ,当該ポスター等は会派や政党との関係や応援の意を示すものにとどまり,政党事務所の看板などと同視できるものではなく,当該ポスター等の存在により当該事務所で政党活動が行われていたことを推認することはできない。

(4)  参加人自民党会派における人件費支出の適法性(争点4)

(原告の主張)

ア 議員の人件費についても,上記(3)(原告の主張)ア記載のとおり,事務所費と同様に,所属議員が,雇用している職員が政務調査活動にのみ従事しているということを積極的に立証しない限り,当該職員の人件費に関する政務調査費の支出は違法となると解すべきである。各会派所属の各議員に対する個別の主張は,別紙4(人件費に関する当事者の主張)の「原告の主張」欄記載のとおりである。

イ 被告及び参加人各会派が政務調査活動を行う事務所として届出を行っている各事務所において,実際には政党活動及び後援会活動も行われていたことは上記(3)(原告の主張)イ(ア)及び(イ)記載のとおりであるから,当該事務所で働く事務員についても,政党活動や後援会活動に従事していたことが強く推認される。

また,雇用契約書を提出しない各議員,又は,仮にこれが提出されていたとしても当該雇用契約書上,職員が従事する業務内容について政務調査活動に従事することが明記されていない各議員の支出する人件費については,上記(3)(原告の主張)と同様に,その全額が違法とされるべきである。

(被告及び被告補助参加人らの主張)

参加人各会派に所属する各議員の支出の内訳及び適法性に関する主張は,別紙4(人件費に関する当事者の主張)「被告・被告補助参加人らの主張」欄記載のとおりであるほか,各議員に共通する違法事由に関する原告の主張に対する反論も上記(3)(被告及び被告補助参加人らの主張)のとおりである。

事務所の利用状況と雇用した職員の活動内容は必ずしも一致するものではないから,仮に政務調査事務所において後援会活動や政党活動が行われていたとしても,当該職員の人件費を政務調査費から支出できるかどうかは,当該職員の活動内容に応じて判断されるべきである。

第3当裁判所の判断

1  改革維新の会と改革の同一性(争点1)

(1)  地方議会における会派とは,議会の内部において議員により組織され,同一の政治的信条に基づく各種施策の実現に向けて統一的な活動を行っていくための自主的団体であって,その構成員である議員の変更が生じたとしても団体としての会派は存続することから,法的には,権利能力なき社団としての性質を有するものであると解される。

(2)  前記前提事実(4)のとおり,本件において,平成22年度の政務調査費の交付を受けた改革維新の会所属のP1議員及びP2議員は,市議会議長に対し,平成23年5月2日付けで市政改革クラブの,また,平成24年4月1日付けでみんなの会の各会派結成届を提出した上,その後,最終的には,同会派から会派名を「改革」とする会派変更届を提出したことが認められる。

このとおり,札幌市議会においては,新しい会派を結成する場合と,これまでの会派の名称を変更する場合とでは,異なる定型の届出書を提出するものとされていたことが認められるところ,P1議員及びP2議員は,平成23年市議会議員選挙後に市政改革クラブの会派結成の届出を行ったのは,改革維新の会とは異なる新たな会派を結成したためであると推認されるから,改革維新の会と改革は,その成立の経緯からして,それぞれ別個の権利能力なき社団である会派であって,実質的に同一の会派であると認められる特段の事情がない限り,改革維新の会に交付された政務調査費に係る不当利得返還義務は,改革に承継されることはないと解すべきである。

(3)  これを本件についてみると,改革維新の会と改革は,特定の国政政党を共通する関係にない上,構成員も改革維新の会の構成員であった4名の議員のうち,改革にも所属している議員は2名にとどまり,改革維新の会に所属していた平成22年度の当時に政務調査費の交付を受けたD1議員及びD2議員は改革の構成員とはなっていない(前記前提事実(4))のであるから,本件において上記(2)の特段の事情は認められない。

したがって,改革維新の会と改革は実質的に同一性を有するものとはいえない。

(4)  これに対し,原告は,改革は,改革維新の会が締結した事務所賃貸借契約を変更せずに事務所を利用し,広報費としてのシステム更新料の支払も継続しているから,両会派には同一性が認められるべきである旨を主張する。

しかし,改革維新の会と改革は,別個の権利能力なき社団であり,実質的に同一の会派であると認められる特段の事情が存在しないことは上記(2)及び(3)のとおりであって,会派の活動内容に関わらない従前からの事務所やシステムの利用に係る契約関係が形式的に維持されていたといった事情があったとしても,上記特段の事情が存在するとして両会派の実質的な同一性を肯定することはできず,結局,原告の上記主張を採用することはできない。

(5)  小括

以上によれば,改革維新の会と改革は会派としての同一性を肯定することはできず,改革維新の会に対する政務調査費の支出がたとえ違法な支出であったとしても,改革は,当該政務調査費の不当利得返還義務を改革維新の会から承継するものではないから,被告に対し,改革への政務調査費の不当利得返還請求をするよう求める原告の請求は理由がないというべきである。

2  参加人民進党会派における業務委託費支出の適法性(争点2)

(1)  判断の基準

ア 政務調査費は,「議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として,その議会における会派又は議員に対し」交付される費用であって(法100条14項),その趣旨は,議会の審議能力を強化し,議員の調査研究活動の基盤の充実を図るため,議会における会派又は議員に対する調査研究の費用等の助成を制度化したものであると解される(最高裁平成17年11月10日第一小法廷決定・民集59巻9号2503頁,最高裁平成25年1月25日第二小法廷判決・裁判集民事243号11頁参照)。

そして,地方議員が行う調査研究活動は,その性質上,多岐にわたり,個々の支出が政務調査費による支出を許すものであるかどうかは,議員の合理的判断に委ねられるべき部分が多いと解される。もっとも,札幌市においては,政務調査費の支出について,市条例,市規則及び市要領で定められた使途基準では政務調査費による支出を許すものであるかどうかの判断が難しいケースもあることから,札幌市議会の委員会における検討を重ね,政務調査費の適正な使用を目的として,政務調査費の基本方針や大原則を確認するとともに,使途項目ごとに事例を取り上げつつ留意事項として具体的な使途基準を示した「手引き」を制定し,「手引き」制定以降,各会派における政務調査費の支出については「手引き」の使途基準に沿った運用が行われている(甲共3)。

このような「手引き」の性質・内容及び制定経緯・目的(政務調査費の適正な使用を確保するために,市条例等による使途基準を具体化した判断基準を示したこと)に照らすと,「手引き」の使途基準は,市条例等の趣旨・内容に適合する合理的な内容のものであると認められ,札幌市議会においては,議員の議会活動の基礎となる調査研究及び調査の委託に要する費用のうち,同使途基準に適合する政務調査費の支出は,議員の「調査研究に資するため」に「必要な経費」(法100条14項,市条例5条)として適法な支出であるが,同使途基準に違反する政務調査費の支出は,違法な支出であると解すべきである。

そうすると,当該会派が政務調査費を市条例,市規則,市要領及び「手引き」の使途基準(以下,これらを総称して「『手引き』等の使途基準」という。)に適合しない使途に用いるために支出した場合には,当該会派は,条例の根拠なく金員の交付を受けて利得したこととなり,また,法が条例に委任した趣旨に反して政務調査費の交付を受けているものとして,違法な状態にあることとなるのであるから,その利得について法律上の原因を欠き,これによる損失を被る札幌市は,当該会派に対して民法上の不当利得返還請求権を有するものと解される。

イ そこで,業務委託に関する「手引き」の使途基準をみると,「手引き」においては,外部団体等への委託に関し,資料作成のための調査,広報誌の作成・発送業務等の業務(以下,これらを総称して「資料作成のための調査等の業務」という。)については,これが許容される旨の定めが存在する一方,それ以外の業務については,これが許容される旨の明文の定めは存在しない。

しかし,「手引き」に資料作成のための調査等の業務以外の業務の外部団体等への委託が許容されない旨の明文の定めは存在せず,議会の議員の調査研究に資するため必要な業務であれば,業務委託が許容される業務の範囲が資料作成のための調査等の業務に限定されると解すべき根拠はない。そうすると,「手引き」は,明文で外部団体等への委託が許容されている資料作成のための調査等の業務は,委託の際に特に留意すべき事項を列挙する趣旨で明文の定めを例示的に置いているにすぎず,上記業務以外の委託を行ったことのみをもって,当該業務委託に係る支出を違法と解すべきではない。

そして,政務調査活動の範囲が多岐にわたることに対応して,政務調査費による支出が許容される業務委託も広範囲に及び,当該業務委託が「手引き」記載の使途項目の複数の性質を有し,いずれの項目に該当するかを一義的に決定することが困難であることも想定されるところ,政務調査費の交付が制度化された趣旨からすると,当該業務委託が複数の使途項目の性質を有することのみをもって,当該支出を違法と解すべきではない。

そうすると,業務委託費の支出については,「手引き」に当該業務委託を許容する旨の明文の定めがあるかどうかにかかわらず,市政に関する調査研究を目的とする業務を委託するために必要かつ合理的な支出は適法なものとして許容され,他方,政党活動若しくは後援会活動又はこれらに準ずる活動に係る業務を委託するために政務調査費を支出することは違法なものとして許されないと解すべきである。

ウ また,当該業務委託が,たとえ市政に関する調査研究を主たる目的としてされたものであっても,政党活動若しくは後援会活動又はこれらに準ずる活動に関する業務を委託する性質を併有する場合や,委託された業務に政務調査活動に関するもののほか政党活動若しくは後援会活動又はこれらに準ずる活動に関するものが含まれる場合については,基本的に,その業務委託の対象となった業務活動の実態や,その実態を踏まえた政務調査活動に関する経費とそれ以外の活動に関する経費のいずれとして支出されたのかといった支出の実態に応じた合理的な割合によって按分した額のうち,政務調査活動に関する経費として算出される額についてのみ政務調査費による支出が許容されている(市要領4条9項,10項)。

しかし,当事者の主張や提出証拠が十分とはいえないことなどにより,上記業務活動や支出の実態を適確に認定することができず,政務調査活動に関する経費として支出されたものとそれ以外の活動に関する経費として支出されたものとを区分することが困難であるときには,諸般の事情に基づいて,社会通念上合理的と認められる割合により当該経費として支出された額を政務調査活動に関するものとそれ以外の活動に関するものとに按分し,政務調査活動に関する経費として支出された額についてのみ政務調査費による支出が許容されるものというべきである。

そうすると,このような合理的と認められる割合による按分に従って政務調査費の支出が行われている場合には,当該政務調査費の支出は,「手引き」等の使途基準に違反するものではないが,按分の割合が上記業務活動や支出の実態に応じた合理的なものといえない場合には,当該政務調査費の支出は,その実際の支出額と適正であると認められる按分額との差額において,「手引き」等の使途基準に違反する違法な支出となり,当該会派は,札幌市に対し,上記差額に相当する金員を不当利得として返還する義務を負うこととなると解される。

(2)  違法な支出であることの主張立証責任の所在について

本件訴訟は,原告が,参加人各会派による政務調査費の支出が法その他の規定に違反する違法なものであり,同各会派が札幌市に対して不当利得返還義務を負うことから,札幌市の執行機関である被告に対し,同各会派に対する当該返還義務の履行を請求することを求めるものである。

不当利得返還請求権の発生については,一般に,不当利得の返還を請求する者において当該利得が法律上の原因を欠くことを主張立証すべきであると解されるところ,このことは,当該普通地方公共団体の執行機関に対して怠る事実に係る相手方に不当利得返還の請求をすることを求める住民訴訟においても同様に解されるから,本件における政務調査費の支出が「手引き」等の使途基準に違反する違法な支出として法律上の原因を欠くものであることについても,被告に対して怠る事実に係る相手方に不当利得返還の請求をすることを求める原告が主張立証責任を負うというべきである。

もっとも,原告は参加人各会派及びそれらの所属議員の内部事情について情報を有していないものであること,政務調査費が税金を原資とするものであり,その支出には透明性の確保が要求されること,「手引き」においても,議員において「支出についての説明ができるよう書類等が整備されていること」が求められる旨明記されていること(甲共3)等に照らすと,原告において各会派の政務調査費の支出が違法であることまでを具体的に立証する必要はなく,当該支出が「手引き」等の使途基準に違反する違法な支出であることを推認させる一般的,外形的な事実を主張立証すれば足り,その場合において,被告側がこれに対して適切な反証を行わないときには,当該支出が違法なものであると解すべきである。

(3)  本件業務委託契約に関する認定事実

以上を本件についてみると,前記前提事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件業務委託契約に関し,以下の事実を認定することができる。

ア 参加人民進党会派は,平成22年3月31日付けで,民主党札幌との間で本件業務委託契約を締結し(前提事実(3)イ),民主党札幌は,P4,P5及びP6(以下,3名の職員を総称して「P4ら」という。)の3名の職員を同会派から受託した業務に従事させた。なお,平成22年当時,民主党札幌にはP4らのほかに職員は存在しなかった。(証人P4,証人P7)

イ 本件業務委託契約においては,北海道職員,札幌市職員,民主党北海道の職員の各給与に,社会保険料及び労働保険料を合算した額を参考に,P4らの平成22年度における人件費を算出し,当該額の合計額を基礎として政務調査業務委託費(研究研修費480万円,資料作成費1032万円,広報費600万円の合計2112万円)を決定した(前提事実(3)イ,証人P7)。

民主党札幌は,上記のとおり定められた委託費をもとに,本件業務委託契約に基づく業務に従事した対価として,P4らに対し,給与合計2052万9672円(期末手当及び福利厚生費を含む。)を支払ったほか,P4らの社会保障費として,合計317万4695円を負担した。

ウ P4らは,就業時間が平日の午前9時から午後5時まで(休憩時間45分を除く。)とされ,札幌市庁舎内所在の参加人民進党会派議員控室を就業場所として,以下のとおりの具体的業務に従事した。これらの業務のうち最も大きな比重を占めるのは,各種業務に係る資料作成業務であった。(丙共2,20,21,証人P4,証人P7)

(ア) 「まちかどミーティング」に関する業務

参加人民進党会派が主催し,札幌市議会議員が市民らと市政に関する意見交換を行う懇談会を「まちかどミーティング」(以下「まちかどミーティング」という。)と呼称し,同ミーティングが平成22年4月及び同年9月の2回にわたり開催された。

民主党札幌は,まちかどミーティングの開催に当たり,出席議員と共に,テーマの選定,ミーティングの構成等といった内容面についての検討を行ったほか,会場の確保や設営,参加案内状の発送及び取りまとめ,懇談会で配布する資料及び報告書の作成等の補助を行った。

まちかどミーティングの成果は代表質問や委員会質問等を通じて市政に反映され,その様子が取材されて民主党札幌の機関誌にも掲載された。

(イ) 意見書の作成に関する業務

民主党札幌は,参加人民進党会派が法99条に基づき国会又は関係行政庁に28件の意見書(丙共6)を提出するに当たり,現行制度の整理,関連データの収集・整理を行い,参考資料を収集・作成しつつ,意見書の文案の作成を補助した。

(ウ) 要望書の作成に関する業務

民主党札幌は,参加人民進党会派が市に対して要望・提言を行うに当たり,同会派内の意見調整を行うために,会派担当者との調整を行ったほか,同要望・提言のための意見書・要望書の文案作成を補助した。上記業務に関し,平成22年度に作成・提出された要望書等は,以下のとおりである。

a 2011年度予算編成に関する要望書(丙共2の9)

b 「入札制度の改善に関する申し入れ」と題する書面(丙共2の9)

c 「雪害から市民生活を守るための緊急申し入れ」と題する書面(丙共2の10)

d 「東北地方太平洋沖地震にかかわる緊急要望」と題する書面(丙共2の12)

(エ) 条例案の作成に関する業務

民主党札幌は,平成22年6月に参加人民進党会派が提出した「札幌市公契約条例の修正案」の文案作成を補助した。

(オ) 各議員の議会質問の作成補助に関する業務

議員が議会や各種委員会で質問を行うために,それに先立ち開催される政策審議委員会での検討,執行機関との協議や意見交換,議会勉強会について,民主党札幌は,必要な日程調整・会場準備,開催案内文の作成・配布等の業務を行ったほか,議員の質問事項作成の前提となる参考資料の収集・作成を行った(丙共4)。

(カ) 市政についての広報に関する業務

民主党札幌は,議会の経過,代表質問,委員会質問等の市議会議員の市政に関する活動について取材をし,その活動に関する広報記事を作成して各議員に提供した。上記広報記事の内容は,議会のホームページに掲載される議会報告を用いて作成される場合があったが,その場合でも,民主党札幌は,同報告に推敲して手を加えたり,短くまとめるなどした。市議会議員は,上記広報記事を用いて,自己の市政に関する活動状況等を有権者に報告するために作成する市政だより等を作成して配布していた。(丙共11,12,証人P4)

(キ) 選挙公約の作成

民主党札幌は,平成23年市議会議員選挙に備え,平成22年11月にまとめられた「2011年札幌市議会・民主党市民連合選挙公約」の作成を補助した。また,上記選挙公約は,その後,その内容が民主党札幌の機関誌に掲載された。(丙共2の8,証人P4,証人P7)

(ク) その他の業務

P4は,民主党札幌の会計業務を担当し,議員の寄附,政務調査費の業務委託,機関誌の収支や人件費等に関する会計業務に従事したほか,就業場所で民主党札幌宛ての電話に対応したり,ファックス・郵便物を受領するなどしていた(証人P4,証人P7)。

また,P5及びP6の2名は,週に1度発行される(4000部程度)民主党札幌の機関誌「民主党札幌」の編集及び発送業務を担当し,当該業務は業務時間内に行われることもあった(証人P4,証人P7)。

さらに,民主党札幌では,P4らの勤務時間外に,民主党北海道,公共施設,ホテル等の会議室を使用し,民主党本部,各総支部等からの指示・伝達・取組事項等に関する打合せをほぼ1か月に1回の割合で開催していたところ,P4らが,上記打合せのために必要な連絡・調整やレジュメ等の資料作成を行うほか,民主党札幌の副幹事長の肩書を有していたP5及びP6は,上記打合せに出席し,事務的な事項について応答を行うなどしていた。そして,P4は,国政選挙に関し,国会議員が支援者を集めて支援を呼びかける集会,選挙事務所の開設,政治パーティー等のイベントの受付や司会などを手伝った。(証人P4,証人P7)

(4)  具体的検討

ア 以上を踏まえ,本件業務委託契約について検討すると,同契約において,参加人民進党会派は,本件業務委託契約に従事する職員としてP4ら3名の民主党札幌の職員を充てることとし,同契約に基づく業務委託の対価を,近隣自治体の給与水準等を参照した上で決定された上記職員らの給与(社会保障費を含む。)の合計2370万4367円に近い数額である2112万円と定めたことが認められる(上記(3)イ)。

この点について,まず,参加人民進党会派が業務委託先を民主党札幌としたことは,選挙の度に構成員が変化する会派の特性から,会派自身が政務調査活動の補助を行う職員を雇用することは困難であること(証人P7)を踏まえ,会派所属議員が政治的信条を同じくする国政政党を共通にし,その市政に関する政策,活動内容等において相当程度の共通性があると認められることや,民主党札幌が会派の目指す市政の方向性,活動内容等を熟知した機関であることからすると,民主党札幌に市政に関する業務委託を行うことに合理性があると認められる。

また,本件業務委託契約において業務委託費を決定するに当たり,同契約は,同契約に基づく政務調査活動に係る業務にP4らを専属的に従事させる趣旨のものであると解されるところ,少なくとも上記(3)ウ(ア)ないし(カ)の各業務は政務調査活動に係る業務であると認められ,これらの業務の内容が多岐にわたり,その業務量も多く,P4らが上記業務を処理するためには就業時間中において上記業務に従事する必要があると判断されたことが不合理であるとはいえないから,近隣自治体の給与水準等を参照した上で決定された同職員らの同給与額をもって業務委託額を決定したことのみをもって,業務委託費の支出が不合理なものであるということはできない。

他方,上記のとおり,本件業務委託契約の趣旨がP4らを政務調査活動に係る業務に専属的に従事させる趣旨のものであることに加え,上記2(1)アの政務調査費の趣旨からすると,上記契約に基づく業務委託費のうち政務調査費による支出が許されるのは,政務調査活動に必要な範囲の業務に限られるというべきであって,P4らが従事した業務であっても,それが民主党札幌固有の業務であるか,あるいは,政党活動又は後援会活動に係る業務である場合には,それらの業務に従事するために要した費用については,P4らの人件費として政務調査費から支出することは許されないというべきである。

イ そこで,上記(3)ウの各業務について検討する。

(ア) P4らが従事した業務のうち,「まちかどミーティング」に関する業務(上記(3)ウ(ア)),要望書,意見書及び条例案の作成に関する業務(同(イ)ないし(エ)),議員の議会質問に関する業務(同(オ)),市政についての広報に関する業務(同(カ))は,いずれも,議員が議会活動として要望書や意見書の提出,条例制定の発議,これらの前提となる議会における質疑応答等を行う前提として,市政の現状,議員の活動内容等を有権者である市民に伝え,市民の要望等を市政に反映させるために必要かつ重要な業務に当たるというべきであって,会派の議会活動の基礎となるものといえるから,正に「議員の調査研究に資するため必要な経費」として,政務調査費の支出が許容されると解される。

(イ) 他方,選挙公約の作成に関する業務(上記(3)ウ(キ))については,当該選挙公約が,翌年度に実施される市議会議員選挙に備え,党ないし党支部の公約として作成されたものである以上,それは同選挙における党勢拡大を目的として行われる政党活動にほかならないというべきである。

これに対し,参加人民進党会派は,上記選挙公約は,これまで同会派が取り組んできた政策の成果に対する総括にすぎず,政務調査活動としての性質も有していると主張し,証人P4も同様の認識でいた旨供述するが,選挙公約というものの性質上,これを政務調査活動の一環として評価することはできないから,参加人民進党会派の上記主張は採用できない。

(ウ) さらに,P4らが受託業務に従事する作業は,いずれも参加人民進党会派の議員控室において行われていたところ,民主党札幌は,平成22年度当時,同人ら以外に専属職員を有していなかったため,上記(3)ウ(ク)のとおり,P4らは,本件業務委託契約に基づく業務を受託後も,民主党札幌が発行していた機関誌の編集・発送に関する業務や,民主党札幌宛ての電話やファックス,郵便物等の処理等,民主党札幌固有の業務に従事していたことが認められる。

また,P4らは,民主党本部,各総支部等からの指示・伝達・取組事項等に関してほぼ1か月に1回行われていた民主党札幌の打合せの連絡調整やレジュメ等の資料作成をしたほか,P5及びP6は,事務的な事項について受け答えをするなどし,P4は,国政選挙に関するイベントの受付や司会などの手伝いをしたことが認められる。

ウ 以上によれば,参加人民進党会派は,P4らを専属的に受託業務に従事させ,少なくとも同契約で定められた勤務時間内においては,同業務にのみ従事させることを内容とする契約を締結していたのにもかかわらず,P4らは政党活動に係る業務や民主党札幌固有の業務にも従事していたことが認められる以上,業務委託費の支出のうち少なくともこれらの業務に関する政務調査費の支出については,「手引き」等の使途基準に違反する違法なものとして許されない。

エ この点に関し,証人P4及び証人P7は,上記イ(イ)及び(ウ)の政党活動に関する業務のうち,選挙公約の作成に関する業務,民主党札幌の機関誌の編集・発行に関する業務,民主党札幌の民主党本部等から指示・伝達事項等の打合せに関する業務や国政選挙に関するイベントの手伝い等の業務については,P4らの勤務時間外に,会派控室以外の場所で行われ,これらの業務に対する報酬が給与として支給されておらず,業務委託費に含まれていない旨証言する。

しかし,これらの業務については,民主党札幌の職員らが継続して従事してきたものであり,平成22年度においてもP4らがこれらの業務に従事することは当然に前提とされていたのであるから,これらの業務に従事することに対する報酬を含めて全体としての給与が決定され,これに基づき業務委託費が決定・支出されていたとみるのが合理的であるというべきである。そして,証人P4及び証人P7の上記証言があるものの,これらの業務が政務調査活動に関係する業務に当たることや,これらの業務にP4らが従事したことに対する給与の支給がされていないことなどについて,被告及び参加人民進党会派は具体的に主張立証しておらず,これらの業務に対して業務委託費としての給与が支払われたと認めるべきであるから,これらの業務に関するP4らの給与の支出は「手引き」等の使途基準に違反する違法なものとして許されないというべきである。

オ そこで,参加人民進党会派が民主党札幌に対してした業務委託費の支出には,政務調査活動に関する業務に支出されたもののほかに政党活動等に関する業務に支出されたものが含まれ,これらを按分して支出すべきであるところ,そのうち政務調査活動に関連する業務に係る支出が占める割合を検討すると,本件においては,当事者からの提出証拠が十分ではないことなどにより,上記業務活動や支出の実態を適確に認定することができず,P4らの受託業務のうち政務調査活動に関連する業務に従事した割合は明らかではないから,政務調査活動に関する経費として支出されたものとそれ以外の活動に関する経費として支出されたものとを区分することが困難であるといわざるを得ない。

そうすると,諸般の事情に基づき,社会通念上合理的と認められる割合により,その経費として支出された額を政務調査活動に関するものとそれ以外の活動に関するものとに按分すべきであって,上記(3)ウのP4らが従事した業務には,機関誌の作成・発行に関する業務,ほぼ1か月に1回行われていた民主党札幌の打合せに関する連絡調整,資料作成等の業務などが含まれており,政務調査費に関する業務との軽重を判断することが容易であるとはいえないことなどの本件における諸事情を考慮すると,2分の1ずつの割合により按分するのが相当であるというべきである。

したがって,本件業務委託契約に基づき支出される業務委託費のうち2分の1についてのみ,適法な支出であると認められ,これを超える政務調査費の支出は,「手引き」等の使途基準に違反する違法な支出である。

(5)  小括

したがって,参加人民進党会派がした本件業務委託契約に基づく業務委託費の支出のうち,その2分の1である1056万円を超える支出は違法な支出と認められるから,参加人民進党会派は,札幌市に対し,上記金額に相当する金員の不当利得返還義務を負うこととなる。

3  参加人各会派における事務所費支出の適法性(争点3)

(1)  判断の基準

参加人各会派に所属する議員が支出した政務調査費が「手引き」等の使途基準に適合した適法な支出であるかどうかについては,業務委託費の支出に関する場合(上記2(2))と同様に考え,原告側において各議員の個別の支出が違法であることまでを具体的に立証する必要はなく,当該支出が「手引き」等の使途基準に違反する違法な支出であることを推認させる一般的,外形的な事実を主張立証すれば足り,被告側がこれに対して適切な反証を行わないときには,当該支出が違法なものであると解すべきである。

以下では,「手引き」等の使途基準に従い,まず,原告が主張する,複数名の議員に共通する事務所費支出の違法事由の有無について検討し(後記(2)),その後に議員ごとの支出の個別的な違法事由の有無について検討する(後記(3))こととする。

(2)  各議員に共通する原告主張についての検討

ア 賃貸借契約書が提出されていない場合の,事務所費支出の適法性について(A7,A12,B7の各議員の関係)

(ア) 原告は,賃貸借契約書が開示されていない議員については,当該事務所が何の用途に用いられたのか等を判断することができず,当該事務所の事務所費を政務調査費から支出することは許されない旨を主張する。

(イ) 法は,政務調査費の支出を受けた会派又は議員に対し,条例の定めるところにより,当該政務調査費に係る収入及び支出の報告書を市議会議長に提出することを求め(法100条15項),また,「手引き」には,「使途基準項目の共通原則・指針」の一つである「政務調査費執行にあたっての原則」として,「支出についての説明ができるよう書類等が整備されていること」に留意する必要があることが掲げられている。これらは,政務調査費が市民から徴収した税金を原資とするものであることを踏まえ,政務調査費の使途の透明性を確保しつつ,法令等や「手引き」の定める使途基準に適したものであるかどうかを事後的に検証することのできるよう,そのような支出に関する書類等を議員側において整備することを要求する趣旨であると解される(最高裁平成17年11月10日第一小法廷決定・民集59巻9号2503頁参照)。

そして,事務所費とは,「会派又は所属議員の行う調査研究活動のために必要な事務所の設置・管理等に要する経費」と定義され(市条例・別表),「手引き」の使途基準において,事務所の要件として,「賃借の場合は,会派または所属議員が契約者となっていること」,「調査研究活動が実際に当該事務所にて行われていること」などが定められているところ,賃貸借契約書は,議員が政務調査事務所として届出を行う物件の契約当事者,賃貸借契約の内容・目的等を証する,最も基本的な文書であり,当該事務所費としての政務調査費の支出が,上記のとおり定義された経費の支出に当たるかどうか,また,「手引き」等の使途基準に適合する適正なものであるかどうかを明らかにするために重要な書類であるということができる。

そうすると,議員としては,政務調査事務所の賃貸借契約締結に当たり,当該事務所費の支出が適正なものであることを説明できるよう,賃貸借契約書を作成し,上記支出の適法性・相当性が争われた場合には,同契約書を開示するなどして,これを説明できるようにしておくべきであって,これが開示等されない場合には,当該事務所費の支出が「手引き」等の使途基準に適合する適正な支出であることについて相当程度の疑いが生じるといわざるを得ないから,事務所費支出の実態について,議員側で適切な反証がされないときには,当該事務所費の支出は「手引き」等の使途基準に反する違法なものとなると解するのが相当である。

(ウ) したがって,賃貸借契約書を開示しないA7,A12及びB7の各議員については,議員側において当該事務所費を政務調査費から支出することが「手引き」等の使途基準に適合する適法なものであることについての適切な反証をすることを要するというべきである。ただし,この点に関する具体的検討については,後記(3)イ(A7議員),カ(A12議員)及びシ(B7議員)で行うこととする。

イ 賃貸借契約書上,政務調査事務所の使用目的欄等に,単に「事務所」等とのみ記載があるか,何らの記載もされていない場合の,事務所費支出の適法性について(A4,A5,A9,A10,A13,A14,A16,A18,B1ないし4,B6,B8ないし15,C1,C3,C4の各議員関係)

(ア) 本件においては,賃貸借契約書上,政務調査事務所として届け出ている事務所の使用目的について,A4,A5,A16,A18,B1,B3,B6,B9,B10,B12,C1,C3,C4の各議員については「事務所」と,A9議員については「議員事務所」と,A10議員については「店舗(事務所)」と,B2議員については「政治団体事務所」と,B8議員については「民主党・市民連合B8事務所」とそれぞれ記載されており,また,A13,A14,B4,B11,B13ないし15の各議員については,賃貸借契約書上,いずれも政務調査事務所の使用目的欄等に使用目的の記載がないことが認められる。

そして,原告は,これらの使用目的等の記載からは,当該事務所が政務調査活動のみに使用されているかどうかが明らかではなく,政党活動や後援会活動に使用されている可能性がある以上,当該事務所の賃料等を政務調査費から支出することは許されない旨主張する。

(イ) しかし,賃貸借契約書における使用目的欄等は,抽象的・概括的な使用目的が記載されるのが通常であると考えられるところであるし,「手引き」においても,政務調査費を支出する事務所について,政務調査活動を行う拠点として使用することを賃貸借契約書上明示すべき旨定めた規定は存在しない。かえって,「手引き」は,政務調査費の支出が許される「事務所」の要件について,「調査研究活動が実際に当該事務所にて行われていること」と定め,活動の実態という実質的な基準を設定していることからすれば,形式的に賃貸借契約書上の使用目的欄に政務調査活動にのみ使用する旨記載されていないことの一事をもって,当該事務所の賃料等に係る政務調査費の支出を許さないとするものとは解されない。そして,上記(ア)の各記載のように賃貸借契約書上の使用目的が限定されていないことが,当該事務所において政務調査活動以外の政党活動や後援会活動が行われていることを疑わせ,当該事務所費に係る政務調査費の支出が「手引き」等の使途基準に違反する違法なものであることを推認させる事実であるともいえない。

そうすると,賃貸借契約書の表題や使用目的欄に記載されている使用目的が特定されていないことのみをもって,当該事務所の賃料を政務調査費から支出することが違法であると解することはできないから,原告の上記(ア)の主張を採用することはできない。

(ウ) 小括

そして,原告は,A5,A10,A13,A14,A18,B1ないし4,B6,B8,B9,B12ないし15,C1,C3,C4の各議員について,賃貸借契約書上の表題や使用目的欄に記載されている使用目的が特定されていないこと以外に当該各議員の事務所費としての政務調査費の支出が「手引き」等の使途基準に違反する違法な支出であることを推認させる一般的,外形的な事実を具体的に主張立証しないから,上記各議員がした事務所費に係る政務調査費の支出は,別紙1(政務調査費支出額一覧)中の「事務所費」の「政務調査費での支出額」欄記載の金額の全額について違法な支出であるということはできない。

ウ 政務調査事務所に係る賃貸借契約上の当事者が議員以外の第三者である場合の事務所費支出の適法性について(A6,B11,C2の各議員関係)

(ア) 「手引き」は,政務調査費を支出することが許される「事務所」の要件として,「会派または所属議員が契約者となっていること」を定める。これは,政務調査費が,議員としての議会活動の基礎となる調査研究活動に対して支出される性質を有するものであり,当該事務所において当該議員の調査研究活動が実質的に行われることを確保するとともに,当該事務所における調査研究活動の実態がないにもかかわらず,政務調査費が事務所費として流用されてしまうことを防止するため,会派又は議員が政務調査事務所に係る賃貸借契約を自ら締結し,その当事者となっていることを政務調査費支出の要件としたものと解される。

したがって,政務調査事務所の賃料に係る政務調査費の支出は,賃貸借契約上,当該会派又は議員以外の第三者が当事者として記載されていることのみをもって直ちに違法な支出であるとはいえないとしても,上記第三者が賃貸借契約書上の当事者である場合には,当該賃料の支出が政務調査費として「手引き」等の使途基準に適合する適正な支出であることについて相当程度の疑いが生じるというべきであって,これに対して適切な反証がないときには,当該事務所費の支出は「手引き」等の使途基準に違反する違法なものと認められるというべきである。

(イ) そこで,上記の観点から本件について検討する。

a A6及びB11議員は,賃貸借契約書上,いずれも会派又は議員以外の第三者が,賃貸人との間で,政務調査事務所の賃貸借契約を締結した賃借人であるとされており,議員本人は連帯保証人となっているにすぎず(丙A6の21,丙B11の1),とりわけB11議員については,同議員本人がその計算において政務調査事務所の賃料を継続して支払っていたことを裏付ける領収証等の客観的証拠がなく,そのほかに,同議員が,賃貸借契約上,実質的に賃借人としての地位にあることをうかがわせる事実も認められないから,上記(ア)の推認についての適切な反証があるとはいえない。

また,A6議員については,参加人自民党会派が,同議員本人がその計算において政務調査事務所の賃料を継続して支払っていた旨主張し,これを裏付ける領収証(丙A6の1ないし20)を提出する。しかし,それ以上にA6議員が政務調査事務所に関する実質的な賃借人の地位にあることを示す事実関係について立証を行なっていないから,結局,A6議員についても,当該事務所に係る支出の違法性に関する上記推認に対して適切な反証があるとはいえない。

そうすると,A6議員及びB11議員のした政務調査事務所の賃料に係る政務調査費の支出は,「手引き」等の使途基準として定められている「事務所」の要件を欠いており,これに違反する違法な支出であると認められるから,当該支出はその全額について違法であるというべきである。

b 次に,C2議員については,賃貸借契約書上,政務調査事務所が1階に,日本共産党手稲区後援会事務所が2階に,それぞれ位置する建物の賃借人が「日本共産党札幌西・手稲地区委員会」とされているところ(丁C2の1),証拠(証人P8)及び弁論の全趣旨によれば,「日本共産党札幌西・手稲地区委員会」は,参加人共産党会派とは異なる政党の下部組織である地区委員会の一つであると認められるが,同会派又は議員は,その計算において政務調査事務所に係る賃料を継続的に負担していることなど,実質的に同事務所の賃借人であることをうかがわせる事情について適切な反証を行っていない。

したがって,C2議員がした事務所費の支出は,その全額について違法な支出であるというべきである。

(ウ) これに対し,被告及び参加人自民党会派及び同民進党会派は,「手引き」の定めは会派又は議員が事務所の賃貸借契約の名義人となることまで要求する趣旨ではなく,当該事務所を実際に政務調査活動の用に供しており,当該事務所の賃料を議員自身が支払っている場合には,なお政務調査費の適法な支出と解すべきであって,A6議員及びB11議員自身が賃料の支払を行っている以上,当該事務所費に関する支出は適法である旨主張する。

しかし,上記(イ)aのとおり,A6及びB11議員は,賃貸借契約書上,政務調査事務所の連帯保証人の地位にあるにすぎないのであって,上記各議員が上記賃料の支払を行ったことがあると認められるとしても,それは,法形式的には連帯保証人の地位で連帯保証債務を履行したものにすぎないとみる余地があるのであるから,被告及び補助参加人自民党会派及び民進党会派としては,これを超えて,政務調査事務所の賃貸借契約上,会派又は議員自身が賃借人の地位にあることを示す特別の事情について適切な反証をすべきところ,本件においてこれが行われているということはできない。

したがって,被告,参加人自民党会派及び民進党会派の上記主張を採用することはできない。

(エ) 小括

以上によれば,A6,B11,C2の各議員については,いずれも事務所費に係る政務調査費の支出が,その全額について違法である。

エ 議員本人若しくは親族が役員に就任している法人又は議員が株主である法人が政務調査事務所の賃貸人である場合の,事務所費支出の適法性について(A11,A15,A16,A18の各議員関係)

(ア) 原告は,議員本人若しくは親族が役員に就任している法人又は議員が株主となっている法人が政務調査事務所の賃貸人となっている場合,当該法人の利益は役員報酬又は株主配当という形で最終的には当該議員の利益に帰属することになるのであるから,議員と生計を一つにする者からの賃借を禁じて「お手盛り」を防止する「手引き」の趣旨からして,当該支出はその全体が違法になると主張する。

(イ) しかし,「手引き」においては,自己又は生計を一つにする者の所有する物件については事務所賃料を支出することができないとされている一方,生計を一つにしない親族及び議員の経営する会社が所有する物件については,この事務所賃料を政務調査費から支出することができる旨明文で定められている。そうすると,議員が役員に就任し,又は株式を保有することによって,議員と当該法人とが実質的に同一の法主体であると評価すべきであるような例外的事情が認められる場合は別として,議員が役員に就任し,又は株式を保有する法人が政務調査事務所の賃貸人となっていることの一事をもって,当該事務所費を政務調査費から支出することが「手引き」等の使途基準に違反する違法な支出であると解することはできない。

そして,本件において,A11,A15,A16,A18の各議員について,政務調査事務所を生計を一つにする親族の経営する法人から賃借していることのほか,上記各議員が法人の役員に就任し,又は法人の株式を保有することにより,議員と当該法人とが実質的に同一の法主体であると評価すべきであるような例外的事情があるとは認められない。

(ウ) したがって,上記各議員の事務所費の支出については,上記各議員が政務調査事務所の賃貸人である法人の役員に就任し,又は同法人の株主であることの一事をもって違法であるということはできない。

(3)  各議員の事務所費支出の適法性について

以下では,上記(2)のとおり各議員に共通する原告の主張について検討した点以外について,各会派所属の議員がした事務所費の支出の適法性について検討することとする。

ア A4議員

(ア) 原告は,平成22年6月以降,A4議員が雇用する職員の1名が政党活動を行い得る状態であったことを自認していることから,同議員の政務調査事務所においても政党活動が行われていたことが推認されると主張する。

(イ) しかし,A4議員の陳述書(丙A4の22)における供述内容は,具体的かつ詳細であって,不合理なものとはいえず,信用性を有するところ,上記陳述書及び弁論の全趣旨によれば,同議員が雇用する職員のうち1名(P9)について同議員が政党活動も行い得る状況にあったとするのは,平成22年6月10日から同年10月までの間に政務調査事務所に政党事務所が設置されていたことを考慮したためであって,同議員は,同年度において,政務調査事務所で,同年6月9日までは政務調査活動及び後援会活動を行っていたとして同事務所の賃料の2分の1を,同月10日以降は上記各活動のほかに政党活動を行っていたとして同事務所の賃料の3分の1を政務調査費から支出したこと,同議員は,平成22年度の政党活動としては党費の徴収及び寄付に関する事務程度しか行っておらず,同事務があえて政務調査事務所において行うことが必要な性質のものではなかったことが認められる。

これに対し,原告は,A4議員の政務調査事務所において,同年6月9日以前に政党活動が行われていたことや,同月10日以降に上記事務以外の政党活動が行われていたなど,当該支出が「手引き」等の使途基準に違反する違法な支出であることを推認させる一般的,外形的な事実を具体的に主張立証していない。

(ウ) そうすると,上記(イ)のとおり,A4議員の事務所費のうち2分の1ないし3分の1につきされた政務調査費の支出が「手引き」等の使途基準に違反する違法なものであると認めることはできない。

イ A7議員

(ア) 上記(2)アのとおり,A7議員は,政務調査活動のために使用した3か所の駐車場について,いずれも賃貸借契約書を提出していないことから,当該駐車場の賃料の政務調査費からの支出が「手引き」等の使途基準に違反する違法な支出であることが推認されるため,当該駐車場の賃料の支出が「手引き」等の使途基準に照らし適正なものであることについての適切な反証がない限り,当該支出は違法なものと認められる。

そこで,この点について検討すると,本件においては,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。

a A7議員は,同議員の妻が所有する物件を政務調査事務所として使用し,同事務所には附属の駐車場が存在する(甲A7の3,丙A7の41,証人A7)。

b A7議員は,政務調査事務所から徒歩で5ないし10分程度の距離にある3か所の駐車場(うち一つについては株式会社藤晃〔以下「藤晃」という。〕が所有し管理する駐車場であり,残り二つは第三者が所有し藤晃が管理する駐車場となっている。)を賃借し,それらの賃料(1か月当たり合計3万円,平成22年度の合計額36万円)を政務調査費から支出した。

これらの駐車場は,同議員が毎月1回程度の頻度(ただし,平成22年7月11日実施の参議院議員選挙〔以下「平成22年参議院議員選挙」という。〕があった同年7月頃は行っていない。)で近隣の市民会館や神社等の施設において開催される市政報告会の際に,同報告会の参加者(毎回20名から70名程度)が車を駐車するためのスペースとして使用されていた(丙A7の1ないし13,丙A7の41,証人A7)。

(イ) 藤晃が所有する駐車場に係る政務調査費の支出について,上記(ア)の認定事実によれば,A7議員は,平成22年度に十数回,公共施設等を利用して政務調査活動に関する市政報告会を実施する際,自動車を利用して来場する市民の便宜を図るため,近隣の場所に駐車場を賃借し,これを市民の利用に供していたことが認められる。これによれば,当該駐車場は,市政の状況を報告し,市民の要望を調査する政務調査活動に当たる市政報告会のために利用されていたものといえるから,その賃料は政務調査活動を行うために必要な支出であるということができ,これを政務調査費から支出することが「手引き」等の使途基準に違反する違法な行為であるとの推認についての適切な反証があるというべきである。

したがって,A7議員がした上記駐車場の賃料に係る政務調査費の支出のうち,藤晃が所有する駐車場について支出した政務調査費については違法であるということはできない。

(ウ) 他方,A7議員は,上記以外の二つの駐車場については,当該事務所の賃料を同駐車場の管理者にすぎない藤晃に支払っていたことを裏付ける領収書を提出するのみであって,当該事務所の賃貸人について,上記3(2)エ(イ)のような観点から「手引き」等の使途基準に適合するものであるかどうかを判断することができず,当該支出の適法性についての適切な反証があるとはいえない。

そうすると,A7議員が支出した事務所費のうち,藤晃が所有する一つの駐車場を除いた賃料の残額(24万円)についての支出は違法である。

ウ A8議員

(ア) A8議員の政務調査事務所に関する賃貸借契約書(丙A8の1)においては,使用目的欄に「後援会事務所兼,政務調査室事務所」と記載されており,議員が政務調査活動を行う拠点として届出を行っている事務所について,あえてその使用目的欄に後援会活動にも使用する旨を記載している以上,同事務所は,政務調査活動のみならず,後援会活動の目的でも使用されていたことが推認されるというべきである。

もっとも,A8議員は政務調査事務所の賃料の2分の1についてのみ政務調査費から支出したことが認められるところ,賃貸借契約書の上記記載は,当該事務所において後援会活動が行われていたことを推認させるにとどまり,そのことをもって,当該事務所において主に後援会活動が行われており,上記政務調査事務所の賃料の政務調査費による支出が「手引き」等の使途基準に違反する違法な支出であることを推認させる一般的,外形的な事実であるということはできず,そのほかに,当該事務所において主として後援会活動が行われていたことを推認させる一般的,外形的な事実について,原告は主張立証していない。

これらの事情を考慮すると,A8議員の政務調査事務所においては,後援会活動が行われたこと自体は認められるものの,政務調査活動と後援会活動の活動比が明らかではなく,主として後援会活動が行われていたとは認められないことから,「按分の指針」(市要領4条)に従い,事務所費の2分の1については,これを政務調査費から支出することができるというべきである。

(イ) そうすると,A8議員が政務調査事務所を後援会活動にも利用したことを前提として同事務所の賃料の2分の1についてのみ政務調査費からした支出が,その全額について「手引き」等の使途基準に違反する違法なものであったとは認められない。

エ A9議員

(ア) A9議員の事務所費支出については,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認定することができる。

a A9議員は,平成22年度において,自身の父親であるP10が所有し居住する物件を,同人から賃借し,政務調査事務所として使用した(丙A9の1)。

同物件は,2階建てであるところ,1階は,P10世帯の住宅部分及びA9議員の政務調査事務所部分から成り,それぞれ,別々の入口が設けられ,内部で両部分を出入りすることのできる扉こそあるものの,通常は同扉を施錠して使用しておらず,それ以外の部分は,壁で完全に仕切られており,内部で自由に行き来できる構造とはなっていない。

また,2階は,A9議員世帯の住居部分とP10世帯の住居部分からなり,A9議員の住居部分の玄関は2階に設置されているほか,内部でドアを開閉することにより両部分を自由に行き来することは可能であるが,同ドアを使用することは稀であった。(丙A9の36,証人A9)

b A9議員とP10は,年に数回ほど一緒に食事をする程度の関係であって,生活費について,P10世帯が年金により生活しており,いずれも独立して生計を立てている(証人A9)。

c A9議員は,平成22年度中,政党活動として,約20名弱の党員から党費を徴収してこれを札幌支部連合会に納める活動のみに従事し,当該活動に関する作業は,全て自宅でこれを行った(証人A9)。

(イ) 上記(ア)の認定事実によれば,A9議員は,実父であるP10から当該物件の1階部分を賃借して政務調査事務所として使用しており,当該物件は,A9議員世帯とP10世帯の二世帯が居住する住居でもあったものの,当該物件において,A9議員世帯の居住部分と政務調査事務所部分は入口及び階を異にし,物理的にも物件内部において自由に行き来をすることはできないような構造になっていることから,両部分は独立した別個の物件であるということができる。さらに,A9議員が政務調査事務所の賃借人であるP10と生計を一つにしているとは認められない以上,当該物件の一部を政務調査事務所として賃借してその賃料を政務調査費から支出したとしても,当該支出は,「手引き」が政務調査費の支出を認める「生計を一つにしない親族(中略)が所有する物件の賃借」に当たるから,これが違法な支出であるということはできない。

したがって,A9議員の事務所費に関する政務調査費の支出は,その全額について違法であるとはいうことはできないというべきである。

(ウ) これに対し,原告が以下のとおり主張するので検討する。

a 原告は,A9議員が行っていた政党活動はかなりの作業量を要するものであり,これを自宅内で行っていたとの同議員の供述は信用できず,政務調査事務所の賃料全額の政務調査費からの支出は違法である旨主張するが,A9議員の行っていた政党活動の内容は,上記(ア)cのとおりであると認められ,20名弱の党員から党費を徴収し,これを支部に納めるために要する作業が,あえて政務調査事務所において行うことが必須な性質のものであるとは認め難く,そのほかに,A9議員が,同作業のために,政務調査事務所を使用していたことをうかがわせる事情は認められない。

したがって,A9議員が政務調査事務所において政党活動を行っていたものと認めることはできないから,結局,原告の上記主張を採用することはできない。

b また,原告は,上記(ア)bの認定に対し,A9議員が使用する政務調査事務所は,同一の住居に居住して生計を一つにする親族から賃借したものである旨主張するが,政務調査事務所の所在する建物が,内部が壁により一応区分された,いわゆる二世帯住宅となっていることは上記認定のとおりであって,一般に,二世帯住宅に居住しているからといって,当然に当該二世帯が生計を同一にしているとは認め難く,かえって,A9議員は,父であるP10とは,年に数回食事をする程度の関係であり,両親世帯は年金により,同議員とは独立の生計を行っていたといえ,そのほかにA9議員がP10と生計を一つにしていたことをうかがわせる事情は存在しない。

そうすると,P10がA9議員と「生計を一つにする」親族に当たるとは認められず,結局,原告の上記主張を採用することはできない。

オ A11議員

(ア) A11議員の事務所費支出については,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認定することができる。

a A11議員は,平成22年度において,政務調査事務所として,自身の義理の姉にあたるP11が代表取締役を務める株式会社Q1米酒店所有の物件の一部を賃借していた(丙A11の1,証人A11)。

b A11議員の後援会事務所は,政務調査事務所と同じ建物の同じフロアに存在するものの,両事務所は壁と扉で仕切られており,床面積は,政務調査事務所が約100平方メートル,後援会事務所が約35平方メートルであった。また,両事務所ともに,それぞれ数台の机,椅子のほか,コピー機が1台ずつ備え置かれていたが,固定電話及びパソコンは後援会事務所に設置されておらず,政務調査事務所にのみ1台ずつ設置されていた。(丙A11の1ないし3,丙A11の17,証人A11)

c 同後援会事務所では,年に三,四回程度,後援会会員と懇親行事を実施するため,100名前後の会員に案内状を作成・発送する業務を行っていた。また,A11議員は,平成22年11月からは,政務調査事務所も使用して,平成23年市議会議員選挙のための準備作業を20名程度のスタッフとともに行い,これに合わせて同月頃から平成23年4月までの間,上記準備作業を行うために後援会事務所に五,六台の固定電話を新たに設置した。このように,A11議員は,平成22年11月以降については,政務調査事務所において後援会活動に関する業務を行っていたことから,同事務所の賃料の2分の1のみを政務調査費から支出した。(丙A11の18,証人A11)

(イ) 上記(ア)の認定事実によれば,A11議員の政務調査事務所は,後援会事務所と物理的に分離されており,それぞれの事務所で行われることが想定される活動に応じて,机,椅子,コピー機等の事務用品がそれぞれ設置されていたことが認められる。そして,A11議員は,その陳述書(丙A11の18)及び証言において,平成23年市議会議員選挙の準備作業に着手する前の平成22年10月までの間は,後援会活動としては年に数回行われる懇親行事の案内業務程度の作業しか行っていなかったため,比較的手狭な後援会事務室のみを使用し,同年11月以降は,上記選挙に向けて後援会活動の量が増大したため,後援会事務室より広い政務調査事務室を後援会活動のためにも使用するようになったことを具体的かつ詳細に供述ないし証言し,その内容も合理的で自然であるといえるから,上記供述ないし証言は信用できる。

そうすると,A11議員は,平成22年4月から同年10月までの間は政務調査事務室において政務調査活動のみを行い,他方,同年11月以降は,後援会活動も行っていたと認められ,政務調査事務所で行われていた政務調査活動と後援会活動の按分割合を2分の1として政務調査事務所の賃料を政務調査費から支出したことが不合理であるとはいえないから,これに応じたA11議員の政務調査費の支出は,その全額について違法であるということはできない。

(ウ) これに対し,原告は,平成22年参議院議員選挙に自民党候補者が出馬するに際し,政務調査事務所において当該選挙活動に関する打合せを行ったことについてはA11議員も認めるところであることからすれば,同議員の政務調査事務所においては政党活動も行われていたと評価すべきであり,また,平成22年度の途中から政務調査事務所を後援会活動にも使用するようになったというのは不自然であって,同年度中を通して後援会活動も行われていたとみるべきであるなどと主張する。

a しかし,国政選挙の同一政党候補者に関する選挙活動の打合せが政党活動に当たるとしても,A11議員は,平成22年度において,数回程度,候補者と選挙活動の打合せを行ったにとどまり,そのほかに政務調査事務所において政党活動に関する業務が行われたことをうかがわせる事実は認められないから,政務調査事務所において,「手引き」等の使途基準に従った按分の割合(平成22年10月までは全額,同年11月以降は2分の1)を超えた政務調査費の支出が許容されないような政党活動の実態があったとは認められない。

b また,A11議員が平成22年度の途中から後援会活動を行うようになったとの点についても,平成23年4月に実施された市議会議員選挙に備え,その半年程度前から選挙活動を行うために,五,六台の固定電話を後援会事務所に搬入した上で,同事務所より広い政務調査事務所のスペースも使って20人程度の後援会会員とともに上記選挙のための準備作業を行った旨のA11議員の供述ないし証言は,上記(イ)のとおり,具体的かつ詳細で,その内容も合理的かつ自然であることから,信用することができる。

そうすると,A11議員の政務調査事務所については,平成22年11月より後援会活動も行われていたものの,同月以前は,専ら政務調査活動のみが行われていたものと認められるから,原告の上記主張を採用することはできない。

(エ) したがって,A11議員の事務所費に関する政務調査費の支出は,その全額について違法であるということはできない。

カ A12議員

(ア) 上記3(2)ア(ウ)のとおり,A12議員は,本件訴訟において賃貸借契約書を開示していないことから,自らの事務所費の支出が「手引き」等の使途基準に適合した適正なものであることについて積極的に適切な反証をすべきであるところ,政務調査事務所及び付属駐車場を賃借したと主張し,これらの賃料に関する領収書(甲A12の1,丙A12の1ないし10)が提出されている。

このうち,付属駐車場について,A12議員は,北海道ジェイ・アール都市開発株式会社を賃貸人として賃貸借契約を締結し,同契約に基づき,平成23年2月から同年3月までの2か月間において賃料合計4万4100円を支払った旨を具体的に主張し,これを裏付ける領収書(甲A12の1の9)を提出することから,同支出は「手引き」等の使途基準に適合した支出であると認められる。そして,原告は,そのほかに,政務調査事務所が政務調査活動のために利用されていないことや,政務調査活動とそれ以外の活動の按分の割合が合理性を欠くことなど,当該賃料の支出が「手引き」等の使途基準に違反する違法なものであることを推認させる一般的,外形的な事実を主張立証していないから,当該賃料のうち2分の1に係る政務調査費の支出は,その全額について違法であるということはできない。

(イ) しかし,他方,政務調査事務所の賃料については,A12議員は,当該事務所の賃料を株式会社不動産ショップきりんに支払っていたことを裏付ける領収書を提出するのみであって,当該事務所の賃貸人について,「手引き」等の使途基準に適合するものであるかどうかを判断することができず,当該支出の適法性についての適切な反証があるとはいえない。そうすると,A12議員が支出した事務所費のうち,政務調査事務所の賃料に係る政務調査費の支出は,その全額について違法な支出であるといわざるを得ず,平成23年2月及び同年3月分の付属駐車場の賃料の2分の1である2万2050円の支出のみ,適法なものとして政務調査費から支出することができるというべきである。

(ウ) 以上より,A12議員の事務所費に係る政務調査費の支出は,52万6021円から2万2050円を控除した残額である50万3971円についての支出は違法である。

キ A15議員

(ア) A15議員の事務所費支出については,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認定することができる。

a A15議員は,自身の長女であり,当時別の住所地に住んでいたP12が代表者を務めるQ2都市開発株式会社との間で,同社が所有する物件の一部に関する賃貸借契約を締結した(丙A15の1の1,丙A15の3,証人A15)。

b A15議員がその一部を賃借した上記aの物件は,全2階から成り,1階入口ドア横に「A15政務調査室」,「A15連合後援会事務所」等と記載された看板を設置していた(丙A15の1の2)。

c A15議員は,平成22年度においては,政党活動として,自由民主党の選挙区支部総会等への出席,平成22年参議院議員選挙候補者の街頭演説への参加,党の機関紙の発行等を行っており,これらに関する業務を政務調査事務所の近くにある自民党北海道札幌市北区第7支部で行っていた(丙A15の3,証人A15)。

d 平成22年度当時,A15議員の政務調査事務所は,上記aの物件の2階の2室に事務室と応接室が設けられ,同事務室内には机や固定電話等が設置されていた。また,同年度当時,同物件の1階はQ2都市開発株式会社の事務室となっており,A15議員は,その2階の一部を同議員の後援会活動に関する業務を行うために後援会事務所として同社から無償で間借りし,固定電話等の事務用品も同社のものを同社とともに併用していた。なお,後援会活動に関する補助業務については,職員として雇用されたP13が専属的に当該業務に従事していた。政務調査事務所と後援会事務所は,平成22年度当時,共に上記物件の2階にあったが,入口は別々で,壁で隔てられており,それらの間を行き来するためには,一旦階段で1階まで降り,再び階段で2階まで昇る必要があった。(丙A15の3,証人A15)

(イ) 上記(ア)の認定事実によれば,平成22年度当時,A15議員の政務調査事務所は,同一建物内の同一階に後援会事務所が存在していたとはいえ,両者は,壁により隔てられ,入口が別々であるなど,構造上の独立性を有し,いずれも独立に事務用品を備え付けていたと認められるから,物理的・機能的に独立の事務所としての用途に供することが可能であったというべきである。

そして,このような事情に加え,A15議員の陳述書(丙A15の3)における供述及び証言の内容が,具体的かつ詳細で,その内容が合理的で自然であると認められること,後援会活動については,上記後援会事務所において専属の職員が雇用されていたこと,これが政務調査事務所内において行われていたことをうかがわせる事実は認められないこと,また,政党活動についても,参加人自民党会派においては,各選挙区に政党活動を行うための拠点として政党支部事務所が設置されており,A15議員の政務調査事務所の近くに政党支部事務所があり,同議員が政党活動として行っていた党機関誌の発行や党員拡大のための街頭演説等の活動を政党支部事務所のみならず政務調査事務所において行わなければならなかったことをうかがわせる事実は認められないこと等を総合考慮すれば,後援会活動はすべて後援会事務所において,政党活動は全て政党支部事務所において,それぞれ全て行われていた旨のA15議員の上記供述ないし証言は信用することができるというべきである。

そうすると,A15議員の政務調査事務所においては,政務調査活動のみが行われていたものと認められるから,同議員がした当該事務所の事務所費に係る政務調査費の支出は,その全額について違法であるということはできない。

ク A16議員

(ア) 原告は,A16議員の政務調査事務所は,同議員の自宅である建物内に存在することから,自宅に対して政務調査費が支出されることとなってしまっている旨主張する。

(イ) しかし,A16議員の政務調査事務所は,同議員の自宅がある,株式会社Q3ビルの所有に係る建物内に設置されているものの,自宅と入口を別にし,政務調査活動に使用するスペースが自宅部分とは明確に区分されていることが認められる(丙A16の1の3)。

そうすると,A16議員の政務調査事務所については,同議員の自宅と独立しており,政務調査活動に使用する事務所としての機能が備わっているといえるから,「手引き」等の使途基準に照らし,政務調査事務所及びこれに付随する駐車場に係る賃料の政務調査費からの支出が違法であるということはできない。

ケ A17議員

(ア) A17議員は,平成22年度において,P14から事務所及び付属駐車場を1か月当たりの賃料等合計6万3500円で賃借し,これを政務調査事務所として利用したことが認められる(丙A17の1)。

(イ) この点について,原告は,A17議員が提出する証拠からは当該事務所がどのように利用されていたのかが不明であり,政務調査費の支出全体が違法である旨主張するが,A17議員の事務所費の支出が「手引き」等の使途基準に違反する違法な支出であることを推認させる一般的,外形的な事実を具体的に主張立証していないから,同議員の事務所費に係る政務調査費の支出が違法であるということはできない。

コ B2議員

(ア) 事務所費及び政務調査費の支出額について

B2議員は,平成22年度中,政務調査事務所として,駐車場を含む1か月当たりの賃料が7万8000円の物件を賃借し,同物件を平成22年4月から平成23年3月までの間使用したことから,同年度におけるB2議員の事務所費支出額は合計85万8000円であり,その2分の1である42万9000円を政務調査費から支出したことが認められる(甲B2の1,丙B2の1)。

(イ) 政務調査費支出の適法性について

原告は,B2議員の事務所費に関する政務調査費支出の違法性について,政務調査事務所の賃貸借契約書上の使用目的が「事務所」とのみ記載されていること以外には,「手引き」等の使途基準に違反する違法な支出であることを推認させる一般的,外形的な事実を具体的に主張立証しておらず,使用目的が上記のとおり記載されていることが上記一般的,外形的な事実に当たらないことは上記3(2)イ(イ)のとおりであるから,B2議員の事務所費に係る上記(ア)の政務調査費の支出は,その全額について違法であるということはできない。

サ B5議員

(ア) 事務所費の支出額について

B5議員は,平成22年度中,政務調査事務所として,1か月当たりの賃料が6万円である物件を賃借し,これを平成22年5月から平成23年2月までの10か月間にわたり利用していたことから,同年度における事務所費は合計60万円であり,その2分の1である30万円を政務調査費から支出したことが認められる(甲B5の1の1ないし9,甲B5の1の11,丙B5の1ないし11)。

なお,B5議員から会派に提出された書面に添付されている領収証(甲B5の1の1ないし11。ただし,受領者氏名欄はマスキング処理されている。)に記載された賃料の合計額は69万円となるが,これらの領収証の中には,平成23年1月分の賃料として支払われたものが2枚あり,そのうち1枚の領収証(甲B5の1の10)は,賃料額が9万円となっていて,更に他の領収証と体裁も異なることからすると,B5議員の事務所費に係る領収証ではないにもかかわらず,誤って同議員の事務所費に係る領収証として政務調査費領収書等添付用紙に添付されたものであることが明らかであるから,B5議員が平成22年度に支出した賃料の合計額60万円であると認められる。

(イ) 政務調査費支出の適法性について

原告は,B5議員の政務調査事務所の用途が賃貸借契約書上「B5後援会事務所」と明記されており,政務調査活動を目的とするものであるとは認められず,同議員の事務所費に関する政務調査費の支出全額が違法となり,また,仮に同事務所で政務調査活動が行われていたとしても,政党活動についても同事務所で行われていた可能性を全く払拭できないから,その3分の1を超える支出が違法である旨主張する。

そこで,検討すると,B5議員が政務調査事務所として届出を行った物件の平成19年5月1日付け賃貸借契約書には,当該事務所の利用目的欄に「B5後援会事務所」と記載されており,当該賃貸借契約が同日から平成23年4月30日までを契約期間とするものである事実が認められる(丙B5の1)。このことからすると,賃貸借契約締結時においては,上記期間において,同事務所が後援会活動に使用されることが想定されていたというべきであって,上記事実は,同事務所において,平成22年度中においても,後援会活動が行われていたことを推認させる事実であるということができる。

しかし,上記事実は,当該事務所において何らかの後援会活動が行われていたことを推認させるにとどまり,そのことをもって,当該事務所においておよそ政務調査活動が行われていなかったことまでを推認させる事実であるとまではいうことはできず,そのほかに,原告は,当該事務所において政務調査活動が全く行われていなかったこと,政務調査活動と後援会活動の按分の割合が合理性を欠くものであること,当該事務所において政党活動が行われていたことなど,B5議員の事務所費に係る政務調査費の支出が「手引き」等の使途基準に違反する違法な支出であることを推認させる一般的,外形的な事実について具体的な主張立証を行っていない。

そうすると,上記事務所においては,何らかの後援会活動が行われたことは認められるものの,B5議員が,上記(ア)のとおり,「按分の指針」(市要領4条)に従ってした事務所費の2分の1についてのみに係る政務調査費の支出が,その全額について違法であるということはできない。

シ B7議員

(ア) 参加人民進党会派は,B7議員について,本件訴訟において,政務調査事務所の賃貸借契約の内容を一部変更した旨記載された覚書(丙B7の1)を提出するのみであり,その作成元となった賃貸借契約書を提出しないところ,原告は,同事務所の使用目的等が不明であり,同事務所が使用された用途に関する客観的証拠が存在しないから,同事務所の賃料に係る政務調査費の支出全額が違法となる旨主張する。

(イ) そこで,検討すると,上記(2)アのとおり,政務調査事務所の賃貸借契約書は,当該事務所に係る事務所費について,政務調査費が適正に支出されていることを説明するために必要な最も基本的な文書であるということができ,これが開示されない場合には,当該政務調査費が適正に支出されているかどうかにつき相当な疑いが生じるものというべきである。

そして,参加人民進党会派が提出したB7議員の覚書をみると,同書面は,僅かA4用紙1枚の簡素なものであって,賃料・契約期間・契約者以外の契約内容については「原契約の通りとする」と記載されているにとどまり,このような記載内容だけでは,政務調査事務所の賃貸借契約の内容について,十分な説明がなされているということはできず,当該政務調査費の支出が適正にされているかどうかにつき相当な疑いが生じるものといわざるを得ない。ところが,被告及び参加人民進党会派は,B7議員が政務調査事務所で行った政務調査活動の実態について具体的に主張立証しておらず,違法な支出であることの推認についての適切な反証があるとはいえない。

(ウ) したがって,B7議員の政務調査事務所の事務所費に係る政務調査費の支出は,その全額について違法であるというべきである。

ス B10議員

(ア) B10議員の事務所費支出については,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認定することができる。

a B10議員は,平成16年5月1日より政務調査事務所として,1か月当たりの賃料を10万5000円としてアパートの1階の一室を賃借して使用していたところ,平成20年4月1日,同室の内部に間仕切りの壁を設置することで二つの空間を設け,それぞれを政務調査事務所(床面積約54平方メートル)と後援会事務所(床面積約36平方メートル)として賃借して使用することとした。それぞれの入口は別々に設置された。(丙B10の1ないし3,丙B10の5,証人B10)

b B10議員は,従来の事務所を上記aのとおり二つの部屋に分けたことから,同日付けで各部屋の賃貸借契約をそれぞれ締結した。それらの賃貸借契約において,1か月当たりの賃料は,政務調査事務所部分が8万8200円,後援会事務所部分が1万6800円とそれぞれ定められた。(丙B10の1及び2,証人B10)

c 後援会事務所と政務調査事務所は,それぞれ固定電話,机,椅子,書棚などが設置されているが,後援会事務所にはコピー機は設置されていなかった(丙B10の3,証人B10)。

d B10議員の後援会においては,機関誌を作成・送付するほかに,後援会が主催して年に1回行っていた「とんとん祭」という行事の準備活動を行っており,その準備活動については,案内文書の作成・発送作業等を10名程度の後援会会員がボランティアで行っていた。当該案内文書は外部の業者に発注して作成することが多かったものの,緊急を要する文書の作成等については,政務調査事務所に設置されているコピー機を使用することがあった。(丙B10の5,証人B10)

(イ) 上記(ア)の認定事実によれば,B10議員の後援会事務所においては,機関誌や後援会行事の案内状の作成・送付といった書類の作成に関する業務が多かったにもかかわらず,後援会事務所固有のコピー機は設置されていなかったこと,また,時には10人以上の後援会会員が集まって作業をすることがあったにもかかわらず,同事務所の床面積が36平方メートル程度にとどまっていたことが認められ,これらのことからすると,平成22年度中,B10議員の政務調査事務所においては,政務調査活動のほか,後援会活動に係る文書の作成・発送等の作業が行われていたことが少なくなかったものと推認される。

そうすると,B10議員の政務調査事務所では,後援会活動と政務調査活動のいずれもが行われていたといわざるを得ないところ,B10議員は,同事務所において政党活動が按分の比率を超えて政党活動が行われていたことについて具体的な主張立証をしないから,結局,B10議員は,市要領の使途基準である按分の指針に従い,政務調査事務所に係る賃料の2分の1までしか政務調査費によって支出することはできないというべきである。

(ウ) ところで,「手引き」等の使途基準においては,政務調査費による支出が許される事務所費は,「適正な額の範囲」のものであることが必要であるとされているところ,上記(ア)aの認定事実によれば,B10議員の政務調査事務所は,従前,後援会事務所と一体となっていた部屋を二分割して,従前の賃料を二つの事務所に割り付けたものであるが,両事務所の賃料は,約54平方メートルの床面積である政務調査事務所が1か月あたり8万8200円(1平方メートル当たり約1633円)であるのに対し,約36平方メートルの床面積である後援会事務所が1か月あたり1万6800円(1平方メートル当たり約466円)となっており,その床面積を基準とした場合の1平方メートル当たりの賃料には著しい開きがある。そして,B10議員は,両事務所の賃料については,賃貸人に言われたとおりの金額で従前の賃料額を両事務所に割り付けて決定した旨の説明しかしておらず,両者の間に著しい開きがあることについての合理的な説明があるとは到底いえない。

そうすると,B10議員の政務調査事務所の事務所費としては,平成20年4月1日に1室を後援会事務所と政務調査事務所に分割する前の賃料額10万5000円を,両事務所の床面積比(政務調査事務所3に対し,後援会事務所2)で按分した金額である6万3000円が適正な賃料額であり,これを超える額を政務調査費から支出することは許されないというべきである。

(エ) 小括

以上より,B10議員の政務調査事務所の事務所費については,適正な賃料額69万3000円(1か月当たり6万3000円)に駐車場費及び光熱費の合計11万円を加えた80万3000円の2分の1である40万1500円の限度でのみ政務調査費からの支出が許容されるから,結局,B10議員がした事務所費に係る政務調査費の支出は,108万0200円と40万1500円との差額である合計67万8700円について違法な支出であるというべきである。

セ B12議員

(ア) 事務所費の支出額について

証拠(甲B5の1の10,甲B12の1)及び弁論の全趣旨によれば,B12議員の事務所費の支出について,B12議員は,平成22年度において,1か月当たりの賃料が9万円である物件を平成22年5月から平成23年2月までの10か月間にわたり政務調査事務所として賃借して,事務所費合計90万円を支出し,その政務調査活動と後援会活動を按分した割合である2分の1である45万円を政務調査費から支出したことが認められる。

(イ) 政務調査費支出の適法性について

そして,原告は,B12議員の上記(ア)の政務調査費の支出について,同議員の政務調査事務所に係る賃貸借契約書の使用目的欄に「事務所」とのみ記載されている点を違法事由として主張するが,当該主張に理由がないことは上記(2)イのとおりであり,そのほかに,政務調査事務所において行われていた政党活動や政務調査活動及び後援会活動の実態に関する具体的な主張立証をしないから,上記支出が「手引き」等の使途基準に違反する違法なものであることを推認させる一般的,外形的な事実の立証があるとはいえない。

そうすると,B12議員がした政務調査事務所の賃料に係る政務調査費の支出は,その全額について違法であるということはできない。

ソ C2議員

(ア) C2議員の事務所費支出については,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認定することができる。

a C2議員は,平成22年度中,2階建ての物件を1か月当たりの賃料を7万円として賃借した。その後,同議員は,同物件の2階部分を日本共産党手稲地区後援会に1か月当たりの転借料を2万円として転貸し(なお,その後,同転借料は,平成22年度中を通じて月額2万3334円であったものと変更した。),自身は,1階部分に政務調査事務所を設置して,合計30万円の政務調査費を賃料に充当した。(丁C2の1)

b C2議員は,平成23年12月22日,政務調査事務所において政党活動が行われていたことも考慮して,既に同事務所賃料の一部に充当していた政務調査費のうち,合計2万円を被告に返還した。

c したがって,平成22年度において,C2議員は,政務調査事務所のある物件全体の賃料合計84万円(月額7万円)のうち,同事務所利用部分に関する賃料合計56万円を事務所費として支出し,その2分の1である28万円を政務調査費から支出したものと認められる。

(イ) 政務調査費支出の適法性について

原告は,C2議員については,政務調査事務所に係る賃貸借契約の賃借人が議員本人ではなく「日本共産党札幌西・手稲地区委員会」となっていることを違法事由として主張するところ,上記(2)ウ(イ)bのとおり,C2議員が支出した事務所費28万円を政務調査費から支出することは違法である。

タ C3議員

(ア) 原告は,C3議員の事務所費の支出については,同議員の政務調査事務所に係る賃貸借契約書の利用目的として「事務所」とのみ記載されている点を違法事由として主張するが,当該主張に理由がないことは上記(2)イのとおりであり,そのほかに,政務調査事務所において行われていた政務調査活動,後援会活動及び政治活動の実態に関する具体的な主張立証をしないから,上記支出が「手引き」等の使途基準に違反する違法なものであることを推認させる一般的,外形的な事実の立証があるとはいえない。

そうすると,同議員が支出した事務所費94万7808円の2分の1に係る政務調査費の支出は,その全額が違法であるということはできない。

(イ) ところで,札幌市における政務調査費は,各年度における四半期ごとに,原則として当該四半期の最初の月の10日に,当該四半期に属する月数分に相当する金額(月額40万円に原則として各月1日における当該会派の所属議員数を乗じた金額を基本とする。)が各会派に対して交付され(市条例2条,3条),その後,当該政務調査費を使用した議員が使用実績に応じた必要書類を作成して各会派に提出し,会計期間終了後に,各会派が収支報告書を作成して議長に提出するとともに(市条例7条),交付された政務調査費のうち,政務調査活動に必要な経費として当該会派が支出した額の総額を控除して残余がある場合には,当該会派は,当該残余の額を返還しなければならないとされている(市条例9条)。

このような札幌市における政務調査費の交付に関する制度の在り方に鑑みると,札幌市における政務調査費は,各年度の四半期ごとに各会派に対して交付されるものの,政務調査活動に係る政務調査費の収支については,会計期間ごと,すなわち年度ごとに報告されることが予定されているから,政務調査費により支出することが認められる事務所費の額は,当該年度を単位として計算すべきであると解される。

この点について,原告は,C2議員が政務調査費から支出することができる賃料額を1か月ごとに計算し,小数点以下を切り捨てた上で,各月の支出可能額を合計すると47万3901円となることから,同議員が支出することが許されるのは上記金額の限度に限られる旨主張するようである。しかし,上記のとおり,政務調査費による支出が認められる事務所費の額は年度を単位として計算すべきであると解されるところ,C3議員は,上記(ア)のとおり,平成22年度中に,事務所費として合計94万7808円を支出し,このうち,政務調査費を充当することができるのは2分の1の限度にとどまるというべきであって,C3議員が政務調査費から支出することが認められる事務所費は47万3904円と算定されるから,原告の上記主張を採用することはできない。

(4)  小括

以上の検討結果によれば,参加人各会派所属の各議員について,政務調査費による支出が違法である事務所費の額は,別紙5(検討結果一覧表)「事務所費」欄記載のとおりである。

4  参加人自民党会派における人件費支出の適法性(争点4)

(1)  判断の基準

各参加人会派に所属する議員が支出した政務調査費が「手引き」等の使途基準に適合した適法な支出であるかどうかについては,業務委託費及び事務所費の支出に関する場合(上記2(1)及び3(1))と同様に考え,原告側において各議員の個別の支出が違法であることまでを具体的に立証する必要はなく,「手引き」等に違反する違法な支出であることを推認させる一般的,外形的な事実を主張立証すれば足り,その場合において,被告側がこれに対して適切な反証を行わないときには,当該支出が違法なものであると解するのが相当である。

以下では,事務所費における場合と同様に,まず,原告が主張する,複数名の議員に共通する事務所費支出の違法事由の有無について検討し(後記(2)),その後に議員ごとの支出の個別的な違法事由の有無について検討する(後記(3))こととする。

(2)  各議員に共通する原告主張についての検討

ア 雇用契約書が提出されていない場合の,人件費支出の適法性について(A1ないし6,A9,A12,A14,A16,A18ないし21の各議員関係)

事務所費について論じたのと同様に(上記3(2)ア(イ)),政務調査費の交付を受ける議員は,当該政務調査費によって支出した費用が「手引き」等の使途基準に適合する適正なものであることを説明することができるよう,書類等を整備することが求められているのであって,これを人件費についていえば,政務調査費の交付を受ける議員としては,政務調査活動を補助させるために自身が雇用する職員について,雇用契約書を作成し,支出の適法性・相当性が争われた場合には,誰を被用者としてどのような内容の雇用契約が成立したのかを立証する最も基本的かつ重要な文書である当該職員の雇用契約書を開示するなどして,これを説明できるようにしておくべきである。

そして,これが開示等されない場合には,当該職員の人件費の支出が政務調査費として「手引き」等の使途基準に適合する適正な支出であることについて相当程度の疑いが生じるといわざるを得ないから,同支出が「手引き」に違反する違法な支出であることが推認され,当該職員の属性や従事する業務等の人件費の支出の実態について,議員側で適切な反証がなされないときには,当該職員の人件費の支出は「手引き」等の使途基準に違反する違法なものとなると解するのが相当である。

本件訴訟において,A1ないし6,A9,A12,A14,A16,A18ないし21の各議員は,そもそも雇用契約書を作成していないか,又は職員個人の同意がないため開示できないとして,雇用契約書を提出しないのであるから,上記各議員については,議員側において当該人件費を政務調査費から支出することが「手引き」等の使途基準に適合する適正なものであることについて適切な反証をすることを要するというべきである。ただし,この点に関する具体的検討については,後記(3)で行うこととする。

イ 政務調査事務所で雇用する職員の雇用契約書上の業務内容欄に政務調査活動にのみ従事する旨明示されていない場合の,人件費支出の適法性について(A8,A13の各議員関係)

(ア) 本件においては,各議員が雇用する職員について,各議員が会派に提出した雇用契約書中,同職員の業務内容を示す箇所において,A8議員(丙A8の2及び3)については「一般事務並びに政務調査に関する事務」と,A13議員(丙A13の2)については「一般事務職」とそれぞれ記載されていることが認められる。そして,原告は,政務調査事務所で議員が雇用する職員の雇用契約書の業務内容欄において,当該職員が政務調査活動にのみ従事する旨記載されていない職員は,政務調査活動以外の活動に従事することが予定されていることから,当該職員の人件費を政務調査費から支出することが違法である旨主張する。

(イ) しかし,政務調査事務所の賃貸借契約書について論じたのと同様に(上記3(2)イ(イ)),雇用契約書における当該被用者が従事する業務内容欄の記載は,同被用者が従事することが想定されている抽象的・概括的な業務内容が記載されるのが通常であると考えられるところであるし,「手引き」においても,政務調査費から人件費を支出する職員につき,雇用契約書中の業務内容欄等に,政務調査活動にのみ従事することを明記すべき旨を定めた規定は存在しない。かえって,「手引き」は,政務調査費の支出が許される「雇用職員」の要件について,「調査研究活動の補助業務に従事する職員」と定め,当該職員の従事する業務の実態という実質的な基準を設定していることからすれば,形式的に当該雇用契約書中の業務内容欄に政務調査活動にのみ従事する旨明記されていないことの一事をもって,当該職員の人件費を政務調査費から支出することは許されないと解することはできない。

そして,上記(ア)の各記載のように雇用契約書中の業務内容欄に政務調査活動にのみ従事する旨明記されていないことが,当該職員が政務調査活動の補助業務に従事しておらず,また,政務調査活動以外の政党活動や後援会活動の補助業務に従事しているものと疑わせ,当該人件費の支出が「手引き」等の使途基準に違反する違法なものであることを推認させる事情であるともいえない。

そうすると,雇用契約書中の当該職員の従事する業務内容欄に政務調査活動にのみ従事する旨明記されていないことだけをもって,当該職員の人件費を政務調査費から支出することが違法であると解することはできないから,原告の上記(ア)の主張を採用することはできない。

(ウ) 小括

そして,原告は,A8,A13の各議員について,雇用契約書中の当該職員の従事する業務内容欄の記載以外に当該職員の人件費の支出が「手引き」等の使途基準に違反する違法な支出であることを推認させる一般的,外形的な事実を具体的に主張立証しないから,上記各議員については,別紙1(政務調査費支出額一覧)中の「人件費」の「政務調査費での支出額」欄記載の金額に係る政務調査費の支出が,その全額について違法であるということはできない。

(3)  各議員の人件費支出の適法性について

ア A1議員

(ア) 証拠(甲A1の2,丙A1の2の1)及び弁論の全趣旨によれば,A1議員は,平成22年度において,政務調査活動に従事する職員としてP15及びP16の2名を雇用し,P15については合計37万0978円の,P16については合計75万0708円の各人件費を支出したことが認められる。

(イ) 上記(ア)の両職員のうち,雇用契約書(丙A1の2の1)が提出されているP15について,A1議員は,同人が後援会活動にも従事していたことを認めるが,政党活動には従事していなかったとして,その人件費のうち政務調査活動と後援会活動の按分の割合である2分の1の額を政務調査費から支出したものであるところ,原告は,同人が政党活動に従事していたことなど,その支出が「手引き」等の使途基準に違反する違法なものであることを推認させる一般的・外形的な事実を具体的に主張立証していない。

したがって,P15の人件費に係る政務調査費の支出は,その全額について違法であるということはできない。

(ウ) 他方,P16については,参加人自民党会派は,原告から雇用契約書の提出を求められたにもかかわらず,これを提出していないことから,A1議員がしたP16の人件費の政務調査費からの支出は,「手引き」等に適合する適正な支出であることについて相当程度の疑いが生じるといわざるを得ず,違法なものであると推認される。

しかし,被告及び参加人自民党会派は,A1議員とP16との間で成立した雇用契約の内容,同人が従事した業務の実態等について具体的に主張立証しておらず,開示済みの領収書等(甲A1の2)からも,同職員の雇用契約の内容,労働条件,給与支払の基準等が明確でない。そうすると,P16の人件費に係る政務調査費の支出は,上記推認についての適切な反証がなく,その全額について違法なものであるというべきである。

(エ) 小括

以上より,A1議員が支出した人件費に係る政務調査費56万0843円のうち,P15の人件費合計37万0978円の2分の1である18万5489円については政務調査費から支出することが許されるというべきであるが,P16の人件費合計75万0708円の2分の1である37万5354円に係る支出は,その全額について違法である。

イ A2議員

(ア) 証拠(丙A2の2)及び弁論の全趣旨によれば,A2議員は,平成22年度において,政務調査活動に従事する職員として,P17及びP18の2名を雇用し,両職員は,それぞれ11か月間にわたり政務調査活動,後援会活動及び政党活動に従事したと認められる。

(イ) しかし,参加人自民党会派は,原告から提出を求められたにもかかわらず,P17らの雇用契約書を提出していないことから,A2議員が同人らの人件費の政務調査費からの支出は違法な支出であることが推認されるところ,A2議員が,受領者名及び住所が記載された賃金の領収書を市議会議長に提出し,P17らの人件費について,政務調査活動,政党活動,後援会活動のいずれにも従事していたとして,その3分の1の額のみに政務調査費を充当したものであることを考慮しても,被告及び参加人自民党会派がP17らの雇用契約の内容,労働条件,給与支払の基準等について主張立証をしておらず,P17らの雇用や人件費支給の実態が明らかとなっていない以上,上記推認についての適切な反証があるとはいえない。

したがって,A2議員がしたP17らの人件費に係る政務調査費の支出は,その全額について違法である。

ウ A3議員

(ア) A3議員は,政務調査活動に従事する職員としてP19を平成22年4月から平成23年3月までの12か月間にわたり雇用し,同人の人件費として合計102万円の全額を政務調査費から支出したことが認められる(丙A3の2)。

(イ) しかし,参加人自民党会派は,原告から提出を求められたにもかかわらず,P19の雇用契約書を提出していないことから,A3議員がした同人の人件費の政務調査費からの支出が違法な支出であることが推認されるところ,A3議員が,受領者名及び住所が記載された賃金の領収書を市議会議長に提出し,その陳述書(丙A3の3)において,政党活動について,P19が平成22年度において行っていたのは党勢の拡大及びセミナー券の販売程度しかなく,あえて同人に補助してもらうような内容のものでなかったものであり,また,後援会活動についても,自身が任期満了により引退する予定であったため,これを行う必要はなかった旨の供述をし(丙A3の3),同供述が格別不合理な内容のものとはいえないことを考慮しても,被告及び参加人自民党会派がP19の雇用契約の内容,雇用条件,給与支払の基準等について具体的な主張立証をしておらず,P19らの雇用や人件費支給の実態が明らかとはなっていない以上,上記推認についての適切な反証があるとはいえない。

(ウ) そうすると,A3議員がしたP19の人件費に係る政務調査費の支出は,その全額について違法である。

エ A4議員

(ア) A4議員の人件費支出については,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認定することができる。

a A4議員は,平成22年度において,P20(平成22年4月から同年12月まで。),P9(同年4月から同年11月まで)及びP21(同年11月から平成23年3月まで。以下,P20ら3名の職員を総称して「P20ら」という。)の3名の職員を雇用した(丙A4の2ないしA4の22)。

b P20らのうち,P20は,A4議員の娘に当たるが,平成22年度中,A4議員とは同居していなかった(丙A4の22)。

(イ) そして,A4議員は,受領者名及び住所が記載されたP20らの賃金の領収書を提出し,その陳述書(丙A4の22)において,平成22年度に行った政党活動は党費の徴収寄付に関する事務程度のものであって,あえてP20らの補助を要するようなものではなかったこと,及び,後援会活動についてはP9(平成22年11月より前)及びP21(同年11月以降)の2名が後援会会員との親睦のための行事に関する事務を担当していたこと,P20らが従事していた業務に応じて給与を政務調査会費から支出していたことなどを具体的に供述し,その供述内容は格別不合理なものとはいえない。

しかし,参加人自民党会派は,原告から提出を求められたにもかかわらず,P20らの雇用契約書を提出していないから,A4議員がしたP20らの人件費の政務調査費からの支出は,違法な支出であることが推認されるところ,被告及び参加人自民党会派は,P20らの雇用契約の内容,雇用条件,給与支払の基準等について具体的に主張立証しておらず,P20らの雇用や人件費支給の実態が明らかとはなっていない以上,上記推認についての適切な反証があるとはいえない。

そうすると,A4議員がしたP20らの人件費に係る政務調査費の支出は,その全額について違法である。

オ A5議員

(ア) A5議員は,平成22年度において,政務調査活動に従事する職員としてP22及びP23(以下,両名の職員を総称して「P22ら」という。)の2名を雇用し,P22に対しては1か月当たり14万7080円を,P23に対しては1か月当たり4万円を,それぞれ12か月間にわたり給与として支払い,P22らの人件費として合計224万4960円の全額を政務調査費から支出した(甲A5の3,丙A5の2ないしA5の25)。

(イ) しかし,参加人自民党会派は,原告から提出を求められたにもかかわらず,P22らの雇用契約書を提出していないことから,A5議員がしたP22らの人件費の政務調査費からの支出が違法な支出であることが推認されるところ,領収証が提出されているにとどまり,被告及び参加人自民党会派がP22らの雇用契約の内容,雇用条件,給与支給の基準等について具体的に主張立証しておらず,P22らの雇用や人件費支出の実態が明らかとなっていない以上,上記推認についての適切な反証があるとはいえない。

したがって,A5議員がした人件費に係る政務調査費の支出は,その全額について違法である。

カ A6議員

(ア) A6議員は,平成22年度において,政務調査活動に従事する職員として,P24,P25,P26及びP27(以下,4名の職員を総称して「P24ら」という。)の4名を雇用し,P24に対しては72万2000円,P25に対しては36万円,P26に対しては127万8000円,P27に対しては105万円の合計341万円の給与の2分の1の額を人件費として政務調査費から支払った(丙A6の22ないしA6の44)。

(イ) A6議員は,受領者名及び住所が記載された賃金の領収書を市議会議長に提出し,平成22年度に行った後援会活動は,主として後援会会員と行う懇親行事の案内文書の作成及び発送のみで,P24らが政党活動には従事しておらず,P24らが従事していた作業としては,後援会活動よりは政務調査活動の補助の方が多かったが,P24らが政務調査活動に加えて後援会活動の補助にも従事していたことを考慮して,P24らの人件費の合計額の2分の1のみを政務調査費から支出したと主張し,その陳述書(丙A6の45)及び証人尋問において,これに沿う供述ないし証言をする。

しかし,参加人自民党会派は,原告から提出を求められたにもかかわらず,P24らの雇用契約書を提出していないことから,A6議員のしたP24らの人件費の支出が違法な支出であることが推認されるところ,P24らが政務調査活動と後援会活動のうち後援会活動の補助業務を中心として従事していたとは認められないことなどを考慮しても,P24らの雇用契約の内容,雇用条件,給与支払の基準等について具体的に主張立証しておらず,P24らの雇用や人件費支出の実態が明らかとはなっていない以上,上記推認についての反証があるとはいえない。

そうすると,A6議員がしたP24らの人件費に係る政務調査費の支出は,その全額について違法である。

キ A7議員

(ア) A7議員の人件費支出については,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認定することができる。

a A7議員は,平成22年度において,政務調査活動に従事する常勤職員であるP28及びP29(以下,両名を総称して「P28ら」という。)並びにアルバイトであるP30(平成23年1月のみ。)の3名の職員を雇用し,P28及びP30の給与の全額及びP29の給与の2分の1を政務調査費から支出した(丙A7の14ないし41,証人A7)。

b 雇用契約書に記載されているP28らの勤務条件は以下のとおりであった(丙A7の14及びA7の15)。

⒜ P28の勤務条件

労働時間  1日4時間

労働日数  1か月に15日

日  給  6000円

ガソリン代 1万円

⒝ P29の勤務条件

労働時間  1日3.5時間

労働日数  1か月に20日

日  給  1万2000円

c A7議員は,P28らに対し,どの程度の給与を支払えば生活していけるか尋ね,給与額の希望を聞いた上で,上記の雇用契約書の記載にかかわらず,両人が希望する額として,P28には月額10万円(合計120万円)を,P29には月額23万円(合計276万円)の2分の1の額をそれぞれ支払っていた。P28らは,いずれも政務調査における関係者・関係機関との連絡・折衝,各種資料の収集・整理などの補助作業を行っており,P29は,後援会の行事に関する場所や交通手段の手配等も行っていた。(丙A7の16ないし33,丙A7の35ないし41,証人A7)

また,P30は市政だよりの配布を行い,A7議員は同人に対しては合計10万円の給与を支払った(丙A7の34,証人A7)。

(イ) そこで,上記(ア)の認定事実を踏まえて検討する。

a P30に関する人件費支出について

上記(ア)cの認定事実のとおり,P30が市政だよりの配布を職務として行ったことが認められるが,参加人自民党会派は,原告から提出を求められたにもかかわらず,P30の雇用契約書を提出していないことから,A7議員がしたP30の人件費に係る政務調査費の支出は違法な支出であることが推認されるところ,被告及び参加人自民党会派がP30の雇用契約の内容,雇用条件,給与支給の基準等について具体的な主張立証をしておらず,P30の雇用や人件費支給の実態が明らかとなっていない以上,上記推認についての適切な反証があるとはいえない。

そうすると,A7議員がしたP30の人件費に係る政務調査費の支出は,その全額が違法である。

b P28らに関する人件費支出について

「手引き」の使途基準の共通原則・指針において,政務調査費の執行に当たっての原則として,政務調査に要した金額や態様等の妥当性があることが必要であるとされているところ(「手引き」の2(1)③(7頁)),いかにP28らが地域における生活が長く,市民の要望等を把握することに長けており,その意味で政務調査活動に従事する職員としての能力が高かったなどの事情があったとしても,A7議員は,上記(ア)cの認定事実のとおり,両名が政務調査活動に従事することの対価として相当な額を給与額と定めたのではなく,両名が希望する額を支払うものとし,そのために逆算して日当額等を定めており,このような給与額の決定方法が相当性を欠くことは明らかであるから,A7議員がしたP28らの給与に係る政務調査費の支出は,「手引き」等の使途基準に違反する違法な支出であると推認される。

そこで,更に検討すると,P28については,雇用契約書の記載から換算すると時給が1500円と計算され,上記(ア)cのP28が従事していた業務内容を考慮すると,その対価として支払われた給与の額や態様等の相当性を欠くものであるということはできない。

これに対し,P29については,雇用契約書の記載から換算すると時給が3500円と計算され,上記(ア)cの認定事実のとおり,基本的にP28と同様の業務に従事しており,後援会の行事に関する場所や交通機関の手配等を行っていたことを考慮しても,なお時給額が高額であり,上記のとおり給与額の決定方法が不相当であることをも考慮すると,P29に支払われた給与のうち,少なくともその半額については,これを政務調査費により支出することは違法である。

(ウ) 小括

以上より,A7議員のしたP29及びP30の人件費に係る政務調査費の支出は,79万円(P30について支出された10万円及びP29について政務調査活動と後援会活動の按分の割合を2分の1として支出された政務調査費の半額である69万円の合計額)について違法である。

ク A8議員

(ア) 証拠(丙A8の2ないし26)及び弁論の全趣旨によれば,A8議員は,平成22年度において,政務調査活動に従事する職員として,P31及びP32(以下,両名の職員を総称して「P31ら」という。)の2名の職員を雇用し,その給与の合計170万3800円の2分の1である85万1900円を政務調査費から支払ったことが認められる。

(イ) これに対し,原告は,P31らの雇用契約書における「職種」欄の記載が「一般事務並びに政務調査に関する事務」となっており,P31らが政務調査活動以外の業務に従事することが明記されており,それらの業務の具体的内容やその比重が立証されていない以上,当該職員らが政務調査活動に従事したとは認められない旨主張するが,雇用契約書における記載から直ちにP31らの給与に係る政務調査費の支出が違法なものであることが推認されないことは上記(2)イ(イ)のとおりである上,そのほかに,原告は,上記支出が「手引き」等の使途基準に違反する違法なものであることを推認させる一般的・外形的な事実を具体的に主張立証していない。

(ウ) したがって,A8議員がしたP31らの人件費に係る政務調査費の支出は,その全額について違法であるということはできない。

ケ A9議員

(ア) A9議員の人件費支出については,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認定することができる。

a A9議員は,平成22年度において,政務調査活動に従事する職員としてP33,P34,P35及びP36の4名の職員(以下,4名の職員を総称して「P33ら」という。)を雇用し,P33らの給与の合計340万円の2分の1である170万円を政務調査費から支払った(丙A9の2及び3,A9の14ないし35,A9の37)。

b P33らは,政務調査事務所において,政務調査に関する資料の整理,電話応対,来客対応,後援会行事に関する資料の作成等の業務に従事したほか,A9議員が市政相談を行う際に車の運転等も行った(丙A9の37,証人A9)。

(イ) しかし,参加人自民党会派は,原告から提出を求められたにもかかわらず,P33らの雇用契約書を提出していないことから,A9議員がしたP33らの人件費に係る政務調査費の支出が違法な支出であることが推認されるところ,A9議員が,受領者名及び住所が記載された賃金の領収証を市議会議長に提出し,上記3(3)エ(ア)の認定事実のとおり,平成22年度において,政党活動としては,20名程度の党員から党費を徴収し,これを支部に納める作業のみを行い,同作業に関する業務は全て自宅で行っていたことから,P33らが政党活動に従事する必要はなく,また,上記(ア)bのとおり,A9議員は,P33らが後援会活動にも従事していたとして同人らの人件費の2分の1のみを政務調査費から支出していたなどの事情を考慮しても,被告及び参加人自民党会派がP33らの雇用契約の内容,雇用条件,給与支払の基準等について具体的に主張立証しておらず,P33らの雇用や人件費支給の実態が明らかとなっているとはいえない以上,上記推認についての適切な反証があるとはいえない。

そうすると,A9議員がしたP33らの給与に係る政務調査費の支出は,その全額について違法である。

コ A10議員

(ア) 証拠(丙A10の2ないし14)及び弁論の全趣旨によれば,A10議員は,平成22年度において,政務調査活動に従事する職員としてP37を雇用し,その給与の合計146万4000円の2分の1である73万2000円を政務調査費から支払ったことが認められる。

(イ) これに対し,原告は,P37の雇用契約書における「職務内容」欄の記載が「政務調査補助事務・後援会事務等」となっており,同人が政務調査活動以外の業務にも従事することが明記されており,実際に従事した業務の具体的内容や比重等について個別具体的な立証を行わない以上,当該職員の人件費を政務調査費から支出することは許されない旨を主張する。

この点について,確かに,雇用契約書の「職務内容」欄にあえてP37が「後援会事務」をも業務内容とするものと記載されている以上,同人が何らかの後援会活動の補助業務にも従事していたことが推認されるものの,同欄に「政務調査補助」とも記載されていることを考慮すると,P37が後援会活動にのみ従事していたことまで推認されるものではない。また,そのほかに,原告は,P37がおよそ政務調査活動に従事していなかったことや,政務調査活動と後援会活動の按分の割合が不合理であることなど,同人の人件費に係る政務調査費の支出が「手引き」等の使途基準に違反する違法な支出であることを推認させる一般的・外形的な事実を具体的に主張立証していない。

(ウ) そうすると,A10議員が,P37が政務調査活動のみならず後援会活動にも従事していたことを前提として,同人の人件費のうち2分の1のみについてした政務調査費の支出は,その全額について違法なものであるということはできない。

サ A11議員

(ア) A11議員の人件費支出については,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認定することができる。

a A11議員は,平成22年度において,政務調査活動に従事する職員としてP38を雇用し,同年4月から同年10月までの間は,同人が一人で政務調査活動の補助を行い,人件費の全額について政務調査費から支出した。また,同年11月以降については,平成23年市議会議員選挙に備えた後援会活動の業務量が増加したことから,P38も後援会活動の補助を行うこととし,同月以降の人件費についてはその2分の1についてのみ政務調査費から支出した。(丙A11の4ないし15,丙A11の18,証人A11)

b P38は,平成22年度中,政務調査事務所において業務に従事しており,同年9月に実施された後援会行事である,後援会女性部の旅行について出席者の確認を行うことなどもあったものの,基本的には,後援会活動については後援会の役員がこれを行っていた(丙A11の18,証人A11)。

c A11議員は,従来から自民党の政党色を出さないような方針で選挙活動を行うなど,できるだけ政党活動を行わないようにしており,平成22年当時も自己の政党支部は作っていなかった(証人A11)。

(イ) 上記(ア)の認定事実によれば,A11議員は,従来から,政党色を出さないように配慮した選挙活動を行うなど,できるだけ政党活動を行わないようにしており,平成22年度に行った政党活動としては,平成23年市議会議員選挙の準備作業程度であったこと,また,後援会活動についても,基本的には,A11議員の後援会役員がこれを担当していたことが認められ,同議員が雇用したP38は,平成22年度において,同年11月以降に後援会活動にも従事していたものの,主として政務調査活動に従事していたと認められる。

(ウ) これに対し,原告は,P38が後援会に関連する郵便物の回収を行ったり,後援会宛ての電話について伝言を残す作業を行っていたりした以上,平成22年4月から同年10月までの間も後援会活動にも従事していたとみるべきである旨主張する。

しかし,原告が指摘するこれらの作業は,いずれも軽微な作業であって,その処理のために格別の手間や時間を要するものであるとは認め難いところ,上記(ア)bのとおり,同年9月に後援会女性部の旅行について出席者の確認を行うことなどがあったことを考慮しても,P38が,上記期間において,上記のとおり週5日間にわたり午前9時から午後5時までを就業時間として主に政務調査活動に従事していたと認められることからすれば(丙A11の4,丙A8の18,証人A11),上記作業に従事したことにより,同人に支払われる給与につき政務調査活動と後援会活動を按分した割合による政務調査費からの支出が求められるような程度に後援会活動に従事したものとは認められない。

したがって,原告の上記主張を採用することはできず,A11議員の人件費に関する政務調査費の支出は,その全額について違法であるということはできない。

シ A12議員

(ア) 証拠(甲A12の2,丙A12の11ないし35,丙A12の37)及び弁論の全趣旨によれば,A12議員は,政務調査活動に従事する職員として,P39,P40,P41及びP42の4名の職員(以下,4名の職員を総称して「P39ら」という。)を雇用し,P39らの給与の合計290万5200円の2分の1である145万2600円を政務調査費から支出したことが認められる。

(イ) しかし,参加人自民党会派は,原告から提出を求められたにもかかわらず,P39らの雇用契約書を提出しておらず,提出された賃金に関する領収書も一部マスキングされていることから,A12議員がしたP39らの人件費の政務調査費からの支出が違法な支出であると推認されるところ,A12議員が,その陳述書(丙A12の37)において,平成22年度中は,政党活動を自身で行っており,当該職員らは政党活動に従事していない旨の供述をし,同供述の内容が格別不合理なものとはいえないこと,また,A12議員は,P39らが後援会活動にも従事していたものとして,同人らの人件費の2分の1のみを政務調査費から支出していることなどを考慮しても,被告及び参加人自民党会派がP39らの雇用契約の内容,雇用条件,給与支払の基準等について具体的に主張立証しておらず,P39らの雇用や人件費支出の実態が明らかとはなっていない以上,上記推認についての適切な反証があるとはいえない。

(ウ) そうすると,A12議員のP39らの人件費に係る政務調査費の支出は,その全額が違法である。

ス A13議員

(ア) A13議員は,平成22年12月から平成23年2月までの間,政務調査活動に従事する職員として,P43を雇用し,P43の給与合計40万5000円の2分の1である20万2500円を支出した(丙A13の2ないし5)。

(イ) これに対し,原告は,P43の雇用契約書における「仕事の内容」欄の記載が「一般事務職」とされており,P43が政務調査活動に従事することが明記されていない以上,P43が同活動に従事したとは認められない旨主張する。

しかし,雇用契約書における記載から直ちにP43の給与に係る政務調査費の支出が違法であることを推認できないことは上記(2)イ(イ)のとおりであるところ,原告は,それ以外にP43が政務調査活動に従事していなかったことを推認させる一般的,外形的な事実を具体的に主張立証していない。

(ウ) したがって,A13議員のP43の人件費に係る政務調査費の支出は,その全額について違法であるということはできない。

セ A14議員

(ア) A14議員は,平成22年度において,政務調査活動に従事する職員としてP44及びP45(以下,両名の職員を総称して「P44ら」という。)の2名を雇用し,P44を同年4月から平成23年2月までの間,P45を平成22年4月から同年10月までの間,それぞれ雇用し,P44らの給与として125万8000円を政務調査費から支出した(丙A14の2ないし14の19)。

(イ) 人件費の総額について

ところで,参加人自民党会派は,A14議員が支出したP44らの平成22年度における人件費の総額は211万8700円であって,原告が主張する125万8000円は飽くまでA14議員が支出した政務調査活動に従事した分の報酬にすぎず,これを上回る人件費が別途支給されていた旨主張する。

しかし,A14議員により提出されたP44らの報酬に係る領収証(甲A14の2)に記載された金額の合計は125万8000円であることに加え,A14議員作成に係る「人件費内訳」と題する書面(丙A14の20)の「年月(日額)」欄に「P44 日/(4,000)」,「P45 日/3,500」と,「政務累計」の「総合計」欄に「1,258,000」とそれぞれ記載されていることからすると,P44については日給4000円,P45については日給3500円という基準で給与が支払われ,平成22年度におけるP44らの給与支給合計額が125万8000円であることが推認され,A14議員が領収証記載の上記給与支給額の合計額を超えてP44らの人件費を支払っていたとは認められないから,参加人自民党会派の上記主張は採用することができない。

したがって,平成22年度においてA14議員がP44らの平成22年度において支給した人件費の総額は,125万8000円であると認められる。

(ウ) 職員の業務実態について

そして,参加人自民党会派は,原告から提出を求められたにもかかわらず,P44らの雇用契約書を提出していないことから,A14議員がしたP44らの人件費の政務調査費からの支出が違法な支出であることが推認されるところ,被告及び参加人自民党会派がP44らとの雇用契約の内容,雇用条件,給与支払の基準等を具体的に主張立証しておらず,P44らの雇用や人件費支給の実態が明らかとなっていない以上,上記推認についての適切な反証があるとはいえない。

したがって,A14議員がした人件費に係る政務調査費の支出は,その全額について違法である。

ソ A15議員

(ア) A15議員の人件費支出に関しては,上記3(3)キの認定事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認定することができる。

a A15議員は,平成22年度において,政務調査活動の補助業務に従事する職員としてP46を雇用し,P46の給与のうち174万5538円を政務調査費から支出した。P46は,同年4月から同年9月までの6か月間にわたり,同議員の妻とともに政務調査活動の補助業務に従事した後,同年10月からは,平成23年市議会議員選挙に向けて北海道自民党支部での業務に従事するべく,A15議員の政務調査事務所における政務調査活動等の補助業務には携わらなくなった。(甲A15の2,丙A15の2の1,丙A15の3,証人A15)

b 政務調査事務所と同一建物内の1階にあった後援会事務所では,A15議員の後援会が後援会活動に従事する職員(P13)を1名雇用し,同職員が後援会主催で年に数回行われる懇親行事に関する業務に従事したところ,A15議員は同職員の給与を政務調査費から支出しなかった(丙A15の3,証人A15)。

(イ) これに対し,原告は,A15議員の政務調査事務所が後援会事務所と同一建物内に存在していること,P46が平成22年10月より政務調査活動以外の活動にも従事したこと,さらには,同人とA15議員との間で真に雇用契約が締結されていたのかどうかも疑わしいこと等を主張する。

しかし,A15議員とP46との間で労働条件通知書(丙A15の2の1)が作成され,実際にA15議員からP46に対して同通知書記載のとおりの給与が支払われたこと(甲A15の2)からすれば,A15議員とP46との間で上記通知書記載のとおりの内容の雇用契約が成立していたと認められ,さらに,上記3(3)キ(イ)のとおり,A15議員の政務調査事務所と後援会事務所は物理的・機能的に独立し,政務調査事務所において勤務していたP46が,後援会事務所において後援会事務を取り扱う職員が他に1名存在していたにもかかわらず,政務調査活動のほか,あえて後援会活動にまで従事していたことをうかがわせる事実は認められない。

そうすると,原告の上記主張を採用することはできない。

(ウ) したがって,A15議員がしたP46の人件費に係る政務調査費の支出は,その全額について違法であるということはできない。

タ A16議員

(ア) A16議員は,平成22年度において,政務調査活動に従事する職員としてP47,P48,P49及びP50の4名(以下,4名の職員を総称して「P47ら」という。)を雇用し,P47らの給与合計205万円の2分の1である102万5000円を政務調査費から支出した(丙A16の2)。

(イ) しかし,参加人自民党会派は,受領者名及び住所が記載された賃金の領収証を提出するものの,原告から提出を求められたにもかからず,P47らの雇用契約書を提出しないことから,A16議員がしたP47らの人件費の政務調査費の支出は違法なものであることが推認されるところ,被告及び参加人自民党会派がP47らの雇用経緯の内容,雇用条件,給与支払の基準等について具体的に主張立証しておらず,P47らの雇用や人件費支給の実態が明らかとはなっていない以上,上記推認についての適切な反証があるとはいえない。

(ウ) したがって,A16議員がしたP47らの人件費に係る政務調査費の支出は,その全額について違法である。

チ A17議員

(ア) A17議員は,平成22年度において,政務調査活動に従事する職員として,P51及びP52の2名の職員(以下,両名の職員を総称して「P51ら」という。)を雇用し,P51らの給与合計146万8205円の2分の1である73万4102円を政務調査費から支出した(丙A17の2)。

(イ) これに対し,原告は,P51らの業務委託通知書の内容が客観的に裏付けられておらず,P51らが政務調査活動のみに従事したとは認められない旨主張する。

しかし,A17議員は,P51らが後援会活動の補助業務にも従事していたことを認め,P51らの人件費の2分の1のみを政務調査費から支出しているところ,原告は,P51らが政党活動にも従事していたことや,政務調査活動を全く行っていなかったことなど,A17議員がしたP51らの人件費に係る政務調査費の支出が「手引き」等の使途基準に違反する違法な支出であることを推認させる一般的,外形的な事実を具体的に主張立証していない。

そうすると,A17議員がしたP51らの人件費に係る政務調査費の支出は,その全額について違法であるということはできない。

ツ A18議員

(ア) 証拠(丙A18の2の1)及び弁論の全趣旨によれば,A18議員は,平成22年度において,政務調査活動に従事する職員として,P53,P54,P55,P56,P57及びP58の6名の職員(以下,6名の職員を総称して「P53ら」という。)を雇用し,P53らの給与合計281万0615円の約2分の1である140万5304円を政務調査費から支出した。

(イ) しかし,参加人自民党会派は,原告から提出を求められたにもかかわらず,P53らの雇用契約書を提出しないことから,A18議員がしたP53らの人件費に係る政務調査費の支出が違法なものであることが推認されるところ,被告及び参加人自民党会派がP53らの雇用契約の内容,雇用条件,給与支給の基準等を具体的に主張立証しておらず,P53らの雇用や人件費支給の実態が明らかとはなっていない以上,上記推認についての適切な反証があるとはいえない。

そうすると,A18議員がしたP53らの人件費に係る政務調査費の支出は,その全額について違法である。

テ A19議員

(ア) A19議員は,平成22年度において,政務調査活動に従事する職員として,P59を雇用し,P59の給与合計240万円の2分の1である120万円を政務調査費から支出した(丙A19の2)。

(イ) しかし,参加人自民党会派は,原告から提出を求められたにもかかわらず,P59の雇用契約書を提出しないことから,A19議員がしたP59の人件費に係る政務調査費の支出が違法なものであることが推認されるところ,A19議員は,P59が後援会活動にも従事していたことを認め,同人の人件費の2分の1のみを政務調査費から支出していることを考慮しても,被告及び参加人自民党会派がP59の雇用契約の内容,雇用条件,給与支給の基準等を具体的に主張立証しておらず,P59の雇用や人件費支給の実態が明らかとはなっていない以上,上記推認についての適切な反証があるとはいえない。

そうすると,A19議員がしたP59の人件費に係る政務調査費の支出は,その全額について違法である。

ト A20議員

(ア) A20議員は,平成22年度において,政務調査活動に従事する職員として,P60を雇用し,同人の給与合計108万円全額を政務調査費から支出した(丙A20の2及び3)。

(イ) しかし,参加人自民党会派は,原告から提出を求められたにもかかわらず,P60の雇用契約書を提出しないことから,A20議員がした同人の人件費の支出が違法なものであることが推認されるところ,A20議員が,その陳述書(丙A20の3)において,政党活動及び後援会活動は自身の妻に補助してもらっており,P60は,地域の施政に関する要望聴取や資料収集及び調査等の政務調査活動にのみ従事していた旨の供述をし,同供述の内容が格別不合理なものとはいえないことを考慮しても,被告及び参加人自民党会派が同人の雇用契約の内容,雇用条件,給与支払の基準等について具体的に主張立証しておらず,同人の雇用や人件費支出の実態が明らかとはなっていない以上,上記推認についての適切な反証があるとはいえない。

そうすると,A20議員がした同人の人件費に係る政務調査費の支出は,その全額について違法である。

ナ A21議員

(ア) A21議員は,平成22年度において,政務調査活動に従事する職員として,P61,P62,P63及びP64(以下,4名の職員を総称して「P61ら」という。)の4名の職員を雇用し,P61,P62及びP63の給与合計329万円のうち149万5967円とP64の給与合計4万1040円全額の総計153万7007円を政務調査費から支出した(丙A21の2)。

(イ) しかし,参加人自民党会派は,原告から提出を求められたにもかかわらず,P61らの雇用契約書を提出しないことから,A21議員のしたP61らの人件費に係る政務調査費の支出が違法なものであることが推認されるところ,A21議員が,P61らのうち3名については,後援会活動にも従事していたことを認め,その給与の2分の1のみを政務調査費から支出していることを考慮しても,被告及び参加人自民党会派がP61らの雇用契約の内容,雇用条件,給与支給の基準等を具体的に主張立証しておらず,P61らの雇用や人件費支給の実態が明らかとはなっていない以上,上記推認についての適切な反証があるとはいえない。

そうすると,A21議員がしたP61らの人件費に係る政務調査費の支出は,その全額について違法である。

ニ A22議員

(ア) A22議員の人件費支出については,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認定することができる。

a A22議員は,平成22年度において,政務調査活動に従事する職員として,P65,P66及びP67(以下,3名の職員を総称して「P65ら」という。)の3名の職員を雇用し,P65については合計185万4000円,P66については合計15万4380円の合計200万8380円の人件費全額を政務調査費から支出した。

また,P67については,平成22年度において,政務調査活動の補助に従事したほか,政務調査事務所のある建物の3階に位置するエコ・サーブ株式会社(以下「エコ・サーブ」という。)の職員としても稼働していたことから,A22議員は,P67の人件費合計額である165万0340円の2分の1である82万5170円のみを政務調査費から支出した。(甲A22の1,丙A22の2及び3)

b 上記職員らのうち,P65について作成された雇用契約書(丙A22の2の1)の記載は,以下のとおりである。

⒜ 勤務時間  午前10時から午後4時(うち休憩時間60分)

⒝ 休  日  基本 土・日・祝日 政務調査室が定めた休日

⒞ 月  給  15万円

c 上記職員らのうち,P66について作成された雇用契約書(丙A22の2の2)の記載は,以下のとおりである。

⒜ 勤務時間  午前10時から午後4時(うち休憩時間60分)

⒝ 休  日  基本 土・日・祝日 政務調査質が定めた休日

⒞ 時 間 給  850円

d 上記職員らのうち,P67について作成された雇用契約書(丙A22の2の3)の記載は,以下のとおりである。

⒜ 勤務時間  午前10時から12時又は午後1時から午後5時

⒝ 休  日  基本 土・日・祝日 政務調査質が定めた休日

⒞ 時 間 給  850円

e A22議員の政務調査事務所は,後援会事務所と同一の建物内に位置し,政務調査事務所は3階に,後援会事務所は2階に,それぞれ設置されていた。後援会活動は,A22議員の実子であるP68等の後援会役員が行っていた。(丙A22の3)

(イ)上記(ア)の認定事実によれば,A22議員の政務調査事務所は,後援会事務所の設置された建物内に位置しているものの,両事務所が設置されている階が異なり,物理的に独立していた上,後援会役員が後援会活動に従事していたのであるから,政務調査事務所において政務調査活動に関する業務に従事していたP65らが,後援会事務所における後援会活動にも従事していたものとは認め難い。

そして,A22議員がした人件費に係る政務調査費の支出のうち,まず,P65及びP66に関する人件費の支出については,原告は,P65及びP66が政務調査活動以外の活動に従事していたことなど,上記支出が「手引き」等の使途基準に違反する違法な支出であることを推認させる一般的,外形的な事実を具体的に主張立証していないから,上記支出が違法であるということはできない。

そうすると,A22議員のP65及びP66の人件費に係る政務調査費の支出は,その全額について違法であるということはできない。

(ウ) これに対し,P67の人件費については,政務調査事務所における業務に関する雇用契約書(甲A22の2の3)上,同人の勤務時間が平日の午前10時から正午まで又は午後1時から午後5時までとされているものの,参加人自民党会派は同人のエコ・サーブにおける業務に関する雇用契約書を提出していないことから,政務調査事務所における業務に関する雇用契約書におけると同様に,エコ・サーブにおいて従事していた業務における雇用実態が明らかではなく,同業務に係る給与額ないし按分の割合の決定が適正にされたかどうかについて疑いが生じるから,A22議員がしたP67の人件費の2分の1に係る政務調査費の支出が「手引き」等の使途基準に違反する違法なものであることが推認される。

そして,A22議員は,P67がエコ・サーブにおける業務にも従事していたことを認め,同人の人件費の2分の1のみを政務調査費から支出していることを考慮しても,被告及び参加人自民党会派がP67のエコ・サーブにおける業務に関する雇用契約の内容,雇用条件,給与支給の基準等を具体的に主張立証しておらず,P67のエコ・サーブにおける雇用や人件費支給の実態が明らかとはなっていない以上,上記推認に関する適切な反証がされているとはいえない。

そうすると,A22議員がしたP67の人件費の2分の1に係る政務調査費の支出は,その全額について違法である。

(4)  小括

以上の検討結果によれば,参加人自民党会派所属の各議員について,政務調査費による支出が違法である人件費の額は,別紙5(検討結果一覧表)「人件費」欄記載のとおりである。

5  小括(各会派の不当利得額)

以上によれば,被告が各会派に交付した平成22年度の政務調査費から各会派がした支出のうち,違法であると認められるものの金額の合計は,以下のとおりである。

(1)  参加人自民党会派  1894万8753円

(2)  参加人民進党会派  1238万3700円

(3)  参加人共産党会派        28万円

(4)  改革                0円

そうすると,被告は,上記(1)ないし(3)の各会派に対し,上記(1)ないし(3)記載の金額につき不当利得返還請求権を有しているにもかかわらず,これを行使していないことから,当該請求権の行使につき違法に財産の管理を怠っているということができる。

第4結論

よって,原告の請求は,被告に対し,参加人自民党会派に対して1894万8753円の,参加人民進党会派に対して1238万3700円の,参加人共産党会派に対して28万円の各返還を請求することを求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法64条本文及び66条を適用して,主文のとおり判決する。

札幌地方裁判所民事第3部

(裁判長裁判官 湯川浩昭 裁判官 宇田川公輔 裁判官 遊間洋行)

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file_3.jpg別紙2

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