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札幌地方裁判所 平成9年(ワ)1412号 判決 2002年9月27日

主文

1  原告らと被告との間で,原告らと訴訟承継前被告W農業協同組合との間の平成5年2月27日付け「債権処理計画に係る確認書」に基づく原告らの被告に対する債務が存在しないことを確認する。

2  原告Aと被告との間で,同原告と訴訟承継前被告W農業協同組合との間の平成7年5月9日付け損失補填契約に基づく原告Aの被告に対する元本債務が9597万9200円を超えて存在しないことを確認する。

3  原告Bと被告との間で,同原告と訴訟承継前被告W農業協同組合との間の平成7年5月16日付け損失補填契約に基づく原告Bの被告に対する元本債務が6168万5600円を超えて存在しないことを確認する。

4  原告Cと被告との間で,同原告と訴訟承継前被告W農業協同組合との間の平成7年5月15日付け損失補填契約に基づく原告Cの被告に対する元本債務が5371万3600円を超えて存在しないことを確認する。

5  原告Dと被告との間で,同原告と訴訟承継前被告W農業協同組合との間の平成7年5月16日付け損失補填契約に基づく債務が存在しないことを確認する。

6  原告Eと被告との間で,同原告と訴訟承継前被告W農業協同組合との間の平成7年5月15日付け損失補填契約に基づく原告Eの被告に対する元本債務が5756万9600円を超えて存在しないことを確認する。

7  原告Fと被告との間で,同原告と訴訟承継前被告W農業協同組合との間の平成7年5月15日付け損失補填契約に基づく原告Fの被告に対する元本債務が4755万6600円を超えて存在しないことを確認する。

8  原告Gと被告との間で,同原告と訴訟承継前被告W農業協同組合との間の平成7年5月15日付け損失補填契約に基づく原告Gの被告に対する元本債務が7381万2800円を超えて存在しないことを確認する。

9  原告Hと被告との間で,同原告と訴訟承継前被告W農業協同組合との間の損失補填契約に基づく原告Hの被告に対する元本債務が5217万4400円を超えて存在しないことを確認する。

10  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

11  訴訟費用は,これを4分してその3を原告らの,その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

各原告と被告との間で,各原告の被告に対する平成5年2月27日付け「債権処理計画に係る確認書」及び別紙損失補填契約書一覧表記載の各「損失補填契約書」に基づく債務(ただし,既払の2億2806万円を除く元本債務。)が存在しないことを確認する。

第2事案の概要

本件は,訴訟承継前被告W農業協同組合(以下「W農協」という。)が,原告らとの間で締結した「債権処理計画に係る確認書」及び各「損失補填契約書」に基づき,原告らに債務の履行を請求したのに対し,原告らが,上記各契約書等に係る合意の錯誤無効ないし上記各合意に付されていた停止条件の存在を主張して,W農協を合併してその権利義務を承継した被告に対し,上記各合意に基づく債務の不存在確認を求めた事案である。

1  前提となる事実(争いのない事実は証拠を掲記しない。)

(1)  当事者

被告及びW農協は農業協同組合法(以下「農協法」という。)により設立された法人である。

W農協は,役員として,組合長及び専務理事の2名の常勤理事を含む9名の理事と3名の監事がいて,理事によって構成される理事会が,同法に基づき組合の業務執行を決定し,監事が理事の職務執行を監査し,併せて理事の職務執行を監視するものとされていた。

被告は,平成10年4月1日,W農協を合併し,W農協の権利義務を承継した。

原告らは,被告の組合員で,上記合併まで,W農協の組合員であり,昭和58年から平成8年までの一定の期間,それぞれW農協の理事又は監事の職にあり,平成4年10月ころはいずれも非常勤役員(非常勤の理事又は監事)であった。

(2)  W農協の不正融資

平成4年10月ころ,新聞各紙は,W農協が株式会社Xの伊達市内でのゴルフ場開発計画に,農協法の定める貸出限度額を超え,内部の融資規定にも違反する方法で合計30数億円の不正融資を行っていたところ,上記開発計画が実現不能となったため上記融資の回収が困難になっている旨報道した。

上記報道を契機に,W農協は,融資に関与したI専務理事(以下「I」という。)を解任して原告Bをその後任に選任するとともに,組合員に対する地区説明会を開催するなどして事態の収拾を図ろうとした。しかしながら,上記説明会においては,役員に対する非難や強硬意見が相次ぎ,事態の収拾が困難になったため,平成4年12月19日に開催されたW農協の第14回臨時総会において,債権調査処理特別委員会(以下「特別委員会」という。)を設置して債権の処理計画案の策定を行うこととなった。また,このころ,原告らは,W農協に対し,準消費貸借予約契約書を差し入れるとともに,原告A及び原告Bは個人資産にそれぞれ極度額1億円の根抵当権を2口,その余の原告らは,個人資産にそれぞれ極度額1億円の根抵当権を設定し,仮登記をした後,平成5年5月6日から同年6月24日までの間にそれぞれ本登記をした(甲4の1,2,甲5)。

特別委員会は,平成5年1月に活動を開始し,融資残高3000万円以上の貸付についても調査の対象に加え,同年2月12日に,処理すべき債権額とその処理方法につき,概要次のとおり理事会に報告した。

ア 不正融資主要3分野(伊達市ゴルフ場開発計画関連,株式会社Y関連,Z関連)に係る融資額は61億4700万円余りにのぼり,その他の貸付先に係る債権35億4300万円余りとの合計96億9000万円余りが処理すべき債権である。上記のうち,既存担保による保全見込額は約27億1200万円余りであり,回収未定額は69億7800万円余りである(甲34の1,2)。

イ 上記回収未定額のうち不正融資主要3分野に係るものが49億0500万円余りで,その全額が役員の責任に起因するものである。また,その他の貸付先に係る回収未定額については,役員の責任に起因するものが9億0600万円余り,W農協の責任に起因するものが11億6700万円余りである。したがって,W農協が11億6700万円余りを負担し,役員がその余の58億1100万円余りを負担すべきである(甲6,甲34の1,2,乙5)。

(3)  「債権処理計画に係る確認書」への署名押印

W農協の第15回臨時総会は平成5年2月28日に開催が予定され,その招集通知の最終発送期限は同月16日であったところ,同月15日,特別委員会とW農協の役員とによる会合がもたれた。その席上,特別委員会は,役員負担額を45億円とし,その保全措置を求めたところ,平成4年当時の常勤理事であったJ組合長(以下「J」という。)及びIは,上記のうち34億円について保全に応じた。J,I及び原告らを含むW農協役員は,その後,同月27日に至って「債権処理計画に係る確認書」(以下「確認書」という。)に署名押印した(甲6)。

確認書には,原告らW農協役員が,W農協に対し,損失補填対象債権の回収責任と同債権について回収不能が生じた場合の同債権額と回収可能額との差額の損失補填責任を負担することを約し,このうちとりあえず平成4年12月31日現在の「役員の責任において担保すべき債権額」である54億6400万円程度を担保するため,各役員の資産に根抵当権又は質権を設定する旨の条項(第1項),原告らを含む非常勤役員が設定すべき根抵当権の極度額は合計11億円とする旨の条項(第2項)のほか,債権回収責任期間を平成7年2月末までの2年間として,W農協役員がW農協に対して損失を補填すべき債権額は当該時点で確定させることとし,この場合,この2年間で回収された債権額,通常債権となった金額(通常債権は特別委員会が判定する。)は,役員の損失補填対象債権から控除される旨の条項(第3項),W農協役員は,平成7年2月末時点における役員の損失補填対象債権のうち回収困難額が45億円を超えた場合は,9.5億円を限度として増担保に応じる旨の条項(第4項),確認書作成後,W農協役員相互間の債権負担割合に重大な影響を及ぼす新たな事実が判明した場合には,特別委員会の立会の下,W農協役員とW農協とが協議することとする旨の条項(第7項)及び特別委員会が解散した場合には,W農協が債権処理計画の目的に沿って新たな機関を設置することとし,当該機関に確認書に基づく必要な任務を承継させる旨の付則がある(甲6)。

W農協は,平成5年2月28日開催の第15回臨時総会において,原告らによる11億円の負担を含む債権処理計画を可決し,上記総会後の理事会でJの組合長からの辞任を承認し,原告Aをその後任に選任した。

(4)  「損失補填契約書」への署名押印

W農協の第16回臨時総会は平成7年5月16日に開催が予定されていたところ,同月9日から同月16日にかけて,原告らは,それぞれ,当事者として,損失補填契約書(甲7の1から8)に署名押印した。また,第16回臨時総会後の同年6月28日に,原告らは,同じく非常勤役員であったK及びLとともに,連名で,当事者として,損失補填契約書(甲7の9,以下「連名の損失補填契約」という。)に署名押印した。

各損失補填契約書には,別紙損失補填契約書一覧表記載のとおりの金額と支払方法で,各当事者がW農協に対して補填義務を負担する旨の条項(第1条)のほか,「補填する金額は,別添の損失仮確定補填計画に従うこととするが平成9年度以降毎年度通常総会に見直しをするものとする。但し,甲が負担すべき金額は第1条に定めた金額を限度とする。」との条項(第2条)がある(甲7の1から9)。

(5)  損失補填の一部実行

原告らは,平成8年2月29日,W農協に対し,それぞれ損失補填契約書に基づく第1回の損失補填として,損失補填契約書記載のとおり合計1億2806万円を支払った。なお,これは,預金を担保としたW農協からの借入をもって支払に充てたものである。

(6)  役員の交代

原告らは,平成8年6月17日のW農協の臨時総会において,W農協の役員を辞任した。

(7)  W農協の原告らに対する履行請求

W農協は,確認書及び損失補填契約書に基づき,原告らが連帯して10億4179万6000円の債務を負担したと主張し,原告らに対し,平成9年5月12日付けの書面により,7億6133万5000円(ただし損失補填債務額8億9119万5000円から1億2986万円を控除したもの)及びその内金に対する遅延損害金を請求し,1億5060万1000円の損失補填債務についても別途請求する旨通知した(甲1)。

2  争点

(1)  錯誤無効

ア 原告らの主張

(ア) 原告らの農協法上の責任について

損失補填契約書において,原告らが補填すべきものとされている貸付金は,債務者55名に対する163件の貸付によるものであり,その総額は73億円以上に上るところ,そのうちほとんどが,本来必要な手続をとらずに,組合長であったJ,専務理事であったI及び金融部長であったMらの決裁によって実行されたものであり,理事会に付議された案件は5件,貸出審査会に付議された案件は16件(理事会に付議された4件を含む。)にすぎない。原告ら当時の非常勤役員が,事前に貸出案件の情報を知る機会を得たのは,これら理事会又は貸出審査会に付議された17件にすぎない。しかも,組合長,専務理事及び金融部長らは,貸出案件を理事会又は貸出審査会に付議するに際し,正確な事実を提示しなかった。このようにして,不正貸付の情報は,原告ら当時の非常勤役員には隠蔽されており,原告ら当時の非常勤役員が不正貸付を事前に審査する可能性は存在しなかった。

W農協に対して監督権限を有する北海道による検査(以下「検査」という。)及び北海道農業協同組合中央会(以下「北農中央会」という。)による監査(以下「監査」という。)は行われていたが,これらは事前に検査又は監査の実施通知を受けてW農協職員が作成した資料に基づいて行われるもので,W農協事務局による資料の操作が可能なことから,北海道及び北農中央会は,いずれも不正貸付の全体像を把握,指摘することができず,また,把握していた一部の不正貸付に対しても十分な監督権限を行使することをしなかった。このような北海道及び北農中央会の対応からすれば,非常勤役員が監督機関の対応を超える措置を採ることを期待することは不可能であった。しかも,検査及び監査の結果については,検査又は監査が行われた最終日に非常勤役員も立ち会う場で口頭で要旨のみ説明されたものの,後日文書でW農協に送付された検査及び監査の報告は,守秘義務を理由として非常勤役員には開示されなかった。また,検査及び監査によって指摘された不正貸付については,非常勤理事が理事会において問題としたことはあるが,常勤理事らはこれに対して虚偽の報告をし,あるいは情報を隠蔽して,それ以上の追及を免れたのであって,非常勤役員としてはその義務を十分に果たしたものというべきである。

なお,不良貸付の中には,貸付当時は十分回収可能と考えられていたものの,担保物件の価格下落により回収不能となったものも含まれるが,これらは通常の経営判断の原則により,直ちに原告ら役員に損害賠償義務が発生しないことは明らかである。

非常勤役員は,立候補によるものではなく,4つある選任区に居住する組合員から推薦され,総会によって選任されていた。こうして選任された非常勤役員のほとんどは農業従事者であって,金融業務に精通しているわけではなく,その報酬も,月額5万円から6万円程度と低額であった。非常勤理事は,月1回程度開催される理事会(1ないし2時間程度)に出席するほか,年度当初の事業計画の審議(半日程度)に参加し,毎年2月末ころ行われる棚卸し(半日程度)に立ち会うのが実際の主たる職務であった。また,監事は,上記の理事会に出席するほか,各年度前期の8月に中間監査を,後期の2月に決算監査を行い(いずれも2日間程度),定期総会に監査報告をするのが主たる職務であった。

このような非常勤役員に対し,上記のように理事会等に示されずに隠された事実を自ら調査,把握して,特定の不正貸付を阻止し,W農協の損害の発生を防止することを求めるのは不可能を強いることである。しかも,非常勤役員の一部は,北農中央会に対して特別監査を実施するよう具申したものの,聞き入れられなかった経緯も存在する。

上記の事情によれば,原告らを含む当時の非常勤役員には,監視義務違反はなく,W農協に対する当時の農協法31条の2及び41条(現在の農協法33条及び39条)に基づく損害賠償義務がなかったというべきである。

(イ) 錯誤無効について

原告らは,確認書及び損失補填契約書の合意をした当時,各書面に係る補填金について,上記(ア)のとおり,W農協に対し,当時の農協法31条の2及び41条(現在の農協法33条及び39条)に基づく損害賠償義務を負っていないのに,これを負っているものと誤信していた。

確認書及び損失補填契約書の合意は,原告らの上記錯誤のもと,原告らが農協法上の責任を負っていることを前提として,成立したものである。確認書の合意が被告の主張するようにW農協の再建のためというのであれば,ひとり原告ら及び融資実行者のみならず,特別委員会の委員,さらには一般組合員も当然出捐してしかるべきである。それにもかかわらず,常勤理事及び原告ら非常勤役員のみが莫大な損失の補填を強いられたのは,役員としての法的責任が前提となっていたからにほかならない。

そして,上記錯誤は,本来,法律行為の要素の錯誤であるというべきである。仮に,そうでないとしても,W農協,特別委員会及びその指導機関である北農中央会の誘導によって形成されたものであるから,原告らが農協法上の責任を負っているからこそ,確認書及び損失補填契約書の合意に応じたことは,当然に原告らとW農協との間で表示されていたと解すべきである。

したがって,確認書及び損失補填契約書の合意は,錯誤によって無効である。

なお,法律の錯誤であっても,要素の錯誤と認められる限り,無効原因となる。W農協,特別委員会及びその指導機関である北農中央会は,その誘導によって,原告らが農協法上の責任を負うとの主張に対抗できず,これを承認せざるを得ない客観的状況を作出しており,このような状況下で,原告らは農協法上有責であると誤信して,確認書及び損失補填契約書の合意をしたものである。この場合,上記誤信は,要素の錯誤となり,上記合意の無効原因となる。

イ 被告の主張

(ア) 原告らの農協法上の責任について

原告らが,本来必要な手続がとられずに,組合長,専務理事及び金融部長らの決裁によって実行されたと主張する貸付の中には,内規上組合長に決裁権があり,理事会や貸出審査会への付議を要しないものや,事後報告され,格別の疑義が提出されなかったことにより承認されたものが含まれている。

原告らを含む非常勤役員には,貸付の後に債権を管理し,またその後の同種の不良債権発生を防止する責務もあるところ,昭和59年5月から平成3年11月までの検査及び監査において,W農協は23回にわたって不良貸付や不正貸付を指摘され,是正改善を求められているのであるから,理事や監事がその権限を適正に行使していれば,少なくともその後の同種の貸付を防止することができ,W農協に損害が発生することを防ぐことができたといえる。

なお,検査は事前に通告されていないし,監査は,資料が電算処理されているから,いずれもW農協の都合によって貸出案件を取捨選択して供するなどということはできない。また,検査及び監査においては,監事の立会いが求められており,原則として監事全員が立ち会っている。検査後に送付される検査書及び監査後に送付される監査報告書について,非常勤役員に対して守秘義務を理由に開示しないなどということはなく,また検査及び監査の結果については,理事会に付議すべき事項である上,これに対する回答書も,理事会に付議した上で提出しなければならないから,非常勤役員が検査及び監査の結果について知らないなどということはあり得ない。

W農協の監事による監査は,毎四半期末(5月,8月,11月及び2月)を基準日として定期に行うこととなっており,実際にもこの時期に実施されている。

また,非常勤役員の報酬の多寡と,その責任とは関係がない。

(イ) 錯誤無効について

確認書及び損失補填契約書の合意をした当時,W農協と原告らを含む役員らの間で協議の対象となったのは,W農協を再建するために,その損失をどのように補填するかであったのであり,農協法に基づく役員の法的責任の有無ではなかった。確認書及び損失補填契約書の合意は,原告らが当該債権の発生原因となった事実の生じた期間に役員として在任していたことを契機として成立した損失補填の合意であって,役員の農協法に基づく責任を前提としたものではなく,多額の損失を抱えたW農協の再建を目的とした合意であるから,原告らがア(イ)で主張するような錯誤は存在しない。

また,仮に原告らがア(イ)で主張する錯誤があったとしても,それは法律の錯誤であって,法律行為を無効とするものではない。

(2)  確認書及び損失補填契約書の合意の内容と効果

ア 原告らの主張

確認書及び損失補填契約書の合意は,原告らを含む役員が負担するべき補填額(役員責任の有無及びその範囲)について原告らを含む役員とW農協との間で協議し,これを確定させることを停止条件として暫定的に成立したものである。しかるに,現在まで,上記の補填額についての協議や確定作業はされていない。したがって,現在まで,停止条件は成就していないから,債務は発生していない。

また,損失補填契約書には,原告らの債務を連帯とする特約の記載はない。

イ 被告の主張

(ア) 確認書及び損失補填契約書の合意には,原告らが上記アで主張する条件は付されていない。確認書にいう補填すべき債権額の確定が平成7年2月末以降に当事者間でされたことは,損失補填契約書の合意が成立した経緯から明らかである。

損失補填契約書の,「補填する金額は,別添の損失仮確定補填計画にしたがうこととするが平成9年度以降毎年度通常総会に見直しをするものとする。」との条項(第2条)は,W農協の経営再建8カ年計画が計画どおり遂行されているか否かを年度毎に審査していくことが必要であることを確認しているにすぎない。上記の年度毎の審査は確実に行われてきた。

(イ) 確認書の合意によって,原告らは,W農協に対し,損失補填対象債権についての平成7年2月末時点での債権残高と,同時点における回収可能額の差額の補填責任を,役員ら全員で総額54億6479万6462円を上限として負担した。

W農協は,平成7年3月初めの数回にわたる理事会において,原告らを含む非常勤役員が負担するべき債務を11億円と確定し,その履行について,原告らを含む非常勤役員が相互間でその負担部分を特約した上,原告らとの間で損失補填契約書の合意をした。

その後,W農協は,平成7年5月16日(同月23日に続会)に開催された第16回臨時総会において,非常勤役員の補填すべき金額を10億4179万6000円に減額した。

したがって,原告らは,確認書及び損失補填契約書の合意に基づき,W農協の権利義務を承継した被告に対し,連帯して10億4179万6000円の債務を負担したものである。

なお,原告らは前記前提となる事実(5)記載のとおり損失補填を行ったほか,損失補填契約の合意をした10名のうち,原告らを除く2名(K及びL)は,平成9年度までに,自らの負担部分(各300万円)を全部履行し,その余の非常勤役員(N,O,P及びQ)は,平成9年度中に,合計して5856万9613円の債務を履行した。

また,原告Dは,原告らの損失補填債務の支払を担保するために根抵当権が設定されていた原告D所有の土地を売却するに当たり,平成9年3月31日,W農協に対し,原告らの了解を得て,損失補償にかかる預け金として1億円を預託したが,被告は,平成10年3月31日到達の文書をもって,原告Dに対し,被告の原告Dに対する損失補填債権を自働債権とし,上記預託金の返還請求権を受働債権として,対当額で相殺する旨の意思表示をし,1億円の弁済があったものとする処理をした。したがって,原告らが連帯して支払うべき債務残元本は7億4916万6387円である。

第3争点に対する判断

1  争点(1)(錯誤無効)について

(1)  前記前提となる事実に,後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。

ア 新聞報道後のW農協の状況と準消費貸借予約契約の締結及び確認書の合意の成立に至る経緯

(ア) 新聞各社は,平成4年10月3日,W農協が開発許可のめどの立たないことが明らかな伊達市内のゴルフ場の開発に関係して多額の金銭を開発会社に融資し,その大半が回収不能見込みであることを報道した(甲2の1ないし5)。

この報道の影響で,W農協では,取付騒ぎが発生し,貯金の解約手続に訪れる客がロビーに集まり,1度に3億円もの貯金を解約する客もいた。このような取付騒ぎは,平成5年の春先まで,新聞報道があるたびに断続的に発生した(証人R)。また,このような取付騒ぎの影響で,W農協の貯金残高は36億円余り目減りした(乙20)。

W農協では,新聞報道のあった平成4年10月3日午後,緊急理事会が開催され,事態を収拾するために,組合員に対して簡単な事情説明を含む詫び状を発送することとなった(甲21)。

その後,W農協は,前記前提となる事実(2)のとおり,Iを専務理事から解任し,a地区,b地区及びc地区の3地区における地区別説明会を開催して事態の収拾を図り,J及びIが,全財産をW農協に差し入れて責任を取る旨の説明を行ったが,組合員は納得せず,全役員の個人資産をW農協に差し入れるよう強く要求するに至った(甲21,原告B本人)。

平成4年11月9日に開催された理事会において,Iの後任として,原告Bが専務理事に就任することが決定されるとともに,同理事会において,地区別説明会における組合員の要求である役員の個人資産の担保化について議論され,原告Bは,常勤役員と非常勤役員とでは責任範囲に差があり,資産の差入れを求められると苦しいが,組合員に対して誠意を持って対処しなければならないこと,仮登記では組合員の納得を得られないことなどを発言し,原告Aは,役員の個人資産には差があり,組合員の要求には応じることは難しい旨発言した(甲20,甲21,乙26,原告B本人)。

(イ) 同年11月下旬ころ,W農協の理事及び監事経験者からなる対策会議が開催され,役員の資産を担保としてW農協に差し出すこととなり,常勤役員は各10億円,非常勤役員は各1億円を極度額として,根抵当権設定登記をすることとされた(甲21,原告B本人)。原告らは,前記(ア)の理事会での検討後である平成4年12月10日,W農協との間で準消費貸借予約契約及び根抵当権設定契約を締結した(甲4の1,2,甲20,原告B本人)。準消費貸借予約契約書には,第1条として「債務者は貴組合に対して農業協同組合法31条の2または41条による将来負担すべき損害を担保するため,その額を準消費貸借契約として弁済することを予約します。」と記載され,第5条として,極度額1億円の根抵当権設定の仮登記をすることが記載されていた(甲4の1,2)。そして,役員のうち非常勤理事の資産について,上記準消費貸借予約契約を原因とする根抵当権設定の仮登記が平成4年12月18日までにされ,常勤役員のJ,Iの資産についても,根抵当権設定の仮登記がされた(甲4の1,甲5,甲20)。

(ウ) 特別委員会は,前記前提となる事実(2)の報告のとおり,役員の責任に起因する回収未定の不良債権額を58億1179万6462円と算出しており,常勤・非常勤の区別なく,役員に対してその負担を迫った(甲21)。原告らを含む当時のW農協の役員は,特別委員会の算出した上記金額が余りにも多額であったため,当時のW農協の金融部長であったMに対して調査を求めたところ,同人は,担保の再評価を行った結果として,役員に起因されると報告された上記金額のうち,回収不能見込みとなるのは45億円であると理事会に報告した(甲21)。その報告を受けて,特別委員会と理事会は,役員の保全金額を確定させるため,平成5年2月15日から同月27日までの間,5回にわたり,合同会議を開催し,役員の保全するべき金額についての検討を行った(甲20,甲21)。そして,W農協では,同月28日の第15回臨時総会までに,W農協の不良債権の処理計画を提案することとなっており(乙6),上記処理計画を作成するにあたって,役員の個人資産の拠出が焦点となっていたため,役員の中には責任負担について疑問視する向きもあったが,結局,前記前提となる事実(3)記載のとおり,J及びIが34億円を,原告ら非常勤役員が合計11億円をそれぞれ保全することになった。ただし,特別委員会からは,45億円と54億5000万円との差額である9億5000万円の担保の追加が要求された。

このような状況の中,平成5年2月24日に開催された理事会において,確認書について逐条的な説明が行われ,この時点における確認書第3条には,ただし書として「貸付審査会,理事会に付議すべきものに違反している融資については,平成4年10月1日現在の非常勤役員の対象担保から除外するものとする。」と記載されていたが,W農協の再建という趣旨に反するとの理由で削除され,役員の中には異論があったものの,結局,原告らは,確認書を承認し,同月27日の合同会議において,これに署名押印した(甲6,甲21,乙5,証人S)。

イ 第15回臨時総会とその後のW農協の不良債権処理

(ア) W農協では,平成5年2月28日,第15回臨時総会が開催され,まず,特別委員会の解散について議論されたが,確認書に記載されている平成7年2月末時点における関連債権の確定作業という重要な仕事が残されているとして,平成7年4月に開催される第47回通常総会まで存続するものと決議された(甲20,乙6,7)。

次に,同臨時総会では,債権処理計画(案)が審議された。債権処理計画(案)は,W農協の不正貸付に絡む不祥事を引き起こした役員の責任は極めて重大であり,その責任は,当然,役員が連帯して償わなければならないこと(第1項),役員は,役員責任として損失補償対象債権関連債権の回収責任及び損失が生じた場合の損失負担に備えて,損失補填責任を負担することとし,役員本人及び親族等の資産に根抵当権及び質権を設定すること(第2項の2),役員の損失補填責任の限度額を54億6479万6462円とすること(第2項の3),役員が負担する根抵当権の極度額は,平成4年10月1日現在の常勤役員が合計34億円,昭和58年4月25日以降退任した役員を含む非常勤役員が合計11億円とすること(第2項の4),役員の回収責任期間を平成7年2月までの2年間とし,当該時点で,役員の補填すべき債権額を確定させること(第2項の5),平成7年2月末の時点において,回収困難額が45億円を超えた場合は,役員が9億5000万円を限度とする増担保に応じること(第2項の6)などを内容とするものであった。

原告らは,同臨時総会において同計画案が可決されなければW農協が破綻する危機に直面していると考えていた(原告A本人)。

その審議においては,W農協が負担すべき損失補填額について,自己資本の取崩しや遊休資産の処分を行い損失補填に充てることができるとする部分(第2項の7及び8)について,役員の農協法31条に基づく連帯責任を根拠に削除すべきであるとの意見,常勤役員の負担が過大であり非常勤役員の負担を増加させるべきであるとの意見,常勤役員の負担を増額すべきであるとの意見などが出されたが,原案どおり可決された(乙7)。

また,同臨時総会では,Jが組合長を辞任し,直ちに開かれた理事会において,後任の組合長として原告Aが選任された(甲21)。

(イ) 第15回臨時総会後の平成5年5月1日,W農協の特別指導員として北農中央会からTが参事として,北海道信用農業協同組合連合会からUが副参事兼金融部長として派遣された(甲21,乙19,証人T)。

これと前後して,特別委員会は,原告らに対し,前記前提となる事実(2)記載のとおり,役員らが設定した根抵当権の仮登記を本登記に変更するよう要求したが,常勤役員であったJ及びIがこれに応じようとしなかった。そのため,特別委員会は,平成5年当時の執行部を構成していた原告らがまず本登記手続を実行し,J及びIを説得するべきであると主張した。そのため,原告らは,平成5年6月24日までに本登記手続を行い,J及びIの説得に当たったが,同人らは容易にこれに応じなかった(甲21)。

また,W農協では,平成5年の年末ころから,組合員からJ及びIを刑事告訴すべきであるとの要求が強まり,理事会及び特別委員会でも同人らの刑事告訴について検討されたが,捜査機関による強制捜査によって膨大な関係資料が押収され,最優先すべき不良債権の回収に支障が生じることなどが懸念されたため,直ちに刑事告訴を行うことには至らなかった(甲21,原告B本人)。

このように,J,I及びその親族の資産についての根抵当権の本登記手続が進行せず,さらに,J及びIに対する刑事告訴の手続が進まなかったため,当時のW農協の執行部を構成していた原告らに対する組合員の批判は強まった(甲21,原告B本人)。

(ウ) 特別委員会の構成員は,平成6年12月28日,W農協に対し,確認書の完全実行が実現しないことを理由として「辞任に関する通知書」を提出し,平成7年2月28日には連名で辞表を提出した。当時の組合長であった原告Aらが思いとどまるよう説得したものの,特別委員会の構成員はこれに応ぜず,全員辞任し,特別委員会は解散してしまった(甲20,甲21,原告B本人)。

(エ) 上記(ア)ないし(ウ)のような経緯において,W農協の不良債権の回収の実績が上がらない中で,北農中央会が中心となってW農協の再建計画の立案作業が進められ役員としての在任期間等に応じて,平成4年10月までの原告ら非常勤役員らが負担することとなった11億円の個人負担分の確定作業が行われた(甲21,証人R,証人S)。

ウ 第16回臨時総会と損失補填契約書締結の経緯

(ア) W農協では,平成7年5月16日に予定された第16回臨時総会の開催に先立って,同年5月8日に理事会が開催され,同臨時総会の対策が検討された。そこでは,W農協の再建ということに意思統一することのほか,同臨時総会前に地区別懇談会を実施することの是非,確認書による損失補填の実効性が議論された(乙11)。

そして,同年5月9日から同月12日までの間,地区別懇談会が開催され,同臨時総会の議案である「再建8カ年計画に伴う75億円の不良債権確定額の処理」についての説明が行われた。その後,さらに,原告らが組合員宅を訪問して,同臨時総会に提出予定となっている「W経営再建計画(案)」(以下「再建8カ年計画」という。)についての理解を求めた(乙12)。

同臨時総会が開催される前日である同月15日,再度理事会が開催され,同臨時総会への対応が検討された。特に確認書で明示された9億5000万円の増担保責任を免除することについて,組合員からの批判が強まっており,同臨時総会において承認が得られるか否か,Iに対する刑事告訴についての組合員の要求にどう対応するか,同臨時総会において再建8カ年計画が否決又は続会になった場合のW農協への悪影響等について議論された。また,役員らは,参事であるTから損失補填契約書の提出を求められたが,Iがこれに異を唱え,署名押印に応じなかった(乙12)。

このように,第16回臨時総会への対応を検討する中,原告Aが同月9日に,原告C,同E,同F及び同Gが同月15日に,原告B及び同Dが同月16日に,原告Hが同時期に,それぞれ損失補填契約書に署名押印した(甲7の1ないし9,甲21)。

(イ) 第16回臨時総会では,議案として第15回臨時総会後に回収された不良債権が6億円弱であり,回収不能見込額が75億円に達すること,確認書において原告らの負担分とされた11億円から,死亡した役員の負担分であったおよそ2億円を免除して8億9119万5000円に減額すること,処理するべき債権額が45億円を超過した場合に原告らが行うこととされていた9億5000万円の増担保責任を免除することなどを内容とした再建8カ年計画(案)のほか,W農協の特別積立金等の合計13億1112万7623円の取崩し及び固定資産等の取崩しが,組合員に対して提案された。しかし,Iが同臨時総会に欠席したことに加えて,組合員からは,原告らが特別委員会に損失補填責任を押しつけられたと述べていたとして,原告らに謝罪を要求したり,第15回臨時総会以降,原告らは確認書に明記された補填責任を実行していないことを問題にするなど,原告らに対する強行意見が相次いだばかりか,清算組合にするための採決を求める強行意見まで提出されたため,第16回臨時総会は紛糾し,上記議案についての審議に入ることができないまま,同月23日に続会となった(甲21,乙13,14)。

(ウ) 第16回臨時総会の続会期日である平成7年5月23日までの間,連名で辞表を提出した特別委員会の構成員によって,9億5000万円の増担保責任の実行,非常勤役員の負担分11億円のうち,死亡した前役員の負担分1億5000万円余りを減額せず,逆にこれを原告ら非常勤役員の6年目の負担分に追加することを盛り込んだ第16回臨時総会提出議案の修正が検討された(甲21)。

(エ) 平成7年5月23日に開催された第16回臨時総会の続会期日では,前回議案として提出された再建8カ年計画(案)について,9億5000万円の増担保責任を免除すること,役員負担となっている11億円のうち,前回総会後に死亡したQに関わる4200万円余りを非常勤役員らの総保全額11億円から減額修正することを内容とした一部修正の動議が提出された。同臨時総会では,これらの修正動議が可決され,再建8カ年計画を含めたすべての議案について賛成多数により承認され,その結果,原告らの9億5000万円の増担保責任及び死亡したQの負担分については削除されることとなったが,それ以前に死亡した理事らの負担分である1億5000万円余りについては原告ら非常勤役員の6年目の補填実行分に組み入れられることとなった(甲21,乙14)。

エ Iに対する刑事告訴と原告らの第1回補填の実行

(ア) W農協は,平成7年6月28日,第47回通常総会を開催した。同総会では,組合員からJ及びIの刑事告訴を求める声が高まったが,Jについては,同総会を開催するまでに,本登記に応じ,必要な書類の提供をしていたため,W農協は,Jに対する刑事告訴を行わず,Iのみを告訴した。Iに対する告訴状は,平成8年1月18日,札幌地方検察庁に提出され,同年2月2日正式受理された(甲3,甲21,原告B本人)。

(イ) 原告らの任期は,平成7年度までであり,平成8年3月31日で任期が満了することとなっていた。ところが,原告らは,W農協の役員選任委員会が平成7年12月末に組織されたにもかかわらず,役員選任委員長であるVから,損失補填契約書に記載されている平成8年2月末の第1回補填が実行されなければ,新役員の選任手続を行わない旨通告された。そのため,原告らを含む非常勤役員10名は,それぞれ定期貯金を担保としてW農協との間で消費貸借契約を取り交わし,W農協からの融資金1億2926万円を原資として,W農協に対し,第1回補填金を支払った(甲21,乙17の1,2,乙30の1,2)。

(2)  以上の認定事実をもとに,原告らがW農協との間で平成5年2月27日に締結した確認書及び平成7年5月9日から同月16日にかけて締結した損失補填契約が,原告らの錯誤に基づくものであるか否かを検討するに,後記のとおり,証人R及び原告Bの各供述中にはこれに沿う部分があるが,以下のとおり,これを採用することはできない。

ア 原告ら役員は,平成4年10月ころ,W農協において30数億円の不正融資が行われて,その回収が困難となっているとの新聞報道がされたため,新聞報道の当日の午後に緊急理事会を開催し,組合員に対する詫び状と事情説明の文書を送付することを決定した。原告らがそのような対応をとったのは,原告らにおいて,上記新聞報道によって,W農協の信用不安を誘発し,また,W農協の業務執行に携わっていた原告ら役員が組合員から批判と追及を受け,最悪の場合には,取付騒ぎなどを起こして,W農協が存続できなくなるかもしれないとの危機意識があったからであると推認することができる。

そして,原告らの上記のような危機意識を裏付けるように,W農協では,上記新聞報道直後から,小規模の取付けが相次ぎ,新聞報道直前の貯金残高がおよそ36億円も減少し,W農協の破綻が現実味を帯びる結果となった。さらに,W農協では,組合員の原告ら役員に対する不満が強まりを見せており,平成4年11月に実施された地区説明会では,役員に対する批判が相次ぎ,全役員の個人資産をW農協に担保として差し入れるよう要求するものもあった。

その後,特別委員会は,前記前提となる事実(2)のとおり,平成5年2月12日,理事会に対して調査結果の報告をしたが,その結果,処理すべきものとされた債権の総額は,96億9000万円余りにのぼっていることが判明した。回収困難な債権額が30数億円もあると新聞報道されただけで,前記のような取付騒ぎや役員に対する批判が引き起こされたのであるから,その3倍以上にも上る要処理債権の存在が公にされると,さらに深刻な事態に立ち至ることは必至と考えられ,新聞報道後の事態の収拾に苦慮していた原告らにとっては,上記のような調査結果によって,W農協が破綻に至るかもしれないという不安をますます強めたものと推認できる。

現に,この報告直後の第15回臨時総会では,原告らを含む当時の役員に対する組合員の批判と個人資産を担保として差し入れるよう要求する声がさらに強まった。

第15回臨時総会後,2年間は債権回収期間とされたが,常勤役員であるJ及びIが,根抵当権の本登記に応じなかったほか,組合員が強く求めていたJ及びIの刑事告訴についても,債権回収を優先すべきとの理由で,なかなか実現に至らなかったなど,常勤役員に対する責任追及が進まない中,非常勤役員である原告らに対する組合員の批判が次第に強まり,第16回臨時総会では,W農協を清算法人にしても構わないという強行意見まで出現するようになった。

このように,原告ら当時の役員は,W農協の破綻のおそれという危機的事態に直面していたということができ,このような事態の収拾を検討することが常に要求されていたものであって,前記認定事実のとおり,平成4年11月9日には理事会を開催し,上記組合員の要求どおり役員の個人資産を担保として差し入れることについて検討し,その後,W農協の役員経験者からなる対策会議において,常勤役員が10億円を,非常勤役員が1億円をそれぞれ極度額として根抵当権を設定することとされたことを受け,平成4年12月10日,W農協との間で準消費貸借予約契約及び根抵当権設定契約を締結し,新聞報道後初めて開催されることとなる第14回臨時総会期日の前日である平成4年12月18日までには,根抵当権設定の仮登記手続を終えていたというのであるから,原告らは,遅くともこの時点までには,W農協の危機的事態を乗り切るため,W農協に対する損失補填責任を負担することもやむを得ないとの意思を有していたといえる。

そして,その後,第15回臨時総会,第16回臨時総会とW農協の再建計画が具体化されるに伴って,原告らの負担する責任の内容について具体化が求められた結果が確認書及び損失補填契約書であると認めるのが相当である。確認書及び損失補填契約書の締結は,それぞれ,第15回臨時総会及び第16回臨時総会の直前にされているが,これは,最初の新聞報道以後,組合員からの批判と業態の悪化が続き,この事態を乗り切るためには,何を措いても直面する臨時総会において,組合再建計画についての承認を取り付けることが重要であり,そのためには,非常勤役員である原告らにおいても,組合員が納得するような損失補填計画を示す必要に迫られていたと考えられるし,前記のとおり,不良債権の実体が明らかになるのに伴い,W農協の破綻に対する原告らの不安は強くなっていたこと,原告Aは,W農協の破綻を回避するため,確認書及び損失補填契約書に署名押印したと供述していること(原告A本人)を考え併せると,原告らが確認書及び損失補填契約書の締結に応じたのは,W農協の再建計画を審議するための臨時総会を乗り切り,深刻化したW農協の状況を収拾するためであったと推認するのが相当である。

すなわち,原告らは,自らが農協法上の責任を負うか否か,また,負うとしてもその責任の範囲の大小にかかわらず,直面する臨時総会を乗り切り,危機的な農協の状況を打開するためには,不良債権の創出に直接関わったと考えられる常勤役員のJ,Iのみならず,不良債権の貸付には直接関わっていなかったにせよ,その貸付当時,役員として,他の役員の行動を監視する職責を担っていたのに結果としてこれを果たせなかった非常勤役員の原告らにおいても,組合員が納得するような範囲における損失補填をするしかないとの認識判断の下,各人の資力等をも勘案して,確認書及び損失補填契約書の締結に応じたものと考えられる。したがって,原告らは,たとえ自らが農協法上の責任を負っていない,あるいはその負う責任の範囲はもっと小さいとの認識を有していたとしても,なお上記締結に応じていたものと推認するのが相当であるから,自らが農協法上の責任を負っているとの誤信により,確認書及び損失補填契約書の締結をしたとの原告の主張は,理由がないといわざるを得ない。

イ 以上の認定判断に対して,原告らは,特別委員会及び北農中央会等の指導機関による誘導によって,原告らは,農協法上の損害賠償責任を負っていると誤信していたものであり,かつ,原告らの誤信の内容は,W農協に表示されていたから,確認書及び損失補填契約書の締結は錯誤により無効であると主張し,証人R及び原告B本人も上記主張に沿う供述をしている。特に,原告B本人は,北農中央会のSに対して,W農協の不正融資についての役員の責任に関する同種事案の裁判例の照会を求めたが,故意にこれを隠匿され,このため,農協法上の責任があるとの誤信が強まったと供述する。

しかしながら,原告らは,第15回臨時総会直前及び第16回臨時総会直前に開催された理事会において,確認書及び損失補填契約書について検討しているが,これら理事会における原告らの発言及び上記各臨時総会における原告らの発言をみると,例えば,「農協を存続させるのは第一前提ということでお互いにある程度は譲り合いながら,この総会を乗り切っていくことが前提だと思います。」(平成5年2月24日開催の第26回理事会での原告Bの発言。乙5),「組合員から見れば『お前達が悪かったんだろう』と言われる。そういう意味では,出すということに非常に抵抗がある。だけども確認書で決めてある訳だからある程度止むを得ないと思う。」(平成7年5月8日に開催された第14回理事会における原告Fの発言。乙11),「非常勤が負担しているのは,余りない訳ですが,私どもとしては事の重大性を考え,等分の負担をしなければならないと,私も肝に銘じて自分でもそう思っております。私ども非常勤でさえ負担をするわけですから,当然これは,常勤についてはどうであろうが出してもらわねばならない訳です。」(第16回臨時総会続会期日における原告Fの発言。乙14)など,損失補填義務のあることを当然の前提としているものが認められるばかりか,2年間という長期間にわたる不良債権処理期間において,そもそも自分たちに農協法上の責任が成立するのか否かについて深く議論が行われたような形跡は認められないことに鑑みると,上記原告らの主張に沿う証人R及び原告B本人の上記各供述は,にわかに採用することができない。

なお,第15回臨時総会において,組合員から,農協法上の責任を追及するかのような発言も認められるが,原告らは,第15回臨時総会以前に準消費貸借予約契約によって,W農協に対して損失補填責任を負うことを明示しており,確認書も第15回臨時総会以前に締結されたものであるから,上記組合員の発言によって錯誤に陥ったということもできない。

また,以上の次第であるから,W農協の指導機関である北農中央会等が,原告らに対し,非常勤役員の農協法上の責任を制限的に解する鹿児島地方裁判所平成4年9月25日判決(甲9)の存在を教示しなかったことをもって,原告らの誤信を強めたということもできない。

ウ したがって,本件においては,確認書及び損失補填契約書が,原告らの錯誤に基づいて成立したものであると認めることはできない。

2  争点(2)(確認書及び損失補填契約書の合意の内容と効果)について

(1)  前記前提となる事実に,前記1の認定判断,後継各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。

ア 原告らが,平成5年2月27日,W農協との間で締結した確認書は,前記前提となる事実(3)記載のとおりの条項が規定されていた(甲6)。 しかし,確認書第3項に規定された平成7年2月末時点での原告らの負担とされた11億円から控除するべき通常債権について判定すべき特別委員会は,前記1(1)イ(ウ)の認定事実のとおり,平成7年2月28日付で特別委員全員の連名でW農協に対して辞表を提出し,同日をもって解散した。このため,確認書第3項において平成7年2月末までとされた役員の損失補填債権額の確定作業は,W農協の理事会の依頼により,d地区農協経営改善特別委員会(以下「改善委員会」という。)によって引き継がれた。改善委員会は,特別委員会の構成員であった者のうち2名の立会を得て,役員としての在任期間等に応じて役員の填補するべき債権額の確定作業を行った結果,平成7年4月24日,役員の損失補填対象債権として,前常勤理事であったJ及びIが合計34億円を負担することとし,昭和58年4月以降退任した非常勤理事19名が合計11億円のうち,死亡した役員の負担分である2億0880万5000円を除外した8億9119万5000円を負担することでやむを得ないと判断した(乙10,乙14,原告B本人)。

イ 原告らが,W農協との間で,損失補填契約を締結したのは,平成7年5月9日から同月16日にかけてであった(甲7の1ないし8)が,第16回臨時総会の議案である再建8カ年計画(案)の原案は,損失補填契約の締結に先立つ同年4月26日に開催された理事会において,すでに承認されていた。この理事会において承認された非常勤役員の損失補填対象債権額の合計は8億9119万5000円であり,この金額を5年間にわたり,毎年1億7823万9000円ずつW農協に支払うこととされていた。また,死亡した役員負担分であった2億0880万5000円は,W農協の補填分及び毎年度損失未処理残高に含めて処理することとされており,この時点においては,W農協の損失額が75億0199万円であることも仮に確定されていた。(乙10)。

原告らは,第16回臨時総会の続会期日が終了した後である平成7年6月28日,W農協との間で,上記損失補填契約とは別に,原告ら及び平成4年以降新たに理事に就任したK及びLを含めた10名で,1億5060万1000円の損失補填義務があることを内容とする連名の損失補填契約を締結した(甲7の9)。同契約の契約書は,「損失補填契約書」という標題であり,前書においては,上記10名は「連帯し,・・・・次のとおり補填契約を締結する。」と記載されているが,第1条においては,上記10名は「本日W農協に対し,金1億5060万1000円の補填義務を負担することとし,これを以下のとおり履行することを約する。」と記載されている。

ウ 原告らがW農協との間で締結した損失補填契約及び連名の損失補填契約は,原告ら個人の負担すべき損失補填額あるいは原告らが負担するべき損失補填額が明記され,損失補填契約では,これを5等分した金額を平成8年2月から平成12年2月までの5年間,毎年補填することとされ,連名の損失補填契約では,上記イ記載の負担額を平成13年2月末日に補填することとされた。補填するべき金額については,損失補填契約及び連名の損失補填契約の第2条において,平成9年度以降通常総会において見直しをすることとされている(甲7の1ないし9)。

(2)  以上の認定事実をもとに,確認書及び損失補填契約書の合意の内容と効果について検討する。

ア 確認書について

確認書では,第1項において,役員はW農協に対して損失補填責任等を負うが,役員の責任において担保すべき債権額は54億6479万6462円であること,第2項において,その担保のために各役員が設定する根抵当権の極度額は,常勤役員の負担分合計34億円,非常勤役員の負担分合計11億円であること,第3項において,債権回収責任期間は平成7年2月末までの2年間であり,この時点で役員らがW農協に対して損失を補填すべき債権額を確定させること,第4項において,平成7年2月末の時点における回収困難額が45億円を超えた場合には,役員らが9億5000万円を限度とした増担保に応ずることが定められているところ,これらの条項を総合的に解釈すると,確認書は,その締結時点において役員によって損失補填の対象として担保すべき債権額は54億6479万6462円であるが,向後債権回収の可能性が生じて要補填金額が減少する可能性もあることから,上記時点においては,とりあえず,常勤役員は合計34億円,非常勤役員は合計11億円を極度額とする根抵当権を設定するなどの担保提供をするにとどめ,2年間の債権回収期間経過後において,各役員が損失補填すべき債権額が確定されるとともに,役員には9億5000万円の範囲で増担保の提供に応ずべき義務のあることを定めたものと解することができる。

そうすると,確認書は,W農協の役員である原告らが,W農協に対して損失補填責任を負うとともに,その担保のため,合計11億円の極度額の根抵当権を設定すべきことを定めるものであるが,上記損失補填責任の内容については,原告らがW農協に対して負担すべき債務の内容については,2年間の債権回収期間経過後において確定すべきことを定める以外には何ら定めるものではない。すなわち,確認書において,11億円というのは,原告ら非常勤役員が設定すべき根抵当権の極度額の合計額を定めたものであって,原告らがW農協に対して負担すべき債務額を定めたものではない。

このように,確認書は,原告らのW農協に対する債務の内容について定めるものではないから,原告らの本件請求のうち,確認書に基づく債務の不存在を求める請求は理由があるというべきである

イ 損失補填契約について

(ア) 停止条件の合意について

損失補填契約書及び連名の損失補填契約書には,原告らが支払うべき金額,支払方法,支払期日等について詳細な規定があり,金銭の支払義務を定める契約書として完結していると認めるのが相当である。

そうすると,損失補填契約書第2条においては,原告らが補填すべき金額を,平成9年度以降毎年度通常総会において見直しをする旨規定されてはいるものの,損失補填契約の締結時において,その後の流動的な要素により損失補填責任の内容を見直すべき必要性が生じるであろう蓋然性があったわけではなく,平成9年度以降の見直しまで,原告らの被告に対する損失補填義務の負担という同契約の効力の発生を阻止しなければならない事情は何ら認められないこと,損失補填契約書第1条では,平成9年度以降の損失金の補填期日及び補填する金額が明確に規定されていることに照らすと,損失補填契約書第2条は,再建8カ年計画の進捗を確認し,原告らの損失補填金額の見直しを通常総会の議題として上程し,協議することを規定したにとどまるものと認めるのが相当であり,平成9年度以降の損失補填責任の発生を,定時総会の議決等の条件にかからしめたものであると認めることはできない。

したがって,損失補填契約について,停止条件が付されているところ,その条件が成就しておらず,損失補填契約に基づく債務が発生していないとの原告らの主張は採用することができない。

(イ) 連帯債務か否かについて

原告らは,W農協との間で,前記(1)イのとおり,個別に損失補填契約を締結したほか,連名の損失補填契約を締結している。

まず,個別の損失補填契約の契約書には,各原告が負担した債務が連帯債務であることを窺わせる記載は何もない。同契約書の前書には,同契約は,原告らを含む役員が先に連名で差し入れた確認書に基づくものである旨の記載があるが,確認書においても,各原告の債務が連帯債務であることを示す記載は何もない(前記のとおり,確認書は,役員が被告に対して損失補填責任を負担すべき旨を定めるが,この責任が連帯責任であるか否かについては何も言及していない。)。もっとも,複数の役員が農協に対して農協法上の損害賠償責任を負う場合,その損害賠償債務は不真正連帯債務と解するのが相当であるところ,非常勤役員についても,常勤役員と同様に農協法上の注意義務を負い,これに違反した場合には損害賠償責任を負うことを背景として,不良債権貸付が行われた時期に役員を務めた者については全員連帯責任があるとの認識の下で,上記の損失補填契約が締結されたと考えられるから,その内容によっては,これを連帯債務とする黙示の合意があったと解する余地もある。

しかしながら,原告らがW農協と個別に交わした各損失補填契約においては,各原告が負担すべき金額は,各原告らの役員在任期間等を考慮して配分された金額を限度とする旨明記されており,この額を超えて,他の役員が負担すべきものとされる金額についてもなお債務があることを示す条項は存在しないことに照らすと,原告らは,W農協との間で,各損失補填契約に定める負担額(その合計は非常勤役員の負担額とされた8億9119万5000円)の限度で,損失補填を約したものであって,各原告の債務は連帯債務ではないと解するのが相当である。

次に,連名の損失補填契約について検討する。

その契約書は,1か月半前に作成された原告らの個別の損失補填契約書と形式を共通にする内容であり,異なる点は,まず,原告らを含む10名の非常勤役員全員とW農協とが合意する形式をとっていることと,前書に「連帯して」との文言が用いられていることである。この連帯の文言は,文法的には,「補填契約を締結する」との語に係るもので,原告らを含む10名の非常勤役員がW農協に対して負担する債務の内容について定める第1条においては,それが連帯債務であることを直接示す文言は存在しない。

しかしながら,前記のとおり,連名の損失補填契約に係る債務は,もともと,死亡した非常勤役員の負担部分とされていたもので,原告らの損失補填契約に係る個別の債務と源を共通にする債務であり,当初の理事会案では免除を予定していたのに総会において認められなかったため,結局,生存している原告らを含む10名の非常勤役員が,自己の固有の負担部分とは別に,その負担部分の履行期の後に履行するものとして,急遽負担することが決まった債務に係るものである。こうした債務負担の経緯に照らすと,その債務の負担割合について,原告らが1か月半前に各別に負担することを約した損失補填契約に係る債務の割合と異なる割合で負担することが予定されていたとは考え難いものである。特に,原告らを含む10名の非常勤役員が個別に負担することとされた損失補填契約をみると,最高額が原告Aの1億1997万4000円であるのに対し,最低額がK及びLの各300万円であり,両者の格差はほぼ40倍にも達するのであって,非常勤役員の内部においては,こうした個別の負担割合について,このような極端な差を設けることが相当と判断されているのである。ところが,これと源を同じくする債務に係る死亡した非常勤役員の負担部分に関しては,このような差を設けることなく,生存している非常勤役員が共同して引き受け,特に負担割合を定めることなく頭割りにして1人当たり1506万円余りを求償の余地がなく確定的に負担することとしたと解するのは,個別の負担金額が300万円という前記金額の2割に満たないKらの場合を考えれば,当事者の合理的意思に反することが明らかといえよう。したがって,連名の損失補填契約については,内部負担割合は,個別の損失補填契約に定める負担割合としつつ,債権者であるW農協に対する外部的関係では,急遽引き受けが決まったという経緯もあって,個別の負担額まで定めることなく,全員がその債務を負担する,すなわち連帯債務とするという黙示の合意があったと推認するのが相当と判断する。前記の連帯して契約するという文言は,文法的意義はともかくとして,このような当事者間の黙示の意思の存在を推認させるものといえよう。

したがって,連名の損失補填契約については,その不存在確認を求める原告らの請求は理由がない。

3  原告らの負担すべき金額について

以上のとおり,原告らは,W農協に対し,個別及び連名の損失補填契約に基づき,それぞれ損失補填責任を負うと認めるのが相当である。

そして,原告らは,平成8年2月29日,損失補填契約に基づき第1回の損失補填を実行し,W農協に対し,合計1億2926万円を支払っており,原告らの損失補填債務の残金は,原告Aが9597万9200円,原告Bが6168万5600円,原告Cが5371万3600円,原告Dが6974万8800円,原告Eが5756万9600円,原告Fが4755万6600円,原告Gが7381万2800円,原告Hが5217万4400円となった(乙17の3)。

ところで,原告Dは,平成9年3月31日,損失補填に係る保証預け金として1億円を差し入れていたが,W農協は,原告らに対する損失補填債権の残金6億9856万5387円を自働債権として,原告Dの,W農協に対する保証預け金請求権を受働債権として,平成10年3月31日到達の同月30日付け相殺通知書により,対当額で相殺する旨の意思表示をしたので(乙17の5,6),平成10年3月31日,原告DのW農協に対する損失補填債務の残金6974万8800円は,消滅したものと認められる(なお,連名の損失補填契約に基づく原告Dに対する債権は,未だ弁済期が到来しておらず,上記相殺通知書によって,相殺の対象とされていないことが明らかである。)。

第4結論

以上の認定判断によれば,原告らの本件請求は,確認書に基づく債務が存在しないことのほか,原告AとW農協との間の平成7年5月9日付け損失補填契約に基づく原告Aの被告に対する元本債務が9597万9200円を超えて存在しないこと,原告BとW農協との間の平成7年5月16日付け損失補填契約に基づく原告Bの被告に対する元本債務が6168万5600円を超えて存在しないこと,原告CとW農協との間の平成7年5月15日付け損失補填契約に基づく原告Cの被告に対する元本債務が5371万3600円を超えて存在しないこと,原告DとW農協との間の平成7年5月16日付け損失補填契約に基づく債務が存在しないこと,原告EとW農協との間の平成7年5月15日付け損失補填契約に基づく原告Eの被告に対する元本債務が5756万9600円を超えて存在しないこと,原告FとW農協との間の平成7年5月15日付け損失補填契約に基づく原告Fの被告に対する元本債務が4755万6600円を超えて存在しないこと,原告GとW農協との間の平成7年5月15日付け損失補填契約に基づく原告Gの被告に対する元本債務が7381万2800円を超えて存在しないこと及び原告HとW農協との間の損失補填契約に基づく原告Hの被告に対する元本債務が5217万4400円を超えて存在しないことの各確認を求める限度で理由があり,その余は理由がない。よって,訴訟費用の負担については民事訴訟法61条,64条本文,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤陽一 裁判官 村田龍平 裁判官 片山博仁)

別紙省略

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