札幌地方裁判所 平成3年(わ)61号 判決 1991年4月23日
本店所在地
札幌市白石区菊水六条二丁目九番八号
株式会社清和機械製作所
(右代表者代表取締役 安岡英夫)
本籍
札幌市東区北一五条東一二丁目二六一番地の二
住居
同市厚別区大谷地東二丁目五番七〇
コープ野村大谷地一一〇号室
会社役員
安岡英夫
大正一一年一月一〇日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官葛西敏一出席、弁護人太田三夫出頭のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人株式会社清和機械製作所を罰金一〇〇〇万円に、被告人安岡英夫を懲役一〇月に処する。
被告人安岡英夫に対し、この裁判確定の日から三年間、その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人株式会社清和機械製作所(以下「被告会社」という。)は、肩書地に本店を置き、鉄筋加工組立て工事一式等を目的とする資本金二〇〇〇万円の株式会社であり、被告人安岡英夫(以下「被告人安岡」という。)は、被告会社の代表取締役(但し、平成元年一二月一日から平成二年九月六日までの間は取締役会長)としてその業務全般を統括するものであるが、被告人安岡は、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、架空及び水増し経費の計上並びに棚卸除外などの不正な方法により所得を秘匿したうえ、昭和六四年一月一日から平成元年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億一八九八万七一四二円であり、これに対する法人税額が四八四六万一六〇〇円であるにもかかわらず、平成二年二月二八日、札幌市豊平区月寒東一条五丁目三番四号所在の所轄札幌南税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一五〇四万〇一〇一円であり、これに対する法人税額が四八〇万三八〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法廷納付期限である同日を徒過させ、もって不正行為により同会社の右事業年度の正規の法人税額との差額四三六五万七八〇〇円を免れたものである。
(証拠の標目)
一 被告人安岡の当公判廷における供述
一 被告人安岡の検察官に対する供述調書二通
一 長谷山利雄、旅家靜雄、田中龍司、中川真由美、杉中智子、安岡勝の検察官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書、売上高調査書、売上値引調査書、期首製品棚卸調査書、外注費(売上原価)調査書、期首材料調査書、材料仕入(製造原価)調査書、期末材料調査書、工賃(製造原価)調査書、雑給(製造原価)調査書、運賃(製造原価)調査書、旅費交通費(製造原価)調査書、期首仕掛品調査書、期末仕掛品調査書、旅費交通費(函館営業所原価)調査書、期末製品棚卸高調査書、役員報酬調査書、給料手当調査書、雑給調査書、旅費交通費(販売費及び一般管理費)調査書、接待交通費調査書、受取利息調査書、雑収入調査書、固定資産売却調査書、寄付金の損金不算入額調査書、交際費の損金不算入額調査書、事業税認定損調査書、調査事績報告書
一 札幌法務局登記官認証の商業登記簿謄本及び同登記簿役員欄謄本(二通)
一 法人税決議書綴((株)清和機械製作所)一綴
(法令の適用)
被告人安岡の判示所為は法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で同被告人を懲役一〇月に処し、情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間、その刑の執行を猶予することとする。
さらに、被告人安岡の判示所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については法人税法一六四条一項により同法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、免れた法人税の金額の範囲内において罰金一〇〇〇万円に処することとする。
(量刑の理由)
本件は、被告会社の創業者としてその経営の実権を握っていた被告人安岡が、同会社の経理処理上安定的な利益計上を図るとともに会社の交際費や自己の個人的用途のため自由に使える裏金を捻出するため、被告会社の業務に関し、判示のとおりの不正な方法によって所得を過少に申告し、一年間に四三六五万円余りの法人税を免れたという事案であるところ、ほ脱税額は高額であり、ほ脱率も約九〇パーセントと極めて高率であるうえ、その手段も、給料や旅費交通費等の架空・水増し計上、仕入の架空・繰延べ計上、期末棚卸除外等多様かつ巧妙であり、犯情は悪質である。しかも、本件犯行は、被告人安岡自らの具体的指示に基づくもので、脱税による利益の多くが海外旅行、前妻への生活費等同被告人の私的用途に費消されており、動機において酌むべき事情に乏しく、被告人らの刑事責任は重大であるといわざるを得ない。
しかし他方、被告会社においては、すでに本件につき修正申告のうえ、修正後の本税の納付を完了していること、本件に関し新聞報道がなされたほか、本件を原因として官公庁から指名停止の処分を受けたり営業の自粛を求められるなど相応の社会的制裁を受けていること、今後経理部門への電算機の導入や取引銀行からの人材の派遣など管理体制の強化が図られる見通しであること、被告人安岡においては、前科・前歴が全くなく、本件犯行について自己の非を認め反省の情を示していることなど被告人らに有利な事情も認められる。
そこで、これら諸般の事情を総合考慮して主文のとおり刑を量定した次第である。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 河合健司)