大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌地方裁判所 平成3年(ワ)71号 判決

原告

石﨑大介

宮崎恒一

右両名訴訟代理人弁護士

佐藤義雄

右同

浅井俊雄

右同

長野順一

右同

米屋佳史

被告

北海道

右代表者知事

堀達也

右訴訟代理人弁護士

齋藤祐三

右指定代理人

関忠則

右同

吉村雅典

右同

久保義和

右同

横山雄一

右同

鳥居塚達之

右同

神澤雅之

右同

山本忠輝

右同

式部豊

被告

右代表者法務大臣

前田勲男

右指定代理人

都築政則

右同

佐藤雅勝

右同

大谷久

事実及び理由

第三 争点に対する判断

二 原告両名に対する逮捕の違法性について

逮捕は逮捕当時の各種証拠資料を総合し、合理的、客観的に判断して、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当の理由があり、かつ逮捕の必要性が認められる場合に限り適法であると解するのが相当である。そこで、本件逮捕までに収集した証拠資料及び捜査状況に基づいて検討する。

ところで、本件では、捜査機関において原告両名が本判件事件を犯したと疑うに足りる相当の理由があると判断した理由が、主として鈴木の供述を信用すると判断したことにあることが明らかであるから、以下鈴木供述の信用性を中心に検討を加える。

1  鈴木供述の信用性

(一)  鈴木が本件事件の被疑者として浮上したことについて

鈴木が本件事件の被疑者として浮上した経緯は前認定のとおり鳥畑及び被疑者長谷川の各供述によるものであるので右各供述の信用性について検討する。

(1)  鳥畑供述(前記一1(七))について

本件事件の現場付近の道道四八九号線沿いには、当時、約三〇メートル間隔で街灯が設置されていたし(乙第80号証)、鳥畑が、本件事件を目撃した地点には街灯があり、また、鳥畑が、かなりのスピードで走行してくる二台の車を始めて発見したとき、車との距離は十数メートルにすぎなかった(前記一1(七))。以上の事情からすると、ワゴン車の車体に黄色の文字が書かれていたことの認識が困難であったとは認められない。また、鳥畑が、ワゴン車にトマムと書かれていたと思う根拠も、日ごろからトマムの車をよく見ているからというもので、しかも、当時、ホテルアルファのワゴン車には、黒色の車体の正面、両側面及び後ろ正面にそれぞれ黄色のアルファベットで「TOMAMU」ないし「VAKANZA」と記載されていた(乙第14号証の4・5)のであるから、格別不自然、不合理な点は認められない。したがって、当時、富良野署が鳥畑供述の信用性は十分であると評価したことに不合理な点はない。

ところで、原告両名は、鳥畑と工藤の供述が一致しない旨主張するけれども、そもそも工藤は、鳥畑の供述と矛盾する供述をしているわけではなく(前記一1(九))、鳥畑と工藤の供述が一致しないことをもって、直ちに鳥畑供述の信用性が低いということはできない。

(2)  被害者長谷川の供述について

たしかに、原告両名の主張のとおり、写真面割りあるいは面通しの結果について被害者両名の供述の間に食い違いがあったことが認められる。

しかしながら、被害者両名が暴行を受けた場所及び相手はそれぞれ異なっており(前記一1(三))、このように暴行を受けた相手あるいは場所が異なる本件において、被害者両名の供述が一致しないことをもって直ちに被害者長谷川の供述の信用性が低いと言うことはできない。

むしろ、被害者長谷川は、本件発生直後から一貫して、犯人の人数、服装、人相及び体格等を具体的に供述しており、また、写真面割りの過程に警察官の誘導の介在した形跡もないこと、本件事件当時の現場付近の街灯の設置状況(乙第80号証)、被害者長谷川があえて虚偽の供述をする事情は認められないこと等からとすると、突然の出来事で記憶が明確になりにくい面のあることを考慮しても、当時、富良野署が、被害者長谷川の供述を信用したことは、経験則あるいは論理則に反するものとはいえない。

よって、鈴木が本件事件の被疑者として浮上した過程に不合理、不自然な点はない。

(二)  鈴木の供述について

(1)  鈴木の捜査機関に対する供述の状況、内容は前記一2(一)の(2)、(5)、(6)、同(二)の(1)、(2)、同(三)の(1)、一4(一)の(4)、同(二)の(1)、(2)に認定のとおりであるところ、取調べが強制あるいは特段誘導にわたるといったことはなく、自ら、共犯者として原告両名の名を挙げたり、一二月一四日の実況見分の際の指示説明を行ったものであること(証人鈴木)、右鈴木の捜査機関に対する本件犯行を認める供述は、犯行の動機、態様とも具体的で、供述中被害車両に追い越しをかけた地点や被害車両を停止させた地点について記載した図面も被害者両名の供述や実況見分における指示説明と概ね一致する者であったことを認めることができる。

(2)  ところで、原告両名は、橋場巡査が鈴木の両親が鈴木のアリバイを否定する供述をしている旨虚偽の事実を鈴木に告げ、動揺した同人が橋場巡査に迎合して犯行を認め、原告両名の名前を共犯者として挙げたものである旨主張する。しかしながら、鈴木の両親が、一二月四日には、鈴木のアリバイを否定する旨の供述をしていたことは前記一2(一)(3)で認定したとおりであり(なお、鈴木の両親が最終的に鈴木が一一月一一日から一二日にかけて自宅にいたことは明確に記憶していないとの供述をしていることに照らして、右供述に警察官の作為があったとは認めがたい。)、そもそも原告両名が前提としている事実が存在しないし、鈴木の同僚である松本も、鈴木がホテルを出た時刻について鈴木の供述を否定する供述をしている(同人が鈴木を陥れるために特に虚偽の供述をしたことを窺わせる事情もない。)。

(3)  右(1)、(2)に加えて、一一月二八日、鈴木が本件事件の犯人として被害者長谷川に謝罪したと受け取られてもやむをえないような発言をしたこと、鈴木が一二月四日取調べを終えてホテルアルファに戻る途中で、木村管理部長に対して本件犯行を認める趣旨の供述をしていたこと、さらに、本件事件では、当初から三名による共犯事件として捜査が行われており、鈴木は原告両名の名前を共犯者として挙げたことによりその刑事責任が軽くなるものではないし、共犯者について積極的に虚偽の供述をしなければならなかった事情も見いだしがたいこと、鈴木の各供述の間には乗車してきたワゴン車を停車した位置について食い違いがみられる部分もあるが、本件事件が深夜突発的に発生したものであることを考慮すればこのことから直ちに鈴木の供述全体が信用できないといえるものではないこと、時に否認に転じたことはあったものの、否認した理由についても一応納得しうる説明がなされており、検察官による弁解録取、勾留質問においてもいずれも原告両名とともに本件の犯行を行ったことを認める供述をしていることを総合すると、富良野署において、鈴木の、本件事件を原告両名と犯したという供述を十分信用しうると判断したことは合理的なものといえる。

2  アリバイ供述についての捜査

(一)  原告宮崎関係

(1)  原告宮崎は、同原告が詳細なアリバイ供述をしたにもかかわらず、富良野署はこれを無視し、必要な裏付け捜査をしなかった旨主張する。しかしながら、富良野署が、原告宮崎のアリバイ供述を受けて、菊池、鎌沢及び佐々木の三名から事情聴取したことは、前記一3(四)で認定したとおりである。そして、右事情聴取に対して、三名はいずれ、原告宮崎の供述に一致する内容の供述をしたが、一方、本件事件当時の行動を富良野署の事情聴取に先立ち原告宮崎から確認されていたことも判明した。また、菊池及び鎌沢が原告宮崎と一緒に見たというテレビ番組の内容があいまいであった上、捜査の結果、その放送時間が変更になっており、菊池及び鎌沢が見たと供述している時刻より、それぞれ三〇分ずつ遅く放送されたことも明らかとなった(前記一3(四)(4))。しかも、三名は、いずれも原告宮崎と親しい関係にあったのであるから、富良野署がこれらを総合的に判断し、テレビ番組の放送時間が事実と異なることやアリバイを事前に確認していたことから謀議があったのではないかと疑問を持ち、三名の供述の信用性を低く考え、その結果として原告宮崎のアリバイが不存在と判断したことについて一概に不合理であるということはできない。

(2)  ところで、原告宮崎は、<1>アリバイについて、事前謀議があったならば、むしろ番組の放送時間というもっとも重要な事実に食い違いが生じるはずがない、<2>しかも、佐々木は正しい時間を記憶していたのであるから、佐々木を含めて事前謀議が行われていたのであれば、番組が三〇分ずつずれていた事実に気がつき、客観的事実に供述をあわせようとしたと考えられる、<3>原告宮崎は、自己が犯人と疑われていることを知って、菊池、佐々木、鎌沢に事件当日のアリバイについて確認したことを任意の取調べの段階から率直に述べているが、これが事前謀議であれば率直に述べるはずがない旨主張する。

たしかに、右指摘のような判断をすることも可能であると思われるが、だからといって右(1)のとおり判断することが全く不合理であるというわけではないから原告両名の主張するところを考慮しても前記結論に変わりはない。

(二)  原告石﨑関係

原告石﨑が身柄拘束前の任意の取調べにおいては、具体的なアリバイを供述していなかったことは前記一3(三)で認定したとおりである。

3  以上に検討したところによれば(なお、富良野署において他に当然なすべき必要な捜査を怠っていたことを認めるに足る証拠はない)、富良野署において、一二月一六日当時、鈴木の、原告両名が共犯者であるとの供述は信用するに足りるものであり、原告両名が本件事件を犯したと疑うに足りる相当な理由があると判断したことは経験則、論理則に照らして合理性を有すると考えられ、また本件犯行が三人共犯による事件であること、物的証拠の乏しい事案であることを考慮すると明らかに逮捕の必要のない場合に該当しないと判断したことも不合理とはいえない。

三 本件勾留の違法性について

1  原告両名の逮捕後、本件勾留請求に至るまでの捜査の経緯は時間的制約もあって前記一5(二)に認定したとおり、鈴木が従前どおりの供述をしたほか、被害者両名に原告両名の面通しをしたのみで(この結果については後記2に検討する)、基本的な証拠資料は逮捕時と異なるものではないから、原告両名が逮捕後も一貫して犯行を否認していること、後記2で検討する被害者両名の指摘する犯人の特徴と原告両名の特徴に食い違いのみられたことを考慮しても、渡邉検事において、原告両者が本件事件を犯したと疑うに足りる相当な理由があると判断したことは経験則、論理則に照らして合理的なものでまた本件事件が三人共犯による事件であること、深夜の事件で目撃者も物的証拠も乏しい事案であること等を考慮すると証拠湮滅の可能性があると考えたことも合理的な判断であったと認めることができる。

2  被害者指摘の犯人の特徴と原告両名の特徴の不一致等について

(一)  たしかに、被害者両名が本件発生直後から一貫して指摘してきた犯人の特徴と原告両名の特徴には一致しない点もある(弁論の全趣旨)し、また、被害者長谷川は、原告石﨑について逮捕直後に面通しした際、犯人に似ていないような感じがする旨述べていたことが認められる(前記一5(二)(2))。

(二)  しかしながら、まず、被害者両名が供述した犯人の特徴と原告両名の特徴の不一致の点について検討すると、犯罪捜査における似顔絵あるいは犯人の特徴についての被害者両名の供述は有力な資料ではあるけれども、一方あくまでも捜査の一資料にすぎないのであるし、とくに本件は、被害者両名が夜間に暴行を受けた事件で、被害者らが犯人について冷静に観察する機会があったものではないから、似顔絵あるいは犯人の特徴についての被害者らの供述を絶対的なものとすることはできない。また、鈴木は一貫して原告らを共犯者として供述(なお、鈴木供述の信用性については右二1のとおりである。)していたし、鈴木に対する面通しの結果、被害者らは犯人に似ている旨述べていた。しかも、原告らが指摘する不一致の点は、男女の性別のようにいずれも著しく矛盾するものでもなかったことをも考慮すると、原告両名が主張する程度の被害者らが供述した犯人の特徴と原告らの特徴に不一致があったからといって、原告両名に対する嫌疑が否定されるものではない。

(三)  そして、以上の事情に加えて、被害者長谷川が、原告石﨑の逮捕後の面通しで、原告石﨑は犯人ではない旨断定していたわけではないから、原告石﨑は犯人に似ていないように思う旨述べたからといって、直ちに原告石﨑の嫌疑が否定されることにはならない。

四 原告両名に対する勾留の継続について

1  たしかに、前記一7(四)のとおり、谷口警部は、一二月二一日にいわゆる鑑取りの結果、原告石﨑は白に近いとの心証を得ており、また、鈴木と原告石﨑を面会させた際、鈴木が原告石﨑は関係ない旨述べていたことが認められるほか、原告両名も一貫して本件犯行を否認しており、鈴木も一二月二五日には本件犯行否認するに至っている。

2  しかしながら、原告両名の勾留後の捜査の経過は前記一7に認定したとおりであり、捜査機関において順次必要と思われる捜査を行っていたことを認めることができ、加えて、その後の裏付け捜査の結果、<1>原告石﨑は事件発生時刻ころに橋本の部屋に居たと供述したが、橋本自身はそれが何時のことか日時の特定はできないと供述したこと、また、<2>原告石﨑は、その日、橋本の部屋に渕上がやって来たと供述したが、渕上自身は札幌に出掛けて橋本の部屋へは行っていない旨明確に供述したこと、さらに、<3>原告石﨑は紫色の衣類を所持していないと供述したが、捜査の結果、原告石﨑の居室から同色のポロシャツとトレーナーが出てきたことから、谷口警部自身、原告石﨑が白に近いとの従前の心証が揺らぎ始めていたこと(証入谷口)、一方、鈴木は、逮捕の翌日以降原告石﨑との面会との後も一二月二五日までは一貫して原告両名と共謀して本件事件を敢行したと述べ、さらに犯行態様についても図面を作成した上、具体的に供述していたこと、また、被害者両名が、逮捕された原告宮﨑について面通しをした際、原告宮﨑が犯人の一人に似ている旨明確に述べていたこと等を総合すると、渡邉検事がなお勾留の理由、必要があると判断して勾留期間満了前に原告両名を釈放しなかったことをもって違法であるとまでいうことはできない。

五 取調べの違法について

1  原告宮崎に対する暴行、脅迫について

原告宮崎は、山川巡査部長から頭を小突かれたり、あるいは「おれをクビにするつもりか」と発言されたと供述するが、同人の供述によるも、その態様は極めて曖昧で、取調べ中の合間に一服している間に「おれをクビにするつもりか」と発言された、また、留置場から取調室への移動の際に、しっかりしろよとの趣旨で軽く頭を押されたという程度のことで、冗談めかしたやり取りのなかでの行動であることを認めることができる。

そうすると、これによって、本件取調べが国家賠償法上の違法性を帯びるとまでいうことはできず、他に、違法と評価しうる暴行、脅迫がなされたことを認めるに足りる的確な証拠はない。

2  原告石﨑に対する暴行、脅迫について

原告石﨑は、取調べ中に谷口警部から暴行を受けたと主張し、一二月二一日の取調べにおいて、犯行を否認した際、谷口警部から大学ノートを丸めたもので頭を数回叩かれたと供述する。しかし、原告石﨑の供述は、「紙を丸めたもので叩かれた。」あるいは「大学ノートで叩かれた。」などと曖昧と言わざるを得ないうえ、仮に右のような暴行があったとすれば、原告石﨑は、翌二二日に佐藤弁護士が接見した際に右暴行について何らかの訴えをし、これを聞いた佐藤弁護士がその後に谷口警部と面会して原告両名の釈放を求めた際に暴行についても厳重に抗議するのが自然であるが、当時、佐藤弁護士は、もっぱら原告両名が犯人ではないということを理由として釈放要求をしており、暴行については全く話題に上っていないことが認められる(証人谷口、弁論の全趣旨)。また、渡邉検事の取調べ時にも、警官の暴行について訴えていないことは原告石﨑が認めるところである。

さらに、脅迫を受けたとの原告石﨑の供述も具体性を欠き直ちに採用しがたい。

したがって、結局、原告石﨑の供述から本件取調べにおいて、同原告に対して、取調べを違法とするような暴行脅迫が加えられたことまでを認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

3  以上によれば、本件取調べは、原告両名に対して、担当の警察官が暴行などを加えた違法なものとまで認めることはできず、原告両名の主張には理由がない。

六 結論

よって、原告両名の請求は、いずれも理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石田敏明 裁判官 大野和明 小出啓子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!