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札幌地方裁判所 平成26年(レ)48号 判決 2014年7月18日

控訴人

同訴訟代理人弁護士

山本晋

被控訴人

更生会社TFK株式会社管財人Y

同訴訟代理人弁護士

渡邊賢作

本多一成

上野尚文

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  原審裁判所が本件について平成二五年一一月二二日にした強制執行停止決定(札幌簡易裁判所平成二五年(サ)第六〇七号)は、これを取り消す。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人の負担とする。

五  この判決は、第三項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

主文同旨

第二事案の概要

本件は、控訴人が、更生手続開始決定を受ける前の株式会社武富士(平成二四年三月一日に商号をTFK株式会社に変更した。以下、商号変更の前後を通じて「武富士」という。)に対して提起した過払金返還請求訴訟(以下「前件訴訟」という。)に係る訴訟費用につき、前件訴訟終了後、その負担を命ずる旨の決定及び額の確定処分がされたのに対し、武富士の管財人である被控訴人が、同請求権は更生債権に当たり、控訴人が更生手続において債権届出をしなかったため、更生計画認可決定により同請求権につき免責されたと主張して、上記訴訟費用額確定処分に基づく強制執行の不許を求める事案である。

原審は、請求を全部認容した。控訴人は、これを不服として控訴した。

一  前提事実(争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1)  控訴人は、平成二二年三月九日、札幌簡易裁判所に対し、武富士を被告として、前件訴訟を提起し、同社との間の継続的な金銭消費貸借取引において発生した過払金及びこれに対する支払済みまでの利息の支払を請求した。

(2)  武富士は、平成二二年九月二八日、更生手続開始の申立てをした。東京地方裁判所は、同年一〇月三一日、更生手続開始の決定(以下「本件開始決定」という。)をして、被控訴人を管財人に選任した。

(3)  控訴人は、武富士の更生手続において、前件訴訟において請求していた金員のうち更生手続開始後の利息を除く二万九二〇九円につき更生債権として届出をしたが、前件訴訟に係る訴訟費用請求権(以下「本件訴訟費用請求権」という。)については更生債権として届出をしなかった。

(4)  東京地方裁判所は、平成二三年一〇月三一日、武富士につき更生計画認可の決定(以下「本件認可決定」という。)をした。

(5)  前件訴訟は、会社更生法一五〇条一項の規定による更生債権の内容等の確定及び本件認可決定により当然に終了した。

(6)  控訴人は、平成二四年三月五日、前件訴訟に係る訴訟費用の負担を命ずる決定の申立てをし、札幌簡易裁判所は、同年四月二三日、前件訴訟に係る訴訟費用を第一、二審とも武富士の負担とする旨の決定をした(以下「本件負担決定」という。)。

(7)  被控訴人は、平成二四年五月一日、控訴人が更生債権に当たる本件訴訟費用請求権について更生債権として届出をしなかったため、同請求権は会社更生法二〇四条一項柱書により消滅し、被控訴人は同請求権につき責任を免れると主張して即時抗告をしたが、札幌地方裁判所は、同年六月二五日、更生手続開始決定前から係属中の更生債権に関する訴訟に係る当該訴訟全体の訴訟費用償還請求権は、更生手続開始決定時において、その総額及び負担者が確定しておらず、また、その額が同決定後どこまで拡大するか不明であるので、更生決定開始時点前の原因に基づくものとは認められず、本件訴訟費用請求権が更生債権であることを前提とする被控訴人の主張は採用できないとして、被控訴人の即時抗告を棄却する旨の決定をした。被控訴人は、同年七月二日、再抗告をしたが、札幌高等裁判所は、同年八月一七日、同再抗告を却下する決定をし、本件負担決定は確定した。

(8)  控訴人は、平成二四年一〇月五日、前件訴訟に係る訴訟費用額確定処分の申立てをし、札幌簡易裁判所の裁判所書記官は、同月二五日、本件負担決定に基づき、被控訴人が負担すべき訴訟費用額を二万三〇九〇円とする旨の訴訟費用額確定処分(以下「本件処分」という。)をした。

(9)  被控訴人は、平成二四年一〇月二九日、本件訴訟費用請求権が更生債権であるところ、控訴人が同請求権について更生債権として届出をしなかったため、同請求権は会社更生法二〇四条一項柱書により消滅したものであって、被控訴人は同請求権につき責任を免れると主張して異議の申立てをしたが、札幌簡易裁判所は、同年一一月二日、被控訴人の主張は、本件処分における訴訟費用の項目、金額又は計算方法等について書記官の判断に誤りがあるというものではなく、訴訟費用を被控訴人に負担させることについて不服があるというのと同様であって、既に確定した本件負担決定を蒸し返すものであり相当ではないとして、被控訴人の異議申立てを却下した。被控訴人は、即時抗告をしたが、札幌地方裁判所は、平成二五年一〇月一六日、確定した本件負担決定に基づいて行われた本件処分は正当であり、異議申立てを却下した原審も正当であるとして、これを棄却する旨の決定をし、本件処分は確定した。

二  争点及びこれに関する当事者の主張

本件訴訟費用請求権が更生債権であり、控訴人が同請求権について更生債権として届出をしなかったことをもって、本件認可決定により失権したか。そして、被控訴人が、本訴においてこのような主張をすることができるか。

(被控訴人の主張)

本件訴訟費用請求権は、更生債権に当たる(最高裁平成二五年(許)第四号同年一一月一三日第二小法廷決定・民集六七巻八号一四八三頁。以下「本件最高裁決定」という。)ところ、控訴人が同請求権について更生債権として届出をしなかったため、本件認可決定により失権した(会社更生法二〇四条一項)。

本件の請求異議訴訟の対象は書記官の確定処分であり、確定判決ではない。民事執行法三五条一項は、請求異議の事由を訴訟費用負担決定確定後の事由に限るとか、訴訟費用負担決定の事実審終了後の事由に限るなどと定めていない。判決とともにされる訴訟費用負担決定と、既判力が生じると解する余地のない裁判所書記官による負担額の確定処分とを同列に論ずることはできない。また、裁判所書記官による確定処分に対しては、異議や抗告が認められているが、その手続は任意的口頭弁論であり、手続も簡易化されており、十分な手続保障がされていないから、本訴の提起は不当な蒸し返しには当たらず、信義則に違反するともいえない。

(控訴人の主張)

本件訴訟費用請求権が更生債権に当たることは否認する。

仮に、本件訴訟費用請求権が更生債権に当たるとしても、本件負担決定には既判力があるから、請求異議訴訟において異議事由として主張することが許されるのは、本件負担決定の確定後又は事実審(抗告審)終了後の事由に限られると解すべきである。会社更生による本件訴訟費用請求権の失権は、本件負担決定の抗告審決定により前の事情であり、本件訴訟において異議事由として主張することは許されない。

また、本件負担決定に基づく本件処分に対する請求異議訴訟において、本件負担決定において争点として審理された、抗告審終了より前の事由を異議事由とする被控訴人の主張は、不当な蒸し返しであり、訴訟上の信義則に反し許されない。

第三当裁判所の判断

被控訴人が強制執行の不許を求める債務名義は、本件処分であるが、本件処分は、本件負担決定に基づいてされたものである。

そして、民事訴訟法七三条一項に基づく訴訟費用の負担を命ずる決定(以下「訴訟費用負担決定」という。)は、訴訟費用請求権の存否及び訴訟費用の負担割合についての実体関係を終局的に判断するものであって、既判力を有すると解すべきである(同旨の文献として乙五から乙七までのほか、兼子一「新修民事訴訟法体系増訂版」三三八頁)。

なお、注釈民事執行法第二巻四二五頁には、「訴訟費用額確定手続においては、当事者は、その手続において弁済、免除等を主張することはできず、したがって反面、訴訟費用の負担を命ぜられた当事者は、訴訟費用額確定決定を債務名義とする強制執行においては、時間的制限を受けることなく弁済、免除その他の理由をもって請求異議の訴えを提起し、その執行を排除することができる。」との記載があるが、ここでいう「時間的制限を受けることなく」との文言は、異議事由の生じた時期について訴訟費用額確定決定の前後を問わない(訴訟費用額確定決定前であっても、訴訟費用の負担を定める裁判後に生じた弁済、免除その他の事由をもって請求異議の訴えを提起し得る)ことを意味するとも考えられ、訴訟費用負担決定に既判力があることを否定する趣旨を含むものと解すべきではない(仮に、そのような趣旨であるとすれば、当裁判所の採るところではない。)。

そして、本件において、被控訴人が主張する異議事由は、本件訴訟費用請求権が更生債権であるところ、控訴人が同請求権について更生債権として届出をしなかったため、本件認可決定により失権したというものであるが、この主張を排斥する本件負担決定の判断は既に確定し、その判断には既判力がある。なお、本件最高裁決定は、本件と同様の事案について、本件負担決定とは異なる法的判断を示したが、これをもって、本件訴訟費用請求権についての既判力を有する本件負担決定の判断が覆ることにはならない。

したがって、被控訴人は、本件負担決定の内容に反する主張をすることはできず、被控訴人の主張は、それ自体失当であるといわざるを得ない。

第四結論

よって、被控訴人の請求は理由がないから棄却すべきであり、本件控訴は理由があるから、被控訴人の請求を認容した原判決を取り消し、被控訴人の請求を棄却し、原審裁判所が本件についてした強制執行停止決定を取り消すこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 本田晃 裁判官 齊藤恒久 貝阿彌健)

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