札幌地方裁判所 平成4年(わ)1282号 判決 1993年3月16日
本籍
北海道滝川市江部乙町西一二丁目一二六〇番地
住居
同市江部乙町西一二丁目五番二一号
会社役員
運上俊美
昭和二一年一月二三日生
主文
被告人を懲役一年及び罰金一四〇〇万円に処する。
罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間懲役刑の執行を猶予する。
理由
(犯罪事実)
被告人は、北海道滝川市内に居住し、運上組の屋号で型枠工事業を営んでいたが、所得税を免れようと企て、
第一 昭和六三年分の実際所得金額が二八四八万一九七三円であり、これに対する所得税額が八九六万四一〇〇円であるのに、平成元年二月二一日、住所地を管轄する滝川市大町一丁目八番一四号所在の滝川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二八三万八三三二円であり、既に源泉徴収された税額一八万五七一三円の還付を受けることになる旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、偽りその他不正の行為により正規の所得税額とその申告税額との差額九一四万九八〇〇円を免れた。
第二 平成元年分の実際所得金額が四八四一万三六五五円であり、これに対する所得税額が一九一五万五六〇〇円であるのに、平成二年二月一九日、前記滝川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三四四万二六〇〇円であり、既に源泉徴収された税額一一万二八九八円の還付を受けることになる旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、偽りその他不正の行為により正規の所得税額とその申告税額との差額一九二六万八四〇〇円を免れた。
第三 平成二年分の実際所得金額が六八二六万五七六九円であり、これに対する所得税額が二八九二万八八〇〇円であるのに、平成三年二月二一日、前記滝川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三三四万八二〇〇円であり、既に源泉徴収された税額一三万九九六二円の還付を受けることになる旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、偽りその他不正の行為により正規の所得税額とその申告税額との差額二九〇六万八七〇〇円を免れた。
(証拠)
判示事実全部について
一 被告人の公判供述
一 被告人の検察官調書(乙一)
一 運上弘子の質問てん末書(甲二一ないし二三)
一 現金調査書(甲一)
一 預貯金調査書(甲二)
一 有価証券調査書(甲三)
一 保険積立金調査書(甲四)
一 前払金調査書(甲五)
一 前払保険料調査書(甲六)
一 貸付金調査書(甲七)
一 車両運搬具調査書(甲八)
一 土地調査書(甲九)
一 建物調査書(甲一〇)
一 借入金調査書(甲一一)
一 仮受金調査書(甲一二)
一 未払金調査書(甲一三)
一 事業主貸勘定調査書(事業所得)(甲一四)
一 事業主借勘定調査書(事業所得)(甲一五)
一 申告所得調査書(事業所得)(甲一六)
一 事業主貸勘定調査書(利子所得)(甲一七)
一 事業主貸勘定調査書(給与所得)(甲一八)
一 事業主貸勘定調査書(雑所得)(甲一九)
一 事業主借勘定調査書(譲渡所得)(甲二〇)
一 所得税の修正申告書謄本(甲二四)
一 領置てん末書(甲二八)
一 所得税の確定申告書綴り(平成五年押第三三号の1)
判示第二及び第三の事実について
一 調査事績報告書(甲三〇)
判示第三の事実について
一 調査事績報告書(甲二九)
(適用した法令)
罰条 いずれも所得税法二三八条一項、二項
刑種の選択 いずれも懲役刑及び罰金刑の併科
併合罪の処理 刑法四五条前段
懲役刑 刑法四七条本文、一〇条(犯情の重い第三の罪の刑に加重)
罰金刑 刑法四八条二項
労役場留置 刑法一八条
懲役刑の執行猶予 刑法二五条一項
(量刑の事情)
本件は、型枠工事業を営んでいた被告人が、従業員の宿舎建設費や身体に障害を抱えた長女の将来の生計費等を捻出するため、事業所得である工事請負代金を仮名口座に入金させ、家族名義、借名名義で分散預金するなどして所得を隠匿した上、少額の給与所得者と偽る方法により、昭和六三年度から平成二年度まで、三年分合計五七四八万円余の所得税を免れた脱税事案である。その脱税額が少なくないのはもとより、逋脱率も一〇〇パーセントを越えており国庫収入に損失を与え、租税の公平な負担の原則を侵害した結果は重大である。また、その手口は、計画的かつ巧妙であり、動機も独断というほかなく、被告人の刑事責任は軽くない。
しかし、被告人は、本件犯行が発覚した後は、犯行を素直に認め、税務調査に協力し、修正申告に従って所得税本税、重加算税、延滞税、消費税合計九八一五万円余、個人事業税六八二万円余を完納し、道市民税一一三八万円余も納付する予定であり、今後は、事業を法人化して専門家の税務監査を受けるなど再発防止策を講じながら、納税義務を果たして行く姿勢を示しており、反省の情も顕著であること、被告人に前科のないこと、その他被告人の経歴、生活態度など被告人のために有利な若しくは酌量すべき事情も認められる。
以上の事情を総合考慮すると、被告人に対しては、判示懲役刑及び罰金刑を併科し、その懲役刑の執行を猶予するのが相当である。
(出席検察官 本多裕一郎、弁護人 斎藤祐三、求刑 懲役一年及び罰金一八〇〇万円の併科)
(裁判長裁判官 中野久利 裁判官 遠藤和正 裁判官 伊東顕)