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札幌地方裁判所 平成25年(行ウ)3号 判決 2016年1月28日

主文

1  札幌市固定資産評価審査委員会が原告に対して平成24年12月6日付けでした別紙物件目録記載の一棟の家屋について固定資産課税台帳に登録された平成24年度の価格についての審査の申出を棄却する旨の決定のうち,価格1億2698万6000円を超える部分を取り消す。

2  被告札幌市は,原告に対し,17万4100円及びこれに対する平成25年5月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被告北海道は,原告に対し,44万5300円及びこれに対する平成25年5月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

5  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求の趣旨

1  札幌市固定資産評価審査委員会が原告に対して平成24年12月6日付けでした別紙物件目録記載の一棟の建物の表示記載の建物に係る平成24年度固定資産課税台帳の登録価格についての原告の審査申出を棄却する旨の決定を取り消す。

2  被告札幌市は,原告に対し,金34万4100円及びこれに対する平成25年5月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被告北海道は,原告に対し,金57万5300円及びこれに対する平成25年5月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

第2事案の概要

本件は,33の専有部分から構成された別紙物件目録記載の一棟の区分所有に係る建物(以下「本件建物」という。)のうち,1階事務所用物件部分を所有する原告が,札幌市長により決定され固定資産課税台帳に登録された平成24年度の本件建物の価格(以下「本件登録価格」という。)は地方税法352条1項に反して違法であったなどと主張して,裁決行政庁である札幌市固定資産評価審査委員会がした当該価格の登録についての原告による審査の申出を棄却する旨の決定(以下「本件棄却決定」という。)の取消しを求めるとともに,国家賠償法1条1項に基づき,被告札幌市に対して34万4100円(本件登録価格を基礎としてされた平成24年度固定資産税賦課決定及び都市計画税賦課決定に基づき原告が過大に納付した14万4100円並びに本件訴訟の弁護士費用20万円の合計額)及び被告北海道に対して57万5300円(平成21年度に札幌市長により決定され固定資産課税台帳に登録された平成23年度の本件建物の登録価格を基礎としてされた平成23年度不動産取得税賦課決定に基づき原告が過大に納付した37万5300円及び本件訴訟の弁護士費用20万円の合計額)並びにこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成25年5月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1  関係法令等

別紙のとおり(別紙で用いる略称は,以下においても用いる。)

2  前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1)  当事者

原告は,不動産の賃貸等を目的とする有限会社であり,札幌市内の都市計画区域の市街化区域内に所在する(甲2)本件建物のうち,次の(2)ア記載の事務所部分(以下「本件事務所部分」という。)を所有している。

(2)  本件建物の所有関係

ア 本件建物は,昭和58年に築造された,鉄骨鉄筋コンクリート・鉄筋コンクリート造陸屋根10階建,課税床面積2210.84平方メートルのマンションであり,1個の事務所部分(専有床面積320.23平方メートル。本件事務所部分。)と32個の住居部分(専有床面積合計1257.84平方メートル。以下「本件住居部分」という。)の計33個の専有部分と,その他,廊下,階段室等の共用部分から構成されており,上記各専有部分が区分所有権の目的となる建物(以下「区分所有建物」ということがある。)である。上記共用部分は,構造上,区分所有者全員に供される部分(床面積合計48.96平方メートル。以下「本件全体共用部分」という。)と本件住居部分の区分所有者のみに供される部分(床面積合計584.07平方メートル。以下「本件住居共用部分」という。)に分かれている。(甲1,7)

イ 本件事務所部分は,昭和59年度から平成23年度までの期間,訴外A健康保険組合が所有し,かつ使用していた。同組合に対しては,法348条4項により固定資産税を課すことができないため,本件事務所部分は,上記の期間につき固定資産税が非課税とされていた。

その後,平成23年3月16日,訴外株式会社Bが同組合から本件事務所部分の所有権を取得し,同月28日,原告が同社から同部分及びその敷地の共有持分を1500万円で買い受け,所有者となった(甲1,2)。

ウ なお,本件建物については,法352条1項第2かっこ書,規則15条の3に基づいて,昭和59年1月28日受付「専有部分の床面積割合補正申出書」(甲7・42頁)が札幌市長に提出されており,同申出書により法352条1項所定の割合が本件住居部分について0.809617,本件事務所部分について0.19038へと補正されている(以下「本件補正割合」という。)。

(3)  本件各賦課決定等に至る経緯

ア 札幌市長は,平成24年度における本件建物の価格について,合計1億3567万9000円(本件住居部分1億0302万1600円と本件事務所部分3265万7400円の合計額)と決定し,これを固定資産課税台帳に登録した(乙イ4)。

イ また,札幌市長は,上記アのとおり登録された本件事務所部分の価格を家屋課税標準額とし,これに土地課税標準額(固定資産税につき246万9246円,都市計画税につき493万8492円)を加えたものに市税条例所定の税率を乗じ,平成24年度の原告に係る固定資産税額を49万1700円,都市計画税額を11万2700円とする各賦課決定をした(甲5。以下,それぞれにつき「本件賦課決定1」,「本件賦課決定2」という。)。

ウ 他方,被告北海道は,平成23年4月28日,札幌市長から,法73条の18第3項の規定に基づき,原告が同年3月28日に本件建物を取得した旨の事実が記載された報告書類を受理した。

上記(2)イのとおり,本件事務所部分については平成23年度の固定資産課税台帳に同年1月1日現在における価格が記載されていなかったことから,札幌道税事務所長は,札幌市中央市税事務所長に対し,本件事務所部分の評価相当額を照会したところ,札幌市中央市税事務所長より,本件事務所部分の平成23年における評価相当額が3597万1600円であるとの回答があった(乙ロ1)。

これを受けて,札幌道税事務所長は,法73条の21第2項に基づき,上記額をもって,本件事務所部分の不動産取得税に係る課税標準額と決定した上で,同額を基準として税額を143万8800円とする不動産取得税賦課処分(以下「本件賦課決定3」という。)を行い,平成23年7月7日付け納税通知書兼領収証書により同内容を原告に通知した(甲6)。

エ 原告は,被告札幌市に対し,平成24年度固定資産税及び都市計画税(土地,家屋分)として,平成24年4月19日に15万1400円,同年7月10日,同年9月20日及び同年11月19日に各15万1000円の合計60万4400円(うち固定資産税49万1700円,都市計画税11万2700円)を,被告北海道に対し,平成23年度不動産取得税として,平成23年7月20日に143万8800円を,それぞれ納付した(甲6,12)。

(4)  原告による不服申立て

原告は,平成24年4月16日,本件登録価格の決定を不服として,札幌市固定資産評価審査委員会に対し,法432条1項に基づく審査の申出を行ったところ,同委員会は,同年12月6日,上記申出を棄却すると決定(本件棄却決定)した(甲11)。

原告は,本件棄却決定を受け,同25年4月19日,当庁に同決定の取消訴訟(本件訴訟)を提起した。

3  争点

(1)  本件棄却決定の適法性(争点1)

(2)  本件各賦課決定の国家賠償法上の違法性及び被告らの過失の有無(争点2)

4  争点に関する当事者の主張

(1)  本件棄却決定の適法性(争点1)について

(被告札幌市の主張)

ア 本件登録価格は,本件建物が明らかに用途の異なる本件住居部分と本件事務所部分を併有する区分所有建物であることから,本件建物一棟全体に単一の経年減点補正率を適用するのではなく,当該部分ごとに異なる経年減点補正率を適用し,その結果算出された価格を合計することにより算定している。

これは,固定資産の価格の適正な算定という法の大前提を踏まえ,一棟の建物であったとしても,その内部に明らかに用途の異なる部分を有する物件にあっては,物理的要因に加えて機能的要因ないし経済的要因を考慮し定められた経年減点補正率を用途の異なる各部分に対し別個に適用することで,より適正な価額を求めることができると考えられたことによる。そうしない限り,本件住居部分の区分所有者が,本来事務所部分の区分所有者である原告が負担すべき固定資産税の一部を支払うことを余儀なくされ,不合理である。

イ 法352条1項の趣旨は,共有物について連帯納税義務を定めた法10条の2第1項の区分所有者に対する適用を排除し,区分所有者の有する共有部分の持分割合に応じた区分所有者ごとの個別の税負担を求める点にある。法352条1項所定の「当該家屋に係る固定資産税」が,原告が主張するように家屋一棟の固定資産税額を指すのか,用途区分ごとに算出された固定資産税額を指すのかは,条文の文言からは決することはできないから,同項は,納付義務の前提となる一棟の家屋の評価方法や,一棟の家屋に明らかに用途を異にする複数の部分が存在する場合において,その部分ごとに評価をした上,税額をあん分することが許されるか否かについて何ら規定するものではなく,被告札幌市が主張する上記のような価格決定方法を排除する趣旨は有していない。

仮に,原告が主張するように建物一棟の価格(課税標準)を決定した上で一棟の家屋の税額を決定し,その税額を一定の基準に基づきあん分し,各区分所有者の固定資産税額を決定するとの方法に限定されると解すると,当該区分所所有者が,同一区域内に他の課税対象家屋を所有する場合,これらとは別個に区分所有建物に係る税額を求めなければならず,同一区域内の各資産の合計額が当該納税者の課税標準額となることを前提とする法364条2項の趣旨に合致しない。

ウ 以上のとおり,本件棄却決定は,固定資産の適正な評価及び税負担の衡平という諸点に鑑み,本件住居部分と本件事務所部分に異なる経年減点補正率を適用したものであり,法352条1項に反するものでもないから適法である。

(原告の主張)

ア 法352条1項に反すること

法352条1項は,区分所有者は「当該家屋に係る固定資産税額を」「あん分した額を納付する義務を負う」旨定めており,その文言から明らかなとおり,建物一棟の価格(課税標準)を算出した上で一棟の家屋の税額を決定し,その税額を上記あん分基準に基づき各区分所有者に配分し当該金額を固定資産税額とすることを求めている(不動産取得税についても同様である〔法73条の2第4項〕。)。

被告札幌市が主張するような,一棟の建物について専有部分ごとに価格を算定し,これに税率を乗じて各区分所有者の負担すべき税額を決定することを予定していないばかりか,地方税法その他の規定にも,このような法解釈を是とする根拠は存在しない。

租税法規は文理解釈を原則とすべきであり,上記のとおり,法352条が一棟単位で評価を行うことを求めていることは文理上明らかである。

イ 評価基準にも反し,計算方法も不合理であること

評価基準においても,一棟全体の再建築費評点数に単一の経年減点補正率を乗じることが原則的方法として採用されており,この例外としては,当該建物に増築部分が存在する場合(評価基準第2章第一節四)と非課税部分等が存在する場合(評価基準第2章第一節五)の,わずか2例があるのみである。区分所有建物の評価方法につきこのような例外が設けられていない以上,評価基準は,区分所有建物について,通常の家屋と同様に一棟単位で評価を行うことを原則として想定していると解すべきであり,そのように解することが法352条の上記趣旨とも合致する。さらに,用途の明らかに異なる部分を併有する区分所有建物について用途の区分に応じた経年減点補正率を適用して価格を算出する手法は,区分所有建物の専有部分が独立して存続することは不可能であり,当該家屋の経済的耐用年数はやはり建物一棟を一単位として観念すべきこと,同一の共有部分を使用しているにもかかわらず区分所有者ごとに同共用部分の耐用年数が異なってしまうこと等の諸点からいって,そもそも合理性を有するものではない。

ウ 原告主張の計算方法が法364条2項に反するものではないこと

法364条2項は,納税義務者の利益等を考慮した賦課徴収に関する租税手続法規定にすぎず,租税債務の発生に係る課税要件等を定めるものではないし,区分所有建物に属する家屋についても,一棟の価格にあん分割合を乗ずることによって算定しうる「専有部分ごとの価格」を課税標準として用いれば,法352条1項と364条2項は抵触するものではない。

エ したがって,本件建物につき,本件住居部分と本件事務所部分に対し別の経年減点補正率を適用した本件棄却決定は法352条1項に反するものとして違法である。

(2)  本件各賦課決定の国家賠償法上の違法性ないし過失の有無(争点2)

(原告の主張)

ア 本件各賦課決定の違法性

上記(1)の原告の主張アのとおり,法352条1項及び73条の2第4項が,一棟の建物について価格を求めた上で,当該価格又はこれに税率を乗じた税額を上記各条項の定める基準に従って各区分所有者にあん分することを要求していることは文言上明らかであって,本件各賦課決定はこれに反する違法なものである。

イ 原告が納付すべきであった固定資産税額及び都市計画税額

平成24年度における本件建物の再建築費評点数(2億4463万2000点)に主たる用途(住居)・構造(鉄骨鉄筋コンクリート造鉄筋コンクリート造)・経過年数(29年)に応じた経年減点補正率(0.4719)及び評点1点当たりの価額(1.10円)を乗じて計算される本件建物の評価額(1億2698万6000円)を本件補正割合であん分した結果,本件事務所部分の課税標準は2417万5900円となる。

これに原告所有の他の固定資産も考慮した上,市税条例所定の税率を乗ずると原告が本来納付すべきであった平成24年度の固定資産税額及び都市計画税額は,それぞれ37万3000円,8万7300円である。

ウ 原告が納付すべきであった不動産取得税額

原告が本件事務所部分の所有権を取得した平成23年度における同部分の登録価格は,平成21年度に札幌市長により決定されたものであるところ,同年度における本件建物の再建築費評点数(2億5484万4000点)に主たる用途(住居)・構造(鉄骨鉄筋コンクリート造鉄筋コンクリート造)・経過年数(26年)に応じた経年減点補正率(0.4982)及び評点1点当たりの価額(1.10円)を乗じて計算される本件建物の評価額(1億3965万9600円)を本件補正割合であん分した結果,本件事務所部分の課税標準は2658万8000円となる。

これに道税条例所定の税率を乗ずると,原告が本来納付すべきであった平成23年度の不動産取得税額は106万3500円である。

エ 原告に生じた損害額

原告は,原告が被告らに実際に納付した金額と上記イ及びウの各税額との差額のほか,本件につき原告代理人に訴訟を委任したことにより,被告らそれぞれにつき,弁護士費用相当額として20万円の損害を被った。

よって,原告に対し,被告札幌市は,平成24年度の固定資産税及び都市計画税の過大納付額14万4100円及び弁護士費用相当額20万円の合計34万4100円について,被告北海道は,本件建物の不動産取得税の過大納付額37万5300円及び弁護士費用相当額20万円の合計57万5300円について,それぞれ本件訴状送達日の翌日である平成25年5月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を付した金額を賠償すべき責任を負う。

(被告札幌市の主張)

上記(1)の被告札幌市の主張のとおり,本件登録価格は,複数の用途に供される区分所有建物である本件建物の性質を考慮し適正に算定されたものであり,その算定方法については,横浜市,相模原市,浜松市,大阪市,北九州市,熊本市,京都市の各都市においても同様の解釈が採られているところであって,法及び評価基準に反するものではなく適法である。そして,本件賦課決定1及び2についても,上記のとおり適法に算定された本件登録価格により算出された本件事務所部分の価格を基礎として行われたものであるからもとより適法である。

したがって,本件賦課決定1及び2について,被告札幌市の担当職員が,職務上通常尽くすべき注意義務に反したとはいえない。

(被告北海道の主張)

ア 平成23年度固定資産課税台帳に登録されるとした場合の評価相当額の算定方法については,被告札幌市が採用した算定方法が適法である旨の同被告の上記(1)の主張を援用する。

イ また,札幌道税事務所長は,本件事務所部分の平成23年度の固定資産課税台帳に価格の登録がなされていなかったために,法73条の21第2項に基づいて札幌中央市税事務所長に対して本件事務所部分の評価相当額を照会し,この結果得られた回答に基づいて本件事務所部分の課税標準となるべき価格を決定し,本件賦課決定3を行ったものである。

固定資産税及び不動産取得税の性格,課税対象不動産の評価の基準及び評価の実施方法の同一性等に照らし,本件建物の評価相当額は固定資産課税台帳の登録価格と同視することが合理的であって,それゆえに,被告北海道は,当該評価額をもって法73条の21第2項において道府県知事が決定することとされている不動産取得税の課税標準となるべき価格としたものである。

ウ したがって,本件賦課決定3を行ったことにより,被告北海道の公権力の行使にあたる公務員がその職務を行うについて違法に損害を加えたということはできない。

第3当裁判所の判断

1  本件棄却決定の適法性(争点1)について

(1)  法352条1項の解釈について

ア 土地,家屋等に対して固定資産税を課す場合の基準となる課税標準は,原則として賦課期日における当該固定資産の価格で固定資産課税台帳に登録された価格であり(法349条1項),ここにいう「価格」とは,客観的な交換価値としての適正な時価をいう(法341条5号)。法は,この客観的交換価値の算定につき,全国一律の統一的基準によって固定資産の価格を決定しなければならないと定め(法388条1項,403条1項),固定資産の評価の基準並びに評価の実施方法及び手続を総務大臣の告示である評価基準に委ねている。

イ もっとも,固定資産のうち,区分所有建物に対して課す固定資産税について,法は,文理上,当該区分所有建物に関する固定資産税額,すなわち,当該区分所有建物を一棟の建物として評価して算出された固定資産税額を算定した上で,当該固定資産税額を原則として各区分所有者の共有部分の持分割合(各専有部分の床面積の割合)で各区分所有者にあん分することによって区分所有者ごとの固定資産税を算定する旨を定めている(法352条1項,建物の区分所有等に関する法律〔以下「区分所有法」という。〕14条1項から3項)。

法352条1項の規定の趣旨は,区分所有権(区分所有法2条1項1号)は,区分所有建物の共有部分の持分と不可分であり(区分所有法11条,14条参照),その専有部分も各個別の事情を有することなどから,個別に区分所有権を評価することは著しく困難であり,また,区分所有建物に対する固定資産税額の全体について各区分所有者が連帯して納税義務を負うことは当該区分所有建物の実態にそぐわないことから,共有物等に課する地方税等については共有者が連帯納税義務を負うと定める法10条の2第1項の適用を排除して,各区分所有者が個別の納税義務を負うこととし,各区分所有者は,区分所有建物一棟の固定資産税額を一定の割合であん分した額をその固定資産税として納付する義務を負うこととしたものである。そして,実質的に見れば,各区分所有者が負担すべき税額は本来,その専有部分に係る税額と共有部分に係る税額のうちその持分に応ずる額との合算であるものの,実際上は,全員の共有となる区分所有建物の主体構造部分が区分所有建物の価格の大部分を占めていることから,共有部分の持分割合が,各区分所有者の負担すべき税額の割合を最もよく示すものとして,上記区分所有建物の固定資産税額のあん分割合とされたと解される。このことからすれば,上記規定は,区分所有建物一棟の価格について予め用途等により区分して評価することを予定しておらず,当該区分所有建物一棟を基本単位として一括評価すべきであることを定めたものというべきである。

ウ そうすると,区分所有建物に専有部分を有する者の固定資産税額については,上記の法352条1項の規定の文理及び趣旨から,当該区分所有建物一棟を基本単位とした再建築費評点数に,単一の経年減点補正率を乗じて一棟の建物全体を一括評価して固定資産税額を算出し,これを同項所定の割合(共有部分の持分割合等)によってあん分した額とすべきである。

(2)  被告札幌市の主張について

ア この点に関し,被告札幌市は,①法352条1項の趣旨は専ら法10条の2第1項の適用を排除する点にあり,一棟の区分所有建物の評価方法等について何ら規定するものではないこと,②仮に上記(1)のような解釈を採るとすれば,当該区分所有建物内に用途の異なる複数の部分が存在する本件建物のような固定資産において,本来当該部分を所有する区分所有者が負担すべき固定資産税額をその他の区分所有者が負担してしまうこととなって不都合であること,③上記(1)のような解釈は法364条2項の趣旨にも反すること等を主張する。

イ しかし,上記ア①については,上記(1)のとおり,区分所有建物について,法が一棟全体を基本的な単位として一括評価して固定資産税額を算出した上で同固定資産税額を共有部分の持分割合によりあん分して各区分所有部分の固定資産税額を算定することを求めていると解されることは法352条1項の文理及び趣旨からして明らかであり,被告札幌市の上記主張は採用できない。区分所有建物の大部分の価格を占める区分所有建物の主体構造部分が,用途によって異なる経年劣化をするとは通常想定できないことから,一棟の区分所有建物に対して異なる経年減点補正率を適用して当該部分ごとに固定資産の評価をする被告札幌市主張の計算方法は,区分所有建物の上記主体構造部分の価格を適正に評価しているとはいえず,法352条1項の趣旨に反する。

また,区分所有建物の専有部分を取得した者に課する不動産取得税について「当該専有部分の属する一むねの建物」の価格に法352条1項と同様のあん分割合を乗じて計算すべき旨定める法73条の2第4項や,一棟の区分所有建物ごとに家屋課税台帳に価格を登録することを定める法341条12号といった法全体の規定のあり方からみても,法が,被告札幌市主張の上記算定方法を想定しているものと解することはできない。

次に,上記ア②について,被告札幌市が区分所有者間における税負担の不均衡を指摘する点についても,法352条1項は,区分所有建物一棟全体の区分所有者間における固定資産税のあん分につき,各区分所有者の共有部分の持分(専有部分の床面積)割合によってこれを行うことを原則としつつも,単純に共有部分の持分割合のみによってあん分するときに負担の均衡を失するような場合には,規則15条の3所定の方法により上記割合を補正することができる旨定めており,区分所有者間の税負担の衡平について,法はこれに配慮した規定及び制度を設けているのであるから,被告が主張するような計算方法を採用することによって区分所有者間の税負担の衡平を図るべきものとは認められない。

さらに,上記ア③について,被告札幌市が上記(1)の解釈が法364条2項の趣旨に反する旨主張する点についても,同規定は,固定資産税の納税者が複数の固定資産を有する場合において,固定資産税が当該固定資産ごとにその課税標準となるべき価格が算定されるものであること,及び,免税点の適用が当該固定資産ごとに異なること等から,納税義務者が所有する固定資産ごとの価額の内容をその合計額と合わせて同人に通知することとしている手続的な保障規定であるにすぎない。また,区分所有家屋の価格算定について上記(1)のとおりの計算方法を採用しても,固定資産税の課税標準となる各区分所有家屋の価額を算定することは可能であるから,結局,同項が上記算定方法を否定する趣旨のものであるとは解されない。

ウ したがって,被告札幌市の上記アの主張はいずれも採用することはできない。

(3)  以上より,本件建物の価格については,本件建物全体について単一の経年減点補正率を適用して一棟の建物全体の評価をした上で固定資産税額を算定し,これを本件補正割合に応じてあん分すべきところ,本件棄却決定は,本件事務所部分と本件住居部分に区分して異なる経年減点補正率を適用してそれぞれの価格を算定する点において,法352条1項に反し違法である。

そして,上記(1)の算定方法を前提に本件建物の価格について検討すると,前記前提事実(2)のとおり,本件建物は32個の住居部分及び本件住居共有部分(床面積合計1841.91平方メートル)並びに1個の事務所部分(専有床面積320.23平方メートル)と,区分所有者全員に供される本件全体共有部分(48.96平方メートル)から構成される区分所有建物であって,これらの床面積割合によれば,本件建物は住居を主たる用途とするものであると認められるから,本件建物一棟全体の平成24年度における再建築費評点数2億4463万2000点(甲7)に,主たる用途を住居として,本件建物の構造,経過年数(前提事実(2))に応じた経年減点補正率0.4719(乙イ2)及び評点1点当たりの価額1.10円を乗じると,本件建物の価格は,1億2698万6000円(100円未満切り捨て)となる。

したがって,本件棄却決定は,1億2698万6000円を超える部分につき違法であるから,当該部分に限りこれを取り消すのが相当である(最高裁判所平成17年7月11日第二小法廷判決・民集59巻6号1197頁参照)。

2  本件各賦課決定の国家賠償法上の違法性ないし過失の有無(争点2)について

国家賠償法1条1項における違法とは,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背することをいい(最高裁判所平成17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁),仮に,公務員の行為が法令の解釈・適用を誤ったものであったとしても,そのことから直ちに同項にいう違法があったと評価されることにはならず,公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたと認められるような事情がある場合に限り,上記の評価がされることになるものと解するのが相当である(最高裁判所平成19年11月1日第一小法廷判決・民集61巻8号2733頁参照)。

そして,ある事項に関する法律解釈について,複数の解釈が考えられ,そのいずれについても相当の根拠が認められる場合において,公務員がそのうちの一つの解釈に基づいて行為をしたときは,後に当該解釈が違法と判断されたとしても,直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったものとすることは相当ではない(最高裁判所昭和46年6月24日第一小法廷判決・民集25巻4号574頁,最高裁判所平成3年7月9日第三小法廷判決・民集45巻6号1049頁,最高裁判所平成16年1月15日第一小法廷判決・民集58巻1号226頁参照)。

(1)  本件賦課決定1及び2について

ア 上記1のとおり,本件棄却決定は法352条1項に反するものであり,固定資産課税台帳に登録された価格を課税標準として行われた本件賦課決定1及び2は,いずれもその課税額が客観的に過大であったと認められる。

イ そして,札幌市の担当職員の注意義務違反の有無について検討すると,地方公共団体における課税実務において参考とされている固定資産税務研究会編集『固定資産税実務提要』(甲8)には,複数の用途に供されている一棟の家屋の評価については,原則として主たる用途に応じた経年減点補正率を適用すべきとしつつも,家屋の評価及び課税の均衡上の問題があると市町村長が認める場合には,例外的に,用途,構造の異なる部分ごとに異なる経年減点補正率を適用することができる旨記載されており,被告札幌市においては,その主張する評価及び税額の算定方法が採用され,長年にわたって実務の運用が行われてきた(証人C)。

また,被告札幌市以外の政令指定都市のうち,新潟市,さいたま市,千葉市,川崎市,静岡市,名古屋市,堺市,広島市及び福岡市においては,区分所有建物全体における主たる用途に応じた単一の経年減点補正率を適用しているのに対し,横浜市,相模原市,浜松市,大阪市,北九州市及び熊本市の各市おいては,専有部分ごとに当該専有部分の構造・用途に応じた経年減点補正率を適用する被告札幌市と同様の運用を行っており,実務上の運用が区々に分かれていることが認められ(乙イ7),上記運用について,所管行政庁である自治省ないし総務省等から違法であるとの指摘を受けたり,裁判上違法であるとの判断が示されたりしたことをうかがわせる事情は認められない。

ウ しかし,上記1(1)イのとおり,法352条1項の文言上,被告ら主張の算定方法が採り得ないことは明らかであることに加え,同算定方法は区分所有建物の適正な評価という点においても合理性を有するものとはいえないこと(上記1(2)イ)に鑑みれば,被告札幌市の主張する上記算定方法を採用することについて相当の根拠があったとはいえない。

そうすると,本件において,被告札幌市の担当職員が,長年にわたる実務上の運用に基づき従前と同様の処分を行ったものであるなどの事情が存在するとしても,そのような実務上の運用について相当の根拠があったとは認められず,本件賦課決定1及び2を行うに際し,上記担当職員には国家賠償法上の注意義務違反があったものと認められる。

(2)  本件賦課決定3について

ア 本件建物の本件事務所部分については,平成23年3月16日に訴外株式会社Bが所有権を取得する以前は,訴外A健康保険組合が所有していたことにより固定資産税の課税は除外されていたことから(前提事実(2)イ),固定資産課税台帳に本件事務所部分に係る価格が記載されていなかった。そのため,被告北海道は,本件事務所部分が,原告がこれを取得した平成23年度において仮に上記価格が算定されていたとした場合の額について,札幌市中央市税事務所長に評価相当額を照会し,本件事務所部分の課税標準が3597万1600円になるとの回答を得たことが認められる(前提事実(3)ウ)。

イ 不動産取得税は,不動産を取得した時点における当該不動産の価格を課税標準として課せられる都道府県税であり(法73条の2),不動産評価の統一及び評価事務の簡素化の趣旨から,固定資産課税台帳に価格が登録されている不動産については原則としてその価格により不動産取得税の課税標準を決定し(法73条の21第1項本文),他方,固定資産課税台帳に価格が登録されていない場合又は特別の事情があるために固定資産課税台帳価格により難い不動産については,都道府県知事が固定資産評価基準によって自ら課税標準を決定することとされている(法73条の21第2項)。

そして,法は,区分所有建物の専有部分を取得した者に課する不動産取得税については,「当該専有部分の属する一むねの建物」の価格に法352条1項と同様のあん分割合を乗じて算定する旨の明文の規定を置いており(73条の2第4項),本件事務所を取得した原告に対して課す不動産取得税を算出する場合においては,文理上,本件建物一棟全体の価格に道税条例所定の税率を乗じて算出した税額を本件補正割合に応じてあん分する方法によるべきであることは明らかである。

ウ そうすると,本件は,固定資産課税台帳に価格が登録されていない場合に当たるから,被告北海道としては,自らが第一次的な責任をもって単一の経年減点補正率を適用して算出された本件建物一棟全体の価格を課税標準として決定し,これに道税条例所定の税率を乗じて不動産取得税額を算定すべきであったにもかかわらず,被告札幌市から本件事務所部分についての固定資産課税台帳に登録する価格の回答を受け,同価格に基づき不動産取得税額を算定したことが認められる。しかし,このような算定方法は法73条の2第4項の要求する算定方法に明らかに反するものであり,被告北海道が採用した算定方法が同項の解釈として相当な根拠を有することをうかがわせる事情は存在しないから,結局,被告北海道の担当職員が本件賦課決定3を行うに際しては国家賠償法上の注意義務違反があったものと認められる。

(3)  小括

以上によれば,本件賦課決定1ないし3は,いずれも,被告らの担当職員に注意義務違反がある国家賠償法上違法なものであるから,被告らは,上記各賦課決定によって原告に生じた損害を賠償すべき責任を負う。

そして,法73条の2第4項及び352条1項により本件建物の価格が1億2698万6000円と算定され(上記1(3)),これに法及び市税条例並びに道税条例所定の計算を施し,原告が有する他の固定資産も考慮すると,本件事務所部分に課されるべき平成24年度の固定資産税額は37万3000円,都市計画税額は8万7300円,不動産取得税は106万3500円となる(弁論の全趣旨)。そうすると,原告は,原告が現実に納付した金額(前提事実(3)エ)との差額として,固定資産税につき11万8700円,都市計画税につき2万5400円,不動産取得税につき37万5300円の損害を被ったと認められる。

本件に関し相当因果関係のある弁護士費用としては,事案の難易等を考慮し,被告札幌市に対する請求の関係では3万円,被告北海道に対する請求の関係では7万円の限度でこれを認めるのが相当である。

第4結論

よって,原告の請求は,主文第1項ないし第3項記載の限度で理由があるから認容し,その余はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法64条ただし書,61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 湯川浩昭 裁判官 宇田川公輔 裁判官 遊間洋行)

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