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札幌地方裁判所 平成25年(行ウ)5号 判決 2015年1月20日

主文

1  本件各訴えのうち処分行政庁がした北海道労働委員会第40期労働者委員の任命処分の取消しを求めるものをいずれも却下する。

2  原告らのその余の訴えに係る請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  処分行政庁が平成24年12月1日付けでした北海道労働委員会第40期委員の任命処分のうち別紙2の名簿の労働者委員欄記載の各人に対する部分を取り消す。

2  被告は,原告北海道労働組合総連合に対し,100万円及びこれに対する平成24年12月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被告は,原告北海道勤労者医療協会労働組合,原告道東勤労者医療協会労働組合,原告札幌地区労連・ローカルユニオン結及び原告全日本建設交運一般労働組合北海道本部に対し,それぞれ100万円及びこれに対する平成24年12月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  被告は,原告X1,原告X2,原告X3及び原告X4に対し,それぞれ100万円及びこれに対する平成24年12月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,北海道労働委員会(以下「道労委」という。)第40期労働者委員の候補者の推薦をした労働組合等及びその候補者である原告らが,処分行政庁が平成24年12月1日付けでした上記労働者委員の任命処分(以下「本件任命処分」という。)は,我が国に2系統存在する労働組合のうち日本労働組合総連合会(以下「連合」という。)の系統に属する日本労働組合総連合会北海道連合会(以下「連合北海道」という。)に加盟する労働組合の推薦を受けた候補者のみを労働者委員に任命しているところ,これは,もう一つの系統である全国労働組合総連合(以下「全労連」という。)の系統に属する原告北海道労働組合総連合(以下「原告道労連」という。)に加盟する労働組合であるその余の原告労働組合らの推薦を受けた候補者である原告X1らを排除し,原告道労連及びこれに加盟する労働組合とその組合員を差別するものであると主張し,本件任命処分の取消しを求めるとともに,本件任命処分によって団結権の侵害及び社会的信用と名誉の毀損という無形損害又は精神的苦痛を被ったと主張し,国家賠償法1条1項の規定に基づいて,それぞれ100万円の損害賠償及びこれに対する本件任命処分の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める訴えを併合提起した(行政事件訴訟法16条1項の請求の客観的併合)事案である。

1  法令の定め等

本件に関係する法令の定め等は,別紙3に記載のとおりである。以下,別紙3の3に記載の昭和24年7月29日労働省発労第54号労働次官発各都道府県知事宛「地方労働委員会の委員の任命手続について」(乙2)を「54号通牒」という。

2  前提事実

(1)  当事者等

ア 原告ら

(ア) 原告道労連は,平成元年11月26日,全労連のローカルセンターとして北海道の労働組合をもって結成された労働組合である。

(イ) 原告北海道勤労者医療協会労働組合(以下「原告北海道勤医労」という。)は,札幌市に本部を置く社団法人北海道勤労者医療協会及びその関連の医療機関,薬局等で働く看護師,薬剤師,介護職員,事務職員等で組織された単位労働組合であり,原告道労連に加盟している。

原告X1は,昭和55年9月から平成17年9月まで原告北海道勤医労本部執行委員長を,平成3年8月から平成17年8月まで原告道労連議長を,それぞれ務めた者であり,原告北海道勤医労から道労委第40期労働者委員の候補者としての推薦を受けた。(甲1の1)

(ウ) 原告道東勤労者医療協会労働組合(以下「原告道東勤医労」という。)は,医療法人道東勤労者医療協会等で働く労働者で組織された単位労働組合であり,釧路市に事務所を置き,原告道労連に加盟している。

原告X2は,本件任命処分の当時,原告道東勤医労執行委員長及び北海道医療労働組合連合会執行委員長であった者であり,原告道東勤医労から道労委第40期労働者委員の候補者としての推薦を受けた。(乙1)

(エ) 原告札幌地区労連・ローカルユニオン結(以下「原告ローカルユニオン結」という。)は,産業や業種,企業,雇用形態を問うことなく,札幌圏で働く労働者で組織された単位労働組合であり,原告道労連と同一の場所に事務所を置き,原告道労連に加盟している。

原告X3は,本件任命処分の当時,原告道労連執行委員・労働相談室長,原告ローカルユニオン結副執行委員長,全国自動車交通労働組合総連合会北海道地方連合会副議長及び明星自動車労働組合副執行委員長であった者であり,原告ローカルユニオン結から道労委第40期労働者委員の候補者としての推薦を受けた。(甲1の2)

(オ) 原告全日本建設交運一般労働組合北海道本部(以下「原告建交労北海道本部」といい,原告北海道勤医労,原告道東勤医労及び原告ローカルユニオン結と併せて「原告北海道勤医労ら」という。また,原告道労連と原告北海道勤医労らとを併せて「原告道労連ら」という。)は,北海道の建設,交通及び運輸関連の職場を始めとして,産業,業種を問うことなく,中小の事業所で働く労働者で組織された労働組合であり,原告道労連に加盟している。

原告X4(以下,原告X1,原告X2及び原告X3と併せて「原告X1ら」という。)は,本件任命処分の当時,原告道労連事務局長,原告建交労北海道本部特別執行委員,国民春闘北海道共闘委員会事務局長及び全労連幹事であった者であり,原告建交労北海道本部から道労委第40期労働者委員の候補者としての推薦を受けた。(甲1の3)

イ 処分行政庁は,道労委を所轄するものであり,労働組合法19条の12第3項の規定により,労働組合の推薦に基づいて道労委の労働者委員を任命する権限を有している。

(2)  本件任命処分に至る経緯

ア 我が国の労働界の再編

我が国の労働組合は,平成元年まで,ナショナルセンターである日本労働組合総評議会(以下「総評」という。),全日本労働総同盟(以下「同盟」という。)及び中立労働組合連絡会議(以下「中立労連」という。)の系統に組織されてきたところ,同年の再編により,ナショナルセンターである連合,全労連及び全国労働組合連絡協議会の系統に組織された。原告道労連は,同年に,連合北海道は,平成2年に,それぞれ全労連又は連合のローカルセンターとして北海道の労働組合をもって結成された。平成24年当時,北海道の労働組合数は3399組合,組合員数の合計は34万6085人であり,そのうち,連合北海道に属する組合員数は25万7095人(全体の74.3%),原告道労連に属する組合員数は2万0975人(同6.1%)である。

イ 道労委の労働者委員の任命状況

平成元年の労働界の再編までは,道労委の労働者委員は,ナショナルセンターのいずれからも任命されていた。平成元年の労働界の再編後は,平成2年の第29期以降12期24年連続して連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者が労働者委員に任命されており,他の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者は任命されていない。

ウ 先行の訴えの提起とそれに対する判決の言渡し1

原告道労連は,その系統に属する労働組合らと共に,当庁に対し,道労委第37期労働者委員の任命処分(以下「第37期任命処分」という。)の取消し等を求める訴え(当庁平成19年(行ウ)第17号事件)を提起した。当庁は,平成20年11月17日,上記訴えについて,取消しの訴えを却下するとともに,それによって生じた損害の賠償を求める国家賠償請求を棄却する判決の言渡しをした。原告道労連ほかは,そのうち国家賠償請求を棄却した部分について,控訴(札幌高等裁判所平成20年(行コ)第26号事件)を提起し,札幌高等裁判所は,平成21年6月25日,上記控訴をいずれも棄却する判決(以下「第37期判決」という。甲2)の言渡しをした。この判決は,特定の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を労働者委員に選任することを必要とする特段の事情が認められないにもかかわらず,この系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者のみが労働者委員に選任されることが繰り返された場合には,他の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を労働者委員から排除することを意図して労働者委員が選任されているという推認が働くこともあり得るといわなければならないと判示しつつ,その訴訟に顕れた事実のみからでは,処分行政庁が意図的に連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を労働者委員に任命し,原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を労働者委員の任命から排除していたことまでを推認することは困難であるといわざるを得ないとして,第37期任命処分に処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったということはできないとし,国家賠償法上の違法性を否定して,原判決を相当としたものである。

エ 先行の訴えの提起2

原告道労連は,その系統に属する労働組合らと共に,当庁に対し,道労委第39期労働者委員の任命処分(以下「第39期任命処分」という。)の取消し等を求める訴え(当庁平成23年(行ウ)第20号事件)を提起した。

(3)  本件任命処分

ア 道労委第40期労働者委員の候補者の推薦を求める公告

処分行政庁は,平成24年9月13日,労働組合法施行令21条1項の規定により,道労委の第40期労働者委員及び使用者委員の候補者の推薦を求める公告をした。そのうち,労働者委員の候補者の推薦に係る内容は,次のとおりである。(乙3)

(ア) 推薦資格を有する労働組合

北海道の区域内のみに組織を有する労働組合であって,労働組合法2条及び5条2項の規定に適合するものであること。

(イ) 推薦手続

上記(ア)の労働組合が労働者委員の候補者の推薦をしようとするときは,次の事項が記載された推薦書を提出すること。推薦書の提出に当たっては,労働組合法施行令21条3項の規定により,労働組合法2条及び5条2項の規定に適合する労働組合であることの道労委の資格証明書を添付すること。

氏名

年齢

所属労働組合の所在地及び名称並びに所属労働組合における地位

所属会社(事業所)名及び所属会社(事業所)における地位

所属労働組合構成員数

加盟上級団体

備考 添付する履歴書には,学歴,職歴,賞罰等を記載漏れのないよう詳細に記入すること。

(ウ) 任期  任命の日から2年間

(エ) 被推薦資格を有する者

労働組合法19条の12第6項,19条の4第1項に規定する欠格条項に該当しない者であること。

選任時の年齢が満69歳以下であること(平成18年1月総務部人事課「行政委員会委員等に関する選任基準について」(以下「行政委員会委員選任基準」という。)1項)。

道労委における在任期間が10年以内であること(行政委員会委員選任基準2項)。

(オ) 推薦期間  平成24年9月13日から同年10月12日まで

イ 原告北海道勤医労らの推薦

原告道労連は,平成24年9月20日に開催した執行委員会において,道労委第40期労働者委員の候補者として原告X1らの推薦をすることを確認した。これを受け,原告北海道勤医労は原告X1について,原告道東勤医労は原告X2について,原告ローカルユニオン結は原告X3について,原告建交労北海道本部は原告X4について,それぞれ同年10月4日付け推薦書を被告経済部労働局雇用労政課に提出し,同日(原告道東勤医労については同月12日),道労委第40期労働者委員の候補者として原告X1らの推薦をした。原告北海道勤医労らは,上記各推薦に先立ち,道労委において,労働組合法2条及び5条2項の規定に適合するものであることに関する審査を受け,同年9月28日(原告道東勤医労については同年10月12日),適合する旨の決定を得た。なお,原告道労連は,上記各規定に適合するものであることに関する審査を受けておらず,道労委の労働者委員の候補者を推薦していない。また,道労委第40期労働者委員については,定数7名のところ,原告北海道勤医労らを含めて九つの労働組合から原告X1らを含めて16名の候補者の推薦があった。原告北海道勤医労らがした原告X1らの推薦の内容は,次のとおりである。(甲1の1ないし3,乙1)

(ア) 原告北海道勤医労がした原告X1の推薦の内容

a 年齢 67歳

b 所属労働組合の所在地及び名称並びに所属労働組合における地位札幌市*区*条*丁目北海道医療一般労働組合組合員

c 所属会社(事業所)名及び所属会社(事業所)における地位なし

d 所属労働組合構成員数 106人

e 加盟上級団体

北海道医療労働組合連合会

(イ) 原告道東勤医労がした原告X2の推薦の内容

a 年齢 56歳

b 所属労働組合の所在地及び名称並びに所属労働組合における地位道東勤労者医療協会労働組合執行委員長

c 所属労働組合構成員数 417名

d 加盟上級団体

北海道医療労働組合連合会

釧路地区労働組合総連合

(ウ) 原告ローカルユニオン結がした原告X3の推薦の内容

a 年齢 63歳

b 所属労働組合の所在地及び名称並びに所属労働組合における地位札幌市*区*条*丁目

札幌地区労連・ローカルユニオン結副執行委員長

c 所属会社(事業所)名及び所属会社(事業所)における地位なし

d 所属労働組合構成員数 500名

e 加盟上級団体

札幌地区労働組合総連合

(エ) 原告建交労北海道本部がした原告X4の推薦の内容

a 年齢 37歳

b 所属労働組合の所在地及び名称並びに所属労働組合における地位札幌市*区*条*丁目

全日本建設交運一般労働組合北海道本部特別執行委員

c 所属会社(事業所)名及び所属会社(事業所)における地位なし

d 所属労働組合構成員数 2840人

e 加盟上級団体

全日本建設交運一般労働組合

北海道労働組合総連合

ウ 原告道労連の要請

原告道労連は,平成24年11月19日,処分行政庁宛てに「第40期北海道労働委員会労働者委員の公正任命を求める要請書」を提出し,連合北海道に道労委の労働者委員を独占させる偏向任命を是正し,労働者委員を公正に任命するように求める要請をした。

エ 本件任命処分

処分行政庁は,平成24年12月1日,別紙2の北海道労働委員会第40期委員名簿の労働者委員欄記載の各人(いずれも連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者である。)に対し,道労委第40期労働者委員に任命する本件任命処分をした。原告X1らは,本件任命処分によって労働者委員に任命されなかった。道労委第40期委員の任命に係る事務は,被告経済部労働局雇用労政課長であったαが担当していたところ,本件任命処分に係る決定書の記載によれば,本件任命処分の理由の要旨は,次のとおりである。(乙4,乙6の1及び2)

(ア) 選任の考え方

労働委員会制度を規定した法令及び54号通牒の趣旨,労働界の現状,労働委員会が果たすべき役割を踏まえて,候補者を総合的に判断し,適任者を選任する。労働組合法19条の12第6項,19条の4第1項に規定する欠格条項に該当しない者であること,選任時の年齢が満69歳以下であること,道労委における在任期間が10年以内であることを被推薦資格とする。

(イ) 推薦された候補者の氏名,所属労働組合等

原告X1ら(4名)のほかに道労委第40期労働者委員の候補者として推薦された者(12名)のうち,本件任命処分によって労働者委員に選任されたもの(7名)の氏名,所属労働組合及び道労委の労働者委員に在任していた期間は,次のとおりである。道労委第40期労働者委員の候補者として推薦された者としては,このほかに5名が存在する。以下,これらの候補者を,それぞれ「A候補」ないし「E候補」という。原告X1ら及びA候補ないしE候補は,道労委の労働者委員に在任していた期間を有しない新任候補者である。

a β(以下「β候補」という。)

所属労働組合 太平工業室蘭労働組合

在任期間 平成18年12月から平成24年11月まで

b γ(以下「γ候補」という。)

所属労働組合 UIゼンセン同盟北海道支部

在任期間 平成16年11月から平成24年11月まで

c δ(以下「δ候補」という。)

所属労働組合 連合北海道

在任期間 平成16年11月から平成24年11月まで

d ε(以下「ε候補」という。)

所属労働組合 北海道電力関連産業労働組合

在任期間 平成20年12月から平成24年11月まで

e ζ(以下「ζ候補」という。)

所属労働組合 連合北海道渡島地域協議会等

在任期間 平成20年12月から平成24年11月まで

f η(以下「η候補」という。)

所属労働組合 日本郵政グループ労働組合北海道地方本部

在任期間 なし(新任候補者)

g θ(以下「θ候補」という。)

所属労働組合 全日本運輸産業労働組合北海道地方連合会

在任期間 平成20年12月から平成24年11月まで

(ウ) 選任方法

次のとおり選任する。

a 候補者が欠格条項に該当しないこと,推薦基準を満たしていることを確認する。

b 労働委員会制度を規定した法令及び54号通牒の趣旨,労働界の現状,労働委員会が果たすべき役割を踏まえて,候補者から,北海道の労働者の代表として円滑で的確な職責の遂行を期待することができる者について,総合的に判断し,適任者を選任する。

c 候補者の中に,再任に該当する者が存在する場合には,委員としての経験,紛争解決努力などの職責の遂行状況の観点も加味する。

(エ) 選任に当たり勘案すべき主な項目の検討

a 加盟上級団体

平成23年6月30日現在の各系統に属する労働組合の組合員数は,連合北海道が26万5388人(構成比75.0%),原告道労連が2万1652人(同6.1%),その他(無加盟組合を含む。)6万7104人(同18.9%)であり,加盟上級団体別定数比は,連合北海道系が6.5名(75.0%÷(75.0%+6.1%)×7名),原告道労連系が0.5名(6.1%÷(75.0%+6.1%)×7名)である。なお,候補者16名中,連合北海道系の候補者は12名,原告道労連系の候補者は4名である。

b 地域(所在地)

労働者委員の候補者がいる地域の組合員数は,石狩振興局が18万6721人(構成比52.8%),胆振振興局が2万8107人(同8.0%),上川振興局が2万6301人(同7.4%),渡島振興局が2万2302人(同6.3%),釧路振興局が1万2992人(同3.7%)であり,候補者がいる地域の中での地域別定数比は,石狩振興局が4.7名,胆振振興局が0.7名,上川振興局が0.7名,渡島振興局が0.6名,釧路振興局が0.3名である。なお,候補者16名中,石狩振興局の候補者は11名,胆振振興局の候補者は2名,上川振興局の候補者は1名,渡島振興局の候補者は1名,釧路振興局の候補者は1名である。

c 産業分野

労働者委員の候補者がいる産業の組合員数は,卸売業・小売業が7万6961人(構成比21.8%),公務が5万1940人(同14.7%),運輸業・郵便業が3万4311人(同9.7%),医療・福祉が2万5558人(同7.2%),複合サービス事業が2万2200人(同6.3%),製造業が2万4505人(同6.9%),建設業が1万9428人(同5.5%),電気・ガス・熱供給・水道業が9362人(同2.6%)であり,候補者がいる産業の中での産業分野別定数比は,卸売業・小売業が2.1名,公務が1.4名,運輸業・郵便業が1.0名,医療・福祉が0.7名,複合サービス事業が0.6名,製造業が0.5名,建設業が0.4名,電気・ガス・熱供給・水道業が0.3名である。なお,候補者16名中,卸売業・小売業の候補者は4名,公務の候補者は1名,運輸業・郵便業の候補者は5名(2名は複合サービス事業と,1名は建設業と,それぞれ重複している。),医療・福祉の候補者は2名,複合サービス事業の候補者は2名,製造業の候補者は2名,建設業の候補者は1名,電気・ガス・熱供給・水道業の候補者は2名である。

d 上記三つの要素を踏まえて想定される選任の組合せは,次のとおりである。なお,本件任命処分に係る決定書(乙4)のケース2の表の下には,「上記組合せの中で,連合,道労連の組合せは,(6名:1名)又は(7名:0名)」という手書きの書込みがある。

(a) ケース1

石狩振興局から4名,その他の振興局から3名を選任する場合には,ⅰ)石狩地域(4.7名)の卸売業・小売業(2.1名)から2名,ⅱ)石狩地域の運輸業・郵便業(1.0名)から1名,ⅲ)石狩地域の医療・福祉(0.7名),複合サービス事業(0.6名)又は建設業(0.4名)のいずれか一つから1名,ⅳ)胆振地域(0.7名)の製造業(0.5名),上川地域(0.7名)の電気・ガス・熱供給・水道業(0.3名),渡島地域(0.6名)の公務(1.4名)又は釧路地域(0.3名)の医療・福祉のいずれか一つから1名ずつ合計3名を選任する。

(b) ケース2

石狩振興局から5名,その他の振興局から2名を選任する場合には,ⅰ)石狩地域(4.7名)の卸売業・小売業(2.1名)から2名,ⅱ)石狩地域の運輸業・郵便業(1.0名)から1名,ⅲ)石狩地域の医療・福祉(0.7名),複合サービス事業(0.6名)又は建設業(0.4名)のいずれか一つから2名,ⅳ)胆振地域(0.7名)の製造業(0.5名),上川地域(0.7名)の電気・ガス・熱供給・水道業(0.3名),渡島地域(0.6名)の公務(1.4名)又は釧路地域(0.3名)の医療・福祉のいずれか一つから1名ずつ合計2名を選任する。

(オ) 選任

労働者委員の主な業務(紛争解決に向けたあっせん業務,争議解決に向けた調整業務,不当労働行為事件の審査に係る調査,審問,和解に参与し,合議に先立ち参与委員として意見を陳述すること),役割(あっせん員として主に労働者側との調整作業に携わること,調停委員として主に労働者側との調整作業に携わること,労働者を代表して専門的識見をもって不当労働行為事件の審査に参与すること),求められる資質,専門性,経歴等(特定の労働組合の立場に偏らない中立的かつ公平公正な判断力を有すること,誠実に労使紛争の解決に当たることができる資質を有すること,労働組合に関する識見を有すること,労働及び経済などの問題について識見を有すること)について,道労委事務局に確認するとともに,再任候補者の経験,職責の遂行状況についても,道労委事務局に照会し,誠実かつ的確にその職務を全うしている旨の回答を得た上,各候補者の年齢,性別,所属労働組合における役職,組合役員歴に基づいて,各候補者を総合的に判断し,β候補(所属労働組合の所在地室蘭市,産業分類製造業),γ候補(同札幌市,卸売業・小売業),δ候補(同札幌市,卸売業・小売業),ε候補(同札幌市,電気・ガス・熱供給・水道業),ζ候補(同函館市,公務),θ候補(同札幌市,運輸業・郵便業)及びη候補(同札幌市,複合サービス事業)の7名を道労委第40期労働者委員に選任する。

(4)  本件任命処分後の経緯

ア 先行の訴えに対する判決の言渡し2

当庁は,平成24年12月26日,上記(2)エの第39期任命処分の取消し等を求める訴えについて,取消しの訴えを却下するとともに,それによって生じた損害の賠償を求める国家賠償請求を棄却する判決(以下「第39期判決」という。甲3)の言渡しをした。この判決は,第39期任命処分には処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったとして,それを違法なものとしつつ,原告道労連ほかの損害の発生を否定して,国家賠償請求を棄却したものである。

イ 原告らは,平成25年4月30日,本件任命処分の取消しを求めるとともに,国家賠償法1条1項の規定に基づいてそれぞれ100万円の損害賠償を求める本件各訴えを提起した。

3  争点

本件の本案前の争点は,ⅰ)本件任命処分の取消しの訴えの適否(本案前の争点1),具体的には,原告らは,本件任命処分の取消しの訴えについて原告適格を有するものであるか否か,及び,ⅱ)本件任命処分の取消しの訴えと併合提起された本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟の適否(本案前の争点2),すなわち,本件任命処分の取消しの訴えが不適法なものであるとした場合,これと併合提起された本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟は適法なものとするのが相当であるか否かである。

本件の本案の争点は,ⅰ)本件任命処分の適否(争点1),具体的には,本件任命処分は,原告らに保障された団結権を侵害するものであり,憲法14条及び28条に違反するか否か(争点1の1),本件任命処分は,原告らに保障された結社の自由及び団結権を侵害するものであり,国際労働機関の「結社の自由及び団結権の保護に関する条約(第87号)」(以下「ILO第87号条約」という。)2条及び3条に違反するか否か(争点1の2),本件任命処分は,原告らに保障された団結権を侵害するものであり,市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」という。)2条1項,22条及び26条に違反するか否か(争点1の3),本件任命処分は,各系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者から労働者委員を任命すべきであるのに,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者に独占させたものであり,労働組合法19条の12第3項及び労働組合法施行令21条1項に違反するか否か(争点1の4),本件任命処分は,原告道労連と連合北海道に対し公平の原則に則って対応すべきであるのに,これをしなかったものであり,行政における公平の原則に違反するか否か(争点1の5),本件任命処分は,連合以外の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を労働者委員から排除することを意図したものであり,処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してした違法な処分であるか否か(争点1の6),ⅱ)被告の国家賠償責任の有無(争点2),すなわち,本件任命処分が違法なものであるとした場合,処分行政庁がそのような処分をしたことについて故意又は過失があったか否か,及び,ⅲ)原告らの損害の有無(争点3)である。

4  当事者の主張の要旨

当事者の主張は,別紙4のとおりであり,その要旨は,次のとおりである。

(1)  本案前の争点

ア 本件任命処分の取消しの訴えの適否(本案前の争点1)

(被告の主張)

次のとおり,原告らは,いずれも,本件任命処分によって侵害される法律上の権利又は利益を有しないのであって,本件任命処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に該当しないから,本件任命処分の取消しの訴えの原告適格を有しない。

(ア) 原告北海道勤医労らが原告適格を有しないこと

労働者委員の任命に労働組合の推薦を要するものとした労働組合法19条の12第3項の趣旨及び目的は,労働者全体の代表としてその利益を擁護するのに適した候補者を確保し,このような候補者の中から労働者委員を任命し,当該委員の労働委員会における活動を通じて,労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進し,労働者の地位を向上させ,適正な労使関係を形成するという公益の実現を図ることにある。同項が労働組合を労働者委員の候補者の推薦主体としたのは,労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織された労働組合が候補者の推薦をすることにより,労働者委員の任命について裁量権を有する都道府県知事による恣意的な任命手続を防止し,労働者一般の意思を労働者委員の任命手続に反映させることを制度的に担保したものであり,これを超えて特定の労働組合及びその組合員の党派的な利害を労働者委員の選任過程に反映させる趣旨までがこれに含まれるものではない。労働者委員の候補者の推薦をした労働組合に,個別の労働者委員の任命に具体的に関与する権利としての推薦権が付与されているわけではなく,任命の前提となる推薦制度を通じて,一般的に労働者の代表を選任する手続に参加することができるにとどまり,それ以上に,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合が,労働者委員の選任手続上,何らかの法律上保護された権利又は利益を有するということはできない。

原告北海道勤医労らが原告X1らを労働者委員の候補者として推薦することができるとしても,その推薦に基づいて原告X1らが労働者委員に選任されることが法律上の権利又は利益として保護されているものではなく,本件任命処分により原告X1らが労働者委員に任命されなかったことによって原告北海道勤医労らの法律上の権利又は利益が侵害されたということはできない。

(イ) 原告X1らが原告適格を有しないこと

上記(ア)でみたところによれば,原告X1らは,処分行政庁に対し,労働者委員に選任することを求めることができる法的な地位にあるわけではなく,本件任命処分により原告X1らが労働者委員に任命されなかったことによって原告X1らの法律上の権利又は利益が侵害されたということはできない。

(ウ) 原告道労連が原告適格を有しないこと

原告道労連は,原告北海道勤医労らが加盟するローカルセンターにすぎず,道労委による労働組合法2条及び5条2項の適合審査を受けたものではないため,原告X1らを労働者委員の候補者として推薦していないところ,原告X1らを労働者委員の候補者として推薦した原告北海道勤医労らについてさえ,本件任命処分によって法律上の権利又は利益が侵害されたということができないことは,上記(ア)のとおりであり,まして,原告北海道勤医労らが加盟するローカルセンターにすぎない原告道労連の法律上の権利又は利益が本件任命処分によって侵害されたということができないことは明らかである。

(原告らの主張)

次のとおり,原告X1らは,適法な推薦を受けた候補者として,原告北海道勤医労らは,労働組合法上の労働者委員の候補者の推薦をした労働組合として,原告道労連は,憲法上の労働者委員の候補者の推薦をした労働組合として,いずれも,労働者委員の選任に当たり,他の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者と平等に自己の利益について手続上考慮されるべき法律上の権利又は利益を有するところ,本件任命処分によってそれが侵害されたということができるのであって,本件任命処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有し,原告適格を有する。

(ア) 原告X1らの原告適格について

労働者委員の権限と役割は,労働委員会の判定的機能に関わり,不当労働行為事件の調査,審問及び和解手続に参与し,救済命令等を発する場合に意見を述べ,また,調整的機能に関わり,調停に参加し,公益委員の任命に同意し,労働委員会の構成員として,その運営に関与し,委員の全員で行う会議等において,利益代表の立場から意見を述べるというものである。このため,任命権者による行政権限の適正な行使に信頼を置く国民は,労働組合から労働者委員の候補者として推薦を受けた者のうち,労働者委員に任命された者こそがそれらの権限や役割を担い得る適任者であるとみなし,任命されなかった者は任命された者との比較において適任者とは判断されなかったものとみなすのであって,労働者委員の候補者として推薦を受けた者は,個別具体的な利害関係があり,個別的な利益を有する。

また,我が国に複数の異なる系統の労働組合が併存する現状では,国その他の公の機関は,各労働組合に対し,その組織人員の多少にかかわらず中立的立場を保持して平等に取り扱わなければ,平等原則に違反する。都道府県知事が労働者委員の選任に当たり,推薦された候補者の一部を全く審査の対象としなかった場合や,形式的には審査の対象としながらも実質的には特定の候補者について全く審査をせず,あるいは,特定の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を労働者委員から排除することを意図して労働者委員に選任しなかった場合には,候補者との関係で中立的立場を保持して平等に取り扱わなかったものとして,平等原則に違反することになる。労働者委員の候補者は,推薦した労働組合の系統によって差別されてはならず,いずれも差別されることなく労働者委員として適任であるか否かについて平等に考慮される権利又は利益を有する。すなわち,労働者委員の候補者は,労働者委員の選任手続上,他の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者と平等に,自己の利益について考慮を受ける権利ないし利益を有する。

そうすると,原告北海道勤医労らの推薦を受けた労働者委員の候補者である原告X1らは,本件任命処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有しており,原告適格を有する。

(イ) 原告北海道勤医労らの原告適格について

労働組合は,労働者委員の候補者の推薦権を有しており,この推薦権及び推薦制度の趣旨及び目的から,自己の利益について手続上平等な考慮を受ける権利を有している。都道府県労働委員会の委員の任命制度の特徴は,利益代表である労使の委員については団体の推薦制度に,公益委員については労使の委員の同意制度に,それぞれあるところ,労働組合は,自らの推薦を受けた労働者委員が労働委員会の手続に参加することによって,救済の実をあげることができる。労働組合や労働者が不当労働行為からの救済を求めるに当たり,手続を公平かつ公正に進めるためには,自らの推薦を受けた労働者委員が手続に参加する必要がある。労働組合法が労働組合に推薦権を認めたのは,労働組合が労働者委員の適格者についての情報を豊富に保有していることに着目して,事実としての判断材料を提供することを期待したにとどまらず,それ以上のものを期待しているのであり,労働組合法は,労働組合に,労働者委員の任命にその意思を反映する利益を認めているというべきである。

労働組合法19条の12第3項の趣旨及び目的がこのようなものであることからすれば,労働者委員の推薦制度は利益代表のそれであり,労働組合法は,労働者委員の選任手続に,労働者の利益を代表する労働組合が積極的に参加することを認め,それを通じて労使自治に基づき団結権の保障を実効あらしめようとしたものであるということができる。労働組合の推薦に基づく労働者委員の選任手続は,労働者委員の主要な役割が,不当労働行為事件や労働争議の調停に際し,労働者と使用者との間や労働者内部で現実に相対立している多様な利害の調整を図ることにある点を踏まえ,調整を必要とする多様な利害ができる限り忠実に労働者委員の構成に反映することを保障するため設けられたものである。労働組合の推薦に基づく労働者委員の任命制度の下では,上記(ア)のとおり,任命権者による行政権限の適正な行使に信頼を置く国民は,労働組合から労働者委員の候補者として推薦を受けた者のうち,労働者委員に任命された者こそがそれらの権限や役割を担い得る適任者であるとみなし,任命されなかった者は任命された者との比較において適任者とは判断されなかったものとみなすところ,このような任命されたか否かによる両極端の評価は,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合についても当てはまるのであり,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合は,個別具体的な利害関係があり,個別的な利益を有する。労働者委員の候補者の推薦をした労働組合には,多数の候補者の中から「労働者を代表する者」が選任されるに当たり公正かつ平等な手続により内容的にも適正な判断を受ける権利が労働組合法上認められているということができ,その権利は,不特定多数の労働組合がそれぞれ有する利益の総体としての労働者一般の利益(公益)とは区別された,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合の個別具体的な利益に基づく権利である。

このように,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合は,労働者委員の任命にその意思を反映させる権利を有するところ,都道府県知事が労働者委員の候補者の推薦をした労働組合の間の利益調整を行わなかった結果,自らの推薦を受けた候補者が任命されなかった労働組合は,労働者委員の任命手続の過程で,その任命が公正な手続と適正な判断によってされなかったことにより,その手続上の権利,すなわち,自己の利益について手続上差別なく考慮を受ける権利が侵害されたか否かについて裁判所に審判を求めることができるはずである。したがって,労働者委員の候補者として原告X1らの推薦をした原告北海道勤医労らは,本件任命処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有しており,原告適格を有する。

(ウ) 原告道労連の原告適格について

ローカルセンターである原告道労連は,労働組合法5条に定める資格を有していないため,原告X1らを直接推薦することができず,自らに加盟する労働組合である原告北海道勤医労らを通じて原告X1らを推薦せざるを得なかった。しかし,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合は,憲法28条の団結権を実効あらしめるという労働者委員の推薦制度の趣旨及び目的並びに憲法14条の平等原則から,他の系統に属する労働組合と平等に自己の利益について手続上差別なく考慮を受ける権利,すなわち,公正かつ平等な手続により内容的にも適正な判断を受ける権利を有するところ,原告道労連の組織形態及び原告X1らの推薦の経過からすれば,原告道労連も,この権利を共有する。労働者委員の推薦制度の運用に当たり,推薦資格がない労働組合であっても,自己に属する組合ないし自己の結成する組織の構成組合が労働者委員の候補者の推薦をしている場合には,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合と平等の法的な保護を与えなければならないのであって,それが団結権の保障,その保障を実効あらしめるための労働者委員の推薦制度の趣旨及び目的並びに平等原則に適うというべきである。

原告道労連は,本件任命処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有しており,原告適格を有する。

イ 本件任命処分の取消しの訴えと併合提起された本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟の適否(本案前の争点2)

(被告の主張)

本件任命処分の取消しの訴えが不適法なものであることは,上記アの被告の主張のとおりであり,そのことからすれば,本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟も不適法なものである。

(ア) 取消訴訟と併合提起された別の請求に係る訴えが併合の要件を満たさないため不適法な併合の訴えであるとされる場合においては,受訴裁判所は,原則として,併合された請求に係る訴えを不適法として却下することなく,これを取消請求と分離した上,自ら審判するか,又は事件がその管轄に属さないときにはこれを管轄裁判所に移送する措置をとることとなるが,後者の請求の併合が,取消請求と同一の訴訟手続内で審判されることを前提とし,専ら併合審判を受けることを目的としてされたものであると認められるときは,例外的に,その関連請求に係る訴えは却下されることとなる。

(イ) 本件訴訟の実質的な目的は,専ら処分行政庁がした本件任命処分の適法性を争うことにあり,本件任命処分の取消請求こそが本件訴訟の核心である。本件任命処分に係る国家賠償請求については,原告らは,組合の団結権の侵害,社会的信用と名誉の毀損等を主張するのみであり,具体性を欠いているといわざるを得ない。本件任命処分に係る国家賠償請求は,本件任命処分の取消請求に付随するものにすぎず,行政事件訴訟法3条の規定に基づく抗告訴訟の手続内で審判されることを前提とし,併合審理を受ける限りにおいて意味があるものであるから,本件任命処分の取消しの訴えが不適法なものであることが上記アの被告の主張のとおりである以上,本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟も不適法なものである。

(原告らの主張)

仮に本件任命処分の取消しの訴えが不適法なものであるとしても,本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟は適法なものである。

(ア) 本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟が,本件任命処分の取消しの訴えと同一の訴訟手続内で審判されることを前提とし,専ら併合審理を受けることを目的としてされたものであると認めるべき特段の事情はない。

(イ) それどころか,原告らは,違法な本件任命処分により原告道労連らの推薦を受けた候補者である原告X1らが労働者委員に任命されなかったことによって損害を被ったと主張して,その損害を回復するために本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟を併合提起したものである。原告らが本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟を本件任命処分の取消しの訴えと併合提起したのは,同一の訴訟手続内で審判されることが立証等の上で便宜であり,訴訟経済にも合致するからにほかならず,専ら併合審判を受けることを目的としたものではない。本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟は,本件任命処分の取消しの訴えと併合審判を受けない場合であっても,客観的に十分に意味がある。

(2)  本案の争点

ア 本件任命処分の適否(争点1)

(原告らの主張)

処分行政庁は,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者に道労委の労働者委員を独占させ,原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を排除する意思に基づいて,本件任命処分をしたものであって,本件任命処分は,憲法に定める平等原則,ILO第87号条約などの国際条約,労働委員会制度や労働者委員の推薦制度を定める労働組合法の規定に違反し,原告らの団結権を侵害する偏頗な任命処分であり,処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してした違法なものであるから,取消しを免れない。

(ア) 労働者委員の役割とその選任基準

労働委員会は,労働組合の正当な活動を保護し,団結権を保障するとともに,労使自治により公平かつ公正な立場から労使紛争の自主的な解決を促進することによって労使関係の安定を図るため,創設されたものであり,労働者委員は,労働者を代表する者として,労働委員会が有する準司法的権限及び調整的権限の行使に関与し,労働委員会において重要な役割を果たしている。労働者委員がその役割を果たすためには,労働側当事者との間に信頼関係がなくてはならないところ,労働者側当事者と労働者委員が異なる系統に属する労働組合に所属している場合,その間に信頼関係を構築することは困難であり,労働者委員は,その役割と機能を十分に発揮することができないのであって,ある系統の労働組合を代表する者のみで労働者委員が独占されていたのでは,労働者委員がその役割と機能を十分に発揮することを期待することができない。このような理由から,労働組合法は,労働者委員が様々な系統に属する労働組合が候補者として推薦した者によって構成されることを期待しているのであり,特定の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者のみを労働者委員に選任することは,その趣旨に反する。

労働者委員は,いずれの労働組合から推薦を受けたものであっても,労働者一般の利益を擁護する立場に立ち,公平かつ中立に職務を遂行しなければならず,推薦を受けた労働組合の利益の擁護を目的としてはならないが,労働者委員の役割が労働者一般の利益の擁護にあることは,労働者委員の選任に当たり,労働組合の系統を考慮しなくてよいとか,あるいは,考慮すべきでないということを意味するものではない。労働組合は,労働者の経済的地位の向上を主たる目的として組織される団体であるが,様々な思想や立場に立つ複数の労働組合が併存するのが一般的な状態であり,労働運動内部の多様な意見を現実の労働行政の場に反映させることは,労働者一般の利益の擁護という労働行政の目的と何ら矛盾せず,むしろ,本来の意味での労働者一般の利益の擁護につながる。労働者一般の利益を擁護するという労働者委員の役割は,系統別選任と何ら矛盾するものではなく,その構成に労働組合の系統をできるだけ正確に反映させることこそが,労働者委員の在り方として望ましい。労働組合の現実を前提とし,公正かつ中立に職務を遂行する義務を全うさせるためには,労働者委員を特定の系統の労働組合の推薦を受けた候補者に独占させることは避けるべきであり,労働者委員の構成に労働組合の系統を可能な限り反映させることが,労働者委員に求められる公正性及び中立性の保持につながり,ひいては労働者一般の利益になる。

労働者委員の選任については,その基準を定めた明文の規定がなく,解釈に委ねられているところ,54号通牒は,労働者委員の選任について,「産別,総同盟,中立等系統別の組合数及び組合員数に比例させるとともに,管下の産業分野,場合によっては地域別等を十分考慮すること」とし,系統別に労働組合の利益を保護しようとしている。54号通牒は,単なる行政運営の指針を示したものではなく,労働組合法の趣旨及び目的に沿った解釈の下での事務処理を指示したものであり,旧労働省が示してきた基準は,一貫して,労働運動内部に対立があることを踏まえ,労働者を代表する者を選任するため,系統別の組合員数に比例させるなど,労働組合間の公平ないし公正の維持を求めてきた。処分行政庁も,54号通牒の基準を長年にわたり採用しており,平成元年の労働界の再編までは,特定の系統が労働者委員を独占したことはなく,ナショナルセンターの系統別に配分され,総評系から6名,同盟系から2名,中立労連系から1名が選任されていた。処分行政庁においては,系統別の公平かつ公正な配分が長年の確立した慣行として客観的かつ対外的に規範化していた。労働委員会や労働者委員の権限ないし役割等に照らせば,系統を異にする労働組合が複数併存する場合,都道府県知事は,一方の系統の労働組合の推薦を受けた候補者に労働者委員を独占させるべきではなく,系統別に労働者委員を割り当てなければならないという選任基準が導かれる。

(イ) 憲法14条及び28条違反(争点1の1)

複数の労働組合が併存する場合,その性格や運動方針の違いによってそれらを差別してはならず,労働者委員の選任に当たっては,一定の合理的基準に則って公正かつ公平にこれを行わなければならない。ところが,本件任命処分は,合理的理由なく,原告道労連及びこれに加盟する労働組合とその組合員を差別し,その団結権を侵害したのであり,憲法14条及び28条に違反する。

(ウ) ILO第87号条約2条及び3条違反(争点1の2)

ILO第87号条約2条及び3条に定められている結社の自由の原点は,複数の労働組合が併存する場合,国その他の公の機関は中立性を確保しなければならず,いずれに対しても特に有利又は不利になるようなことをしてはならないということである。本件任命処分は,明らかに結社の自由及び団結権を侵害するものであり,ILO第87号条約2条及び3条に違反する。

(エ) 自由権規約2条1項,22条及び26条違反(争点1の3)

自由権規約22条は,全ての者に対し,労働組合を結成し,これに加入する権利を認めており,2条1項及び26条は,法の下の平等を定め,政治的意見その他の意見による差別を禁止している。本件任命処分は,合理的理由なく,原告道労連及びこれに加盟する労働組合とその組合員を差別し,その団結権を侵害するものであり,自由権規約2条1項,22条及び26条に違反する。

(オ) 労働組合法19条の12第3項違反(争点1の4)

労働組合法19条の12第3項及び労働組合法施行令21条1項が労働組合に労働者委員の候補者の推薦権を付与した趣旨に照らせば,系統を異にする労働組合が複数併存する場合,各系統別の労働組合の規模といった客観的な要素に応じて労働者委員を選任すべきである。本件任命処分に当たっては,原告道労連と連合北海道という二つのローカルセンターが存在し,かつ,その組合員数は前提事実(2)アのとおりであったのであるから,7名の労働者委員のうち少なくとも1名は非連合系の有力系統である原告道労連の推薦を受けた候補者を選任しなければならなかった。ところが,処分行政庁は,原告X1らから労働者委員を選任せず,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者に労働者委員全員を独占させたのであり,本件任命処分は,労働組合法19条の12第3項及び労働組合法施行令21条1項に違反する。

(カ) 行政における公平の原則違反(争点1の5)

行政法上の行為が公平の原則に従って行われるべきであるのは当然である。本件任命処分は,労働委員会を組織する行為であるが,それぞれ労働者委員を確保したい原告道労連と連合北海道との利害調整の性格を有するのであって,処分行政庁は,この二つのローカルセンターに対し,行政における公平の原則に則って対応する義務,すなわち,その組合員数に比例させ,非連合の有力系統である原告道労連らの推薦を受けた原告X1らから少なくとも1名を労働者委員に選任する義務を負っていたのであり,この義務に違反してされた本件任命処分は,行政における公平の原則に違反する。

(キ) 裁量権の範囲の逸脱又はその濫用(争点1の6)

都道府県知事は,地方労働委員会の労働者委員の任命について裁量権を付与されているところ,本件任命処分は,次のaのとおり,処分行政庁が,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者に労働者委員を独占させ,連合以外の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を排除するという違法不当な動機に基づいてした差別的処分であり(目的動機違反,平等原則違反),また,次のbのとおり,処分行政庁が,重視すべき考慮要素を不当に軽視するとともに,過大に評価すべきでない考慮要素を過大に評価し,その判断の過程を誤ってした処分であって,処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はそれを濫用してしたものであるから,違法である。

a 本件任命処分が違法不当な動機に基づくものであること

(a) 処分行政庁が労働者委員の選任をするに当たり,特定の労働組合の推薦を受けた候補者を当初から審査の対象から除外したり,あるいは,これを除外したのと同様の取扱いをした場合,その裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たる。このような場合,労働者委員の推薦制度を定めた労働組合法の目的に反し,平等原則に違反する違法不当な動機に基づく行為といわなければならないからである。本件任命処分は,処分行政庁が,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者に労働者委員を独占させ,連合以外の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を排除するという違法不当な動機に基づいてした差別的処分であり,処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はそれを濫用してしたものである。

(b) 本件任命処分は,合理的理由もなく,手続的透明性も示すことなく,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者のみを労働者委員に選任しているのであるから,他の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を排除することを意図して労働者委員の選任がされているという推認が十二分に働くというべきであり,処分行政庁が,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者に労働者委員を独占させ,連合以外の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を排除するという違法不当な動機に基づいてした差別的処分であると認めることができる。

本件任命処分において,処分行政庁に差別意思があったことは明らかである。道労委の労働者委員9名(第38期以降は7名)の選任における連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者による独占は,連合北海道の発足以来12期24年連続に及んでいる。労働委員会制度の導入後,平成元年に我が国の労働組合が再編されるまでは,ナショナルセンターの系統別に,最小組織人員の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者からも,少なくとも1名の労働者委員が選任され,「6:2:1」の割合で労働者委員の任命がされていたことと比較すると,最大組織人員の系統からとはいえ,これだけ長期間連続して特定の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者のみが労働者委員に選任されるという極めて異常な結果は,偶然には生じ得ない。労働者委員の選任が公平かつ中立に行われていれば,これまでの各系統の組織人員等を比較しても,特定の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者だけが労働者委員に選任され,他の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者は全く選任されないという事態が12期24年も連続するということは,確率上もほとんどあり得ない。第37期以降,原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者から1名も労働者委員に選任されない確率は,わずか0.01%であり,特別な意図が働いていたとしか考えられない。このような12期24年連続の連合北海道独占の異常性だけからも,本件任命処分における処分行政庁の連合北海道独占,原告道労連排除の差別意思が優に推認される。

また,次のbのとおり,被告が主張する選考過程からすれば,道労委第40期労働者委員の選任においては,原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者の中から1名は必ず労働者委員が選任されるはずであるのに,処分行政庁は,あえて原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を外し,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を選任しており,この事実のみからも,処分行政庁に,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者に労働者委員を独占させ,連合以外の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を排除するという差別意図があることは明らかである。

b 本件任命処分が判断過程を誤ってしたものであること

(a) 行政庁の判断過程に係る審査方法として,行政庁がした具体的な価値考量の場面において,考慮すべき要素を正しく考量したか,考慮すべきでない事項や過大に評価すべきでない事項を不適切に評価していないかといった角度から,より密度の高い司法審査がされることがある。また,多数の者のうちから少数特定の者を,具体的個別的事実関係に基づいて選択して免許の諾否を決するような場合には,行政庁は,事実の認定について行政庁の独断を疑うことが客観的にもっともと認められるような不公正な手続をとってはならず,行政庁は,内部的な審査基準を設定し,場合によりこの基準の適用上必要な事項を示す義務がある。

(b) 労働組合法19条の12第3項に定める労働者委員の推薦制度の目的と都道府県知事の判断過程における要考慮事項をみるに,54号通牒の性格について,被告は,内部指針にとどまり,都道府県知事の裁量権の行使がこれに拘束されるものではないと主張する。しかし,それが,法令としての性格を有するか,単なる内部指針にとどまるかは措くとしても,労働者委員の推薦制度の目的を踏まえた,都道府県知事の労働者委員の任命に際しての要考慮事項とその軽重,価値序列を示すものであることは否定することができず,殊更にこれを無視した不公正な手続を行うことは許されない。

そして,上記(ア)の労働者委員の推薦制度の趣旨等と併せて,54号通牒が「委員の選考に当たっては,産別,総同盟,中立等系統別の組合数及び組合員数に比例させる」という基準を第一に掲げており,次いで「産業分野」を十分考慮することを要請し,「場合によっては」という条件付きで「地域別等」を考慮することを要請していることに鑑みれば,労働組合法19条の12第3項は,系統別の組合数及び組合員数に比例させることを,産業分野や地域別等に比して,より重要視して判断することを要請していることが明らかである。まして,再任という要素は,これらの要素に優先すべきものとはされておらず,これらに劣位するのであって,都道府県知事は,労働者委員を任命するに際し,系統別の組合数や組合員数を最重要視して労働者委員を任命しなければならない。

(c) 次のとおり,本件任命処分は,処分行政庁が連合北海道独占,非連合・原告道労連排除を意図してしたものであり,本件任命処分は,処分行政庁の判断過程に,その裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある。

ⅰ 処分行政庁がθ候補を選任したことは違法である。ここでは,θ候補と原告X3の2名が候補となるところ,処分行政庁は,再任であるという理由からθ候補を選任している。しかし,労働者委員の選考に当たっては,労働組合の系統別も主な要素として考慮されるはずである。まして,労働者委員の推薦制度の趣旨等と併せて,54号通牒が「系統別の組合数及び組合員数に比例させる」という基準を第一に掲げ,次いで産業分野別を,「場合によっては」という条件付きで地域別等を考慮することを要請していることに鑑みれば,労働組合法19条の12第3項は,「系統別の組合数及び組合員数に比例させる」ことを産業分野別や地域別等に比して重要視して判断することを要請していることが明らかであり,まず系統別を考慮し,この段階で,連合北海道系から既にγ候補とδ候補の2名を選任しているのに対して,原告道労連系からは1名も選任していないのであるから,原告道労連系の原告X3がθ候補に優先して選任されるべきであった。ところが,処分行政庁は,再任であるという副次的な考慮要素を重視してθ候補を選任したのであって,本件任命処分には,処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある。

ⅱ 仮にθ候補を選任したことは違法でないものとしても,処分行政庁がη候補を選任したことは違法である。ここでは,原告X1,η候補及びC候補,原告X4の4名が候補となるところ,処分行政庁は,原告X4と原告X1はη候補よりも経験において劣るとし,η候補を選任している。しかし,労働者委員の選考に当たっては,労働組合の系統別も主な要素として考慮されるはずである。まして,労働者委員の推薦制度の趣旨等と併せて,54号通牒が「系統別の組合数及び組合員数に比例させる」という基準を第一に掲げ,次いで産業分野別を,「場合によっては」という条件付きで地域別等を考慮することを要請していることに鑑みれば,労働組合法19条の12第3項は,「系統別の組合数及び組合員数に比例させる」ことを産業分野別や地域別等に比して重要視して判断することを要請していることが明らかであり,まず系統別を考慮し,この段階で,連合北海道系から既にγ候補とδ候補,θ候補の3名を選任しているのに対して,原告道労連系からは1名も選任していないのであるから,原告道労連系の原告X1ないし原告X4が連合北海道系のη候補に優先して選任されるべきであった。

仮に労働組合の系統別を重視しないものとしても,産業分野別の選任割合について,原告X1が上回っている。道労委で取り扱われている事件についても,原告X1の医療・福祉分野は,η候補の複合サービス事業分野に比べて,圧倒的に上回っている。産業分野別を考慮した場合,当然に原告X1が選任されるべきであり,この場面において,突然経験を持ち出し,産業分野別を考慮することなく,η候補を選任したことは,恣意的である。また,仮に産業分野別よりも経験を重視するものとしても,η候補が原告X1よりも経験において優れているということはできない。原告X1は,25年にもわたる単位組合の役員歴を有しており,上部団体の役員の経験も豊富であり,経験においてη候補よりも劣るということは全くない。処分行政庁は,原告X1は高齢にすぎてふさわしくないとするが,通常は,年齢を重ねるにつれて経験も増していくのであって,一方で,経験が豊富でなければならないとした上,他方で,年齢を重ねているとふさわしくないとするのは,矛盾している。処分行政庁は,原告X4は若すぎてふさわしくないとするが,労働委員会を活用する者の中には若い世代の者もおり,時代背景が異なる中で職業生活を送ってきた年長者から言われるよりも,感覚や生活実感が近く,身上を含めて共感することができる世代の委員から話をされる方が望ましい場合もあるのであって,年齢が若いから説得力が低いというのは極めて一面的かつ短絡的な議論である。選任基準として上限を設けることは許されるとしても,その範囲内の候補者について年齢を理由に排除することは許されない。そもそも,一方で,67歳の原告X1を年齢を理由に排除し,他方で,37歳の原告X4をやはり年齢を理由に排除することは,原告道労連系の候補者を排除するための極めて恣意的な議論である。

処分行政庁は,系統別という主な考慮要素を重視することなく,経験や年齢という副次的な考慮要素を考慮して,η候補を選任したのであって,本件任命処分には,処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある。

ⅲ 仮にη候補を選任したことは違法でないものとしても,処分行政庁がε候補を,地域が上川,産業分野が電気・ガス・熱供給・水道業に該当する者として選任したことは違法である。ここでは,本来,β候補及びE候補,ζ候補,原告X2の4名のみが候補となり,β候補とζ候補を選任したとしても,E候補はβ候補と系統,地域及び産業分野がいずれも重なっているので,残り1名の枠には,原告X2が必ず選任されることとなるはずであった。ところが,処分行政庁は,候補者名簿上の所属労働組合の所在地が札幌市であるε候補を,地域が上川,産業分野が電気・ガス・熱供給・水道業に該当する者として選任し,原告X2を選任しなかった。処分行政庁は,ε候補が旭川市に住所を有し,上川地域の協議体組織の執行委員を兼任していること,それまでの経歴によれば,その主たる活動拠点は上川にあると認められることを根拠として,ε候補の地域区分を上川としているが,労働者委員の選任に当たり地域別が考慮要素とされるのは,その地域の労働組合を代表する者であれば,当該地域の労働実態に詳しいと考えられるからである。偶々提出された履歴書に上川地域に関連することが記載されていたからといって,上川地域の労働組合を代表するものであるということはできず,処分行政庁がε候補の地域区分を上川としたことは違法である。労働者委員に選任される当時の所属とは関係がない,遠い昔に所属していたことをもって,その地域の代表たり得るものではないし,加えて,ε候補は,産業分野が電気・ガス・熱供給・水道業である北海道電力関連産業労働組合に所属しているからこそ,当該分野の候補者とされているのであり,北海道電力とは関係がない連合北海道の上川地域協議会に所属していることをもって,産業分野が電気・ガス・熱供給・水道業の上川地域の代表とすることは許されない。ここで留意すべきであるのは,労働者委員の選考過程のどのような局面でε候補が上川地域の候補者とされたかである。被告が主張する選考過程によれば,ε候補が上川地域の候補者とされたのは,労働者委員を6名まで選任した段階でのことであるところ,この段階では,残り1名の枠に,原告X2が必ず選任されることとなるはずであったことは,上記のとおりであり,このような局面において,ε候補を上川地域の候補者とすることにより,ε候補が選任されているのである。ε候補のほかに,所属労働組合の所在地以外の場所が地域区分とされた候補者は1名もいないのであって,あえてこのような局面で所属労働組合の所在地が札幌市であるε候補を上川地域の候補者として取り扱うこと自体が,連合北海道独占という結論に向けた,結論先にありきの恣意的な操作である。処分行政庁は,道労委第38期労働者委員の選考の際には,ε候補を石狩地域の候補者としていたのであり,第40期労働者委員の選考に際しては上川地域の候補者としたことは不自然である。

仮にε候補を上川地域の候補者としたことは違法でないものとしても,原告X2を選任せず,ε候補を選任したことは,違法である。ε候補と原告X2のいずれが労働者委員に選任されるべきかを検討すると,労働者委員の推薦制度の趣旨等と併せて,54号通牒が「系統別の組合数及び組合員数に比例させる」という基準を第一に掲げ,次いで産業分野別を,「場合によっては」という条件付きで地域別等を考慮することを要請していることに鑑みれば,労働組合法19条の12第3項は,「系統別の組合数及び組合員数に比例させる」ことを産業分野別や地域別等に比して重要視して判断することを要請していることが明らかであり,既に6名が連合北海道系で独占されている状況下で,連合北海道系のε候補か,原告道労連系の原告X2かという選択をすることになれば,まず系統別を考慮し,原告X2が選任されるべきである。また,仮に地域別及び産業別だけを考慮するものとしても,実際に候補者の推薦があった地域別及び産業分野別では,ε候補と原告X2とは全くの互角であるし,全ての地域別及び産業別であれば,原告X2の方がε候補を上回っているのであるから,原告X2が選任されるべきである。本来であれば,地域別及び産業分野別の選任割合が少ないときであっても,まず系統別を考慮して,原告X2が選任されるべきなのである。まして,本件の場合,実際に候補者の推薦があった地域別及び産業分野別では互角であるのみならず,全ての地域別及び産業分野別では原告X2が上回っているのである。

ところが,処分行政庁は,実質的には再任であるという理由のみをもって,ε候補を選任し,原告X2を選任しなかったのであって,本件任命処分には,明らかな処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある。

(d) 平成23年6月30日現在の加盟上級団体別の組合員数により労働者委員の選任割合を加盟上級団体別に求めると,連合北海道は6.5名,原告道労連は0.5名となる。54号通牒が系統別の労働組合数及び労働組合員数に比例させることを定めている趣旨からすれば,特定の系統に属する労働組合からのみ労働者委員を選任することが好ましくないことは明らかであり,処分行政庁は,これまで相当期間継続している連合系候補による労働者委員の独占状態を是正するため,連合北海道以外の系統から唯一候補者の推薦をしていた原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者から最低1名を選任することが求められていたものである。本件任命処分が処分行政庁の裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたものであることは明らかである。

(被告の主張)

処分行政庁が,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者に道労委の労働者委員を独占させる意図や,原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を排除する意図をもって,本件任命処分をした事実はない。処分行政庁は,労働委員会制度を規定した法令及び54号通牒の趣旨,労働界の現状,労働委員会が果たすべき役割を踏まえて,推薦のあった候補者から,様々な要素を総合的に判断し,北海道の労働者の代表として円滑で的確な職責の遂行が期待することができる者を適任者として選任したものである。具体的には,処分行政庁は,法令等の趣旨を踏まえて,加盟上級団体の労働組合数,地域別の労働組合員数,産業分野別の労働組合のそれぞれの状況,労働者委員の主な業務を勘案するとともに,16名の候補者全員について,年齢,性別,所属労働組合の現状,労働組合における役職,組合役員歴などを考慮し,また,再任候補者については,紛争の解決努力などの職責の遂行状況の観点をも加味して,総合的な判断を行い,7名の者を第40期労働者委員に任命した。

(ア) 労働者委員の役割とその選任基準について

労働組合法が労働委員会を使用者委員,労働者委員及び公益委員の三者構成とした趣旨は,労働委員会の取り扱う労使紛争において,それぞれの委員が専門的識見を出し合って,公益及び労使の利害と公益とを適切に調和させ,労使の委員が労使の当事者との間を取り持って,労使紛争の自主的解決の促進を図ろうとしたためである。労働組合法が,労働者委員の候補者を労働組合の推薦によることとした趣旨及び目的は,労働者全体の代表としてその利益を擁護するのに適した候補者を確保し,そのような候補者の中から労働者委員を任命し,当該委員の労働委員会における活動を通じて,労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進し,労働者の地位を向上させ,適正な労使関係を形成するという公益の実現を図ることにあり,労働組合を推薦主体としたのは,労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織された労働組合が候補者の推薦をすることにより,労働者委員の任命について裁量権を有する都道府県知事による恣意的な任命手続を防止し,労働者一般の意思を労働者委員の任命手続に反映させることを制度的に担保したものであって,これを超えて特定の労働組合及びその組合員の党派的な利害を労働者委員の選任過程に反映させる趣旨までがこれに含まれるものではない。そして,労働者委員は,一旦任命されると,労働者を代表する者として,自己の所属する系統別労働組合の利益の枠を超えて,等しく申立人たる労働組合又は労働者の主張及び利害等を明らかにして,客観的に妥当な解決を図る職責を負うものであり,特定の労働組合の利益のために奉仕することが要請されているものではない。

54号通牒は,都道府県知事が裁量権を行使する際に考慮すべき要素について内部的指針を示したものにとどまるものであるから,労働組合の系統が一つの考慮要素となり得るとしても,54号通牒によって知事の裁量権の行使が拘束されるものではなく,労働者委員の任命結果が系統別の組合数及び組合員数に比例したものでなかったとしても,そのことをもって直ちに任命処分が違法となるものではない。

(イ) 憲法14条及び28条違反(争点1の1)について

労働者委員の推薦制度の趣旨からすると,原告らは,その推薦を受けた候補者が労働者委員に任命されることについて,法律上の権利又は利益を有するものではない。また,処分行政庁は,労働委員会制度を規定した法令及び54号通牒の趣旨等を踏まえて,推薦のあった候補者から,様々な要素を総合的に判断し,北海道の労働者の代表として円滑で的確な職責の遂行が期待することができる者を適任者として選任したものであり,原告X1らが労働者委員に選任されなかったとしても,そのことをもって原告X1らの権利又は利益が侵害されたということはできない。本件任命処分は,原告道労連及びこれに加盟する労働組合とその組合員を差別し,その団結権を侵害するものではなく,憲法14条及び28条に違反するものではない。

(ウ) ILO第87号条約2条及び3条違反(争点1の2)について

本件任命処分が,原告らを差別し,その団結権ないし結社の自由を侵害するものではないことは,上記(イ)のとおりであり,本件任命処分は,ILO第87号条約に違反するものではない。

(エ) 自由権規約2条1項,22条及び26条違反(争点1の3)について

本件任命処分が,原告らを差別し,その団結を侵害するものではないことは,上記(イ)のとおりであり,本件任命処分は,自由権規約に違反するものではない。

(オ) 労働組合法19条の12第3項違反(争点1の4)について

労働組合法が労働組合を労働者委員の候補者の推薦主体としたのは,労働者委員の任命について裁量権を有する都道府県知事による恣意的な任命手続を防止し,労働者一般の意思を労働者委員の任命手続に反映させることを制度的に担保したものであり,これを超えて特定の労働組合及びその組合員の党派的な利害を労働者委員の選任過程に反映させる趣旨までがこれに含まれるものではないことは,上記(ア)のとおりであり,本件任命処分は,労働組合法19条の12第3項及び労働組合法施行令21条1項に違反するものではない。

(カ) 行政における公平の原則違反(争点1の5)について

上記(ア)によれば,労働組合法が定める労働者委員の推薦制度の趣旨は,候補者の推薦をした特定の労働組合の意思を反映させることではないのであって,労働者委員の任命を通じて原告道労連と連合北海道の利害を調整すべきものではなく,その必要性もないことは明白である。

仮に,原告らが主張するように,処分行政庁に,各系統別の労働組合の組合員数に比例させて労働者委員を任命する義務があるものとしても,本件においては,原告道労連の系統に属する労働組合に所属する組合員数の北海道の労働組合の組合員数に対する比率は約6.0%にすぎないから,労働者委員の選任数が7名であることを踏まえると,必ずしも原告X1らを労働者委員に任命しなければならない状況にあるとまではいい難い。さらに,仮に原告道労連の系統に属する労働組合に所属する組合員数の比率がその系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を労働者委員に任命するに値するほどのものであるとしても,そのような事情の存在のみをもって,原告X1らを他の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者に優先させて機械的に労働者委員に任命しなければならない義務が処分行政庁に生ずると解することは,労働者委員の任命に当たっての公平及び公正が著しく損なわれることとなり,かえって労働組合法の趣旨から逸脱する。

(キ) 裁量権の範囲の逸脱又はその濫用(争点1の6)について

都道府県知事が労働者委員を任命する場合には,労働組合の推薦がない者を任命することができないという制約を受け,労働者委員の資格について一定の欠格事由や罷免事由が労働組合法に定められているほかは,都道府県知事の任命権の行使を制約する規定は存在しない。労働者委員は,労働者の立場を代表し,労働者一般の利益を擁護すべき義務を負うものであり,その適格性の判断は,候補者についての総合的な検討を要し,あらかじめ定型的な選任基準を設定するのは困難であることから,労働組合法は,労働組合の推薦を受けた候補者の中から誰を選任するかについて,都道府県知事の広範な裁量に委ねているものである。したがって,都道府県知事がする労働者委員の選任は,上記の制約を受けるほかは,いわゆる自由裁量行為として行われるべきものであって,都道府県知事が労働者委員を任命するに当たり,労働組合法が規定する労働組合の推薦を受けた候補者を当初から審査の対象から除外したり,あるいは,これを除外したのと同様の取扱いをするなど,労働者委員の推薦制度を設けた趣旨を没却するような特別な事情が認められない限りは,裁量権の範囲内の行為であり,違法の問題が生ずる余地はない。本件任命処分は,処分行政庁が16名の候補者全員を審査の対象として検討した結果,原告X1らが労働者委員に任命されなかったものであり,原告X1らを当初から審査の対象から除外したり,あるいは,これを除外したのと同様の取扱いをした事実は一切存在しないのであって,本件任命処分が違法不当な動機に基づくものであるとか,本件任命処分が判断過程を誤ってしたものであるということもできないことは,次のとおりであるから,本件任命処分に違法の問題が生ずる余地はない。

a 本件任命処分が違法不当な動機に基づくものではないこと

本件任命処分が平等原則に違反し,違法不当な動機に基づくものであるとする原告らの主張が失当であることは,次のとおりである。

(a) 原告らは,本件任命処分は他の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を排除することを意図して労働者委員の選任がされているという推認が十二分に働くというべきであり,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者に労働者委員を独占させ,連合以外の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を排除するという違法不当な動機に基づいてした差別的処分であると認めることができると主張する。

しかし,処分行政庁は,本件任命処分に当たり,労働組合の系統についても,当然に考慮しており,単純に系統別の比例配分により労働者委員を割り振ることを最優先とするような選考を行わなかったにすぎない。労働者委員は,一旦任命されると,特定の集団や党派の利害に偏って事件を処理することは許されないのであり,労働者を代表する者として職務を行うことが求められるところ,本件任命処分においては,処分行政庁が,系統別のみならず,その他の要素も総合的に考慮して判断した結果,原告X1らが労働者委員に選任されなかったものである。

(b) 原告らは,12期24年連続の連合北海道独占という結果の異常性だけからも,本件任命処分における処分行政庁の連合北海道独占,原告道労連排除の差別意思が優に推認されると主張する。

しかし,次のbのとおり,処分行政庁は,本件任命処分に当たり,労働委員会制度を規定した法令及び54号通牒の趣旨,労働界の現状,労働委員会が果たすべき役割を踏まえて,推薦のあった候補者から,様々な要素を総合的に判断し,北海道の労働者の代表として円滑で的確な職責の遂行が期待することができる者を適任者として選任したものであって,候補者全員について公平かつ平等に審査を行っているから,この判断の過程において,原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を当初から審査の対象から除外したり,除外したのと同様の取扱いをするといった排除意図が存在したはずがない。道労委の労働者委員を12期24年連続して連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者が占めているのは,任命処分が各任期ごとに考慮要素を総合的に勘案して行われた結果にすぎない。

原告らは,第37期以降,原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者から1名も労働者委員に任命されない確率は,わずか0.01%であり,特別な意図が働き続けていたとしか考えられないと主張するが,労働者委員の選任は,あくまでも各任期ごとに,考慮要素を総合的に勘案して行うものであるし,労働者委員の任命において労働組合の系統を考慮することは,選考に当たり考慮する要素の一つでしかなく,異なる系統の労働組合の組合員数が拮抗しているというような状況において,一方の系統に属する候補者が任命されていないという事態が長年にわたり継続しているというのであれば格別,北海道における加盟上級団体の系統別の組合員数の比率の推移や労働委員会の委員の任命があくまでも各任期ごとに行われることを考慮すると,任命処分が殊更に原告道労連の系統に属する候補者を排除する意思をもって行われたものでないことは明らかである。

b 本件任命処分が判断過程を誤ってしたものではないこと

次のとおり,処分行政庁は,道労委第40期労働者委員の任命に当たり,候補者全員を審査の対象とし,限られた定数の中で,様々な要素を総合的に勘案して,労働者委員を選任したものであり,その方法及び過程には何ら不合理な点はなく,そこに,その裁量権の範囲の逸脱又はその濫用が存在しないことは明らかである。本件任命処分が,処分行政庁がその判断の過程を誤ってした違法なものであるとする原告らの主張は失当である。

(a) 処分行政庁は,本件任命処分に当たり,労働委員会制度を規定した法令及び54号通牒の趣旨,労働界の現状,労働委員会が果たすべき役割を踏まえて,推薦のあった候補者から,様々な要素を総合的に判断し,北海道の労働者の代表として円滑で的確な職責の遂行が期待することができる者を適任者として選考したものである。具体的には,処分行政庁は,法令等の趣旨を踏まえて,系統別の労働組合数,地域別の労働組合員数,産業分野別の労働組合のそれぞれの状況,労働者委員の主な業務などを勘案するとともに,16名の候補者全員について,年齢,性別,所属労働組合の現状,労働組合における役職,組合役員歴などを考慮し,また,再任候補者については,委員としての経験,紛争の解決努力などの職責の遂行状況の観点をも加味して,総合的な判断を行い,7人の者を道労委第40期労働者委員に任命した。

(b) 処分行政庁は,道労委第40期労働者委員の選考に当たり,まず,系統別の組合員数の割合(前提事実(3)エ(エ)a)をもとに,実際に推薦のあった候補者から選任した場合の系統別の組合員数による選任の組合せを「連合北海道6名,原告道労連1名」又は「連合北海道7名,原告道労連0名」と想定し(同d),また,地域別の組合員数の割合(同b)及び産業分野別の組合員数の割合(同c)をもとに,実際に推薦のあった候補者から選任した場合の地域別及び産業分野別の組合員数による選任の組合せをケース1(石狩振興局から4名,その他の振興局から3名を選出する場合)又はケース2(石狩振興局から5名,その他の振興局から2名を選出する場合)と想定した(同d)。その上で,処分行政庁は,これらの系統別,地域別,産業分野別の考慮要素に加えて,推薦書及び履歴書に記載されている候補者の年齢,所属労働組合における地位,所属労働組合の構成員数,候補者の組合役員歴等をも考慮し,また,再任候補者である道労委第39期労働者委員については,その任期中に関与した事件の種類及び数並びに活動状況を道労委事務局に照会した結果をも踏まえて,実際に推薦のあった候補者16名から選任した場合の選任の組合せをケース1によることとし,労働者委員として円滑で的確な職責の遂行を期待することができる適任者として7名を選出した(前提事実(3)エ(オ))。

(c) 処分行政庁が行った考慮要素と各候補者の審査の内容は,具体的には,次のとおりである。

ⅰ 地域別が石狩,産業分野別が卸売業・小売業に該当する者としては,γ候補及びδ候補の2名が選任された。

ⅱ 地域別が石狩,産業分野別が運輸業・郵便業に該当する者としては,θ候補が選任された。この区分に該当する候補者としては,他にη候補,原告X3及び原告X4,C候補が存在したところ,θ候補は,その産業分野の選任割合が1名である上,再任候補者であり,多数の事件に関わり,誠実かつ的確にその職務を全うしているという道労委事務局の意見があったため,円滑で的確な職責の遂行をより期待することができるという観点から,θ候補が労働者委員に選任された。原告X3及び原告X4は,原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けたものであり,いずれも組合役員歴が豊富であったが,これらのことを考慮しても,θ候補は,多数の事件に関わり,誠実かつ的確にその職務を行った実績を有しており,円滑で的確な職責の遂行をより期待することができることから,原告X3及び原告X4を選任するには至らなかった。θ候補は,組合役員歴が豊富であり,道労委第39期労働者委員として多数の事件に関わり,誠実かつ的確に職務を行っていることから,円滑で的確な職責の遂行がより期待することができたものである。

ⅲ 地域別が石狩,産業分野別が医療・福祉,複合サービス事業又は建設業のいずれかに該当する者としては,η候補が選任された。この区分に該当する候補者としては,他に原告X1及び原告X4,C候補が存在したところ,医療・福祉,複合サービス事業,建設業の選任割合は,いずれも1名には至らず,原告X1及び原告X4は,いずれも組合役員として一定の経験を有しているものの,η候補の経歴と比較した場合,経験に乏しいことから,選任するには至らなかった。原告X4は,候補者の中で唯一の30歳代であり,他と異なる世代としての職務遂行を期待することができる一方,対立する労使に対するあっせん業務などにおいては,ある程度年齢を重ねた者の方が,より反発が少なく,説得力を増すことができるという側面もあり,η候補との比較において,連合北海道と原告道労連の系統別の選任割合が6.5名対0.5名となっていることを踏まえても,あえて原告X4を選任するには至らなかった。原告X1は,満67歳と候補者の中で最も高齢であり,就任可能期間が最大でも4年間しかなく,労働者委員の業務においては様々な経験,ノウハウを蓄積することが将来的な業務の円滑な遂行の重要な基盤となることから,η候補が満59歳であること,連合北海道と原告道労連の系統別の選任割合が6.5名対0.5名となっていることを踏まえても,原告X1を選任するには至らなかった。η候補は,組合役員歴が豊富であり,労働者委員の役割を果たすことができる実績を有していると評価されたものである。

ⅳ 地域別が石狩以外の地域に該当する者としては,地域別が胆振,産業分野別が製造業に該当する者としてβ候補が,地域別が上川,産業分野別が電気・ガス・熱供給・水道業に該当する者としてε候補が,地域別が渡島,産業分野別が公務に該当する者としてζ候補が,それぞれ選任された。この区分に該当する候補者としては,他に原告X2,E候補が存在したところ,原告X2は,原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けたものであり,組合役員歴が豊富であったが,β候補及びε候補と同様,選任割合が地域別又は産業分野別のいずれの区分でも1.0名に達していない上,地域別と産業分野別の比率を合算した数値をもって他の候補者と比較するなど総合して検討しても,有利な点が見出せず,β候補とε候補がいずれも再任候補者であり,労働者委員として多数の事件に関わり,誠実かつ的確に職務を行い,円滑で的確な職責の遂行がより期待することができることを勘案すると,原告X2を選任すべき積極的理由はなかったことから,原告X2を選任するには至らなかった。β候補,ε候補及びζ候補は,いずれも,組合役員歴が豊富であり,労働者委員の役割を果たすことができる実績を有していると評価され,道労委第39期労働者委員として多数の事件に関わり,誠実かつ的確に職務を行っていることから,円滑で的確な職責の遂行がより期待することができたものである。

ε候補の所属労働組合の所在地は札幌市であるが,ε候補が旭川市に住所を有し,上川地域の協議体組織の執行委員を兼任していること,それまでの経歴によれば,ε候補の主たる活動拠点は上川にあると認められることから,処分行政庁は,ε候補の地域区分を上川として整理した。ε候補は,従前から一貫して旭川市に居住しながら上川地域で労働組合の役員としての活動を行っており,上川地域の労働実態に精通していることは明らかである。ε候補は,第38期の選考における地域区分はともかく,第39期における選考からは既に上川地域の候補者とされている。

(d) 処分行政庁は,道労委第40期労働者委員の選考に当たり,第1段階として,実際に推薦のあった候補者から労働者委員を選任した場合の組合せを,数値化が可能な系統別,地域別及び産業分野別のそれぞれの組合員数の割合をもとにして想定し,第2段階として,各候補者が54号通牒で示されている「申立人の申立内容等を良く聴取し,判断して,関係者を説得し得る適格者」に該当するか否かについて,候補者の年齢,組合役員歴等を比較検討し,再任候補者にあっては,道労委第39期労働者委員として任期中に関与した事件の種類,数,活動状況に関する道労委からの回答内容をも勘案の要素に加えて,労働者委員の適格性の観点から,円滑で的確な職責の遂行を期待することができるか否かを検討したものである。この選考方法は,候補者の系統別,地域別及び産業分野別の各要素を踏まえながら,労働者委員の適格性の観点から,各候補者の年齢,地位,経歴等の考慮要素を総合的に勘案して行われるものであり,系統別,地域別及び産業分野別のとその他の考慮要素との間に軽重や優劣を持たせているものではなく,あくまでも,労働者委員の選任に至るまでの過程で先後が生じたにすぎない。労働者委員の任命処分は,全ての考慮要素を総合的に勘案して行われることが前提となっている。処分行政庁は,多岐にわたる考慮要素のうち,どの要素を重視し,又は決め手とするかについても裁量があるというべきであり,原告らの主張は,単に,本件訴訟において原告らに有利に働く考慮要素を強調し,労働者委員の選考内容を批判しているにすぎない。道労委第40期労働者委員の選考に当たり,処分行政庁が原告道労連の系統に属する候補者を当初から審査の対象から除外し,又は除外したのと同様の取扱いをした事実はないから,本件任命処分の判断過程に処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用は存在しない。

イ 被告の国家賠償責任の有無(争点2)

(原告らの主張)

(ア) 処分行政庁の故意

処分行政庁は,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者に道労委の労働者委員を独占させ,原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を排除するという差別的意思に基づいて,本件任命処分をしたものであるところ,このような処分行政庁による差別的取扱いは,平等原則に違反し,原告らの団結権を侵害する行為であって,その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してした違法なものであるから,被告は,国家賠償法1条1項の規定により,それによって原告らに生じた損害を賠償する義務を負う。

(イ) 処分行政庁の過失

仮に,処分行政庁が,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者に道労委の労働者委員を独占させ,原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を排除するという差別的意思に基づいて,本件任命処分をしたものであると認めることができないとしても,処分行政庁が,その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用して本件任命処分をしたことについては,少なくとも過失があったというべきであるから,被告は,国家賠償法1条1項の規定により,それによって原告らに生じた損害を賠償する義務を負う。

(被告の主張)

(ア) 処分行政庁の故意について

処分行政庁が,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者に道労委の労働者委員を独占させ,原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を排除するという差別的意思に基づいて,本件任命処分をした事実はなく,処分行政庁に国家賠償法1条1項の故意がなかったことは明らかである。

(イ) 処分行政庁の過失について

仮に,処分行政庁が,その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用して本件任命処分をしたものであるとしても,処分行政庁は,本件任命処分を行うについて,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしていたものであるから,国家賠償法1条1項の過失が認められる余地はない。

ウ 原告らの損害の有無(争点3)

(原告らの主張)

(ア) 原告道労連らは,本件任命処分により,原告X1らが労働者委員に任命されず,労働組合法上保障された手続的利益を侵害されたことによって,その組織が弱体化するなどし,憲法上保障された団結権を侵害されたほか,その社会的信用と名誉を毀損された。このことによって原告道労連らが被った損害を金銭に評価すれば,それぞれ100万円を下るものではない。

(イ) 原告X1らは,本件任命処分により労働者委員に任命されなかったことによって,本来行うことができるはずの労働者委員としての活動の機会を奪われたほか,その社会的信用と名誉を毀損された。このことによって原告X1らが被った精神的苦痛に対する慰謝料は,それぞれ100万円を下るものではない。

(被告の主張)

(ア) 被告に国家賠償法1条1項の規定に基づく損害賠償責任が認められるためには,本件任命処分によって,原告らの権利が侵害され,原告らに損害が生じたことが必要である。そして,その被侵害利益は,厳密な意味で権利ではなくとも,法律上保護される利益であれば足りるが,事実上の利益では足りないものと解される。

(イ) 労働組合法が定める労働者委員の推薦制度は,個々の労働組合や候補者の私的な利益の保護を目的とするものではなく,労働者一般の利益という公益の実現を目的とするものであるから,労働者委員の候補者の推薦について労働組合や候補者が有する利益は,事実上の利益にすぎず,法律上保護される利益ではないのであり,ある労働組合の推薦を受けた候補者が労働者委員に任命されなかったことによって,当該労働組合や当該候補者に何らかの不利益が生じたとしても,それは事実上の不利益にとどまり,これらの者の法律上保護される利益が侵害されたということはできない。

(ウ) また,処分行政庁に対し,原告北海道勤医労らが自らの推薦を受けた原告X1らを労働者委員に任命するように求める権利や,原告X1らが自らを労働者委員に任命するように求める権利が認められているものではなく,労働者委員に任命されなかったことによって原告らの社会的評価が低下させられたものでもないから,原告らに具体的な現実の損害が発生したということはできない。

(エ) 原告らが法律上保護される利益を侵害され又は原告らに具体的な現実の損害が発生したということはできないから,本件任命処分は原告らに対する不法行為を構成するものではなく,原告らの被告に対する国家賠償請求は理由がない。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は,本件任命処分の取消しの訴えの適否(本案前の争点1)については,原告らは,本件任命処分の取消しの訴えについて原告適格を有するものではないと解するので,本件任命処分の取消しの訴えは,不適法なものとして,これを却下するが,本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟の適否(本案前の争点2)については,本件任命処分の取消しの訴えが不適法なものであるとしても,これと併合提起された本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟は適法なものとするのが相当であると解する。

そして,被告の国家賠償責任の有無(争点2),すなわち,本件任命処分が違法なものであるとした場合,処分行政庁がそのような処分をしたことについて故意又は過失があったということができるか否かについて判断する前提として,本件任命処分の適否(争点1),特に,本件任命処分は処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してした違法な処分であるか否か(争点1の6)について検討するに,処分行政庁が,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者に道労委の労働者委員を独占させ,原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を排除する意思に基づいて,本件任命処分をしたものであるとまで認めることはできず,本件任命処分が違法不当な動機に基づいてされたものであるということはできないが,本件任命処分は,処分行政庁がその判断の過程を誤ってしたものであるといわざるを得ず,本件任命処分は,処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱してした違法な処分であるといわなければならない(なお,争点1の1ないし5については,いずれも,採用することができないか,又は争点1の6とは別個の違法事由をいうものとは解されない。)。しかし,そのことを前提として,被告の国家賠償責任の有無について判断しても,処分行政庁が,本件任命処分を行うについて,故意があったと認めることはできず,また,過失があったと認めることもできないのであり,原告らの損害の有無(争点3)について判断するまでもなく,本件任命処分に係る国家賠償請求は失当である。

以下,これらについて詳述する。

2  本件任命処分の取消しの訴えの適否(本案前の争点1)について

(1)  行政事件訴訟法9条1項は,処分の取消しの訴えは,当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り,提起することができると規定するところ,ここに処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解すべきであり,当該処分を定めた行政法規が,処分の相手方以外の者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する者の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益も,ここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟の原告適格を有するというべきである。

そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(行政事件訴訟法9条2項)。

(以上につき,最高裁判所平成17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁参照)

(2)  上記の見地に立って,原告らが本件任命処分の取消しを求める原告適格を有するか否かについて検討する。

ア 本件任命処分の法律上の効果の観点から,原告らがその取消しを求める原告適格を有するか否かについて

労働組合法19条1項は,労働委員会は,使用者を代表する者(使用者委員),労働者を代表する者(労働者委員)及び公益を代表する者(公益委員)各同数をもって組織すると規定し,同条2項は,労働委員会は,中央労働委員会及び都道府県労働委員会とすると規定している。同法19条の12第1項は,都道府県知事の所轄の下に,都道府県労働委員会を置くと規定し,同条3項は,労働者委員は,労働組合の推薦に基づいて,都道府県知事が任命すると規定している。労働組合法施行令21条1項は,都道府県知事は,労働者委員を任命しようとするときは,当該都道府県の区域内のみに組織を有する労働組合に対して候補者の推薦を求め,その推薦があった者のうちから任命するものとすると規定し,同条3項は,労働組合は,労働者委員の候補者を推薦するときは,当該労働組合が労働組合法2条及び5条2項の規定に適合する旨の当該候補者の推薦に係る都道府県労働委員会の証明書を添えなければならないと規定している。労働組合法19条の12第6項,19条の4第1項は,禁固以上の刑に処せられ,その執行を終わるまで,又は執行を受けることがなくなるまでの者は,委員となることができないと規定している。

都道府県知事が労働組合の推薦に基づいてする都道府県労働委員会の労働者委員の任命は,その直接の相手方たる私人(その任命により労働者委員となる者)のために,都道府県労働委員会の労働者委員たる地位を設定する設権行為としての性質を有する行為であり,相手方の同意を要件とする特殊の行政行為であるところ,労働者委員とは,労働者を代表する者である(労働組合法19条1項)。そして,同項の規定が,労働委員会の委員として,中立的立場にある公益委員のほかに,労働者委員及び使用者委員をも加え,労働委員会を三者構成の機関とした趣旨は,労働委員会が労使の紛争を取り扱うに際し,公労使の三者の委員がそれぞれの専門的な識見を出し合い,公益及び労使の利益を適切に調和させ,また,労使の委員が労働委員会と労使の当事者との間を取り持ち,労使の紛争の自主的な解決を促進することを期待したものであり,労使の紛争の適正かつ円滑な解決の促進という公益の実現にあると解されることからすれば,労働者を代表する者とは,特定の労働者ないし労働組合の立場を代表する者ではなく,労働者の立場を一般的に代表する者であると解するのが相当であって,都道府県労働委員会の労働者委員の任命は,都道府県知事が当該都道府県の労働者の立場を一般的に代表する者を労働者委員に任命する行為であるということができる。このように解することができるところ,都道府県の労働者委員の任命の名宛人たる私人(すなわち,その任命により労働者委員となる者)は,労働者委員の任命により,その同意を要件として,都道府県労働委員会の労働者委員たる権利ないし権限を取得し,義務を負わされることとなるが,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合及びその推薦を受けた候補者(ただし,その任命により労働者委員となる者を除く。以下同じ。)は,労働者委員の任命により,その権利義務ないし法律上の地位に何らの影響をも受けるものではないのであり,労働者委員の任命の法律上の効果の観点から,それにより自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者に該当するということはできない。

この点について敷衍するに,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合及びその推薦を受けた候補者が,都道府県知事に対し,その候補者を労働者委員に任命することを求める実体上の権利を有すると解すべき法令上の根拠はなく,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合及びその推薦を受けた候補者は,都道府県知事に対し,そのような実体上の権利を有するものではないし,また,労働者委員の候補者の推薦が,法令に基づき,当該候補者に対し労働者委員の任命を求める行為であって,当該行為に対して都道府県知事が諾否の応答をすべきものとされているものであると解すべき法令上の根拠もなく,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合及びその推薦を受けた候補者は,都道府県知事に対し,労働者委員の任命について法令に基づく申請権を有するものでもないのであって,労働者委員の任命の中に,労働者委員に任命されなかった候補者との関係で,労働者委員に任命しない旨の処分又は労働者委員の候補者の推薦により求められた労働者委員の任命を拒否する処分が包含されているものとし,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合及びその推薦を受けた候補者が,労働者委員の任命により,その権利義務ないし法律上の地位に何らかの影響を受けると解することはできない。

イ 本件任命処分の処分要件の観点から,原告らがその取消しを求める原告適格を有するか否かについて

もっとも,上記(1)によれば,本件任命処分を定めた行政法規である労働組合法の規定が,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合又はその推薦を受けた候補者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する者の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解されるのであれば,このような利益も,法律上保護された利益に当たり,本件任命処分によりこれを侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者は,本件任命処分の取消訴訟の原告適格を有するということになる。

ウ そこで,都道府県労働委員会の労働者委員の任命の処分要件について検討するに,都道府県労働委員会の労働者委員の任命の根拠規定である労働組合法19条の12第3項は,労働者委員は,労働組合の推薦に基づいて,都道府県知事が任命すると規定し,労働組合法施行令21条1項は,都道府県知事は,労働者委員を任命しようとするときは,当該都道府県の区域内のみに組織を有する労働組合に対して候補者の推薦を求め,その推薦があった者のうちから任命するものとすると規定するのみであることは,上記アのとおりであって,労働者委員の任命の手続的な処分要件として労働組合の推薦に基づくことを定めるにとどまり,労働者委員の任命の他の処分要件を定めていない。そして,労働組合法19条1項及び同法19条の12第6項,19条の4第1項の各規定によれば,労働組合法は,労働組合の推薦があった者が労働者を代表する者であること,及び,その者が労働者委員の欠格条項に該当しないことを労働者委員の任命の実体的な処分要件としているものと解されるが,労働組合法及びその関係法令の規定の中に,労働者委員の任命の他の処分要件を窺わせるものは存在しないのであって,都道府県労働委員会の労働者委員の任命の処分要件は,その労働者委員の任命が労働組合の推薦に基づくものであることという手続的な要件と,労働組合の推薦があった者が労働者を代表する者であること,及び,その者が労働者委員の欠格条項に該当しないことという実体的な要件であると解するのが相当である。

これらの都道府県労働委員会の労働者委員の任命の処分要件のうち,まず,その労働者委員の任命が労働組合の推薦に基づくものであることという手続的な処分要件についてみると,労働組合法が労働者委員の任命にこのような要件を課したのは,都道府県知事は,数多く存在する当該都道府県の労働者等(労働者委員は,その者自身が労働者であることを必要としないものであると解される。)の中で,その立場を一般的に代表する者として労働委員会の手続に関与する労働者委員の適格者がだれであるかを必ずしも的確に知り得るものではなく,労働者委員の選任を都道府県知事に全面的に委ねてしまうと,恣意的な選任が疑われることにもなりかねないため,労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体である労働組合(労働組合法2条1項)に労働者委員の候補者の推薦権を付与し,都道府県知事は,その推薦に基づいて,その推薦があった者のうちから労働者委員を任命するものとするのが労働者委員の適格者を得る上で合理的であり,ひいては,当該都道府県の労働者の一般的利益(ないしその利益と表裏の関係にある労働委員会制度の適正な運営の利益)という,労働者委員を労働委員会の手続に関与させる目的である公益の実現に資することとなるからであると解される。

次に,労働組合の推薦があった者が労働者を代表する者であることという実体的な処分要件についてみると,都道府県知事が,都道府県労働委員会の労働者委員の任命をするに当たり,労働組合が,労働組合法19条の12第3項の規定により,都道府県知事に対し,都道府県労働委員会の労働者委員の候補者の推薦をした場合において,当該推薦に係る候補者が,労働者を代表する者であるか否かの判断,すなわち,当該都道府県の労働者の立場を一般的に代表する者として労働委員会の手続に関与する労働者委員の適格者であるか否かの判断は,上記規定による労働組合の推薦に基づいてするという制約の下で,都道府県知事の広範な裁量に委ねられていると解するのが相当であり,都道府県知事は,労働組合の推薦があった候補者のうちから労働者委員を任命しなければならない(その意味において,都道府県知事の裁量権の行使は制約されている。)が,労働組合の推薦があった候補者のうちから労働者委員に任命する者を選定するに当たっては,複数の候補者のうちのいずれの者が当該都道府県の労働者の立場を一般的に代表する者として労働委員会の手続に関与する労働者委員の適格者としての性質をよりよく有しているかの判断を,その公益的な見地,すなわち,当該都道府県の労働者の一般的利益の見地から,広範な裁量をもってすることができるというべきである。

何故ならば,労働組合法は,労働者を代表する者を労働者委員に任命する旨を抽象的に定めるのみで,どのような者を労働者を代表する者として労働者委員に任命するかを具体的に定めておらず,上記規定が労働者委員の任命は労働組合の推薦に基づいてすると定めているほかには,都道府県知事による労働者委員の任命権限の行使を制約する法令の規定は存在しないからである(もっとも,「労働組合の推薦があった者を労働者を代表する者とする」と,内包的に定義することは可能であり,このように定義するならば,労働組合の推薦があった者が労働者を代表する者であることという実体的な処分要件の充足性の有無について,都道府県知事の判断の余地はなく,都道府県知事の裁量に委ねられているものではないということとなる。しかし,そのように定義したところで,都道府県知事が,労働組合の推薦があった者のうちから労働者委員を任命するに当たり,その任命権限の行使を制約する法令の規定は存在しないことに変わりはないから,都道府県知事は,労働者委員を任命するに当たり,その裁量的判断により,いずれの者を労働者委員に任命するかを決定することができる,すなわち,いずれの者を労働者委員に任命するかについて効果裁量を有すると解すべきこととなると考えられるところ,このように解した場合,都道府県知事は,いずれの者を労働者委員に任命するかを,いずれの者が労働者委員の適格者としての性質をよりよく有しているかという観点から決定すると解することとなると考えられるのであって,これは,本来,労働組合の推薦があった者が労働者を代表する者であることという実体的な処分要件の充足性の有無の判断において考慮すべきことを,任命権限の行使をするか否かの判断において考慮するものにほかならない。そして,そうであるとすると,上記のように,「労働組合の推薦があった者を労働者を代表する者とする」と定義することはできないものというべきである。)。

これを実質的にみても,労働組合法は,労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること,労働者がその労働条件について交渉するために自ら代表者を選出することその他の団体行動を行うために自主的に労働組合を組織し,団結することを擁護すること並びに使用者と労働者との関係を規制する労働協約を締結するための団体交渉をすること及びその手続を助成することを目的とするものであり(1条1項),労働関係調整法は,労働組合法と相俟って,労働関係の公正な調整を図り,労働争議を予防し,又は解決して,産業の平和を維持し,もって経済の興隆に寄与することを目的とするものである(1条1項)ところ,労働委員会は,使用者委員,労働者委員及び公益委員各同数をもって組織される,三者構成の合議制機関であり(労働組合法19条1項),労働組合の資格の立証を受け,証明を行い,不当労働行為に関し,調査し,審問し,命令を発し,和解を勧め,労働争議のあっせん,調停及び仲裁を行い,その他労働関係に関する事務を執行するものである(地方自治法202条の2第3項)。すなわち,労働委員会は,労働組合法5条,11条及び18条の規定によるもののほか,不当労働行為事件の審査(27条ないし27条の18)等並びに労働争議のあっせん(労働関係調整法10条ないし16条),調停(17条ないし28条)及び仲裁(29条ないし35条)をする権限を有する(労働組合法20条)ところ,その権限に属する事務のうち,労働組合法5条及び11条の規定による事件の処理並びに不当労働行為事件の審査等,労働関係調整法42条の規定による事件の処理については,公益委員のみが参与するとされているが,労働者委員は,使用者委員と共に,労働組合法27条1項の規定により調査及び審問を行う手続並びに27条の14第1項の規定により和解を勧める手続に参与し,又は27条の7第4項及び27条の12第2項の規定による行為をすることができ(労働組合法24条1項。労働委員会が当事者若しくは証人に出頭を命ずる処分又は物件提出命令をしようとする場合には,意見を述べることができ,労働委員会が救済命令等を発しようとする場合も,意見を述べることができる。),また,労働関係調整法の規定によるあっせん,調停及び仲裁については,あっせんにおいて,あっせん員となり,関係当事者をあっせんし,双方の主張の要点を確かめ,事件が解決されるように努め(労働関係調整法13条),調停において,調停委員となり,仲裁において,仲裁委員会の同意を得て,その会議に出席し,意見を述べることができる(31条の5)。このように,労働委員会は,準司法的作用である判定的機能(労働組合の資格審査,不当労働行為事件の審査等)と,調整的機能(労働関係調整法の規定に基づく労働争議のあっせん,調停及び仲裁等)とを担うものであるところ,そのうちの判定的機能については,中立的立場に立つ公益委員のみが行うこととされているが,労働者委員は,使用者委員と共に,その手続に参与し,意見を述べるなどし,また,調整的機能については,あっせん員や調停委員となるなどするのであって,労働委員会の手続において重要な役割を果たしているものである。そして,ある候補者が当該都道府県の労働者の立場を一般的に代表する者として労働委員会の手続に関与する労働者委員の適格者であるか否かを判断するに当たっては,その候補者のそれまでの職歴や組合員歴そのほかの経歴ないし活動歴から窺い知ることができるその候補者の人格,識見に加え(再任候補者の場合,それまでの労働者委員としての活動において,その候補者が,どのような事件等に関与し,どのような処理等をしたかが,その候補者のそれまでの経歴ないし活動歴の一つとして,その候補者の人格,識見の判断の基礎となるということができる。),その候補者の年齢,性別その他の属人的要素をも併せて(年齢が比較的高い候補者の場合,一般的にみて,申立人の申立内容等をよく聴取し,関係者を説得し得る者が多いということができるが,その反面で,満69歳に近い候補者の場合には,選任時の年齢が満69歳以下であることという行政委員会委員選任基準の制限の下で,労働者委員の任命後に行われるオンザジョブトレーニングを経て,どこまでその人格,識見を労働者委員としての職務に生かし切ることができるかという問題がある。一方,年齢が比較的低い候補者の場合,一般的にみて,若い年代の申立人その他の関係者との意思疎通が円滑に行われやすいということができるが,その反面で,年齢が高い申立人その他の関係者を説得する上では,年齢が比較的低いことが不利に作用するおそれがあるということもできる。また,女性の候補者の場合,一般的にみて,同性の申立人その他の関係者との意思疎通が円滑に行われやすいということができる。),諸般の事情を十分に勘案し,労働組合法及び労働関係調整法の上記各目的の下で,労働委員会が担っている上記各機能及びその手続における労働者委員の上記役割をも踏まえて,公益的な見地,すなわち,当該都道府県の労働者の一般的利益の見地から,その候補者が,労働委員会の運営に理解と実行力を有し,かつ,申立人の申立内容等をよく聴取し,判断して,関係者を説得し得るものであり,自由にして建設的な組合運動の推進に協力し得る適格者(労働者委員の上記役割を果たし,労働委員会の機能を十分に発揮させ得る適格者)であって,当該都道府県の労働者を代表する者であるか否かを判断しなければならないのであり,このような判断は,その性質上,都道府県労働委員会を所轄する都道府県知事の裁量に委ねるのでなければ適切な結果を期待することができない。それ故に,上記のとおり,労働組合の推薦を受けた候補者が労働者を代表する者であるか否かの判断は,都道府県知事の広範な裁量に委ねられていると解するのが相当であるということとなる。

なお,労働組合の推薦があった者が労働者委員の欠格条項に該当しないことという実体的な処分要件は,労働者委員たるに必要な最低限度の要件を確保しようとするものであり,都道府県知事は,労働者委員の欠格条項に該当しない者のうちから労働者委員を任命しなければならない。その意味においても,都道府県知事の裁量権の行使は制約されているということができる。

エ 上記ウにより,本件任命処分を定めた行政法規である労働組合法の規定が,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合又はその推薦を受けた候補者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する者の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解されるか否かについて検討するに,都道府県労働委員会の労働者委員の任命の処分要件のうち,その労働者委員の任命が労働組合の推薦に基づくものであることという手続的な処分要件については,労働組合法がこのような要件を課したのは,都道府県知事は労働者委員の適格者がだれであるかを必ずしも的確に知り得るものではないという実情に鑑みると,労働組合に労働者委員の候補者の推薦権を付与し,都道府県知事はその推薦に基づいて労働者委員を任命するものとするのが,当該都道府県の労働者の一般的利益という公益の実現に資することとなるからであると解されることは,上記ウのとおりであって,このことからするならば,仮に,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合又はその推薦を受けた候補者において,その候補者が労働者委員に任命されることにより,何らかの利益を受けることがあるとしても,そのような利益は,労働組合法が当該都道府県の労働者の一般的利益という公益の実現を目的として都道府県知事の裁量権の行使に制約を課したことによって受けた反射的利益にすぎないということができる(労働組合法及びその関係法令の規定の中には,労働者委員の選考手続にその候補者の推薦をした労働組合を関与させる規定や,その選考手続にその労働組合を関与させることを前提とした規定が見当たらないところ,このことは,このような解釈を裏付けるものであるということができる。)。また,都道府県労働委員会の労働者委員の任命の処分要件のうち,労働組合の推薦があった者が労働者を代表する者であることという実体的な処分要件については,労働組合の推薦を受けた候補者が労働者を代表する者であるか否かの判断は,労働組合の推薦に基づいてするという制約の下で,都道府県知事の広範な裁量に委ねられていると解するのが相当であり,都道府県知事は,労働組合の推薦があった候補者のうちから労働者委員に任命する者を選定するに当たり,複数の候補者のうちのいずれの者が当該都道府県の労働者の立場を一般的に代表する者として労働委員会の手続に関与する労働者委員の適格者としての性質をよりよく有しているかの判断を,その公益的な見地,すなわち,当該都道府県の労働者の一般的利益の見地から,広範な裁量をもってすることができるというべきであることは,上記ウのとおりであって,このことからするならば,都道府県知事は,当該候補者が労働者委員の適格者であるか否かの判断を,専らその公益的な見地から行うものであり,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合又はその推薦を受けた候補者の利益の観点から行うものではないということができる。そして,そうであるとすると,本件任命処分を定めた行政法規である労働組合法の規定が,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合又はその推薦を受けた候補者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する者の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解することはできないのであって,このことは,上記ウにおいてみたところの労働組合法及びその関係法令の趣旨及び目的並びに本件任命処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮しても,異なるものではない。

このように,本件任命処分を定めた行政法規である労働組合法の規定が,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合又はその推薦を受けた候補者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する者の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解することはできないのであって,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合及びその推薦を受けた候補者は,労働者委員の任命において考慮されるべき利益の内容及び性質の観点からも,それにより自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者に該当するということはできない。

オ 原告道労連の原告適格について

上記アないしエによれば,仮に原告道労連が原告X1らを労働者委員の候補者として推薦したものであるとしても,原告道労連は,本件任命処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者に該当するということはできないこととなるところ,原告道労連は,原告X1らを労働者委員の候補者として推薦したものですらないのであるから,本件任命処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者に該当するということはできない。

(3)  そうすると,原告らは,いずれも,本件任命処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者に該当するということができず,本件任命処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者ではないこととなるから,本件任命処分の取消しの訴えは,いずれも原告適格を有しない者によって提起された不適法な訴えであるといわざるを得ない。

(4)  原告らの主張について

ア 原告らは,いずれも労働者委員の選任に当たり他の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者と平等に自己の利益について手続上考慮されるべき法律上の権利又は利益を有すると主張する。

しかし,本件任命処分を定めた行政法規である労働組合法の規定が,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合又はその推薦を受けた候補者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する者の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解することはできないことは,上記(2)エのとおりであって,仮に,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合及びその推薦を受けた候補者において,他の労働組合の推薦を受けた候補者が労働者委員に任命されることにより,その具体的利益に何らかの影響を受けることがあるとしても,そのような利益は,専ら一般的公益の中に吸収解消させられているものにすぎないのであるから,そのような利益について,他の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者と平等に手続上考慮されるべき法律上の権利又は利益を有していることは,本件任命処分の取消しの訴えの原告適格を基礎付けるものではないというべきである。

イ 原告らは,任命権者による行政権限の適正な行使に信頼を置く国民は,労働組合から労働者委員の候補者として推薦を受けた者のうち,労働者委員に任命された者こそがそれらの権限や役割を担い得る適任者であるとみなし,任命されなかった者は任命された者との比較において適任者とは判断されなかったものとみなすと主張する。

しかし,仮に,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合及びその推薦を受けた候補者において,他の労働組合の推薦を受けた候補者が労働者委員に任命されることにより,その社会的評価の低下という影響を受け,それがその具体的利益に対する影響であるということができるとしても,上記アのとおり,そのような利益は,専ら一般的公益の中に吸収解消させられているものにすぎないのであるから,そのような利益を有していることは,本件任命処分の取消しの訴えの原告適格を基礎付けるものではないというべきである。

3  本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟の適否(本案前の争点2)について

(1)  取消訴訟と併合提起された別の請求に係る訴えが併合の要件を満たさないため不適法な併合の訴えとされる場合においては,その請求の併合が取消請求と同一の訴訟手続内で審判されることを前提とし,専ら併合審判を受けることを目的としてされたものと認められる特段の事情がない限り,受訴裁判所としては,直ちに併合された請求に係る訴えを不適法として却下することなく,これを取消請求と分離した上,自ら審判するか,又は事件がその管轄に属さないときはこれを管轄裁判所に移送する措置をとるのが相当というべきである(最高裁判所昭和59年3月29日第一小法廷判決・裁判集民事141号511頁参照)。もっとも,取消訴訟と併合提起された別の請求に係る訴えが併合の要件を満たさない理由が,併合する請求が行政事件訴訟法13条各号の関連請求該当性を欠くことである場合とは異なり,基本となる取消訴訟が原告適格を有しない者によって提起されたものであることである場合には,併合要件の存否を直ちに判断することには困難を伴うことが少なくないため,併合要件を欠く不適法な併合の訴えが外観上取消訴訟に併合された状態のまま審理が続けられ,併合提起された訴えについても判決をするのに熟した状態に至ることがある。そのような場合,その時点で併合提起された訴えを独立の訴えとして取り扱うことに意味はないから,1個の判決をもって,取消しの訴えは却下し,併合提起された訴えについては実体判断をすることも許されるものと解される。

(2)  これを本件についてみると,原告らは,行政事件訴訟法16条1項の規定により,本件任命処分の取消しの訴えに,その関連請求に係る訴えである本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟を併合提起しているところ,本件任命処分の取消しの訴えが原告適格を有しない者によって提起された不適法な訴えであることは,上記2のとおりであって,本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟は,上記規定に定める請求の客観的併合の要件を欠く不適法な併合の訴えである。そして,原告らが,本件任命処分の取消請求と同一の訴訟手続内で審判されることを前提とし,専ら併合審判を受けることを目的として,本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟を併合提起したと認められる特段の事情は,本件全証拠によってもこれを認めるに足りないから(この点について,本件任命処分に係る国家賠償請求は本件任命処分の取消請求に付随するものにすぎない旨をいう被告の主張は採用することができない。),併合要件を欠く不適法な併合の訴えである本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟が外観上本件任命処分の取消しの訴えに併合された状態のまま審理が続けられ,本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟についても判決をするのに熟した状態に至った本件においては,1個の判決をもって,本件任命処分の取消しの訴えは却下し,本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟については実体判断をすることも許されるというべきである。

4  本件任命処分の適否(争点1)について

(1)  本件任命処分の取消しの訴えが原告適格を有しない者によって提起された不適法な訴えであることは,上記2のとおりであるから,本件任命処分の取消しの訴えとの関係では,本件任命処分の適否(争点1)について判断する必要はない。しかし,本件任命処分の適否は,本件任命処分に係る国家賠償請求訴訟における争点である被告の国家賠償責任の有無(争点2)の前提問題でもあるから,被告の国家賠償責任の有無について判断する前提として,本件任命処分の適否,すなわち,本件任命処分の客観的な違法性(処分要件の充足性)の有無について判断する。

(2)  都道府県労働委員会の労働者委員の任命が違法となる場合について

そこで,まず,本件任命処分は,連合以外の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を労働者委員から排除することを意図したものであり,処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してした違法な処分であるか否か(争点1の6)について判断するに,都道府県労働委員会の労働者委員の任命の処分要件のうち,労働組合の推薦があった者が労働者を代表する者であることという実体的な処分要件について,都道府県知事が,都道府県労働委員会の労働者委員の任命をするに当たり,労働組合の推薦を受けた候補者が,労働者を代表する者であるか否かの判断,すなわち,当該都道府県の労働者の立場を一般的に代表する者として労働委員会の手続に関与する労働者委員の適格者であるか否かの判断は,労働組合の推薦に基づいてするという制約の下で,都道府県知事の広範な裁量に委ねられていると解するのが相当であり,都道府県知事は,労働組合の推薦があった候補者のうちから労働者委員を任命しなければならないが,労働組合の推薦があった候補者のうちから労働者委員に任命する者を選定するに当たっては,複数の候補者のうちのいずれの者が当該都道府県の労働者の立場を一般的に代表する者として労働委員会の手続に関与する労働者委員の適格者としての性質をよりよく有しているかの判断を,その公益的な見地,すなわち,当該都道府県の労働者の一般的利益の見地から,広範な裁量をもってすることができるというべきであることは,上記2(2)ウのとおりであるところ,このように,労働組合の推薦を受けた候補者が労働者委員の適格者であるか否かの判断は,都道府県知事の広範な裁量に委ねられているが,都道府県知事がその裁量権の行使としてした,当該労働組合の推薦を受けた候補者が労働者委員の適格者である旨の判断であっても,それが重要な事実の基礎を欠き又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認められるなど,都道府県知事に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した場合には,それが違法となることは当然である(行政事件訴訟法30条)。

ここで,54号通牒についてみるに,同通牒は,労働委員会の委員について,「(労働委員会の)運営に理解と実行力を有し,かつ申立人の申立内容等をよく聴取し,判断して,関係者を説得し得るものであり,自由にして建設的な組合運動の推進に協力し得る適格者であること」と定める(1項)とともに,労働者委員の選考に当っては,「産別,総同盟,中立等系統別の組合数及び組合員数に比例させるとともに産業分野,場合によっては地域別等を充分考慮すること」と定めるものであり(2項2号),平成11年法律第87号による地方自治法の改正により,機関委任事務が廃止され,地方労働委員会の事務については自治事務とされた後も,処分行政庁による道労委の労働者委員の任命の基準として取り扱われてきたところ,同通牒は,労働者委員を含む労働委員会の委員が,それぞれ,労働委員会の運営に理解と実行力を有し,かつ,申立人の申立内容等をよく聴取し,判断して,関係者を説得し得るものであり,自由にして建設的な組合運動の推進に協力し得る適格者であって,労働者委員にあっては,個々の委員が,それぞれ,その人格,識見により,各自労働者の立場を一般的に代表してその権限を行使すべきであることを当然の前提としつつ,我が国の労働運動の実情においては,当該労働者委員が推薦を受けた労働組合の系統別,地域別,産業分野別によって,労使関係の在り方やそのほかの事項に関する考え方,利害関係に相違が生ずることは避けられず,その結果,労働者の一般的利益に関する考え方にも差異が生じ,個々の労働者委員の権限の行使を通ずるのみでは,必ずしも的確に労働者の立場を一般的に代表することができないこともあり得ることから,その時々の労働界の状況により,労使関係の在り方に関する考え方等が相違する労働者委員を適切に組み合わせることによって,複数の労働者委員が総体として労働者の立場を一般的に代表するようにすることも可能にしようとしたものであると解するのが相当である。

そして,行政庁がその裁量に委ねられた事項について裁量権の行使の準則を定めることがあっても,そのような準則は,本来,行政庁の処分の妥当性を確保するためのものであるから,処分がその準則に違背して行われたとしても,原則として当不当の問題を生ずるにとどまり,当然に違法となるものではないのであって(最高裁判所昭和53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁参照),処分が準則に違背して行われた場合はもちろん,準則に則して行われた場合であっても,処分が法令により行政庁に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してされたものであれば,その処分は違法となるのであるから,裁量権の行使の準則によって行われた処分の適否は,その準則に定められた内容を踏まえつつ,その処分が行政庁に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してされたものであるか否かを判断することによって決せられるべきである。

そこで,次に,処分行政庁が本件任命処分においてした判断の内容等についてみた上,上記の見地から処分行政庁が本件任命処分においてした判断の適否について判断する。

(3)  処分行政庁が本件任命処分においてした判断の内容等について

前提となる事実及び各項の末尾に掲記の証拠並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。

ア 道労委第40期委員の任命に係る事務は,被告経済部労働局雇用労政課長であったα課長が担当していた。(乙9,α証人)

イ 本件任命処分に係る決定書の記載及びα課長の説明によれば,道労委第40期労働者委員の選任過程は,次のとおりである。(乙4,9,α証人)

(ア) 選任の考え方

労働委員会制度を規定した法令及び54号通牒の趣旨,労働界の現状,労働委員会が果たすべき役割を踏まえて,候補者を総合的に判断し,適任者を選任する。労働組合法19条の12第6項,19条の4第1項に規定する欠格条項に該当しない者であること,選任時の年齢が満69歳以下であること,道労委における在任期間が10年以内であることを被推薦資格とする。

(イ) 推薦された候補者の氏名,所属労働組合等

原告X1ら(4名)について,前提事実(3)イのとおり,原告北海道勤医労らの推薦があった。本件任命処分によって労働者委員に選任されたβ候補ら(7名)について,前提事実(3)エのとおり,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦があった。このうち,η候補を除く6名は,いずれも再任候補者である。A候補ら(5名)について,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦があった。原告X1ら,η候補及びA候補らは,いずれも新任候補者である。

(ウ) 選任方法

次のとおり選任する。

a 候補者が欠格条項に該当しないこと,推薦基準を満たしていることを確認する。

b 労働委員会制度を規定した法令及び54号通牒の趣旨,労働界の現状,労働委員会が果たすべき役割を踏まえて,候補者から,北海道の労働者の代表として円滑で的確な職責の遂行を期待することができる者について,総合的に判断し,適任者を選任する。

c 再任候補者については,委員としての経験,紛争解決努力などの職責の遂行状況の観点も加味する。

(エ) 選任に当たり勘案すべき主な項目の検討

a 加盟上級団体

候補者16名の所属労働組合は,全て連合北海道又は原告道労連のいずれかを加盟上級団体とするものであるから,連合北海道と原告道労連の各系統に属する労働組合の組合員数の構成比(連合北海道系75.0%,原告道労連系6.1%)によると,労働者委員の定数7名の系統別の選任割合は,連合北海道系6.5名,原告道労連系0.5名となる。なお,候補者16名中,連合北海道系の者は12名,原告道労連系の者は4名である。

b 地域(所在地)

実際に候補者の推薦があった地域に属する労働組合の組合員数の構成比(石狩地域52.8%,胆振地域8.0%,上川地域7.4%,渡島地域6.3%,釧路地域3.7%)によると,労働者委員の定数7名の地域別の選任割合は,石狩地域4.7名,胆振地域0.7名,上川地域0.7名,渡島地域0.6名,釧路地域0.3名となる。なお,候補者16名中,地域別が石狩に該当する者は11名,胆振に該当する者は2名,上川に該当する者は1名,渡島に該当する者は1名,釧路に該当する者は1名である。

c 産業分野

実際に候補者の推薦があった産業分野に属する労働組合の組合員数の構成比(卸売業・小売業21.8%,公務14.7%,運輸業・郵便業9.7%,医療・福祉7.2%,複合サービス事業6.3%,製造業6.9%,建設業5.5%,電気・ガス・熱供給・水道業2.6%)によると,労働者委員の定数7名の産業分野別の選任割合は,卸売業・小売業2.1名,公務1.4名,運輸業・郵便業1.0名,医療・福祉0.7名,複合サービス事業0.6名,製造業0.5名,建設業0.4名,電気・ガス・熱供給・水道業0.3名となる。なお,候補者16名中,産業分野別が卸売業・小売業に該当する者は4名,公務に該当する者は1名,運輸業・郵便業に該当する者は5名(2名は複合サービス事業と,1名は建設業と重複している。),医療・福祉に該当する者は2名,複合サービス事業に該当する者は2名,製造業に該当する者は2名,建設業に該当する者は1名,電気・ガス・熱供給・水道業に該当する者は2名である。

d 上記aないしcを踏まえて,系統別による選任の組合せを「連合北海道系6名,原告道労連系1名」又は「連合北海道系7名,原告道労連系0名」と想定し,また,地域別及び産業分野別による選任の組合せを次のケース1又はケース2と想定した。これによれば,地域別が石狩,産業業分野別が卸売業・小売業に該当する者から2名,地域別が石狩,産業分野別が運輸業・郵便業に該当する者から1名を選任し,残り4名の選任は,次のケース1又はケース2のいずれかによることとなる。なお,本件任命処分に係る決定書(乙4)のケース2の表の下には,「上記組合せの中で,連合,道労連の組合せは,(6名:1名)又は(7名:0名)」という手書きの書込みがあるが,これは,α課長が,被告経済部労働局長や経済部長,副知事との打合せをした上,主査に決定書の起案を命じ,これにより主査が起案した決定書の案文(乙4の印字部分)に書込みをしたものであり,その後,その書込みを含めて決裁がされている。

(a) ケース1

地域別が石狩に該当する者から4名を,石狩以外の地域に該当する者から3名を,それぞれ選任する場合。具体的には,ⅰ)地域別が石狩(選任割合4.7名),産業分野別が卸売業・小売業(同2.1名)に該当する者(以下,この区分を「第1区分」という。)から2名を,ⅱ)地域別が石狩,産業分野別が運輸業・郵便業(同1.0名)に該当する者(以下,この区分を「第2区分」という。)から1名を,ⅲ)地域別が石狩,産業分野別が医療・福祉(同0.7名),複合サービス事業(同0.6名)又は建設業(同0.4名)のいずれかに該当する者(以下,この区分を「第3区分」という。)から1名を,それぞれ選任し,また,ⅳ)地域別が胆振(選任割合0.7名),産業分野別が製造業(同0.5名)に該当する者,地域別が上川(同0.7名),産業分野別が電気・ガス・熱供給・水道業(同0.3名)に該当する者,地域別が渡島(同0.6名),産業分野別が公務(同1.4名)に該当する者又は地域別が釧路(同0.3名),産業分野別が医療・福祉(同0.7名)に該当する者(以下,この区分を「第4区分」という。)から3名を選任する。

(b) ケース2

地域別が石狩に該当する者から5名を,石狩以外の地域に該当する者から2名を,それぞれ選任する場合。具体的には,ⅰ)地域別が石狩(選任割合4.7名),産業分野別が卸売業・小売業(同2.1名)に該当する者から2名を,ⅱ)地域別が石狩,産業分野別が運輸業・郵便業(同1.0名)に該当する者から1名を,ⅲ)地域別が石狩,産業分野別が医療・福祉(同0.7名),複合サービス事業(同0.6名)又は建設業(同0.4名)のいずれかに該当する者から2名を,それぞれ選任し,また,ⅳ)地域別が胆振(選任割合0.7名),産業分野別が製造業(同0.5名)に該当する者,地域別が上川(同0.7名),産業分野別が電気・ガス・熱供給・水道業(同0.3名)に該当する者,地域別が渡島(同0.6名),産業分野別が公務(同1.4名)に該当する者又は地域別が釧路(同0.3名),産業分野別が医療・福祉(同0.7名)に該当する者から2名を選任する。

(オ) 選任

a 候補者16名全員について,各人の本籍地が所在する市町村の長に照会し,欠格条項に該当しないことを確認し,また,推薦書や履歴書の記載に基づいて労働者委員候補者名簿を作成し,推薦基準を満たしていることを確認した。(乙7,8)

b 再任候補者6名の第39期労働者委員としての経験,職責の遂行状況について,道労委事務局に照会し,第39期労働者委員として関与した事件(審査事件,調整事件,個別的労使紛争)の件数と共に,誠実かつ的確にその職務を全うしている旨の回答を得た。道労委事務局の回答は,次のとおりである。(乙6の1,2)

(a) γ候補

第39期委員として,21件(審査事件13件,調整事件3件,個別的労使紛争5件)の事件に関与し,その間,職務上特に問題となる事実はなく,主にあっせん員として労働者側のあっせん作業を行い,申請者に粘り強く説明し,譲歩を引き出し,解決を図った事件のほか,2件のあっせん事件の解決に関与するなど,誠実かつ的確にその職務を全うしている。なお,現在も,平成23年12月以来係属している事件を始め,2件の係属中の審査事件の参与委員として事件に関与している。

(b) β候補

第39期委員として,26件(審査事件11件,調整事件7件,個別的労使紛争8件)の事件に関与し,その間,職務上特に問題となる事実はなく,主にあっせん員として労働者側のあっせん作業を行い,各委員と連携し,法人側に手続の不備を認識させ,解決金の支払の了解を得た事件を含め,10件のあっせん事件の解決に関与するなど,誠実かつ的確にその職務を全うしている。なお,現在も,平成23年7月以来係属している事件を始め,2件の係属中の審査事件の参与委員として事件に関与している。

(c) ζ候補

第39期委員として,19件(審査事件9件,調整事件6件,個別的労使紛争4件)の事件に関与し,その間,職務上特に問題となる事実はなく,主にあっせん員として労働者側のあっせん作業を行い,各委員との連携により,労使双方の譲歩を引き出し,解決に尽力した事件など,5件のあっせん事件の解決に関与するなど,誠実かつ的確にその職務を全うしている。なお,現在も,平成22年12月以来係属している事件を始め,3件の係属中の審査事件の参与委員として事件に関与している。

(d) ε候補

第39期委員として,24件(審査事件11件,調整事件10件,個別的労使紛争3件)の事件に関与し,その間,職務上特に問題となる事実はなく,主にあっせん員として労働者側のあっせん作業を行い,当初,労使双方の主張に大きな開きがあったが,早期解決を働き掛け,粘り強く説得し,双方合意に尽力した事件など,6件のあっせん事件の解決に関与するなど,誠実かつ的確にその職務を全うしている。なお,現在も,平成23年9月以来係属している事件を始め,4件の係属中の審査事件の参与委員として事件に関与している。

(e) θ候補

第39期委員として,20件(審査事件9件,調整事件5件,個別的労使紛争6件)の事件に関与し,その間,職務上特に問題となる事実はなく,主にあっせん員として労働者側のあっせん作業を行い,使用者に申請者への説明不足を認識させ,労使双方の希望額を調整した解決金を支払うこととなった事件など,6件のあっせん事件の解決に関与するなど,誠実かつ的確にその職務を全うしている。なお,現在も,平成24年4月以来係属している事件を始め,2件の係属中の審査事件の参与委員として事件に関与している。

(f) δ候補

第39期委員として,31件(審査事件13件,調整事件10件,個別的労使紛争6件)の事件に関与し,その間,職務上特に問題となる事実はなく,主にあっせん員として労働者側のあっせん作業を行い,使用者の事情も考慮し,早期解決を図るため,双方の希望額を調整した解決金の支払に尽力した事件など,11件のあっせん事件の解決に関与するなど,誠実かつ的確にその職務を全うしている。なお,現在も,平成23年7月以来係属している事件を始め,3件の係属中の審査事件の参与委員として事件に関与している。

その上で,16名の候補者の年齢,性別,所属労働組合における役職,組合役員歴等に基づいて,各候補者を,次のとおり総合的に判断し,β候補(所属労働組合の所在地室蘭市,産業分類製造業),γ候補(同札幌市,卸売業・小売業),δ候補(同札幌市,卸売業・小売業),ε候補(同札幌市,電気・ガス・熱供給・水道業),ζ候補(同函館市,公務),θ候補(同札幌市,運輸業・郵便業)及びη候補(同札幌市,複合サービス事業)の7名を道労委第40期労働者委員に選任した。

c 第1区分に属する候補者からの労働者委員に任命する者の選定地域別が石狩,産業分野別が卸売業・小売業に該当する者としては,γ候補及びδ候補の2名を選任した。

この区分に該当する候補者としては,他にA候補とB候補が存在したところ,A候補は,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けたものであり,組合役員歴が豊富であることはγ候補及びδ候補と同等であったが,γ候補及びδ候補は再任候補者であり,多数の事件に関わり,誠実かつ的確にその職務を全うしているという道労委事務局の意見があったため,円滑で的確な職責の遂行をより期待することができるという観点からは,A候補を選任するには至らなかった。B候補は,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けたものであったが,組合役員歴がγ候補及びδ候補に比べて乏しかったことから,選任するには至らなかった。

γ候補及びδ候補は,いずれも,組合役員歴が豊富であり,労働者委員の役割を果たすことができる実績を有していると評価され,道労委第39期労働者委員として多数の事件に関わり,誠実かつ的確に職務を行っていることから,円滑で的確な職責の遂行がより期待することができたものである。δ候補については,道労委第40期労働者委員の候補者中,唯一の女性であったことが,選任の大きな理由の一つであった。

d 第2区分に属する候補者からの労働者委員に任命する者の選定

地域別が石狩,産業分野別が運輸業・郵便業に該当する者としては,θ候補を選任した。

この区分に該当する候補者としては,他にη候補,原告X3及び原告X4,C候補が存在したところ,これらの候補者は,いずれも組合役員歴が豊富であるが,θ候補は,その産業分野の選任割合が1名である上,再任候補者であり,道労委第39期労働者委員として多数の事件に関わり,誠実かつ的確にその職務を行っているという道労委事務局の意見があったため,円滑で的確な職責の遂行をより期待することができるという観点から,選任された。

原告X3及び原告X4は,いずれも,原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けたものであり,組合役員歴が豊富であるが,これらのことを考慮しても,θ候補は,多数の事件に関わり,誠実かつ的確にその職務を行った実績を有しており,円滑で的確な職責の遂行をより期待することができることから,原告X3及び原告X4を選任するには至らなかった。

e 第3区分に属する候補者からの労働者委員に任命する者の選定

地域別が石狩,産業分野別が医療・福祉,複合サービス事業又は建設業のいずれかに該当する者としては,η候補を選任した。

この区分に該当する候補者としては,他に原告X1及び原告X4,C候補が存在したところ,医療・福祉,複合サービス事業,建設業の選任割合は,いずれも1名に至らず,原告X1及び原告X4は,いずれも組合役員として一定の経験を有しているものの,η候補の組合役員歴と比較した場合,経験に乏しいことから,選任するには至らなかった。原告X4は,候補者の中で唯一の30歳代であり,他の候補者と世代が異なる者として特別な職務遂行を期待することができる一方,対立する労使に対するあっせん業務などをする上では,ある程度年齢を重ねた者の方が,より反発が少なく,説得力を増すことができるという側面もあり,η候補との比較において,連合北海道と原告道労連の系統別の選任割合が6.5名対0.5名となっていることを踏まえても,あえて原告X4を選任するには至らなかった。原告X1は,満67歳と候補者の中で最高齢であり,就任可能期間が最大でも4年しかなく,労働者委員の業務においては様々な経験,ノウハウを蓄積することが将来的な業務の円滑な遂行の重要な基盤となることからすると,η候補が満59歳であること,連合北海道と原告道労連の系統別の選任割合が6.5名対0.5名となっていることを踏まえても,原告X1を選任するには至らなかった。η候補は,組合役員歴が豊富であり,労働者委員の役割を果たすことができる実績を有していると評価されたものである。

f ケース1とケース2の選択

ここで,ケース1とケース2の選択を行うと,北海道は地理的に極めて広大であり,それぞれの地域が比較的独立性の強い生活経済圏となっている特性を有すること,それまで石狩から4名,その他の地域から3名の労働者委員を選任してきた経緯があることなどからすると,連合北海道と原告道労連の系統別の選任割合が6.5名対0.5名となっていることを踏まえても,各地域の労働者を代表する労働者委員として経験を積み,誠実かつ的確に職務を行っている再任候補者にもまして,原告X4や原告X1を選任するには至らなかった。これにより,道労委第40期労働者委員の選任の組合せは,ケース1によることになった。

g 第4区分に属する候補者からの労働者委員に任命する者の選定

地域別が石狩以外の地域に該当する者としては,地域別が胆振,産業分野別が製造業に該当する者としてβ候補が,地域別が上川,産業分野別が電気・ガス・熱供給・水道業に該当する者としてε候補が,地域別が渡島,産業分野別が公務に該当する者としてζ候補が,それぞれ選任された。

この区分に該当する候補者としては,他に原告X2,E候補が存在したところ,原告X2は,原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けたものであり,組合役員歴が豊富であるが,β候補及びε候補と同様,選任割合が地域別又は産業分野別のいずれでも1.0名に達していない上,地域別と産業分野別の比率を合算した数値をもって他の候補者と比較するなど総合して検討しても,有利な点が見出せず,β候補とε候補がいずれも再任候補者であり,労働者委員として多数の事件に関わり,誠実かつ的確に職務を行い,円滑で的確な職責の遂行がより期待することができることを勘案すると,原告X2を選任すべき積極的理由はなかったことから,原告X2を選任するには至らなかった。β候補,ε候補及びζ候補は,いずれも,組合役員歴が豊富であり,労働者委員の役割を果たすことができる実績を有していると評価され,道労委第39期労働者委員として多数の事件に関わり,誠実かつ的確に職務を行っていることから,円滑で的確な職責の遂行がより期待することができたものである。

ε候補の所属労働組合の所在地は札幌市であるが,ε候補が旭川市に住所を有し,上川地域の協議体組織の執行委員を兼任していること,それまでの経歴によれば,ε候補の主たる活動拠点は上川にあると認められることから,処分行政庁は,ε候補の地域区分を上川として整理した。ε候補は,従前から一貫して旭川市に居住しながら上川地域で労働組合の役員としての活動を行っており,上川地域の労働実態に精通していることは明らかである。ε候補は,第38期労働者委員の選考における地域区分はともかく,第39期労働者委員の選考からは既に上川地域の候補者とされていた。

(4)  処分行政庁が本件任命処分においてした判断の適否について

上記(2)の見地から,処分行政庁が本件任命処分においてした労働者委員の選任の判断に,その裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるか否かについて検討するに,上記(3)で認定した事実によれば,処分行政庁は,本件任命処分において,ⅰ) 連合北海道と原告道労連の各系統に属する労働組合の組合員数の構成比(連合北海道系75.0%,原告道労連系6.1%)から,労働者委員の定数7名の系統別の選任割合を連合北海道系6.5名,原告道労連系0.5名とし,系統別による選任の組合せを「連合北海道系6名,原告道労連系1名」又は「連合北海道系7名,原告道労連系0名」と想定し,ⅱ)地域別及び産業分野別の選任割合により,第1区分(地域別が石狩,産業分野別が卸売業・小売業に該当する者)から2名を,第2区分(地域別が石狩,産業分野別が運輸業・郵便業に該当する者)から1名を,第3区分(地域別が石狩,産業分野別が医療・福祉,複合サービス事業又は建設業のいずれかに該当する者)から1名を,それぞれ選任し,また,第4区分(地域別が胆振,産業分野別が製造業に該当する者,地域別が上川,産業分野別が電気・ガス・熱供給・水道業に該当する者,地域別が渡島,産業分野別が公務に該当する者又は地域別が釧路,産業分野別が医療・福祉に該当する者)から3名を選任することとした(ケース1とケース2の選択も,地域別の観点から行われたと考えることができる。)上,ⅲ)第2区分に属する候補者からの労働者委員に任命する者の選定に当たり,原告X3及び原告X4においては,原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けたものであり,組合役員歴が豊富であるとしつつ,θ候補の産業分野の選任割合が1名であること,及び,θ候補が再任候補者であり,前期の労働者委員として多数の事件に関わり,誠実かつ的確にその職務を行った実績を有しており,円滑で的確な職責の遂行をより期待することができることを理由として,θ候補を選任し,ⅳ)第3区分に属する候補者からの労働者委員に任命する者の選定に当たり,原告X1及び原告X4においては,組合役員として一定の経験を有しているものの,η候補の組合役員歴と比較した場合,経験に乏しいとした上,原告X4においては,年齢が比較的若く,労働者委員の職責の遂行上,η候補の方が優れている側面があり,また,原告X1においては,満67歳と高齢であり,就任可能期間が短く,様々な経験,ノウハウを蓄積することが困難であるとし,原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けたものであることを踏まえても,満59歳という適正な年齢であり,組合役員歴も豊富であるη候補が労働者委員の役割を果たすことができる実績を有していると評価されるとして,η候補を選任し,ⅴ)第4区分に属する候補者からの労働者委員に任命する者の選定に当たり,原告X2においては,原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けたものであり,組合役員歴が豊富であるとしつつ,ε候補らも組合役員歴が豊富であること,及び,ε候補らが再任候補者であり,前期の労働者委員として多数の事件に関わり,誠実かつ的確にその職務を行った実績を有しており,円滑で的確な職責の遂行をより期待することができることを理由として,ε候補らを選任したものであるということができる。

(5)  この点について,原告らは,本件任命処分は,労働組合の推薦を受けた候補者を平等に取り扱わず(平等原則違反),連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者に労働者委員を独占させ,連合以外の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を排除する意思の下に,違法不当な動機に基づいて労働者委員の選任をしたものであって(目的動機違反),処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はそれを濫用してしたものであると主張するが,上記(3)イ(オ)aのとおり,α課長は,候補者16名全員について,各人の本籍地が所在する市町村の長に照会し,欠格条項に該当しないことを確認し,また,推薦書や履歴書の記載に基づいて労働者委員候補者名簿を作成し,推薦基準を満たしていることを確認したこと,及び,上記(4)のとおり,処分行政庁は,本件任命処分において,連合北海道と原告道労連の各系統に属する労働組合の組合員数の構成比から,系統別の選任割合と系統別による選任の組合せを想定した上,第2区分ないし第4区分に属する候補者からの労働者委員に任命する者の選定に当たり,原告X1らが原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けたものであることを考慮していることによれば,本件任命処分が,原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者である原告X1らを当初から審査の対象から除外したり,あるいは,これを除外したのと同様の取扱いをしたということまではできないのであって,本件任命処分が,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者に労働者委員を独占させ,連合以外の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を排除する意思の下に,違法不当な動機に基づいて労働者委員の選任をしたものであると認めることはできず,原告らの上記主張は採用することができない。原告らは,第37期判決が,第37期任命処分がされた時点での北海道における労働組合の各系統の勢力関係の比率の状況等からすると,連合北海道ほかの特定の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者のみを労働者委員に任命すべき比率にあったということはできず,この状況が変わらないのに,特段の事情もなく,連合北海道ほかの特定の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者のみが労働者委員に任命される事態が続く場合には,他の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を労働者委員から排除することを意図して労働者委員が選任されているという推認が働く余地があり得るものというべきであると判示していることを援用し,本件任命処分は,何ら合理的理由もなく,手続的透明性も示すことなく,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者のみを労働者委員に選任したのであるから,他の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を労働者委員から排除することを意図して労働者委員が選任されているという推認が十二分に働くというべきであると主張するが,上記のとおり,本件任命処分においては,候補者16名全員について,欠格条項に該当しないことや,推薦基準を満たしていることが確認され,労働者委員の選任に当たり,連合北海道と原告道労連の系統別の要素が考慮されていることによれば,本件任命処分において連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者のみが労働者委員に選任されたからといって,本件任命処分において他の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を労働者委員から排除することを意図して労働者委員が選任されているという推認が働くということまではできないものというべきである。なお,原告らは,第4区分に属する候補者からの労働者委員に任命する者の選定について,労働者委員に任命する者を原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者から選定するしかない局面で,所属労働組合の所在地が石狩地域であるε候補を上川地域の候補者とすることにより,ε候補が選任されているのであって,このような取扱い自体が,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者による労働者委員の独占という結論に向けた結論先にありきの恣意的な操作であるとも主張するが,上記(3)イ(オ)gのとおり,被告経済部労働局雇用労政課長として道労委第40期委員の任命に係る事務を担当していたα課長の説明によれば,ε候補は,第38期労働者委員の選考における地域区分はともかく,第39期労働者委員の選考からは既に上川地域の候補者とされていたというのであって,このことからするならば,処分行政庁が,所属労働組合の所在地が石狩地域であるε候補を上川地域の候補者としたことをもって,本件任命処分において他の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を労働者委員から排除することを意図して労働者委員が選任されたと推認することまではできないものといわざるを得ない。

(6)  もっとも,上記(4)によれば,処分行政庁は,本件任命処分において,系統別の選任割合を選任の組合せの想定においては考慮しつつ,実際には地域別及び産業分野別の選任割合による選任の組合せを用いて選任を行い,系統別の選任割合については,地域別及び産業分野別の選任割合による選任の組合せの各区分に属する候補者から労働者委員に任命する者を選定するに当たり,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者と原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者とが競合した場合に,個別的に考慮するにとどめたものであって,その個別的な考慮においても,再任候補者と原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者とが競合する場面(第2区分及び第4区分)では,系統別の選任割合よりも,競合候補者が再任候補者であり,前期の労働者委員として多数の事件に関わり,誠実かつ的確にその職務を行った実績を有していることを重視し,また,新任候補者と原告道労連の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者とが競合する場面(第3区分)では,系統別の選任割合よりも,候補者自身の年齢や就任可能期間,相対的な組合役員歴の差異を重視して,各区分に属する候補者から労働者委員に任命する者を選定したものであるということができるところ,都道府県労働委員会の労働者委員の任命の処分要件のうち,労働組合の推薦があった者が労働者を代表する者であることという実体的な処分要件については,都道府県知事が,都道府県労働委員会の労働者委員の任命をするに当たり,労働組合の推薦を受けた候補者が,労働者を代表する者であるか否かの判断,すなわち,当該都道府県の労働者の立場を一般的に代表する者として労働委員会の手続に関与する労働者委員の適格者であるか否かの判断は,労働組合の推薦に基づいてするという制約の下で,都道府県知事の広範な裁量に委ねられていると解するのが相当であり,都道府県知事は,労働組合の推薦があった候補者のうちから労働者委員を任命しなければならないが,労働組合の推薦があった候補者のうちから労働者委員に任命する者を選定するに当たっては,複数の候補者のうちのいずれの者が当該都道府県の労働者の立場を一般的に代表する者として労働委員会の手続に関与する労働者委員の適格者としての性質をよりよく有しているかの判断を,その公益的な見地,すなわち,当該都道府県の労働者の一般的利益の見地から,広範な裁量をもってすることができるというべきであることは,上記(2)のとおりであって,都道府県知事は,複数の候補者のうちのいずれの者が労働者委員の適格者としての性質をよりよく有しているかを判断するに当たり,その考慮要素をどのような順序で,どのように組み合わせて考慮するかということ自体についても広範な裁量を有しているということができるから,処分行政庁が,本件任命処分において,地域別及び産業分野別の選任割合による選任の組合せを用いて選任を行い,系統別の選任割合については,各区分に属する候補者から労働者委員に任命する者を選定するに当たり,個別的に考慮するにとどめたことは違法でないし,また,都道府県知事は,複数の候補者のうちのいずれの者が労働者委員の適格者としての性質をよりよく有しているかを判断するに当たり,再任候補者がそれまでの労働者委員としての活動においてどのような事件等に関与しどのような処理等をしたかを,その候補者の人格,識見の判断の基礎として考慮することができ,候補者の年齢,性別その他の属人的要素をも考慮することができることは,上記2(2)ウのとおりであるから,処分行政庁が,本件任命処分において,競合候補者が再任候補者であり,前期の労働者委員として多数の事件に関わり,誠実かつ的確にその職務を行った実績を有していることや,候補者自身の年齢や就任可能期間,組合役員歴を考慮したこともそれ自体違法でない。しかし,処分行政庁が,道労委事務局に対し,再任候補者の第39期労働者委員としての経験,職責の遂行状況について照会し,その結果,前期の労働者委員として誠実かつ的確にその職務を全うしている旨の抽象的な回答を得たのみで,本件任命処分において,系統別の選任割合よりも,競合候補者が再任候補者であり,前期の労働者委員として多数の事件に関わり,誠実かつ的確にその職務を行った実績を有していることを重視し,直ちに,再任候補者が原告X1らとの比較において円滑で的確な職責の遂行をより期待することができると判断し,そのことを理由として,再任候補者を労働者委員に選任したことは,再任候補者が前期の労働者委員としての実績を有していることを重視する余り,当該再任候補者の前期の労働者委員としての職務遂行の具体的な状況について必要な調査及び検討をせず,それにより系統別の選任割合を十分に考慮しなかったものであるといわざるを得ないのであり,必ずしも重視すべきでない事項を重視し,必要な調査及び検討をしなかったことにより,考慮すべき事項を十分に考慮しなかったものとして,処分行政庁に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものであるといわなければならない。

この点について敷衍するに,54号通牒が,労働者委員を含む労働委員会の委員は,それぞれ,労働委員会の運営に理解と実行力を有し,かつ,申立人の申立内容等をよく聴取し,判断して,関係者を説得し得るものであり,自由にして建設的な組合運動の推進に協力し得る適格者であって,労働者委員にあっては,個々の委員が,それぞれ,その人格,識見により,各自労働者の立場を一般的に代表してその権限を行使すべきであることを当然の前提としつつ,我が国の労働運動の実情においては,当該労働者委員が推薦を受けた労働組合の系統別等によって,労使関係の在り方に関する考え方等に相違が生ずることは避けられず,その結果,労働者の一般的利益に関する考え方にも差異が生じ,個々の労働者委員の権限の行使を通ずるのみでは,必ずしも的確に労働者の立場を一般的に代表することができないこともあり得ることから,その時々の労働界の状況により,労使関係の在り方に関する考え方等が相違する労働者委員を適切に組み合わせることによって,複数の労働者委員が総体として労働者の立場を一般的に代表するようにすることも可能にしようとしたものであると解するのが相当であることは,上記(2)のとおりである。そして,平成元年の我が国の労働界の再編後,12期24年連続して連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者のみが道労委の労働者委員に任命されており,他の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者は任命されていないことは,前提事実(2)イのとおりであり,道労委第40期労働者委員7名の再任候補者6名は,全て連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者であるから,道労委第40期労働者委員の選任において,系統別の選任割合よりも,競合候補者が再任候補者であり,前期の労働者委員として多数の事件に関わり,誠実かつ的確にその職務を行った実績を有していることを重視し,そのことを理由として,再任候補者を労働者委員に選任する場合,複数の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を組み合わせて労働者委員に任命するのではなく,連合北海道という特定の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者のみを労働者委員に任命することになる(道労委第40期労働者委員の選任においては,労働者委員の定数7名のうちの残り1名として,再任候補者が存在しない第3区分から新任候補者であるη候補が選任されているが,η候補も,再任候補者6名と同様,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者であり,ここでの検討には格別の影響を及ぼさないと考えられるので,ひとまず捨象しておくことにする。)ところ,このようにして労働者委員を任命する場合,複数の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を組み合わせて労働者委員に任命することによって,複数の労働者委員が総体として労働者の立場を一般的に代表するようにすることは不可能であり,個々の労働者委員が,それぞれ,その人格,識見により,各自労働者の立場を一般的に代表してその権限を行使し,その権限の行使のみを通じて,的確に労働者の立場を一般的に代表すべきであることとなるから,個々の労働者委員は,同じ労働者の間でも,労働組合の系統別によって,労使関係の在り方に関する考え方等に相違が生じ,その結果,労働者の一般的利益に関する考え方にも差異が生じ得ることを踏まえた上,そのような相違ないし差異を自ら調整しながら,その職務を遂行しなければならなくなるのであって,このような場合には,労働者委員の候補者に対しては,複数の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を組み合わせて労働者委員に任命する場合と比べて,より高度な人格,識見を有する労働者委員の適格者であることが求められることとなる。そうすると,道労委第40期労働者委員の選任において,系統別の選任割合よりも,競合候補者が再任候補者であり,前期の労働者委員として多数の事件に関わり,誠実かつ的確にその職務を行った実績を有していることを重視し,再任候補者が原告X1らとの比較において円滑で的確な職責の遂行をより期待することができると判断するためには,当該再任候補者の前期の労働者委員としての職務遂行の状況を相当な程度にまで具体的に調査し,当該再任候補者の職務遂行の在り方について,その具体的な職務遂行の状況に即して,ある程度詳細な評価を加えた上,当該再任候補者が上記のような,より高度な人格,識見を有する労働者委員の適格者であるか否かを検討し,それが肯定されることを必要とするのであって,処分行政庁が,道労委事務局に対し,再任候補者の第39期労働者委員としての経験,職責の遂行状況について照会し,その結果,前期の労働者委員として誠実かつ的確にその職務を全うしている旨の抽象的な回答を得たのみで,直ちに,再任候補者が原告X1らとの比較において円滑で的確な職責の遂行をより期待することができると判断し,そのことを理由として,再任候補者を労働者委員に選任したことは,再任候補者が前期の労働者委員としての実績を有していることを重視する余り(再任候補者の場合,それまでの労働者委員としての活動において,その候補者が,どのような事件等に関与し,どのような処理等をしたかが,その候補者のそれまでの経歴ないし活動歴の一つとして,その候補者の人格,識見の判断の基礎となることは,上記2(2)ウのとおりであって,再任候補者が前期の労働者委員としての実績を有していることは,その候補者の人格,識見の判断の基礎となるにとどまるものであるから,それ自体としては,必ずしも重視すべき事項ではないということができる。),当該再任候補者の前期の労働者委員としての職務遂行の具体的な状況について必要な調査及び検討をしなかったものであるといわざるを得ない(仮に,再任候補者の前期の労働者委員としての職務遂行の具体的な状況以外の事情から,当該再任候補者が上記のような,より高度な人格,識見を有する労働者委員の適格者であることが肯定されたのであれば,処分行政庁において,当該再任候補者の前期の労働者委員としての職務遂行の状況を具体的に調査し検討する必要はなかったことになるが,そのような事情が存在した旨の主張はなく,また,そのような事情が存在することを窺うこともできない。)。そして,当該再任候補者の前期の労働者委員としての職務遂行の具体的な状況について必要な調査及び検討をした結果,当該再任候補者が上記のような,より高度な人格,識見を有する労働者委員の適格者であることが否定されたのであれば,処分行政庁においては,系統別の選任割合を考慮し,複数の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を組み合わせて労働者委員に任命することによって,複数の労働者委員が総体として労働者の立場を一般的に代表するようにすることを検討せざるを得なくなったものであると考えることができるのであって,処分行政庁は,再任候補者が前期の労働者委員としての実績を有していることを重視する余り,当該再任候補者の前期の労働者委員としての職務遂行の具体的な状況について必要な調査及び検討をせず,それにより,処分行政庁の裁量的判断の基礎となる事実である再任候補者の人格,識見の認定が十分にされなかった結果,系統別の選任割合が十分に考慮されず,処分行政庁の判断が左右されたものであって,本件任命処分は,重要な事実の基礎を欠くものであり,処分行政庁に付与された裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものであるといわなければならない。

第37期判決は,第37期任命処分がされた時点での北海道における労働組合の各系統の勢力関係の比率等からすると,連合北海道ほかの特定の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者のみを労働者委員に任命すべき比率にあったということはできない旨を判示しているところ,この判示は,その当時の北海道の労働界の状況によれば,連合北海道という特定の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者のみを労働者委員に任命するのではなく,複数の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を組み合わせて労働者委員に任命することによって,複数の労働者委員が総体として労働者の立場を一般的に代表するようにすることが相当であった旨を指摘しているものであると理解することができるのであり,処分行政庁において,裁判所からこのような指摘を受けているにもかかわらず(そして,労働組合の各系統の勢力関係の比率が大きく変動し,連合北海道の系統に属する労働組合の組合員数が100%に近くなるなど,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者のみを労働者委員に任命すべき比率になったものではないにもかかわらず),なおその裁量的判断として,系統別の選任割合よりも,再任候補者の前期の労働者委員としての実績を重視し,連合北海道という特定の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者のみを労働者委員に任命するのであれば,当該再任候補者が上記のような,より高度な人格,識見を有する労働者委員の適格者であるか否かについて,より慎重な調査及び検討をしなければならなかったものであるということができる。

ここで,再任候補者が存在しない第3区分から新任候補者であるη候補が選任されている点についてみると,上記の検討によれば,η候補に対しても,再任候補者に対するのと同様,複数の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を組み合わせて労働者委員に任命する場合と比べて,より高度な人格,識見を有する労働者委員の適格者であることが求められることとなり,系統別の選任割合よりも,η候補の人格,識見に加えて年齢を重視し,η候補が原告X1らとの比較において円滑で的確な職責の遂行をより期待することができると判断するためには,η候補のそれまでの職歴や組合員歴そのほかの経歴ないし活動歴を相当な程度にまで具体的に調査し,η候補が上記のような,より高度な人格,識見を有する労働者委員の適格者であるか否かを検討し,それが肯定されることを必要とするところ,被告の主張によるも,η候補は,日本郵政グループ労働組合北海道地方本部の特別執行委員を現に務める者であり,昭和55年の全逓支部役員への就任以降,全逓関係の役員を歴任し,33年間の豊富な組合役員歴を有しており,また,単にその経験年数だけではなく,平成19年の日本郵政公社の民営,分社化という国内的にも極めて大きな組織変更について経験を有することから,労働者委員に必要な経験と実績を兼ね備えていると評価されたものであるというにとどまり,η候補のそれまでの職歴や組合員歴そのほかの経歴ないし活動歴についてどの程度にまで具体的な調査がされ,η候補が上記のような,より高度な人格,識見を有する労働者委員の適格者であるか否かについてどのような検討がされたのかは,必ずしも明らかではない。都道府県知事が,都道府県労働委員会の労働者委員の任命をするに当たり,労働組合の推薦を受けた候補者が,労働者を代表する者であるか否かの判断,すなわち,当該都道府県の労働者の立場を一般的に代表する者として労働委員会の手続に関与する労働者委員の適格者であるか否かの判断は,労働組合の推薦に基づいてするという制約の下で,都道府県知事の広範な裁量に委ねられていると解するのが相当であることは,上記(2)のとおりであり,処分行政庁が,本件任命処分において,系統別の選任割合よりも,η候補の人格,識見に加えて年齢を重視し,η候補が原告X1らとの比較において円滑で的確な職責の遂行をより期待することができると判断し,そのことを理由として,η候補を労働者委員に選任したことが,処分行政庁に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものであるということはできないが,その判断の過程において十分な調査及び検討がされたということができるものか,疑問が全くないということはできない。

(7)  このように,本件任命処分は,処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたものであるといわなければならないのであり,本件任命処分は違法である。

なお,この違法は,処分行政庁の判断の過程に瑕疵があることによって,本件任命処分がその処分要件を充足していないという客観的な違法であり,仮に本件任命処分の取消しの訴えが原告適格を有する者によって提起された適法な訴えであったならば,処分行政庁において,再任候補者の前期の労働者委員としての職務遂行の具体的な状況について調査及び検討をした上,改めて道労委第40期労働者委員の選任をさせるため,本件任命処分を取り消すべきものである。

(8)  原告らの主張に係る本件任命処分のその余の違法事由について

ア 憲法14条及び28条違反等(争点1の1ないし3)について

原告らは,本件任命処分は,合理的理由なく,原告道労連及びこれに加盟する労働組合とその組合員を差別し,その団結権を侵害したものであり,憲法14条及び28条に違反すると主張する。しかし,本件任命処分が,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者に労働者委員を独占させ,連合以外の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を排除する意思の下に,違法不当な動機に基づいて労働者委員の選任をしたものであると認めることはできないことは,上記(5)のとおりであり,本件任命処分が原告道労連及びこれに加盟する労働組合とその組合員を差別したということはできないし,また,本件任命処分により,原告道労連及びこれに加盟する労働組合とその組合員が労働組合を結成することができなくなったものではないから,本件任命処分が原告道労連及びこれに加盟する労働組合とその組合員の団結権を侵害したということはできない。原告らの上記主張は採用することができない。

原告らは,本件任命処分は,明らかに結社の自由及び団結権を侵害するものであり,ILO第87号条約2条及び3条に違反するとか,本件任命処分は,合理的理由なく,原告道労連及びこれに加盟する労働組合とその組合員を差別し,その団結権を侵害するものであり,自由権規約2条1項,22条及び26条に違反するとも主張するが,これらの主張が失当であることは上記判示から明らかである。

イ 労働組合法19条の12第3項違反等(争点1の4及び5)について

原告らは,労働組合法19条の12第3項及び労働組合法施行令21条1項の趣旨に照らせば,系統を異にする労働組合が複数併存する場合,各系統の規模といった客観的な要素に応じて労働者委員を選任すべきであるところ,処分行政庁は,原告X1らから労働者委員を選任せず,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者に労働者委員全員を独占させたのであり,本件任命処分は,上記各規定に違反するとか,処分行政庁は,原告道労連と連合北海道という二つのローカルセンターに対し,行政における公平の原則に則って対応する義務を負っていたのであり,この義務に違反してされた本件任命処分は,行政における公平の原則に違反すると主張するが,これらの主張は,争点1の6について,本件任命処分は処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はそれを濫用してしたものであるから違法である旨をいう原告らの主張と別個の違法事由をいうものとは解されない。

5  被告の国家賠償責任の有無(争点2)について

(1)  処分行政庁の故意について

本件任命処分が処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用により違法なものであることは,上記4(7)のとおりであるところ,本件任命処分が,連合北海道の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者に労働者委員を独占させ,連合以外の系統に属する労働組合の推薦を受けた候補者を排除する意思の下に,違法不当な動機に基づいて労働者委員の選任をしたものであると認めることはできないことは,上記4(5)のとおりであり,処分行政庁が,本件任命処分が処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用により違法なものであることを認識しながら,これを行ったことを認めるに足りる証拠はないのであって,処分行政庁が,その職務を行うについて,故意によって違法に本件任命処分をしたと認めることはできない。

(2)  処分行政庁の過失について

都道府県知事がする都道府県労働委員会の労働者委員の任命は,その処分要件を誤って認定していたとしても,そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったという評価を受けるものではなく,都道府県知事が資料を収集し,これに基づいて処分要件を認定,判断する上において,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく,漫然と労働者委員の任命をしたと認められるような事情がある場合に限り,上記評価を受けるものと解するのが相当である(最高裁判所平成5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁参照)ところ,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合及びその推薦を受けた候補者が,都道府県知事に対し,その候補者を労働者委員に任命することを求める実体上の権利を有するものではないし,また,労働者委員の任命について法令に基づく申請権を有するものでもないことは,上記2(2)アのとおりであり,仮に,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合又はその推薦を受けた候補者において,その候補者が労働者委員に任命されることにより,何らかの利益を受けることがあるとしても,そのような利益は,労働組合法が当該都道府県の労働者の一般的利益という公益の実現を目的として都道府県知事の裁量権の行使に制約を課したことによって受けた反射的利益にすぎないということができることは,上記2(2)エのとおりであって,このことからするならば,都道府県知事が資料を収集し,これに基づいて処分要件を認定,判断する上において,労働者委員の候補者の推薦をした労働組合又はその推薦を受けた候補者に対し,何らかの職務上通常尽くすべき注意義務を負うとは解し難いというべきである。そして,このことに加えて,上記4(6)のとおり,処分行政庁が,本件任命処分において,再任候補者の前期の労働者委員としての職務遂行の具体的な状況について必要な調査及び検討をせず,それにより系統別の選任割合を十分に考慮しなかったものであるといわざるを得ないとはいえ,16名の候補者のうちのいずれの者が労働者委員の適格者としての性質をよりよく有しているかの判断を,その公益的な見地からしていることをも併せ考えると,処分行政庁が,その職務を行うについて,過失によって違法に本件任命処分をしたと認めることはできないものというべきである。

第4結論

よって,本件各訴えのうち,本件任命処分の取消しを求めるものは,いずれも不適法であるから,これを却下することとし,原告らのその余の訴えに係る請求(本件任命処分の違法を原因とする国家賠償法1条1項の規定に基づく損害賠償請求)は,いずれも理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 内野俊夫 裁判官 渡邉哲 裁判官 北島睦大)

(別紙3以外は,添付省略)

file_2.jpg別紙

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