札幌地方裁判所 平成28年(わ)908号 判決 2017年5月19日
判決
本 籍 札幌市a区・・・・・
住 居 札幌市a区・・・・・
A
上記の者に対する殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件について,当裁判所は,検察官森幹及び同小沼智並びに弁護人村田英之(主任)及び同鬼頭知一各出席の上審理し,次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役9年に処する。
未決勾留日数中80日をその刑に算入する。
札幌地方検察庁で保管中のペティナイフ1丁(平成29年領第155号符号1)を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,勤務先である風俗店の部下であったB(以下「被害者」という。)に対し,被告人が同勤務先を辞めた後に金銭を横領したため解雇されたという噂を流されたことや,被害者が部下であるCの面倒を十分に見ていなかったことに不満を抱いていた。
そこで,被告人は,対応等によっては被害者を刺そうと考え,平成28年11月16日,自宅からペティナイフ1丁(刃体の長さ約12センチメートル・平成29年領第155号符号1)を持ち出し,同人を呼び出して,同人が運転する自動車に乗車した。
そして,被告人は,
第1同日午後8時25分頃,札幌市a区・・・・・付近路上において,殺意をもって,被害者(当時39歳)に対し,前記ペティナイフで,腹部,前胸部,左胸部,右背部を突き刺すなどしたが,同人に抵抗されるなどしたため,同人に入院加療約1か月間を要する前胸部刺創,左胸部刺創,腹部刺創,右背部刺創等の傷害を負わせたにとどまり,殺害の目的を遂げなかった
第2業務その他正当な理由による場合でないのに,前記日時及び場所において,前記ペティナイフ1丁を携帯したものである。
(法令の適用)
罰 条
判示第1の行為 刑法203条,199条
判示第2の行為 銃砲刀剣類所持等取締法31条の18第3号,22条
刑 種 の 選 択 判示第1の罪につき有期懲役刑を,判示第2の罪につき懲役刑をそれぞれ選択
併 合 罪 の 処 理 刑法45条前段,47条本文,10条(重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重)
未決勾留日数の算入 刑法21条
没 収 刑法19条1項1号,2項本文(判示第2の犯罪行為を組成した物)
訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
被告人は,十分な殺傷能力を有するペティナイフを自宅から持ち出して,被害者と合流し,自動車内で,無防備の状態にある被害者の胸部,腹部という身体の重要な箇所を順次突き刺した上,同車の外に逃げようとする被害者の前に回り込み,さらにその右背部,前胸部等を強い力で複数回刺した。このような被告人の行為は,被害者の生命を奪う危険が非常に高い行為であり,強い殺意に基づく極めて悪質な犯行である。本件で被害者は重傷を負い,一時は死亡する危険が非常に高い状態にまでなったのであり,被害者が被告人を許すことができないと述べるのも当然である。
被告人は,以前,Cに腹部を刃物で刺され,その際,刺された自らの落ち度を反省するという体験をしたことから,被害者にも同じ体験をさせれば,自分の不満に気づくのではないかと考え,本件犯行に及んだと述べる。しかし,そのような被告人の考えに共感することはできない。しかも,被告人は,本件当日,被害者と1時間以上行動を共にしたにもかかわらず,自分の不満を被害者に直接伝えることなく,突如として本件犯行に及んだのであって,身勝手というほかなく,その経緯や動機に酌むべき点はない。
そうすると,被告人の責任は,同種殺人未遂事案の中ではかなり重く,被告人が公訴事実について認めていること,本件犯行後半日程度で自ら警察に連絡していること,被告人を支える前妻がいることなどを考慮しても,主文の刑を科すのが相当である。
(求刑 懲役10年,主文掲記の没収)
札幌地方裁判所刑事第2部
(裁判長裁判官 中桐圭一 裁判官 結城真一郎 裁判官 遊間洋行)