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札幌地方裁判所 平成27年(わ)581号 判決 2016年6月24日

主文

被告人Aを無期懲役に,被告人Bを懲役30年に処する。

被告人両名に対し,未決勾留日数中各180日を,それぞれその刑に算入する。

理由

(犯行に至る経緯)

被告人Aは,知人のC(以下,「被害者」という。)から金銭を借り受けて,制限利率を大きく超える高利で金銭を貸し付ける業務(いわゆるヤミ金業)に従事していたところ,平成26年8月中旬頃,貸付先の1つが弁護士に相談して1300万円以上の貸金を回収できなくなったことなどから,被害者から借り受けた3040万円及び1か月当たり15パーセント又は20パーセントの金利の支払に窮するようになった。一方,被告人Bは,代表を務める会社の経営が悪化して,被告人Aから高利で金銭を借り受けるなど複数の金融業者から借入れを繰り返すなどしていたことから,当時,資金繰りに窮しており,同月22日には1回目の手形の不渡りを出していた。被告人Aは,被害者に対する金銭の支払を免れるために同人を殺害することとし,遅くとも同月25日頃までに,被告人Bに対し,被害者を殺害するのを手伝ってほしい,被告人Aが殺すので死体を運搬するのを手伝ってほしい,被害者に対して多額の金銭を支払っているが支払いたくない,被害者がいなくなれば被告人Bに対する融資を増やすことができる旨告げた。

(罪となるべき事実)

第1被告人Aは,被害者を殺害して,自己が被害者(当時●●歳)に対して負っていた上記元利金債務の支払を免れようと企て,被告人Bは,被告人Aが被害者に対する多額の金銭の支払義務を免れるために被害者殺害を企てていることを分かった上で,共謀の上,平成26年8月29日午前0時頃から同日午前0時40分頃までの間,静岡県c市・・・・・所在のdに駐車中の自動車内において,被告人Aが,被害者に対し,殺意をもって,頸部に巻き付けたビニールひもを引っ張ってこれを絞め上げ,よって,その頃,同所において,同人を頸部圧迫により窒息死させて殺害し,上記元利金債務の支払を免れて財産上不法の利益を得,

第2被告人両名は,共謀の上,同日,岡山県b市・・・・・所在の被告人B所有の敷地(以下「本件敷地」という。)内において,被害者の死体を同所に設置された井戸(以下「本件井戸」という。)に投入して隠匿し,さらに,被告人Bが,同年9月7日頃から同月21日頃までの間,同所に設置された中型倉庫(以下「本件倉庫」という。)において,本件井戸から引き上げて搬入した同死体をノコギリ等で切断するとともに,本件敷地内等において,切断した同死体を灯油等を用いて焼却し,その骨片をシャベルでたたくなどして粉砕した上,b市・・・・・所在の居宅から主要地方道e線をf町方面に約1.6キロメートル進行した地点付近において,同骨片を同所沿いのg川等に投棄し,もって死体を損壊,遺棄したものである。

(事実認定の補足説明:日付はいずれも平成26年)

1  犯行に至る経緯及び犯行状況について

(1) 被告人Bは,被告人Aから被害者を殺害するのを手伝ってほしい,ビニールひもやブルーシート,カッターナイフ,棒を用意して,8月28日に東京に来てほしい旨言われた,そこで,車に積んでいた鉄製の棒である鉄筋曲げを持って行ったほか,それ以外の物を購入して東京に行き,同日午後8時頃,被告人A及び被害者と合流して高速道路でh方面に向かった,途中iサービスエリアに立ち寄り,出発した後にペットボトルのお茶を被告人Aが被害者に渡し,これを飲んだ被害者は,約1時間後に眠り始めた,hインターで高速道路を下り,被告人Aの指示に従いjに向かった,jに着くと,被告人Aの指示により後部座席で眠っている被害者の首に後部荷台からビニールひもを掛けて被告人Aとともに引っ張ったが5秒程度で手を放した,その後,被告人Aがビニールひもの両端を鉄筋曲げに巻きつけ,1人でこれを引っ張って被害者の首を絞めて殺害した,被害者の死体は,そのまま車に乗せて運び,本件井戸に投げ入れて隠した,その後,被告人Aから被害者の関係で捜査の手が及んでいるので死体を本件井戸から引き上げて処分してほしい旨言われ,被告人Aと話し合ったうえで,被害者の死体を本件井戸から引き上げ,9月7日以降にこれを切断して焼却した旨供述する。

(2) このような被告人Bの供述は,高速道路の防犯カメラの映像,携帯電話機の位置情報記録及びホームセンターやコンビニエンスストアの購入履歴等と合致する。また,被告人Bが被告人Aから本件犯行を誘われた状況については,本件犯行前に被告人Bが親友のDや債権回収業者のEとした会話の内容と整合するものである。

そして,被告人B自身が本件犯行に関与したことは関係証拠から明らかであるところ,被告人Bと被害者は本件犯行まで何らの関係もなく,両者を結び付ける人物は被告人A以外にいないこと,被告人両名が被害者と行動を共にしていた翌日の8月30日に知人らから被害者に連絡が取れないことが明らかとなり,その後被害者の死亡が確認されたことは,被告人Aとともに本件犯行を行ったという被告人Bの供述を裏付けるものである。

被告人Bが述べる殺害状況は,被告人B自身が被害者の首にビニールひもを掛けた,被告人Bが持ってきた鉄筋曲げを使用して被告人Aが被害者を殺害したなどというもので,特徴的で生々しく,頭の中で作り上げたとは考えられないものであるだけでなく,被告人Bにとって不利益な内容も含まれている。しかも,このような殺害方法は,法医学の観点からも不自然不合理な点はない。さらに,被告人Bは,被告人Aと別れて間もない時間にDに本件殺害を告白しているところ,この時点で親友であるDにあえて虚偽の内容を述べる理由がないことを考え合わせると,殺害状況に関する被告人Bの供述は十分に信用できる。

加えて,死体遺棄・損壊の状況については,被告人Bの説明に基づいて,遺体切断場所である本件倉庫から血痕や被害者のDNAが採取され,川の中から粉々になった被害者の骨片が発見されたことなどによって被告人Bの供述が裏付けられている。

以上によれば,犯行に至る経緯及び犯行状況についての被告人Bの供述は十分に信用することができる。

(3) これに対して,被告人Aは,本件犯行に関与しておらず,被害者をk駅まで送り届け,8月29日午前7時頃に別れたなどと述べる。しかし,被告人Bが本件犯行に関与したことを合理的に説明できない上,被害者と別れる前に被害者の携帯電話機を預かり,被害者と別れた後,東京に戻る途中,l駅付近でこれを壊したという点が,被害者と別れた後の時間帯に被告人Aの携帯電話機から被害者の携帯電話機に2回メッセージが送られていることと矛盾している。その他にも不都合な点は覚えていないなどとあいまいな供述に終始するなど,全体として明らかに不自然であり,到底信用することはできない。

(4) したがって,被告人Aは,被告人Bと共謀の上,被害者を殺害し,その死体を損壊・遺棄した犯人であると認めることができる。

そして,被告人Bは,自ら被害者の首にビニールひもを掛けた上,被告人Aとともにビニールひもで5秒間程度被害者の首を絞め,その数分後,被告人Aがそのビニールひもと鉄筋曲げを使用して被害者の首を絞めて殺した際,これを特段制止することなく見ていたのであるから,被告人両名が協力して被害者を殺害したといえ,被告人Bが被害者死亡の結果について責任を負うのは当然である。

2  強盗の目的について

(1) 被告人Bは,被告人Aから本件犯行への加担を持ちかけられた際,同被告人が被害者に対して年間2000万円程度の金銭を支払っているが,それを支払いたくない,被害者がいなくなれば楽になる,被害者がいなくなれば被告人Bにもう少し回せる旨聞いていたと述べる。この供述は,本件犯行前に,被告人BがDやEに対して述べていた内容と整合するものであり,信用することができる。

加えて,被告人Aは,本件犯行当時,被害者からの借入金3040万円及び1か月当たり15パーセント又は20パーセントの金利を支払う義務があり,8月中旬頃,貸付先の1つが弁護士に相談し,同貸付先から1300万円以上の貸金を回収できなくなったことなどから,被害者への支払に窮していたこと,被害者殺害後に,被害者の携帯電話機から被告人Aの携帯電話機に内容虚偽のメッセージを送信する偽装工作を行っているが,その内容は,被告人Aが被害者に債務全額を弁済したように装ったものであること等の事実が認められる。これらの事実を考え合わせると,被告人Aは,被害者に対する上記元利金債務の支払を免れるために被害者を殺害したと認められる。

(2) 被告人Bは,本件犯行前に被告人Aから聞かされていた前記の内容からすると,被告人Aによる被害者殺害の目的がこの高額な金銭の支払義務を免れるためであるということを認識していたと認められる。

被告人Bは,その当時,経営する会社の倒産を回避するのに必死であり,被告人Aから提示された借金の返済猶予や追加融資を得たいと考えて,本件犯行に加担することを決意したと認められるところ,それと密接に関連する被害者殺害の目的についての話を自分に関係のない話として聞き流したという被告人Bの供述は信用できない。

以上から,被告人Bは,被害者殺害の目的が被告人Aの被害者に対する金銭の支払を免れるためであることを分かった上で,殺害行為に関与したものと認められる。

(法令の適用)

被告人Aの関係

罰       条

判示第1につき    刑法60条,240条後段

判示第2につき    刑法60条,190条(包括一罪)

刑 種 の 選 択

判示第1につき    無期懲役刑

併 合 罪 の 処 理   刑法45条前段,46条2項本文

未決勾留日数の算入   刑法21条

訴訟費用の不負担   刑事訴訟法181条1項ただし書

被告人Bの関係

罰       条

判示第1につき    刑法60条,240条後段

判示第2につき    刑法60条,190条(包括一罪)

刑 種 の 選 択

判示第1につき    無期懲役刑

併 合 罪 の 処 理   刑法45条前段,46条2項

本文酌 量 減 軽   刑法66条,71条,68条2号,14条1項

未決勾留日数の算入   刑法21条

訴訟費用の不負担   刑事訴訟法181条1項ただし書

(量刑の理由)

被告人両名は,ひもや睡眠薬等を事前に用意するなど十分な準備を整えた上で,殺害行為に及んでいる。その殺害方法は,睡眠薬で眠らせて抵抗できない状態にした被害者の首にひもを掛け,そのひもを10分以上も引っ張っただけでなく,被害者のけいれんが止んだ後もなおひもを引っ張り続けたというものであって,強い殺意に基づく残忍なものである。さらに,被告人両名は,殺害の痕跡を消すために,その遺体を切断した上で焼き,骨を粉々にしたうえで川に撒いており,死体損壊・遺棄の悪質さも際立っている。被害者の生命が失われたという結果が重大であるのはいうまでもなく,遺族がその死を悲しみ,被告人両名に対して,厳しい処罰を望むのも当然である。

被告人Aが被害者に対する借金の返済に窮したのは,元はといえば自らヤミ金業に従事したことが発端となっており,本件犯行のいきさつに酌むべき余地は全くない。さらに,被告人Aは,被害者と面識がなかった被告人Bを犯行に誘い込み,自らの手で被害者を死に至らしめるなど,主体的かつ積極的に殺害行為に及んでいる。このように被告人Aが強盗殺人において果たした役割は重大である。それにもかかわらず,被告人Aは,法廷で不合理な弁解に終始し,反省の色は皆無である。そうすると,被告人Aの刑事責任は誠に重く,被告人Aに対しては,一生を掛けてしょく罪の日々を送らせるほかなく,無期懲役を科すのが相当である。

被告人Bは,死体損壊・遺棄については主体的に行っているものの,強盗殺人については,経営する会社の倒産を回避するために,被告人Aの誘いに応じて関与したものであり,被告人B自身には被害者を殺害する直接の動機がないこともあって,被告人Aとともに被害者の首を絞めた時間がごく短いなど,被告人Aに比べると,関与の仕方や果たした役割に相当の違いがある。さらに,被告人Bが本件犯行を捜査機関に打ち明けたことによって,本件の真相が解明されたといえる。これらの事情を考え合わせると,被告人Bに対して,被告人Aと同じ刑を科すのは重過ぎ,酌量減軽の上で,懲役30年を科すのが相当である。

(求刑 被告人Aにつき無期懲役,被告人Bにつき懲役30年)

(裁判長裁判官 中桐圭一 裁判官 結城真一郎 裁判官 北島睦大)

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