札幌地方裁判所 平成29年(わ)380号 判決 2017年12月21日
主文
被告人Aを懲役9年に,被告人Bを懲役6年に,被告人Cを懲役5年に処する。
被告人らに対し,未決勾留日数中各100日を,それぞれその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
第1被告人A及び同Cは,共謀の上,平成29年1月6日午前1時57分頃,a 市内の歩道上で,同Aにおいて,同所を通行中の D(当時35歳)が右手に持っていた同人所有又は管理の現金約20万円及び財布等43点在中の手提げかばん1個(時価合計約10万2710円相当)をひったくり窃取し,
第2被告人A及び同Bは,共謀の上,平成29年1月24日午後11時4分頃,北海道b市内の駐車場で,同Aにおいて,同所に駐車中の自動車内から,E(当時62歳)所有又は管理の現金約8万円及び財布等53点在中のバッグ2個(時価合計約5万4300円相当)を窃取し,
第3被告人3名は,共謀の上,被告人Cの勤務先であるホテルから,従業員のF(当時58歳)によって多額の売上金が運び出される機会にこれをひったくって奪い取ろうと企て,相手の抵抗等の状況次第では,その抵抗を排除して奪取を遂げるために暴力を振るい強取するに至ることもある程度想定しつつ,平成29年1月30日午前10時20分頃,北海道c市内のホテル専用駐車場で,同A及び同Bにおいて,前記Fに対し,同人が所持していた手提げバッグを強く引っ張った上,その顔面を拳で1回殴り,下腿部を足で数回蹴って,同人をその場に転倒させる暴行を加え,その反抗を抑圧し,同人管理の現金455万9951円及びバッグ1個在中の前記手提げバッグ1個(時価合計約1100円相当)を強取し,その際,同人に加療約10日間を要する両下腿挫傷,口唇部・下顎挫創等の傷害を負わせた。
(争点に対する判断)
※ 以下,この項では,被告人Aを単に「A」といい,その他の被告人についても同じ例による。また,判示第1の事実を「第1事件」と,同第2の事実を「第2事件」と,同第3の事実を「第3事件」という。「量刑の理由」の項でも以上の例に従う。
第1第1事件について
1 争点
Cの弁護人は,本件窃盗はAが1人で行った犯行であり,Cにはその共謀はなかったから,無罪であると主張している。
2 検討
(1) Aの公判供述
Aの公判供述は,概要以下のとおりである。前日から犯行前にかけて,A運転の車でCとともに2か所のパチンコ店(d市及びb市)から a 市内のe近辺まで移動しつつ,自身が運転役,Cが実行役を担うこととして,ともにひったくりをしようと,パチンコ店では換金所から出てくる客を,e近辺では低速度で徘徊しながら通行中の女性を物色し機会をうかがっていた。e近辺での徘徊中,Cがひったくりを試みたが実行できないということが3度続き,あきらめて帰ろうとしたところ,被害者が目に留まったので,Aは自らひったくりをすることとし,車を停止させた。Aは,Cに「行ってくる」と告げて本件犯行に及び,直ちにCの運転で逃走した。Aは,犯行で得た現金約20万円のうち約5万円をCに渡し,約15万円を自分のものにした。
(2) Aの公判供述の信用性及び共謀等に関する検討
ア Aは,長時間ひったくりの機会をうかがい,本件の実行役をすすんで果たしたことなど,自身に不利な事実関係を率直に述べており,両名が長年の友人であることにも照らすと,Cの関与を殊更強調して自身の処分を軽くしようとしているおそれは低いと考えられる。ひったくりをする機会を求めて,距離の離れたパチンコ店を2か所,次いでe近辺へ順次移動し,車で徘徊を続けたのを経て犯行に及んだという経過も,違和感の残らない自然な内容といえる。また,A供述のうち,e近辺での約1時間程度にも及ぶ車での徘徊状況や犯行の直前・直後の車の動きに関する部分は,防犯カメラ映像によって裏付けられている。
特に,犯行現場付近の防犯カメラ映像を見ると,Aが車を降りて被害者の方に向かうと,車のブレーキランプがすぐに点灯してその後消えることがなく,犯行を終えたAが一目散に車に戻ってきて乗り込んだタイミングで文字通り直ちに車が発進したことが確認でき,この様子からは,Cは,Aの降車後すぐに運転席に移動し,Aが戻ると車をすぐさま発進させたことが明らかである。このCの動きは,Aがひったくりの実行に当たることを認識し,自身は運転役を担おうとしたがゆえの行動としてはじめて説明がつくものである。この映像に見られる両名の手際の良さは,Cはひったくりの実行にあくまで消極的であったとする同人の供述(後述)よりも,前日から2人でひったくりをしようとその機会を求めていたというA供述にはるかに整合する。Aは,前日の段階からCとの間で,実行役が多めに利益を得るという話が出ていたとも述べており,自身が約15万円,Cが約5万円を得たというのも,一貫していて理にかなっている。以上によれば,Aの供述は十分信用することができ,これによれば,両名は意思を通じ合わせ共謀して本件のひったくりに及んだものと認められる。
なお,両名がともにひったくりに及ぼうと機会をうかがっていた経緯のほか,Cが本件で運転役という重要な役割を率先して果たし,犯行で得た現金から相応の額を受け取ったことなどからすると,Cは,他人の犯罪を容易にしたという窃盗の幇助犯ではなく,自分たちの犯罪を行うために重要な役割を果たし相当程度の利益を収めた者として,共謀共同正犯が成立すると認められる。
イ ところで,Aは,犯行に及んだ際にCを頼る気持ちはなく,1人でひったくりをし自ら運転して逃げようと思っていたもので,Cが運転席に移動していることは想定外であったとも供述している。しかし,両名は,ともにひったくりをしようと犯行直前まで長時間相手や機会を探し続けており,いったんはあきらめてf市内のAの自宅に向かおうとしたとはいえ,その後間もなくさほど移動しないうちに,被害者の姿を見つけると帰宅経路と異なる方向に右折して車を停止させ,その被害者を相手にひったくりをすることを各々認識した上で,Aにおいて犯行に及んだと認められる。Aが被害者を見つけるとためらう様子もなく実行に及び,またCが首尾よく運転役をして2人で逃走を果たしたのは,適当な相手や機会があれば2人でひったくりをしようとする意思がその時点でも立ち消えになっていたわけではなかったからであると認められ,そうである以上,両名に本件ひったくりの共謀があったと認定することに問題はないと考えられる。
(3) Cの公判供述
Cの公判供述は,概要以下のとおりである。2か所のパチンコ店でひったくりに積極的な言動をしていたのはもっぱらAであり,自身は,行き先を知らされないままAの運転でa市方面に移動し,e近辺を巡るうち,Aから,女性からひったくりをしてくるよう,かなり威圧的な態度で強く要求されたので,場を収めるためにやむなく,車を降りて女性を追うふりをした。そのようなことが2回あり,Aは「もういい」と怒ってf市方面へ向かうこととなり,ひったくりの話は終わった。すると,Aは何も言わずに車を停止させ,「運転替わって」「ちょっと待ってて」とだけ言って車を出て行ったが,何をしているかは分からなかった。特に気にせずに,助手席から運転席に移って,スマートフォンのゲームをしながらたばこを吸っていると,Aが急に助手席ドアを開け,焦る様子なく乗り込んできて「行って行って」と言うので,特に急ぐことなく発進した。その後車内でかばんを見せられ,Aがひったくりをしたことがはじめて分かった。口止め料を渡されそうになったが断った。
(4) Cの公判供述の信用性に関する検討
このようなCの供述は,Aから行き先を知らされないままa市内に移動して,長時間徘徊を続けていたという点,e近辺で,Aに威圧的に要求され,場を収めるという理由でひったくりをしようとするふりを2回したという点や,中でも,停止させた車を降りて出て行ったAの目的や行き先について,Aが降車した際も車に戻った後も気にしなかったという点で,時々の状況や前後の経過,両名の間柄等にそぐわず,不自然,不合理である。そして,犯行現場付近の防犯カメラ映像によれば,Aがかなり急いだ様子で車に駆け戻り助手席に乗り込むや,Cはすぐさま車を発進させたことが客観的に明らかであるのに,Cの公判供述は,この場面でAにもC自身にもさほど急ぐ様子がなかった旨を強調する内容となっており,やはり不自然である。Cは,Aが車に乗り込んでくる際にかばんを持っていることに気付かなかったとも供述するが,その大きさ等からして,あり得ないことというべきである。そのほか,Cには,責任を免れようと虚偽供述をする動機があると考えられることにも照らすと,本件ひったくりへの関与を争うCの供述は,信用することができない。
(5) Cの弁護人の主張に関する検討
Cの弁護人は,Aの公判供述の信用性を争っているが,その主張は,Aに対する被告人質問等でのささいな供述内容の違いを問題にしようとするものにすぎず,採用できない。
また,Cの弁護人は,Aの降車後にCが運転席に移動したのは,Aからの「運転替わって」「ちょっと待ってて」との指示に応じたにすぎず,その頃車のギアはドライブではなくパーキングに入っていたのであり,Cが運転席でブレーキペダルを踏み続けていたのは,車を直ちに発進させるためではないとも主張する。しかし,本件の関与を否定しようとするCの供述が信用できないことはすでに検討したとおりであるし,何より,Aの降車後Cがすぐに運転席に移動して,Aが戻ると車をすぐさま発進させた事実は防犯カメラ映像から動かないのであって,ギアの位置がどこであったかなど細かな事柄を挙げてそのことを争おうとする主張には,無理があるといわざるを得ない。
3 結論
以上によれば,Cには,本件窃盗の共謀共同正犯が成立するものと認定することができる。
第2第3事件について
1 争点
Cの弁護人は,Cは強盗致傷ではなく窃盗の共謀をしたにとどまる旨主張している(A及びBの弁護人も,強盗致傷罪の共同正犯の成立は争わないものの,被告人らは事前にはあくまで窃盗の共謀をしていたにすぎない旨主張している。)。
2 前提となる事実関係
関係証拠によれば,検討の前提となる主要な事実関係は,以下のとおりである。
1月24日の第2事件の後程なく,Aが,その事件は得られた金額が少なく失敗であったことなどをCに伝えると,Cは,自身が勤務するc市内のホテルから売上金が運ばれるところをねらってはどうかと言った。これに関心を示したAは,その話をBにも伝えると,Bも,詳しい話を知りたいと言った。Aは,その頃Cから,運搬する従業員として考えられるのは被害者を含め3名おり,被害者であれば腰又は足を悪くしているのですぐに奪えるのではないかといったことのほか,売上金が運び出される時間帯やルートなどの具体的な情報を聞いた。Aは,数日後には自らホテルを訪れ,Cの案内で建物内から逃走経路などの下見をし,想定される売上金の搬出ルートをCから聞くなどした。それ以降,被告人らの間でこの計画を実行することが決まり,1月30日には宴会の多額の売上金がまとめて運び出されるであろうとのCの情報をもとに,同日実行に移すこととされ,Aが実行,Bが運転,Cがホテル内部の情報提供と見張りにそれぞれ当たることとなった。
同日朝,A及びBは,Bの車に同乗して本件現場であるホテルの駐車場に行き,被害者が出てくるのを待つ間,Aが後ろから近づいてバッグを奪い,その間に,逃げやすいようにBが車を移動しておくことなどを決めた。被害者は,他の施設の売上金を受け取りに向かった後ホテルに戻り,そのことは,Cから逐一Aに伝えられた。被害者は,同日午前10時19分頃,判示のとおり売上金が収められた手提げバッグを手に持ってホテルを出て,自身の車がある駐車場に向かった。
Cは,ホテル建物と現場駐車場との間の位置に駐車した車の中にいたところ,被害者の姿を認めてAに合図の連絡をした。これを受け,Aは,車を降りていったん他の車の陰に隠れ,背後から被害者に近づいて手提げバッグを引っ張り,これを離そうとしない被害者との間で引っ張り合いになり,その際,拳で被害者の顔面を1回殴った。Bは,逃げやすいように車を少し前に移動させていたが,引っ張り合いをしている様子を目にすると,すぐに降車してAに加勢し引っ張り合いに加わり,もみ合いになるなどするうち,被害者が転倒し,A又はBのいずれかがバッグを奪って,Bの運転でともに逃走した。
その後,奪った現金の分配は主としてAが取り仕切り,被告人らは,額に差はあるもののいずれも相当額を得た(少なくとも,Aは約170万円を,Bは70万円余りを,Cは約37万円をそれぞれ得た。)。なお,被害者に暴力を振るい,口元に出血を伴うけがを負わせたことは,被告人らの間でさして話題とはされなかった。
3 検討
(1) 以上を前提に,本件犯行に先立ち,被告人らが,本件で行われたように暴力を振るって強取するに至ることを想定していたかどうか,Cにつき強盗致傷罪の共謀共同正犯の成立が認められるかどうかを検討する。
(2)ア 被告人らはそろって,被害者が抵抗することはなく,容易にひったくりをすることができると思っていたので,暴力を振るうことは想定していなかった旨を供述している。しかし,被告人らが犯行計画の中でねらいを定めていたのは,従業員が勤務先から運び出そうとする多額の売上金であり,その金額や性質からして,運搬業務に当たる従業員にとって容易には手放せない重要な所持品であったことが明らかであり,被告人らにとっても,これが入った手提げバッグ等を突然奪い取ろうとした場合には,相手が,これを握り持つ手に力を入れて離そうとしないなど激しい抵抗をすることも常識的に想定される状況にあったと認められる(特にAは,第1事件及び第2事件を実行した際,被害者から何らかの形で抵抗されたことが認められ,より多額の現金を所持していると思われる相手をねらう第3事件では,強い抵抗を受けることが容易に想定されたと認められる。)。そうであるのに,被告人らの間では,抵抗を受けるなどした場合に,例えば,手荒な手段には出ずに犯行を止めて逃走するなど,暴力を使ってその抵抗を排除しようとはしない無理のない実行の仕方にとどめる話し合いがされた形跡はない。
むしろ被告人らは,Cからのリークや下見を通じ情報を収集しながら犯行の計画・準備をして実行に臨み,また,Aが被害者との間でバッグの引っ張り合いをすると,Bがこれに加勢して,被害者を転倒させるまで2人がかりで強く引っ張り合いを続けるなど,バッグを奪い取ることを断念しなかった。これらの一連の経過を通じ,被告人らの間では,売上金の奪取を遂げようとするかなり強固な意思があったことも明らかというべきである。Cについては,最初に計画を提案した張本人であり,多くの情報をAに提供していた上,実行予定日の前に手の指にかなり重いけが(開放骨折)を負って手術を受け,相当期間ホテルには出勤しない扱いになるという予想外の事態が生じたにもかかわらず,本件当日は計画どおりホテルに赴いて情報提供と見張りの役割を果たしたことが認められ,やはり計画実行に向け強い意思を有していたと認められる。
加えて,本件の後も,被告人らの間では,被害者に暴力を振るいけがを負わせたことはほとんど話題になっておらず,当時の状況を確認したり,互いを責めたりするような様子もほとんどなかった(なお,犯行直後に現場付近で被害者と顔を合わせたCは,その際,被害者がけがをしたことを知りながら特に動揺する様子を見せなかったことも認められる。)。このような被告人らの態度や反応は,被害者に暴力を振るいけがを負わせたことが全く想定外であったとすると,説明がつかないものである。
イ たしかに,被告人らは武器等を準備しておらず,現に行われた暴行の内容も執拗なものではなかったことに照らすと,計画段階から積極的,意欲的に暴力を用いる考えでいたと認定することはできず,むしろ,被害者の抵抗にあうことなく首尾よくバッグを奪い取ることが望ましいと考えていたともみられる。しかし,先のような計画の内容,計画実行に向けた意思の強さ,その後の被告人らの態度等からすると,被告人らの間では,抵抗にあうなどする可能性があり,そのような場合には,実行役の者が本件で行われたような程度の暴行に及んでバッグを強取するに至ることがあることは,考えられる事態の推移としてある程度想定・認容されていたものと認められる。
(3) なお,Cの弁護人は,被告人らは,被害者のことを足の悪い弱々しい年配の人物であると認識していたから,体格が良く力も強いAは極めて容易にひったくりをすることができると思っていたと主張する。しかし,体格,力等において勝っているからといって,被害者は現に売上金の運搬を任されている従業員であって,その被害者が手に握るなどして持ち運んでいる売上金在中のバッグを,被告人らが述べるように,いとも簡単に奪い取ることができるものとしか認識,想定していなかったというのは,常識的には信じ難いところである。売上金の運搬を担当するであろう複数の従業員のうち,体格等が劣る被害者を選んで標的にしたのは,力勝負になってもAは奪い取ることに失敗しない,つまりは強引にでも売上金を奪い取ることができるという展開をも予想し,そのような期待を寄せていたことの現れともいえるのであって,上記主張は先の認定を妨げるものではない。
4 結論
(1) 以上によれば,被告人らは,本件で行われたように暴力を振るって強取するに至ることをある程度想定していたと認められ,Cにも本件強盗致傷の共謀共同正犯が成立するものと認定することができる。
(2) なお,Bの弁護人は,Bが被害者の足を数回蹴ったとの点を争っている。
この点,被害者は公判で,最初に現れたAとの間でバッグの引っ張り合いをしていると,次に現れたBに足を蹴られ,その後にAに殴られたと述べているところ,その供述は捜査段階から著しく変化するなど不安定なものとなっており,被害状況を正確に再現できているとは認められない。しかし,被害者は,蹴られたこと自体の記憶は保たれていると認められ,何より被害者には,転倒した際に生じるとは考え難い両足のすねの位置に1か所ずつあざが残されていた。そして,Aは,自身と被害者のところに駆けつけてきたBが,走ってきた勢いで蹴ったのではないかと思う,あるいは,Bが左足で被害者の右足の下の方を蹴ったと思うと,あいまいながらもその限度では一貫して述べている(Aは,自身が蹴ったことはなかったと供述している。)。またBも,もみ合う中で自身の足が被害者の体に1回当たったと思うと述べている。以上によれば,Aとともに被害者との間でバッグを引っ張り合うなどしてもみ合いになっていたBが,そのもみ合いの間に,どの程度意識的にかはともかく被害者の足を数回蹴ったという事実は,十分認められる。そこで,判示のとおり認定した。
(累犯前科)
1 被告人Aについて
(略)
2 被告人Bについて
(略)
(法令の適用)
※ 特に記載のない限り被告人らに共通である。
罰 条
判示第1の所為(被告人A及び同Cにつき)
刑法60条,235条
判示第2の所為(被告人A及び同Bにつき)
刑法60条,235条
判示第3の所為
刑法60条,240条前段
刑 種 の 選 択
判示第1の罪について 被告人A及び同Cにつきいずれも懲役刑
判示第2の罪について 被告人A及び同Bにつきいずれも懲役刑
判示第3の罪について いずれも有期懲役刑
累 犯 加 重(被告人A及び同Bにつき)
刑法56条1項,57条(被告人Aにつき判示各罪の刑に,同Bにつき判示第2及び第3の各罪の刑にいずれも再犯の加重〔ただし,判示第3の罪につきいずれも刑法14条2項の制限内〕)
併 合 罪 の 処 理
刑法45条前段,47条本文,10条(被告人Aにつき最も重く,同B及び同Cにつき重い判示第3の罪の刑に法定の加重〔ただし,被告人A及び同Bにつき刑法14条2項の制限内〕)
酌 量 減 軽(被告人Cにつき)
刑法66条,71条,68条3号
未決勾留日数の算入
刑法21条
訴 訟 費 用 の 処 理
刑訴法181条1項ただし書(不負担)
(量刑の理由)
1 第3事件は相当計画的な犯行であり,ホテルに与えた財産的被害も非常に甚大である。暴力を用いることは明示的,確定的には予定されておらず,暴行や被害者のけがは軽微なものにとどまるものの,犯情はかなり悪い。
第1事件は,長時間ひったくりの機会を探った後に,実行役と運転役を分担して手際よく行われており,被害額も大きい。第2事件は,パチンコ店の換金所の金をねらおうと,出てきた従業員が車の雪下ろし等をしているすきに車に乗り込んで発進し,車ごと所持金品を奪うという危険な計画のもと,下見等を重ねて実行されている。車をスムーズに発進できず被害者の抵抗にあうという想定外の事態が起きたものの,バッグを盗むことには成功しており,財産的被害も相応に深刻である。第1事件と第2事件の被害者の処罰感情は厳しい。
2(1) Aは,全ての事件で準備・計画を主導的に進め,実行役を果たした主犯である。常習性が認められる上,その手口は事件を追うごとに大胆かつ巧妙になっている。最も多くの利益を得たのはAであり,窃盗罪による累犯前科があることをも踏まえると,情状は最も重い。
(2) Bは,第2事件では運転役を担ったのみであるが,第3事件では,AとCの計画に乗る形で運転役として参加し,現場では臨機応変にAに加勢し,執拗にバッグの引っ張り合いをするなど現金を奪い取るのに重要な役割を果たした。第2事件ではAと同等の現金4万円を得,第3事件でも相当多額の現金を得ており,窃盗罪等による累犯前科2犯があることにも照らすと,Aほどではないにせよ,その情状は重い。
(3) Cは,第1事件では,逃走するために首尾よく運転役をし,自ら実行に当たるかどうかはともかく,Aとともにひったくりを遂げようとする強い意思があったと認められる。第3事件では,勤務先の売上金の運搬状況に関する内部情報を提供し,当日も標的となる従業員の動きを報告して,Aに実行のタイミングを合図するなどしている。Cは,第3事件のきっかけを作るとともに,犯行に必要な情報の源として,他の者には果たすことのできない文字通り必要不可欠な役割を果たし,AやBほどではないにせよ多額の現金を得た。Cは強取の実行に加わっていないが,その関与の仕方は,自身の地位を悪用してAとともに犯行を主導したとも評価すべき卑劣なもので,厳しい非難を免れない。Cには前科がないが,情状は悪く,相応の責任を問う必要がある。
(4) 他方,第3事件に限っては,BとCは被害者に合計20万円の被害弁償をし,被害者は両名を許すとの意向を示している。また,両名はホテルにも合計200万円の被害弁償をしている。これらの点は,B及びCのために十分考慮する必要がある。
3 そこで,同種又は類似の強盗致傷事案での量刑傾向を踏まえつつ,前記の重要な情状のほか,被告人らが謝罪の態度を示し,それぞれ親族又は知人による支援や監督が期待できること,Aは,出所後被害弁償に努めると述べていること,Bは,第2事件の被害者に相当額の弁償を申し出たこと,Cは,社会復帰後第3事件のホテルの被害回復に更に努めると述べていること,一方で,特に第1事件について不自然な弁解を多くするなど,反省がうかがえないことなどを考慮し,各々の刑を定めた。
(求刑 被告人A・懲役10年,被告人B及び同C・いずれも懲役7年)
(各弁護人の科刑意見 被告人A・懲役5年,被告人B・懲役3年6月,被告人C・刑の執行猶予)
札幌地方裁判所刑事第3部
(裁判長裁判官 金子大作 裁判官 坂田正史 裁判官 山田雅秋)